(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】磁気回路、ファラデー回転子、及び磁気光学デバイス
(51)【国際特許分類】
G02B 27/28 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
G02B27/28 A
(21)【出願番号】P 2020103260
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太志
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/078381(WO,A1)
【文献】特開2019-211753(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107942542(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/28
G02F 1/09-1/095
G02B 5/30
H01F 1/00,7/02
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が通過する貫通孔がそれぞれ設けられた第1~第3の磁石を有する磁気回路であって、
前記磁気回路は、前記第1~第3の磁石が前後方向に同軸上にこの順序で配置されてなり、
光が前記磁気回路の前記貫通孔を通過する方向を光軸方向としたときに、
前記第1の磁石は、前記光軸方向に垂直な方向に、かつ前記貫通孔側がN極となるように磁化されており、
前記第2の磁石は、前記光軸方向に平行な方向に、かつ前記第1の磁石側がN極となるように磁化されており、
前記第3の磁石は、前記光軸方向に垂直な方向に、かつ前記貫通孔側がS極となるように磁化されており、
前記第2の磁石は、前記第1の磁石及び/又は前記第3の磁石とは異なる材料により構成されており、
前記第2の磁石は、キュリー点が360℃以上であり、かつ残留磁束密度が前記第1の磁石及び/又は前記第3の磁石よりも小さ
く、
前記第1の磁石及び前記第3の磁石の保磁力は、それぞれ、前記第2の磁石の保磁力より大きい、磁気回路。
【請求項2】
前記第2の磁石が、サマリウム-コバルト系磁石により構成されている、請求項1に記載の磁気回路。
【請求項3】
前記第1の磁石及び前記第3の磁石のうち少なくとも一方が、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石により構成されている、請求項1又は2に記載の磁気回路。
【請求項4】
前記第1の磁石及び前記第3の磁石の双方が、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石により構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気回路。
【請求項5】
前記第1の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL1とし、前記第2の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL2とし、前記第3の磁石の光軸方向に沿う長さをL3としたときに、L2<L3≦L1の関係にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気回路。
【請求項6】
前記第1の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL1とし、前記第2の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL2とし、前記第3の磁石の光軸方向に沿う長さをL3としたときに、L2<L3<L1の関係にある、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気回路。
【請求項7】
前記第2の磁石の保磁力が、650kA/m以上、1200kA/m以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気回路。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の磁気回路と、
前記磁気回路における前記貫通孔内に配置されており、かつ光が透過する常磁性体からなるファラデー素子と、
を備える、ファラデー回転子。
【請求項9】
前記常磁性体が、ガラス材である、請求項
8に記載のファラデー回転子。
【請求項10】
請求項
8又は
9に記載のファラデー回転子と、
前記ファラデー回転子の前記光軸方向における一方端に配置されている第1の光学部品と、
前記ファラデー回転子の前記光軸方向における他方端に配置されている第2の光学部品と、
を備え、
前記磁気回路の前記貫通孔を通過する光が、前記第1の光学部品及び前記第2の光学部品を通過する、磁気光学デバイス。
【請求項11】
前記第1の光学部品及び前記第2の光学部品が、偏光子である、請求項
10に記載の磁気光学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気回路、ファラデー回転子及び磁気光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光アイソレータは、光を一方向だけに伝搬し、反射して戻る光を阻止する磁気光学デバイスである。光アイソレータは、光通信システムやレーザー加工システム等に用いられるレーザー発振器に使用される。
【0003】
従来、光通信システムで使用される波長域は主に1300nm~1700nmであり、光アイソレータにおけるファラデー回転子のファラデー素子には、希土類鉄ガーネットが用いられていた。
【0004】
一方で、レーザー加工等に用いられる波長は光通信帯域よりも短波長であり、主に1000nm付近である。この波長域においては、上記希土類鉄ガーネットは光吸収が大きいため、使用することができない。そのため、一般的には常磁性体結晶からなるファラデー素子が使われており、特にテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)が広く知られている。
【0005】
光アイソレータとして用いるためには、ファラデー回転による回転角(θ)が45°である必要がある。このファラデー回転角は、ファラデー素子の長さ(L)、ベルデ定数(V)、光軸と平行な磁束密度(H)が下記の式(1)の関係にある。
【0006】
θ=V・H・L (1)
【0007】
このうち、ベルデ定数(V)は、材料に依存する特性である。そのため、ファラデー回転角を調整するためには、ファラデー素子の長さ(L)や、ファラデー素子に加わる光軸と平行な磁束密度(H)を変化させる必要がある。特に、近年はデバイスの小型化が求められていることから、ファラデー素子や磁石の大きさを調整するのではなく、磁石の構造を変えることで、ファラデー回転子に加わる磁束密度(H)の向上が図られている。
【0008】
例えば、下記の特許文献1には、第1~第3の磁石により構成された磁気回路と、ファラデー素子とを備えるファラデー回転子が開示されている。第1の磁石は、光軸と垂直の方向であり、かつ光軸に向かう方向に磁化されている。第2の磁石は、光軸と垂直の方向であり、かつ光軸から離れる方向に磁化されている。これらの間に第3の磁石が配置されている。第3の磁石は、光軸と平行な方向であり、かつ第2の磁石から第1の磁石に向かう方向に磁化されている。この磁気回路では、第1の磁石と第2の磁石の光軸方向に沿う長さをL2、第3の磁石の光軸方向に沿う長さをL3としたとき、L2/10≦L3≦L2の関係が成立するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年のレーザー加工の高出力化に伴い、光アイソレータにも高レーザー耐性が求められている。しかしながら、特許文献1のようなファラデー回転子を用いた光アイソレータでは、光アイソレータへ入射されるレーザーが高出力になると、ファラデー素子のわずかな吸収によって温度上昇が生じることがある。そして、その熱エネルギーによって、磁気回路も温度上昇し、温度条件を元に戻しても磁力が元に戻らない、すなわち温度変化による磁石の不可逆減磁が生じることがある。この場合、ファラデー素子に印加される磁場が弱くなるため、ファラデー回転角が小さくなり、光アイソレータとしてのアイソレーション特性が低下するという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、温度上昇による不可逆減磁が生じ難く、ファラデー素子に大きな磁場を印加することができる、磁気回路、ファラデー回転子、及び磁気光学デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る磁気回路は、光が通過する貫通孔がそれぞれ設けられた第1~第3の磁石を有する磁気回路であって、前記磁気回路は、前記第1~第3の磁石が前後方向に同軸上にこの順序で配置されてなり、光が前記磁気回路の前記貫通孔を通過する方向を光軸方向としたときに、前記第1の磁石は、前記光軸方向に垂直な方向に、かつ前記貫通孔側がN極となるように磁化されており、前記第2の磁石は、前記光軸方向に平行な方向に、かつ前記第1の磁石側がN極となるように磁化されており、前記第3の磁石は、前記光軸方向に垂直な方向に、かつ前記貫通孔側がS極となるように磁化されており、前記第2の磁石は、前記第1の磁石及び/又は前記第3の磁石とは異なる材料により構成されており、前記第2の磁石は、キュリー点が360℃以上であり、かつ残留磁束密度が前記第1の磁石及び/又は前記第3の磁石よりも小さいことを特徴とする。
【0013】
本発明においては、前記第2の磁石が、サマリウム-コバルト系磁石により構成されていることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記第1の磁石及び前記第3の磁石のうち少なくとも一方が、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石により構成されていることが好ましい。
【0015】
本発明においては、前記第1の磁石及び前記第3の磁石の双方が、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石により構成されていることが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記第1の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL1とし、前記第2の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL2とし、前記第3の磁石の光軸方向に沿う長さをL3としたときに、L2<L3≦L1の関係にあることが好ましい。
【0017】
本発明においては、前記第1の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL1とし、前記第2の磁石の前記光軸方向に沿う長さをL2とし、前記第3の磁石の光軸方向に沿う長さをL3としたときに、L2<L3<L1の関係にあることが好ましい。
【0018】
本発明に係るファラデー回転子は、本発明に従って構成される磁気回路と、前記磁気回路における前記貫通孔内に配置されており、かつ光が透過する常磁性体からなるファラデー素子と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明においては、前記常磁性体が、ガラス材であることが好ましい。
【0020】
本発明に係る磁気光学デバイスは、本発明に従って構成されるファラデー回転子と、前記ファラデー回転子の前記光軸方向における一方端に配置されている第1の光学部品と、前記ファラデー回転子の前記光軸方向における他方端に配置されている第2の光学部品と、を備え、前記磁気回路の前記貫通孔を通過する光が、前記第1の光学部品及び前記第2の光学部品を通過することを特徴とする。
【0021】
本発明においては、前記第1の光学部品及び前記第2の光学部品が、偏光子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、温度上昇による不可逆減磁が生じ難く、ファラデー素子に大きな磁場を印加することができる、磁気回路、ファラデー回転子、及び磁気光学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気回路の構造を示す模式的断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るファラデー回転子の構造を示す模式的断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る磁気光学デバイスの構造を示す模式的断面図である。
【
図4】本発明における第1の磁石の構造の一例を示す図である。
【
図5】本発明における第2の磁石の構造の一例を示す図である。
【
図6】本発明における第3の磁石の構造の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る磁気回路、ファラデー回転子、及び磁気光学デバイスの構造を示す模式的断面図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る磁気回路、ファラデー回転子、及び磁気光学デバイスの構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0025】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る磁気回路の構造を示す模式的断面図である。
図2は、本発明の第1の実施形態に係るファラデー回転子の構造を示す模式的断面図である。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る磁気光学デバイスの構造を示す模式的断面図である。各図面において、N及びSの文字は磁極を示すものとする。
【0026】
(磁気回路)
図1に示すように、磁気回路1は、それぞれ貫通孔が設けられた第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13を有する。磁気回路1は、第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13が前後方向に同軸上にこの順序で配置されてなる。なお、同軸上に配置されるとは、光軸方向Xから見て、各磁石の中央付近が重なるように配置されることをいう。本実施形態では、第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13の貫通孔が連結されることにより、磁気回路1の貫通孔2が構成されている。
【0027】
磁気回路1の貫通孔2内には、後述するファラデー素子14を配置することができる。それによって、光アイソレータや光サーキュレータ等の磁気光学デバイス20に用いられるファラデー回転子10を構成することができる。
【0028】
磁気回路1の貫通孔2の断面形状は特に限定されず、矩形や円形であってもよい。組み立てを容易にする点では矩形が好ましく、均一な磁界を付与する点では円形が好ましい。
【0029】
図4は、第1の磁石の構造の一例を示す図(光軸方向Xから見た図)である。
図4に示す第1の磁石11は、4個の磁石片を組み合わせて構成されており、全体として矩形(正方形)の断面形状を有している。第1の磁石11は全体として円形の断面形状を有していてもよい。なお、第1の磁石11を構成する磁石片の個数は上記に限定されない。例えば、第1の磁石11は、6個もしくは8個等の磁石片を組み合わせて構成されていてもよい。複数の磁石片を組み合わせて第1の磁石11を構成することにより、磁界を効果的に大きくすることができる。もっとも、第1の磁石11は、単体磁石からなっていてもよい。
【0030】
図5は、第2の磁石の構造の一例を示す図(光軸方向Xから見た図)である。
図5に示す第2の磁石12は、1個の単体磁石からなる。第2の磁石12は矩形(正方形)の断面形状を有している。第2の磁石12は円形の断面形状を有していてもよい。なお、第2の磁石12は、2個以上の磁石片を組み合わせて構成されていてもよい。
【0031】
図6は、第3の磁石の構造の一例を示す図(光軸方向Xから見た図)である。
図6に示す第3の磁石13は、第1の磁石11と同様に、4個の磁石片を組み合わせて構成されており、全体として矩形(正方形)の断面形状を有している。第3の磁石13は全体として円形の断面形状を有していてもよい。複数の磁石片を組み合わせて第3の磁石13を構成することにより、磁界を効果的に大きくすることができる。なお、第3の磁石13は、6個もしくは8個等の磁石片を組み合わせて構成されていてもよく、単体磁石からなっていてもよい。
【0032】
磁気回路1において、第1の磁石11と第3の磁石13は光軸方向Xと垂直な方向Yに磁化され、互いに磁化方向が対向している。具体的には、第1の磁石11は、光軸方向Xと垂直な方向Yに、かつ貫通孔2側がN極となるように磁化されている。第3の磁石13は、光軸方向Xと垂直な方向Yに、かつ貫通孔2側がS極となるように磁化されている。第2の磁石12は、光軸方向Xに平行な方向に、かつ第1の磁石11側がN極となるように磁化されている。なお、本明細書においては、光が磁気回路1の貫通孔2を通過する方向を光軸方向Xとする。
【0033】
磁気回路1において、第2の磁石12は、第1の磁石11及び/又は第3の磁石13とは異なる材料により構成されている。また、第2の磁石12は、キュリー点が360℃以上であり、かつ残留磁束密度が第1の磁石11及び/又は第3の磁石13よりも小さい。具体的には、サマリウム-コバルト(Sm-Co)系磁石(以下、Sm-Co系磁石とする)により構成されていることが好ましい。この場合、第2の磁石12には、サマリウム-コバルト(Sm-Co)を主成分(例えば、Sm2Co17)とする磁石が包含されるものとする。
【0034】
第2の磁石12は、キュリー点が360℃以上であり、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上、さらに好ましくは600℃以上、さらに好ましくは700℃以上、さらに好ましくは740℃以上、特に好ましくは750℃以上、好ましくは1000℃以下、より好ましくは980℃以下、特に好ましくは900℃以下である。
【0035】
また、第1の磁石11及び第3の磁石13のキュリー点は、それぞれ、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは230℃以上、さらに好ましくは240℃以上、特に好ましくは250℃以上、好ましくは1000℃以下、より好ましくは980℃以下、特に好ましくは900℃以下である。第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13のキュリー点を上記の範囲内とすることにより、温度上昇による磁石の残留磁束密度及び保磁力の低下もより一層抑制することができる。
【0036】
なお、Sm-Co系磁石は、キュリー点が600℃以上と高いため、高温下における不可逆減磁をより一層抑制することができる。また、Sm-Co系磁石の残留磁束密度の温度依存性は、一般に-0.03%/℃程度であり、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石は、-0.1%/℃程度である。また、保磁力の温度依存性は、Sm-Co系磁石で-0.2%/K程度であり、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石で、-0.5%/K程度である。そのため、Sm-Co系磁石を用いると、温度上昇による磁石の残留磁束密度及び保磁力の低下もより一層抑制することができる。
【0037】
また、
図2に示すように、通常、ファラデー素子14が配置されるのは、第2の磁石12の貫通孔2部分となるため、ファラデー素子14が温度上昇した場合に最も影響を受けるのは、第2の磁石12である。そのため、第2の磁石12にSm-Co系磁石を用いることにより、温度上昇による不可逆減磁を生じ難くすることができる。また、Sm-Co系磁石は、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石に比べて比較的安価であるため、磁気回路1の製造コストを低減することもできる。
【0038】
また、磁気回路1において、第1の磁石11及び第3の磁石13は、第2の磁石12とは異なる材料により構成されており、かつ第2の磁石12より残留磁束密度が大きい。そのため、磁気特性を向上させることができ、ファラデー素子14に大きな磁場を印加することができる。なお、本発明においては、第1の磁石11及び第3の磁石13のうち少なくとも一方が、第2の磁石12とは異なる材料により構成されており、かつ第2の磁石12より残留磁束密度が大きい磁石であればよい。すなわち、第1の磁石11及び第3の磁石13のうち一方は、第2の磁石12と同じ材料により構成されていてもよく、また第2の磁石12より残留磁束密度が大きくなくてもよい。
【0039】
このように、本発明者らは、第2の磁石12をSm-Co系磁石により構成し、第1の磁石11及び第3の磁石13のうち少なくとも一方を、第2の磁石12とは異なる材料により構成し、かつ第2の磁石12より残留磁束密度が大きい磁石とすることにより、温度上昇による不可逆減磁を生じ難くしつつ、ファラデー素子14に大きな磁場を印加することができることを見出した。ファラデー素子14に大きな磁場を印加することにより、光アイソレータとしてのアイソレーション特性をより一層向上させることができる。
【0040】
なお、第1の磁石11及び第3の磁石13としては、ネオジム-鉄-ホウ素系磁石(以下、Nd-Fe-B系磁石とする)、Nd-Fe-B系磁石のNdの一部をDyやTbで置き換えた磁石、ネオジム-コバルト-ホウ素系磁石(以下、Nd-Co-B系磁石とする)、又はプラセオジム磁石等を用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なお、第1の磁石11及び第3の磁石13は、同じ磁石により構成されていてもよく、異なる磁石により構成されていてもよいが、同じ磁石により構成されていることが好ましい。この場合、磁気特性をより一層向上させることができ、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。
【0041】
また、第1の磁石11及び第3の磁石13のうち少なくとも一方が、Nd-Fe-B系磁石であることが好ましく、第1の磁石11及び第3の磁石13のうち双方が、Nd-Fe-B系磁石であることがより好ましい。この場合、磁気特性をより一層向上させることができ、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。この場合、第1の磁石11及び第3の磁石13には、ネオジム、鉄、及びホウ素(Nd-Fe-B)を主成分(例えば、Nd2Fe14B)とする磁石が包含されるものとする。
【0042】
第1の磁石11及び第3の磁石13の残留磁束密度は、それぞれ、好ましくは1.05T以上、より好ましくは1.10T以上、さらに好ましくは1.15T以上、さらに好ましくは1.20T以上、特に好ましくは1.25T以上、好ましくは1.60T以下、より好ましくは1.55T以下、特に好ましくは1.50T以下である。また、第2の磁石12の残留磁束密度は、好ましくは0.85T以上、より好ましくは0.90T以上、さらに好ましくは0.95T以上、特に好ましくは1.00T以上、好ましくは1.25T以下、より好ましくは1.20T以下である。第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13の残留磁束密度を上記の範囲内とすることにより、磁気特性をより一層向上させることができ、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。
【0043】
また、第1の磁石11と第3の磁石13の残留磁束密度は等しいことが好ましい。このようにすれば、第2の磁石12により一層均一な磁界を与えることができる。もっとも、第1の磁石11の残留磁束密度と、第3の磁石13の残留磁束密度が等しくなくてもよい。
【0044】
第1の磁石11及び第3の磁石13の保磁力は、第2の磁石12の保磁力より大きいことが好ましい。第1の磁石11及び第3の磁石13の保磁力は、それぞれ、好ましくは750kA/m以上、より好ましくは760kA/m以上、好ましくは1200kA/m以下、より好ましくは1100kA/m以下である。また、第2の磁石12の保磁力は、好ましくは650kA/m以上、より好ましくは700kA/m以上、好ましくは1200kA/m以下、より好ましくは1100kA/m以下である。第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13の保磁力を上記の範囲内とすることにより、磁気特性をより一層向上させることができ、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。
【0045】
また、第1の磁石11と第3の磁石13の保磁力は、等しいことが好ましい。このようにすれば、第2の磁石12により一層均一な磁界を与えることができる。もっとも、第1の磁石11の保磁力と、第3の磁石13の保磁力が等しくなくてもよい。
【0046】
磁気回路1において、第2の磁石12の長さL2は、第1の磁石11の長さL1及び第3の磁石13の長さL3より短い。そのため、磁気特性をより一層向上させることができ、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。また、第3の磁石13の長さL3は、第1の磁石11の長さL1より短い。
【0047】
本実施形態において、第1の磁石11の長さL1と第3の磁石13の長さL3との比L1/L3は、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.01以上、さらに好ましくは1.05以上、さらに好ましくは1.07以上、特に好ましくは1.10以上、最も好ましくは1.12以上、好ましくは3.00以下、より好ましくは2.90以下、さらに好ましくは2.80以下、さらに好ましくは2.70以下、特に好ましくは2.60以下、最も好ましくは2.50以下である。
【0048】
また、第2の磁石12の長さL2と第3の磁石13の長さL3との比L2/L3は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.15以上、特に好ましくは0.20以上、好ましくは1.40以下、より好ましくは1.38以下、さらに好ましくは1.35以下、特に好ましくは1.33以下である。比L2/L3が上記範囲内にある場合、磁気特性をより一層向上させることができ、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。
【0049】
(ファラデー回転子)
図2に示すファラデー回転子10は、光アイソレータや光サーキュレータ等、後述する磁気光学デバイス20に用いられる装置である。ファラデー回転子10は、磁気回路1と、磁気回路1の貫通孔2内に配置されたファラデー素子14とを備える。より具体的には、ファラデー素子14は、第2の磁石12の中心に配置されている。言い換えると、光軸方向Xにおいて、ファラデー素子14の中心と、第2の磁石12の中心とが一致している。ファラデー素子14は、光を透過する常磁性体からなる。
【0050】
ファラデー回転子10は、
図1に示した第1の実施形態の磁気回路1を有するため、温度上昇による不可逆減磁を生じ難くしつつ、ファラデー素子14に大きな磁場を印加することができる。なお、本実施形態において、ファラデー素子14は、第2の磁石12の中心に配置されているので、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。
【0051】
また、ファラデー回転子10には、光を第1の磁石11側から入射させてもよく、第3の磁石13側から入射させてもよい。
【0052】
また、ファラデー素子14の断面形状と磁気回路1の貫通孔2の断面形状は必ずしも一致させなくともよいが、均一な磁界を与えるという観点では、一致させることが好ましい。
【0053】
ファラデー素子14には、常磁性体を用いることができる。なかでも、ガラス材を用いることが好ましい。ガラス材からなるファラデー素子14は、単結晶材料のような欠陥等によるベルデ定数の変動や消光比の低下が少なく、接着剤からの応力の影響も少ないため、安定したベルデ定数と高い消光比を保つことができる。
【0054】
ファラデー素子14に用いられるガラス材は、モル%の酸化物換算で、Tb2O3の含有量が20%より多いことが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、31%以上であることがさらに好ましく、35%以上であることがさらに好ましく、40%以上であることがさらに好ましく、45%以上であることがさらに好ましく、48%以上であることがさらに好ましく、51%以上であることが特に好ましい。このようにTb2O3の含有量を多くすることにより、良好なファラデー効果が得やすくなる。なお、ガラス中においてTbは3価や4価の状態で存在するが、本明細書ではこれら全てをTb2O3に換算した値として表す。
【0055】
ファラデー素子14に用いられるガラス材において、全Tbに対するTb3+の割合は、モル%で55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが特に好ましい。全Tbに対するTb3+の割合が少なすぎると、波長300nm~1100nmにおける光透過率が低下しやすくなる。
【0056】
(磁気光学デバイス)
図3に示す磁気光学デバイス20は光アイソレータである。磁気光学デバイス20は、
図2に示したファラデー回転子10と、磁気回路1の光軸方向Xにおける一方端に配置されている第1の光学部品25及び他方端に配置されている第2の光学部品26とを備える。第1の光学部品25及び第2の光学部品26は、本実施形態では偏光子である。第2の光学部品26の光透過軸は、第1の光学部品25の光透過軸に対して45°傾けられている。
【0057】
磁気光学デバイス20に入射する光は、第1の光学部品25を通過し、直線偏光となって、ファラデー素子14に入射する。入射した光はファラデー素子14により45°回転し、第2の光学部品26を通過する。第2の光学部品26を通過した光の一部が反射戻り光となり、偏光面が45°の角度で第2の光学部品26を通過する。第2の光学部品26を通過した反射戻り光は、ファラデー素子14により、さらに45°回転され、第1の光学部品25の光透過軸に対して90°の直交偏光面となる。そのため、反射戻り光は第1の光学部品25を透過できず、遮断される。
【0058】
本発明の磁気光学デバイス20は、
図1に示した第1の実施形態の磁気回路1を有するため、温度上昇による不可逆減磁を生じ難くしつつ、ファラデー素子14に大きな磁場を印加することができる。
【0059】
なお、
図3に示す磁気光学デバイス20は光アイソレータであるが、磁気光学デバイス20は光サーキュレータであってもよい。この場合には、第1の光学部品25及び第2の光学部品26は波長板やビームスプリッタであればよい。もっとも、磁気光学デバイス20は、光アイソレータ及び光サーキュレータに限定されない。
【0060】
[第2の実施形態]
図7は、本発明の第2の実施形態に係る磁気回路、ファラデー回転子、及び磁気光学デバイスの構造を示す模式的断面図である。
【0061】
図7に示すように、磁気回路31においては、第1の磁石11の長さL1及び第3の磁石13の長さL3が等しい。また、磁気回路31においても、第2の磁石12の長さL2は、第1の磁石11の長さL1及び第3の磁石13の長さL3より短い。
【0062】
ファラデー回転子40は、この磁気回路31と、磁気回路31の貫通孔2内に配置されたファラデー素子14とを備える。また、磁気光学デバイス50は、このファラデー回転子40と、磁気回路31の光軸方向Xにおける一方端に配置されている第1の光学部品25及び他方端に配置されている第2の光学部品26とを備える。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0063】
第2の実施形態においても、第2の磁石12が、Sm-Co系磁石により構成されており、かつ第1の磁石11及び第3の磁石13のうち少なくとも一方が、第2の磁石12とは異なる材料により構成されており、かつ第2の磁石12より残留磁束密度が大きい。そのため、温度上昇による不可逆減磁を生じ難くしつつ、ファラデー素子14に大きな磁場を印加することができる。
【0064】
また、第2の実施形態のように、第1の磁石11の長さL1及び第3の磁石13の長さL3が等しくてもよい。あるいは、第3の磁石13の長さL3が、第1の磁石11の長さL1より長くてもよい。
【0065】
[第3の実施形態]
図8は、本発明の第3の実施形態に係る磁気回路、ファラデー回転子、及び磁気光学デバイスの構造を示す模式的断面図である。
【0066】
図8に示すように、磁気回路61においては、第1の磁石11の長さL1及び第3の磁石13の長さL3が、第2の磁石12の長さL2よりも短い。また、磁気回路61においても、第3の磁石13の長さL3が、第1の磁石11の長さL1より短い。
【0067】
ファラデー回転子70は、この磁気回路61と、磁気回路61の貫通孔2内に配置されたファラデー素子14とを備える。また、磁気光学デバイス80は、このファラデー回転子70と、磁気回路61の光軸方向Xにおける一方端に配置されている第1の光学部品25及び他方端に配置されている第2の光学部品26とを備える。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0068】
第3の実施形態においても、第2の磁石12が、Sm-Co系磁石により構成されており、かつ第1の磁石11及び第3の磁石13のうち少なくとも一方が、第2の磁石12とは異なる材料により構成されており、かつ第2の磁石12より残留磁束密度が大きい。そのため、温度上昇による不可逆減磁を生じ難くしつつ、ファラデー素子14に大きな磁場を印加することができる。
【0069】
また、第3の実施形態のように、第1の磁石11の長さL1及び第3の磁石13の長さL3が、第2の磁石12の長さL2よりも短くてもよい。
【0070】
もっとも、本発明においては、第1の磁石11の長さL1、第2の磁石12の長さL2、及び第3の磁石13の長さL3が、L2<L3≦L1の関係を満たすことが好ましく、L2<L3<L1の関係を満たすことがより好ましい。この場合、磁気特性をより一層向上させることができ、ファラデー素子14により一層大きな磁場を印加することができる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0072】
(実施例1~6及び比較例1~3)
表1は、本発明の実施例1~6及び比較例1~3を示している。
【0073】
【0074】
実施例1~6及び比較例1~3の磁気回路は、全体として40mm×40mmの正方形の断面形状を有し、かつ4mm×4mmの正方形の断面形状を有する貫通孔2を有する構造とした。また、第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13の材質、及び光軸方向Xに沿う長さL1、L2、及びL3を表1のようにした。
【0075】
なお、表1において、NdはNd-Fe-B系磁石を示しており、その磁気特性は、残留磁束密度が1.25T、保磁力が940kA/m、キュリー点が310℃のものを使用した。SmCoは、サマリウム-コバルト系磁石を示しており、その磁気特性は、残留磁束密度が1.11T、保磁力が847kA/m、キュリー点が800℃のものを使用した。
【0076】
これらの磁気回路で用いる光アイソレータでは、太さφ3mm、長さ7mm、ベルデ定数0.205min/Oe・cmの円柱状のファラデー回転ガラスを使用した。そのため、表1に記載の磁界強度は、磁気回路の貫通孔内においてファラデー回転ガラスが配置されている長さ7mmの範囲で得られる最大の磁界強度を示している。
【0077】
不可逆減磁温度の測定では、室温(25℃)からそれぞれ50℃、60℃、70℃、80℃まで上昇させた後、再度、25℃まで温度を低下させることにより、磁気回路に温度履歴を加えた。そして、そのときの磁界強度の値が温度履歴を加える前の99%未満であった際に不可逆減磁が生じたと判断し、その温度履歴のときの温度を不可逆減磁温度とした。
【0078】
実施例1~6では、第2の磁石にキュリー点が800℃であるサマリウム-コバルト系磁石を用いているため、80℃の温度履歴を加えても不可逆減磁は見られなかった。これに対して、比較例1~2では、全ての磁石体をキュリー点が310℃であるNd-Fe-B系磁石で構成しているため、60℃の温度履歴にて不可逆減磁が見られた。
【0079】
また、実施例1~6では、第1の磁石及び第3の磁石のうち少なくとも一方が、Nd-Fe-B系磁石により構成されているため、磁界強度も高められている。特に、実施例1~4では、第1の磁石及び第3の磁石の双方が、Nd-Fe-B系磁石により構成されており、しかも、第1の磁石11、第2の磁石12、及び第3の磁石13の光軸方向Xに沿う長さL1、L2、及びL3の関係が、L2<L3<L1となっているため、1.94~2.00Tと磁界強度が大幅に高められている。
【0080】
なお、比較例3では、全てサマリウム-コバルト系磁石を用いているため、80℃の温度履歴を加えても不可逆減磁は見られなかったが、得られる磁界強度が大幅に低くなった。
【符号の説明】
【0081】
1,31,61…磁気回路
2…貫通孔
10,40,70…ファラデー回転子
11…第1の磁石
12…第2の磁石
13…第3の磁石
14…ファラデー素子
20,50,80…磁気光学デバイス
25…第1の光学部品
26…第2の光学部品