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  • 特許-吊り具及び吊り調整治具 図1
  • 特許-吊り具及び吊り調整治具 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】吊り具及び吊り調整治具
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/12 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
B66C1/12 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020084452
(22)【出願日】2020-05-13
(65)【公開番号】P2021178709
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】魚路 知生
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-122104(JP,A)
【文献】登録実用新案第3202010(JP,U)
【文献】実開昭59-183485(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2020/0140236(US,A1)
【文献】特開平10-053388(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103738834(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚重装置から延びる揚重索体の下端に連結されたフックに揚重対象物を吊るす吊り具であって、
一端が前記フックに連結されると共に他端が前記揚重対象物における水平方向に離間した位置に掛けられる一対の第1索体部と、
一端が前記フックに連結されると共に他端が前記揚重対象物における前記第1索体部が掛けられた位置の間に掛けられる第2索体部と、を備え、
前記第2索体部は、
前記フックに連結される上側索体と、
前記揚重対象物に掛けられる下側索体と、
前記第2索体部の一端から他端までの長さを調整すると共に、前記上側索体を前記下側索体に連結する吊り調整治具と、を有し、
前記吊り調整治具は、
前記上側索体が連結される上側基体と、
前記下側索体が連結される下側基体と、
前記上側基体に連結されると共に前記下側基体に連結され、前記上側基体と前記下側基体との間隔を調整する長さ調整部と、
前記上側基体に固定され、前記長さ調整部において前記上側基体と前記下側基体との間隔を調整するときに、前記長さ調整部に作用していた引っ張り力を一時的に負担する補助具の上端が連結される上側補助具連結部と、
前記下側基体に固定され、前記長さ調整部において前記上側基体と前記下側基体との間隔を調整するときに、前記補助具の下端が連結される下側補助具連結部と、を含む吊り具。
【請求項2】
前記吊り調整治具は、一対の前記長さ調整部を含み、
前記一対の長さ調整部は、前記上側基体及び前記下側基体を挟むように設けられている、請求項に記載の吊り具。
【請求項3】
前記長さ調整部は、ボルト及びナットにより構成される、請求項に記載の吊り具。
【請求項4】
前記吊り調整治具は、油圧装置により構成される、請求項に記載の吊り具。
【請求項5】
揚重装置から延びる揚重索体の下端に連結されたフックに揚重対象物を吊るす吊り具に用いられる吊り調整治具であって、
前記フックに吊るされる上側索体が連結される上側基体と、
前記揚重対象物に掛けられる下側索体が連結される下側基体と、
前記上側基体に連結されると共に前記下側索体に連結され、前記上側基体と前記下側基体との間隔を調整する長さ調整部と、
前記上側基体に固定され、前記長さ調整部において前記上側基体と前記下側基体との間隔を調整するときに、前記長さ調整部に作用していた引っ張り力を一時的に負担する補助具の上端が連結される上側補助具連結部と、
前記下側基体に固定され、前記長さ調整部において前記上側基体と前記下側基体との間隔を調整するときに、前記補助具の下端が連結される下側補助具連結部と、を含む、吊り調整治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り具及び吊り調整治具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~4は、重量物の揚重に用いられる吊り具を開示する。これらの吊り具は、クレーンといった揚重装置に、重量物である揚重対象を吊り下げるときに用いられる。吊り具は、主に、ワイヤロープやスリングといった索体と、索体が連結される治具と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-213468号公報
【文献】特許第5642412号明細書
【文献】特開2014-74304号公報
【文献】特許第5584744号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
揚重対象物には、揚重時における水平投影面積が大きい大型のものがある。このような揚重対象物の揚重にあっては、水平方向において揚重対象物の姿勢を所定の姿勢に維持することが重要である。換言すると、揚重対象物の水平方向のバランスをとることが重要である。また、大型の揚重対象物には、複数本の索体が掛けられる。従って、複数本の索体同士で揚重対象物のバランスを調整しながら揚重することは作業負荷が大きくなりやすい。
【0005】
そこで、本発明は、複数本の索体を用いた揚重作業を簡易に行うことが可能な吊り具及び吊り調整治具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態は、揚重装置から延びる揚重索体の下端に連結されたフックに揚重対象物を吊るす吊り具である。吊り具は、一端がフックに連結されると共に他端が揚重対象物における水平方向に離間した位置に掛けられる一対の第1索体部と、一端がフックに連結されると共に他端が揚重対象物における第1索体部が掛けられた位置の間に掛けられる第2索体部と、を備える。第2索体部は、第2索体部の一端から他端までの長さを調整する吊り調整治具を有する。
【0007】
この吊り具は、一対の第1索体部及び1本の第2索体部によって、揚重対象物を吊るす。そして、吊り具において第2索体部は、その他端が一対の第1索体部の他端の間に配置されると共に、その全長の調整が可能である。そうすると、揚重対象物を吊るしたときに、一対の第1索体部及び1本の第2索体部のそれぞれに作用する揚重対象物の引っ張り力を、第2索体部の長さを調整することによって、互いに近づけることができる。その結果、それぞれの索体が負担する引っ張り力に偏りがなくなるので、揚重対象物のバランスが調整される。つまり、第2索体部の長さの調整によって、複数本の索体を用いた揚重作業を簡易に行うことができる。
【0008】
上記の吊り具の第2索体部は、フックに連結される上側索体と、揚重対象物に掛けられる下側索体と、上側索体を下側索体に連結する吊り調整治具と、を有してよい。この構成によれば、フックに第2索体部を容易に吊り下げることができると共に揚重対象物を容易に吊るすことができる。
【0009】
上記の吊り具の吊り調整治具は、上側索体が連結される上側基体と、下側索体が連結される下側基体と、上側基体に連結されると共に下側基体に連結され、上側基体と下側基体との間隔を調整する長さ調整部と、を含んでよい。この構成によれば、上側基体と下側基体との間隔を調整する機能を有する長さ調整部を簡易な構成とすることができる。
【0010】
上記の吊り具の吊り調整治具は、一対の長さ調整部を含み、一対の長さ調整部は、上側基体及び下側基体を挟むように設けられてもよい。この構成によれば、長さ調整部に作用する引っ張り力の偏りをなくすことができる。
【0011】
上記の吊り具の吊り調整治具は、上側基体に固定された上側補助具連結部と、下側基体に固定され、上側補助具連結部に連結された補助具の下端が連結される下側補助具連結部と、をさらに含んでよい。この構成によれば、長さ調整部の調整作業を行うときに、長さ調整部が負担していた引っ張り力を補助具に一時的に負担させることが可能になる。従って、長さ調整部の調整作業を容易に行うことができる。
【0012】
上記の吊り具の長さ調整部は、ボルト及びナットにより構成されてもよい。この構成によれば、長さ調整部に作用する引っ張り力に対抗する機能と長さを調整する機能とを簡易な構成で両立させることができる。
【0013】
上記の吊り具の吊り調整治具は、油圧装置により構成されてもよい。この構成によっても、長さを調整する機能を実現することができる。
【0014】
本発明の別の形態は、揚重装置から延びる揚重索体の下端に連結されたフックに揚重対象物を吊るす吊り具に用いられる吊り調整治具である。吊り調整治具は、フックに吊るされる上側索体が連結される上側基体と、揚重対象物に掛けられる下側索体が連結される下側基体と、上側基体に連結されると共に下側索体に連結され、上側基体と下側基体との間隔を調整する長さ調整部と、を含む。この吊り調整治具によれば、第2索体部の長さの調整によって、複数本の索体を用いた揚重作業を簡易に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数本の索体を用いた揚重作業を簡易に行うことが可能な吊り具及び吊り調整治具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態の吊り具によって揚重対象物を揚重している様子を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す吊り具が有する吊り調整治具を拡大して示す斜視図である。
図3図3の(a)部及び(b)部は、吊り調整治具の動作を説明するための正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の吊り具1A、1Bは、例えば、揚重対象物としての海流発電装置100の揚重に用いる。海流発電装置100は、ケーブルユニット(不図示)に係留されて、所定の海域にとどまる。海流発電装置100は、海域に生じる海流を受けて、電力を発生する。海流発電装置100は、ケーブルユニットを介して、電力を地上の電力設備に送電する。吊り具1は、地上の製造現場における海流発電装置100の揚重に用いる。また、吊り具1は、海上における海流発電装置100の設置作業や保守作業などにも用いてよい。なお、吊り具1が揚重する対象物は、海流発電装置100に限定されない。
【0019】
<海流発電装置>
海流発電装置100は、例えば海水中に設置されて浮遊し、海流を利用して発電を行う。海流発電装置100は、左右に離間して配置された一対の発電ポッド101A、101Bと、一対の発電ポッド101A、101Bを連結するクロスビーム102と、を備える。発電ポッド101A、101Bの後部には、発電用タービン104が設けられている。発電用タービン104には、ブレード105が取り付けられている。
【0020】
海流発電装置100に適用される発電用タービン104は、いわゆるダウンウィンド型のタービンである。発電ポッド101A、101Bは、海流の向きに対向した姿勢で浮遊する。この浮遊状態において、発電用タービン104の回転軸線は、略水平に維持される。なお、発電用タービン104は、アップウィンド型のタービンであってもよい。
【0021】
発電ポッド101A、101Bは、発電用タービン104を回転可能に支持しつつ、発電用タービン104に適正な浮力を付与する。発電ポッド101A、101Bは、円筒状をなしている。一対の発電ポッド101A、101Bは、例えば、互いに同じ大きさおよび構造を有している。
【0022】
一対の発電ポッド101A、101Bの間には、これらを連結する構造体であるクロスビーム102が延在している。換言すると、クロスビーム102は、一対の発電ポッド101A、101Bの間を横断するように延びている。クロスビーム102は、前後方向に所定の長さを有し、所定の厚みを有する。クロスビーム102は、浮遊する海流発電装置100の姿勢を安定させるべく、例えば翼形状をなしている。クロスビーム102の左右の両端は、例えば、発電ポッド101A、101Bの胴部の略中央にそれぞれ固定されている。なお、クロスビーム102が固定される位置は、上記の位置に限られない。クロスビーム102は、発電ポッド101A、101Bの上部または下部に固定されてもよいし、発電ポッド101A、101Bの前部または後部に固定されてもよい。クロスビーム102は、その延在方向において等しい断面形状を有してもよく、延在方向において変化する断面形状を有してもよい。また、クロスビーム102の中央には、発電ポッド101A、101Bと同様の円筒状の中央ポッド103が設けられる。
【0023】
<吊り具>
吊り具1は、海流発電装置100を揚重装置(不図示)から延びる揚重索体201の下端に連結されたフック202に連結する。図1に示すように、海流発電装置100の揚重には、二組の吊り具1A、1Bを用いる。なお、揚重作業に用いる吊り具1A、1Bの数は、揚重対象物の大きさ、形状、構造、重量などの条件に応じて、適宜選択してよい。
【0024】
一方の吊り具1Aは、海流発電装置100の前側に掛けられる。例えば、吊り具1は、クロスビーム102よりも前側に掛けられる。他方の吊り具1Bは、海流発電装置100の後側に掛けられる。例えば、吊り具1Bは、クロスビーム102よりも後側に掛けられる。それぞれの吊り具1A、1Bは、一対の第1索体部10A、10Bと、第2索体部20と、を有する。つまり、吊り具1A、1Bの構成は共通であり、揚重対象物における掛けられる場所が異なるだけである。従って、一方の吊り具1Aについて詳細に説明し、他方の吊り具1Bについては説明を省略する。
【0025】
一対の第1索体部10A、10Bは、海流発電装置100における水平方向に離間した位置に掛けられる。索体として、ワイヤロープやスリングを用いてよい。例えば、一方の第1索体部10Aは、一方の発電ポッド101Aに掛けられる。他方の第1索体部10Bは、他方の発電ポッド101Bに掛けられる。つまり、一対の第1索体部10A、10Bは、いわゆる二本吊りを構成する。一対の第1索体部10A、10Bの吊り構成には、特に制限はない。例えば、二本二点目通し吊り、二本四点あだ巻き吊り、二本二点あだ巻き目通し吊りなどを採用してもよい。
【0026】
第1索体部10Aは、第1上側索体11と、第1下側索体12と、第1連結具13と、を有する。第1上側索体11の上端は、フック202に掛けられている。第1上側索体11の下端は、第1連結具13によって第1下側索体12の上端に連結されている。第1下側索体12の下端は、一方の発電ポッド101Aに掛けられている。
【0027】
第1索体部10Aは、フック202に掛けられた上端から、発電ポッド101Aに掛けられた下端までの長さが一定である。
【0028】
第2索体部20は、海流発電装置100において、一対の第1索体部10A、10Bの間に配置されている。第2索体部20の上端は、第1索体部10Aと同様にフック202に掛けられている。一方、第2索体部20の下端は、中央ポッド103に掛けられている。この中央ポッド103は、発電ポッド101A、101Bの間に配置されている。従って、第2索体部20の下端も、一対の第1索体部10A、10Bの下端の間に配置されている。
【0029】
第2索体部20は、第2上側索体21と、第2下側索体22と、吊り調整治具30と、を有する。第2上側索体21の上端は、フック202に掛けられている。第2上側索体21の下端は、吊り調整治具30によって第2下側索体22の上端に連結されている。第2下側索体22の下端は、中央ポッド103に掛けられている。
【0030】
第2索体部20は、第1索体部10Aとは異なり、フック202に掛けられた上端から、中央ポッド103に掛けられた下端までの長さが可変である。この長さの調整は、吊り調整治具30によってなされる。つまり、吊り具1では、長さが固定である一対の第1索体部10A、10Bと、長さが可変である第2索体部20と、がフック202と揚重対象物である海流発電装置100との間において、並列に設けられている。
【0031】
<吊り調整治具>
図2は、吊り調整治具30を拡大して示す斜視図である。図2に示すように、吊り調整治具30は、上側基体31と、下側基体32と、長さ調整部33A、33Bと、を有する。
【0032】
上側基体31は、一枚の板状部材である。上側基体31には、第2上側索体21の下端が連結される。上側基体31は、第2上側索体21が連結される上側穴31h1を有する。さらに、上側基体31は、長さ調整部33A、33Bが連結される下側穴31h2を有する。
【0033】
下側基体32は、一対の板状部材34A、34Bと、スペーサ36と、により構成されている。一対の板状部材34A、34Bは、上側基体31と下側基体32との離間方向に交差する方向に互いに離間する。一対の板状部材34A、34Bの間には、スペーサ36が配置されており、板状部材34A、34Bの間隔が維持されている。板状部材34A、34Bの間隔は、例えば、上側基体31の厚みとほぼ同じ又は厚みより大きくてもよい。板状部材34A、34Bは、長さ調整部33A、33Bのための穴34hを有する。一方の板状部材34Aの穴34hの中心軸は、他方の板状部材34Bの穴34hの中心軸と重複する。つまり、板状部材34A、34Bの穴34hは同軸である。
【0034】
吊り調整治具30は、一対の長さ調整部33A、33Bを有する。一対の長さ調整部33A、33Bは、上側基体31及び下側基体32を挟むように設けられている。長さ調整部33A、33Bは、上側基体31から下側基体32までの長さを調整する。換言すると、長さ調整部33A、33Bは、上側基体31から下側基体32までの長さを縮める。または、長さ調整部33A、33Bは、上側基体31から下側基体32までの長さを伸ばす。第2索体部20において、第2上側索体21の上端から第2下側索体22の下端までの長さを第2索体部20の全長としたとき、この長さ調整部33A、33Bによれば、第2索体部20の全長を縮めるまたは伸ばすことができる。
【0035】
長さ調整部33A、33Bは、上側突出部41と、下側突出部42と、ボルト軸39と、複数のナットN1~N4と、を有する。
【0036】
長さ調整部33Aの上側突出部41と長さ調整部33Bの上側突出部41とは、一体化された部品であり、当該部品は、上側軸体37である。上側軸体37は、上側基体31の下側穴31h2に配置される。上側軸体37の外径は、下側穴31h2の内径とほぼ同じであるか、わずかに小さい。従って、上側軸体37は、上側基体31に対して回転摺動が可能である。上側軸体37は、上側基体31の両面のそれぞれから突出する一対の上側突出部41を有する。上側突出部41には、上側ボルト軸穴41hが設けられている。従って、上側ボルト軸穴41hは、上側基体31を挟むように設けられている。上側ボルト軸穴41hには、ボルト軸39が差し込まれる。上側ボルト軸穴41hにはねじ山は設けられていない。上側ボルト軸穴41hの内径は、ボルト軸39の外径とほぼ同じであるか、わずかに大きい。従って、ボルト軸39は、上側突出部41に対して摺動が可能である。
【0037】
長さ調整部33Aの下側突出部42と長さ調整部33Bの下側突出部42とは、一体化された部品であり、当該部品は、下側軸体38である。下側軸体38は、下側基体32の穴34hに配置される。下側軸体38の外径は、穴34hの内径とほぼ同じであるか、わずかに小さい。従って、下側軸体38は、下側基体32に対して回転摺動が可能である。下側軸体38は、下側基体32の両面のそれぞれから突出する一対の下側突出部42を有する。下側突出部42には、下側ボルト軸穴42hが設けられている。従って、下側ボルト軸穴42hは、下側基体32を挟むように設けられている。下側ボルト軸穴42hは、ボルト軸39が差し込まれる。下側ボルト軸穴42hにはねじ山は設けられていない。下側ボルト軸穴42hの内径は、ボルト軸39の外径とほぼ同じであるか、わずかに大きい。従って、ボルト軸39は、下側突出部42に対して摺動が可能である。
【0038】
ボルト軸39及び複数のナットN1~N4は、長さ調整機構を構成する。ボルト軸39は、上側軸体37の上側ボルト軸穴41hから下側軸体38の下側ボルト軸穴42hに亘って延びる。
【0039】
ボルト軸39の上端側は、上側軸体37の上側突出部41から上方に向けて突出する。ボルト軸39の上端側には、ねじ山が設けられた上側ねじ部43が設けられている。上側ねじ部43は、上側突出部41の上側(第2上側索体21側)に突出する部分43aと、上側ボルト軸穴41hに重複する部分43bと、上側突出部41の下側(第2下側索体22側)に突出する部分43cと、を含む。そして、部分43aには、ナットN1が装着されている。さらに、部分43cにも、ナットN2が装着されている。つまり、上側突出部41は、ナットN1、N2によって挟み込まれている。
【0040】
ボルト軸39の下端側は、下側軸体38の下側突出部42から下方に向けて突出する。ボルト軸39の下端側には、ねじ山が設けられた下側ねじ部44が設けられている。下側ねじ部44は、下側突出部42の上側(上側基体31側)に突出する部分44aと、下側ボルト軸穴42hに重複する部分44bと、下側突出部42の下側(第2下側索体22側)に突出する部分44cと、を含む。そして、部分44aには、ナットN3が装着されている。さらに、部分44cにも、ナットN4が装着されている。つまり、下側突出部42は、ナットN3、N4によって挟み込まれている。
【0041】
このような構成を有する長さ調整機構に対して引っ張り力(上側基体31と下側基体32との間隔を広げるような力)が作用するとき、最も上側に配置されたナットN1と、最も下側に配置されたナットN4とが、当該引っ張り力に対抗する。つまり、上側基体31と下側基体32との間隔は、ナットN1、N4の間隔によって決まる。従って、第2索体部20の長さは、ナットN1、N4の間隔L1(図3の(a)部参照)を調整することによって、伸ばすことができる。また、第2索体部20の長さは、ナットN1、N4の間隔L2(図3の(b)部参照)を調整することによって、縮めることもできる。
【0042】
一方、ナットN2、N3は、上側基体31と下側基体32との間隔が、意図せずに縮まることを抑制する。従って、4個のナットN1、N2、N3、N4を用いることにより、第2索体部20の長さを一定の長さに保つことが可能になる。
【0043】
ここで、上側突出部41の端面には、上側補助具連結部46が設けられている。下側突出部42の端面にも、下側補助具連結部47が設けられている。上側補助具連結部46及び下側補助具連結部47には、補助具であるホイストなどが連結される。補助具は、第2索体部20の長さを変更するときに用いる。補助具は、上側補助具連結部46及び下側補助具連結部47に連結されて、ボルト軸39及びナットN1~N4が負担する引っ張り力を一時的に負担する。そうすると、ナットN1~N4に引っ張り力が作用しなくなるので、ナットN1~N4を容易に締める又は緩めることが可能になる。
【0044】
<吊り具による揚重作業>
まず、第1索体部10A、10B及び第2索体部20の上端をフック202に掛ける。次に、第1索体部10A、10Bの下端を発電ポッド101A、101Bに掛ける。さらに、第2索体部20の下端を中央ポッド103に掛ける。
【0045】
そして、揚重装置を操作して、上方に吊り上げる。そうすると、まず、第1索体部10A、10Bに荷重が作用する。このとき、第2索体部20の長さが、第1索体部10A、10Bを斜辺とする二等辺三角形の高さよりも長くされていると、第2索体部20には荷重が作用しない。
【0046】
そこで、吊り調整治具30を操作して、第1索体部10A、10Bと第2索体部20とのそれぞれに作用する引っ張り力の均等化を図る。この均等化は、第1索体部10A、10Bと第2索体部20とのそれぞれに作用する引っ張り力が完全に同一となる構成に限定されない。吊り具1によって揚重される海流発電装置100に対して有意なアンバランスを生じさせない程度に第1索体部10A、10Bと第2索体部20とのそれぞれに作用する引っ張り力が調整されればよい。
【0047】
<長さ調整治具の操作>
例えば、吊り調整治具30を短くする操作を例示する。なお、以下の操作手順は一例であり、実際の作業状況に応じて適宜手順の変更や必要な作業を追加してよい。
【0048】
まず、上側補助具連結部46及び下側補助具連結部47にホイストを連結する。次に、ホイストを操作して、引っ張り力を生じさせる。つまり、上側補助具連結部46と下側補助具連結部47との間隔を縮めるような力を生じさせる。そして、ナットN2、N3を緩める。そして、さらに、ホイストを操作して引っ張り力を強める。そうすると、ホイストのチェーンに作用する力が次第に大きくなる。そして、チェーンの長さが上側補助具連結部46及び下側補助具連結部47の間隔に対応する長さよりも短くなると、ボルト軸39が負担していた引っ張り力は、チェーンに作用する。この状態では、ナットN1~N4には引っ張り力は作用していないので、容易に回転させることが可能になる。そして、ホイストをさらに操作して、第2索体部20の長さが所望の長さとなるまで上側補助具連結部46と下側補助具連結部47との間の距離を縮める。なお、この操作において、第2索体部20の長さを変更する作業をどの程度行うかについては、上側補助具連結部46と下側補助具連結部47との間の距離によらず、第1索体部10A、10B及び第2索体部20に作用する引っ張り力に基づいてもよい。第2索体部20の長さが短くなると、第2索体部20が負担する引っ張り力が徐々に大きくなる。そして、一対の第1索体部10A、10Bと一本の第2索体部20のそれぞれに作用する引っ張り力が互いにおおむね等しくなる程度に、第2索体部20の長さを調整する。この調整は、引っ張り力の大きさを測定するセンサを用いて厳密に行ってもよいし、第1索体部10A、10B及び第2索体部20の張り具合を作業者が目視によって確認したり、作業者が第1索体部10A、10B及び第2索体部20に触れることによって感覚的に判断してもよい。
【0049】
上述のように、吊り具1を引っ張る作業と、吊り上げた状態で荷重の均等化を図る作業と、を繰り返す。その結果、吊り具1には、海流発電装置100の重量に起因する引っ張り力が均等化されながら徐々に作用する。そして、最終的に、それぞれの索体にほぼ均一な引っ張り力を作用させた状態で、海流発電装置100を揚重することができる。
【0050】
<作用効果>
吊り具1は、揚重装置から延びる揚重索体201の下端に連結されたフック202に海流発電装置100を吊るす。吊り具1は、一端がフック202に連結されると共に他端が海流発電装置100における水平方向に離間した発電ポッド101A、101Bに掛けられる一対の第1索体部10A、10Bと、一端がフック202に連結されると共に他端が海流発電装置100における第1索体部10A、10Bが掛けられた発電ポッド101A、101Bの間に設けられた中央ポッド103に掛けられる第2索体部20と、を備える。第2索体部20は、第2索体部20の一端から他端までの長さを調整する吊り調整治具30を有する。
【0051】
この吊り具1は、一対の第1索体部10A、10B及び1本の第2索体部20によって、海流発電装置100を吊るす。そして、吊り具1において第2索体部20は、その他端が中央ポッド103に掛けられると共に、その全長の調整が可能である。そうすると、海流発電装置100を吊るしたときに、一対の第1索体部10A、10B及び1本の第2索体部20のそれぞれに作用する海流発電装置100の重量に起因する力を、第2索体部20の長さを調整することによって、互いに近づけることができる。その結果、それぞれの索体が負担する力に偏りがなくなるので、海流発電装置100のバランスが調整される。つまり、第2索体部20の長さの調整によって、複数本の索体を用いた揚重作業を簡易に行うことができる。ひいては、玉掛け作業に要する調整時間を短縮することが可能になる。
【0052】
さらには、作業スペースの制約も改善できる。
【0053】
上記の吊り具1の第2索体部20は、フック202に連結される第2上側索体21と、海流発電装置100に掛けられる第2下側索体22と、第2上側索体21を第2下側索体22に連結する吊り調整治具30と、を有する。この構成によれば、第2索体部20をフック202に容易に吊り下げることができると共に海流発電装置100を容易に吊るすことができる。
【0054】
吊り具1の吊り調整治具30は、第2上側索体21が連結される上側基体31と、第2下側索体22が連結される下側基体32と、上側基体31に連結されると共に下側基体32に連結され、上側基体31と下側基体32との間隔を調整する長さ調整部33A、33Bと、を含む。この構成によれば、上側基体31と下側基体32との間隔L1、L2を調整する機能を有する長さ調整部33A、33Bを簡易な構成とすると共に、部品点数を少なくして小型化することができる。
【0055】
吊り具1の吊り調整治具30は、一対の長さ調整部33A、33Bを含む。一対の長さ調整部33A、33Bは、上側基体31及び下側基体32を挟むように設けられる。この構成によれば、長さ調整部33A、33Bに作用する引っ張り力の偏りをなくすことができる。
【0056】
吊り具1の吊り調整治具30は、上側基体31に固定された上側補助具連結部46と、下側基体32に固定され、上側補助具連結部46に連結された補助具の下端が連結される下側補助具連結部47と、をさらに含む。この構成によれば、長さ調整部33A、33Bの調整作業を行うときに、長さ調整部33A、33Bが負担していた引っ張り力を補助具に一時的に負担させることが可能になる。従って、長さ調整部33A、33Bの調整作業を容易に行うことができる。
【0057】
吊り具1の長さ調整部33A、33Bは、ボルト軸39及びナットN1、N2、N3、N4により構成される。この構成によれば、長さ調整部33A、33Bに作用する引っ張り力に対抗する機能と長さを調整する機能とを簡易な構成で両立させることができる。
【0058】
吊り調整治具30は、揚重装置から延びる揚重索体201の下端に連結されたフック202に海流発電装置100を吊るす吊り具1に用いられる。吊り調整治具30は、フック202に吊るされる第2上側索体21が連結される上側基体31と、海流発電装置100に掛けられる第2下側索体22が連結される下側基体32と、上側基体31に連結されると共に下側基体32に連結され、上側基体31と下側基体32との間隔を調整する長さ調整部33A、33Bと、を含む。この吊り調整治具30によれば、第2索体部20の長さの調整によって、複数本の索体を用いた揚重作業を簡易に行うことができる。
【0059】
<変形例>
以上、本開示の吊り具及び吊り調整治具について説明したが、吊り具及び吊り調整治具は、上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施してよい。
【0060】
例えば、上記の実施形態では、吊り調整治具は、上側基体31と下側基体32との間隔を調整する機構として、ボルトとナットとを含む機構を例示した。上側基体31と下側基体32との間隔を調整する機構は、そのほかの構成を採用してもよい。例えば、ボルトとナットとを含む機構に代えて、油圧装置を採用してもよい。この構成によっても、長さを調整する機能を実現することができる。
【符号の説明】
【0061】
1A,1B 吊り具
10A,10B 第1索体部
11 第1上側索体
12 第1下側索体
13 第1連結具
20 第2索体部
21 第2上側索体
22 第2下側索体
30 吊り調整治具
31 上側基体
32 下側基体
33A,33B 長さ調整部
31h1 上側穴
33 長さ調整部
31h2 下側穴
34A,34B 板状部材
36 スペーサ
34h 穴
37 上側軸体
38 下側軸体
39 ボルト軸
41 上側突出部
41h 上側ボルト軸穴
42 下側突出部
42h 下側ボルト軸穴
46 上側補助具連結部
47 下側補助具連結部
100 海流発電装置(揚重対象物)
101A 発電ポッド
101B 発電ポッド
102 クロスビーム
103 中央ポッド
104 発電用タービン
105 ブレード
201 揚重索体
202 フック
N1,N2,N3,N4 ナット



図1
図2
図3