(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ベーカリー食品の製造方法及びベーカリー食品改質用酵素製剤
(51)【国際特許分類】
A21D 2/08 20060101AFI20240509BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240509BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20240509BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20240509BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240509BHJP
【FI】
A21D2/08
A21D2/26
C12N9/26 Z
C12N9/24
A23L29/00
(21)【出願番号】P 2020000933
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】小田中 真実
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 奈美
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115894(WO,A1)
【文献】特開平01-132331(JP,A)
【文献】国際公開第2018/151185(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
Google
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩、(2)α-グルコシダーゼ及び(3)ブランチングエンザイムを原料に添加することを含む、
ケーキ類の製造方法。
【請求項2】
ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩の添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10
-10~1.0×10
-2gであり、α-グルコシダーゼの添加量が原料穀粉1g当たり3.0×10
-9~1.0×10Uであり、ブランチングエンザイムの添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10
-15~5.0×10
3Uである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩の添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10
-9~1.0×10
-3gであり、α-グルコシダーゼの添加量が原料穀粉1g当たり3.0×10
-7~1.0×10
-1Uであり、ブランチングエンザイムの添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10
-9~5.0×10Uである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(1)ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩、(2)α-グルコシダーゼ及び(3)ブランチングエンザイムを含有する
ケーキ類改質用の酵素製剤。
【請求項5】
α-グルコシダーゼの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり3.0×10
-7~1.0×10
11Uであり、ブランチングエンザイムの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり1.0×10
-13~5.0×10
13Uである請求項4に記載の酵素製剤。
【請求項6】
α-グルコシダーゼの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり3.0×10
-4~1.0×10
8Uであり、ブランチングエンザイムの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり1.0×10
-6~5.0×10
10Uである請求項4に記載の酵素製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いるベーカリー食品の製造方法及びベーカリー食品改質用の酵素製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉や蛋白質を含有する食品の品質を高める手段として、添加剤を配合することが行われている。例えば、ポリグルタミン酸と、トランスグルタミナーゼ及び/又はグルコースオキシダーゼを原料穀粉に添加することにより、電子レンジ加熱後の麺類の食感を向上させる方法が報告されている(特許文献1)。ポリグルタミン酸を卵白の殺菌工程の前に添加することにより、卵白の起泡安定性の低下が抑制されることが報告されている(特許文献2)。ポリグルタミン酸をベーカリー食品に添加することにより、ベーカリー食品の老化防止、食感改善、保型性を高めることが報告されている(特許文献3)。酸性アミノ酸ポリマーの一価金属塩を冷凍用の食品類に含有させることにより、呈味に影響を及ぼすことなく冷凍及び解凍時間を短縮できることが報告されている(特許文献4)。ブランチングエンザイム及びα-グルコシダーゼを添加することにより、米飯食品、米加工品、パン、麺などの澱粉含有食品の食感を改質する(硬さや弾力を付与する)ことが報告されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-208109号公報
【文献】特開2008-61号公報
【文献】特開平1-132331号公報
【文献】特開平8-112084号公報
【文献】国際公開第2014/115894号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
焼き菓子やパンなどのベーカリー食品は、焼成後、時間の経過とともに保水性が低下してパサついたり、硬くなったり、口溶けが悪くなるなど食感が低下する問題がある。また、ベーカリー食品を冷凍保存することが行われているが、解凍後に保水性、食感が悪くなるという問題がある。
本発明の目的は、ベーカリー食品の保水性を向上させ、冷凍解凍耐性を付与するためのベーカリー食品の製造方法及びベーカリー食品用改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、製造時に(1)ポリグルタミン酸(以下、γ-PGAと略記する場合がある)又はポリグルタミン酸塩、(2)α-グルコシダーゼ及び(3)ブランチングエンザイムを原料に添加することにより、ベーカリー食品の保水性を向上させ、冷凍解凍耐性を付与することを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0006】
[1] (1)ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩、(2)α-グルコシダーゼ及び(3)ブランチングエンザイムを原料に添加することを含む、ベーカリー食品の製造方法。
[2] ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩の添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10-10~1.0×10-2gであり、α-グルコシダーゼの添加量が原料穀粉1g当たり3.0×10-9~1.0×10Uであり、ブランチングエンザイムの添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10-15~5.0×103Uである[1]に記載の方法。
[3] ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩の添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10-9~1.0×10-3gであり、α-グルコシダーゼの添加量が原料穀粉1g当たり3.0×10-7~1.0×10-1Uであり、ブランチングエンザイムの添加量が原料穀粉1g当たり1.0×10-9~5.0×10Uである[1]に記載の方法。
[4] (1)ポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩、(2)α-グルコシダーゼ及び(3)ブランチングエンザイムを含有するベーカリー食品改質用の酵素製剤。
[5] α-グルコシダーゼの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり3.0×10-7~1.0×1011Uであり、ブランチングエンザイムの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり1.0×10-13~5.0×1013Uである[4]に記載の酵素製剤。
[6] α-グルコシダーゼの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり3.0×10-4~1.0×108Uであり、ブランチングエンザイムの含有量がポリグルタミン酸又はポリグルタミン酸塩1g当たり1.0×10-6~5.0×1010Uである[4]に記載の酵素製剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保水性、食感(ソフトな食感、口溶けの良さ等)が向上したベーカリー食品を製造することができる。本発明により製造されたベーカリー食品は、冷凍保存又は常温保存後においても、良好な保水性、食感(ソフトな食感、口溶けの良さ等)を維持し得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書における「ベーカリー食品」とは、主に小麦粉等の穀粉ベースの生地をオーブン等により焼成することにより製造される食品をいう。穀粉以外に卵、砂糖、油脂等を含有してもよい。本明細書における「ベーカリー食品」には、例えば、ケーキ類、クッキー類等の焼き菓子、パン類等が含まれるが、これらに限定されない。ケーキ類としては、スポンジケーキ、カステラ、シフォンケーキ、バターケーキ、パウンドケーキ、マドレーヌ、フィナンシェ、マフィン、バウムクーヘン、ホットケーキ、パンケーキ、チーズケーキ、タルト、チョコレートケーキ、ワッフル、ドーナツ、どら焼き、饅頭、げっぺい等が挙げられる。クッキー類としては、クッキー、ビスケット、サブレ等が挙げられる。パン類としては、食パン、ロールパン、フランスパン、クロワッサン等が挙げられる。本発明のベーカリー食品は、好ましくは、ケーキ類、クッキー類等の焼き菓子であり、特に好ましくは、ケーキ類である。また、これらの冷凍品も含まれる。
【0009】
本発明に用いられるγ-PGAはL-グルタミン酸及び/又はD-グルタミン酸がγ結合により高分子化したグルタミン酸ポリマーである。
【0010】
本発明に用いられるγ-PGAは、ポリマー中の1又は数個のグルタミン酸を他のアミノ酸に置換、転換したものでも、本発明の効果を有する限り本発明におけるγ-PGAに含まれるものとする。また、本発明にて使用するγ-PGAはいかなる分子量のものでもよく、高分子のものを分解して低分子化したものでもよいが、分子量が1500~20000000のものが好ましく、5000~3000000のものがより好ましく、10000~1200000のものがさらに好ましい。
【0011】
本発明ではγ-PGA又はポリグルタミン酸塩を使用するが、本発明にて使用するポリグルタミン酸塩は、γ-PGAの可食性塩である。塩の種類についてはいかなる塩でもよいが、食品への利用を考えた場合、カリウム塩もしくはナトリウム塩が特に好ましい。
【0012】
本発明に使用できるγ-PGA又はポリグルタミン酸塩は、各種微生物から発酵生産物として得られるもの、合成法により重合化して得られるもの、納豆から抽出して得られるもの等のいずれを用いてもよく、場合によっては必要とする分子量のものを得るために、これらの方法により得られたものを、酸性下で加熱、或いは酵素分解等により低分子化して用いてもよい。「カルテイク」(登録商標)という商品名で味の素株式会社より市販されている微生物由来のγ-PGAが一例である。なお、デキストリン等で倍散されている市販のものも多く見られるが、γ-PGAを含有していれば他の物質や製剤との混合物であってもよい。
【0013】
本発明に用いられるα-グルコシダーゼ(EC3.2.1.20)は、非還元末端α-1,4-グルコシド結合を加水分解し、α-グルコースを生成する酵素である。α-グルコシダーゼのうち、トランスグルコシダーゼが好ましい。「トランスグルコシダーゼL「アマノ」」、「α-グルコシダーゼ「アマノ」」という商品名で天野エンザイム株式会社より市販されている酵素が、α-グルコシダーゼの例である。
【0014】
本発明に用いられるブランチングエンザイム(EC2.4.1.18)は、1,4-α-D-グルカン鎖の一部を受容体1,4-α-D-グルカンの6-OH基に転移させ、アミロペクチンまたはグリコーゲンのようなα-1,6結合の枝分かれ構造を生成する酵素である。長瀬産業株式会社で製造している食品用酵素「ブランチングエンザイム」、「ブランチングエンザイムA」がブランチングエンザイムの例である。
【0015】
(1)γ-PGA又はポリグルタミン酸塩、(2)α-グルコシダーゼ及び(3)ブランチングエンザイムを原料に添加する場合、製造工程のどの段階で添加してもよい。原料穀粉に添加してもよく、原料穀粉と他の原料の混合時に添加してもよく、他の原料に添加した後に原料穀粉と混合してもよい。添加する順序は特に限定されず、いずれか1種もしくは2種を添加した後、残りを添加してもよく、又は3種を同時に添加してもよい。3種を同時に添加するのが好ましい。さらに、通常食品に用いられる原料を併用してもよい。
【0016】
本発明に用いられる原料は、主原料である穀粉の他に、卵、砂糖、油脂等を含有してもよい。原料穀粉とは、ベーカリー食品の原料となる穀物を挽いて得られる粉を意味し、例えば、小麦粉、大麦粉、ライ麦粉、米粉、コーン粉、大豆粉等が挙げられる。小麦粉としては、薄力粉、中力粉、強力粉等が挙げられる。また、米粉等の小麦粉以外の穀粉と小麦粉を混合して使用してもよい。
【0017】
本発明において、γ-PGA又はポリグルタミン酸塩の添加量は、通常、原料穀粉1gに対して1.0×10-10~1.0×10-2gでよく、好ましくは1.0×10-9~1.0×10-3g、より好ましくは1.0×10-8~1.0×10-4g、さらに好ましくは1.0×10-7~1.0×10-5gである。
【0018】
本発明において、α-グルコシダーゼの添加量は、原料穀粉1gに対して酵素活性が3.0×10-9U以上であればよく、好ましくは3.0×10-9~1.0×10U、より好ましくは3.0×10-7~1.0×10-1U、さらに好ましくは3.0×10-6~1.0×10-2U、特に好ましくは3.0×10-4~1.0×10-3Uである。さらに、α-グルコシダーゼの添加量がγ-PGA又はポリグルタミン酸塩1g当たり3.0×10-7~1.0×1011U、好ましくは3.0×10-4~1.0×108U、より好ましくは3.0×10-1~1.0×105Uとなるように添加するのが望ましい。なお、α-グルコシダーゼの酵素活性については1mM α-メチル-D-グルコシド1mLに0.02M酢酸バッファー(pH5.0)1mLを加え、酵素溶液0.5mLを添加して、40℃で60分間作用させたときに、反応液2.5mL中に1μgのブドウ糖を生成する酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0019】
本発明において、ブランチングエンザイムの添加量は、原料穀粉1gに対して酵素活性が1.0×10-15U以上であればよく、好ましくは1.0×10-15~5.0×103U、より好ましくは1.0×10-9~5.0×10U、さらに好ましくは1.0×10-5~5.0×10-1U、特に好ましくは1.0×10-2~5.0×10-2Uである。さらに、ブランチングエンザイムの添加量がγ-PGA又はポリグルタミン酸塩1g当たり1.0×10-13~5.0×1013U、好ましくは1.0×10-6~5.0×1010U、より好ましくは1.0×103~5.0×105Uとなるように添加するのが望ましい。ブランチングエンザイムの酵素活性については、以下のように定義した。0.08Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた0.1%アミロースB(ナカライテスク)50μLに0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた酵素溶液50μLを加え、50℃、30分間反応後にヨウ素試薬(0.26g I2と0.26g KIを10mLミリQ水にて溶解した液0.5mLと1N HCl 0.5mLを混ぜ、130mLに希釈した液)2mLを添加し、660nm吸光度を測定。本反応系で反応1分間に660nm吸光度を1%低下させる酵素量を1U(ユニット)と定義した。
【0020】
γ-PGA又はポリグルタミン酸塩と共に各酵素を反応させる時間は、酵素が基質物質に作用することが可能な時間であれば特に限定されないが、現実的な作用時間としては5分~24時間が好ましい。また、反応温度に関しても酵素が活性を保つ範囲であれば特に限定されないが、現実的な温度としては0~80℃で作用させることが好ましい。すなわち、これらの酵素を通常の調理加工工程で用いることで十分な反応時間が得られる。
【0021】
本発明のベーカリー食品改質用の酵素製剤は、(1)γ-PGA又はポリグルタミン酸塩、(2)α-グルコシダーゼ及び(3)ブランチングエンザイムを混合することにより得ることができる。γ-PGA、ポリグルタミン酸塩、α-グルコシダーゼ、ブランチングエンザイムの他、デキストリン、澱粉、加工澱粉等の賦形剤、畜肉エキス等の調味料、植物蛋白、グルテン、卵白、ゼラチン、カゼイン等の蛋白質、蛋白加水分解物、蛋白部分分解物、乳化剤、クエン酸塩、重合リン酸塩等のキレート剤、グルタチオン、システイン等の還元剤、アルギン酸、かんすい、色素、酸味料、香料等その他の食品添加物等を混合してもよい。本発明の酵素製剤は液体状、ペースト状、顆粒状、粉末状のいずれの形態でもよい。
【0022】
酵素製剤中のα-グルコシダーゼの含有量は、酵素製剤中のγ-PGA又はポリグルタミン酸塩1g当たり3.0×10-7~1.0×1011U、好ましくは3.0×10-4~1.0×108U、より好ましくは3.0×10-1~1.0×105Uである。酵素製剤中のブランチングエンザイムの含有量は、酵素製剤中のγ-PGA又はポリグルタミン酸塩1g当たり1.0×10-13~5.0×1013U、好ましくは1.0×10-6~5.0×1010U、より好ましくは1.0×103~5.0×105Uである。
【0023】
本発明のベーカリー食品改質用の酵素製剤を用いることにより、冷凍保存又は常温保存後のベーカリー食品の保水性及び食感(ソフトな食感、口溶けの良さ等)を良好に改質することができる。本発明の酵素製剤は、製菓用改質剤として有用であり、特にケーキ類、クッキー類等の焼き菓子改質用の酵素製剤として有用である。本発明の酵素製剤は、ベーカリー食品に冷凍解凍耐性を付与するための酵素製剤として有用である。
【0024】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。%は特にことわりのない限り重量%を示す。
【実施例】
【0025】
実施例1 スポンジケーキの製造
表1に記載の配合を基本配合とし、これに表3に記載の配合の酵素製剤を添加して、スポンジケーキを製造した。詳細には、全卵、砂糖、液糖、乳化剤(気泡剤)及び酵素製剤の混合物を45℃に加温し、スタンドミキサー(「キッチンエイド」、株式会社エフ・エム・アイ)にてワイヤーホイップを使用し8速で5分間撹拌した。1速で撹拌しながら植物油脂を添加し、さらに20秒間撹拌した。平面ビーターを使用し1速で撹拌しながら薄力粉を添加し、さらに40秒間撹拌した。得られた生地280gをケーキ型に充填し、オーブンで170℃、36分間焼成した。得られたスポンジケーキをケーキ型から取り出し、放冷後、-18℃で30日間冷凍保存した。これを20℃で解凍し、専門パネラーによる官能試験を行った。評価項目及び評価基準を表2に示す。評価結果を表3に示す。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
AG:α-グルコシダーゼ(α-グルコシダーゼ「アマノ」/天野エンザイム株式会社)
BE:ブランチングエンザイム(ブランチングエンザイムA/長瀬産業株式会社)
γ-PGA:ポリグルタミン酸(平均分子量1050000のグルタミン酸ポリマー)
【0030】
AG及びBEの添加により、解凍後の保水性は顕著に優れているが、食感(ソフトな食感、口溶けの良さ)は、若干向上するか、又は若干低下した(比較例1及び2)。γ-PGAの添加により、解凍後の保水性は若干向上するが、食感は悪化した。すなわち、ソフトな食感がなく、口溶けが悪い(比較例3及び4)。これに対して、γ-PGA、AG及びBEの添加により、解凍後の保水性と食感(ソフトな食感、口溶けの良さ)の両方が顕著に優れている(試験区1~3)。本発明の酵素製剤の添加により、解凍後の保水性及び食感が非常に優れ、冷凍解凍耐性が付与されることが明らかとなった。
【0031】
実施例2 マドレーヌの製造
表4に記載の配合を基本配合とし、これに表6に記載の配合の酵素製剤を添加して、マドレーヌを製造した。詳細には、全卵を湯煎で約30℃に温め、酵素製剤及び砂糖を添加し、スタンドミキサー(「キッチンエイド」、株式会社エフ・エム・アイ)にて、1速で1分間、2速で30秒間撹拌した。1速で撹拌しながら、合わせてふるっておいた薄力粉及びベーキングパウダーを添加し、さらに1分間撹拌した。湯煎で約70~75℃に温めたマーガリンを1速で撹拌しながら添加し、さらに1分間撹拌した。製菓用オイルスプレーを噴霧したマドレーヌ型(シェル型)に、得られた生地を1個当たり約22g充填し、オーブンで180℃、20分間焼成した。得られたマドレーヌを常温で10日及び50日保存後、専門パネラーによる官能試験を行った。評価項目及び評価基準を表5に示す。評価結果を表6に示す。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
AG:α-グルコシダーゼ(α-グルコシダーゼ「アマノ」/天野エンザイム株式会社)
BE:ブランチングエンザイム(ブランチングエンザイムA/長瀬産業株式会社)
γ-PGA:ポリグルタミン酸(平均分子量1050000のグルタミン酸ポリマー)
【0037】
AG及びBEの添加により、常温保存後の保水性と食感(ソフトな食感、口溶けの良さ)は若干向上した(比較例5)。これに対して、γ-PGA、AG及びBEの添加により、常温保存後の保水性と食感(ソフトな食感、口溶けの良さ)の両方が顕著に優れている(試験区4)。本発明の酵素製剤の添加により、常温保存後の保水性が向上し、食感も非常に優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、冷凍保存又は常温保存後においても、良好な保水性、食感を維持し得るベーカリー食品を製造することが可能となるため、食品製造業において極めて有用である。