(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】金属部材の仮止め方法、接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20240509BHJP
C04B 37/02 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H01L23/12 D
C04B37/02 B
(21)【出願番号】P 2020047951
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 航
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-202946(JP,A)
【文献】特開2018-115095(JP,A)
【文献】特開2013-179263(JP,A)
【文献】特開2011-201760(JP,A)
【文献】特開2004-311820(JP,A)
【文献】特開2009-009994(JP,A)
【文献】特開平09-045973(JP,A)
【文献】特開平02-159047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/12-23/15
H01L 21/52
H01L 21/58
H01L 23/34-23/473
H01L 23/48-23/50
H01L 25/00-25/18
H05K 3/10- 3/20
H05K 3/38
B23K 35/26
B23K 20/00-20/26
C04B 37/02
B32B 7/04- 7/14
B32B 15/00-15/20
B32B 18/00
B32B 37/00-37/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材とセラミックス部材とを仮止めする金属部材の仮止め方法であって、
前記金属部材と前記セラミックス部材との間に金属Gaを配設する金属Ga配設工程と、
前記金属Gaを介して前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層した積層体を得る積層工程と、
前記積層体を加熱して前記金属部材と前記セラミックス部材の間に介在する前記金属Gaを
35℃以上100℃以下に加熱することで溶融してGa液相を形成する金属Ga溶融工程と、
前記積層体を冷却して前記金属部材と前記セラミックス部材の間の前記Ga液相を凝固させる凝固工程と、
を備えていることを特徴とする金属部材の仮止め方法。
【請求項2】
前記金属Ga配設工程において、Gaを1mg/cm
2以上200mg/cm
2以下の範囲内で含む前記金属Gaを配設することを特徴とする請求項1に記載の金属部材の仮止め方法。
【請求項3】
金属部材とセラミックス部材が接合された接合体の製造方法であって、
前記金属部材と前記セラミックス部材とを、請求項1または請求項2に記載の金属部材の仮止め方法によって仮止めする仮止め工程と、
仮止めした前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧して加熱し、前記金属部材と前記セラミックス部材とを接合する接合工程と、
を備えていることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項4】
セラミックス基板と、このセラミックス基板の少なくとも片方の面に接合された金属片と、を備えた絶縁回路基板の製造方法であって、
前記金属片と前記セラミックス基板とを、請求項1または請求項2に記載の金属部材の仮止め方法によって仮止めする仮止め工程と、
仮止めした前記金属片と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧して加熱し、前記金属片と前記セラミックス基板とを接合する接合工程と、
を備えていることを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属部材とセラミックス部材とを仮止めする金属部材の仮止め方法、金属部材とセラミックス部材が接合された接合体の製造方法、及び、セラミックス基板とセラミックス基板の少なくとも片方の面に接合された金属片とを備えた絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュール及び熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子及び熱電素子が接合された構造とされている。
また、上述の絶縁回路基板においては、絶縁層の一方の面に導電性の優れた金属片を接合して回路層とし、また、他方の面に放熱性に優れた金属片を接合して金属層を形成した構造のものが提供されている。
さらに、回路層に搭載した素子等において発生した熱を効率的に放散させるために、絶縁層の他方の面側にヒートシンクを接合したヒートシンク付き絶縁回路基板も提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム片を接合することで回路層が形成されるとともに、他方の面にアルミニウム片を接合することにより金属層が形成された絶縁回路基板と、この回路層上にはんだ材を介して接合された半導体素子と、を備えたパワーモジュールが開示されている。
また、特許文献2には、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム片を接合し、このアルミニウム片に銅片を固相拡散接合することにより、アルミニウム層と銅層とが積層された回路層を形成した絶縁回路基板が提案されている。
さらに、特許文献3には、セラミックスからなる基材の一方の面に導電性の回路層が形成され、絶縁基板の他方の面に放熱体が接合され、回路層上に発光素子が搭載された構造のLEDモジュールが開示されている。
【0004】
ここで、セラミックス基板と金属片、アルミニウム片と銅片、絶縁回路基板とヒートシンク等を接合する場合には、例えば特許文献4-6に記載されているように、接合する部材の間にポリエチレングリコール(PEG)等の有機物を含む仮止め材を用いて、部材同士の位置合せをして仮止めした状態で積層方向に加圧して加熱することにより、部材同士を接合している。
【0005】
ところで、上述のようにポリエチレングリコール(PEG)等の有機物を含む仮止め材を用いて金属片を仮止めし、これを加圧して加熱することによって金属片を接合することにより回路層を形成した際には、仮止め材の一部が加熱時に炭化し、回路パターン間に付着して炭素残渣となり、回路層のパターン間、あるいは、絶縁層を挟んで位置する回路層と金属層との絶縁性が不十分となるおそれがあった。
【0006】
そこで、特許文献7には、接合時における仮止め材の炭素残渣の発生を抑制し、絶縁性に優れた絶縁回路基板を製造する方法が提案されている。
特許文献7においては、アクリル系樹脂と溶剤とを含有する仮止め材を塗布し、この仮止め材の粘着力によって、金属片を仮止めする構成とされている。そして、この仮止め材は、熱分解性に優れたアクリル系樹脂で構成されているので、その後の接合工程において分解され、炭素残渣の付着を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3171234号公報
【文献】特許第5403129号公報
【文献】特開2015-070199号公報
【文献】特開2014-175425号公報
【文献】特開2014-209591号公報
【文献】特開2016-105452号公報
【文献】特開2018-137375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、絶縁回路基板においては、絶縁層の一方の面に回路層が形成され、絶縁層の他方の面に金属層が形成されるため、回路層と金属層との構造が異なると、絶縁回路基板の製造時に反りが生じることがあった。
ここで、特許文献7に記載された発明では、アクリル系樹脂を含む仮止め材の粘着力によって金属片を仮止めしていることから、絶縁回路基板の構造によって製造時の反りが大きくなる場合には、積層時や加圧時に相対的な滑りが生じ、金属片を精度良く固定することができなくなるおそれがあった。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、炭素残渣の発生を抑制するとともに、金属部材とセラミックス部材とを確実に仮止めすることが可能な金属部材の仮止め方法、この金属部材の仮止め方法を用いた接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明の金属部材の仮止め方法は、金属部材とセラミックス部材とを仮止めする金属部材の仮止め方法であって、前記金属部材と前記セラミックス部材との間に金属Gaを配設する金属Ga配設工程と、前記金属Gaを介して前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層した積層体を得る積層工程と、前記積層体を加熱して前記金属部材と前記セラミックス部材の間に介在する前記金属Gaを35℃以上100℃以下に加熱することで溶融してGa液相を形成する金属Ga溶融工程と、前記積層体を冷却して前記金属部材と前記セラミックス部材の間の前記Ga液相を凝固させる凝固工程と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
この構成の金属部材の仮止め方法によれば、前記金属部材と前記セラミックス部材との間に金属Gaを配設し、この金属Gaを用いて、前記金属部材と前記セラミックス部材とを仮止めしている。ここで、金属Gaは、融点が29.76℃と低く、金属Gaを比較的低い温度で溶融して前記金属部材と前記セラミックス部材とを仮止めすることが可能となる。なお、その後の接合工程等において加熱した際に、Gaが金属部材へと拡散することになり、金属Gaが接合界面に残存することを抑制できる。
【0012】
ここで、本発明の金属部材の仮止め方法においては、前記金属Ga配設工程において、Gaを1mg/cm2以上200mg/cm2以下の範囲内で含む前記金属Gaを配設することが好ましい。
この場合、前記金属Ga配設工程において、前記金属部材と前記セラミックス部材との間に配置されるGa量を1mg/cm2以上としているので、前記金属部材と前記セラミックス部材とを確実に仮止めすることができる。一方、前記金属部材と前記セラミックス部材との間に配置されるGa量を200mg/cm2以下としているので、その後の接合工程等において加熱した際に、Gaを金属部材へと十分に拡散させることが可能となる。
【0013】
本発明の接合体の製造方法は、金属部材とセラミックス部材が接合された接合体の製造方法であって、前記金属部材と前記セラミックス部材とを、上述の金属部材の仮止め方法によって仮止めする仮止め工程と、仮止めした前記金属部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧して加熱し、前記金属部材と前記セラミックス部材とを接合する接合工程と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
この構成の接合体の製造方法によれば、前記金属部材と前記セラミックス部材との間に金属Gaを配設し、この金属Gaを用いて、前記金属部材と前記セラミックス部材とを仮止めしているので、金属部材とセラミックス部材とを位置精度良く仮止めすることができる。そして、金属Gaを介して仮止めした状態で接合する接合工程を備えているので、この接合工程において、Gaが金属部材へと拡散することになり、金属Gaが接合界面に残存せず、金属部材とセラミックス部材とを良好に接合することができる。
【0015】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、セラミックス基板と、このセラミックス基板の少なくとも片方の面に接合された金属片と、を備えた絶縁回路基板の製造方法であって、前記金属片と前記セラミックス基板とを、上述の金属部材の仮止め方法によって仮止めする仮止め工程と、仮止めした前記金属片と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧して加熱し、前記金属片と前記セラミックス基板とを接合する接合工程と、を備えていることを特徴としている。
【0016】
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記金属片と前記セラミックス基板との間に金属Gaを配設し、この金属Gaを用いて、前記金属片と前記セラミックス基板とを仮止めしているので、前記金属片と前記セラミックス基板とを位置精度良く仮止めすることができる。そして、金属Gaを介して仮止めした状態で接合する接合工程を備えているので、この接合工程において、Gaが金属片へと拡散することになり、金属Gaが接合界面に残存せず、前記金属片と前記セラミックス基板とを良好に接合することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炭素残渣の発生を抑制するとともに、金属部材とセラミックス部材とを確実に仮止めすることが可能な金属部材の仮止め方法、この金属部材の仮止め方法を用いた接合体の製造方法、及び、絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態である金属部材の仮止め方法を利用した絶縁回路基板の製造方法によって製造された絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの断面説明図である。
【
図2】
図1に示す絶縁回路基板の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】
図1に示す絶縁回路基板の製造方法における仮止め工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
【0020】
図1に、本発明の実施形態である金属部材の仮止め方法を利用した絶縁回路基板の製造方法によって製造された絶縁回路基板10、及び、この絶縁回路基板10用いたパワーモジュール1を示す。
【0021】
このパワーモジュール1は、ヒートシンク付き絶縁回路基板30と、このヒートシンク付き絶縁回路基板30の一方側(
図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
ヒートシンク付き絶縁回路基板30は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に配設されたヒートシンク31と、を備えている。
【0022】
はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
【0023】
絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に形成された金属層13と、を備えている。
【0024】
セラミックス基板11(セラミックス部材)は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる金属片22(金属部材)が接合されることにより形成されている。銅又は銅合金としては、無酸素銅やタフピッチ銅等を用いることができる。本実施形態においては、回路層12を構成する金属片22として、無酸素銅の圧延板を打抜いたものが用いられている。
この回路層12には、上述の金属片22をパターン状に接合することで回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層12の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.8mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、
図3に示すように、セラミックス基板11の他方の面に銅又は銅合金からなる金属片23が接合されることにより形成されている。金属片23としては、無酸素銅やタフピッチ銅等で構成されたものを用いることができる。本実施形態においては、金属層13を構成する金属片23として、タフピッチ銅の圧延板が用いられている。ここで、金属層13の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0027】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、熱伝導性が良好なアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されており、本実施形態においては、A6063合金で構成されている。このヒートシンク31の厚さは、3mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
なお、ヒートシンク31と絶縁回路基板10の金属層13とは、固相拡散接合されている。
【0028】
次に、本実施形態である金属部材の仮止め方法を利用した絶縁回路基板の製造方法について、
図2及び
図3を用いて説明する。
【0029】
(金属片接合工程S01)
まず、
図3で示すように、セラミックス基板11の一方の面に複数の金属片22を接合して回路層12を形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面に金属片23を接合して金属層13を形成する。
このとき、セラミックス基板11の一方の面に複数の金属片22をパターン状に配置することにより、回路パターンが形成される。
【0030】
この金属片接合工程S01においては、セラミックス基板11と金属片22,23との間に接合材26を配設する接合材配設工程S11と、セラミックス基板11と金属片22,23とを仮止めする仮止め工程S12と、仮止めしたセラミックス基板11と金属片22,23とを接合する接合工程S13と、を備えている。
【0031】
(接合材配設工程S11)
まず、
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に複数の金属片22が接合される予定の領域にろう材ペースト26を塗布し、乾燥させる。また、セラミックス基板11の他方の面に金属片23が接合される予定の領域にろう材ペースト26を塗布し乾燥させる。ろう材ペースト26としては、Ag-Cu-Ti系ろう材やAg-Ti系ろう材を用いることができ、その塗布厚さ(乾燥後)を4μm以上7μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0032】
(仮止め工程S12)
次に、複数の金属片22及び金属片23の接合面に金属Ga40を配設する。金属Ga40は、既存の成膜技術を適用して形成することができる。
このとき、Gaを1mg/cm2以上200mg/cm2以下の範囲内で含む金属Gaを配設することが好ましい。なお、金属Ga量の下限は10mg/cm2以上とすることがより好ましい。一方、金属Ga量の上限は100mg/cm2以下とすることがより好ましい。
なお、金属Ga40は、均一な膜状に形成されている必要はなく、接合面に点在していてもよい。
【0033】
金属Ga40を介して、ろう材ペースト26を塗布したセラミックス基板11と複数の金属片22及び金属片23を積層し、加熱して金属Ga40を溶融する。なお、加熱温度は35℃以上100℃以下の範囲内とすることが好ましい。
そして、金属Ga40を溶融後に、室温にまで冷却し、溶融した金属Gaを固化させる。これにより、ろう材ペースト26を塗布したセラミックス基板11と複数の金属片22及び金属片23を仮止めする。
【0034】
(接合工程S13)
次いで、金属片22、セラミックス基板11、金属片23の積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、金属片22とセラミックス基板11とを接合して回路層12を形成し、金属片23とセラミックス基板11とを接合して金属層13を形成する。
【0035】
この接合工程S13における接合条件は、真空条件は1.0×10-2Pa以下、加熱温度は810℃以上850℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は10分以上60分以下の範囲内、積層方向の加圧荷重が0.05MPa以上0.5MPa以下(0.5kgf/cm2以上5.0kgf/cm2以下)の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
なお、接合工程S13における加熱温度の下限は825℃以上とすることが好ましい。一方、加熱温度の上限は845℃以下とすることが好ましい。
また、接合工程S13における加熱温度での保持時間の下限は20分以上とすることが好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は40分以下とすることが好ましい。
さらに、接合工程S13における加圧荷重の下限は0.1MPa以上(1.0kgf/cm2以上)とすることが好ましい。一方、加圧荷重の上限は0.3MPa以下(3.0kgf/cm2以下)とすることが好ましい。
【0037】
以上のような工程によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0038】
(ヒートシンク接合工程S13)
次に、この絶縁回路基板10の金属層13の他方側にヒートシンク31を積層し、絶縁回路基板10とヒートシンク31とが積層されたヒートシンク積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウムと銅との共晶温度未満の加熱温度で保持することにより、金属層13とヒートシンク31を固相拡散接合する。
このヒートシンク接合工程S13における接合条件は、真空条件は10-3Pa以下、加熱温度は510℃以上545℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間が45分以上120分以下の範囲内に設定されている。
【0039】
(半導体素子接合工程S03)
次いで、回路層12の一方の面に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、加熱炉内においてはんだ接合する。
上記のようにして、
図1に示すパワーモジュール1が製造される。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、回路層及び金属層を構成する金属片22,23とセラミックス基板11との間に金属Ga40を配設し、この金属Ga40を用いて、金属片22,23とセラミックス基板11とを仮止めする仮止め工程S12を有しているので、金属Ga40を比較的低い温度で溶融して金属片22,23とセラミックス基板11とを位置精度良く仮止めすることが可能となる。
【0041】
そして、金属Ga40を介して金属片22,23とセラミックス基板11とを仮止めした状態で接合する接合工程S13を備えているので、この接合工程S13において、金属Ga40のGaが金属片22,23へと拡散することになり、金属Ga40が接合界面に残存せず、金属片22,23とセラミックス基板11とを良好に接合することができる。
【0042】
また、本実施形態において、金属Ga40が、Gaを1mg/cm2以上200mg/cm2以下の範囲内で含む場合には、金属Ga40によって金属片22,23とセラミックス基板11とを確実に仮止めすることができるとともに、その後の接合工程S13において加熱した際に、金属Ga40のGaを金属片22,23へと十分に拡散させることが可能となる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0044】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0045】
さらに、本実施形態では、回路層及び金属層を構成する金属片として銅で構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム等の他の金属で構成されたものであってもよいし、複数の金属が積層された構造であってもよい。
また、本実施形態では、セラミックス基板と金属片とをろう材を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、固相拡散接合によって接合してもよいし、過渡液相接合法(TLP)によって接合してもよい。また、接合界面を半溶融状態として接合してもよい。
【0046】
また、本実施形態では、絶縁回路基板(金属層)とヒートシンクとを固相拡散接合によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ろう付け、TLP等の他の接合方法を適用してもよい。
さらに、本実施形態では、ヒートシンクをアルミニウムから成るものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅等で構成されていてもよいし、内部に冷却媒体が流通される流路を備えたものであってもよい。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0048】
AlNからなるセラミックス基板(50mm×50mm×0.635mmt)を準備し、このセラミックス基板の一方の面にろう材ペーストを塗布し、表1に示す金属からなる金属片(47mm×47mm×0.8mmt)を積層した。なお、セラミックス基板の一方の面には、回路パターンを形成するために複数枚の金属片を用いた。回路パターン間の距離(金属片同士の距離)は1.0mmとした。
なお、表1において、「Al」は、純度99mass%の純アルミニウムからなるアルミニウム片、「Cu」は、無酸素銅からなる銅片とした。また、ろう材ペーストは、アルミニウム片の場合にはAl-7.5mass%Si合金からなるろう材ペースト(塗布厚さ0.02mm)を、銅片の場合には90mass%Ag-10mass%Ti合金からなるろう材ペースト(塗布厚さ0.02mm)を用いた。
【0049】
このとき、金属片の接合面に、表1に示す仮止め材を配置して、ろう材ペーストを塗布したセラミックス基板と金属片を積層し、表1に示す条件で加熱して金属Gaを溶融して凝固させ、セラミックス基板と金属片を仮止めした。
そして、仮止めしたセラミックス基板と金属片を積層方向に加圧した状態で、表1に示す条件で加熱し、セラミックス基板と金属片とを接合した。
【0050】
比較例1では、ポリエチレングリコールからなる仮止め材を用いて、セラミックス基板と金属片とを仮止めした。
比較例2では、ポリメタクリル酸メチル樹脂とテルピネオールからなる溶剤とからなる仮止め材を用いて、セラミックス基板と金属片とを仮止めした。
【0051】
ここで、仮止めしたセラミックス基板と金属片との横ずれの有無、及び、得られた絶縁回路基板の耐圧性について、以下のように評価した。評価結果を表1に示す。
【0052】
(横ずれ)
仮止め後のサンプルを横に約30mm/sの速度で振って積層物にずれが生じるか否かを目視により評価した。横ずれが認められなかったものを「○」、横ずれが生じていたものを「×」とした。
【0053】
(耐圧性)
耐電圧試験機(菊水電子工業株式会社製TOS5050)を用いて、カットオフ値を0.5mAに設定した。接合後の絶縁回路基板のそれぞれの回路パターンにそれぞれ電極を当てて2kVの電圧を印加し、カットオフ値以上の電流が流れたものを「×」と評価し、カットオフ値未満の電流が流れたものを「○」と評価した。
【0054】
【0055】
ポリエチレングリコールを用いて仮止めした比較例1においては、横ずれは確認されなかったが、耐圧試験が「×」となり、耐圧性が不十分であった。ポリエチレングリコールの一部が加熱時に炭化して炭素残渣となったためと推測される。
アクリル系樹脂であるポリメタクリル酸メチルと溶剤であるテルピネオールとを含有する仮止め材を塗布し、この仮止め材の粘着力によって仮止めした比較例2においては、横ずれが確認されており、十分に仮止めすることができなかった。不十分であった。
【0056】
これに対して、金属Gaを用いて仮止めした本発明例1-5においては、横ずれが確認されておらず、金属片とセラミックス基板とを十分な強度で仮止めすることができた。また、接合後の絶縁回路基板の耐圧試験も「〇」となった。
【0057】
本実施例の結果から、本発明例によれば、炭素残渣の発生を抑制して絶縁性を確保でき、さらに強固に仮止めすることができることが確認された。
【符号の説明】
【0058】
1 パワーモジュール
3 半導体素子
10 絶縁回路基板
11 セラミックス基板(セラミックス部材)
12 回路層
13 金属層
22,23 金属片(金属部材)