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  • 特許-磁性トナー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】磁性トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20240509BHJP
   G03G 9/083 20060101ALI20240509BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G03G9/097 351
G03G9/083
G03G9/087 331
G03G9/087 325
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020090753
(22)【出願日】2020-05-25
(65)【公開番号】P2021189201
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】辻廣 昌己
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-020621(JP,A)
【文献】特開2000-292969(JP,A)
【文献】特開2020-038323(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020998(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195526(WO,A1)
【文献】特開2019-053155(JP,A)
【文献】特開2019-056744(JP,A)
【文献】特開2019-101410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/08-9/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー粒子を含む、正帯電性の磁性トナーであって、
前記トナー粒子は、ポリエステル樹脂マトリックスとビニル樹脂ドメインと磁性粉とを含むトナー母粒子を含有し、
前記ビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂は、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位を含み、
前記トナー母粒子の表面領域のうち、前記ビニル樹脂ドメインが露出している領域の面積割合は、0.02%以上1.00%以下である、磁性トナー。
【請求項2】
前記未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位は、下記式(1-1)で表される繰返し単位である、請求項1に記載の磁性トナー。
【化1】
(前記式(1-1)中、R1は、フェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は水素原子を表す。)
【請求項3】
前記ビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂は、下記式(1-2)で表される繰返し単位を更に含む、請求項2に記載の磁性トナー。
【化2】
(前記式(1-2)中、
1は、前記式(1-1)中のR1と同義であり、
*は、前記ポリエステル樹脂マトリックスを構成するポリエステル樹脂中の原子に結合する部位を表す。)
【請求項4】
ガスクロマトグラフィー質量分析法により測定される、前記磁性トナー1gに含まれる前記未開環のオキサゾリン基の量は、0.10μmol以上40.00μmol以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂マトリックスを構成するポリエステル樹脂は、3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位を有し、
前記3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位の含有率は、前記ポリエステル樹脂中のカルボン酸に由来する全繰返し単位に対して、0.5mol%以上1.5mol%以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁性トナー。
【請求項6】
前記3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位は、トリメリット酸に由来する繰返し単位である、請求項5に記載の磁性トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正帯電性の磁性トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
静電潜像の現像に用いられるトナーには、大きく分けて非磁性トナーと磁性トナーとがある。非磁性トナーは、キャリアと混合して2成分現像剤として現像に用いられることが多い。一方、磁性トナーは、そのまま1成分現像剤として現像に用いられることが多い。
【0003】
1成分現像方式は、2成分現像方式に比べて、現像装置内のトナーの貯留量が多く、トナーの滞留時間が長い。このため、1成分現像方式では、現像装置内で磁性トナーが長時間攪拌混合されることによって、磁性トナーの過剰帯電が生じやすくなる。磁性トナーの過剰帯電が生じると、現像スリーブ上のトナー層が乱れる現象(以下、「層乱れ」と記載することがある)が発生しやすくなる。層乱れは、特に、低温低湿環境下において発生しやすい。層乱れが発生すると、画像不良(例えば、波状の縞模様)が発生しやすくなる。
【0004】
トナーの帯電安定性を確保するために、特許文献1では、第3級アミノ基を有する無機微粉体をトナー粒子表面に外添することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平5-66604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術だけでは、低温定着性を確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できる磁性トナーを得ることは難しい。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温定着性を確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できる磁性トナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る正帯電性の磁性トナーは、トナー粒子を含む。前記トナー粒子は、ポリエステル樹脂ドメインとビニル樹脂ドメインと磁性粉とを含むトナー母粒子を含有する。前記ビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂は、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位を含む。前記トナー母粒子の表面領域のうち、前記ビニル樹脂ドメインが露出している領域の面積割合は、0.02%以上1.00%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温定着性を確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できる磁性トナーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る磁性トナーに含まれるトナー母粒子の断面構造の一例を示す図である。
図2】実施例の磁性トナーに含まれるトナー母粒子の表面の一例を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。まず、本明細書中で使用される用語について説明する。トナーは、トナー粒子の集合体(例えば粉体)である。外添剤は、外添剤粒子の集合体(例えば粉体)である。磁性粉は、磁性粒子の集合体(例えば粉体)である。粉体(より具体的には、トナー粒子の粉体、外添剤粒子の粉体、磁性粒子の粉体等)に関する評価結果(形状、物性等を示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から粒子を相当数選び取って、それら粒子の各々について測定した値の個数平均である。
【0012】
粒子(より詳しくは、粒子の粉体)の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-950」)を用いて測定した、体積基準のメディアン径である。粉体の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-7401F」)及び画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて測定した、100個の一次粒子の円相当径(ヘイウッド径:一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。なお、粒子の個数平均一次粒子径は、特に断りがない限り、粉体中の粒子の個数平均一次粒子径(粉体の個数平均一次粒子径)を指す。
【0013】
帯電性は、何ら規定していなければ、摩擦帯電における帯電性を意味する。例えば、日本画像学会から提供される標準キャリア(負帯電極性トナー用標準キャリア:N-01、正帯電極性トナー用標準キャリア:P-01)と測定対象(例えばトナー)とを混ぜて攪拌することで、測定対象を摩擦帯電させる。摩擦帯電させる前と後とでそれぞれ、例えば吸引式小型帯電量測定装置(トレック社製「MODEL 212HS」)で測定対象の帯電量を測定し、摩擦帯電の前後での帯電量の変化が大きい測定対象ほど帯電性が強いことを示す。
【0014】
軟化点(Tm)の測定値は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT-500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。ガラス転移点(Tg)の測定値は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC-6220」)を用いて「JIS(日本産業規格)K7121-2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、ガラス転移に起因する変曲点の温度(詳しくは、ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点の温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。
【0015】
材料の「主成分」は、何ら規定していなければ、質量基準で、その材料に最も多く含まれる成分を意味する。
【0016】
酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」で規定された中和滴定法に従い測定した値である。
【0017】
数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0018】
「有機基(より具体的には、アルキル基等)がフェニル基で置換されていてもよい」とは、有機基の水素原子の一部又は全部がフェニル基で置換されていてもよいことを意味する。
【0019】
「炭素原子数1以上6以下のアルキル基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、及びn-ヘキシル基が挙げられる。
【0020】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。「ビニル樹脂」は、ビニル基(CH2=CH-)又はビニル基中の水素が置換された基を有する単量体(ビニル化合物)の重合体である。
【0021】
<磁性トナー>
本実施形態に係る正帯電性の磁性トナー(以下、単にトナーと記載することがある)は、例えば静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態に係るトナーは、1成分現像剤として使用できる。本実施形態に係るトナーは、例えば現像装置内において、現像スリーブ又はブレードとの摩擦により正に帯電する。
【0022】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、ポリエステル樹脂ドメインとビニル樹脂ドメインと磁性粉とを含むトナー母粒子を含有する。ビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂は、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位を含む。トナー母粒子の表面領域のうち、ビニル樹脂ドメインが露出している領域の面積割合は、0.02%以上1.00%以下である。
【0023】
以下、トナー母粒子の表面領域のうち、ビニル樹脂ドメインが露出している領域の面積割合(単位:%)を、「ビニル樹脂ドメインの露出面積割合」又は、単に「露出面積割合」と記載することがある。露出面積割合の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0024】
本実施形態に係るトナーは、上述の構成を備えることにより、低温定着性を確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できる。その理由は、以下のように推測される。
【0025】
本実施形態では、トナー母粒子中のビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂が、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位を含む。未開環のオキサゾリン基は、強い正帯電性を示す。また、本実施形態では、ビニル樹脂ドメイン(強い正帯電性を示す未開環のオキサゾリン基を含むドメイン)の露出面積割合が、0.02%以上1.00%以下である。これらのことから、本実施形態では、低温低湿環境下において現像装置内でトナーが長時間攪拌混合されても、トナーの正帯電量を安定して維持できる。よって、本実施形態に係るトナーによれば、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できる。
【0026】
他方、トナー母粒子の表面領域において、未開環のオキサゾリン基を含むビニル樹脂の占める面積割合が多すぎると、トナーの低温定着性の確保が困難になる傾向があることが、本発明者の検討により判明した。本実施形態では、ビニル樹脂ドメインの露出面積割合の上限を1.00%に設定することにより、トナーの低温定着性を確保している。
【0027】
従って、本実施形態に係るトナーは、低温定着性を確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できる。
【0028】
本実施形態において、低温定着性をより容易に確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、ガスクロマトグラフィー質量分析法により測定されるトナー1gに含まれる未開環のオキサゾリン基の量は、0.10μmol以上40.00μmol以下であることが好ましく、0.10μmol以上36.60μmol以下であることがより好ましい。以下、ガスクロマトグラフィー質量分析法により測定されるトナー1gに含まれる未開環のオキサゾリン基の量(単位:μmol)を、「未開環オキサゾリン基含有量」と記載することがある。未開環オキサゾリン基含有量の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。
【0029】
本実施形態では、ポリエステル樹脂ドメイン及びビニル樹脂ドメインは、いずれも結着樹脂のドメインである。つまり、本実施形態では、トナー母粒子は、結着樹脂(結着樹脂のドメイン)と、磁性粉とを含む。本実施形態において、トナー母粒子は、結着樹脂及び磁性粉に加え、必要に応じて、磁性粉以外の内添剤(例えば、着色剤、離型剤、及び電荷制御剤の少なくとも1つ)を含有してもよい。
【0030】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、外添剤を備えていてもよい。トナー粒子が外添剤を更に備える場合には、トナー粒子は、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した外添剤とを備える。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。外添剤を割愛する場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。
【0031】
以下、本実施形態に係るトナーの詳細について、適宜図面を参照しながら説明する。なお、参照する図1は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数、形状等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。
【0032】
[トナー粒子の構成]
以下、図1を参照して、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子の構成(詳しくは、トナー母粒子の構成)について説明する。図1は、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー母粒子の断面構造の一例を示す図である。
【0033】
図1に示すトナー母粒子10は、ポリエステル樹脂ドメイン11と、複数個のビニル樹脂ドメイン12と、磁性粉とを含む。磁性粉は、磁性粒子13の集合体である。ビニル樹脂ドメイン12を構成するビニル樹脂は、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位を含む。ビニル樹脂ドメイン12の露出面積割合は、0.02%以上1.00%以下である。
【0034】
低温定着性をより容易に確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、ビニル樹脂ドメイン12のドメイン径は、50nm以上200nm以下であることが好ましい。なお、ビニル樹脂ドメイン12のドメイン径は、透過電子顕微鏡により得られた1個のトナー母粒子10の断面撮影像中に存在する10個のビニル樹脂ドメイン12の円相当径(ビニル樹脂ドメイン12の断面の面積と同じ面積を有する円の直径)の算術平均値である。ビニル樹脂ドメイン12のドメイン径は、例えば、トナー母粒子10の調製条件(より具体的には、溶融混練条件等)を変更することにより調整できる。
【0035】
画像形成に適したトナーを得るためには、トナー母粒子10の体積中位径(D50)は、4μm以上9μm以下であることが好ましい。
【0036】
以上、図1を参照しながら、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子の構成の一例について説明した。
【0037】
[トナー粒子の要素]
以下、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子の要素について説明する。
【0038】
(結着樹脂)
トナー母粒子は、例えば全成分の40質量%以上を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナー母粒子全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、酸価等)を調整することができる。
【0039】
トナー母粒子は、結着樹脂として、ポリエステル樹脂ドメインを構成するポリエステル樹脂と、ビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂とを含む。低温定着性をより容易に確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、トナー母粒子中のビニル樹脂の量は、トナー母粒子中のポリエステル樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.01質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0040】
トナー母粒子は、結着樹脂として、ポリエステル樹脂及びビニル樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。低温定着性をより容易に確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、トナー母粒子中のポリエステル樹脂及びビニル樹脂の合計含有率は、結着樹脂の全量に対して、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0041】
以下、トナー母粒子中に含まれるポリエステル樹脂及びビニル樹脂について説明する。
【0042】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、一種以上の多価アルコールと一種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するための多価アルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、脂肪族ジオール、ビスフェノール等)、及び3価以上のアルコールが挙げられる。ポリエステル樹脂を合成するための多価カルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸、及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。なお、多価カルボン酸の代わりに、縮重合によりエステル結合を形成できる多価カルボン酸誘導体(より具体的には、多価カルボン酸の無水物、多価カルボン酸ハライド等)を使用してもよい。
【0043】
脂肪族ジオールの好適な例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、α,ω-アルカンジオール(より具体的には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,12-ドデカンジオール等)、2-ブテン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0044】
ビスフェノールの好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0045】
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0046】
2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、1,10-デカンジカルボン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n-ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n-オクチルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸等)、及びアルケニルコハク酸(より具体的には、n-ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
【0047】
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、トリメリット酸(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸が挙げられる。
【0048】
低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、ポリエステル樹脂ドメインを構成するポリエステル樹脂は、3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位を有することが好ましい。また、低温定着性をより容易に確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位の含有率は、ポリエステル樹脂中のカルボン酸に由来する全繰返し単位に対して、0.5mol%以上1.5mol%以下であることが好ましい。以下、ポリエステル樹脂中のカルボン酸に由来する全繰返し単位に対する、3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位の含有率を、特定多価カルボン酸単位含有率と記載することがある。特定多価カルボン酸単位含有率は、例えば、核磁気共鳴装置(NMR装置)により測定することができる。
【0049】
低温定着性をより容易に確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を更に抑制するためには、ポリエステル樹脂ドメインを構成するポリエステル樹脂がトリメリット酸に由来する繰返し単位を有し、かつポリエステル樹脂中のカルボン酸に由来する全繰返し単位に対する、トリメリット酸に由来する繰返し単位の含有率が0.5mol%以上1.5mol%以下であることが好ましい。
【0050】
トナー母粒子からのビニル樹脂ドメインの脱離を抑制するためには、ポリエステル樹脂ドメインを構成するポリエステル樹脂の酸価は、10.0mgKOH/g以上20.0mgKOH/g以下であることが好ましく、15.0mgKOH/g以上17.0mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0051】
(ビニル樹脂)
ビニル樹脂は、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位を含む。低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位としては、下記式(1-1)で表される繰返し単位が好ましい。以下、下記式(1-1)で表される繰返し単位を、繰返し単位(1-1)と記載することがある。
【0052】
【化1】
【0053】
式(1-1)中、R1は、フェニル基で置換されていてもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は水素原子を表す。R1の好適な例としては、水素原子、メチル基、エチル基、及びイソプロピル基が挙げられる。低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、R1としては、水素原子が好ましい。
【0054】
繰返し単位(1-1)を含むビニル樹脂は、例えば、下記式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と記載することがある)を少なくとも含む単量体の重合物(樹脂)である。
【0055】
【化2】
【0056】
式(1)中、R1は、式(1-1)中のR1と同義である。
【0057】
化合物(1)を少なくとも含む単量体の重合物は、化合物(1)と、化合物(1)以外のビニル化合物(他のビニル化合物)とを共重合させた重合物であってもよい。ビニル化合物は、ビニル基等に含まれる炭素-炭素二重結合(C=C)により付加重合して、高分子(樹脂)になり得る。
【0058】
低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制するためには、他のビニル化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(より具体的には、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステル)、及びスチレン系単量体(より具体的には、スチレン)からなる群より選択される一種以上のビニル化合物が好ましい。
【0059】
繰返し単位(1-1)は、未開環のオキサゾリン基を有する。未開環のオキサゾリン基は、環状構造を有し、強い正帯電性を示す。未開環のオキサゾリン基は、カルボキシ基、芳香族性スルファニル基、及び芳香族性水酸基と反応し易い。例えば、後述するトナー母粒子の調製工程(より具体的には、溶融混練工程)において、ビニル樹脂中の繰返し単位(1-1)がポリエステル樹脂のカルボキシ基と反応すると、オキサゾリン基が開環し、下記式(1-2)に示すようにアミド結合及びエステル結合が形成される。こうした結合が形成されることで、ポリエステル樹脂ドメインとビニル樹脂ドメインとの結合が強固になり、トナー母粒子からのビニル樹脂ドメインの脱離が抑制されることになる。これにより、低温低湿環境下における層乱れの発生をより抑制できるトナーが得られる。なお、下記式(1-2)中のR1は、式(1-1)中のR1と同義である。また、下記式(1-2)中の*は、ポリエステル樹脂ドメインを構成するポリエステル樹脂中の原子に結合する部位を表す。
【0060】
【化3】
【0061】
トナーの正帯電性を安定して維持しつつ、トナー母粒子からのビニル樹脂ドメインの脱離を抑制するためには、ビニル樹脂は、繰返し単位(1-1)と、式(1-2)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1-2)と記載することがある)とを有することが好ましい。以下、繰返し単位(1-1)と繰返し単位(1-2)とを少なくとも含む樹脂を、特定ビニル樹脂と記載することがある。トナーの正帯電性をより安定して維持しつつ、トナー母粒子からのビニル樹脂ドメインの脱離を抑制するためには、ビニル樹脂ドメインが特定ビニル樹脂から構成されている(ビニル樹脂ドメインを構成する樹脂が特定ビニル樹脂のみである)ことが好ましい。
【0062】
特定ビニル樹脂中の繰返し単位(1-1)の割合(モル比)が高くなるほど、特定ビニル樹脂の正帯電性(ひいてはトナーの正帯電性)が高くなる傾向がある。一方、特定ビニル樹脂中の繰返し単位(1-2)の割合(モル比)が高くなるほど、ポリエステル樹脂ドメインとビニル樹脂ドメインとの結合が強固になる傾向がある。特定ビニル樹脂中の繰返し単位(1-1)と繰返し単位(1-2)とのモル比は、例えば、ポリエステル樹脂ドメインを構成するポリエステル樹脂の酸価を変更することにより調整できる。
【0063】
トナー母粒子の調製工程中にオキサゾリン基が開環して繰返し単位(1-2)が形成されたことを確認する方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。詳しくは、所定量のトナー(試料)を溶剤に溶解させる。得られた溶液をNMR(核磁気共鳴)測定用試験管に入れ、NMR装置を用いて1H-NMRスペクトルを測定する。トナー母粒子が繰返し単位(1-2)を有する場合、1H-NMRスペクトルでは、化学シフトδ6.5付近に、第2級アミドに由来する三重線(トリプレット)のシグナルが出現する。よって、得られた1H-NMRスペクトルにおいて、化学シフトδ6.5付近に三重線のシグナルが確認されれば、トナー母粒子の調製工程中にオキサゾリン基が開環して繰返し単位(1-2)が形成されたと推定される。1H-NMRスペクトルの測定条件の一例としては、以下に示す条件が挙げられる。
【0064】
1H-NMRスペクトルの測定条件の一例)
NMR装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(FT-NMR)(日本電子株式会社製「JNM-AL400」)
NMR測定用試験管:5mm試験管
溶剤:重水素化クロロホルム(1mL)
試料温度:20℃
試料質量:20mg
積算回数:128回
化学シフトの内部基準物質:テトラメチルシラン(TMS)
【0065】
ビニル樹脂ドメインの原料としては、例えばオキサゾリン基含有高分子エマルションを使用できる。オキサゾリン基含有高分子エマルションの市販品としては、例えば、株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2030E」、及びGHEN MATERIALS社製「APR-500」が挙げられる。「エポクロス(登録商標)K-2035E」及び「エポクロス(登録商標)K-2030E」は、2-ビニル-2-オキサゾリン(化合物(1)の一種)と、スチレンと、アクリル酸系単量体との共重合体を含む。GHEN MATERIALS社製「APR-500」は、2-ビニル-2-オキサゾリン(化合物(1)の一種)と、アクリル酸系単量体との共重合体を含む。
【0066】
低温定着性を更に容易に確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を更に抑制するためには、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましい。
条件1:ビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂が特定ビニル樹脂であり、かつ未開環オキサゾリン基含有量が0.10μmol以上40.00μmol以下である。
条件2:条件1を満たし、かつ特定多価カルボン酸単位含有率が0.5mol%以上1.5mol%以下である。
【0067】
(磁性粉)
トナー母粒子は、磁性粉を含有する。磁性粉に含まれる磁性粒子は、例えば磁性材料を主成分として含む。磁性材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル等)及びその合金、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、二酸化クロム等)、並びに強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)が挙げられる。
【0068】
高画質の画像を継続的に形成するためには、磁性粒子としては、マグネタイトを主成分として含む粒子が好ましく、マグネタイトから構成された粒子(マグネタイト粒子)がより好ましい。なお、マグネタイト粒子は、表面処理剤(例えば疎水化処理剤)で処理されていてもよい。
【0069】
高画質の画像を形成するためには、磁性粉の量は、結着樹脂100質量部に対して、50質量部以上100質量部以下であることが好ましい。また、高画質の画像を形成するためには、磁性粉に含まれる磁性粒子のBET法による平均径は、0.10μm以上1.00μm以下であることが好ましい。
【0070】
(着色剤)
トナー母粒子は、着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、例えば黒色着色剤を使用できる。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0071】
また、黒色着色剤として、上述した磁性粉を用いてもよい。つまり、磁性粉は、黒色着色剤としての機能を有していてもよい。この場合、画像形成に適したトナーを得るためには、磁性粉(黒色着色剤としての機能及び磁性体としての機能を有する成分)の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、50質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0072】
(離型剤)
トナー母粒子は、離型剤を含有していてもよい。離型剤は、例えば、耐オフセット性に優れるトナーを得る目的で使用される。耐オフセット性に優れるトナーを得るためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0073】
離型剤としては、例えば、エステルワックス、ポリオレフィンワックス(より具体的には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等)、マイクロクリスタリンワックス、フッ素樹脂ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、及びカスターワックスが挙げられる。エステルワックスとしては、天然エステルワックス(より具体的には、カルナバワックス、ライスワックス等)、及び合成エステルワックスが挙げられる。本実施形態では、一種の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
【0074】
(電荷制御剤)
トナー母粒子は、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、帯電安定性又は帯電立ち上がり特性に優れるトナーを得るために使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電させることができるか否かの指標になる。
【0075】
トナー母粒子に正帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナー母粒子のカチオン性(正帯電性)を強めることができる。
【0076】
正帯電性の電荷制御剤の例としては、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2-オキサジン、1,3-オキサジン、1,4-オキサジン、1,2-チアジン、1,3-チアジン、1,4-チアジン、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジン、1,2,4-オキサジアジン、1,3,4-オキサジアジン、1,2,6-オキサジアジン、1,3,4-チアジアジン、1,3,5-チアジアジン、1,2,3,4-テトラジン、1,2,4,5-テトラジン、1,2,3,5-テトラジン、1,2,4,6-オキサトリアジン、1,3,4,5-オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン等のアジン化合物;アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリ-ンBH/C、アジンディープブラックEW、アジンディープブラック3RL等の直接染料;ニグロシンBK、ニグロシンNB、ニグロシンZ等の酸性染料;アルコキシル化アミン;アルキルアミド;ベンジルデシルヘキシルメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩等の4級アンモニウム塩;4級アンモニウムカチオン基を含む樹脂が挙げられる。これらの電荷制御剤の一種のみを使用してもよく、二種以上の電荷制御剤を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
帯電安定性に優れるトナーを得るためには、電荷制御剤の量は、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0078】
(外添剤)
トナー粒子は、外添剤を更に備えてもよい。外添剤の外添方法としては、例えば、トナー母粒子(粉体)と外添剤粒子(粉体)とを一緒に攪拌することで、トナー母粒子の表面に外添剤粒子を付着させる方法が挙げられる。
【0079】
外添剤粒子としては、無機粒子が好ましく、シリカ粒子、及び金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等)の粒子が特に好ましい。流動性に優れるトナーを得るためには、外添剤粒子として、個数平均一次粒子径5nm以上50nm以下の無機粒子(粉体)を使用することが好ましい。本実施形態では、一種類の外添剤粒子を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤粒子を併用してもよい。
【0080】
トナー母粒子からの外添剤粒子の脱離を抑制しながら外添剤の機能を十分に発揮させるためには、外添剤の量(複数種の外添剤粒子を使用する場合には、それら外添剤粒子の合計量)が、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0081】
外添剤粒子は、表面処理されていてもよい。例えば、外添剤粒子としてシリカ粒子を使用する場合、表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤等)、シラザン化合物(より具体的には、鎖状シラザン化合物、環状シラザン化合物等)、及びシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)が挙げられる。表面処理剤としては、シランカップリング剤及びシラザン化合物からなる群より選ばれる一種以上が特に好ましい。シランカップリング剤の好適な例としては、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン、アミノシラン等)が挙げられる。シラザン化合物の好適な例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)が挙げられる。シリカ基体(未処理のシリカ粒子)の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ基体の表面に存在する多数の水酸基(-OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、水酸基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。
【0082】
<トナーの製造方法>
次に、本実施形態に係るトナーの好適な製造方法について説明する。
【0083】
[トナー母粒子の調製工程]
まず、凝集法又は粉砕法によりトナー母粒子を調製する。凝集法は、例えば、凝集工程及び合一化工程を含む。凝集工程では、トナー母粒子を構成する成分を含む微粒子を水性媒体中で凝集させて、凝集粒子を形成する。合一化工程では、凝集粒子に含まれる成分を水性媒体中で合一化させてトナー母粒子を形成する。
【0084】
次に粉砕法を説明する。粉砕法によれば、比較的容易にトナー母粒子を調製できる上、製造コストの低減が可能である。粉砕法でトナー母粒子を調製する場合、トナー母粒子の調製工程は、例えば溶融混練工程と、粉砕工程とを備える。トナー母粒子の調製工程は、溶融混練工程の前に混合工程を更に備えてもよい。また、トナー母粒子の調製工程は、粉砕工程後に、微粉砕工程及び分級工程の少なくとも一方を更に備えてもよい。
【0085】
混合工程では、ポリエステル樹脂と、オキサゾリン基含有高分子エマルションと、磁性粉と、必要に応じて添加する他の内添剤とを混合して、混合物を得る。ビニル樹脂ドメインの露出面積割合、及び未開環オキサゾリン基含有量は、各々、例えば、上記混合物を得る際、ポリエステル樹脂と、オキサゾリン基含有高分子エマルションとの質量比率を変更することにより調整できる。溶融混練工程では、トナー材料を溶融し混練して、溶融混練物を得る。トナー材料としては、例えば混合工程で得られる混合物が用いられる。未開環オキサゾリン基含有量は、溶融混練工程の条件(より具体的には、溶融混練温度等)を変更することによっても調整できる。粉砕工程では、得られた溶融混練物を、例えば室温(25℃)まで冷却した後、粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程で得られた粉砕物の小径化が必要な場合は、粉砕物を更に粉砕する工程(微粉砕工程)を実施してもよい。また、粉砕物の粒子径を揃える場合は、得られた粉砕物を分級する工程(分級工程)を実施してもよい。なお、上記粉砕工程において、溶融混練物を粉砕しながら分級してもよい。以上の工程により、粉砕物であるトナー母粒子が得られる。
【0086】
[外添工程]
その後、必要に応じて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いて、得られたトナー母粒子と外添剤とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。なお、トナー母粒子に外添剤を付着させずに、トナー母粒子をトナー粒子として使用してもよい。こうして、上述した実施形態に係るトナー(トナー粒子の粉体)が得られる。
【実施例
【0087】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
【0088】
<ポリエステル樹脂の合成>
ポリエステル樹脂ドメインを構成するポリエステル樹脂として使用した、ポリエステル樹脂P-1~P-3の合成方法について、それぞれ説明する。
【0089】
[ポリエステル樹脂P-1の合成]
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量5Lの4つ口フラスコをマントルヒーターにセットした。続けて、フラスコ内に、テレフタル酸1245gと、イソフタル酸1245gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数:2モル)1248gと、エチレングリコール744gとを投入した。続けて、フラスコ内を窒素雰囲気にした後、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコ内温が250℃になるまでフラスコを加熱した。次いで、温度250℃の条件で、フラスコ内容物を4時間反応させた。次いで、フラスコ内に、三酸化アンチモン0.875gと、トリフェニルホスフェート0.548gと、テトラ-n-ブチルチタネート0.102gとを投入した。次いで、フラスコ内部の圧力を8kPaに減圧し、フラスコ内部の温度を280℃まで上昇させた後、温度280℃の条件で、フラスコ内容物を6時間反応させた。次いで、フラスコ内部の圧力を常圧(101kPa)に戻し、フラスコ内温を270℃まで降下させた後、フラスコ内に、トリメリット酸30gを投入した。次いで、温度270℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた後、フラスコ内容物を冷却し、ポリエステル樹脂P-1を得た。
【0090】
[ポリエステル樹脂P-2の合成]
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量5Lの4つ口フラスコをマントルヒーターにセットした。続けて、フラスコ内に、セバシン酸1245gと、1,10-デカンジカルボン酸1245gと、1,4-ブタンジオール1248gと、1,6-ヘキサンジオール744gとを投入した。続けて、フラスコ内を窒素雰囲気にした後、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコ内温が250℃になるまでフラスコを加熱した。次いで、温度250℃の条件で、フラスコ内容物を4時間反応させた。次いで、フラスコ内に、チタン(IV)メトキシド0.875gと、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)0.548gと、トリフェニルホスフェート0.102gとを投入した。次いで、フラスコ内部の圧力を8kPaに減圧し、フラスコ内部の温度を280℃まで上昇させた後、温度280℃の条件で、フラスコ内容物を6時間反応させた。次いで、フラスコ内部の圧力を常圧(101kPa)に戻し、フラスコ内温を270℃まで降下させた後、フラスコ内に、トリメリット酸30gを投入した。次いで、温度270℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた後、フラスコ内容物を冷却し、ポリエステル樹脂P-2を得た。
【0091】
[ポリエステル樹脂P-3の合成]
トリメリット酸のフラスコ内への投入量を60gに変更したこと以外は、ポリエステル樹脂P-1の合成と同じ方法で、ポリエステル樹脂P-3を得た。
【0092】
得られたポリエステル樹脂P-1~P-3のそれぞれについて、トリメリット酸由来の繰返し単位の含有率、Tg、Tm、Mn、Mw、分散度(Mw/Mn)、酸価、及び水酸基価を表1に示す。なお、表1において、トリメリット酸由来の繰返し単位の含有率は、ポリエステル樹脂中のカルボン酸に由来する全繰返し単位に対する、トリメリット酸に由来する繰返し単位の含有率(単位:mol%)である。例えば、ポリエステル樹脂P-1の場合、トリメリット酸由来の繰返し単位の含有率は、テレフタル酸由来の繰返し単位とイソフタル酸由来の繰返し単位とトリメリット酸由来の繰返し単位との合計物質量に対する、トリメリット酸由来の繰返し単位の含有率(単位:mol%)である。
【0093】
【表1】
【0094】
<トナーの作製>
以下、トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3の作製方法について、それぞれ説明する。
【0095】
[トナーTA-1の作製]
(トナー母粒子の調製工程)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM-20B」)に、100質量部のポリエステル樹脂P-1と、マグネタイト粒子(三井金属鉱業株式会社製「TN-15」、BET法による平均径:0.17μm)90質量部と、正帯電性の電荷制御剤(藤倉化成株式会社製「アクリベース(登録商標)FCA-201-PS」、成分:4級アンモニウムカチオン基を含む樹脂)10質量部と、離型剤としてのカルナバワックス(東亜化成株式会社製)4質量部と、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)1質量部とを投入した。次いで、上記FMミキサーを用いて、回転速度200rpmで、投入したトナー材料を4分間混合した。
【0096】
続けて、得られた混合物を、2軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM-26SS」)を用いて、材料供給速度50g/分、軸回転速度100rpm、シリンダー温度(溶融混練温度)100℃の条件で溶融混練した。その後、得られた混練物を冷却した。続けて、冷却された混練物をジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製「MJT-1」)に投入し、混練物を粉砕しつつ分級した。その結果、体積中位径(D50)8μmのトナー母粒子が得られた。
【0097】
(外添工程)
次いで、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM-10B」)を用いて、回転速度3500rpmかつジャケット温度20℃の条件で、上述の方法で得られたトナー母粒子100質量部と、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)RA200」、表面処理により疎水性及び正帯電性が付与された乾式シリカ粒子、表面処理剤:ヘキサメチルジシラザン(HMDS)及びアミノシラン)0.6質量部と、酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC-100」、導電性が付与された酸化チタン粒子)0.8質量部とを、5分間混合した。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子及び酸化チタン粒子)の全量を付着させた。
【0098】
続けて、得られた粉体を、100メッシュ(目開き149μm)の篩を用いて篩別し、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-1を得た。なお、篩別の前後で、トナーを構成する成分の組成比は変化しなかった。
【0099】
[トナーTA-2の作製]
トナー母粒子の調製工程において、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)1質量部の代わりに、オキサゾリン基含有高分子エマルション(GHEN MATERIALS社製「APR-500」、固形分濃度:39質量%)0.4質量部を用いたこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-2を得た。
【0100】
[トナーTA-3の作製]
トナー母粒子の調製工程において、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)1質量部の代わりに、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2030E」、固形分濃度:40質量%)1質量部を用いたこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-3を得た。
【0101】
[トナーTA-4の作製]
トナー母粒子の調製工程において、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)のFMミキサーへの投入量を0.025質量部に変更したこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-4を得た。
【0102】
[トナーTA-5の作製]
トナー母粒子の調製工程において、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)のFMミキサーへの投入量を10質量部に変更したこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-5を得た。
【0103】
[トナーTA-6の作製]
トナー母粒子の調製工程において、100質量部のポリエステル樹脂P-1の代わりに、100質量部のポリエステル樹脂P-2を用いたこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-6を得た。
【0104】
[トナーTA-7の作製]
トナー母粒子の調製工程において、100質量部のポリエステル樹脂P-1の代わりに、100質量部のポリエステル樹脂P-3を用いたこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-7を得た。
【0105】
[トナーTB-1の作製]
トナー母粒子の調製工程において、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)をFMミキサーへ投入しなかったこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTB-1を得た。
【0106】
[トナーTB-2の作製]
トナー母粒子の調製工程において、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)のFMミキサーへの投入量を0.0125質量部に変更したこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTB-2を得た。
【0107】
[トナーTB-3の作製]
トナー母粒子の調製工程において、オキサゾリン基含有高分子エマルション(株式会社日本触媒製「エポクロス(登録商標)K-2035E」、固形分濃度:40質量%)のFMミキサーへの投入量を12質量部に変更したこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTB-3を得た。
【0108】
<ビニル樹脂ドメインの分析>
透過電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテク製「H-7100FA」)を用いて、トナーTA-1~TA-7のそれぞれに含まれるビニル樹脂ドメインのドメイン径を測定した。その結果、トナーTA-1~TA-7に含まれるビニル樹脂ドメインのドメイン径は、いずれも50nm以上200nm以下であることが分かった。なお、ビニル樹脂ドメインのドメイン径を測定するためのTEM観察用試料としては、ルテニウムで染色されたトナー母粒子の断面を含む薄片試料を用いた。また、フーリエ変換核磁気共鳴装置(FT-NMR)(日本電子株式会社製「JNM-AL400」)を用いて、トナーTA-1~TA-7のそれぞれに含まれるビニル樹脂ドメインが、特定ビニル樹脂から構成されている(特定ビニル樹脂のみで構成されている)ことを確認した。
【0109】
<ビニル樹脂ドメインの露出面積割合の測定>
まず、ノニオン界面活性剤(花王株式会社製「エマルゲン(登録商標)120」、成分:ポリオキシエチレンラウリルエーテル)の濃度2質量%水溶液100g中に、測定対象のトナー(トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3のいずれか)2.0gを分散させて、トナー分散液を得た。得られたトナー分散液に対して、超音波分散機(超音波工業株式会社製「ウルトラソニックミニウェルダーP128」、出力:100W、発振周波数:28kHz)を用いて超音波処理を5分間施した。続けて、超音波処理されたトナー分散液を、定性ろ紙(アドバンテック社製「FILTER PAPER 1号」)を用いて吸引濾別した。その後、濾物にイオン交換水50mLを加えるリスラリーと、吸引濾別とを、3回繰り返して、外添剤が除去されたトナー(トナー母粒子)を得た。
【0110】
次いで、得られたトナー母粒子を、乾燥させた後、温度25℃の雰囲気下、四酸化ルテニウム水溶液(濃度0.5質量%)の蒸気中に10分間暴露して染色した。次いで、染色されたトナー母粒子を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-7401F」)を用いて倍率50000倍で撮影し、無作為に選択した10個のトナー母粒子の二次電子像を得た。図2に、トナー母粒子の二次電子像の一例を示す。図2に示すように、トナー母粒子の表面において、ビニル樹脂ドメイン12が露出していた。
【0111】
上記二次電子像を得た後、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて、10個のトナー母粒子の各々について、ビニル樹脂ドメインの露出面積割合を計測した。露出面積割合は、式「露出面積割合=100×ビニル樹脂ドメインが露出している箇所の面積/ビニル樹脂ドメインが露出している箇所の面積とビニル樹脂ドメインが露出していない箇所の面積との合計面積」に基づいて算出した。そして、得られた10個の測定値の算術平均を、測定対象のトナーの評価値(ビニル樹脂ドメインの露出面積割合)とした。
【0112】
<未開環オキサゾリン基含有量の測定>
トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3の各々の未開環オキサゾリン基含有量は、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS法)により測定した。GC/MS法では、測定装置として、ガスクロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製「GCMS-QP2010 Ultra」)及びマルチショット・パイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製「FRONTIER LAB Multi-functional Pyrolyzer(登録商標)PY-3030D」)を用いた。カラムとしては、GCカラム(アジレント・テクノロジー社製「Agilent(登録商標)J&W ウルトライナートキャピラリGCカラム DB-5ms」、相:シロキサンポリマーにアリレンを入れてポリマーの主鎖を強化したアリレン相、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm、長さ:30m)を用いた。ガスクロマトグラフ測定条件及び質量分析測定条件を、それぞれ以下に示す。
【0113】
[ガスクロマトグラフ測定条件]
キャリアガス:ヘリウム(He)ガス
キャリア流量:1mL/分
気化室温度:210℃
熱分解温度:加熱炉「600℃」、インターフェイス部「320℃」
昇温条件:40℃で3分間保持した後、40℃から速度10℃/分で300℃まで昇温し、300℃で15分間保持した。
【0114】
[質量分析測定条件]
イオン化法:EI(Electron Impact)法
イオン源温度:200℃
インターフェイス部の温度:320℃
検出モード:スキャン(測定範囲:45m/z~500m/z)
【0115】
上記条件で測定されたマススペクトルを解析することにより未開環オキサゾリン基に由来するピークを特定し、測定されたクロマトグラムのピーク面積に基づいて、測定対象(トナー)に含まれる未開環オキサゾリン基含有量(トナー1gに含まれる未開環のオキサゾリン基の量)を求めた。未開環オキサゾリン基含有量の定量には、検量線を用いた。
【0116】
トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3のそれぞれについて、ビニル樹脂ドメインの露出面積割合及び未開環オキサゾリン基含有量を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
<評価方法>
以下、トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3の評価方法について説明する。
【0119】
[画像濃度]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を用いた。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、評価機を用いて、温度23℃かつ湿度55%RHの環境下、大きさ25mm×25mmのソリッド画像を、1枚の印刷用紙(A4サイズの普通紙、坪量:80g/m2)に印刷した。次いで、印刷したソリッド画像の画像濃度(ID)を、白色光度計(有限会社東京電色製「TC-6D」)を用いて測定した。そして、得られた画像濃度(ID)が1.10以上であれば「良い」と評価し、得られた画像濃度(ID)が1.10未満であれば「良くない」と評価した。
【0120】
[最低定着温度]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を改造して定着温度を変更可能にした画像形成装置を使用した。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、評価機を用いて、温度23℃かつ湿度55%RHの環境下、坪量80g/m2の印刷用紙(A4サイズの普通紙)に、大きさ25mm×25mmのソリッド画像(詳しくは、定着装置に通す前の未定着のトナー像)を形成した。
【0121】
続けて、上記ソリッド画像が形成された印刷用紙を評価機の定着装置に通した。この際、定着装置の定着温度を170℃から1℃ずつ上げながら各定着温度について定着の可否を判定し、ソリッド画像(トナー像)を印刷用紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。
【0122】
トナーを定着させることができたか否かは、以下に示すような擦り試験で確認した。詳しくは、白色光度計(有限会社東京電色製「TC-6D」)を用いて、定着装置に通した印刷用紙上のソリッド画像の画像濃度(以下、擦り前IDと記載する)を測定した。続けて、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、分銅の重さのみが印刷用紙に印加されるようにして、印刷用紙上の画像を10往復摩擦した。続けて、白色光度計(有限会社東京電色製「TC-6D」)を用いて、印刷用紙上の画像の画像濃度(以下、擦り後IDと記載する)を測定した。続けて、式「定着率=100×擦り後ID/擦り前ID」に従って、定着率(単位:%)を求めた。定着率が90%以上となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。最低定着温度が225℃以下であれば「低温定着性を確保できている」と評価し、最低定着温度が225℃を超える場合、「低温定着性を確保できていない」と評価した。
【0123】
[帯電量]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を用いた。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、温度23℃かつ湿度55%RHの環境下、評価機の現像装置を5分間駆動させた後、評価機から現像装置を取り出した。次いで、温度23℃かつ湿度55%RHの環境下、吸引式小型帯電量測定装置(トレック社製「MODEL 212HS」)を用いて、現像装置の現像スリーブに付着したトナーを吸引し、吸引したトナーの帯電量(単位:μC/g)を測定した。そして、得られた帯電量が7.9μC/g以上であれば「良い」と評価し、得られた帯電量が7.9μC/g未満であれば「良くない」と評価した。
【0124】
[層乱れ]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を用いた。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、評価機を用いて、温度10℃かつ湿度10%RHの環境下、印字率3%の文字画像を1万枚の印刷用紙(A4サイズの普通紙、坪量:80g/m2)に連続で印刷した後、大きさ25mm×25mmのソリッド画像を1枚の印刷用紙(A4サイズの普通紙、坪量:80g/m2)に印刷した。次いで、印刷したソリッド画像を目視で観察し、以下の基準で判定した。判定結果がAの場合、「低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できている」と評価した。一方、判定結果がBの場合、「低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できていない」と評価した。
【0125】
(判定基準)
A:層乱れの発生に起因する画像不良を確認できなかった。
B:層乱れの発生に起因する画像不良を確認できた。
【0126】
<評価結果>
トナーTA-1~TA-7及びTB-1~TB-3のそれぞれについて、画像濃度、最低定着温度、帯電量、及び層乱れの判定結果を表3に示す。
【0127】
【表3】
【0128】
トナーTA-1~TA-7では、トナー母粒子が、ポリエステル樹脂ドメインとビニル樹脂ドメインと磁性粉とを含んでいた。トナーTA-1~TA-7では、ビニル樹脂ドメインを構成するビニル樹脂が、未開環のオキサゾリン基を有する繰返し単位を含んでいた。表2に示すように、トナーTA-1~TA-7では、ビニル樹脂ドメインの露出面積割合が、0.02%以上1.00%以下であった。
【0129】
表3に示すように、トナーTA-1~TA-7では、最低定着温度が225℃以下であった。よって、トナーTA-1~TA-7は、低温定着性を確保できていた。トナーTA-1~TA-7では、層乱れの判定結果がAであった。よって、トナーTA-1~TA-7は、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できていた。
【0130】
トナーTB-1では、トナー母粒子が、ビニル樹脂ドメインを含んでいなかった。表2に示すように、トナーTB-2では、ビニル樹脂ドメインの露出面積割合が、0.02%未満であった。トナーTB-3では、ビニル樹脂ドメインの露出面積割合が、1.00%を超えていた。
【0131】
表3に示すように、トナーTB-1及びTB-2では、層乱れの判定結果がBであった。よって、トナーTB-1及びTB-2は、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できていなかった。トナーTB-3では、最低定着温度が225℃を超えていた。よって、トナーTB-3は、低温定着性を確保できていなかった。
【0132】
以上の結果から、本発明に係る磁性トナーによれば、低温定着性を確保しつつ、低温低湿環境下における層乱れの発生を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明に係る磁性トナーは、例えば複合機又はプリンターにおいて画像を形成するために利用することができる。
【符号の説明】
【0134】
10 :トナー母粒子
11 :ポリエステル樹脂ドメイン
12 :ビニル樹脂ドメイン
13 :磁性粒子
図1
図2