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  • 特許-切削インサート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】切削インサート
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/22 20060101AFI20240509BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B23B27/22
B23B27/14 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020069055
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021164972
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】飯島 周平
(72)【発明者】
【氏名】安田 誠
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6213460(JP,B2)
【文献】特開2008-000837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/22
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/04-10、20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形板状のインサート本体の多角形面にすくい面が形成されるとともに、このすくい面の周囲に配置される上記インサート本体の側面には逃げ面が形成され、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に、上記すくい面のコーナ部に形成されたコーナ刃から延びる切刃が形成された切削インサートであって、
上記すくい面には、上記切刃から上記すくい面の内側に間隔をあけて上記切刃が延びる方向に沿って延びるブレーカー壁面を有するチップブレーカーが形成されており、
このチップブレーカーの上記ブレーカー壁面には、上記切刃側に突出する段差面が、上記すくい面に対向する方向から見て上記コーナ部の2等分線から離れて形成されており、
上記コーナ刃からは、該コーナ刃の両端から2つの上記切刃が延びており、
上記ブレーカー壁面には、上記すくい面に対向する方向から見て、該ブレーカー壁面が沿って延びる一方の上記切刃と上記コーナ刃を介して交差する他方の上記切刃から、上記他方の上記切刃に垂直な方向に、0.60mm~1.50mmの範囲内の位置に第1の上記段差面と上記ブレーカー壁面との上記一方の切刃側の交差稜線の下端が形成されているとともに、1.20mm~1.70mmの範囲内の位置に第2の上記段差面と上記ブレーカー壁面との上記一方の切刃側の交差稜線の下端が形成されている、切削インサート。
【請求項2】
上記すくい面に対向する方向から見て、上記段差面の突出量が0.01mm~0.25mmの範囲内とされていることを特徴とする請求項に記載の切削インサート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多角形板状のインサート本体の多角形面がすくい面とされるとともに、このすくい面の周囲に配置されるインサート本体の側面が逃げ面とされ、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に、すくい面のコーナ部に形成されたコーナ刃から延びる切刃が形成された切削インサートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような切削インサートとして、例えば特許文献1には、すくい面と、このすくい面から突出するように形成されるブレーカー壁面とが形成された端面と、逃げ面と、端面と逃げ面との接続部に形成され、端面に対向する方向から見た端面視において、第1曲率半径を有する円弧状のコーナ切刃と、端面と逃げ面との接続部に形成され、コーナ切刃の一端に接続し、端面視において、第1曲率半径より大きい第2曲率半径、又は、直線からなるワイパー切刃とを備える切削インサートが記載されている。
【0003】
ここで、ブレーカー壁面は、コーナ切刃から離れるように窪む凹面部と、この凹面部に接続し、コーナ切刃に近づくように盛り上がる凸面部とを備え、凹面部は、コーナ切刃を二等分するように端面を通過する第1仮想平面と交差するように形成され、凸面部は、第1仮想平面と離間するように形成されている。
【0004】
また、第1仮想平面と垂直な第2仮想平面とブレーカー壁面との交線と、コーナ切刃との、端面視における最小距離を第1距離とし、上記交線と、ワイパー切刃との、端面視における最小距離を第2距離としたときに、第1距離よりも第2距離の方が小さいように、ブレーカー壁面は形成されている。
【0005】
そして、この特許文献1に記載された切削インサートでは、ワイパー切刃と上記交線との端面視における距離は、コーナ切刃と接続するワイパー切刃の一端において第2距離より大きく、ワイパー切刃には、丸ホーニングが形成され、コーナ切刃には、チャンファホーニングが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6512499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この特許文献1に記載された切削インサートでは、例えば1mm程度の幅の切屑が生成される場合、この切屑をブレーカー壁面に衝突させることにより、逃げ面にぶつかるようにカールさせるようにしている。ところが、この特許文献1に記載された切削インサートにおけるブレーカー壁面は、コーナ切刃に隣接する上記凹面部と凸面部以外はすくい面の内側に向かうに従い漸次突出する単一の傾斜平面とされている。
【0008】
従って、そのような特許文献1に記載の切削インサートでは、この傾斜平面によって切屑を分断することは困難であり、傾斜平面に沿って流れ出て逃げ面にぶつかるようにカールさせられた切屑が延び気味となって、切削インサートが取り付けられたバイトのホルダや被削材に絡まるおそれがあった。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたもので、ブレーカー壁面に衝突した切屑を、このブレーカー壁面によって分断することにより、切屑分断性の向上を図ることが可能な切削インサートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、多角形板状のインサート本体の多角形面にすくい面が形成されるとともに、このすくい面の周囲に配置される上記インサート本体の側面には逃げ面が形成され、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に、上記すくい面のコーナ部に形成されたコーナ刃から延びる切刃が形成された切削インサートであって、上記すくい面には、上記切刃から上記すくい面の内側に間隔をあけて上記切刃が延びる方向に沿って延びるブレーカー壁面を有するチップブレーカーが形成されており、このチップブレーカーの上記ブレーカー壁面には、上記切刃側に突出する段差面が、上記すくい面に対向する方向から見て上記コーナ部の2等分線から離れて形成されており、上記コーナ刃からは、該コーナ刃の両端から2つの上記切刃が延びており、上記ブレーカー壁面には、上記すくい面に対向する方向から見て、該ブレーカー壁面が沿って延びる一方の上記切刃と上記コーナ刃を介して交差する他方の上記切刃から、上記他方の上記切刃に垂直な方向に、0.60mm~1.50mmの範囲内の位置に第1の上記段差面と上記ブレーカー壁面との上記一方の切刃側の交差稜線の下端が形成されているとともに、1.20mm~1.70mmの範囲内の位置に第2の上記段差面と上記ブレーカー壁面との上記一方の切刃側の交差稜線の下端が形成されている
【0011】
このように構成された切削インサートにおいては、切刃からすくい面の内側に間隔をあけて切刃が延びる方向に沿って延びるチップブレーカーの上記ブレーカー壁面に、上記切刃側に突出する段差面が、すくい面に対向する方向から見て上記コーナ部の2等分線から離れて形成されているので、ブレーカー壁面に衝突した切屑は、この段差面を擦過する際に抵抗を受けてカールさせられ、分断される。
【0012】
従って、上記構成の切削インサートによれば、切屑分断性を向上させることができて切屑が逃げ面にぶつかる前に延び気味となるのを防ぐことができ、こうして延び気味になった切屑が、切削インサートが取り付けられるバイトのホルダや被削材に絡まるのを防止することができる。このため、長期にわたって円滑かつ安定した切削加工を行うことが可能となる。
【0013】
ここで、上記段差面は1段であってもよいが、複数段であることが切屑分断性を向上させるために望ましい。そして、このとき、上記コーナ刃から、該コーナ刃の両端から2つの上記切刃が延びている場合に、上記ブレーカー壁面には、上記すくい面に対向する方向から見て、該ブレーカー壁面が沿って延びる一方の上記切刃と上記コーナ刃を介して交差する他方の上記切刃に垂直な方向に、0.60mm~1.50mmの範囲内の位置に第1の上記段差面と上記ブレーカー壁面との上記一方の切刃側の交差稜線の下端が形成されているとともに、1.20mm~1.70mmの範囲内の位置に第2の上記段差面と上記ブレーカー壁面との上記一方の切刃側の交差稜線の下端が形成されていることが望ましい。
【0014】
このような第1、第2の少なくとも2つの段差面を形成することにより、幅が0.6mm以上の切屑が生成されるような場合でも、これら第1、第2の段差面によって抵抗を与えることにより、切屑を確実にカールさせて分断することができる。なお、このような第1、第2の段差面を含む3段以上の段差面がチップブレーカーのブレーカー壁面に形成されていてもよい。
【0015】
また、個々の段差面は、上記すくい面に対向する方向から見て、上記段差面の突出量が0.01mm~0.25mmの範囲内とされていることが望ましい。この段差面の突出量が上記範囲を下回ると、切屑に与えられる抵抗が小さくなりすぎて確実にカールさせて分断することが困難となるおそれがある。一方、逆に、この段差面の突出量が上記範囲を上回ると、切屑に与えられる抵抗が大きくなりすぎ、切削抵抗も増大してしまうおそれがある。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、ブレーカー壁面に形成された段差面によってブレーカー壁面に衝突する切屑に抵抗を与えることにより、切屑をカールさせて分断することができ、切屑分断性の向上を図って切屑が延び気味となるのを防ぐことができ、延び気味となった切屑がホルダや被削材に絡まるのを防いで、円滑で安定した切削加工を長期に亙って行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示す実施形態をインサート中心線方向にすくい面に対向する方向から見た平面図である。
図3図1に示す実施形態の刃先部分の拡大斜視図である。
図4図1に示す実施形態の刃先部分の拡大平面図である。
図5図4におけるZZ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1図5は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、インサート本体1は多角形の板状に形成されており、特に図1および図2に示すように菱形の平板状に形成されている。このインサート本体1の菱形面(多角形面)の中央部には、表裏の菱形面の中心を通るインサート中心線Cを中心とした断面円形でインサート本体1を貫通する取付孔2が開口している。
【0019】
また、本実施形態の切削インサートのインサート本体1は、超硬合金等の硬質材料よりなる台金部1Aと、この台金部1Aよりもさらに高硬度のCBN焼結体やダイヤモンド焼結体よりなる切刃チップ1Bとを備えている。概略菱形平板状に形成された台金部1Aの一方の菱形面の2つの鋭角角部には、この鋭角角部をL字状に切り欠いた凹部1Cが形成され、この凹部1Cに三角形板状の上記切刃チップ1Bがろう付け等によって接合されて取り付けられている。
【0020】
このようなインサート本体1の切刃チップ1Bにおける上記菱形面側にはすくい面3が形成されるとともに、この菱形面の周囲に配置される側面側には逃げ面4が形成されている。そして、これらすくい面3と逃げ面4との交差稜線部には、上記菱形面の鋭角角部に位置するすくい面3のコーナ部にコーナ刃5が形成されるとともに、このコーナ部に連なる菱形面の2つの辺稜部に切刃6がそれぞれ形成されている。
【0021】
インサート中心線C方向にすくい面3に対向する方向から見て図2および図4に示すように、コーナ刃5は凸円弧等の凸曲線状に形成されるとともに、切刃6はコーナ刃5の両端においてコーナ刃5がなす凸曲線に接する直線状に形成されている。なお、本実施形態の切削インサートは、インサート本体1の側面が上記インサート中心線Cに平行に延びるネガティブタイプの切削インサートとされている。
【0022】
すくい面3は、図5に示すようにすくい面3の内側に向かうに従い一定の傾斜角でインサート中心線C方向に後退するポジすくい面とされている。なお、コーナ刃5および切刃6には、このポジすくい面とされたすくい面3と逃げ面と4とに鈍角に交差するランド部7が形成されている。
【0023】
さらに、すくい面3の内側には、ポジすくい面とされたすくい面3からインサート中心線C方向に突出するようにチップブレーカー8が形成されている。このチップブレーカー8の突端面8Aはインサート中心線Cに垂直な平面とされてコーナ刃5および切刃6よりもインサート中心線C方向に突出しており、インサート本体1の台金部1Aの菱形面と面一に連なっている。
【0024】
なお、このようなチップブレーカー8を含めて、インサート本体1は、インサート中心線C方向にすくい面3に対向する方向から見て上記菱形面の鋭角角部を結ぶ対角線とインサート中心線Cとを含む平面Pに対して面対称に形成されており、本実施形態の切削インサートは勝手なしの切削インサートとされている。
【0025】
また、チップブレーカー8のコーナ刃5側および切刃6側を向くブレーカー壁面9は、これらコーナ刃5および切刃6と間隔をあけて、コーナ刃5の内側に位置するチップブレーカー8の先端部8Bから切刃6が延びる方向に沿って延びている。このブレーカー壁面9は、すくい面3の内側に向かうに従い一定の傾斜角でインサート中心線C方向に突出する傾斜面状に形成されている。
【0026】
チップブレーカー8の先端部8Bにおけるブレーカー壁面9は、上記平面P上に稜線を有する二等辺三角形の山形に形成されている。そして、この先端部8Bから切刃6に沿って延びるブレーカー壁面9には、切刃6側に突出する段差面9A、9Bが、すくい面3に対向する方向から見たときの上記コーナ部の2等分線上に位置する上記平面Pから離れて形成されている。
【0027】
ここで、本実施形態では、上記ブレーカー壁面9に、1つの切刃6に対してそれぞれ第1、第2の2つの段差面9A、9Bが形成されている。このうち、コーナ刃5に近い第1の段差面9Aは、すくい面3に対向する方向から見て図4に示すように、ブレーカー壁面9が沿って延びる一方の切刃6(図4において左側の切刃6A)とコーナ刃5を介して交差する他方の切刃6(図4において右側の切刃6B)から垂直な方向の距離L1が、第1の段差面9Aと、この第1の段差面9Aの上記一方の切刃6A側に位置するブレーカー壁面9との交差稜線9A1のすくい面3側の下端との距離L1として、0.60mm~1.50mmの範囲内の位置に形成されている。
【0028】
また、第1の段差面9Aよりもコーナ刃5から離れた第2の段差面9Bは、同じくすくい面3に対向する方向から見て図4に示すように、ブレーカー壁面9が沿って延びる一方の切刃6Aとコーナ刃5を介して交差する他方の切刃6Bから垂直な方向の距離L2が、第2の段差面9Bと、この第2の段差面9Bの上記一方の切刃6A側に位置するブレーカー壁面9との交差稜線9B1のすくい面3側の下端との距離L1として、1.20mm~1.70mmの範囲内の位置に形成されている。
【0029】
なお、第1、第2の段差面9A、9Bは、本実施形態では図4に示すように、上記他方の切刃6Bから垂直な方向に幅をもって形成されているが、すくい面3に沿って延びる切屑が擦過するのは第1、第2の段差面9A、9Bとブレーカー壁面9との交差稜線のうち上記一方の切刃6A側の交差稜線9A1、9B1のすくい面3側の下端部であるので、この一方の切刃6A側の交差稜線9A1、9B1のすくい面3側の下端が上記範囲内の位置に形成されていればよい。
【0030】
さらに、同じくすくい面3に対向する方向から見て図4に示すように、これら第1、第2の段差面9A、9Bのブレーカー壁面9からの突出量Mは、0.01mm~0.25mmの範囲内とされていて、本実施形態では第1の段差面9Aの突出量Mは第2の段差面9Bの突出量Mよりも大きくされている。なお、これら第1、第2の段差面9A、9Bは、上記平面Pに垂直な方向に延びて、すくい面3の内側に向かうに従いインサート中心線C方向に突出するように傾斜している。
【0031】
さらにまた、チップブレーカー8の先端部8Bにおける第1の段差面9Aまでのブレーカー壁面9と、第1、第2の段差面9A、9Bの間のブレーカー壁面9と、第2の段差面9Bよりもコーナ刃5とは反対側に延びるブレーカー壁面9とは、互いに平行に形成されるとともに、本実施形態では切刃6に対しても平行に形成される。
【0032】
ただし、第1、第2の段差面9A、9Bによってブレーカー壁面9は切刃6側に突出しているので、このブレーカー壁面9は図4に示すように、チップブレーカー8の先端部8Bにおけるブレーカー壁面9、第1、第2の段差面9A、9Bの間のブレーカー壁面9、第2の段差面9Bよりもコーナ刃5とは反対側に延びるブレーカー壁面9の順に、段階的に切刃6側にせり出すことになる。なお、チップブレーカー8とすくい面3との間には、インサート中心線Cに垂直な平坦面3Aが形成されていてもよい。
【0033】
このように構成された切削インサートにおいては、切刃6からすくい面3の内側に間隔をあけて切刃6が延びる方向に沿って延びるチップブレーカー8のブレーカー壁面9に、切刃6側に突出する段差面9A、9Bが、すくい面3に対向する方向から見て上記コーナ部の2等分線となる平面Pから離れて形成されており、コーナ刃5および切刃6によって生成されてすくい面3の内側に流れ出る切屑は、ブレーカー壁面9に衝突して流れる際にこの段差面9A、9Bの特に上記交差稜線9A1、9B1に擦過させられる。
【0034】
そして、こうして段差面9A、9Bに擦過されたれた切屑は抵抗を受けてカールさせられ、分断される。このため、上記構成の切削インサートによれば、切屑分断性を向上させることができて切屑が逃げ面4にぶつかる前に延び気味となるのを防ぐことができ、こうして延び気味になった切屑が、切削インサートが取り付けられるバイトのホルダや被削材に絡まるのを防止することが可能となるので、円滑かつ安定した切削加工を長期にわたって行うことができる。
【0035】
ここで、切り込み量が小さくて幅の小さい切屑が生成される場合は、段差面はコーナ刃5に近い第1の段差面9Aだけの1段であってもよいが、本実施形態では、ブレーカー壁面9に、第1、第2の複数(2つ)の段差面9A、9Bが切刃6の延びる方向に間隔をあけて形成されている。このため、上述のように切り込み量が小さい場合は勿論、これよりも切り込み量が大きくて幅の大きい切屑が生成される場合でも、切屑分断性を向上させることができる。
【0036】
しかも、本実施形態では、すくい面3に対向する方向から見て、ブレーカー壁面9が沿って延びる切刃6(一方の切刃6A)とコーナ刃5を介して交差する切刃6(他方の切刃6B)に垂直な方向に、0.60mm~1.50mmの範囲内の位置に第1の段差面9Aと、この第1の段差面9Aの上記一方の切刃6A側に位置するブレーカー壁面9との交差稜線9A1のすくい面3側の下端が形成されているとともに、1.20mm~1.70mmの範囲内の位置に第2の段差面9Bと、この第2の段差面9Bの上記一方の切刃6A側に位置するブレーカー壁面9との交差稜線9B1のすくい面3側の下端が形成されている。
【0037】
従って、このような第1、第2の2つの段差面9A、9Bが形成されることにより、本実施形態によれば、例えば幅が0.6mm以上の切屑が生成されるような場合でも、これら第1、第2の段差面9A、9Bによって抵抗を与えることにより、切屑を確実にカールさせて分断することができる。
【0038】
ここで、第1、第2の段差面9A、9Bと、その一方の切刃6A側に位置するブレーカー壁面9との交差稜線9A1、9B1のすくい面3側の下端が、それぞれ上記範囲内よりもコーナ刃5側に位置していると、このような幅の広い切屑が生成される場合に、十分に抵抗を与えて分断することができなくなるおそれがある。また、逆に第1、第2の段差面9A、9Bと、その一方の切刃6A側に位置するブレーカー壁面9との交差稜線9A1、9B1のすくい面3側の下端が、それぞれ上記範囲内よりもコーナ刃5とは反対側に位置していると、幅の小さい切屑が生成される場合に、切屑が第1の段差面9Aや第2の段差面9Bに擦過しなくなり、やはり確実に分断することができなくなるおそれがある。
【0039】
なお、本実施形態では、このように第1、第2の2つの段差面9A、9Bが形成されているが、例えば切り込み量の小さな場合だけに使用される切削インサートであれば、段差面は第1の段差面9Aだけであってもよい。また、より切り込み量の大きな切削加工を行う場合などには、このような第1、第2の段差面9A、9Bを含む3段以上の段差面がチップブレーカー8のブレーカー壁面9に形成されていてもよい。
【0040】
さらに、本実施形態では、第1、第2の個々の段差面9A、9Bは、すくい面3に対向する方向から見て、ブレーカー壁面9からの突出量Mが0.01mm~0.25mmの範囲内とされており、これによっても切屑を確実にカールさせて分断しつつ、必要以上に切削抵抗が増大するのは防ぐことができる。
【0041】
すなわち、この段差面9A、9Bの突出量Mが上記範囲を下回ると、段差面9A、9Bを切屑が擦過する際に与えられる抵抗が小さくなりすぎ、切屑を確実にカールさせて分断することが困難となるおそれがある。一方、逆に、この段差面9A、9Bの突出量Mが上記範囲を上回ると、悪化の際に切屑に与えられる抵抗が大きくなりすぎ、切削抵抗が増大するおそれがある。
【符号の説明】
【0042】
1 インサート本体
1A 台金部
1B 切刃チップ
2 取付孔
3 すくい面
4 逃げ面
5 コーナ刃
6(6A、6B) 切刃
8 チップブレーカー
8B チップブレーカー8の先端部
9 ブレーカー壁面
9A 第1の段差面
9B 第2の段差面
C インサート中心線
P すくい面3に対向する方向から見たときのコーナ刃5が形成されるコーナ部の2等分線上に位置する平面
L1 第1の段差面9Aの他方の切刃6Bから垂直な方向の距離
L2 第2の段差面9Bの他方の切刃6Bから垂直な方向の距離
M 段差面9A、9Bの突出量
図1
図2
図3
図4
図5