(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】成形用組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240509BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240509BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240509BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240509BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240509BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08L1/02
C08K7/02
C08L67/02
C08J5/04 CEZ
C08J5/04 CFD
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2020065582
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2019168672
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 淳
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏泰
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/030845(WO,A1)
【文献】特開平09-291414(JP,A)
【文献】特開平11-209482(JP,A)
【文献】特開2010-126637(JP,A)
【文献】特開2011-153297(JP,A)
【文献】特開2007-056176(JP,A)
【文献】特開2010-090486(JP,A)
【文献】特開平11-043857(JP,A)
【文献】特開2015-133389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物であって、
前記パルプ繊維の含有量は、前記成形用組成物の全質量に対して10~60質量%であり、前記生分解性樹脂の含有量は、前記成形用組成物の全質量に対して40~90質量%であり、
前記パルプ繊維のセルロース純度が90~98%であり、
前記パルプ繊維のJIS P 8121-1995に準じて測定されるカナダ標準パルプ濾水度が600ml~750mlであり、
前記パルプ繊維の加重平均繊維幅が10~20μmである、成形用組成物。
【請求項2】
前記パルプ繊維の結晶化度が80~90%である、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項3】
前記パルプ繊維は、木材又は綿花由来の繊維である、請求項1又は2に記載の成形用組成物。
【請求項4】
前記パルプ繊維の加重平均繊維長が0.2~3.0mmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項5】
前記パルプ繊維は、酸性サルファイト蒸解法又は前加水分解
-クラフト蒸解法にて得られた溶解パルプである、請求項1~4のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項6】
前記生分解性樹脂は、融点が150℃以下のポリエステル系樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項7】
前記生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネート
である、請求項1~6のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の成形用組成物を成形加工してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、私たちの生活に利便性と恩恵をもたらしている有用な物質であるが、通常、不適切な廃棄処分で流出すると長期間にわたり自然環境中にとどまることとなる。特に、海洋に流出しているプラスチックごみは世界全体で年間数百万トンを超えると推計されており、地球規模での環境汚染による生態系、生活環境、漁業、観光等への悪影響が懸念されている。こうした問題の解決のためには、経済活動を制約することなくプラスチックごみの流出を抑えることが望ましいが、仮に自然環境へ流出しても分解される素材の開発や、こうした素材への転換も期待されている。近年、こうした流れの中で生分解性プラスチックの利用が注目を集めており、農業用マルチフィルムや生ゴミ袋、釣り糸、植生ネットといった用途に活用され始めている。
【0003】
プラスチック製品の中で、家電部品や自動車部品のように耐久性の求められる用途においては、機械的強度を備えることが求められる。一般的に、樹脂に強度を付与するためには強化フィラーを添加する手法が取られる。これまでに強化フィラーとしてガラス繊維や炭素繊維のような強化繊維を添加したプラスチックが実用化されているが、これらは自然環境中での分解が困難であり、かつリサイクル性にも課題が残っている。
【0004】
一方、植物繊維は自然環境下で分解されるため、植物繊維により強化された生分解プラスチックは、環境中に流出しても負荷が少なく、様々な用途への展開が期待される。
【0005】
例えば、特許文献1では、熱可塑性の生分解性樹脂中にパルプまたはセルロース系繊維が5~60重量%含まれてなる生分解性複合材料からなる成形体が開示されている。ここでは、叩解した新聞古紙パルプとポリカプロラクトン繊維を水中で離解し、湿式造粒法により円柱状ペレットとし、得られたペレットを加熱して射出成形して成形体を得る方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、通常のパルプ又はセルロース系繊維を補強用強化繊維として添加すると、混練及び成形工程において加えられる熱によって成形体に着色や臭気が発生するといった問題がある。このような場合、得られる成形体自体、もしくは成形体の内容物が、本来の性状に比べて退色・腐敗しているとの錯覚を消費者に与える懸念がある。そのため食品用容器のように、内容物本来の外観や風味を損なわず、かつ清潔感が求められる用途での利用は困難であった。
【0008】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、着色と発臭が抑制された成形体を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物において、パルプ繊維の含有量と生分解性樹脂の含有量を所定範囲内とし、さらに、パルプ繊維のセルロース純度を90%以上とすることにより、着色と発臭が抑制された成形体が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物であって、
パルプ繊維の含有量は、成形用組成物の全質量に対して10~60質量%であり、生分解性樹脂の含有量は、成形用組成物の全質量に対して40~90質量%であり、
パルプ繊維のセルロース純度が90~98%である、成形用組成物。
[2] パルプ繊維の結晶化度が80~90%である[1]に記載の成形用組成物。
[3] パルプ繊維は、木材又は綿花由来の繊維である、[1]又は[2]に記載の成形用組成物。
[4] パルプ繊維の加重平均繊維長が0.2~3.0mmであり、パルプ繊維の加重平均繊維幅が10~20μmである、[1]~[3]のいずれかに記載の成形用組成物。
[5] パルプ繊維は、酸性サルファイト蒸解法又は前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた溶解パルプである、[1]~[4]のいずれかに記載の成形用組成物。
[6] パルプ繊維のJIS P 8121-1995に準じて測定されるカナダ標準パルプ濾水度が600ml~750mlである、[1]~[5]のいずれかに記載の成形用組成物。
[7] 生分解性樹脂は、融点が150℃以下のポリエステル系樹脂である、[1]~[6]のいずれかに記載の成形用組成物。
[8] 生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネートを主成分として含む、[1]~[7]のいずれかに記載の成形用組成物。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の成形用組成物を成形加工してなる成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、着色と発臭が抑制された成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
(成形用組成物)
本発明は、パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物に関する。ここで、パルプ繊維の含有量は、成形用組成物の全質量に対して10~60質量%であり、生分解性樹脂の含有量は、成形用組成物の全質量に対して40~90質量%である。また、パルプ繊維のセルロース純度は90~98%である。
【0014】
本発明の成形用組成物は、上記構成を有するものであるため、着色と発臭が抑制された成形体を成形することができる。ここで、成形体の臭気の抑制については、成形用組成物を成形した直後の成形体の臭気を官能評価することで評価することができる。一般的に、パルプにはセルロースの他、ヘミセルロース、リグニンなどが含まれており、これらが加水分解することで生成された単糖類や二糖類が臭気を発するか、もしくは還元された糖類がアミノ化合物と反応して臭気を発するものと推測される。本発明においては、パルプ繊維中のヘミセルロースやリグニンの占める割合を極力減らし、セルロース純度を上記範囲とすることで、成形体の臭気を抑制できるものと考えられる。
【0015】
成形体の着色が抑制されていることは、例えば、色目の明度(L*値)や黄色み(b*値)を指標とすることができる。具体的には、成形体の明度(L*値)は75.0以上であることが好ましく、76.0以上であることがより好ましい。さらに、成形体の黄色み(b*値)は、14.0以下であることが好ましい。成形体の明度(L*値)及び黄色み(b*値)が上記条件を満たしている場合に、成形体の着色が抑制されていると判定できる。着色に関しても臭気と同様に、ヘミセルロースやリグニンが加水分解することで生成された単糖類や二糖類自体や、還元された糖類がアミノ化合物と反応して着色すると考えられる。
【0016】
本発明の成形用組成物は、上記構成を有するものであるため、成形体の強度を高めることもできる。具体的には、本発明の成形用組成物から成形された成形体は、樹脂のみから成形された成形体に比べて、高い曲げ強度と曲げ弾性率を有している。また、本発明の成形用組成物から成形された成形体は、耐衝撃性にも優れている。
【0017】
さらに、本発明の成形用組成物は、バイオマス資源であるパルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物である。そのため、製造時の低コスト化を可能とし、かつ生産が化石資源に依存しないカーボンニュートラルな素材のため、廃棄処理時には二酸化炭素の排出量を低減することも可能とする。また、本発明の成形体は、自然環境下で生分解され得るものである。
【0018】
なお、自然環境中には、セルロース分解性の微生物が数多く存在しており、例えば、30±2℃の自然海水中において6ヶ月でセルロースの80%以上が水と二酸化炭素に分解されることが知られている。このため自然環境中での生分解が比較的緩やかに行われる樹脂であっても、セルロースを配合することで組成物としての生分解速度を向上できる。加えて、組成物を構成するセルロースが分解されることで成形体に空隙が生じ、樹脂の表面積が増すため、樹脂自体の生分解速度の向上も期待できる。
【0019】
本発明の成形用組成物から成形される成形体は、海洋分解性を有するものである。このように、本発明は、海洋分解性成形体に関するものであってもよい。本発明の成形用組成物から成形される成形体は、海洋汚染を引き起こすことを抑制した新規素材であると言える。
【0020】
成形用組成物のメルトフローレート(MFR)は、1.0~20g/10minであることが好ましく、3.0~20.0g/10minであることがより好ましく、5.0~20.0g/10minであることがさらに好ましい。成形用組成物のメルトフローレート(MFR)を上記範囲内とすることにより、混練・成形時に発生する摩擦熱を抑制して成形体の着色をより効果的に抑制することができる。成形用組成物のメルトフローレート(MFR)は、190℃、10kg荷重下においてJIS K 7210に準じて測定される値である。
【0021】
成形用組成物は、パルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる組成物であり、その性状は固形状体であってもよく、溶融状態の液状体であってもよい。なお、成形用組成物が固形状体である場合、成形用組成物は、ペレット状や、フレーク状、粉粒状であってもよい。
【0022】
(パルプ繊維)
パルプ繊維は、木材又は綿花由来の繊維であることが好ましく、パルプ繊維のセルロース純度は90~98%である。本発明の成形用組成物においては、セルロース純度が90%以上のパルプ繊維を用いることにより、混練や成形の工程で加熱した際に発生する着色や臭気を抑えることができる。これは、パルプ繊維のセルロース純度を90%以上とすることにより、通常の植物繊維に含まれるヘミセルロースやリグニンの含有率を有意に低減することが可能となり、これにより、ヘミセルロースやリグニンの分解時に生じる着色や臭気の発生を抑制できているものと推測される。
【0023】
セルロース純度が90%以上のパルプ繊維としては、例えば、溶解パルプやコットン繊維等を挙げることができる。中でも、溶解パルプは特に好ましく用いられる。なお、通常の抄紙工程で用いられる広葉樹や針葉樹の晒しクラフトパルプのセルロース純度は、85%程度である。
【0024】
溶解パルプは、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等に含まれるリグノセルロース物質からヘミセルロースとリグニンを選択的に除去することにより得ることができる。中でも、溶解パルプは、酸性サルファイト蒸解法又は前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた溶解パルプであることが好ましい。溶解パルプの生産に使用するリグノセルロース物質は、樹木、非樹木のいずれの原材料に由来するでもよく、異なる樹種、異なる原材料から得られたリグノセルロース物質を混合して加工した溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとしては、異なる樹種、異なる原材料から得られた溶解パルプを混合して用いてもよい。
【0025】
溶解パルプは、針葉樹由来パルプもしくは広葉樹由来パルプのいずれかであることが好ましいが、広葉樹由来パルプであることがより好ましい。一般に針葉樹材よりも広葉樹材の方が、容積重量が高く処理効率の高い溶解パルプが得られる点において好適である。さらに広葉樹の中でも容積重量が高いユーカリやアカシアは特に好ましく用いられる。このような広葉樹としては、例えば、ユーカリ・グロブラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ユーログランディス、ユーカリ・ペリータ、ユーカリ・ブラシアーナ、アカシア・メランシ等を挙げることができ、中でもユーカリ・ペリータは好ましく用いられる。
【0026】
広葉樹の容積重量は、450~700kg/m3であることが好ましく、500~650kg/m3であることがより好ましい。広葉樹の容積重量を上記範囲内とすることにより、パルプの生産効率を上げることができ、さらに、前加水分解やアルカリ蒸解時に薬液が十分に浸透するためセルロース純度の高いパルプを得ることができる。
【0027】
セルロース純度が90%以上のパルプ繊維として、コットン繊維を用いることも好ましい。コットン繊維は綿花から採取した原綿を原料とし、原綿に付着している種子片、葉片、塵などを除去しながら解きほぐすことによって得られる。コットン繊維は、必要に応じてカーディング、コーミング、引き延ばし、裁断などの処理を行い、所望する繊維長及び繊維径に調整することができる。
【0028】
パルプ繊維のセルロース純度は、具体的には、以下の方法で算出することができる、まず、20℃恒温水槽中のビーカーに絶乾量5gのパルプ繊維を入れた後、17.5質量%の水酸化ナトリウム溶液50mlを均一に添加する。3分30秒放置した後、ガラス棒を用いて5分間試料を押し潰して十分に離解させる。試料の表面を平らに均して20分間置いた後、蒸留水を50ml加えて内容物をガラス棒で掻き混ぜる。その後、内容物を濾過した後、洗浄水総量900mlで吸引・脱水を繰り返して内容物を水洗する。10%酢酸40mlを注ぎ5分間放置して酸液を十分に浸透させた後、1Lの煮沸水で水洗して内容物を乾燥させる。内容物の乾燥重量が供試料の絶乾量に占める割合をαセルロース含有率として算出し、セルロース純度(%)とする。
セルロース純度(%)=(絶乾αセルロースの重量/絶乾パルプ繊維の重量)×100
なお、パルプ繊維のセルロース純度を測定する際にはパルプ繊維単体を測定に供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する有機溶剤等を用いてパルプ分のみを抽出して試験に供することが好ましい。なお、抽出の際に用いる有機溶剤としては、公知のものを使用することができる。例えば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤などが挙げられる。有機溶剤は単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。溶解効率の良い有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(以後MEKと記す)、メチルイソプチルケトン(4ーメチルー2-ペンタノン)(以後MlBKと記す)、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロへキサノン単独や、アセトンエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、MEKエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、ΜΙΒΚエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、ジオキサンエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、テトラヒドロフランエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、シクロへキサノンエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、アセトンイソプロパノール混合溶液、ΜΕΚイソプロパノール混合溶液、MIBKイソプロパノール混合溶液、ジオキサンイソプロパノール混合溶液、テトラヒドロフランイソプロパノール混合溶液、シクロへキサノンイソプロパノール混合溶液などが好適に使用できる。
【0029】
パルプ繊維のセルロース純度は90%以上であればよく、95%以上であることがより好ましい。パルプ繊維のセルロース純度を上記範囲内とすることにより、混練や成形の工程で加熱した際に発生する着色や臭気を効果的に抑えることができる。なお、パルプ繊維のセルロース純度は98%以下であればよく、パルプ繊維中に極微量のヘミセルロースやリグニンを含むことにより、パルプ繊維の分散性を向上させることができる。
【0030】
パルプ繊維の結晶化度は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。また、パルプ繊維の結晶化度は90%以下であることが好ましい。パルプ繊維の結晶化度を上記範囲内とすることにより、パルプ繊維の反応性を適度に抑制し、混練や成形の工程で加熱した際に発生する着色や臭気をより効果的に抑えることができる。
【0031】
パルプ繊維の結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出されるセルロースI型結晶化度である。具体的には、セルロースI型結晶化度は、パルプ繊維のX線回折強度を、リガク社製の「RINT UltimaIII」を用いて以下の条件で測定し、下記式(1)に基づいて算出される値である。なお、測定用サンプルは、シート化したパルプ繊維を面積320mm2×厚さ1mmに圧縮して作製する。なお、測定には成形に供する前のパルプ繊維単体を供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する溶剤を用いてパルプ分のみを抽出した後、試験に供することが好ましい。
(条件)
X線源:Cu/Kα-radiation
管電圧:40kv
管電流:120mA
測定範囲:回折角2θ=5~45°
スキャンスピード:10°/min
式(1):セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100
なお、式(1)中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は,アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。
【0032】
セルロースI型結晶化度とは、セルロース全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度は、セルロースの物理的性質、及び化学的性質とも関係し、その値が大きいほど硬度、密度等は増すが、伸びや柔軟性、化学反応性は低下する。
【0033】
本発明では、異なるパルプ繊維を2種以上組み合わせて用いてもよいが、その場合のパルプ繊維の結晶化度とは、用いられるパルプ繊維の加重平均により求められる結晶化度を意味し、その値が上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
パルプ繊維のJIS P 8121-1995に準じて測定されるカナダ標準パルプ濾水度は600~750mlであることが好ましく、650~750mlであることがより好ましい。パルプ繊維のカナダ標準パルプ濾水度を上記上限以下とすることにより、パルプ繊維同士が適度に交絡して、成形体の強度を高めることができる。また、パルプ繊維のカナダ標準パルプ濾水度を上記下限値以上とすることにより、成形用組成物中における生分解性樹脂の分散性が高まり、均一な成形用組成物が得られる。また、成形用組成物を混練及び成形する際の摩擦熱の発生を抑えてパルプ繊維由来の着色や臭気の発生をより効果的に防ぐことができる。なお、パルプ繊維の濾水度を測定する際にはパルプ単体を測定に供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する溶剤を用いてパルプ分のみを抽出して、パルプ濾水度の試験に供することが好ましい。
【0035】
パルプ繊維長の加重平均値は0.2~3.0mmであることが好ましく、0.3~2.5mmであることがより好ましく、0.5~2.0mmであることがさらに好ましい。また、パルプ繊維の加重平均繊維幅は、10~20μmであることが好ましく、10~15μmであることがより好ましい。パルプ繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、成形体の耐衝撃性を高めることができる。また、繊維長とパルプ繊維の平均繊維幅を上記範囲内とすることにより、混練時の摩擦熱の発生を抑えてパルプ繊維由来の着色や臭気の発生をより効果的に防ぐことができる。
【0036】
パルプ繊維の含有量は、成形用組成物の全質量に対して10~60質量%であればよく、15~55質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。パルプ繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の強度をより効果的に高めることができる。なお、成形用組成物中におけるパルプ繊維の含有量は、成形用組成物を作製する際に添加したパルプ繊維の配合量から算出できるが、成形用組成物をX線回折に供して得られた回折強度値から簡易的に算出することも可能である。例えば、パルプ繊維は回折角2θ=15.4、22.5に、ポリブチレンサクシネートは回折角2θ=19.6、22.7、28.9に結晶ピークが存在し、回折角2θ=15.4(パルプ繊維)、19.6(ポリブチレンサクシネート)はそれぞれ殆ど干渉しない。配合率が既知の複数の試料について非干渉ピーク部の回折強度を測定し、検量線を引くことで、配合率が未知の試料であってもその配合率推定が可能となる。また、パルプ繊維と成形用樹脂の配合比を測定する手段として、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する溶剤を用いてパルプ分のみを抽出し、重量比を測定しても良い。
【0037】
(生分解性樹脂)
生分解性樹脂は、微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解される樹脂をいう。生分解性樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル樹脂;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル樹脂;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子;上述した脂肪族ポリエステル樹脂あるいは脂肪族芳香族コポリエステル樹脂との混合物;等の生分解性を有するポリエステル樹脂等が挙げられる。生分解性樹脂としては、上記樹脂が複数種類含有されていてもよい。また、生分解性を損なわない範囲で、上述した生分解性樹脂を構成するモノマー成分と生分解性樹脂以外の樹脂を構成するモノマー成分との共重合体を用いてもよく、生分解性樹脂と生分解性樹脂以外の樹脂の混合物を用いてもよい。
【0038】
生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂及び脂肪族芳香族コポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂を含むことが好ましい。この場合、脂肪族ポリエステル樹脂及び脂肪族芳香族コポリエステル樹脂の合計含有量は、生分解性樹脂の全質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。脂肪族ポリエステル樹脂及び脂肪族芳香族コポリエステル樹脂の合計含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の耐熱性や可撓性を高めることができる。
【0039】
生分解性樹脂は、融点が150℃以下のポリエステル系樹脂であることが好ましい。これにより、成形用組成物を混練及び成形する際の着色や臭気の発生をより効果的に防ぐことができる。また、生分解性樹脂として、融点が150℃以下のポリエステル系樹脂を用いることにより、得られる成形体の強度を高めることもできる。
【0040】
融点が150℃以下のポリエステル系樹脂としては、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等が挙げられる。中でも海洋分解性を有するポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートが好ましく、パルプ繊維と混練した際の強度や柔軟性のバランスから、ポリブチレンサクシネートを用いることが特に好ましい。このように、生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネートを主成分として含む樹脂であることが特に好ましい。
【0041】
生分解性樹脂の含有量は、成形用組成物の全質量に対して40~90質量%であればよく、50~85質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがより好ましい。生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の強度をより効果的に高めることができる。また、生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の耐熱性や可撓性を高めることもできる。
【0042】
(任意成分)
本発明の成形用組成物は、パルプ繊維と生分解性樹脂に加えて、他の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、滑剤を挙げることができる。滑剤としては、ステアリルアルコール、セチルアルコール等の炭素数2~30の脂肪族アルコール、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の炭素数12~30の脂肪酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸カルシウム等の炭素数12~30の脂肪酸の金属塩やその複合体、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド等の脂肪酸の炭素数12~30の脂肪族モノアミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビス12-ヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪酸の炭素数12~22の脂肪族アルキレンビスアミド、ペンタエリスリトールセスキステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート等の多価アルコール脂肪酸エステル、12-ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド等の脂肪酸の炭素数12~22のヒドロキシ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールアジペートステアレート等の高分子エステルワックス、ポリエチレンワックス等のポリオレフィンワックス、トリドデシルフォスフェート、トリオクタデシルフォスフェート、セスキオクタデシルフォスフェート、ジ(ポリオキシエチレン(オキシエチレン付加モル数2)ラウリルエーテル)フォスフェート等の有機リン酸エステル、ビス(ジオクタデシルフォスフェート)亜鉛塩等の有機リン酸エステル金属塩、ラウリルジヒドロキシエチルメチルアンモニウム過塩素酸塩等のカチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
その他の任意成分としては、可塑剤;充填剤(無機充填剤、有機充填剤);難燃剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;防曇剤;光安定剤;顔料;防カビ剤;抗菌剤;発泡剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、挙げることができる。また、任意成分として、高分子材料や他の熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0044】
成形用組成物における任意成分の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。任意成分の含有量を上記範囲内とすることにより、海洋分解性を高めることができる。
【0045】
(成形用組成物の製造方法)
本発明の成形用組成物は、パルプ繊維と生分解性樹脂を溶融混練して得られるものである。溶融混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、それらを組み合わせた二軸・単軸複合型押出機等の押出機など公知のものを用いることができる。より具体的には、KTK型二軸押出機(神戸製鋼所社製)、TEM型二軸押出機(東芝機械社製)、PCM型二軸押出機(池貝鉄工社製)、TEX型二軸押出機(日本製鋼所社製)等が挙げられる。
【0046】
溶融混練装置に原料を供給する方法としては、パルプ繊維と生分解性樹脂を個別に直接供給する方法、両者を予め混合した後に一括して供給する方法、ヘンシェルミキサーなどの高速ミキサーを用いて原料を凝集(造粒)させ後に供給する方法などいずれの方法も用いることができる。溶融混練装置への原料供給は、供給量を一定に調節できる重量フィーダーを用いて供給することが好ましい。
【0047】
溶融混練時の設定温度は特に限定されないが、本発明では、パルプ繊維の退色と臭気の発生を抑制し、かつ強度の優れた成形体を製造する観点から、溶融混練物の温度(T(℃))が100℃≦T≦200℃であることが好ましく、100℃≦T≦180℃であることがより好ましい。
【0048】
混練された成形用組成物は、ストランドに成形されるが、後の射出成形時の操作性の観点から、ストランドをストランドカッターでカッティングしてペレット化したり、ダイスから排出されると同時にホットカッター又はアンダーウォーターカッターなどの切断手段を用いてペレット化したりしても構わない。なお、ストランドをストランドカッターでカッティングしてペレット化する際には、得られる溶融混練物の強度をより高くするために、溶融混練後にストランドを液体媒体中に保持してもよい。この際の液体媒体の温度は、15~40℃であることが好ましく、20~40℃であることがより好ましく、25~30℃であることがさらに好ましい。また、液体媒体中における保持時間は、0.5~10秒であることが好ましく、1~10秒であることがより好ましい。なお、液体媒体としては、例えば、水、エチレングリコール、シリコンオイル等の沸点が100℃以上の低粘度液体が挙げられ、安全性及び取扱い性の観点から水であることが好ましい。液体媒体の温度は、液体媒体を温調機器で循環させる等によって安定的に保持されることが好ましい。
【0049】
(成形体の製造方法)
本発明の成形用組成物を用いた成形体の製造方法としては、射出成形機による成形方法や溶融押出ダイによるシート状成形物の製造方法が挙げられる。射出成形型又は溶融押出ダイに注入する成形用組成物の温度は、得られる成形物の退色や臭気発生の抑制と強度を両立する観点から、120~200℃であることが好ましく、120~180℃であることがより好ましい。
【0050】
射出成形時の金型温度は、樹脂組成物の結晶化速度向上の観点から、10~90℃であることが好ましく、20~85℃であることがより好ましく、50~85℃であることがさらに好ましい。
【0051】
(成形体)
本発明は、上述した成形用組成物を成形加工してなる成形体に関するものでもある。
【0052】
成形体の曲げ弾性率は、0.5~5.0GPaであることが好ましく、1.0~5.0GPaであることがより好ましく、1.5~5.0GPaであることがさらに好ましい。また、成形体の曲げ強度は、40~100MPaであることが好ましく、50~100MPaであることがより好ましく、60~100MPaであることがさらに好ましい。成形体の曲げ弾性率及び曲げ強度は、JIS K7171に準じて測定される値である。
【0053】
成形体の曲げひずみは5~20%であることが好ましく、8~20%であることがより好ましく、10~20%であることがさらに好ましい。成形体の曲げひずみはJISK7171によって測定される値である。また、成形体の耐衝撃シャルピーは、3~20kJ/m2であることが好ましく、5~20kJ/m2であることがより好ましく、8~20kJ/m2であることがさらに好ましい。成形体の耐衝撃シャルピーはJIS K7111-1によって測定される値である。
【0054】
成形体のL*a*b*色空間におけるL*値は、75~80であることが好ましい。さらに、b*値は、-10~14であることがより好ましく、-10~10であることがさらに好ましい。
【0055】
成形体の加重たわみ温度は、80~200℃であることが好ましく、100~200℃であることがより好ましい。成形体の加重たわみ温度は、JIS K7191-1に記載のB法(フラットワイズ、0.45MPa荷重)にて測定される。
【0056】
(成形体の用途)
本発明の成形体の用途としては、例えば、電子機器や家電製品などの筐体、補強材、土木、建材用部品、内装部品、自動車、二輪車用部品、航空機用部品、鉄道車両用部品、
日用雑貨品、包装材などの部材等が挙げられるが、中でも、ディスポーザブルな用途として好適である。本発明の成形体は自然環境中に流出しないことが望ましいが、仮に流出しても、自然環境中で分解されるため環境への負荷を減らすことができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0058】
(実施例1)
前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた、広葉樹由来の溶解パルプ100質量部とポリブチレンサクシネート樹脂(三菱ケミカル社、バイオPBS FZ71PM)400質量部を二軸混練機に投入し、温度を160℃、回転速度を30rpmとして30分間攪拌して、溶融混練した。この際、混練物全体の質量に対して、パルプ固形分は20質量%であり、樹脂固形分は80質量%であった。
溶融混練して得られた成形用組成物(樹脂組成物)は、常温で固化した後に粉砕してフレーク状とした。その後、射出成形機を用いてJIS K 7139に記載されたプラスチックの物性評価の標準形状(多目的試験片(A1)形状)に成形して、成形体を得た。なお射出成形時は、シリンダー温度は一律165℃とし、金型温度は30℃に設定した。
【0059】
(実施例2)
原料として、成形用組成物の全質量に対するパルプ固形分を40質量%とし、樹脂固形分を60質量%とした以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0060】
(実施例3)
原料として、溶解パルプの代わりにコットンパルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0061】
(実施例4)
原料として、ポリブチレンサクシネート樹脂の代わりにポリ乳酸(Nature works社、ingeo 3251D)を用いて、混練時の温度を200℃に設定し、射出成形時のシリンダー温度を180℃に設定した以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0062】
(比較例1)
原料として、溶解パルプの代わりに広葉樹パルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0063】
(比較例2)
原料として、溶解パルプの代わりに広葉樹パルプを用い、さらに成形用組成物の全質量に対するパルプ固形分を40質量%とし、樹脂固形分の60質量%とした以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0064】
(比較例3)
原料として、溶解パルプの代わりに麻パルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0065】
(比較例4)
原料として、溶解パルプの代わりにワラパルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0066】
(比較例5)
原料として、溶解パルプの代わりにケナフパルプを用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0067】
(参考例1)
射出成形機を用いて、ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱ケミカル社、バイオPBS FZ71PM)をJIS K 7139に記載されたプラスチックの物性評価の標準形状(多目的試験片(A1)形状)に成形して、成形体を得た。なお射出成形時は、シリンダー温度は一律165℃とし、金型温度は30℃に設定した。
【0068】
(測定及び評価方法)
〔セルロース純度(αセルロース含有量)の定量方法〕
20℃恒温水槽中のビーカーに絶乾量5gのパルプ繊維を入れた後、17.5質量%の水酸化ナトリウム溶液50mlを均一に添加した。3分30秒放置した後、ガラス棒を用いて5分間試料を押し潰して十分に離解させた。試料の表面を平らに均して20分間置いた後、蒸留水を50ml加えて内容物をガラス棒で掻き混ぜた。質量既知のかなきん(純綿糸80番手×80番手の127本×127本/インチ打込み)で内容物を濾過した後、洗浄水総量900mlで吸引・脱水を繰り返して内容物を水洗した。10%酢酸40mlを注ぎ5分間放置して酸液を十分に浸透させた後、1Lの煮沸水で水洗して内容物を乾燥させた。内容物の乾燥重量が供試料の絶乾量に占める割合をαセルロース含有率として算出し、セルロース純度(%)とした。
セルロース純度(%)=(絶乾αセルロースの重量/絶乾パルプ繊維の重量)×100
〔繊維長〕
パルプ繊維の繊維長は、Valmet社製の「Valmet FS5HD」を用いて測定した。
【0069】
〔結晶化度〕
パルプ繊維の結晶化度(セルロースI型結晶化度)は、パルプ繊維のX線回折強度を、リガク社製の「RINT UltimaIII」を用いて以下の条件で測定し、下記式(1)に基づいて算出した。なお、測定用サンプルは、パルプ繊維を面積320mm2×厚さ1mmに圧縮して作製した。
X線源:Cu/Kα-radiation
管電圧:40kv
管電流:120mA
測定範囲:回折角2θ=5~45°
スキャンスピード:10°/min
式(1):セルロースI型結晶化度(%)=[(I22.6-I18.5)/I22.6]×100
なお、式(1)中、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は,アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。
【0070】
〔パルプ濾水度〕
パルプ濾水度は、JIS P 8121-2に従って測定した。
【0071】
〔樹脂の融点〕
樹脂の融点は、DSC装置(セイコー インスツルメンツ社製、DSC6200)を用いて、JIS K 7121に基づく示差走査熱量測定の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度から算出した。樹脂の融点の測定は、昇温速度10℃/分で20℃から250℃まで昇温して行った。
【0072】
〔メルトフローレート(MFR)〕
実施例2及び比較例2の成形用組成物のメルトフローレート(MFR)の測定は、190℃、10kg荷重下においてJIS K 7210に準じて行った。なお、実施例2及び比較例2以外の成形用組成物のメルトフローレート(MFR)の測定は、190℃、21.6kg荷重下においてJIS K 7210に準じて行った。
【0073】
〔臭気試験〕
実施例及び比較例で得られた成形体の臭気を、下記基準にて評価した。
◎:臭気は全く感じられない
○:臭気は微かに感じられる
△:臭気を確かに感じられる
×:強い臭気を感じられる
【0074】
〔色目評価〕
実施例及び比較例で得られた成形体について、x-rite社製「x-rite 939」の分光測色計を用いて明度及び色度を測定した。光源はD65/2を用いた。
【0075】
〔曲げ特性〕
実施例及び比較例で得られた成形体の曲げ弾性率と曲げ強度をJIS K7171に準じて測定した。
【0076】
〔耐衝撃性試験〕
実施例及び比較例で得られた成形体に東洋精機社製の「自動ノッチ加工機 A-4」を用いてJIS K 7144に準じてノッチ加工を施した後、JIS K 7111に準じてシャルピー衝撃特性の測定を行った。シャルピー衝撃特性は、東洋精機社製の「耐衝撃試験機IT」を用いて測定した。
【0077】
〔荷重たわみ温度〕
実施例及び比較例で得られた成形体の荷重たわみ温度は、東洋精機社製「HDTテスター 6M-2」を用いて、JIS K7191-1に記載のB法(フラットワイズ、0.45MPa荷重)にて測定した。
【0078】
【0079】
実施例では、得られた成形体において臭気の発生が抑制されていた。また、さらに実施例では、着色が抑制されていた。
【0080】
実施例では、得られた成形体において臭気の発生が抑制されていた。また、実施例では、明度(L*値)は75以上であり、樹脂単体を成形した参考例1と比較しても透明性はほとんど損なわれていなかった。比較例に記載のいずれの成形体も、パルプ繊維の純度が低いため、L*値は75を下回った。
また実施例では、黄色みを示すb*値については、いずれも14以下であった。さらに、実施例1や3に記載の成形体は、比較例に記載のいずれも成形体ともパルプ繊維の配合率は同じであるものの、b*値は8以下と顕著に低かった。比較例に記載のいずれの成形体も、パルプ繊維の純度が低いため、b*値は15を上回った。