(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】光ファイバを用いた流れ方向の計測システムおよび流れ方向の計測方法
(51)【国際特許分類】
G01P 13/02 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
G01P13/02 A
(21)【出願番号】P 2020073570
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2023-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小池 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】種平 貴文
(72)【発明者】
【氏名】山賀 勇真
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-529687(JP,A)
【文献】国際公開第2011/104828(WO,A1)
【文献】特開2018-150860(JP,A)
【文献】特開昭57-060263(JP,A)
【文献】特開平11-326359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 13/00 ~ 13/04
G01P 5/00 ~ 5/26
F01D 25/00 ~ 25/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流れ方向の計測システムであって、
流体の中に延びるように配置される加熱可能な発熱体と、
前記発熱体の周囲
に均等に加熱できるように配置されるとともに、前記発熱体の長手方向と平行に延びるように配置された3本以上の光ファイバと、
前記発熱体および前記光ファイバの一群の一部の外周側を被覆するカバー体と、
前記発熱体の加熱状態を制御し、かつ、前記光ファイバに光を入射して前記光ファイバの各々で、温度を計測する計測装置と、
を備え、
前記発熱体において、前記発熱体の長手方向に対して垂直にとった断面を発熱体断面と定義するとき、
前記発熱体断面の取得位置において、前記3本以上の光ファイバは、前記発熱体断面の断面中心と、前記3本以上の光ファイバのうち前記発熱体断面の周方向において一端と他端の関係となる2本の光ファイバの位置とで定義される中心角が90度よりも大きくなるように配置され、
前記光ファイバの各々は、その長手方向の同じ箇所に、温度の計測が行われる隣接した一対の計測部位を有し、
前記計測部位の一方は、前記カバー体で被覆された被覆計測部位とされ、前記計測部位の他方は、前記カバー体で被覆されない露出計測部位とされ、
前記光ファイバの一群の前記被覆計測部位および前記露出計測部位により、流れ方向の計測が可能な流れ方向特定部が構成されていて、
前記計測装置が、
前記発熱体を加熱する加熱処理と、
加熱した状態で、前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々の温度を計測する温度計測処理と、
前記発熱体の加熱状態と、前記光ファイバの各々の隣接した前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々で計測される温度の差とに基づいて、前記流れ方向特定部における前記光ファイバの各々の
、前記流体に対する熱伝達率を算出する熱伝達率算出処理と、
前記流れ方向特定部における熱伝達率の周方向の分布に基づいて、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向を特定する流れ方向特定処理と、
を実行する、流れ方向の計測システム。
【請求項2】
請求項1に記載の流れ方向の計測システムにおいて、
前記計測部位は、当該計測部位の歪みに応じて波長が変化する反射光を反射するFBGからなり、
前記計測装置は、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向と熱伝達率の周方向の分布との関係を規定した流れ方向特定情報を有し、
前記計測装置は、
前記温度計測処理において、前記被覆計測部位の各々および前記露出計測部位の各々から反射される前記反射光を取得し、取得した前記反射光の波長の変化に基づいて、前記被覆計測部位の各々および前記露出計測部位の各々の温度を算出し
、
前記流れ方向特定処理において、前記流れ方向特定部における熱伝達率の周方向の分布を、前記流れ方向特定情報と照合することにより、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向を特定する、流れ方向の計測システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の流れ方向の計測システムにおいて、
前記光ファイバの外径よりも内径が僅かに大きく、かつ、熱伝導性を有する複数の細管が、前記発熱体の周囲に平行して延びるように配置され、前記光ファイバの各々が前記細管に挿通されている、流れ方向の計測システム。
【請求項4】
請求項3に記載の流れ方向の計測システムにおいて、
前記複数の細管が、接した状態または微少隙間を隔てた状態で、前記発熱体の全周に配置されている、流れ方向の計測システム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の流れ方向の計測システムにおいて、
前記発熱体の周囲を囲む熱伝導性を有する筒体を更に備え、
前記筒体の外周部位に、前記光ファイバの外径よりも内径が僅かに大きく、かつ、前記発熱体に平行して延びる複数の細孔が、スリットを介した状態で設けられ、
前記光ファイバの各々が前記細孔に挿通されている、流れ方向の計測システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載の流れ方向の計測システムにおいて、
前記流れ方向特定部が、前記光ファイバの一群の長手方向に、間隔を隔てて複数設けられ、流れ方向の計測が複数箇所で同時に行われる、流れ方向の計測システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載の流れ方向の計測システムにおいて、
前記流体が空気であり、風向を計測する、流れ方向の計測システム。
【請求項8】
所定の計測装置を用いた流れ方向の計測方法であって、
前記計測装置は、
加熱可能な発熱体の周囲
に均等に加熱できるように配置されるとともに、当該発熱体の長手方向と平行に延びるように配置された3本以上の光ファイバと、
前記発熱体と共に前記光ファイバの一群の一部の外周側を被覆するカバー体と、
前記光ファイバに入射する入射光を制御して前記光ファイバの各々で、温度を計測する計測制御部と、
を備え、
前記発熱体において、前記発熱体の長手方向に対して垂直にとった断面を発熱体断面と定義するとき、
前記発熱体断面の取得位置において、前記3本以上の光ファイバは、前記発熱体断面の断面中心と、前記3本以上の光ファイバのうち前記発熱体断面の周方向において一端と他端の関係となる2本の光ファイバの位置とで定義される中心角が90度よりも大きくなるように配置され、
前記光ファイバの各々は、その長手方向の同じ箇所に、温度の計測が行われる隣接した一対の計測部位を有し、
前記計測部位の一方は、前記カバー体で被覆された被覆計測部位とされ、前記計測部位の他方は、前記カバー体で被覆されない露出計測部位とされ、これら被覆計測部位および露出計測部位により、流れ方向の計測が可能な流れ方向特定部が構成されていて、
前記流れ方向特定部が計測箇所に位置するように、前記発熱体および前記光ファイバの一群を流体の中に配置する準備ステップと、
前記発熱体を加熱する加熱ステップと、
前記計測装置を操作して、前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々の温度を計測する温度計測ステップと、
前記発熱体の加熱状態と、前記光ファイバの各々の隣接した前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々で計測される温度の差
とに基づいて、前記流れ方向特定部における前記光ファイバの各々の
、流体に対する熱伝達率を算出する熱伝達率算出ステップと、
前記流れ方向特定部における熱伝達率の周方向の分布に基づいて、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向を特定する流れ方向特定ステップと、
を含む、流れ方向の計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する技術は、風向等の計測に好適な、光ファイバを用いた流れ方向の計測システムおよび流れ方向の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ技術の進歩により、流体解析(いわゆるCFD)が広く実用化されている。CFDによれば、流体の動的な変化をシミュレーションできる。
【0003】
また、光通信等において、光ファイバが広く利用されている。光ファイバは、温度、歪み等を計測するセンサとしても利用されている。光ファイバを用いたセンシング技術としては、光ファイバにパルス光を入射することによって発生する散乱光を利用して計測する方法、光ファイバに所定の回折格子(FBG:ファイバ・ブラッグ・グレーティング)を形成し、そのFBGによる特定の反射光を利用して計測する方法などが知られている。
【0004】
特許文献1には、光ファイバを用いて、流体、具体的には、河川や地下水などの流水の流速分布を測定する装置が開示されている。その装置では、光ファイバを用いた特殊なケーブル(光電気複合ケーブル)が用いられている。
【0005】
その光電気複合ケーブルは、発熱体が設けられた芯線を備える。その芯線の外周面に、光ファイバを挿入した細長い金属管と、複数の鎧装線とが、螺旋状に巻き付けられている。発熱体に通電することにより、光ファイバは加熱される。
【0006】
その光電気複合ケーブルが、河川を横切るように、河川の水中に敷設される。装置は、光ファイバを発熱体で加熱する状態および非加熱の両状態において、光電気複合ケーブルに沿った温度分布を計測する。そして、これら計測値の差から温度差分布を取得する。
【0007】
その装置では、散乱光を利用して温度を計測している。すなわち、光ファイバの一端からパルス光を入射する。そのパルス光は、散乱光を発生し、かつ、減衰しながら光ファイバを伝搬していく。
【0008】
散乱光の一部は入射端に戻る。散乱光には、温度依存性の有る成分が存在する。その成分から、その散乱の発生位置の温度を特定する。そして、入射して戻るまでの経過時間から、その散乱の発生位置を特定する。それにより、光ファイバの長手方向における複数箇所の温度、つまり温度分布を計測する。
【0009】
加熱および非加熱の両状態で温度分布を計測し、これらの計測値の差から温度差分布を取得する。その装置にはまた、予め、温度差から流速を算出するためのデータが実装されている。そのデータを参照することにより、取得した温度差分布から、河川の幅方向における流速分布を算出する。
【0010】
光電気複合ケーブルを河川の端で折り返すことにより、2本の光電気複合ケーブルを水中に並置する。そうして、加熱および非加熱の両状態での温度分布の計測を同時に行う方法も、特許文献1には開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
CFDは、自動車の研究開発にも利用されている。例えば、エンジン等を空冷するために、エンジンルームの中に外気が流入する。外気は、エンジンルーム内で様々な方向に向かって流れる。そのため、エンジンルーム内での風の流れを、CFDによって解析することなどが行われている。
【0013】
しかしながら、CFDによって得られる情報は、予測値である。その予測値の精度を検証するには、実測値との比較が必要になる。そのため、エンジンルーム内に、風向が計測できる計測器(風向計)を設置し、風向を実測することが行われる。
【0014】
ところが、エンジンルーム内には、様々な機器が密集して配置されている。エンジンルーム内で風向を実測するには、これら機器を避けて、狭小かつ複雑なスペースに風向計を設置しなければならない。しかも、風向を精度高く実測するには、風向計それ自体によって風向が変化することも回避しなければならない。
【0015】
そこで開示する技術の主たる目的は、狭小かつ複雑なスペースであっても、流れ方向が高精度で計測できる計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
開示する技術の一つは、流れ方向の計測システムに関する。前記計測システムは、流体の中に延びるように配置される加熱可能な発熱体と、前記発熱体の周囲で前記発熱体の長手方向と平行に延びるように配置された3本以上の光ファイバと、前記発熱体および前記光ファイバの一群の一部の外周側を被覆するカバー体と、前記発熱体の加熱状態を制御し、かつ、前記光ファイバに光を入射して前記光ファイバの各々で、温度を計測する計測装置と、を備える。
【0017】
前記発熱体において、前記発熱体の長手方向に対して垂直にとった断面を発熱体断面と定義するとき、前記発熱体断面の取得位置において、前記3本以上の光ファイバは、前記発熱体断面の断面中心と、前記3本以上の光ファイバのうち前記発熱体断面の周方向において一端と他端の関係となる2本の光ファイバの位置とで定義される中心角が90度よりも大きくなるように配置されている。
【0018】
前記光ファイバの各々は、その長手方向の同じ箇所に、温度の計測が行われる隣接した一対の計測部位を有している。前記計測部位の一方は、前記カバー体で被覆された被覆計測部位とされ、前記計測部位の他方は、前記カバー体で被覆されない露出計測部位とされている。前記光ファイバの一群の前記被覆計測部位および前記露出計測部位により、流れ方向の計測が可能な流れ方向特定部が構成されている。
【0019】
そして、前記計測装置が、前記発熱体を加熱する加熱処理と、加熱した状態で、前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々の温度を計測する温度計測処理と、前記計測された温度に基づいて、前記流れ方向特定部における前記光ファイバの各々の熱伝達率を算出する熱伝達率算出処理と、前記流れ方向特定部における熱伝達率の周方向の分布に基づいて、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向を特定する流れ方向特定処理と、を実行する。
【0020】
すなわち、この計測システムによれば、加熱可能な発熱体が、風路等、流体の中に延びるように配置される。その発熱体の周囲には、温度を計測する複数の光ファイバが、所定の分布で平行して延びるように配置されている。これら光ファイバの各々は、その長手方向の同じ箇所に、隣接した一対の計測部位(露出した露出計測部位と、カバー体で被覆された被覆計測部位)を有し、これら被覆計測部位および露出計測部位によって流れ方向特定部が構成されている。
【0021】
そして、計測装置が、発熱体を加熱した状態で、被覆計測部位および露出計測部位の各々の温度を計測する。互いに隣接している被覆計測部位および露出計測部位では、ほぼ同じ条件で加熱されるが、被覆の有無によって温度差が生じる。計測装置は、その温度差に基づいて、流れ方向特定部における各光ファイバの熱伝達率を算出する。
【0022】
詳細は後述するが、発熱体の周囲には、流れ方向に対応して、熱伝達率の特有の分布が形成される。そして、その熱伝達率の特有の分布から流れ方向を特定できる。そこで、制御装置は、熱伝達率の周方向の分布に基づいて流体の流れ方向を特定する。
【0023】
この計測システムでは、流れ方向を計測する部分が、複数の光ファイバと発熱体とで構成されている。光ファイバを含むために曲げ限界はあるが、柔軟性がある。従って、様々な機器、配管との接触を回避しながら配索できる。しかも、従来の風向計などと比べると、充分に細くできる。
【0024】
従って、この計測システムであれば、狭小かつ複雑なスペースでも設置できる。流れ方向を計測する部分それ自体による悪影響も抑制できる。すなわち、この計測システムによれば、風向等、流れ方向を精度高く計測できる。
【0025】
具体的には、前記計測部位は、当該計測部位の歪みに応じて波長が変化する反射光を反射するFBGからなり、前記計測装置は、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向と熱伝達率の周方向の分布との関係を規定した流れ方向特定情報を有し、前記計測装置は、前記温度計測処理において、前記被覆計測部位の各々および前記露出計測部位の各々から反射される前記反射光を取得し、取得した前記反射光の波長の変化に基づいて、前記被覆計測部位の各々および前記露出計測部位の各々の温度を算出し、前記熱伝達率算出処理において、前記発熱体の加熱状態と、前記光ファイバの各々の隣接した前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々で計測される温度の差とに基づいて、前記流れ方向特定部における前記光ファイバの各々の熱伝達率を算出し、前記流れ方向特定処理において、前記流れ方向特定部における熱伝達率の周方向の分布を、前記流れ方向特定情報と照合することにより、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向を特定する、としてもよい。
【0026】
すなわち、この計測システムによれば、光ファイバに形成したFBGで反射される反射光を利用して、温度の計測を行う。FBGが形成されている部位の温度を計測するので、計測部位の位置が明確である。従って、狙った箇所の温度を的確に計測できる。また、反射光の波長を変えることで、計測部位を識別できるので、複数の計測部位を近接して配置しても、高精度な温度の計測が行える。従って、隣接した被覆計測部位および露出計測部位の各々で温度を計測するこの計測システムに適している。
【0027】
そして、計測装置は、流れ方向特定部における流体の流れ方向と熱伝達率の周方向の分布との関係を規定した流れ方向特定情報を有している。すなわち、流れ方向特定部の周囲に形成される流れ方向に対応した熱伝達率の特有の分布が、予め、計測装置に設定されている。従って、計測装置は、流れ方向特定部における熱伝達率を実測し、その実測値から熱伝達率の分布を取得すれば、その分布を流れ方向特定情報と照合することで、流体の流れ方向を特定できる。従って、この計測システムによれば、流れ方向を計測する一連の処理を、自動的に実行できる。すなわち、ボタン操作一つで、流れ方向が計測できる。
【0028】
前記計測システムはまた、前記光ファイバの外径よりも内径が僅かに大きく、かつ、熱伝導性を有する複数の細管が、前記発熱体の周囲に平行して延びるように配置され、前記光ファイバの各々が前記細管に挿通されている、としてもよい。
【0029】
光ファイバが、直接流体に接しないので、安定した温度の計測が行える。光ファイバの周囲は、僅かな隙間を隔てた状態で、熱伝導性に優れた細管で覆われているので、光ファイバの温度を、その周囲の雰囲気温度に迅速かつ安定的に一致させることができる。
【0030】
光ファイバが細管に直接接触すると、光ファイバの歪みに細管の歪みが影響する。従って、歪み量から温度を計測する方法では、温度の計測精度が悪化するおそれがある。それに対し、細管と光ファイバとの間に隙間があれば、そのような不具合を回避できる。
【0031】
前記計測システムはまた、前記複数の細管が、接した状態または微少隙間を隔てた状態で、前記発熱体の全周に配置されている、としてもよい。
【0032】
そうすれば、発熱体の全周の温度を細かく計測できる。また、熱伝達率の周方向の分布を、全周にわたって隈無く取得できる。従って、流れ方向が精度高く計測できる。
【0033】
前記計測システムはまた、前記発熱体の周囲を囲む熱伝導性を有する筒体を更に備え、前記筒体の外周部位に、前記光ファイバの外径よりも内径が僅かに大きく、かつ、前記発熱体に平行して延びる複数の細孔が、スリットを介した状態で設けられ、前記光ファイバの各々が前記細孔に挿通されている、としてもよい。
【0034】
すなわち、この計測システムでは、筒体に形成した複数の細孔により、上述した複数の細管を代用している。従って、これら細孔も、上述した細管と同様の効果を得ることができる。複数の細管を配置するのに比べて、加工、配置等が容易な点でも有利である。
【0035】
前記計測システムはまた、前記流れ方向特定部が、前記光ファイバの一群の長手方向に、間隔を隔てて複数設けられ、流れ方向の計測が複数箇所で同時に行われる、としてもよい。
【0036】
すなわち、この計測システムでは、同時に、複数箇所の流れ方向が計測できる。従って、高精度な流れ方向の計測が効率的に行える。しかも、同時なので、風向の分布を高精度に計測できる。
【0037】
特に、前記流体が空気であり、風向を計測するのに好適である。
【0038】
例えば、エンジンルームの中の風向の計測に使用すれば、精度高く実測できるので、CFDによる解析結果の検証に有効活用できる。
【0039】
開示する技術の他の一つは、所定の計測装置を用いた流れ方向の計測方法に関する。
【0040】
前記計測装置は、加熱可能な発熱体の周囲で当該発熱体の長手方向と平行に延びるように配置された3本以上の光ファイバと、前記発熱体と共に前記光ファイバの一群の一部の外周側を被覆するカバー体と、前記光ファイバに入射する入射光を制御して前記光ファイバの各々で、温度を計測する計測制御部と、を備える。
【0041】
先の技術と同様に、前記3本以上の光ファイバは、前記発熱体断面の断面中心と、前記3本以上の光ファイバのうち前記発熱体断面の周方向において一端と他端の関係となる2本の光ファイバの位置とで定義される中心角が90度よりも大きくなるように配置されている。
【0042】
前記光ファイバの各々は、その長手方向の同じ箇所に、温度の計測が行われる隣接した一対の計測部位を有し、前記計測部位の一方は、前記カバー体で被覆された被覆計測部位とされ、前記計測部位の他方は、前記カバー体で被覆されない露出計測部位とされ、これら被覆計測部位および露出計測部位により、流れ方向の計測が可能な流れ方向特定部が構成されている。
【0043】
そして、前記計測方法は、前記流れ方向特定部が計測箇所に位置するように、前記発熱体および前記光ファイバの一群を流体の中に配置する準備ステップと、前記発熱体を加熱する加熱ステップと、前記計測装置を操作して、前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々の温度を計測する温度計測ステップと、前記光ファイバの各々の隣接した前記被覆計測部位および前記露出計測部位の各々で計測される温度の差に基づいて、前記流れ方向特定部における前記光ファイバの各々の熱伝達率を算出する熱伝達率算出ステップと、前記流れ方向特定部における熱伝達率の周方向の分布に基づいて、前記流れ方向特定部における前記流体の流れ方向を特定する流れ方向特定ステップと、を含む。
【0044】
実験などでは、既存の装置、機器等を組み合わせて、流れ方向を計測する場合もあり得る。特に、光ファイバを用いて温度を計測する装置は、実用化されているので、容易に利用できる。この計測方法によれば、半自動的ではあるが、そのような装置を利用して、流れ方向の計測が可能になる。
【0045】
すなわち、この計測方法では、複数の光ファイバで計測できる所定の計測装置が用いられる。上述した計測システムのように、その光ファイバの一群を発熱体の周囲に配置する。そして、流れ方向特定部が計測箇所に位置するように、これらを流体の中に配置する。そうして、発熱体を加熱するとともに、計測装置を操作して温度を計測する。
【0046】
パソコン等を用いることにより、計測した温度から、各光ファイバの隣接した被覆計測部位および露出計測部位の各々で計測される温度の差を算出する。そして、その算出結果に基づいて、流れ方向特定部における光ファイバの各々の熱伝達率を算出する。それよって得られる流れ方向特定部における熱伝達率の周方向の分布に基づいて、流れ方向特定部における流体の流れ方向を特定する。
【0047】
従って、この計測方法によれば、既存の装置を用いて、流れ方向の高精度な計測が行える。すなわち、この計測方法は、汎用性、利便性に優れる。
【発明の効果】
【0048】
開示する技術によれば、狭小かつ複雑なスペースであっても、流れ方向が高精度で計測できる。従って、エンジンルームのような場所でも風向を精度高く計測できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1A】計測システムを用いてエンジンルーム内の風向を計測している状態を示す概略図である。エンジンルーム内を右方から見ている。
【
図1B】計測システムを用いてエンジンルーム内の風向を計測している状態を示す概略図である。エンジンルーム内を上方から見ている。
【
図2】計測システムの概略図である。計測センサの先端部分を拡大して示してある。
【
図3A】
図2における矢印線Y1-Y1で示す方向から見た概略断面図である。
【
図3B】
図2における矢印線Y2-Y2で示す方向から見た概略断面図である。
【
図4】光ファイバの要部の構造を説明する概略図である。
【
図5A】計測装置の機能的な構成を表したブロック図である。
【
図5B】流れ方向特定情報をグラフ化して示す概略図である。
【
図6A】計測センサの周囲の風の流れを説明するための図である。
【
図6B】説明に合わせて計測センサを簡略化して表した図である。
【
図6C】
図6Bに対応した流れ方向特定情報の一例を示す図である。
【
図7】計測システムが行う主な処理の流れを表したフローチャートである。
【
図8】3本の光ファイバを用いて風向を計測する場合を説明するための図である。
【
図9A】計測センサの変形例を示す概略断面図である。
【
図9B】応用例の計測システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、開示する技術の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。
【0051】
例えば、本実施形態では、開示する技術を適用した流れ方向の計測システム1(以下、単に計測システム1ともいう)を、風向の計測に使用する場合を例示する。すなわち、本実施形態の計測システム1が計測対象とする流体は、空気である。
【0052】
図1A、
図1Bに、自動車の車体前部に設けられたエンジンルーム100を示す。エンジンルーム100の中には、エンジン101、ラジエータ102、ラジエータファン103などが設置されている。図示は省略するが、エンジンルーム100の中には、これら以外にも、様々な機器、配管などが密集して配置されている。
【0053】
車体前部の前面には、フロントグリル104が設けられている。ラジエータ102は、フロントグリル104の後方に近接して配置されている。自動車の走行時には、フロントグリル104を通じて、外気がエンジンルーム100の中に取り込まれる。自動車の停止時には、ラジエータファン103の駆動により、外気がエンジンルーム100の中に取り込まれる。その外気との熱交換により、ラジエータ102を流れる冷却水は冷却される。
【0054】
ラジエータ102およびラジエータファン103を通過した外気は、エンジンルーム100の中の狭小かつ複雑なスペースを通り、そして、様々な方向に分流しながら、エンジンルーム100の後方に向かって流れる。その外気の風向を計測(実測)するために、計測システム1が用いられている。
【0055】
計測システム1は、大略、計測センサ10と計測装置30とで構成されている。詳細は後述するが、計測センサ10は、複数の光ファイバ13を含む、複数の線状または棒状の部材により、細長く形成されている。そして、計測装置30は、電気部品、光源等、様々なパーツを箱形のケースに収容することにより、小型軽量に形成されている。計測センサ10の基端部分は、計測装置30に接続されている。
【0056】
本実施形態の計測システム1では、計測センサ10の先端部分で風向の計測を行う。そして、本実施形態では、ラジエータファン103と、その後方に位置するエンジン101との間のスペースが計測箇所とされている。従って、そのスペースに、計測センサ10の先端部分が、空気の流路を横切って延びるように配置されている。
【0057】
計測装置30は、ラジエータ102およびラジエータファン103の側方に有る空きスペースに設置されている。従って、計測センサ10は、その空きスペースから延出されている。
【0058】
計測センサ10は、光ファイバ13を含むために曲げ限界はあるが、柔軟性がある。従って、計測センサ10は、様々な機器、配管との接触を回避しながら、計測装置30から大きく離れた箇所にも配索できる。しかも、計測センサ10は細い。
【0059】
従って、この計測システム1であれば、狭小かつ複雑なスペースでも設置できる。計測センサ10が計測箇所を横切るように配置しても、計測センサ10それ自体による風向の変化を抑制できる。すなわち、この計測システム1によれば、風向を精度高く計測できる。
【0060】
<計測センサ10>
図2に、計測センサ10の先端部分を拡大して示す。
図3Aに、
図2に矢印線Y1-Y1で示す方向から見た概略断面図を示す。
図3Bに、
図2に矢印線Y2-Y2で示す方向から見た概略断面図を示す。
【0061】
計測センサ10の先端部分は、ヒータ11(発熱体の一例)、複数の細管12、複数の光ファイバ13、および、カバーリング14(カバー体の一例)などで構成されている。計測センサ10の先端部分は、これら部材により、略円柱形状に形成されている。
【0062】
ヒータ11は、細い棒状の部材からなる。ヒータ11は、円柱形状を有しており、その横断面は円形である。ヒータ11は、電線を介して計測装置30と電気的に接続されている。ヒータ11は、通電することによって発熱する。通電量の調整により、ヒータ11の温度は制御される。ヒータ11は、全周にわたって均等に放熱する。
【0063】
細管12は、アルミニウム合金等、熱伝導性に優れた金属製の細長い管からなる。細管12は、ヒータ11よりも充分に細い。本実施形態では、12本の細管12が、ヒータ11の周囲に平行して延びるように配置されている。これら細管12は、隣接している2つの細管12が互いに接した状態または微少隙間を隔てた状態で、ヒータ11の全周にわたって配置されている。
【0064】
細管12の一群は、ヒータ11の周囲に、円環状に配置されている。各細管12は、ヒータ11に接している。なお、細管12の本数および配置は一例である。後述するように、細管12は、1本のヒータ11に対して少なくとも3本以上あればよい。また、各細管12は、均等に加熱できるのであれば、ヒータ11から多少離れていてもよい。
【0065】
各細管12に、光ファイバ13が挿通されている。すなわち、本実施形態では、光ファイバ13は、12本用いられている。そして、12本の光ファイバ13が、ヒータ11の周囲に平行して延びるように配置されている。光ファイバ13もまた、後述するように、1本のヒータ11に対して少なくとも3本以上あればよい。また、光ファイバ13は全ての細管12に挿通されている必要はない。
【0066】
各細管12は、光ファイバ13の外径よりも僅かに大きい内径を有している。それにより、細管12の内周面と光ファイバ13の外周面との間には、隙間が存在する。
【0067】
光ファイバ13は、後述するように、光ファイバ13の熱変形に伴う歪みを利用して温度を計測する。それに対し、この計測センサ10では、光ファイバ13の周囲を、僅かな隙間を隔てた状態で、熱伝導性に優れた細管12で覆っている。それにより、光ファイバ13の温度を、その周囲の雰囲気温度に迅速かつ安定的に一致させることができる。
【0068】
更に、光ファイバ13が細管12に直接接触すると、光ファイバ13の歪みに細管12の歪みが影響し、温度の計測精度が悪化するおそれがある。細管12と光ファイバ13との間に隙間があれば、光ファイバ13が細管12に直接接触することを回避できる。従って、そのような不具合も回避できる。
【0069】
光ファイバ13の各々には、その長手方向(延伸方向)の同じ箇所に、温度の計測が行われる、隣接した一対の計測部位21,22が設けられている。すなわち、光ファイバ13の各々の先端部分に、一対の計測部位が設けられている(第1計測部位21および第2計測部位22)。これら第1計測部位21および第2計測部位22は、光ファイバ13の延伸方向に隣接(近接)している。
【0070】
そして、これら第1計測部位21および第2計測部位22の各々は、各光ファイバ13の延伸方向の同じ箇所に設けられている。それにより、第1計測部位21の一群および第2計測部位22の一群は、それぞれ環状に連なった状態で、ヒータ11の周囲を囲んでいる。
【0071】
カバーリング14は、合成樹脂等、断熱性に優れた素材を用いて円筒状に形成された部材からなる。カバーリング14は、計測部位よりも僅かに大きい長さ(延伸方向における長さ)を有している。カバーリング14は、計測センサ10の外周側の一部、具体的には、
図2、
図3Bに示すように、計測部位の一方(本実施形態では、第2計測部位22)を被覆する。カバーリング14には、例えば、ゴムバンドが利用できる。
【0072】
それにより、計測部位の一方(第1計測部位21)は、外部に露出した露出計測部位とされている。計測部位の他方(第2計測部位22)は、カバーリング14で被覆され、外部から断熱された被覆計測部位とされている。そして、これら光ファイバ13の一群の被覆計測部位および露出計測部位により、風向、つまり流れ方向の計測が可能な「流れ方向特定部20」が構成されている(流れ方向特定部20については後述)。
【0073】
<光ファイバ13>
図4に、光ファイバ13の要部を示す。本実施形態で用いる光ファイバ13には、FBG13c(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)が形成されている。計測システム1は、風向を計測するために、そのFBG13cを利用して温度を計測する。
【0074】
光ファイバ13は、線状のコア13aと、コア13aの周囲を覆うクラッド13bとを有している。光ファイバ13に入射する光(入射光)は、コア13aの部分を伝播するように構成されている。
【0075】
FBG13cは、そのコア13aの屈折率を、光ファイバ13の延伸方向に沿った所定の長さ周期(グレーティング周期)で変化させた回折格子からなる。FBG13cは、入射光に対して、そのグレーティング周期に応じた特定波長(ブラッグ波長)の光のみを反射し、その他の波長の光は透過させる。
【0076】
各計測部位は、FBG13cによって構成されている。第1計測部位21のFBG13cと第2計測部位22のFBG13cとでは、グレーティング周期が異なる。それにより、第1計測部位21と第2計測部位22とで、反射される光(反射光)の波長が異なる(λ1,λ2)。その波長の違いにより、第1計測部位21の反射光L1と第2計測部位22の反射光L2とを識別する。
【0077】
計測部位での温度が変化すると、その温度変化に応じて計測部位に歪みが発生し、FBG13cが伸縮する。FBG13cが伸縮すれば、それに応じてグレーティング周期が変化する。それに伴い、そのFBG13cの反射光は、ブラッグ波長の変化に応じて、短波長側または長波長側にシフトする。
【0078】
例えば、
図4の下図に示すように、第1計測部位21の温度が変化すると、その反射光L1の波長λ1は、波長λ1’にシフトする。同様に、第2計測部位22の温度が変化すると、その反射光L2の波長λ2は、波長λ2’にシフトする。
【0079】
この反射光の波長の変化は、計測部位の温度変化と一次相関の関係にある。そのため、反射光の波長の変化の程度、換言すれば、計測部位の歪み量から、計測部位の温度が特定できる。計測装置30は、光ファイバ13の各々にレーザー光線を入射し、その反射光から各計測部位の温度を計測する。
【0080】
<計測装置30>
図5Aに、計測装置30の機能的な構成を表したブロック図を示す。本実施形態の計測装置30には、制御部31、発光部32、受光部33、通電部34、および、処理部35が備えられている。図示しないが、計測装置30は、電力の供給を受けるために、外部の電源と電気的に接続されている。
【0081】
制御部31は、計測装置30の操作に従って、発光部32、受光部33、通電部34、および、処理部35の作動を制御する。発光部32は、光源を有している。発光部32は、制御部31の制御に従って、光ファイバ13の各々に、所定波長のレーザー光線を入射する。受光部33は、光ファイバ13の各々から反射される反射光を受光し、その情報を処理部35に出力する。
【0082】
通電部34は、制御部31の制御に従って、ヒータ11に通電することにより、ヒータ11を加熱する処理(加熱処理)を実行する。制御部31は、その通電量を制御することにより、ヒータ11の加熱状態を制御する。それにより、ヒータ11の温度が調整される。通電量に関する情報は、処理部35に出力される。
【0083】
処理部35は、制御部31と協働して、様々な処理を実行する。例えば、処理部35は、加熱した状態で、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の各々の温度を計測する処理(温度計測処理)を実行する。処理部35はまた、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の各々で計測される温度の差に基づいて、流れ方向特定部20における各光ファイバ13の熱伝達率を算出する処理を実行する(熱伝達率算出処理)。
【0084】
更に、処理部35は、流れ方向特定部20における熱伝達率の周方向の分布に基づいて、流れ方向特定部20における風向を特定する処理(流れ方向特定処理)を実行する。処理部35は、この流れ方向特定処理を実行するために、流れ方向特定情報35aを有している。流れ方向特定情報35aは、マップ等の情報からなり、予め実験等によって取得されている。流れ方向特定情報35aには、流れ方向特定部20における風向と、熱伝達率の周方向の分布との関係が規定されている。
【0085】
図5Bに、流れ方向特定情報35aをグラフ化したものを例示する。横軸は、流体中、つまり流れている空気中に配置される計測センサ10の中心角である。その角度は、風向に相当する。このグラフでは、0度の中心角が「風上」に設定されている。縦軸は、中心角に対応した計測センサ10の周囲の熱伝達率を表している。流れ方向特定情報35aには、風速の強弱別(詳細には、レイノルズ数別)に、複数のグラフ(情報)が規定されている。
【0086】
<流れ方向特定部20>
上述したように、風向を特定する流れ方向特定部20は、ヒータ11の周囲に環状に配置されている一群の光ファイバ13の露出計測部位(第1計測部位21)および被覆計測部位(第2計測部位22)で構成されている。
【0087】
加熱処理の実行により、ヒータ11は、所定の温度に昇温される。それにより、各光ファイバ13におけるヒータ11の周囲にある部分、つまり流れ方向特定部20は、間接的に加熱される。流れ方向特定部20の周囲に風が無い状態であれば、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の各々も、ヒータ11と略同じ温度に昇温される。従って、この状態では、第1計測部位21と第2計測部位22とで温度差は生じ無い。
【0088】
それに対し、流れ方向特定部20の周囲に風が有る状態では、露出している第1計測部位21は、空気との熱交換によって冷却される。被覆されている第2計測部位22は、温度が維持される。従って、この状態では、第1計測部位21と第2計測部位22とで温度差が生じる。風速が強いと、温度差は大きくなる。
【0089】
温度計測処理の実行により、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の温度が計測される。各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22は隣接しているので、これら双方に対する風向きおよび風速は略同じと仮定できる。従って、処理部35は、これらの温度差から、各光ファイバ13の熱伝達率を算出する。第2計測部位22は、温度の基準となるリファレンスとして機能する。
【0090】
具体的には、処理部35は、次に示す所定の関係式を用いて、各光ファイバ13の熱伝達率を算出する。
【0091】
入熱量=伝熱面積・熱伝達率・温度変化(「・」は乗算を示す)
入熱量は、各光ファイバ13に与えられる熱量に相当し、ヒータ11への通電量によって定まる。伝熱面積は、細管12の内周面など、計測センサ10の構造によって定まる特定の値である。そして、温度変化は、計測される各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の温度差によって定まる。
【0092】
すなわち、ヒータ11への通電量と、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の温度差とから、流れ方向特定部20における各光ファイバ13の熱伝達率が算出できる。処理部35は、熱伝達率算出処理の実行により、流れ方向特定部20における各光ファイバ13の熱伝達率を算出する。そうして、処理部35は、次に説明するように、算出した熱伝達率を用いて、流れ方向特定部20における風向を特定する。
【0093】
<風向の特定>
図6Aに、計測センサ10に相当する簡易モデルM(円柱体)を例示する。風は、矢印A1で示す方向から流れている。簡易モデルMのうち、最も風上に位置する風上部位(P1で示す)に衝突する風は、二手に分かれて、その外周面に沿って流れる。
【0094】
分流した風の大部分は、風上部位P1の両側に最も離れた位置で簡易モデルMから剥離し、風下に向かって流れていく。これら剥離部位をP2およびP4で示す。
【0095】
分流した風の一部は、剥離部位P2、P4において発生する乱流により、簡易モデルMから剥離しないで、その風下側の外周面に沿って流れていく。これら風は、簡易モデルMで最も風下に位置する風下部位(P3で示す)で衝突し、簡易モデルMから離れて風下に流れていく。
【0096】
それにより、簡易モデルMの外周面では、熱伝達率に差が生じる。風上部位P1では、風の衝突により、熱伝達率が高くなる。剥離部位P2、P4(詳細には、剥離部位P2、P4よりも僅かに風下側)では、剥離によって発生する乱流により、熱伝達率が高くなる。風下部位P3では、衝突によって生じ発生する乱流により、熱伝達率が高くなる。それにより、これら部位P1~P4の近傍において熱伝達率が大きく変化し、ピークが発生する。
【0097】
2箇所の剥離部位P2、P4の近傍では、対称状に熱伝達率が高くなる。風上部位P1および風下部位P3の各々の近傍は、これら2箇所の間で、熱伝達率が高くなる。風上部位P1および風下部位P3の各々の近傍の熱伝達率は、2箇所の剥離部位P2、P4の近傍の熱伝達率とは、異なる数値および変化になる。そして、これら熱伝達率の変化は、風の流れに対して所定の中心角で発生する。
【0098】
図6Bに、計測センサ10を模式的に示す。
図6Cに、
図6Bに対応した流れ方向特定情報35aの一例を示す。
図6Bにおいて、矢印A2で示す方向を風上とする。また、その方向を計測センサ10の中心角で0度とし、時計回りに中心角が大きくなるものとする。0度の中心角に位置する光ファイバ13を第1の光ファイバ13とし、時計回り方向に、順次、第2~第12の光ファイバ13とする。各光ファイバ13の位置を、その番号により示す。
【0099】
図6Bの計測センサ10に、
図6Aの簡易モデルMを照合した場合、剥離部位P2、P4の近傍に位置する第4,第5の光ファイバ13の熱伝達率、および、第9、第10の光ファイバ13の熱伝達率は高くなる。また、風上部位P1の近傍に位置する第1光ファイバ13の熱伝達率、および、風下部位P3の近傍に位置する第7光ファイバ13の熱伝達率も高くなる。そして、これら熱伝達率は、
図6Cに示すように、周方向に特定の分布を有している。
【0100】
熱伝達率の周方向の分布には、上述した4つのピーク(第1~第4のピークPk1~Pk4)が認められる。第1および第2のピークPk2、Pk4は、第4,第5の光ファイバ13および第9,第10の光ファイバ13の熱伝達率に相当する。第3のピークPk3は、第7光ファイバ13の熱伝達率に相当する。そして、第1のピークPk1は、第1光ファイバ13の熱伝達率に相当する。
【0101】
このように、計測センサ10の周囲には、風向きに対応した熱伝達率の特有の分布が形成される。計測システム1は、この熱伝達率の周方向の分布に基づいて、風向の計測を行う。
【0102】
<計測システム1による風向の計測>
図7に、エンジンルーム100の中の風向を計測するために、この計測システム1が行う主な処理を例示する。計測センサ10および計測装置30は、それぞれ、
図1、
図2に示す所定位置に配置される。計測装置30が作動して風向の計測が開始すると、制御部31は、ヒータ11に通電して、ヒータ11を加熱する(ステップS1)。
【0103】
制御部31には、予め、目標とする加熱温度が設定されている。制御部31は、ヒータ11の温度がその加熱温度に昇温するまで加熱する。そして、ヒータ11の温度が加熱温度に昇温すると(ステップS2でYes)、発光部32は、そのタイミングで、光ファイバ13の各々にレーザー光線を出力する(ステップS3)。
【0104】
各光ファイバ13に入射したレーザー光線が、第1計測部位21および第2計測部位22の各々に達すると、そのそれぞれにおいて特定波長の反射光が反射される。このとき、これら計測部位21,22の各々では、その温度に応じた歪みが発生する。その歪み量に対応して、反射光の波長も変化する。
【0105】
受光部33は、光ファイバ13の各々から反射される反射光を受光し、それらの波長の変化に関する情報を取得する(ステップS4)。そして、その情報を、処理部35に出力する。処理部35は、受光部33から入力された情報に基づいて、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の各々の歪み量を算出する(ステップS5)。
【0106】
処理部35は更に、その歪み量から、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の各々の温度を算出する(ステップS6)。そうして、処理部35は、算出した温度から、光ファイバ13の各々の隣接した第1計測部位21および第2計測部位22の各々で計測される温度の差を算出する(ステップS7)。
【0107】
処理部35は、各光ファイバ13の第1計測部位21および第2計測部位22の温度の差と、ヒータ11への通電量とを、上述した所定の関係式に代入する。それにより、流れ方向特定部20における光ファイバ13の各々の熱伝達率を算出する(ステップS8)。その結果、処理部35は、流れ方向特定部20における熱伝達率の周方向の分布を取得する。
【0108】
処理部35は、取得した流れ方向特定部20における熱伝達率の周方向の分布を、流れ方向特定情報35aと照合する。取得した流れ方向特定部20における熱伝達率の周方向の分布には、流れ方向特定部20における風向きに対応した特有の分布が形成されている。処理部35は、その特有の分布に基づいて、流れ方向特定部20における風向を特定する(ステップS9)。
【0109】
すなわち、取得した流れ方向特定部20における熱伝達率の周方向の分布を、流れ方向特定情報35aと照合すれば、その分布に合致する波形のグラフ(情報)が見出せる。各グラフでは、風向と中心角とが関連付けされているので、分布が合致したグラフから風向(風上の位置)が特定できる。
【0110】
<光ファイバ13の本数>
上述した実施形態では、12本の光ファイバ13をヒータ11の全周に配置した計測センサ10で風向を特定する例を示した。しかし、熱伝達率の特有の分布を考慮すると、少なくとも中心角で90度を超えた範囲に分布するように配置すれば、3本以上の光ファイバ13で風向を特定できる。
【0111】
なおここで、「3本以上の光ファイバ13を、少なくとも中心角で90度を超えた範囲に分布するように配置する」とは、詳細には、次のことをいう。すなわち、ヒータ11において、その長手方向に対して垂直にとった断面を発熱体断面と定義する。その発熱体断面の取得位置において、発熱体断面の断面中心と、3本以上からなる一群の光ファイバ13のうち、発熱体断面の周方向において一端と他端の関係となる2本の光ファイバ12,12(周方向の両端に位置する2本の光ファイバ12,12)の位置と、で定義される中心角が、90度よりも大きくなるように、一群の光ファイバ13を配置する。
【0112】
図8の(a)に示すように、ヒータ11の周囲に、所定の中心角で配置された3箇所(A点,B点,C点)に光ファイバ13を配置した計測センサ10を例に説明する。A点とC点とは、中心角で90度以上離れている(α>90度)。この計測センサ10を用いて、上述した計測システム1と同様に、計測を行う。
【0113】
そうして、得られる各光ファイバ13の熱伝達率の値を、
図8の(b)に示すように、各点の中心角に応じて、暫定的に、流れ方向特定情報35aにプロットする。この例では、A点の熱伝達率を、流れ方向特定情報35aの中心角0度の位置(風上に相当する位置)にプロットし、それに合わせて、B点の熱伝達率およびC点の熱伝達率も、それぞれの中心角に応じた位置にプロットしている。この例の場合、暫定位置では、各点のプロットは、いずれのグラフとも合致しない。
【0114】
そこで、暫定位置の各点のプロットを、
図8の(b)に矢印で示すように、周方向にスライドさせていき、合致するグラフを探索する処理を行う。そうして、
図8の(c)に示すように、各点のプロットが合致する(重なる)グラフを見つけ出し、暫定位置から移動した中心角βを特定する。
【0115】
この流れ方向特定情報35aでは、暫定位置である中心角0度の位置が、風上に相当している。従って、
図8の(d)に示すように、流れ方向特定情報35aから、暫定位置から中心角βを戻った位置が風上と特定できる。
【0116】
光ファイバ13の本数が多くても、中心角で90度以内の範囲に配置した場合には、4つのピークに起因した熱伝達率の周方向における特有の分布が活用できない。従って、風向を特定できない。対して、中心角で90度を超えた範囲に配置する場合には、上述したように、3本の光ファイバ13でも、風向を特定できる。
【0117】
ただし、光ファイバ13の本数は多い方が好ましい。熱伝達率の周方向の分布を、精度高く取得できる。それにより、流れ方向特定情報との照合が容易になり、風向を精度高く計測できる。
【0118】
<変形例>
図9Aに、計測センサ10の変形例を示す。上述した実施形態では、ヒータ11の周囲に、複数の細管12を配置し、その中に光ファイバ13を挿通した。それに対し、本変形例では、肉厚な円筒状の筒体40が、ヒータ11の周囲を囲んでいる。筒体40は、アルミ合金等の、熱伝導性に優れた素材からなる。筒体40の内周面はヒータ11の外周面に密着している。従って、ヒータ11が発熱すると、その熱は筒体40に直接的に伝わる。
【0119】
筒体40の外周部位には、ヒータ11に平行して延びる複数の細孔41が、周方向に並ぶように設けられている。これら細孔41は、光ファイバ13の外径よりも内径が僅かに大きく形成されている。そして、隣接した2つの細孔41の間には、筒体40の中心に向かって切り込まれたスリット42が設けられている。
【0120】
すなわち、スリット42で複数に分断された筒体40の外周部位は、上述した実施形態の細管12に相当する。各光ファイバ13は、これら細孔41に挿通されている。従って、これら細孔41も、細管12と同様の効果が得られる。細管12よりも、均等かつ効果的に各光ファイバ13を加熱できる。本変形例では、複数の細管12を配置するのに比べて、加工が容易な点でも有利である。
【0121】
<応用例>
図9Bに、計測システム1の応用例を示す。上述した実施形態では、計測センサ10の先端部分の1箇所で風速を計測する計測システム1を例示した。それに対し、この計測システム1’では、計測センサ10の複数箇所で風速が計測できるように構成されている。すなわち、この計測システム1’では、複数箇所の風向を同時に計測できる。
【0122】
そのために、計測部位を構成するヒータ11および細管12は、計測センサ10の先端部分から基端部分に向かって延長されている。細管12の各々には、光ファイバ13が挿通されている。そして、その延伸方向に間隔を隔てた複数箇所に、流れ方向特定部20が設けられている(図例では4箇所)。
【0123】
これら流れ方向特定部20の各々を構成している一群の光ファイバ13の各々には、上述した一対の計測部位(第1計測部位21および第2計測部位22)が設けられている。ただし、これら複数の計測部位の各々のFBG13cは、反射光を識別できるように、それぞれ、異なるグレーティング周期で形成されている。それにより、処理部35は、計測部位が多数であっても、これらを識別して温度を計測できる。
【0124】
この応用例の計測システム1’であれば、同時に複数箇所の風速が計測できるので、効率的に高精度な風向計測が行える。また、この計測システム1’によれば、複数箇所の風向だけでなく、複数箇所の風力の強弱も計測できる。
【0125】
すなわち、
図5Bに示すように、流れ方向特定情報35aには、風速の強弱別に、複数の情報が規定されている。風向を特定する時には、実測された複数箇所の熱伝達率と、風速の強弱別に規定されている熱伝達率とが照合される。従って、風速の強弱が識別できる。その際、実測された熱伝達率は、同じ風力の条件下で取得したものであるので、各箇所の風向の違いと共に、風力の相対的な差も計測できる。従って、より高度な計測が行える。
【0126】
<別の実施形態>
上述した実施形態、変形例、および、応用例では、完成された1つの計測システム1で、全ての処理を実行する場合を例示した。しかし、実験などでは、既存の装置、機器等を組み合わせて、風向を計測する場合もあり得る。特に、光ファイバ13を用いて温度を計測する装置は、実用化されている。そこで、本実施形態では、そのような装置を利用して風向を計測する方法を例示する。
【0127】
その計測方法では、複数の光ファイバ13で計測できる温度計測装置30を用いて風向を計測する。ヒータ11、光ファイバ13、細管12、およびカバーリング14により、上述した実施形態のように計測センサ10を構成する。
【0128】
光ファイバ13の各々には、その長手方向の同じ箇所に、隣接した一対の計測部位(第1計測部位21および第2計測部位22)を有するものを用いる。なお、光ファイバ13の本数は3本以上であればよい。
【0129】
その光ファイバ13の各々を、細管12に挿通した状態で、加熱可能なヒータ11の周囲に平行して延びるように配置する。少なくとも中心角で90度を超えた範囲に分布するように配置する。そして、その計測部位の一方をカバーリング14で被覆する。それにより、流れ方向特定部20を構成する。変形例または応用例のように、計測センサ1を構成してもよい。
【0130】
そして、その流れ方向特定部20が計測箇所に位置するように、計測センサ10を空気が流れる中に配置する(準備ステップ)。そうして、通電量を計測しながらヒータ11を加熱する(加熱ステップ)。所定のタイミングで温度計測装置30を操作して、第1計測部位21および第2計測部位22の各々の温度を計測する(温度計測ステップ)。
【0131】
パソコン等を用いることにより、計測した温度から、各光ファイバ13の隣接した第1計測部位21および第2計測部位22の各々で計測される温度の差を算出する。更に、算出した温度差と、通電量の情報とに基づいて、流れ方向特定部20における各光ファイバ13の熱伝達率を算出する(熱伝達率算出ステップ)。
【0132】
続いて、算出した各光ファイバ13の熱伝達率の周方向の分布を、流れ方向特定情報35aに照合する。そうすることにより、流れ方向特定部20における風向を特定する(流れ方向特定ステップ)。
【0133】
この計測方法によれば、既存の装置だけで、直ちに風向の高精度な計測が行える。狭小かつ複雑なスペースでも計測できるので、エンジンルーム100の中の風向の実測などに好適である。
【0134】
なお、開示する技術にかかる計測システム等は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0135】
例えば、実施形態では、計測対象の流体として「空気」を例示した。しかし、計測対象とする流体は、空気以外の気体でもよいし、水等の液体であってもよい。
【0136】
先の実施形態ではまた、発熱体による加熱処理、および、光ファイバによる温度および風向の計測処理を、1つの計測装置で実行する場合を例示した。しかし、これら加熱処理および計測処理は、それぞれ別の装置で行ってもよい。
【0137】
光ファイバで温度を計測する方法は、FBGの反射光を利用して計測する方法にかぎらない。特許文献1の装置のように、散乱光を利用して温度を計測してもよい。
【符号の説明】
【0138】
1 計測システム
10 計測センサ
11 ヒータ(発熱体)
12 細管
13 光ファイバ
13a コア
13b クラッド
13c FBG
14 カバーリング(カバー体)
20 流れ方向特定部
21 第1計測部位(露出計測部位)
22 第2計測部位(被覆計測部位)
30 計測装置