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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】エンジンの燃料改質システム
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/36 20160101AFI20240509BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20240509BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20240509BHJP
   F02M 26/34 20160101ALI20240509BHJP
【FI】
F02M26/36
F02D21/08 311B
F02D23/00 D
F02D23/00 J
F02M26/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020113834
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012184
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】中本 仁寿
(72)【発明者】
【氏名】清末 涼
(72)【発明者】
【氏名】服平 次男
(72)【発明者】
【氏名】古賀 義行
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩康
(72)【発明者】
【氏名】陰山 明
(72)【発明者】
【氏名】丸原 正志
(72)【発明者】
【氏名】大澤 駿
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 巧朋
(72)【発明者】
【氏名】興梠 武久
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-307834(JP,A)
【文献】特開2010-249022(JP,A)
【文献】特開2012-225348(JP,A)
【文献】特開2018-009492(JP,A)
【文献】特開2019-090378(JP,A)
【文献】実開昭59-040558(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0010555(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 21/08
F02D 23/00
F02D 43/00
F02M 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から排出される排気ガスが流通する排気通路とを備えたエンジンに適用される燃料改質システムであって、
前記吸気通路と前記排気通路とを接続するEGR通路と、
前記EGR通路に燃料を噴射可能な改質用インジェクタと、
前記EGR通路における前記改質用インジェクタの下流側に設けられ、前記改質用インジェクタから噴射された燃料を改質可能な燃料改質触媒と、
前記排気通路に設けられ、当該排気通路内の排気ガスの圧力である排圧を調整可能な排圧調整装置と、
前記改質用インジェクタおよび前記排圧調整装置を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、前記改質用インジェクタに燃料を噴射させる改質制御の実行中に、前記EGR通路を通じて前記排気通路から前記吸気通路に還流される排気ガスであるEGRガスの流量が過剰になるEGR過剰の発生が確認された場合に、前記排圧が低下する方向に前記排圧調整装置の制御量を調整するEGR抑制制御を実行し、
前記排圧調整装置は、前記排気通路を流通する排気ガスのエネルギーにより発電可能な発電タービンであり、
前記EGR抑制制御は、前記発電タービンの発電量を低下させる制御を含む、ことを特徴とするエンジンの燃料改質システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの燃料改質システムにおいて、
前記排気通路内の排気ガスの温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記コントローラは、前記温度センサによる排気ガスの検出温度に基づいて前記EGR過剰の有無を判定する、ことを特徴とするエンジンの燃料改質システム。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの燃料改質システムにおいて、
前記エンジン本体に導入される吸気に対する前記EGRガスの割合であるEGR率の目標値を目標EGR率、当該目標EGR率が達成されている場合に想定される排気ガスの温度を基準温度としたとき、前記コントローラは、前記基準温度から前記温度センサによる検出温度を減じた温度偏差を逐次算出するとともに、算出した当該温度偏差が所定の閾値よりも大きいことが確認された場合に、前記EGR抑制制御を実行する、ことを特徴とするエンジンの燃料改質システム。
【請求項4】
請求項3に記載のエンジンの燃料改質システムにおいて、
前記コントローラは、前記温度偏差が前記閾値に対し大きいほど前記発電タービンの発電量が大きく低下するように、前記発電タービンを前記温度偏差に基づきフィードバック制御する、ことを特徴とするエンジンの燃料改質システム。
【請求項5】
請求項1に記載のエンジンの燃料改質システムにおいて、
前記エンジン本体に導入される吸気に対する前記EGRガスの割合であるEGR率の目標値を目標EGR率、EGR率の実際値を実EGR率、実EGR率から目標EGR率を減じた値を過剰EGR率としたとき、前記コントローラは、前記改質制御の実行中に前記過剰EGR率を逐次算出するとともに、算出した当該過剰EGR率が所定の閾値よりも大きいことが確認された場合に、前記EGR抑制制御を実行する、ことを特徴とするエンジンの燃料改質システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気通路と排気通路とを接続するEGR通路に燃料改質触媒が備えられた燃料改質システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような燃料改質システムが適用されたエンジンとして、下記特許文献1のエンジンが知られている。具体的に、この特許文献1のエンジンは、吸気通路と排気通路とを接続するEGR通路と、EGR通路に改質用の燃料を噴射する燃料噴射弁(改質燃料用燃料噴射弁)と、EGR通路における当該燃料噴射弁よりも下流側の位置に設けられた燃料改質触媒とを備えている。燃料改質触媒は、例えばロジウム系の触媒金属を含み、高温下で炭化水素燃料を改質して水素を生成する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-9492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では、EGR通路に噴射された燃料が高温のEGRガスとともに燃料改質触媒に導入されることにより、燃料が改質されて水素が生成される。水素は燃焼速度が速いので、このような水素を含む改質後の燃料がエンジン本体(気筒)に供給されることにより、EGR率(吸気中に含まれるEGRガスの割合)が高い条件下でも安定した燃焼が実現されるとされている。このため、上記特許文献1では、燃焼安定性を確保しつつ、EGR率を可及的に高めて燃費性能を改善する効果が得られるものと期待される。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1においてEGR率をむやみに高めると、排気ガスの温度ひいてはEGRガスの温度が過度に低くなり、燃料改質触媒の活性が損なわれて当該触媒による所期の改質性能が得られなくおそれがある。そこで、排気ガスの温度が所要の温度範囲に維持されるように、EGR率を運転条件に応じて調整することが望まれる。このとき、何らかの要因でEGR率が過度に大きくなることが考えられるが、このような状況(EGR率の過剰)は排気ガス(EGRガス)の温度低下、ひいては燃料改質触媒の活性の低下につながるので、速やかに解消されることが望ましい。
【0006】
一方、上記特許文献1のシステムには、EGR率を調整する手段として、EGR通路を開閉するEGR弁(排気還流制御弁)が備わっている。そこで、上記のようにEGR率が過剰になったときには、EGR弁の開度を低下させてEGRガスの流量を減らすことが提案される。しかしながら、このようにEGR率が過剰になる度にEGR弁の開度を低下させたのでは、排気通路の圧力(排圧)の増大、ひいてはポンピングロスの増大につながり、所期の燃費改善効果が得られない可能性があった。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、燃料改質触媒に過度に多くのEGRガスが導入されている場合に、燃費性能を悪化させることなく当該EGRガスの量を低減することが可能なエンジンの燃料改質システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジン本体と、エンジン本体に導入される吸気が流通する吸気通路と、エンジン本体から排出される排気ガスが流通する排気通路とを備えたエンジンに適用される燃料改質システムであって、前記吸気通路と前記排気通路とを接続するEGR通路と、前記EGR通路に燃料を噴射可能な改質用インジェクタと、前記EGR通路における前記改質用インジェクタの下流側に設けられ、前記改質用インジェクタから噴射された燃料を改質可能な燃料改質触媒と、前記排気通路に設けられ、当該排気通路内の排気ガスの圧力である排圧を調整可能な排圧調整装置と、前記改質用インジェクタおよび前記排圧調整装置を制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、前記改質用インジェクタに燃料を噴射させる改質制御の実行中に、前記EGR通路を通じて前記排気通路から前記吸気通路に還流される排気ガスであるEGRガスの流量が過剰になるEGR過剰の発生が確認された場合に、前記排圧が低下する方向に前記排圧調整装置の制御量を調整するEGR抑制制御を実行し、前記排圧調整装置は、前記排気通路を流通する排気ガスのエネルギーにより発電可能な発電タービンであり、前記EGR抑制制御は、前記発電タービンの発電量を低下させる制御を含む、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、EGR通路に燃料改質触媒が設けられるとともに、改質用インジェクタからEGR通路に噴射された燃料を燃料改質触媒に導入可能であるため、当該燃料改質触媒での吸熱反応により燃料を改質することができ、EGRガス(排気ガス)の熱を利用して燃焼性を改善することができる。これにより、エンジンからの排出熱を出力に還元する排熱回収が行われたのと同様の効果を得ることができ、エンジンの燃費性能を向上させることができる。
【0010】
また、前記のように燃料改質触媒に燃料を導入する制御(改質制御)の実行中に、EGRガスの流量が過剰になるEGR過剰が発生した場合には、排気通路に設けられた排圧調整装置によって排圧が低下方向に調整されるので、排気通路からEGR通路への排気ガスの分流を抑制することができ、EGR過剰を速やかに解消して燃料改質のための適切なEGRガス量を確保することができる。
【0011】
ここで、EGR過剰を解消させる他の方法として、EGR通路にEGR弁を設けた上で当該EGR弁の開度を低下させることが考えられる。しかしながら、EGR弁の開度低下は、吸気通路と排気通路との圧力差を拡大させ、ポンピングロスの増大につながると考えられる。これに対し、本発明では、EGR過剰の発生時に排圧調整装置によって排圧が低くされるので、吸気通路と排気通路との圧力差、ひいてはポンピングロスをむしろ低減することができ、良好な燃費性能を確保しつつEGR過剰を解消することができる。
特に、本発明では、排圧調整装置として排気通路に発電タービンが設けられるので、排気ガスのエネルギーの一部を電力として回収することが可能になる。このことは、燃料改質触媒での吸熱反応による燃料改質の効果(燃焼性の改善)と相俟って、エンジンからの排出熱を出力に還元する排熱回収の効率を高めるので、エンジンの燃費性能を十分に向上させることができる。また、EGR過剰の発生時には発電タービンの発電量が低くされるので、当該発電量の低下により排気通路内の排気ガスの流通抵抗が低下し、排気通路の圧力である排圧が低下する。これにより、排気通路からEGR通路への排気ガスの分流が抑制されるので、EGR過剰を速やかに解消することができる。
【0012】
好ましくは、前記燃料改質システムは、前記排気通路内の排気ガスの温度を検出する温度センサをさらに備え、前記コントローラは、前記温度センサによる排気ガスの検出温度に基づいて前記EGR過剰の有無を判定する(請求項2)。
【0013】
この構成によれば、EGR率(吸気に対するEGRガスの割合)が高いほど排気ガスの温度が低下する傾向にあることを利用して、EGR過剰の有無(EGR抑制制御の要否)を簡単かつ適切に判断することができる。
【0014】
前記エンジン本体に導入される吸気に対する前記EGRガスの割合であるEGR率の目標値を目標EGR率、当該目標EGR率が達成されている場合に想定される排気ガスの温度を基準温度としたとき、前記コントローラは、前記基準温度から前記温度センサによる検出温度を減じた温度偏差を逐次算出するとともに、算出した当該温度偏差が所定の閾値よりも大きいことが確認された場合に、前記EGR抑制制御を実行することが好ましい(請求項3)。
【0015】
この構成によれば、実際に検出した排気ガスの温度を基準温度から減じた温度偏差に基づいて、EGR過剰の有無(EGR抑制制御の要否)を適切に判断することができる。
【0016】
前記構成において、より好ましくは、前記コントローラは、前記温度偏差が前記閾値に対し大きいほど前記発電タービンの発電量が大きく低下するように、前記発電タービンを前記温度偏差に基づきフィードバック制御する(請求項4)。
【0017】
この構成によれば、温度偏差の変化(換言すればEGR率の過剰度合いの変化)に応じた適切な発電量の調整によりEGR過剰を速やかに解消することができる。
【0018】
前記エンジン本体に導入される吸気に対する前記EGRガスの割合であるEGR率の目標値を目標EGR率、EGR率の実際値を実EGR率、実EGR率から目標EGR率を減じた値を過剰EGR率としたとき、前記コントローラは、前記改質制御の実行中に前記過剰EGR率を逐次算出するとともに、算出した当該過剰EGR率が所定の閾値よりも大きいことが確認された場合に、前記EGR抑制制御を実行するようにしてもよい(請求項5)。
【0019】
この構成によれば、目標EGR率と実EGR率との比較に基づいてEGR過剰の有無(EGR抑制制御の要否)を適切に判断することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明のエンジンの燃料改質システムによれば、燃料改質触媒に過度に多くのEGRガスが導入されている場合に、燃費性能を悪化させることなく当該EGRガスの量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態にかかる燃料改質システムが適用されたエンジンの全体構成を概略的に示す平面図である。
図2】上記エンジンの制御系統を示すブロック図である。
図3】上記エンジンの運転中に実行される制御の一例を示すフローチャートである。
図4図3のステップS3で行われる改質制御の前半部を示すサブルーチンである。
図5】上記改質制御の後半部を示すサブルーチンである。
図6】エンジン負荷と目標EGR率との関係を概略的に示すグラフである。
図7】EGR率と燃料改質率との関係を概略的に示すグラフである。
図8】改質用燃料噴射量を決定するためのマップの傾向を示すグラフであり、グラフ(a)は触媒入口温度と改質用燃料噴射量との関係を、グラフ(b)はEGRガス流量と改質用燃料噴射量との関係をそれぞれ示している。
図9】燃料割合(直噴燃料量と改質用燃料噴射量との比率)と触媒入口温度との関係を示すグラフである。
図10】目標EGR率と基準温度との関係を概略的に示すグラフである。
図11】上記改質制御が実行された場合の各種状態量の時間変化の一例を示すタイムチャートである。
図12】上記実施形態の変形例を説明するための図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる燃料改質システムが適用されたエンジンの全体構成を概略的に示す平面図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリンエンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路10と、エンジン本体1から排出された排気ガス(既燃ガス)が流通する排気通路20と、吸気通路10と排気通路20とを接続するEGR通路30とを備えている。
【0027】
エンジン本体1は、列状に並ぶ複数の(ここでは4つの)気筒2を含む直列多気筒型のものである。各気筒2には、図略のピストンが往復動可能に収容されている。
【0028】
エンジン本体1の各気筒2には、直噴インジェクタ3、点火プラグ4、吸気弁5、および排気弁6がそれぞれ設けられている。直噴インジェクタ3は、ガソリンを含有する燃料を気筒2に噴射する噴射弁である。点火プラグ4は、燃料と空気とが混合した混合気に点火するプラグである。吸気弁5は、吸気通路10(後述する各独立吸気管11)と気筒2とを連通する図略の吸気ポートを開閉するバルブである。排気弁6は、排気通路20(後述する各独立排気管21)と気筒2とを連通する図略の排気ポートを開閉するバルブである。
【0029】
直噴インジェクタ3から気筒2に供給された燃料は、気筒2の内部におけるピストンの上側に画成された燃焼室において空気と混合されて混合気を形成する。当該混合気は点火プラグ4による点火を受けて燃焼し、当該燃焼による膨張力を受けて上記ピストンが往復動する。ピストンの往復動は、図略のクランク機構を介してエンジン本体1の出力軸(クランク軸)に伝達され、当該出力軸を回転させる。エンジン本体1には、当該出力軸の回転角(クランク角)および回転数(エンジン回転数)を検出するクランク角センサSN1が設けられている。なお、当実施形態では、直噴インジェクタ3から供給される燃料に加えて(もしくはこれに代えて)、後述する改質用インジェクタ32からEGR通路30を通じて供給される燃料を気筒2で燃焼させることも可能である(詳しくは後述する)。
【0030】
吸気通路10は、エンジン本体1の一側面に接続された複数(ここでは4つ)の独立吸気管11と、各独立吸気管11の上流側(エンジン本体1から遠い側)の端部が共通に接続されたサージタンク12と、サージタンク12から上流側に延びる単管状の共通吸気管13とを有している。各独立吸気管11は、上記吸気ポートを介して各気筒2に連通するようにエンジン本体1に接続されている。
【0031】
共通吸気管13の途中部には、吸気流量を調整するためのスロットル弁15が開閉可能に設けられている。また、共通吸気管13におけるスロットル弁15の下流側には、吸気流量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。エアフローセンサSN2は、EGRガスが混入する前の吸気(つまり新気)の流量を検出し得るように、スロットル弁15の下流側かつEGR通路30の出口よりも上流側の位置に設けられている。
【0032】
排気通路20は、エンジン本体1の他側面に接続された複数(ここでは4つ)の独立排気管21と、各独立排気管21の下流側(エンジン本体1から遠い側)の端部が集合した集合部22と、集合部22から下流側に延びる単管状の共通排気管23とを有している。各独立排気管21は、上記排気ポートを介して各気筒2に連通するようにエンジン本体1に接続されている。
【0033】
共通排気管23には、その内部を流通する排気ガスのエネルギーにより発電を行う発電タービン25が設けられている。発電タービン25は、共通排気管23の途中部に介設されたタービンケース26と、タービンケース26の内部に配置されたタービンインペラ27と、タービンインペラ27と連結軸27aを介して連結された発電機28とを有している。タービンインペラ27は、タービンケース26を通過する排気ガスのエネルギーを受けて回転するインペラである。発電機28は、タービンインペラ27と連動して回転するロータコイルを内蔵しており、当該ロータコイルの回転に伴う電磁誘導により発電を行う。
【0034】
発電機28の発電量は変更可能である。この発電量の変更により、タービンインペラ27を通過する排気ガスの流通抵抗が変化し、排気通路20内の排気ガスの圧力である排圧が変化する。すなわち、発電機28の発電量が増大すると、排気ガスの流通抵抗が増大し、排圧が増大する。逆に、発電機28の発電量が低下すると、排気ガスの流通抵抗が低下し、排圧が低下する。このように、発電タービン25は、排圧を調整する機能(排圧調整装置としての機能)を有している。
【0035】
共通排気管23における発電タービン25の上流側には、当該共通排気管23を流通する排気ガスの温度を検出する排ガス温度センサSN3が設けられている。なお、排ガス温度センサSN3は、本発明における「温度センサ」に相当する。
【0036】
発電機28は、バッテリ40と電気的に接続されている。バッテリ40は、発電機28で発電された電力を蓄えるとともに、バッテリ40に接続された各種電気機器(例えば後述するモータ38)に電力を供給することが可能である。
【0037】
EGR通路30は、共通排気管23におけるタービンケース26よりも上流側の位置と、共通吸気管13におけるスロットル弁15よりも下流側の位置とを互いに連結するように設けられている。EGR通路30には、EGR弁31、改質用インジェクタ32、燃料改質触媒33、および送気コンプレッサ35が上流側(排気通路20に近い側)からこの順に並ぶように配設されている。
【0038】
EGR弁31は、EGR通路30を通じて排気通路20から吸気通路10に還流される排気ガスであるEGRガスの流量を調整するために開閉可能に設けられたバルブである。
【0039】
改質用インジェクタ32は、上述した直噴インジェクタ3が噴射する燃料と同じ燃料、つまりガソリンを含有する燃料を噴射する噴射弁である。改質用インジェクタ32からEGR通路30に噴射された燃料は、EGRガスとともに燃料改質触媒33に導入される。
【0040】
燃料改質触媒33は、例えばハニカム構造を有する多孔質の担体(モノリス担体)と、当該担体の表面にコーティングされた触媒物質とを有している。触媒物質は、例えばロジウム系の触媒金属を含み、所定の活性温度(例えば約500℃)を超える高温下で燃料を改質する機能を有している。具体的に、触媒物質は、改質用インジェクタ32から高温のEGRガスとともに供給されるガソリン含有燃料(炭化水素燃料)を吸熱反応により改質し、一酸化炭素(CO)および水素(H)を含む成分を生成する。これらの成分(一酸化炭素および水素)を含む改質後の燃料は、改質前の燃料(炭化水素燃料)に比べて、燃焼速度が速く、かつ単位質量あたりの熱発生量が多くなる。このことは、同一の出力トルクを発生させるのに必要な燃料の総量を少なくする効果をもたらす。しかも、このような効果につながる改質反応が、EGRガス(排気ガス)の熱を利用して実現されるので、エンジンからの排出熱を出力に還元する排熱回収が行われたのと同様の効果が得られ、エンジンの燃費性能が向上する。
【0041】
燃料改質触媒33には、当該触媒33の入口部の温度を検出する触媒温度センサSN4が取り付けられている。
【0042】
送気コンプレッサ35は、EGR通路30における燃料改質触媒33の下流側に設けられたコンプレッサケース36と、コンプレッサケース36の内部に配置されたコンプレッサインペラ37と、コンプレッサインペラ37と連結軸37aを介して連結されたモータ38とを有している。モータ38は、バッテリ40と電気的に接続され、バッテリ40からの電力の供給を受けて作動する。コンプレッサインペラ37は、モータ38により回転駆動されるインペラであり、EGR通路30を流通するEGRガスを圧縮しつつ下流側(吸気通路10側)に送り出すことが可能である。
【0043】
(2)制御系統
図2は、当実施形態のエンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるECU50は、エンジンを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。なお、ECU50は、本発明における「コントローラ」に相当する。
【0044】
ECU50には、各種センサによる検出情報が入力される。例えば、ECU50は、上述したクランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、排ガス温度センサSN3、および触媒温度センサSN4と電気的に接続されており、これらのセンサにより検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転数、吸気流量、排ガス温度、触媒入口温度等の情報)がECU50に逐次入力されるようになっている。
【0045】
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセルセンサSN5が設けられており、当該アクセルセンサSN5による検出信号もECU50に逐次入力される。
【0046】
ECU50は、上記各センサSN1~SN5からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、直噴インジェクタ3、点火プラグ4、スロットル弁15、発電タービン25の発電機28、EGR弁31、改質用インジェクタ32、および送気コンプレッサ35のモータ38等と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0047】
(3)改質制御
次に、改質用インジェクタ32から燃料を噴射して当該燃料を燃料改質触媒33において改質する制御(以下、これを改質制御という)の詳細について、図3図5のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0048】
図3に示す制御がスタートすると、ECU50は、各気筒2に供給すべき燃料の総量である総燃料量を決定する(ステップS1)。具体的に、ECU50は、各気筒2における混合気の空燃比(A/F)が理論空燃比(14.7)もしくはその近傍に設定された目標空燃比に一致するように、総燃料量を決定する。この総燃料量は、エアフローセンサSN2の検出値に基づき決定することが可能である。すなわち、ECU50は、各気筒2に導入される新気の量である吸入空気量を、エアフローセンサSN2の検出値から算出するとともに、算出した吸入空気量を目標空燃比(≒14.7)で除した値を、上記総燃料量として決定する。
【0049】
次いで、ECU50は、触媒温度センサSN4により検出される触媒入口温度(燃料改質触媒33の入口部の温度)が予め定められた閾値Tzよりも大きいか否かを判定する(ステップS2)。閾値Tzは、燃料改質触媒33の活性温度(例えば約500℃)よりもやや高い値に設定される。
【0050】
上記ステップS2でYESと判定されて触媒入口温度が閾値Tzを超えることが確認された場合、ECU50は、改質制御として、各気筒2に供給される総燃料量の少なくとも一部が改質用インジェクタ32からの供給燃料(換言すれば燃料改質触媒33で改質された燃料)で賄われるように、改質用インジェクタ32および直噴インジェクタ3を制御する(ステップS3)。この改質制御の詳細については後述する。
【0051】
一方、上記ステップS2でNOと判定されて触媒入口温度が閾値Tz以下であることが確認された場合、ECU50は、改質用インジェクタ32による燃料噴射を停止する非改質制御を実行する。この非改質制御は、次のステップS4,S5を含む。
【0052】
まずステップS4において、ECU50は、各気筒2に供給される総燃料量が全て直噴インジェクタ3からの噴射燃料で賄われるように、改質用インジェクタ32および直噴インジェクタ3を制御する(ステップS4)。すなわち、ECU50は、各気筒2に供給される総燃料量と同量の燃料を各気筒2の直噴インジェクタ3から噴射させるとともに、改質用インジェクタ32による燃料噴射を停止する。
【0053】
続くステップS5において、ECU50は、各気筒2に導入される吸気(新気およびEGRガス)に対するEGRガスの割合であるEGR率が、必要な燃焼安定性が確保される範囲で最大になるように、EGR弁31、発電タービン25、および送気コンプレッサ35を制御する。すなわち、気筒2への供給燃料が全て直噴インジェクタ3からのもの(つまり改質されていない燃料)である場合に設定し得るEGR率の上限は、燃焼安定性を損なわないことを条件として運転条件ごとに予め定めることができる。ECU50には、このようなEGR率の上限(全て直噴とした場合に設定可能なEGR率の上限)が運転条件ごとに予め記憶されている。ECU50は、この記憶された上限のEGR率が実現されるように、EGR弁31の開度を全閉を除く開度範囲(中間開度から全開までの範囲)内で調整するとともに、必要に応じ送気コンプレッサ35を駆動してEGR通路30に排気ガス(EGRガス)を吸い込む。なお、送気コンプレッサ35の駆動時には、当該送気コンプレッサ35で消費される電力の少なくとも一部が発電タービン25(発電機28)による発電電力で賄われるように発電タービン25を作動させてもよい。
【0054】
図4および図5は、上記ステップS3の改質制御の詳細を示すサブルーチンである。図4に示す制御がスタートすると、ECU50は、EGR弁31を全開位置まで開く(ステップS10)。言い換えると、改質制御では、EGR率を調整する手段としてEGR弁31は基本的に使用されない。EGR率は、後述する送気コンプレッサ35および発電タービン25の作動により生じる圧力差(吸気通路10と排気通路20との圧力差)に基づき制御される。なお、送気コンプレッサ35および発電タービン25の作動だけでは所望の圧力差を生成できない可能性もあるが、そのような場合には例外的にEGR弁31の開度を低下させる制御が実行されるものとする。
【0055】
次いで、ECU50は、EGR率(吸気に対するEGRガスの割合)の目標値である目標EGR率を取得する(ステップS11)。目標EGR率は、エンジンの運転条件(負荷および回転数)ごとに異なる値をとるように、例えばマップ形式で予め定められている。ECU50は、アクセルセンサSN5の検出値等から特定されるエンジン負荷と、クランク角センサSN1の検出値から特定されるエンジン回転数とに基づいて、現在の運転条件に適合する目標EGR率を決定する。
【0056】
図6は、エンジン負荷と目標EGR率との関係を概略的に示すグラフである。このグラフに示すように、目標EGR率は、エンジン負荷が高いほど大きくなるように定められている。このような目標EGR率の傾向は、燃料改質触媒33での効率的な燃料改質を目指して定められたものである。
【0057】
図7は、上述した目標EGR率の傾向を定める基礎となった燃料改質率の特性を示すグラフである。燃料改質率とは、改質用インジェクタ32から噴射される噴射の総量のうち燃料改質触媒33で改質される燃料の割合のことである。図7に示すように、EGR率以外の条件(負荷、回転数、触媒温度など)が同一である場合、燃料改質率は、EGR率に応じて増減する。すなわち、燃料改質率は、EGR率が所定値Rxであるときに最大になり、所定値Rxに対し増大方向および減少方向のいずれに変化しても低下する。EGR率が所定値Rxに対し増大するほど燃料改質率が低下するのは、EGRガスの温度低下が原因である。具体的に、EGR率が所定値Rxよりも大きくなると、気筒2での燃焼温度が有意に低下し、排気ガスひいてはEGRガスの温度が低下する。これにより、燃料改質触媒33の温度が低下し、燃料改質触媒33の活性が相対的に低下する結果、燃料改質率が低下する。また、EGR率が所定値Rxに対し減少するほど燃料改質率が低下するのは、燃料の気化率の低下が原因である。具体的に、EGR率が所定値Rxよりも小さくなると、EGR通路30を流通するEGRガスの流量が有意に減少し、改質用インジェクタ32から噴射された燃料のうちEGRガス中で気化する燃料の割合(気化率)が低下する。これにより、燃料改質触媒33に十分に微粒化した状態で導入される燃料の量が減少する結果、燃料改質率が低下する。
【0058】
以上のとおり、EGR率に対する燃料改質率の変化特性(図7)は、特定のEGR率(所定値Rx)において燃料改質率が最大になる山型の特性になる。そして、本願発明者の研究による知見として、燃料改質率が最大になるEGR率(所定値Rx)は、エンジン負荷が高いほど大きくなることが分かっている。そこで、当実施形態では、各運転条件において可及的に高い燃料改質率が得られるように(つまり図7の所定値Rxに対応する燃料改質率が得られるように)、目標EGR率が高負荷側ほど大きい値に設定されている。なお、目標EGR率はエンジン回転数によっても変動し得るが、ここではその傾向についての説明は省略する。
【0059】
次いで、ECU50は、EGR通路30を流通するEGRガスの流量(EGRガス流量)を算出する(ステップS12)。EGRガス流量は種々の方法で算出可能であるが、一例として、ECU50は、各気筒2に導入される吸気(新気およびEGRガス)の量を現在のエンジンの運転条件から推定するとともに、推定した吸気量からエアフローセンサSN2により検出される新気の流量を減じた値を、EGRガス流量として算出する。
【0060】
次いで、ECU50は、改質用インジェクタ32から噴射すべき燃料の量である改質用燃料噴射量を決定する(ステップS13)。なお、ここでいう改質用燃料噴射量とは、エンジン本体1の各気筒2で繰り返される燃焼に供するべく改質用インジェクタ32から断続的に噴射される燃料の1回あたりの噴射量のことである。すなわち、改質用インジェクタ32は、当該インジェクタ32から噴射された燃料が各気筒2の吸気行程中に各気筒2にそれぞれ到達するように、各気筒2の吸気行程にリンクした適宜のタイミングで燃料を繰り返し噴射する。上記ステップS13における改質用燃料噴射量とは、このように改質用インジェクタ32から断続的に噴射される燃料の1回あたりの噴射量のことである。
【0061】
上記ステップS13において、改質用燃料噴射量は、触媒温度センサSN4により検出される触媒入口温度(燃料改質触媒33の入口部の温度)と、上記ステップS12で算出されたEGRガス流量とをパラメータとしたマップに基づき決定される。図8は、このマップの傾向を概略的に示すグラフであり、グラフ(a)は触媒入口温度と改質用燃料噴射量との関係を、グラフ(b)はEGRガス流量と改質用燃料噴射量との関係をそれぞれ示している。図8のグラフ(a)に示すように、改質用燃料噴射量は、触媒入口温度が上述した閾値Tzに対し増大するほど多くなるように設定される。また、図8のグラフ(b)に示すように、改質用燃料噴射量は、EGRガス流量が増大するほど多くなるように設定される。なお、触媒入口温度と噴射量との関係を規定するグラフ(a)において、EGRガス流量は0より大きい値で一定であるものとし、EGRガス流量と噴射量との関係を規定するグラフ(b)において、触媒入口温度は閾値Tzより高い値で一定であるものとする。
【0062】
上記のような傾向で改質用燃料噴射量が決定されるのは、触媒出口温度(燃料改質触媒33の出口部の温度)が活性温度を下回らないようにするためである。すなわち、燃料改質触媒33で燃料を改質させる反応は吸熱反応であるため、触媒出口温度は触媒入口温度よりも低下する。このため、むやみに多くの燃料を燃料改質触媒33に導入すると、触媒出口温度が活性温度(例えば約500℃)を下回り、同触媒33での燃料改質率が低下するおそれがある。逆に言えば、触媒入口温度が活性温度に比して高いほど、触媒出口温度が活性温度を下回らない条件で燃料改質触媒33に導入し得る燃料量は多くなる。また、EGRガスは高温であるため、EGRガス流量が多いほど燃料改質触媒33の保温が図られ、その温度低下が抑制される。このため、EGRガス流量が多いほど、触媒出口温度が活性温度を下回らない条件で燃料改質触媒33に導入し得る燃料量は多くなる。図8のグラフ(a)(b)に示した改質用燃料噴射量の傾向は、このような観点から定められたものである。すなわち、当実施形態では、触媒出口温度が活性温度を下回らない範囲でできるだけ多くの燃料を燃料改質触媒33に導入して改質するべく、改質用燃料噴射量が触媒入口温度およびEGRガス流量に応じて可変的に(各パラメータに比例するように)設定される。
【0063】
上記のようにして改質用燃料噴射量が決定されると、ECU50は、エンジン本体1の各気筒2に各直噴インジェクタ3から噴射すべき燃料の量である直噴燃料量を決定する(ステップS14)。具体的に、直噴燃料量は、上記ステップS1においてエンジンの運転条件(負荷および回転数)に応じて決定された総燃料量、つまり現運転条件に適合したトルクを発生させるために各気筒2に噴射すべき燃料の量(所要燃料量)と、上記ステップS13で決定された改質用燃料噴射量とに基づき算出される。例えば、直噴燃料量をF1、改質用燃料噴射量をF2、各気筒2の総燃料量をF0としたとき、直噴燃料量F1は、総燃料量F0から改質用燃料噴射量F2を減じた値(F0-F2)として算出することができる。
【0064】
ここで、改質用燃料噴射量は、上述したとおり、触媒入口温度およびEGRガス流量に応じて変動するので、直噴燃料量も触媒入口温度およびEGRガス流量に応じて変動する。言い換えると、直噴燃料量と改質用燃料噴射量との比率(燃料割合)は、触媒入口温度およびEGRガス流量に応じて変動する。図9は、燃料割合と触媒入口温度との関係を示すグラフである。このグラフにおいて、「直噴インジェクタ分担率」とは、総燃料量に対し直噴インジェクタ3からの噴射燃料が占める割合のことであり、「改質用インジェクタ分担率」とは、総燃料量に対し改質用インジェクタ32からの噴射燃料が占める割合のことである。図9に示すように、触媒入口温度が閾値Tz以下のとき、総燃料量はその全部(100%)が直噴インジェクタ3からの噴射燃料(直噴燃料量)によって賄われる。これに対し、触媒入口温度が閾値Tzを超えると、当該閾値Tzに対する超過量が大きくなるほど改質用インジェクタ32からの噴射燃料(改質用燃料噴射量)が占める割合が増大し、最大で100%に達する。このように、直噴燃料量および改質用燃料噴射量の割合は、触媒入口温度が高くなるほど改質用燃料噴射量の割合が大きくなるように調整される。また、図示は省略するが、同割合はEGRガス流量によっても変化し、EGRガス流量が多くなるほど改質用燃料噴射量の割合が大きくなるように調整される。なお、上記ステップS13,S14の前提として、触媒入口温度は閾値Tzを超えているから、ここでの改質用燃料噴射量の割合(改質用インジェクタ分担率)は、少なくとも0%よりは大きい値に設定され、最大で100%まで上昇し得る。
【0065】
次いで、ECU50は、上記ステップS13,S14で決定された各噴射量に従って改質用インジェクタ32および直噴インジェクタ3に燃料を噴射させる(ステップS15)。すなわち、ECU50は、上記ステップS13で決定された改質用燃料噴射量に相当する量の燃料が改質用インジェクタ32から噴射されるように同インジェクタ32を制御するとともに、上記ステップS14で決定された直噴燃料量に相当する量の燃料が直噴インジェクタ3から噴射されるように同インジェクタ3を制御する。
【0066】
次いで、ECU50は、図5のステップS21に移行して、排気通路20を流通する排気ガスの温度(排ガス温度)の基準値である基準温度Trを決定する。基準温度Trは、上記ステップS11で取得された目標EGR率が達成されている場合に想定される排ガス温度のことであり、図10に示すような傾向で定められる。すなわち、エンジンの運転条件(負荷および回転数)が同一であると仮定すれば、気筒2での燃焼温度はEGR率が大きくなるほど低下する傾向にあるので、目標EGR率が達成されているときの排ガス温度は、目標EGR率が大きくなるほど低下するはずである。そして、目標EGR率が達成されているときの排ガス温度は、エンジンの運転条件(負荷および回転数の組合せ)ごとに、数値シミュレーションや実験等によって予め知ることができる。ステップS21では、この既知のデータに基づき予め定められたマップまたはモデル式を用いて、現在の運転条件下で目標EGR率(上記ステップS11で取得された目標EGR率)が達成されているときの排ガス温度が求められ、当該排ガス温度が基準温度Trとして決定される。
【0067】
次いで、ECU50は、上記ステップS21で決定された基準温度Trと、排ガス温度センサSN3により検出される排ガス温度Texとに基づいて、前者から後者を減じた値である温度偏差(Tr-Tex)を算出するとともに、この温度偏差が予め定められた閾値α以下であるか否かを判定する(ステップS22)。閾値αは0より大きい値(例えば基準温度Trの5~10%に相当する値)であり、温度偏差がこの閾値αよりも大きいということは、実際の排ガス温度Texが基準温度Tr(目標EGR率が達成されている場合に想定される温度)を比較的大きく下回っていることを意味する。ここで、排ガス温度はEGR率に反比例するから(図10参照)、排ガス温度が想定よりも低いのであれば、EGR率の実際値である実EGR率が目標EGR率よりも大きい状況にあるはずである。言い換えると、温度偏差(Tr-Tex)が閾値αよりも大きいということは、実EGR率が目標EGR率を有意に上回る(EGRガスの流量が過剰である)EGR過剰が起きていることを意味する。
【0068】
上記ステップS22でNOと判定されてEGR過剰が起きていないことが確認された場合、ECU50は、送気コンプレッサ35の回転数および発電タービン25の発電量を現在のエンジンの運転条件(負荷および回転数)に応じた基本値に設定する通常制御を実行する。この通常制御は、次のステップS23,S24を含む。
【0069】
まずステップS23において、ECU50は、送気コンプレッサ35(コンプレッサインペラ37)の回転数が現在のエンジンの運転条件に応じて定まる基本回転数になるように送気コンプレッサ35を制御する。すなわち、目標EGR率に相当する量のEGRガスを吸気通路10に送り込むための送気コンプレッサ35の回転数は、エンジンの運転条件(負荷および回転数の組合せ)ごとに、数値シミュレーションや実験等によって予め知ることができる。ステップS23では、この既知のデータに基づいて予め定められたマップまたはモデル式を用いて、現在の運転条件下で目標EGR率(上記ステップS11で決定された目標EGR率)を達成するための送気コンプレッサ35の回転数が基本回転数として求められ、この基本回転数に一致する回転数でコンプレッサインペラ37が回転するように送気コンプレッサ35のモータ38が制御される。
【0070】
続くステップS24において、ECU50は、発電タービン25の発電量が現在のエンジンの運転条件に応じて定まる基本発電量になるように発電タービン25を制御する。基本発電量は、送気コンプレッサ35が上述した基本回転数で回転している場合に当該送気コンプレッサ35で消費される消費電力をやや上回るような値に設定される。これは、送気コンプレッサ35の駆動によりバッテリ40の充電量が減少するのを確実に防止するためである。ステップS24では、このような要求に基づく基本発電量がマップまたはモデル式を用いて求められ、この基本発電量に一致する電力が発電されるように発電タービン25の発電機28が制御される。
【0071】
次に、上記ステップS22でNOと判定された場合、つまりEGR過剰が起きている場合の制御について説明する。この場合、ECU50は、送気コンプレッサ35の回転数および発電タービン25の発電量をともに低下させるEGR抑制制御を実行する。このEGR抑制制御は、次のステップS25,S26を含む。
【0072】
まずステップS25において、ECU50は、上述したステップS23のときと同様、送気コンプレッサ35(コンプレッサインペラ37)の回転数が基本回転数になるように送気コンプレッサ35を制御する。ただし、上述したとおり、基本回転数は現在の運転条件下で目標EGR率を達成するのに必要な回転数であるから、当該基本回転数に送気コンプレッサ35の回転数を一致させるステップS25の制御によって、送気コンプレッサ35の回転数は低下することになる。すなわち、ステップS25の前提として、排気ガスの温度偏差(Tr-Tex)が閾値αを超える(言い換えると実EGR率が目標EGR率を有意に上回る)EGR過剰が起きているので、この状態でステップS25の制御が実行されることにより、相対的に低い目標EGR率に対応する基本回転数に合わせて送気コンプレッサ35が制御される結果、その回転数がEGR過剰が起きる直前に比べて低下する。
【0073】
続くステップS26において、ECU50は、発電タービン25の発電量が排気ガスの温度偏差(Tr-Tex)に応じた値になるように発電タービン25の発電量をフィードバック制御する。具体的に、ECU50は、上記温度偏差が閾値αに対し大きいほど発電タービン25の発電量が大きく低下するように、いわゆるPID制御によって発電タービン25の発電量を調整する。PID制御とは、周知のとおり、出力値とその目標値との比較に基づき入力値を制御するフィードバック制御の一種であり、出力値と目標値との偏差、その積分および微分の3要素に基づいて入力値を決定する制御のことである。このPID制御により、ステップS26では、EGR過剰(Tr-Tex>α)が確認された直後において大きく発電量が低下し、かつその後は当該発電量の低下幅が徐々に(排ガス温度Texが基準温度Trに近づくにつれて)縮小するように、発電タービン25の発電機28が制御される。
【0074】
上記のとおり、EGR抑制制御(S25,S26)が実行されると、送気コンプレッサ35の回転数および発電タービン25の発電量が、それぞれ同制御の実行前に比べて低下する。このことは、送気コンプレッサ35によるEGR通路30への排気ガスの吸い込み力の低下と、発電タービン25による排気通路20内の排気ガスの流通抵抗の低下とをもたらし、これによってEGR率が低下する。
【0075】
図11は、図4および図5に示した改質制御が実行された場合の各種状態量の時間変化の一例を示すタイムチャートであり、チャート(a)はEGR率の変化を、チャート(b)は排ガス温度の変化を、チャート(c)は発電タービン25の発電量の変化を、チャート(d)は送気コンプレッサ35の回転数の変化を、それぞれ示している。
【0076】
図11のチャート(a)に示すように、時点t1から時点t2までの期間において、目標EGR率(一点鎖線)はV1で一定であるものとする。これにより、実EGR率(実線)は、同期間中の目標EGR率(=V1)に略一致する値で推移する。
【0077】
同じく時点t1から時点t2までの期間において、排ガス温度Texは基準温度Trに略一致する値で推移する(チャート(b)参照)。すなわち、時点t1から時点t2までの期間中、目標EGR率と実EGR率とは略一致するから、実EGR率が達成されている場合に想定される排ガス温度(つまり基準温度Tr)と実際の排ガス温度Texとは自ずと略一致する。なお、チャート(b)において基準温度Trに相当する一点鎖線のラインの下側に表記される破線のラインは、基準温度Trに対し閾値αだけ低い温度を表している。言い換えると、排ガス温度Texが破線のラインに一致もしくはこれより上側に位置することは、基準温度Trから排ガス温度Texを減じた温度偏差(Tr-Tex)が閾値α以下であることを意味し、排ガス温度Texが破線のラインよりも下側に位置することは、温度偏差が閾値αを超えることを意味する。
【0078】
チャート(b)から明らかなように、時点t1から時点t2までの期間、上記温度偏差(Tr-Tex)は閾値α以下である。このため、同期間(t1~t2)中は通常制御が実行される。すなわち、発電タービン25の発電量および送気コンプレッサ35の回転数が、目標EGR率R1(=V1)に対応する基本発電量G1および基本回転数N1にそれぞれ設定される(チャート(c)(d)参照)。
【0079】
時点t2において、目標EGR率はV1からV2まで低下する(チャート(a)参照)。この目標EGR率の急減により、時点t2以降、実EGR率が目標EGR率を有意に上回るEGR過剰が発生する。また、このEGR過剰により、排ガス温度Texが基準温度Trを有意に下回り、両者の温度偏差(Tr-Tex)が閾値αよりも大きくなる(チャート(b)参照)。これにより、時点t2以降、制御はEGR抑制制御に移行する。すなわち、発電タービン25の発電量が温度偏差(Tr-Tex)に応じたフィードバック制御値である発電量G2aに設定されるとともに(チャート(c)参照)、送気コンプレッサ35の回転数が低下後の目標EGR率R1(=V2)に応じた基本回転数N2に設定される(チャート(d)参照)。低下後の目標EGR率R1(=V2)に応じて定まる基本発電量をG2とすると、フィードバック制御による発電タービン25の発電量G2aは、基本発電量G2よりも小さい値に設定される。また、時点t2以降、温度偏差(Tr-Tex)は時間経過ととともに小さくなるから、これに応じて基本発電量G2に対する発電量G2aの低下幅は漸減する。
【0080】
時点t2より遅れた時点t3において、排ガス温度Texが基準温度Trに近づき、両者の温度偏差(Tr-Tex)が閾値α以下になるまで縮小する。これにより、時点t3移行、制御は通常制御に移行する。すなわち、発電タービン25の発電量および送気コンプレッサ35の回転数が、低下後の目標EGR率R1(=V2)に対応する基本発電量G2および基本回転数N2にそれぞれ設定される(チャート(c)(d)参照)。
【0081】
(4)作用
以上説明したとおり、当実施形態では、EGR通路30に燃料改質触媒33が設けられるとともに、改質用インジェクタ32からEGR通路30に噴射された燃料を燃料改質触媒33に導入可能であるため、当該燃料改質触媒33での吸熱反応により燃料を改質することができ、EGRガス(排気ガス)の熱を利用して燃焼性を改善することができる。これにより、エンジンからの排出熱を出力に還元する排熱回収が行われたのと同様の効果を得ることができ、エンジンの燃費性能を向上させることができる。また、排気通路20に発電タービン25が設けられるので、排気ガスのエネルギーの一部を電力として回収することができる。このことは、燃料改質触媒33での吸熱反応による燃料改質の効果(燃焼性の改善)と相俟って、エンジンから排出熱を出力に還元する排熱回収の効率を高めるので、エンジンの燃費性能を十分に向上させることができる。
【0082】
また、上記のように燃料改質触媒33に燃料を導入する制御(改質制御)の実行中に、EGRガスの流量が過剰であること、つまり実EGR率が目標EGR率を有意に上回るEGR過剰が起きていることが確認された場合には、発電タービン25の発電量を低下させる操作を含むEGR抑制制御(ステップS25,S26)が実行されるので、EGR過剰を速やかに解消して燃料改質のための適切なEGRガス量を確保することができる。すなわち、発電タービン25の発電量の低下(これによるタービンインペラ27の回転抵抗の低下)により排気通路20内の排気ガスの流通抵抗が低下し、排気通路20の圧力である排圧が低下するので、排気通路20からEGR通路30への排気ガスの分流を抑制することができ、EGR過剰を速やかに解消することができる。このように、当実施形態では、EGR過剰に陥ってもこれを速やかに解消できるので、燃料改質触媒33に導入されるEGRガスの流量を精度よく調整することができ、当該調整に基づく良好な燃料の改質性能を得ることができる。
【0083】
ここで、EGR過剰を解消させる他の方法として、EGR弁31の開度を低下させることが考えられる。しかしながら、EGR弁31の開度低下は、吸気通路10と排気通路20との圧力差を拡大させ、ポンピングロスの増大につながると考えられる。これに対し、上記実施形態では、EGR過剰の解消のために発電タービン25の発電量が低くされるので、吸気通路10と排気通路20との圧力差、ひいてはポンピングロスをむしろ低減することができ、良好な燃費性能を確保しつつEGR過剰を解消することができる。
【0084】
また、上記実施形態では、EGR通路30に送気コンプレッサ35が設けられるので、送気コンプレッサ35の回転制御によってEGR通路30への排気ガスの吸い込み力を調整することができ、燃料改質触媒33に燃料とともに導入されるEGRガスの流量を、運転条件に応じた適切な値に調整することができる。しかも、EGR過剰が発生したときには、上述した発電タービン25の発電量の低下と併せて、送気コンプレッサ35の回転数を低下される制御が実行されるので、EGR過剰をより迅速に解消することができる。すなわち、送気コンプレッサ35の回転数の低下によりEGR通路30への排気ガスの吸い込み力が低下し、かつ発電タービン25の発電量の低下により排気通路20内の排気ガスの流通抵抗(ひいては排圧)が低下するので、これら2つの作用によって排気通路20からEGR通路30への排気ガスの分流を十分に抑制することができ、EGR過剰をより迅速に解消することができる。
【0085】
また、上記実施形態では、目標EGR率が達成されている場合に想定される排気ガスの温度である基準温度Trから、排ガス温度センサSN3により検出される排ガス温度Texを減じた温度偏差(Tr-Tex)が算出されるとともに、算出された当該温度偏差が所定の閾値αを超えたことが確認された場合に、EGR過剰が起きている(EGR抑制制御が必要である)と判定されるので、EGR率が高いほど排ガス温度が低下する傾向にあることを利用して、EGR過剰の有無(EGR抑制制御の要否)を簡単かつ適切に判断することができる。
【0086】
特に、上記実施形態では、EGR抑制制御の際に、上記温度偏差(Tr-Tex)が閾値αに対し大きいほど発電タービン25の発電量が大きく低下するように当該発電量がフィードバック制御されるので、温度偏差の変化(換言すればEGR率の過剰度合いの変化)に応じた適切な発電量の調整によりEGR過剰を速やかに解消することができる。
【0087】
(5)変形例
上記実施形態では、排ガス温度センサSN3により検出される排ガス温度Texに基づいてEGR過剰の有無(EGR抑制制御の要否)を判定するようにしたが、EGR過剰を判定する方法はこれに限られない。例えば、各種センサによる検出値等に基づいて、実EGR率(EGR率の実際値)から目標EGR率(EGR率の目標値)を減じた値である過剰EGR率を逐次算出するとともに、算出した当該過剰EGR率が所定の閾値よりも大きいことが確認された場合に、EGR過剰が起きている(EGR抑制制御が必要である)と判定してもよい。この場合において、実EGR率は、例えば、各気筒2に導入される吸気(新気およびEGRガス)の量を現在のエンジンの運転条件から推定した上で、推定した吸気量とエアフローセンサSN2による新気流量の検出値とに基づき算出することができる。あるいは、EGR通路30を流通するEGRガスの流量を検出するセンサを設け、当該センサによる検出値に基づき実EGR率を算出することも可能である。
【0088】
上記実施形態では、EGR過剰の発生時に発電タービン25と送気コンプレッサ35との双方を用いてEGRを抑制するようにしたが、送気コンプレッサ35は必須ではなく、省略してもよい。さらに、発電タービン25に代えて、図12に示す排気シャッター弁60を排気通路20に設けてもよい。排気シャッター弁60は、その開度によって排圧(排気通路20内の圧力)を調整することが可能であり、発電タービン25と同様、排圧調整装置としての機能を有する。排気シャッター弁60を用いる場合には、EGR過剰の発生時に排気シャッター弁60の開度を増大方向に制御するとよい。これにより、排圧を低下させてEGRを抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0089】
1 :エンジン本体
10 :吸気通路
20 :排気通路
25 :発電タービン(排圧調整装置)
30 :EGR通路
32 :改質用インジェクタ
33 :燃料改質触媒
50 :ECU(コントローラ)
60 :排気シャッター弁(排圧調整装置)
SN3 :排ガス温度センサ(温度センサ)
α :(温度偏差の)閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12