(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】作業車操作システム、作業車の操作方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B66F 9/24 20060101AFI20240509BHJP
B66F 11/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B66F9/24 T
B66F11/04
(21)【出願番号】P 2020138388
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131152
【氏名又は名称】八島 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100145229
【氏名又は名称】秋山 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100201352
【氏名又は名称】豊田 朝子
(72)【発明者】
【氏名】三木 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 洋三
(72)【発明者】
【氏名】河合 清孝
(72)【発明者】
【氏名】白川 友理
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-021099(JP,A)
【文献】特開2016-039448(JP,A)
【文献】特開2010-262563(JP,A)
【文献】特開2014-162449(JP,A)
【文献】実開平07-019299(JP,U)
【文献】国際公開第2019/123563(WO,A1)
【文献】特開2006-021897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66F 9/00-11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯端末に設けられた、作業車を操作するための操作部と、
前記携帯端末に設けられた加速度センサが測定した3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出する端末加速度算出部と、
前記作業車に設けられた姿勢検出センサが検出した旋回台及びブームの姿勢から該姿勢の変化を求め、求めた該姿勢の変化に基づいて前記ブームの先端に設けられた作業床の加速度を算出する作業床加速度算出部と、
前記端末加速度算出部が算出した前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床加速度算出部が算出した前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定する判定部と、
前記判定部が前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定した場合に、前記操作部による前記作業車の操作を規制する操作規制部と、
を備える作業車操作システム。
【請求項2】
前記端末加速度算出部は、前記携帯端末の姿勢から前記加速度センサの3軸の向きを求め、求めた前記3軸の向きと前記加速度センサの前記3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出する、
請求項1に記載の作業車操作システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合、かつ前記姿勢検出センサが検出した前記旋回台及び前記ブームの姿勢に基づいて求めた前記作業床の高さが閾値よりも大きい場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定する、
請求項1又は2に記載の作業車操作システム。
【請求項4】
旋回台及びブームの姿勢を検出する姿勢検出センサが設けられた作業車を操作するための操作部と、3軸方向それぞれの加速度成分を測定する加速度センサと、を有する携帯端末を用いた前記作業車の操作方法であって、
前記加速度センサが測定した前記3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出する端末加速度算出ステップと、
前記姿勢検出センサが検出した前記旋回台及び前記ブームの姿勢から該姿勢の変化を求め、求めた該姿勢の変化に基づいて前記ブームの先端に設けられた作業床の加速度を算出する作業床加速度算出ステップと、
前記端末加速度算出ステップで算出した前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床加速度算出ステップで算出した前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定する判定ステップと、
前記判定ステップで前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定した場合に、前記操作部による前記作業車の操作を規制する操作規制ステップと、
を備える作業車の操作方法。
【請求項5】
旋回台及びブームの姿勢を検出する姿勢検出センサが設けられた作業車を操作するための操作部と、3軸方向それぞれの加速度成分を測定する加速度センサと、を有する携帯端末を用いた前記作業車を操作するためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記加速度センサが測定した前記3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出する端末加速度算出部、
前記姿勢検出センサが検出した前記旋回台及び前記ブームの姿勢から該姿勢の変化を求め、求めた該姿勢の変化に基づいて前記ブームの先端に設けられた作業床の加速度を算出する作業床加速度算出部、
前記端末加速度算出部が算出した前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床加速度算出部が算出した前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定する判定部及び、
前記判定部が前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定した場合に、前記操作部による前記作業車の操作を規制する操作規制部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業車操作システム、作業車の操作方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
作業車は、ブーム、旋回装置等が設けられた作業機を備えるところ、その作業機には、作業性を高めるために、携帯端末によって遠隔操作できるものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、オペレータの音声を集音するマイクを備える携帯端末によって操作される作業機が開示されている。この作業機は、音声を認識する音声認識部と、油圧回路に設けられた弁の開度を制御する制御部と、を備える。そして、携帯端末は、集音した音声の信号を作業機の音声認識部に送信し、音声認識部は、その信号から音声を認識する。制御部は、音声認識手段の認識結果に基づいて弁を切り換えて、作業機の各部を駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業車には、安全性を保つため、行ってよい操作と行ってはいけない操作がある。例えば、オペレータが高所作業を行うため作業床に搭乗している場合、アウトリガの格納をしてはならない。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の作業機では、オペレータが作業床に搭乗しているか否かによらず、作業機の各種操作が可能である。このため、オペレータが携帯端末を携帯していれば、作業床に搭乗していても作業機の各種操作が可能である。その結果、オペレータは、作業床に搭乗しているときに行ってはならない操作を実施しないように、操作内容を自身で管理する必要がある。このような背景から、オペレータが作業床に搭乗している場合に自動的に操作内容を規制できることが望ましい。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、オペレータが作業床に搭乗しているか否かを自動的に判別して操作内容を規制する作業車操作システム、作業車の操作方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の第一の観点に係る作業車操作システムは、
携帯端末に設けられた、作業車を操作するための操作部と、
前記携帯端末に設けられた加速度センサが測定した3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出する端末加速度算出部と、
前記作業車に設けられた姿勢検出センサが検出した旋回台及びブームの姿勢から該姿勢の変化を求め、求めた該姿勢の変化に基づいて前記ブームの先端に設けられた作業床の加速度を算出する作業床加速度算出部と、
前記端末加速度算出部が算出した前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床加速度算出部が算出した前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定する判定部と、
前記判定部が前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定した場合に、前記操作部による前記作業車の操作を規制する操作規制部と、
を備える。
【0009】
前記端末加速度算出部は、前記携帯端末の姿勢から前記加速度センサの3軸の向きを求め、求めた前記3軸の向きと前記加速度センサの前記3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出してもよい。
【0010】
前記判定部は、前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合、かつ前記姿勢検出センサが検出した前記旋回台及び前記ブームの姿勢に基づいて求めた前記作業床の高さが閾値よりも大きい場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定してもよい。
【0011】
本発明の第二の観点に係る作業車の操作方法は、
旋回台及びブームの姿勢を検出する姿勢検出センサが設けられた作業車を操作するための操作部と、3軸方向それぞれの加速度成分を測定する加速度センサと、を有する携帯端末を用いた前記作業車の操作方法であって、
前記加速度センサが測定した前記3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出する端末加速度算出ステップと、
前記姿勢検出センサが検出した前記旋回台及び前記ブームの姿勢から該姿勢の変化を求め、求めた該姿勢の変化に基づいて前記ブームの先端に設けられた作業床の加速度を算出する作業床加速度算出ステップと、
前記端末加速度算出ステップで算出した前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床加速度算出ステップで算出した前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定する判定ステップと、
前記判定ステップで前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定した場合に、前記操作部による前記作業車の操作を規制する操作規制ステップと、
を備える。
【0012】
また、本発明の第三の観点に係る作業車を操作するためのプログラムは、
旋回台及びブームの姿勢を検出する姿勢検出センサが設けられた作業車を操作するための操作部と、3軸方向それぞれの加速度成分を測定する加速度センサと、を有する携帯端末を用いた前記作業車を操作するためのプログラムであって、
コンピュータを、
前記加速度センサが測定した前記3軸方向それぞれの加速度成分に基づいて、重力加速度を含まない携帯端末の加速度を算出する端末加速度算出部、
前記姿勢検出センサが検出した前記旋回台及び前記ブームの姿勢から該姿勢の変化を求め、求めた該姿勢の変化に基づいて前記ブームの先端に設けられた作業床の加速度を算出する作業床加速度算出部、
前記端末加速度算出部が算出した前記重力加速度を含まない携帯端末の加速度と前記作業床加速度算出部が算出した前記作業床の加速度の差が一定値以内である場合に、前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定する判定部及び、
前記判定部が前記作業床と前記携帯端末が同じ運動をしていると判定した場合に、前記操作部による前記作業車の操作を規制する操作規制部、
として機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、判定部は、端末加速度算出部が算出した携帯端末の加速度と作業床加速度算出部が算出した作業床の加速度の差が一定値以内である場合に、作業床と携帯端末が同じ運動をしていると判定し、操作規制部は、判定部が作業床と携帯端末が同じ運動をしていると判定した場合に、操作部による作業車の操作を規制する。これにより、本発明では、携帯端末を携帯するオペレータが作業床に搭乗しているか否かを自動的に判別することができる。また、オペレータが作業床に搭乗している場合に自動的に操作内容を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る作業車操作システムの操作対象である高所作業車の側面図である。
【
図2】作業車操作システムのシステム構成図である。
【
図3】作業車操作システムのハードウエア構成図である。
【
図4】作業車操作システムが備える制御装置のブロック図である。
【
図5】作業車操作システムが備える制御装置によって実施される遠隔操作規制処理のフローチャートである。
【
図6】作業車操作システムが備える携帯端末の制御部によって実施される遠隔操作処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る作業車操作システム、作業車の操作方法及びプログラムについて図面を参照して詳細に説明する。なお、図中、同一又は同等の部分には同一の符号を付す。
【0016】
実施の形態に係る作業車操作システムは、携帯端末を用いて高所作業車を遠隔操作するシステムである。まず、
図1を参照して、操作対象の高所作業車の構成について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る作業車操作システムの操作対象である高所作業車1の側面図である。
【0018】
図1に示すように、高所作業車1は、車両11の前後左右に設けられたアウトリガ12A-12Dと、車両11の上に設けられた旋回台13と、旋回台13上に設けられたブーム14と、ブーム14の先端に設けられたバケット15と、操作装置16と、を備える。
【0019】
アウトリガ12A-12Dは、図示しないが、ボックスと、ボックスに格納される、或いは、ボックスから車両11の左右方向に張り出すビームとを有する。また、アウトリガ12A-12Dは、ビームの先端に設けられ、上下方向に伸縮可能なジャッキを有する。アウトリガ12A-12Dは、高所作業時に、ビームがボックスから張り出し、ジャッキが伸長することにより、ジャッキの先端のフロートを接地させて、車両11を安定させる。
【0020】
一方、旋回台13は、図示しないが、旋回歯車と、旋回歯車に噛み合った旋回ピニオンとを有し、旋回ピニオンが旋回モータによって回転することにより旋回する。そして、旋回台13は、旋回することにより、ブーム14を所望の方向に向ける。
【0021】
ブーム14は、起伏シリンダ141によって起伏する。また、ブーム14は、複数の箱型のブーム部142-144が入れ子式に組み合わされ、図示しない伸縮シリンダによって伸縮する。そして、ブーム14の先端には、上述したように、バケット15が設けられている。ブーム14は、起伏し、かつ伸縮することにより、バケット15を車両11から所望の距離だけ離れた位置に移動させる。或いは、所望の高さに移動させる。
【0022】
バケット15は、高所作業を行う作業者を搭乗するための、図示しない作業床を有する。その作業床は、作業者の安全を確保するため、囲いによって囲まれている。そして、バケット15は、上述した旋回台13とブーム14により、所望の高所に移動する。これにより、バケット15は、その所望の高所に作業者を運ぶ。また、バケット15は、図示しない平衡装置を有する。これにより、バケット15は、所望の高所に移動した場合でも、作業床を平衡に保つ。その結果、作業者の安全を確保する。バケット15の移動先は、操作装置16による操作によって決められる。
【0023】
操作装置16は、高所作業車1の運転手、高所作業を行う作業者らのいずれの者でも操作可能とするため、車両11に設けられた車両後端操作部161及び旋回台操作部162と、バケット15に設けられた上部操作部163とを有する。なお、以下、運転手及び作業者らのことをオペレータというものとする。
【0024】
車両後端操作部161は、オペレータが操作することにより、アウトリガ12A-12Dの張り出し・格納、旋回台13の旋回、ブーム14の起伏、ブーム14の伸縮の各動作を高所作業車1に行わせる。また、旋回台操作部162は、オペレータが操作することにより、旋回台13の旋回、ブーム14の起伏、ブーム14の伸縮の各動作を高所作業車1に行わせる。上部操作部163は、オペレータが操作することにより、旋回台13の旋回、ブーム14の起伏、ブーム14の伸縮の各動作のほか、バケット15のスイングの動作を高所作業車1に行わせる。
【0025】
例えば、車両後端操作部161、旋回台操作部162又は上部操作部163は、オペレータが操作することにより、高所作業車1を格納姿勢から作業姿勢に、或いは作業姿勢から格納姿勢に動作させる。ここで、格納姿勢は、ブーム14が車両11の後方に向くと共に倒伏し、かつ最短長さに縮小した姿勢のことであり、作業姿勢は、ブーム14が車両11の後方以外の方向に向き、或いは、ブーム14が起立し、或いは、ブーム14が伸長した姿勢のことである。
【0026】
このように、車両後端操作部161、旋回台操作部162又は上部操作部163は、すなわち、操作装置16は、オペレータが操作することによって、高所作業車1を動作させる。換言すると、高所作業車1を動作させるには、操作装置16を操作する必要がある。
【0027】
しかし、操作装置16から離れた位置から、高所作業車1を見ながら遠隔操作したい要望がある。例えば、アウトリガ12A-12Dの操作は、車両後端操作部161でしかできないが、その操作をアウトリガ12A-12Dの近くで操作したいという要望がある。
【0028】
そこで、高所作業車1には、携帯端末を用いた作業車操作システム100が設けられている。次に
図2及び
図3を参照して、作業車操作システム100の構成について説明する。
【0029】
図2は、作業車操作システム100のシステム構成図である。
図3は、作業車操作システム100のハードウエア構成図である。なお、
図2に示すXYZの各軸は、携帯端末2が備える加速度センサ211及び角速度センサ212の3軸の各方向を示している。
【0030】
図2に示すように、作業車操作システム100は、高所作業車1を遠隔操作するための携帯端末2と、高所作業車1に設けられ、携帯端末2と無線通信する制御装置3と、を備える。
【0031】
携帯端末2は、オペレータが携帯することが可能な小型かつ軽量な情報端末装置である。携帯端末2は、例えば、スマートフォン、タブレット型コンピュータである。携帯端末2は、
図3に示すように、センサ部21、操作部22、制御部23、表示部24、通信部25及び、記憶部26を備える。なお、これら各部は、携帯端末2が備える筐体に収容されている。
【0032】
センサ部21は、携帯端末2がある環境の各種物理量を測定するため、各種センサを備える。詳細には、センサ部21は、加速度センサ211、角速度センサ212及び、方位センサ213等を備える。
【0033】
加速度センサ211は、いわゆる3軸加速度センサである。加速度センサ211は、携帯端末2の変位及び姿勢を特定するため、携帯端末2に作用する加速度を測定する。詳細には、加速度センサ211は、上記加速度の3軸方向それぞれの加速度成分、すなわち、
図2に示すX軸、Y軸、Z軸それぞれの加速度成分を測定する。なお、以下、3軸とは、
図2に示すX軸、Y軸、Z軸のことをいうものとする。
【0034】
また、角速度センサ212は、ジャイロセンサと呼ばれるセンサである。角速度センサ212は、携帯端末2の姿勢、向きを特定するため、携帯端末2に作用する角速度を測定する。詳細には、その角速度の3軸方向それぞれの角速度成分を測定する。
【0035】
方位センサ213は、磁気センサ又は電子コンパスと呼ばれるセンサである。方位センサ213は、携帯端末2の向き及び携帯端末2の変位方向を特定するため、地磁気の方向を測定する。すなわち、方位センサ213は、3軸方向それぞれに対する地磁気の方向を測定する。
【0036】
センサ部21は、上述した各種センサによって、測定された加速度、角速度、地磁気の方向等の物理量のデータを制御部23に送信する。
【0037】
一方、操作部22は、図示しないタッチパネルとマイクを有する。タッチパネルは、オペレータの接触によって入力された信号、情報を出力する。マイクは、オペレータによって入力された音声を音声信号に変換して、変換した音声信号を出力する。
【0038】
操作部22には、タッチパネル又はマイクを用いることにより、上述した高所作業車1の操作装置16のへの入力と同じ入力をすることが可能である。詳細に説明すると、操作部22には、旋回台13の旋回、ブーム14の起伏、ブーム14の伸縮、バケット15のスイング、アウトリガ12A-12Dの張り出し、格納等の、高所作業車1の各部の操作を行うための入力を行うことが可能である。
【0039】
操作部22は、このような高所作業車1の各部を操作する入力がタッチパネルとマイクを用いて行われた場合、それらタッチパネルとマイクの出力を制御部23に送信する。
【0040】
制御部23は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を含むメモリとを含むマイクロコンピュータを備える。CPUは、ROM又は記憶部26に記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、携帯端末2の各部を制御する。
【0041】
例えば、制御部23は、CPUが高所作業車1を遠隔操作するための遠隔操作プログラムを実行することにより、遠隔操作処理を行う。詳細には、制御部23は、その遠隔操作処理に必要なデータを制御装置3に送信するため、センサ部21の加速度センサ211が測定した3軸方向の加速度成分から求めた加速度のデータを通信部25に出力する。また、制御部23は、通信部25が受信した制御装置3からの指令に応じて、高所作業車1の操作に用いる遠隔操作用画像を表示部24に出力する。さらに、制御部23は、オペレータが表示部24に表示された遠隔操作用画像を見ながら、操作部22を操作したときに、その操作によって入力された遠隔操作情報を通信部25に出力する。
【0042】
制御部23は、遠隔操作処理のほか、センサ部21及び操作部22の出力に基づいて生成した各種情報信号を通信部25に出力する。
【0043】
表示部24は、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイである。表示部24は、制御部23から出力された画像信号に従って画像を表示する。
【0044】
通信部25は、図示しない無線通信回路とアンテナを備え、インターネット、構内ネットワーク又は、車内ネットワーク等のネットワーク4に接続して、高所作業車1の制御装置3と無線でデータ通信を行う。通信部25は、例えば、制御部23から受信した遠隔操作情報を制御装置3に送信する。
【0045】
図3に戻って、記憶部26は、EEPROM(Electroical Erasable Programmable Read-Only Memory)又はフラッシュメモリ等の記憶装置を有し、上述した遠隔操作プログラムを記憶する。上述したように、この遠隔操作プログラムを制御部23のCPUが実行することにより、制御部23が遠隔操作処理を行う。
【0046】
制御装置3は、高所作業車1が備えるアウトリガ12A-12D、旋回台13、ブーム14、バケット15等の各部の動作を制御するための装置である。制御装置3は、図示しないが、演算処理を行うCPUと、ROM及びRAMを含むメモリとを含むコンピュータを備える。CPUは、ROM又は記憶装置17に記憶されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、高所作業車1の上記各部の動作を制御する。
【0047】
例えば、制御装置3は、ビーム、ジャッキの伸縮量、旋回角、起伏角、ブーム14の長さ等の、高所作業車1各部の状態を示す物理量を取得する。詳細には、高所作業車1は、アウトリガセンサ18A、旋回角センサ18B、起伏角センサ18C、ブーム長さセンサ18D及び、スイング角センサ18E等の各種センサを備えるところ、制御装置3は、それら各種センサの出力信号を受信する。これにより、制御装置3は、上記各部の状態の物理量を取得する。
【0048】
なお、アウトリガセンサ18Aは、アウトリガ12A-12Dのビーム、ジャッキの伸縮を検出するセンサであり、旋回角センサ18Bとは旋回台13の旋回角を検出するセンサである。起伏角センサ18Cは、ブーム14の起伏角を検出するセンサであり、ブーム長さセンサ18Dは、ブーム14の長さを検出するセンサである。スイング角センサ18Eは、バケット15の、ブーム14に対するスイング角を検出するセンサである。
【0049】
また、制御装置3は、上述した操作装置16の出力信号を受信する。
【0050】
制御装置3は、操作装置16の出力信号と上述した各種センサから取得した高所作業車1各部の状態の物理量に基づいて、高所作業車1の油圧回路に設けられた制御弁19の開閉、開度を制御する。これにより、制御装置3は、各種シリンダ、油圧モータに供給する作動油の流量、流れ方向を調整する。ここで、各種シリンダとは、アウトリガ12A-12Dの上述したビームを張り出させる張り出しシリンダ、ジャッキを伸長させるジャッキシリンダ、ブーム14を起伏させる起伏シリンダ、ブーム14を伸縮シリンダ等の高所作業車1に設けられたシリンダのことである。油圧モータとは、旋回台13を旋回させる旋回モータ等の高所作業車1に設けられた油圧モータのことである。その結果、制御装置3は、アウトリガ12A-12Dの張り出し、格納、旋回台13の旋回、ブーム14の起伏、伸縮等の、高所作業車1の各部の動作を実施する。これにより、制御装置3は、操作装置16の操作に応じて高所作業車1の各部を動作させる。
【0051】
制御装置3は、このような操作装置16の操作に応じた動作のほか、携帯端末2による遠隔操作に応じて高所作業車1の各部を動作させる。
【0052】
詳細には、高所作業車1は、携帯端末2と無線通信するための通信装置10を備える。そして、通信装置10は、図示しない無線通信回路とアンテナを備え、ネットワーク4に接続して、携帯端末2が備える通信部25と無線でデータ通信を行う。制御装置3は、携帯端末2の通信部25とのデータ通信で通信装置10が得た各種信号、情報、例えば、上述した携帯端末2の遠隔操作情報を通信装置10から受信する。制御装置3は、受信した遠隔操作情報と各種センサから取得した高所作業車1各部の状態の物理量に基づいて、上述した制御弁19の開閉、開度を制御することにより、高所作業車1の各部を動作させる。その結果、制御装置3は、携帯端末2の遠隔操作に従った動作を高所作業車1に行わせる。
【0053】
この遠隔操作では、オペレータが作業床に搭乗しているときにしてはならない操作を不用意にすることを防止するため、自動的に操作内容を規制できることが望ましい。そこで、制御装置3は、遠隔操作時に、安全性を高めるため、遠隔操作規制処理を行う。
【0054】
詳細には、制御装置3は、携帯端末2がバケット15といっしょに移動しているか否か、すなわち、携帯端末2がバケット15と同じ運動をしているか否かに応じて、遠隔操作の操作内容に規制をかける遠隔操作規制処理を行う。これは、携帯端末2がバケット15と同じ運動をしている場合、携帯端末2を携帯するオペレータがバケット15に搭乗している可能性が高いことから、オペレータがバケット15に搭乗していることを前提とした操作内容に限定することが安全上望ましいからである。
【0055】
この遠隔操作規制処理を実施するため、記憶装置17に遠隔操作規制プログラムが記憶されている。制御装置3は、その遠隔操作規制プログラムをCPUが記憶装置17から読み出して実行することにより、隔操作規制処理を行う。制御装置3は、この処理を行うため、ソフトウエアとして構成される処理ブロックを備える。次に、
図4を参照して、それら処理ブロックについて説明する。
【0056】
図4は、作業車操作システム100が備える制御装置3のブロック図である。
【0057】
図4に示すように、制御装置3は、端末加速度算出部31、バケット加速度算出部32、判定部33及び、操作規制部34を備える。
【0058】
端末加速度算出部31は、携帯端末2から加速度データを受信して、重力加速度を含まない携帯端末2それ自体の加速度を算出する部分である。上述したように、遠隔操作規制処理では、携帯端末2がバケット15と同じ運動をしている場合に、遠隔操作の操作項目に規制をかける。端末加速度算出部31は、その携帯端末2の運動を特定するため、重力加速度を含まない携帯端末2の加速度を算出する。
【0059】
詳細には、端末加速度算出部31は、一定の期間が経過する毎に、携帯端末2の制御部23に加速度データの送信を要求する。制御部23は、加速度データの送信が要求されると、上述したように、センサ部21の加速度センサ211が測定した3軸方向の加速度成分から求めた加速度データを通信部25に出力する。端末加速度算出部31は、通信装置10が加速度データを受信すると、通信装置10からその加速度データを取得する。
【0060】
ここで、加速度データは、加速度センサ211の3軸方向、すなわち、XYZの各軸方向の加速度成分からなる加速度のデータではなく、携帯端末2の上下方向、左右方向、前後方向の各軸で規定されるUVW座標系に換算された加速度成分からなる加速度データである。なお、UVW座標の詳細な内容は後述する。
【0061】
上述した記憶装置17には、重力加速度のデータが格納されている。端末加速度算出部31は、記憶装置17から重力加速度データを読み出す。そして、端末加速度算出部31は、取得した取得した加速度データのうちの、上下方向の加速度成分から読み出した重力加速度を減算する。これにより、端末加速度算出部31は、重力加速度を含まない、携帯端末2の上下方向の加速度成分を求める。端末加速度算出部31は、求めた上下方向の加速度成分と、取得した加速度データのうちの、左右方向、前後方向の各加速度成分とから、重力加速度を含まない携帯端末2の加速度(以下、実効加速度という)を算出する。端末加速度算出部31は、算出した実効加速度のデータを判定部33に送信する。
【0062】
一方、バケット加速度算出部32は、端末加速度算出部31が実効加速度を算出すると、それに続いて、旋回角センサ18B、起伏角センサ18C、ブーム長さセンサ18D及び、スイング角センサ18Eから、旋回角、起伏角、ブーム長さ及び、スイング角の、各部の状態の物理量データを取得する。バケット加速度算出部32は、取得した各部の状態の物理量データに基づいて旋回台13の旋回中心に対するバケット15の中心位置の座標(以下、バケット座標という)を求める。バケット加速度算出部32は、求めたバケット座標のデータを記憶装置17に記憶させる。
【0063】
バケット加速度算出部32は、端末加速度算出部31が実効加速度を算出する毎に、バケット座標を求めて記憶装置17に記憶させる。その結果、記憶装置17は、前回、前々回等のバケット座標の履歴データを記憶する。
【0064】
バケット加速度算出部32は、記憶装置17からバケット座標の履歴データを読み出し、読み出したバケット座標の履歴データと今回のバケット座標データを用いて、バケット15の変位を求め、求めた変位を2回微分することにより、今回のバケット座標でのバケット15の加速度を算出する。バケット加速度算出部32は、算出したバケット15の加速度のデータを判定部33に送信する。また、上記のバケット座標のデータを判定部33に送信する。
【0065】
判定部33は、端末加速度算出部31から実効加速度のデータを受信した後、バケット加速度算出部32からバケット15の加速度のデータを受信した場合に、それらのデータが同時期のデータであると扱い、その同時期の加速度同士を比較する。
【0066】
詳細には、判定部33は、携帯端末2の実効加速度とバケット15の加速度の大きさを比較する。携帯端末2の、実効加速度を表すUVW座標系は、バケット15の加速度を表す高所作業車1の座標系と異なることから、これらのベクトルデータを単純比較することはできない。そこで、判定部33は、上述したように、実効加速度の大きさとバケット15の加速度の大きさを比較する。そして、判定部33は、実効加速度の大きさとバケット15の加速度の大きさの差を求め、その差が一定値以内であるか否かを判定する。ここで、一定値は、誤差起因の差を除くために設定される値である。
【0067】
判定部33は、その差が一定値以内であると判定した場合、さらに、高所作業車1が格納姿勢であるか否かを判定する。
【0068】
詳細には、判定部33は、加速度の大きさの差が一定値以内であると判定した場合、バケット加速度算出部32から送信されたバケット座標のデータから、バケット15の高さを求め、求めたバケット15の高さが、高所作業車1の格納姿勢であるときのバケット15の高さと同じ値(この値を、以下、高さ閾値ともいう)よりも高いか否かを判定する。
【0069】
判定部33は、求めたバケット15の高さが、高さ閾値よりも高いと判定した場合、高所作業車1が作業姿勢であると扱い、遠隔操作の操作項目に規制が必要である旨の信号を操作規制部34に送信する。一方、判定部33は、求めたバケット15の高さが、高さ閾値以下であると判定した場合、高所作業車1が格納姿勢であると扱い、遠隔操作の操作項目に規制が必要でない旨の信号を操作規制部34に送信する。
【0070】
また、判定部33は、加速度の大きさの差が一定値よりも大きいと判定した場合、遠隔操作の操作項目に規制が必要でない旨の信号を操作規制部34に送信する。これは、加速度の大きさの差が一定値よりも大きい場合は、携帯端末2を携帯するオペレータがバケット15に搭乗していないことに起因して、携帯端末2とバケット15が別々の運動をしていると推定されるからである。そして、その場合、オペレータがバケット15に搭乗している場合に必要となる操作規制を行う必要性がないからである。
【0071】
操作規制部34は、判定部33から遠隔操作の操作項目に規制が必要である旨の信号を受信すると、操作環境に規制をかける旨の指令、すなわち規制指令を、
図3に示す通信装置10から携帯端末2に送信する。携帯端末2の通信部25がこの規制指令を受信すると、携帯端末2の制御部23は、この規制指令に応じた高所作業車1の操作に用いる遠隔操作用画像を生成する。
【0072】
詳細には、制御部23は、アウトリガ12A-12Dの張り出し、格納、旋回台13の旋回、ブーム14の起伏、ブーム14の伸縮、バケット15のスイング等の、高所作業車1各部の操作のうち、アウトリガ12A-12Dの張り出し、格納の操作だけができない遠隔操作用画像を表示部24に出力する。そして、制御部23は、操作部22を、この画像に応じた操作しか入力できない状態にする。これにより、
図4に示す操作規制部34は、携帯端末2の操作部22に、操作装置16が備える上部操作部163と同じ入力しかできない状態にする。その結果、携帯端末2を携帯するオペレータがバケット15に搭乗して携帯端末2とバケット15が同じ運動をするときに不用意にアウトリガ12A-12Dが操作されることを防ぐ。これにより、操作規制部34は、高所作業の安全性を高める。
【0073】
一方、操作規制部34は、判定部33から遠隔操作の操作項目に規制が必要でない旨の信号を受信すると、通常の操作環境のままとする旨の指令、すなわち、通常指令を、
図3に示す通信装置10から携帯端末2に送信する。携帯端末2の通信部25がこの通常指令を受信すると、制御部23は、アウトリガ12A-12Dの張り出し、格納の操作を含む高所作業車1の各部の操作が可能な遠隔操作用画像を表示部24に出力する。そして、操作部22を、この画像に応じた操作が可能な状態にする。これにより、操作規制部34は、携帯端末2の操作部22に、操作装置16が備える車両後端操作部161又は、旋回台操作部162と同じ入力ができる状態にする。その結果、携帯端末2を携帯するオペレータがバケット15に搭乗せず、携帯端末2とバケット15が別々の動きをするときに、アウトリガ12A-12Dを含めた各部を遠隔操作可能にする。
【0074】
次に、
図5及び
図6を参照して、作業車操作システム100が備える制御装置3によって実施される遠隔操作規制処理について説明する。また、遠隔操作規制処理とあわせて、携帯端末2の制御部23が実施する遠隔操作処理についても説明する。
【0075】
なお、以下の説明では、高所作業車1に図示しない作業車操作システム100の起動ボタンが設けられているものとし、その起動ボタンが押されることにより、作業車操作システム100が起動するか、或いは起動している作業車操作システム100が終了するものとする。
【0076】
また、携帯端末2が起動したときに、携帯端末2の表示部24に、遠隔操作プログラムを起動するためのアイコンが表示されているものとする。そして、遠隔操作プログラムが起動された後、表示部24に遠隔操作プログラムを終了させる終了ボタンが常時表示されるものとする。
【0077】
さらに、携帯端末2が備える操作部22は、音声認識部を有し、タッチパネルによって入力可能な内容が、マイクを用いた音声入力で行うことができるものとする。ただし、以下の説明では、理解を容易にするため、タッチパネルを用いて入力することを前提とする。
【0078】
図5は、作業車操作システム100が備える制御装置3によって実施される遠隔操作規制処理のフローチャートである。
図6は、作業車操作システム100が備える携帯端末2の制御部23によって実施される遠隔操作処理のフローチャートである。
【0079】
まず、オペレータは、高所作業車1の、図示しない起動ボタンを押して、作業車操作システム100を起動させる。これにより、制御装置3のCPUによって遠隔操作規制プログラムが実行される。その結果、遠隔操作規制処理のフローが開始される。
【0080】
遠隔操作規制処理のフローが開始されると、制御装置3は、
図5に示すように、携帯端末2の起動を確認する(ステップS11)。例えば、制御装置3は、ネットワーク4に接続して、携帯端末2とデータ通信が可能であるか否かにより、携帯端末2の起動を確認する。
【0081】
制御装置3は、携帯端末2の起動の確認後、一定の期間が経過すると、携帯端末2に加速度データの送信を要求する(ステップS12)。
【0082】
これに対して、携帯端末2では、オペレータが携帯端末2を起動した後、表示部24に表示された遠隔操作プログラムのアイコンをタップする。これにより、制御部23のCPUによって遠隔操作プログラムが実行される。その結果、携帯端末2では、
図6に示す遠隔操作処理のフローが開始される。
【0083】
携帯端末2で遠隔操作処理のフローが開始されると、まず、制御部23が携帯端末2の初期姿勢を得るための処理を行う。携帯端末2は、オペレータに携帯される結果、姿勢が一定とならず、その結果、
図2に示す携帯端末2の3軸、すなわちXYZ軸の向きも一定とならない。その結果、重力加速度がかかる方向がわからず、有効な加速度の測定が難しくなってしまう。そこで、重力加速度がかかる方向がどの方向であるかを把握し、さらにその方向の変化を追跡するため、制御部23は、上述した初期姿勢を得るための処理を行う。
【0084】
詳細に説明すると、制御部23は、
図6に示すように、携帯端末2の静止を要求する静止要求画面を表示部24に表示させる(ステップS21)。例えば、制御部23は「携帯端末2を一定の向きにしたまま静止させて下さい」という表示を表示部24に表示させる。
【0085】
制御部23は、上記の静止要求画面を表示部24に表示させた状態で、センサ部21の加速度センサ211から携帯端末2に作用した加速度の3軸方向それぞれの加速度成分データを取得する。このとき、携帯端末2は静止しているので、取得された加速度成分データは、重力加速度のデータである。
【0086】
続いて、制御部23は、取得した加速度成分データから重力加速度が作用する方向を特定する(ステップS22)。すなわち、上下方向を特定する。制御部23は、特定した上下方向をW軸、そのときの携帯端末2の左右方向をU軸、前後方向をV軸とするUVW座標系を設定してそのUVW座標系での加速度センサ211の3軸の方向を3軸の初期方向とする。同様に、UVW座標系での角速度センサ212の3軸の方向を3軸の初期方向とする。これにより、制御部23は、携帯端末2の初期姿勢を特定する(ステップS23)。なお、以下、携帯端末2の姿勢とは、加速度センサ211又は角速度センサ212の3軸の方向のことをいうものとする。また、携帯端末2の初期姿勢を初回姿勢P0というものとする。
【0087】
制御部23は、携帯端末2の初期姿勢を特定した後、上記の静止要求画面の表示を終了させる(ステップS24)。
【0088】
一方、上述したように、制御装置3は、携帯端末2に加速度データの送信を要求する(
図5のステップS12)。制御部23は、ステップS24の後、その制御装置3からの加速度データの送信の要求があるか否かを判定する(
図6のステップS25)。制御部23は、加速度データの送信の要求があったと判定した場合(ステップS25のYes)、加速度データを測定して制御装置3に送信する(ステップS26)。
【0089】
制御部23では、図示しないが、ステップS24の後、定期的に角速度センサ212と加速度センサ211から3軸方向それぞれの角速度成分と加速度成分データを取得する。制御部23は、取得した角速度成分と加速度成分データからUVW座標系での加速度を求める。
【0090】
詳細には、制御部23は、まず、角速度センサ212から3軸方向それぞれの角速度成分データを取得し、取得した角速度成分データに基づいて携帯端末2の姿勢変化を求める。そして、求めた姿勢変化を携帯端末2の前回姿勢Pn-1(ここで、前回とはn-1回、n=1,2,3・・・のことである)に加えることにより、今回姿勢Pnを特定する。さらに、制御部23は、加速度センサ211から3軸方向それぞれの加速度成分データを取得し、取得した加速度成分データと特定した今回姿勢Pnとに基づいて、UVW座標系での加速度成分を求める。この処理を繰り返すことにより、制御部23は、定期的にUVW座標系での加速度を求める。
【0091】
制御部23は、加速度データの送信の要求があったと判定した場合、このような手段で求めた加速度を制御装置3に送信する。
【0092】
一方、制御部23は、加速度データの送信の要求がないと判定した場合(ステップS25のNo)、ステップS25の前に戻り、加速度データの送信の要求があるまで待機する。
【0093】
図5に戻って、制御装置3は、ステップS12を行った後、携帯端末2の制御部23から送信された加速度データを、通信装置10を介して受信する。これにより、制御装置3は、加速度データを取得する。また、制御装置3は、記憶装置17から重力加速度のデータを読み出す。制御装置3は、取得した加速度データと読み出した重力加速度データを用いて、重力加速度を含まない携帯端末2にかかる実効加速度を算出する(ステップS13)。
【0094】
制御装置3は、実効加速度を算出した後、旋回角センサ18B、起伏角センサ18C、ブーム長さセンサ18D及び、スイング角センサ18Eの各センサから、旋回角、起伏角、ブーム長さ及び、スイング角の、高所作業車1の各部状態の物理量データを取得し、取得した各部状態の物理量データに基づいてバケット座標を求める(ステップS14)。
【0095】
続いて、制御装置3は、求めたバケット座標と上述したバケット座標の履歴からバケット15の加速度を算出する(ステップS15)。
【0096】
次に、制御装置3は、ステップS13で算出した実効加速度とステップS15で算出したバケット15の加速度の大きさの差を求め、その差が一定値以内であるか否かを判定する(ステップS16)。
【0097】
制御装置3は、実効加速度とバケット15の加速度の大きさの差が一定値以内であると判定した場合(ステップS16のYes)、ステップS14で求めたバケット座標からバケット15の高さを求め、さらに、求めたバケット15の高さが閾値よりも高いか否かを判定する(ステップS17)。ここで、閾値は、高所作業車1の姿勢を判定するため、格納姿勢時のバケット15の高さと同じ値である。
【0098】
制御装置3は、バケット15の高さが閾値よりも高いと判定した場合(ステップS17のYes)、高所作業車1が作業姿勢となっているものとして、携帯端末2による遠隔操作に規制が必要であると認定する。そして、遠隔操作に規制をかける規制指令を携帯端末2に送信する(ステップS18)。
【0099】
一方、制御装置3は、バケット15の高さが閾値以下であると判定した場合(ステップS17のNo)、高所作業車1が格納姿勢となっているものとして、携帯端末2による遠隔操作に規制が必要でないと認定する。そして、遠隔操作を通常のままとする通常指令を携帯端末2に送信する(ステップS19)。
【0100】
また、制御装置3は、上述したステップS16において、実効加速度とバケット15の加速度の大きさの差が一定値よりも大きいと判定した場合(ステップS16のNo)、高所作業車1のバケット15にオペレータが搭乗していない結果、バケット15と携帯端末2が別々の加速度で動いていると認定する。そして、制御装置3は、通常指令を携帯端末2に送信する(ステップS19)。
【0101】
これに対して、携帯端末2は、
図6に示すように、規制指令又は通常指令を受信する(ステップS27)。携帯端末2は、規制指令又は通常指令を受信すると、指令に応じた遠隔操作用画像を表示部24に表示する。また、遠隔操作用画像に応じた入力が操作部22に入力できる状態にする(ステップS28)。続いて、携帯端末2は、ステップS25に戻って、新たな加速度データの送信要求を待つ。
【0102】
上述したように、表示部24には、遠隔操作プログラムを終了させる終了ボタンが常時表示されているが、携帯端末2は、この終了ボタンが押されることによって遠隔操作フローが強制的に終了されるまで、ステップS25からステップS28までの処理を繰り返す。
【0103】
図5に戻って、制御装置3は、ステップS18又はS19を行った後、ステップS12に戻る。そして、前回の加速度データの送信要求から一定の期間が経過すると、再度、携帯端末2に加速度データの送信を要求する。これにより、制御装置3は、ステップS12からステップS19までの処理を繰り返す。
【0104】
上述したように、高所作業車1には、図示しない作業車操作システム100の起動ボタンが設けられているが、その作業車操作システム100が起動しているときに、起動ボタンが押されると、遠隔操作規制処理のフローが強制的に終了する。
【0105】
なお、上述した高所作業車1は、バケット15を備えるが、バケット15は、本明細書、特許請求の範囲でいうところの作業床の一例である。そして、バケット加速度算出部32は、本明細書、特許請求の範囲でいうところの作業床加速度算出部の一例である。また、高所作業車1が備える旋回角センサ18B、起伏角センサ18C、ブーム長さセンサ18D及び、スイング角センサ18Eは、本明細書、特許請求の範囲でいうところの姿勢検出センサの一例である。
【0106】
また、実効加速度を算出するステップS13、バケット15の加速度を算出するステップS15、加速度の大きさの差が一定値以内であるか否かを判定するステップS16、規制指令又は通常指令を携帯端末2に送信するステップS18又はS19は、本明細書、特許請求の範囲でいうところの端末加速度算出ステップ、作業床加速度算出ステップ、判定ステップ、操作規制ステップの一例である。
【0107】
以上のように、実施の形態に係る作業車操作システム100は、携帯端末2の実効加速度とバケット15の加速度の大きさの差が一定値以内である場合に、携帯端末2とバケット15が同じ運動をしていると判定し、携帯端末2の操作部22による高所作業車1の操作を規制する制御装置3を備える。作業車操作システム100は、制御装置3を備えることにより、携帯端末2を携帯するオペレータがバケット15に搭乗しているか否かを自動的に判別して、オペレータが作業床に搭乗している場合に自動的に操作内容を規制することができる。その結果、作業車操作システム100は、遠隔操作の安全性を高めることができる。
【0108】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。例えば、実施の形態では、判定部33は、加速度の差が一定値以内であるか否かを判定するだけでなく、高所作業車1が格納姿勢であるか否かを判定するが、本発明はこれに限定されない。本発明では、判定部33が、格納姿勢であるか否かを判定する処理は任意である。判定部33は、加速度の差が一定値以内であるか否かを判定する処理だけを行ってもよい。そして、判定部33は、加速度の差が一定値以内である場合に、操作規制部34に規制指令を携帯端末2に送信させてもよい。このような形態であっても、バケット15と携帯端末2が同じ運動をする結果、加速度の差が小さい場合を抽出することができる。これにより、携帯端末2の操作部22からの操作を規制して安全性を高めることができる。
【0109】
また、判定部33が、加速度の差が一定値以内であるか否かを判定する処理を行い、格納姿勢であるか否かを判定する処理を行わない場合、格納姿勢であるか否かの判定に換えて、バケット15又は携帯端末2の速度が0以上であるか否かを判定してもよい。この場合、判定部33は、加速度の差が一定値以内、かつバケット15又は携帯端末2の速度が0以上である場合に、操作規制部34に規制指令を携帯端末2に送信させてもよい。このような形態であれば、バケット15と携帯端末2が停止している結果、加速度の差が一定値以内である場合を除いて、操作部22により操作の規制をすることができる。
【0110】
また、上記実施の形態では、角速度センサ212が検出した角速度から携帯端末2の姿勢を求めているが、本発明はこれに限定されない。例えば、方位センサ213が検出した地磁気の方向から携帯端末2の姿勢を求めてもよい。
【0111】
上記実施の形態では、高所作業車1に設けられた制御装置3が、端末加速度算出部31、バケット加速度算出部32、判定部33及び、操作規制部34を備えるが、本発明はこれに限定されない。本発明では、端末加速度算出部31、バケット加速度算出部32、判定部33及び、操作規制部34は、高所作業車1と携帯端末2の間で無線通信が行われ、両者がネットワーク4に接続されるのであれば、高所作業車1の制御装置3、携帯端末2の制御部23のいずれに設けられていてもよい。また、ネットワーク4に接続されたサーバー装置に設けられていてもよい。さらに、端末加速度算出部31、バケット加速度算出部32、判定部33及び、操作規制部34が、制御装置3、制御部23、サーバー装置に分散して設けられ、制御装置3、制御部23、サーバー装置が協調することにより、上述した遠隔操作規制処理が行われてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1…高所作業車、2…携帯端末、3…制御装置、4…ネットワーク、10…通信装置、11…車両、12A-12D…アウトリガ、13…旋回台、14…ブーム、15…バケット、16…操作装置、17…記憶装置、18A…アウトリガセンサ、18B…旋回角センサ、18C…起伏角センサ、18D…ブーム長さセンサ、18E…スイング角センサ、19…制御弁、21…センサ部、22…操作部、23…制御部、24…表示部、25…通信部、26…記憶部、31…端末加速度算出部、32…バケット加速度算出部、33…判定部、34…操作規制部、100…作業車操作システム、141…起伏シリンダ、142-144…ブーム部、161…車両後端操作部、162…旋回台操作部、163…上部操作部、211…加速度センサ、212…角速度センサ、213…方位センサ