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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20240509BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20240509BHJP
   H02K 9/16 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H02K1/18 Z
H02K5/20
H02K9/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020003501
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021112063
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 武史
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】脇田 哲夫
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-091538(JP,U)
【文献】特開2007-043842(JP,A)
【文献】特開2009-118680(JP,A)
【文献】特開2006-087222(JP,A)
【文献】特開2009-095184(JP,A)
【文献】特開平09-201007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 5/20
H02K 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータに対して径方向の外側に配置されたステータコアと、
前記ステータコアの外周面に対向する内周面を備えたケースと、
前記ケースと別体であって前記ケースの外周面を覆うように配置された外側ケースと、を備え、
前記ステータコアの前記外周面と、前記ケースの前記内周面とが締まり嵌め状態で嵌合し、
前記ステータコアの前記外周面における周方向の少なくとも1箇所に、凹状の係止部が形成され、
前記ケースの外周面には、前記外側ケースの内周面と当接する部分と前記外側ケースの内周面から離間する部分とが形成され、
前記離間する部分である溝部に冷媒が流通する冷媒流路が形成され、
前記係止部と前記冷媒流路とが前記径方向に沿う径方向視で重複している、回転電機。
【請求項2】
前記溝部に形成された前記冷媒流路の前記周方向の両端は、前記当接する部分との境界である、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記溝部に形成された前記前記冷媒流路の前記周方向の両端は、前記径方向視で前記係止部と重複している、請求項1又は2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記ステータコアの前記外周面における前記係止部以外の部分と、前記ケースの前記内周面と、が密着している、請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記係止部は、前記ステータコアの前記外周面と前記ケースの前記内周面とが対向する領域における軸方向の全域に亘って連続するように形成されている、請求項1から4の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記係止部は、前記周方向の複数箇所に配置されている、請求項1から5の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項7】
前記係止部は、前記ステータコアの前記外周面に設けられ、前記ケースは、前記周方向において前記径方向の剛性が他の部分よりも低く、前記径方向に変形し易い対象部を備え、当該対象部と前記係止部とが前記径方向に沿う径方向視で重複している、請求項1から6の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項8】
前記溝部に形成された前記冷媒流路は、前記周方向の複数箇所に形成されている、請求項1から7の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項9】
前記溝部は、前記ステータコアに形成された凹状の前記係止部の形状に追従して前記ケースの前記外周面が前記径方向の内側にくぼんだ部分である、請求項1から8の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項10】
ステータコアと、前記ステータコアの外周面に対向する内周面を備えたケースと、前記ケースと別体であって前記ケースの外周面を覆うように配置された外側ケースと、を備えた回転電機の製造方法であって、
前記ステータコアの前記外周面における周方向の少なくとも1箇所に、凹状の係止部が形成され、前記ケースには、前記ステータコアの径方向における前記係止部の外側に冷媒流路が形成され、前記係止部と前記冷媒流路とが前記径方向に沿う径方向視で重複した状態で前記ステータコアの前記外周面と前記ケースの前記内周面とが締まり嵌め状態となるように、前記ステータコアと前記ケースとを嵌合させ、前記ケースは、外周面に前記外側ケースの内周面と当接する部分と、前記外側ケースの前記内周面から離間する部分と、を有するように形成され、前記離間する部分である溝部に冷媒が流通する前記冷媒流路が形成される、回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに対して径方向の外側に配置されたステータと、ステータの外周面の側に対向する内周面を備えたケースとを備えた回転電機及び回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-34754号公報には、インナーロータ型の回転電機を収容するケース(101)に対するステータ(11)の周方向への移動を規制するためのキー構造(キー係合部(30))を備えた回転電機(MG)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。このキー構造は、ステータ(11)の外周面から径方向外側に向けて突出したキー突起(31)と、ステータ(11)の外周面に対向するケース(101)の内周面の側に径方向外側に向けて引退するように形成されたキー溝(32)とにより構成されている。キー溝(32)とキー突起(31)とが係合することによって、ケース(101)に対するステータ(11)の周方向への移動が規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-34754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなキー構造を設ける場合、ケース及びステータの双方の加工コストが発生し、回転電機の生産コストを上昇させる可能性がある。また、キー溝とキー突起との間には、クリアランスが必要であり、このクリアランスの範囲内でケースとステータとは微小に相対回転する。そして、この相対回転によって、振動や騒音が生じる可能性がある。
【0005】
そこで、より簡単な構造によって、ケースとステータとが相対回転しないように固定する技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機は、ロータに対して径方向の外側に配置されたステータコアと、前記ステータコアの外周面に対向する内周面を備えたケースと、を備え、前記ステータコアの前記外周面と、前記ケースの前記内周面とが締まり嵌め状態で嵌合し、前記ステータコアの前記外周面と前記ケースの前記内周面との何れか一方における周方向の少なくとも1箇所に、凸状又は凹状の係止部が形成されている。
【0007】
ケースとステータコアとの径方向に対向する境界部分は、回転電機の回転軸に沿った方向に見た軸方向視で円状である。本構成によれば、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか一方に係止部が形成されており、ステータコアの外周面とケースの内周面とが締まり嵌めにより嵌合しているので、締まり嵌めの圧力によって、係止部が、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか他方に食い込んだ状態となる。これにより、円状の境界部分においてステータコアとケースとが周方向に相対移動することが抑制される。この係止部は、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか一方に形成されていれば良いので、係止部を設けることも容易である。このように本構成によれば、より簡単な構造によって、ケースとステータとが相対回転しないように固定することができる。
【0008】
また、上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機の製造方法は、ステータコアと、前記ステータコアの外周面に対向する内周面を備えたケースと、を備えた回転電機の製造方法であって、前記ステータコアの前記外周面と前記ケースの前記内周面との何れか一方における周方向の少なくとも1箇所に、凸状又は凹状の係止部が形成された状態で、前記ステータコアの前記外周面と前記ケースの前記内周面とが締まり嵌め状態となるように、前記ステータコアと前記ケースとを嵌合させる。
【0009】
この製造方法によれば、対向するステータコアの外周面とケースの内周面との何れか一方に係止部が形成されている状態で、ステータコアの外周面とケースの内周面とが締まり嵌め状態となるように嵌合させるので、締まり嵌めの圧力によって、係止部が、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか他方に食い込んだ状態となる。これにより、軸方向視でケースとステータコアとの径方向に対向する円状の境界部分においてステータコアとケースとが周方向に相対移動することが抑制される。この係止部は、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか一方に形成されていれば良いので、係止部を設けることも容易である。このように本製造方法によれば、より簡単な構造によって、ケースとステータとが相対回転しないように固定することができる。
【0010】
回転電機及び回転電機の製造方法のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】回転電機の一例を示す軸方向断面図
図2】回転電機の一例を示す径方向断面図
図3】係止部の第1例をケースとステータコアとの嵌合前の関係で示す図
図4】係止部の第1例をケースとステータコアとの嵌合後の関係で示す図
図5】係止部の第1例を、対象部を有するケースとステータコアとの嵌合後の関係で示す図
図6】係止部の第2例をケースとステータコアとの嵌合前の関係で示す図
図7】係止部の第2例をケースとステータコアとの嵌合後の関係で示す図
図8】第2例の係止部の段差とケースの熱膨張量との関係を示す図
図9】係止部の第3例をケースとステータコアとの嵌合前の関係で示す図
図10】係止部の第3例をケースとステータコアとの嵌合後の関係で示す図
図11】第3例の係止部の段差とケースの熱膨張量との関係を示す図
図12】回転電機の他の例を示す径方向断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、回転電機の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、回転電機20を備えた車両用駆動装置100の一例を示す軸方向断面図であり、図2は、回転電機20の径方向断面図である。車両用駆動装置100は、例えば、内燃機関(不図示)及び回転電機20を車輪の駆動力源とするハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される駆動装置である。以下の説明において、「筒状」、「円筒状」などと表現した場合、多少の異形部分を有していたとしてもその全体としての概略形状が筒や円筒であることを意味する。これらに限らず、形状等に関して「状」を付して用いる他の表現に関しても同様である。また、回転電機20の回転軸(ロータ軸27)に沿った方向を軸方向Lとし、径方向Rの外側(ロータ軸27とは反対側)を径方向外側R1、径方向Rの内側(ロータ軸27の方向)を径方向内側R2、ロータ21の回転方向を周方向Cとする。
【0013】
回転電機20は、ロータコア22の内部に永久磁石23を備えたロータ21と、ステータコア25にステータコイル26が巻き回されたステータ24と、ロータコア22に連結されたロータ軸27とを備えた永久磁石型回転電機である。また、ステータ24は、ロータ21に対して径方向外側R1に配置されており、回転電機20はインナーロータ型の回転電機である。ロータ軸27は、ロータコア22の径方向内側R2でロータコア22に連結され、ロータ21とロータ軸27とは一体的に回転する。尚、本実施形態においては、回転電機20は永久磁石型回転電機であるが、例えば誘導型回転電機など他の方式の回転電機であっても良い。
【0014】
回転電機20は、ステータ24と、ロータ21と、ステータ24及びロータ21を収容するケース1と、ケース1の径方向外側R1に配置されたウォータージャケット2とを備えている。ケース1を内側ケースと称し、ウォータージャケット2と外側ケースと称してもよい。図1に示すように、ステータコア25は、ロータ21に対して径方向外側R1に配置されている。ケース1は、周壁部を有したケース筒状部11を備えており、ケース筒状部11においてステータコア25の外周面であるステータコア外周面25bに対向する内周面をケース内周面11aと称する。ステータコア25は、ケース内周面11aとステータコア外周面25bとが締まり嵌めにより嵌合することによってケース1に固定される。
【0015】
図1に示すように、ケース筒状部11の外周面であるケース外周面11bには、ウォータージャケット2のジャケット筒状部12の内周面であるジャケット内周面12aに当接する部分とジャケット内周面12aから離間する部分とを有するように、溝部15が形成されている。これにより、ケース筒状部11とジャケット筒状部12との間には、軸方向Lに沿って冷媒が流通する冷媒流路16が形成される。図2に示すように、溝部15は、ケース外周面11bの周方向Cに複数形成されている。上述したように、ステータ24は、ステータコア外周面25bがケース筒状部11のケース内周面11aに当接する状態でケース1に固定されている。ステータ24とケース1とが密着するので、ケース筒状部11とジャケット筒状部12との間に形成された冷媒流路16との熱交換の効率が高くなり、ステータ24を効率的に冷却することができる。
【0016】
図2に示すように、ステータコア外周面25bには、径方向内側R2に凹んだ凹状の係止部3が複数個設けられている。但し、以下に種々の形態を例示して説明するように、係止部3は、ステータコア外周面25bとケース内周面11aとの何れか一方における周方向Cの少なくとも1箇所に、凸状又は凹状に形成されていればよい。ケース1とステータコア25との径方向Rに対向する境界部分は、図2に示すように、軸方向視で円状である。係止部3は、この境界部分に形成され、ステータコア外周面25bとケース内周面11aとが締まり嵌めにより嵌合しているので、締まり嵌めの圧力によって、係止部3が、ステータコア外周面25bとケース内周面11aとの何れか他方に食い込んだ状態となる。これにより、円状の境界部分においてステータコア25とケース1とが周方向Cに相対移動することが抑制される。
【0017】
係止部3は、周方向Cの少なくとも1箇所に形成されていればよいが、図2に示すように、周方向Cの複数箇所に設けられていると好適である。係止部3が周方向Cの複数箇所に形成されていると、周方向Cにおける複数箇所でステータコア25とケース1とが強く接触するので、ステータコア25とケース1との摩擦力が大きくなり、周方向Cの相対移動がより強く規制される。
【0018】
また、図2に示すように、本実施形態では、係止部3は、ステータコア外周面25bに設けられている。本例では、ステータコア25は、電磁鋼板を打ち抜いて形成されたコアプレートを軸方向Lに複数枚積層して形成される。このため、ステータコア25に係止部3を形成するためには、軸方向Lに積層されて係止部3となる突起部がコアプレートに形成されるように、電磁鋼板を打ち抜く金型を構成すればよい。従って、生産コストの上昇を少なく抑えつつ、ステータコア25に係止部3を設けることができる。
【0019】
また、係止部3が点状に形成されることを妨げるものではないが、係止部3は、軸方向Lに沿って伸びるように形成されていると好適である。係止部3が軸方向Lに長く形成されることで、係止部3がケース内周面11aに食い込んだ状態となる軸方向Lの領域が大きくなるため、ステータコア25とケース1との摩擦力が大きくなり、周方向Cの相対移動がより強く規制される。好ましくは、係止部3は、ステータコア外周面25bとケース内周面11aとが対向する領域における軸方向Lの全域(軸方向対向領域A(図1参照))に亘って連続するように形成されているとよい。このようにすれば、当該軸方向対向領域Aの全域において、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか一方に形成された係止部3がケース内周面11aに食い込んだ状態となる。従って、ステータコア外周面25bとケース内周面11aとの周方向Cの相対移動をより強固に規制することができる。
【0020】
以下、ステータコア外周面25bに凹状に形成された凹部31を備えた係止部3を例示する図3図5も参照して、係止部3の第1例について説明する。尚、図2に示す係止部3も凹部31を備えた係止部3である。図3は、第1例の係止部3を、ケース1とステータコア25との嵌合前の関係で示しており、図4は、第1例の係止部3をケース1とステータコア25との嵌合後の関係で示している。図5は、ケース1とステータコア25とが嵌合した後の状態において、後述する対象部5について説明する図である。
【0021】
ケース1とステータコア25とは、例えばケース1を加熱して膨張させた状態で、ケース1のケース筒状部11の中にステータコア25を収容し(第1工程#1)、この状態でケース1を冷まして収縮させることでケース1とステータコア25とを嵌合させる焼き嵌めによって固定される(第2工程#2)。第1工程#1における一状態である図3に示すように、加熱されて径方向外側R1に膨張したケース1には、ある程度のクリアランスを有してステータコア外周面25bと、ケース内周面11aとが対向している状態で、ステータコア25が収容される。
【0022】
図4は、加熱されたケース1にステータコア25が収容された状態でケース1が冷やされて収縮し、ステータコア外周面25bと、ケース内周面11aとが密着している状態(第2工程#2における一状態)を示している。この時、凹部31により形成されている係止部3においては、ステータコア外周面25bが径方向内側R2に窪んでいるため、ケース内周面11aが径方向内側R2に向かって張り出して張り出し部11pが形成される。凹部31と張り出し部11pとが係合することによって、ステータコア25とケース1との周方向Cへの相対移動が規制される。
【0023】
ところで、図1及び図2を参照して上述したように、ケース1には冷媒流路16となる溝部15が形成されている。この溝部15が形成される箇所は、ケース筒状部11の径方向Rにおける長さが、他の箇所よりも薄くなる。ここで、この溝部15が形成される箇所を対象部5と称し、他の箇所を非対象部6と称する。対象部5における径方向Rの剛性は、非対象部6における径方向Rの剛性に比べて弱い。従って、非対象部6に比べて対象部5は、径方向Rに沿って変形し易い。係止部3が、ステータコア外周面25bに設けられ、ケース1が、周方向Cにおいて径方向Rの強度が他の部分(非対象部6)よりも弱い対象部5を備えている場合、図2及び図5に示すように、対象部5と係止部3とが径方向Rに沿う径方向視で重複していると、上述したような張り出し部11pが形成し易い。これは、後述する第2例、第3例における窪み部11d(図7図10参照)についても同様である。
【0024】
係止部3がステータコア外周面25bに設けられ、上述したように焼き嵌めなどの締まり嵌めによってケース1とステータコア25とが嵌合される際には、ケース1の側が係止部3に応じて変形することになる。径方向Rにおける剛性が非対象部6よりも低い対象部5を設けることによって、係止部3に応じて適切にケース1が変形し、上述した張り出し部11p(図4図5参照)や、後述する窪み部11d(図7図10参照)が適切に形成される。従って、ステータコア25とケース1との周方向Cへの相対移動をより強固に規制することができる。
【0025】
尚、図2には、複数箇所に形成された係止部3の全てが対象部5に相当する溝部15と径方向視で重複する形態を例示している。しかし、係止部3が複数箇所に形成される場合であっても、一部の係止部3のみが対象部5と径方向視で重複する形態であってよい。また、図2に示すように、対象部5となる溝部15は、当然ながら係止部3と径方向視で重複しない箇所にも形成されていてよい。また、本実施形態では、冷媒流路16を形成するための溝部15が対象部5となる形態を例示したが、冷媒流路16などの他の用途に用いられることなく、単に径方向Rの剛性が低い箇所として対象部5が形成されてもよい。また、当然ながら、径方向Rの剛性が低い対象部5が形成されることなく、周方向Cの全体が非対象部6であることを妨げるものではない。
【0026】
以下、係止部3の第2例として、凹部31と凹部31からの突出部32とを備える形態を例示する図6図8も参照して説明する。図6は、第2例の係止部3を、ケース1とステータコア25との嵌合前の関係で示しており、図7は、第2例の係止部3をケース1とステータコア25との嵌合後の関係で示している。図8は、突出部32とケース1とのクリアランスについて説明する図である。
【0027】
第2例の係止部3は、ステータコア外周面25bに凹状に形成された凹部31と、周方向Cにおける凹部31の中央部から径方向外側R1に突出する突出部32とを備えて形成されている。即ち、第2例の係止部3は、周方向Cに沿って、第1凹部31aと、第2凹部31bと、これら2つの凹部31に挟まれた突出部32とを備えている。ここで、図8に示すように、ステータコア外周面25bにおいて係止部3以外の部分を一般部4と称する。突出部32は、一般部4におけるステータコア外周面25bよりも径方向外側R1に突出するように形成されている。また、一般部4と突出部32との径方向Rにおける長さの差を段差Dと称する。
【0028】
第1例と同様に、ケース1とステータコア25とは、例えばケース1を加熱して膨張させた状態で、ケース1のケース筒状部11の中にステータコア25を収容し(第1工程#1)、この状態でケース1を冷まして収縮させることでケース1とステータコア25とを嵌合させる焼き嵌めによって固定される(第2工程#2)。図6に示すように、加熱されて径方向外側R1に膨張したケース1には、ある程度のクリアランスを有してステータコア外周面25bと、ケース内周面11aとが対向している状態で、ステータコア25が収容される(第1工程#1)。図8に示すように、係止部3と係止部3以外の一般部4との径方向Rの段差Dは、ステータコア25とケース1とを焼き嵌めにより嵌合させる際におけるケース内周面11aの径方向外側R1への膨張量B以下に設定されている。このため、突出部32が、一般部4におけるステータコア外周面25bよりも径方向外側R1に突出するように形成されていても、加熱されて径方向外側R1に膨張したケース1にステータコア25を収容することができる。
【0029】
膨張したケース1にステータコア25が収容された状態でケース1が冷やされて収縮すると、一般部4のステータコア外周面25bとケース内周面11aとが密着する。この際、係止部3では、一般部4のステータコア外周面25bよりも径方向外側R1に突出している突出部32によってケース1が径方向内側R2へ収縮することが妨げられる。このため、突出部32に対応する箇所では、ケース内周面11aが径方向外側R1に窪んで窪み部11dが形成される。すなわち、突出部32がケース内周面11aに食い込んだ状態となる(第2工程#2)。このように突出部32と窪み部11dとが係合することによって、ステータコア25とケース1との周方向Cへの相対移動が規制される。
【0030】
尚、第1例と同様に、第1凹部31a及び第2凹部31bにおいては、ステータコア外周面25bが径方向内側R2に窪んでいるため、ケース内周面11aが径方向内側R2に向かって張り出して、第1例のように張り出し部11pが形成される場合がある。この場合、張り出し部11pと第1凹部31a、及び、張り出し部11pと第2凹部31bとが係合することによっても、ステータコア25とケース1との周方向Cへの相対移動が規制される。例えば、第1凹部31a及び第2凹部31bの周方向Cの長さを長くすれば、張り出し量が大きくなり、張り出し部11pが形成され易くなる。
【0031】
以下、係止部3の第3例として凸部33を備える形態を例示する図9図11も参照して説明する。図9は、第3例の係止部3を、ケース1とステータコア25との嵌合前の関係で示しており、図10は、第2例の係止部3をケース1とステータコア25との嵌合後の関係で示している。図11は、凸部33とケース1とのクリアランスについて説明する図である。
【0032】
第3例の係止部3は、ステータコア外周面25bに、ステータコア外周面25bから径方向外側R1に突出するように形成されている。つまり、第3例の係止部3は、ステータコア外周面25bに凸状に形成された凸部33を備えて形成されている。第3例においても、第2例と同様に、ステータコア外周面25bにおいて係止部3以外の部分を一般部4と称する(図11参照)。凸部33は、一般部4におけるステータコア外周面25bよりも径方向外側R1に突出するように形成されている。
【0033】
第1例及び第2例と同様に、ケース1とステータコア25とは、例えばケース1を加熱して膨張させた状態で、ケース1のケース筒状部11の中にステータコア25を収容し(第1工程#1)、この状態でケース1を冷まして収縮させることでケース1とステータコア25とを嵌合させる焼き嵌めによって固定される(第2工程#2)。図9に示すように、加熱されて径方向外側R1に膨張したケース1には、ある程度のクリアランスを有してステータコア外周面25bと、ケース内周面11aとが対向している状態で、ステータコア25が収容される(第1工程#1)。図11に示すように、係止部3(凸部33)と係止部3以外の一般部4との径方向Rの段差Dは、ステータコア25とケース1とを焼き嵌めにより嵌合させる際におけるケース内周面11aの径方向外側R1への膨張量B以下に設定されている。このため、凸部33が、一般部4におけるステータコア外周面25bよりも径方向外側R1に突出するように形成されていても、加熱されて径方向外側R1に膨張したケース1にステータコア25を収容することができる。
【0034】
膨張したケース1にステータコア25が収容された状態でケース1が冷やされて収縮すると、一般部4のステータコア外周面25bとケース内周面11aとが密着する。この際、係止部3においては、一般部4のステータコア外周面25bよりも径方向外側R1に突出している凸部33によってケース1が径方向内側R2へ収縮することが妨げられる。これにより、凸部33に対応する箇所では、ケース内周面11aが径方向外側R1に窪んで窪み部11dが形成される。すなわち、凸部33がケース内周面11aに食い込んだ状態となる(第2工程#2)。このように凸部33と窪み部11dとが係合することによって、ステータコア25とケース1との周方向Cへの相対移動が規制される。
【0035】
以上、第1例、第2例、第3例においては、ステータコア25に係止部3を設ける形態を例示して説明した。しかし、図示等は省略するが、係止部3はケース1の側に設けられていてもよい。即ち、係止部3は、ケース内周面11aに形成されていてもよい。この場合において、係止部3は、ケース内周面11aから径方向内側R2に突出する凸状部を有するように形成されていても良いし、ケース内周面11aから径方向外側R1に窪む凹状部を有するように形成されていても良いし、凸状部と凹状部との双方を有するように形成されていても良い。
【0036】
また、周方向Cに複数の係止部3が設けられる場合、係止部3は、図2に例示したように同一の間隔で配置される形態に限定されず、不均等に配置されてもよい。係止部3が周方向Cの複数箇所に均等に配置されている場合には、ロータ21の回転と共振して、可聴ノイズを発生させる可能性がある。複数の係止部3を不均等に配置することによって、そのような共振が発生する可能性を低減することができる。従って、図12に例示するように、周方向Cの配置間隔Pが不均等となるように、周方向Cに複数の係止部3が配置されていてもよい。
【0037】
以上説明したように、上述した形態によれば、より簡単な構造によって、ケースとステータとが相対回転しないように固定する技術を提供することができる。
【0038】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した回転電機(20)の概要について簡単に説明する。
【0039】
1つの態様として、回転電機(20)は、ロータ(21)に対して径方向(R)の外側(R1)に配置されたステータコア(25)と、前記ステータコア(25)の外周面(25b)に対向する内周面(11a)を備えたケース(1)と、を備え、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)と、前記ケース(1)の前記内周面(11a)とが締まり嵌め状態で嵌合し、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)と前記ケース(1)の前記内周面(11a)との何れか一方における周方向(C)の少なくとも1箇所に、凸状又は凹状の係止部(3)が形成されている。
【0040】
ケース(1)とステータコア(25)との径方向(R)に対向する境界部分は、回転電機(20)の回転軸に沿った方向に見た軸方向視で円状である。本構成によれば、ステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)との何れか一方に係止部(3)が形成されており、ステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)とが締まり嵌めにより嵌合しているので、締まり嵌めの圧力によって、係止部(3)が、ステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)との何れか他方に食い込んだ状態となる。これにより、円状の境界部分においてステータコア(15)とケース(1)とが周方向(C)に相対移動することが抑制される。この係止部(3)は、ステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)との何れか一方に形成されていれば良いので、係止部を設けることも容易である。このように本構成によれば、より簡単な構造によって、ケース(1)とステータ(24)とが相対回転しないように固定することができる。
【0041】
また、前記係止部(3)は、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)に設けられていると好適である。
【0042】
ステータコア(25)は、打ち抜かれた鋼板を軸方向(L)に積層して形成されることが多い。この場合、ステータコア(25)に係止部(3)を形成するためには、軸方向(L)に積層されて係止部(3)となる突起部が打ち抜かれた鋼板に形成されるように、電磁鋼板を打ち抜く金型を構成すればよい。従って、生産コストの上昇を少なく抑えつつ、係止部(3)を設けることができる。
【0043】
また、前記係止部(3)は、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)と前記ケース(1)の前記内周面(11a)とが対向する領域における軸方向(L)の全域(A)に亘って連続するように形成されていると好適である。
【0044】
この構成によれば、ステータコア(25)とケース(1)とが対向する領域(A)の軸方向(L)の全域において、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか一方に形成された係止部が、ステータコアの外周面とケースの内周面との何れか他方に食い込んだ状態となる。従って、ステータコア(25)とケース(1)との周方向の相対移動をより強固に規制することができる。
【0045】
また、前記係止部(3)は、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)に、当該外周面(25b)から前記径方向(R)の外側(R1)に突出するように形成され、前記係止部(3)と前記係止部(3)以外の一般部(4)との前記径方向(R)の段差(D)は、前記ステータコア(25)と前記ケース(1)とを焼き嵌めにより嵌合させる際における前記ケース(1)の前記内周面(11a)の前記径方向(R)の外側(R1)への膨張量(B)以下に設定されていると好適である。
【0046】
この構成によれば、焼き嵌めの際に加熱されて膨張したケース(1)の内径の中に収まるように、ステータコア(25)の外周面(25b)の係止部(3)が設けられているので、焼き嵌めの際に容易にケース(1)の内側にステータコア(25)を嵌合させることができる。また、ケース(1)の温度が下がってケース(1)が収縮すると、ケース(1)の内周面(11a)と係止部(3)とが当接するので、適切にステータコア(25)とケース(1)との相対移動を規制することができる。
【0047】
また、前記係止部(3)は、前記周方向(C)の複数箇所に配置されていると好適である。
【0048】
係止部(3)が周方向(C)の複数箇所に形成されていると、ステータコア(25)とケース(1)との相対移動をより強固に規制することができる。
【0049】
また、前記係止部(3)が、前記周方向(C)の複数箇所に配置されている場合、前記係止部(3)は、前記周方向(C)の配置間隔(P)が不均等となるように配置されていると好適である。
【0050】
係止部(3)の周方向(C)の配置間隔(P)が均等である場合には、ステータコア及びケースが特定の共振周波数で共振し易い形状となるため、ロータ(21)の回転による振動によって共振が生じる可能性がある。しかし、複数の係止部(3)を不均等に配置することによって、ステータコア及びケースが特定の共振周波数で共振し難くすることができるため、そのような共振が発生する可能性を低減することができる。
【0051】
また、前記係止部(3)は、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)に設けられ、前記ケース(1)は、周方向(C)において前記径方向(C)の強度が他の部分(6)よりも弱い対象部(5)を備え、当該対象部(5)と前記係止部(3)とが前記径方向(R)に沿う径方向視で重複していると好適である。
【0052】
係止部(3)がステータコア(25)の外周面(25b)に設けられている場合、締まり嵌めの圧力によってケース(1)の側が係止部(3)に応じて変形することで、係止部がケースの内周面に食い込んだ状態となる。本構成のように、ケース(1)に対象部(5)を設けることによって、係止部(3)に応じて適切にケース(1)を変形させ易くすることができるため、ステータコア(25)とケース(1)との周方向(C)への相対移動をより強固に規制することができる。
【0053】
また、1つの態様として、回転電機の製造方法は、ステータコア(25)と、前記ステータコア(25)の外周面(25b)に対向する内周面(11a)を備えたケース(1)と、を備えた回転電機の製造方法であって、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)と前記ケース(1)の前記内周面(11a)との何れか一方における周方向(C)の少なくとも1箇所に、凸状又は凹状の係止部(3)が形成された状態で、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)と前記ケース(1)の前記内周面(11a)とが締まり嵌め状態となるように、前記ステータコア(25)と前記ケース(1)とを嵌合させる。
【0054】
この製造方法によれば、対向するステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)との何れか一方に係止部(3)が形成されている状態で、ステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)とが締まり嵌め状態となるように嵌合させるので、締まり嵌めの圧力によって、係止部(3)が、ステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)との何れか他方に食い込んだ状態となる。これにより、軸方向視でケース(1)とステータコア(25)との径方向(R)に対向する円状の境界部分においてステータコア(25)とケース(1)とが周方向(C)に相対移動することが抑制される。この係止部(3)は、ステータコア(25)の外周面(25b)とケース(1)の内周面(11a)との何れか一方に形成されていれば良いので、係止部(3)を設けることも容易である。このように本製造方法によれば、より簡単な構造によって、ケース(1)とステータ(24)とが相対回転しないように固定することができる。
【0055】
また、回転電機の製造方法は、前記係止部(3)が、前記ステータコア(25)の前記外周面(25b)に、当該外周面(25b)から前記径方向(R)の外側(R1)に突出するように形成されており、前記ケース(1)の前記内周面(11a)の前記径方向(R)の外側(R1)への膨張量(B)が、前記係止部(3)と前記係止部(3)以外の一般部(4)との前記径方向(R)の段差(D)よりも大きくなるように、前記ケース(1)を加熱した状態で、前記ステータコア(25)と前記ケース(1)とを焼き嵌めにより嵌合させると好適である。
【0056】
この製造方法によれば、外周面(25b)に係止部(3)が形成されたステータコア(25)を、加熱により膨張したケース(1)の内径の中に収めることができる(#1)。その後、ケース(1)が冷えることによって、ケース(1)が収縮すると、ケース(1)の内周面(11a)と係止部(3)とが当接し、その圧力によって、係止部(3)が、ケース(1)の内周面(11a)に食い込んだ状態となる。即ち、本製造方法によれば、焼き嵌めにより、ケース(1)とステータ(24)とが相対回転しないように固定することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 :ケース
3 :係止部
4 :一般部
5 :対象部
11a :ケース内周面(ケースの内周面)
20 :回転電機
21 :ロータ
25 :ステータコア
25b :ステータコア外周面(ステータコアの外周面)
A :軸方向対向領域(ステータコアの外周面とケースの内周面とが対向する領域における軸方向の全域)
B :膨張量
C :周方向
D :段差
L :軸方向
P :配置間隔
R :径方向
R1 :径方向外側(径方向の外側)
R2 :径方向内側(径方向の内側)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12