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特許7484130波長変換素子、光源装置およびプロジェクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】波長変換素子、光源装置およびプロジェクター
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/14 20060101AFI20240509BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20240509BHJP
   F21V 7/28 20180101ALI20240509BHJP
   F21V 7/30 20180101ALI20240509BHJP
   F21V 9/32 20180101ALI20240509BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20240509BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20240509BHJP
   H01S 5/022 20210101ALI20240509BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20240509BHJP
【FI】
G03B21/14 A
F21S2/00 311
F21S2/00 390
F21V7/28 240
F21V7/30
F21V9/32
G02B5/20
G03B21/00 D
H01S5/022
F21Y115:30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019199702
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021071671
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】奥村 治
【審査官】新井 重雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-171228(JP,A)
【文献】特開2018-073060(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171775(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/126673(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102916117(CN,A)
【文献】特開2016-058213(JP,A)
【文献】特表2018-510467(JP,A)
【文献】特開2018-013688(JP,A)
【文献】特開2017-157488(JP,A)
【文献】特表2014-508379(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104851960(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/14
F21S 2/00
F21V 7/28
F21V 7/30
F21V 9/32
G02B 5/20
G03B 21/00
H01S 5/022
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面とを有し、第1波長帯を有する第1の光を前記第1波長帯とは異なる第2波長帯を有する第2の光に変換し、前記第2の光を前記第1面から射出する波長変換層と、
第3面と第4面とを有し、前記第3面が前記波長変換層の前記第1面に対向して設けられた透明部材と、
前記透明部材の前記第4面に設けられた複数のナノアンテナと、
前記波長変換層の前記第2面に対向して設けられ、少なくとも前記第2の光を反射させる反射層と、
前記波長変換層と前記反射層との間に設けられ、前記波長変換層と前記反射層とを接合する接合層と、
前記反射層の前記接合層と対向する面とは反対側の面に対向して設けられ、金属から構成される基板と、
を備え、
前記透明部材の厚さは、前記第2の光の波長以上であり、
前記波長変換層は、光散乱体を含み、
前記複数のナノアンテナは、前記第2波長帯のうちの特定の波長帯を有する第3の光を選択的に前記第4面の法線方向に向けて射出させ、
前記第1の光が前記第1面から前記波長変換層に入射される、波長変換素子。
【請求項2】
前記基板は、平面視で前記波長変換層、前記反射層及び前記接合層よりも大きい、請求項1に記載の波長変換素子。
【請求項3】
前記基板の前記反射と対向する面とは反対側の面に設けられる放熱部材をさらに備える、請求項1または2に記載の波長変換素子。
【請求項4】
前記透明部材の前記第4面に前記複数のナノアンテナを覆うように設けられ、少なくとも前記第2の光に対する光透過性を有する保護層をさらに備える、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項5】
前記保護層の屈折率は、前記透明部材の屈折率とは異なる、請求項4に記載の波長変換素子。
【請求項6】
第1面と第2面とを有し、第1波長帯を有する第1の光を前記第1波長帯とは異なる第2波長帯を有する第2の光に変換し、前記第2の光を前記第1面から射出する波長変換層と、
第3面と第4面とを有し、前記第3面が前記波長変換層の前記第1面に対向して設けられた透明部材と、
前記透明部材の前記第4面に設けられた複数のナノアンテナと、
前記波長変換層の前記第2面に対向して設けられ、前記第1の光を透過させ、前記第2の光を反射させるダイクロイック層と、
前記波長変換層と前記ダイクロイック層との間に設けられ、前記波長変換層と前記ダイクロイック層とを接合する接合層と、
前記ダイクロイック層の前記接合層と対向する面とは反対側の面に対向して設けられ、透光性を有する基板と、
を備え、
前記透明部材の厚さは、前記第2の光の波長以上であり、
前記波長変換層は、光散乱体を含み、
前記複数のナノアンテナは、前記第2波長帯のうちの特定の波長帯を有する第3の光を選択的に前記第4面の法線方向に向けて射出させ、
前記第1の光が前記第2面から前記波長変換層に入射される、波長変換素子。
【請求項7】
前記第3の光のピーク波長は、前記第2の光のピーク波長とは異なる、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の波長変換素子。
【請求項8】
前記第1の光は青色波長帯の光であり、
前記第2の光のピーク波長は緑色波長帯に位置し、前記第3の光のピーク波長は赤色波長帯に位置する、請求項7に記載の波長変換素子。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の波長変換素子と、
前記第1の光からなる励起光を前記波長変換素子に向けて射出する光源と、
を備えた、光源装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光源装置と、
前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、
前記光変調装置により変調された光を投射する投射光学装置と、
を備えた、プロジェクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換素子、光源装置およびプロジェクターに関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクターに用いる光源装置として、蛍光体に励起光を照射した際に蛍光体から発せられる蛍光を利用した光源装置が提案されている。下記の特許文献1に、入射光の波長を変換して波長変換光を生成する波長変換体と、波長変換体上に形成され、波長変換体内での波長変換光の光学波長程度の周期で配置された複数のアンテナを有するアンテナアレイと、を備えた波長変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-13688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、アンテナアレイに光が照射されると、隣接する個々のアンテナの局在表面プラズモン共鳴が光回折を介した共振を起こし、電場強度が増大することで波長変換光の取り出し効率が向上するとともに、狭角の配光分布が得られる、と記載されている。特許文献1の波長変換装置では、レーザー光が持つ狭角の配光分布が波長変換体を射出した後の波長変換されなかった通過光でも維持されていることから、波長変換体は光散乱性を有していない、と推察される。しかしながら、波長変換体が光散乱性を有していない構成では、励起光が蛍光体に十分に吸収されず、高い波長変換効率を実現することが難しい、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一つの態様の波長変換素子は、第1面と第2面とを有し、第1波長帯を有する第1の光を前記第1波長帯とは異なる第2波長帯を有する第2の光に変換し、前記第2の光を前記第1面から射出する波長変換層と、第3面と第4面とを有し、前記第3面が前記波長変換層の前記第1面に対向して設けられた透明部材と、前記透明部材の前記第4面に設けられた複数のナノアンテナと、を備え、前記波長変換層は、光散乱体を含み、前記複数のナノアンテナは、前記第2波長帯のうちの特定の波長帯を有する第3の光を選択的に前記第4面の法線方向に向けて射出させる。
【0006】
本発明の一つの態様の波長変換素子は、前記透明部材の前記第4面に前記複数のナノアンテナを覆うように設けられ、少なくとも前記第2の光に対する光透過性を有する保護層をさらに備えていてもよい。
【0007】
本発明の一つの態様の波長変換素子において、前記保護層の屈折率は、前記透明部材の屈折率とは異なっていてもよい。
【0008】
本発明の一つの態様の波長変換素子は、前記第1の光が前記第1面から前記波長変換層に入射される構成においては、前記波長変換層の前記第2面に対向して設けられ、少なくとも前記第2の光を反射させる反射層をさらに備えていてもよい。
【0009】
本発明の一つの態様の波長変換素子は、前記第1の光が前記第2面から前記波長変換層に入射される構成においては、前記波長変換層の前記第2面に対向して設けられ、前記第1の光を透過させ、前記第2の光を反射させるダイクロイック層をさらに備えていてもよい。
【0010】
本発明の一つの態様の波長変換素子において、前記第3の光のピーク波長は、前記第2の光のピーク波長とは異なっていてもよい。
【0011】
本発明の一つの態様の波長変換素子において、前記第1の光は青色波長帯の光であり、前記第2の光のピーク波長は緑色波長帯に位置し、前記第3の光のピーク波長は赤色波長帯に位置していてもよい。
【0012】
本発明の一つの態様の光源装置は、本発明の一つの態様の波長変換素子と、前記第1の光からなる励起光を前記波長変換素子に向けて射出する光源と、を備える。
【0013】
本発明の一つの態様のプロジェクターは、本発明の一つの態様の光源装置と、前記光源装置からの光を画像情報に応じて変調する光変調装置と、前記光変調装置により変調された光を投射する投射光学装置と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態のプロジェクターの概略構成図である。
図2】第1実施形態の照明装置の概略構成図である。
図3】第1実施形態の波長変換素子の平面図である。
図4図3のIV-IV線に沿う波長変換素子の断面図である。
図5】蛍光体層の厚さと波長変換効率および蛍光のにじみとの関係を示すグラフである。
図6】励起光と蛍光とのスペクトルを示す図である。
図7】第2実施形態の照明装置の概略構成図である。
図8】第2実施形態の波長変換素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1図6を用いて説明する。
なお、以下の各図面においては各構成要素を見やすくするため、構成要素によって寸法の縮尺を異ならせて示すことがある。
【0016】
本実施形態に係るプロジェクターの一例について説明する。
図1は、本実施形態に係るプロジェクターの概略構成を示す図である。
図1に示すように、本実施形態のプロジェクター1は、スクリーンSCR上にカラー映像を表示する投射型画像表示装置である。プロジェクター1は、照明装置2と、色分離光学系3と、光変調装置4Rと、光変調装置4Gと、光変調装置4Bと、合成光学系5と、投射光学装置6と、を備えている。照明装置2の構成については、後で説明する。
【0017】
色分離光学系3は、第1ダイクロイックミラー7aと、第2ダイクロイックミラー7bと、反射ミラー8aと、反射ミラー8bと、反射ミラー8cと、リレーレンズ9aと、リレーレンズ9bと、を備えている。色分離光学系3は、照明装置2から射出された白色の照明光WLを、赤色光LRと緑色光LGと青色光LBとに分離し、赤色光LRを光変調装置4Rに導き、緑色光LGを光変調装置4Gに導き、青色光LBを光変調装置4Bに導く。
【0018】
フィールドレンズ10Rは、色分離光学系3と光変調装置4Rとの間に配置され、入射した赤色光LRを略平行化して光変調装置4Rに向けて射出する。フィールドレンズ10Gは、色分離光学系3と光変調装置4Gとの間に配置され、入射した緑色光LGを略平行化して光変調装置4Gに向けて射出する。フィールドレンズ10Bは、色分離光学系3と光変調装置4Bとの間に配置され、入射した青色光LBを略平行化して光変調装置4Bに向けて射出する。
【0019】
第1ダイクロイックミラー7aは、赤色光成分を透過させ、緑色光成分および青色光成分を反射させる。第2ダイクロイックミラー7bは、緑色光成分を反射させ、青色光成分を透過させる。反射ミラー8aは、赤色光成分を反射させる。反射ミラー8bおよび反射ミラー8cは、青色光成分を反射させる。
【0020】
第1ダイクロイックミラー7aを透過した赤色光LRは、反射ミラー8aで反射し、フィールドレンズ10Rを透過して赤色光用の光変調装置4Rの画像形成領域に入射する。第1ダイクロイックミラー7aで反射した緑色光LGは、第2ダイクロイックミラー7bでさらに反射し、フィールドレンズ10Gを透過して緑色光用の光変調装置4Gの画像形成領域に入射する。第2ダイクロイックミラー7bを透過した青色光LBは、リレーレンズ9a、入射側の反射ミラー8b、リレーレンズ9b、射出側の反射ミラー8c、およびフィールドレンズ10Bを経て青色光用の光変調装置4Bの画像形成領域に入射する。
【0021】
光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bのそれぞれは、入射された各色光を画像情報に応じて変調し、画像光を形成する。光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bのそれぞれは、液晶ライトバルブから構成されている。図示を省略したが、光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bの光入射側に、入射側偏光板がそれぞれ配置されている。光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bの光射出側に、射出側偏光板がそれぞれ配置されている。
【0022】
合成光学系5は、光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bから射出された各画像光を合成してフルカラーの画像光を形成する。合成光学系5は、4つの直角プリズムを貼り合わせた平面視で略正方形状をなすクロスダイクロイックプリズムで構成されている。直角プリズム同士を貼り合わせた略X字状の界面には、誘電体多層膜が形成されている。
【0023】
合成光学系5から射出された画像光は、投射光学装置6によって拡大投射され、スクリーンSCR上で画像を形成する。すなわち、投射光学装置6は、光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bにより変調された光を投射する。投射光学装置6は、単数もしくは複数の投射レンズで構成されている。
【0024】
本実施形態の照明装置2の一例について説明する。
図2は、照明装置2の概略構成を示す図である。
図2に示すように、照明装置2は、光源装置20と、インテグレーター光学系31と、偏光変換素子32と、重畳レンズ33と、を備えている。インテグレーター光学系31と重畳レンズ33とは、重畳光学系を構成している。
【0025】
光源装置20は、アレイ光源21と、コリメーター光学系22と、アフォーカル光学系23と、第1位相差板28aと、偏光分離素子25と、第1集光光学系26と、波長変換素子40と、第2位相差板28bと、第2集光光学系29と、拡散反射素子30と、を備えている。
【0026】
アレイ光源21、コリメーター光学系22、アフォーカル光学系23、第1位相差板28a、偏光分離素子25、第2位相差板28b、第2集光光学系29、および拡散反射素子30は、光軸ax1上に順次並んで配置されている。波長変換素子40、第1集光光学系26、偏光分離素子25、インテグレーター光学系31、偏光変換素子32、および重畳レンズ33は、照明光軸ax2上に順次並んで配置されている。光軸ax1と照明光軸ax2とは、同一面内にあり、互いに直交する。なお、照明光軸ax2は、照明装置2から射出される照明光WLの主光線に沿う軸である。
【0027】
アレイ光源21は、固体光源として複数の半導体レーザー211を備えている。複数の半導体レーザー211は、光軸ax1と直交する面内においてアレイ状に並んで配置されている。半導体レーザー211は、第1波長帯を有する青色の光BL(第1の光)、具体的には、例えば450~460nmの波長帯を有し、ピーク波長が455nmの光を射出する。アレイ光源21は、複数の光BLからなる光線束を射出する。本実施形態のアレイ光源21は、特許請求の範囲の「光源」に対応する。
【0028】
アレイ光源21から射出された光BLは、コリメーター光学系22に入射する。コリメーター光学系22は、アレイ光源21から射出された光BLを平行光に変換する。コリメーター光学系22は、アレイ状に並んで配置された複数のコリメーターレンズ22aから構成されている。複数のコリメーターレンズ22aの各々は、複数の半導体レーザー211の各々に対応して配置されている。
【0029】
コリメーター光学系22を通過した光BLは、アフォーカル光学系23に入射する。アフォーカル光学系23は、複数の光BLからなる光線束の太さ(径)を調整する。アフォーカル光学系23は、例えば凸レンズ23aと、凹レンズ23bと、から構成されている。
【0030】
アフォーカル光学系23を通過した光BLは、第1位相差板28aに入射する。第1位相差板28aは、例えば光軸ax1を中心として回転可能とされた1/2波長板である。半導体レーザー211から射出された光BLは、直線偏光である。第1位相差板28aの回転角度を適切に設定することにより、第1位相差板28aを透過する光BLを、偏光分離素子25に対するS偏光成分とP偏光成分とを所定の比率で含む光に変換することができる。また、第1位相差板28aを回転させることにより、S偏光成分とP偏光成分との比率を変化させることができる。
【0031】
第1位相差板28aを通過することで生成されたS偏光成分とP偏光成分とを含む光BL1は、偏光分離素子25に入射する。偏光分離素子25は、例えば波長選択性を有する偏光ビームスプリッターから構成されている。偏光分離素子25は、光軸ax1および照明光軸ax2に対して45°の角度をなすように配置されている。
【0032】
偏光分離素子25は、入射した光BL1を、偏光分離素子25に対するS偏光成分の光BLsとP偏光成分の光BLpとに分離する偏光分離機能を有する。具体的に、偏光分離素子25は、S偏光成分の光BLsを反射させ、P偏光成分の光BLpを透過させる。さらに、偏光分離素子25は、偏光分離機能に加えて、青色の光BLの波長帯とは異なる波長帯を有する黄色光成分を、その偏光状態にかかわらず透過させる色分離機能を有している。
【0033】
偏光分離素子25から射出されたS偏光の光BLsは、第1集光光学系26に入射する。第1集光光学系26は、光BLsを波長変換素子40に向けて集光させる。第1集光光学系26は、第1レンズ26aと、第2レンズ26bと、から構成されている。第1レンズ26aおよび第2レンズ26bのそれぞれは、凸レンズから構成されている。第1集光光学系26から射出された光BLsは、波長変換素子40に集光した状態で入射する。
【0034】
波長変換素子40は、第1波長帯である青色波長帯を有する光BLsを、第1波長帯とは異なる第2波長帯である黄色波長帯を有する蛍光YL(第2の光)に変換する。本実施形態では、波長変換素子40として、例えばモーター等によって回転可能とされていない固定型の波長変換素子が用いられる。波長変換素子40の構成については、後で詳しく説明する。
【0035】
波長変換素子40で生成された黄色の蛍光YLは、第1集光光学系26で平行化された後、偏光分離素子25に入射する。蛍光YLは、無偏光の光である。上述したように、偏光分離素子25が偏光状態にかかわらず黄色光成分を透過させる特性を有しているため、蛍光YLは、偏光分離素子25を透過する。
【0036】
一方、偏光分離素子25から射出されたP偏光の光線BLpは、第2位相差板28bに入射する。第2位相差板28bは、偏光分離素子25と拡散反射素子30との間の光路中に配置された1/4波長板から構成されている。したがって、偏光分離素子25から射出されたP偏光の光線BLpは、第2位相差板28bによって、例えば右回りの円偏光の青色光BLc1に変換された後、第2集光光学系29に入射する。
【0037】
第2集光光学系29は、第1レンズ29aと、第2レンズ29bと、から構成されている。第1レンズ29aおよび第2レンズ29bのそれぞれは、凸レンズから構成されている。第2集光光学系29は、青色光BLc1を集光させた状態で拡散反射素子30に入射させる。
【0038】
拡散反射素子30は、偏光分離素子25から射出された光BLpの光路上に配置され、第2集光光学系29から射出された青色光BLc1を偏光分離素子25に向けて拡散反射させる。拡散反射素子30としては、青色光BLc1をランバート反射させるとともに、青色光BLc1の偏光状態を乱さないことが望ましい。
【0039】
以下、拡散反射素子30によって拡散反射された光を青色光BLc2と称する。本実施形態においては、青色光BLc1が拡散反射することによって略均一な照度分布の青色光BLc2が得られる。例えば右回りの円偏光の青色光BLc1は、拡散反射素子30によって拡散反射され、左回りの円偏光の青色光BLc2となる。
【0040】
青色光BLc2は、第2集光光学系29によって平行光に変換された後、第2位相差板28bに再度入射する。左回りの円偏光の青色光BLc2は、第2位相差板28bによってS偏光の青色光BLs1に変換される。S偏光の青色光BLs1は、偏光分離素子25によって反射され、インテグレーター光学系31に向けて進む。
【0041】
このようにして、青色光BLs1は、偏光分離素子25を透過した蛍光YLと合成され、照明光WLとして利用される。すなわち、青色光BLs1と蛍光YLとは、偏光分離素子25から互いに同じ方向に向けて射出され、青色光BLs1と黄色の蛍光YLとが合成された白色の照明光WLが生成される。
【0042】
照明光WLは、インテグレーター光学系31に向けて射出される。インテグレーター光学系31は、第1レンズアレイ311と、第2レンズアレイ312と、から構成されている。第1レンズアレイ311は、複数のレンズ311aがアレイ状に配列された構成を有している。第2レンズアレイ312は、複数のレンズ312aがアレイ状に配列された構成を有している。
【0043】
インテグレーター光学系31を透過した照明光WLは、偏光変換素子32に入射する。偏光変換素子32は、偏光分離膜と位相差板とを有している。偏光変換素子32は、無偏光の蛍光YLを含む照明光WLを、光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bに入射させる直線偏光に変換する。
【0044】
偏光変換素子32を透過した照明光WLは、重畳レンズ33に入射する。重畳レンズ33は、インテグレーター光学系31と協働して、被照明領域である光変調装置4R、光変調装置4G、および光変調装置4Bの画像形成領域における照明光WLの照度分布を均一化する。このようにして、照明装置2は、照明光WLを生成する。
【0045】
以下、本実施形態の波長変換素子40について説明する。
図3は、波長変換素子40の平面図である。図4は、図3のIV-IV線に沿う波長変換素子40の断面図である。
【0046】
図3および図4に示すように、波長変換素子40は、波長変換層41と、透明部材42と、複数のナノアンテナ43と、保護層44と、基板45と、反射層46と、接合層47と、を備えている。
【0047】
図4に示すように、波長変換層41は、励起光BLsを入射させるとともに蛍光YLを射出させる第1面41aと、第1面41aとは異なる第2面41bと、を有している。すなわち、本実施形態の波長変換素子40は、波長変換層41の一つの面から励起光BLsを入射させるとともに、蛍光YLを射出させる波長変換素子、いわゆる反射型の波長変換素子である。図3に示すように、波長変換層41は、第1面41aに直交する方向から見て、矩形状の形状を有している。以下、波長変換素子40を第1面41aに直交する方向から見る場合を平面視と称する。また、ここでは、波長変換層41に入射し、蛍光体を励起させる青色波長帯の光BLsを励起光BLsと称する。
【0048】
波長変換層41は、励起光BLsを、励起光BLsの第1波長帯とは異なる第2波長帯を有する蛍光YL(第2の光)に変換するセラミック蛍光体を含んでいる。第2波長帯は、例えば490~750nmであり、蛍光YLは、緑色光成分および赤色光成分を含む黄色光である。なお、波長変換層41は、単結晶蛍光体を含んでいてもよい。
【0049】
波長変換層41は、バルク状の無機蛍光体411と、無機蛍光体411の内部に分散された複数の光散乱体412と、を有する。複数の光散乱体412の屈折率は、無機蛍光体411の屈折率とは異なる。波長変換層41は、無機蛍光体411の内部に分散された複数の光散乱体412を含むことにより、内部を伝搬する光を散乱させる特性を有する。波長変換層41の厚さは、例えば10μm以上、100μm以下であることが望ましい。
【0050】
無機蛍光体411として、例えば、賦活剤としてセリウムを含有するイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAl12:Ce3+(YAG))系蛍光体、(Sr,Ba)SiO:Eu2+系蛍光体、Ca(Si,Al)12(O,N)16:Eu2+系蛍光体、等の黄色光を発光する蛍光体を用いることができる。もしくは、黄色光を発光する無機蛍光体411として、緑色蛍光体と赤色蛍光体とを混合した蛍光体を用いてもよい。その場合、緑色蛍光体として、LuAl12:Ce3+系蛍光体、Y:Eu2+系蛍光体、(Ba,Sr)SiO:Eu2+系蛍光体、BaSi12:Eu2+系蛍光体、(Si,Al)(O,N):Eu2+系蛍光体等を用いることができる。赤色蛍光体として、CaAlSiN:Eu2+系蛍光体、CaSi:Eu2+系蛍光体、(Ba,Sr)SiO:Eu2+系蛍光体、BaSi12:Eu2+系蛍光体、KSiF:Mn4+系蛍光体、KTiF:Mn4+系蛍光体等を用いることができる。
【0051】
光散乱体412として、気孔を用いることができる。例えば無機蛍光体411としてYAG焼結体を用いる場合、YAGを焼結する際に焼結温度を調整することにより、YAGの粒界近傍に気孔を残存させることができる。このようにして、複数の光散乱体412が無機蛍光体411の内部に分散された波長変換層を作製することができる。気孔、すなわち、空気の屈折率は1.0であるから、光散乱体412として気孔を用いた場合には、他の低屈折率材料を用いた場合よりも無機蛍光体411と光散乱体412との屈折率差が大きくなるため、光散乱体412として好適である。ただし、光散乱体412は、必ずしも気孔でなくてもよく、無機蛍光体の屈折率とは異なる屈折率を有する粒子であればよい。
【0052】
透明部材42は、第3面42cと第4面42dとを有し、第3面42cが波長変換層41の第1面41aと対向するように設けられている。透明部材42は、波長変換層41の屈折率と等しい屈折率、または波長変換層41の屈折率よりも大きい屈折率を有する材料で構成されることが望ましい。波長変換層41がYAGで構成されている場合、YAGの屈折率が1.82であるから、例えば屈折率が1.77のサファイアガラス、屈折率が1.85の光学ガラスN-SF57(Schott社製)等を用いることができる。なお、透明部材42の「透明」とは、部材の内部に光散乱体を有しておらず、光散乱性を持たないことを意味する。
【0053】
透明部材42の厚さは、蛍光YLの波長以上であれば十分である。したがって、透明部材42は、ガラス等の板材で構成されていなくてもよく、波長変換層41の第1面41aに形成された薄膜で構成されていてもよい。薄膜としては、屈折率が2.03の窒化シリコン(Si)、屈折率が2.12の二酸化ハフニウム(HfO)、屈折率が2.14の五酸化タンタル(Ta)、屈折率が2.44の酸化チタン(TiO)等の材料を用いることができる。
【0054】
複数のナノアンテナ43は、透明部材42の第4面42d上に設けられている。複数のナノアンテナ43は、蛍光YLの第2波長帯である黄色波長帯のうちの特定の波長帯、例えば赤色波長帯を有する光(第3の光)を選択的に第4面42dの法線方向に向けて射出させる。なお、本実施形態では、上記特定の波長帯を、赤色波長帯に設定したが、蛍光YLの第2波長帯のうちのいかなる波長帯に設定してもよい。以下、第4面42dの法線方向を、単に法線方向と称する。
【0055】
複数のナノアンテナ43の各々は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、シリコン(Si)等の材料で形成された柱状体で構成されている。柱状体は、法線方向から見て、例えば円、多角形等の平面形状を有する。各ナノアンテナ43の平面形状をなす円または多角形の径は、例えば150nmである。各ナノアンテナ43の高さは、例えば150nmである。したがって、複数のナノアンテナ43は、例えば厚さが150nmの銀、アルミニウム等の金属、あるいはシリコン等の半導体の薄膜をパターニングすることによって形成することができる。なお、ナノアンテナ43の形状は、必ずしも柱状体でなくてもよく、例えば円錐体、多角錐体、円錐台体、多角錐台体等であってもよい。また、ナノアンテナ43は、上記に示す材料の合金や積層体で構成されていてもよい。
【0056】
図3に示すように、平面視において、複数のナノアンテナ43は、所定のピッチPを有する三角格子状に配列されている。隣り合う2つのナノアンテナ43の最適なピッチPは、ナノアンテナ43に隣接する透明部材42の屈折率と、法線方向に回折させたい光の波長と、によって決まる。法線方向に回折させたい光の波長を例えば610nmに設定すると、透明部材42をサファイアガラスで構成した場合、ナノアンテナ43の最適なピッチPは、400nmである。透明部材42を光学ガラスN-SF57で構成した場合、ナノアンテナ43の最適なピッチPは、380nmである。透明部材42をHfOまたはTaで構成した場合、ナノアンテナ43の最適なピッチPは、330nmである。透明部材42をTiOで構成した場合、ナノアンテナ43の最適なピッチPは、290nmである。なお、複数のナノアンテナ43の配列は、必ずしも三角格子状でなくてもよく、例えば正方格子状等であってもよく、一定のピッチを有する配列であればよい。
【0057】
保護層44は、複数のナノアンテナ43を覆うように、透明部材42の第4面42dに設けられている。保護層44は、励起光BLsおよび蛍光YLに対する光透過性を有する。保護層44の屈折率は、透明部材42の屈折率と略等しいことが望ましい。したがって、保護層44には、透明部材42と同様の材料、例えばSi、HfO、Ta、TiO等の材料を用いることができる。なお、保護層44は、必要に応じて設けられていればよく、設けられていなくてもよい。
【0058】
基板45は、第1面45aと第2面45bとを有し、後述する反射層46および接合層47を介して、第1面45aが波長変換層41の第2面41bに対向するように設けられている。基板45は、例えば銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の比較的高い熱伝導率を有する金属から構成されることが望ましい。なお、基板45の第2面45bには、ヒートシンク等の放熱部材が設けられていてもよい。
【0059】
反射層46は、基板45の第1面45aに、波長変換層41の第2面41bに対向して設けられている。反射層46は、少なくとも蛍光YLを反射させる。反射層46は、例えば銀(Ag)、アルミニウム(Al)等の反射率が比較的高い金属、または誘電体多層膜から構成されている。図4の例では、反射層46は、基板45の第1面45aのうち、波長変換層41の形成領域のみに設けられているが、波長変換層41の形成領域以外の領域を含む基板45の第1面45aの全面に設けられていてもよい。
【0060】
接合層47は、波長変換層41と反射層46との間に設けられ、波長変換層41と反射層46とを接合する。接合層47は、例えばシリコーン樹脂等の樹脂材料、銀ペースト等の金属材料で構成されている。
【0061】
以下、本実施形態の波長変換素子40の作用を説明する。
本実施形態の波長変換素子40においては、波長変換層41が光散乱体412を含んでいるため、波長変換層41に入射した励起光BLsは、光散乱体412によって波長変換層41内で多重散乱する。これにより、略全ての励起光BLsが蛍光YLに波長変換される。この蛍光YLがレイリーアノマリーと呼ばれる面内への光回折が起こる角度でナノアンテナ43に入射すると、蛍光YLは、面内への光回折によって、個々のナノアンテナ43を構成する金属粒子の局在表面プラズモンを励起しながら伝播する。これにより、大きな電場増強が発生する。このようにして増強された電場は、ナノアンテナ43のピッチPによって決まる特定の波長の光を、法線方向に強い指向性を持って放射する。ナノアンテナ43から基板45の側に向かって放射される蛍光YLも存在するが、この蛍光YLは反射層46によって反射され、再度ナノアンテナ43に向かって伝播する。
【0062】
本発明者は、略全ての励起光BLsを波長変換できる波長変換層41の条件について、以下のように考察した。
図5は、波長変換層41の厚さと波長変換層41内の光散乱体412の混入量とが波長変換効率に及ぼす影響を示している。図5において、横軸は波長変換層41の厚さ(μm)であり、左側の縦軸は波長変換効率(%)であり、右側の縦軸は波長変換層41から射出される蛍光YLのにじみの量(μm)である。光散乱体412として気孔を用い、光散乱体412の混入量は波長変換層41の全体積に対する光散乱体412の体積の割合で示し、0.2%、0.4%、0.8%、1.6%の4種類で変化させた。なお、蛍光YLのにじみは、蛍光YLが光散乱体412によって散乱することで横方向(波長変換層41の厚さ方向と交差する方向)に伝搬した結果、蛍光YLが励起光BLsの入射領域よりも外側に広がって射出される現象のことである。
【0063】
図5に示すように、光散乱体412の混入量によって多少異なるが、波長変換層41の厚さが少なくとも10μmであれば、40%以上程度の波長変換効率が得られ、波長変換層41の厚さが50μm以上であれば、60%程度で安定した波長変換効率が得られる。逆に、波長変換層41の厚さが10μmよりも薄いと、波長変換効率は急激に低下する。逆に、波長変換層41の厚さが50μmよりも厚いと、波長変換効率はほとんど向上しない反面、蛍光YLのにじみが徐々に大きくなる。蛍光YLのにじみが大きくなると、波長変換層41の発光面積が大きくなる結果、エテンデューが増大し、波長変換素子40を例えばプロジェクターに適用したときの投射効率が低下する。この結果から、波長変換層41の厚さは、10μm以上、50μm以下であることが望ましい。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の波長変換素子40によれば、ピーク波長が455nmの青色の励起光BLsを波長変換層41に照射した場合、励起光BLsの光量の約60%にあたる光を蛍光YLとして取り出すことができる。上述した特許文献1の波長変換素子の場合、波長変換層が光散乱性を有していないため、入射した励起光が蛍光体に十分に吸収されないおそれがある。これに対し、本実施形態の波長変換素子40の場合、波長変換層41が複数の光散乱体412を含んでいるため、励起光BLsが波長変換層41内で多重散乱し、励起光BLsの実質的な光路長が長くなることで、励起光BLsが蛍光体に十分に吸収される。これにより、本実施形態の波長変換素子40によれば、特許文献1の波長変換素子に比べて波長変換効率を高めることができる。
【0065】
さらに本実施形態の場合、波長変換素子40が複数のナノアンテナ43を備えているため、蛍光YLの波長帯のうちの特定の波長の光を、法線方向に高い指向性で取り出すことができる。
【0066】
図6は、本実施形態の波長変換素子40において、励起光BLsのスペクトルおよび法線方向から測定した蛍光YLのスペクトルを示す図である。図6において、横軸は波長(nm)であり、縦軸は光量(a.u.)である。
図6に示すように、蛍光体から生成された蛍光YLのなだらかなスペクトルに加え、波長が610nmの個所に鋭いピークが生じている。このピークは、ナノアンテナ43による局在表面プラズモン励起で増強された電場による光回折に由来する高い指向性を持つ光である。図6の場合、蛍光YLのピーク波長は約530nmであり、緑色波長帯に位置している。これに対し、ナノアンテナ43によって法線方向に回折された光のピーク波長は約610nmである。このように、ナノアンテナ43によって法線方向に回折された光のピーク波長は、蛍光YLのピーク波長とは異なる。
【0067】
一般に、YAG:Ce系の蛍光体は、蛍光体で生成される蛍光のうちの赤色光成分が少ないという特性を有している。そのため、YAG:Ce系蛍光体から得られる蛍光をプロジェクター等の表示装置の照明光として用いた場合、良好なホワイトバランスを得ることが困難であった。そのため、蛍光のうち、例えば40%程度の緑色光成分を捨てることによってホワイトバランスを確保しているが、この方法では、一部の光成分を捨てるため、光利用効率が低いという問題があった。この問題に対し、本実施形態の波長変換素子40によれば、図6に示したように、赤色光成分が増強されることによって緑色光成分を捨てる量が少なくて済み、光利用効率を大幅に高めることができる。
【0068】
なお、特許文献1の波長変換素子においても、励起光の波長変換効率を高める目的で波長変換層に光散乱体を混入させる方法が考えられる。しかしながら、特許文献1の構成において、単に波長変換層に光散乱体を混入させたとすると、ナノアンテナのごく近傍に光散乱体が存在することになる。この構成では、ナノアンテナの光回折作用に対して光散乱体が悪影響を及ぼす結果、法線方向に回折される光の量が低下するという問題がある。
【0069】
これに対し、本実施形態の波長変換素子40においては、光散乱体412が分散された波長変換層41とナノアンテナ43との間に透明部材42が介在しているため、ナノアンテナ43に対する光散乱体412の影響が透明部材42によって緩和される。その結果、ナノアンテナ43は、法線方向への光回折作用を十分に発揮することができる。これにより、本実施形態の波長変換素子40によれば、波長変換層とナノアンテナとの間に透明部材が介在しない場合に比べて、特定波長の光成分の増強効果を高めることができる。
【0070】
また、本実施形態の波長変換素子40においては、複数のナノアンテナ43が保護層44で覆われているため、ナノアンテナ43の剥離や損傷を抑制することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、保護層44の屈折率は透明部材42の屈折率と等しいが、この構成に代えて、保護層44の屈折率は、透明部材42の屈折率と異なっていてもよい。すなわち、保護層44と透明部材42とで材料を異ならせる等の方法により、保護層44の屈折率を、意図的に透明部材42の屈折率と異ならせてもよい。
【0072】
保護層44の屈折率と透明部材42の屈折率とが異なる構成によれば、法線方向に回折させる光の波長幅を広げることができる。例えば透明部材42の材料にサファイアガラスを用い、保護層44の材料にHfOを用いたとすると、ピーク波長が610nmの光とピーク波長が635nmの光のそれぞれが法線方向に回折し、取り出す光の波長幅が広くなる。法線方向に回折する光の波長幅が広いと、光変調装置4R,4G,4Bを照明した時に生じる様々な干渉に起因する色ムラが抑制できるとともに、演色性が向上する。
【0073】
なお、本実施形態の波長変換素子40において、黄色の蛍光YLはランバーシアンの配光分布を持ち、広い角度で射出される。これに対して、波長610nmの赤色光については、射出角度範囲が狭い上に、射出角度に対応した波長シフトも存在する。したがって、光源装置20からの照明光をプロジェクターの画像投射にそのまま用いると、画像の色むらが発生しやすい。これに対し、本実施形態の照明装置2においては、図2に示すように、光源装置20からの照明光WLがインテグレーター光学系31を通過するため、照明光WLの照度が光変調装置4R,4G,4Bの画像形成領域上で均一化され、画像の色むらが緩和される。インテグレーター光学系31を構成するレンズを細かく分割する程、画像の色の均一性は向上する。
【0074】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について、図7および図8を用いて説明する。
第2実施形態のプロジェクターの基本構成は第1実施形態と同様であり、照明装置および波長変換素子の構成が第1実施形態と異なる。そのため、プロジェクターの全体の説明は省略する。
図7は、本実施形態の照明装置の概略構成図である。図8は、本実施形態の波長変換素子の断面図である。
図7および図8において、第1実施形態で用いた図面と共通の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0075】
図7に示すように、本実施形態の照明装置50は、第1光源装置11と、第2光源装置12と、ダイクロイックミラー13と、インテグレーター光学系31と、偏光変換素子32と、重畳レンズ33と、を備えている。本実施形態の場合、第1光源装置11は、特許請求の範囲の光源装置に対応する。
【0076】
第1光源装置11は、アレイ光源21と、コリメーター光学系22と、第1拡散板51と、第1集光光学系26と、波長変換素子60と、第1ピックアップ光学系27と、を備えている。第1拡散板51は、アレイ光源21から射出される励起光BL1を拡散させる。本実施形態において、第1拡散板51には、例えば光学ガラスからなる磨りガラス板が用いられる。波長変換素子60の構成については、後述する。
【0077】
第2光源装置12は、第2光源70と、第2集光光学系71と、第2拡散板72と、第2ピックアップ光学系73と、を備えている。
【0078】
第2光源70は、アレイ光源21と同様の構成を有している。本実施形態において、第
2光源70は、青色光BLを射出する半導体レーザーと、半導体レーザーから射出された
青色光Bを平行化するコリメーターレンズと、を有している。第2光源70は、半導体
レーザーおよびコリメーターレンズを少なくとも一つずつ有していればよく、アレイ光源
21と同様、半導体レーザーおよびコリメーターレンズを複数個ずつ有していてもよい。
【0079】
第2集光光学系71は、第1レンズ71aと、第2レンズ71bと、を備えている。第2集光光学系71は、第2光源70から射出された青色光BLを第2拡散板72の付近に集光する。第1レンズ71aおよび第2レンズ71bのそれぞれは、凸レンズから構成されている。
【0080】
第2拡散板72は、第2集光光学系71から射出された青色光BLを拡散し、第1光源装置11において生成される蛍光YLの配光分布に類似した配光分布を有する青色光BLに変換する。第2拡散板72として、例えば光学ガラスからなる磨りガラスが用いられる。
【0081】
第2ピックアップ光学系73は、第1レンズ73aと、第2レンズ73bと、を備えている。第2ピックアップ光学系73は、第2拡散板72から射出された青色光BLを略平行化する。第1レンズ73aおよび第2レンズ73bのそれぞれは、凸レンズから構成されている。
【0082】
本実施形態において、第2光源装置12からの青色光BLは、ダイクロイックミラー13で反射される。ダイクロイックミラー13で反射した青色光BLは、第1光源装置11から射出された後、ダイクロイックミラー13を透過した黄色の蛍光YLと合成され、白色の照明光WLとなる。
照明装置50のその他の構成は、第1実施形態と略同様である。
【0083】
図8に示すように、本実施形態の波長変換素子60は、波長変換層65と、透明部材42と、複数のナノアンテナ43と、保護層44と、基板62と、ダイクロイック層63と、接合層47と、を備えている。第1実施形態の波長変換素子40が反射型の波長変換素子であったのに対し、本実施形態の波長変換素子60は、波長変換層65の第2面65bから励起光BL1が入射され、波長変換層65の第1面65aから蛍光YLが射出される波長変換素子、いわゆる透過型の波長変換素子である。
【0084】
第1実施形態の基板45は、例えば銅、アルミニウム等の透光性を持たない材料で構成されていたのに対し、本実施形態の基板62は、例えばサファイアガラス等のガラス、石英等の透光性を有する材料で構成されている。
【0085】
ダイクロイック層63は、基板62の第1面62aに、波長変換層65の第2面65bに対向して設けられている。ダイクロイック層63は、励起光BL1を透過させ、蛍光YLを反射させる特性を有する。これにより、励起光BL1は、ダイクロイック層63を透過して波長変換層65に入射し、蛍光YLのうち、基板62側に向かって進む蛍光YLは、ダイクロイック層63で反射して波長変換層65の第1面65aに向かって進む。ダイクロイック層63は、例えば誘電体多層膜から構成されている。
【0086】
本実施形態の波長変換素子60は、透過型の波長変換素子であるため、第1実施形態と異なり、励起光が反射層で反射されることによって励起光の実質的な光路長が波長変換層の厚さの2倍となるという効果を有していない。そのため、本実施形態の波長変換層65は、第1実施形態の波長変換層41の2倍程度の厚さを有することが必要である。したがって、本実施形態の波長変換層65の厚さは、例えば20~100μm程度である。ただし、波長変換層65の構成は、第1実施形態の波長変換層41の構成と同様である。
波長変換素子60のその他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0087】
本実施形態においても、波長変換効率が高く、蛍光YLの波長帯のうちの特定の波長の光を高い指向性で取り出すことができる波長変換素子60が実現できる、光利用効率が高く、画像品質に優れたプロジェクターが実現できる、といった第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0088】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば上記実施形態の波長変換素子において、波長変換層の側面からの光の漏れを抑制するため、波長変換層の側面に反射層が設けられていてもよい。または、波長変換層の側面に反射層が設けられておらず、波長変換層の側面から励起光を入射させる構成、波長変換層の側面から蛍光を射出させる構成等が採用されてもよい。
【0089】
その他、波長変換素子、光源装置、およびプロジェクターの各構成要素の形状、数、配置、材料等の具体的な記載については、上記実施形態に限らず、適宜変更が可能である。上記実施形態では、本発明による光源装置を、液晶ライトバルブを用いたプロジェクターに搭載した例を示したが、これに限られない。本発明による光源装置を、光変調装置としてデジタルマイクロミラーデバイスを用いたプロジェクターに適用してもよい。または、本発明による光源装置を、ヘッドマウントディスプレイ、ヘッドアップディスプレイ等の画像表示装置に適用してもよい。または、本発明による光源装置を、レーザー光源を用いた他の画像表示装置、例えば大型の液晶テレビジョン等に適用してもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、本発明による光源装置をプロジェクターに適用した例を示したが、これに限られない。本発明による光源装置を、例えば自動車のヘッドライトやスポットライトのように、指向性が高く、強度が高い白色光を必要とする照明装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0091】
1…プロジェクター、4R,4G,4B…光変調装置、6…投射光学装置、11…第1光源装置(光源装置)、20…光源装置、21…アレイ光源(光源)、40,60…波長変換素子、41,65…波長変換層、41a,65a…第1面、41b,65b…第2面、42…透明部材、42c…第3面、42d…第4面、43…ナノアンテナ、44…保護層、46…反射層、63…ダイクロイック層、412…光散乱体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8