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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】積層造形装置および積層造形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/30 20170101AFI20240509BHJP
   B29C 64/268 20170101ALI20240509BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240509BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240509BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240509BHJP
   B22F 12/20 20210101ALI20240509BHJP
   B22F 10/60 20210101ALI20240509BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B29C64/30
B29C64/268
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y30/00
B22F12/20
B22F10/60
B28B1/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020057432
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154618
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】柳田 優輝
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-111854(JP,A)
【文献】特開2006-183146(JP,A)
【文献】特開2017-214627(JP,A)
【文献】特開2019-043069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
B22F 10/00-12/90
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状に配置された材料の粉体を局所的に溶融した層を積層して所定の造形を行う造形部と、
前記造形の過程で前記粉体から形成される所定の中空部材の第1の端部から、前記造形の完結に先立って冷媒を供給する冷媒供給部と、
前記中空部材の第2の端部から前記冷媒を吸引する冷媒吸引部と
を有し、
前記冷媒供給部を複数有し、
少なくとも1つの前記冷媒供給部が、他の前記冷媒供給部と異なる温度の冷媒を供給する
ことを特徴とする積層造形装置。
【請求項2】
前記造形部が、
前記粉体を載置するステージと
前記ステージに接続し、前記ステージの上方に側面を形成する造形壁とを有し、
前記冷媒供給部が前記造形壁を介して前記冷媒を供給し、
前記冷媒吸引部が前記造形壁を介して前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする請求項1に記載の積層造形装置。
【請求項3】
前記冷媒供給部が前記造形壁に形成された第1の貫通孔を介して前記冷媒を供給し、
前記冷媒吸引部が前記造形壁に形成された第2の貫通孔を介して前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする請求項2に記載の積層造形装置。
【請求項4】
前記第1の貫通孔を開閉する第1のシャッターと、前記第2の貫通孔を開閉する第2のシャッターのうちの少なくとも一方を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の積層造形装置。
【請求項5】
前記冷媒供給部と前記第1の貫通孔とを接続する第1の接続管と、
前記冷媒吸引部と前記第2の貫通孔とを接続する第2の接続管と
を有することを特徴とする請求項3または4に記載の積層造形装置。
【請求項6】
前記第1の接続管を前記第1の貫通孔に挿入するように移動させる第1の接続管移動手段と、
前記第2の接続管を前記第2の貫通孔に挿入するように移動させる第2の接続管移動手段と、
のうちの少なくとも一方を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の積層造形装置。
【請求項7】
前記第1の接続管の前記冷媒の流路を制御する第1のバルブと、
前記第2の接続管の前記冷媒の流路を制御する第2のバルブと、
のうちの少なくとも一方を有する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の積層造形装置。
【請求項8】
層状に配置された材料の粉体を局所的に溶融した層を積層して所定の造形を行い、前記粉体を載置するステージと、前記ステージに接続し、前記ステージの上方に側面を形成する造形壁とを有する造形部と、
前記造形の過程で前記粉体から形成される所定の中空部材に、前記造形の完結に先立って冷媒を供給する冷媒供給部と、
前記中空部材から前記冷媒を吸引する冷媒吸引部と、
前記冷媒供給部と前記冷媒吸引部のいずれかと、前記造形壁に形成された第1の貫通孔とを接続する第1の接続管と、
前記冷媒供給部と前記冷媒吸引部のいずれかと、前記造形壁に形成された第2の貫通孔とを接続する第2の接続管と
を有し、
前記第1の接続管の前記冷媒の流路を制御する第1のバルブと、
前記第2の接続管の前記冷媒の流路を制御する第2のバルブと、
のうちの少なくとも一方を有し、
前記第1のバルブと前記第2のバルブのうちの少なくとも一方が、接続先として前記冷媒供給部と前記冷媒吸引部のいずれかを選択する三方弁である
ことを特徴とする積層造形装置。
【請求項9】
材料の粉体を層状に配置し、
前記粉体を局所的に溶融し、
前記粉体を局所的に溶融した層を積層して所定の中空部材を含む所定の造形を行い、
前記中空部材の第1の端部から、前記造形の完結に先立って冷媒を供給し、
前記中空部材の第2の端部から前記冷媒を吸引し、
前記造形を行う過程で、供給する前記冷媒の温度を切り替える
ことを特徴とする積層造形方法。
【請求項10】
材料の粉体を層状に配置し、
前記粉体を局所的に溶融し、
前記粉体を局所的に溶融した層を積層して所定の中空部材を含む所定の造形を行い、
前記中空部材に、前記造形の完結に先立って冷媒を供給し、
前記中空部材から前記冷媒を吸引し、
前記粉体を載置するステージの上方に側面を形成する造形壁に形成された第1の貫通孔に接続された第1の接続管の前記冷媒の流路を制御する第1のバルブと、前記造形壁に形成された第2の貫通孔に接続された第2の接続管の前記冷媒の流路を制御する第2のバルブのうちの少なくとも一方が、前記中空部材への前記冷媒の供給と前記中空部材からの前記冷媒の吸引のいずれかを選択する三方弁である
ことを特徴とする積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形装置および積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年3Dプリンタの利用が盛んになっている。3Dプリンタの造形方式の1つにパウダーベッド方式(Powder Bed Fusion、粉末床溶融結合法)がある。パウダーベッド方式では、一層ずつ、造形エリアに粉末を敷き詰め、造形部分を溶融結合させ、層を積層しながら造形する。この方法では、造形部分にレーザまたは電子ビームを照射するか、光吸収剤を吹き付けて光を照射するなどして、粉末を局所的に溶融する。この時、造形部分の溶融分の周りは未溶融の粉末で囲まれている。その結果、積層が進むにつれて、三次元造形物およびその周囲の粉末には熱が蓄積していく。そして、造形が完了する頃には、三次元造形物の温度は高温になっている。このため、造形直後に造形エリアから三次元造形物を取り出そうとすると、三次元造形物が完全に硬化しておらず、変形してしまう場合がある。そこで、造形完了後に長時間放置し、三次元造形物を十分に冷却してから取り出すことが一般的である。このような長時間の冷却は非効率であるため、冷却時間の短縮を図る方法が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、三次元造形物の造形と同時に一枚壁の筒状のダクトを形成する方法が開示されている。この方法では、三次元造形物の造形が完了したときに、端部が頂面に配置するようにダクトを形成し、端部からダクト内の未溶融粉末を排出し、空洞となったダクト内に冷媒を供給する。このようにすることによって、未溶融粉末に埋まっている三次元造形物の近傍を冷却することができる。造形完了から、三次元造形物の取り出しまでの冷却時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-183146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、三次元造形物の造形が完了してから冷却を開始しているため、冷却時間短縮の効果が小さいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、三次元造形物の造形中に造形物の冷却を行う積層造形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の積層造形装置は、造形部と、冷媒供給部と、冷媒吸引部とを有する。造形部は、層状に配置された材料の粉体を局所的に溶融し、その層における造形を行う。そして、造形部は、このようにして形成した層を順次積層して、三次元造形物の造形を行う。また、造形部は、三次元造形物の造形を行う過程で、所定の中空部材も造形する。冷媒供給部は、中空部材の第1の端部から、三次元造形物の造形の完結に先立って所定の冷媒を供給する。冷媒吸引部は、中空部材の第2の端部から冷媒を吸引する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、三次元造形物の造形中に造形物の冷却を行う積層造形装置を提供できることである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態の積層造形装置を示す平面模式図である。
図2】第2の実施形態の積層造形装置を示す斜視図である。
図3】第3の実施形態の積層造形装置を示す側面図である。
図4】第3の実施形態の積層造形装置を示す正面図と上面図である。
図5】第3の実施形態の積層造形装置の造形を示す上面図と断面図である。
図6】第3の実施形態の積層造形装置の造形を示す別の断面図である。
図7】第3の実施形態の粉末排出動作を示す断面図である。
図8】第4の実施形態の積層造形装置の一例を示す斜視図である。
図9】第4の実施形態の積層造形装置の別の一例を示す斜視図である。
図10】第4の実施形態の積層造形装置の配管構成を示す配管図である。
図11】第4の実施形態の積層造形装置の別の配管構成を示す配管図である。
図12】第4の実施形態の積層造形装置の動作を示すフローチャートである。
図13】第5の実施形態の積層造形装置の配管構成を示す配管図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお各図面の同様の構成要素には同じ番号を付し、説明を省略する場合がある。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の積層造形装置1の構成を示す平面模式図である。積層造形装置1は、造形部2と、冷媒供給部3と、冷媒吸引部4とを有する。造形部2は、層状に配置された材料の粉体を局所的に溶融し、その層における造形を行う。そして、造形部2は、このようにして形成した層を順次積層して、三次元造形物の造形を行う。また、造形部2は、三次元造形物8の造形を行う過程で、所定の中空部材9も造形する。
【0012】
冷媒供給部3は、中空部材9の第1の端部9aから、三次元造形物8の造形の完結に先立って所定の冷媒を供給する。冷媒吸引部4は、中空部材9の第2の端部9bから冷媒を吸引する。
【0013】
以上の構成とすることにより、三次元造形物を造形している間に、三次元造形物の近傍を冷却することができる。
【0014】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態の積層造形装置10を示す斜視図である。積層造形装置10は、造形部20と、材料供給部30と、冷媒供給部40と、冷媒吸引部50とを有する。
【0015】
造形部20は、造形ステージ21と、造形ヘッド22と、ステージ昇降手段23とを有する。造形ステージ21は、造形ステージ21上に敷き詰められた粉末の層を保持する。造形部20の第1の側面には、造形ステージ21に固定された第1の造形壁24が配置され、造形部20の第2の側面には、造形ステージ21に固定された第2の造形壁25が配置される。第1の造形壁24または第2の造形壁25には、造形部20と外部とをつなぐ第1の貫通孔26と、第2の貫通孔27が形成されている。図2の例では、第1の貫通孔26と第2の貫通孔27を、共に第1の造形壁24に設けているが、いずれか一方、あるいは両方を第2の造形壁25に設けても良い。
【0016】
材料供給部30は、造形ステージ21上に1層分ずつ材料の粉末を供給する。
【0017】
造形ヘッド22は、造形ステージ21上の粉末を局所的に溶融し、所定パターンの造形を行う。
【0018】
ステージ昇降手段23は、1層分の造形が完了したら、1層分だけ造形ステージ21を下降させる。すると、材料供給部30は、下降した造形ステージ21上に、次の1層分の粉末を供給し、造形ヘッド22が次の1層分の造形を行う。上記の動作を繰り返すことにより、積層造形を行うことができる。
【0019】
冷媒供給部40は、第1の貫通孔26に接続され、第1の貫通孔26を介して、造形部20に向けて冷媒を供給する。冷媒吸引部50は、第2の貫通孔27に接続され、第2の貫通孔27を介して、造形部20から冷媒を吸引する。
【0020】
造形ステージ21上で造形が完了した層に、第1の貫通孔26と第2の貫通孔27を連結する中空部が設けられていれば、冷媒供給部40から供給された冷媒は、その中空部を介して、冷媒吸引部50に吸引される。この動作により、中空部の周囲の粉末が冷却されるので、中空部の近傍で三次元造形物の造形を行うようにすれば、造形を行いながら、三次元造形物の冷却を行うことができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態の積層造形装置によれば、造形を行っている間にも、造形中の粉末層内で冷媒を流動させ、造形中の三次元造形物を冷却することができる。
【0022】
(第3の実施形態)
図3は、第3の実施形態の積層造形装置1000を示す側面図である。積層造形装置1000は、造形部100と、材料供給部200と、材料供給部201とを有している。
【0023】
造形部100は、造形ステージ110と、造形ステージに固定され、造形部100の第1の側面を担う第1の造形壁120と、造形ヘッド130と、造形ステージ110を昇降させるエレベータ140とを有している。また、図3には示していないが、第1の造形壁120に対向する第2の側面には、造形ステージ110に固定された第2の造形壁が設けられている。
【0024】
第1の造形壁120には、第1の貫通孔と第2の貫通孔が設けられ、第1の貫通孔には、第1の接続管310によって、冷媒供給部300が接続され、第2の貫通孔には、第2の接続管410によって、冷媒吸引部400が接続されている。
【0025】
材料供給部200は、粉末900を保持し、リコータ210が、その粉末をスキージングして、造形ステージ110上に、造形1層分の粉末900を供給し、造形ステージ110上に粉末層910を形成する。リコータ210は造形ステージ110を通過すると、材料供給部201から供給された粉末900を逆向きにスキージングして、造形ステージ110上に1層分の粉末を供給し、造形ステージ110上に次の粉末層910を形成する。すなわちリコータ210は、材料供給部200と材料供給部201の間を往復し、両者から交互に粉末900の供給を受けて、粉末900を造形ステージ110上に供給する。なお、上記の説明では、第1の貫通孔と第2の貫通孔が、共に第1の造形壁120に設けられている例を用いたが、これらのいずれか、あるいは両方を第2の造形壁に設けても良い。この場合は、それぞれの貫通孔に接続する接続管と冷媒供給部、冷媒吸引部もセットで移動させる。
【0026】
図4(a)、(b)は、材料供給部200と材料供給部201を取り去った積層造形装置1000の正面図と、上面図である。図4に示すように、第1の造形壁120に対向する側面には第2の造形壁150が設けられている。第1の造形壁120には、第1の貫通孔121と第2の貫通孔122とが設けられ、造形部100の内側と外側とをつないでいる。第1の貫通孔121には第1の接続管310が接続され、第1の貫通孔121と冷媒供給部300とを接続している。第2の貫通孔122には第2の接続管410が接続され、第2の貫通孔122と冷媒吸引部400とを接続している。
【0027】
次に積層造形装置1000の造形動作について説明する。積層造形装置1000では、造形ヘッド130が造形ステージ110上に供給された粉末を局所的に溶融し、所定パターンの造形を行う。造形は、例えば、レーザ光を照射したり、電子ビームを照射したりして行うことができる。これらの方法は、一般的な技術であるため、詳細な説明は省略する。そして、一つの層の造形が完了したら、次の層の造形を行う。これを繰り返すことで三次元造形物を造形する。つまり、一般的な、パウダーベッド方式の積層造形を行う。
【0028】
具体的な粉末の材料としては、プラスチック材料であれば、ナイロン、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン等があり、これらの材料に、ガラス等を所定量添加して用いても良い。金属材料としては、銅、ステンレス、アルミ、チタン等があげられる。ただし、これらの金属に限定されるものではない。また、セラミックやカーボン等の材料を用いてもよい。
【0029】
図5に、積層造形装置1000による造形の一例を示す。図5(a)は上面図であり、図5(b)は、図5(a)のA-A´における断面図である。図5の例では、造形ステージ110上には、造形された三次元造形物920と、冷却管930とが造形され、これらの周囲の空間は、未溶融の粉末900で埋められている。
【0030】
冷却管930は、三次元造形物920と同時に造形され、管状の固化部を有し、その固化部の両端部が、それぞれ第1の貫通孔121と、第2の貫通孔122に接触している。そして、図5に示すように、冷却管930は、第1の貫通孔121と第2の貫通孔122を結ぶ配置になっている。また冷却管930は、三次元造形物920の近傍を通るように配置されている。具体的な冷却管930の形状に関しては、特に限定はないが、例えば、内径10mmとし、三次元造形物から距離10mm程度離した箇所に配置すると、効率よく冷却を行うことができる。
【0031】
図6は、図5(a)のB-B´における、三次元造形物920を含む領域の断面図である。図6の中央には粉末900が溶融固化した三次元造形物920があり、その近傍に冷却管930が配置されている。冷却管930の断面は、中空管形状の固化部となっているが、固化部の内側には、未溶融の粉末900が詰まっている。
【0032】
そこで、冷却管930の内部から粉末900を排出し、中空管構造にする必要がある。図7は第2の貫通孔122の近傍の断面を拡大した断面図である。図7に示すように、第2の貫通孔122の造形部側にはシャッター160が設けられ、開閉機構161で開閉するようになっている。また、第2の貫通孔122の外側からは、第2の接続管410が挿入されている。第2の接続管410は、接続管移動機構411に接続されている。第2の接続管410は、接続管移動機構411の働きにより、第2の貫通孔122に対し、挿抜される方向の移動を行うことができる。なお、シャッター160は、第2の貫通孔122の外側に設けられていても良い。
【0033】
次に、粉末900の排出動作について説明する。図7(a)に示すように、最初の状態では、シャッター160が第2の貫通孔122を塞いでおり、第2の接続管410の先端が、シャッター160の外側に接している。粉末900を排出する場合は、図7(b)に示すように、シャッター160を開き、接続管移動機構411を動作させて接続管410の先端を冷却管930に挿入する。この時、図7(b)に示すように、第2の接続管410の先端を先細りのテーパー状にしておき、冷却管930の端部をそれに嵌合するテーパー形状にしておくと、スムーズに挿入を行うことができる。次に第2の接続管410に接続された冷媒吸引部を動作させ、接続管410の先端から吸引を行う。この動作により、冷却管930内部の粉末が吸引され、排出、除去される。冷却管930の反対の端部に当たる第1の貫通孔121との接触部まで粉末900が排出されれば、冷却管930は中空構造になる。
【0034】
以上の動作により、図5に示す中空構造の冷却管930が形成された状態となる。次に図5を参照しながら、冷却動作について説明する。冷媒供給部300からは冷媒が押し出され、冷媒は、冷却管930を通って冷媒吸引部400に吸引される。冷媒には任意のものを用いることができるが、最も簡単には大気を用いればよい。この場合、例えば、冷媒供給部300をエアコンプレッサーとし、冷媒吸引部400をエアーバキュームとすることができる。冷媒の種類は任意であるが、例えば、水その他の液体冷媒を用いることができる。冷媒の循環は一般的な技術であるため、冷媒の循環機構に関する説明は省略する。
【0035】
以上のようにして、積層体の内部に冷却管を形成し、冷却管内に冷媒を流すことで、造形部での造形を継続しながら、造形が完了した三次元造形物の周囲を冷却することができる。このため、三次元造形物の造形が完了してから、三次元造形物を取り出すまで冷却時間を大幅に短縮することができる。
【0036】
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態の積層造形装置2000を示す斜視図である。基本的な構成と動作は、第2の実施形態の積層造形装置1000と同様であるが、積層造形装置2000は、第1の貫通孔121を2つ、第2の貫通孔122を2つ有している。これに対応して、第1の接続管310と第2の接続管410も2つ設けられ、それぞれが、冷媒供給部300、冷媒吸引部400に接続されている。図8から明らかなように、上記の構成とすると、冷媒供給-吸引機構を2組形成することができ、造形層中に冷却管930を2つ設ければ、2系統で三次元造形物920の近傍を冷却することができる。このため、1系統の場合よりも冷却効率を向上することができる。なお、上記の説明は、2系統の接続管を、1つの冷媒供給部や冷媒吸引部に接続する例を用いて行ったが、冷媒供給部や冷媒吸引部を複数設けて、別々の冷媒を用いることも可能である。
【0037】
また上記の説明は、冷却が2系統の場合について行ったが、貫通孔と接続管を増やすことにより、任意の数とすることができる。図9は、第1の貫通孔121aを6個、第2の貫通孔122aを6個設けた積層造形装置3000を示す斜視図である。第1の貫通孔121a、第2の貫通孔122aに対応して、同数の第1の接続管310a、第2の接続管410aを接続し、それぞれを冷媒供給部300、冷媒吸引部400に接続している。この構成では、最大6系統で造形中の造形物を冷却することができる。
【0038】
また、図9の例では、それぞれの第1の接続管310aが、第1の貫通孔121aと冷媒供給部300とを接続し、それぞれの第1の接続管310aにはバルブ312が設けられている。同様に、第2の接続管410aが、第2の貫通孔122と冷媒吸引部400とを接続し、それぞれの第2の接続管410aにはバルブ412が設けられている。この構成により、複数設けられた第1の貫通孔121a、第2の貫通孔122aの使用、不使用を簡単に選択することができる。図10に、この構成の配管図を示す。
【0039】
図11は配管構成の別の例を示す配管図である。図11の構成では、一つの第1の接続管310aに、接続先を冷媒供給部300とするか、冷媒吸引部400とするかを切り替える三方弁313が設けられている。同様に第2の接続管410aにも、接続先を冷媒供給部300とするか、冷媒吸引部400とするかを切り替える三方弁413が設けられている。このようにすると、冷媒の供給-吸引の方向を切り替えることができる。これを利用すると、例えば、粉末の吸引を冷却管の両方の端部から行うことが可能になる。また冷媒の流す方向を切り替えることができる。冷媒の、冷却管通過による温度上昇が大きい場合には、上流では冷却効率が高く、下流では冷却効率が低くなる。冷媒の流れる向きを反転することで、上記の冷却効率の偏りを低減することができる。
【0040】
以上、本実施形態の積層造形装置について説明したが、積層造形装置の基本動作は図12のフローチャートに示すとおりである。まず粉末を造形ステージに敷き詰め、造形ヘッドで、三次元造形物のための造形を行う(S1)。この時、同時に冷却管の造形を行う(S2)。冷却管の造形は1番目の冷却管から開始する(S3)。冷却管が造形出来たら、シャッターを開け、接続管を接続する(S4)。次に、冷却管内の未溶融粉末を、例えば、吸引によって排出する(S5)。続いて、冷却管に冷媒を供給し、三次元造形物の周囲を冷却する(S6)。そして、S2に戻るループ処理により、次の冷却管の造形と冷却を行う。そし所定数Nの冷却管の造形と冷却を行って、S2からS6までのループ処理を完了する。このループ処理を行っている間も、S1の三次元造形物の造形は継続している。以上のようにして、三次元造形物の造形と、その周囲の冷却を同時に行うことができる。その結果、三次元造形物の造形完了から取り出しまでの時間を大幅に短縮することができる。
【0041】
(第5の実施形態)
図13は、第4の実施形態の積層造形装置4000を示す配管図である。積層造形装置4000では、3つの冷媒供給部301、302、303と、1つの冷媒吸引部401とを設けている。冷媒供給部を3つ設けているのは、それぞれの冷媒供給部から、異なる温度の冷媒を供給するためである。
【0042】
このような機能を実現するため。本実施形態では、第1の貫通孔121aと第2の貫通孔122aの役割が、冷媒供給、冷媒吸引の一方に限定されず、どちらの役割も行うようになっている。それぞれの第1の貫通孔121aと第2の貫通孔122aには、接続管320が接続し、接続管320の先には、流路を4方向に切り替えるバルブ414が接続されている。バルブ414の先は、第1の冷媒供給部301、第2の冷媒供給部302、第3の冷媒供給部303、冷媒吸引部401に接続されている。なお、図13では記載を省略しているが、それぞれの貫通孔には、同様の配管が接続している。
【0043】
複数設けられた貫通孔の1つを第1~3の冷媒供給部のいずれかに接続し、別の貫通孔を冷媒吸引部401に接続することで、冷媒供給と冷媒吸引のペアを作るように、各バルブ414の流路を切り替る。
【0044】
3つの冷媒供給部は、例えば、それぞれで冷媒の温度が異なるように使い分けることができる。例えば、まず、1番目に温度が高い冷媒を、第1の冷媒供給部301から供給する。そして、一定時間冷媒を流した後に、バルブ414の流路を切り替えて、2番目に温度が高い冷媒を第2の冷媒供給部302から供給する。さらに、一定時間冷媒を流した後に、3番目に温度が高い冷媒を第3の冷媒供給部303から供給する。このように、使用する冷媒の温度を段階的に下げる事で、三次元造形物を冷却する温度を段階的に下げることができる。三次元造形物の冷却を急激に行うと、造形材料内部の温度勾配が急峻となり、三次元造形物が変形してしまう恐れがあるが、上記のように、三次元造形物を段階的に冷却する事で変形を防止することができる。
【0045】
なお上記の説明は、冷媒供給部が3系統の場合について行ったが、4つ以上であっても良い。また、冷媒吸引部が複数設けられていても良い。
【0046】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【0047】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
層状に配置された材料の粉体を局所的に溶融した層を積層して所定の造形を行う造形部と、
前記造形の過程で前記粉体から形成される所定の中空部材の第1の端部から、前記造形の完結に先立って冷媒を供給する冷媒供給部と、
前記中空部材の第2の端部から前記冷媒を吸引する冷媒吸引部と
を有することを特徴とする積層造形装置。
(付記2)
前記造形部が、
前記粉体を載置するステージと
前記ステージに接続し、前記ステージの上方に側面を形成する造形壁とを有し、
前記冷媒供給部が前記造形壁を介して前記冷媒を供給し、
前記冷媒吸引部が前記造形壁を介して前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする付記1に記載の積層造形装置。
(付記3)
前記冷媒供給部が前記造形壁に形成された第1の貫通孔を介して前記冷媒を供給し、
前記冷媒吸引部が前記造形壁に形成された第2の貫通孔を介して前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする付記2に記載の積層造形装置。
(付記4)
前記第1の貫通孔を開閉する第1のシャッターと、前記第2の貫通孔を開閉する第2のシャッターのうちの少なくとも一方を有する
ことを特徴とする付記3に記載の積層造形装置。
(付記5)
前記冷媒供給部と前記第1の貫通孔とを接続する第1の接続管と、
前記冷媒吸引部と前記第2の貫通孔とを接続する第2の接続管と
を有することを特徴とする付記3または4に記載の積層造形装置。
(付記6)
前記第1の接続管を前記第1の貫通孔に挿入するように移動させる第1の接続管移動手段と、
前記第2の接続管を前記第2の貫通孔に挿入するように移動させる第2の接続管移動手段と、
のうちの少なくとも一方を有する
ことを特徴とする付記5に記載の積層造形装置。
(付記7)
前記第1の接続管の前記冷媒の流路を制御する第1のバルブと、
前記第2の接続管の前記冷媒の流路を制御する第2のバルブと、
のうちの少なくとも一方を有する
ことを特徴とする付記5または6に記載の積層造形装置。
(付記8)
前記第1のバルブと前記第2のバルブのうちの少なくとも一方が、接続先として前記冷媒供給部と前記冷媒吸引部のいずれかを選択する三方弁である
ことを特徴とする付記7に記載の積層造形装置。
(付記9)
前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔の対を複数有する
ことを特徴とする付記3乃至8のいずれか一つに記載の積層造形装置。
(付記10)
前記冷媒供給部を複数有し、
少なくとも1つの前記冷媒供給部が、他の前記冷媒供給部と異なる温度の冷媒を供給する
ことを特徴とする付記1乃至9のいずれか一つに記載の積層造形装置。
(付記11)
材料の粉体を層状に配置し、
前記粉体を局所的に溶融し、
前記粉体を局所的に溶融した層を積層して所定の中空部材を含む所定の造形を行い、
前記中空部材の第1の端部から、前記造形の完結に先立って冷媒を供給し、
前記中空部材の第2の端部から前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする積層造形方法。
(付記12)
前記粉体を載置するステージの上方に側面を形成する造形壁を介して前記冷媒を供給し、
前記造形壁を介して前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする付記11に記載の積層造形方法。
(付記13)
前記造形壁に形成された第1の貫通孔を介して前記冷媒を供給し、
前記造形壁に形成された第2の貫通孔を介して前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする付記12に記載の積層造形方法。
(付記14)
前記第1の貫通孔を第1のシャッターで開閉する動作と、前記第2の貫通孔を第2のシャッターで開閉する動作のうちの少なくとも一方の動作を行う
ことを特徴とする付記13に記載の積層造形方法。
(付記15)
前記第1の貫通孔に接続する第1の接続管を介して前記冷媒を供給し、
前記第2の貫通孔に接続する第2の接続管を介して前記冷媒を吸引する
ことを特徴とする付記13または14のいずれか一つに記載の積層造形方法。
(付記16)
前記第1の接続管を前記第1の貫通孔に挿入するように移動させる動作と、
前記第2の接続管を前記第2の貫通孔に挿入するように移動させる動作
のうちの少なくとも一方の動作を行う
ことを特徴とする付記15に記載の積層造形方法。
(付記17)
前記第1の接続管の前記冷媒の流路を第1のバルブで制御する動作と、
前記第2の接続管の前記冷媒の流路を第2のバルブで制御する動作、
のうちの少なくとも一方の動作を行う
ことを特徴とする付記15または16に記載の積層造形方法。
(付記18)
前記第1の貫通孔と前記第2の貫通孔の対を複数有する
ことを特徴とする付記3乃至8のいずれか一つに記載の積層造形方法。
(付記19)
複数の前記中空部材を形成する
ことを特徴とする付記11乃至18のいずれか一つに記載の積層造形方法。
(付記20)
前記造形を行う過程で、供給する前記冷媒の温度を切り替える
ことを特徴とする付記11乃至19のいずれか一つに記載の積層造形方法。
【符号の説明】
【0048】
1、10、1000、2000、3000、4000 積層造形装置
2、20、100 造形部
3、40、300 冷媒供給部
4、50、400 冷媒吸引部
8、920 三次元造形物
9 中空部材
21、110 造形ステージ
22、130 造形ヘッド
23 ステージ昇降手段
24、120 第1の造形壁
25、150 第2の造形壁
26、121 第1の貫通孔
27、122 第2の貫通孔
30、200 材料供給部
140 エレベータ
160 シャッター
161 開閉機構
210 リコータ
310 第1の接続管
312 バルブ
410 第2の接続管
411 接続管移動機構
412 バルブ
413 三方弁
900 粉末
910 粉末層
930 冷却管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13