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特許7484145嗅覚受容体遺伝子の遺伝子多型の検出及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】嗅覚受容体遺伝子の遺伝子多型の検出及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20240509BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20240509BHJP
   C12Q 1/6858 20180101ALI20240509BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20240509BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240509BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALN20240509BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6844 Z ZNA
C12Q1/6858 Z
C12Q1/6883 Z
C12N15/12
C12Q1/6837 Z
C12N15/09 Z
C12N15/09 200
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019219893
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2020108370
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018247646
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今枝 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】早川 和美
(72)【発明者】
【氏名】与語 律子
(72)【発明者】
【氏名】福本 徳子
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/091388(WO,A2)
【文献】TRIMMER C. et al.,Genetic variation aross the human olfactory receptor repertoire alters odor perception,bioRxiv,2017年11月01日,p.1-22
【文献】MAINLAND J. D. et al.,The Missense of Smell: Functional Variability in the Human Odorant Receptor Repertoire,Nat. Neurosci. Author manuscript,2014年07月01日,VOl.17, No.1,p.114-120
【文献】JENKINS S. et al.,High-throughput SNP genotyping,Comparative and Functional Genomics,2001年12月05日,Vol.3,p.57-66
【文献】SYVANEN Ann-Christine,Toward genome-wide SNP genotyping,nature genetics,2005年06月,Vol.37,p.S5-S10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト個体の嗅覚受容体遺伝子における1種又は2種以上の一塩基多型を検出することで、1種又は2種以上のにおい成分に対する前記ヒト個体の知覚程度である嗅覚応答性を評価する工程、
を備え、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR1A1におけるP285S(以下、OR1A1-P285Sという。以下、同じ。)であり、前記におい成分は、(-)-カルボン及び/又は3-オクタノンであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR2AK2-S84Nであり、前記におい成分は、4-メチル-3-ヘキセン酸及び/又は3-オクタノンであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR2J2-K312Mであり、前記におい成分は、バニリン及び/又はγ-ウンデカラクトンであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR2J2-Y74H/V146A/T218Aであり、前記におい成分は、バニリン及び/又はγ-ウンデカラクトンであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR2L3-I39T/P78L/S104L/M139Vであり、前記におい成分は、o-イソプロピルフェノールであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR2W1-D296Nであり、前記におい成分は、4-メチル-3-ヘキセン酸及び/又は3-オクタノンであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR8D1-C127W/L194Pであり、前記におい成分は、シクロテンであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR8H1-G2Sであり、前記におい成分は、(-)-カルボン及び/又はヒノキチオールであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR10G3-S73G及びOR10G3-R292Qであり、前記におい成分は、バニリンであり、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR51I2-T134A、OR51I2-R151P/R263Hであり、前記におい成分は、ヘキサン酸及び/又はn-吉草酸、
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR51L1-T196I及びOR51L1-I281Mであり、前記におい成分は、4-3-メチルヘキセン酸及び/又はヘキサン酸であり、並びに
前記1種又は2種以上の一塩基多型は、OR51V1-L36Fであり、前記におい成分は、4-3-メチルヘキセン酸及び/又はヘキサン酸である、嗅覚応答性の評価方法。
【請求項2】
前記1種又は2種以上の一塩基多型の検出工程は、前記1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子の少なくとも前記1種又は2種以上の一塩基多型を規定する領域を含むポリヌクレオチド領域を増幅し、前記ポリヌクレオチド領域を含む増幅断片について前記1種又は2種以上の一塩基多型の存在を検出する工程である、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
(-)-カルボン及び/又は3-オクタノンに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR1A1-P285Sの存在可能性を予測する工程、
4-メチル-3-ヘキセン酸及び/又は3-オクタノンに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR2AK2-S84Nの存在可能性を予測する工程、
バニリン及び/又はγ-ウンデカラクトンに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR2J2-K312Mの存在可能性を予測する工程、
バニリン及び/又はγ-ウンデカラクトンに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR2J2-Y74H/V146A/T218Aの存在可能性を予測する工程、
o-イソプロピルフェノールに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR2L3-I39T/P78L/S104L/M139Vの存在可能性を予測する工程、
4-メチル-3-ヘキセン酸及び/又は3-オクタノンに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR2W1-D296Nの存在可能性を予測する工程、
シクロテンに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR8D1-C127W/L194Pの存在可能性を予測する工程、
(-)-カルボン及び/又はヒノキチオールに対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR8H1-G2Sの存在可能性を予測する工程、
バニリンに対するト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR10G3-S73G及びOR10G3-R292Qの存在可能性を予測する工程、
ヘキサン酸及び/又はn-吉草酸に対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR51I2-T134A、OR51I2-R151P/R263Hの存在可能性を予測する工程、
4-3-メチルヘキセン酸及び/又はヘキサン酸に対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR51L1-T196I及びOR51L1-I281Mの存在可能性を予測する工程、並びに
4-3-メチルヘキセン酸及び/又はヘキサン酸に対するヒト個体の知覚程度に関する情報に基づいて、OR51V1-L36Fの存在可能性を予測する工程、
のいずれかを備える、遺伝子多型の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、嗅覚受容体遺伝子の遺伝子多型の検出及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、嗅覚受容体遺伝子の一塩基多型((single nucleotide polymorphism:SNP)と嗅覚等の体質変化(老化を含む。))との関係が明らかになってきている(非特許文献1~14)。また、嗅覚受容体は、嗅上皮以外の脳、心蔵、肝臓、腎臓、精巣、卵巣等の組織でも発現していることが報告されている(非特許文献15)。例えば、精巣で発現している嗅覚受容体OR1D2のSNPが、精子走化症(不妊)に関与していることも明らかになっている(非特許文献1,2)。さらに、糖尿病やアルコール依存症に関連しているSNP(OR14J1、OR51L1)も見出されている(非特許文献13,14)。OR1A2、OR1D2、OR4F15は、ガン組織での発現も確認されており、ガンとの関連も推測されている(非特許文献16)。さらにまた、27種の嗅覚受容体のSNPの機能評価も報告されている(非特許文献17)。
【0003】
また、近年、遺伝子、環境、ライフスタイルに関する個人毎の相違を考慮した予防や治療法(Personalized Healthcare,Personalized Medicine)の開発が進められている。将来は、これらのビッグデータを活用した個人に最適なサービス、製品を提供する時代になると予測される。一方、産業界では“ものづくり”から“ことづくり”に重点が置かれるようになり、個人ごとに異なる感覚特性に訴える商品開発が進められている。また、車両などの種々の移動体、住宅、店舗等の種々の生活空間内での臭いに対する要求が厳しくなってきている。そこで、加齢臭やミドル脂臭や生乾き臭が同定され、対策用の製品が多く市販されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Ottaviano G., et al. : Med Hypotheses, 84: 437-441, 2015
【文献】Ottayiano G., et al. : Eur Arch Otorhinolaryngol, 270: 3079-3086, 2013
【文献】McRae J .. F, et al.: Chem Senses, 37: 585-593, 2012
【文献】Nicholas E., etal.: PLoS Genet, 6: e1000993, 2010
【文献】Zhang Y., et al.: J Assist Reprod Genet, 32: 95-101, 2015
【文献】Makela C., et al. : J Assist Reprod Genet, 32: 903-908, 2015
【文献】Jaeger S.R., et al. :Curr Biol, 23: 1601-1605, 2013
【文献】Keller A., et al. :Nature, 449: 468-472, 2007
【文献】Kathrine L., et al.: PLoS One, 7: e35259, 2012
【文献】Antti K., et al. : Chem Senses, 37: 869-881, 2012
【文献】Antti K., et al.: Chem Senses, 37: 541-552, 2012
【文献】Menasha I., et al. : PLoS Biol, 5: e284, 2007
【文献】Jahromi M.M., et al. :Autoimmun Rev, 12: 270-274, 2012
【文献】Leah W., et al.: Alcohol Clin Exp Res, 38: 354-366, 2014
【文献】Flegel C., et al. : PLoS One, 8 : e55368, 2013
【文献】Li Z., et al.: Oncotarget, 6: 26411-26423, 2015
【文献】Joel D Mainland, et al : Nat Neurosci, 17: 114-120, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヒト嗅覚受容体遺伝子のSNPとその機能との関係はほとんど明らかになっていないのが現状である。
【0006】
嗅覚受容体遺伝子のSNPと味覚、嗅覚、温冷感覚等の感覚特性などの個人の体質や健康状態との関係を明らかにすることにより、個人に最適な生活空間、食事、医療等を提供することができると考えられる。
【0007】
本明細書は、個体の嗅覚受容体遺伝子のSNP及び/又は嗅覚受容体のにおい成分に対する応答性を検出することにより、個人の感覚特性や体質等にも関連する有用な嗅覚受容体に関する情報の取得及び利用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、嗅覚受容体は、個体の嗅覚のみならず、種々の感覚特性や体質や健康状態も反映しうることから、嗅覚受容体遺伝子のSNP及び/又は嗅覚受容体の応答性を嗅覚受容体関連情報として取得し、個人毎に最適な生活環境や医療等の提供を可能できるという知見を得た。本明細書は、かかる知見に基づき以下の手段を提供する。
【0009】
[1]以下のヒト嗅覚受容体遺伝子;
OR1A1、OR2AK2、OR2J2、OR2L3、OR2W1、OR8D1、OR8H1、OR10G3、OR51I2、OR51L1及びOR51V1からなる群から選択される1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子における1種又は2種以上の一塩基多型を検出する工程、
を備える、体質の評価方法。
[2]前記1種又は2種以上の一塩基多型は、前記OR1A1におけるP285S(以下、OR1A1-P285Sという。以下、同じ。)、
OR2AK2-S84N、OR2AK2-V188M、OR2AK2-V15A及びOR2AK2-R270W、
OR2J2-K312M、OR2J2-Y74H、OR2J2-V146A及びOR2J2-T218A、
OR2L3-I39T、OR2L3-P78L、OR2L3-S104L及びOR2L3-M139V、
OR2W1-D296N、
OR8D1-C127W及びOR8D1-L194P、
OR8H1-G2S、
OR10G3-S73G及びOR10G3-R292Q、
OR51I2-T134A、OR51I2-R151P及びOR51I2-R263H、
OR51L1-T196I及びOR51L1-I281M、並びに
OR51V1-L36F
からなる群から選択される、請求項1に記載の評価方法。
[3]前記1種又は2種以上の一塩基多型の検出工程は、前記1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子の少なくとも前記1種又は2種以上の一塩基多型を規定する領域を含むポリヌクレオチド領域を増幅し、前記ポリヌクレオチド領域を含む増幅断片について前記1種又は2種以上の一塩基多型の存在を検出する工程である、[1]又は[2]に記載の評価方法。
[4]前記体質は、嗅覚に関する応答性である、[1]~[3]のいずれかに記載の評価方法。
[5][1]~[4]のいずれかに記載の評価方法に用いるキットであって、
前記1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子の前記1種又は2種以上の一塩基多型を規定する領域を含むポリヌクレオチド領域を増幅するためのプライマーセットと、
前記プライマーセットによって増幅された増幅断片を検出するための1種又は2種以上のプローブと、
を備える、キット。
[6]さらに、前記1種又は2種以上のプローブを備える固相担体を、備える、[5]に記載のキット。
[7]以下のヒト嗅覚受容体遺伝子;
OR1A1、OR2AK2、OR2J2、OR2L3、OR2W1、OR8D1、OR8H1、OR10G3、OR51I2、OR51L1及びOR51V1からなる群から選択される1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子によってコードされる1種又は2種以上の嗅覚受容体の応答性に関する嗅覚受容体応答性情報に基づいて、前記1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子における1種又は2種以上の一塩基多型の存在可能性を予測する工程、
とを備える、遺伝子多型の予測方法。
[8]前記嗅覚受容体応答性情報は、ヒト個体の嗅覚受容体を利用した応答性評価結果から得られた情報である、[7]に記載の予測方法。
[9]前記嗅覚受容体応答性情報は、異なる強度のにおい成分をヒト個体の嗅覚受容体に作用させてヒト個体における知覚程度に基づく情報である、[7]又は[8]に記載の予測方法。
[10]ヒト個体についての体質関連情報の取得方法であって、
以下のヒト嗅覚受容体遺伝子;
OR1A1、OR2AK2、OR2J2、OR2L3、、OR2W1、OR8D1、OR8H1、OR10G3、OR51I2、OR51L1及びOR51V1からなる群から選択される1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子によってコードされる1種又は2種以上の嗅覚受容体の応答性に関する嗅覚受容体応答性情報、及び/又は
前記1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子における1種又は2種以上の一塩基多型に関する嗅覚受容体遺伝子多型情報を取得する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】OR1A1及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図2】OR2AK2及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図3】OR2J2及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図4】OR2L3及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図5A】OR2W1及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図5B】OR2W1及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図6】OR8D1及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図7】OR8H1及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図8】OR10G3及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図9】OR51I2及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図10】OR51L1及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図11】OR51V1及びそのSNPのにおい成分応答性評価結果を示す図である。
図12】OR1A1-P285Sの遺伝子配列を示す図(ただし、コード領域に加えて5'側に制限酵素SgfIサイト(gcgatcgc)+c、3’側にPmeIサイト(gtttaaac)+gを含む。図13図28に示す嗅覚受容体の遺伝子配列において同じ。)である。
図13】OR2AK2-S84Nの遺伝子配列を示す図である。
図14】OR2AK2-V188Mの遺伝子配列を示す図である。
図15】OR2AK2-V15A/S84M/R270Wの遺伝子配列を示す図である。
図16】OR2J2-K312Mの遺伝子配列を示す図である。
図17】OR2J2-Y74H/V146A/T218Aの遺伝子配列を示す図である。
図18】OR2L3-I39T/P78L/S104L/M139Vの遺伝子配列を示す図である。
図19】OR2W1-D296Nの遺伝子配列を示す図である。
図20】OR8D1-C127W/L194Pの遺伝子配列を示す図である。
図21】OR8H1-G2Sの遺伝子配列を示す図である。
図22】OR10G3-S73Gの遺伝子配列を示す図である。
図23】OR10G3-R292Qの遺伝子配列を示す図である。
図24】OR51I2-T134Aの遺伝子配列を示す図である。
図25】OR51I2-R151P/R263Hの遺伝子配列を示す図である。
図26】OR51L1-T196Iの遺伝子配列を示す図である。
図27】OR51L1-I128Mの遺伝子配列を示す図である。
図28】OR51V1-L36Fの遺伝子配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の開示は、嗅覚受容体遺伝子のSNPの検出及びその利用に関する。本明細書に開示される嗅覚受容体遺伝子の1種又は2種以上のSNPを検出して嗅覚受容体遺伝子多型情報を取得することにより、その嗅覚受容体の機能、すなわち、におい成分に対する応答性の相違などの体質やその変化に関する体質関連情報を取得できる。また、嗅覚受容体のにおい成分に関する応答性に関する嗅覚受容体応答性情報を取得することで、嗅覚受容体遺伝子のSNPを推測することができ、ひいては、体質やその変化などの体質関連情報についても類推することができる。
【0012】
なお、一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)は、一般的には、遺伝子の塩基配列において一つの塩基だけ異なる状態およびその部位をいう。また、遺伝子多型とは、一般的には、母集団中1%以上の頻度で存在する2以上の対立遺伝子(アレル)をいう。本明細書において、SNPは、好ましくは、当業者が自由に利用可能な公開されたデータベースに登録されたSNPであって、そのリファレンス番号から特定できるSNPである。
【0013】
以下、本明細書に開示される嗅覚受容体のSNPの検出及びその利用に関する実施形態について以下に詳細に説明する。
【0014】
(体質の評価方法)
本明細書に開示される体質の評価方法は、以下のヒト嗅覚受容体遺伝子;
OR1A1、OR2AK2、OR2J2、OR2L3、OR2W1、OR8D1、OR8H1、OR10G3、OR51I2、OR51L1及びOR51V1からなる群から選択される1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子の1種又は2種以上のSNPを検出する工程、を備えることができる。
【0015】
これらの嗅覚受容体遺伝子は、ヒトの嗅覚受容体のうち、本発明者らが知得している主たる受容体又はその組合せとリガンド(におい成分)との組合せから選択されたものである。これらの嗅覚受容体の遺伝子については、後述するようなSNPが既に知られており、これらのSNPが嗅覚受容体の応答性に影響することがわかっている。したがって、これらの嗅覚受容体遺伝子のSNP又はその組合せの有無に関する情報(以下、嗅覚受容体遺伝子多型情報ともいう。)が、嗅覚受容体の応答性、すなわち、嗅覚を含む体質の良好な指標になるものと考えられる。これらの嗅覚受容体遺伝子とリガンドとの関係を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
表1に示すように、これらの嗅覚受容体遺伝子は、1種又は2種以上のにおい成分に応答することができる。
【0018】
これらの嗅覚受容体遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列については、例えば、NCBI(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene)のほか、HUGO Gene Nomenclature Committee ( HYPERLINK "https://www.genenames.org/" https://www.genenames.org/)において取得できる。また、これらの嗅覚受容体のSNPやその頻度情報については、The Human Olfactory Data Explorer (https://genome.weizmann.ac.il/horde/)や東北メディカル・メガバンク統合データベースdbTMMカタログ(http://www.dist.megabank.tohoku.ac.jp/about/data/index.html)等を参照することができる。
【0019】
例えば、本発明者においてリガンドが判明している嗅覚受容体遺伝子とそのSNP(表2においては、嗅覚受容体遺伝子によってコードされる嗅覚受容体タンパク質のアミノ酸配列におけるSNPに基づくアミノ酸変化(例えば、OR1A1-P285S(285位のP(プロリン)がS(セリン)に変化))として表す。)又はその組合せとrs番号のリスト並びに出現割合(%)を表2に示す。表2からも明らかであるように、嗅覚受容体遺伝子においては、SNPの現れる割合(%)が高い傾向にあり、嗅覚受容体遺伝子は多様性に富む傾向があるといえる。なお、表2中、東北メディカルメガバンクdataの遺伝子型の割合(%)は、メジャーホモ又はそれぞれの遺伝子多型をマイナーホモで持つ確率を表す。例えば、OR1A1については、当該遺伝子型をホモで持っている人の割合を示し、OR1A1-P285Sについては、当該SNPをホモで持っている人の割合を示す。また、表2中、1000 Genomes Project data(allele frequency)における遺伝子型の割合(%)は、対立遺伝子頻度を表す。例えば、ひとつの遺伝子座に対して、複数の対立遺伝子が存在する場合、それぞれの対立遺伝子の集団中における頻度を表す。
【0020】
【表2】
【0021】
本評価方法において検出対象とすることができる嗅覚受容体遺伝子のSNP又はその組合せが表2に例示されている。すなわち、例えば、OR1A1に関してP285S、OR2AK2に関してS84N、V188M、V15A、R270W、OR2J2に関してK312M、Y74H、V146A及びT218A、OR2L3に関してI39T、P78L、S104L及びM139V、OR2W1に関してD296N、OR8D1に関してC127W及びL194P、OR8H1に関してG2S、OR10G3に関してS73G及びR292Q、OR51I2に関してT134A、R151P及びR263H、OR51L1に関してT196I及びI281M、並びにOR51V1に関してL36Fが挙げられる。
【0022】
これらの嗅覚受容体遺伝子についての上記SNP又はその組合せは、嗅覚受容体が応答することがわかっているにおいにおい成分のうち1種又は2種以上のにおい成分について天然型の嗅覚受容体とは異なる(すなわち、応答強度が天然型に比較して強い又は弱いなど)応答性を示すことができる。嗅覚受容体遺伝子のSNP(アミノ酸変異)による嗅覚応答性の表現型は、その嗅覚受容体が応答するにおい成分に対して同様の応答性変化を必ずしも示すわけではなく、1種又は2種以上のにおい成分については応答強度が増大し、及び/又は、他の1種又は2種以上のにおい成分については応答強度が低下し、及び/又は、更に他の1種又は2種以上のにおい成分については応答強度が変化しない場合がありうる。また、特定の嗅覚受容体遺伝子における複数のSNPsのにおい成分に対する反応性が、互いに異なる場合もある。このような場合、特定の嗅覚受容体遺伝子におけるSNPsを相互に識別することも可能となる。
【0023】
こうした種々のSNPを1種又は2種以上組みあわせて検出対象とすることができる。例えば、後段にて開示する表4の内容によれば、OR1A1に関しては、P285Sを単独で検出対象とすることができる。例えば、(-)-カルボン及び/又は3-オクタノンに対する嗅覚応答性が観察されたとき、P285SというSNPを有している可能性を肯定することができ、ひいては嗅覚を含む体質の変化や特異性までも評価することができる。また、OR2AK2に関しては、S84Nを単独で検出対象とすることができる。例えば、4-メチル-3-ヘキセン酸及び/又は3-オクタノンに対する嗅覚応答性が観察されたとき、S84NというSNPを有している可能性等を肯定することができる。
【0024】
同様に、例えばOR2J2―Y74H/V146A/T218A(以下、OR2J2についてのこれらのSNPsの組合せを意味する。以下、他のOR及びSNPsについて同様である。)を、検出対象とすることができる。この組合せは、例えば、バニリン及び/又はγ-ウンデカラクトンに対する嗅覚応答性が減弱又は応答性がないとき、これら全てのSNPsを有している可能性等を肯定できるという組合せを意味している。同様の観点から、例えば、OR2L3-I39T/P78L/S104L/M139Vを検出対象とすることができる。また例えば、OR8D1-C127W/L194Pを検出対象とすることができる。また例えば、OR51I2-R151P/R263Hを検出対象とすることができる。
【0025】
これらのSNPを検出対象とすることで得られる嗅覚受容体遺伝子多型情報から、嗅覚受容体のにおい成分に対する応答性の相違、嗅覚を含む体質を明確に判別することができる。
【0026】
本評価方法で検出対象とするSNPは、上記したrs番号で特定されている。rs番号を参照することで、検出すべきSNP及びその近傍の塩基配列を確認できる。
【0027】
嗅覚受容体遺伝子のSNPを検出する方法は特に限定するものではない。ヒト遺伝子のSNPを検出するのに用いられる公知の方法を適宜用いることができる。例えば、ダイレクトシーケンス法、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)ハイブリダイゼーション法、PCR-一本鎖DNA高次構造多型解析(SSCP)法、制限酵素切断断片長多型(RFLP)法、定量的リアルタイムPCR検出法、インベーダ法、TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)法、RNA分解酵素(RNaseA)切断法、化学切断法、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法、および質量分析を用いた遺伝子多型検出法等などから適宜選択して実施することができる。
【0028】
例えば、1種又は2種以上のSNPの検出は、上記嗅覚受容体遺伝子の1種又は2種以上のSNPを規定する領域を含むポリヌクレオチド領域を増幅し、前記ポリポリヌクレオチド領域を含む増幅断片について前記1種又は2種以上のSNPの存在を検出することができる。前記ポリヌクレオチド領域の増幅は、いわゆるPCRに基づく種々の方法を採用することができ、一般的には、前記ポリヌクレオチド領域を増幅するように設定された塩基配列を有するプライマーセットを用いて、前記ポリヌクレオチド領域を増幅して二本鎖DNA断片を取得し、当該二本鎖DNA断片につき、例えば、特異的にSNPを検出できるプローブを用いたハイブリダイゼーション等を用いてSNPを検出することができる。
【0029】
上記嗅覚受容体遺伝子における1種又は2種以上のSNPは、嗅覚受容体のリガンドであるにおい成分に対する応答性(感受性)、すなわち、嗅覚に関する応答性を変化させる。すなわち、応答性を増強する場合もあり応答性を低減する場合もある。したがって、上記嗅覚受容体遺伝子における1種又は2種以上のSNPを検出することで、その嗅覚受容体の応答性に関する情報(以下、嗅覚受容体応答性情報ともいう。)を取得することができる。嗅覚受容体応答性情報は、嗅覚受容体のリガンドであるにおい成分に対する当該嗅覚受容体の応答性に関する情報である。かかる情報は、個体の嗅覚に関連する特性であるほか、他の知覚(味覚等)にも関連し、ひいては体質に関連すると考えられる。したがって、嗅覚受容体遺伝子の1種又は2種以上のSNPを検出することで、個体の体質を評価することができる。
【0030】
(評価方法に用いるキット)
本明細書に開示されるキットは、本明細書に開示される上記評価方法を実施するためのキットである。本キットは、上記した1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子の1種又は2種以上のSNPを規定する領域を含むポリヌクレオチド領域を増幅するためのプライマーセットと、前記プライマーセットによって増幅された増幅断片を検出するための1種又は2種以上のプローブと、を備えることができる。かかるキットによれば、ヒト個体の嗅覚の応答性などの体質に関する情報を取得できる。
【0031】
本キットにおけるプライマーの塩基配列は、当業者であれば、検出すべき1種又は2種以上のSNPを含む塩基配列を取得することができれば、SNPの検出態様に応じて適切なプライマーセットの各プライマーによる識別配列(ハイブリダイズ配列)を適宜決定することができる。また、かかるプライマーセットによって増幅されたDNA断片の塩基配列を取得できるため、SNPの検出態様に応じて、当該DNA断片を特異的に捕捉するプローブの構成や塩基配列も当業者であれば適宜決定できる。
【0032】
さらに、本キットは、プローブが固定された固相担体を備えていてもよい。プライマーセットにより増幅されたDNA断片を捕捉するプローブは、必要に応じて適当な固相担体に固定されていてもよい。固相担体は、当該分野において周知であり、例えば、球状のビーズであり、例えば、平板状のチップであり、ウェルを有するプレート状であり、ストリップ状であり、スティック状である。なお、プローブハイブリダイゼーションは、種々の態様で実施できる。ハイブリダイゼーション液中に固相担体を浸漬した状態であってもよいし、ハイブリダイゼーション液で多孔質性のストリップ状やスティック状等の固相担体を毛細管現象等で移動させるクロマトグラフィー形態であってもよい。
【0033】
(遺伝子多型の予測方法)
本明細書に開示される遺伝子多型の予測方法は、以下のヒト嗅覚受容体遺伝子;
OR1A1、OR2AK2、OR2J2、OR2L3、OR2W1、OR8D1、OR8H1、OR10A6、OR10G3、OR51I2、OR51L1及びOR51V1からなる群から選択される1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子によってコードされる1種又は2種以上の嗅覚受容の応答性に関する嗅覚受容体応答性情報に基づいて、前記1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子における1種又は2種以上のSNPの存在可能性を予測する工程、を備えることができる。この方法によれば、嗅覚受容体応答性情報から、簡易に、嗅覚受容体遺伝子におけるSNPの存在可能性を予測できる。もしくは、SNPに対応する遺伝子領域における何らかの異常を予測できる。
【0034】
嗅覚受容体応答性情報を得るための嗅覚受容体の応答性評価は、特に限定するものではなく、ヒト個体の嗅覚受容体を利用した応答性評価結果から得ることができる。嗅覚受容体応答性情報は、例えば、異なる強度のにおい成分をヒト個体の嗅覚受容体に作用させてヒト個体における知覚程度に基づく情報とすることができる。こうした嗅覚受容体応答性情報は、対象となるヒト個体に対する官能評価によって得ることができる。
【0035】
官能評価は、例えば、評価しようとする嗅覚受容体のリガンド(におい成分)について異なるにおい強度となるようににおい成分の濃度を異ならせた被験体(ガス又は液体)を、直接的又は間接的(例えば、繊維状体や多孔質体に含浸させた状態)でヒト個体の鼻腔に導入するようにして、当該におい成分を検知するか否かの閾値濃度で評価することができる。そのほか、官能評価は、公知の香料、臭気の官能評価方法を適宜採用して実施することができる。例えば、代表的な検査装置やキットとしては、T&Tオルファクトメーター(例えば、第一薬品産業株式会社製)、静脈性嗅覚検査(アリナミンテスト)、においスティック(Oder Stick Identification Test for Japanese; OSIT-J、例えば、第一薬品産業株式会社製)、Open Essence(例えば、和光純薬工業株式会社製)などを適宜選択することができる。
【0036】
嗅覚受容体のにおい成分に対する応答性の大小は、例えば、評価しようとする嗅覚受容体の遺伝子につきSNPを有しない個体群における特定におい成分に対する平均的な知覚閾値を基準として判断してもよい。また例えば、なんら特定されない個体群についての特定におい成分対する平均的な知覚閾値を基準として判断してもよい。また例えば、一般に、ヒトがにおいを知覚できる平均的な閾値を基準として判断してもよい。また例えば、上記した商業的に入手可能な検査装置やキットを用いる場合には、当該装置等のプロトコール等に記載される基準を採用することもできる。
【0037】
評価しようとする嗅覚受容体のリガンドとなるにおい成分が複数ある場合には、これらのうち1種又は2種以上のにおい成分につき実施すればよい。全てのにおい成分について実施してもよい。
【0038】
異なる嗅覚受容体が同一のにおい成分をリガンドとする場合もある。この場合は、このにおい成分についての応答性は、異なる複数の嗅覚受容体におけるSNPの存在可能性を示す有効な指標となる。
【0039】
(ヒト個体についての体質関連情報の取得方法)
本明細書に開示されるヒト個体の体質関連情報の取得方法は、以下のヒト嗅覚受容体遺伝子;OR1A1、OR2AK2、OR2J2、OR2W1、OR2L3、OR8D1、OR8H1、OR10G3、OR51I2、OR51L1及びOR51V1からなる群から選択される1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子によってコードされる1種又は2種以上の嗅覚受容体の応答性に関する嗅覚受容体応答性情報、及び/又は前記1種又は2種以上の嗅覚受容体遺伝子における嗅覚受容体遺伝子多型情報を取得する方法である。かかる方法によれば、におい成分が最初に接触する嗅覚受容体に関連する情報から、個体の体質や体質の変化についての情報を得ることができる。
【0040】
ヒト個体の嗅覚受容体応答性情報は、既に説明した方法により取得することができるし、嗅覚受容体遺伝子多型情報についても既に説明した方法により取得できる。これらの一方又は双方を取得することにより、ヒト個体の嗅覚特性を含む体質に関する情報を得ることができる。
【0041】
嗅覚受容体の応答性は、ヒト個体において変化する場合もある。すなわち、例えば年齢により、また例えば生活環境により、また例えば健康状態により、また例えば疾患により変化しうる。嗅覚受容体応答性情報をモニタリングすることで、嗅覚を含んだ体質の変化、関連ある嗅覚受容体遺伝子の異常、関連ある嗅覚受容体遺伝子が関連する疾患の予兆等のヒト個体の体質関連情報を取得することができる。
【実施例
【0042】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【0043】
表2に示したヒト嗅覚受容体遺伝子多型を含むDNA(コード領域)を含む遺伝子を合成した。合成した各遺伝子を、Flexi Vector(Promega)に常法に従って組み込み、SgfIとPmeIサイトを利用して、pF5K CMV-neo Flexi VectorーORを作製した。
【0044】
HEK293細胞を10%ウシ胎児血清(FBS)-ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDME培地にて培養後、表3に示す組成の反応液を調製し、クリーンベンチ内で30分放置した後、384ウェル(ポリーL-リジンコート・ホワイトプレート)の各ウェルに添加した。次いで、HEK293細胞を3.0×105/cm2の割合で各ウェルに播種し、CO2インキュベータ内で24時間培養した。
【0045】
【表3】
【0046】
CRE応答の測定には、細胞内cAMP量の増加をホタルルシフェラーゼ遺伝子由来の発光値としてモニターするルシフェラーゼレポータージーンアッセイを用いた。また、CMVプロモーター下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を融合させたものを同時に遺伝子導入し、遺伝子導入効率や細胞数の誤差を補正する内部標準として用いた。
【0047】
24時間培養後、培地を取り除き、無血清培地で調製した対象におい成分を種々の濃度で添加し、4時間CO2インキュベータ内に放置した。ルシフェラーゼ活性はDual-Glo Luciferase assay system(Promega社)の添付プロトコールに準じて測定した。におい成分刺激により誘導されたホタルルシフェラーゼ由来の発光値をコントロール群(におい成分非処理群)の発光値で割った値をFold induction of luciferaseとして、応答強度の指標とした。4-メチル-3-ヘキセン酸等の各種におい成分に対する応答性評価結果を、図1~11に示す。また、図12~28に、表2に示すSNPを含む嗅覚受容体遺伝子の塩基配列を(配列番号1~17)示す。また、嗅覚受容体の応答強度を表4に示す。
【0048】
【表4】
【0049】
表4には、応答強度が2以下を「―」とし、2~10を「+」とし、10~50を「+++」と表記している。また、この表記には該当しないが、明らかに応答強度に変化がある場合には、「↑」(強度向上)又は「↓」(強度低下)を示した。なお、図5A図5Bに示すように、OR2W1については、3種の溶媒(4-メチル-3-ヘキセン酸、1-オクテン-3-オール及び3-オクタノン)のうち、(1)-オクテン-3-オールにつては、天然及びSNPにおいて応答強度がほぼ同等であったが、他の2種の溶媒については、応答強度が低下していた。したがって、図1~11及び表4の結果から、これらに示す嗅覚受容体遺伝子の1種又は2種以上のSNPで、嗅覚受容体応答性の強度変化が認められた。このことから、こうしたSNPsを備えるヒト個体における嗅覚の感受性(応答性)が異なることが予測される。
【0050】
このようにこれらの嗅覚受容体遺伝子のSNPと嗅覚受容体応答性が大きく関連付けられた。嗅覚受容体はヒトが最も早く外来物質と接触しうる受容体である。かかる受容体遺伝子におけるSNPsの解析によって、ヒト個体における嗅覚感受性のほか、種々の体質に関連する情報を取得できることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
【配列表】
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