(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】トリフェニルメタン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/78 20060101AFI20240509BHJP
C07C 211/50 20060101ALI20240509BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20240509BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
C07C209/78
C07C211/50
B01J31/02 103Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020012844
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 真宏
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292816(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167359(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/089288(WO,A1)
【文献】特表2005-533341(JP,A)
【文献】特開平05-229993(JP,A)
【文献】国際公開第2019/089228(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/075149(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/075222(WO,A1)
【文献】特開昭59-159166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物と、下記一般式(II)で表される化合物とを、前記一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.5モル当量以下の酸の存在下で反応させ、下記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を合成する合成工程を含
み、
前記酸は、25℃の水における酸解離定数(pKa)が、-3.0以上-2.0以下である、トリフェニルメタン化合物の製造方法。
(前記一般式(I)及び前記一般式(III)中、R
10及びR
11は、それぞれ独立に、アルキル基又はアラルキル基を表す。R
10及びR
11は、互いに連結して環を形成していてもよい。nは0又は1を表す。R
12は、アルデヒド基又は-CH(OR
X)
2を表し、前記R
Xはアルキル基を表す。
前記一般式(II)及び前記一般式(III)中、R
20、R
21及びR
23は、それぞれ独立に、アルキル基、ω-ヒドロキシアルキル基又はアラルキル基を表す。R
20及びR
21は、互いに連結して環を形成していてもよい。)
【化1】
【請求項2】
前記酸が、トルエンスルホン酸、及びベンゼンスルホン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【請求項3】
前記酸が、トルエンスルホン酸を含む、請求項1に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記合成工程の後に、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む粗生成物を、10℃以上30℃未満の良溶媒に溶解させた後、10℃以上50℃未満で前記良溶媒を静置することで、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む結晶物を得る、晶析工程をさらに含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【請求項5】
前記良溶媒が、脂肪族アルコールを含む、請求項4に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(I)及び前記一般式(III)中、R
10及びR
11はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、nは1を表す、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【請求項7】
前記一般式(II)及び前記一般式(III)中、R
20、R
21及びR
23はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表す、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【請求項8】
前記一般式(I)及び前記一般式(III)中、R
10及びR
11はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、nは1を表し、
前記一般式(II)及び前記一般式(III)中、R
20、R
21及びR
23はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、
前記酸の量が、前記一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.2モル当量以下である、
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリフェニルメタン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トリフェニルメタン化合物を良溶媒に溶かし再沈殿で精製する手法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、アリールアセタールを用いたトリフェニルメタン化合物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9529286号明細書
【文献】米国特許第8080351号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、下記一般式(I)で表される化合物と、下記一般式(II)で表される化合物とを、前記一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して0.2モル当量未満の酸の存在下で反応させ、下記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を合成する合成工程を含む、トリフェニルメタン化合物の製造方法が知られている。この従来のトリフェニルメタン化合物の製造方法では、得られる前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物の収率が低かった。
そこで、本発明では、前記アミノ基の総モル数に対して0.2モル当量未満の酸の存在下で反応させる場合に比べて、高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造する製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0007】
[1] 下記一般式(I)で表される化合物と、下記一般式(II)で表される化合物とを、前記一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.5モル当量以下の酸の存在下で反応させ、下記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を合成する合成工程を含む、トリフェニルメタン化合物の製造方法。
(前記一般式(I)及び前記一般式(III)中、R
10及びR
11は、それぞれ独立に、アルキル基又はアラルキル基を表す。R
10及びR
11は、互いに連結して環を形成していてもよい。nは0又は1を表す。R
12は、アルデヒド基又は-CH(OR
X)
2を表し、前記R
Xはアルキル基を表す。
前記一般式(II)及び前記一般式(III)中、R
20、R
21及びR
23は、それぞれ独立に、アルキル基、ω-ヒドロキシアルキル基又はアラルキル基を表す。R
20及びR
21は、互いに連結して環を形成していてもよい。)
【化1】
[2] 前記酸は、25℃の水における酸解離定数(pKa)が、-1.0未満である、[1]に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
[3] 前記酸は、25℃の水における酸解離定数(pKa)が、-3.0以上-2.0以下である、[2]に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
[4] 前記合成工程の後に、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む粗生成物を、10℃以上30℃未満の良溶媒に溶解させた後、10℃以上50℃未満で前記良溶媒を静置することで、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む結晶物を得る、晶析工程をさらに含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
[5] 前記良溶媒が、脂肪族アルコールを含む、[4]に記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
[6] 前記一般式(I)及び前記一般式(III)中、R
10及びR
11はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、nは1を表す、[1]~[5]のいずれか1つに記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
[7] 前記一般式(II)及び前記一般式(III)中、R
20、R
21及びR
23はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表す、[1]~[6]のいずれか1つに記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
[8] 前記一般式(I)及び前記一般式(III)中、R
10及びR
11はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、nは1を表し、
前記一般式(II)及び前記一般式(III)中、R
20、R
21及びR
23はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、
前記酸の量が、前記一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.2モル当量以下である、
[1]~[7]のいずれか1つに記載のトリフェニルメタン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
[1]、[6]、[7]又は[8]に係る発明によれば、前記アミノ基の総モル数に対して0.2モル当量未満の酸の存在下で反応させる場合に比べて、高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造する製造方法が提供される。
【0009】
[2]に係る発明によれば、前記酸の25℃の水における酸解離定数(pKa)が、2.46以上である場合に比べて、より高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造する製造方法が提供される。
【0010】
[3]に係る発明によれば、前記酸の25℃の水における酸解離定数(pKa)が、-3.0未満又は2.5超えである場合に比べて、より高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造する製造方法が提供される。
[4]に係る発明によれば、前記合成工程の後に、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む粗生成物を良溶媒に溶解させ、前記粗生成物を含む良溶媒を貧溶媒に加え再沈殿する再沈殿法により、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む結晶物を得る晶析工程をさらに含む場合に比べて、より高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造する製造方法が提供される。
[5]に係る発明によれば、前記良溶媒が、n-ヘキサンである場合に比べて、より高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造する製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0012】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0013】
本明細書において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0014】
―トリフェニルメタン化合物の製造方法―
本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の製造方法は、下記一般式(I)で表される化合物と、下記一般式(II)で表される化合物とを、前記一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.5モル当量以下の酸の存在下で反応させ、下記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を合成する合成工程を含む。
【0015】
一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11は、それぞれ独立に、アルキル基又はアラルキル基を表す。R10及びR11は、互いに連結して環を形成していてもよい。nは0又は1を表す。R12は、アルデヒド基又は-CH(ORX)2を表し、前記RXはアルキル基を表す。
一般式(II)及び一般式(III)中、R20、R21及びR23は、それぞれ独立に、アルキル基、ω-ヒドロキシアルキル基又はアラルキル基を表す。R20及びR21は、互いに連結して環を形成していてもよい。
【0016】
【0017】
従来、一般式(I)で表される化合物と、一般式(II)で表される化合物とを、酸触媒の存在下で反応させることで、一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を製造する方法が知られている。前記従来の製造方法では、酸(H+、プロトン)が、一般式(I)で表される化合物におけるアルデヒド基の酸素原子をプロトン化する傾向にある。これにより、正電荷を帯びたアルデヒド基の炭素原子は、一般式(II)で表される化合物の芳香族環に対して求電子的に働き易い。その結果、求電子置換反応が進行し、一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物が形成されると考えられる。
【0018】
以下、一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物を合わせて単に「基質」とも称す。また、以下、一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を、単に「トリフェニルメタン化合物」とも称す。
【0019】
しかしながら、前記従来の製造方法では、最終的に得られる一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物の収率が低い傾向にあった。この要因は、本発明者らの検討の結果、以下のように推定される。
【0020】
基質を酸触媒の存在下で反応させると、酸(H+、プロトン)が、基質の窒素原子を、プロトン化することがある。酸触媒が基質の窒素原子がプロトン化に消費されると、トリフェニルメタン化合物を形成する反応に適用される酸触媒の割合が減る。その結果、トリフェニルメタン化合物を形成する反応の反応率が低下し、収率が低下すると考えられる。
【0021】
一方、本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の製造方法は、高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造することができる。この要因は必ずしも明らかではないが、以下のように推定される。
【0022】
本実施形態に係るトリフェニルメタンの製造方法は、基質に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.5モル当量以下の酸の存在下で、基質を反応させる。
前記アミノ基の総モル数に対して1モル当量以上、つまり、触媒量ではなく、化学量論量の酸の存在下で基質を反応させることにより、酸の一部がアミノ基のプロトン化に消費されても、トリフェニルメタン化合物を形成する反応に適用される酸の割合が減少することが抑制される傾向にある。他方、前記アミノ基の総モル数に対して1.5モル当量以下の酸の存在下で基質を反応させることにより、酸によりトリフェニルメタン化合物が分解する等による副生成物の副生が抑制される傾向にある。これらの結果、本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の製造方法は、高い収率でトリフェニルメタン化合物を製造することができると考えられる。
【0023】
上述の通り、従来のトリフェニルメタン化合物の合成では、酸の量を触媒量としており、化学量論量以上の酸の存在下であると、反応生成物の分解等が促進されると考えられている。一方、本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の製造方法では、合成工程において、酸を所定量の化学量論量以上で存在させることにより、基質のアミノ基のプロトン化が生じても、トリフェニルメタン化合物の収率の低下を抑制できることを新たに見出した。
【0024】
≪基質及びトリフェニルメタン化合物の構造≫
一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11は、それぞれ独立に、アルキル基又はアラルキル基を表す。R10及びR11は、互いに連結して環を形成していてもよい。nは0又は1を表す。R12は、アルデヒド基又は-CH(ORX)2を表し、RXはアルキル基を表す。
【0025】
一般式(II)及び前記一般式(III)中、R20、R21及びR23は、それぞれ独立に、アルキル基、ω-ヒドロキシアルキル基又はアラルキル基を表す。R20及びR21は、互いに連結して環を形成していてもよい。
【0026】
【0027】
一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11で表されるアルキル基としては、炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル基、炭素数3以上10以下の分岐状のアルキル基が挙げられる。
炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
炭素数3以上10以下の分岐状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基、イソヘプチル基、sec-ヘプチル基、tert-ヘプチル基、イソオクチル基、sec-オクチル基、tert-オクチル基、イソノニル基、sec-ノニル基、tert-ノニル基、イソデシル基、sec-デシル基、tert-デシル基等が挙げられる。
上記の中でも、一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ペンチル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1以上8以下の低級アルキル基であることが好ましい。
【0028】
一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11で表されるアラルキル基としては、炭素数7以上30以下のアラルキル基が挙げられる。
炭素数7以上30以下のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル 基、フェニルオクチル基、フェニルノニル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、アントラチルメチル基、フェニル-シクロペンチルメチル基等が挙げられる。
上記の中でも、一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11で表されるアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、4-フェニルブチル基等の炭素数7以上15以下のアラルキル基であることが好ましい。
【0029】
一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11は、互いに連結して環を形成していてもよい。R10及びR11が互いに連結して形成される環構造としては、炭素数2以上10以下の複素環式アミン(例えば、アジリジン基、ピロリジノ基、ピペリジノ基)などが挙げられる。
【0030】
一般式(I)及び一般式(III)中、nは0又は1を表し、nは1を表すことが好ましい。
【0031】
一般式(I)中、R12は、アルデヒド基又は-CH(ORX)2を表し、RXはアルキル基を表す。一般式(I)中、-CH(ORX)2におけるRXで表されるアルキル基としては、先述のR10及びR11におけるアルキル基で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0032】
一般式(II)及び一般式(III)中、R20、R21及びR23は、それぞれ独立に、アルキル基、ω-ヒドロキシアルキル基又はアラルキル基を表す。R20、R21及びR23におけるアルキル基及びアラルキル基の好ましい態様としては、先述のR10及びR11におけるアルキル基及びアラルキル基で例示したものが挙げられる。
【0033】
一般式(II)及び一般式(III)中、R20、R21及びR23で表されるω-ヒドロキシアルキル基におけるアルキル鎖としては、炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル鎖、炭素数3以上10以下の分岐状のアルキル鎖が挙げられる。炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル鎖及び炭素数3以上10以下の分岐状のアルキル鎖としては、先述のR10及びR11におけるアルキル基で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0034】
一般式(II)及び一般式(III)中、R20及びR21は、互いに連結して環を形成していてもよい。R20及びR21が互いに連結して形成される環の好ましい態様としては、先述のR10及びR11が互いに連結して形成される環で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0035】
本実施形態の一態様として、トリフェニルメタン化合物は、
一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、nは1を表す構造であってもよく、
一般式(I)及び一般式(III)中、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1以上5以下のアルキル基を表し、nは1を表す構造であってもよい。
【0036】
本実施形態の一態様として、トリフェニルメタン化合物は、
一般式(II)及び一般式(III)中、R20、R21及びR23はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表す構造であってもよく、
一般式(II)及び一般式(III)中、R20、R21及びR23はそれぞれ独立に炭素数1以上5以下のアルキル基を表す構造であってもよい。
【0037】
一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物は、それぞれ1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
以下、一般式(I)で表される化合物の例示化合物を示すが、本実施形態はこれに限定されない。
【0039】
【0040】
以下、一般式(II)で表される化合物の例示化合物を示すが、本実施形態はこれに限定されない。
【0041】
【0042】
以下、一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物の例示化合物を示すが、本実施形態はこれに限定されない。
【0043】
【0044】
本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の製造方法では、反応促進剤等の酸及び溶媒以外のその他の反応剤を含んでいてもよい。
反応促進剤としては、例えば、トリエトキシメタン等のオルトエステル化合物などが挙げられる。オルトエステル化合物を含む場合、一般式(I)で表される化合物中、R12をアセタール基としてより効率的に反応を進行させる観点から、R12はアルデヒド基であることが好ましい。
【0045】
≪合成工程≫
合成工程では、一般式(I)で表される化合物と、一般式(II)で表される化合物とを、一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.5モル当量以下の酸の存在下で反応させ、一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を合成する。
【0046】
酸は、無機酸、有機酸のいずれであってもよい。酸は、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。
無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
有機酸としては、例えば、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸等が挙げられる。
上記の中でも、酸としては、トリフェニルメタン化合物の収率をより向上させる観点から、塩酸、硫酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸及びメタンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含むことが好ましく、塩酸、硫酸及びトルエンスルホン酸からなる群より選択される少なくとも1種の酸を含むことがより好ましく、トルエンスルホン酸を含むことがさらに好ましい。
【0047】
酸は、トリフェニルメタン化合物の収率をより向上させる観点から、25℃の水における酸解離定数(pKa)が、-1.0未満である酸を含むことが好ましく、-3.0以上-2.0以下である酸を含むことがより好ましい。
【0048】
使用する酸において酸解離定数(pKa)が複数存在する場合、上記で規定する酸解離定数(pKa)は、第一の酸解離定数(pKa1)のことを意味する。
複数種の酸を用いる場合、上記で規定する酸解離定数(pKa)は、前記複数種の酸における、低い値を有する方の酸の第一の酸解離定数(pKa1)のことを意味する。
【0049】
酸の量は、一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して、1モル当量以上1.5モル当量以下であり、トリフェニルメタン化合物の収率をより向上させる観点から、1モル当量以上1.3モル当量以下であることが好ましく、1モル当量以上1.2モル当量以下であることがより好ましい。
【0050】
特に、一般式(III)中、R10及びR11はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表し、nは1を表し、且つ、R20、R21及びR23はそれぞれ独立に炭素数1以上8以下のアルキル基を表すトリフェニルメタン化合物を、より収率よく製造する観点からは、前記酸の量が、前記一般式(I)で表される化合物及び前記一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対して1モル当量以上1.2モル当量以下であることが好ましい。
【0051】
一般式(I)で表される化合物と、一般式(II)で表される化合物とのモル配合比(一般式(I)で表される化合物/一般式(II)で表される化合物)は、例えば、トリフェニルメタン化合物の収率をより向上させる観点から、1/3以上1/2以下であることが好ましく、1/2.7以上1/2以下であることがより好ましく、1/2.5以上1/2以下であることがさらに好ましい。
【0052】
合成工程では、一般式(I)で表される化合物と、一般式(II)で表される化合物とを、酸の存在下で反応させることができれば、溶媒を使用しても、溶媒を使用せずニート条件下であってもよい。ニート条件下である場合、酸は無機酸であることが好ましい。
溶媒としては、1-ブタノール(n-ブタノール)、2-ブタノール、t-ブチルアルコール、1,4-ジオキサン、トルエン、メチルエチルケトン等の公知の溶媒が適用できる。上記の中でも、溶媒としては、1-ブタノール(n-ブタノール)が好ましい。
【0053】
反応温度は、使用する溶媒に応じて適宜設定できるが、例えば、50℃以上150℃以下であってもよく、80℃以上130℃以下であってもよい。
【0054】
反応時間は、適宜設定できるが、例えば、基質(つまり、原料)が消失するまでであればよく、1時間以上48時間以内であってもよく、3時間以上30時間以下であってもよい。
【0055】
≪晶析工程≫
本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の製造方法は、晶析工程を含むことが好ましい。
【0056】
晶析工程では、前記合成工程の後に、粗生成物から前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を晶析する手法であれば特に制限されず、貧溶媒と良溶媒とを用いた2液型晶析方法、再沈殿方法、良溶媒のみを用いた1液型晶析方法等のいずれであってもよい。
【0057】
晶析工程は、例えば、トリフェニルメタン化合物をより収率よく得る観点から、前記合成工程の後に、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む粗生成物を、10℃以上30℃未満の良溶媒に溶解させた後、10℃以上50℃未満で前記良溶媒を静置することで、前記一般式(III)で表されるトリフェニルメタン化合物を含む結晶物を得る工程であることが好ましい。
【0058】
前記良溶媒の種類は、特に制限されず、トリフェニルメタン化合物が溶解する溶剤を適宜しようすることができる。良溶媒は、1種単独の使用であっても、2種以上の併用であってもよい。なお、溶解とは、溶解物の残存が目視にて確認でない状態を示す。
前記良溶媒は、例えば、トリフェニルメタン化合物をより収率よく得る観点から、脂肪族アルコールと含むことが好ましい。脂肪族アルコールとしては、炭素数1以上10以下の低級脂肪族アルコール、エチレングリコール等が挙げられる。上記の中でも、脂肪族アルコールとしては、炭素数1以上10以下の低級脂肪族アルコールを含むことが好ましく、炭素数1以上5以下の低級脂肪族アルコールを含むことがより好ましい。
【0059】
良溶媒に溶解させるトリフェニルメタン化合物の濃度は、トリフェニルメタン化合物を含む結晶を晶析させることができれば特に制限されないが、例えば、良溶媒全量に対して30質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0060】
上記粗生成物を溶解させる良溶媒の温度は、10℃以上30℃未満であればよく、15℃以上28℃以下であってもよく、室温(22℃±4℃)であってもよい。
上記良溶媒を静置する温度は、10℃以上50℃未満であればよく、15℃以上28℃以下であってもよく、室温(22℃±4℃)であってもよい。
【0061】
≪その他の工程≫
本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の製造方法は、合成工程及び晶析工程以外のその他の工程(以下、単に「その他の工程」とも称す。)を含んでいてもよい。
【0062】
その他の工程としては、例えば、合成工程後に下記の工程を、それぞれ独立に含んでいてもよい。
(1)反応溶液を中和する中和工程。
(2)塩化アンモニウム水溶液、水及び食塩水の少なくとも1種と反応溶液とを混合した後、混合液から有機層と水層とを分液する分液工程。
(3)反応溶液から溶媒又は水を減圧乾固等により乾燥する乾燥工程。
(4)反応溶液をシリカゲル、アルミナ、活性炭等の吸着剤で処理する吸着工程。
【0063】
≪用途≫
本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物の用途は、特に限定されず、画像形成装置に収容する電子写真感光体における酸化防止剤;ホールトラップ剤;電荷輸送剤などの用途に適用できる。例えば、本実施形態に係るトリフェニルメタン化合物は、画像形成装置に収容する電子写真感光体における表面保護層及び電荷輸送層等の少なくとも一方の層に含まれる酸化防止剤として特に優れる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。なお、特に断りがない限り「部」は「質量部」を意味する。
【0065】
―トリフェニルメタン化合物の製造―
[実施例1~3、5~11、比較例1~比較例2]
フラスコ中に、表1に示す量と種類の基質と、溶媒であるn-ブタノール3当量と、を加え、窒素雰囲気下とした。続いて、表1に示す量と種類の酸を加え、110℃で24時間反応させた。反応終了後、反応溶液を水酸化ナトリウム水溶液で中和し、有機層と水層とを分離した。その後、有機層における溶媒を留去し、粗生成物を得た。得られた粗生成物に対し、良溶媒として表1に示す量と種類の溶媒を加え、粗生成物が溶解した溶液を120分間、室温(23℃)で攪拌した。その後、溶液中で晶析した結晶を濾別し、乾燥することで、目的とする生成物:一般式(III)で表される化合物を得た。収率を表1に示す。
【0066】
[実施例4]
実施例1と同じ仕様で反応終了後、反応溶液を水酸化ナトリウム水溶液で中和し、有機層と水層とを分離した。その後、有機層における溶媒を留去し、粗生成物を得た。
エタノールと脱イオン水との20/3混合液を準備し、53℃に予熱した。次に、先で得られた粗生成物をエチルメチルケトンに室温(23℃)で溶解させた粗生成物を含む粗溶液を、前記混合液に20分間かけて加えた。その後、粗溶液と混合された混合液を、さらに15分間混合した後、室温(23℃)にまで放冷させ、結晶を得た。
その後、晶析した結晶を濾別し、乾燥することで、目的とする生成物:一般式(III)で表される化合物を得た。収率を表1に示す。
【0067】
[比較例3]
酸を加えない仕様とした以外は、実施例1と同様にしてトリフェニルメタン化合物の製造を行った。結果を表1に示す。
【0068】
表1中、*1は、一般式(I)で表される化合物及び一般式(II)で表される化合物に含まれるアミノ基の総モル数に対する酸のモル当量を表す。表1中、*2は、晶析工程において、実施例4で示すように再沈殿方式でトリフェニルメタン化合物を含む結晶を得たことを意味する。
【0069】
【0070】
表1に示すように、実施例のトリフェニルメタン化合物の製造は、比較例のトリフェニルメタン化合物の製造に比べて、トリフェニルメタン化合物を収率よく製造可能であることがわかった。