(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】延伸ブロー多重構造容器
(51)【国際特許分類】
B65D 1/02 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
B65D1/02 111
(21)【出願番号】P 2020132676
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100222667
【氏名又は名称】河村 聡美
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 萩人
(72)【発明者】
【氏名】阿久沢 典男
(72)【発明者】
【氏名】市川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】飯野 裕喜
【審査官】佐藤 正宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-011739(JP,A)
【文献】特開2003-128892(JP,A)
【文献】特開2013-082485(JP,A)
【文献】特開2004-182304(JP,A)
【文献】特開2006-150823(JP,A)
【文献】特開平01-176554(JP,A)
【文献】特開2020-082730(JP,A)
【文献】特開2004-209696(JP,A)
【文献】特開2017-193345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離性界面を有する延伸ブロー多重構造容器において、該剥離性界面を構成する2つの層がポリエステル樹脂層であり、該ポリエステル樹脂層の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散されている
と共に、該非油脂系発音防止剤が、融点が30~100℃の脂肪酸エステルであることを特徴とする延伸ブロー多重構造容器。
【請求項2】
前記延伸ブロー多重構造容器が、外容器と該外容器内に挿入されて保持された内袋容器とからなり、該外容器と該内袋容器との間が前記剥離性界面となっている請求項1に記載の延伸ブロー多重構造容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸ブロー多重構造容器に関するものであり、より詳細には、剥離性界面を有する延伸ブロー多重構造容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、剥離性界面を有する延伸ブロー多重構造容器は、例えばエアレスボトルとして、醤油等の調味液が収容される容器として実用されている。かかるエアレスボトルは、逆止弁付のキャップと組み合わせで使用されるものであり、多重構造容器の最外層であるボトル(外容器)の胴部壁を外部からスクイズして凹ませることにより、内層である内袋容器に充填されている内容物がキャップに形成されている注出路から排出され、外容器の胴部壁の押圧を停止することにより内容物の排出を終了させると、逆止弁の作用により、空気は内袋容器には導入されず、キャップの注出路とは異なる流路を通って、内袋容器と外容器との間の空間に導入されることとなる。この時、内袋容器と外容器の間に存在する剥離性界面が剥離する。これにより、内袋容器は、内容物が排出された分だけ収縮することとなり、内容物を排出する毎に、内袋容器が収縮していく。このような方法により内容物が排出されるエアレスボトルでは、内容物を小出しできると共に、内容物が充填されている内袋容器への空気の侵入が有効に防止されるため、内容物の酸化劣化を有効に回避でき、内容物の鮮度を長期間にわたって保持できるという利点がある。
【0003】
ところで、上記のような多重構造は、内袋容器からの内容物の排出に際して、外容器の胴部をスクイズしたとき、特に容器がポリエステル製である場合、非常に大きな音が発生するという問題があった。かかる音は、騒音と感じるレベル、例えば70dB以上であり、場合によっては80dBを超える場合もあり、その改善が望まれている。
【0004】
特許文献1には、外容器の内面と内袋容器の外面との間に発音防止剤が分布している二重構造容器が開示されているが、発音防止性能や容器の製造方法については更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、剥離性界面を有する多重構造容器において、最外層である外容器をスクイズして内容物を排出する際の音の発生が有効に抑制された多重構造容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、剥離性界面を有する延伸ブロー多重構造容器において、該剥離性界面を構成する2つの層がポリエステル樹脂層であり、該ポリエステル樹脂層の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散されていると共に、該非油脂系発音防止剤が、融点が30~100℃の脂肪酸エステルであることを特徴とする延伸ブロー多重構造容器が提供される。
【0008】
尚、本発明において、外容器をスクイズしたときに発する音量レベルは、測定器としてサウンドレベルメータを使用し、多重構造容器の胴部外面と測定器との間隔を50cmに設定し、スクイズを10回繰り返して行ったときの最大音量である。
【0009】
本発明の延伸ブロー多重構造容器では、
(1)前記延伸ブロー多重構造容器が、外容器と該外容器内に挿入されて保持された内袋容器とからなり、該外容器と該内袋容器との間が前記剥離性界面となっていること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の剥離性界面を有する多重構造容器は、該剥離性界面を構成する2つの層の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散されている点に重要な特徴を有しており、これにより、多層構造容器の最外層である外容器をスクイズしたときの発音が効果的に抑制されている。例えば、発音防止剤を配合していない多重構造容器では、70dB以上の音を発するが、本発明では、後述する実施例に示されているように、この音が65dB以下に抑制されている。一般に、70dBを超えると人が大きな声で会話しているレベルの音量であり、うるさいと感じる。
【0011】
外容器の胴部をスクイズすることにより発生する音は、主に、スクイズにより凹んだ胴部壁が原形に復帰するときに生じるものであるが、これのみであれば、さほど大きな音は発生しない。例えば、単層ポリエステルボトルでは、このような大きな音は発生しない。しかしながら、剥離性界面を有する多重構造容器では、スクイズにより外容器と内袋容器との界面で摩擦が生じ、非常に大きな摩擦音、例えば70dB以上の音が発生するものと本発明者等は考えられている。以後このような界面を剥離性界面と呼ぶ。
本発明では、該剥離性界面を構成する2つの層の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散させておくことにより、上記の摩擦音が効果的に軽減され、スクイズに際して生じる音量レベルを65dB以下に抑制することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の多重構造容器の成形直後における概略側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の概略図を参照して本発明の多重構造容器について説明する。
図1には、外容器1(層X)と内袋容器3(層Y)から成る二重構造容器が示されているが、本発明の多重構造容器は剥離性界面さえ有していれば三重構造以上でもよく、層の数は限定されない。
【0014】
図1において、本発明の多重構造容器は全体として10で示されており、外容器1の内部には内袋容器3が収容されており、外容器1(層X)と内袋容器3(層Y)により剥離性界面5が構成されている。そして、該剥離性界面5を構成する外容器1(層X)と内袋容器3(層Y)の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散している。
【0015】
図1において、外容器1は、首部1a、首部1aに連なる胴部1b及び胴部1bの下端を閉じている底部1cとから形成されており、胴部1b及び底部1cがブロー延伸されている部分であり、首部1aは、ブロー延伸されていない固定部であり、ブロー延伸による薄肉化はされていない。外容器1の胴部1bは、スクイズ操作により押圧されると内方に撓んで変形し、押圧が解除されると押圧前の原形に復元するように形成される。
【0016】
一方、内袋容器3は、非延伸部である首部3aと、ブロー延伸されて袋状に薄肉となっている袋部3bとを有しており(通常、その厚みは200μm以下である)、成形後内容物排出前の段階では、袋部3bの外面は、外容器1の胴部1b及び底部1cの内面に密着し、剥離性界面5を形成している。
内袋容器3の首部3aは、外容器1の首部1aに固定される。内容器3の口部3の上端部には、内容物を注出するための開口部が設けられる。外容器1の首部1aの外面には、逆止弁付きのキャップが装着される。キャップは、開口部を上方から覆うと共に、外気導入孔(空気導入孔)7を径方向外方から覆うように装着される。
【0017】
また、
図1の例では、外容器1の首部1aの外面にサポートリング1dが形成されている。 外容器1の首部1aには、外気導入孔7が設けられる。外気導入孔7は、スクイズ操作による内容物の注出に伴って、外容器1と内容器3との間の空間に外気を導入するための孔である。なお、外気導入孔は、外容器1の首部1aと内袋容器3の首部3aとが固定される部分にスリットとして設けられてもよい。
【0018】
本発明において、上述した外容器1(層X)は、ブロー成形可能なポリエステル樹脂により形成されており、このようなポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等が挙げられる。勿論、成形性が損なわれない限り、これらのポリエステル樹脂のブレンド物を使用することもできる。
【0019】
また、本発明において、剥離性界面5を構成する2つの層がポリエステル樹脂層であればよく、それ以外のポリエステル樹脂でない層が含まれていてもよい。
【0020】
しかるに、本発明において、好適に使用されるポリエステル樹脂は、外容器1の胴部1bをスクイズして凹ませたとき、速やかに原形に復帰し得るような強度を確保できるという点で、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0021】
さらに、内袋容器3(層Y)は、外容器1(層X)と同様、ブロー成形可能なポリエステル樹脂により形成される。
多層構造容器10では、内容物の排出に際して、外容器1の胴部1bと内袋容器3の袋部3bとの間に剥離性界面5を形成する必要であるため、通常、内袋容器3形成用樹脂としては、外容器1に対して速やかに剥離し得るようなものが好適に使用される。しかし、本発明においては、該剥離性界面を構成する外容器1(層X)と内袋容器3(層Y)の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散しているため、外容器1の樹脂と内袋容器3の樹脂が同種であっても何ら差し支えなく、むしろ、ブロー延伸条件の設定が容易であることから、両者は同種であることが好ましい。
従って、外容器1をPETで形成することが好ましいと前述したが、これに伴い、内袋容器3もPETで形成されていることが好適である。
【0022】
本発明の延伸ブロー多重構造容器では、剥離性界面を構成する2つの層の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散している。
図1でいうと、外容器1(層X)と内袋容器3(層Y)の少なくとも何れか一方に非油脂系発音防止剤が分散している。このような発音防止剤は、層に分散された剤の一部が層表面にブリーディングすることで発音防止性能を発揮する。
ここで、「油脂」とはグリセリンと脂肪酸のエステルのことであり、通常はトリグリセリドの形態(グリセリンの3つのOH基が全てエステル化されている形態)をとるものを指す。油脂系の発音防止剤にはブリーディング性の低さという課題があるが、これは、3つのOH基が全てエステル化されていることによる嵩高さが要因の一つであると考えられる。
【0023】
本発明者らの検討の結果、後述する実施例にも示されている通り、非油脂系発音防止剤は、油脂系発音防止剤と比して層表面にブリーディングしやすいことがわかった。
本発明における「非油脂」系発音防止剤とは、トリグリセリド以外の発音防止剤のことを指し、具体的には、グリセリン以外のアルコールと脂肪酸とのエステルや、アミンと脂肪酸とのアミド等のことを指す。非油脂系発音防止剤がブリーディング性に優れるメカニズムは未だ明らかになってはいないが、嵩の小ささや極性等が寄与しているものと考えられる。
【0024】
本発明の非油脂系発音防止剤は直鎖状の構造であることが好ましい。直鎖状の発音防止剤であれば嵩が小さく層表面に移動しやすいためである。直鎖状の構造としては、モノアルコールもしくはジオール由来の脂肪酸エステル、脂肪酸モノアミドまたは脂肪酸ビスアミド等が挙げられる。
具体的にはパルミチン酸セチル、オレイン酸アミド等が挙げられ、これらを用いることが好ましい。
【0025】
この非油脂系発音防止剤は、後述する実施例に示されているように、延伸ブロー多重構造容器10の外容器1(層X)の胴部1bをスクイズしたときに発する音量が65dB以下に抑制し得るような剤である。
【0026】
剥離性界面を構成する層に非油脂系発音防止剤を分散させるための手段としては、層を形成するポリエステル樹脂中に非油脂性発音防止剤を配合しておき、延伸ブロー時にブリーディングさせる内添法が挙げられる。
非油脂性発音防止剤の内添量としては、ポリエステル樹脂10gあたり0.005g以上が好適であり、0.01g以上がより好適である。内添量がこれより少ないと発音防止性能が不十分になる虞がある。また、ポリエステル樹脂10gあたり2g以下が好適であり、1g以下がより好適である。内添量をこれより多くしても発音防止性能が改善されるというわけではなく、むしろ内容物の味や香りを損ねてしまうなる虞がある。
【0027】
非油脂系発音防止剤として用いる剤は発音防止効果や取り扱いの観点から、融点が30~100℃であることが好適であり、40~70℃であることがより好適である。すなわち、多重構造容器の使用環境下において固体状態で存在し且つブロー成形時には分子運動が活発になりブリーディングしやすくなるような融点を有することが好ましい。例えば、室温で液体である剤は、ブリーディング性には優れるものの、自重により流動してしまい発音防止効果が損なわれる懸念があるためである。
【0028】
非油脂系発音防止剤として用いる剤は発音防止効果の観点から脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0029】
本発明の剥離防止剤はブリーディング性に優れるため、剤をプリフォーム表面にコーティングする必要がない。ゆえに、プリフォームへの発音防止剤コーティング工程を省略することができ、あらゆる延伸ブロー成形方法を適用することができる。
剤をコーティングする必要がある場合、外容器成形用プリフォームと内袋容器成形用プリフォームを別々に成形し、何れかの表面に発音防止剤をコーティングする必要があるためにオーバーモールド法が適用できない等の製造方法に制限ができてしまう問題がある。一方、本発明の容器の場合、製造方法に制限はなく、プリフォームインボトル法、共押出法、共射出法等あらゆる延伸ブロー成形によって製造される。
例えば、オーバーモールド法により、多重構造容器用のプリフォームを成形し、これを延伸ブロー成形する方法であっても、
図1の容器であれば、外容器(層X)用プリフォームもしくは内袋容器(層Y)用プリフォームの少なくとも何れか一方に発音防止剤を内添しておけば、ブリーディングにより発音防止剤を層Xもしくは層Yの表面に分布させることができる。
【0030】
上記のようにして製造された本発明の多重構造容器10は、内袋容器3の袋部3bに内容物を収容した後、この外容器1の首部1aに、それ自体公知の逆止弁付キャップを装着して使用に供される。
【0031】
このような本発明の多重構造容器10では、内袋容器3に充填された内容物は、例えば、外容器1の胴部1b(スクイズ領域)をスクイズ(押圧)することにより、押圧されて凹んだ分ずつ排出されていき、内容物が排出されて内袋容器3の袋部3bが減容するが、その分外気導入孔7から袋部3bと外容器1の胴部1bの内面との間に空気が導入されて空気層が形成されるため、その後の内容物の排出も有効に行われる。
このようなスクイズによる内容物の排出作業を行ったとき、本発明では、スクイズに伴う発音が65dB以下に抑制されており、従来公知の多重構造容器には全く認められない効果が得られる。
【実施例】
【0032】
本発明の優れた効果を次の実験例で説明する。
本測定にはサウンドレベルメータ(株式会社カスタム製 SL―1370)を使用し、環境ノイズが50dB以下の室内において多重構造容器の胴部外面と測定器との間隔を50cmに設定した。多重構造容器に水を200mL充填した状態でスクイズし、水30mLを吐出させたときの音量を測定し、これを10回行い最大音量を評価した。
【0033】
(実験例1)
除湿乾燥機で十分乾燥させた市販のボトル用PET樹脂(固有粘度:0.84dl/g)を射出成形機のホッパーへ供給し、外容器成形用の試験管形状の第1プリフォームと、内袋容器成形用の試験管形状の第2プリフォームを得た。
【0034】
上記の第1プリフォームに第2プリフォームを挿入し、スタックプリフォームを得た。さらに、クオーツヒータ及び加熱用鉄芯を用いてスタックプリフォームを加熱し、ブロー成形を行うことで満中容量約250mLの円筒形状二重構造容器を得た。
得られた二重構造容器のスクイズ部の平均膜厚を測定した結果、外容器が351μm、内袋容器が89μmであった。
二重構造容器をスクイズし発音を測定した結果、最大音量は71dBであり、うるさいと感じるレベルの音量であった。
【0035】
(実験例2)
除湿乾燥機で十分乾燥させた市販のボトル用PET樹脂(固有粘度:0.84dl/g)10gに対し、市販のパルミチン酸セチル(融点48℃)を0.01g混ぜたものを射出成形機のホッパーへ供給し、内袋容器成形用の試験管形状の第3プリフォームを得た。実験例1と同様に成形した第1プリフォームに第3プリフォームを挿入し、実験例1と同様にブロー成形した。得られた二重構造容器に対してスクイズ部の平均膜厚を測定した結果、外容器が348μm、内袋容器が109μmであった。
二重構造容器をスクイズし発音を測定した結果、最大音量は62dBであり、スクイズによる発音が効果的に抑制されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0036】
1:外容器(層X)
3:内袋容器(層Y)
5:剥離性界面
7:外気導入孔
10:多重構造容器