(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブシート、電子機器及びカーボンナノチューブシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/16 20170101AFI20240509BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C01B32/16
H01L23/36 D
(21)【出願番号】P 2020103553
(22)【出願日】2020-06-16
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 真一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大雄
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-199598(JP,A)
【文献】特開2017-149627(JP,A)
【文献】国際公開第2015/097878(WO,A1)
【文献】特開2018-067581(JP,A)
【文献】特開2020-031094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/158-32/178
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面
と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、を備え、
前記第1主面および前記第2主面の法線方向に延存する複数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブシートであって、
前記カーボンナノチューブの数を前記第1主面の面積で除して得られる密度を
第1基準密度とし
、前記カーボンナノチューブの数を前記第2主面の面積で除して得られる密度を第2基準密度としたとき、
前記第1主面は、前記カーボンナノチューブの密度が前記
第1基準密度
より高い第1領域を有
し、
前記第2主面は、前記カーボンナノチューブの密度が前記第2基準密度より高い第2領域を有し、
前記第1領域は、前記第1主面において複数のカーボンナノチューブが凝集した領域であり、
前記第2領域は、前記第2主面において複数のカーボンナノチューブが凝集した領域であり、
前記第1主面に占める前記第1領域の第1割合は、前記第2主面に占める前記第2領域の第2割合よりも大きく、
前記第1領域における前記カーボンナノチューブの密度は、前記第2領域における前記カーボンナノチューブの密度より低く、
前記第1主面側の端部において前記カーボンナノチューブの側面に付着した金属粒子を含むことを特徴とするカーボンナノチューブシート。
【請求項2】
前記第1割合は、前記第2割合の2.0倍以上であることを特徴とする請求項
1に記載のカーボンナノチューブシート。
【請求項3】
半導体装置と、
前記半導体装置に取り付けられた請求項1
又は2に記載のカーボンナノチューブシートと、
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブシートに接する放熱部材を有し、
前記カーボンナノチューブシートは、前記半導体装置と前記放熱部材とにより圧縮されていることを特徴とする請求項
3に記載の電子機器。
【請求項5】
基板の上に、複数のカーボンナノチューブを含むシート状のカーボンナノチューブ集合体を形成する工程と、
前記カーボンナノチューブ集合体の主面に基剤及び金属粒子を含む金属ペーストを
塗布し、前記基剤を前記カーボンナノチューブ集合体に含侵する工程と、
前記金属粒子を焼成することで前記主面に焼結金属を形成するとともに、前記基剤を蒸発させて前記複数のカーボンナノチューブを凝集させる工程と、
前記カーボンナノチューブ集合体と、前記基板及び前記焼結金属と、を互いから分離する工程と、
を有することを特徴とするカーボンナノチューブシートの製造方法。
【請求項6】
前記金属ペーストは、金属フィラーを含むことを特徴とする請求項
5に記載のカーボンナノチューブシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カーボンナノチューブシート、電子機器及びカーボンナノチューブシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーバやパーソナルコンピュータの中央処理装置(central processing unit:CPU)などに用いられる電子部品は、半導体装置から発する熱を効率よく放熱するために、熱伝導性シートを介してヒートスプレッダが配置された構造を有している。熱伝導性シートとして、カーボンナノチューブシートが用いられることがある。例えば、カーボンナノチューブシートは、薄い樹脂層を介して半導体装置とヒートスプレッダとの間に配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-110217号公報
【文献】国際公開第2008/035742号
【文献】特開2005-150362号公報
【文献】特開2006-147801号公報
【文献】特開2006-303240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のカーボンナノチューブシートを熱伝導性シートに用いた場合、熱抵抗が高くなることがある。
【0005】
本開示の目的は、熱抵抗の上昇を抑制することができるカーボンナノチューブシート、電子機器及びカーボンナノチューブシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態によれば、第1主面と、前記第1主面とは反対側の第2主面と、を備え、前記第1主面および前記第2主面の法線方向に延存する複数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブシートであって、前記カーボンナノチューブの数を前記第1主面の面積で除して得られる密度を第1基準密度とし、前記カーボンナノチューブの数を前記第2主面の面積で除して得られる密度を第2基準密度としたとき、前記第1主面は、前記カーボンナノチューブの密度が前記第1基準密度より高い第1領域を有し、前記第2主面は、前記カーボンナノチューブの密度が前記第2基準密度より高い第2領域を有し、前記第1領域は、前記第1主面において複数のカーボンナノチューブが凝集した領域であり、前記第2領域は、前記第2主面において複数のカーボンナノチューブが凝集した領域であり、前記第1主面に占める前記第1領域の第1割合は、前記第2主面に占める前記第2領域の第2割合よりも大きく、前記第1領域における前記カーボンナノチューブの密度は、前記第2領域における前記カーボンナノチューブの密度より低く、前記第1主面側の端部において前記カーボンナノチューブの側面に付着した金属粒子を含むカーボンナノチューブシートが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、熱抵抗の上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るカーボンナノチューブシートを示す上面図である。
【
図2】第1実施形態に係るカーボンナノチューブシートを示す下面図である。
【
図3】第1実施形態に係るカーボンナノチューブシートを示す断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るCNTシートの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図5】第1実施形態に係るCNTシートの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図6】第1実施形態に係るCNTシートの製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図7】第1実施形態に係るCNTシートの製造方法を示す断面図(その4)である。
【
図8】第1実施形態に係るCNTシートの製造方法を示す断面図(その5)である。
【
図9】第1実施形態に係るCNTシートの製造方法を示す断面図(その6)である。
【
図10】第1実施例に係るCNTシートのSEM写真を示す図(その1)である。
【
図11】第1実施例に係るCNTシートのSEM写真を示す図(その2)である。
【
図12】第1実施例に係るCNTシートのSEM写真を示す図(その3)である。
【
図13】第1参考例に係るCNTシートのSEM写真を示す図(その1)である。
【
図14】第1参考例に係るCNTシートのSEM写真を示す図(その2)である。
【
図15】第1参考例に係るCNTシートのSEM写真を示す図(その3)である。
【
図16】第1実施例に係るCNTシートのSEM写真を示す図(その4)である。
【
図17】第1実施例に係るCNTシートの第1主面のSEM写真を示す図である。
【
図18】第1実施例に係るCNTシートの第2主面のSEM写真を示す図である。
【
図23】第2実施形態に係る電子機器を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願発明者らは、従来のカーボンナノチューブシートが用いられた場合に熱抵抗が上昇する原因を究明すべく鋭意検討を行った。この結果、半導体装置とヒートスプレッダとの間で、カーボンナノチューブシートに圧縮荷重が作用し、圧縮荷重に耐えられないカーボンナノチューブが座屈していることが明らかになった。カーボンナノチューブは、座屈した場合、弾性変形しなくなるため、当該カーボンナノチューブと半導体装置又はヒートスプレッダとの間の接触面積が小さくなり、熱抵抗が上昇する。本願発明者らは、このような知見に基づいて、カーボンナノチューブの座屈を抑制すべく鋭意検討を行った結果、下記の実施形態に想到した。
【0010】
以下、本開示の実施形態について添付の図面を参照しながら具体的に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。
【0011】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態について説明する。第1実施形態はカーボンナノチューブ(CNT)シートに関する。
図1は、第1実施形態に係るCNTシートを示す上面図である。
図2は、第1実施形態に係るCNTシートを示す下面図である。
図3は、第1実施形態に係るCNTシートを示す断面図である。
【0012】
図1~
図3に示すように、第1実施形態に係るCNTシート1は、複数のCNT31を含む。CNTシート1は、第1主面10と、第1主面10とは反対側の第2主面20とを備える。例えば、第1主面10はCNT31の成長先端側にあり、第1主面10はCNT31の成長根元側にある。CNTシート1に含まれるCNT31の数を第1主面10の面積で除して得られる密度、すなわち面密度、を基準密度ρ0としたとき、第1主面10は、CNT31の面密度が基準密度ρ0以上の第1領域11を有し、第2主面20は、CNT31の面密度が基準密度ρ0以上の第2領域22を有する。第1主面10に占める第1領域11の第1割合は、第2主面20に占める第2領域22の第2割合よりも大きくてもよい。
【0013】
例えば、第1主面10は複数の第1領域11を有し、複数の第1領域11は第1主面10に均一に分散していてもよい。第2主面20は複数の第2領域22を有し、複数の第2領域22は第2主面20に均一に分散していてもよい。
【0014】
なお、CNT31の面密度(基準密度ρ0)は、放熱性及び電気伝導性の観点から、1×1010本/cm2以上であることが望ましい。CNT31の長さ、すなわちCNTシート1の厚さは用途に応じて適宜、選択することができ、特に限定されるものではないが、好ましくは100μm~500μm程度である。CNT31の直径は、例えば5nm以上である。
【0015】
CNT31の面密度が基準密度ρ0未満の第3領域13を第1主面10が有し、CNT31の面密度が基準密度ρ0未満の第4領域24を第2主面20が有し、第1主面10に占める第3領域13の第3割合が、第2主面20に占める第4領域24の第4割合よりも小さくてもよい。CNT31の第1主面10側の端部に金属粒子32が付着していてもよい。
【0016】
次に、第1実施形態に係るCNTシートの製造方法について説明する。
図4~
図9は、第1実施形態に係るCNTシートの製造方法を示す断面図である。
【0017】
まず、
図4に示すように、基板101を準備する。基板101としては、シリコン基板等の半導体基板、ステンレス基板等の金属基板、アルミナ(サファイア)基板、酸化マグネシウム(MgO)基板、ガラス基板、ステンレス箔、アルミニウム箔等を用いることができる。また、これらの材料の上に薄膜が形成されたものを基板101として用いることもできる。例えば、シリコン基板の上に厚さが300nm程度のシリコン酸化膜が形成されたものを基板101として用いることができる。
【0018】
後述のように、基板101はCNT31の形成後にCNT31から剥離される。このため、基板101は、CNT31の形成温度において変質しない材料から構成されていることが望ましい。また、基板101は、少なくともCNT31に接する面がCNT31から容易に剥離できるか、又はCNT31に対して選択的にエッチングできる材料から構成されていることが望ましい。
【0019】
次いで、基板101の上に下地膜102を形成する。下地膜102は、例えばスパッタ法により形成できる。下地膜102としては、例えば、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、TaN(窒化タンタル)、TiSix(チタンシリサイド)、Al(アルミニウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)、TiOx(酸化チタン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)又はTiN(チタンナイトライド)の膜が形成される。下地膜102として、これらのうちの少なくとも1種を含む合金の膜が形成されてもよい。
【0020】
次いで、下地膜102の上に触媒膜103を形成する。触媒膜103の配置は、CNTの接触方向の用途により決定することができる。触媒膜103は、例えばスパッタ法により形成できる。触媒膜103としては、例えば、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Au(金)、Ag(銀)又はPt(白金)の膜が形成される。触媒膜103として、これらのうちの少なくとも1種を含む合金の膜が形成されてもよい。
【0021】
下地膜102及び触媒膜103の組み合わせの一例として、下地膜102は、厚さが10nmのAl膜であり、触媒膜103は、厚さが2.5nmのFe膜である。下地膜102及び触媒膜103の組み合わせの他の一例として、下地膜102は、厚さが5nmのTiN膜であり、触媒膜103は、厚さが2.6nmのCo膜である。
【0022】
触媒膜103に代えて、微分型静電分級器(differential mobility analyzer:DMA)等を用い、予めサイズを制御して作製した金属微粒子を用いてもよい。金属微粒子の材料としては、触媒膜103の材料と同様のものを用いることができる。下地膜102及び金属微粒子の組み合わせの一例として、下地膜102は、厚さが5nmのTiN膜であり、金属微粒子は、平均直径が3.8nmのCo微粒子である。
【0023】
下地膜102を形成せずに、基板101の上に触媒膜103又は金属微粒子を設けてもよい。
【0024】
次いで、基板101の上に、例えばホットフィラメント化学気相成長(chemical vapor deposition:CVD)法により、触媒膜103を触媒として、複数のCNT31を成長させる。CNT31の成長条件に関し、例えば、原料ガスとしてアセチレン及びアルゴンの混合ガス(分圧比1:9)を用い、成膜室内の総ガス圧を1kPaとし、ホットフィラメント温度を1000℃とし、成長時間を20分とする。このような条件により、層数が3~6層(平均で4層程度)、直径が4nm~8nm(平均で6nm)、長さが80μm(成長レート:4μm/min)の多層カーボンナノチューブをCNT31として成長させることができる。なお、CNT31は、熱CVD法やリモートプラズマCVD法等の他の成膜方法により形成してもよい。また、CNT31として単層カーボンナノチューブを成長させてもよい。また、炭素原料として、アセチレンの他、メタン、エチレン等の炭化水素類や、エタノール、メタノール等のアルコール類等を用いてもよい。
【0025】
図4では、CNT31の全体が基板101の上面に垂直な方向に伸びているが、成長初期には、CNT31は多様な方向に伸びる。成長が進行するにつれて、複数のCNT31の間で先端部同士が絡み合い、基板101の上面に平行な方向(面内方向)には成長しにくくなる。このため、CNT31の成長方向は徐々に基板101の上面に垂直な方向に制限されていく。このようにして、複数のCNT31からなるシート状のCNT集合体104が形成される。CNT集合体104は、CNT31の成長先端側に主面40を備え、CNT集合体104に含まれるCNT31の数を主面40の面積で除して得られる密度、すなわち面密度(基準密度ρ0)は面内方向で実質的に均一である。
【0026】
次いで、
図5に示すように、主面40の上に金属ペースト110を塗布する。金属ペースト110は、液状の基剤111と、基剤111中に分散した金属粒子32及び金属フィラー112とを含む。金属粒子32の大きさはナノサイズであり、例えば金属粒子32の平均粒径は1nm~500nm程度である。金属フィラー112の大きさはサブミクロンレベルであり、例えば金属フィラー112の平均粒径は0.6μm~0.9μm程度である。例えば、金属ペースト110は、基剤111の体積が、CNT集合体104におけるCNT31の隙間の容積以上となる量で塗布する。例えば開口部が形成されたメタルマスクを用いることで、金属ペースト110を所望の位置に塗布することができる。
【0027】
主面40の上に金属ペースト110が塗布されると、
図6に示すように、主面40の上に金属粒子32及び金属フィラー112を残したまま、液状の基剤111がCNT集合体104に含浸されていく。すなわち、CNT集合体104におけるCNT31の隙間が基剤111で埋められ、基剤111からCNTに表面張力が作用するようになる。
【0028】
次いで、ベーク炉内で金属粒子32及び金属フィラー112を焼成することで、
図7に示すように、金属粒子32及び金属フィラー112を焼結させて焼結金属113を形成する。焼成温度は、例えば100℃~120℃程度とする。この焼成では、CNT集合体104及び基剤111も加熱され、基剤111が蒸発するとともに、CNT31が局所的に凝集する。このようにして、局所的に凝集した複数のCNT31からなるシート状のCNT集合体105が形成される。CNT集合体105は、CNT31の成長先端側に第1主面10を備える。CNT31が局所的に凝集しているため、第1主面10は、CNT31の密度が基準密度ρ0以上の第1領域11を有する。なお、一部の金属粒子32が焼結金属113に含まれずに、CNT31の成長先端側に付着していてもよい。
【0029】
次いで、
図8に示すように、CNT集合体105と焼結金属113とを互いから分離する。焼結金属113とCNT集合体105との間に強固な結合は生じておらず、焼結金属113はCNT集合体105から容易に分離することができる。
【0030】
次いで、
図9に示すように、CNT集合体105を、基板101、下地膜102及び触媒膜103から剥離する。つまり、CNT集合体105と、基板101、下地膜102及び触媒膜103の積層構造とを互いから分離する。CNT集合体105は、例えば剃刀を用いて剥離することができる。CNT集合体105が剥離されるまで、CNT31の根元は触媒膜103に拘束されているが、CNT集合体105の剥離に伴って拘束が解かれる。この結果、CNT31の根元は、凝集している部分に追随するように変形し、CNT31の密度が基準密度ρ0以上の第2領域22を含む第2主面20を備えたCNTシート1が得られる。
【0031】
第1主面10の近傍では複数のCNT31が絡み合っているのに対し、第2主面20の近傍では各CNT31が直線状に伸びている。このため、第2主面20の近傍では、第1主面10の近傍よりも凝集の程度が高く、第2主面20に占める第2領域22の第2割合が、第1主面10に占める第1領域11の第1割合よりも小さくなる。
【0032】
第1実施形態に係るCNTシート1においては、CNT31が局所的に凝集しているため、CNT31が凝集していないCNT集合体104と比較して、機械的強度を向上できる。例えば、厚さ方向に圧縮された場合に、CNT31が座屈しない荷重の範囲を拡大することができる。このため、CNTシート1が発熱部品と放熱部材との間に圧縮されながら配置された場合、CNT31と発熱部材及び放熱部材との間に十分な接触面積を確保し、熱抵抗の上昇を抑制することができる。
【0033】
ここで、本願発明者らが実施形態に倣って製造したCNTシート(第1実施例)、及びCNTを凝集させるための処理を省略して製造したCNTシート(第1参考例)の走査型顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)観察の結果について説明する。第1参考例に係るCNTシートの製造では、CNT集合体104を得た後、金属ペースト110の塗布及び焼成等を行わずに、CNT集合体104を基板101、下地膜102及び触媒膜103から剥離して、CNTシートとした。
【0034】
図10~
図12は、第1実施例に係るCNTシートのSEM写真を示す図である。
図13~
図15は、第1参考例に係るCNTシートのSEM写真を示す図である。
図10~
図12の間で観察倍率が相違し、
図13~
図15の間で観察倍率が相違する。第1主面10を上面、第2主面20を下面としたとき、
図10~
図12は斜め上方からの観察像を示す。
図13~
図15も同様の方向からの観察像を示す。
図10~
図12と
図13~
図15とを比較するとわかるように、
図13~
図15に示す第1参考例では、CNTがほぼ均等な密度で配置されているのに対し、
図10~
図12に示す第1実施例では、CNTが凝集し、CNTが密な領域と、疎な領域とがCNTシートに含まれる。また、第1実施例及び第1参考例のいずれにおいても、上面近傍において複数のCNTが絡まり合っている。
【0035】
図16は、第1実施例に係るCNTシートのSEM写真を示す図である。
図16は、斜め下方からの観察像を示す。
図16の観察倍率は
図12の観察倍率と等しい。
図12と
図16とを比較するとわかるように、上面近傍(
図12)では、下面近傍(
図16)よりも、CNTの配向性(直線性)が低く、CNTの端部同士が絡み合っている。また、上面近傍(
図12)では、金属粒子32に相当する金属粒子がCNTに付着している。
【0036】
図17は、第1実施例に係るCNTシートの第1主面のSEM写真を示す図である。
図18は、第1実施例に係るCNTシートの第2主面のSEM写真を示す図である。
図17及び
図18に示すように、第1主面及び第2主面のいずれにおいても、CNTが密な領域(白い部分)と、CNTが疎な領域(黒い部分)とが存在する。CNTが疎な領域に含まれるCNTは極わずかである。つまり、第1主面及び第2主面のいずれにおいても、CNTは一部の領域に集中している。そして、CNTが密な領域が第1領域又は第2領域に相当する。また、
図17と
図18とを比較するとわかるように、第1主面(
図17)では、第2主面(
図18)よりも、CNTが密な領域が広く存在している。これは、第2主面(
図18)では、CNTの凝集の程度が高く、CNTが疎な領域が広くなっているためである。
【0037】
図19は、
図17に示すSEM写真の反転像を示す図である。
図20は、
図18に示すSEM写真の反転像を示す図である。
図17、
図18のような第1主面、第2主面の観察像を取得し、閾値を用いて観察像を2値化することで、第1領域及び第2領域を特定することができる。閾値としては、CNTの密度が基準密度ρ0であるときの濃度を用いることができる。また、2値化にあたっては、
図19及び
図20に示すような反転像を用いてもよい。
【0038】
次に、第1実施例に係るCNTシート及び第1参考例に係るCNTシートの機械的特性の測定結果について説明する。機械的特性の測定では、CNTシートの厚さ(CNTの長さ)を130μmとし、CNTシートに種々の圧縮応力を印加したときのCNTシートの厚さ(CNTの長さ)を測定した。また、圧縮応力を開放した後に、CNTシートの厚さ(CNTの長さ)が130μmに戻るか否かも確認した。なお、第1実施例及び第1比較例のいずれにおいても、CNTの面密度は1×1011本/cm2である。
【0039】
第1実施例に係るCNTシートでは、0.1MPa、0.2MPa、0.3MPa、0.4MPa、0.5MPaの圧縮応力を印加した場合、圧縮応力を開放した後に、CNTシートの厚さ(CNTの長さ)が130μmに戻った。一方、第1比較例に係るCNTシートでは、0.1MPa、0.2MPa、0.3MPaの圧縮応力を印加した場合に、圧縮応力を開放した後に、CNTシートの厚さが130μmに戻った。しかし、0.4MPa、0.5MPaの圧縮応力を印加した場合は、圧縮応力を開放した後に、CNTシートの厚さは130μmに戻らなかった。第1実施例における圧縮応力とCNTシートの厚さとの関係を
図21に示し、第1参考例における圧縮応力とCNTシートの厚さとの関係を
図22に示す。
【0040】
この機械的特性の測定結果から、第1実施例に係るCNTシートの強度は、第1参考例に係るCNTシートの強度の1.67倍以上であることがわかる。また、それぞれCNTシートの面密度が第1参考例の0.67倍、0.33倍の第2参考例、第3参考例を製造し、それらの強度を測定したところ、第2参考例の強度は第1参考例の強度の0.67倍であり、第3参考例の強度は第1参考例の強度の0.33倍であった。また、CNTシートの面密度が第1実施例の0.67倍の第2実施例を製造し、その強度を測定したところ、第2実施例の強度は第2参考例の1.55倍であった。強度の向上により、剥離性も向上し得る。
【0041】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態に係るCNT1を含む電子機器に関する。
図23は、第2実施形態に係る電子機器を示す断面図である。
【0042】
図23に示すように、第2実施形態に係る電子機器2は、電子部品202が搭載された回路基板201を有する。電子部品202は、例えばCPUであって、はんだバンプ203を介して回路基板201に接続されている。電子部品202は半導体装置の一例である。電子部品202の上にCNTシート1が配置され、CNTシート1の上に金属製のヒートスプレッダ206が配置されている。ヒートスプレッダ206は放熱部材の一例である。ヒートスプレッダ206は、電子部品202との間でCNTシート1を圧縮しながら、シーラント207により回路基板201に固定されている。
【0043】
CNTシート1の第1主面10、第2主面20のどちらか一方が電子部品202に接触し、他方がヒートスプレッダ206に接触する。CNTシート1を電子部品202の上に配置する際に、これらの間に樹脂層204が設けられ、ヒートスプレッダ206をCNTシート1の上に配置する際に、これらの間に樹脂層205が設けられる。上述のように、ヒートスプレッダ206は、電子部品202との間でCNTシート1を圧縮しており、樹脂層204及び樹脂層205はCNTシート1に含侵され、CNTシート1は電子部品202及びヒートスプレッダ206に接触している。
【0044】
このように、第2実施形態では、CNTシート1が電子部品202に取り付けられている。電子部品202が発した熱はCNTシート1を介してヒートスプレッダ206に伝達され、ヒートスプレッダ206から外方に放出される。
【0045】
本願発明者らが、第2実施形態に倣い、第1実施例に係るCNTシートを用いて電子機器を製造したところ、厚さが130μmのCNTシートは55μmの厚さまで圧縮された。すなわち、CNTの潰れ幅は75μmであった。これに対し、第1参考例に係るCNTシートを用いて電子機器を製造したところ、厚さが130μmのCNTシートは35μmの厚さまで圧縮された。すなわち、CNTの潰れ幅は95μmであった。このことからも、実施例に係るCNTシートの強度が、参考例に係るCNTシートの強度より高いことがわかる。
【0046】
なお、半導体装置はCPUに限定されず、電気自動車(electric vehicle:EV)、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle:HEV)等に用いられるSiCパワーデバイス等であってもよい。
【0047】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0048】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0049】
(付記1)
第1主面を備え、複数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブシートであって、
前記カーボンナノチューブの数を前記第1主面の面積で除して得られる密度を基準密度としたとき、
前記第1主面は、前記カーボンナノチューブの密度が前記基準密度以上の第1領域を有することを特徴とするカーボンナノチューブシート。
(付記2)
前記第1主面とは反対側の第2主面を備え、
前記第2主面は、前記カーボンナノチューブの密度が前記基準密度以上の第2領域を有し、
前記第1主面に占める前記第1領域の第1割合は、前記第2主面に占める前記第2領域の第2割合よりも大きいことを特徴とする付記1に記載のカーボンナノチューブシート。
(付記3)
前記第1割合は、前記第2割合の1.1倍以上であることを特徴とする付記2に記載のカーボンナノチューブシート。
(付記4)
前記第1割合は、前記第2割合の2.0倍以上であることを特徴とする付記2又は3に記載のカーボンナノチューブシート。
(付記5)
前記第1主面における前記カーボンナノチューブの配向性は、前記第2主面における前記カーボンナノチューブの配向性よりも低いことを特徴とする付記2乃至4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブシート。
(付記6)
前記カーボンナノチューブの前記第1主面側の端部に付着した金属粒子を含むことを特徴とする付記1乃至5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブシート。
(付記7)
半導体装置と、
前記半導体装置に取り付けられた付記1乃至6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブシートと、
を有することを特徴とする電子機器。
(付記8)
前記カーボンナノチューブシートに接する放熱部材を有し、
前記カーボンナノチューブシートは、前記半導体装置と前記放熱部材とにより圧縮されていることを特徴とする付記7に記載の電子機器。
(付記9)
基板の上に、複数のカーボンナノチューブを含むシート状のカーボンナノチューブ集合体を形成する工程と、
前記カーボンナノチューブ集合体の主面に基剤及び金属粒子を含む金属ペーストを設け、前記基剤を前記カーボンナノチューブ集合体に含侵する工程と、
前記金属粒子を焼成することで前記主面に焼結金属を形成するとともに、前記基剤を蒸発させて前記複数のカーボンナノチューブを凝集させる工程と、
前記カーボンナノチューブ集合体と、前記基板及び前記焼結金属と、を互いから分離する工程と、
を有することを特徴とするカーボンナノチューブシートの製造方法。
(付記10)
前記金属ペーストは、金属フィラーを含むことを特徴とする付記9に記載のカーボンナノチューブシートの製造方法。
【符号の説明】
【0050】
1:カーボンナノチューブシート
2:電子機器
10:第1主面
11:第1領域
20:第2主面
22:第2領域
31:カーボンナノチューブ
32:金属粒子
40:主面
101:基板
102:下地膜
103:触媒膜
104、105:カーボンナノチューブ集合体
110:金属ペースト
111:基剤
112:金属フィラー
113:焼結金属
202:電子部品
206:ヒートスプレッダ