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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】発振器、電子機器、及び移動体
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20240509BHJP
   H03H 9/02 20060101ALI20240509BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240509BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H03B5/32 H
H03H9/02 A
H01L23/12 Q
H01L23/02 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020094000
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021190822
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】笠原 昌一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久浩
(72)【発明者】
【氏名】青木 信也
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-052083(JP,A)
【文献】特開2019-097149(JP,A)
【文献】特開2005-198073(JP,A)
【文献】特開2009-027451(JP,A)
【文献】特開2020-072279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30- 5/42
H03H 9/00- 9/74
H01L 23/12
H01L 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励振電極を有する振動片と、
前記振動片の前記励振電極に電気的に接続される発振回路、およびインダクターを有する集積回路素子と、
前記振動片および前記集積回路素子が配置されているとともに、前記励振電極および前記発振回路と接続されて発振ループを形成する振動子配線が配置されている第1面、および前記第1面の反対面となる第2面を有する基板と、を備え、
前記基板は、前記第1面と前記第2面との間に導体層を有し、
前記導体層は、平面視にて前記振動子配線と重なり、且つ前記インダクターとは重ならず、
前記励振電極は、前記平面視にて前記発振回路と重なり、且つ前記インダクターとは重ならない、
発振器。
【請求項2】
互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸、およびZ軸としたとき、
前記集積回路素子は、
前記X軸に沿って延在する第1辺と、
前記第1辺の対辺である第2辺と、
前記Z軸に沿った平面視において前記第1辺と前記インダクターとの間に設けられ、前記導体層と電気的に接続された第1の接続パッドと、
前記平面視において前記第2辺と前記インダクターとの間に設けられ、クロック信号が出力される第2の接続パッドと、を有し、
前記平面視において、前記導体層は、前記第1辺と前記インダクターとの間に延在し、且つ前記第2辺と前記インダクターとの間に延在しない、
請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
前記導体層は、前記平面視にて前記発振回路と重なる、
請求項1又は請求項2に記載の発振器。
【請求項4】
前記導体層は、前記平面視にて前記インダクターの周囲の少なくとも2方向を囲んで設けられている、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項5】
前記集積回路素子は、能動面が前記第1面に対向して、導電性の接合部材を介して前記第1面に接合されている、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項6】
前記集積回路素子は、PLL回路を含み、
前記PLL回路は、
前記発振回路からの発振信号の位相とフィードバック信号の位相とを比較する位相比較回路と、
前記位相比較回路からの出力信号に基づいて発振周波数が制御される電圧制御発振回路と、
前記電圧制御発振回路からの出力信号を分周して前記フィードバック信号を生成する分周回路と、を含み、
前記電圧制御発振回路は、前記インダクターを含むLC発振回路である、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項7】
前記導体層は、接地されている、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項8】
前記平面視にて、前記発振回路は前記振動子配線と前記インダクターとの間に配置されている、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発振器。
【請求項9】
前記第1面に接合され、前記振動片および前記集積回路素子を収容する収容空間を形成する枠体と、
前記収容空間を覆う前記枠体に接合される金属の蓋体と、をさらに備え、
前記蓋体は接地されており、
前記蓋体と前記第1面との距離は、前記導体層と前記第1面との距離より大きい、
請求項1から請求項に記載の発振器。
【請求項10】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発振器を備えている電子機器。
【請求項11】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の発振器を備えている移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器、当該発振器を備えた電子機器、及び移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水晶などの振動片を用いて、所望の周波数の信号を出力する発振回路を備えた発振器が知られている。例えば、特許文献1には、水晶の振動片、及び、発振回路を内蔵したICを有し、振動片を含む発振回路に接続する発振ループを形成する配線と、グランド電位の導体層とを、セラミック製の基板を介して重ねた構成の発振器が開示されている。グランド電位の導体層は、発振ループを形成する配線、及び、ICと重なっており、これにより、静電容量や、発振特性の安定化を図っていた。また、当該発振器には、振動片及び発振回路に加えて、ディスクリート部品であるインダクターが収容されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-52083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発振器に搭載されるインダクターは、ディスクリート部品であるため、ICの外に実装されていた。発振器の小型化のためには、例えば、スパイラルインダクターのように、インダクターをIC内に形成することが考えられる。しかしながら、そのようにした場合、インダクターの磁界がグランド電位の導体層によって遮られることで特性が劣化してしまうおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発振器は、振動片に電気的に接続される発振回路、およびインダクターを有する集積回路素子と、前記集積回路素子が配置されているとともに、前記振動片および前記発振回路と接続されて発振ループを形成する振動子配線が配置されている第1面、および前記第1面の反対面となる第2面、を有する基板と、を備え、前記基板は、前記第1面と前記第2面との間に導体層を有し、前記導体層は、平面視にて前記振動子配線と重なり、且つ前記インダクターとは重ならない。
【0006】
上記記載の発振器を備えている電子機器。
【0007】
上記記載の発振器を備えている移動体。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1に係る発振器の内部構成を上から見た透視平面図。
図2図1で示す発振器のA-Aの断面図。
図3図1で示す発振器のB-Bの断面図。
図4】発振器に内蔵されたIC内部構成を上から見た透視平面図。
図5】発振器の回路構成を示すブロック図。
図6】発振器の位相雑音特性の比較を示したグラフ。
図7】実施形態2に係る発振器の内部構成を上から見た透視平面図。
図8】実施形態3に係る発振器を組み込んだ電子機器を示す図。
図9】実施形態4に係る発振器を組み込んだ移動体を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施形態1
先ず、実施形態1に係る発振器1を挙げて図1から図4を参照して説明する。説明の便宜上、図1から図4、及び後述する実施形態2を示す図7は互いに直交する3つの軸として、X軸、Y軸、及びZ軸を図示している。図1に示すように、発振器1は平面視において長方形をなしており、当該長方形の長辺方向をX軸、短辺方向をY軸としている。X軸において、矢印の先端側を右もしくは右側として、基端側を左もしくは左側とする。Y軸において、矢印の先端側を奥側として、基端側を手前ともいう。Z軸は、厚さもしくは高さとし、矢印の先端側を上方といい、基端側を底もしくは下方として説明する。
【0010】
図1は、発振器1の内部構成を示す上方から見た透視図である。以下、上方から見た平面視の図を平面図という。図2は、図1で示す発振器1のA-Aの断面図である。図3は、図1で示す発振器1のB-Bの断面図である。
【0011】
<発振器の概略構成>
本実施形態の発振器1は、容器10、水晶振動子20、IC50などから構成されている。
容器10は、パッケージ本体18、リッド19などから構成されている。パッケージ本体18は、水晶振動子20、IC50を収容する筐体である。リッド19は、パッケージ本体18の上面を覆う金属の蓋体である。
水晶振動子20は、圧電体として水晶基板を用いた振動片である。
IC50は、集積回路素子(Integrated Circuit)であり、発振回路30、インダクター24などを含んで構成されている。
【0012】
図2で示すように、パッケージ本体18は、その底部を形成する基板14と、IC50の収容空間Sおよび水晶振動子20の支持台を形成する枠体としての第1枠体15と、水晶振動子20の収容空間Sを形成する枠体としての第2枠体16と、リッド19との接合材としてのシームリング17などから構成されている。
基板14は、好適例において、下層の第2基板13と、上層の第1基板11との2層構成としている。基板14は、表面を第1面14aとし、裏面となる第1面の反対面を第2面14bとする。なお、基板14は、第2基板13、上層の第1基板11ともに、セラミックス基板を用いている。なお、ガラスや、樹脂等の絶縁性の基板材料、又は、それらを複合した絶縁性の基板材料を用いても良い。
基板14は、第1面14aと第2面14bとの間に導体層12を設ける。すなわち、第2基板13と、上層の第1基板11との間には、導体層12が設けられている。導体層12は、モリブデン(MO)や、タングステン(W)などの導電性金属材料から形成された配線パターンである。
【0013】
基板14の上には、額縁状の第1枠体15、第2枠体16が積層される。
第1枠体15の左部の内壁は、第2枠体16の左部の内壁より収容空間S側に突出した段差を有している。第1枠体15の段差は、水晶振動子20を支持する支持台として機能する。第2枠体及び第1枠体15は、第1面14aに接合され、水晶振動子20およびIC50を収容する収容空間Sを形成している。水晶振動子20は、半田などの導電性材料からなる接合部材としてのバンプ43を介して、接続配線41と電気的に接続するとともに、第1枠体15の段差に固定される。接続配線41は、第1枠体15の内部を下方に向かって貫通するビアホール46を介して振動子配線42と電気的に接続されている。
基板14を底とし、額縁状の第1枠体15、第2枠体16で囲われた内部領域が、収容空間Sとなる。なお、第1枠体15、第2枠体16の材質は、第1基板11と同様である。
【0014】
好適例において、リッド19の材料は、コバール(Fe-Ni-Co合金)を用い、シームリング17は、銀ろうによるろう付けを採用している。パッケージ本体18の収容空間Sは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体雰囲気、又は、大気圧よりも圧力が低い減圧雰囲気にされ、リッド19により封止される。これにより、収容空間Sに収容されるIC50や、水晶振動子20などは、衝撃、埃、熱、湿気等から好適に保護される。なお、図示を省略するが、金属製のリッド19は、グランド電位に接地されている。
【0015】
<ICの概要、及び、ICの実装態様>
図4は、基板に実装されたICをリッド側から見た透視平面図である。
【0016】
図2及び図3で示す基板14の上面を第1面14aとし、下面を第2面14bとして説明する。
基板14の第1面14aには、IC50が能動面を下にして、フェースダウン実装されている。図4に示すように、IC50の能動面には、複数の接続パッド70~74が設けられている。複数の接続パッド70~74は、金や半田などの導電性材料からなるバンプ43を介して、第1面14aの配線パターンと接合される。
【0017】
接続パッド73は、グランド端子であり、図3に示すように、バンプ43を介して、第1面14aの配線パターン80と電気的に接続される。配線パターン80は、発振器1を実装するための実装端子85に電気的に接続されている。実装端子85は、基板14の第2面14b、及び側面に形成されており、側面部分が配線パターン80と接続している。
ここで、配線パターン80と導体層12との間も電気的に接続されており、導体層12はグランド電位に接地されている。
【0018】
図4に示すように、IC50の能動面には、複数の接続パッド70~74に加えて、発振回路30、PLL回路40などが形成されている。
接続パッド71,72は、発振回路30と水晶振動子20とを電気的に接続するための接続端子である。図2に示すように、接続パッド71,72は、バンプ43を介して、第1面14aの振動子配線42と電気的に接続される。そして、前述したように、振動子配線42は、第1枠体15の段差部のビアホール46、接続配線41、及び、バンプ43を介して、水晶振動子20と電気的に接続する。このように、振動子配線42は、水晶振動子20及び発振回路30と接続されて発振ループを形成する。
【0019】
PLL回路40は、インダクター24を含むLC発振回路を備えている。つまり、図4に示すように、IC50は、インダクター24を内蔵している。なお、LC発振回路は、キャパシターを備えているが、図示を省略している。平面的に略矩形をなしたIC50において、左辺側の中央に発振回路30が位置しており、右辺側の中央に略正方形をなしたインダクター24が配置されている。PLL回路40は、発振回路30とIC50の右辺との間に配置されている。
インダクター24は、好適例として、スパイラルインダクターを用いる。スパイラルインダクターは、IC50の能動面の表層に設けられ、例えば、アルミニウム層等の金属線を複数回、周回させることで形成されている。このように、IC50は、インダクター24を内蔵することにより、外付けインダクターに比べて、小型化を実現している。
【0020】
インダクター24は、例えば、一方の金属線を時計回りに周回させることで形成され、他方の金属線を反時計回りに周回させることで形成されている。更に一方の金属線と他方の金属線は平行になるように周回して配線されている。例えば、インダクター24の金属配線の厚さは、インダクター24の直列抵抗が小さくなり、Q値が向上する1μm以上10μm以下とし、好ましくは、より膜厚制御がし易く、成膜時間が短い2μm以上6μm以下とする。そして、インダクター24の周囲には一定電圧、例えばグラウンド電圧となるガードリング24aが設けられている。
【0021】
なお、インダクター24は、周波数の調整可能な周波数可変範囲を広げるための所謂、伸長コイルとしても機能するので、発振器1を基板に実装する前後における周波数可変範囲幅の変動を低減させることができる。
【0022】
<発振器の回路ブロック構成>
図5は、発振器の回路ブロック構成図である。
図5に示すように、IC50は、発振回路30とPLL回路40とを含み、発振回路30と水晶振動子20とを電気的に接続し、発振回路30で水晶振動子20を発振させる。
IC50は、発振回路30から出力した基準クロック信号RFCKを、PLL回路40にて、1/N分周したフィードバッククロック信号FBCKと同期させることにより、基準クロック信号RFCKのN倍の周波数を持つクロック信号CKQを接続パッド74から出力する。
【0023】
図5に示すように、発振回路30は、水晶振動子20を発振させて発振信号である基準クロック信号RFCKを生成する。例えば水晶振動子20の発振の周波数をfxtalとした場合に、基準クロック信号RFCKの周波数もfxtalになる。
【0024】
次にPLL回路40は、発振回路30からの発振信号の位相とフィードバック信号の位相とを比較する位相比較回路61と、位相比較回路61からの出力信号に基づいて発振周波数が制御される電圧制御発振回路63と、電圧制御発振回路63からの出力信号を分周してフィードバック信号を生成する分周回路64を含んで構成される。
【0025】
位相比較回路61は、発振回路30からの基準クロック信号RFCKとフィードバッククロック信号FBCKの位相を比較する。そして、位相比較回路61は、基準クロック信号RFCKとフィードバッククロック信号FBCKの位相差に応じた信号CQを位相比較結果の信号として出力する。位相差に応じた信号CQとは、例えば位相差に比例したパルス幅のパルス信号である。
【0026】
位相比較回路61からの位相差に応じた信号CQに基づいて処理する制御電圧生成回路62は、その位相差に応じた信号CQに基づいて、チャージポンプ動作やフィルター処理を行って、電圧制御発振回路63の発振を制御する制御電圧VCを生成する。
【0027】
電圧制御発振回路63は、IC50の基板上に形成されたインダクター24を含むLCの共振周波数で発振するLC発振回路である。制御電圧生成回路62からの制御電圧VCに基づいてLC発振回路が発振動作を行い、クロック信号CKQを生成する。電圧制御発振回路63は、例えば、バラクターなどの可変容量素子を有し、この可変容量素子の容量が制御電圧VCに基づいて変化することで、LC発振回路の発振動作により生成される発振信号であるクロック信号CKQの周波数を変化させる。
【0028】
分周回路64は、クロック信号CKQの周波数を、分周比データにより設定される分周比で分周した周波数の信号を、フィードバッククロック信号FBCKとして出力する。例えば電圧制御発振回路63の発振の周波数をfvcoとし、分周回路64を分周動作の分周比をNとした場合に、フィードバッククロック信号FBCKの周波数は、fvco/Nになる。なお、Nは、整数であってもよいし、小数部分を含む値であっても良い。
【0029】
<水晶振動子の概要>
図1に戻る。
図1に示すように、振動片としての水晶振動子20は、水晶基板21と、水晶基板21の上下両主面に設けられた励振電極22と、水晶基板21のX方向の一方の端部で上下両主面に設けられた電極パッド26と、励振電極22と電極パッド26とを電気的に接続するリード電極23と、を含む。水晶基板21の上下両主面に設けられた電極パッド26は、図示しない側面電極で上面の電極パッド26と下面の電極パッド26とが電気的に接続されている。水晶基板21の上面に設けられた励振電極22は、水晶基板21の上面に設けられたリード電極23を介して電極パッド26と電気的に接続され、水晶基板21の下面に設けられた励振電極22は、水晶基板21の下面に設けられたリード電極23を介して電極パッド26と電気的に接続されている。そして、図2に示すように、電極パッド26は、バンプ43を介して、接続配線41と電気的に接続される。
【0030】
<導体層の配置態様>
図1に示すように、導体層12は、IC50の発振回路30、及び、水晶振動子20の電極パッド26と重なるように配置されたベタパターンである。平面視にて、発振回路30は、振動子配線42とインダクター24との間に配置されている。導体層12は、インダクター24とは重なっていない。詳しくは、導体層12は、IC50のインダクター24と重なる部分は切り欠き形状となっており、インダクター24とは重なっていない。切り欠き形状は、X軸方向に延びる切欠き辺12aと、Y軸方向に延びる切欠き辺12bとから形成されており、インダクター24は、切欠き辺12a、及び、切欠き辺12bから、平面的に離れている。換言すれば、導体層12は、平面視にてインダクター24の周囲の少なくとも2方向を囲んで設けられている。
尚、導体層12は、平面視にてインダクター24の周囲に設けられたガードリング24aとも重なっていない。
【0031】
詳しくは、導体層12は、発振回路30、水晶振動子20の電極パッド26、及び、発振ループを形成する振動子配線42と重なるように配置されているが、インダクター24とは重ならない形状となっている。つまり、導体層12は、発振ループを形成する部位を選択的に覆うパターン形状となっている。
【0032】
<導体層による効果>
図6は、導体層12の有無による位相雑音特性の変化を示す図表である。
図6の図表90は、横軸にオフセット周波数(Hz)、縦軸に位相雑音(dBc/Hz)を取り、発振器1によるオフセット周波数(Hz)に対する位相雑音(dBc/Hz)の特性を測定したデータである。
【0033】
グラフ91は、比較例として導体層12が発振ループを形成する部位に加えて、インダクター24と重なる領域まで形成されている状態で測定したデータである。
グラフ92は、本願の発振器1の構成であり、導体層12が発振ループを形成する部位と重なり、インダクター24とは重ならない状態で測定したデータである。
両者を比較した結果は、グラフ92に示すように、オフセット周波数の全域において、グラフ91よりも、2dBc/Hzほど位相雑音特性が向上していることが解る。これは、グランド電位の導体層12がインダクター24と重なると、通電時にインダクター24で形成される磁界が、導体層12により遮蔽されてしまうため、インダクター24の特性が劣化してしまうからである。このインダクター24の特性劣化は、LC発振回路の発振特性にも影響を及ぼしていた。
【0034】
<導体層などによる他の効果>
図1に戻る。
上記したように、グランド電位の導体層12が発振ループを形成する部位と重なるように選択配置されているため、導体層12がシールドパターンとして機能し、発振特性を安定させることができる。
【0035】
図2に戻る。
図2に示すように、IC50は基板14にフェースダウン実装され、水晶振動子20は、IC50の上側において第1枠体15の段差部に支持されている。そして、水晶振動子20の上側にリッド19が設けられている。つまり、IC50のインダクター24からリッド19までの距離は、IC50の厚さ分に加えて、水晶振動子20までの距離、水晶振動子20の厚さ分、水晶振動子20からリッド19までの距離の合計となる。つまり、インダクター24からグランド電位のリッド19までの距離が大きく設定されている。換言すれば、リッド19と基板14の第1面14aとの距離は、導体層12と第1面14aとの距離より大きく設定されている。これにより、通電時にインダクター24で形成される磁界が、リッド19により遮蔽されてしまうことを防止している。
【0036】
<応用例>
上記において、発振器1は、電圧制御水晶発振器(VCXO)として例示したが、振動片や発振器1の種類をこれに限定するものではない。振動片としては、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子、ATカット水晶振動子、SCカット水晶振動子、その他の圧電振動子やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)振動子などを用いても良い。
【0037】
そして、振動片の基板材料としては、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム等の圧電単結晶や、ジルコン酸チタン酸鉛等の圧電セラミックス等の圧電材料、またはシリコン半導体材料として、MEMSプロセスで形成されていてもよい。更に、振動片の励振手段としては、圧電効果によるものを用いてもよいし、クーロン力による静電駆動を用いてもよい。
【0038】
また、発振器1の種類は、圧電発振器(水晶発振器など)、SAW発振器、電圧制御型発振器(VCXOやVCSOなど)、温度補償型発振器(TCXOなど)、恒温型発振器(OCXOなど)、シリコン発振器、原子発振器などであってもよい。
【0039】
なお、本実施形態では、IC50がFCB(Flip Chip Bonding)実装される構成で説明したが、ボンディングワイヤーを介してパッケージの配線と電気的に接続する構成であっても良い。
【0040】
以上述べたように、本実施形態に係る発振器1によれば、以下の効果が得ることができる。
基板14は、第1面14aと第2面14bとの間に導体層12を有し、導体層12は、平面視にて振動子配線42と重なり、且つ、インダクター24とは重ならない構成となっている。
これにより、グランド電位の導体層12がインダクター24と重なることによる、インダクター24の特性劣化を防止することができる。詳しくは、通電時にインダクター24で形成される磁界が、導体層12により遮蔽されることを防止できる。
従って、発振特性が安定し、位相雑音特性が良い発振器1を提供することができる。
【0041】
更に、導体層12は接地されており、平面視にて、発振回路30と重なる構成となっている。
これにより、グランド電位の導体層12がシールド層として機能するため、発振器1の発振特性が安定する。
【0042】
また、導体層12は、平面視にてインダクターの周囲の少なくとも2方向を囲んで設けられている。これによれば、導体層12がインダクター24と重ならないように、導体層12を配置することができる。
【0043】
また、IC50は、能動面が基板14の第1面14aに対向して、バンプ43を介して第1面14aに接合されている。これによれば、IC50をコンパクトに基板14に実装することができる。
【0044】
また、IC50は、PLL回路40を含み、PLL回路40は、発振回路30からの発振信号の位相とフィードバック信号の位相とを比較する位相比較回路61と、位相比較回路61からの出力信号に基づいて発振周波数が制御される電圧制御発振回路63と、電圧制御発振回路63からの出力信号を分周してフィードバック信号を生成する分周回路64と、を含み、電圧制御発振回路63は、インダクターを含むLC発振回路となっている。
これによれば、所望の発振周波数が得られる発振器1を提供することができる。
【0045】
また、平面視にて、発振回路30は、振動子配線42とインダクター24との間に配置されている。これによれば、発振ループを形成する発振回路30と振動子配線42とを連続して、導体層12で覆うことができる。
【0046】
また、リッド19は接地されており、リッド19と基板14の第1面14aとの距離は、導体層12と第1面14aとの距離より大きく設定されている。
これによれば、通電時にインダクター24で形成される磁界が、リッド19により遮蔽されてしまうことを防止することができる。
【0047】
2.実施形態2
次に、実施形態2に係る電子デバイスとしての発振器1aについて、図7を参照して説明する。
【0048】
本実施形態の発振器1aは、実施形態1の発振器1に比べ、平面視において導体層12の形状が異なること以外は、実施形態1の発振器1と同様である。なお、前述した実施形態1との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0049】
図7に示すように、平面視において発振器1aは、実施形態1で示した導体層12に導体層12cを追加することでインダクター24の周囲の3方向を囲んで設けてもよい。更に、図示しない導体層12dを設け、平面視にて、インダクター24の周囲4方向を囲んでもよい。このような構成とすることで、電気的な接続信頼性が向上し、且つ、実施形態1の発振器1以上の効果を得ることができる。
また、平面視において発振器1aは、実施形態1で示した導体層12の形状をインダクター24の一辺のみと平行に延ばした長方形状としての切欠き辺12aと切欠き辺12bとでインダクター24を挟んで設けることもできる。
また、導体層12の形状をインダクター24のもう片方の辺のみと平行に延ばした略矩形状と切欠き辺12bと図示しない導体層12dとでインダクター24を挟んで設けることもできる。言い換えれば、導体層12は、平面視にてインダクター24の周囲の少なくとも2方向を囲んで設けられていればよい。
尚、実施形態1と同様、導体層12は、平面視にてインダクター24の周囲に設けられたガードリング24aとも重なっていない。
【0050】
以上述べたように、本実施形態に係る発振器1aによれば、以下の効果が得ることができる。
基板14の第1面14aと第2面14bとの間に設けた導体層12は、インダクター24の周囲4方向を囲んで設けられるので、通電時にインダクター24で形成される磁界が、導体層12により遮蔽されることを防止できる。
従って、より発振特性が安定し、より位相雑音特性が良い発振器1aを提供することができる。
【0051】
3.実施形態3
次に、実施形態3に係る電子デバイスとしての発振器1,1aを備えている電子機器の一例として、スマートフォン100を挙げて説明する。なお、以下の説明では、発振器1を適用した構成を例示して説明する。
【0052】
スマートフォン100は、図8に示すように、上述した発振器1が組込まれている。
スマートフォン100の制御部105には、表示部110の表示画像を制御するための基準クロック等として機能する発振器1が内蔵されている。
このような電子機器は、上述した発振器1を備えていることから、上記実施形態で説明した効果が反映され、性能に優れている。
【0053】
なお、上述した発振器1を備えている電子機器としては、スマートフォン100以外に、例えば、インクジェットプリンターなどのインクジェット式吐出装置、携帯電話、ラップトップ型やモバイル型のパーソナルコンピューター、テレビ、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、各種ナビゲーション装置、ページャー、通信機能付も含む電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、魚群探知機、各種測定機器、計器類、フライトシミュレーターなどや電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡などの医療機器が挙げられる。いずれの場合にも、これらの電子機器は、上述した発振器1を備えていることから、上記実施形態で説明した効果が反映され、性能に優れている。
以上述べたように、本実施形態に係る発振器1を備えた電子機器は、安定した発振特性が得られる電子部品を備えているので、安定した電子部品により制御されるため、信頼性の高い電子機器を提供することができる。
【0054】
4.実施形態4
次に、実施形態4に係る電子デバイスとしての発振器1,1aを備えている移動体の一例として、自動車150を挙げて説明する。なお、以下の説明では、発振器1を適用した構成を例示して説明する。
【0055】
自動車150は、図9に示すように、上述した発振器1が組込まれている。自動車150の車体151には、タイヤ153を制御する電子制御ユニット152の基準クロック等として機能する発振器1が搭載されている。また、発振器1は、他にもキーレスエントリー、イモビライザー、カーナビゲーションシステム、カーエアコン、アンチロックブレーキシステム(ABS)、エアバック、タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)、エンジンコントロール、自動運転用慣性航法の制御機器、ハイブリッド自動車や電気自動車の電池モニター等の電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)に広く適用できる。
【0056】
また、移動体に適用される発振器1は、上記の例示の他にも、例えば、二足歩行ロボットや電車などの姿勢制御、ラジコン飛行機、ラジコンヘリコプター、及びドローンなどの遠隔操縦あるいは自律式の飛行体の姿勢制御、農業機械、もしくは建設機械などの姿勢制御において利用することができ、いずれの場合にも、上記実施形態で説明した効果が反映され、性能に優れた移動体を提供することができる。
以上述べたように、本実施形態に係る発振器1を備えた移動体は、安定した発振特性が得られる電子部品を備えており、安定した電子部品により制御されるため、信頼性の高い移動体を提供することができる。
【符号の説明】
【0057】
1,1a…発振器、12…導体層、12a,12b,12c…切欠き辺、14…基板、14a…第1面、14b…第2面、19…蓋体としてのリッド、20…振動片としての水晶振動子、24…インダクター、30…発振回路、40…PLL回路、42…振動子配線、43…導電性の接合部材としてのバンプ、50…集積回路素子としてのIC、61…位相比較回路、63…電圧制御発振回路、64…分周回路、70~74…接続パッド、100…電子機器の一例としてのスマートフォン、150…移動体の一例としての自動車。
図1
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図9