(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 13/00 20060101AFI20240509BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B60C13/00 G
B60C15/06 B
B60C15/06 H
(21)【出願番号】P 2020117867
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】八尾 優廣
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-147483(JP,A)
【文献】特開2002-160510(JP,A)
【文献】特開2020-093691(JP,A)
【文献】特開2005-007959(JP,A)
【文献】特開2017-137007(JP,A)
【文献】特開2005-059802(JP,A)
【文献】特開平11-348515(JP,A)
【文献】特開平06-127220(JP,A)
【文献】特開2016-147567(JP,A)
【文献】特開2018-039276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
トレッド部、一対のサイドウォール部、それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部、及び、トロイド状のカーカスを含み、
前記カーカスは、少なくとも1枚の折返しプライを含み、
前記折返しプライは、前記ビードコアの間をトロイド状に延びる本体部と、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された一対の折返し部とを含み、
前記一対のビード部のそれぞれには、前記折返しプライの前記本体部と前記折返し部との間を前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に延びるインナーエーペックスゴムと、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に隣接するアウターエーペックスゴムとが設けられ、
前記インナーエーペックスゴムのタイヤ半径方向の高さが18~30mmであり、
タイヤ最大径の位置からタイヤ半径方向内側にタイヤ断面高さの23%を隔てた位置P1でのタイヤ外面から前記カーカスまでの最短距離であるバットレス厚さDと、
タイヤ最大幅の位置でのタイヤ外面から前記カーカスまでの最短距離である最大幅厚さEと、
ビードベースラインからタイヤ半径方向外側に25mmを隔てた位置P2でのタイヤ外面から前記カーカスまでの最短距離であるビード厚さFとが、以下の関係(1)~(4)を満足する、
空気入りタイヤ。
E≧4.5mm …(1)
F≧9.0mm …(2)
E/D=0.6~0.9 …(3)
F/E=1.7~2.2 …(4)
【請求項2】
前記アウターエーペックスゴムは、損失正接tanδが0.13以下のゴム組成物からなる、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記アウターエーペックスゴムは、複素弾性率E*が23MPa以上のゴム組成物からなる、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記アウターエーペックスゴムの厚さが0.5mm以上である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記アウターエーペックスゴムは、前記位置P2から前記タイヤ最大幅の位置までのタイヤ半径方向領域の50%以上に亘って配されている、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記折返しプライの前記本体部と前記折返し部との間には、インスレーションゴムが配されている、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記インスレーションゴムの厚さが0.5mm以上である、請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記インスレーションゴムの複素弾性率と、折返しプライのトッピングゴムの複素弾性率との差が2MPa以下である、請求項6又は7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記折返しプライの前記折返し部のビードベースラインからの高さは、タイヤ断面高さの50%以上である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記アウターエーペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記折返し部のタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の内側に位置する、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記アウターエーペックスゴムの前記外端と、前記折返し部のタイヤ半径方向の外端との間のタイヤ半径方向距離は、5mm以上である、請求項10に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
小型トラック用タイヤである、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ビード部に、フィラーコードを配列したフィラーを備えた空気入りタイヤが記載されている。また、下記特許文献2には、ビード部に、ゴムからなるフィラーが配された空気入りタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-147567号公報
【文献】特開2018-39276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気入りタイヤには、タイヤ交換時等、ホイールリムからの取り外し容易性が求められる。しかしながら、特許文献1のタイヤでは、コードを有するフィラーによってビード部の曲げ剛性が過度に高められ、ホイールリムからの取り外しが困難である。
【0005】
他方、特許文献2の空気入りタイヤは、ホイールリムからの取り外し性については改善されているが、レーンチェンジ時のふらつきや、耐久性、特にフィラーの外端よりもタイヤ半径方向外側での耐久性について、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、リムからの取り外し性を損なわずに、操縦安定性及び耐久性を向上しうる空気入りタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、空気入りタイヤであって、トレッド部、一対のサイドウォール部、それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部、及び、トロイド状のカーカスを含み、前記カーカスは、少なくとも1枚の折返しプライを含み、前記折返しプライは、前記ビードコアの間をトロイド状に延びる本体部と、前記ビードコアの周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された一対の折返し部とを含み、前記一対のビード部のそれぞれには、前記折返しプライの前記本体部と前記折返し部との間を前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に延びるインナーエーペックスゴムと、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に隣接するアウターエーペックスゴムとが設けられ、前記インナーエーペックスゴムのタイヤ半径方向の高さが18~30mmであり、タイヤ最大径の位置からタイヤ半径方向内側にタイヤ断面高さの23%を隔てた位置P1でのタイヤ外面から前記カーカスまでの最短距離であるバットレス厚さDと、タイヤ最大幅の位置でのタイヤ外面から前記カーカスまでの最短距離である最大幅厚さEと、ビードベースラインからタイヤ半径方向外側に25mmを隔てた位置P2でのタイヤ外面から前記カーカスまでの最短距離であるビード厚さFとが、以下の関係(1)~(4)を満足する、空気入りタイヤである。
E≧4.5mm …(1)
F≧9.0mm …(2)
E/D=0.6~0.9 …(3)
F/E=1.7~2.2 …(4)
【0008】
本発明の他の態様では、前記アウターエーペックスゴムは、損失正接tanδが0.13以下のゴム組成物で形成されても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記アウターエーペックスゴムは、複素弾性率E*が23MPa以上のゴム組成物で形成されても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記アウターエーペックスゴムの厚さが0.5mm以上であっても良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記アウターエーペックスゴムは、前記位置P2から前記タイヤ最大幅の位置までのタイヤ半径方向領域の50%以上に亘って配されていても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記折返しプライの前記本体部と前記折返し部との間には、インスレーションゴムが配されていても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記インスレーションゴムの厚さが0.5mm以上であっても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記インスレーションゴムの複素弾性率と、折返しプライのトッピングゴムの複素弾性率との差が2MPa以下であっても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記折返しプライの前記折返し部のビードベースラインからの高さは、タイヤ断面高さの50%以上であっても良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記アウターエーペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記折返し部のタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の内側に位置しても良い。
【0017】
本発明の他の態様では、前記アウターエーペックスゴムの前記外端と、前記折返し部のタイヤ半径方向の外端との間のタイヤ半径方向距離は、5mm以上であっても良い。
【0018】
本発明の他の態様では、前記空気入りタイヤは、小型トラック用タイヤであっても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の空気入りタイヤは、リムからの取り外し性を損なわずに、操縦安定性及び耐久性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤの断面図である。
【
図3】
図2のタイヤ最大幅付近の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤ1の断面図が示されている。
図2は、
図1の右半分を拡大して示す要部拡大図である。
【0022】
[空気入りタイヤの正規状態]
図1及び2には、空気入りタイヤ1の正規状態が示されている。空気入りタイヤ1の正規状態とは、空気入りタイヤ1の姿勢を一義的に定めるものであって、空気入りタイヤ1が、正規内圧で正規リム(図示省略)に装着された無負荷の状態として定義される。以下、本明細書において特に言及されていない場合、空気入りタイヤ1の各部の寸法等は、この正規状態において測定された値として理解される。
【0023】
また、本明細書において、正規リムとは、空気入りタイヤ1の性能を有効に発揮させるのに適したリム幅を有するリムをいう。具体的には、「正規リム」は、JATMAであれば「標準リム」、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"のように、空気入りタイヤ1が基づいている規格ごとにそれぞれ特定され得る。
【0024】
「正規内圧」とは、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"とされる。
【0025】
[タイヤ基本構造]
図1及び
図2に示されるように、空気入りタイヤ1は、トレッド部2、一対のサイドウォール部3、それぞれにビードコア5が埋設された一対のビード部4、及び、トロイド状のカーカス6を含んで構成されている。なお、カーカス6の内側には、空気を保持するためのインナーライナーゴム10が配されている。
【0026】
本実施形態では、空気入りタイヤ1として、タイヤ断面高さHが比較的大きく、かつ、使用荷重も比較的大きい小型トラック用タイヤが例示されている。小型トラック用タイヤは、例えば、JATMA YEAR BOOKのB章に規定されている。
【0027】
[トレッド部]
トレッド部2は、タイヤが走行する際に、地面と接触することになる接地面2aを画定する部分である。本実施形態のトレッド部2は、接地面2aを構成するトレッドゴム20を備える。また、トレッド部2には、トレッドゴム20とカーカス6との間に、ベルト層7が配されている。
【0028】
接地面2aは、正規状態の空気入りタイヤ1をキャンバー角0°で平面に接地させ、かつ、正規荷重を負荷したときに、トレッド部2が接地する面を意味する。また、本明細書において、「正規荷重」とは、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"とされる。
【0029】
[ベルト層]
ベルト層7は、例えば、スチールコードを配列した複数枚(本実施形態では2枚)のベルトプライ7A、7Bで構成されている。ベルトプライ7A、7Bは、タイヤ赤道面Cに対して、例えば15~35°の角度で配向された複数のベルトコードを備える。ベルトコードとしては、スチールコードが好適である。また、ベルトプライ7A及び7Bは、各々のベルトコードが互いに交差するように重ね合わされている。このようなベルト層7は、トレッド部2の曲げ剛性や捻れ剛性などを高める。
【0030】
[サイドウォール部]
サイドウォール部3は、トレッド部2の両端からタイヤ半径方向の内側に延びており、タイヤの側壁部分を構成している。本実施形態のサイドウォール部3は、主に、カーカス6と、そのタイヤ軸方向の外側に配されたサイドウォールゴム30とを含んで構成されている。サイドウォールゴム30のタイヤ半径方向の外端は、例えば、トレッドゴム20のタイヤ半径方向の内側面20iまで延びている。なお、符号60は、ベルトクッションゴムである。また、サイドウォールゴム30のタイヤ半径方向の内端は、ビード部4まで延びている。
【0031】
サイドウォールゴム30は、耐外傷性や屈曲性に優れたゴム組成物からなる。好ましい態様では、サイドウォールゴム30は、例えば、複素弾性率E*が3.0~4.0MPa程度のゴム組成物から形成される。
【0032】
本明細書において、ゴム組成物の粘弾性特性(複素弾性率E*及び損失正接tanδ)は、JIS K6394の規定に準拠し、粘弾性スペクトロメーターを用いて下記の条件にて測定されるものとする。
初期歪み:10%
振幅:±1%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:70℃
【0033】
[ビード部]
ビード部4は、それぞれのサイドウォール部3のタイヤ半径方向の内端側に形成され、空気入りタイヤ1をホイールリム(図示省略)に装着するための部分である。ビード部4には、例えば、スチールワイヤ等からなる非伸長性のビードコア5が埋設されている。また、ビード部4のタイヤ軸方向の外側面のリムと接触する部分には、硬質のゴムからなるクリンチゴム40が配されている。また、ビード部4のリムシートと接触する部分には、硬質のゴムからなるチェーファゴム41が配されている。
【0034】
[カーカス]
本実施形態において、カーカス6は、少なくとも1枚の折返しプライ6Aを含む。本実施形態のカーカス6は、例えば、複数枚(本実施形態では2枚)の折返しプライ6Aを含む。他の実施形態では、カーカス6は、折返しプライ6Aと、非折返しプライ(図示省略)とを組み合わせて構成されても良い。
【0035】
各折返しプライ6Aには、例えば、長手方向に引き揃えられた複数のカーカスコードをトッピングゴムで被覆したコードプライが用いられる。前記カーカスコードとしては、例えば、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、ポリエチレンテレフタレート等の有機繊維コードが採用されても良い。また、カーカスコードには、必要に応じて、スチールコードが採用されても良い。
【0036】
各折返しプライ6Aは、ビードコア5、5の間をトロイド状に延びる本体部6aと、ビードコア5の周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された一対の折返し部6bとを含んでいる。また、各折返しプライ6Aのカーカスコードは、例えば、タイヤ赤道に対して80~90°の角度で配向される。すなわち、本実施形態のカーカス6は、ラジアル構造である。
【0037】
折返しプライ6Aの折返し部6bのビードベースラインBLからの高さは、例えば、タイヤ断面高さHの50%以上であるのが望ましい。このように折返し部6bは、ビード部4のみならず、サイドウォール部3をも補強することができ、操縦安定性の向上に役立つ。なお、折返しプライ6Aが複数枚ある場合、折返し部6bの高さは、最も高い折返し部によって特定される。
【0038】
本明細書において、「ビードベースライン」とは、正規リムのリム径の位置を通るタイヤ軸方向線を意味する。また、本明細書において、「タイヤ断面高さ」とは、ビードベースラインからタイヤ最大径位置までのタイヤ半径方向の距離である。なお、タイヤ最大径の位置Hmaxは、トレッド部2の接地面2aのプロファイルに基づいて決定されるところ、トレッド部2に溝等の凹みが設けられる場合、前記プロファイルは、この凹みを埋めた仮想のプロファイルとして特定される。
【0039】
一対のビード部4のそれぞれには、インナーエーペックスゴム8と、アウターエーペックスゴム9とが設けられている。
【0040】
[インナーエーペックス]
インナーエーペックスゴム8は、折返しプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間に配され、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に延びている。インナーエーペックスゴム8は、ビード部4の曲げ剛性を適度に高め、操縦安定性や耐久性を向上させる。このような観点より、インナーエーペックスゴム8の複素弾性率E*は、好ましくは18MPa以上、より好ましくは22MPa以上、さらに好ましくは24MPa以上とされる。
【0041】
一方、インナーエーペックスゴム8の複素弾性率E*が、過度に大きくなると、リムからの取り外し性を損ねるおそれがある。このような観点より、インナーエーペックスゴム8の複素弾性率E*は、好ましくは36MPa以下、より好ましくは32MPa以下、さらに好ましくは30MPa以下とされる。
【0042】
本実施形態において、インナーエーペックスゴム8は、例えば、タイヤ半径方向の外側に向かってテーパー状に延びている。これに対応し、本実施形態の折返しプライ6Aの折返し部6bは、インナーエーペックスゴム8のタイヤ軸方向の外側面に沿って、インナーエーペックスゴム8側に凸となる円弧状に湾曲した部分を含む。このような折返し部6bの構造は、タイヤ走行時における折返し部6bのカーカスコードに作用する圧縮歪を軽減し、ひいては、折返し部6bを起点とする損傷を抑制する点で望ましい。
【0043】
インナーエーペックスゴム8のタイヤ半径方向の高さ8hは、例えば、18~30mmとされる。インナーエーペックスゴム8の高さ8hは、ビードコア5のタイヤ半径方向の外面からインナーエーペックスゴム8のタイヤ半径方向の外端までのタイヤ半径方向の高さである。
【0044】
インナーエーペックスゴム8の高さ8hが18mm未満では、ビード部4の基本的な曲げ剛性を確保することができず、操縦安定性が低下する傾向にある。このような観点から、インナーエーペックスゴム8の高さ8hは、好ましくは19mm以上、より好ましくは20mm以上、さらに好ましくは21mm以上とされる。
【0045】
一方、インナーエーペックスゴム8の高さ8hが、30mmを超えると、インナーエーペックスゴム8の外端が、走行時の歪が大きい領域に接近し、インナーエーペックスゴム8の外端を基点とする損傷を招き、耐久性が悪化するおそれがある。このような観点から、インナーエーペックスゴム8の高さ8hは、好ましくは29mm以下、より好ましくは28mm以下、さらに好ましくは27mm以下とされる。
【0046】
[アウターエーペックスゴム]
アウターエーペックスゴム9は、折返しプライ6Aの折返し部6bのタイヤ軸方向外側に隣接して配されて、タイヤ半径方向に延びている。アウターエーペックスゴム9は、折返し部6bをタイヤ軸方向外側から支えることで、ビード部4の曲げ剛性をさらに高め、ひいてはタイヤ走行時のビード部4の曲げ歪を低減することができる。
【0047】
本実施形態において、アウターエーペックスゴム9は、例えば、ほぼ一定の厚さt1とされたゴムシートで形成されている。アウターエーペックスゴム9の厚さt1は、例えば、インナーエーペックスゴム8のタイヤ軸方向の最大幅8Wよりも小さい。これは、ビード部4の軽量化に役立つ。
【0048】
以上のように、本実施形態のビード部4は、インナーエーペックスゴム8と、コードを備えないアウターエーペックスゴム9によって補強され、フィラーコードを備えていないことから、ホイールリムからの取り外し性の悪化が防止される。
【0049】
[タイヤの各部の厚さ]
走行中のレーンチェンジ時の操縦安定性や、耐久性(特に、インナーエーペックスゴム8の外端よりもタイヤ半径方向外側での耐久性)の向上には、上述のビード部4の構造を前提としつつ、さらに、タイヤ各部の厚さを特定する必要がある。本実施形態では、このような観点から、バットレス厚さD、最大幅厚さE及びビード厚さFが、以下の関係(1)~(4)を満足するように構成される。
E≧4.5mm …(1)
F≧9.0mm …(2)
E/D=0.6~0.9 …(3)
F/E=1.7~2.2 …(4)
【0050】
ここで、「バットレス厚さD」は、タイヤ最大径の位置Hmaxからタイヤ半径方向内側にタイヤ断面高さHの23%を隔てた位置P1でのタイヤ外面からカーカス6までの最短距離である。また、「最大幅厚さE」は、タイヤ最大幅の位置Wmaxでのタイヤ外面からカーカス6までの最短距離である。さらに、「ビード厚さF」は、ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側に25mmを隔てた位置P2でのタイヤ外面からカーカス6までの最短距離である。
【0051】
空気入りタイヤ1のタイヤ最大幅の位置Wmaxや前記位置P2は、走行時に屈曲歪の大きい代表的な箇所である。式(1)及び(2)は、これらの箇所の厚さを規定することにより、空気入りタイヤ1の耐久性を維持する。
【0052】
具体的には、最大幅厚さEは、E≧4.5mm以上とされ(式(1))、より好ましくはE≧4.8mmとされ、さらに好ましくはE≧5.0mmとされる。一方、最大幅厚さEが過度に大きくなると、走行中の発熱が大きくなる傾向がある。このような観点より、最大幅厚さEは、例えばE≦6.0mmとされ、好ましくはE≦5.5mmとされても良い。
【0053】
ビード厚さFを規定する位置P2は、ホイールリムのフランジのタイヤ半径方向外端付近に相当し、旋回時やレーンチェンジには大きな変形を受ける。したがって、この位置の厚さを規定することは、空気入りタイヤ1の耐久性の向上に重要である。このような観点より、ビード厚さFは、F≧9.0mmとされるが(式(2))、好ましくはF≧9.5mmとされる。一方、ビード厚さFが過度に大きくなると、走行中のビード部4の発熱が大きくなる傾向がある。このような観点より、ビード厚さFは、例えばF≦10.5mmとされ、好ましくはF≦10.0mmとされる。
【0054】
本実施形態では、操縦安定性の向上のために、最大幅厚さEは、バットレス厚さDと関係付けて規定される。バットレス厚さDを規定する位置P1は、トレッド部2とサイドウォール部3との境界付近に位置する。したがって、最大幅厚さEとバットレス厚さDとを関係付けることで、サイドウォール部3の位置P1からタイヤ最大幅の位置Wmaxまでの区間の剛性バランスを改善することができる。本実施形態において、レーンチェンジ時の操縦安定性を向上するために、E/D=0.6~0.9とされる(式(3))。
【0055】
前記比E/Dが0.6を下回ると、タイヤ最大幅の位置Wmax付近での剛性が相対的に低下し、主として旋回走行時の操縦安定性が低下する。このような観点では、前記比E/Dは、0.7以上とされるのがより望ましい。一方、前記比E/Dが0.9を上回ると、バットレス付近(位置P1)での剛性が相対的に低下することから、主としてレーンチェンジ時等の応答性や収束性等が低下する。このような観点では、前記比E/Dは、0.8以下とされるのがより望ましい。
【0056】
本実施形態では、さらに、ビード部4での耐久性を向上させるために、ビード厚さFが、最大幅厚さEと関係付けて規定される。すなわち、これらの厚さの比F/Eが、F/E=1.7~2.2とされる(式(4))。ここで、前記比F/Eが1.7を下回ると、走行中のビード部4での歪が大きくなる傾向があり、ビード部4において損傷が生じやすくなる。このような観点では、前記比F/Eは、1.8以上とされるのが特に望ましい。一方、前記比F/Eが2.2を上回ると、タイヤ最大幅の位置Wma付近に歪が集中しやすく、その付近から位置P2までの区間において、損傷が発生しやすくなる。このような観点では、前記比F/Eは、2.1以下が望ましく、さらには2.0以下が望ましい。
【0057】
以上のような本実施形態の空気入りタイヤ1は、タイヤ側部の剛性バランスが整うことで、リムからの取り外し性を損なわずに、操縦安定性及び耐久性を改善することができる。以下、本発明のさらに好ましい形態が説明される。
【0058】
アウターエーペックスゴム9は、損失正接tanδが例えば0.13以下、より好ましくは0.12以下のゴム組成物からなるのが望ましい。このようなアウターエーペックスゴム9は、走行中のアウターエーペックスゴム9の発熱を抑制し、ビード部4の耐久性をさらに向上させる。
【0059】
また、アウターエーペックスゴム9は、複素弾性率E*が23MPa以上、好ましくは26MPa以上のゴム組成物からなるのが望ましい。このようなアウターエーペックスゴム9は、ビード部4の曲げ歪等を低減し、ビード部4の耐久性をさらに向上させる。一方、アウターエーペックスゴム9の複素弾性率E*は、過度に大きくなると、乗り心地の悪化やリムからの取り外し性が悪化するおそれがあるので、30MPa以下とされるのが望ましい。
【0060】
アウターエーペックスゴム9の厚さt1は、例えば、0.5mm以上が望ましく、さらには1.0mm以上であるのが望ましい。このようなアウターエーペックスゴム9は、ビード部4の耐久性をさらに向上させる他、レーンチェンジ時のふらつきをより一層抑制することができる。一方、アウターエーペックスゴム9の厚さt1が過度に大きくなると、リムからの取り外し難くなる他、ビード部4の発熱耐久性が悪化するおそれがある。このような観点では、アウターエーペックスゴム9の厚さt1は、例えば、2.0mm以下とされ、より好ましくは1.5mm以下とされる。
【0061】
アウターエーペックスゴム9は、位置P2からタイヤ最大幅の位置Wmaxまでのタイヤ半径方向領域Huの50%以上に亘って配されているのが望ましい。このようなアウターエーペックスゴム9は、位置P2からタイヤ最大幅の位置Wmaxの区間での歪を分散ないし軽減し、耐久性をさらに向上させることができる。より好ましい態様では、アウターエーペックスゴム9は、位置P2からタイヤ最大幅の位置Wmaxまでのタイヤ半径方向領域の60%以上、さらに好ましくは65%以上に亘って配されるのが望ましい。
【0062】
アウターエーペックスゴム9のタイヤ半径方向の内端は、位置P2よりもタイヤ半径方向の内側に位置するのが望ましい。上述のように、位置P2は、空気入りタイヤ1がホイールリムに装着されたときに、リムフランジの外端付近の位置に対応している。したがって、ビード部4は、走行中、この位置P2付近を起点に撓む傾向がある。したがって、ビード部4の位置P2付近を補強しうるように、アウターエーペックスゴム9の内端が規定されるのが望ましい。
【0063】
ところで、折返し部6bの外端は、走行中、歪が集中しやすい。一方、アウターエーペックスゴム9は、剛性が比較的高いゴム組成物からなるため、走行中の折返し部6bの変形に十分に追従し難い傾向がある。したがって、アウターエーペックスゴム9は、走行中の大きな歪を受けないように配されるのが望ましい。すなわち、アウターエーペックスゴム9の外端は、折返し部6bの外端を覆わないよう、折返し部6bの外端よりもタイヤ半径方向内側に位置することが望ましい。これにより、折返し部6bは、アウターエーペックスゴム9よりも複素弾性率の小さいサイドウォールゴム30で被覆され、折返し部6bを起点とする剥離損傷等が抑制される。
【0064】
また、
図1に示されるように、アウターエーペックスゴム9の外端と、折返し部6bのタイヤ半径方向の外端との間のタイヤ半径方向距離Gは、5mm以上であるのが望ましい。これにより、アウターエーペックスゴム9の外端を歪の大きい位置から十分に遠ざけることができる。したがって、アウターエーペックスゴム9の外端を起点とする損傷が効果的に抑制される。
【0065】
高負荷走行時には、折返しプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には大きなせん断歪が繰り返し生じ、プライルースやコードルース等の損傷が生じるおそれがある。これらのルースを抑制するために、本体部6aと折返し部6bとの間に、インスレーションゴム50を配することが望ましい。本実施形態のインスレーションゴム50は、シート状のゴム組成物からなる。
【0066】
図3は、
図2のタイヤ最大幅の位置Wmax付近の部分拡大図である。
図3に示されるように、インスレーションゴム50は、本体部6aと折返し部6bとの間において、カーカスコード6c、6c間の距離dを十分に確保し、これらの間に作用するせん断応力を緩和してルース等を抑制することができる。このような観点より、インスレーションゴム50の厚さt2は、例えば、0.5mm以上であるのが望ましい。一方、インスレーションゴム50の厚さt2が大きくなると、発熱耐久性や転がり抵抗の悪化を招くおそれがある。したがって、インスレーションゴム50の厚さt2は、例えば、1.5mm以下とされるのが望ましい。
【0067】
インスレーションゴム50は、折返しプライ6Aのトッピングゴム6tと同一のゴム組成物であっても良いし、別のゴム組成物であっても良い。後者の場合、本体部6aと折返し部6bとの間での剛性段差をなくすために、インスレーションゴム50の複素弾性率と、折返しプライ6Aのトッピングゴム6tの複素弾性率との差が2MPa以下であるのが望ましい。このように、トッピングゴム6t及びインスレーションゴム50の複素弾性率の差を制限することで、本体部6aと折返し部6bのカーカスコード6c,6c間で歪が効果的に分散され、ルース等を抑制することでさらに耐久性が向上する。
【0068】
本実施形態のインスレーションゴム50は、折返しプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間の全範囲に亘って配されている。また、インスレーションゴム50は、折返し部6bの外端をタイヤ半径方向外側に越えて延びている。より具体的には、インスレーションゴム50のタイヤ半径方向の外端は、ベルト層7とカーカス6との間に挟まれている。このような態様は、インスレーションゴム50の外端が、歪の小さい領域に配されるために、インスレーションゴム50の外端を起点とする損傷を抑制でき、耐久性がさらに向上する。
【0069】
また、本実施形態のインスレーションゴム50のタイヤ半径方向の内端は、インナーエーペックスゴム8のタイヤ軸方向の内側面と、本体部6aとの間に延びて終端している。このような態様は、インスレーションゴム50の内端が、歪の小さい領域に配されるために、インスレーションゴム50の内端を起点とする損傷をも抑制でき、耐久性がさらに向上する。
【0070】
以上、本発明の一実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例】
【0071】
次に、本発明のより詳細な実施例が説明される。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
図1の基本構造を有する小型トラック用の空気入りラジアルタイヤが、下表の仕様に基づいて試作され、それらについて性能がテストされた。また、比較のために、本発明の構成を備えていない比較例タイヤについても、同様にテストされた。主な共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:205/85R16 117/115N
リム:5.5J
折返し部の高さ:0.63H
サイドウォールゴムの複素弾性率E*:3.4MPa
インナーエーペックスゴムの複素弾性率E*:26MPa
アウターエーペックスの高さ:0.37H
テスト内容は、次のとおりである。
【0073】
[リム外し作業性]
タイヤチェンジャーを使用して、テストタイヤのリムへの取り付け及び取り外しが、各タイヤについてそれぞれ10回行われた。その後、観察者が、各タイヤのビード部を肉眼で観察し、ビード部に生じた傷の程度を「リム外し性」として10段階で評価した。数値が大きいほど良好であることを示す。
【0074】
[操縦安定性]
テストコースにて、各テストタイヤを装着した小型トラックを走行させ、レーンチェンジ時のトラックのふらつきの程度がドライバーによって評価された。結果は、実施例1のふらつきの程度を10とする指数評価であり、数値が大きいほど良好であることを示す。
内圧:600kPa
小型トラックの積載荷重:2トン
【0075】
[耐久性]
ドラム試験機を使用し、以下の条件で各テストタイヤを連続走行させ、タイヤに損傷が生じるまでの距離が測定された。結果は、実施例1の走行距離を10とする指数評価であり、数値が大きいほど良好であることを示す。
内圧:600kPa
縦荷重:20kN
走行速度:80km/h
テスト結果が、表1及び表2に示される。
【0076】
【0077】
【0078】
テストの結果、実施例のタイヤは、リムからの取り外し性を損なわずに、操縦安定性及び耐久性を改善することが確認できた。
【符号の説明】
【0079】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6A 折返しプライ
6a 本体部
6b 折返し部
8 インナーエーペックスゴム
9 アウターエーペックスゴム
50 インスレーションゴム
BL ビードベースライン
D バットレス厚さ
E 最大幅厚さ
F ビード厚さ
H タイヤ断面高さ