(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】赤外線画像処理装置、赤外線撮像システム、及び赤外線画像処理方法
(51)【国際特許分類】
G01J 1/44 20060101AFI20240509BHJP
G01J 1/42 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G01J1/44 E
G01J1/44 D
G01J1/42 B
G01J1/44 N
(21)【出願番号】P 2020134473
(22)【出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】308036402
【氏名又は名称】株式会社JVCケンウッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】土屋 圭二
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 潤
(72)【発明者】
【氏名】石渡 忠司
(72)【発明者】
【氏名】中明 靖文
(72)【発明者】
【氏名】林 啓太
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-185465(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157723(WO,A1)
【文献】特開2005-236550(JP,A)
【文献】特開2004-144715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/42 - G01J 1/46
G01J 1/02
G01J 5/02
G01J 5/10 - G01J 5/24
G01J 5/34 - G01J 5/35
G01J 5/48
G01J 5/70
G01K 7/00 - G01K 7/30
G01D 3/00 - G01D 3/028
H04N 5/30 - H04N 5/33
H04N 23/11
H04N 23/20 - H04N 23/30
H04N 25/00
H04N 25/20 - H04N 25/61
H04N 25/615- H04N 25/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線撮像装置から赤外線画像を取得する画像取得部と、
前記赤外線撮像装置に含まれる赤外線検出素子の環境温度を取得する温度取得部と、
前記赤外線検出素子の環境温度に対する感度特性と、取得した環境温度をもとに、前記感度特性を補正する感度特性補正部と、を備え、
前記感度特性は、前記赤外線画像の輝度信号が飽和しないように、異なる温度範囲で分割された複数の感度特性として定義されており、
温度範囲が隣接する2つの感度特性の対応する環境温度が高い方を第1感度特性、対応する環境温度が低い方を第2感度特性とするとき、
前記感度特性補正部は、前記第1感度特性と前記第2感度特性の切替地点の温度における前記第2感度特性の感度より、前記第1感度特性の感度が低い温度範囲において、前記第1感度特性の感度を、前記切替地点の温度における前記第2感度特性の感度に
一致させるように補正する、
赤外線画像処理装置。
【請求項2】
前記赤外線検出素子は、赤外線の吸収に伴う温度変化を電気信号に変換する熱型の検出素子である、
請求項
1に記載の赤外線画像処理装置。
【請求項3】
赤外線撮像装置と、
請求項1
または2に記載の赤外線画像処理装置と、
を備える赤外線撮像システム。
【請求項4】
赤外線撮像装置から赤外線画像を取得するステップと、
前記赤外線撮像装置に含まれる赤外線検出素子の環境温度を取得するステップと、
前記赤外線検出素子の環境温度に対する感度特性と、取得した環境温度をもとに、前記感度特性を補正するステップと、を有し、
前記感度特性は、前記赤外線画像の輝度信号が飽和しないように、異なる温度範囲で分割された複数の感度特性として定義されており、
温度範囲が隣接する2つの感度特性の対応する環境温度が高い方を第1感度特性、対応する環境温度が低い方を第2感度特性とするとき、
前記補正するステップは、前記第1感度特性と前記第2感度特性の切替地点の温度における前記第2感度特性の感度より、前記第1感度特性の感度が低い温度範囲において、前記第1感度特性の感度を、前記切替地点の温度における前記第2感度特性の感度に
一致させるように補正する、
赤外線画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線画像の感度を補正する赤外線画像処理装置、赤外線撮像システム、及び赤外線画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠赤外線カメラでは、赤外線の吸収に伴う温度変化を電気信号に変換する熱型の検出素子が多く使用されている。熱型の検出素子には、ボロメータ型、サーモパイル型、焦点型がある。ボロメータは、赤外線の吸収に伴う温度変化を抵抗変化として検出する素子であり、構造が単純で微細化に適している。アモルファスシリコン(a-Si)や酸化バナジウム(VOx)を使用したマイクロボロメータが普及している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
マイクロボロメータの感度は環境温度依存性が高い。マイクロボロメータを使用した一般的な遠赤外線カメラでは、環境温度に対する感度特性から、測定した環境温度に応じたゲインを特定し、輝度信号を補正している。一つの感度曲線で全ての温度範囲の感度を調整する場合、輝度信号の範囲が広くなりすぎ、輝度信号のダイナミックレンジに収まらない場合が発生する。特に車載用途では、要求される温度範囲が広く、例えば、-40℃から+80℃程度のサポート範囲を要求される場合もある。
【0004】
そこで輝度信号のダイナミックレンジが圧縮されるように、一つの感度曲線を複数に分割し、全体の感度範囲が狭まるように、分割された複数の感度曲線を中央部に寄せることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように分割された複数の感度曲線を使用する場合、感度曲線の切り替わり地点で感度の大きな差が発生する。この感度差により、感度曲線が切り替わる際、ユーザに違和感を与える程度に、画像に不自然な変化が発生することがあった。
【0007】
本実施形態はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、赤外線検出素子の環境温度に対する感度調整に起因する画質低下を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本実施形態のある態様の赤外線画像処理装置は、赤外線撮像装置から赤外線画像を取得する画像取得部と、前記赤外線撮像装置に含まれる赤外線検出素子の環境温度を取得する温度取得部と、前記赤外線検出素子の環境温度に対する感度特性と、取得した環境温度をもとに、前記感度特性を補正する感度特性補正部と、を備える。前記感度特性は、前記赤外線画像の輝度信号が飽和しないように、異なる温度範囲で分割された複数の感度特性として定義されており、温度範囲が隣接する2つの感度特性の対応する環境温度が高い方を第1感度特性、対応する環境温度が低い方を第2感度特性とするとき、前記感度特性補正部は、前記第1感度特性と前記第2感度特性の切替地点の温度における前記第2感度特性の感度より、前記第1感度特性の感度が低い温度範囲において、前記第1感度特性の感度を、前記切替地点の温度における前記第2感度特性の感度に一致させるように補正する。
【0009】
本実施形態の別の態様は、赤外線画像処理方法である。この方法は、赤外線撮像装置から赤外線画像を取得するステップと、前記赤外線撮像装置に含まれる赤外線検出素子の環境温度を取得するステップと、前記赤外線検出素子の環境温度に対する感度特性と、取得した環境温度をもとに、前記感度特性を補正するステップと、を有する。前記感度特性は、前記赤外線画像の輝度信号が飽和しないように、異なる温度範囲で分割された複数の感度特性として定義されており、温度範囲が隣接する2つの感度特性の対応する環境温度が高い方を第1感度特性、対応する環境温度が低い方を第2感度特性とするとき、前記補正するステップは、前記第1感度特性と前記第2感度特性の切替地点の温度における前記第2感度特性の感度より、前記第1感度特性の感度が低い温度範囲において、前記第1感度特性の感度を、前記切替地点の温度における前記第2感度特性の感度に一致させるように補正する。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本実施形態の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本実施形態の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態によれば、赤外線検出素子の環境温度に対する感度調整に起因する画質低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る赤外線撮像システムの構成を示す図である。
【
図2】複数に分割された感度曲線の一例を示す図である。
【
図3】第1感度曲線の補正後の複数の感度曲線を示す図である。
【
図4】第1感度曲線と第2感度曲線の補正後の複数の感度曲線を示す図である。
【
図5】第1感度曲線の別の補正後の複数の感度曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る赤外線撮像システム1の構成を示す図である。実施の形態に係る赤外線撮像システム1は、赤外線撮像装置10及び赤外線画像処理装置20を備える。本実施の形態では赤外線撮像装置10として、8um~14umの遠赤外線を撮像する遠赤外線画像撮像装置を想定する。遠赤外線は近赤外線と異なり、光源を設けなくても撮像することが可能である。
【0014】
赤外線撮像装置10は、マイクロボロメータ11、アンプ12、ADコンバータ13、サーミスタ14及びADコンバータ15を含む。本実施の形態では遠赤外線検出素子として、マイクロボロメータ11を使用する例を想定する。
【0015】
マイクロボロメータ11は、非冷却型の熱型検出素子である。マイクロボロメータ11は、二次元格子状(例えば、640×480、1024×768)に複数のボロメータが配置されたFPA(Focal Plane Array)を含む。一画素を構成する一つのボロメータは、アモルファスシリコンや酸化バナジウムで形成された吸収層を有する。吸収層に遠赤外線が入射すると、吸収層の温度が変化し、吸収層の抵抗値が変化する。吸収層の2ヶ所の電極に所定の電圧を印加することにより、吸収層の抵抗値の変化を電流値の変化として検出する。各ボロメータの電流値は電圧に変換されて、電気信号で規定された各画素の輝度信号として出力される。
【0016】
アンプ12は、各画素から出力される電圧を所定のゲインで増幅する。ADコンバータ13は、アンプ12で増幅された各画素のアナログ電圧を、所定のサンプリング周期でデジタル値に変換する。本実施の形態では14ビットのデジタル値に変換する。
【0017】
赤外線撮像装置10は、各画素が14ビットの輝度信号で規定された赤外線熱画像を、赤外線画像処理装置20に出力する。なお、より高精細な熱画像を生成したい場合は、各画素から出力されるアナログ電圧を16ビット以上のデジタル値に変換してもよい。反対に低コストの構成にしたい場合は、12ビット以下のデジタル値に変換してもよい。
【0018】
サーミスタ14は、マイクロボロメータ11の近傍に設置され、マイクロボロメータ11の周囲の環境温度を測定するための温度検出素子である。マイクロボロメータ11の周囲の温度は、マイクロボロメータ自体の温度に加えて、マイクロボロメータの前段に配置されたレンズ(不図示)の温度などの影響を受ける。
【0019】
サーミスタ14は抵抗素子と直列接続され、環境温度の変化が分圧電圧の変化として検出される。ADコンバータ15は、環境温度に対応するアナログ電圧をデジタル値に変換する。赤外線撮像装置10は、測定された環境温度を赤外線画像処理装置20に出力する。
【0020】
なお、サーミスタ14は必ずしも赤外線撮像装置10内に設置されている必要はなく、マイクロボロメータ11の周囲温度を推定できる位置であれば、赤外線撮像装置10の外に設置されてもよい。またサーミスタ14は温度検出素子の一例であり、熱電対などの他の温度検出素子を使用してもよい。
【0021】
赤外線画像処理装置20は、画像取得部21、欠陥画素補正部22、不均一補正部23、感度調整部24、オートゲインコントロール部25、温度取得部26及び感度特性補正部27を含む。これらの構成要素は、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働、又はハードウェア資源のみにより実現できる。ハードウェア資源として、CPU、ROM、RAM、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ISP(Image Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、その他のLSIを利用できる。ソフトウェア資源としてファームウェア等のプログラムを利用できる。
【0022】
画像取得部21は、赤外線撮像装置10から赤外線画像を取得する。欠陥画素補正部22は、FPAにおいて異常が発生している欠陥画素の輝度信号を、当該欠陥画素の周囲の正常画素から生成した補間データを用いて補正する。
【0023】
一般的なマイクロボロメータ11では、画素ごとにゲインとオフセットが不均一な状態になっている。不均一補正部23は、画素間のゲインとオフセットの不均一を補正する。例えば、外部からの入射光を遮断した状態で、黒体のシャッタを用いてマイクロボロメータ11に一様な遠赤外線を照射し、マイクロボロメータ11内の全画素の出力が一定になるように、各画素のゲインとオフセットを導出して補正テーブルを生成する。不均一補正部23は、当該補正テーブルを参照して、各画素のゲインとオフセットを調整する。
【0024】
感度調整部24は、マイクロボロメータ11の環境温度に対する感度特性にもとづき、各画素の輝度信号のゲインを調整して赤外線画像の感度を調整する。環境温度に対する感度特性の詳細は後述する。
【0025】
オートゲインコントロール部25は、赤外線撮像装置10から出力された赤外線画像のデジタル信号フォーマットを、出力用の画像信号フォーマットに変換する。多くの映像機器のデジタル信号フォーマットでは、8ビット(256階調)が採用されている。人間の目が識別できる輝度の分解能は、7ビット(128階調)前後である。これに対して本実施の形態では、赤外線撮像装置10が出力する赤外線画像のデジタル信号フォーマットとして、14ビット(16384階調)を採用している。
【0026】
本実施の形態では、オートゲインコントロール部25は、赤外線撮像装置10から出力された14ビットのグレースケールの赤外線画像を、8ビットのグレースケールの赤外線画像に変換する。具体的には、オートゲインコントロール部25は14ビットの輝度信号を、線形曲線またはヒストグラム平坦化曲線を使用して、8ビットの輝度信号にマッピングする。
【0027】
赤外線撮像装置10から出力された赤外線画像のコントラストが低い場合、輝度ヒストグラムが特定の範囲に集中した形状になる。この場合、オートゲインコントロール部25は、輝度ヒストグラムのピークを下げて両側に広げることにより、輝度ヒストグラムを平坦化する。オートゲインコントロール部25は、平坦化した14ビットの輝度信号を8ビットの輝度信号にマッピングする。これにより、赤外線画像のコントラストが改善する。
【0028】
また、赤外線撮像装置10から出力された赤外線画像のコントラストが高い場合であって、輝度ヒストグラムに平坦領域が発生している場合、オートゲインコントロール部25は、当該平坦領域を除いて、14ビットの輝度信号を8ビットの輝度信号にマッピングする。例えば、平坦な背景に小さな高温の物体が存在するシーンでは、輝度ヒストグラムは中央部が平坦な形状になる。この場合、平坦な中央部を除いてマッピングすることにより、赤外線画像のコントラストを改善することができる。
【0029】
オートゲインコントロール部25により、8ビットのグレースケールに変換された赤外線画像は、図示しないモニタに出力されて表示される。また、図示しない記録媒体に出力されて記録媒体に記録される。なお記録媒体に記録される場合、所定の圧縮符号化規格にしたがい、さらにデータ量が圧縮されて記録されてもよい。また、図示しない画像認識エンジンに出力され、赤外線画像内から所定のオブジェクト(例えば、人物)の検出処理が実施される。
【0030】
温度取得部26は、赤外線撮像装置10からマイクロボロメータ11の環境温度を取得する。感度特性補正部27は、マイクロボロメータ11の環境温度に対する感度特性を、取得されたマイクロボロメータ11の環境温度に応じて補正することができる。感度特性は、マイクロボロメータ11で実際に取得された赤外線画像を、マイクロボロメータ11の環境温度が一定の標準温度にあるとみなされる疑似的な赤外線画像に変換するための変換特性である。
【0031】
設計者は、予めマイクロボロメータ11の環境温度と、マイクロボロメータ11が出力する輝度信号との関係を、実験やシミュレーションにもとづき導出する。設計者は、マイクロボロメータ11の環境温度が標準温度のときの輝度信号の値を設定する。設計者は、マイクロボロメータ11の環境温度に関わらず、輝度信号の値が標準温度のときの値になるように、各環境温度において輝度信号に掛けるべきゲイン値を決定する。生成された感度特性は、テーブルとして記述されてもよいし、関数として記述されてもよい。
【0032】
感度調整部24は、テーブルまたは関数で記述された感度特性に、温度取得部26が取得した環境温度を適用してゲイン値を取得し、取得したゲイン値を赤外線画像の全画素の輝度信号に掛けて、赤外線画像の感度を調整する。
【0033】
上述のようにマイクロボロメータ11の感度は環境温度依存性が高い。一つの感度曲線を使用して輝度信号の感度を調整する場合、感度調整後の輝度信号の範囲が大きく広がる。特に車載用途では環境温度が広く、状況によっては、-40℃や+80℃のような環境温度になる可能性もある。本実施の形態のように14ビット(16384階調)の分解能で輝度を定義しても、感度調整後の輝度信号が低温側または高温側に飽和する可能性がある。その場合、画像内に黒潰れや白飛びが発生する。
【0034】
そこで赤外線画像の輝度信号が飽和しないように、一つの感度曲線を複数に分割して、全体の感度範囲が狭まるように、複数の感度曲線を感度範囲の中央部に寄せることが考えられる。
【0035】
図2は、複数に分割された感度曲線の一例を示す図である。
図2では、高温用の第1感度曲線SC1、中温用の第2感度曲線SC2、低温用の第3感度曲線SC3の3本が用意されている。環境温度が大きく変化する場合、高温用の第1感度曲線SC1と中温用の第2感度曲線SC2間で、または中温用の第2感度曲線SC2と低温用の第3感度曲線SC3間で、感度曲線を切り替える必要が発生する。感度曲線の切り替わり時に、感度が大きく変化する。
【0036】
この感度の変化により、ユーザに違和感を与える程度に、赤外線画像が不自然に変化する。例えば、感度曲線間の切り替えにより感度が急低下すると急に画像が暗くなるか、階調が粗くなる。オートゲインコントロール部25が、感度低下に伴う輝度ヒストグラムの範囲縮小に応じて、輝度信号のダイナミックレンジを拡大した場合、画像の階調が粗くなる。ダイナミックレンジを拡大しない場合は、画像が暗くなる。感度曲線間の切り替えにより感度が急上昇する場合は、逆の現象になる。
【0037】
本実施の形態では、この感度曲線間の感度差による画質低下を抑制する仕組みを導入している。感度特性補正部27は、第1感度曲線SC1と第2感度曲線SC2の第1切替地点の温度における第2感度曲線SC2の感度より、第1感度曲線SC1の感度が低い温度範囲において、第1感度曲線SC1の感度を、第1切替地点の温度における第2感度曲線SC2の感度に近づけるように第1感度曲線SC1を補正する。例えば、第1切替地点の温度における第2感度曲線SC2の感度に一致させるように第1感度曲線SC1を補正する。
【0038】
図3は、第1感度曲線SC1の補正後の複数の感度曲線を示す図である。まず、第1切替温度における、第1感度曲線SC1上のb点と、第2感度曲線SC2上のc点の感度差を無くすため、下記(式1)に示すように係数αを求める。
α=c点感度/b点感度 ・・・(式1)
【0039】
次に、第1感度曲線SC1における、環境温度と感度との関係を規定するための係数βを求める。
β=(a点感度-b点感度)/ΔT1 ・・・(式2)
ΔT1=a点温度-b点温度
【0040】
図3に示す第1感度曲線SC1は直線とみなせるため、係数βは一次関数の傾きとして導出される。なお、第1感度曲線SC1が直線とみなせない場合、係数βは曲線関数の係数として導出される。
【0041】
補正後の感度は、下記(式3)に示すように求める。
補正後の感度=補正前の感度*α-β*ΔT2 ・・・(式3)
補正前の感度は、第1感度曲線SC1の補正前の感度を示す。
ΔT2=(測定された環境温度)-(第1切替温度)
ΔT2>0
【0042】
第1感度曲線SC1において、第2感度曲線SC2のc点感度と同じd点感度より高い領域では、補正せずにそのままの感度を使用する。
【0043】
第2感度曲線SC2の補正も第1感度曲線SC1の補正と同様である。即ち、感度特性補正部27は、第2感度曲線SC2と第3感度曲線SC3の第2切替地点の温度における第3感度曲線SC3の感度より、第2感度曲線SC2の感度が低い温度範囲において、第2感度曲線SC2の感度を、第2切替地点の温度における第3感度曲線SC3の感度に近づけるように第2感度曲線SC2を補正する。例えば、第2切替地点の温度における第3感度曲線SC3の感度に一致させるように第2感度曲線SC2を補正する。
【0044】
図4は、第1感度曲線SC1と第2感度曲線SC2の補正後の複数の感度曲線を示す図である。第1感度曲線SC1、第2感度曲線SC2、第3感度曲線SC3の実線部分が、実際に使用される感度を示している。
【0045】
補正される温度領域の感度は、補正前の感度より大きくなる。この感度の増加によりノイズも増加する。このノイズの増加により画像内のノイズが目立つようになる場合、補正の程度を緩めてもよい。
【0046】
図5は、第1感度曲線SC1の別の補正後の複数の感度曲線を示す図である。補正の程度を緩める場合、補正後の感度は、下記(式4)に示すように求める。
補正後の感度=補正前の感度*α-{A*(β*ΔT2)-B} ・・・(式4)
【0047】
係数Aの値と切片Bの値は、上記(式4)の補正後の感度がe点とd点を通るように導出される。
図5に示す例では、切片Bは、(c点感度-b点感度)/2に設定され、切片の低下に応じて傾きが急になるように係数Aが設定される。切片Bの値を小さく設定するほど感度曲線間の感度差が小さくなり、切片Bの値を大きく設定するほどノイズの増加を抑制できる。
【0048】
感度特性補正部27により感度特性が補正された場合、感度調整部24は、補正後の感度特性に、温度取得部26が取得した環境温度を適用してゲイン値を取得し、取得したゲイン値を赤外線画像の全画素の輝度信号に掛けて、赤外線画像の感度を調整する。
【0049】
なお、感度特性補正部27により補正された感度特性と、温度取得部26が取得した環境温度をもとに特定されるゲイン値は、赤外線撮像装置10内のアンプ12のゲイン値として使用されてもよい。この場合、アンプ12は可変アンプで構成される。当該可変アンプは、マイクロボロメータ11から出力されるアナログ電圧を、ADコンバータ13の入力電圧範囲で正規化された、感度調整用のゲイン値で増幅する。この場合、感度調整部24では固定のゲイン値を使用する。
【0050】
以上説明したように本実施の形態によれば、広範囲の環境温度に対する感度調整を可能にしつつ、感度調整に起因する画質低下を抑制することができる。即ち、複数の感度曲線を使用することにより全体の感度範囲を狭めつつ、複数の感度曲線の切り替わり時の感度差を縮小するように感度曲線を補正することにより、感度曲線の切り替わり時に発生する画質低下を抑制することができる。これにより、感度曲線の切り替わり時における、ユーザによる視点性の低下を抑制することができる。また、感度曲線の切り替わり時における、画像認識処理の誤検出を抑制するこれができる。
【0051】
また、赤外線撮像装置10内のアンプ12で感度調整する場合、ADコンバータ13の入力電圧範囲を狭めることができ、ADコンバータ13の回路面積とコストを削除することができる。
【0052】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0053】
上記実施の形態では、3本の感度曲線を使用する例を説明した。この点、感度曲線の数は3に限るものではなく、2であってもよいし、4以上であってもよい。
【0054】
また上記記実施の形態では、熱型の遠赤外線検出素子としてマイクロボロメータ11を使用する例を説明した。この点、サーモパイルまたは焦点素子を用いた遠赤外線検出素子にも、上記実施の形態に係る感度特性の補正制御を適用可能である。
【0055】
また、上記実施の形態に係る感度特性の補正制御の有効または無効を、所定の条件に応じて切り替えてもよい。例えば、所定の条件として、赤外線撮像装置10の用途、設置場所の環境、仕向地、季節、天気などを使用することができる。
図2に示した感度特性では、中温用の第2感度曲線SC2で0~40℃の範囲の感度調整が可能である。この0~40℃の範囲を、環境温度が逸脱しないと予測される場合、感度特性の補正制御を無効に設定する。
【0056】
例えば、車載用途では感度特性の補正制御を有効に設定し、温暖な地域の屋内に設置される監視カメラ用途では感度特性の補正制御を無効に設定する。車載用途であっても、仕向地が温暖な地域であり、かつ赤外線撮像装置10が熱がこもりにくい場所に設置される場合、感度特性の補正制御を無効に設定してもよい。また、外部サーバから取得される季節情報、時間帯情報、天気予報情報などに応じて、感度特性の補正制御の有効または無効を動的に切り替えてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 赤外線撮像システム、 10 赤外線撮像装置、 11 マイクロボロメータ、 12 アンプ、 13 ADコンバータ、 14 サーミスタ、 15 ADコンバータ、 20 赤外線画像処理装置、 21 画像取得部、 22 欠陥画素補正部、 23 不均一補正部、 24 感度調整部、 25 オートゲインコントロール部、 26 温度取得部、 27 感度特性補正部。