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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】表面粗さ推定システム
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/10 20060101AFI20240509BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20240509BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20240509BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20240509BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240509BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240509BHJP
   G01B 5/28 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
B24B49/10
B24B5/04
B23Q17/20 A
B23Q17/12
G01H17/00 Z
G01M99/00 Z
G01B5/28 102
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020075055
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021171833
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 明
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-023039(JP,A)
【文献】特開2005-010019(JP,A)
【文献】特開2019-045312(JP,A)
【文献】特開平10-138095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/10
B24B 5/04
B23Q 17/20
B23Q 17/12
G01H 17/00
G01M 99/00
G01B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置の制御によって砥石が工作物に研削加工を行う研削装置と、
前記工作物の研削加工面に接触する検出測定子を有しており、前記研削装置による前記研削加工において観測可能な前記検出測定子の動作に応じて前記工作物の研削加工面の表面粗さに関連する状態データを検出して出力する検出器と、
記検出測定子よりも小径であって、前記研削装置とは別に設けられた粗さ計の小径測定子を用いて計測した場合の前記工作物の前記研削加工面の表面粗さを表す実粗さ値と、前記小径測定子を用いて計測した前記研削加工面の実変位値に基づいて算出する算出粗さ値であって、前記検出測定子を用いて計測する場合の前記工作物の前記研削加工面の表面粗さを表す前記算出粗さ値と、の相関関係を導出する相関関係導出部と、
前記検出器から出力された前記状態データに基づいて、前記工作物の前記研削加工面の表面粗さを表す検出粗さ値を表す推定用データを取得する推定用データ取得部と、
前記推定用データと前記相関関係とを用いて、前記実粗さ値を推定する粗さ値推定部と、をえ、
前記検出器は、前記研削装置に一体に設けられており、
前記検出測定子は、前記研削装置に設けられた定寸装置が有するものであり、
さらに、前記実変位値を繋いだ実線粗さ曲線を、前記検出測定子を用いて計測する場合の変位値を繋いだ線粗さ曲線に変換する線粗さ曲線変換部を備え、
前記相関関係導出部は、
変換された前記線粗さ曲線から得られる前記算出粗さ値と、前記実粗さ値との前記相関関係を導出する、
表面粗さ推定システム。
【請求項2】
前記線粗さ曲線変換部は、
前記実線粗さ曲線を取得する実線粗さ曲線取得部と、
前記実線粗さ曲線において、前記検出測定子と同一の径を有し、且つ、前記実線粗さ曲線上の各々の前記実変位値を表す点を中心とする円を用いて包絡線を算出する包絡線算出部と、
算出した前記包絡線と、前記実変位値を計測する際の計測間隔を表す各々の計測間隔線との交点により表される前記変位値を算出する交点算出部と、
算出した各々の前記変位値を繋いで、前記円の中心が前記実線粗さ曲線上を移動した場合の前記円の軌跡を表す中心軌跡線を算出する中心軌跡算出部と、
を備え、
前記相関関係導出部は、
算出された前記中心軌跡線の前記算出粗さ値と、前記実粗さ値との前記相関関係を導出する、請求項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項3】
前記交点算出部は、
同一の前記計測間隔線に2つの前記包絡線が交わる場合、前記変位値が大きな値を有する側を前記交点として算出する、請求項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項4】
前記推定用データ取得部は、
前記状態データに基づいて前記工作物の線粗さを表す線粗さ近似波形を取得する近似波形取得部と、
取得した前記線粗さ近似波形の前記検出粗さ値を前記推定用データとして導出する近似波形粗さ値導出部と、
を備える、請求項1-3のうちの何れか一項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項5】
前記推定用データ取得部は、
前記状態データに基づいて前記検出測定子を用いて計測する場合の前記工作物の線粗さを表す線粗さ近似波形を取得する近似波形取得部と、
前記検出測定子を用いて計測する場合の線粗さ曲線の特徴量を説明変数とし、前記実粗さ値を目的変数とし、前記説明変数及び前記目的変数を含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより生成された学習済みモデルを記憶する学習済みモデル記憶部と、
前記線粗さ近似波形から抽出された前記特徴量と前記学習済みモデルとを用いて予測された前記粗さ値を導出する粗さ値導出部と、
を備える、請求項1-3のうちの何れか一項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項6】
前記線粗さ近似波形及び前記線粗さ曲線は、周波数特性を有しており、
前記線粗さ近似波形及び前記線粗さ曲線を周波数解析することにより前記特徴量を抽出する周波数解析部を備えた、請求項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項7】
前記周波数解析部は、前記線粗さ近似波形及び前記線粗さ曲線を周波数解析することにより複数の周波数成分に分割し、複数の周波数成分の各々の振幅を前記特徴量として抽出する、請求項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項8】
記線粗さ曲線変換部によって変換された前記線粗さ曲線を周波数解析することにより学習用の前記特徴量を抽出する学習用周波数解析部、を備え
前記学習用周波数解析部によって抽出された前記特徴量を前記説明変数とし、前記実粗さ値を前記目的変数とし、前記説明変数及び前記目的変数を含む訓練データセットを用いて機械学習を行うことにより前記学習済みモデルを生成する学習済みモデル生成部を備える、請求項5-7のうちの何れか一項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項9】
前記状態データは、前記研削加工が施された前記工作物の表面粗さに対応して前記検出測定子に発生する加速度データ又は変位データである、請求項1-8のうちの何れか一項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項10】
前記状態データは、前記工作物の複数個所における前記加速度データ又は前記変位データについて統計演算することによって算出される、請求項に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項11】
前記工作物が軸回りの周面を有する場合、
前記状態データは、前記検出測定子により検出される前記工作物の外径を表す外径データを含む、請求項9又は10に記載の表面粗さ推定システム。
【請求項12】
前記工作物が軸回りの周面を有する場合、
前記状態データは、前記工作物の異なる角度毎の複数の周方向における前記加速度データ又は前記変位データを前記工作物の同一角度における複数の前記加速度データ又は前記変位データとみなし、且つ、前記外径データを合成して前記工作物の軸方向に並列させた複数の前記加速度データ又は前記変位データである、請求項11に記載の表面粗さ推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面粗さ推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、研削加工中の研削盤の振動について、一定周波数帯域の振動の大きさと一定時間内における振動の変化の度合とを判別基準値と比較することにより、びびり振動の発生の有無を判定する技術が開示されている。これにより、特に、発生初期のびびり振動を検出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-233368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、工作物に研削加工を施す場合、工作物の研削加工面における表面粗さに起因したびびり振動が生じる場合がある。研削加工においてびびり振動が発生した場合、研削加工品質の悪化を引き起こす虞があり、工作物の研削加工面における表面粗さを研削加工中に、即ち、インプロセスで把握することは極めて重要である。
【0005】
この点において、特許文献1に開示された技術では、インプロセスで工作物の研削加工面における表面粗さを把握することが可能であるものの、専用の振動計を研削装置に設ける必要があり、研削装置の構成が複雑になる。ところで、研削装置においては、例えば、定寸装置を用いてインプロセスで工作物の形状を計測することが行われる。定寸装置は、測定子を工作物の研削加工面に接触させて工作物の形状を計測するため、例えば、定寸装置によって計測された変位値に基づいて工作物の表面粗さを推定することが可能である。
【0006】
しかしながら、一般に、定寸装置の測定子は、工作物の研削加工面と接触することによる摩耗を抑制するために、径が大きく設定される。このため、例えば、オフラインにおいて、測定子の径の小さい粗さ計を用いて計測した表面粗さに比べて計測精度が低下する虞がある。
【0007】
本発明は、工作物の研削加工面における表面粗さを精度よく推定することができる表面粗さ推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
表面粗さ推定システムは、制御装置の制御によって砥石が工作物に研削加工を行う研削装置と、工作物の研削加工面に接触する検出測定子を有しており、研削装置による研削加工において観測可能な検出測定子の動作に応じて工作物の研削加工面の表面粗さに関連する状態データを検出して出力する検出器と、検出測定子よりも小径であって、研削装置とは別に設けられた粗さ計の小径測定子を用いて計測した場合の工作物の研削加工面の表面粗さを表す実粗さ値と、小径測定子を用いて計測した研削加工面の実変位値に基づいて算出する算出粗さ値であって、検出測定子を用いて計測する場合の工作物の研削加工面の表面粗さを表す算出粗さ値と、の相関関係を導出する相関関係導出部と、検出器から出力された状態データに基づいて、工作物の研削加工面の表面粗さを表す検出粗さ値を表す推定用データを取得する推定用データ取得部と、推定用データと相関関係とを用いて、実粗さ値を推定する粗さ値推定部と、を備え、検出器は、研削装置に一体に設けられており、検出測定子は、研削装置に設けられた定寸装置が有するものであり、さらに、実変位値を繋いだ実線粗さ曲線を、検出測定子を用いて計測する場合の変位値を繋いだ線粗さ曲線に変換する線粗さ曲線変換部を備え、相関関係導出部は、変換された線粗さ曲線から得られる算出粗さ値と、実粗さ値との相関関係を導出する。
【0009】
これによれば、研削装置に設けられた検出器の検出測定子を用いて計測した場合の粗さ値と、検出測定子よりも小径の小径測定子を用いて計測した場合の実粗さ値との相関関係を導出することができる。これにより、径の大きな検出測定子を用いて、工作物の研削加工面の表面粗さを計測した場合であっても、導出した相関関係に基づいて、研削加工中の工作物の研削加工面における表面粗さ即ち実粗さ値を精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】表面粗さ推定システムの構成を示す図である。
図2】研削装置の一例を示す図である。
図3】検出器の一例の機能ブロック構成を示す図である。
図4】検出器によって検出される周方向の粗さデータを説明するための図である。
図5図4の周方向の粗さデータに基づいて生成される面状粗さデータを説明するための図である。
図6】表面粗さ推定システムの機能ブロック構成を示す図である。
図7】粗さ計によって計測される実線粗さ曲線を示す図である。
図8】包絡線に基づいて導出される中心軌跡線を説明するための図である。
図9】実線粗さ曲線に中心軌跡線を重ねた状態を示す図である。
図10】実粗さ値(推定粗さ値)と中心軌跡粗さ値(近似波形粗さ値)との相関関係を示すグラフである。
図11】線粗さ近似波形を示す図である。
図12】第一別例に係る表面粗さ推定システムの構成を示す図である。
図13図12の学習処理装置の機能ブロック構成を示す図である。
図14】周波数解析によって抽出される周波数毎の振幅を示す図である。
図15図12の推定演算装置の機能ブロック構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.表面粗さ推定システムの適用対象の研削装置)
表面粗さ推定システムは、研削装置によって研削加工された工作物の研削加工面の表面粗さを推定する。研削装置としては、円筒研削盤、カム研削盤、平面研削盤等、種々の構成の研削装置を適用できる。研削装置は、粗研削工程、精研削工程、微研削工程、スパークアウト等の研削工程を経て、工作物に研削加工を行うことができる。
【0012】
(2.表面粗さ推定システム1の構成の概要)
表面粗さ推定システム1の構成の概要について、図1を参照して説明する。表面粗さ推定システム1は、少なくとも1台の研削装置10と、1つの演算装置20とを備える。研削装置10は、1台を対象としても良いし、図1に示すように、複数台を対象としても良い。本例では、表面粗さ推定システム1は、複数台の研削装置10を備える場合を例に挙げる。
【0013】
研削装置10は、少なくとも、工作物Wの研削加工中において観測可能な状態データを検出する検出器13を備える。演算装置20は、検出器13により検出された状態データを用いて、状態データと相関関係を有する工作物Wの表面粗さを推定する。ここで、相関関係は、研削装置10が工作物Wを研削加工しているときに検出器13によって検出された表面粗さに関連する状態データと、例えば、研削加工後の工作物Wについて研削装置10とは別に設けられた粗さ計2の小径測定子によって検出された実変位値に基づく工作物Wの線粗さ(以下、この線粗さを表す値を「実粗さ値」と称呼する。)との相関を表す。
【0014】
(3.表面粗さ推定システム1の構成の詳細)
表面粗さ推定システム1の構成について、図1を参照して、より詳細に説明する。表面粗さ推定システム1は、複数台の研削装置10と、各々の研削装置10に一対一で設けられた複数台の演算装置20を備える。本例において、演算装置20は、推定演算装置20として構成される。
【0015】
それぞれの研削装置10は、砥石Tを用いて工作物Wの研削加工を行う研削盤11と、研削盤11を制御する制御装置12と、検出器13と、インターフェース14とを主に備える。制御装置12は、CNC装置及びPLC装置等を含み、研削盤11における駆動装置等を制御する。インターフェース14は、研削盤11、制御装置12、検出器13と、外部と通信可能とする機器である。尚、外部には、各々の研削装置10によって研削された工作物Wの研削加工面の表面粗さを必要に応じて検出する粗さ計2、後述する学習処理装置60及び共通表示装置70等が含まれる。
【0016】
検出器13は、状態データとして、研削盤11による工作物Wの研削加工中に研削加工面の表面粗さに関連する状態データを検出する。検出器13は、例えば、工作物Wの研削加工面の表面粗さに起因する加速度データ又は変位データを検出する加速度センサ又は変位センサ等である。即ち、検出器13が検出する状態データは、加速度データ(振動データ)、変位データ(粗さデータであって、後述する面状粗さデータ)等である。
【0017】
推定演算装置20は、プロセッサ21、記憶装置22、インターフェース23等を備えて構成される。それぞれの推定演算装置20は、対応する研削装置10、及び、後述するサーバとしての学習処理装置60と通信可能に接続されている。
【0018】
推定演算装置20は、それぞれの研削装置10に近接した位置に配置されており、所謂、エッジコンピュータとして機能する。推定演算装置20は、工作物Wの研削加工中に検出器13によって検出された表面粗さ関連データに基づいて、工作物Wの研削加工面の表面粗さを推定する(予測する)。尚、推定演算装置20の配置に関しては、必ずしも研削装置10に近接した位置に配置する必要はなく、研削装置10とは別体となるように配置することも可能である。
【0019】
表面粗さ推定システム1は、複数の個別表示装置30を備える。但し、表面粗さ推定システム1は、個別表示装置30を備えない構成としても良い。個別表示装置30は、研削装置10のそれぞれに対応して配置される。
【0020】
(4.研削盤11の例)
本例の研削盤11として、図2に示すように、砥石台トラバース型の円筒研削盤40を例に挙げる。尚、研削盤11は、テーブルトラバース型を用いることもできる。
【0021】
円筒研削盤40は、工作物Wの周面を研削するための機械である。円筒研削盤40は、主として、ベッド41、主軸台42、心押台43、トラバースベース44、砥石台45、砥石車46(砥石T)、定寸装置47、砥石車修正装置48、及び、クーラント装置49を備える。
【0022】
ベッド41は、設置面上に固定されている。主軸台42は、ベッド41の上面において、X軸方向の手前側(図2の下側)且つZ軸方向の一端側(図2の左側)に設けられている。主軸台42は、工作物WをZ軸回りに回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台42に設けられたモータ42aの駆動により回転される。心押台43は、ベッド41の上面において、主軸台42に対してZ軸方向に対向する位置、即ち、X軸方向の手前側(図2の下側)且つZ軸方向の他端側(図2の右側)に設けられている。これにより、工作物Wは、主軸台42及び心押台43によって回転可能に両端支持される。
【0023】
トラバースベース44は、ベッド41の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース44は、ベッド41に設けられたモータ44aの駆動により移動する。砥石台45は、トラバースベース44の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台45は、トラバースベース44に設けられたモータ45aの駆動により移動する。砥石車46は、砥石台45に回転可能に支持されている。砥石車46は、砥石台45に設けられたモータ46aの駆動により回転する。砥石車46は、複数の砥粒をボンド材により固定されて構成されている。
【0024】
定寸装置47は、工作物Wの寸法(径)を測定する。定寸装置47は、ベッド41の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。定寸装置47は、ベッド41に設けられた送り機構47aによりZ軸方向の位置が制御される。定寸装置47は、工作物Wの研削加工面に接触する検出測定子47bを備える。検出測定子47bは、研削加工において回転している工作物Wの研削加工面に常に接触しており、研削加工面との摩擦による摩滅を抑制する必要がある。このため、検出測定子47bの径は、摩滅を抑制するように形成され、具体的には、粗さ計2の小径測定子の径(数μm程度)よりも大径(数mm程度)に形成される。
【0025】
又、定寸装置47には、検出測定子47bを支持するアームに加速度センサ47cが設けられる。加速度センサ47cは、回転する工作物Wの研削加工面に検出測定子47bの中心が接触した状態で検出される加速度を表す加速度データを出力する。尚、加速度センサ47cを用いることに代えて、回転する工作物Wの研削加工面に検出測定子47bの中心が接触した状態で検出される変位値(表面粗さに相当)を表す変位データを出力する変位センサを用いることも可能である。
【0026】
砥石車修正装置48は、砥石車46の形状を修正する。砥石車修正装置48は、砥石車46のツルーイングを行う装置である。砥石車修正装置48は、ツルーイングに加えて又は代えて、砥石車46のドレッシングを行う装置としても良い。ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車46が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車46を成形する作業、偏摩耗による砥石車46の振れを取り除く作業である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。
【0027】
クーラント装置49は、砥石車46による工作物Wの研削点にクーラントを供給する。クーラント装置49は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。
【0028】
円筒研削盤40に設けられる制御装置12は、工作物Wの形状、加工条件、砥石車46の形状、クーラントの供給タイミング情報等の作動指令データに基づいて生成されたNCプログラムに基づいて、各駆動装置を制御する。即ち、制御装置12は、動作指令データを入力し、動作指令データに基づいてNCプログラムを生成する。
【0029】
そして、制御装置12は、NCプログラムに基づいて各モータ42a,44a,45a,46a及びクーラント装置49等を制御することにより、工作物Wの研削加工を行う。特に、制御装置12は、定寸装置47により測定される工作物Wの径に基づいて、工作物Wが仕上げ形状となるまで研削加工を行う。又、制御装置12は、砥石車46を修正するタイミングにおいて、各モータ42a,44a,45a,46a、及び、砥石車修正装置48等を制御することにより、砥石車46の修正(ツルーイング及びドレッシング)を行う。
【0030】
(5.検出器13の例)
本例においては、円筒研削盤40に一体に設けられた検出器13が研削加工において、工作物Wの研削加工面の表面粗さに応じて発生するびびり振動を評価するびびり評価装置50を例に挙げる。尚、検出器13が変位センサや加速度センサを用いて構成されて、変位データや加速度データ(振動データ)を出力することもできる。
【0031】
びびり評価装置50は、図3に示すように、実データ取得部51、変位変換部52、面状粗さデータ生成部53、出力部54を主に備える。
【0032】
実データ取得部51は、定寸装置47に設けられた加速度センサ47cによって検出された加速度データを時系列的に取得する。ここで、実データ取得部51は、定寸装置47の検出測定子47bによる工作物Wの研削加工面上の接触位置を螺旋状に移動させたときに、回転する工作物Wの所定角度毎の螺旋状の位置に関する時系列データを取得する。
【0033】
即ち、定寸装置47の検出測定子47bは、研削加工に伴って工作物Wを回転させた状態において、送り機構47aによって工作物Wの軸方向であるZ軸方向に移動する。この場合、定寸装置47の検出測定子47bは工作物Wの研削加工面に接触しているため、検出測定子47bの中心と工作物Wとの接触位置は、工作物Wの研削加工面上を螺旋状の軌跡を描いて移動する。従って、実データ取得部51は、検出測定子47bが研削加工面上を螺旋状に相対移動しながら検出された加速度データを取得する。
【0034】
変位変換部52は、加速度センサ47cから時系列的に取得した加速度データをFFT(高速フーリエ変換)し、砥石車46の回転数に対応する回転周波数成分(特定周波数成分)を有する加速度に関するデータを抽出する。そして、変位変換部52は、抽出した特定周波数成分を有する加速度に関するデータを逆FFTする。これにより、変位変換部52は、特定周波数成分を有する定寸装置47の検出測定子47bの変位値、即ち、工作物Wの研削加工面における凹凸(表面粗さ)に関する変位データ(粗さデータ)に変換する。尚、特定周波数成分は、砥石車46の回転数及び回転数の整数倍の周波数成分である。
【0035】
ここで、円筒研削盤40は、砥石車46を回転させながら工作物Wを研削加工する。このため、砥石車46の表面形状は、砥石車46の回転周期、即ち、回転数毎に転写されて工作物Wの研削加工面に現れる。具体的に、砥石車46の表面に大きく突き出した砥粒が存在する場合、工作物Wの研削加工面においては、砥粒と当接する箇所が大きく削り取られた凹部が形成される。この場合、工作物Wに形成された凹部は回転方向に等間隔で形成され、工作物Wの周方向における凹部の間隔は砥石車46の回転周期(回転数毎)に一致する。従って、特定周波数成分を有する加速度に関するデータを抽出することにより、工作物Wの研削加工面における凹凸即ち表面粗さを抽出することが可能になる。
【0036】
面状粗さデータ生成部53は、工作物Wの研削加工面における周方向の粗さデータ(変位データ)を用いて、一連の面状粗さデータを生成する。具体的に、変位変換部52によって生成された複数の周方向の粗さデータは、工作物Wの回転軸に対する角度が互いに異なる角度毎に生成される。即ち、図4に示すように、隣接する軸方向位置における周方向の粗さデータは、互いに工作物Wの周方向にずれた位置のデータとなる。粗さデータ即ち工作物Wの研削加工面における凹凸(表面粗さ)は、上述したように、砥石車46の回転周期毎に工作物Wの研削加工面に繰り返し見られる。このため、面状粗さデータ生成部53は、異なる角度毎の各々の粗さデータを周方向(図4に示す矢印方向)に移動させる。これにより、面状粗さデータ生成部53は、図5に示すように、異なる角度毎の各々の粗さデータを工作物Wの角度を同一角度とし、且つ、軸方向にて並列に並べた一連の面状粗さデータを生成する。
【0037】
ここで、螺旋状に取得した加速度データから変換して得られる周方向の粗さデータ(変位データ)を分割する場合、分割した各々の粗さデータによって表される凹凸がずれる場合がある。従って、面状粗さデータ生成部53は、面状粗さデータを生成する際には、各々の粗さデータの端点のおける凹凸が工作物Wの軸方向(Z軸方向)に沿って連続性を有するように、各々の粗さデータの相対的な位置を補正する。そして、面状粗さデータ生成部53は、位置を補正した各々の粗さデータを軸方向に並べて状態データとしての面状粗さデータを生成する。
【0038】
ところで、本例の工作物Wは、Z軸回りの周面を有する円筒状(又は円柱状)である。このため、各々の粗さデータを軸方向に並列に並べて一連の面状粗さデータを生成する場合、工作物Wの研削加工面における外径変化の影響も加味する必要がある。このため、面状粗さデータ生成部53は、面状粗さデータと工作物Wの外径を表す外径データとを合成することにより、外径変化の影響を加えた面状粗さデータを生成する。
【0039】
即ち、面状粗さデータ生成部53は、定寸装置47(検出測定子47b)からの信号に基づき外径データを取得し、取得した外径データをFFT(高速フーリエ変換)する。そして、面状粗さデータ生成部53は、FFTした外径データのうち、びびり振動の周波数成分を含まない特定の周波数領域(例えば、50Hz以下)となる低周波数成分を有する外径データを抽出する。これにより、面状粗さデータ生成部53は、工作物Wの軸方向の外径変化を抽出する。
【0040】
そして、面状粗さデータ生成部53は、抽出した低周波数成分を有する外径データを逆FFTし、逆FFTした外径データと面状粗さデータとを合成、即ち、工作物Wの周方向の凹凸(表面粗さ)と軸方向の外径変化とを合成する。これにより、面状粗さデータ生成部53は、工作物Wの研削加工面における凹凸(表面粗さ)即ち面状粗さデータを、工作物Wの外径変化を加味して正確に生成することができる。
【0041】
出力部54は、面状粗さデータ生成部53によって生成された面状粗さデータを状態データとして推定演算装置20に出力する。尚、出力部54は、面状粗さデータ生成部53によって生成された面状粗さデータに基づいて生成可能な画像データを出力することも可能である。
【0042】
(6.表面粗さ推定システム1の機能ブロック構成)
表面粗さ推定システム1の機能ブロックについて、図6を参照して説明する。表面粗さ推定システム1は、制御装置12、検出器13(びびり評価装置50)、推定演算装置20、表示装置30を備える。
【0043】
検出器13即ちびびり評価装置50は、上述したように、工作物Wの研削加工中に円筒研削盤40における観測可能な状態データである面状粗さデータを出力する。面状粗さデータは、例えば、研削工程、即ち、粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程毎について、1個の工作物Wにおける加工開始から加工終了までに検出されて出力される。
【0044】
又、円筒研削盤40の制御装置12には、カウンタが含まれている。カウンタは、円筒研削盤40が研削加工した工作物Wの加工数をカウントする。本例において、カウンタは、砥石車修正装置48が砥石車46をツルーイング又はドレッシングしたときからの工作物Wの加工数をカウントする。尚、カウンタは、制御装置12の他に、検出器13自身が備えるようにしたり、粗さ計2が備えるようにしたりすることもできる。
【0045】
推定演算装置20は、対応する円筒研削盤40において、検出器13即ちびびり評価装置50から取得した面状粗さデータに基づいて任意の軸方向における線粗さ曲線近似波形(後述する図11を参照)を取得し、研削加工面における推定粗さ値を算出する。推定演算装置20は、線粗さ曲線変換部81、相関関係導出部82、推定用データ取得部83、粗さ値推定部84、出力部85を備える。
【0046】
線粗さ曲線変換部81は、図7に示すように、粗さ計2の小径測定子によって計測された実変位値を工作物Wの軸方向に沿って繋いだ線粗さ曲線(以下、「実線粗さ曲線LB」と称呼する。)を、定寸装置47の検出測定子47bによって計測する場合の線粗さ曲線に変換する。このため、線粗さ曲線変換部81は、図6に示すように、実線粗さ曲線取得部81a、包絡線算出部81b、交点算出部81c及び中心軌跡算出部81dを備える。
【0047】
実線粗さ曲線取得部81aは、図6に示すように、円筒研削盤40の機外に配置された粗さ計2から実線粗さ曲線LBを表す線粗さ曲線データを取得する。ここで、上述したように、粗さ計2の小径測定子の径は数μm程度である。これにより、粗さ計2は、工作物Wの軸方向における研削加工面の凹凸即ち実変位値を正確に計測することができ、図7に示すように、研削加工面の表面粗さを正確に反映した実線粗さ曲線LBを得ることができる。
【0048】
包絡線算出部81bは、実線粗さ曲線取得部81aが粗さ計2から取得した線粗さ曲線データによって表される実線粗さ曲線LBにおいて、定寸装置47の検出測定子47bの径(数mm程度)と同一の円を用いて包絡線を算出する。具体的に、包絡線算出部81bは、図8に示すように、実線粗さ曲線LB(図8にて太破線により示す)と粗さ計2の計測間隔線(図8にて二点鎖線により示す)との交点P1~P7即ち実変位値を中心とし、且つ、検出測定子47bの径となる円C1~C7を、各交点P1~P7に設ける。続いて、包絡線算出部81bは、各円C1~C7について、互いに隣接する円に接する包絡線L1~L6を算出する。
【0049】
交点算出部81cは、包絡線算出部81bが算出した包絡線L1~L6と、計測間隔線との交点Q1~Q7を算出する。ところで、包絡線L1~L6は、同一の計測間隔線に対して2箇所で交わる場合がある。例えば、図8において、交点Q5が設定される計測間隔線は、包絡線L4及び包絡線L5と交差する。この場合、包絡線算出部81bは、計測間隔線において検出測定子47bが計測する場合の変位値が大きな値を有する側、即ち、図8において上側になる包絡線L4が計測間隔線と交差する側を交点Q5とする。
【0050】
中心軌跡算出部81dは、交点算出部81cが算出した交点Q1~Q7を繋いだ線、即ち、図8において太実線により示すように、円で表される大径の検出測定子47bの中心が実線粗さ曲線LBに沿って移動した場合の検出測定子47bの軌跡を表す中心軌跡線LCを算出する。ここで、中心軌跡線LCは、図9に示すように、実線粗さ曲線LB(図9にて破線により示す)に対応付けられることにより、算出粗さ値を表す。従って、以下の説明においては、中心軌跡線LCによって表される算出粗さ値を「中心軌跡粗さ値」と称呼する。
【0051】
相関関係導出部82は、粗さ計2の小径測定子によって計測された実変位値に基づく実粗さ値と、上述した中心軌跡線LCに基づく中心軌跡粗さ値即ち検出測定子47bが計測する場合に相当する中心軌跡粗さ値のとの相関関係を算出する。相関関係導出部82は、図6に示すように、実粗さ値取得部82a、中心軌跡粗さ値算出部82b、粗さ値関係式算出部82cを備える。
【0052】
実粗さ値取得部82aは、粗さ計2によって計測された実変位値に基づく実粗さ値を取得する。ここで、本例においては、実粗さ値として、例えば、各曲線(計測点の変位値)から算出した算術平均粗さ(Ra)用いる場合を例示するが、十点平均粗さ(Rz)等を用いても良い。
【0053】
中心軌跡粗さ値算出部82bは、中心軌跡算出部81dによって算出された中心軌跡線LCを表す中心軌跡データに基づいて、中心軌跡粗さ値を算出する。即ち、中心軌跡粗さ値算出部82bは、実粗さ値取得部82aが取得した実粗さ値に対応する中心軌跡粗さ値を算出する。
【0054】
粗さ値関係式算出部82cは、実粗さ値取得部82aが取得した実粗さ値と、中心軌跡粗さ値算出部82bが算出した中心軌跡粗さ値との相関関係を算出する。即ち、粗さ値関係式算出部82cは、互いに対応する実粗さ値及び中心軌跡粗さ値について、例えば、統計演算処理を行うことにより、実粗さ値と中心軌跡粗さ値との相関関係を導く。これにより、図10に示すように、例えば、実粗さ値と中心軌跡粗さ値とが一次関数(y=ax+b)により表される相関関係を導く。但し、実粗さ値と中心軌跡粗さ値との相関関係については、一次関数に限られるものではなく、二次関数や三次関数、その他の関数により表される相関関係であっても良いことは言うまでもない。
【0055】
推定用データ取得部83は、検出器13、即ち、びびり評価装置50から出力された状態データである面状粗さデータに基づいて、推定用データを取得する。推定用データ取得部83は、図6に示すように、近似波形取得部83a、及び、近似波形粗さ値導出部83bを備える。近似波形取得部83aは、びびり評価装置50から出力される面状粗さデータを取得し、図11に示すように、取得した面状粗さデータにおける任意の軸線方向(図5の太実線を参照)における線粗さ近似波形LAを取得する。
【0056】
近似波形粗さ値導出部83bは、近似波形取得部83aが取得した線粗さ近似波形LAに基づいて、近似波形粗さ値を算出することにより導出する。近似波形粗さ値導出部83bは、例えば、線粗さ近似波形LAの算術平均粗さ(Ra)を算出する。
【0057】
ここで、線粗さ近似波形LAは、定寸装置47の検出測定子47bによって検出された面状粗さデータに基づくものである。即ち、線粗さ近似波形LAは、任意の軸方向において、定寸装置47の検出測定子47bの中心が工作物Wの研削加工面に接触することによって検出された研削加工面の線粗さ(表面粗さ)を近似したものである。従って、近似波形粗さ値導出部83bが導出(算出)した近似波形粗さ値は、中心軌跡粗さ値とみなすことができる。
【0058】
粗さ値推定部84は、推定用データ取得部83の近似波形粗さ値導出部83bが推定用データとして導出(算出)した近似波形粗さ値即ち中心軌跡粗さ値と、相関関係導出部82の粗さ値関係式算出部82cによって導出された相関関係とを用いて、中心軌跡粗さ値(近似波形粗さ値)に対応する推定粗さ値を推定する(変換する)。ここで、推定粗さ値は、図10に示すように、実粗さ値に相当する。即ち、推定粗さ値は、測定子の径の小さな粗さ計2が計測した粗さ値に相当し、径の大きな検出測定子47bを用いた中心軌跡粗さ値(近似波形粗さ値)よりも精度が高い。そして、出力部85は、粗さ値推定部84によって推定された(変換された)推定粗さ値を表示装置30に出力する。
【0059】
表示装置30は、推定演算装置20の出力部85から出力された推定粗さ値を表示する。これにより、作業者或いは円筒研削盤40(研削盤11)の制御装置12は、研削加工において(インプロセスにおいて)、加工される工作物Wの品質を確認することができる。
【0060】
以上の説明からも理解できるように、表面粗さ推定システム1によれば、研削装置10である円筒研削盤40に設けられた検出器13より具体的には定寸装置47の検出測定子47bを用いて計測した場合の粗さ値(びびり評価装置50から出力される面状粗さデータ)と、検出測定子47bよりも小径の小径測定子を用いて粗さ計2が計測した場合の実粗さ値との相関関係を導出することができる。これにより、径の大きな大径測定子に相当する検出測定子47bを用いて、工作物Wの研削加工面の表面粗さを計測した場合であっても、導出した相関関係に基づいて、研削加工中の工作物Wの研削加工面における表面粗さ即ち実粗さ値を精度よく推定することができる。
【0061】
(7.第一別例)
上述した本例においては、推定演算装置20の相関関係導出部82が中心軌跡粗さ値と粗さ計2によって計測された変位値との相関関係を導出するようにした。
【0062】
第一別例においては、算出された中心軌跡線LCについて周波数解析を行うことによって各周波数の振幅を特徴量として抽出する。そして、第一別例においては、抽出された振幅と、粗さ計2によって計測された実変位値に基づく実粗さ値との相関を機械学習により学習し、機械学習によって生成した学習済みモデルを用いて推定用データを推定する。
【0063】
(7-1.第一別例の表面粗さ推定システム100の構成の詳細)
第一別例の表面粗さ推定システム100の構成について、図12を参照して、詳細に説明する。表面粗さ推定システム100は、上述した本例の表面粗さ推定システム1と比べて、演算装置60及び共通表示装置70を備える点で異なる。演算装置60は、学習処理装置60である。学習処理装置60は、所謂、サーバ機能を有しており、上述した推定演算装置20、及び、複数台の研削装置10(円筒研削盤40)や、例えば、離間した他の工場に設置された研削装置10と通信可能に接続されている。尚、図12において、推定演算装置20と学習処理装置60とは、第一別例として独立した構成として示すが、1つの装置とすることもできる。共通表示装置70は、学習処理装置60に対して配置される。
【0064】
学習処理装置60は、プロセッサ61、記憶装置62、インターフェース63等を備えて構成される。学習処理装置60は、粗さ計2から出力された線粗さ曲線データ及び粗さ計2から出力された実変位に基づく実粗さ値に基づいて、機械学習を行う。そして、学習処理装置60は、推定用データを予測するための学習済みモデルを生成する。
【0065】
特に、学習処理装置60は、線粗さ曲線データに基づいて算出される中心軌跡線LCを表す中心軌跡データを周波数解析であるFFT(高速フーリエ変換)することにより抽出される周波数ごとの振幅を特徴量とする。そして、学習処理装置60は、抽出された特徴量と実粗さ値とを用いて学習済みモデルを生成する。
【0066】
(7-2.学習処理装置60の詳細)
学習処理装置60は、図13に示すように、訓練データセット取得部91、訓練データセット記憶部92、モデル生成部93を備える。
【0067】
訓練データセット取得部91は、機械学習を行うための訓練データセットを取得する。訓練データセット取得部91は、実線粗さ曲線取得部91a、包絡線算出部91b、交点算出部91c、中心軌跡算出部91d、学習用周波数解析部91e、実粗さ値取得部91fを備える。
【0068】
実線粗さ曲線取得部91aは、粗さ計2から線粗さ曲線データを取得する。包絡線算出部91bは、実線粗さ曲線取得部91aが粗さ計2から取得した線粗さ曲線データによって表される実線粗さ曲線LB(図7を参照)において、定寸装置47の検出測定子47bの径に対応する円を用いて包絡線を算出する(図8を参照)。交点算出部91cは、包絡線算出部91bが算出した包絡線L1~L6と、計測間隔線との交点Q1~Q7を算出する(図8を参照)。中心軌跡算出部91dは、交点算出部91cが算出した交点Q1~Q7を繋いだ中心軌跡線LCを算出する(図9を参照)。
【0069】
ここで、実線粗さ曲線取得部91a、包絡線算出部91b、交点算出部91c及び中心軌跡算出部91dは、推定演算装置20の線粗さ曲線変換部81を構成する実線粗さ曲線取得部81a、包絡線算出部81b、交点算出部81c及び中心軌跡算出部81dと同様の処理を行う。尚、本例においては、訓練データセット取得部91の実線粗さ曲線取得部91a、包絡線算出部91b、交点算出部91c及び中心軌跡算出部91dと、実線粗さ曲線取得部81a、包絡線算出部81b、交点算出部81c及び中心軌跡算出部81dとは別要素として説明する。
【0070】
但し、訓練データセット取得部91の実線粗さ曲線取得部91a、包絡線算出部91b、交点算出部91c及び中心軌跡算出部91dを、実線粗さ曲線取得部81a、包絡線算出部81b、交点算出部81c及び中心軌跡算出部81dと兼用することも可能である。即ち、学習処理装置60における要素91a,91b,91c,91dの機能が、推定演算装置20の一部の機能と兼用される。
【0071】
学習用周波数解析部91eは、中心軌跡算出部91dによって算出された中心軌跡線LCを表す中心軌跡データ、即ち、周波数特性を有する中心軌跡データについて、周波数解析(具体的には、FFT(高速フーリエ変換))を行う。これにより、学習用周波数解析部91eは、図14に示すように、中心軌跡データに含まれる複数の周波数成分のそれぞれの振幅を、機械学習における説明変数である特徴量として抽出する。
【0072】
実粗さ値取得部91fは、粗さ計2によって計測された実変位による実粗さ値を取得する。ここで、実粗さ値としては、例えば、算術平均粗さ(Ra)を用いる。しかし、十点平均粗さ(Rz)等を用いることもできる。
【0073】
訓練データセット記憶部92は、訓練データセット取得部91によって取得した訓練データセットを記憶する。具体的に、訓練データセット記憶部92は、学習用周波数解析部91eによって抽出された複数の周波数成分の各々の振幅を表す振幅データと、実粗さ値取得部91fによって取得された実粗さ値とを関連付けて記憶する。
【0074】
モデル生成部93は、訓練データセット記憶部92に記憶された訓練データセットを用いて機械学習を行う。具体的には、モデル生成部93は、学習用周波数解析部91eによって抽出された特徴量である各々の振幅を説明変数とし、実粗さ値を目的変数とした機械学習を行う。そして、モデル生成部93は、相関関係を導出する即ち推定粗さ値を導出するための学習済みモデルを生成する。
【0075】
第一別例における推定演算装置20は、上述した本例の推定演算装置20に対して、図15に示すように、一部変更される。即ち、第一別例における推定演算装置20は、本例において説明した線粗さ曲線変換部81及び相関関係導出部82が省略される。そして、第一別例においては、推定用データ取得部83の構成が変更されることにより、相関関係導出部としての機能を発揮する。
【0076】
具体的に、第一別例の推定用データ取得部83は、学習処理装置60によって生成された相関関係を導出するための学習済みモデルを記憶するモデル記憶部83cが設けられる。更に、第一別例の推定用データ取得部83は、近似波形粗さ値導出部83bに代えて、周波数解析部83dが設けられる。
【0077】
周波数解析部83dは、近似波形取得部83aによって取得された線粗さ近似波形LAについて、周波数解析(具体的には、FFT(高速フーリエ変換))を行い、特徴量として周波数毎の振幅を抽出する。粗さ推定部84は、周波数解析部83dによって抽出された各々の振幅(特徴量)と、モデル記憶部83cに記憶された学習済みモデルとを用いて、推定粗さ値を導出する。
【0078】
即ち、第一別例においては、推定用データ取得部83の周波数解析部83dが周波数解析によって特徴量である振幅を抽出して粗さ値推定部84に出力する。そして、粗さ値推定部84は、相関関係導出部としての学習処理装置60によって生成された学習済みモデルと、出力された特徴量である振幅とを用いて、推定粗さ値を予測することができる。従って、この場合においても、学習処理装置60が生成した学習済みモデルを用いることにより、上述した本例と同様に推定粗さ値を推定することができるため、上述した本例と同様の効果が得られる。
【0079】
(9.その他)
上述した本例及び第一別例においては、検出器13としてびびり評価装置50から面状粗さデータを状態データとして取得するようにした。しかしながら、検出器13から出力される状態データは、面状粗さデータに限られるものではなく、例えば、工作物Wを回転させず、Z軸方向のみに移動させ、定寸装置47により検出した変位データに基づいて取得可能な線粗さデータであっても良い。
【符号の説明】
【0080】
1,100…表面粗さ推定システム、2…粗さ計、10…研削装置、11…研削盤、12…制御装置、13…検出器、14…インターフェース、20…推定演算装置、21…プロセッサ、22…記憶装置、23…インターフェース、30…個別表示装置、40…円筒研削盤、41…ベッド、42…主軸台、42a…モータ、43…心押台、44…トラバースベース、44a…モータ、45…砥石台、45a…モータ、46…砥石車(砥石T)、46a…モータ、47…定寸装置、47a…送り機構、47b…検出測定子、47c…加速度センサ、48…砥石車修正装置、49…クーラント装置、50…びびり評価装置、51…実データ取得部、52…変位変換部、53…面状粗さデータ生成部、54…出力部、60…学習処理装置(相関関係導出部)、61…プロセッサ、62…記憶装置、63…インターフェース、70…共通表示装置、81…線粗さ曲線変換部、81a…実線粗さ曲線取得部、81b…包絡線算出部、81c…交点算出部、81d…中心軌跡算出部、82…相関関係導出部、82a…実粗さ値取得部、82b…中心軌跡粗さ値算出部、82c…粗さ値関係式導出部、83…推定用データ取得部、83a…近似波形取得部、83b…近似波形粗さ値導出部、83c…モデル記憶部(学習済みモデル記憶部)、83d…周波数解析部、84…粗さ値推定部、85…出力部、91…訓練データセット取得部、91a…実線粗さ曲線取得部、91b…包絡線算出部、91c…交点算出部、91d…中心軌跡算出部、91e…学習用周波数解析部、92…訓練データセット記憶部、93…モデル生成部、LA…線粗さ近似波形、LB…実線粗さ曲線、LC…中心軌跡線、P1~P7…交点、Q1~Q7…交点、L1~L6…包絡線、C1~C7…円、T…砥石、W…工作物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15