(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】携帯型心電装置及び心電測定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/332 20210101AFI20240509BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A61B5/332
A61B5/11 200
(21)【出願番号】P 2020042834
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平木 美穂
(72)【発明者】
【氏名】江副 美佳
(72)【発明者】
【氏名】足達 大樹
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-047092(JP,A)
【文献】特開2019-180823(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0046038(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の心電波形を検出する電極部と、
前記被検者の体動レベルを検出する体動検出部と、
時間をカウントするタイマ部と、
メモリ部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記体動レベル及び前記心電波形を、該体動レベルが検出されたタイミングと該心電波形が検出されたタイミングとを関連付けて、前記メモリ部に保存し、
第1閾値以上である前記体動レベルが検出されたタイミングにおいて検出された前記心電波形を除いて、前記心電波形を解析
対象データとし、
前記第1閾値以上である前記体動レベルが検出された期間が所定時間未満である場合には、前記解析対象データを解析し、
前記第1閾値以上である前記体動レベルが検出された期間が
前記所定時間以上である場合には、前記
解析対象データを解析しないことを特徴とする携帯型心電装置。
【請求項2】
前記被検者に情報を提供する報知部を備え、
前記制御部は、
第2閾値以上である前記体動レベルが検出された場合には、前記報知部によって、前記被検者の姿勢に関する情報を提供することを特徴とする請求項1に記載の携帯型心電装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の携帯型心電装置と、
前記携帯型心電装置と通信可能な端末とを含む心電測定システム。
【請求項4】
前記携帯型心電装置の前記メモリ部に保存された前記体動レベル及び前記心電波形を前記端末に送信し、
前記端末は、前記心電波形又は、前記心電波形及び前記体動レベルを、該心電波形が検
出されたタイミングと、該体動レベルが検出されたタイミングとを関連付けて表示する請求項3に記載の心電測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日常生活等における心電波形測定が可能な携帯型の心電装置およびこれを含心電測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活における胸部の痛みや動悸などの異常発生時に、すぐに心電波形を測定可能な携帯型の心電測定装置(以下、「携帯型心電装置」ともいう)が提案されている。医師等においては、家庭や外出先等で動悸等の症状が起きた際に当該心電装置によって測定された心電波形のデータ等に基づいて、心疾患の早期発見や適切な治療行為を施すことが可能になる。
【0003】
従来、生体情報を測定する装置に、加速度センサ等の振動を検出する手段を備えた装置が提案されている。特許文献1では、心電計に体動検出手段を設け、被検者の活動量と心電波形を関連付けて保存し解析している。ここでは、活動量として、ジョギング、歩行等が述べられている。また、特許文献2では、任意の期間でバイタルサインを繰り返し測定する際に、加速度センサで運動中を示す場合には、運動中のデータを無効化し、安定している期間のみデータを記録している。特許文献3では、表示部がない生体情報検出器が複数存在する場合に、それぞれの生体情報検出器に加速度センサを設け、情報を送信する生体情報検出器を振ることにより加速度が閾値を上回ったか否かを示すフラグ情報と生体情報を関連付けている。そして、加速度が閾値を上回った場合にデータを送信することにより、特定の生体情報検出器のデータ送信を可能としている。
【0004】
生体情報を測定する装置では、被検者の症状を正確に把握するために、測定データの品質が特に重要である。とりわけ、携帯型心電装置では、標準的12誘導心電図検査のように安定した仰臥姿勢での測定を前提としないため、心電波形データの品質に影響を与える要因として、測定中における被検者の体動が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-61416号公報
【文献】特開2007-195699号公報
【文献】特開2019-16084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの携帯型心電装置では、被検者が測定中に姿勢を変化させたり、体を震わせたり、声を出したりすると、心電波形に被検者の体動によるノイズが加わり、誤った解析結果が出力されることがあった。
【0007】
上記のような従来の技術に鑑み、本発明は、被検者の体動を考慮して精度よく心電波形解析を行う技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明に係る携帯型心電装置は、
被検者の心電波形を検出する電極部と、
前記被検者の体動レベルを検出する体動検出部と、
時間をカウントするタイマ部と、
メモリ部と、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記体動レベル及び前記心電波形を、該体動レベルが検出されたタイミングと該心電波形が検出されたタイミングとを関連付けて、メモリ部に保存することを特徴とする。
【0009】
このようにすれば、心電波形を解析する際に、心電波形のみならず、同じタイミングでの体動レベルの情報がメモリ部に保存されるので、心電波形検出時の体動レベルの情報が提供される。心電波形と同期させた体動レベルの情報を提供することにより、被検者の体動を考慮して心電波形を精度よく解析することができる。
体動レベルは、例えば、体動検出部としての加速度センサによって検出される、被検者の体の動きの加速度の大きさや、これを積分して得られる速度、さらにこれを積分した変位(振幅)が含まれるが、これに限られない。
【0010】
また、本発明において、
前記制御部は、
前記心電波形と、該心電波形が検出されたタイミングと同時に検出された前記体動レベルとに基づいて、該心電波形を解析するようにしてもよい。
【0011】
このようにすれば、心電波形の解析が、心電波形のみならず、これと同時に検出された、すなわち同期された体動レベルとに基づいて行われるので、精度よい解析が可能となる。
【0012】
また、本発明において、
前記制御部は、
第1閾値以上である前記体動レベルが検出されたタイミングにおいて検出された前記心電波形を除いて、前記心電波形を解析するようにしてもよい。
【0013】
このようにすれば、心電波形解析の精度に影響を与える体動レベルとして第1閾値を設定し、第1閾値以上の体動レベルが検出されたタイミングにおいて検出された心電波形を、解析から除き、体動によるノイズが少ない心電波形を対象として解析を行うので、精度よい心電波形解析ができる。
【0014】
また、本発明において、
前記制御部は、
前記第1閾値以上である前記体動レベルが検出された期間が所定時間以上である場合には、前記心電波形を解析しないようにしてもよい。
【0015】
解析に用いるデータ量に対して余裕を持たせて、心電波形の測定時間を一定時間に設定した場合に、測定時間の一部で体動レベルが第1閾値以上であっても、心電波形の精度を確保できるが、体動レベルが第1閾値以上となる期間の割合が高くなると心電波形解析の精度が低下する。このため、第1閾値以上である体動レベルが検出された期間が所定時間以上である場合には、心電波形を解析しないようにすることで、精度の低い解析結果を出力することがなく、解析に要する時間も省略できる。
【0016】
また、本発明において、
前記被検者に情報を提供する報知部を備え、
前記制御部は、
第2閾値以上である前記体動レベルが検出された場合には、前記報知部によって、前記
被検者の姿勢に関する情報を提供するようにしてもよい。
【0017】
このように、第2閾値以上である体動レベルが検出された場合に、報知部によって、被検者の姿勢に関する情報として、姿勢が適切でない旨のメッセージ、正しい姿勢に関する情報を報知することにより、被検者が姿勢を変更すれば、以後の測定中の体動によるノイズの発生が抑えられる。また、再測定時の正しい姿勢での測定を促すことができる。
【0018】
また、本発明は、
前記携帯型心電装置と、
前記携帯型心電装置と通信可能な端末とを含む心電測定システムとして構成することができる。
【0019】
このように、携帯型心電装置において、体動レベルを、該体動レベルが検出されたタイミングと関連付け、心電波形を、該心電波形が検出されたタイミングと関連付けて、メモリ部に保存するので、携帯型心電装置と通信可能な端末とを連携させることにより、被検者の体動を考慮して心電波形を精度よく解析することができる心電測定システムを提供することができる。
端末としては、スマートフォンやタブレット端末やノートPC等の携帯可能な端末に限らず、据置型のパーソナルコンピュータ等であってもよい。
【0020】
また、本発明において、
前記携帯型心電装置の前記メモリ部に保存された前記体動レベル及び前記心電波形を前記端末に送信し、
前記端末は、前記心電波形又は、前記心電波形及び前記体動レベルを、該心電波形が検出されたタイミングと、該体動レベルが検出されたタイミングとを関連付けて表示するようにしてもよい。
【0021】
このように、携帯型心電装置のメモリ部に保存された体動レベル及び心電波形を端末に送信し、端末において、心電波形が検出されたタイミングと、体動レベルが検出されたタイミングとを関連付けて表示するようにすれば、心臓自体の異常に起因する心電波形の乱れと、体動に起因する心電波形の乱れを明確に区別することができる。このとき、体動レベルが検出されたタイミングと心電波形が検出されたタイミングとを関連付けて、心電波形のみを表示してもよいし、心電波形と体動レベルの両方を表示してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、被検者の体動を考慮して精度よく心電波形解析を行う技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、実施形態に係る携帯型心電装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る携帯型心電装置の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るスマートフォンの機能ブロック図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る携帯型心電装置の心電波形測定処理の手順を説明するフローチャートの一部である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る携帯型心電装置の心電波形測定処理の手順を説明するフローチャートの一部である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る携帯型心電装置の心電波形解析処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態に係る携帯型心電装置におけるデータの保存形式を示す模式図である。
【
図8】
図8は、体動がほとんどない場合の心電波形と体動波形を示すグラフである。
【
図9】
図9は、一部の測定期間に大きな体動がある場合の心電波形と体動波形を示すグラフである。
【
図10】
図10は、全測定期間に亘って大きな体動がある場合の心電波形と体動波形を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施形態に係るスマートフォンにおける表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
【0025】
<実施形態1>
以下に、本発明の実施形態の一例について説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0026】
(携帯型心電装置の構成)
図1(A)~(F)は本実施形態に係る携帯型心電装置100の構成の一例を示す図である。
図1(A)は、携帯型心電装置100を前面から見た図である。
図1(B)は、携帯型心電装置100を下方から見た図である。
図1(C)は、携帯型心電装置100を上方から見た図である。
図1(D)は、携帯型心電装置100の前面から見た左側面を示す図である。
図1(E)は、携帯型心電装置100の前面から見た右側面を示す図である。
図1(F)は、携帯型心電装置100を背面から見た図である。上下方向は、
図1(A)に示す姿勢の携帯型心電装置100に対して、紙面上での上下方向を意味する。
【0027】
図1(A)~(F)に示すように、携帯型心電装置100の本体1は、角を丸めた略四角柱形状であって前面及び背面間が扁平に形成されている。携帯型心電装置100の底部には、第1電極2が設けられている。携帯型心電装置100の上部には、前面から見て左側に第2電極3、同右側に第3電極4が設けられている。携帯型心電装置100の上部は、被検者の右手人差し指が当接しやすいように滑らかに湾曲する形状となっている。携帯型心電装置100の本体1の前面には、測定通知LED5と異常波検出LED6が上下に並んで配置されている。測定通知LED5は、心電波形の計測時に点灯あるいは明滅する発光素子である。異常波形検出LED6は、計測された心電波形に関し、異常波形が検出された際に点灯する発光素子である。異常波形検出LED6の点灯を通じて、心電波形の測定データから検出された異常波形の有無が被検者に通知される。携帯型心電装置100の本体1の、前面から見て左側面には、電源スイッチ7、電源LED8、BLE通信ボタン9、通信LED10、メモリ残表示LED11、電池交換LED12が上下に並んで配置されている。電源スイッチ7は、携帯型心電装置100の電源を投入するための押下スイッチであり、電源LED8は電源投入時に点灯する発光素子である。BLE通信ボタン9は、BLE(Bluetooth Low Energy)方式に準拠した機器との通信を機能させるための操作部品であり、通信LED10は、通信時に点灯する発光素子である。なお、携帯型心電装置100の備える通信機能は、BLE方式に限られず、赤外線通信、超音波による情報伝送などの無線通信方法、ケーブル又はコネクタ等を介して接続される有線通信方式であってもよい。メモリ残表示LED11は、後述するメモリ部の空き容量の状態を示す発光素子である。電池交換LED12は、携帯型心電装置100の備える電源(バッテリ)の電力が所定値を下回ったときに点灯し、電池交換を促す発光素子である。また、携帯型心電装置100の本体1の背面には、着脱可能な電池カバー13が設けられている。
【0028】
ここで、心電測定において、例えば、I誘導測定が行われる場合には、携帯型心電装置
100を右手で把持しつつ、本体の底部に設けられた第1電極2を左手掌に接触させる。携帯型心電装置100を把持する際には、右手の人差し指を第2電極3に接触させ、右手人差し指の中節を第3電極4に接触させる。被検者では、例えば、第2電極3、第3電極4が設けられた本体の上部側から、底部に設けられた第1電極2を左手掌方向に押し当てる方向に押圧しながら心電測定が行われる。
【0029】
また、心電測定においてV4誘導測定が行われる場合では、被検者は、例えば、携帯型心電装置100を右手で把持しつつ、本体の底部に設けられた第1電極2を、左胸部の心窩部やや左方・乳頭下方の皮膚に接触させる。携帯型心電装置100を把持する際には、右手の人差し指を第2電極3に接触させ、右手人差し指の中節を第3電極4に接触させる。そして、第2電極3、第3電極4が設けられた本体1の上部側から、底部に設けられた第1電極2を、測定部位方向に押し当てる方向に押圧しながら心電測定が行われる。
【0030】
(携帯型心電装置の構成)
次に、携帯型心電装置100の構成を説明する。
図2は、本実施形態に係る携帯型心電装置100のシステム構成の一例を示す図である。
【0031】
図2に示すように、携帯型心電装置100は、電極部101と、アンプ部102と、AD(Analog to Digital)変換部103と、制御部104と、タイマ部105、体動検出
部106を含んで構成される。また、携帯型心電装置100の構成には、メモリ部107と、表示部108と、操作部109と、電源部110と、通信部111が含まれる。制御部104と、タイマ部105と、体動検出部106、メモリ部107と、表示部108と、操作部109と、電源部110と、通信部111とは相互に接続されている。
【0032】
電極部101は、一対の測定電極として機能する第1電極2及び第3電極4と、GND電極として機能する第2電極3を備える。被検者の皮膚に接触された電極部101を通じて、所定期間内における心電波形が検出される。電極部101の各電極で検出された心電波形は、それぞれ、当該電極部に接続されるアンプ部102に入力される。アンプ部102では、電極部101で検出された信号が増幅されてAD変換部103に出力される。AD変換部103では、アンプ部102を通じて増幅された心電波形の検出信号がデジタル変換されて制御部104に出力される。
【0033】
タイマ部105は、制御部104からの指示を受け付け、心電波形の計測に係る各種時間又は期間をカウントする手段である。体動検出部106は、心電波形測定時の被検者の体動の大きさを体動レベルとして検出する。体動検出部としては、加速度センサやマイクロフォン等を用いることができる。体動検出部106は、例えば、第3電極の近傍に設けることができるが、体動検出部106の設置場所はこれに限られない。
【0034】
メモリ部107は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などの主記憶装置の他、例えばフラッシュメモリなどの長期記憶媒体を含んで構成される。メモリ部107には、体動の強度や心電波形の測定及び解析に係る各種プログラム、異常波形等を検出するための各種の情報が記憶される。表示部108は、心電波形の計測に係る各種の情報を表示する手段である。表示部108には、測定通知LED5、異常波形検出LED6電源LED8、通信LED10、メモリ残表示LED11、電池交換LED12が含まれる。表示部108は、液晶ディスプレイ等の画像・映像により各種の情報を表示する手段を含んでもよい。
【0035】
操作部109は、被検者からの操作入力を受け付ける手段である。操作部109には、電源スイッチ7、BLE通信ボタン9が含まれる。電源部110は、携帯型心電装置100を機能させるための電力を供給する手段であり、バッテリや2次電池等が含まれる。通
信部111は、スマートフォン200といった機器との間で信号の送受信を司る通信インターフェィスである。通信部111の提供する通信機能としてBLE通信が例示できるが、他の公知の無線通信方式、有線通信方式が採用できる。
【0036】
(スマートフォン)
図3は、スマートフォン200の構成を示すブロック図である。後述するように、スマートフォン200は、携帯型心電装置100と連携して心電測定システムを構成する。
スマートフォン200は、制御部201と、タッチパネルディスプレイ202、スピーカ等の音声出力部203、メモリ部204、マイク等の音声入力部205、ボタン等の操作部206、電源部207、携帯型心電装置100との間でBLE通信等の方式による信号の送受信を司る通信インターフェースである通信部208を含んで構成される。携帯型心電装置100と通信可能な端末の一例であるスマートフォン200としては公知の構成を採用することができるので、詳述しない。
【0037】
(心電測定処理)
図4及び
図5、携帯型心電装置100と、スマートフォン200等のBLE方式の通信機能を搭載した端末とがBLE通信しながら心電波形を測定する手順を説明するフローチャートである。
【0038】
まず、携帯型心電装置100の電源スイッチ7を押下することにより電源をONする(ステップS101)。一方、スマートフォン200では、心電測定用のアプリケーションプログラム(以下、「アプリ」という。)を開く(ステップS201)。ここでは、携帯型心電装置100と、心電測定用のアプリがインストールされたスマートフォン200との関連付け、被検者のIDの登録等の心電測定のための準備は完了しているものとして説明する。
【0039】
携帯型心電装置100では、電極接触状態が検出される(ステップS102)。
具体的には、携帯型心電装置100によりI誘導測定を行う場合には、第2電極3に右手の人差し指の先端の指紋部を接触させ、第3電極4に右手人差し指の中節を接触させる。そして、第1電極2に左手掌を接触させる。各電極2、3、4を介して取得された電気信号をアンプ部102で増幅し、AD変換部でデジタル変換し、接触状態検出信号を生成する。このようにして生成された接触状態検出信号を制御部104に送信し、被検者と各電極2、3、4との接触状態を検出する。
【0040】
次に、携帯型心電装置100とスマートフォン200との間で、所定の手順に従ってBLE接続を行う(ステップS103、ステップS202)。
携帯型心電装置100とスマートフォン200との間で、BLE接続が確立されると、スマートフォン200は携帯型心電装置100に対して、通信開始要求を送信する(ステップS203)。
通信開始要求を受信した携帯型心電装置100では、電極接触状態を示す情報を、スマートフォン200に送信する(ステップS104)。電極接触状態を示す情報を受信したスマートフォン200では、電極接触状態をタッチパネルディスプレイ202等に表示し、各電極2、3、4に正常に接触していることを被検者に知らせる。
【0041】
制御部104は、電極接触状態が維持されて所定時間が経過されたか否かを判断する(ステップS105)。
ステップS105において、Noと判断された場合には、ステップS102に戻る。但し、この場合には、既に、BLE接続が確立されているので、ステップS103と、スマートフォン200側のステップS202及びS203の処理は省略される。
ステップS105において、Yesと判断された場合には、制御部104は心電測定を
開始する(ステップS106)。
【0042】
心電測定が開始されると、携帯型心電装置100はスマートフォン200との間でストリーミング通信を行い、心電波形情報と測定時間情報をスマートフォン200に送信する(ステップS107)。測定時間情報は、タイマ部105でカウントされている、心電測定開始からの経過時間に関する情報であり、ここでは、心電測定開始からの経過時間を、所定時間から減算した、残りの測定時間を示す情報である。携帯型心電装置100から心電測定開始からの経過時間の情報をスマートフォン200に送信し、スマートフォン200側で所定時間からの減算処理を行ってもよい。一方、スマートフォン200では、携帯型心電装置100から心電波形情報と測定時間情報を受信し(ステップS206)、タッチパネルディスプレイ202に心電波形及び測定時間を表示する(ステップS207)。これにより、心電測定が正常に行われていることと、残りの測定時間が被検者に報知される。
【0043】
携帯型心電装置100では、心電測定を開始すると、並行して体動検出部106により、被検者の体動を検出する(ステップS108)。被検者が心電測定中に姿勢を変えたり、第2電極3及び第3電極4に接触させている中指や第1電極に接触させている左手掌が震えたり、声を出したりして、体動検出部106によって体動が検出された場合には、心電波形と同期して体動が生じた期間と体動レベルを検出し、携帯型心電装置100のメモリ部107の所定領域に保存する。すなわち、心電波形は、心電波形が検出されたタイミングと関連付けてメモリ部107に保存され、体動レベルも、体動レベルが検出されたタイミングと関連付けてメモリ部107に保存され、心電波形と、同時に生じた体動とが、それぞれが検出されたタイミングを介して同期される。
体動検出部106によって検出された体動レベルが所定の第2閾値以上である場合には、制御部104は、心電測定中に被検者に正しい測定姿勢をとるように促すメッセージを含む情報をスマートフォン200に送信する(ステップS108)。スマートフォン200は、この情報を受信し(ステップS206)、心電測定中に被検者に正しい測定姿勢をとるように促すメッセージをタッチパネルディスプレイに表示し、又は音声出力部203から音声メッセージを出力する(ステップS207)。体動検出部106によって検出された体動レベルが所定の第2閾値以上である場合には、制御部104は、測定通知LED12又は異常波検出LED13を測定通知又は異常波検出とは異なるモードで点滅させることにより、被検者に正しい測定姿勢をとるように促すようにしてもよい。また、別途、携帯型心電装置100に、LED、スピーカ又はバイブレータ等を設けて、体動レベルが所定の第2閾値以上であることを被検者に報知するようにしてもよい。ここでは、測定通知LED12又は異常波検出LED13、別途設けられるLED、スピーカ又はバイブレータ等が本発明の報知部に対応する。携帯型心電装置100から、心電測定中に被検者に正しい測定姿勢をとるように促すメッセージをタッチパネルディスプレイ202に表示するよう指示する情報のみをスマートフォン200に送信し、スマートフォン200が受信した情報を解釈し、タッチパネルディスプレイ202にメッセージを表示するようにしてもよい。
【0044】
制御部104は、タイマ部105でカウントされている心電測定開始からの経過時間について、所定の測定時間が経過したか否かを判断する(ステップS109)。
ステップS109において、Noと判断された場合には、ステップS106に戻り、心電測定を継続する。
ステップS109においてYesと判断された場合には、制御部104は、体動及び心電波形の解析を行う(ステップS110)。
【0045】
(体動及び心電波形解析処理)
以下に、
図6を参照して、ステップS110の体動及び心電波形の解析処理について説
明する。
まず、制御部104は、体動検出部106によって検出された被検者の体動レベルが所定の第1閾値以上であるか否かを判断する(ステップS1101)。
ステップS1101において、Yesと判断された場合には、制御部104は、第1閾値以上となる体動レベルが検出された時間に関する情報を保存する(ステップS1102)。
ステップS1102において、Noと判断された場合には、制御部104は、体動レベルが第1閾値未満である体動と同期して測定された心電波形データを解析対象データとして保存する(ステップS1103)。
【0046】
図7に、メモリ部107の所定領域に、心電波形データ及び体動レベルに関する情報を保存する形式を模式的に示す。
図7(A)は、心電波形データと同時に体動レベルデータを取得し、メモリ部107に割り当てられた心電波形データ領域と体動レベル領域に、それぞれ順番に保存する場合の例である。このとき、心電測定を開始した日時に関する情報は、同様にメモリ部107に割り当てられた測定開始日時データ領域に、心電波形データ及び体動レベルデータと関連付けて保存される。
図7(B)は、心電波形データと同時に体動レベルデータを取得し、メモリ部107に割り当てられた心電波形データ領域と体動フラグ領域に、それぞれ心電波形データと体動フラグを保存する例である。ここで、体動フラグは、例えば、体動レベルが第1閾値以上である場合に「1」、体動レベルが第1閾値未満である場合に、「0」とする、体動レベルに関するデータである。体動レベルに関しては、体動フラグのみが保存されるので、データ量が少なくなり、メモリ部107の記憶容量を抑えることができる。
図7(C)は、心電波形データと同時に体動レベルデータを取得し、心電波形データはメモリ部107の心電波形データ領域に順番に保存するが、体動レベルについては、体動の発生時刻と継続時間を体動発生データとして、体動発生データ領域に保存する。体動発生データは、例えば、体動レベルが第1閾値を超えた時刻を発生時し、第1閾値未満となるまでの時間を継続時間とすることができる。体動レベルに関しては、体動発生データのみが保存されるので、データ量が少なくなり、メモリ部107の記憶容量を抑えることができる。
心電波形データと体動レベルデータを、それぞれが検出されたタイミングと関連付けてメモリ部107に保存する形式は上述のものに限られない。
【0047】
次に、制御部104は、体動レベルが第1閾値以上であるデータが検出された期間の合計が所定時間以上であるか否かを判断する(ステップS1104)。一定の測定時間を設定して心電測定を行う場合に、体動レベルが第1閾値以上となる期間が占める割合が高くなると、解析の対象とされる心電波形のデータ量が少なくなり、精度のよい解析ができなくなってしまう。一方で、心電の測定時間に余裕を持たせて設定しておけば、一部の期間の心電波形のデータが欠落しても、必ずしも解析精度に影響を与えない。このため、解析の精度を確保できる程度の心電波形データが取得されているか否かを、ここで判断している。
【0048】
ステップS1104において、Yesと判断された場合には、制御部104は、解析しない(解析不可)と判断する(ステップS1105)。この解析しない旨は、解析結果として、スマートフォン200に送信し、被検者に再度の心電測定を促すようにしてもよい。
ステップS1104において、Noと判断された場合には、解析対象として保存されたデータ、すなわち、体動レベルが閾値未満である体動と同期して測定された心電波形データを対象として解析を行う(ステップS1106)。心電波形の解析方法としては、公知の種々の方法を採用することができるので詳述しない。
【0049】
図8、
図9、
図10に心電波形と体動波形を合せて表示したグラフを示す。細実線が心電波形、太実線が体動波形であり、矢印を付した点線が、体動レベルが所定の第1閾値以上である期間を示す。
図8、
図9、
図10のいずれも、同期した心電波形と体動波形とを対として、上段から下段へと時系列が進む様子を表示している。
図8は、心電波形の測定時間(例えば30秒間)を通じて、心電波形の体動レベルの変動がない又は極めて小さい例を示す。このような場合は、体動レベルが第1閾値以上となる期間がなく、測定時間の全期間に亘る心電波形が解析対象データとなる。
図9の例では、期間Pr1及びPr2の二つの期間において、体動レベルが第1閾値以上となっている。一方で、測定期間のうち、Pr1より前の期間、Pr1とPr2に挟まれた期間、Pr2よりも後の期間では、いずれも体動レベルが第1閾値未満となっている。この場合には、期間Pr1及びPr2の合計が所定時間未満であるため、Pr1及びPr2以外の期間の心電波形データを解析することが可能になり、例えば心房細動(AF)の有無を判定することができる。
図10の例では、体動レベルが閾値以上である期間Pr3が、心電測定時間の全期間に亘っている。このような場合には、期間Pr3の長さが所定時間以上であるため、解析不可と判断される。スマートフォン200のタッチパネルディスプレイ202に正しい姿勢を表示する等して、被検者に再測定を促して、体動がない又は極めて小さい場合には、
図8に示すような心電波形及び体動波形が測定されることとなり、正常な心電測定が行われる。
【0050】
図5のフローチャートに戻って説明を続ける。
制御部104は、体動を含めた心電波形の解析中に、スマートフォン200に対して、心電波形の解析中であることを示す情報を送信する(ステップS111)。スマートフォン200は、携帯型心電装置100から、心電波形の解析中であることを示す情報を受信すると(ステップS208)、心電波形の解析中であることを示す情報をディスプレイに表示する(ステップS209)。
【0051】
体動及び心電波形の解析が終了すると、制御部104は、体動、心電波形及び解析結果をメモリ部107の所定領域に保存する(ステップS112)。体動、心電波形及び解析結果を保存することなく、携帯型心電装置100のメモリ部107に保存せずに、スマートフォン200側にのみ保存するようにしてもよい。また、体動、心電波形及び解析結果のいずれかのみを携帯型心電装置100のメモリ部107に保存するようにしてもよい。
心電波形の解析により、異常波が検出された場合には、制御部104は、異常波検出LED13を点滅させて、被検者に異常波検出を報知する(ステップS113)。
【0052】
また、体動及び心電波形の解析が終了すると、制御部104は、高速のデータ通信により解析結果をスマートフォン200に送信する(ステップS114)。解析結果には、心電測定の際の誘導種別も含まれる。このとき、スマートフォン200では、携帯型心電装置100から送信された解析結果を受信する(ステップS210)。
【0053】
そして、携帯型心電装置100に未送信の心電波形データ、体動データ、解析結果がある場合には、制御部104は、高速のデータ通信により、これらの情報を、新しいものから順にスマートフォン200に送信する。ここでも、解析結果には、心電測定の際の誘導種別が含まれる。このとき、スマートフォン200では、未送信の心電波形データ、体動データ、解析結果を携帯型心電装置100から受信し(ステップS211)、メモリ部204の所定領域に保存する。そして、スマートフォン200では、最新の心電波形と解析結果をディスプレイに表示する(ステップS212)。
【0054】
携帯型心電装置100において、未送信の心電波形データ、体動データ、解析結果の送
信が完了すると(ステップS116)、スマートフォン200から送信される通信終了要求(ステップS213)に応じて、BLE通信を切断する(ステップS117)。携帯型心電装置100におけるBLE通信の切断に対応して、スマートフォン200側でもBLE通信が切断される(ステップS214)。
【0055】
BLE通信を切断した後に、携帯型心電装置100では、電源スイッチ7がOFFされる(ステップS118)。電源スイッチ7は、BLE切断後、所定の時間の経過により制御部104が自動的にOFFにしてもよいし、被検者による電源スイッチ7の押下によるOFFにしてもよい。一方、スマートフォン200では、BLE通信を切断した後に、アプリを閉じる(ステップS215)。このようにして、携帯型心電装置100におけるスマートフォン200と連携した心電測定が終了する。
【0056】
このように、体動検出部106によって検出された体動レベルが所定の第1閾値以上である場合には、心電波形を解析する際に、当該期間の心電波形データを解析から除いている。このため、ノイズが少ない心電波形データにより解析を行うことができるので、精度のよい心電波形解析が可能となる。
【0057】
また、携帯型心電装置100のメモリ部107に保存された心電波形データと体動レベルデータを受信したスマートフォン200のタッチパネルディスプレイ202における心電波形データの表示例を
図11に示す。ここでは、心電波形30のうち、体動がある期間(例えば、体動レベルが第1閾値以上である期間)に対応する心電波形の領域301の背景31の色を、体動のない領域とは異なる灰色で表示している。このように、心電波形のうち、体動がある領域の背景色を変更して、タッチパネルディスプレイに表示することにより、心臓自体に異常がある場合の心電波形の乱れと、体動に起因する心電波形の乱れを明確に区別することができる。また、背景色ではなく、体動がある期間に対応する心電波形自体の表示色や線の太さ等の表示態様を変更するようにしてもよい。また、心電波形と体動レベルの波形を重ね合わせたり、並べたりして、タッチパネルディスプレイ202に表示するようにしてもよい。
心電波形が検出されたタイミングと、体動レベルが検出されたタイミングとを関連付けた表示態様はこれらに限られない。
【0058】
(変形例)
上述の実施形態では、心電波形の解析時に体動レベルが第1閾値以上であるか否かを判断し、第1閾値以上である期間については解析の対象から除いているが、心電測定時に体動レベルが第1閾値以上か否かを判断し、第1閾値以上となる期間の合計が所定時間を超える場合には、測定時間を延長するようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、体動レベルについて第1閾値と第2閾値を設定しているが、第1閾値と第2閾値とは同じ値でもよいし、異なる値であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1・・・携帯型心電装置
2・・・第1電極
3・・・第2電極
4・・・第3電極
101・・・電極部
104・・・制御部
106・・・体動検出部