(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】光モジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 6/42 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
G02B6/42
(21)【出願番号】P 2020102362
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 孝俊
(72)【発明者】
【氏名】蒲生 剛
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/114432(WO,A1)
【文献】特開2005-275407(JP,A)
【文献】特開2011-039187(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0270657(US,A1)
【文献】特開2005-116400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/26-6/27
G02B 6/30-6/34
G02B 6/42-6/43
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の装置の開口部に挿抜可能な導電体からなる筐体と、
前記筐体の内部の空間に配置される基板と、
前記基板が配置される空間を
、前記筐体が前記他の装置の開口部に挿入される際の挿入方向における前方の空間と、前記挿入方向における後方の空間とに区画する遮断部と
、前記前方の空間に配置され、電磁波を放射する部品と、を有し、
前記遮断部は、
前記基板の一方の面に形成される第1導電体パタンと、
前記基板の他方の面に形成される第2導電体パタンと、
前記基板を貫通し、前記第1導電体パタン及び前記第2導電体パタンを接続する複数のビアと、
前記第1導電体パタン及び
、前記遮断部が位置する箇所にある前記筐体
の内面に当接する導電体の第1補助部材と、
前記第2導電体パタン及び
、前記遮断部が位置する箇所にある前記筐体
の内面に当接する導電体の第2補助部材と
、を有
し、
前記第1導電体パタン、前記第2導電体パタン、前記複数のビア、前記第1補助部材及び前記第2補助部材の電位がフレームグランドの電位となると共に、前記部品から前記後方の空間への前記電磁波を抑制する
ことを特徴とする光モジュール。
【請求項2】
前記遮断部は、
前記筐体が前記他の装置の開口部に挿入された状態で、前記開口部に形成されたガスケットから所定の距離までの範囲に位置することを特徴とする請求項1記載の光モジュール。
【請求項3】
前記前方の空間に配置され、電磁波を放射する
前記部品である第1部品と、
前記後方の空間に配置され、電磁波を放射しない第2部品と
をさらに有することを特徴とする請求項1記載の光モジュール。
【請求項4】
前記複数のビアは、
隣接するビア間の距離が、前記第1部品が放射する電磁波の周波数に応じた距離未満となるように形成されることを特徴とする請求項3記載の光モジュール。
【請求項5】
前記遮断部は、
前記前方の空間と前記後方の空間とをつなぐ空隙が形成されてなることを特徴とする請求項3記載の光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ラック型の光伝送装置に挿抜可能であるプラガブル(pluggable)な光モジュールの開発が盛んである。このような光モジュールは、光ファイバが接続された状態で、光伝送装置の前面に開口する差込口に挿入されることにより、光伝送装置による光通信を可能にする。
【0003】
一般に、光モジュールは、電波障害(EMI:Electromagnetic Interference)に関する規格に準拠しており、光モジュール内部の高周波で動作する高速部品から発生する電磁波が光伝送装置外へ漏れるのを抑制する構造を有する。具体的には、光モジュールは、例えば
図5に示す構造を有する。
図5は、光伝送装置の前面に開口するケージ20に光モジュール10が挿入された状態を側方から見た図である。
【0004】
図5に示すように、光モジュール10は、下側筐体11及び上側筐体12によって外郭が形成され、内部の基板13に高速部品14を含む各種の部品が搭載された構造を有する。基板13の先端は、光伝送装置の基板に配置されたコネクタに差し込まれて光伝送装置に接続する。主に高速部品14から発生する電磁波は、下側筐体11及び上側筐体12の境界にある隙間から光モジュール10の外部へ漏れ出す。そこで、ケージ20の開口部よりも光伝送装置の内部に相当する位置で、光モジュール10内部に電波吸収体15が充填され、高速部品14から発生する電磁波が光モジュール10から直接光伝送装置外部へ漏れ出すことを抑制する。さらに、ケージ20の開口部の内面及び外面には、複数のガスケット21が配置されており、光モジュール10から光伝送装置の内部へ漏れ出た電磁波がさらに光伝送装置の外部へ漏れ出すことを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-142815号公報
【文献】米国特許第7013088号明細書
【文献】特開2008-249856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、光モジュールを構成する部品の小型化及び高密度化が進んでいるため、高速かつ長距離の光通信をプラガブルな光モジュールを用いて実現することが検討されている。しかしながら、光通信の高速化及び長距離化のためには、光モジュールに実装される部品点数が増加し、部品実装面積が増大して基板が大型化する傾向がある。
【0007】
この結果、光モジュールが光伝送装置に挿入された状態において、光伝送装置の外部に伸びる部分が長くなり、光伝送装置の内部に相当する位置で、光モジュール内部に電波吸収体を充填することが困難となる。このため、光伝送装置の外部において、光モジュールの下側筐体及び上側筐体の境界にある隙間から直接光伝送装置外部へ電磁波が漏洩する恐れがある。
【0008】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、装置外部への電磁波の漏洩を抑制することができる光モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願が開示する光モジュールは、1つの態様において、他の装置の開口部に挿抜可能な導電体からなる筐体と、前記筐体の内部の空間に配置される基板と、前記基板が配置される空間を2つの空間に区画する遮断部とを有し、前記遮断部は、前記基板の一方の面に形成される第1導電体パタンと、前記基板の他方の面に形成される第2導電体パタンと、前記基板を貫通し、前記第1導電体パタン及び前記第2導電体パタンを接続する複数のビアと、前記第1導電体パタン及び前記筐体に当接する導電体の第1補助部材と、前記第2導電体パタン及び前記筐体に当接する導電体の第2補助部材とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本願が開示する光モジュールの1つの態様によれば、装置外部への電磁波の漏洩を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、一実施の形態に係る光モジュールの構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施の形態に係る光モジュールの要部構成を示す図である。
【
図4】
図4は、光モジュールが運用される状態を示す図である。
【
図5】
図5は、光モジュールの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願が開示する光モジュールの一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、一実施の形態に係る光モジュール100の構成を示す斜視図である。光モジュール100は、導電性の下側筐体110及び上側筐体120からなる筐体を有するプラガブルな光モジュールである。上側筐体120の先端120aは、下側筐体110よりも突出しており、光モジュール100は、この先端120a側から光伝送装置の例えば前面に開口するケージへ挿入される。なお、以下においては、先端120aが突出する方向を光モジュール100の前方といい、先端120aが突出する方向と反対の方向を光モジュール100の後方という。
【0014】
先端120aの下方には、基板130が下側筐体110よりも前方に突出しており、光モジュール100が光伝送装置のケージへ挿入されると、基板130の先端が光伝送装置内部のコネクタに接続される。
【0015】
下側筐体110及び上側筐体120は、互いに嵌合して光モジュール100の外郭を構成するが、下側筐体110及び上側筐体120の境界には、微小な隙間が形成される。このため、基板130に搭載される例えばDSP(Digital Signal Processor)などの高周波で動作する高速部品から放射される電磁波は、下側筐体110及び上側筐体120の境界の隙間から光モジュール100の外部へ漏洩し得る。
【0016】
図2は、光モジュール100の要部構成を示す図である。すなわち、
図2(a)は、光モジュール100の内部を上方から見た平面図、
図2(b)は、光モジュール100の内部を側方から見た側方断面図である。
図2(a)、(b)においては、光モジュール100の前方の構成の図示を省略している。
【0017】
光モジュール100の後端には、光ファイバを接続可能な接続部115が形成されている。接続部115に光ファイバが接続されると、光モジュール100は、光ファイバから光信号を受信したり、光ファイバへ光信号を送信したりする。
【0018】
光モジュール100の内部では、基板130に種々の部品が搭載される。具体的には、例えばDSP210及びCOSA(Coherent Optical Subassembly)220などの部品が基板130に実装される。DSP210及びCOSA220は、比較的高周波で動作する高速部品であり、電磁波を放射する。これらの高速部品は、光モジュール100の内部の空間を区画する遮断部240よりも前方に配置される。
【0019】
一方、遮断部240よりも後方には、例えばレーザダイオードなどの光源やフォトダイオードなどの光検出素子を含む光学部品230が実装される。光学部品230は、比較的低周波で動作する低速部品であり、ほとんど電磁波を放射することはない。このような光学部品230は、接続部115に近い光モジュール100の後方に配置される。なお、遮断部240よりも後方には、光学部品230の他に、電磁波を放射しない低速の電気部品が配置されても良い。これらの電気部品は、遮断部240よりも後方に伸びる基板130上に実装されても良い。
【0020】
このように、光モジュール100の下側筐体110及び上側筐体120によって形成される内部の空間は、遮断部240によって後方空間250と前方空間260とに区画される。そして、後方空間250には、電磁波を放射しない光学部品230などの低速部品が配置され、前方空間260には、電磁波を放射するDSP210及びCOSA220などの高速部品が配置される。
【0021】
遮断部240は、高速部品から放射される電磁波を遮断する構成を有しており、例えばDSP210及びCOSA220などから放射される電磁波が光モジュール100の後方空間250へ進入することを抑制する。また、後方空間250には、電磁波を放射しない低速部品が配置されるため、後方空間250から光モジュール100の外部へ電磁波が漏洩することはない。
【0022】
図3は、遮断部240の構成を示す図である。すなわち、
図3は、
図2(b)のI-I線断面を示す模式図である。
【0023】
図3に示すように、遮断部240は、基板130の下面に形成される導電体パタン310と、基板130の上面に形成される導電体パタン320と、導電体パタン310及び導電体パタン320を接続する複数のビア330と、導電体パタン310及び下側筐体110を接続する補助部材340と、導電体パタン320及び上側筐体120を接続する補助部材350とを有する。
【0024】
導電体パタン310、320は、基板130の表面に形成される配線と同様の導電体パタンであり、配線には接続せずに独立した導電体パタンである。基板130の両面の導電体パタン310、320は、基板130を貫通する複数のビア330によって接続される。これにより、基板130の断面には、導電体パタン310、320及びビア330によって、格子状に導電体が配置される。
【0025】
補助部材340、350は、いずれも導電体から形成され、それぞれ導電体パタン310と下側筐体110及び導電体パタン320と上側筐体120を接続するため、遮断部240を構成する導電体パタン310、320、ビア330及び補助部材340、350の電位はフレームグランド(FG:Frame Ground)の電位となる。
【0026】
隣接するビア330の間の距離dは、高速部品が放射する電磁波の周波数に応じて設定される。具体的には、例えば電磁波の周波数が50GHz以下である場合には、ビア330間の距離dは3mm以下に設定される。これは、導電体パタン310、320及び隣接するビア330によって囲まれる領域を1つの方形導波管とみなして、電磁波の周波数がこの方形導波管のカットオフ周波数となるように距離dを設定することによっている。
【0027】
すなわち、長辺がd(mm)の方形導波管のカットオフ周波数fcは、下記の式(1)によって表される。
fc=∨c/2d ・・・(1)
【0028】
ただし、式(1)において、∨cは光速(3.0×1011(mm/s))であるものとする。式(1)から、周波数が50GHz以下の電磁波を遮断する方形導波管の長辺dは、3mm以下であることがわかる。また、基板130の厚さは、例えば1mm程度であり、3mmよりも小さいことから、隣接するビア330間の距離を3mmに設定することにより、基板130の断面に長辺が3mmの方形導波管が複数形成されることになる。この結果、前方空間260の高速部品が放射する50GHz以下の電磁波が、電位がFGの導電体パタン310、320及びビア330によって遮断され、基板130の内部を伝播して後方空間250へ到達することを抑制することができる。
【0029】
また、導電体パタン310と下側筐体110との間には補助部材340が配置され、補助部材340の上端は導電体パタン310に当接し、補助部材340の下端は下側筐体110に当接する。このため、基板130の下方が遮断され、前方空間260の高速部品が放射する電磁波が基板130の下方を伝播して後方空間250へ到達することを抑制することができる。
【0030】
同様に、導電体パタン320と上側筐体120との間には補助部材350が配置され、補助部材350の下端は導電体パタン320に当接し、補助部材350の上端は上側筐体120に当接する。このため、基板130の上方が遮断され、前方空間260の高速部品が放射する電磁波が基板130の上方を伝播して後方空間250へ到達することを抑制することができる。
【0031】
遮断部240において、基板130の側方には、後方空間250と前方空間260とをつなぐ空隙が形成されている。この空隙は、光学部品230に接続され光モジュール100の内部で周回される光ファイバ360を挿通させる。すなわち、光学部品230に接続された光ファイバ360は、例えば基板130の一方の側方の空隙を挿通して前方空間260へ伸び、前方空間260を周回して基板130の他方の側方の空隙を挿通して後方空間250へ戻るように配置される。これにより、光ファイバ360を所定の基準を満たす曲率半径で周回させて光モジュール100内部に配置することができる。なお、基板130の側方の空隙は、長手方向のサイズが隣接するビア330間の距離dよりも小さくなるように形成されるため、高速部品が放射する電磁波がこの空隙を伝播して後方空間250へ到達することはない。
【0032】
また、後方空間250の部品と前方空間260の部品とを接続する配線は、基板130の内層に形成される。すなわち、基板130は、表層のみならず内層にも配線を有する例えば積層基板であり、遮断部240を跨ぐ内層配線によって後方空間250の電気部品と前方空間260の電気部品とが電気的に接続される。
【0033】
次いで、上記のように構成された光モジュール100が光伝送装置に挿入されて運用される場合の電磁波の漏洩の抑制について説明する。
【0034】
図4は、光モジュール100が光伝送装置に挿入された状態を側方から見た図である。具体的には、光モジュール100は、光伝送装置の前面パネル410に開口するケージ420に挿入される。このとき、光モジュール100の後端の接続部115には光ファイバFが接続されている。なお、
図4においては、下側筐体110及び上側筐体120の一部を切り欠いて、光モジュール100の内部の構成を図示している。
【0035】
光モジュール100がケージ420内に挿入されると、光モジュール100の前方に突出する基板130の先端は、光伝送装置内のコネクタ430に差し込まれる。コネクタ430は、光伝送装置の回路基板440に実装されており、光モジュール100の基板130上の回路と光伝送装置の回路基板440上の回路とを電気的に接続する。これにより、光伝送装置は、光モジュール100を用いた光通信を実行することが可能となる。
【0036】
光モジュール100の前方空間260には、高周波で動作する高速部品が配置されているため、高速部品から電磁波が放射される。この電磁波は、下側筐体110及び上側筐体120の境界の隙間から光伝送装置内に漏洩する。しかしながら、光伝送装置のケージ420の開口部付近の外面及び内面には、ケージ420から突起する複数のガスケット450が形成されている。隣接するガスケット450の間の隙間は、電磁波が通過しないサイズの隙間であるため、光モジュール100の前方空間260から光伝送装置内に漏洩した電磁波は、光伝送装置の外部へ漏洩することはない。
【0037】
一方、基板130に多くの部品が搭載されるため、前方空間260は、光伝送装置の前面パネル410よりも外部にまで広がっている。すなわち、遮断部240は、光伝送装置の外部に位置している。ガスケット450から遮断部240までの距離Lは、遮断部240を構成する複数のビア330間の距離dと同様に、高速部品が放射する電磁波を通過させない大きさである。つまり、遮断部240は、ガスケット450から電磁波を通過させない距離までの範囲に位置している。したがって、ガスケット450から遮断部240までの領域における、下側筐体110及び上側筐体120の境界の隙間のサイズは、電磁波を通過させないサイズであり、高速部品が放射する電磁波がこの隙間から光伝送装置の外部へ漏洩することはない。
【0038】
さらに、前方空間260の高速部品が放射する電磁波は、遮断部240によって遮断されるため、後方空間250へ到達することはなく、後方空間250から光伝送装置の外部へ漏洩することもない。
【0039】
以上のように、本実施の形態によれば、光モジュールの内部を導体の遮断部によって2つの空間に区画し、電磁波を放射する高速部品を前方空間に配置し、電磁波を放射しない低速部品を後方空間に配置する。このため、前方空間の高速部品が放射する電磁波は、遮断部によって遮断されて後方空間に到達せず、光モジュールが前方空間側から光伝送装置に挿入された状態では、光伝送装置の外部に突出する後方空間から電磁波が漏洩することがない。また、光伝送装置内で前方空間から漏洩する電磁波は、光モジュールが挿入されるケージの開口部に形成されたガスケットによって遮断され、光伝送装置の外部へ漏洩することがない。換言すれば、装置外部への電磁波の漏洩を抑制することができる。
【符号の説明】
【0040】
110 下側筐体
120 上側筐体
130 基板
210 DSP
220 COSA
230 光学部品
240 遮断部
250 後方空間
260 前方空間
310、320 導電体パタン
330 ビア
340、350 補助部材