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特許7484509ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品の接合方法、および接合部を含む成形品の製造方法
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  • 特許-ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品の接合方法、および接合部を含む成形品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品の接合方法、および接合部を含む成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/12 20060101AFI20240509BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240509BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20240509BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20240509BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240509BHJP
   C09J 5/02 20060101ALI20240509BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240509BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20240509BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C08J5/12 CEZ
C08J7/00 304
C08L81/02
C08K7/04
C08L23/26
C09J5/02
C09J163/00
C09J175/04
C09J183/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020118148
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015371
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】徳住 啓太
(72)【発明者】
【氏名】大久保 和哉
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-370119(JP,A)
【文献】特開2019-038914(JP,A)
【文献】特開平09-316327(JP,A)
【文献】特開2004-182840(JP,A)
【文献】特開平06-166766(JP,A)
【文献】特表2020-523454(JP,A)
【文献】国際公開第2018/228893(WO,A2)
【文献】特開2005-060454(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208377(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22、
7/00-7/02、7/12-7/18
B29C 71/04
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09J 1/00-5/10、9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分解ガス量が0.9重量%以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)繊維状無機充填材を5~200重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品の表面に、250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光を照射して成形品を表面改質し、表面改質した表面改質部と接合部剤とを接合するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(A)分解ガス量が0.9重量%以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、さらに(C)エポキシ基、酸無水物基、カルボキシル基及びその塩、ならびにカルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する官能基含有オレフィン系共重合体1~35重量部を配合してなることを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
【請求項3】
前記250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光が、126nm、146nm、172nm、および222nmから選ばれるいずれかの波長を主成分とする紫外光である、請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
【請求項4】
前記接合部剤が、エポキシ樹脂系接合部剤、シリコーン樹脂系接合部剤、およびウレタン樹脂系接合部剤から選択されるいずれかである請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
【請求項5】
前記250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光の総照射熱量が1.0J/cm以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
【請求項6】
前記表面改質部の表面自由エネルギーが50mN/m以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
【請求項7】
少なくとも、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と接合部剤とを請求項1~6のいずれかに記載の接合方法により接合する工程を含む、接合部を含む成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密着性に乏しいポリフェニレンサルファイド樹脂組成物からなる成形品に対して、本来有する優れた機械強度や耐熱性を大きく損なうことなく、さらには表面外観を維持したまま、簡素な方法により所望の部分を局所的に表面改質し、接合部剤と接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、PPS樹脂と略す)は、優れた耐熱性、剛性、寸法安定性、および難燃性などのエンジニアリングプラスチックとして優れた性質を有していることから、射出成形用途を中心に各種自動車部品、機械部品、電気・電子部品に広く使用されている。
【0003】
PPS樹脂から得られる成形品には、射出成形品、中空成形品、圧縮成形品、押出成形品(フィルム、シート、パイプ、異形押出品、押出被覆品)等が包含される。これらのPPS樹脂から得られる成形品(以下、単に成形品とも言う)は、車両や電子機器の外装材として多用されている。成形品をこれらの機器に取り付けるに当たっては、接着剤等の接合部剤を介して相手方の部材に接合することがある。
【0004】
PPS樹脂は、その優れた特性がある一方で、接合部剤による接合が困難なものが多い。従って、これらの成形品を高い接着強度で接着するために、樹脂成形品の表面に改質処理が施されることがある。従来は、サンドブラスト処理、クロム酸混液処理、火炎処理、コロナ放電処理、プラズマ処理などが用いられ検討されているが、これらの手法は、十分な接着強度を発現できない、接着強度にばらつきが生じる、接着部以外の外観も劣化する、皮脂やほこり等の汚れが付着しやすくなる等の種々の問題がある。このような課題を解決する手法として、紫外光を接合部のみ局所的に照射し、成形品の外観の劣化を起こすことなく、接着強度を大きくすることが知られている。
【0005】
特許文献1では、結晶性樹脂の接着強度を局所的に改質する目的で、非結晶性樹脂部を備えた樹脂部材における、結晶性樹脂部を含む表面の少なくとも一部に50~200nmの光を照射することで表面改質を行い、各接着部剤との密着性を向上させることが開示されている。
【0006】
特許文献2では、ガラス繊維を含有するエンジニアリングプラスチック成形品に対して、有機エポキシ化合物、シランカップリング剤及びチタネートカップリング剤のいずれかの表面改質剤を表面に存在させ、さらに該成形品の表面に300nm以下の波長を主な波長成分とする紫外光を照射することで、接着部剤との密着性を向上させていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-38914号公報
【文献】特開平5-132569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載される手法は、PPS樹脂の接着強度は向上するものの、接着強度のばらつきが大きくなる課題があった。また、繊維状充填材を配合していないため、成形品としてPPS樹脂の特徴である高い機械物性や寸法安定性を発揮することができない問題がある。
【0009】
特許文献2に記載される手法は、具体的に効果が示されている樹脂がもともと接着部剤との十分な接着強度を有しているポリアミド樹脂およびポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートである。係る手法は、接合部剤との接着性の乏しいPPS樹脂のように接着の対象となる樹脂の種類によっては接着強度にばらつきが生じる問題があった。
【0010】
そこで、PPS樹脂が本来有する優れた機械的強度や寸法安定性を大きく損なうことなく、表面外観を維持したまま、接合部剤との高い接合強度を得る接合方法を得ることを課題とする。
【0011】
本発明では、接合部剤を介して機器に取り付けられるPPS樹脂組成物からなる成形品において、簡便な方法により表面改質された成形品を接合部剤によって接合する接合方法、および係る接合方法による接合部を含む成形品の製造方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。すなわち本発明は、下記を提供するものである。
(1)(A)分解ガス量が0.9重量%以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、(B)繊維状無機充填材を5~200重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる成形品の表面に、250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光を照射して成形品を表面改質し、表面改質した表面改質部と接合部剤とを接合するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
(2)前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、(A)分解ガス量が0.9重量%以下であるポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対して、さらに(C)エポキシ基、酸無水物基、カルボキシル基及びその塩、ならびにカルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種の官能基を含有する官能基含有オレフィン系共重合体1~35重量部を配合してなることを特徴とする、(1)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
(3)前記250nm未満の単一波長を主成分とする紫外光が、126nm、146nm、172nm、および222nmから選ばれるいずれかの波長を主成分とする紫外光である(1)または(2)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
(4)前記接合部剤が、エポキシ樹脂系接合部剤、シリコーン樹脂系接合部剤、およびウレタン樹脂系接合部剤から選択されるいずれかである(1)~(3)のいずれか記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
(5)前記250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光の総照射熱量が1.0J/cm以上であることを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法
(6)前記表面改質部の表面自由エネルギーが50mN/m以上であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品の接合方法。
(7)少なくとも、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と接合部剤とを(1)~(6)のいずれかに記載の接合方法により接合する工程を含む、接合部を含む成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のPPS樹脂組成物からなる成形品の表面改質による接合方法は、本来接合の難しい接合部剤においても高い接合強度を有するため、接合部を含む成形品として高い信頼性を有し、車両や電気・電子部品等の機器に対する外装材の取り付けへの適用が有用である。
【0014】
また、前記の態様の接合部を含む成形品は、表面改質方法が施された成形品と、成形品の表面改質部上に設置された接合部剤と、接合部剤を介して成形品に接合された相手方部材とを有している。そのため、前記接合部を含む成形品は、成形品と接合部剤との接合性に優れており、相手方部材からの成形品の剥離を長期間にわたって抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明における接着強度を測定する際に使用するISOダンベルを中央で細断した(以下半ダンベルともいう)図である。
図2】本発明における接合強度を測定する際のエポキシ樹脂を接合部剤として挟み込んだ時の正面図である。
図3】本発明における接合強度を測定する際のエポキシ樹脂を接合部剤として挟み込んだ時の側面図である。
図4】本発明における接合強度を測定する際のシリコーン樹脂を接合部剤として挟み込んだ時の正面図である。
図5】本発明における接合強度を測定する際のシリコーン樹脂を接合部剤として挟み込んだ時の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明において「重量」とは質量を意味する。
【0017】
本発明の(A)PPS樹脂とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0018】
【化1】
【0019】
上記構造式で示される繰り返し単位を70モル%以上、特に90モル%以上含む重合体であることが耐熱性の点で好ましい。またPPS樹脂は、その繰り返し単位の30モル%未満を、下記の構造を有する繰り返し単位で構成されることが可能である。
【0020】
【化2】
【0021】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の分解ガス量は、表面改質後の優れた接合強度を発現する観点から0.9重量%以下であり、0.8重量%以下が好ましく、0.59重量%以下が更に好ましい。本発明における(A)PPS樹脂の分解ガス量は、以下の方法で得られたものをいう。腹部が100mm×25mm、首部が255mm×12mm、肉厚が1mmのガラスアンプルに粉末状PPS樹脂3gを計り入れてから真空封入する。このガラスアンプルの胴部のみを、アサヒ理化製作所製のセラミックス電気管状炉ARF-30Kに挿入して320℃で2時間加熱する。アンプルを取り出した後、管状炉によって加熱されておらず揮発ガスの付着したアンプルの首部をヤスリで切り出して秤量する。次いで付着ガスを5gのクロロホルムで溶解して除去した後、60℃のガラス乾燥機で1時間乾燥してから再度秤量する。ガスを除去した前後のアンプル首部の重量差をガス発生量とし、ガスを除去する前の重量で除した値を分解ガス量(重量%)とする。分解ガス量が0.9重量%より多い場合、250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光の照射後に成形品の表面改質が実現されず、高い接合強度が得られない。
【0022】
次に、本発明の(A)PPS樹脂を得るための方法について説明する。PPS樹脂の製造方法は、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程の公知の方法で製造することができる。PPS樹脂の製造に用いられる原料、前工程、重合反応工程に関しては特開2017-155221号公報に記載されている方法に準拠することが好ましい。PPS樹脂を得るための工程の内、回収工程以降に本発明における分解ガス量が0.9重量%以下のPPS樹脂を得るために重要な工程を含む。例えば、後述する回収工程においてクエンチ法を用いることや酸素存在下での熱処理による架橋などの方法が挙げられる。以下、回収工程および後処理工程について、説明する。
【0023】
[回収工程]
PPS樹脂の製造工程において、重合反応工程の終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
【0024】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法(クエンチ法)は分解ガス量を減らせる点で好ましい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全工程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用してもよい。
【0025】
また、上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉粒体状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選択される。
【0026】
フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物を回収することができ、また回収時間も比較的短くできることから、経済性に優れた回収方法である。しかしながら、この回収方法では、分解ガス量が多いため、本発明で必要な分解ガス量を0.9重量%以下のPPS樹脂とするためには、後述の後処理工程において熱処理を行うことが必須である。
【0027】
[後処理工程]
本発明のPPS樹脂は、上記重合反応工程、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0028】
例として、酸処理を行う場合について説明する。PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0029】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上、例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0030】
本発明において用いるPPS樹脂は、回収工程終了後に酸素雰囲気下においての加熱または過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱により、架橋状PPSとして用いることも可能である。特にフラッシュ法で得られたPPS樹脂は、分解ガス量を減らすためには特に有効である。
【0031】
熱酸化処理による架橋を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160~260℃が好ましく、170~250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は1体積%以上、更には5体積%以上、より好ましくは8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましく、2~25時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0032】
また、熱酸化処理による架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130~250℃が好ましく、160~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5~50時間が好ましく、1~20時間がより好ましく、1~10時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0033】
本発明において用いるPPS樹脂組成物は、PPS樹脂100重量部に対して(B)繊維状無機充填材を5~200重量部を配合することが必須である。繊維状無機充填材は、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカー、ワラステナイトウィスカ―、硝酸アルミウィスカ―、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維が挙げられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状無機充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。中でも材料の合成向上効果を得る上では、繊維状無機充填材は、ガラス繊維および炭素繊維から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
本発明に用いる(B)繊維状無機充填材は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、5~200重量部が必要であり、特に10~180重量部の範囲が好ましく、より好ましくは20~180重量部の範囲である。配合量が5重量部に満たないと機械的強度が不十分であり、さらには表面改質後の接合強度への影響が小さくなり好ましくない。配合量が200重量部を超えると押出成形時の流動性が悪化する観点から好ましくない。
【0035】
本発明において用いるPPS樹脂組成物は、(C)エポキシ基、酸無水物基、カルボキシル基およびその塩、ならびにカルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1種類の官能基を含有するオレフィン系共重合体(以下、(C)オレフィン系共重合体や官能基含有オレフィン系共重合体と表す場合がある)を配合するのが好ましい。官能基を含んでいてもオレフィン系共重合体でない場合は、250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光による表面改質の効果が乏しい。(C)オレフィン系共重合体は、オレフィン系重合体および/またはオレフィン系共重合体に、エポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分(官能基含有成分)を導入することにより得られるが、その官能基含有成分の例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ[2.2.1]5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸、エンドビシクロ-[2.2.1]5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸無水物などの酸無水物基を含有する単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどのエポキシ基を含有する単量体、カルボン酸金属錯体などのアイオノマーを含有する単量体が挙げられる。オレフィン系共重合体の種類としては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン-1、イソブチレンなどのα-オレフィン単独または2種以上を重合して得られる(共)重合体、α-オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β-不飽和酸およびそのアルキルエステルとの共重合体などがあり、具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体(“/”は共重合を表す。以下同じ)、エチレン/ブテン-1共重合体、エチレン/ヘキセン-1共重合体、エチレン/オクテン-1共重合体、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸ブチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸ブチル共重合体などが挙げられる。
【0036】
これらオレフィン系共重合体に官能基含有成分を導入する方法は特に制限がなく、前記オレフィン系(共)重合体として用いられるのと同様のオレフィン系(共)重合体を(共)重合する際に共重合せしめたり、オレフィン系(共)重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。官能基含有成分の導入量はオレフィン系共重合体を構成する全単量体に対して0.001~40モル%、好ましくは0.01~35モル%の範囲内であるのが適当である。特に有用な、オレフィン系(共)重合体にエポキシ基、酸無水物基、アイオノマーなどの官能基を有する単量体成分を導入して得られるオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン-g-メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン-1-g-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸メチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体の亜鉛錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のマグネシウム錯体、エチレン/メタクリル酸共重合体のナトリウム錯体、あるいは、エチレン、プロピレンなどのα-オレフィンとα,βー不飽和酸のグリシジルエステルなどが好適に用いられる。
【0037】
本発明に用いる(C)官能基含有オレフィン系共重合体は、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して1~35重量部を配合することが好ましく、特に1~25重量部がより好ましい。35重量部以下とすることで、射出成形時の金型に付着物が付着することを防止し、また分解によるガスにより成形品の外観が著しく悪化することがない。
【0038】
更に本発明で用いるPPS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、有機結晶核剤を配合してもよい。有機結晶核剤としてはソルビトール化合物及びその金属塩;燐酸エステル金属塩;ロジン化合物;オレイン酸アミド、アクリル酸アミド、ステアリン酸アミド、デカンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、ヘキサンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、トリメシン酸アミド、アニリド化合物、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジシクロヘキシルアミド、N,N’-ジベンゾイル-1,4-ジアミノシクロヘキサン、N,N’-ジシクロヘキサンカルボニル-1,5-ジアミノナフタレン、オクタンジカルボン酸ジベンゾイルヒドラジド等アミド化合物、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、モンタン酸ワックス類、脂肪族カルボン酸金属塩、芳香族カルボン酸金属塩、芳香族ホスホン酸及び金属塩、芳香族リン酸金属塩、芳香族スルホン酸の金属塩、βージケトン類の金属塩、カルボキシル基の金属塩、有機リン化合物、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン等の有機化合物及び高分子化合物が挙げられる。
【0039】
更に本発明で用いるPPS樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、更に(C)官能基含有オレフィン系共重合体以外の他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、エポキシ基含有ポリオレフィン共重合体などが挙げられる。
【0040】
また、本発明で用いるPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で非繊維状無機充填材を加えてもよい。非繊維状無機充填材の具体例としては、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケート、ハイドロタルサイトなどの珪酸塩、酸化珪素、ガラス粉、酸化マグネシウム、酸化アルミ(アルミナ)、シリカ(破砕状・球状)、石英、ガラスビーズ、ガラスフレーク、破砕状・不定形状ガラス、ガラスマイクロバルーン、二硫化モリブデン、酸化アルミニウム(破砕状)、透光性アルミナ(繊維状・板状・鱗片状・粒状・不定形状・破砕品)、酸化チタン(破砕状)、酸化亜鉛(繊維状・板状・鱗片状・粒状・不定形状・破砕品)などの酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛などの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛、窒化アルミニウム、透光性窒化アルミニウム(繊維状・板状・鱗片状・粒状・不定形状・破砕品)、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物などが挙げられ、ここで金属粉、金属フレーク、金属リボンの金属種の具体例としては銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。また、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、フラーレン、グラフェンなどが挙げられ、これらは中空であってもよく、更にはこれら充填材を2種類以上併用することも可能である。中でも炭酸カルシウム、カーボンブラック、黒鉛が好ましい。
【0041】
なお、本発明で用いるPPS樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒドロキノン系)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、着色用カーボンブラック等)、染料(フタロシアニン、ニグロシン等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、燐酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、熱安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、ビスフェノールA型などのビスフェノールエポキシ樹脂、ノボラックフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの強度向上材、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
【0042】
本発明のPPS樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280~380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0043】
このようにして得られる本発明のPPS樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。
【0044】
本発明では、前記PPS樹脂組成物を成形してなる成形品を接合する際に、成形品の表面に紫外光を照射する。本発明において照射する光は、250nm以下の単一波長を主成分とする特殊な紫外光である。ここで、「単一波長を主成分とする紫外光」とは、“エキシマランプと紫外線蛍光ランプ「UV-XEFL」”(菱沼 宣是、“エキシマランプと紫外線蛍光ランプ「UV-XEFL」”光技術情報誌「ライトエッジ」No.38、[online]、2012年10月発行、[2020年6月26日検索]、インターネット<URL:https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/201210/100465.html>)に記載されているとおり、光スペクトルにおいて単一波長のピークを有する紫外光である。成形品に対する紫外光の作用は波長により異なり、波長が短い光の方がより効果的である。従って、単一波長が250nm以下であることが好ましく、126nm、146nm、172nm、および222nmから選ばれるいずれかの波長がより好ましく、更に好ましくは126nm、146nm、および172nmから選ばれる単一波長の紫外光である。本発明の250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光は、散分した波長をもつプラズマやコヒーレントな光であるフッ化クリプトンレーザー(中心波長248nm)やフッ化アルゴンレーザー(中心波長193nm)に代表されるエキシマレーザーと異なり、いわゆるインコヒーレントな光であるエキシマ光(エキシマランプともいう)である。エキシマ光は、誘電体バリア放電、ホローカソード放電、もしくはマイクロホローカソード放電のいずれの手法を使用して発光してもよいが、好ましくは誘電体バリア放電が好ましい。エキシマ光は希ガスを封入したランプ内で放電プラズマによって生じる光を用いることが有効であり、中に封入される希ガスはアルゴン、クリプトン、キセノン、塩化クリプトンから選ばれる、好ましくはアルゴン、クリプトン、キセノンから選ばれる。この際、エキシマ光を使用することは紫外光による表面改質のみであることから良好な表面外観を保持することができるため優位である。一方で、プラズマ処理のようにガスを電極でイオン化(プラズマ化ともいう)した分子を成形表面にあてることは、紫外光による改質に加えて表面粗化も起こるため、表面外観を悪化させてしまう。成形品の表面に紫外光を照射する場合、成形品とランプの距離は5~500mm程度が好ましく、さらに好ましくは10~350mmの範囲が好ましい。照射距離が5mm以下では過度に照射されて、成形品の表面が化学的に劣化する場合がある。また照射距離が500mm以上では紫外光が減衰するため、表面改質が不十分となり高い接合強度が得られないことがある。
【0045】
また、効率的に表面改質を行うためには、総照射熱量が1.0~40J/cm以上であり、より好ましくは1.5~30J/cm以上である。ここでいう総照射熱量は、物体へ時間当たりに照射される面積あたりの照射エネルギーを表す放射照度に照射面積と照射時間を掛け合わせたものであり、総照射熱量が1.0J/cm以上とすることで、表面改質が十分にされて十分な接合強度を得ることができる。また、40J/cm以下である場合、過度の照射にはならず劣化現象も発生しない。
【0046】
本発明において、成形品と接合部剤との接合強度を高める目的で、紫外光を照射する前に、脱脂、洗浄化等の目的でアルコール系や鉱油系の溶剤等で成形品表面を処理してもよい。使用する有機溶剤としては、PPS樹脂を溶解させるもの以外であれば特に制限はなく、メタノール、エタノール、ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどの低級アルコール系溶剤やフェノールやクレゾール、ナフトールなどのフェノール系溶剤やベンゼン、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリンなどの芳香族炭化水素系溶剤、四塩化炭素、トリクロルエチレン、クロロホルム、トリクロルエタン、ブロムベンゼン、ジクロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系などがある。
【0047】
本発明において、単一波長を主成分とする紫外光を照射し、表面改質によって得られた成形品の表面改質部の表面自由エネルギーは50mN/m以上が好ましく、より好ましくは65mN/m以上が好ましい。50mN/m以上とすることで、十分な接合強度を得ることが可能となる。
【0048】
なお、本発明において上記「表面自由エネルギー」とは、接触角計を用いて水及びヨウ化メチレンとの接触角(滴下量3μL、滴下30秒後)を測定し、下記式により算出した値を用いる。
γs=γsd+γsp
72.8(1+cosθH)=2(21.8γsd)1/2+2(51.0γsp)1/2
50.8(1+cosθI)=2(50.8γsd)1/2
γs:表面自由エネルギー
γsd:表面自由エネルギーの分散成分
γsp:表面自由エネルギーの極性成分
θH:水に対する接触角
θI:ヨウ化メチレンに対する接触角。
【0049】
成形品の表面改質部の自由エネルギーを50mN/m以上とするためには、例えばエキシマ光照射処理、エキシマレーザー照射処理、プラズマ処理、コロナ放電処理をする方法が挙げられる。特にエキシマ光照射処理が好ましい。
【0050】
本発明における250nm未満の単一波長を主成分とする紫外光を照射することによる成形品の表面改質においては、係る紫外光の照射前後において、成形品の表面粗度に変化がないことが好ましい。ここで、「変化がない」とは、照射前後で算術平均粗さの変化率が10%以下である状態を指すものとする。表面改質の前後において、表面粗度の変化がないことで意匠性に優れた接合部を有する成形品を提供することができる。
【0051】
本発明で使用される接合部剤は、基本的には硬化型の接合部剤であり、特にエポキシ樹脂系接合部剤、ウレタン樹脂系接合部剤、シリコーン樹脂系接合部剤が好ましい。エポキシ樹脂系接合部剤は、エポキシ樹脂と硬化剤とを主成分とするものである。エポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を持つものであれば特に制限されるものではなく、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、服素環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、含ブロムエポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、プロピレングリコールグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂などが挙げられ、これらエポキシ樹脂は2種以上混合してもよい。また、必要に応じで、粘度低下のためにブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、脂肪族アルコールのグリシジルエーテルなどのようなモノマーエポキシ化合物を配合してもよい。
【0052】
エポキシ樹脂に使用される好ましい硬化剤は、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミンのような脂肪族アミン;メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、N-アミノエチルピペラジンのような脂環式ポリアミン;メタキシレンジアミンのような芳香環を含む脂肪族ポリアミン;第1、第2、第3級アミン窒素を1分子中に有するポリエチレンイミン;メタフェニレンジアミン、メチレンジアニリン、ジアミノジフェニルスルフォンのような芳香族ポリアミン;上記脂肪族ポリアミンや、芳香環を含む脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物を公知の変性方法、例えば、エポキシ化合物との付加反応、アクリロニトリル、アクリル酸エステルなどとのマイケル付加反応、メチロール化合物とのマンニッヒ反応等により生成する変性ポリアミン;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾールのようなイミダゾール系化合物;トリスジメチルアミノフェノールのような3級アミン;トリスジメチルアミノメチルフェノールのトリ-2-エチルヘキシル酸塩等が挙げられる。また、主としてダイマー酸とポリアミンの縮合反応により生成する市販のバーサミド(ヘンケン白水製)やトーマイド(富士化業工業製)、サンマイド(三和化学工業製)、ラッカマイド(大日本インキ化学工業製)等の商品名で知られるポリアミドポリアミンが挙げられる。さらに、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドのような汎用の潜在性硬化剤や、70~80℃で硬化可能なもの、例えば特開昭60-4524号公報、特開昭62-26523号公報、特開平1-254731号公報に示される潜在性硬化剤を用いることもできる。
【0053】
エポキシ樹脂の硬化剤或いは硬化促進剤として一般的に用いられている様々な化合物の何れを用いても良い。具体的には、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドエチレンテトラヒドロフタル酸、無水トリアルキルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸等の酸無水物を用いることもできる。
【0054】
エポキシ樹脂に対しては、以上の主成分の他に、必要に応じて、無機系充填材、例えば、シリカ、石英ガラス、マイカ、炭酸カルシウム、アルミナ、タルク、クレー、黒鉛、カーボンブラックなどの粉末も添加できる。さらに、硬化性を向上させるために、フェノール、ノニルフェノール、サリチル酸、トリフェニルフォスファイトなどの公知の硬化促進剤を用いることもできる。
【0055】
本発明で用いるウレタン樹脂系接合部剤は、イソシアネート成分とポリオール成分を基本成分として含むもので、必要に応じ、触媒、安定化剤、顔料、充填材、粘着付与剤等の補助成分が配合される。
【0056】
イソシアネート成分には、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネートおよび芳香族イソシアネートの他、それらの変性体が包含される。脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられ、脂環族系イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。芳香族系イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。イソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー、ヘキサメチレンジイソシアネートビューレット、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリマー、イソホロンジイソシアネートトリマー等が挙げられる。
【0057】
ポリオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体等のポリエーテルポリオール;ポリカプロラクトン、ポリβ-メチル-δ-ブチロラクトン、ジオールと二塩基酸からのポリエステル等が挙げられる。その他、水酸基含有液状ポリブタジエン、ヒマシ油、ポリカーボネートジオール、アクリルポリオール等が挙げられる。補助成分としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤;テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン、ロジン樹脂、キシレン樹脂等の粘着付与剤;炭酸カルシウム、クレー、酸化チタン、カーボンブラック、アエロジル等の充填材や揺変剤;紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐加水分解安定剤等の安定剤等が挙げられる。本発明において、ウレタン樹脂系接合部剤は、一液型及び二液型のいずれの態様においても用いることができる。また、その硬化タイプには、二液混合による反応型、湿気硬化型及び熱硬化型が包含される。
【0058】
本発明で用いられるシリコーン樹脂系接合部剤としては、当業者が接着剤として通常用いるシリコーン樹脂であればよく、縮合型シリコーン樹脂、付加型シリコーン樹脂のいずれであってもよく、また一液型および二液型のいずれを用いてもよいが、均一に硬化することから付加型シリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0059】
本発明の接合方法を用いて、PPS樹脂組成物からなる成形品と、PPS樹脂組成物からなる成形品、その他の樹脂組成物からなる成形品、および鉄、銅、アルミニウムなどの金属成形品などから選択される相手方部材とを上記の接合部剤を介して接合し、接合部を含む成形品を得る。相手方部材は、本発明の接合方法により高い接合強度を得ることができるような素材であれば、特に限定されない。たとえば、本発明において用いられるPPS樹脂組成物からなる成形品であることが好ましい。PPS樹脂組成物からなる成形品と相手方部材とを接合部剤を介して本発明の接合方法により接合すると、高い接合強度を得られることから、たとえば箱型の筐体と天板とを接合するのに用いた場合、内部の部品を長期間に保護することを可能とする。本発明の接合部を含む成形品の主な用途例としては、各種家電製品、携帯電話、及びPC(Personal Computer)等の電子機器の筐体、箱型の電気・電子部品集積モジュール用保護・支持部材・複数の個別半導体またはモジュール、センサ、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサ、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナ、スピーカ、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、端子台、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダ、パラボラアンテナ、コンピュータ関連部品等に代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤ、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザディスク・コンパクトディスク・DVDディスク・ブルーレイディスク等の音声・映像機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライタ部品、ワードプロセッサ部品、あるいは給湯機や風呂の湯量、温度センサなどの水回り機器部品等に代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピュータ関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライタ、タイプライタなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクタ、ブラシホルダー、スリップリング、ICレギュレータ、ライトディマー用ポテンシオメーターベース、リレーブロック、インヒビタースイッチ、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディ、キャブレタースペーサ、排気ガスセンサ、冷却水センサ、油温センサ、ブレーキパットウェアーセンサ、スロットルポジションセンサ、クランクシャフトポジションセンサ、エアーフローメータ、ブレーキパッド摩耗センサ、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダ、ウォーターポンプインペラ、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュータ、スタータースイッチ、イグニッションコイルおよびそのボビン、モーターインシュレータ、モーターロータ、モーターコア、スターターリレ、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターロータ、ランプソケット、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルタ、点火装置ケース、パワーモジュール、インバータ、パワーデバイス、インテリジェントパワーモジュール、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、パワーコントロールユニット、リアクトル、コンバータ、コンデンサ、インシュレーター、モーター端子台、バッテリー、電動コンプレッサー、バッテリー電流センサ、ジャンクションブロック、DLIシステム用イグニッションコイル等を収納するケース、EGR配管等の自動車・車両関連部品、ワイヤレス給電器ハウジング及びカバー、冷却配管等のその他各種用途にも適用可能である。
【実施例
【0060】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0061】
[メルトフローレート(MFR)]
PPS樹脂のMFRは、温度315.5℃、5000g荷重とし、ASTM-D1278-70に従って測定した。
【0062】
[分解ガス量]
腹部が100mm×25mm、首部が255mm×12mm、肉厚が1mmのガラスアンプルに粉末状PPS樹脂3gを計り入れてから真空封入した。このガラスアンプルの胴部のみを、アサヒ理化製作所製のセラミックス電気管状炉ARF-30Kに挿入して320℃で2時間加熱した。アンプルを取り出した後、管状炉によって加熱されておらず揮発ガスの付着したアンプルの首部をヤスリで切り出して秤量した。次いで付着ガスを5gのクロロホルムで溶解して除去した後、60℃のガラス乾燥機で1時間乾燥してから再度秤量した。ガスを除去した前後のアンプル首部の重量差をガス発生量とし、ガスを除去する前の重量で除した値を分解ガス量(重量%)とした。
【0063】
[エポキシ樹脂系接合部剤による接合性]
ISO 527-1、2(2012)に準拠して測定を行った。具体的には次のように測定を行った。本発明のPPS樹脂組成物ペレットを、熱風乾燥機を用いて130℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度:310℃、金型温度:145℃に設定した住友重機械工業株式会社製射出成形機(SE-50D)に供給し、ISO 20753(2008)に規定されるタイプA1試験片形状(4mm厚み)の金型を用いて、中央平行部の断面積を通過する溶融樹脂の平均速度が400±50mm/sとなる条件で射出成形を行い、ISOダンベル試験片を得た。得られたISOダンベル試験片を中央から2等分した。図2に示す接合面に対して表1~3に記載の条件で表面改質(ウシオ電機(株)製エキシマ装置Min-Excimer SUS713、光源:Xe、中心波長172nm、照度10mW/cm以上、照射距離10mm)を実施し、エポキシ系接合部剤との接合面積が55mmとなるように作成したスペーサー(厚さ:1mm、開口部:5.5mm×10mm)を2等分したISOダンベルの持ち手部分に挟み、クリップを用い固定した後、開口部にエポキシ樹脂を注入し、各硬化条件にて熱風乾燥機中で硬化・接合させた。23℃下で1日冷却後、スペーサーを外し、得られた試験片を用いて歪み速度1mm/min、支点間距離80mm、23℃下でインストロン社製引張試験機を用い、引張破断強さを測定した。得られた値を接合面積で除した値を接合強度とした。なお、測定に用いたエポキシ樹脂および硬化条件を以下に示す。
エポキシ樹脂1:ナガセケムテックス(株)製1液系エポキシ樹脂XN1244、硬化条件 120℃、15分
エポキシ樹脂2:ナガセケムテックス(株)製1液系エポキシ樹脂XHR3503、硬化条件 100℃、15分
エポキシ樹脂3:ナガセケムテックス(株)製2液系エポキシ樹脂XNR4276(N1)/XNH4276(N1)=50/50(重量比)、硬化条件 85℃、3時間の後、115℃、3時間。
【0064】
[シリコーン樹脂系接合部剤による接合性]
ISO 527-1、2(2012)に準拠して測定を行った。具体的には次のように測定を行った。本発明のPPS樹脂組成物ペレットを、熱風乾燥機を用いて130℃で3時間乾燥した後、シリンダー温度:310℃、金型温度:145℃に設定した住友重機械工業株式会社製射出成形機(SE-50D)に供給し、ISO 20753(2008)に規定されるタイプA1試験片形状(4mm厚み)の金型を用いて、中央平行部の断面積を通過する溶融樹脂の平均速度が400±50mm/sとなる条件で射出成形を行い、ISOダンベル試験片を得た。得られたISOダンベル試験片を中央から2等分し、図4に示す接合面に対して表4に記載の照射時間で表面改質(ウシオ電機(株)製エキシマ装置Min-Excimer SUS713、光源:Xe、中心波長172nm、照度10mW/cm以上、照射距離10mm)を実施し、シリコーン系接合部剤との接合面積が200mmとなるように作成したスペーサー(厚さ:0.69mm、開口部:10mm×20mm)を2等分したISOダンベルの持ち手部分に挟み、クリップを用い固定した後、開口部にシリコーン樹脂(信越化学(株)製KE-1831)を注入し、熱風乾燥機中で105℃、1.5時間静置し、硬化・接合させた。23℃下で1日冷却後、スペーサーを外し、得られた試験片を用いて歪み速度1mm/min、支点間距離80mm、23℃下でインストロン社製引張試験機を用い引張破断強さを測定した。得られた値を接合面積で除した値を接合強度とした。
【0065】
[参考例1](PPS-1)
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.91kg(69.80モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、およびイオン交換水10.5kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14.78kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0066】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.48kg(71.27モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温した。270℃で100分反応した後、オートクレーブの底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0067】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0068】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、pHが7になるよう酢酸を添加した。オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0069】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。これをMFR値が150g/10分となるまで酸素気流下200℃で熱処理し、PPS-1を得た。得られたポリマーのMFRは130g/10min、分解ガス量は0.27重量%であった。
【0070】
[参考例2](PPS-2)
撹拌機および底栓弁付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.4g(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2925.0g(70.2モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)13860.0g(140.0モル)、酢酸ナトリウム1894.2g(23.1モル)、およびイオン交換水10500.0gを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14772.1gおよびNMP280.0gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
【0071】
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)10646.7g(72.4モル)、NMP6444.9g(65.1モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で70分保持した。オートクレーブ底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0072】
得られた固形物およびイオン交換水53リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ポアサイズ10~16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した60リットルのイオン交換水をポアサイズ10~16μmのガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してPPS樹脂ケーク18000g(その内PPS樹脂7550gが含まれる)を得た。
【0073】
前記PPS樹脂ケーク18000g、イオン交換水40リットル、および酢酸43gを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持して酸処理を施した。酸処理時のpHは7であった。オートクレーブ冷却後、内容物をポアサイズ10~16μmのガラスフィルターで濾過した。次いで、70℃に加熱した60リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下120℃で4時間乾燥し、酸処理を施した乾燥PPSを得た。
【0074】
さらに、得られたPPSを容積100リットルの撹拌機付き加熱装置に入れ、220℃、酸素濃度2%で2時間熱酸化処理を施し、PPS-2を得た。得られたポリマーのMFRは5000g/10分、分解ガスは0.60重量%であった。
【0075】
[参考例3](PPS-3)
撹拌機および底栓弁付きのオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.4g(70.0モル)、96%水酸化ナトリウム2925.0g(70.2モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)13860.0g(140.0モル)、酢酸ナトリウム1894.2g(23.1モル)、およびイオン交換水10500.0gを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14772.1gおよびNMP280.0gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
【0076】
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)10646.7g(72.4モル)、NMP6444.9g(65.1モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し、270℃で70分保持した。オートクレーブ底栓弁を開放し、窒素で加圧しながら内容物を撹拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0077】
得られた固形物およびイオン交換水53リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ポアサイズ10~16μmのガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した60リットルのイオン交換水をポアサイズ10~16μmのガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してPPS樹脂ケーク18000g(その内PPS樹脂7550gが含まれる)を得た。
【0078】
前記PPS樹脂ケーク18000g、イオン交換水40リットル、および酢酸43gを撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持して酸処理を施した。酸処理時のpHは7であった。オートクレーブ冷却後、内容物をポアサイズ10~16μmのガラスフィルターで濾過した。次いで、70℃に加熱した60リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下120℃で4時間乾燥し、酸処理を施した乾燥PPS-3を得た。得られたポリマーのMFRは6300g/10分、分解ガス量は1.0重量%であった。
【0079】
[参考例4]PPS-4
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0080】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.42kg(70.86モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0081】
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPS-4を得た。得られたPPS-4は、MFRが300g/10分、分解ガス量は0.43重量%であった。
【0082】
PPS樹脂組成物には以下の原材料を用いた。
(B)繊維状無機充填材
B:チョップドストランド(日本電気硝子(株)社製 T-747GH 3mm長 平均繊維径10μm)
(C)官能基含有オレフィン系共重合体
C-1:エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学(株)社製 “ボンドファースト”BF-E)
C-2:エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(アルケマ(株)社製“LOTADER“AX8750)
(C’)水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成(株)社製“タフテック”M1913)((C)官能基含有オレフィン系共重合体に該当しない化合物)。
【0083】
[PPS樹脂組成物の製造]
シリンダー温度を320℃、スクリュー回転数を400rpmに設定した、26mm直径の中間添加口を有する2軸押出機(東芝機械(株)製TEM-26)を用いて、参考例1~5で得たPPS樹脂(A)100重量部および(C)成分等の添加剤を表1に示す重量比で原料供給口から添加して溶融状態とし、(B)繊維状無機充填材を表1に示す重量比で中間添加口から供給し、吐出量30kg/時間で溶融混練してPPS樹脂組成物ペレットを得た。このペレットを用いて各特性を評価した。その結果を表1~4に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
接合部剤としてエポキシ樹脂1を使用した場合の結果を示す。
【0086】
実施例1~3と比較例1から、分解ガス量の多いPPS樹脂は250nm以下の単一波長を主成分とする紫外光による表面改質の影響を受けにくいことがわかる。
【0087】
実施例1、4~6から、官能基含有オレフィン系共重合体を添加した場合は紫外光による表面改質の効果が高くなることがわかる。
【0088】
実施例7、8と比較例4、5より、繊維状無機充填材の量にかかわらず表面改質の影響があることがわかる。
【0089】
【表2】
【0090】
接合部剤としてエポキシ樹脂2を使用した場合の結果を示す。
【0091】
実施例9~11と比較例6から、分解ガス量の多いPPS樹脂は紫外光による表面改質の影響を受けにくいことがわかる。
【0092】
実施例9、12~14より、官能基含有オレフィン系共重合体を添加した場合は紫外光による表面改質の効果が高くなることがわかる。
【0093】
比較例7や8のように、接合部剤を用いただけでは接合強度が弱い場合においても、表面改質を施すことで、実施例9や12のように十分な接合強度を示していることがわかる。
【0094】
実施例15、16と比較例9、10より、繊維状充填材の量にかかわらず表面改質の影響があることがわかる。
【0095】
実施例11と比較例11より、繊維状無機充填材がないと接合強度が十分でないことがわかる。
【0096】
【表3】
【0097】
接合部剤としてエポキシ樹脂3を使用した場合の結果を示す。
【0098】
実施例17~19より、官能基含有オレフィン系共重合体を添加した場合は紫外光による表面改質の効果が高くなることがわかる。
【0099】
実施例21、22と比較例14、15より、繊維状無機充填材の量にかかわらず表面改質の影響があることがわかる。
【0100】
比較例16~18より、繊維状無機充填材を配合しない場合、十分な強度を発現しないことがわかる。さらに、表面改質による総照射熱量および表面自由エネルギーが一定以上でなければ接合強度は高くならないことがわかる。
【0101】
【表4】
【0102】
接合部剤としてシリコーン樹脂を使用した場合の結果を示す。
【0103】
実施例23~25と比較例19より、分解ガス量の多いPPS樹脂を用いた場合は、紫外光による表面改質の影響を受けにくいことがわかる。
【0104】
実施例29、30と比較例22、23より、繊維状無機充填材の量にかかわらず表面改質の影響が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
かくして得られる接合部を含む成形品は、高い機械的強度や剛性、さらには良好な表面外観を維持したまま、各種接合部剤と高い接合強度を有しており、長期信頼性を獲得することが可能となるため、電気・電子部品の筐体などに非常に有用な技術であり、特にECUケースやセンサー類のカバー部品に有用に用いられる。
【符号の説明】
【0106】
1.半ダンベルの反ゲート側
2.半ダンベルのゲート側
3.ISOダンベル成形時のゲート部分
4.エポキシ接着時の接合面
5.エポキシ樹脂系接合部剤
6.シリコーン接着時の接合面
7.シリコーン樹脂系接合部剤
図1
図2
図3
図4
図5