(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】測定装置、転がり軸受の荷重測定方法、及び歯車機構
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20240509BHJP
G01M 13/04 20190101ALI20240509BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240509BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20240509BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240509BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G01L5/00 K
G01M13/04
F16C41/00
F16C19/52
F16C19/06
F16C33/58
(21)【出願番号】P 2020105148
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 修弘
(72)【発明者】
【氏名】稗田 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航也
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-016611(JP,A)
【文献】特開2017-044312(JP,A)
【文献】特開2013-133854(JP,A)
【文献】国際公開第2017/203868(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00-5/28
G01M 13/00-13/045
F16C 41/00-41/04
F16C 19/52
F16C 19/06
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の歯車に噛み合う歯車を支持する転がり軸受に作用する荷重を測定する測定装置であって、
前記転がり軸受は、内輪、外輪、及び内外輪間に介在する複数の転動体を有し、前記歯車に一体回転可能に設けられた回転軸に前記内輪が外嵌されることで、前記回転軸及び前記歯車を回転自在に支持し、
前記外輪に設けられたひずみセンサと、
前記ひずみセンサの出力に基づいて前記荷重を算出する処理部と、を備え、
前記転がり軸受を軸方向から見たときに、前記ひずみセンサは、前記歯車の歯面と前記他の歯車の歯面とが接触したときの前記両歯面の共通法線に対して平行であるとともに前記回転軸の中心軸を通過する直線上に設けられている
測定装置。
【請求項2】
前記処理部は、
前記ひずみセンサの出力と、前記複数の転動体に作用する転動体荷重との関係を示す転動体荷重データベースと、
前記ひずみセンサの出力に基づいて前記荷重を求める演算部と、を備え、
前記演算部は、
前記転動体荷重データベースを用いて、前記ひずみセンサの出力から前記転動体荷重の推定値を求める転動体荷重演算処理と、
前記転動体荷重の推定値に基づいて、前記荷重の推定値を求める荷重演算処理と、を実行する
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記歯車は、所定のねじり角を有し、
前記処理部は、
前記転動体荷重と、前記転がり軸受の接触角との関係を示す接触角データベースをさらに備え、
前記荷重演算処理において、前記接触角データベースを用いて、前記接触角の推定値を求め、前記転動体荷重の推定値、及び前記接触角の推定値に基づいて前記転がり軸受に作用するラジアル荷重の推定値を求める
請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
他の歯車に噛み合う歯車を支持する転がり軸受の荷重測定方法であって、
前記転がり軸受は、内輪、外輪、及び内外輪間に介在する複数の転動体を有し、前記歯車に一体回転可能に設けられた回転軸に前記内輪が外嵌されることで、前記回転軸及び前記歯車を回転自在に支持し、
前記外輪に設けられたひずみセンサの出力を取得するステップと、
前記ひずみセンサの出力に基づいて前記転がり軸受に作用する荷重を算出するステップと、を含み、
前記転がり軸受を軸方向から見たときに、前記ひずみセンサは、前記歯車の歯面と前記他の歯車の歯面とが接触したときの前記両歯面の共通法線に対して平行であるとともに前記回転軸の中心軸を通過する直線上に設けられている
荷重測定方法。
【請求項5】
互い噛み合う一対の歯車と、
前記一対の歯車のうちの一方歯車に一体回転可能に設けられた回転軸と、
内輪、外輪、及び内外輪間に介在する複数の転動体を有し、前記内輪に前記回転軸が外嵌され、前記回転軸及び前記一方歯車を回転自在に支持する転がり軸受と、
前記外輪に設けられたひずみセンサと、
前記転がり軸受に作用する荷重を算出する処理部と、を備え、
前記転がり軸受を軸方向から見たときに、前記ひずみセンサは、前記歯車の歯面と前記他の歯車の歯面とが接触したときの前記両歯面の共通法線に対して平行であるとともに前記回転軸の中心軸を通過する直線上に設けられている
歯車機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置、転がり軸受の荷重測定方法、及び歯車機構に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、歪センサを外輪に取り付け、外輪のひずみを実稼働状態で検出するセンサ付き軸受が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
例えば、上記センサ付き軸受を用いて回転シャフトを支持する場合、ひずみセンサは、回転シャフトからの入力によって外輪に生じるひずみを検出することができる。センサ付き軸受によれば、ひずみセンサにより検出される外輪のひずみに基づいて、実稼働状態における軸受に作用する荷重等を監視することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記センサ付き軸受を用いて歯車に設けられた回転軸を支持する場合、センサ付き軸受に作用する荷重は、歯車に作用する荷重に起因する。
歯車に作用する荷重は、当該歯車に噛み合う他の歯車から伝達する。
他の歯車からの荷重は、周方向に不連続に作用する上、歯車の歯面へ向かって作用する。このため、センサ付き軸受の外輪に設けられた1つのひずみセンサの出力から軸受に作用する荷重を求めることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る測定装置は、他の歯車に噛み合う歯車を支持する転がり軸受に作用する荷重を測定する測定装置であって、前記転がり軸受は、内輪、外輪、及び内外輪間に介在する複数の転動体を有し、前記歯車に一体回転可能に設けられた回転軸に前記内輪が外嵌されることで、前記回転軸及び前記歯車を回転自在に支持し、前記外輪に設けられたひずみセンサと、前記ひずみセンサの出力に基づいて前記荷重を算出する処理部と、を備え、前記転がり軸受を軸方向から見たときに、前記ひずみセンサは、前記歯車の歯面と前記他の歯車の歯面とが接触したときの前記両歯面の共通法線に対して平行であるとともに前記回転軸の中心軸を通過する直線上に設けられている。
【0006】
上記のように構成された測定装置によれば、他の歯車の歯から歯車の歯に与えられる荷重が外輪に対して最も大きく作用する周方向の位置にひずみセンサを配置することができる。
よって、歯車を回転させ、一定期間の間におけるひずみセンサの出力のうち、最も大きいひずみがあらわれたときのひずみ値(ピーク値)を取得すれば、歯車の歯が他の歯車の歯に接触し歯車の歯に荷重が与えられたときであるとともに、ひずみセンサが設けられた周方向の位置に公転する転動体が位置するときのひずみ値を得ることができる。
ひずみセンサの出力のピーク値は、他の歯車から歯車に対して荷重が与えられたときに、その荷重が回転軸、内輪、及び転動体を介して外輪へ伝達することで生じる外輪のひずみを示している。つまり、ひずみセンサの出力のピーク値が示す外輪のひずみは、転動体に作用する転動体荷重と相関がある。
よって、ひずみセンサの出力のピーク値から、転動体が負荷する転動体荷重の推定値を求めることができる。処理部は、転動体荷重の推定値に基づいて転がり軸受に作用する荷重を算出することができる。
このように本発明では、転動体荷重と相関がある出力が得られるようにひずみセンサを配置したので、1つのひずみセンサの出力から転がり軸受の転動体荷重の推定値を求めることができ、歯車を支持する転がり軸受に作用する荷重を容易に求めることができる。
【0007】
上記測定装置において、前記処理部は、前記ひずみセンサの出力と、前記複数の転動体に作用する転動体荷重との関係を示す転動体荷重データベースと、前記ひずみセンサの出力に基づいて前記荷重を求める演算部と、を備え、前記演算部は、前記転動体荷重データベースを用いて、前記ひずみセンサの出力から前記転動体荷重の推定値を求める転動体荷重演算処理と、前記転動体荷重の推定値に基づいて、前記荷重の推定値を求める荷重演算処理と、を実行するように構成されていてもよい。
この場合、処理部が転動体荷重データベースを備えるので、転動体荷重の推定値を容易に求めることができる。
【0008】
上記測定装置において、前記歯車は、所定のねじり角を有し、前記処理部は、前記転動体荷重と、前記転がり軸受の接触角との関係を示す接触角データベースをさらに備え、前記荷重演算処理において、前記接触角データベースを用いて、前記接触角の推定値を求め、前記転動体荷重の推定値、及び前記接触角の推定値に基づいて前記転がり軸受に作用するラジアル荷重の推定値を求めるように構成してもよい。
この場合、処理部が接触角データベースを備えるので、ラジアル荷重を求めるために必要な接触角の推定値を容易に求めることができる。この結果、転動体荷重の推定値から転がり軸受のラジアル荷重の推定値を容易に求めることができる。
【0009】
また、本発明に係る荷重測定方法は、他の歯車に噛み合う歯車を支持する転がり軸受の荷重測定方法であって、前記転がり軸受は、内輪、外輪、及び内外輪間に介在する複数の転動体を有し、前記歯車に一体回転可能に設けられた回転軸に前記内輪が外嵌されることで、前記回転軸及び前記歯車を回転自在に支持し、前記外輪に設けられたひずみセンサの出力を取得するステップと、前記ひずみセンサの出力に基づいて前記転がり軸受に作用する荷重を算出するステップと、を含み、前記転がり軸受を軸方向から見たときに、前記ひずみセンサは、前記歯車の歯面と前記他の歯車の歯面とが接触したときの前記両歯面の共通法線に対して平行であるとともに前記回転軸の中心軸を通過する直線上に設けられている。
上記構成の測定方法によれば、転動体荷重と相関がある出力が得られるようにひずみセンサを配置したので、1つのひずみセンサの出力から転がり軸受の転動体荷重の推定値を求めることができ、歯車を支持する転がり軸受に作用する荷重を容易に求めることができる。
【0010】
また、本発明に係る歯車機構は、互い噛み合う一対の歯車と、前記一対の歯車のうちの一方歯車に一体回転可能に設けられた回転軸と、内輪、外輪、及び内外輪間に介在する複数の転動体を有し、前記内輪に前記回転軸が外嵌され、前記回転軸及び前記一方歯車を回転自在に支持する転がり軸受と、前記外輪に設けられたひずみセンサと、前記転がり軸受に作用する荷重を算出する処理部と、を備え、前記転がり軸受を軸方向から見たときに、前記ひずみセンサは、前記歯車の歯面と前記他の歯車の歯面とが接触したときの前記両歯面の共通法線に対して平行であるとともに前記回転軸の中心軸を通過する直線上に設けられている。
上記構成の歯車機構によれば、転動体荷重と相関がある出力が得られるようにひずみセンサを配置したので、1つのひずみセンサの出力から転がり軸受の転動体荷重の推定値を求めることができ、歯車を支持する転がり軸受に作用する荷重を容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、歯車を支持する転がり軸受に作用する荷重を容易に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係る歯車機構の正面図である。
【
図3】
図3は、ひずみセンサが設けられた転がり軸受を軸方向から見たときの断面図である。
【
図4】
図4は、入力歯車4と、出力歯車とが噛み合っている部分の拡大図である。
【
図6】
図6は、転がり軸受に作用するラジアル荷重を測定する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、処理部が取得するひずみセンサの出力の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、転動体荷重データベースの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、接触角データベースの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、ラジアル積分値データベースの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔歯車機構の全体構成〕
図1は、実施形態に係る歯車機構の正面図、
図2は、歯車機構の上面図である。
図1及び
図2中、歯車機構1は、入力軸2と、入力歯車4と、出力軸6と、出力歯車8とを備える。
本実施形態の歯車機構1は、入力軸2に与えられる回転力を、入力歯車4及び出力歯車8を介して出力軸6へ伝達する機能を有する。また、歯車機構1は、出力軸6および出力歯車8を回転自在に支持する転がり軸受に作用する荷重を測定する機能も有する。
【0014】
入力軸2は、入力歯車4の中心孔4aに挿通され、一体回転可能に設けられている。
入力軸2の両端は、支持部10によって支持されている。支持部10は、入力歯車4の両側に配置された一対のハウジング12と、一対の転がり軸受14とを備えており、基盤Bに対して入力軸2を支持する。一対の転がり軸受14は、入力軸2に外嵌固定されるとともに、一対のハウジング12に保持されている。一対の転がり軸受14は、入力軸2及び入力歯車4を一体回転可能に支持する。
【0015】
出力軸6は、出力歯車8の中心孔8aに挿通され、一体回転可能に設けられている。
出力軸6の両端は、支持部18によって支持されている。支持部18は、出力歯車8の両側に配置された一対のハウジング20と、一対の転がり軸受22とを備えており、基盤Bに対して出力軸6を支持する。一対の転がり軸受22は、出力軸6及び出力歯車8を一体回転可能に支持する。
【0016】
入力歯車4及び出力歯車8は、所定のねじれ角を有するはすば歯車であり、互いに噛み合っている。
図1では、出力歯車8を基礎円C1及び歯先円C2で示し、入力歯車4を基礎円C3及び歯先円C4で示している。
入力軸2は、外部の動力源(図示省略)から与えられる回転力によって回転駆動される。よって、入力軸2に与えられた回転力は、入力歯車4及び出力歯車8を介して出力軸6へ伝達される。これにより、出力軸6は回転駆動される。
なお、
図1では、入力歯車4は、矢印Y1の方向に回転し、出力歯車8は矢印Y2の方向に回転する。
【0017】
また、歯車機構1は、転がり軸受に作用する荷重を測定する測定装置36を備える。
測定装置36は、ひずみセンサ26と、ひずみセンサ26の出力が与えられる処理部28とを備える。ひずみセンサ26は、出力軸6を支持する一対の転がり軸受22のうちの一方に設けられている。
なお、以下の説明では、
図2中の矢印示すように、入力軸2及び出力軸6の中心線に沿う方向を「軸方向」と定義する。「軸方向」には、前記中心線に平行な方向も含まれる。
【0018】
図3は、ひずみセンサ26が設けられた転がり軸受22を軸方向から見たときの断面図である。
図3では、転がり軸受22を断面で示し、ハウジング20を省略して示している。
図3に示すように、転がり軸受22は、内輪30と、外輪32と、複数の転動体34とを備えている。複数の転動体34は玉であり、本実施形態の転がり軸受22は、深溝玉軸受である。
【0019】
内輪30は、出力軸6に外嵌固定されている。また、外輪32は、ハウジング20に固定されている。これにより、転がり軸受22は、出力軸6及び出力歯車8を回転自在に支持する。
【0020】
ひずみセンサ26は、外輪32の外周面32aに設けられている。
ここで、
図3中、出力軸6の中心軸A1と、ひずみセンサ26とを通過する直線L1は、入力歯車4の歯面と出力歯車8の歯面とが接触したときの両歯面の共通法線L2と平行となっている。
言い換えると、ひずみセンサ26は、転がり軸受22を軸方向から見たときに、共通法線L2に対して平行であるとともに中心軸A1を通過する直線L1上に設けられている。
【0021】
共通法線L2は、出力歯車8の基礎円C1と、入力歯車4の基礎円C3との接点T2を通過する。つまり、出力軸6の中心軸A1、入力軸2の中心軸A2、及び接点T2は、中心線L3上に位置する。
【0022】
図4は、入力歯車4と、出力歯車8とが噛み合っている部分の拡大図である。
図4では、入力歯車4の歯4bの歯面4b1と、出力歯車8の歯8bの歯面8b1とが、接点T2で接している状態を示している。
このとき、歯面8b1の法線と、歯面4b1の法線とが一致する。このときの法線が両歯面4b1,8b1の共通法線L2となる。
なお、接点T2を通過する、両基礎円C1,C3の接線L4と、共通法線L2とが成す角度が圧力角である。
【0023】
図5は、
図3中、ひずみセンサ26の拡大図である。
図5に示すように、外輪32の外周面32aに設けられたひずみセンサ26は、直線L1上であって外周面32aと直線L1とが交差する点T1上に配置されている。なお、軸方向におけるひずみセンサ26の位置は、外輪32の内周面に設けられた軌道面32bの軸方向中央に一致する位置とされる。
【0024】
転がり軸受22は、ハウジング20に設けられた環状内周面に嵌合固定されている。
ひずみセンサ26は、ハウジング20の環状内周面に設けられた凹部20aと、外周面32aとに囲まれた空間に収容されている。
ひずみセンサ26は、矩形状の板状部材38と、板状部材38を外周面32aに接合する接合部材40と、板状部材38に設けられたひずみゲージ42とを備える。
板状部材38は、鋼板や銅板等の金属製の薄板である。接合部材40は、板状部材38の4隅に設けられ、板状部材38を外周面32aに接合している。
板状部材38及び接合部材40は、外輪32の外周面32aに生じるひずみをひずみゲージ42へ伝える。
ひずみゲージ42は、ハウジング20の外部に配置される処理部28に接続されており、処理部28に対して外周面32aのひずみを検出した結果を示す出力を与える。ひずみゲージ42は、例えば、周方向のひずみを検出するように外周面32aに設けられている。
処理部28は、例えば、CPUや記憶部等を備えたコンピュータであり、ひずみセンサ26から与えられる出力に基づいて、転がり軸受22に作用するラジアル荷重を求める機能を有する。
【0025】
〔転がり軸受に作用するラジアル荷重の測定方法について〕
図6は、転がり軸受22に作用するラジアル荷重を測定する方法の一例を示すフローチャートである。
まず、入力軸2に所定の回転力を与え、入力軸2、入力歯車4、出力歯車8、及び出力軸6を回転させ、その間、ひずみセンサ26の出力を処理部28によって経時的に取得し(ステップS1)、さらにひずみセンサ26の出力からそのピーク値を取得する(ステップS2)。
【0026】
図7は、処理部28が取得するひずみセンサ26の出力の一例を示すグラフである。
図7中、横軸は時間、縦軸はひずみセンサ26の出力から得られるひずみ値である。
図7に示すように、処理部28は、ひずみセンサ26の出力を一定期間の間、経時的に取得する(
図6中、ステップS1)。
処理部28は、一定期間の間におけるひずみセンサ26の出力のうち、最も大きいひずみがあらわれたときのひずみ値(ピーク値)を取得する(
図6中、ステップS2)。
ここで、本実施形態では、転がり軸受22を軸方向から見たときに、ひずみセンサ26を、両歯面4b1,8b1の共通法線L2に対して平行であるとともに出力軸6の中心軸A1を通過する直線L1上に設けたので、入力歯車4の歯4bから出力歯車8の歯8bに与えられる荷重が外輪32に対して最も大きく作用する周方向の位置にひずみセンサ26が配置される。
【0027】
また、外輪32のひずみを示すひずみセンサ26の出力は、入力歯車4と出力歯車8との噛み合いのタイミングや、公転する転動体34の周方向の位置によって変動する。
ひずみセンサ26の出力は、入力歯車4の歯4bが出力歯車8の歯8bに接触し出力歯車8の歯8bに荷重が与えられたときに、ひずみセンサ26が設けられた周方向の位置に転動体34が位置していれば、転動体34に作用する荷重が最も大きくなり、かつ、外輪32のひずみが最も大きくなる。
よって、一定期間の間におけるひずみセンサ26の出力のうち、最も大きいひずみがあらわれたときのひずみ値(ピーク値)を取得すれば、入力歯車4の歯4bが出力歯車8の歯8bに接触し出力歯車8の歯8bに荷重が与えられたときであるとともに、ひずみセンサ26が設けられた周方向の位置に転動体34が位置するときのひずみ値を得ることができる。
【0028】
ひずみセンサ26の出力のピーク値は、入力歯車4から出力歯車8に対して荷重が与えられたときに、その荷重が出力軸6、内輪30、及び転動体34を介して外輪32へ伝達することで生じる外輪32のひずみを示している。つまり、ひずみセンサ26の出力のピーク値が示す外輪32のひずみは、転動体34に作用する転動体荷重と相関がある。
よって、後述するように、ひずみセンサ26の出力のピーク値から、転動体荷重の推定値を求めることができる。処理部28は、転動体荷重の推定値に基づいて転がり軸受22に作用する荷重を算出することができる。
このように本実施形態では、転動体荷重と相関がある出力が得られるようにひずみセンサ26を配置したので、1つのひずみセンサ26の出力から転がり軸受22の転動体荷重の推定値を求めることができ、出力歯車8を支持する転がり軸受22に作用する荷重を容易に求めることができる。
【0029】
図6に示すように、ひずみセンサ26の出力におけるピーク値を取得すると、処理部28は、転動体34に作用する転動体荷重の推定値を取得する(
図6中、ステップS3)。
処理部28は、ピーク値に基づいて、転動体荷重の推定値を求める。処理部28が有する記憶部には、ひずみセンサ26の出力と、転動体荷重との関係を示す転動体荷重データベースが記憶されている。
処理部28は、この転動体荷重データベースを参照し、ピーク値に基づいて、転動体荷重の推定値を求める。なお、転動体荷重とは、内輪30及び外輪32を通じて転動体34に作用する荷重である。
【0030】
図8は、転動体荷重データベースの一例を示す図である。
図8では、転動体荷重データベースをグラフとして示している。
図8に示す転動体荷重データベース50において、横軸は転動体荷重を示している。また、縦軸は入力歯車4から出力歯車8に対して荷重が与えられたときに、その荷重が転動体34を介して外輪32へ伝達することで生じる外輪32のひずみ値を示している。つまり、縦軸は、ひずみセンサ26の出力のピーク値に相当するひずみ値を示している。
よって、
図8中の線
図L10は、ピーク値に相当するひずみ値と、転動体荷重との関係を示している。
【0031】
転動体荷重データベース50は、出力歯車8を介して与えられる荷重と同様の荷重を出力軸6に与えたときの外輪32に生じるひずみをCAE(Computer Aided Engineering)等を用いた応力解析によって求めることで得られる。
すなわち、出力軸6、及び転がり軸受22をモデル化し、出力歯車8を介して与えられる荷重と同様の荷重を出力軸6に与えたときに、その荷重が出力軸6、内輪30、及び転動体34を介して外輪32へ伝達することで生じる外輪32のひずみ値(ピーク値に相当するひずみ値)を、モデルを用いた数値解析によって求める。さらに、ひずみ値を求めたときの転動体34に作用する転動体荷重も数値解析によって求める。
【0032】
上記数値解析では、出力軸6に与える荷重を想定される所定の範囲内で変化させ、変化させた荷重ごとに、ピーク値に相当するひずみ値と、転動体荷重とを求める。これによって、ピーク値に相当するひずみ値と転動体荷重との関係を得ることができ、転動体荷重データベース50を得ることができる。
【0033】
なお、入力歯車4及び出力歯車8ははすば歯車なので、出力歯車8には、軸方向に直交する方向である径方向に沿った荷重の他、軸方向に沿った荷重も与えられる。よって、出力歯車8の圧力角と、ねじれ角とを考慮し、ラジアル荷重とアキシャル荷重とを一定の比率で含む荷重を、出力軸6に与える荷重として与える。
【0034】
図8に示すように、ピーク値に相当するひずみ値と、転動体荷重との間には一定の相関関係がある。転動体荷重データベース50は、ピーク値に相当するひずみ値に対応する転動体荷重を示している。例えば、取得したピーク値が「400」である場合、処理部28は、転動体荷重データベース50を参照し、ひずみ値「400」に対応する転動体荷重「8」を転動体荷重の推定値として取得する。
このように、処理部28は、取得したピーク値に基づいて、転動体荷重の推定値を求めることができる。
【0035】
図6に示すように、転動体荷重の推定値を取得すると、処理部28は、次に、転がり軸受22の接触角の推定値を取得する(
図6中、ステップS4)。
接触角とは、内外輪の軌道面と転動体とが接触している場合において、転がり軸受の中心軸に垂直な面と、軌道面によって転動体へ伝えられる力の合力の作用線とがなす角度である。
【0036】
図9は、転がり軸受22の断面図である。
図9は、転がり軸受22の中心軸A1を含む平面に沿った断面図である。
図9中、一点鎖線M1は、中心軸A1に直交する直線である。
転動体34は、外輪32の軌道面32bに接触するとともに、内輪30の軌道面(図示省略)に接触している。
このとき、内外輪30,32の軌道面によって転動体34へ伝えられる力の合力の作用線L5と、一点鎖線M1とがなす角度が接触角αである。
【0037】
処理部28は、転動体荷重の推定値に基づいて、接触角αの推定値を求める。処理部28が有する記憶部には、転動体荷重と、接触角αとの関係を示す接触角データベースが記憶されている。
処理部28は、この接触角データベースを参照し、転動体荷重の推定値に基づいて、接触角αの推定値を求める。
【0038】
図10は、接触角データベースの一例を示す図である。
図10では、接触角データベースをグラフとして示している。
図10に示す接触角データベース52において、横軸は接触角α、縦軸は転動体荷重を示している。
よって、
図10中の線
図L12は、転動体荷重と、接触角αとの関係を示している。
【0039】
接触角データベース52は、転動体荷重データベース50と同様、CAE等を用いた応力解析によって求めることで得られる。
すなわち、出力軸6、及び転がり軸受22のモデルを用い、出力歯車8を介して与えられる荷重と同様の荷重を出力軸6に与えたときに、その荷重が出力軸6を介して転がり軸受22へ伝達することで生じる転がり軸受22の接触角αを数値解析によって求める。さらに、接触角αに対応する転動体荷重も数値解析によって求める。
接触角αは、下記式(1)によって求めることができる。
【0040】
【数1】
上記式(1)中、Δrはラジアル隙間、r
eは外輪溝半径、r
iは内輪溝半径、D
wは転動体直径である。
【0041】
よって、上記数値解析では、荷重を出力軸6に与えたときのラジアル隙間Δrを求め、ラジアル隙間Δrから接触角αを求める。
上記数値解析では、出力軸6に与える荷重を想定される所定の範囲内で変化させ、変化させた荷重ごとに、ラジアル隙間Δr(接触角α)と、転動体荷重とを求める。これによって、接触角αと転動体荷重との関係を得ることができ、接触角データベース52を得ることができる。
なお、上記数値解析において出力軸6に与える荷重の条件は、転動体荷重データベース50を求める場合と同様の条件とする。
【0042】
図10に示すように、接触角αと、転動体荷重との間には一定の相関関係がある。接触角データベース52は、接触角αに対応する転動体荷重を示している。例えば、取得した転動体荷重の推定値が「8」である場合、処理部28は、接触角データベース52を参照し、転動体荷重「8」に対応する接触角「10」を転動体荷重の推定値として取得する。
このように、処理部28は、取得した転動体荷重の推定値に基づいて、接触角αの推定値を求めることができる。
【0043】
図6に示すように、接触角αの推定値を取得すると、処理部28は、次に、ラジアル積分値Jrを取得する(
図6中、ステップS5)。
ラジアル積分値Jrとは、転がり軸受22の負荷率εで定まる定数であり、下記式(2)で表される。また、負荷率εは、下記式(3)で表される。
【0044】
【数2】
なお、式(2),式(3)中、φ
0は、転動体が荷重を受ける範囲である負荷圏の半分の角度を示す。
【0045】
処理部28は、転動体荷重の推定値、及び接触角αの推定値に基づいて負荷率εを求め、ラジアル積分値Jrの推定値を求める。処理部28が有する記憶部には、負荷率εと、ラジアル積分値Jrとの関係を示すラジアル積分値データベースが記憶されている。
処理部28は、このラジアル積分値データベースを参照し、負荷率εに基づいて、ラジアル積分値Jrの推定値を求める。
【0046】
図11は、ラジアル積分値データベースの一例を示す図である。
図11では、ラジアル積分値データベースをグラフとして示している。
図11に示すラジアル積分値データベース54において、横軸は負荷率ε、縦軸はラジアル積分値Jrを示している。
よって、
図11中の線
図L14は、負荷率εと、ラジアル積分値Jrとの関係を示している。
【0047】
ラジアル積分値データベース54は、他のデータベースと同様、CAE等を用いた応力解析によって求めることで得られる。
すなわち、出力軸6、及び転がり軸受22のモデルを用い、出力歯車8を介して与えられる荷重と同様の荷重を出力軸6に与えたときに、その荷重が出力軸6を介して転がり軸受22へ伝達したときにおける転がり軸受22の負荷率ε(負荷圏)を数値解析によって求め、上記式(2),式(3)に基づいてラジアル積分値Jrを求める。さらに、負荷率εと、転動体荷重及び接触角との関係も数値解析によって求める。
【0048】
上記数値解析では、出力軸6に与える荷重を想定される所定の範囲内で変化させ、変化させた荷重ごとに、負荷率ε、ラジアル積分値Jr、転動体荷重、及び接触角αを求める。これによって、負荷率εと転動体荷重及び接触角との関係、及び、負荷率εとラジアル積分値Jrとの関係を得ることができ、ラジアル積分値データベース54を得ることができる。
なお、上記数値解析において出力軸6に与える荷重の条件は、転動体荷重データベース50を求める場合と同様の条件とする。
【0049】
図11に示すように、ラジアル積分値データベース54は、転動体荷重と接触角に基づいて定まる負荷率εとに対応するラジアル積分値Jrを示している。例えば、取得した転動体荷重の推定値及び接触角αの推定値に基づいて定まる負荷率εが「2」である場合、処理部28は、ラジアル積分値データベース54を参照し、負荷率ε「2」に対応するラジアル積分値Jr「0.175」をラジアル積分値Jrの推定値として取得する。
このように、処理部28は、負荷率ε(転動体荷重及び接触角αの推定値)に基づいて、ラジアル積分値Jrの推定値を求めることができる。
【0050】
図6に示すように、ラジアル積分値Jrの推定値を取得すると、処理部28は、次に、転がり軸受22のラジアル荷重の推定値を取得する(
図6中、ステップS6)
ラジアル荷重Frは、下記式(4)によって求めることができる。
Fr = Jr・Z・Q・cosα ・・・・(4)
上記式(4)中、Zは転がり軸受22の転動体34の個数、Qは転動体荷重である。
【0051】
処理部28は、
図6中のステップS3,S4,S5で求めた転動体荷重の推定値、接触角αの推定値、及びラジアル積分値Jrと、上記式(4)とを用いてラジアル荷重Frの推定値を求め、処理を終える。
以上のように、処理部28は、ひずみセンサ26の出力に基づいて転がり軸受22に作用するラジアル荷重Frの推定値を求めることができる。
【0052】
〔処理部の構成について〕
図12は、処理部28の構成例を示すブロック図である。
図12に示す処理部28は、上述したようにコンピュータであり、CPU等からなる演算部60と、メモリやハードディスク等からなる記憶部62と、入出力部64とを備える。入出力部64は、キーボードや、マウス、タッチパネルといった入力デバイスと、ディスプレイやプリンタといった出力デバイスとを含む。
【0053】
記憶部62には、演算部60が実行するためのコンピュータプログラム等が記憶されている。演算部60は、記憶部62に記録された前記コンピュータプログラムを読み込むことで、演算部60が有する各機能を実現する。
また、記憶部62には、上述の転動体荷重データベース50、接触角データベース52、及びラジアル積分値データベース54が記憶されている。
【0054】
また、演算部60は、転動体荷重演算処理60aと、ラジアル荷重演算処理60bとを実行する機能を有する。
演算部60は、転動体荷重演算処理60aとして、転動体荷重データベース50を用いて、ひずみセンサ26の出力から転動体荷重の推定値を求める処理(
図6中、ステップS3)を実行する機能を有する。
このように、処理部28は、数値解析によって得た転動体荷重データベース50を備えるので、転動体荷重の推定値を容易に求めることができる。
【0055】
また、演算部60は、ラジアル荷重演算処理60bとして、転動体荷重の推定値に基づいて、ラジアル荷重Frの推定値を求める処理を実行する機能を有する。
より詳細には、演算部60は、ラジアル荷重演算処理60bとして、接触角データベース52を用い、転動体荷重の推定値に基づいて接触角αの推定値を求める処理(
図6中、ステップS4)を実行する機能を有する。
このように、処理部28は、数値解析によって得た接触角データベース52を備えるので、ラジアル荷重を求めるために必要な接触角の推定値を容易に求めることができる。この結果、転動体荷重の推定値から転がり軸受のラジアル荷重の推定値を容易に求めることができる。
【0056】
また、演算部60は、ラジアル荷重演算処理60bとして、ラジアル積分値データベース54を用い、転動体荷重の推定値、及び接触角αの推定値に基づいてラジアル積分値Jrの推定値を求める処理(
図6中、ステップS5)を実行する機能、及び、転動体荷重の推定値、接触角αの推定値、及びラジアル積分値Jrに基づいてラジアル荷重Frを求める処理(
図6中、ステップS6)を実行する機能を有する。
【0057】
演算部60は、求めたラジアル荷重Frを入出力部64に含まれるディスプレイやプリンタ等の出力デバイスによって出力する。
【0058】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
例えば、上記実施形態において、ひずみセンサ26を一対の転がり軸受22の一方のみに設けた場合を例示したが、両方に設けてもよい。
また、ひずみセンサ26を周方向のひずみを検出するように設けたが、軸方向のひずみを検出するように設けてもよいし、周方向及び軸方向に交差する方向のひずみを検出するように設けてもよい。
また、入力軸2を支持する一対の転がり軸受14にひずみセンサを設けてもよい。この場合、転がり軸受14のラジアル荷重Frの推定値を求めることができる。
【0059】
また、上記実施形態では、1種類の転がり軸受22のラジアル荷重Frを求める場合を例示したが、サイズ等が異なる複数種類の転がり軸受に対応するデータベース50,52,54のセットを処理部28が有していれば、測定装置36は、複数種類の転がり軸受のラジアル荷重Frを求めることができる。
また、上記実施形態では、転がり軸受22のラジアル荷重Frの推定値を求める場合を例示したが、上記と同様の方法によって転動体荷重の推定値を求め、転動体荷重の推定値に基づいてアキシャル荷重の推定値を求めてもよい。
【0060】
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1 歯車機構 4 入力歯車(他の歯車) 4b1 歯面
6 出力軸(回転軸) 8 出力歯車(歯車) 8b1 歯面
22 転がり軸受 26 センサ 28 処理部
30 内輪 32 外輪 34 転動体
36 測定装置 50 転動体荷重データベース
52 接触角データベース 54 ラジアル積分値データベース
A1 中心軸 L1 直線 L2 共通法線