(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】細胞移植装置
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240509BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20240509BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240509BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240509BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20240509BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20240509BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20240509BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240509BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A61M37/00 514
C12M1/26
A61L27/50
A61L27/38 100
A61L27/06
A61L27/04
A61L27/02
A61L27/16
A61L27/18
(21)【出願番号】P 2020026242
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉原 佳菜
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 賢洋
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-507908(JP,A)
【文献】特表2008-536625(JP,A)
【文献】特開2020-162981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
C12M 1/26
A61L 27/50
A61L 27/38
A61L 27/06
A61L 27/04
A61L 27/02
A61L 27/16
A61L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内の対象領域に、
細胞の集合体である細胞群を配置するための細胞移植装置であって、
1つの方向に沿って延びる筒状の針状部と、
前記針状部の内側に位置する複数の内筒部と、を備え、
前記複数の内筒部には、前記細胞群を移送するための第1内筒部と、前記細胞群以外の物質を移送するための第2内筒部とが含まれ、
前記第1内筒部の先端部は、前記細胞群の径よりも小さい内径を有し、前記第1内筒部は、前記第1内筒部内を吸引する機構に接続され、前記吸引によって前記第1内筒部の先端部に前記細胞群が当接した状態に前記細胞群を保持するように構成されている
細胞移植装置。
【請求項2】
前記内筒部は、前記内筒部の先端部が前記針状部の内部に位置した第1状態と、前記内筒部の先端部が前記針状部の先端部の開口部から突き出した第2状態との間で、前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されている
請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項3】
前記複数の内筒部は、前記内筒部ごとに、前記第1状態と前記第2状態との間で移動可能に構成されている
請求項2に記載の細胞移植装置。
【請求項4】
2以上の前記内筒部が、同時に、前記第1状態と前記第2状態との間で移動可能に構成されている
請求項2に記載の細胞移植装置。
【請求項5】
前記複数の内筒部が含む少なくとも1つの前記第2内筒部は、前記細胞群以外の物質である液体を移送するための前記第2内筒部であって、前記第2内筒部の先端部とは反対側から、前記第2内筒部内に前記物質を取り込む
請求項1~
4のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【請求項6】
複数の前記針状部を備え、
前記針状部ごとに、前記第1内筒部と前記第2内筒部とを含む複数の前記内筒部を備える
請求項1~
5のいずれか一項に記載の細胞移植装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の移植に用いられる細胞移植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞群を生体内へ移植する技術が開発されている。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を培養し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包が形成されることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。さらに、培養された細胞群を、培養容器から生体内へ移すためのデバイスである細胞移植装置の開発も進められている(例えば、特許文献4参照)。細胞移植装置は、針状に尖る筒状部を備え、筒状部の内部へ培養容器から細胞群を取り込む。筒状部が皮膚等の移植の対象箇所を刺した後、筒状部の先端から細胞群が放出されることにより、細胞群が生体内に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/073625号
【文献】国際公開第2012/108069号
【文献】特開2008-29331号公報
【文献】国際公開第2019/064653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞群の移植に際して、細胞群と共に細胞群以外の物質を生体内に供給したいという要請がある。例えば、移植された細胞群におけるその機能の良好な発現のためには、細胞群と共に、細胞群の機能の発現を補助する補助物質を生体内に供給することが好ましい。補助物質は、例えば、細胞のための栄養成分や、生体内への細胞群の定着を補助する物質である。上記細胞移植装置は、培養容器内にて細胞群を保護している液体である保護液を細胞群と共に筒状部内へ取り込み、当該保護液を細胞群と共に生体内に放出することが可能ではあるものの、取り込まれる保護液の量や成分は、生体内において細胞群の活性を高めるために十分であるとは限らない。また、上記細胞移植装置においては、保護液とは異なる物質を筒状部内にさらに取り込むことは困難である。一方で、細胞移植装置とは別のデバイスを用いて細胞群とは別に補助物質を生体内に供給することは、細胞群の移植時と補助物質の供給時とでのデバイスの交換や、細胞群の移植位置と補助物質の供給位置との位置合わせを要するため、細胞群および補助物質を生体内に送り込むための作業が煩雑になってしまう。
【0005】
本発明は、細胞群と細胞群以外の物質とを生体内に送達可能とした細胞移植装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する細胞移植装置は、生体内の対象領域に、細胞群を配置するための細胞移植装置であって、1つの方向に沿って延びる筒状の針状部と、前記針状部の内側に位置する複数の内筒部と、を備え、前記複数の内筒部には、前記細胞群を移送するための第1内筒部と、前記細胞群以外の物質を移送するための第2内筒部とが含まれる。
【0007】
上記構成によれば、第1内筒部に細胞群を配し、第2内筒部に細胞群以外の物質である対象物質を配することにより、1つの針状部の内部に細胞群と対象物質とを取り込んで、これらを生体内に移送することができる。そして、1つの針状部から細胞群と対象物質とを放出することができるため、生体内において細胞群が配置された領域の付近に対象物質を供給することができる。したがって、細胞群と細胞群以外の物質とを生体内に容易に送達することができる。
【0008】
上記構成において、前記内筒部は、前記内筒部の先端部が前記針状部の内部に位置した第1状態と、前記内筒部の先端部が前記針状部の先端部の開口部から突き出した第2状態との間で、前記針状部に対して相対的に移動可能に構成されていてもよい。
【0009】
上記構成によれば、第1状態で生体に針状部を刺すこと、および、第2状態で細胞群および対象物質の取り込みや放出を行うことができる。したがって、細胞群および対象物質の生体内への送達が円滑に進められる。
【0010】
上記構成において、前記複数の内筒部は、前記内筒部ごとに、前記第1状態と前記第2状態との間で移動可能に構成されていてもよい。
上記構成によれば、複数の内筒部を1つずつ針状部の開口部から出し入れすることができるため、内筒部の周囲の空間に余裕のある状態で、細胞群および対象物質の取り込みや放出を行うことができる。したがって、これらの作業が円滑に進められる。
【0011】
上記構成において、2以上の前記内筒部が、同時に、前記第1状態と前記第2状態との間で移動可能に構成されていてもよい。
上記構成によれば、複数の内筒部を1つずつ動かす場合と比較して、内筒部の動きの制御が簡易になる。
【0012】
上記構成において、前記細胞群は、細胞の集合体であり、前記第1内筒部は、前記第1内筒部内を吸引する機構に接続され、前記吸引によって前記第1内筒部の先端部から前記第1内筒部内に前記細胞群を取り込んでもよい。
【0013】
上記構成によれば、細胞の集合体を的確に内筒部の内部に取り込むことが可能であり、所望の数だけ細胞群を内筒部内に取り込むことも容易である。
【0014】
上記構成において、前記複数の内筒部が含む少なくとも1つの前記第2内筒部は、前記細胞群以外の物質である液体を移送するための前記第2内筒部であって、前記第2内筒部の先端部とは反対側から、前記第2内筒部内に前記物質を取り込んでもよい。
上記構成によれば、液体の特性を生かして効率的に内筒部への対象物質の取り込みが可能である。
【0015】
上記構成において、複数の前記針状部を備え、前記針状部ごとに、前記第1内筒部と前記第2内筒部とを含む複数の前記内筒部を備えてもよい。
上記構成によれば、複数の細胞群や対象物質をまとめて細胞移植装置に取り込むことや、複数の細胞群や対象物質をまとめて生体内に配置することが可能であるため、移植の効率が高められる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細胞群と細胞群以外の物質とを生体内に送達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】細胞移植装置の一実施形態について、細胞移植装置の構成を示す図。
【
図2】一実施形態の細胞移植装置において、1つの内筒部が針状部から突き出した状態を示す図。
【
図3】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞の移植方法を示す図であって、内筒部に細胞群を取り込む工程を示す図。
【
図4】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞の移植方法を示す図であって、内筒部とともに細胞群が針状部に収容された状態を示す図。
【
図5】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞の移植方法を示す図であって、針状部が移植部位に刺された状態を示す図。
【
図6】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞の移植方法を示す図であって、細胞群の配置工程を示す図。
【
図7】一実施形態の細胞移植装置を用いた細胞の移植方法を示す図であって、補助物質の供給工程を示す図。
【
図9】変形例の細胞移植装置において、複数の内筒部が針状部から突き出した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1~
図7を参照して、細胞移植装置の一実施形態を説明する。本実施形態の細胞移植装置は、生体内への細胞群の移植と細胞群以外の物質の供給とを行うために用いられる。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織である。
【0019】
[細胞群]
移植対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0020】
細胞群は、対象領域に配置されることによって、生体における組織形成に作用する機能を有する。移植対象の細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。こうした細胞群は、例えば、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0021】
具体的には、本実施形態における移植対象の細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0022】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0023】
[補助物質]
補助物質は、細胞群以外の物質であって、細胞群と共に生体内に供給される対象の物質である。補助物質は、液体であってもよいし、固体であってもよい。
【0024】
補助物質は、例えば、細胞群の機能の発現を補助する物質である。細胞群が毛包原基である場合、補助物質は、細胞群の毛包器官への分化あるいは当該毛包器官での毛の形成を、直接的または間接的に補助する。補助物質は、補助物質が含む成分によって、化学的または生物学的に細胞群の機能の発現を補助してもよいし、補助物質が有する形状等の構造によって、細胞群の機能の発現を補助してもよい。
【0025】
上記細胞群の機能の発現を補助する補助物質は、例えば、細胞の増殖や分化を促進する成分を含む添加剤や、移植先の組織からの細胞群の脱落を抑えるために細胞群を固定する固定剤等である。上記添加剤は、例えば、細胞の成長因子、栄養成分、サイトカイン等の生理活性物質、コラーゲン等の細胞外マトリックス等を含む。また、細胞群が発毛または育毛に寄与する場合、細胞群の働きにより毛穴の形成が好適に進行することが、良好な毛の再生のための重要な因子であると考えられている。したがって、移植対象の細胞群が毛包原基等の発毛または育毛に寄与する細胞群である場合、補助物質は、毛穴の形成のガイドとして機能する部材であってもよい。
【0026】
また、補助物質は、細胞移植装置が備える針状部の生体内への進入や引抜を補助する物質であってもよい。こうした補助物質は、例えば、生体内への針状部の刺し抜きによる痛みの発生を抑える物質や、生体と針状部との間の摩擦を抑える潤滑剤である。
【0027】
[細胞移植装置の構成]
図1および
図2を参照して、細胞移植装置の構成を説明する。
図1が示すように、細胞移植装置100は、1つの方向に沿って延びる筒状の針状部20と、針状部20の内側に位置する複数の内筒部30とを備える。
【0028】
針状部20は、針先部10と収容部15とを有している。針先部10と収容部15とは、針状部20の延びる方向に沿って並び、針先部10の内部空間と収容部15の内部空間とは互いに連通している。
【0029】
針先部10は、針状部20の先端を含む。針先部10は、先端部に開口部11を有している。すなわち、開口部11は、針状部20の先端部に位置する。針先部10の形状は、円筒や角筒の筒状であって、その先端部が、生体における移植の対象の部位を刺すことの可能な外形を有していれば特に限定されない。針先部10の先端部は、例えば、円筒をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有し、尖っている。
【0030】
収容部15は、複数の内筒部30を収容している。収容部15の形状は、複数の内筒部30を収容可能な形状であれば、特に限定されない。例えば、収容部15は、円筒形状を有していてもよいし、角筒形状を有していてもよい。
【0031】
内筒部30は、針状部20の延びる方向に沿って延びる筒状を有する。例えば、内筒部30は、円筒形状を有していてもよいし、角筒形状を有していてもよい。内筒部30は、細胞群または補助物質である移送対象を取り込んで放出する機能を有する。複数の内筒部30のうち、1つの内筒部30の移送対象は細胞群であり、残りの内筒部30の移送対象は補助物質である。
【0032】
内筒部30は、細胞群を移送するための内筒部30である1つの第1内筒部と、補助物質を移送するための内筒部30である1以上の第2内筒部とを含む。第2内筒部の数は特に限定されない。本実施形態では、一例として、第1内筒部である内筒部30aと、第2筒部である内筒部30bおよび内筒部30cとの3つの内筒部30を細胞移植装置100が備える形態を説明する。
【0033】
複数の内筒部30において、内筒部30の形状は同一であってもよいし、同一でなくてもよい。また、複数の内筒部30において、内筒部30の内径は一定であってもよいし、一定でなくてもよい。各内筒部30の形状および内径は、内筒部30ごとの移送対象に応じて定められていればよい。
【0034】
収容部15の内径は、針先部10の内径よりも大きい。収容部15は、すべての内筒部30をまとめて収容可能な大きさの内径を有する。針先部10は、複数の内筒部30を1つずつ通すことの可能な大きさの内径を有する。すなわち、針先部10の内径は、複数の内筒部30のうちの最大の内径よりも大きい。
【0035】
細胞移植装置100は、さらに、駆動部40および移送制御部41を備えている。駆動部40は、複数の内筒部30を、内筒部30ごとに、針状部20の延びる方向に大まかに沿った方向に動かす。詳細には、駆動部40は、内筒部30の先端部が針状部20の内部に位置した状態と、内筒部30の先端部が針先部10の開口部11から突き出した状態との間で、内筒部30を針状部20に対して相対的に動かす。
図2は、内筒部30aの先端部が開口部11から突き出している状態を示す。
【0036】
なお、複数の内筒部30の配列は、複数の内筒部30について1つずつその先端部を開口部11から出し入れすることが可能であれば、限定されない。例えば、複数の内筒部30は、収容部15の周方向に沿って環状に並んでいてもよいし、収容部15の径方向に沿って直線状に並んでいてもよい。
【0037】
駆動部40は、複数の内筒部30を互いに独立して、すなわち、各内筒部30を別々に動かす。例えば、駆動部40は、バネやバネを押圧する押圧部材等の部品を含み、ユーザーの操作に基づきこれらの部品の連動によって、各内筒部30を動かす機構であってもよいし、モーター等の電子部品を含み、ユーザーの指示に基づく電子制御によって、各内筒部30を動かすように構成されていてもよい。
【0038】
移送制御部41は、内筒部30における移送対象の取り込みおよび放出を制御する。具体的には、移送制御部41は、内筒部30内の吸引や加圧を利用して、内筒部30における移送対象の保持状態を制御することが好ましい。
【0039】
移送対象が液体以外である場合、すなわち、移送対象が、細胞群、固形状の添加剤、ガイド等の部材である場合、移送制御部41が内筒部30内を吸引することによって、内筒部30の先端部の開口から移送対象が内筒部30の内部に取り込まれる。そして、移送制御部41が内筒部30内を加圧することによって、移送対象が内筒部30の先端部の開口から放出されて、生体内に配置される。
【0040】
あるいは、移送制御部41が内筒部30内を吸引することによって、内筒部30の先端部の外側に移送対象が保持されてもよい。この場合、内筒部30の先端部の内径は、移送対象の径よりも小さく、移送対象は、内筒部30の先端部に当接した状態で、内筒部30に保持される。そして、移送制御部41による内筒部30内の吸引の停止、もしくは、内筒部30内の加圧によって、内筒部30における移送対象の保持が解除され、移送対象は生体内に配置される。
【0041】
移送対象が液体である場合、移送制御部41が、例えば、内筒部30の先端部とは反対側から、内筒部30内に移送対象を送り込むことにより、内筒部30に移送対象が取り込まれる。さらに、移送制御部41が内筒部30内を加圧することによって、内筒部30の先端部の開口から移送対象が放出されて、生体内に配置される。内筒部30内の加圧は、ピストン等の押圧部材によって行われてもよいし、移送対象と同じ液体の更なる注入によって行われてもよい。
【0042】
あるいは、移送制御部41が内筒部30内を吸引することにより、内筒部30の先端部の開口から移送対象が内筒部30の内部に取り込まれてもよい。そして、移送制御部41が内筒部30内を加圧することにより、内筒部30の先端部の開口から移送対象が放出されて、生体内に配置される。
【0043】
移送制御部41は、例えば、ピストン等の部品を含み、ユーザーの操作に応じた部品の動きによって、内筒部30内の加圧や吸引を行う機構であってもよいし、モーター等の電子部品を含み、ユーザーの指示に基づく電子制御によって、内筒部30内の加圧や吸引を行うように構成されていてもよい。
【0044】
なお、針状部20および内筒部30の材料は特に限定されない。針状部20は、例えば、シリコンや、ステンレス、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム等などの金属材料や、汎用のプラスチック、医療用のプラスチック、化粧品用のプラスチック等の高分子材料から形成される。高分子材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、アクリル、ウレタン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、エポキシ樹脂、および、これらの樹脂の共重合材料等が挙げられる。また、針状部20は、ポリアクリルなどの電離放射線硬化型材料や、ウレタンやエポキシ等の熱硬化型材料から形成されてもよい。針先部10と収容部15とは、同一の材料から成形されていてもよいし、互いに異なる材料から形成されていてもよい。
【0045】
内筒部30は、例えば、上述の針状部20の材料として例示した材料から形成される。針状部20と内筒部30とは、同一の材料から成形されていてもよいし、互いに異なる材料から形成されていてもよい。また、複数の内筒部30は、すべてが同じ材料から形成されている必要はない。また、針状部20および内筒部30の各々は、2種類以上の材料の組み合わせによって形成されていてもよい。
【0046】
[移植方法]
細胞移植装置100を用いた細胞群の移植方法を説明する。以下では、例として、細胞群と、二種類の液体の補助物質とを、生体内に送達する場合を説明する。
【0047】
図3が示すように、移植前において、細胞群Cgは、培養容器等のトレイ50に保護液Plと共に保持されている。例えば、
図3が示すように、細胞群Cgと保護液Plとは、トレイ50が有する凹部51に入れられている。トレイ50における細胞群Cgと保護液Plとの保持態様は、凹部51に細胞群Cgと保護液Plとが保持される形態に限らず、例えば、トレイ50が有する平面上に細胞群Cgと保護液Plとが配置されていてもよい。また、トレイ50は、培養容器とは異なる容器であって、培養容器からトレイ50に細胞群Cgが移されてもよい。
【0048】
保護液Plは、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい液体であることが好ましい。例えば、保護液Plは、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。保護液Plは、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、トレイ50が培養容器であって、細胞群Cgがトレイ50にて培養される場合、保護液Plは、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。細胞群Cgと保護液Plとを含む液状体は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0049】
まず、駆動部40の動作により、細胞群Cgを移送対象とする内筒部30aが動かされ、内筒部30aの先端部が針先部10の開口部11から突き出た状態とされる。そして、針先部10の先端部および内筒部30aの先端部が、保護液Pl中の細胞群Cgに近づけられ、移送制御部41により内筒部30a内が吸引される。これにより、細胞群Cgが内筒部30aの先端部に引き寄せられ、内筒部30aの先端部の開口から、細胞群Cgが保護液Plと共に内筒部30aの内部に取り込まれる。
【0050】
その後、
図4が示すように、内筒部30aが動かされることによって、内筒部30aの先端部が針状部20の内部に引き込まれ、これに伴って、細胞群Cgも針状部20の内部に収容される。細胞群Cgの保護のためには、針先部10の内部において、細胞群Cgは保護液Plで取り囲まれていることが好ましい。
【0051】
なお、内筒部30aは、内筒部30aの先端部が針状部20の内部に配置される位置まで動かされればよい。
図4が示すように、内筒部30aの先端部は、針先部10の内部に位置してもよいし、あるいは、内筒部30aが収容部15の内部まで引き込まれ、内筒部30aの先端部は、収容部15の内部に位置してもよい。
【0052】
細胞群Cgを収容した細胞移植装置100が、生体の例えば皮膚Skである移植部位まで運ばれ、
図5が示すように、移植部位に針先部10が刺される。このとき、内筒部30aの先端部は、針状部20の内部に位置するため、細胞移植装置100の先端部には、針先部10の先端部が位置する。針先部10の先端部は生体に刺さりやすい形状を有しているため、細胞移植装置100は移植部位に円滑に進入できる。なお、針先部10は、移植部位の表面に対して直交する方向に移植部位に進入してもよいし、移植部位の表面に対して傾斜した方向に移植部位に進入してもよい。
【0053】
針先部10の先端部が移植の対象領域まで進入すると、内筒部30aが動かされ、内筒部30aの先端部が針先部10の開口部11から突き出た状態とされる。そして、
図6が示すように、内筒部30a内が加圧されることにより、細胞群Cgと保護液Plとが、内筒部30aの先端部の開口から放出されて、移植の対象領域に配置される。
【0054】
なお、内筒部30aの先端部が開口部11から突き出た状態とされる際には、針先部10が移植部位から抜かれる方向に針状部20がやや後退させられ、移植部位の内部において、針先部10の先端部が位置していた空間に、内筒部30aの先端部が配置されてもよい。そして、針先部10の先端部が位置していた空間に、細胞群Cgが放出されてもよい。これにより、細胞群Cgが内筒部30aから出るときに周囲の組織から押圧されて細胞群Cgに負荷がかかることが抑えられる。
移植の対象領域に細胞群Cgが配置されると、内筒部30aが動かされて収容部15の内部まで引き込まれる。
【0055】
続いて、
図7が示すように、駆動部40の動作により、補助物質を移送対象とする内筒部30bが動かされ、内筒部30bの先端部が針先部10の開口部11から突き出た状態とされる。そして、移送制御部41により、内筒部30bの先端部とは反対側から、補助物質である添加液Slが内筒部30bの内部に流し込まれる。添加液Slは内筒部30bの内部を通って内筒部30bの先端部の開口から出る。その結果、移植の対象領域に配置されている細胞群Cgの周囲に添加液Slが供給される。所定量の添加液Slが細胞群Cgの付近に供給されると、内筒部30bへの添加液Slの供給が停止され、内筒部30bが動かされて収容部15の内部まで引き込まれる。
【0056】
なお、
図7においては、内筒部30bが直線状に延びた状態で開口部11から突出する形態を例示しているが、内筒部30bは、柔軟性を有し、例えば移動の過程で撓むように変形しつつ、開口部11から出し入れされてもよい。内筒部30a,30cについても同様である。
【0057】
続いて、補助物質を移送対象とする内筒部30cについても、上述の内筒部30bと同様の動作が繰り返される。すなわち、内筒部30cの先端部が針先部10の開口部11から突き出る位置まで内筒部30cが動かされ、移送制御部41により、内筒部30cの先端部と反対側から、補助物質である液体が内筒部30bの内部に流し込まれる。内筒部30cに供給される補助物質は、内筒部30bに供給された補助物質とは異なる物質である。
【0058】
これにより、内筒部30cの内部を通って補助物質が内筒部30cの先端部の開口から放出され、細胞群Cgの周囲に供給される。所定量の補助物質が細胞群Cgの付近に供給されると、内筒部30cへの補助物質の供給が停止され、内筒部30bが動かされて収容部15の内部まで引き込まれる。
【0059】
その後、針先部10は、移植部位から引き抜かれる。なお、内筒部30cが収容部15の内部に収容されず、針先部10の開口部11から内筒部30cの先端部が突き出た状態で、針先部10が移植部位から引き抜かれてもよい。
【0060】
以上により、細胞群Cgの対象領域への移植と、補助物質の供給とが完了する。本実施形態によれば、細胞移植装置100が、細胞群Cgを移送するための内筒部30と、補助物質を移送するための内筒部30とを備えているため、細胞群Cgに加えて、補助物質を細胞移植装置100の内部に取り込むことができる。そして、針先部10が移植の対象領域に刺さった状態において、各内筒部30が1つの針先部10の開口部11から順に突出して移送対象を生体内に放出するため、生体内において細胞群Cgが配置された領域の付近に補助物質を配置することができる。したがって、細胞群Cgと補助物質と生体内に容易に送達することができる。
特に、細胞移植装置100は、補助物質が、細胞群Cgを生体内に配置するタイミングと合わせて生体内に送り込むことが望まれる物質である場合に、好適に用いられる。
【0061】
補助物質が、細胞群Cgの機能の発現を補助する物質である場合、細胞移植装置100を用いて細胞群Cgおよび補助物質を生体内に送達することにより、細胞群Cgの機能が発現しやすくなる。例えば、細胞群Cgが、毛包原基のように、発毛または育毛に寄与する細胞群である場合、毛の形成が好適に進む。したがって、細胞移植装置100は、例えば、確実に毛を発生させたい箇所への細胞群Cgへの移植に好適に用いられる。
【0062】
また、補助物質が、針状部20の生体内への進入や引抜を補助する物質である場合、細胞移植装置100を用いて細胞群Cgおよび補助物質を生体内に送達することにより、針状部20の生体内への刺し抜きが円滑に進められる。
【0063】
なお、上記移植方法の説明においては、最初に細胞群Cgを生体内に移植し、その後に補助物質を供給したが、細胞群Cgと補助物質との送達の順序は特に限定されない。補助物質を供給した後に細胞群Cgを移植してもよいし、複数の補助物質の供給の間に細胞群Cgを移植してもよい。
【0064】
また、上記移植方法の説明においては、針先部10を生体に刺した後に、補助物質を内筒部30内に供給したが、針先部10を生体に刺す前に、補助物質を内筒部30内に充填してもよい。この場合、生体内への補助物質の供給に際しては、補助物質が充填された内筒部30の先端部が、生体に刺された針先部10の開口部11から突き出された後に、内筒部30内が加圧される。これにより、内筒部30内の補助物質が内筒部30の先端部から生体内に放出される。
【0065】
また、補助物質が液体である場合には、先に述べたように、内筒部30の先端部の開口から、補助物質が内筒部30の内部に取り込まれてもよい。例えば、内筒部30bについて、その先端部から補助物質を取り込ませる場合、細胞群Cgをトレイ50から内筒部30a内に取り込む前もしくは後に、内筒部30bをその先端部が針先部10の開口部11から突き出した状態とし、補助物質が入った容器内に内筒部30bの先端部を差し入れて、内筒部30b内を吸引する。これにより、内筒部30bの先端部から補助物質が内筒部30b内に取り込まれる。生体内への補助物質の供給に際しては、内筒部30bの先端部が、生体に刺された針先部10の開口部11から突き出された状態で、内筒部30b内が加圧される。これにより、内筒部30b内の補助物質が内筒部30bの先端部から生体内に放出される。
【0066】
また、補助物質が液体以外である場合、細胞群Cgの取り込みと同様に、補助物質が取り込まれる。例えば、内筒部30bに液体以外の補助物質を保持させる場合、細胞群Cgをトレイ50から内筒部30aに取り込む前もしくは後に、内筒部30bをその先端部が針先部10の開口部11から突き出した状態とし、内筒部30bの先端部を補助物質に近づけて、内筒部30b内を吸引する。これにより、内筒部30bの先端部の開口から補助物質が内筒部30bの内部に取り込まれる。生体内への補助物質の供給に際しては、内筒部30bの先端部が、生体に刺された針先部10の開口部11から突き出された状態で、内筒部30内が加圧される。これにより、内筒部30内の補助物質が内筒部30の先端部から放出されて生体内に配置される。
【0067】
また、補助物質が液体以外である場合、先に述べたように、内筒部30内の吸引によって、内筒部30の先端部の外側に補助物質が保持されてもよい。ただし、細胞移植装置100を移植部位まで移動させるときに、針状部20内で補助物質同士の接触や補助物質と細胞群Cgとの接触が起きることを抑えるためには、補助物質が液体以外である場合にも、補助物質は内筒部30の内部に取り込まれることが好ましく、また、細胞群Cgも内筒部30の内部に取り込まれることが好ましい。
【0068】
[変形例]
針状部20の先端部は、2以上の内筒部30を同時に通すことの可能な内径を有し、開口部11は、2以上の内筒部30の先端部を同時に突出させることの可能な大きさを有していてもよい。
【0069】
例えば、
図8が示す細胞移植装置110において、針状部20は、一定の内径で延び、針先部10と収容部15とが互いに同一の内径で連続している形状に対応する形状を有している。針状部20は、すべての内筒部30をまとめて収容可能な大きさの内径を有する。
【0070】
そして、駆動部40は、すべての内筒部30を同時に、針状部20の延びる方向に沿って動かす。すなわち、駆動部40は、すべての内筒部30の先端部が針状部20の内部に位置した状態と、すべての内筒部30の先端部が開口部11から突き出した状態との間で、これらの内筒部30を針状部20に対して相対的に動かす。
図9は、すべての内筒部30aの先端部が開口部11から突き出している状態を示す。
図9では、針状部20の延びる方向において、すべての内筒部30aの先端の位置が揃っている形態を示しているが、複数の内筒部30は、これらの先端の位置が揃っていない状態で、同時に動かされてもよい。例えば、細胞群Cgを移送するための内筒部30の先端部は、他の内筒部30よりも下方に突出していてもよい。
【0071】
細胞移植装置110を用いて細胞群を移植する際には、細胞群Cgが当該細胞群Cgの移送のための内筒部30に保持された後に、すべての内筒部30の先端部が針状部20内に位置した状態で、針状部20の先端部が移植部位に刺される。そして、すべての内筒部30が同時に動かされ、すべての内筒部30の先端部が開口部11から突き出した状態とされる。内筒部30への補助物質の取り込みは、上記実施形態と同様、針状部20が移植部位に刺される前もしくは後に行われる。そして、細胞群Cgと補助物質とがそれぞれに対応する内筒部30の先端部から放出されることにより、細胞群Cgと補助物質とが生体内に送達される。
【0072】
細胞群Cgの放出と補助物質の放出とは、所定の順番で行われてもよい。あるいは、細胞群Cgの放出と1以上の補助物質の放出とが同時に行われてもよいし、また、複数の補助物質の放出が同時に行われてもよい。
【0073】
以上のように、複数の内筒部30が同時に動かされる形態であれば、内筒部30を動かすための構成および複数の内筒部30の動きの制御が容易になる。
なお、針状部20の先端部が、複数の内筒部30を同時に通すことの可能な内径を有している場合であっても、上記実施形態と同様に、複数の内筒部30は、内筒部30ごとに動かされ、開口部11からは内筒部30が1つずつ出し入れされてもよい。また、すべての内筒部30のなかの一部である複数の内筒部30が同時に開口部11から出し入れされてもよい。例えば、3つの内筒部30のうちの2つが同時に開口部11から出し入れされてもよい。
【0074】
また、複数の内筒部30を同時に動かすことと、複数の内筒部30を1つずつ動かすこととのいずれもが可能であってもよい。この場合、例えば、細胞群Cgおよび補助物質の取り込みと、細胞群Cgおよび補助物質の放出との一方では、複数の内筒部30が同時に動かされ、他方では、複数の内筒部30が1つずつ動かされてもよい。
【0075】
また、
図10が示す細胞移植装置120のように、複数の針状部20が備えられていてもよい。細胞移植装置120は、複数の針状部20と、針状部20ごとに複数の内筒部30とを備えている。各針状部20において、複数の内筒部30には、細胞群を移送するための内筒部30と、補助物質を移送するための内筒部30とが含まれる。
図10では、針状部20の先端部の開口部11が、複数の内筒部30を1つずつ通す大きさを有する形態を示しているが、先の
図8を用いて説明したように、開口部11は、複数の内筒部30を同時に通す大きさを有していてもよい。各針状部20において、複数の内筒部30は、上述した形態と同様に、1つずつ、あるいは、同時に動かされ、針状部20の先端部の開口部11から出し入れされる。
【0076】
複数の針状部20の配列は特に限定されず、複数の針状部20は規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。細胞移植装置120が複数の針状部20を備えることにより、複数の細胞群Cgをまとめて細胞移植装置120に収容することや、複数の細胞群Cgをまとめて移植の対象領域に配置することが可能である。したがって、細胞群Cgの移植の効率が高められる。
【0077】
以上、上記実施形態および変形例によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)細胞移植装置100が、細胞群Cgを移送するための内筒部30と、補助物質を移送するための内筒部30とを備えているため、1つの針状部20の内部に細胞群Cgと補助物質とを取り込んで、これらを生体内に移送することができる。そして、1つの針状部20から細胞群Cgと補助物質とを放出することができるため、生体内において細胞群Cgが配置された領域の付近に補助物質を供給することができる。したがって、細胞群Cgと補助物質と生体内に容易に送達することができる。
【0078】
(2)内筒部30が、内筒部30の先端部が針状部20の内部に位置した第1状態と、内筒部30の先端部が針状部20の先端部の開口部11から突き出した第2状態との間で、針状部20に対して相対的に移動可能である。したがって、第1状態で生体に針状部20を刺すこと、および、第2状態で細胞群Cgおよび補助物質の取り込みや放出を行うことができる。そのため、細胞群Cgおよび補助物質の生体内への送達が円滑に進められる。
【0079】
(3)複数の内筒部30が、内筒部30ごとに上記第1状態と上記第2状態との間で移動される形態であれば、複数の内筒部30を1つずつ針状部20の開口部11から出し入れすることができるため、内筒部30の周囲の空間に余裕のある状態で、細胞群Cgおよび補助物質の取り込みや放出を行うことができる。したがって、これらの作業が円滑に進められる。
【0080】
(4)2以上の内筒部30が、同時に、上記第1状態と上記第2状態との間で移動される形態であれば、複数の内筒部30を1つずつ動かす場合と比較して、内筒部30の動きの制御が簡易になる。
【0081】
(5)細胞群Cgを移送するための内筒部30が、内筒部30内を吸引する機構に接続され、当該吸引によって内筒部30の先端部から内筒部30内に細胞群Cgを取り込む。これによれば、細胞群Cgが細胞の集合体である場合に、細胞群Cgを的確に内筒部30の内部に取り込むことが可能であり、所望の数だけ細胞群Cgを内筒部30内に取り込むことも容易である。
【0082】
(6)補助物質を移送するための内筒部30が、内筒部30の先端部とは反対側から、液体である補助物質を内筒部30内に取り込む。これによれば、液体の特性を生かして効率的に内筒部30への補助物質の取り込みが可能である。また、細胞群Cgと補助物質とで、内筒部30の先端側と基端側とのいずれから移送対象を取り入れるかを変えることで、移送対象の特性に応じた的確な取り込みが可能である。
【0083】
(7)細胞移植装置120が、複数の針状部20を備え、針状部20ごとに、細胞群Cgを移送するための内筒部30と、補助物質を移送するための内筒部30とを含む複数の内筒部30を備えている。これによれば、複数の細胞群Cgや補助物質をまとめて細胞移植装置120に取り込むことや、複数の細胞群Cgや補助物質をまとめて生体内に配置することが可能であるため、移植の効率が高められる。
【0084】
[他の変形例]
上記実施形態および変形例は、以下のように変更して実施することが可能である。
・細胞群Cgおよび補助物質の取り込みと、細胞群Cgおよび補助物質の放出との少なくとも一方において、複数の内筒部30は、複数の内筒部30の先端部が針状部20の内部に位置する状態から動かされなくてもよい。例えば、先の
図8に示したように、開口部11が複数の内筒部30を同時に通す大きさを有する形態において、複数の内筒部30の先端部が針状部20の内部にて開口部11の付近に位置する状態で、細胞群Cgおよび補助物質の取り込みや放出が行われてもよい。細胞群Cgおよび補助物質の取り込みと放出との双方で複数の内筒部30が動かされない場合には、細胞移植装置は駆動部40を備えていなくてよい。
【0085】
・内筒部30は、細胞群Cgを移送するための第1内筒部と、補助物質を移送するための第2内筒部とのいずれとしても使用可能であって、第1内筒部として用いるか第2内筒部として用いるかが使用時に決定されてもよい。
【0086】
・針状部20の内側への内筒部30の着脱が可能であって、供給が望まれる補助物質の種類や数に応じて、細胞移植装置に取り付けられる内筒部30の増減や交換が行われてもよい。
【0087】
・第2内筒部の移送対象とされる物質は、細胞群の機能の発現を補助する物質や、針状部20の生体内への進入や引抜を補助する物質に限らず、細胞群と共に生体内に供給されることで所定の機能を発揮する物質であればよい。
【0088】
・移植対象の細胞群は、発毛または育毛に寄与する細胞群でなくてもよく、生体内に配置されることによって、所望の効果を発揮する細胞群であればよい。例えば、移植対象の細胞群は、皮膚における皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。
【0089】
[実施例]
上述した細胞移植装置について、具体的な実施例を用いて説明する。
実施例として、
図8に対応する細胞移植装置を製作した。実施例の細胞移植装置は、1つの第1内筒部と、1つの第2内筒部との2つの内筒部を備えている。針状部としては、17Gの注射針を用いた。針状部の内径は1.10mmであり、針状部の外径は1.46mmである。第1内筒部および第2内筒部としては、内径が0.17mm、外径が0.36mmの精密パイプを用いた。針状部の内側に2つの内筒部を配置し、各内筒部の基端部にチューブを介してシリンジを接続した。
【0090】
細胞群のモデルとして、平均粒子径が210μmのプラスチックビーズを用意し、補助物質のモデルとして純水を用意した。シリンジを用いて内筒部内を吸引することにより、第1内筒部内にその先端部から1つのプラスチックビーズを取り込み、第2内筒部内にその先端部から純水を取り込んだ。
【0091】
細胞移植装置に取り込んだプラスチックビーズと純水とを、生体の代替であるシリコーン製の試験体に投与する試験を5回行った。各試験の後に、試験体の内部にプラスチックビーズと純水とが配置されているかを確認したところ、5回の試験のすべてにおいて、プラスチックビーズと純水とが針状部の内部に残留することなく、試験体の内部に配置されていることが確認された。したがって、実施例の細胞移植装置を用いて、対象への細胞群と補助物質との送達が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0092】
Cg…細胞群、Pl…保護液、Sl…補助物質、10…針先部、11…開口部、15…収容部、20…針状部、30…内筒部、40…駆動部、41…移送制御部、100,110,120…細胞移植装置。