IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許-電磁弁の制御装置 図1
  • 特許-電磁弁の制御装置 図2
  • 特許-電磁弁の制御装置 図3
  • 特許-電磁弁の制御装置 図4
  • 特許-電磁弁の制御装置 図5
  • 特許-電磁弁の制御装置 図6
  • 特許-電磁弁の制御装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】電磁弁の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
F16K31/06 310A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020081261
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021175911
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城丸 友宏
(72)【発明者】
【氏名】藤田 かおり
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-300581(JP,A)
【文献】特開平1-216179(JP,A)
【文献】特開平2-304284(JP,A)
【文献】特開平1-199079(JP,A)
【文献】特開平9-14486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06-31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルを有する電磁ソレノイドと、複数のポートを有する筒状のスリーブと、前記電磁ソレノイドによって前記スリーブ内で移動する弁体と備え、前記スリーブに対する前記弁体の動きによって前記複数のポート間の作動油の流路が断続される電磁弁を制御する制御装置であって、
前記電磁コイルに供給する電流を制御する電流制御手段と、前記作動油の温度に応じて前記電流のディザ振幅を調節するディザ振幅調節手段とを備え、
前記ディザ振幅調節手段は、前記作動油の温度に対応して設定される上限値と下限値との間に前記電流のディザ振幅を調節する、
電磁弁の制御装置。
【請求項2】
前記ディザ振幅調節手段は、前記電流制御手段の制御ゲインを変えることにより前記電流のディザ振幅を調節する、
請求項1に記載の電磁弁の制御装置。
【請求項3】
前記ディザ振幅調節手段は、前記電磁コイルを含む負荷インピーダンスを変えることにより前記電流のディザ振幅を調節する、
請求項1に記載の電磁弁の制御装置。
【請求項4】
前記上限値及び前記下限値は、前記作動油の温度が0℃以下である場合の値が、前記作動油の温度が40℃以上である場合の2倍以上である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電磁弁の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁弁の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁コイルを有する電磁ソレノイドと、複数のポートを有する筒状のスリーブと、スリーブ内で移動する弁体とを備えた電磁弁が、例えば自動車のトランスミッションを動作させるために用いられている。このような電磁弁は、制御装置から供給される電流によって電磁コイルに発生する磁力により、電磁ソレノイドが作動して弁体がスリーブ内で移動する。制御装置は、電磁コイルに供給する電流にディザ振幅を付与することで弁体を微振動させ、弁体の静摩擦に起因するヒステリシス特性の発現を抑制している。
【0003】
特許文献1に記載の制御装置は、n周期分(nは、2以上の整数)のPWM信号によって1周期分のディザ波を生成する第1モードと、m周期分(mは、nよりも小さな整数)のPWM信号によって1周期分のディザ波を生成する第2モードとを、予め設定された切替条件に基づいて切り替えて実行する。この切替条件としては、電磁コイルに供給する電流の目標値である指示電流値、又はPWM制御のデューティー比が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-162852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、作動油は、油温が低下すると粘性が高くなり、弁体がスリーブに対して動きにくくなるため、電磁コイルに供給する電流を増大させるときの出力油圧と、電磁コイルに供給する電流を減少させるときの出力油圧との差であるヒステリシスが発生しやすくなる。このため、例えば自動車のトランスミッションを動作させる場合の常用域の温度(通常、40℃~80℃)で良好な特性が得られるようにディザ振幅を設定した場合には、油温が例えば0℃以下であるときにヒステリシスが大きくなってしまう場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、広い温度域で出力油圧の良好な特性が得られる電磁弁の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、電磁コイルを有する電磁ソレノイドと、複数のポートを有する筒状のスリーブと、前記電磁ソレノイドによって前記スリーブ内で移動する弁体と備え、前記スリーブに対する前記弁体の動きによって前記複数のポート間の作動油の流路が断続される電磁弁を制御する制御装置であって、前記電磁コイルに供給する電流を制御する電流制御手段と、前記作動油の温度に応じて前記電流のディザ振幅を調節するディザ振幅調節手段とを備え、前記ディザ振幅調節手段は、前記作動油の温度に対応して設定される上限値と下限値との間に前記電流のディザ振幅を調節する、電磁弁の制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電磁弁の制御装置によれば、広い温度域で出力油圧の良好な特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電磁弁の構成をバルブボディと共に示す断面図である。
図2】制御装置の制御構成の一例を電磁弁等と共に示す構成図である。
図3】電磁コイルに供給される制御電流の波形を示している。
図4】(a)~(c)は、制御電流を一定の時間当たりの変化量で単調に増加させた後、制御電流を一定の時間当たりの変化量で単調に減少させたときの出力油圧の変化の一例を示すグラフである。
図5】作動油の油温及びディザ振幅を変えて実験を行った実験結果を示すグラフであり、「〇」は良好な特性が得られた場合の油温及びディザ振幅を示し、「△」は良好な特性が得られなかった場合の油温及びディザ振幅を示す。
図6】(a)及び(b)は、図5のグラフにおける「〇」及び「△」の判定の一例を示すグラフである。
図7】第2の実施の形態に係る制御装置の制御構成の一例を電磁弁等と共に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図6を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電磁弁の構成をバルブボディと共に示す断面図である。電磁弁1は、電磁ソレノイド2と、中心部に弁孔30が設けられた筒状のスリーブ3と、弁孔30内に移動可能に配置された弁体としてのスプール4と、スプール4を電磁ソレノイド2側に付勢する付勢部材としての復帰用スプリング11と、スリーブ3の端部を閉塞する栓体12とを備えている。この電磁弁1は、例えば自動車のトランスミッションの油圧アクチュエータを制御するために用いられる。
【0012】
電磁ソレノイド2は、制御装置6から制御電流の供給を受けて作動し、スプール4を弁孔30の中心軸線Cに沿った軸方向に移動させる。本実施の形態では、電磁ソレノイド2が制御電流の大きさに応じた押圧力でスプール4を復帰用スプリング11側に押圧する。
【0013】
電磁弁1は、図1に示すように、バルブボディ5に形成された嵌合穴50にスリーブ3が嵌合した状態で使用される。バルブボディ5には、スリーブ3内に作動油を供給する供給通路51と、作動油を油圧アクチュエータ等の油圧供給対象に導く出力通路52と、出力通路52に連通するフィードバック通路53と、余剰な作動油をオイルパンに導くドレン通路54とが形成されている。供給通路51には、図略の油圧ポンプから吐出された作動油が供給される。
【0014】
スリーブ3は、供給通路51に連通して弁孔30に作動油を供給する供給ポート31と、出力通路52に連通する出力ポート32と、フィードバック通路53に連通するフィードバックポート33と、ドレン通路54に連通するドレンポート34とを有している。弁孔30は、フィードバックポート33よりも電磁ソレノイド2側の第1孔部301、及びフィードバックポート33よりも栓体12側の第2孔部302からなり、第1孔部301の内径が第2孔部302の内径よりも大径に形成されている。復帰用スプリング11は、栓体12とのスプール4の間で軸方向に圧縮された状態でスリーブ3のスプリング収容空間35に収容されている。
【0015】
スプール4には、電磁ソレノイド2側から栓体12側に向かって、円柱状の第1乃至第3のランド41~43が形成されている。第1のランド41の外径と第2のランド42の外径とは等しく、第3のランド43の外径は第1及び第2のランド41,42の外径よりも小さく形成されている。第2のランド42と第3のランド43との外径の差は、フィードバックポート33に供給された作動油のフィードバック圧の受圧面積の差となり、この受圧面積の差によってスプール4を電磁ソレノイド2側に押圧する押圧力が発生する。
【0016】
スプール4は、弁孔30内で中心軸線Cに沿って移動可能に配置され、第1乃至第3のランド41~43によって各ポート31~34間の流路を断続する。第1のランド41は、出力ポート32とドレンポート34との間の連通を遮断及び開放可能である。第2のランド42は、供給ポート31と出力ポート32との間の連通を遮断及び開放可能であると共に、供給ポート31とフィードバックポート33との間の連通を遮断している。第3のランド43は、フィードバックポート33とスプリング収容空間35との間の連通を遮断している。
【0017】
第1及び第2のランド41,42の外径は、弁孔30における第1孔部301の内径よりも僅かに小さく、第3のランド43の外径は、弁孔30における第2孔部302の内径よりも僅かに小さい。第1及び第2のランド41,42の外径と第1孔部301の内径との差、ならびに第3のランド43の外径と第2孔部302の内径との差は、作動油の漏れを遮るシール部としての効果を発揮する寸法であり、具体的には例えば20~30μmである。
【0018】
第1及び第2のランド41,42の外周面41a,42aは、弁孔30における第1孔部301の内周面301aに僅かな隙間を介して対向する。第3のランド43の外周面43aは、第2孔部302の内周面302aに僅かな隙間を介して対向する。スプール4が弁孔30内で移動すると、第1及び第2のランド41,42の外周面41a,42aは、弁孔30における第1孔部301の内周面301aを摺動し、第3のランド43の外周面43aは、第2孔部302の内周面302aを摺動する。
【0019】
第1のランド41は、スプール4の軸方向移動に応じて出力ポート32とドレンポート34との間の流路面積を変化させる。第2のランド42は、スプール4の軸方向移動に応じて供給ポート31と出力ポート32との間との間の流路面積を変化させる。これにより、出力ポート32から出力される作動油の圧力がスプール4の位置に応じて変化する。
【0020】
電磁ソレノイド2は、スリーブ3に固定されたソレノイドケース21と、ソレノイドケース21に保持されたボビン22と、ボビン22に巻き回された電磁コイル23と、電磁コイル23が発生する磁束を受けてソレノイドケース21に対して軸方向に移動する円筒状のプランジャ24と、プランジャ24と一体に軸方向移動してスプール4を押圧するシャフト25と、シャフト25を挿通させる挿通孔260を有してソレノイドケース21の内側に配置されたソレノイドコア26と、ソレノイドケース21に対するプランジャ24の軸方向移動をガイドする円筒状の第1ブッシュ27と、ソレノイドコア26に対するシャフト25の軸方向移動をガイドする円筒状の第2ブッシュ28と、シャフト25に外嵌されたリング状のストッパ29とを有している。
【0021】
図1では、弁孔30の中心軸線Cよりも上側にシャフト25がソレノイドケース21の底部211に当接した状態を示し、中心軸線Cよりも下側にスプール4が栓体12に当接した状態を示している。電磁コイル23の外周は、ボビン22と一体化されたモールド樹脂部221に覆われている。モールド樹脂部221には、ソレノイドケース21外に露出したコネクタ部222が設けられ、コネクタ部222から電磁コイル23に制御装置6からの制御電流が供給され、電磁コイル23が磁力を発生する。プランジャ24は、電磁コイル23に供給される制御電流に応じて軸方向に移動する。
【0022】
図2は、制御装置6の制御構成の一例を、電磁弁1等と共に示す構成図である。制御装置6は、圧力指令値を受けて電流指令値Iを演算する電流指令値演算部61と、電流指令値Iに応じて電磁コイル23に供給する電流を制御する電流制御部62と、PWM(Pulse Width Modulation)制御を行うPWM制御部63と、作動油の温度に応じて制御電流のディザ振幅を調節するディザ振幅調節部64とを備えている。電流制御部62は、本発明の電流制御手段としての制御処理を行い、ディザ振幅調節部64は、本発明のディザ振幅調節手段としての制御処理を行う。
【0023】
電流指令値演算部61は、上位コントローラ等から圧力指令値を受け、例えば電磁コイル23に流れる電流と出力ポート32から出力される出力油圧との関係が定義されたマップ情報を参照して電流指令値Iを演算する。電流制御部62は、フィードフォワード制御及びフィードバック制御により、電圧指令値Vを演算する。PWM制御部63は、電圧指令値Vに応じたデューティーを設定する。また、本実施の形態では、ディザ振幅調節部64が、電流制御部62で用いられる制御ゲインを変えることにより制御電流のディザ振幅を調節する。
【0024】
電磁弁1の供給ポート31には、電動モータ71によって回転駆動される油圧ポンプ72から、作動油が供給通路51を介して供給される。油圧ポンプ72は、オイルパン70から作動油を汲み上げて供給通路51に吐出する。出力ポート32から出力された作動油は、出力通路52によってトランスミッション73の油圧アクチュエータに供給され、油圧アクチュエータから排出された作動油はオイルパン70に還流する。
【0025】
電磁弁1の電磁コイル23には、バッテリー74からの直流電圧がイグニッションスイッチ75及びスイッチング素子76を経て供給される。スイッチング素子76は、例えばFET(電界効果トランジスタ)であり、PWM制御部63から出力されるPWM信号によってオン及びオフされる。スイッチング素子76がオン状態となったとき、バッテリー74の直流電圧が電磁コイル23に印加される。また、スイッチング素子76の出力側には、電磁コイル23と並列になるように、フリーホイールダイオード77が接続されている。
【0026】
電磁コイル23を流れる電流は、電流検出部65によって検出される。電流検出部65は、シャント抵抗651と、シャント抵抗651の両端の電位差を増幅する差動増幅器652と、差動増幅器652の出力電圧をデジタル値に変換するADコンバータ653とからなり、ADコンバータ653の出力値である実電流値Iは、フィードバック制御のために電流制御部62に出力される。
【0027】
電流制御部62は、電流指令値Iと実電流値Iとの偏差eを演算する偏差演算部621と、偏差eに基づいて積分補償をする積分パス622と、実電流値Iに基づいて微分補償をする微分パス623と、フィードフォワードパス624と、各パスの出力する値を加算して電圧指令値Vを演算する加算部625とを有している。
【0028】
積分パス622は、偏差eを積分する積分部622aと、積分部622aが出力する値に積分ゲインGiを乗じるゲイン乗算部622bとを有し、ゲイン乗算部622bが求めた値を積分補償値として出力する。微分パス623は、実電流値Iを微分する微分部623aと、微分部623aが出力する値に微分ゲインGdを乗じるゲイン乗算部623bとを有し、ゲイン乗算部623bが求めた値を微分補償値として出力する。フィードフォワードパス624は、電流指令値IにフィードフォワードゲインGfを乗じて加算部625に出力する。なお、フィードフォワードパス624を省略してもよい。
【0029】
ディザ振幅調節部64は、作動油の温度に応じて積分ゲインGi、微分ゲインGd、及びフィードフォワードゲインGfの少なくとも何れか変えることにより、制御電流のディザ振幅を調節する。これらのゲインを大きくすることにより、スプール4がスリーブ3に対して動くときの電圧指令値Vの時間当たりの変化量が大きくなりやすく、このためディザ振幅が大きくなる。また、これらのゲインを小さくすると、ディザ振幅が小さくなる。
【0030】
図3は、電磁コイル23に供給される制御電流の波形を示している。図3において、Tonは1回のPWM周期中にスイッチング素子76がオンしているオン時間を示し、Toffはスイッチング素子76がオフしているオフ時間を示している。オン時間とオフ時間との合計値はディザ周期Pdである。すなわち、本実施の形態では、PWM制御による脈流分をディザ電流として利用しており、この脈流分の変化幅(peak to peak)の半分がディザ電流の振幅Aとなる。
【0031】
図4(a)~(c)は、制御電流を一定の時間当たりの変化量で単調に増加させた後、制御電流を一定の時間当たりの変化量で単調に減少させたときの出力油圧(出力ポート32から出力される作動油の圧力)の変化の一例を示すグラフである。図4(a)は、大きな油振(出力油圧の振動)がなく、ヒステリシスも小さい理想的な波形を示している。図4(b)は、破線で囲んだ範囲において大きな油振が観測された際のグラフである。図4(c)は、グラフ中に二点鎖線で示すヒステリシスがない場合の出力油圧に対し、比較的大きな差異(ヒステリシス)が観測された際のグラフである。
【0032】
油振は、ディザ振幅が大きくなると発生しやすい。ディザ振幅は、電磁コイル23に供給される制御電流の変動であり、制御電流が変動すれば、スプール4がスリーブ3に対して振動するためである。一方、ヒステリシスは、ディザ振幅が小さくなると発生しやすい。ディザ振幅が小さくなると、スプール4がスリーブ3に対して円滑に動きにくくなるためである。このため、ディザ振幅には、油振及びヒステリシスが共に抑えられる適切な範囲が存在する。
【0033】
しかしながら、作動油は温度によって粘性が変わるので、常用域の温度(例えば40℃~80℃)で良好な特性が得られるようにディザ振幅を調節した場合には、油温が例えば0℃以下であるときにヒステリシスが大きくなってしまう場合があった。また、0℃以下の低温時にヒステリシスが抑えられる値にディザ振幅を調節した場合には、常用域の温度で油振が大きくなってしまう場合があった。
【0034】
そこで、本実施の形態では、ディザ振幅調節部64が、作動油の温度に対応して設定される上限値と下限値との間に制御電流のディザ振幅が含まれるように、ディザ振幅を調節する。また、本実施の形態では、オイルパン70に油温計701が設けられており、この油温計701の検出値に基づいてディザ振幅調節部64がディザ振幅を調節する。なお、油温計701は、オイルパン70に限らず、作動油の流路(例えば供給通路51)に配置してもよい。
【0035】
図5は、作動油の油温及びディザ振幅を変えて実験を行った実験結果を示すグラフであり、「〇」は良好な特性が得られた場合の油温及びディザ振幅を示し、「△」は良好な特性が得られなかった場合の油温及びディザ振幅を示している。また、図5において、実線Lは、各油温について設定されたディザ振幅の上限値を示し、破線Lは、各油温について設定されたディザ振幅の下限値を示している。
【0036】
この上限値及び下限値は、電磁弁1の使用上問題となる程度の大きさの油振やヒステリシスが発生しないディザ振幅の最大値及び最小値を示している。制御装置6には、この上限値及び下限値が、例えばマップの形式で不揮発性メモリに記憶されており、ディザ振幅調節部64は、油温計701の検出値に基づいて、ディザ振幅が上限値よりも低くかつ下限値よりも高い値になるようにディザ振幅を調節する。また、上限値及び下限値は、作動油の温度が0℃以下である場合の値が、作動油の温度が40℃以上である場合の2倍以上である。
【0037】
図6(a)及び(b)は、図5のグラフにおける「〇」及び「△」の判定の一例を示すグラフである。図6(a)では、ヒステリシスに加えて大きな油振が発生した場合の出力油圧の変化を実線で示し、ヒステリシス及び油振がないとした場合の出力油圧の変化を二点鎖線で示している。図6(a)に示すように、油振による出力油圧の差異(ずれ)と、ヒステリシスによる出力油圧の差異とを合わせた圧力Pが、所定の閾値以上であれば判定が「△」となる。また、図6(b)に示すように、ヒステリシスによる出力油圧の差異と、スプール4のスティクスリップ現象(静止摩擦力が作用する状態と動摩擦力が作用する状態が交互に発生することによって起きる振動現象)による出力油圧の差異とを合わせた圧力Pが所定の閾値以上である場合にも、判定が「△」となる。
【0038】
なお、図5では、一部の測定点における判定結果を「〇」又は「△」で示しているが、上限値及び下限値をより精度よく設定するためには、多くの測定点における結果に基づいて上限値及び下限値の設定を行うことが望ましい。
【0039】
(第1の実施の形態の効果)
以上説明した本発明の第1の実施の形態によれば、ディザ振幅調節部64が、作動油の温度に対応して設定される上限値と下限値との間に制御電流のディザ振幅を調節することにより、例えば0℃以下及び40℃以上の温度域を含む広い温度域で出力油圧の良好な特性を得ることができる。
【0040】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図7を参照して説明する。第1の実施の形態では、ディザ振幅調節部64が制御ゲインを変えることによりディザ振幅を調節する場合について説明したが、第2の実施の形態では、ディザ振幅調節部64が、電磁コイル23を含む負荷インピーダンスを変えることにより電流のディザ振幅を調節する場合について説明する。
【0041】
図7は、第2の実施の形態に係る制御装置6の制御構成の一例を、電磁弁1等と共に示す構成図である。図7では、スイッチング素子76と電磁コイル23との間に直列に抵抗器78を設け、この抵抗器78と並列に負荷インピーダンス変更用のスイッチング素子79を接続した場合について、制御装置6の出力側の回路を示している。スイッチング素子79は、ディザ振幅調節部64によってオン状態とオフ状態とが切り換わる。図7の図示例では、スイッチング素子79がFETであり、ディザ振幅調節部64がこのFETにゲート信号を出力する。なお、抵抗器78に替えて、もしくは抵抗器78に加えて、誘導負荷(インダクタンス)を設けてもよい。
【0042】
スイッチング素子79がオン状態となると、抵抗器78がバイパスされ、負荷インピーダンスが小さくなる。また、スイッチング素子79がオフ状態となると、電磁コイル23に抵抗器78が直列に接続された状態となり、負荷インピーダンスが大きくなる。負荷インピーダンスが大きくなると、ディザ振幅は縮小する。ディザ振幅調節部64は、油温計701の検出値に基づいて、温度ごとに設定された上限値よりも低くかつ下限値よりも高い値になるようにディザ振幅を調節する。
【0043】
この第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様に、例えば0℃以下及び40℃以上の温度域を含む広い温度域で出力油圧の良好な特性を得ることができる。また、第1の実施の形態と第2の実施の形態とを組み合わせて実施してもよい。すなわち、作動油の温度に対応して設定される上限値と下限値との間にディザ振幅を調節すべく、ディザ振幅調節部64が、電流制御部62の制御ゲインを変えると共に、電磁コイル23を含む負荷インピーダンスを変えてもよい。
【0044】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0045】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。例えば、制御対象の電磁弁としてはフィードバックポートがないものでもよいし、自動車のトランスミッションへの油圧供給以外の用途に電磁弁を用いてもよい。また、ディザ振幅調節部64は、PWM周期(ディザ周期)を変えることによってディザ振幅を調節するものであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1…電磁弁
2…電磁ソレノイド
23…電磁コイル
3…スリーブ
31…供給ポート
32…出力ポート
33…フィードバックポート
4…スプール(弁体)
6…制御装置
62…電流制御部(電流制御手段)
64…ディザ振幅調節部(ディザ振幅調節手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7