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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】トナー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20240509BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20240509BHJP
   G03G 9/083 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G03G9/087 331
G03G9/097 365
G03G9/087 325
G03G9/083
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020091302
(22)【出願日】2020-05-26
(65)【公開番号】P2021189217
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】辻廣 昌己
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-017927(JP,A)
【文献】特開2007-127920(JP,A)
【文献】国際公開第2007/049802(WO,A1)
【文献】特開2020-052153(JP,A)
【文献】特開2020-024358(JP,A)
【文献】特開2008-009172(JP,A)
【文献】特開2008-287229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/087
G03G 9/097
G03G 9/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー粒子を含むトナーであって、
前記トナー粒子は、結着樹脂と離型剤とを含むトナー母粒子を含有し、
前記結着樹脂は、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを含み、
前記ビニル樹脂は、下記一般式(1)で表される繰返し単位からなる繰返し単位を有し、
前記離型剤は、カルナバワックスを含み、
多角度レーザー光散乱検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーで測定される前記結着樹脂の絶対分子量の分布曲線において、最大ピークの絶対分子量をWabsとし、示差屈折率検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーで測定される前記結着樹脂のポリスチレン換算の相対分子量の分布曲線において、最大ピークの相対分子量をWpsとしたとき、1.30≦Wabs/Wps≦2.00の関係を満たす、トナー。
【化1】
(前記一般式(1)中、R11及びR12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、
13は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基を表す。)
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂は、3価以上のアルコールに由来する繰返し単位、及び3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位からなる群より選択される一種以上の繰返し単位を有する、請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂は、グリセロールに由来する繰返し単位、又はトリメリット酸に由来する繰返し単位を有する、請求項2に記載のトナー。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される繰返し単位は、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルに由来する繰返し単位である、請求項1~3のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項5】
前記ビニル樹脂は、スチレンに由来する繰返し単位、アクリロニトリルに由来する繰返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰返し単位からなる群より選択される一種以上の繰返し単位を更に有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のトナー。
【化2】
(前記一般式(2)中、R21及びR22は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、
23は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。)
【請求項6】
前記一般式(2)で表される繰返し単位は、メタクリル酸メチルに由来する繰返し単位である、請求項5に記載のトナー。
【請求項7】
前記ビニル樹脂の量は、前記ポリエステル樹脂100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のトナー。
【請求項8】
前記トナー母粒子は、磁性粉を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のトナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
トナーの低温定着性を確保する目的で、結着樹脂としてポリエステル樹脂が広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-125916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示される技術だけでは、低温定着性を確保しつつ、定着強度に優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性に優れるトナーを得ることは難しい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温定着性を確保しつつ、定着強度に優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性に優れるトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るトナーは、トナー粒子を含む。前記トナー粒子は、結着樹脂と離型剤とを含むトナー母粒子を含有する。前記結着樹脂は、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを含む。前記ビニル樹脂は、アクリル酸に由来する繰返し単位、メタクリル酸に由来する繰返し単位、及び下記一般式(1)で表される繰返し単位からなる群より選択される一種以上の繰返し単位を有する。多角度レーザー光散乱検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーで測定される前記結着樹脂の絶対分子量の分布曲線において、最大ピークの絶対分子量をWabsとし、示差屈折率検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーで測定される前記結着樹脂のポリスチレン換算の相対分子量の分布曲線において、最大ピークの相対分子量をWpsとしたとき、1.30≦Wabs/Wps≦2.00の関係を満たす。
【0007】
【化1】
【0008】
前記一般式(1)中、R11及びR12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、R13は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基を表す。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温定着性を確保しつつ、定着強度に優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性に優れるトナーを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。まず、本明細書中で使用される用語について説明する。トナーは、トナー粒子の集合体(例えば粉体)である。外添剤は、外添剤粒子の集合体(例えば粉体)である。磁性粉は、磁性粒子の集合体(例えば粉体)である。粉体(より具体的には、トナー粒子の粉体、外添剤粒子の粉体等)に関する評価結果(形状、物性等を示す値)は、何ら規定していなければ、粉体から粒子を相当数選び取って、それら粒子の各々について測定した値の個数平均である。
【0011】
粒子(より詳しくは、粒子の粉体)の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製「LA-950」)を用いて測定した、体積基準のメディアン径である。粉体の個数平均一次粒子径は、何ら規定していなければ、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-7401F」)及び画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて測定した、100個の一次粒子の円相当径(ヘイウッド径:一次粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。なお、粒子の個数平均一次粒子径は、特に断りがない限り、粉体中の粒子の個数平均一次粒子径(粉体の個数平均一次粒子径)を指す。
【0012】
帯電性の強さは、何ら規定していなければ、摩擦帯電のし易さである。例えば、日本画像学会から提供される標準キャリア(負帯電極性トナー用標準キャリア:N-01、正帯電極性トナー用標準キャリア:P-01)と測定対象(例えばトナー)とを混ぜて攪拌することで、測定対象を摩擦帯電させる。摩擦帯電させる前と後とでそれぞれ、例えば吸引式小型帯電量測定装置(トレック社製「MODEL 212HS」)で測定対象の帯電量を測定する。摩擦帯電の前後での帯電量の変化が大きい測定対象ほど帯電性が強いことを示す。
【0013】
軟化点(Tm)の測定値は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT-500D」)を用いて測定した値である。高化式フローテスターで測定されたS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)において、「(ベースラインストローク値+最大ストローク値)/2」となる温度が、Tm(軟化点)に相当する。ガラス転移点(Tg)の測定値は、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC-6220」)を用いて「JIS(日本産業規格)K7121-2012」に従って測定した値である。示差走査熱量計で測定された吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)において、ガラス転移に起因する変曲点の温度(詳しくは、ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点の温度)が、Tg(ガラス転移点)に相当する。
【0014】
酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本産業規格)K0070-1992」で規定された中和滴定法に従い測定した値である。
【0015】
数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0016】
「炭素原子数1以上6以下のアルキル基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、及びn-ヘキシル基が挙げられる。
【0017】
「炭素原子数1以上6以下のアルキレン基」は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、n-ペンチレン基、及びn-ヘキシレン基が挙げられる。
【0018】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。「ビニル樹脂」は、ビニル基(CH2=CH-)又はビニル基中の水素が置換された基を有するモノマー(ビニル化合物)の重合体である。
【0019】
<トナー>
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。トナーは、1成分現像剤として使用してもよい。また、混合装置(例えば、ボールミル)を用いてトナーとキャリアとを混合して、2成分現像剤を調製してもよい。
【0020】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、結着樹脂と離型剤とを含むトナー母粒子を含有する。結着樹脂は、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを含む。ビニル樹脂は、アクリル酸に由来する繰返し単位、メタクリル酸に由来する繰返し単位、及び下記一般式(1)で表される繰返し単位からなる群より選択される一種以上の繰返し単位を有する。多角度レーザー光散乱検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーで測定される結着樹脂の絶対分子量の分布曲線において、最大ピークの絶対分子量をWabsとし、示差屈折率検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーで測定される結着樹脂のポリスチレン換算の相対分子量の分布曲線において、最大ピークの相対分子量をWpsとしたとき、1.30≦Wabs/Wps≦2.00の関係を満たす。
【0021】
【化2】
【0022】
一般式(1)中、R11及びR12は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、R13は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基を表す。
【0023】
以下、一般式(1)で表される繰返し単位を、「繰返し単位(1)」と記載することがある。繰返し単位(1)を与えるモノマーを、「化合物(1)」と記載することがある。アクリル酸、メタクリル酸及び化合物(1)からなる群より選択される一種以上の化合物を、「特定ビニル化合物」と記載することがある。特定ビニル化合物に由来する繰返し単位を、「特定ビニル単位」と記載することがある。
【0024】
以下、多角度レーザー光散乱検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーを、「SEC-MALLS法」と記載することがある。示差屈折率検出器を用いたサイズ排除クロマトグラフィーを、「SEC-RI法」と記載することがある。SEC-MALLS法で測定される、結着樹脂の絶対分子量の分布曲線における最大ピークの絶対分子量を、「Wabs」と記載することがある。ポリスチレン換算の相対分子量を、単に「相対分子量」と記載することがある。SEC-RI法で測定される、結着樹脂の相対分子量の分布曲線における最大ピークの相対分子量を、「Wps」と記載することがある。Wabs及びWpsの測定方法は、各々、後述する実施例と同じ方法又はそれに準ずる方法である。なお、後述する実施例で示すように、Wabs及びWpsは、いずれも温度25℃のテトラヒドロフランに溶解した結着樹脂を測定対象として測定した値である。
【0025】
一般に、高分子(樹脂)は、分子量が大きくなるほど分子半径(詳しくは、高分子溶液中に存在する高分子の分子半径)が増大する。SEC-RI法では、検量線作成時に使用したポリスチレンと同じ分子半径を有する測定対象高分子の相対分子量が得られる。ところが、分岐箇所及び/又は架橋箇所(以下、分岐架橋箇所と記載することがある)が比較的多い高分子は、分岐架橋箇所が比較的少ない高分子に比べ、分子量に相違がない場合、分子半径が小さくなる。よって、分岐架橋箇所が比較的多い高分子の相対分子量をSEC-RI法により測定すると、得られる相対分子量は、実際の分子量よりも小さい値になる。
【0026】
一方、SEC-MALLS法により絶対分子量を測定する場合、分岐架橋箇所が比較的多い高分子と、分岐架橋箇所が比較的少ない高分子とは、分子量に相違がない場合、絶対分子量が同じ値となる。
【0027】
よって、Wpsに対するWabsの比(Wabs/Wps)は、分岐架橋箇所の数の指標となる。つまり、Wabs/Wpsが大きいほど、測定対象高分子の分岐架橋箇所の数が多くなる。
【0028】
本実施形態に係るトナーは、上述の構成を備えることにより、低温定着性を確保しつつ、定着強度に優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性に優れる。その理由は、以下のように推測される。
【0029】
一般に、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含むトナーは、低温定着性に優れる。しかし、結着樹脂として一般的に使用されているポリエステル樹脂は、トナーの耐ホットオフセット性を高める成分である離型剤との相溶性が低い。
【0030】
一方、一般に、ビニル樹脂は、ポリエステル樹脂に比べ、低温定着性を高める機能は劣るが、離型剤との相溶性は高い。トナーの低温定着性を高めつつ、結着樹脂と離型剤との相溶性を高めるために、結着樹脂として、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを併用することも考えられるが、一般的なビニル樹脂は、ポリエステル樹脂との相溶性が低い。
【0031】
本実施形態に係るトナーでは、結着樹脂が、ポリエステル樹脂と、特定ビニル単位を有するビニル樹脂とを含む。ビニル樹脂中の特定ビニル単位は、ポリエステル樹脂との親和性が高い。このため、本実施形態に係るトナーでは、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とが適度に相溶すると共に、結着樹脂と離型剤とが適度に相溶する。また、本実施形態に係るトナーは、Wabs/Wpsが1.30以上であるため、結着樹脂の分岐架橋箇所の数が比較的多い。結着樹脂の分岐架橋箇所の数が比較的多いトナーは、トナー粒子の弾性率が高くなる傾向がある。これらのことから、本実施形態に係るトナーは、耐ホットオフセット性に優れつつ、定着強度に優れる画像を形成できる。
【0032】
また、一般に、結着樹脂の分岐架橋箇所の数が多くなりすぎると(トナー粒子の弾性率が高くなりすぎると)、トナーの低温定着性が低下する傾向がある。これに対し、本実施形態に係るトナーでは、Wabs/Wpsが2.00以下である。このように、本実施形態に係るトナーでは、トナーの低温定着性を確保できる程度に、Wabs/Wpsの上限が設定されている。従って、本実施形態に係るトナーは、低温定着性を確保できる。
【0033】
低温定着性をより容易に確保しつつ、定着強度により優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、Wabs/Wpsの値が、1.62以上1.67以下であることが好ましく、1.63以上1.66以下であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、外添剤を更に備えていてもよい。トナー粒子が外添剤を更に備える場合には、トナー粒子は、トナー母粒子と、トナー母粒子の表面に付着した外添剤とを備える。なお、必要がなければ外添剤を割愛してもよい。外添剤を割愛する場合には、トナー母粒子がトナー粒子に相当する。
【0035】
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、シェル層を備えないトナー粒子であってもよいし、シェル層を備えるトナー粒子(以下、カプセルトナー粒子と記載することがある)であってもよい。カプセルトナー粒子では、トナー母粒子が、結着樹脂及び離型剤を含むトナーコアと、トナーコアの表面を覆うシェル層とを備える。シェル層は、樹脂を含む。例えば、低温で溶融するトナーコアを、耐熱性に優れるシェル層で覆うことで、トナーの耐熱保存性及び低温定着性の両立を図ることが可能になる。シェル層を構成する樹脂中に添加剤が分散されていてもよい。シェル層は、トナーコアの表面全体を覆っていてもよいし、トナーコアの表面を部分的に覆っていてもよい。
【0036】
本実施形態において、トナー母粒子は、結着樹脂及び離型剤以外に、必要に応じて、離型剤以外の内添剤(例えば、着色剤、電荷制御剤、及び磁性粉の少なくとも1つ)を更に含有してもよい。
【0037】
本実施形態において、画像形成に適したトナーを得るためには、トナー母粒子の体積中位径(D50)は、4μm以上9μm以下であることが好ましい。
【0038】
次に、本実施形態に係るトナー(より具体的には、トナー粒子)に含まれる成分について説明する。
【0039】
[結着樹脂]
トナー母粒子は、例えば全成分の40質量%以上を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナー母粒子全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。結着樹脂は、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを含む。また、結着樹脂は、ポリエステル樹脂及びビニル樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。低温定着性をより容易に確保しつつ、定着強度により優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、トナー母粒子中のポリエステル樹脂及びビニル樹脂の合計含有率は、結着樹脂の全量に対して、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0040】
以下、トナー母粒子中に結着樹脂として含まれるポリエステル樹脂及びビニル樹脂について説明する。
【0041】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、一種以上の多価アルコールと一種以上の多価カルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するための多価アルコールとしては、例えば以下に示すような、2価アルコール(より具体的には、脂肪族ジオール、ビスフェノール等)、及び3価以上のアルコールが挙げられる。ポリエステル樹脂を合成するための多価カルボン酸としては、例えば以下に示すような、2価カルボン酸、及び3価以上のカルボン酸が挙げられる。なお、多価カルボン酸の代わりに、縮重合によりエステル結合を形成できる多価カルボン酸誘導体(より具体的には、多価カルボン酸の無水物、多価カルボン酸ハライド等)を使用してもよい。
【0042】
脂肪族ジオールの好適な例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-プロパンジオール、α,ω-アルカンジオール(より具体的には、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,12-ドデカンジオール等)、2-ブテン-1,4-ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0043】
ビスフェノールの好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、及びビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0044】
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6-ヘキサンテトロール、1,4-ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,5-ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2-メチルプロパントリオール、2-メチル-1,2,4-ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5-トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0045】
2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、1,10-デカンジカルボン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n-ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n-オクチルコハク酸、n-ドデシルコハク酸、イソドデシルコハク酸等)、及びアルケニルコハク酸(より具体的には、n-ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n-オクテニルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、イソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
【0046】
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、トリメリット酸(1,2,4-ベンゼントリカルボン酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ブタントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,3-ジカルボキシル-2-メチル-2-メチレンカルボキシプロパン、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸が挙げられる。
【0047】
Wabs/Wpsの値を1.30以上2.00以下の範囲に容易に調整するためには、ポリエステル樹脂は、3価以上のアルコールに由来する繰返し単位、及び3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位からなる群より選択される一種以上の繰返し単位(以下、特定多価繰返し単位と記載することがある)を有することが好ましい。3価以上のアルコールに由来する繰返し単位を有するポリエステル樹脂は、例えば、上記列挙した3価以上のアルコールからなる群より選択される一種以上を含むモノマーを、縮重合させることで得られる。3価以上のカルボン酸に由来する繰返し単位を有するポリエステル樹脂は、例えば、上記列挙した3価以上のカルボン酸からなる群より選択される一種以上を含むモノマーを、縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのモノマーとして、3価以上のアルコール及び3価以上のカルボン酸からなる群より選択される一種以上を含むモノマーを使用することにより、得られるポリエステル樹脂の分岐箇所を増やすことができる。
【0048】
定着強度により優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、ポリエステル樹脂は、特定多価繰返し単位として、グリセロールに由来する繰返し単位、又はトリメリット酸に由来する繰返し単位を有することが好ましい。
【0049】
(ビニル樹脂)
ビニル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸及び化合物(1)からなる群より選択される一種以上の化合物に由来する繰返し単位(特定ビニル単位)を有する。Wabs/Wpsの値を1.30以上2.00以下の範囲に容易に調整するためには、特定ビニル単位の含有率が、ビニル樹脂中の全繰返し単位に対して、8質量%以上18質量%以下であることが好ましい。
【0050】
化合物(1)を表す一般式(1)において、R11及びR12としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましい。R13としては、エチレン基が好ましい。
【0051】
化合物(1)としては、例えば(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルが挙げられる。
【0052】
定着強度により優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、一般式(1)で表される繰返し単位(繰返し単位(1))としては、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルに由来する繰返し単位が好ましい。
【0053】
特定ビニル単位を与える特定ビニル化合物は、いずれもポリエステル樹脂を合成するためのモノマーと反応する官能基(以下、縮合反応基と記載することがある)を有する。詳しくは、アクリル酸及びメタクリル酸は、縮合反応基として、いずれもカルボキシ基を有する。また、化合物(1)は、縮合反応基として、アルコール性水酸基を有する。このため、ポリエステル樹脂の存在下で特定ビニル化合物を含むモノマーを重合させると、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とが、少なくとも一部の特定ビニル単位を介して架橋する。よって、ポリエステル樹脂の存在下で特定ビニル化合物を含むモノマーを重合させると、結着樹脂の架橋箇所を増やすことができる。以下、ポリエステル樹脂の存在下で特定ビニル化合物を含むモノマーを重合させて得られる樹脂を、「複合樹脂」と記載することがある。複合樹脂では、ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂ドメイン)とビニル樹脂(ビニル樹脂ドメイン)とが混在している。
【0054】
定着強度により優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、ビニル樹脂は、スチレンに由来する繰返し単位、アクリロニトリルに由来する繰返し単位、及び下記一般式(2)で表される繰返し単位からなる群より選択される一種以上の繰返し単位を更に有することが好ましい。
【0055】
【化3】
【0056】
一般式(2)中、R21及びR22は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表し、R23は、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。R21及びR22としては、各々独立して、水素原子又はメチル基が好ましい。R23としては、メチル基が好ましい。以下、一般式(2)で表される繰返し単位を、「繰返し単位(2)」と記載することがある。
【0057】
繰返し単位(2)を与えるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、及び(メタ)アクリル酸イソブチルが挙げられる。
【0058】
定着強度により優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、繰返し単位(2)としては、メタクリル酸メチルに由来する繰返し単位が好ましい。
【0059】
低温定着性をより容易に確保しつつ、定着強度により優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、ビニル樹脂の量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましく、9質量部以上12質量部以下であることがより好ましい。なお、結着樹脂として複合樹脂を使用する場合、ポリエステル樹脂100質量部に対するビニル樹脂の量を算出する際は、特定ビニル単位をビニル樹脂中の繰返し単位として算出する。
【0060】
Wabs/Wpsの値は、例えば、結着樹脂(詳しくは、ポリエステル樹脂及びビニル樹脂のうちの少なくとも一方)を合成する際の反応条件(より具体的には、反応時間、反応温度等)、ポリエステル樹脂を合成する際の3価以上のアルコールの量、ポリエステル樹脂を合成する際の3価以上のカルボン酸の量、及びビニル樹脂を合成する際の特定ビニル化合物の量のうちの少なくとも1つを変更することにより、調整できる。
【0061】
低温定着性を更に容易に確保しつつ、定着強度に更に優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性に更に優れるトナーを得るためには、下記条件1を満たすことが好ましく、下記条件2を満たすことがより好ましい。
条件1:ポリエステル樹脂が、特定多価繰返し単位を有し、かつWabs/Wpsの値が1.63以上1.66以下である。
条件2:条件1を満たし、かつ特定多価繰返し単位の量が、特定ビニル単位100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下である。
【0062】
[離型剤]
トナー母粒子は、離型剤を含有する。耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0063】
離型剤としては、例えば、エステルワックス、ポリオレフィンワックス(より具体的には、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等)、マイクロクリスタリンワックス、フッ素樹脂ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、及びカスターワックスが挙げられる。エステルワックスとしては、天然エステルワックス(より具体的には、カルナバワックス、ライスワックス等)、及び合成エステルワックスが挙げられる。本実施形態では、一種の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。耐ホットオフセット性により優れるトナーを得るためには、離型剤としては、カルナバワックスが好ましい。
【0064】
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナー母粒子に添加してもよい。
【0065】
[着色剤]
トナー母粒子は、着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0066】
トナー母粒子は、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
【0067】
トナー母粒子は、カラー着色剤を含有していてもよい。カラー着色剤としては、例えばイエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤が挙げられる。
【0068】
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される一種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、及び194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、並びにC.I.バットイエローが挙げられる。
【0069】
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される一種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、及び254)が挙げられる。
【0070】
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される一種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、及び66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、並びにC.I.アシッドブルーが挙げられる。
【0071】
[電荷制御剤]
トナー母粒子は、電荷制御剤を含有していてもよい。電荷制御剤は、例えば、帯電安定性又は帯電立ち上がり特性に優れるトナーを得るために使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電させることができるか否かの指標になる。
【0072】
トナー母粒子に正帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナー母粒子のカチオン性(正帯電性)を強めることができる。また、トナー母粒子に負帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナー母粒子のアニオン性(負帯電性)を強めることができる。
【0073】
正帯電性の電荷制御剤の例としては、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、1,2-オキサジン、1,3-オキサジン、1,4-オキサジン、1,2-チアジン、1,3-チアジン、1,4-チアジン、1,2,3-トリアジン、1,2,4-トリアジン、1,3,5-トリアジン、1,2,4-オキサジアジン、1,3,4-オキサジアジン、1,2,6-オキサジアジン、1,3,4-チアジアジン、1,3,5-チアジアジン、1,2,3,4-テトラジン、1,2,4,5-テトラジン、1,2,3,5-テトラジン、1,2,4,6-オキサトリアジン、1,3,4,5-オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、キノキサリン等のアジン化合物;アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリ-ンBH/C、アジンディープブラックEW、アジンディープブラック3RL等の直接染料;ニグロシンBK、ニグロシンNB、ニグロシンZ等の酸性染料;アルコキシル化アミン;アルキルアミド;ベンジルデシルヘキシルメチルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルアンモニウムクロライド、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩等の4級アンモニウム塩;4級アンモニウムカチオン基を含む樹脂が挙げられる。これらの電荷制御剤の一種のみを使用してもよく、二種以上の電荷制御剤を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
負帯電性の電荷制御剤の例としては、キレート化合物である有機金属錯体が挙げられる。有機金属錯体としては、アセチルアセトン金属錯体、サリチル酸系金属錯体、及びこれらの塩からなる群より選択される一種以上が好ましい。
【0075】
帯電安定性に優れるトナーを得るためには、電荷制御剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0076】
[磁性粉]
トナー母粒子は、磁性粉を含有していてもよい。つまり、本実施形態に係るトナーは、トナー母粒子が磁性粉を含有するトナー(磁性トナー)であってもよい。トナー母粒子が磁性粉を含有すると、低温定着性を確保しつつ、定着強度に優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性に優れるトナーが容易に得られる。なお、トナー母粒子は、黒色着色剤として磁性粉を含有してもよい。つまり、磁性粉は、磁性体としての機能及び黒色着色剤としての機能の両方を有していてもよい。
【0077】
磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属(より具体的には、鉄、コバルト、ニッケル等)及びその合金、強磁性金属酸化物(より具体的には、フェライト、マグネタイト、二酸化クロム等)、並びに強磁性化処理が施された材料(より具体的には、熱処理により強磁性が付与された炭素材料等)が挙げられる。本実施形態では、一種の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
【0078】
高画質の画像(例えば、画像濃度が高い画像)を形成するためには、磁性粉の量は、結着樹脂100質量部に対して、60質量部以上120質量部以下であることが好ましく、70質量部以上110質量部以下であることがより好ましい。
【0079】
[外添剤]
本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、トナー母粒子の表面に付着した外添剤(外添剤粒子の粉体)を更に備えてもよい。本実施形態では、一種類の外添剤粒子を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤粒子を併用してもよい。
【0080】
流動性に優れるトナーを得るためには、外添剤を構成する外添剤粒子としては、無機酸化物粒子が好ましく、シリカ粒子、及び金属酸化物(より具体的には、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等)の粒子からなる群より選択される一種以上がより好ましい。
【0081】
流動性に優れるトナーを得るためには、外添剤を構成する外添剤粒子の個数平均一次粒子径は、5nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0082】
外添剤粒子は、表面処理されていてもよい。例えば、外添剤粒子としてシリカ粒子を使用する場合、表面処理剤によりシリカ粒子の表面に疎水性及び/又は正帯電性が付与されていてもよい。表面処理剤としては、例えば、カップリング剤(より具体的には、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤等)、シラザン化合物(より具体的には、鎖状シラザン化合物、環状シラザン化合物等)、及びシリコーンオイル(より具体的には、ジメチルシリコーンオイル等)が挙げられる。表面処理剤としては、シランカップリング剤及びシラザン化合物からなる群より選ばれる一種以上が特に好ましい。シランカップリング剤の好適な例としては、シラン化合物(より具体的には、メチルトリメトキシシラン、アミノシラン等)が挙げられる。シラザン化合物の好適な例としては、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)が挙げられる。シリカ基体(未処理のシリカ粒子)の表面が表面処理剤で処理されると、シリカ基体の表面に存在する多数の水酸基(-OH)が部分的に又は全体的に、表面処理剤に由来する官能基に置換される。その結果、表面処理剤に由来する官能基(詳しくは、水酸基よりも疎水性及び/又は正帯電性の強い官能基)を表面に有するシリカ粒子が得られる。
【0083】
トナー母粒子からの外添剤の脱離を抑制しながら外添剤の機能を十分に発揮させるためには、外添剤の量が、トナー母粒子100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下であることが好ましい。
【0084】
<トナーの製造方法>
次に、上述した実施形態に係るトナーの好適な製造方法について説明する。以下、上述した実施形態に係るトナーと重複する構成要素については説明を省略する。
【0085】
[トナー母粒子の調製工程]
まず、凝集法又は粉砕法によりトナー母粒子を調製する。
【0086】
凝集法は、例えば、凝集工程及び合一化工程を含む。凝集工程では、トナー母粒子を構成する成分を含む微粒子を水性媒体中で凝集させて、凝集粒子を形成する。合一化工程では、凝集粒子に含まれる成分を水性媒体中で合一化させてトナー母粒子を形成する。
【0087】
次に粉砕法を説明する。粉砕法によれば、比較的容易にトナー母粒子を調製できる上、製造コストの低減が可能である。粉砕法でトナー母粒子を調製する場合、トナー母粒子の調製工程は、例えば溶融混練工程と、粉砕工程とを備える。トナー母粒子の調製工程は、溶融混練工程の前に混合工程を更に備えてもよい。また、トナー母粒子の調製工程は、粉砕工程後に、微粉砕工程及び分級工程の少なくとも一方を更に備えてもよい。
【0088】
混合工程では、結着樹脂と、離型剤と、必要に応じて添加する他の内添剤とを混合して、混合物を得る。溶融混練工程では、トナー材料を溶融し混練して、溶融混練物を得る。トナー材料としては、例えば混合工程で得られる混合物が用いられる。粉砕工程では、得られた溶融混練物を、例えば室温(25℃)まで冷却した後、粉砕して粉砕物を得る。粉砕工程で得られた粉砕物の小径化が必要な場合は、粉砕物を更に粉砕する工程(微粉砕工程)を実施してもよい。また、粉砕物の粒子径を揃える場合は、得られた粉砕物を分級する工程(分級工程)を実施してもよい。なお、上記粉砕工程において、溶融混練物を粉砕しながら分級してもよい。以上の工程により、粉砕物であるトナー母粒子が得られる。
【0089】
[外添工程]
その後、必要に応じて、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いて、得られたトナー母粒子と外添剤とを混合して、トナー母粒子の表面に外添剤を付着させてもよい。なお、トナー母粒子に外添剤を付着させずに、トナー母粒子をトナー粒子として使用してもよい。こうして、上述した実施形態に係るトナー(トナー粒子の粉体)が得られる。
【実施例
【0090】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
【0091】
<結着樹脂の合成>
結着樹脂として使用した、複合樹脂C-1~C-19及びポリエステル樹脂P-1の合成方法について、それぞれ説明する。
【0092】
[複合樹脂C-1の合成]
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量5Lの4つ口フラスコをマントルヒーターにセットした。続けて、フラスコ内に、テレフタル酸1245gと、イソフタル酸1245gと、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数:2モル)1245gと、エチレングリコール744gとを投入した。続けて、フラスコ内を窒素雰囲気にした後、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコ内温が250℃になるまでフラスコを加熱した。次いで、フラスコ内に、三酸化アンチモン0.875gと、トリフェニルホスフェート0.548gと、テトラ-n-ブチルチタネート0.102gとを投入した。次いで、フラスコ内部の圧力を8kPaに減圧し、フラスコ内部の温度を280℃まで上昇させた後、温度280℃の条件で、フラスコ内容物を6時間反応させた。次いで、フラスコ内部の圧力を常圧(101kPa)に戻し、フラスコ内温を160℃まで降下させた後、フラスコ内に、トリメリット酸20gと、アクリル酸75gと、スチレン500gと、ジクミルパーオキサイド30gとを投入した。次いで、温度160℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた後、フラスコ内容物を冷却し、複合樹脂C-1を得た。
【0093】
[複合樹脂C-2~C-9の合成]
テレフタル酸、イソフタル酸、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数:2モル)、エチレングリコール、トリメリット酸、及びアクリル酸のそれぞれの使用量(投入量)を、表1~表3に示すとおりとし、かつ圧力8kPaの条件で反応させる際の反応温度及び反応時間を表1~表3に示すとおりとしたこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-2~C-9をそれぞれ得た。なお、表1~表3において、「BPAEO付加物」は、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイドの平均付加モル数:2モル)を意味する。また、表1~表3において、反応温度及び反応時間は、それぞれ圧力8kPaの条件で反応させる際の反応温度及び反応時間である。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
[複合樹脂C-10の合成]
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量5Lの4つ口フラスコをマントルヒーターにセットした。続けて、フラスコ内に、セバシン酸1245gと、1,10-デカンジカルボン酸1245gと、1,4-ブタンジオール1248gと、1,6-ヘキサンジオール744gとを投入した。続けて、フラスコ内を窒素雰囲気にした後、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコ内温が250℃になるまでフラスコを加熱した。次いで、フラスコ内に、チタン(IV)メトキシド0.639gと、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)0.452gと、トリフェニルホスフェート0.205gとを投入した。次いで、フラスコ内部の圧力を8kPaに減圧し、フラスコ内部の温度を280℃まで上昇させた後、温度280℃の条件でフラスコ内容物を6時間反応させた。次いで、フラスコ内部の圧力を常圧(101kPa)に戻し、フラスコ内温を160℃まで降下させた後、フラスコ内に、トリメリット酸20gと、アクリル酸75gと、スチレン500gと、ジクミルパーオキサイド30gとを投入した。次いで、温度160℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた後、フラスコ内容物を冷却し、複合樹脂C-10を得た。
【0098】
[複合樹脂C-11の合成]
温度計(熱電対)、脱水管、窒素導入管、及び攪拌装置を備えた容量5Lの4つ口フラスコをマントルヒーターにセットした。続けて、フラスコ内に、アジピン酸1245gと、フマル酸1245gと、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(プロピレンオキサイドの平均付加モル数:2モル)1248gと、1,6-ヘキサンジオール744gとを投入した。続けて、フラスコ内を窒素雰囲気にした後、フラスコ内容物を攪拌しながらフラスコ内温が250℃になるまでフラスコを加熱した。次いで、フラスコ内に、酸化ゲルマニウム(IV)0.639gと、ジブチルホスフェート0.452gと、リン酸水素ビス(2-エチルヘキシル)0.205gとを投入した。次いで、フラスコ内部の圧力を8kPaに減圧し、フラスコ内部の温度を280℃まで上昇させた後、温度280℃の条件でフラスコ内容物を6時間反応させた。次いで、フラスコ内部の圧力を常圧(101kPa)に戻し、フラスコ内温を160℃まで降下させた後、フラスコ内に、トリメリット酸20gと、アクリル酸75gと、スチレン400gと、ジクミルパーオキサイド30gとを投入した。次いで、温度160℃の条件で、フラスコ内容物を1時間反応させた後、フラスコ内容物を冷却し、複合樹脂C-11を得た。
【0099】
[複合樹脂C-12の合成]
アクリル酸75gの代わりにメタクリル酸70gを使用(投入)したこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-12を得た。
【0100】
[複合樹脂C-13の合成]
トリメリット酸の使用量(投入量)を35gに変更したこと、及びアクリル酸75gの代わりにメタクリル酸2-ヒドロキシエチル70gを使用(投入)したこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-13を得た。
【0101】
[複合樹脂C-14の合成]
トリメリット酸20gの代わりにグリセロール9gを使用(投入)したこと、及びアクリル酸75gの代わりにメタクリル酸70gを使用(投入)したこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-14を得た。
【0102】
[複合樹脂C-15の合成]
トリメリット酸の使用量(投入量)を30gに変更したこと、及びスチレン500gの代わりにメタクリル酸メチル500gを使用(投入)したこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-15を得た。
【0103】
[複合樹脂C-16の合成]
トリメリット酸の使用量(投入量)を30gに変更したこと、及びスチレン500gの代わりにアクリロニトリル500gを使用(投入)したこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-16を得た。
【0104】
[複合樹脂C-17の合成]
トリメリット酸の使用量(投入量)を50gに変更したこと、スチレンを使用(投入)しなかったこと、及び圧力8kPaの条件で反応させる際の反応時間を3.0時間に変更したこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-17を得た。
【0105】
[複合樹脂C-18の合成]
トリメリット酸の使用量(投入量)を5gに変更したこと、及び圧力8kPaの条件で反応させる際の反応時間を10.0時間に変更したこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-18を得た。
【0106】
[複合樹脂C-19の合成]
アクリル酸を使用(投入)しなかったこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、複合樹脂C-19を得た。
【0107】
[ポリエステル樹脂P-1の合成]
アクリル酸、スチレン、及びジクミルパーオキサイドを使用(投入)しなかったこと以外は、複合樹脂C-1の合成と同じ方法で、ポリエステル樹脂P-1を得た。
【0108】
得られた複合樹脂C-1~C-19及びポリエステル樹脂P-1のそれぞれについて、ポリエステル樹脂100質量部に対するビニル樹脂の量、Tg、Tm、Mn、Mw、分散度(Mw/Mn)、酸価、及び水酸基価を表4~表7に示す。なお、表4~表7において、「ビニル樹脂量」は、ポリエステル樹脂100質量部に対するビニル樹脂の量(単位:質量部)である。また、表7の「ビニル樹脂量」の欄の「-」は、ビニル化合物を重合しなかったことを意味する。なお、複合樹脂C-1~C-16では、特定多価繰返し単位の量は、いずれも特定ビニル単位100質量部に対して10質量部以上70質量部以下であった。
【0109】
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
<トナーの作製>
以下、トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4の作製方法について、それぞれ説明する。
【0114】
[トナーTA-1の作製]
(トナー母粒子の調製工程)
FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM-20B」)に、100質量部の複合樹脂C-1と、磁性粉としてのマグネタイト粒子の粉体(戸田工業株式会社製「MTS-106」)90質量部と、正帯電性の電荷制御剤(藤倉化成株式会社製「アクリベース(登録商標)FCA-201-PS」、成分:4級アンモニウムカチオン基を含む樹脂)10質量部と、離型剤としてのカルナバワックス(東亜化成株式会社製)4質量部とを投入した。次いで、上記FMミキサーを用いて、回転速度200rpmで、投入したトナー材料を4分間混合した。
【0115】
続けて、得られた混合物を、2軸押出機(東芝機械株式会社製「TEM-26SS」)を用いて、材料供給速度50g/分、軸回転速度100rpm、シリンダー温度100℃の条件で溶融混練した。その後、得られた混練物を冷却した。続けて、冷却された混練物をジェットミル(ホソカワミクロン株式会社製「MJT-1」)に投入し、混練物を粉砕しつつ分級した。その結果、体積中位径(D50)8μmのトナー母粒子が得られた。
【0116】
(外添工程)
次いで、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製「FM-10B」)を用いて、回転速度3500rpmかつジャケット温度20℃の条件で、上述の方法で得られたトナー母粒子100質量部と、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)RA200」、表面処理により疎水性及び正帯電性が付与された乾式シリカ粒子、表面処理剤:ヘキサメチルジシラザン(HMDS)及びアミノシラン)0.6質量部と、酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC-100」、導電性が付与された酸化チタン粒子)0.8質量部とを、5分間混合した。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子及び酸化チタン粒子)の全量を付着させた。
【0117】
続けて、得られた粉体を、100メッシュ(目開き149μm)の篩を用いて篩別し、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-1を得た。なお、篩別の前後で、トナーを構成する成分の組成比は変化しなかった。
【0118】
[トナーTA-2~TA-20及びTB-1~TB-4の作製]
トナー母粒子の調製工程において、FMミキサーに投入する結着樹脂の種類、並びにFMミキサーに投入する磁性粉の種類及び量を、表8に示すとおりとしたこと以外は、トナーTA-1の作製と同じ方法で、正帯電性の磁性トナーであるトナーTA-2~TA-20及びTB-1~TB-4をそれぞれ作製した。なお、表8において、「MTS-106」、「MTS-D3」及び「MRO-15A」は、いずれも戸田工業株式会社製の磁性粉(マグネタイト粒子の粉体)の品名である。また、表8において、磁性粉の欄の「量」は、結着樹脂100質量部に対する磁性粉の投入量(単位:質量部)である。
【0119】
【表8】
【0120】
<Wabs及びWpsの測定方法>
上述の手順で得られたトナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のそれぞれについて、結着樹脂のWabs及びWpsを測定した。測定装置としては、送液ポンプ(株式会社島津製作所製「LC-20AD」)、第1カラム(東ソー株式会社製「TSKgel GMHXL」、カラムサイズ:内径7.8mm×長さ30cm、本数:2本)、第2カラム(東ソー株式会社製「TSKgel G2500HXL」、カラムサイズ:内径7.8mm×長さ30cm、本数:1本)、示差屈折率検出器(Wyatt Technology社製「Optilab T-rEX」、波長:6.58×10-5cm、補正定数:3.4939×10-5RIU/pixel)、及び多角度レーザー光散乱検出器(Wyatt Technology社製「DAWN HELEOS II」、波長:6.63×10-5cm、補正定数:2.9939×10-5-1・cm-1)を備えた分子量測定装置を用いた。測定方法の詳細は、まず、ビーカーに、テトラヒドロフラン5mLと、測定対象のトナー(トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のいずれか)10mgとを入れた。次いで、温度25℃の雰囲気下で、ビーカー内容物を攪拌した後、目開き0.2μmのフィルターでビーカー内容物をろ過し、測定用サンプルとして、結着樹脂(詳しくは、温度25℃のテトラヒドロフランに溶解した結着樹脂)のテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0121】
次いで、得られた測定用サンプルを用いて、下記測定条件に従い、SEC-MALLS法による絶対分子量の分布曲線(微分分子量分布曲線)と、SEC-RI法によるポリスチレン換算の相対分子量の分布曲線(微分分子量分布曲線)とを得た。そして、得られた絶対分子量の分布曲線における最大ピークの絶対分子量(Wabs)と、得られた相対分子量の分布曲線における最大ピークの相対分子量(Wps)とを求めた。なお、絶対分子量は、株式会社東レリサーチセンター製「GPCデータ処理システム」用いて処理した測定データを使用して、サンプル濃度(移動相溶媒に溶解した結着樹脂の濃度)を0g/mLとしてZimmプロットを作成し、得られたZimmプロットの切片から算出した。また、SEC-MALLS法による絶対分子量の分布曲線を得る際は、特定の検出器角度(詳しくは、45.8°、53.8°、61.6°、70.4°、80.2°及び90.0°)の多角度レーザー光散乱検出器の出力値を用いた。また、ポリスチレン換算の相対分子量を算出する際の検量線は、東ソー株式会社製の単分散ポリスチレン標準試料(ポリスチレンの質量平均分子量:3.84×106、1.09×106、7.06×105、4.27×105、1.90×105、9.64×104、3.79×104、1.62×104、1.02×104、5.06×103、2.63×103、1.01×103、及び5.90×102)を用いて作成した。
【0122】
[測定条件]
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
移動相溶媒の流速:1.0mL/分
カラム温度:23℃
検出器温度:25℃
測定用サンプル中の結着樹脂の濃度:2mg/mL
注入量:0.200mL
分布曲線の各ピークにおける結着樹脂(移動相溶媒に溶解した結着樹脂)の濃度:測定用サンプル中の結着樹脂の濃度、移動相溶媒の流速、注入量、及び予め上記示差屈折率検出器を用いて測定した濃度既知の標準サンプル(詳しくは、温度25℃のテトラヒドロフランに溶解した、濃度既知の結着樹脂溶液)の出力値から算出した。
屈折率の濃度勾配(dn/dc):アッベ屈折率計(株式会社島津製作所製「KPR-30A」)を使用して予め測定したテトラヒドロフランの屈折率nと、結着樹脂の濃度cとの関係を示すグラフの傾きから算出した。
Zimmプロットを作成する際の光学定数K(単位:cm6/g2):dn/dc、上記多角度レーザー光散乱検出器の波長、及びアボガドロ数(Na=6.02×1023)から算出した。
【0123】
トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のそれぞれについて、Wps、Wabs、及びWabs/Wpsを、表9に示す。
【0124】
【表9】
【0125】
<評価方法>
以下、トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4の評価方法について説明する。
【0126】
[画像濃度]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を用いた。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、評価機を用いて、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、大きさ25mm×25mmのソリッド画像を、1枚の印刷用紙(A4サイズの普通紙、坪量:90g/m2)に印刷した。次いで、印刷したソリッド画像の画像濃度(ID)を、反射濃度計(X-Rite社製「RD914」)を用いて測定した。そして、得られた画像濃度(ID)が1.10以上であれば「良い」と評価し、得られた画像濃度(ID)が1.10未満であれば「良くない」と評価した。
【0127】
[最低定着温度]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を改造して定着温度を変更可能にした画像形成装置を使用した。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、評価機を用いて、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、坪量90g/m2の印刷用紙(A4サイズの普通紙)に、大きさ25mm×25mmのソリッド画像(詳しくは、定着装置に通す前の未定着のトナー像)を形成した。
【0128】
続けて、上記ソリッド画像が形成された印刷用紙を評価機の定着装置に通した。この際、定着装置の定着温度を170℃から1℃ずつ上げながら各定着温度について定着の可否を判定し、ソリッド画像(トナー像)を印刷用紙に定着できる最低温度(最低定着温度)を測定した。
【0129】
トナーを定着させることができたか否かは、以下に示すような擦り試験で確認した。詳しくは、反射濃度計(X-Rite社製「RD914」)を用いて、定着装置に通した印刷用紙上のソリッド画像の画像濃度(以下、擦り前IDと記載する)を測定した。続けて、布帛で被覆した1kgの分銅を用いて、分銅の重さのみが印刷用紙に印加されるようにして、印刷用紙上の画像を10往復摩擦した。続けて、反射濃度計(X-Rite社製「RD914」)を用いて、印刷用紙上の画像の画像濃度(以下、擦り後IDと記載する)を測定した。続けて、式「定着率=100×擦り後ID/擦り前ID」に従って、定着率(単位:%)を求めた。定着率が95%以上となる定着温度のうちの最低温度を、最低定着温度とした。最低定着温度が200℃以下であれば「低温定着性を確保できている」と評価し、最低定着温度が200℃を超える場合、「低温定着性を確保できていない」と評価した。
【0130】
[最高定着温度]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を改造して定着温度を変更可能にした画像形成装置を使用した。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、上記評価機を用いて、評価機の画像形成条件を半速モードに設定し、坪量90g/m2の印刷用紙(A4サイズの普通紙)に、大きさ25mm×25mmのソリッド画像(詳しくは、定着装置に通す前の未定着のトナー像)を形成した。続けて、画像が形成された印刷用紙を評価機の定着装置に通した。この際、定着装置の定着温度を190℃から1℃ずつ上昇させながら各定着温度についてホットオフセットの有無を目視で確認し、ホットオフセットが発生しない最高温度(最高定着温度)を測定した。ホットオフセットの有無は、印刷用紙上において、定着ローラーにトナーが付着したことに起因する汚れ(定着ローラーの回転周期毎に現れる汚れ)があったか否かにより判断した。
【0131】
最高定着温度が210℃以上であれば「耐ホットオフセット性に優れている」と評価し、最高定着温度が210℃未満であれば「耐ホットオフセット性に優れていない」と評価した。
【0132】
[定着強度]
評価機としては、モノクロプリンター(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「ECOSYS(登録商標)LS-4200DN」)を改造して定着温度を変更可能にした画像形成装置を使用した。トナー(評価対象:トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のいずれか)を、評価機の現像装置及びトナーコンテナに投入した。次いで、温度23℃かつ湿度50%RHの環境下、上記評価機を用いて、1枚の印刷用紙(A4サイズの普通紙、坪量:90g/m2)に、大きさ25mm×25mmのソリッド画像(詳しくは、定着装置に通す前の未定着のトナー像)を形成した。続けて、画像が形成された印刷用紙を評価機の定着装置に通した。この際、定着装置の定着温度を、上記[最低定着温度]の測定方法により得られた最低定着温度に設定した。但し、トナーTB-3について評価する際は、定着装置の定着温度を220℃に設定した。
【0133】
続いて、定着後のソリッド画像に、メンディングテープ(スリーエム ジャパン株式会社製「No.810-3-12」)を貼り付けた後、30gf/cm2の圧力でメンディングテープの上を5往復擦り付けた。続いて、ピール角度90°かつ100gfの力で、ソリッド画像からメンディングテープを剥がした後、印刷用紙上のソリッド画像を目視で観察し、下記基準で判定した。判定がAの場合を「定着強度に優れる画像を形成できている」と評価し、判定がBの場合を「定着強度に優れる画像を形成できていない」と評価した。
【0134】
(定着強度の判定基準)
A:ソリッド画像が剥がれていなかった。
B:ソリッド画像の少なくとも一部が剥がれていた。
【0135】
<評価結果>
トナーTA-1~TA-20及びTB-1~TB-4のそれぞれについて、画像濃度、最低定着温度、最高定着温度、及び定着強度の判定結果を、表10に示す。
【0136】
【表10】
【0137】
トナーTA-1~TA-20では、結着樹脂が、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを含んでいた。トナーTA-1~TA-20では、結着樹脂に含まれるビニル樹脂が、特定ビニル化合物に由来する繰返し単位を有していた。
【0138】
表9に示すように、トナーTA-1~TA-20では、Wabs/Wpsが、1.30以上2.00以下であった。
【0139】
表10に示すように、トナーTA-1~TA-20では、最低定着温度が200℃以下であった。よって、トナーTA-1~TA-20は、低温定着性を確保できていた。トナーTA-1~TA-20では、最高定着温度が210℃以上であった。よって、トナーTA-1~TA-20は、耐ホットオフセット性に優れていた。トナーTA-1~TA-20のそれぞれを用いて印刷した画像は、定着強度の判定結果がAであった。よって、トナーTA-1~TA-20のそれぞれを用いた場合、定着強度に優れる画像を形成できていた。
【0140】
表9に示すように、トナーTB-1では、Wabs/Wpsが2.00を超えていた。トナーTB-2では、Wabs/Wpsが1.30未満であった。
【0141】
トナーTB-3では、結着樹脂が、ポリエステル樹脂とビニル樹脂とを含んでいた。しかし、トナーTB-3では、結着樹脂に含まれるビニル樹脂が、特定ビニル化合物に由来する繰返し単位を有していなかった。トナーTB-4では、結着樹脂が、ビニル樹脂を含んでいなかった。
【0142】
表10に示すように、トナーTB-1及びTB-3では、最低定着温度が200℃を超えていた。よって、トナーTB-1及びTB-3は、低温定着性を確保できていなかった。トナーTB-2~及びTB-4では、最高定着温度が210℃未満であった。よって、トナーTB-2~及びTB-4は、耐ホットオフセット性に優れていなかった。トナーTB-3を用いて印刷した画像は、定着強度の判定結果がBであった。よって、トナーTB-3を用いた場合、定着強度に優れる画像を形成できていなかった。
【0143】
以上の結果から、本発明によれば、低温定着性を確保しつつ、定着強度に優れる画像を形成できる上、耐ホットオフセット性に優れるトナーを提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明に係るトナーは、例えば複合機又はプリンターにおいて画像を形成するために利用することができる。