(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】びびり検出システム
(51)【国際特許分類】
B24B 49/16 20060101AFI20240509BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20240509BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B5/04
B23Q17/09 D
B23Q17/09 A
(21)【出願番号】P 2020077074
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐生
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 明
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-174379(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188239(WO,A1)
【文献】特開2015-229216(JP,A)
【文献】特開2002-239900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/16
B24B 5/04
B23Q 17/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置の制御による複数の研削工程を経て砥石が工作物に研削加工を行う研削装置と、
前記研削加工において観測可能な前記砥石の研削抵抗に関する状態データを検出し、検出した前記状態データを出力する検出器と、
前記研削加工において発生するびびりを検出するびびり検出装置と、を備え、
前記びびり検出装置は、
前記研削工程の粗研削工程における粗研削加工及び仕上げ工程における仕上加工の各々について、前記検出器から取得した周波数特性を有する前記状態データを周波数解析することにより複数の周波数成分に分割する周波数解析部と、
周波数解析によって分割された複数の前記周波数成分のうち、前記研削装置の前記砥石の回転数に対応する砥石回転周波数の振幅を前記粗研削加工及び前記仕上加工の各々について抽出する振幅抽出部と、
抽出された前記仕上加工の前記砥石回転周波数の前記振幅の大きさが予め設定された判定値未満である場合に、
前記粗研削加工によって前記工作物の研削加工面に形成された凹凸が、前記仕上加工によって除去されていないため、その後の前記研削加工において、前記びびりが発生すると判定するびびり判定部と、
を備える、びびり検出システム。
【請求項2】
前記状態データは、前記研削装置において前記粗研削加工及び前記仕上加工の各々に伴って前記砥石に生じる前記研削抵抗に対応する駆動電流データである、請求項1に記載のびびり検出システム。
【請求項3】
前記びびり判定部によって前記びびりが発生するとの判定に応じて、前記仕上加工の内容を変更する仕上加工内容変更部を有する、請求項1又は2に記載のびびり検出システム。
【請求項4】
前記仕上加工内容変更部は、
前記仕上加工を実行する回数を増加させる、又は、前記仕上加工を実行する時間を延長する、請求項3に記載のびびり検出システム。
【請求項5】
前記研削装置は、前記砥石及び前記工作物を各々の軸回りに回転させながら前記研削加工を行うものであり、
前記びびり判定部によって前記仕上加工において前記びびりが発生するとの判定に応じて、前記砥石及び前記工作物の少なくとも一方の回転周期を前記砥石及び前記工作物の回転数比が整数倍にならないように変更する周期変更部を備え、
前記仕上加工内容変更部は、前記周期変更部によって前記砥石及び前記工作物の少なくとも一方の前記回転周期を変更した状態で、前記仕上加工の前記内容を変更する、請求項3又は4に記載のびびり検出システム。
【請求項6】
前記びびり検出装置は、
前記粗研削工程であるか否かを判定する研削工程判定部を備え、
前記研削工程判定部によって前記粗研削工程であると判定された場合において、前記砥石の状態を判定する、請求項1-5のうちの何れか一項に記載のびびり検出システム。
【請求項7】
前記びびり検出装置は、前記振幅抽出部が前記粗研削工程において抽出した前記振幅を用いて前記砥石の状態を判定する、請求項6に記載のびびり検出システム。
【請求項8】
前記びびり検出装置は、前記砥石によって前記研削加工された前記工作物の加工数が予め設定された基準加工数以上になった場合に、前記びびりの発生を検出する、請求項1-7のうちの何れか一項に記載のびびり検出システム。
【請求項9】
前記びびり検出装置は、前記研削装置に一体に、又は、別体に設けられる、請求項1-8のうちの何れか一項に記載のびびり検出システム。
【請求項10】
前記仕上加工は、少なくとも、精研削加工、微研削加工及びスパークアウト加工を含む、請求項3-5のうちの何れか一項に記載のびびり検出システム。
【請求項11】
前記検出器が前記制御装置を介して前記状態データを出力する場合、前記状態データは前記制御装置によって前記研削工程を識別する工程情報が付加される、請求項1-10のうちの何れか一項に記載のびびり検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、びびり検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工作物に研削加工を施す場合、工作物の研削加工面における削り残しや、砥石の摩耗等に起因した振動が発生するため、びびりが生じる場合がある。研削加工においてびびりが発生した場合、工作物の表面性状の悪化を引き起こす虞があり、びびりの発生の有無を検出することは極めて重要である。このため、従来から特許文献1及び特許文献2に開示された技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、振動検出機及び周波数分析器により作動中の工作機械の振動を測定し、得られた測定データをデータ処理手段に取り込むと共に、予め設定してあるびびりの判別基準と比較してびびりを検知する技術が開示されている。特許文献2には、周波数分解により得られた特定の周波数における振動レベルを閾値と比較して、振動レベルが閾値よりも大きい場合に砥石が劣化したことを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-174379号公報
【文献】特開2008-290203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、仕上加工において発生するびびりは、例えば、粗研削加工によって形成された凹凸即ち削り残しが生じた場合、その後の仕上加工によって削り残しを除去できないことによって突発的に発生する場合がある。このように、びびりが発生した場合、例えば、オフラインでの検査において、仕上加工された工作物が加工不良になる。従って、びびり(突発的に発生するびびりを含む)を抑制するためには仕上加工によって削り残しを除去することが必要であり、又、びびりを精度よく検出するためには粗研削加工によって生じた削り残しが除去できているか否かに基づくことが重要である。
【0006】
本発明は、研削加工におけるびびりの発生を精度よく検出することができるびびり検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
びびり検出システムは、制御装置の制御による複数の研削工程を経て砥石が工作物に研削加工を行う研削装置と、研削加工において観測可能な砥石の研削抵抗に関する状態データを検出し、検出した状態データを出力する検出器と、研削加工において発生するびびりを検出するびびり検出装置と、を備え、びびり検出装置は、研削工程の粗研削工程における粗研削加工及び仕上げ工程における仕上加工の各々について、検出器から取得した周波数特性を有する状態データを周波数解析することにより複数の周波数成分に分割する周波数解析部と、周波数解析によって分割された複数の周波数成分のうち、研削装置の砥石の回転数に対応する砥石回転周波数の振幅を粗研削加工及び仕上加工の各々について抽出する振幅抽出部と、抽出された仕上加工の砥石回転周波数の振幅の大きさが予め設定された判定値未満である場合に、粗研削加工によって工作物の研削加工面に形成された凹凸が、仕上加工によって除去されていないため、その後の研削加工において、びびりが発生すると判定するびびり判定部と、を備える。
【0008】
これによれば、工作物の研削加工中において、粗研削加工及び仕上加工の各々について検出器によって研削抵抗に関する状態データが検出され、検出された周波数特性を有する状態データから抽出された砥石回転周波数の仕上加工における振幅を用いて、仕上加工におけるびびりの発生を判定することができる。砥石回転周波数の振幅は、研削抵抗の増減、即ち、砥石によって工作物の研削加工面が研削されているか否かを表す。
【0009】
従って、砥石回転周波数の仕上加工における振幅に基づくことにより、仕上加工において、例えば、粗研削加工時の削り残しを除去できたか否かを精度よく判定することができる。これにより、研削加工中、特に、仕上加工中において、削り残しに起因するびびり(突発的に発生するびびりを含む)の発生を精度よく検出することができ、ひいては、加工不良となる工作物を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】びびり検出システムの機能ブロック構成を示す図である。
【
図5】周波数特性を有する状態データの一例を示す図である。
【
図6】
図5の状態データから抽出される特徴量を説明するための図である。
【
図7】粗研削加工において生じる削り残しを説明するための図である。
【
図8】仕上加工において、
図7の削り残しを除去する場合を説明するための図である。
【
図9】突発びびり検出プログラムを示すフローチャートである。
【
図10】砥石状態判定ルーチン(サブルーチン)を示すフローチャートである。
【
図11】第一別例の突発びびり検出プログラムを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.びびり検出システムの適用対象の研削装置)
びびり検出システムは、複数の研削工程を経て研削加工を行う研削装置において発生するびびりを検出する。特に、びびり検出システムは、研削加工中に突発的に発生するびびりを検出することに有効である。研削装置としては、円筒研削盤、カム研削盤、平面研削盤等、種々の構成の研削装置を適用できる。研削装置による研削工程には、粗研削工程と、仕上加工としての精研削工程、微研削工程、スパークアウト工程等が含まれる。
【0012】
(2.びびり検出システム1の構成の概要)
びびり検出システム1の構成の概要について、
図1を参照して説明する。びびり検出システム1は、少なくとも1台の研削装置10と、1つの演算装置20とを備える。研削装置10は、1台を対象としても良いし、
図1に示すように、複数台を対象としても良い。本例では、びびり検出システム1は、複数台の研削装置10を備える場合を例に挙げる。
【0013】
研削装置10は、少なくとも、工作物Wの研削加工中において観測可能な状態データを検出する検出器13を備える。演算装置20は、検出器13により検出された状態データに基づいて、突発的なびびりの発生を検出すると共に、びびりを引き起こす研削加工面の凹凸を生じさせる虞のある砥石Tの状態を判定する。
【0014】
(3.びびり検出システム1の構成の詳細)
びびり検出システム1の構成について、
図1を参照して、より詳細に説明する。びびり検出システム1は、複数台の研削装置10と、各々の研削装置10に一対一で設けられた複数台の演算装置20を備える。本例において、演算装置20は、研削加工において突発的にびびりが発生することを検出するびびり検出装置20として構成される。
【0015】
それぞれの研削装置10は、砥石Tを用いて工作物Wの研削加工を行う研削盤11と、研削盤11を制御する制御装置12と、検出器13と、インターフェース14とを主に備える。制御装置12は、CNC装置及びPLC装置等を含み、研削盤11における駆動装置等を制御する。インターフェース14は、研削盤11、制御装置12、検出器13と、外部と通信可能とする機器である。尚、外部には、各々の研削装置10によって研削された工作物Wの研削加工面の表面粗さや検出器13によって検出された状態データ等を記憶するサーバ等が含まれる。
【0016】
検出器13は、工作物Wの研削加工中に研削盤11において観測可能な砥石Tの研削抵抗(換言すれば、削り残し)に関連する状態データを検出する。具体的に、検出器13は、研削抵抗(加工負荷)や駆動装置の駆動負荷等を状態データとして検出する。検出器13は、例えば、砥石Tと工作物Wとの相対的な位置(又は距離)データを検出する変位センサ、駆動装置としてのモータの駆動電流データを検出する電流センサ、モータのトルクデータを検出するトルクセンサ等である。即ち、検出器13が検出する状態データは、研削抵抗(削り残し)に応じて変化する、例えば、位置(変位)データ、駆動電流データ、トルクデータ、振動データ(加速度データ)等である。
【0017】
びびり検出装置20は、プロセッサ21、記憶装置22、インターフェース23等を備えて構成される。びびり検出装置20は、それぞれの研削装置10に近接した位置にて一体に配置されており、所謂、エッジコンピュータとして機能する。尚、びびり検出装置20と研削装置10と別体に設けることも可能である。
【0018】
びびり検出装置20は、工作物Wの研削加工中に検出器13によって検出された状態データに基づいて、研削装置10による工作物Wの研削加工において発生するびびりを検出する。そして、びびり検出装置20は、びびりの発生を検出した場合、仕上加工において工作物Wの研削加工面に存在する凹凸即ち削り残しを除去するために、仕上加工の内容を変更する。
【0019】
びびり検出システム1は、複数の個別表示装置30を備える。但し、びびり検出システム1は、個別表示装置30を備えない構成としても良い。個別表示装置30は、研削装置10のそれぞれに対応して配置される。
【0020】
(4.研削盤11の例)
本例の研削盤11として、
図2に示すように、砥石台トラバース型の円筒研削盤40を例に挙げる。尚、研削盤11は、テーブルトラバース型を用いることもできる。
【0021】
円筒研削盤40は、工作物Wを研削するための機械である。円筒研削盤40は、主として、ベッド41、主軸台42、心押台43、トラバースベース44、砥石台45、砥石車46(砥石T)、定寸装置47、砥石車修正装置48、及び、クーラント装置49を備える。
【0022】
ベッド41は、設置面上に固定されている。主軸台42は、ベッド41の上面において、X軸方向の手前側(
図2の下側)且つZ軸方向の一端側(
図2の左側)に設けられている。主軸台42は、工作物WをZ軸回りに回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台42に設けられたモータ42aの駆動により回転される。心押台43は、ベッド41の上面において、主軸台42に対してZ軸方向に対向する位置、即ち、X軸方向の手前側(
図2の下側)且つZ軸方向の他端側(
図2の右側)に設けられている。これにより、工作物Wは、主軸台42及び心押台43によって回転可能に両端支持される。
【0023】
トラバースベース44は、ベッド41の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース44は、ベッド41に設けられたモータ44aの駆動により移動する。砥石台45は、トラバースベース44の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台45は、トラバースベース44に設けられたモータ45aの駆動により移動する。砥石車46は、砥石台45に回転可能に支持されている。砥石車46は、砥石台45に設けられたモータ46aの駆動により回転する。砥石車46は、複数の砥粒をボンド材により固定されて構成されている。
【0024】
定寸装置47は、工作物Wの寸法(径)を測定する。砥石車修正装置48は、砥石車46の形状を修正する。即ち、砥石車修正装置48は、砥石車46のツルーイングを行う装置である。砥石車修正装置48は、ツルーイングに加えて又は代えて、砥石車46のドレッシングを行う装置としても良い。
【0025】
ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車46が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車46を成形する作業、偏摩耗による砥石車46の振れを取り除く作業である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。
【0026】
クーラント装置49は、砥石車46による工作物Wの研削点にクーラントを供給する。クーラント装置49は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。
【0027】
円筒研削盤40に設けられる制御装置12は、工作物Wの形状、加工条件、砥石車46の形状、クーラントの供給タイミング情報等の作動指令データに基づいて生成されたNCプログラムに基づいて、各駆動装置を制御する。即ち、制御装置12は、動作指令データを入力し、動作指令データに基づいてNCプログラムを生成する。
【0028】
そして、制御装置12は、NCプログラムに基づいて各モータ42a,44a,45a,46a及びクーラント装置49等を制御することにより、工作物Wの研削加工を行う。そして、制御装置12は、定寸装置47により測定される工作物Wの径に基づいて、工作物Wが仕上げ形状となるまで研削加工を行う。又、制御装置12は、砥石車46を修正するタイミングにおいて、各モータ42a,44a,45a,46a、及び、砥石車修正装置48等を制御することにより、砥石車46の修正(ツルーイング及びドレッシング)を行う。
【0029】
又、制御装置12は、検出器13から時系列的に(連続的に)出力される状態データをびびり検出装置20に出力する。又、制御装置12は、動作指令データに従って生成されたNCプログラムに基づいて時系列的に出力される現在の研削工程、即ち、粗研削工程、精研削工程、微研削工程、及び、スパークアウト工程を識別する工程情報を状態データに紐付けして付加する。
【0030】
ここで、研削工程について、砥石送り速度は、粗研削工程が最も大きく、工作物Wの表面形状を整える仕上げ加工においては精研削工程、微研削工程、スパークアウト工程の順で小さくなる。又、研削工程について、切込量は、粗研削工程が最も大きく、精研削工程、微研削工程、スパークアウト工程の順で小さくなる。尚、スパークアウト工程においては、切込量がゼロに設定される。
【0031】
尚、円筒研削盤40の制御装置12には、カウンタが含まれている。カウンタは、円筒研削盤40が研削加工した工作物Wの加工数をカウントする。制御装置12のカウンタは、砥石車修正装置48が砥石車46をツルーイング又はドレッシングしたときからの工作物Wの加工数をカウントすることができる。尚、カウンタは、制御装置12の他に、例えば、検出器13自身が備えるようにしたり、別途外部に設けた装置が備えるようにしたりすることもできる。
【0032】
(5.びびり検出システム1の機能ブロック構成)
びびり検出システム1の機能ブロックについて、
図3を参照して説明する。びびり検出システム1は、制御装置12、検出器13、びびり検出装置20、表示装置30を備える。
【0033】
検出器13は、上述したように、工作物Wの研削加工中に円筒研削盤40において観測可能な研削抵抗に関する状態データとして、本例においては、研削抵抗と高い相関性を有する駆動電流データを出力する。駆動電流データは、例えば、研削工程、即ち、粗研削工程、精研削工程、微研削工程及びスパークアウト工程毎について、1個の工作物Wにおける加工開始から加工終了までに検出されて出力される。ここで、駆動電流データは、円筒研削盤40が研削加工しているときに検出されるものであり、円筒研削盤40の作動に伴う複数の周波数成分を有する、即ち、周波数特性を有する状態データである。
【0034】
びびり検出装置20は、対応する円筒研削盤40において、検出器13から取得した周波数特性を有する状態データを周波数解析し、解析結果により得られる複数の周波数成分のうち特徴量として特定周波数の振幅の大きさに基づいてびびりの発生を検出する。びびり検出装置20は、
図3に示すように、状態データ取得部51、研削工程判定部52、特徴量抽出部53、びびり判定部54、周期変更部55、スパークアウト実行制御部56、出力部57を備える。
【0035】
状態データ取得部51は、工作物Wの加工中において、検出器13により検出された状態データを、制御装置12を介して時系列的に取得する。本例において、状態データ取得部51は、状態データとして、削り残しに応じて変化する研削抵抗と相関性の高い駆動電流データを取得する。
【0036】
ここで、仕上加工において、砥石車46が工作物Wの研削加工面に存在する削り残し(凸部)を除去する場合、砥石車46が削り残し(凸部)に接触すると研削抵抗が大きくなる。換言すれば、砥石車46が削り残し(凸部)を除去するためには、研削抵抗に抗して砥石車46を回転させる必要があり、その結果、駆動電流が研削抵抗に応じて増加する。
【0037】
即ち、
図4にて太破線により示すように、例えば、砥石車46及び工作物Wの回転数比が整数倍である場合には、削り残し(凸部)を除去しないため、研削抵抗即ち駆動電流の時間変化は生じない。一方、
図4にて太実線により示すように、例えば、砥石車46及び工作物Wの回転数比が整数倍ではない場合には、削り残し(凸部)を除去するため、研削抵抗即ち駆動電流の時間変化が生じる。従って、駆動電流と研削抵抗とは強い相関を有しているため、状態データとして容易に観測可能な駆動電流データを用いることにより、観測が困難な研削抵抗の変化を観測することができる。
【0038】
研削工程判定部52は、状態データ取得部51が制御装置12から時系列的に(連続的に)取得している状態データ(駆動電流データ)に紐付けされた工程情報に基づき、現在の研削工程を判定する。研削工程判定部52は、研削工程が粗研削工程であるか、仕上工程、即ち、精研削工程、微研削工程、及び、スパーク工程であるかを判定する。
【0039】
特徴量抽出部53は、状態データ取得部51によって取得された状態データについて、研削抵抗に関する特徴量を抽出する。特徴量抽出部53は、
図3に示すように、周波数解析部53aと振幅抽出部53bとを備える。
【0040】
周波数解析部53aは、
図5に示すように、周波数特性を有する駆動電流データについて、周波数解析、具体的には、FFT(高速フーリエ変換)を行う。そして、周波数解析部53aは、駆動電流データの周波数解析(FFT)を行うことにより、
図6に示すように、分割した複数の周波数成分についての振幅を抽出する。
【0041】
振幅抽出部53bは、
図6に示すように、周波数解析部53aによって分割されて抽出された複数の周波数成分の振幅のうち、特定周波数の振幅を特徴量として抽出する。上述したように、特に、粗研削工程を経て工作物Wの研削加工面に生じる削り残しに伴う凹凸は、主に、円筒研削盤40の砥石車46の回転により生じる。即ち、研削加工面に存在する削り残しは、砥石車46の回転数に対応して形成される。
【0042】
従って、仕上加工において、削り残しを除去するために必要な駆動電流データは、砥石車46の回転周波数成分を有する。このため、振幅抽出部53bは、駆動電流データの複数の周波数成分のうち、
図6に示すように、特定周波数として砥石車46の回転数に対応する砥石回転周波数Fについての振幅Aを特徴量として抽出する。
【0043】
図3に戻り、びびり判定部54は、特徴量抽出部53の振幅抽出部53bによって抽出された振幅Aの大きさと、予め設定された判定値Dの大きさとを比較する。そして、びびり判定部54は、振幅Aの大きさが判定値D以上の場合には、削り残しが研削されているため、突発的にびびりが発生しないと判定する。一方、びびり判定部54は、振幅Aの大きさが判定値D未満の場合には、削り残しが研削されていないため、突発的にびびりが発生すると判定する。
【0044】
周期変更部55は、仕上加工(精研削加工、微研削加工及びスパークアウト加工)における円筒研削盤40の砥石車46及び工作物Wの回転数比が整数倍ではない回転数比になるように、回転周期を変更する。以下、具体的に説明する。
【0045】
工作物Wを研削する場合、一般に、粗研削工程において粗研削加工が行われる。この場合、円筒研削盤40においては、制御装置12が、回転する砥石車46の送り速度及び切込量を大きく設定し、工作物Wの研削加工面を研削する。
【0046】
このため、砥石車46の表面形状は、砥石車46の回転周期、即ち、回転数毎に転写されて、工作物Wの研削加工面に現れる。例えば、砥石車46の表面に大きく突き出した砥粒が存在する場合には、工作物Wの研削加工面に砥粒と当接する箇所が大きく削り取られた凹部が形成される。或いは、砥石車46の表面に窪んだ砥粒が存在する場合には、工作物Wの研削加工面に砥粒と当接する箇所に削り残された凸部が形成される。
【0047】
この場合、
図7に示すように、例えば、工作物Wに形成された凸部即ち削り残しは、砥石車46が1回転する毎に工作物Wの回転方向に等間隔で形成され、工作物Wの周方向における凸部の間隔は、砥石車46の回転周期(回転数毎)に一致する。ところで、このように粗研削加工にて生じた削り残し(凸部)は、通常、その後の仕上加工(精研削加工、微研削加工及びスパークアウト加工)を経ることにより研削されて除去される。
【0048】
しかしながら、仕上加工(精研削加工、微研削加工及びスパークアウト加工)において、回転する砥石車46及び工作物Wの回転数比が整数倍である場合、仕上工程及び粗研削工程の砥石車46の研削加工面に対する軌跡が同一になる。その結果、仕上工程において、研削加工面に存在する削り残し(凸部)を研削できなくなる。
【0049】
そこで、仕上加工において削り残し(凸部)を除去する場合、周期変更部55は、粗研削工程にて形成された削り残し(凸部)及び凹部の位相(即ち、砥石車46の回転周期)に対して、例えば、半周期(180度)だけ位相をずらす。この場合、周期変更部55は、砥石車46及び工作物Wの回転数比を整数倍ではないように変更する。これにより、
図8に示すように、仕上工程において砥石車46が削り残し(凸部)に接触することができ、削り残し(凸部)を除去することができる。その結果、仕上加工(スパークアウト加工)において突発的なびびりが発生することを抑制することができる。
【0050】
尚、本例の研削装置10即ち円筒研削盤40の場合には、通常、砥石車46及び工作物Wの回転数比が整数倍にならないように設定しているが、砥石車46及び工作物Wの回転数比が時間の経過とともに偶然に整数倍になる場合がある。従って、この場合には、上述した制御が有効である。
【0051】
一方、研削装置10がカム研削盤である場合には、工作物Wは複雑な形状を有する。この場合は、工作物Wの回転数の急加減速に伴って砥石T及び工作物Wの回転数比が偶然に整数倍になる場合がある。従って、砥石T及び工作物Wの少なくとも一方、好ましくは、工作物Wの回転周期を変更し、回転数比を整数倍からずらすことにより、削り残しを除去することができる。
【0052】
スパークアウト実行制御部56は、びびり判定部54によって振幅Aの大きさが判定値D未満、即ち、びびりの発生が判定された場合、スパークアウト加工の内容を変更して実行する。即ち、びびりが発生する状況は、未だ、研削加工面に存在する削り残しの凹凸によって引き起こされる可能性が高いため、通常行うスパークアウト加工の内容を変更したスパークアウト加工を行い、研削加工面の凹凸を除去して表面性状を整える必要がある。
【0053】
従って、スパークアウト実行制御部56は、びびりの発生が判定されると、即ち、研削加工面の表面性状が良好ではないと判定されると、スパークアウト加工の内容について、スパークアウト加工を行う時間を延長したり、スパークアウト加工を行う回数を増やしたりして、変更して実行する。ここで、スパークアウト実行制御部56は、制御装置12に対して、通常のスパークアウト加工を実行する場合の要求指令と、変更したスパークアウト加工を実行する場合の変更要求指令を出力する。
【0054】
出力部57は、スパークアウト実行制御部56による要求指令又は変更要求指令を制御装置12に出力すると共に、後述するように、粗研削工程での砥石回転周波数Fにおける振幅Aに基づいて砥石車46の摩耗状態や交換要否等を表示装置30に出力する。これにより、制御装置12は、出力された要求指令又は変更要求指令を入力することにより、円筒研削盤40において通常の又は変更したスパークアウト加工を実行する。一方、表示装置30は、円筒研削盤40の砥石車46のツルーイング又はドレッシングが必要であることを作業者に報知する。
【0055】
(6.突発びびり検出プログラム(研削加工方法))
次に、本例の研削加工方法について、
図9及び
図10のフローチャートを参照して説明する。例えば、ツルーイングを行った砥石車46を用いて研削加工を連続して行う場合、工作物Wの加工数が少ない場合には砥石車46の状態が良好であり削り残しが少なく、工作物Wの加工数が増える程、砥石車46の状態が悪化して削り残しが多くなる傾向を有する。このため、びびり検出装置20(より詳しくはプロセッサ21)は、突発びびり検出プログラムをステップS10にて実行を開始する。
【0056】
びびり検出装置20は、ステップS11において、砥石車46の状態を表す変数Qの値が「0」であるか否かを判定する。即ち、びびり検出装置20は、後述するステップS19のステップ処理(砥石状態判定ルーチン)を実行することにより変数Qの値が、砥石車46の状態が良好であることを表す「1」であれば、「No」と判定し、突発びびりを検出することなくステップS20にて突発びびり検出プログラムの実行を終了する。
【0057】
一方、後述するステップS19のステップ処理(砥石状態判定ルーチン)を実行することにより変数Qの値が、砥石車46の状態が悪化していることを表す「0」であれば、突発びびりを検出する必要がある。このため、びびり検出装置20は、「Yes」と判定し、ステップS12のステップ処理を実行する。尚、本例においては、変数Qの値は、初期値として「0」に設定されている。
【0058】
ステップS12においては、びびり検出装置20の状態データ取得部51は、制御装置12を介して、検出器13によって検出された研削抵抗に関する状態データである駆動電流データを取得する。そして、びびり検出装置20は、駆動電流データを取得すると、ステップS13のステップ処理を実行する。
【0059】
ステップS13においては、びびり検出装置20の研削工程判定部52は、前記ステップS12にて取得された駆動電流データに紐付けされた工程情報に基づき、取得した駆動電流データが仕上工程における仕上加工時の駆動電流データであるか否かを判定する。即ち、研削工程判定部52は、状態データ取得部51によって取得された駆動電流データが仕上加工(精研削加工、微研削加工、及び、スパークアウト加工)において検出されていれば、「Yes」と判定する。そして、びびり検出装置20は、ステップS14のステップ処理を実行する。
【0060】
一方、研削工程判定部52は、取得された駆動電流データが仕上加工以外、即ち、粗研削加工において検出されていれば、「No」と判定する。そして、びびり検出装置20は、ステップS19にて砥石状態判定ルーチンを実行する。尚、砥石状態判定ルーチンについては、後に詳述する。
【0061】
ステップS14において、びびり検出装置20の特徴量抽出部53は、仕上加工時の駆動電流データを周波数解析することによって仕上加工時の振幅を抽出する。即ち、周波数解析部53aは、研削工程判定部52から取得した、仕上工程即ち仕上加工時の駆動電流データについて、周波数解析(FFT)を行う。これにより、周波数解析部53aは、駆動電流データに含まれる複数の周波数成分についての振幅を抽出する(
図6を参照)。
【0062】
そして、振幅抽出部53bは、周波数解析部53aによって複数の周波数成分の振幅が抽出されると、特定周波数である砥石回転周波数Fの仕上加工時における振幅A2を抽出する(
図6を参照)。このように、砥石回転周波数Fの仕上加工時における振幅A2を抽出すると、びびり検出装置20は、ステップS15のステップ処理を実行する。
【0063】
ステップS15においては、びびり検出装置20のびびり判定部54は、前記ステップS14にて抽出された砥石回転周波数Fの仕上加工時における振幅A2の大きさが予め設定された判定値D2以上である否かを判定する。ここで、判定値D2は、仕上加工、特に、微研削加工及びスパークアウト加工において、粗研削加工において生じた削り残しを除去する場合に実験的に又は経験的に得られる値に基づいて設定されるものである。尚、本例においては、びびり判定部54は、仕上加工のうち、微研削加工における砥石回転周波数Fの振幅A2と判定値D2とを比較する場合を例示する。
【0064】
上述したように、振幅A2の大きさは、駆動電流データに含まれる複数の周波数成分のうちの砥石回転周波数Fにおける振幅であり、換言すれば、回転する砥石車46に作用する研削抵抗の大きさを表す。従って、振幅A2の大きさが判定値D2以上である場合は、微研削加工によって、粗研削加工の削り残しが除去できていることに相当する。一方、振幅A2の大きさが判定値D2未満である場合は、微研削加工によって、粗研削加工の削り残しが除去できていないことに相当する。そして、微研削加工までに粗研削加工の削り残しが除去できない場合には、例えば、スパークアウト加工において削り残しに起因して突発的なびびりが発生する可能性がある。
【0065】
従って、びびり判定部54は、抽出された微研削加工の振幅A2の大きさが判定値D2以上であれば、ステップS15にて「Yes」と判定する。即ち、この場合には、微研削加工までの仕上加工によって粗研削加工の削り残しが除去されており、突発的なびびりが発生しない(発生する可能性が低い)ため、びびり検出装置20は、ステップS16のステップ処理を実行する。
【0066】
ステップS16においては、びびり検出装置20のスパークアウト実行制御部56は、予め設定された内容の通常のスパークアウト加工(以下、「通常スパークアウト加工)と称呼する。)を工作物Wの研削加工面に対して実行する。即ち、この場合には、既に、研削加工面の削り残しが除去されているため、スパークアウト実行制御部56は、予め設定された加工時間だけ通常スパークアウト加工を行う。従って、スパークアウト実行制御部56は、制御装置12に対し、通常スパークアウト加工を実行することを要求する要求指令を、出力部57を介して出力する。
【0067】
びびり検出装置20は、ステップS16にて通常スパークアウト加工を実行すると、ステップS20にて、びびり検出プログラムの実行を終了する。そして、びびり検出装置20は、連続加工において次の工作物Wが研削加工される際に、再び、ステップS10にてびびり検出プログラムの実行を開始する。
【0068】
一方、前記ステップS15にて、微研削加工の振幅A2の大きさが判定値D2未満であれば、びびり判定部54は、「No」と判定する。即ち、この場合には、微研削加工までの仕上加工によって粗研削加工の削り残しが除去されていない可能性があり、突発的なびびりが発生するため、びびり検出装置20は、ステップS17のステップ処理を実行する。
【0069】
ステップS17においては、びびり検出装置20の周期変更部55は、砥石車46の回転周期を、例えば、半周期(180度)だけ、砥石車46及び工作物Wの回転数比が整数倍とならないように変更する。これにより、スパークアウト加工において、砥石車46が粗研削加工の削り残しを除去し易くなる。そして、びびり検出装置20は、ステップS17にて砥石車46の回転周期を砥石車46及び工作物Wの回転数比が整数倍にならないように変更すると、ステップS18のステップ処理を実行する。
【0070】
ステップS18においては、びびり検出装置20のスパークアウト実行制御部56は、通常スパークアウト加工における加工時間に比べて、加工時間を延長した変更スパークアウト加工を工作物Wの研削加工面に対して実行する。即ち、この場合には、未だ研削加工面に削り残しが存在しているため、スパークアウト実行制御部56は、粗研削加工、精研削加工、微研削加工における砥石車46の回転周期に比べて半周期だけ異なる回転周期で、加工時間を延長する変更スパークアウト加工を行う。従って、スパークアウト実行制御部56は、制御装置12に対し、変更スパークアウト加工を実行することを要求する変更要求指令を、出力部57を介して出力する。尚、研削装置10がカム研削盤である場合には、スパークアウト加工における加工時間を延長する変更スパークアウト加工、又は、スパークアウト加工の回数を増加させる変更スパークアウト加工を行う。
【0071】
びびり検出装置20は、ステップS18にて変更スパークアウト加工を実行すると、ステップS20にて、びびり検出プログラムの実行を終了する。そして、びびり検出装置20は、連続加工において次の工作物Wが研削加工される際に、再び、ステップS10にてびびり検出プログラムの実行を開始する。
【0072】
(6-1.砥石状態判定ルーチン)
びびり検出装置20は、上述した突発びびり検出プログラムの前記ステップS13における「No」判定に従い、
図10に示す砥石状態判定ルーチン(サブルーチン)を実行する。尚、砥石状態判定ルーチンの実行に際しては、突発びびり検出プログラムにおける前記ステップS12のステップ処理が実行されている。これにより、びびり検出装置20は、粗研削工程における粗研削加工の研削抵抗、即ち、粗研削加工において検出された状態データである駆動電流データを取得している。
【0073】
びびり検出装置20は、ステップS19にて砥石状態判定ルーチンの実行を開始し、ステップS31にて、特徴量抽出部53は粗研削加工において検出された駆動電流データを周波数解析することによって粗研削加工における振幅を抽出する。ここで、駆動電流データの周波数解析によって振幅を抽出する点は、上述した突発びびり検出プログラムの前記ステップS14のステップ処理と同様に実行することができる。
【0074】
即ち、周波数解析部53aは、研削工程判定部52から取得した、粗研削工程即ち粗研削加工時の駆動電流データについて、周波数解析(FFT)を行う。これにより、周波数解析部53aは、駆動電流データに含まれる複数の周波数成分についての振幅を抽出する(
図6を参照)。周波数解析部53aによって複数の周波数成分の振幅が抽出されると、振幅抽出部53bは、特定周波数である砥石回転周波数Fの粗研削加工時の振幅A1を特徴量として抽出する(
図6を参照)。砥石回転周波数Fの粗研削加工時の振幅A1を抽出すると、びびり検出装置20は、ステップS32のステップ処理を実行する。
【0075】
ステップS32においては、びびり検出装置20は、前記ステップS31にて抽出された砥石回転周波数Fの粗研削加工における振幅A1の大きさが予め設定された判定値D1以上である否かを判定する。ここで、判定値D1は、砥石車46の状態の悪化を判定するために実験的に又は経験的に得られる値に基づいて設定されるものである。
【0076】
びびり検出装置20は、粗研削加工における振幅A1の大きさが判定値D1以上であれば、突発的なびびりを生じさせる程度まで砥石車46の状態が悪化しているため、「Yes」と判定してステップS34のステップ処理を実行する。一方、粗研削加工における振幅A1の大きさが判定値D1未満であれば、砥石車46の状態が良好であるため、「No」と判定してステップS33のステップ処理を実行する。
【0077】
ステップS33においては、びびり検出装置20は、突発びびり検出プログラムにおける前記ステップS11にて判定処理される変数Qの値として、初期設定されていた「0」を「1」に変更する。そして、びびり検出装置20は、ステップS36にて、砥石状態判定ルーチン(サブルーチン)の実行を終了すると共に、突発びびり検出プログラムに戻り、前記ステップS11以降の各ステップ処理を実行する。
【0078】
尚、この場合には、変数Qの値が「1」に設定されるため、突発びびり検出プログラムにおける前記ステップS11にて「No」と判定される。即ち、変数Qの値が「1」に設定される場合は、砥石車46の状態が良好である場合であり、突発びびり検出プログラムの前記ステップS11における「No」判定に従い、突発びびり検出プログラムを実行しない。このため、円筒研削盤40は、通常の研削加工を行う。
【0079】
ステップS34においては、びびり検出装置20は、前記ステップS31にて抽出した粗研削加工時の振幅A1の大きさが予め設定された管理値K未満であるか否かを判定する。ここで、管理値Kは、砥石車46のツルーイング又はドレッシングの要否を管理するために予め設定される値であり、判定値D1よりも大きな値に設定される。そして、びびり検出装置20は、抽出した振幅A1の大きさが管理値K未満であれば、突発びびりを検出する必要があるため、ステップS34にて「Yes」と判定する。そして、びびり検出装置20は、ステップS36にて砥石状態判定ルーチン(サブルーチン)の実行を終了すると共に、突発びびり検出プログラムに戻り、前記ステップS11以降の各ステップ処理を実行する。
【0080】
一方、びびり検出装置20は、抽出した振幅A1の大きさが管理値K以上であれば、「No」と判定してステップS35のステップ処理を実行する。振幅A1の大きさが管理値K以上の場合、粗研削加工における駆動電流データが大きい、換言すれば、研削抵抗が大きい状態に相当する。これにより、砥石車46によって粗研削加工された研削加工面の表面性状が悪化する可能性が高いため、砥石車46のツルーイング又はドレッシングが必要であると判断することができる。
【0081】
従って、びびり検出装置20は、ステップS35において、出力部57を介して砥石車46のツルーイング又はドレッシングが必要であることを表す情報を表示装置30に出力する。これにより、表示装置30は、例えば、作業者に対して、適切なタイミングにより砥石車46のツルーイング又はドレッシングが必要であることを報知する。従って、作業者が報知に従ってツルーイング又はドレッシングを行うことにより、無駄なツルーイング又はドレッシングの実行を抑制することができる。その結果、砥石車46のメンテナンスに要するコストを低減することができ、ひいては、工作物Wの製造コストを低減することもできる。
【0082】
びびり検出装置20は、ステップS36にて砥石状態判定ルーチン(サブルーチン)の実行を終了する。そして、びびり検出装置20は、突発びびり検出プログラムに戻り、前記ステップS11以降の各ステップ処理を実行する。
【0083】
以上の説明からも理解できるように、本例のびびり検出システム1によれば、工作物Wの研削加工中において、検出器13によって研削抵抗に関する状態データとしての駆動電流データが検出される。そして、びびり検出装置20は、連続的に検出された周波数特性を有する駆動電流データから抽出された研削抵抗に関する特徴量、即ち、駆動電流データが有する砥石回転周波数Fの粗研削加工における振幅A1を用いて、砥石車46の状態を判定することができる。又、びびり検出装置20は、仕上加工における振幅A2を用いて、仕上加工、特に、スパークアウト加工におけるびびりの発生を判定することができる。
【0084】
特徴量である振幅A1及び振幅A2は、研削抵抗の増減、即ち、砥石車46によって工作物Wの研削加工面が研削されているか否かを表す。従って、びびり検出装置20は、特に、仕上加工における振幅A2に基づくことにより、仕上加工において、粗研削加工時の削り残しを除去できたか否かを精度よく判定することができる。これにより、びびり検出装置20は、研削加工中、特に、仕上加工中において、削り残しに起因するびびり(突発的に発生するびびりを含む)の発生を精度よく検出することができ、ひいては、加工不良となる工作物Wを低減することができる。
【0085】
(7.第一別例)
上述した本例においては、びびり検出装置20は、
図9に示す突発びびり検出プログラムを実行するようにした。ところで、例えば、ツルーイングを行った砥石車46を用いて研削加工を連続して行う場合、工作物Wの加工数が少ない場合には削り残しが少なく、工作物Wの加工数が増える程、削り残しが多くなる傾向を有する。この場合、例えば、工作物Wの加工数が少ない状況においては、砥石状態判定を省略しても良く、
図11に示すように、突発びびり検出プログラムを変更することも可能である。
【0086】
第一別例における突発びびり検出プログラムは、
図11に示すように、
図9に示した本例の突発びびり検出プログラムに比べて、前記ステップS10と前記ステップS11との間にステップS21が追加される点で異なる。即ち、びびり検出装置20は、ステップS10にて突発びびり検出プログラムの実行を開始すると、ステップS21にて制御装置12から工作物Wの加工数を表すカウント値Nを取得する。
【0087】
そして、びびり検出装置20は、ステップS21にて、取得したカウント値Nが予め設定された工作物Wの加工数を表す基準加工数N1以上であるか否かを判定する。尚、基準加工数N1は、実験的に又は経験的に粗研削加工において削り残しが発生することが把握される加工数であって、砥石車46のツルーイングを実行する間隔(ツルーイングインターバル)において工作物Wを加工する加工数よりも小さい値に設定される。
【0088】
びびり検出装置20は、カウント値Nが基準加工数N1以上の場合には、研削加工面に削り残しが発生する可能性が高い、即ち、突発的にびびりが発生する可能性が高いため、ステップS21にて「Yes」と判定する。そして、びびり検出装置20は、上述した本例と同様に、前記ステップS11以降のステップ処理を実行する。
【0089】
一方、びびり検出装置20は、カウント値Nが基準加工数N1未満の場合には、砥石車46の状態として悪化が進んでおらず、研削加工面に削り残しが発生する可能性が低い、即ち、突発的にびびりが発生する可能性が低いため、ステップS21にて「No」と判定する。そして、びびり検出装置20は、前記ステップS20にて、突発びびり検出プログラムの実行を終了する。この場合には、通常の研削加工が行われる。
【0090】
(8.その他)
上述した本例及び第一別例においては、仕上加工内容変更部であるスパークアウト実行制御部56が、スパークアウト加工の内容である加工時間を延長するように変更した変更スパークアウト加工を実行するようにした。これに代えて、スパークアウト実行制御部56は、スパークアウト加工の内容である、例えば、通常スパークアウトを実行する回数を増加させて変更するようにすることも可能である。
【0091】
又、上述した本例及び第一別例においては、仕上加工内容変更部がスパークアウト実行制御部56であるとし、仕上加工のうちのスパークアウト加工の内容を変更するようにした。しかし、仕上加工内容変更部は、仕上加工である精研削加工又は微研削加工の内容を変更することも可能である。
【0092】
更に、上述した本例及び第一別例においては、びびり検出装置20の状態データ取得部51は、状態データとして、駆動電流データを取得するようにした。これに代えて、研削抵抗と相関を有するデータであれば、駆動電流データに限定されず、例えば、変位データや、トルクデータ、振動データ(加速度データ)を状態データとして取得することも可能である。又、研削抵抗と相関を有するデータに代えて、直接的に研削抵抗を表す研削抵抗データを取得することも可能である。これら各データも周波数特性を有し、砥石回転周波数Fの粗研削加工における振幅A1及び仕上加工における振幅A2を特徴量として抽出することが可能である。従って、この場合も、上述した本例及び第一別例と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0093】
1…びびり検出システム、10…研削装置、11…研削盤、12…制御装置、13…検出器、14…インターフェース、20…びびり検出装置、21…プロセッサ、22…記憶装置、23…インターフェース、30…個別表示装置、40…円筒研削盤、41…ベッド、42…主軸台、42a…モータ、43…心押台、44…トラバースベース、44a…モータ、45…砥石台、45a…モータ、46…砥石車、46a…モータ、47…定寸装置、48…砥石車修正装置、49…クーラント装置、51…状態データ取得部、52…研削工程判定部、53…特徴量抽出部、53a…周波数解析部、53b…振幅抽出部、54…びびり判定部、55…周期変更部、56…スパークアウト実行制御部(仕上加工内容変更部)、57…出力部、A1,A2…振幅(特徴量)、F…砥石回転周波数(特定回転周波数)、D1,D2…判定値、K…管理値、Q…変数、N…カウント値(加工数)、N1…基準加工数、T…砥石、W…工作物