(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】光干渉計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 9/02 20220101AFI20240509BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G01B9/02
G01B11/00 G
(21)【出願番号】P 2020042765
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 和哉
(72)【発明者】
【氏名】早川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】森野 久康
(72)【発明者】
【氏名】長崎 裕介
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0176969(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0120608(US,A1)
【文献】特開2016-147042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測光を出力する光源と、
前記計測光を照射し、計測対象で反射した戻り光を受光する計測部と、
前記戻り光と参照光との干渉信号を受光して電気信号に変換するディテクタと、
前記電気信号に基づいて、前記計測対象の距離、速度、又は、振動に関する情報を取得する処理部と、を有する光干渉計測装置において、
前記光源と前記計測部の間の光路に、前記光源からの前記計測光を分岐させるファイバカプラが設けられ、
前記計測部は、前記ファイバカプラで分岐した第1計測光が第1光路を介して入力される第1計測ヘッドと、前記ファイバカプラで分岐した第2計測光が第2光路を介して入力される第2計測ヘッドとを有し、
前記第1計測ヘッドで受光した第1戻り光は、前記第1光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、
前記第2計測ヘッドで受光した第2戻り光は、前記第2光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、
前記ファイバカプラから前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1、前記ファイバカプラから前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2、前記第1計測ヘッドの計測範囲の最大光路長R1max、前記第1戻り光と干渉させる第1参照光の光路長S1、前記第2戻り光と干渉させる第2参照光の光路長S2が、
D1+R1max-S1 < D2-S2
の関係を満たすように設定されて
おり、
前記処理部は、
前記干渉信号の周波数スペクトルにおけるピークの周波数に基づいて距離を計算するものであり、
第1の周波数範囲に存在するピークの周波数に基づいて、前記第1計測ヘッドによる計測距離を計算し、
前記第1の周波数範囲とは重ならない第2の周波数範囲に存在するピークの周波数に基づいて、前記第2計測ヘッドによる計測距離を計算し、
前記第2の周波数範囲に2つのピークが存在した場合に、エラーを出力する
ことを特徴とする光干渉計測装置。
【請求項2】
前記第1参照光は、前記第1光路に設けられた第1参照面にて前記第1計測光の一部が反射した光であり、
前記第2参照光は、前記第2光路に設けられた第2参照面にて前記第2計測光の一部が反射した光であり、
前記第1参照面から前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1´、前記第2参照面から前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2´が、
D1´+R1max < D2´
の関係を満たすように設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光干渉計測装置。
【請求項3】
前記第2参照面は、前記第2光路の途中に配置されている
ことを特徴とする請求項
2に記載の光干渉計測装置。
【請求項4】
前記第2光路は、第1光ファイバと第2光ファイバを連結することにより形成されており、
前記第2参照面は、前記第1光ファイバの前記第2光ファイバ側の端面である
ことを特徴とする請求項
3に記載の光干渉計測装置。
【請求項5】
前記第1参照光の光路と前記第2参照光の光路が同一であり、
前記ファイバカプラから前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1、前記ファイバカプラから前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2が、
D1+R1max < D2
の関係を満たすように設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の光干渉計測装置。
【請求項6】
計測光を出力する光源と、
前記計測光を照射し、計測対象で反射した戻り光を受光する計測部と、
前記戻り光と参照光との干渉信号を受光して電気信号に変換するディテクタと、
前記電気信号に基づいて、前記計測対象の距離、速度、又は、振動に関する情報を取得する処理部と、を有する光干渉計測装置において、
前記光源と前記計測部の間の光路に、前記光源からの前記計測光を分岐させるファイバカプラが設けられ、
前記計測部は、前記ファイバカプラで分岐した第1計測光が第1光路を介して入力される第1計測ヘッドと、前記ファイバカプラで分岐した第2計測光が第2光路を介して入力される第2計測ヘッドとを有し、
前記第1計測ヘッドで受光した第1戻り光は、前記第1光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、
前記第2計測ヘッドで受光した第2戻り光は、前記第2光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、
前記ファイバカプラから前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1、前記ファイバカプラから前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2、前記第1計測ヘッドの計測範囲の最大光路長R1max、前記第1戻り光と干渉させる第1参照光の光路長S1、前記第2戻り光と干渉させる第2参照光の光路長S2が、
D1+R1max-S1 < D2-S2
の関係を満たすように設定されており、
前記第2参照光は、前記第2光路に設けられた第2参照面にて前記第2計測光の一部が反射した光であり、
前記第2光路は、第1光ファイバと第2光ファイバを連結することにより形成されており、
前記第2参照面は、前記第1光ファイバの前記第2光ファイバ側の端面であり、
前記第2参照面の反射率は10%以下となるように形成されている
ことを特徴とする光干渉計測装置。
【請求項7】
計測光を出力する光源と、
前記計測光を照射し、計測対象で反射した戻り光を受光する計測部と、
前記戻り光と参照光との干渉信号を受光して電気信号に変換するディテクタと、
前記電気信号に基づいて、前記計測対象の距離、速度、又は、振動に関する情報を取得する処理部と、を有する光干渉計測装置において、
前記光源と前記計測部の間の光路に、前記光源からの前記計測光を分岐させるファイバカプラが設けられ、
前記計測部は、前記ファイバカプラで分岐した第1計測光が第1光路を介して入力される第1計測ヘッドと、前記ファイバカプラで分岐した第2計測光が第2光路を介して入力される第2計測ヘッドとを有し、
前記第1計測ヘッドで受光した第1戻り光は、前記第1光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、
前記第2計測ヘッドで受光した第2戻り光は、前記第2光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、
前記ファイバカプラから前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1、前記ファイバカプラから前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2、前記第1計測ヘッドの計測範囲の最大光路長R1max、前記第1戻り光と干渉させる第1参照光の光路長S1、前記第2戻り光と干渉させる第2参照光の光路長S2が、
D1+R1max-S1 < D2-S2
の関係を満たすように設定されており、
前記第2参照光は、前記第2光路に設けられた第2参照面にて前記第2計測光の一部が反射した光であり、
前記第2光路は、第1光ファイバと第2光ファイバを連結することにより形成されており、
前記第2参照面は、前記第1光ファイバの前記第2光ファイバ側の端面に部分反射ミラーを蒸着することにより形成され、または、前記第1光ファイバの前記第2光ファイバ側の端面を光軸に垂直なフラット面とし、前記第1光ファイバと前記第2光ファイバのあいだに空気層もしくは屈折率整合材を充填した領域を形成することにより形成されている
ことを特徴とする光干渉計測装置。
【請求項8】
前記第2参照面の反射率は10%以下となるように形成されている
ことを特徴とする請求項7に記載の光干渉計測装置。
【請求項9】
前記処理部は、前記干渉信号の周波数スペクトルにおけるピークの周波数に基づいて距離を計算するものであり、
第1の周波数範囲に存在するピークの周波数に基づいて、前記第1計測ヘッドによる計測距離を計算し、
前記第1の周波数範囲とは重ならない第2の周波数範囲に存在するピークの周波数に基
づいて、前記第2計測ヘッドによる計測距離を計算する
ことを特徴とする請求項
6~8のうちいずれか1項に記載の光干渉計測装置。
【請求項10】
前記処理部は、前記第2の周波数範囲に2つのピークが存在した場合に、エラーを出力する
ことを特徴とする請求項9に記載の光干渉計測装置。
【請求項11】
前記第1参照光は、前記第1光路に設けられた第1参照面にて前記第1計測光の一部が反射した光であり、
前記第1参照面から前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1´、前記第2参照面から前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2´が、
D1´+R1max < D2´
の関係を満たすように設定されている
ことを特徴とする請求項6~10のうちいずれか1項に記載の光干渉計測装置。
【請求項12】
前記第1参照面は、前記第1光路と前記第1計測ヘッドの接続部に配置されている
ことを特徴とする請求項2~4、11のうちいずれか1項に記載の光干渉計測装置。
【請求項13】
前記第1参照面は、前記第1光路を形成する光ファイバの前記第1計測ヘッド側の端面である
ことを特徴とする請求項12に記載の光干渉計測装置。
【請求項14】
前記第1参照面の反射率は10%以下となるように形成されている
ことを特徴とする請求項13に記載の光干渉計測装置。
【請求項15】
前記第1参照面は、前記第1光路を形成する光ファイバの端面に部分反射ミラーを蒸着することにより形成され、または、前記第1光路を形成する光ファイバの端面を光軸に垂直なフラット面とし、前記第1光路を形成する光ファイバと前記第1計測ヘッドのあいだに空気層もしくは屈折率整合材を充填した領域を形成することにより形成されている
ことを特徴とする請求項13または14に記載の光干渉計測装置。
【請求項16】
前記光源と前記ファイバカプラの間に、前記光源への光の進入を防ぐ光アイソレータが設けられている
ことを特徴とする請求項1~15のうちいずれか1項に記載の光干渉計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光干渉を利用した測距技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コヒーレントな計測光を計測対象に照射し、その反射光(戻り光)と参照光の干渉信号に基づいて、距離、速度、振動などを計測する技術が知られている。特許文献1では、OCT(Optical Coherence Tomography)装置において、1つの光源から出力された計測光をN分岐させて、N個の光学系により並列に計測を行う構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の計測対象を同時に計測可能なマルチチャネルの計測装置に対するニーズが高い。しかし、特許文献1の装置のように、参照光の光学部品、ディテクタ、AD変換器などをチャネル毎に設ける構成では、部品点数がN倍に増えてしまうため、装置の大型化、構造の複雑化、コストの増加などの問題を生じ、実用性に欠ける。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、装置の大型化を招くことなく、低いコストで、マルチチャネルの光干渉計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、計測光を出力する光源と、前記計測光を照射し、計測対象で反射した戻り光を受光する計測部と、前記戻り光と参照光との干渉信号を受光して電気信号に変換するディテクタと、前記電気信号に基づいて、前記計測対象の距離、速度、又は、振動に関する情報を取得する処理部と、を有する光干渉計測装置において、前記光源と前記計測部の間の光路に、前記光源からの前記計測光を分岐させるファイバカプラが設けられ、前記計測部は、前記ファイバカプラで分岐した第1計測光が第1光路を介して入力される第1計測ヘッドと、前記ファイバカプラで分岐した第2計測光が第2光路を介して入力される第2計測ヘッドとを有し、前記第1計測ヘッドで受光した第1戻り光は、前記第1光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、前記第2計測ヘッドで受光した第2戻り光は、前記第2光路及び前記ファイバカプラを介して前記ディテクタに導かれ、前記ファイバカプラから前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1、前記ファイバカプラから前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2、前記第1計測ヘッドの計測範囲の最大光路長R1max、前記第1戻り光と干渉させる第1参照光の光路長S1、前記第2戻り光と干渉させる第2参照光の光路長S2が、
D1+R1max-S1 < D2-S2
の関係を満たすように設定されていることを特徴とする光干渉計測装置を含む。
【0007】
この構成により、第1計測ヘッドと第2計測ヘッドが、ファイバカプラの前段の構成(光源、ディテクタ、処理部)を共用することができる。換言すると、一組の光源及び信号処理系によって、複数の計測ヘッドによるマルチチャネルの計測が可能となる。また、第1計測ヘッドの計測系の光路長と第2計測ヘッドの計測系の光路長が上記関係式を満たすように設定したことで、干渉信号の周波数スペクトルにおいて、第1計測ヘッドの計測範囲に対応する第1の周波数範囲と、第2計測ヘッドの計測範囲に対応する第2の周波数範
囲とが完全に分離する。これにより、1つの干渉信号の周波数スペクトルから各計測ヘッドの測距結果を抽出することが容易になる。
【0008】
前記第1参照光は、前記第1光路に設けられた第1参照面にて前記第1計測光の一部が反射した光であり、前記第2参照光は、前記第2光路に設けられた第2参照面にて前記第2計測光の一部が反射した光であってもよい。このような構成により、参照光と戻り光の光路を同一にできるため、温度変化や振動の影響を相殺でき、頑健性を向上することができる。この構成の場合には、前記第1参照面から前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1´、前記第2参照面から前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2´が、
D1´+R1max < D2´
の関係を満たすように設定されているとよい。また、前記第1参照面は、前記第1光路と前記第1計測ヘッドの接続部に配置されていてもよい。また、前記第1参照面は、前記第1光路を形成する光ファイバの前記第1計測ヘッド側の端面であってもよい。また、前記第2参照面は、前記第2光路の途中に配置されていてもよい。例えば、前記第2光路は、第1光ファイバと第2光ファイバを連結することにより形成されており、前記第2参照面は、前記第1光ファイバの前記第2光ファイバ側の端面であってもよい。
【0009】
前記第1参照光の光路と前記第2参照光の光路が同一であってもよい。この構成の場合には、前記ファイバカプラから前記第1計測ヘッドの先端までの光路長D1、前記ファイバカプラから前記第2計測ヘッドの先端までの光路長D2が、
D1+R1max < D2
の関係を満たすように設定されているとよい。
【0010】
前記光源と前記ファイバカプラの間に、前記光源への光の進入を防ぐ光アイソレータが設けられているとよい。これによりファイバカプラを経由して戻り光や干渉信号が光源に進入することを防止できるため、ノイズの発生を抑制し、計測精度の向上を図ることができる。
【0011】
前記処理部は、前記干渉信号の周波数スペクトルにおけるピークの周波数に基づいて距離を計算するものであり、第1の周波数範囲に存在するピークの周波数に基づいて、前記第1計測ヘッドによる計測距離を計算し、前記第1の周波数範囲とは重ならない第2の周波数範囲に存在するピークの周波数に基づいて、前記第2計測ヘッドによる計測距離を計算してもよい。
【0012】
前記処理部は、前記第2の周波数範囲に2つのピークが存在した場合に、エラーを出力してもよい。これにより、誤った計測結果が出力されることを防止できるため、光干渉計測装置の信頼性を向上することができる。
【0013】
本発明は、上記構成の少なくとも一部を有する光干渉計測装置、距離計測装置、測距センサなどとして捉えることができる。なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、装置の大型化を招くことなく、低いコストで、マルチチャネルの光干渉計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、光干渉計測装置の基本構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2Aは干渉信号の周波数スペクトルの例を示す図であり、
図2Bは関係式(1)を満たさない場合の干渉信号の周波数スペクトルの例(比較例)を示す図である。
【
図3】
図3Aは第1計測ヘッドの計測系に関わる光路長を示す図であり、
図3Bは第2計測ヘッドの計測系に関わる光路長を示す図である。
【
図4】
図4は、光干渉計測装置の外観を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の光干渉計測装置の構成を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、第2参照面が形成されている光ファイバの連結部の断面図である。
【
図7】
図7は、処理部の演算処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第2実施形態の光干渉計測装置の構成を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態の光干渉計測装置の構成を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、第2計測ヘッドの計測範囲に対応する周波数範囲に2つのピークが現れた例を示す図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態における処理部の演算処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<適用例>
図1を参照して、本発明を適用した光干渉計測装置の基本構成と動作の一例を説明する。
【0017】
光干渉計測装置1は、光干渉を利用して計測対象の距離、速度、又は振動を計測するための装置である。光干渉計測装置1は、主な構成として、計測部10、計測光L1を出力する計測光源11、ファイバカプラ13、光アイソレータ14、ディテクタ15、処理部16、AD変換器17、光ファイバF1~F4を有している。計測部10は、独立して計測(計測光の照射及び戻り光の受光)が可能な複数の計測ヘッドを備えている。
図1では、一例として、第1計測ヘッドH1と第2計測ヘッドH2の2つの計測ヘッドを設けているが、3つ以上の計測ヘッドを設けてもよい。また
図1では、一例としてフィゾー型の干渉計を用いているが、マッハツェンダー型やマイケルソン型の干渉計を用いてもよい。
【0018】
計測光源11から出力された計測光L1は光ファイバF1を介してファイバカプラ(分岐器)13に入力され、第1計測光L11と第2計測光L12に分岐される。第1計測光L11は、光ファイバ(第1光路)F2を介して第1計測ヘッドH1へと導かれ、第1計測ヘッドH1から計測対象O1に投射される。第2計測光L12は、光ファイバ(第2光路)F3を介して第2計測ヘッドH2へと導かれ、第2計測ヘッドH2から計測対象O2に投射される。
【0019】
計測対象O1で反射し第1計測ヘッドH1で受光された光は、第1戻り光L31として光ファイバF2に導かれる。一方、第1計測光L11の一部が、第1参照面RP1で反射し、第1参照光L41として光ファイバF2に導かれる。第1戻り光L31と第1参照光L41は第1参照面RP1で干渉し、その干渉信号(ビート信号)がファイバカプラ13に入力される。
【0020】
計測対象O2で反射し第2計測ヘッドH2で受光された光は、第2戻り光L32として光ファイバF3に導かれる。一方、第2計測光L12の一部が、第2参照面RP2で反射し、第2参照光L42として光ファイバF3に導かれる。第2戻り光L32と第2参照光L42は第2参照面RP2で干渉し、その干渉信号(ビート信号)がファイバカプラ13に入力される。
【0021】
第1計測ヘッドH1側の干渉信号と第2計測ヘッドH2側の干渉信号はファイバカプラ13内で合流し、干渉信号L5としてディテクタ15に入力される。この干渉信号L5は、ディテクタ15で光電変換された後、AD変換器17を介して処理部16へと入力される。干渉信号L5は、第1戻り光L31と第1参照光L41のあいだの光路長差、すなわ
ち計測対象O1の距離に応じた周波数成分と、第2戻り光L32と第2参照光L42のあいだの光路長差、すなわち計測対象O2の距離に応じた周波数成分の両方を含む。
図2Aは、干渉信号L5の周波数スペクトルの例である(横軸:周波数、縦軸:強度)。計測対象O1と計測対象O2のそれぞれの距離に応じた周波数にピークが現れていることがわかる。したがって、処理部16において干渉信号L5を周波数解析することによって、計測対象O1及び計測対象O2の距離、速度、振動などの情報を得ることができる。
【0022】
(光路長の設定)
ここで、ファイバカプラ13から第1計測ヘッドH1の先端までの光路長をD1、ファイバカプラ13から第2計測ヘッドH2の先端までの光路長をD2、第1計測ヘッドH1の計測範囲の最大光路長をR1max、第1参照光L41の光路長をS1、第2参照光L42の光路長をS2としたときに、
D1+R1max-S1 < D2-S2 (1)
の関係が満たされるように、各部品の光路長が設定されているとよい。
【0023】
なお、「光路長」は、光が実際に進む距離に屈折率をかけたものであり、光学的距離とも呼ばれる。「参照光の光路長」は、参照光が光源から発せられてから戻り光と合流するまでのトータルの光路長をいい、
図1の第1参照光L41の場合は、計測光源11から第1参照面RP1までの光路長が該当し、第2参照光L42の場合は、計測光源11から第2参照面RP2までの光路長が該当する。また、「戻り光の光路長」は、計測光が光源から発せられてから参照光と合流するまでのトータルの光路長をいう。
【0024】
図2A、
図2B、
図3A、
図3Bを参照して、上記関係式(1)の意義について説明する。
図2Aは干渉信号L5の周波数スペクトルの例を示す図であり、
図2Bは関係式(1)を満たさない場合の干渉信号L5の周波数スペクトルの例(比較例)を示す図である。
図3Aは第1計測ヘッドH1の計測系に関わる光路長を示しており、
図3Bは第2計測ヘッドH2の計測系に関わる光路長を示している。
【0025】
図2A、
図2Bにおいて斜体で示した記号は下記の周波数を表す。
f11:第1計測ヘッドH1の計測範囲の最小光路長に対応する周波数
f12:第1計測ヘッドH1の計測範囲の最大光路長に対応する周波数
f21:第2計測ヘッドH2の計測範囲の最小光路長に対応する周波数
f22:第2計測ヘッドH2の計測範囲の最大光路長に対応する周波数
【0026】
図3A、
図3Bにおいて斜体で示した記号は下記の光路長を表す。
D1:ファイバカプラ13から第1計測ヘッドH1の先端までの光路長
D2:ファイバカプラ13から第2計測ヘッドH2の先端までの光路長
S1:第1参照光L41の光路長
S2:第2参照光L42の光路長
D1´:第1参照面RP1から第1計測ヘッドH1の先端までの光路長
D2´:第2参照面RP2から第2計測ヘッドH2の先端までの光路長
R1max:第1計測ヘッドH1の計測範囲の最大光路長
R2max:第2計測ヘッドH2の計測範囲の最大光路長
d
c:計測光源11からファイバカプラ13までの光路長
d
RP1:ファイバカプラ13から第1参照面RP1までの光路長
d
RP2:ファイバカプラ13から第2参照面RP2までの光路長
d
O1:第1計測ヘッドH1の先端から計測対象O1までの光路長
d
O2:第2計測ヘッドH2の先端から計測対象O2までの光路長
【0027】
図3Aにおいて、第1戻り光L31の光路長M1は、
M1=d
c+D1+d
O1+d
O1+(D1-d
RP1)
となり、第1参照光L41の光路長S1は、
S1=d
c+d
RP1
となり、第1戻り光L31と第1参照光L41の光路長差Δd1は、
Δd1=M1-S1
=2×(D1+d
O1-d
RP1)
となる。
【0028】
同じように、
図3Bにおいて、第2戻り光L32の光路長M2は、
M2=d
c+D2+d
O2+d
O2+(D2-d
RP2)
となり、第2参照光L42の光路長S2は、
S2=d
c+d
RP2
となり、第2戻り光L32と第2参照光L42の光路長差Δd2は、
Δd2=M2-S2
=2×(D2+d
O2-d
RP2)
となる。
【0029】
第1計測ヘッドH1の計測範囲は0~R1maxであるため、光路長差Δd1の最小値・最大値はそれぞれ、
Δd1min=2×(D1-dRP1)
Δd1max=2×(D1+R1max-dRP1)
となる。
【0030】
同様に、光路長差Δd2の最小値・最大値はそれぞれ、
Δd2min=2×(D2-dRP2)
Δd2max=2×(D2+R2max-dRP2)
となる。
【0031】
干渉信号L5の周波数(ビート周波数)は、戻り光と参照光の光路長差に比例するため、比例定数をkとおくと、
図2Aの周波数f11、f12、f21、f22は以下のように表すことができる。
f11=2×k×(D1-d
RP1)
f12=2×k×(D1+R1max-d
RP1)
f21=2×k×(D2-d
RP2)
f22=2×k×(D2+R2max-d
RP2)
【0032】
ここで、関係式(1)に、
S1=dc+dRP1
S2=dc+dRP2
を代入し、整理すると、
D1+R1max-dRP1 < D2-dRP2
となるので、
f12 < f21 (2)
が成立することがわかる。
【0033】
式(2)が成立する場合には、
図2Aに示すように、第1計測ヘッドH1の計測範囲に対応する第1の周波数範囲f11~f12と、第2計測ヘッドH2の計測範囲に対応する第2の周波数範囲f21~f22とが完全に分離する。したがって、1つの干渉信号L5
の周波数スペクトルから複数の計測ヘッドH1、H2の測距結果を抽出することが可能である。
【0034】
(比較例)
これに対し、もし関係式(1)を満たさない場合には、
f12 ≧ f21
となり、
図2Bの比較例に示すように、第1計測ヘッドH1の計測範囲に対応する周波数範囲と第2計測ヘッドH2の計測範囲に対応する周波数範囲が重なってしまう。それゆえ、例えば
図2Bのようにf21~f12の間にピークが現れた場合には、そのピークがどちらの計測ヘッドの測距結果なのか判別できず、マルチヘッドによる同時計測を実現することができないという問題が生ずる。
【0035】
(利点)
以上述べた構成によれば、複数の計測ヘッドH1、H2が、ファイバカプラ13の前段の構成を共用することができる。換言すると、一組の信号処理系(ディテクタ15、AD変換器17、処理部16)によって、複数の計測ヘッドH1、H2によるマルチチャネルの計測が可能である。また、光路長の設定を工夫することで各チャネルの信号の周波数分離を容易化したので、信号処理系の構成もシンプルで済む。したがって、チャネル毎に信号処理系が必要であった従来装置に比べて、コンパクト且つ低コストなマルチチャネル型光干渉計測装置を実現することができる。
【0036】
なお、チャネル数(ヘッド数)を増やしたい場合は、N分岐(N>2)のファイバカプラ13を用いるか、ファイバカプラ13をカスケード接続することによって、光路を3つ以上に分岐させ、計測ヘッドを追加すればよい。この場合に、i番目の計測系に関わる光路長と(i+1)番目の計測系に関わる光路長が、式(1)の関係(ただし、式(1)における第1計測ヘッドの計測系に関わる変数をi番目の計測系のものに読み替え、第2計測ヘッドの計測系に関わる変数を(i+1)番目の計測系のものに読み替える。)を満たすように設定されていれば、全てのチャネルの周波数を分離することができる。
【0037】
ところで、
図1、
図3A、
図3Bに示すように、各計測ヘッドH1、H2に計測光L11、L12を導くための光路上に参照面RP1、RP2が設けられている構成の場合、式(1)は下記式(1´)のように整理できる。
D1´+R1max < D2´ (1´)
ここで、D1´は、第1参照面RP1から第1計測ヘッドH1の先端までの光路長であり、D2´は、第2参照面RP2から第2計測ヘッドH2の先端までの光路長である。
【0038】
以下、光干渉計測装置1の具体的な構成例を示す。各構成例の図面において、
図1の基本構成と対応する部分には同じ符号を付すものとする。
【0039】
<第1実施形態>
図4及び
図5を参照して、第1実施形態に係る光干渉計測装置の構成を説明する。
図4は、光干渉計測装置の外観を模式的に示す図であり、
図5は、光干渉計測装置の構成を模式的に示す図である。
【0040】
本実施形態の光干渉計測装置1は、コヒーレントFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)によって計測対象O1、O2の測距を行う装置である。光干渉計測装置1
は、概略、コントローラ(装置本体)20と複数の計測ヘッドH1、H2を有しており、計測ヘッドH1、H2の先端にて計測光の照射及び反射光の受光を行う。計測ヘッドH1
、H2をまとめて計測部10と呼ぶ。コントローラ20は、主な構成として、計測光L1を出力する計測光源11、ファイバカプラ13、光アイソレータ14、ディテクタ15、処理部16、AD変換器17、ファイバカプラ30~32、差分ディテクタ33、クロック発生器34、光ファイバF1~F8を有している。
【0041】
ファイバカプラ13、計測部10、及び、光ファイバF2~F3によってフィゾー型の主干渉計MIが構成され、また、ファイバカプラ31、32、及び、光ファイバF7、F8によって副干渉計SIが構成されている。主干渉計MIは計測用の干渉計であり、副干渉計SIは計測光源11の特性を補正するための干渉計である。
【0042】
計測光源11は、コヒーレントな計測光L1を出力可能な光源であり、FMCWのために計測光L1の波長を時間的に掃引可能な波長掃引光源が用いられる。波長掃引光源には、例えば、電流変調方式のVCSEL、MEMS駆動方式のVCSEL、SSG-DBRなどがあり、いずれの方式の光源を用いてもよい。本実施形態では、低コストという利点から、電流変調方式のVCSELを用いる。計測光L1としては、例えば、波長1310nm~1550nm程度の近赤外線レーザーが用いられる。また本実施形態では、三角波による波長掃引を行うが、正弦波、のこぎり波、その他の波形により波長掃引を行ってもよい。
【0043】
光アイソレータ14は、光を1方向にのみ通す素子である。光アイソレータ14によって、主干渉計MIから計測光源11へ光(戻り光や干渉信号)が進入することを防ぐことで、ノイズの発生を抑制し、計測精度の向上を図ることができる。
【0044】
ファイバカプラ30は、1入力×2出力のシングルモードファイバカプラである。光ファイバF1を介して入力された計測光L1はファイバカプラ30で分岐され、光ファイバF5を介して主干渉計MIへ、光ファイバF6を介して副干渉計SIへとそれぞれ導かれる。
【0045】
ファイバカプラ13は、2入力×2出力、カップリング比50%のシングルモードファイバカプラである。光ファイバF5を介して入力された計測光L1はファイバカプラ13で第1計測光L11と第2計測光L12に分岐され、第1計測光L11は光ファイバF2を介して第1計測ヘッドH1へ導かれ、第2計測光L12は光ファイバF3を介して第2計測ヘッドH2へ導かれる。また、光ファイバF2を介して入力される干渉信号と光ファイバF3を介して入力される干渉信号がファイバカプラ13内で合流し、干渉信号L5が光ファイバF4を介してディテクタ15に導かれる。なお、ファイバカプラの構造上、干渉信号は光ファイバF5側へも出力されてしまうが、光アイソレータ14によって計測光源11への光の進入が防止されているため特に問題とならない。
【0046】
第1計測ヘッドH1は、第1計測光L11の計測対象O1への投射、及び、計測対象O1で反射した光の受光を行うユニットである。第1計測ヘッドH1は、例えば、直径約1.5cm、長さ約3cmの円筒形又は角型の鏡筒内に光学系H1aが設けられた構造を有する。光学系H1aは、平行ビームを投射するためのコリメートレンズでもよいし、計測対象O1上の計測位置にビームを収束させるための集光レンズでもよい。
【0047】
ファイバカプラ13と第1計測ヘッドH1のあいだの光路には第1参照面RP1が設けられている。本実施形態では、光ファイバF2と第1計測ヘッドH1の接続部に第1参照面RP1が形成されている。第1参照面RP1は、第1計測光L11の一部を反射して第1参照光L41を形成するための構造である。このような構成により、第1参照光L41と第1戻り光L31の光路を同じ光ファイバF2で構成できるため、温度変化や振動の影響を相殺でき、頑健性を向上することができる。
【0048】
第1参照光L41の光量が大きいと、ショットノイズなどのシグナル量と共に増加するノイズが原因により、SNが悪くなる。それゆえ、第1参照面RP1の反射率は50%よりも小さい方が好ましく、10%以下であることがより好ましい。第1参照面RP1の形成方法は特に限定されない。例えば、光ファイバF2の端面に部分反射ミラーを蒸着することによって第1参照面RP1を形成してもよい。あるいは光ファイバF2の端面を光軸に垂直なフラット面とし、光ファイバF2と第1計測ヘッドH1のあいだに空気層あるいは屈折率整合材を充填した領域を形成し、屈折率の界面で起きるフレネル反射を利用してもよい。あるいは、計測ヘッドH1の光学系H1aにおけるレンズ表面での反射を利用してもよい。
【0049】
計測対象O1で反射し第1計測ヘッドH1で受光された第1戻り光L31と、第1参照面RP1で反射した第1参照光L41とは、第1参照面RP1から計測対象O1までの光路長の2倍に対応する位相差をもつ。そのため、第1参照面RP1で第1戻り光L31と第1参照光L41とが干渉し、その位相差に応じた周波数成分をもつ干渉信号(ビート信号)が発生する。
【0050】
第2計測ヘッドH2は、第2計測光L12の計測対象O2への投射、及び、計測対象O2で反射した光の受光を行うユニットである。第2計測ヘッドH2は、例えば、直径約1.5cm、長さ約3cmの円筒形又は角型の鏡筒内に光学系H2aが設けられた構造を有する。第2計測ヘッドH2の構造は第1計測ヘッドH1と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0051】
ファイバカプラ13と第2計測ヘッドH2のあいだの光路の途中に第2参照面RP2が設けられている。第2参照面RP2は、第2計測光L12の一部を反射して第2参照光L42を形成するための構造である。このような構成により、第2参照光L42と第2戻り光L32の光路を同じ光ファイバF3で構成できるため、温度変化や振動の影響を相殺でき、頑健性を向上することができる。
【0052】
計測対象O2で反射し第2計測ヘッドH2で受光された第2戻り光L32と、第2参照面RP2で反射した第2参照光L42とは、第2参照面RP2から計測対象O2までの光路長の2倍に対応する位相差をもつ。そのため、第2参照面RP2で第2戻り光L32と第2参照光L42とが干渉し、その位相差に応じた周波数成分をもつ干渉信号(ビート信号)が発生する。第1計測ヘッドH1側の干渉信号と第2計測ヘッドH2側の干渉信号はファイバカプラ13内で合流し、干渉信号L5としてディテクタ15へと導かれる。
【0053】
ここで、ファイバカプラ13から第1計測ヘッドH1の先端までの光路長D1、ファイバカプラ13から第2計測ヘッドH2の先端までの光路長D2、第1計測ヘッドH1の計測範囲の最大光路長R1max、第1参照光L41の光路長S1、第2参照光L42の光路長S2は、前述した関係式(1)を満たすような値に設定されている。
【0054】
図6を参照して、第2参照面RP2の構成例を説明する。
図6は、第2参照面RP2が形成されている光ファイバの連結部の断面図である。この例では、ファイバカプラ13と第2計測ヘッドH2のあいだの光路(F3)を2本の光ファイバを連結した構造とし、その連結部に第2参照面RP2が形成されている。
図6の符号F3a、F3bは光ファイバ、60はコア、61はクラッド、62a、62bはファイバコネクタ、63はアダプタを示している。
【0055】
2本の光ファイバF3a、F3bは、それぞれの端部に取り付けられたファイバコネクタ62a、62bをアダプタ63に装着することで連結される。ここで、ファイバカプラ
13側の第1光ファイバF3aのコア60の端面には、部分反射ミラーが蒸着されている。これにより、第2計測光L12の一部が第1光ファイバF3aの端面で反射し、第2参照光L42となる。第2参照光L42の光量が大きいと、ショットノイズなどのシグナル量と共に増加するノイズが原因により、SNが悪くなる。それゆえ、第2参照面RP2の反射率は50%よりも小さい方が好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0056】
第2参照面RP2の形成方法は特に限定されない。例えば、光ファイバF3aの端面を光軸に垂直なフラット面とし、光ファイバF3aと光ファイバF3bのあいだに空気層あるいは屈折率整合材を充填した領域を形成し、屈折率の界面で起きるフレネル反射を利用してもよい。
【0057】
ディテクタ15は、光ファイバF4から入力される干渉信号L5を電気信号に変換する光電変換素子である。ディテクタ15は、例えば、フォト・ダイオード、I-V変換回路、信号増幅器、フィルタ回路などで構成される。AD変換器17は、ディテクタ15で得られた電気信号をデジタル信号に変換する。AD変換器17のサンプリングは、クロック発生器34から与えられるクロック信号に従って行われる。
【0058】
処理部16は、AD変換された干渉信号を周波数解析し、計測対象O1及びO2の距離、速度、振動など(以後まとめて距離情報と呼ぶ)を計算するユニットである。処理部16は、主な機能として、FFT(高速フーリエ変換)部160、距離計算部161、出力部162を有する。FFT部160は、干渉信号L5をフーリエ変換して周波数スペクトルを取得する機能であり、距離計算部161は、周波数スペクトルのピークの周波数に基づいて距離情報を計算する機能であり、出力部162は演算結果を出力する機能である。図示しないが、処理部16の演算結果である距離、速度、振動などの情報は外部装置(例えばPLC(programmable logic controller)、ロボット、検査装置、上位のコンピュ
ータなど)に出力され、FA機器の制御や各種検査などに利用される。
【0059】
処理部16は、例えば、プロセッサとメモリを備えた演算処理装置によって構成される。プロセッサには、CPU(central processing unit)やMPU(micro processing unit)などの汎用プロセッサを用いてもよいし、FPGA(field-programmable gate array)やASIC(application specific integrated circuit)などの専用プロセッサを用いてもよい。
【0060】
ファイバカプラ31及び32はともにカップリング比50%のシングルモードファイバカプラである。光ファイバF7と光ファイバF8とのあいだに所定の光路長差を設けることにより、副干渉計SIが構成されている。光ファイバF6から副干渉計SIに入力された計測光L1は、ファイバカプラ31で分岐した後、ファイバカプラ32で合流する。このとき光ファイバF7経由の光と光ファイバF8経由の光がファイバカプラ32内で干渉し、ファイバカプラ32の2つの出力ポートから、三角波に互いに逆位相の干渉信号が重畳された信号が出力される。差分ディテクタ33(バランスフォトディテクタとも呼ばれる)は、副干渉計SIから出力された信号をそれぞれ電気信号に変換し、2つの信号の差分を出力する。この操作により、2つの信号の間の三角波とレーザノイズが相殺され、且つ、干渉信号成分が増幅されるので、SNの良い干渉信号を得ることができる。クロック発生器34は、差分ディテクタ33で得られた干渉信号のゼロクロス時間からクロック信号を発生する回路である。
【0061】
計測光源11で計測光の波長を掃引する際に、時間的な波長の変化(傾き)を線形にすることが理想である。波長掃引が線形でないと、干渉信号のビート周波数が一定でなくなり、測距精度の低下につながるからである。しかし実際は、波長を線形に掃引することは難しい。また、線形からの乖離度合いは、計測光源の個体の特性に依存するため、事前に
補正をかけることも難しい。
【0062】
そこで、本実施形態では、計測光源11の波長掃引の非線形性を補正するために、上記のように、副干渉計SIを用いてAD変換器17のサンプリングクロックを生成する。このサンプリングクロックは、計測光源11から実際に出力された計測光から生成されているため、計測光の波長掃引の傾きに従った不等間隔のクロック信号となる。このサンプリングクロックを用いて主干渉計MIの干渉信号を不等間隔時間でサンプリングすることによって、等間隔位相でサンプリングしたのと等価な結果を得ることができる。これにより、周波数解析の信頼性の向上、並びに、測距精度の向上を図ることができる。
【0063】
なお、波長掃引の非線形性の補正は他の手法を用いてもよい。例えば、処理部16が、副干渉計SIの干渉信号に基づいて波長掃引の傾き(非線形性)を推定し、AD変換器17で等間隔時間でサンプリングされた主干渉計MIの干渉信号を内挿して、等間隔位相の干渉信号を生成してもよい。あるいは、計測光源11の波長掃引用の制御信号にあらかじめ逆方向の歪みを与え、光源特性と相殺させることで、計測光源11から出力される計測光の線形性を担保してもよい。
【0064】
図7は、処理部16の演算処理の一例を示すフローチャートである。
図7の演算処理は、計測1回分の干渉信号L5が取り込まれる毎に実行される。
【0065】
ステップS70において、FFT部160が、干渉信号をフーリエ変換し、周波数スペクトルを得る。
図2Aの例のように、周波数スペクトルには、計測対象O1と計測対象O2のそれぞれの距離に応じた周波数にピークが現れる(計測対象が存在しない場合にはピークは現れない)。
【0066】
ステップS71において、距離計算部161が、スペクトルのピークを検出し、各ピークの周波数を特定する。例えば、距離計算部161は、スペクトルの強度が所定の閾値を超える周波数をピーク周波数として検出してもよい。なお、ピークの検出やピーク周波数の特定にはどのような方法を用いてもよい。
【0067】
ステップS72において、距離計算部161は、第1計測ヘッドH1の計測範囲に対応する第1の周波数範囲f11~f12に含まれるピークの周波数から、計測対象O1の距離を計算する。また、ステップS73において、距離計算部161は、第2計測ヘッドH2の計測範囲に対応する第2の周波数範囲f21~f22に含まれるピークの周波数から、計測対象O2の距離を計算する。例えば、距離計算部161は、周波数-距離変換のための関数ないしLUT(ルックアップテーブル)を、第1計測ヘッドH1用と第2計測ヘッドH2用の2種類もち、ピークが現れた周波数範囲に応じて計算に用いる関数ないしLUTを切り替えるとよい。
【0068】
ステップS74において、出力部162が、距離計算部161により計算された計測対象O1、O2の距離情報を出力する。
【0069】
以上述べた構成によれば、チャネル毎に信号処理系が必要であった従来装置に比べて、コンパクト且つ低コストなマルチチャネル型光干渉計測装置を実現することができる。
【0070】
<第2実施形態>
図8に第2実施形態の光干渉計測装置の構成を示す。第2実施形態では主干渉計MIにマッハツェンダー型の干渉計を用いている点が、前述の構成例とは異なる。
【0071】
主干渉計MIは、ファイバカプラ70、13、71、光ファイバF2、F3、F70~
F72、第1計測ヘッドH1、第2計測ヘッドH2を有している。また、前述の構成例におけるディテクタ15の代わりに差分ディテクタ72が設けられている。
【0072】
光ファイバF5を介して入力された計測光L1は、ファイバカプラ70(分岐器)で分岐され、光ファイバF70とF71にそれぞれ導かれる。光ファイバF70側に分岐した計測光L1は、ファイバカプラ13でさらに分岐し、第1計測ヘッドH1と第2計測ヘッドH2に導かれ、計測対象O1、O2に投射される。計測対象O1で反射した第1戻り光L31と計測対象O2で反射した第2戻り光L32はファイバカプラ13で合流し、結合した戻り光L72が光ファイバF72を介してファイバカプラ71に入力される。他方、ファイバカプラ70において光ファイバF71側に分岐した計測光は、参照光L71として、ファイバカプラ71に入力される。そして、戻り光L72と参照光L71がファイバカプラ71内で干渉し、ファイバカプラ71の2つの出力ポートから、三角波に互いに逆位相の干渉信号が重畳された信号L5が出力される。差分ディテクタ72では、主干渉計MIから出力された信号L5をそれぞれ電気信号に変換し、2つの信号の差分を出力する。この操作により、SNの良い干渉信号を得ることができる。
【0073】
本実施形態の構成では、参照光L71が、第1戻り光L31と干渉させる第1参照光と、第2戻り光L32と干渉させる第2参照光を兼ねている。すなわち、第1参照光の光路と第2参照光の光路が同一であるとみなすことができる。したがって、関係式(1)における第1参照光の光路長S1と第2参照光の光路長S2は、S1=S2となり、その結果、下記式(1″)のように整理できる。
D1+R1max < D2 (1″)
【0074】
ファイバカプラ13から第1計測ヘッドH1の先端までの光路長D1と、ファイバカプラ13から第2計測ヘッドH2の先端までの光路長D2とを、式(1″)を満たすように設定することで、マルチチャネルの光干渉計測装置をコンパクト且つ低コストに実現することができる。
【0075】
<第3実施形態>
図9に第3実施形態の光干渉計測装置の要部を示す。第3実施形態では主干渉計MIにマイケルソン型の干渉計を用いている点が、前述の構成例とは異なる。
【0076】
この構成例では、計測光L1がファイバカプラ80で分岐され、光ファイバF80とF81にそれぞれ導かれる。光ファイバF80側に分岐した計測光L1は、ファイバカプラ13でさらに分岐し、第1計測ヘッドH1と第2計測ヘッドH2に導かれ、計測対象O1、O2に投射される。計測対象O1で反射した第1戻り光L31と計測対象O2で反射した第2戻り光L32はファイバカプラ13で合流し、結合した戻り光が光ファイバF80を介してファイバカプラ80に入力される。他方、ファイバカプラ80において光ファイバF81側に分岐した計測光は、リフレクタ81(参照面RP)によって反射され、参照光L80として、ファイバカプラ80に入力される。そして、戻り光と参照光L80がファイバカプラ80内で干渉し、干渉信号L5が光ファイバF82を介してディテクタ15へと導かれる。以後の処理は前述の構成例と同じである。
【0077】
本実施形態の構成では、参照光L80が、第1戻り光L31と干渉させる第1参照光と、第2戻り光L32と干渉させる第2参照光を兼ねている。すなわち、第1参照光の光路と第2参照光の光路が同一であるとみなすことができる。したがって、本実施形態の場合も、ファイバカプラ13から第1計測ヘッドH1の先端までの光路長D1と、ファイバカプラ13から第2計測ヘッドH2の先端までの光路長D2とを、式(1″)を満たすよう
に設定することで、マルチチャネルの光干渉計測装置をコンパクト且つ低コストに実現することができる。
【0078】
<第4実施形態>
第1計測ヘッドH1の計測範囲を超えた位置に計測対象O1が存在すると、理論上は、
図10に示すように、計測対象O1に対応するピークが第2の周波数範囲f21~f22のあいだに現れる可能性がある(実際は、計測対象O1までの距離が長くなると戻り光のSNが悪くなるので、閾値を超えるピークにはならず、問題とならないケースも多い。)。もし、第2の周波数範囲f21~f22のあいだに2つのピークが存在する場合には、どちらのピークが計測対象O2のものか判別がつかない。そこで第4実施形態では、第2の周波数範囲f21~f22に2つのピークが存在した場合にエラーを出力するという構成を採用する。なお、計測対象O2に対応するピークが第1の周波数範囲f11~f12のあいだに現れる可能性は無いため(物理的な制約から第2計測ヘッドH2と計測対象O2の距離がマイナスになることは無いため)、第1の周波数範囲f11~f12に2つのピークが存在するケースは考えなくてよい。
【0079】
図11は、第4実施形態における処理部16の演算処理のフローチャートである。
図7のフローチャートと共通する処理には同じステップ番号を付している。本実施形態では、ステップS71でピークを検出した後、ステップS110において、距離計算部161が、第2の周波数範囲f21~f22のあいだにピークが2つ以上存在するか否かをチェックする。ピークが1つ以下の場合、
図7の演算処理と同様、ステップS72~S74の処理を実行する。もし、第2の周波数範囲f21~f22のあいだに2つ以上のピークが存在していた場合には、出力部162が計測エラーを示すアラートを出力し(ステップS111)、処理を終了する。
【0080】
本実施形態で述べた構成によれば、誤った計測結果が出力されることを防止できるため、光干渉計測装置1の信頼性を向上することができる。
【0081】
<その他>
上記実施形態は、本発明の構成例を例示的に説明するものに過ぎない。本発明は上記の具体的な形態には限定されることはなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上述した第1~第4実施形態の構成は、3つ以上の計測ヘッドをもつ構成にも拡張が可能である。
【0082】
<付記1>
計測光(L1)を出力する光源(11)と、
前記計測光(L11,L12)を照射し、計測対象(O1,O2)で反射した戻り光(L31,L32)を受光する計測部(10,H1,H2)と、
前記戻り光(L31,L32,L72)と参照光(L41,L42,L71,L80)との干渉信号(L5)を受光して電気信号に変換するディテクタ(15,72)と、
前記電気信号に基づいて、前記計測対象(O1,O2)の距離、速度、又は、振動に関する情報を取得する処理部(16)と、を有する光干渉計測装置(1)において、
前記光源(11)と前記計測部(10,H1,H2)の間の光路に、前記光源(11)からの前記計測光(L1)を分岐させるファイバカプラ(13)が設けられ、
前記計測部(10)は、前記ファイバカプラ(13)で分岐した第1計測光(L11)が第1光路(F2)を介して入力される第1計測ヘッド(H1)と、前記ファイバカプラ(13)で分岐した第2計測光(L12)が第2光路(F3)を介して入力される第2計測ヘッド(H2)とを有し、
前記第1計測ヘッド(H1)で受光した第1戻り光(L31)は、前記第1光路(F2)及び前記ファイバカプラ(13)を介して前記ディテクタ(15,72)に導かれ、
前記第2計測ヘッド(H2)で受光した第2戻り光(L32)は、前記第2光路(F3)及び前記ファイバカプラ(13)を介して前記ディテクタ(15,72)に導かれ、
前記ファイバカプラ(13)から前記第1計測ヘッド(H1)の先端までの光路長D1、前記ファイバカプラ(13)から前記第2計測ヘッド(H2)の先端までの光路長D2、前記第1計測ヘッド(H1)の計測範囲の最大光路長R1max、前記第1戻り光(L31)と干渉させる第1参照光(L41,L71,L80)の光路長S1、前記第2戻り光(L32)と干渉させる第2参照光(L42,L71,L80)の光路長S2が、
D1+R1max-S1 < D2-S2
の関係を満たすように設定されている
ことを特徴とする光干渉計測装置(1)。
【符号の説明】
【0083】
1:光干渉計測装置
10:計測部
11:計測光源
13,30,31,32,70,71,80:ファイバカプラ
14:光アイソレータ
15:ディテクタ
16:処理部
17:AD変換器
20:コントローラ
33,72:差分ディテクタ
34:クロック発生器
60:コア
61:クラッド
62a,62b:ファイバコネクタ
63:アダプタ
81:リフレクタ
F1~F8,F3a,F3b,F70~F72,F80~F82:光ファイバ
H1:第1計測ヘッド
H2:第2計測ヘッド
H1a,H2a:光学系
L1:計測光
L11:第1計測光
L12:第2計測光
L31:第1戻り光
L32:第2戻り光
L41:第1参照光
L42:第2参照光
L5:干渉信号
L71:参照光
L72:戻り光
L80:参照光
MI:主干渉計
SI:副干渉計
O1,O2:計測対象
RP1:第1参照面
RP2:第2参照面
RP:参照面