(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】シャフト及びシャフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 3/06 20060101AFI20240509BHJP
B62D 1/20 20060101ALI20240509BHJP
F16D 1/02 20060101ALI20240509BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240509BHJP
B05D 1/24 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
F16D3/06 E
B62D1/20
F16D1/02 210
B05D7/00 K
B05D1/24
(21)【出願番号】P 2020140548
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正樹
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-222109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/06
B62D 1/20
F16D 1/02
B05D 7/00
B05D 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌スプライン部を備えるアウタチューブと、
前記雌スプライン部に嵌まる雄スプライン部、及び前記雄スプライン部の外周面に配置されるコーティング部を備える、中空状のインナシャフトと、
を備え、
前記雄スプライン部は、薄肉部と、前記薄肉部の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部と、を備え、
前記コーティング部は、前記薄肉部の外周面に配置され且つ歯先での膜厚が歯底での膜厚よりも大きい厚膜部と、前記厚肉部の外周面に配置され且つ前記厚膜部の最大膜厚よりも小さい最大膜厚を有する薄膜部と、
前記厚膜部と前記薄膜部との間に配置される中間部と、を備え、
前記中間部の最大膜厚は、前記薄膜部に近づくにしたがって小さくなっている
シャフト。
【請求項2】
雌スプライン部を備えるアウタチューブと、
前記雌スプライン部に嵌まる雄スプライン部、及び前記雄スプライン部の外周面に配置されるコーティング部を備える、中空状のインナシャフトと、
を備え、
前記雄スプライン部は、薄肉部と、前記薄肉部の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部と、を備え、
前記コーティング部は、前記薄肉部の外周面に配置され且つ歯先での膜厚が歯底での膜厚よりも大きい厚膜部と、前記厚肉部の外周面に配置され且つ前記厚膜部の最大膜厚よりも小さい最大膜厚を有する薄膜部と、を備え、
前記雄スプライン部における前記厚肉部の外径は前記薄肉部の外径と同じであり、且つ、前記厚肉部の内径は、前記薄肉部の内径よりも小さくなっている
シャフト。
【請求項3】
前記中間部は、径方向から見て前記薄肉部と前記厚肉部との間の境界部分に重なる
請求項
1に記載のシャフト。
【請求項4】
前記薄膜部の最小膜厚は、前記厚膜部の最小膜厚と等しい
請求項1から3のいずれか1項に記載のシャフト。
【請求項5】
端部に配置される薄肉部と、前記薄肉部の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部と、を備える雄スプライン部を有するシャフトの製造方法であって、
前記雄スプライン部を前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第1浸漬工程と、
前記第1浸漬工程の後に、前記雄スプライン部のうち前記第1浸漬工程で粉体塗料に漬けた部分よりも狭い部分を、前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第2浸漬工程と、
を備え、
前記第2浸漬工程において前記雄スプライン部のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さは、前記薄肉部の軸方向の長さよりも大きい
シャフトの製造方法。
【請求項6】
端部に配置される薄肉部と、前記薄肉部の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部と、を備える雄スプライン部を有するシャフトの製造方法であって、
前記雄スプライン部を前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第1浸漬工程と、
前記第1浸漬工程の後に、前記雄スプライン部のうち前記第1浸漬工程で粉体塗料に漬けた部分よりも広い部分を、前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第2浸漬工程と、
を備え、
前記第1浸漬工程において前記雄スプライン部のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さは、前記薄肉部の軸方向の長さよりも大きい
シャフトの製造方法。
【請求項7】
前記雄スプライン部に付着した粉体塗料のうち前記雄スプライン部の歯同士の間にある部分を、軸方向の全長に亘って同じ高さになるように削る切削工程
を備える請求項5又は6に記載のシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シャフト及びシャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、操作者(運転者)のステアリングホイールに対する操作を車輪に伝えるための装置としてステアリング装置が設けられている。ステアリング装置は、車輪を動かすステアリングギヤと、ステアリングホイールに加えられたトルクをステアリングギヤに伝達する複数のステアリングシャフトと、を備えている。走行時における振動を吸収するため、又は縮めた状態で車両に組み込むため等の理由から、ステアリングシャフトは、伸縮できる構造を有する場合がある。
【0003】
特許文献1には、伸縮するシャフトの一例が記載されている。特許文献1の伸縮自在シャフトは、コーティング層で覆われる雄スプライン部を有するインナシャフトと、雌スプラインを有するアウタチューブと、を備える。インナシャフトとアウタチューブは、締め代を有する状態で連結される。締め代は、がたつきを抑制するためには大きい方が望ましい。しかし、雄スプラインの剛性が高い場合、締め代の変化に対する、インナシャフトとアウタチューブとの間の摺動抵抗の変化率が大きくなりやすい。特許文献1では、インナシャフトの端部に薄肉部を設けることによって、締め代の変化に対する摺動抵抗の変化率を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1においては、インナシャフトとアウタチューブとの間の摺動抵抗に関して、位置によって差が生じる可能性がある。インナシャフト及びアウタチューブが相対的に滑らかに摺動するために、摺動抵抗の位置による差は小さい方が望ましい。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、インナシャフトとアウタチューブとの間のがたつきを低減でき且つ摺動抵抗の位置による差を低減できるシャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示のシャフトは、雌スプライン部を備えるアウタチューブと、前記雌スプライン部に嵌まる雄スプライン部、及び前記雄スプライン部の外周面に配置されるコーティング部を備える、中空状のインナシャフトと、を備え、前記雄スプライン部は、薄肉部と、前記薄肉部の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部と、を備え、前記コーティング部は、前記薄肉部の外周面に配置され且つ歯先での膜厚が歯底での膜厚よりも大きい厚膜部と、前記厚肉部の外周面に配置され且つ前記厚膜部の最大膜厚よりも小さい最大膜厚を有する薄膜部と、を備える。
【0008】
これにより、インナシャフトが薄肉部を備えることによって、インナシャフトとアウタチューブとの間の締め代の変化に対する摺動抵抗の変化率を低減できる。このため、締め代を大きくできるので、インナシャフトとアウタチューブとの間のがたつきを抑制できる。さらに、本開示のシャフトにおいては、コーティング部が、厚膜部と薄膜部を備えている。薄肉部の外周面に厚膜部が配置され、厚肉部の外周面に薄膜部が配置される。薄肉部の剛性は、厚肉部との剛性よりも低い。このため、雌スプラインから薄肉部の外周面にかかる圧力は、雌スプラインから厚肉部の外周面にかかる圧力よりも小さくなる。このため、雌スプラインからかかる圧力に起因する摩擦力は、薄肉部で小さくなり、厚肉部で大きくなる。その一方で、雄スプラインと雌スプラインとの間には潤滑剤が配置される。厚膜部が潤滑剤と接触する面積は、薄膜部が潤滑剤と接触する面積よりも大きい。このため、厚膜部と潤滑剤との間の剪断抵抗(粘性抵抗)は、薄膜部と潤滑剤との間の剪断抵抗よりも大きくなる。このため、潤滑剤との間の剪断抵抗に起因する摩擦力は、薄肉部で大きくなり、厚肉部で小さくなる。その結果、雌スプラインからかかる圧力に起因する摩擦力と、潤滑剤との間の剪断抵抗に起因する摩擦力との和が、雄スプライン部の全長に亘って均一になりやすくなる。したがって、本開示のシャフトは、インナシャフトとアウタチューブとの間のがたつきを低減でき且つ摺動抵抗の位置による差を低減できる。
【0009】
上記のシャフトの望ましい態様として、前記コーティング部は、前記厚膜部と前記薄膜部との間に配置される中間部を備え、前記中間部の最大膜厚は、前記薄膜部に近づくにしたがって小さくなっている。
【0010】
これにより、本開示のシャフトは、雄スプライン部と潤滑剤との間の剪断抵抗の、軸方向の位置による急激な変化を低減できる。したがって、本開示のシャフトは、インナシャフトとアウタチューブとの間の摺動抵抗の位置による差をより低減できる。
【0011】
上記のシャフトの望ましい態様として、前記中間部は、径方向から見て前記薄肉部と前記厚肉部との間の境界部分に重なる。
【0012】
薄肉部と厚肉部との間の境界部分は、雌スプラインからかかる圧力に起因する摩擦力の変化が大きい部分である。境界部分に中間部が配置されることによって、雌スプラインからかかる圧力に起因する摩擦力と、潤滑剤との間の剪断抵抗に起因する摩擦力との和が、雄スプライン部の全長に亘ってより均一になりやすくなる。したがって、本開示のシャフトは、インナシャフトとアウタチューブとの間の摺動抵抗の位置による差をより低減できる。
【0013】
上記のシャフトの望ましい態様として、前記薄膜部の最小膜厚は、前記厚膜部の最小膜厚と等しい。
【0014】
これにより、雌スプライン部の歯と雄スプライン部の歯との間の距離が、一定になりやすくなる。このため、雄スプライン部の軸芯が雌スプライン部の軸芯と平行になりやすい。したがって、本開示のシャフトは、インナシャフトとアウタチューブとの間の摺動抵抗が設計値からずれることを抑制できる。
【0015】
本開示のシャフトの製造方法は、端部に配置される薄肉部と、前記薄肉部の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部と、を備える雄スプライン部を有するシャフトの製造方法であって、前記雄スプライン部を前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第1浸漬工程と、前記第1浸漬工程の後に、前記雄スプライン部のうち前記第1浸漬工程で粉体塗料に漬けた部分よりも狭い部分を、前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第2浸漬工程と、を備え、前記第2浸漬工程において前記雄スプライン部のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さは、前記薄肉部の軸方向の長さよりも大きい。
【0016】
これにより、雄スプライン部のうち第2浸漬工程で粉体塗料に漬けた部分において、コーティング部の膜厚が大きくなる。すなわち、厚膜部及び薄膜部を備えるコーティング部が形成される。したがって、本開示のシャフトの製造方法は、厚膜部及び薄膜部を備えるコーティング部を容易に形成することができる。
【0017】
本開示のシャフトの製造方法は、端部に配置される薄肉部と、前記薄肉部の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部と、を備える雄スプライン部を有するシャフトの製造方法であって、前記雄スプライン部を前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第1浸漬工程と、前記第1浸漬工程の後に、前記雄スプライン部のうち前記第1浸漬工程で粉体塗料に漬けた部分よりも広い部分を、前記薄肉部側から流動化した粉体塗料に漬ける第2浸漬工程と、を備え、前記第1浸漬工程において前記雄スプライン部のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さは、前記薄肉部の軸方向の長さよりも大きい。
【0018】
これにより、雄スプライン部のうち第1浸漬工程及び第2浸漬工程で粉体塗料に漬けた部分において、コーティング部の膜厚が大きくなる。すなわち、厚膜部及び薄膜部を備えるコーティング部が形成される。したがって、本開示のシャフトの製造方法は、厚膜部及び薄膜部を備えるコーティング部を容易に形成することができる。
【0019】
上記のシャフトの製造方法の望ましい態様として、前記雄スプライン部に付着した粉体塗料のうち前記雄スプライン部の歯同士の間にある部分を、軸方向の全長に亘って同じ高さになるように削る切削工程。
【0020】
これにより、本開示のシャフトの製造方法は、等しい最小膜厚を有する厚膜部及び薄膜部を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示のシャフトによれば、インナシャフトとアウタシャフトとの間のがたつきを低減でき且つ摺動抵抗の位置による差を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態のステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態のステアリング装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態のインターミディエートシャフトの断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態の雄スプライン部の斜視図である。
【
図9】
図9は、実施形態のシャフトの製造方法のフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施形態のシャフトの製造方法の模式図である。
【
図11】
図11は、実施形態のシャフトの製造方法の模式図である。
【
図12】
図12は、実施形態のシャフトの製造方法の模式図である。
【
図13】
図13は、実施形態のシャフトの製造方法の模式図である。
【
図14】
図14は、変形例のシャフトの製造方法のフローチャートである。
【
図15】
図15は、変形例のシャフトの製造方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0024】
(実施形態)
図1は、実施形態のステアリング装置の模式図である。
図1に示すように、ステアリング装置80は、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、第1ユニバーサルジョイント84と、インターミディエートシャフト85と、第2ユニバーサルジョイント86と、を備える。
【0025】
図1に示すように、ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを備える。入力軸82aの一端は、ステアリングホイール81に接続される。入力軸82aの他端は、出力軸82bに接続される。出力軸82bの一端は、入力軸82aに接続される。出力軸82bの他端は、第1ユニバーサルジョイント84に接続される。
【0026】
図1に示すように、インターミディエートシャフト85の一端は、第1ユニバーサルジョイント84に接続される。インターミディエートシャフト85の他端は、第2ユニバーサルジョイント86に接続される。ピニオンシャフト87の一端は、第2ユニバーサルジョイント86に接続される。ピニオンシャフト87の他端は、ステアリングギヤ88に接続される。第1ユニバーサルジョイント84及び第2ユニバーサルジョイント86は、例えばカルダンジョイントである。ステアリングシャフト82の回転は、インターミディエートシャフト85を介してピニオンシャフト87に伝わる。第2ユニバーサルジョイント86は、ピニオンシャフト87に接続される。
【0027】
図1に示すように、ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを備える。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に接続される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に接続される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。
【0028】
図1に示すように、操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、電動モータ93と、を備える。減速装置92は、例えばウォーム減速装置である。電動モータ93で生じたトルクは、減速装置92の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。減速装置92は、ウォーム及びウォームホイールによって、電動モータ93で生じたトルクを増加させる。減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。すなわち、ステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0029】
図1に示すように、ステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94と、車速センサ95と、を備える。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。トルクセンサ94は、入力軸82aに伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU90に出力する。車速センサ95は、ステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ95は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU90に出力する。
【0030】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU90は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU90は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値を調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。ECU90が電動モータ93を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0031】
図2は、実施形態のステアリング装置の斜視図である。
図2に示すように、インターミディエートシャフト85は、ダッシュパネル100を貫通している。ダッシュパネル100は、車室とエンジンルームとを隔てる仕切り板である。
【0032】
図3は、実施形態のインターミディエートシャフトの断面図である。
図4は、
図3のA-A断面図である。
図5は、
図3のB-B断面図である。
図6は、
図4のC-C断面図である。
図7は、
図4のD-D断面図である。
図8は、実施形態の雄スプライン部の斜視図である。
【0033】
図3に示すように、インターミディエートシャフト85は、アウタチューブ10と、インナシャフト20と、を備える。アウタチューブ10は、金属で形成される中空状の部材である。アウタチューブ10は、略円筒状である。アウタチューブ10は、第1ユニバーサルジョイント84と接続される。インナシャフト20は、金属で形成される中空状の部材である。インナシャフト20は、略円筒状である。インナシャフト20は、第2ユニバーサルジョイント86と接続される。アウタチューブ10及びインナシャフト20は、軸方向において相対的に移動可能である。これにより、車両の走行時における振動が吸収される。また、インターミディエートシャフト85を縮めた状態で車両に組み込むことが可能となる。
【0034】
以下の説明において、インターミディエートシャフト85の軸方向に沿う方向は、単に軸方向と記載される。インターミディエートシャフト85の回転軸の中心を通り且つ軸方向に対して直交する直線に沿う方向は、単に径方向と記載される。径方向は、放射方向とも呼ばれる。インターミディエートシャフト85の回転軸を中心とした円周に沿う方向は、単に周方向と記載される。周方向は、インターミディエートシャフト85の回転軸を中心とした円の接線方向ということもできる。また、第1ユニバーサルジョイント84から第2ユニバーサルジョイント86に向かう方向は、単に前方と記載される。前方は、
図3における左方向である。第2ユニバーサルジョイント86から第1ユニバーサルジョイント84に向かう方向は、単に後方と記載される。後方は、
図3における右方向である。
【0035】
図3に示すように、アウタチューブ10は、本体部11と、雌スプライン部13と、を備える。本体部11は、第1ユニバーサルジョイント84と接続される。本体部11の外径は、前方に向かって小さくなっている。雌スプライン部13は、本体部11の前方側に配置される。雌スプライン部13の外径は、略一定である。
図4に示すように、雌スプライン部13は、内周面に複数の歯131を備える。複数の歯131は、周方向において等間隔に配置される。
【0036】
図3に示すように、インナシャフト20は、本体部21と、雄スプライン部23と、コーティング部25と、を備える。本体部21は、第2ユニバーサルジョイント86と接続される。本体部21の外径は、略一定である。雄スプライン部23は、本体部21の後方に配置される。雄スプライン部23の外径は、本体部21の外径よりも大きく、略一定である。雄スプライン部23は、雌スプライン部13に挿入され、雌スプライン部13に嵌まる。雄スプライン部23は、雌スプライン部13に対して締め代を有する状態で連結される。締め代を有する状態とは、連結する前の雄スプライン部23の外径が雌スプライン部13の内径よりも大きい状態を意味する。言い換えると、雄スプライン部23は、雌スプライン部13に圧入される。雄スプライン部23と雌スプライン部13との間には、潤滑剤が配置される。潤滑剤は、例えばグリースである。
図3に示すように、雄スプライン部23は、薄肉部31と、厚肉部33と、を備える。
【0037】
図3に示すように、薄肉部31は、雄スプライン部23のうち後方端部に配置される。薄肉部31の外径及び内径は、略一定である。
図4に示すように、薄肉部31は、外周面に複数の歯311を備える。複数の歯311は、周方向において等間隔に配置される。歯311の数は、雌スプライン部13の歯131の数と同じである。複数の歯311は、コーティング部25を介して複数の歯131と噛み合う。
【0038】
図3に示すように、厚肉部33は、薄肉部31の前方に配置される。厚肉部33の外径及び内径は、略一定である。厚肉部33の外径は、薄肉部31の外径と同じである。厚肉部33の内径は、薄肉部31の内径よりも小さい。厚肉部33は、外周面に複数の歯331を備える。複数の歯331は、周方向において等間隔に配置される。歯331の数は、雌スプライン部13の歯131の数と同じである。複数の歯331は、コーティング部25を介して複数の歯131と噛み合う。厚肉部33の歯331の形状は、薄肉部31の歯311の形状と同じである。厚肉部33の歯331は、軸方向において薄肉部31の歯311と連続している。厚肉部33の最大肉厚T33(
図5参照)は、薄肉部31の最大肉厚T31(
図4参照)よりも大きい。最大肉厚T33は、歯331の頂点に対応する位置における厚肉部33の肉厚である。最大肉厚T31は、歯311の頂点に対応する位置における薄肉部31の肉厚である。
【0039】
図6に示すように、コーティング部25は、雄スプライン部23(薄肉部31及び厚肉部33)の外周面に配置される。コーティング部25は、例えば粉体塗料で形成された膜である。より具体的には、コーティング部25は、樹脂で形成される。コーティング部25は、厚膜部41と、薄膜部45と、中間部42と、を備える。
【0040】
図6に示すように、厚膜部41は、薄肉部31の外周面に配置される。厚膜部41は、雄スプライン部23の後方端部に配置される。
図4に示すように、厚膜部41の膜厚は、歯311の歯先に対応する位置で最大となり、歯311の歯底に対応する位置及び歯面に対応する位置で最小となる。厚膜部41は、歯先に対応する部分と、歯底に対応する部分と、歯面に対応する部分と、を含む。厚膜部41において、歯先に対応する部分の膜厚は、歯底に対応する部分、及び歯面に対応する部分の膜厚よりも大きい。
【0041】
図6に示すように、薄膜部45は、厚肉部33の外周面に配置される。薄膜部45は、厚膜部41よりも前方に配置される。
図5に示すように、薄膜部45の膜厚は、歯331の歯先に対応する位置で最大となり、歯331の歯底に対応する位置及び歯面に対応する位置で最小となる。薄膜部45は、歯先に対応する部分と、歯底に対応する部分と、歯面に対応する部分と、を含む。薄膜部45において、歯先に対応する部分の膜厚は、歯底に対応する部分、及び歯面に対応する部分の膜厚よりも大きい。
図6に示すように、薄膜部45の最大膜厚T45aは、厚膜部41の最大膜厚T41aよりも小さい。
図7に示すように、薄膜部45の最小膜厚T45bは、厚膜部41の最小膜厚T41bと同じである。また、
図4及び
図5に示すように、高さH41は、高さH45よりも小さい。高さH41は、厚膜部41の歯底に対応する部分から歯先に対応する部分までの高さである。高さH45は、薄膜部45の歯底に対応する部分から歯先に対応する部分までの高さである。
【0042】
図6に示すように、中間部42は、厚膜部41と薄膜部45との間に配置される。中間部42は、径方向から見て薄肉部31と厚肉部33との間の境界部分に重なる。中間部42の膜厚は、歯311及び歯331の歯先に対応する位置で最大となり、歯底に対応する位置及び歯面に対応する位置で最小となる。中間部42は、歯先に対応する部分と、歯底に対応する部分と、歯面に対応する部分と、を含む。中間部42において、歯先に対応する部分の膜厚は、歯底に対応する部分、及び歯面に対応する部分の膜厚よりも大きい。中間部42の最大膜厚は、薄膜部45に近づくにしたがって小さくなっている。中間部42の最小膜厚は、一定であって、薄膜部45の最小膜厚T45b及び厚膜部41の最小膜厚T41bと同じである。すなわち、コーティング部25の最小膜厚は、軸方向の全長に亘って一定である。コーティング部25の最大膜厚は、軸方向の位置によって異なっている。
【0043】
なお、上述したインナシャフト20及びアウタチューブ10を備える構造は、必ずしもインターミディエートシャフト85に適用されなくてもよい。上述したインナシャフト20及びアウタチューブ10を備える構造は、例えばステアリングシャフト82の他の部分に適用されてもよい。上述したインナシャフト20及びアウタチューブ10を備える構造は、ステアリング装置80に限らず、シャフトの構造として広く適用することができる。
【0044】
インナシャフト20が有する厚膜部41及び薄膜部45の数は、必ずしも1つでなくてもよい。例えば、インナシャフト20は、第1膜部と、第1膜部よりも最大膜厚が小さい第2膜部と、第2膜部よりも最大膜厚が小さい第3膜部と、を備えていてもよい。コーティング部25は、最大膜厚が互いに異なる3つ以上の膜部を備えていてもよい。
【0045】
図9は、実施形態のシャフトの製造方法のフローチャートである。
図10から
図13は、実施形態のシャフトの製造方法の模式図である。
図12は、第2浸漬工程S19の後及び切削工程S23の後における雄スプライン部23の、
図3のA-A断面に相当する位置での断面図である。
図13は、第2浸漬工程S19の後及び切削工程S23の後における雄スプライン部23の、
図3のB-B断面に相当する位置での断面図である。実施形態のシャフトの製造方法は、インナシャフト20の製造方法である。
図9に示すように、実施形態のシャフトの製造方法は、前処理工程S11から切削工程S23を備える。
【0046】
前処理工程S11では、中間材料200に対して、前処理が施される。中間材料200は、本体部21及び雄スプライン部23を備え且つコーティング部25を備えていないインナシャフト20である。すなわち、中間材料200は、コーティング部25が設けられる前のインナシャフト20である。中間材料200において、雄スプライン部23の形状は、軸方向の全長に亘って同一である。前処理工程S11では、中間材料200の雄スプライン部23に対して、前処理として脱脂、プライマー塗布等が施される。
【0047】
加熱工程S13では、中間材料200の雄スプライン部23が加熱される。加熱工程S13では、雄スプライン部23の全体が、コーティング部25の材料である粉体塗料(第1浸漬工程S15、及び第2浸漬工程S19で用いられる粉体塗料)の融点以上になるまで加熱される。例えば、雄スプライン部23は、コイルを用いた高周波誘電加熱によって加熱される。
【0048】
第1浸漬工程S15では、
図10に示すように、槽50に入れられた流動化した粉体塗料(粉体樹脂)に雄スプライン部23が薄肉部31側から漬けられる。
図10に示す長さH1は、第1浸漬工程S15において雄スプライン部23のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さである。長さH1は、雄スプライン部23の薄肉部31側の端部から厚肉部33までの軸方向の距離よりも大きい。これにより、雄スプライン部23の薄肉部31及び厚肉部の表面に粉体塗料の塗膜が形成される。例えば、粉体塗料は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ナイロン等の樹脂である。粉体塗料は、ピリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の高い耐熱性を有するスーパーエンジニアプラスチックであってもよい。
【0049】
第1取出工程S17では、
図10に示すように、中間材料200が槽50から取り出される。槽50から取り出された中間材料200は、例えば所定時間だけ槽50の外部に載置される。
【0050】
第2浸漬工程S19では、
図10に示すように、槽50に入れられた流動化した粉体塗料に雄スプライン部23が再び薄肉部31側から漬けられる。第2浸漬工程S19では、雄スプライン部23のうち第1浸漬工程S15で粉体塗料に漬けた部分よりも狭い部分が、薄肉部31側から流動化した粉体塗料に漬けられる。すなわち、
図10に示すように、長さH2が長さH1よりも小さい。長さH2は、第2浸漬工程S19において雄スプライン部23のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さである。長さH2は、薄肉部31の軸方向の長さよりも大きい。第2浸漬工程S19によって、第1浸漬工程S15で形成された粉体塗料の塗膜の一部の上に、さらに粉体塗料の塗膜が形成される。その結果、雄スプライン部23の表面に、粉体塗料の塗膜が薄い部分と、粉体塗料の塗膜が厚い部分とが形成される。
図12の左側の図で示すように、第2浸漬工程S19によって、雄スプライン部23の薄肉部31に塗膜が形成される。
図12の断面において、歯311の歯先における塗膜の膜厚T1は、歯底における塗膜の膜厚T2よりも小さい。
図13の左側の図で示すように、第2浸漬工程S19によって、厚肉部33に塗膜が形成される。
図13の断面において、歯331の歯先における塗膜の膜厚T3は、歯底における塗膜の膜厚T4よりも小さい。膜厚T3は、膜厚T1よりも小さい。膜厚T4は、膜厚T2よりも小さい。
【0051】
第2取出工程S21では、
図10に示すように、中間材料200が槽50から取り出される。槽50から取り出された中間材料200は、例えば、表面を平滑化させるために加熱される。
【0052】
切削工程S23では、雄スプライン部23に形成された粉体塗料の塗膜の一部が削られる。切削工程S23では、
図11から
図13に示すように、雄スプライン部23に形成された粉体塗料の塗膜のうち雄スプライン部23の歯同士の間にある部分が、軸方向の全長に亘って同じ高さになるように削られる。粉体塗料の塗膜のうち雄スプライン部23の歯同士の間にある部分の全ては、同一の工具を用いて軸方向の全長に亘って削られる。
図11から
図13の右側の図が、切削工程S23の後の雄スプライン部23である。粉体塗料の塗膜を削ることは、シェービングと呼ばれることもある。
【0053】
なお、上述したシャフトの製造方法は、必ずしもインナシャフト20の製造方法でなくてもよい。シャフトの製造方法は、厚膜部41及び薄膜部45を備えるシャフトの製造方法として、他のシャフトの製造にも広く適用することができる。
【0054】
以上で説明したように、本実施形態のシャフト(インターミディエートシャフト85)は、アウタチューブ10と、インナシャフト20と、を備える。アウタチューブ10は、雌スプライン部13を備える。インナシャフト20は、雌スプライン部13に嵌まる雄スプライン部23、及び雄スプライン部23の外周面に配置されるコーティング部25を備える、中空状の部材である。雄スプライン部23は、薄肉部31と、薄肉部31の最大肉厚T31よりも大きい最大肉厚T33を有する厚肉部33と、を備える。コーティング部25は、薄肉部31の外周面に配置され且つ歯先での膜厚が歯底での膜厚よりも大きい厚膜部41と、厚肉部33の外周面に配置され且つ厚膜部41の最大膜厚T41aよりも小さい最大膜厚T45aを有する薄膜部45と、を備える。
【0055】
これにより、インナシャフト20が薄肉部31を備えることによって、インナシャフト20とアウタチューブ10との間の締め代の変化に対する摺動抵抗の変化率を低減できる。このため、締め代を大きくできるので、インナシャフト20とアウタチューブ10との間のがたつきを抑制できる。さらに、本実施形態のシャフトにおいては、コーティング部25が、厚膜部41と薄膜部45を備えている。薄肉部31の外周面に厚膜部41が配置され、厚肉部33の外周面に薄膜部45が配置される。薄肉部31の剛性は、厚肉部33との剛性よりも低い。このため、雌スプライン部13から薄肉部31の外周面にかかる圧力は、雌スプライン部13から厚肉部33の外周面にかかる圧力よりも小さくなる。このため、雌スプライン部13からかかる圧力に起因する摩擦力は、薄肉部31で小さくなり、厚肉部33で大きくなる。その一方で、雄スプライン部23と雌スプライン部13との間には潤滑剤(グリース)が配置される。厚膜部41が潤滑剤と接触する面積は、薄膜部45が潤滑剤と接触する面積よりも大きい。このため、厚膜部41と潤滑剤との間の剪断抵抗(粘性抵抗)は、薄膜部45と潤滑剤との間の剪断抵抗よりも大きくなる。このため、潤滑剤との間の剪断抵抗に起因する摩擦力は、薄肉部31で大きくなり、厚肉部33で小さくなる。その結果、雌スプライン部13からかかる圧力に起因する摩擦力と、潤滑剤との間の剪断抵抗に起因する摩擦力との和が、雄スプライン部23の全長に亘って均一になりやすくなる。したがって、本実施形態のシャフト(インターミディエートシャフト85)は、インナシャフト20とアウタチューブ10との間のがたつきを低減でき且つ摺動抵抗の位置による差を低減できる。
【0056】
本実施形態のシャフト(インターミディエートシャフト85)において、コーティング部25は、厚膜部41と薄膜部45との間に配置される中間部42を備える。中間部42の最大膜厚は、薄膜部45に近づくにしたがって小さくなっている。
【0057】
これにより、本実施形態のシャフトは、雄スプライン部23と潤滑剤との間の剪断抵抗の、軸方向の位置による急激な変化を低減できる。したがって、本実施形態のシャフトは、インナシャフト20とアウタチューブ10との間の摺動抵抗の位置による差をより低減できる。
【0058】
本実施形態のシャフト(インターミディエートシャフト85)において、中間部42は、径方向から見て薄肉部31と厚肉部33との間の境界部分に重なる。
【0059】
薄肉部31と厚肉部33との間の境界部分は、雌スプライン部13からかかる圧力に起因する摩擦力の変化が大きい部分である。境界部分に中間部42が配置されることによって、雌スプライン部13からかかる圧力に起因する摩擦力と、潤滑剤との間の剪断抵抗に起因する摩擦力との和が、雄スプライン部23の全長に亘ってより均一になりやすくなる。したがって、本実施形態のシャフトは、インナシャフト20とアウタチューブ10との間の摺動抵抗の位置による差をより低減できる。
【0060】
本実施形態のシャフト(インターミディエートシャフト85)において、薄膜部45の最小膜厚T45bは、厚膜部41の最小膜厚T41bと等しい。
【0061】
これにより、雌スプライン部13の歯131と雄スプライン部23の歯との間の距離が、一定になりやすくなる。このため、雄スプライン部23の軸芯が雌スプライン部13の軸芯と平行になりやすい。したがって、本実施形態のシャフトは、インナシャフト20とアウタチューブ10との間の摺動抵抗が設計値からずれることを抑制できる。
【0062】
本実施形態のシャフトの製造方法は、端部に配置される薄肉部31と、薄肉部31の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部33と、を備える雄スプライン部23を有するシャフト(インナシャフト20)の製造方法である。本実施形態のシャフトの製造方法は、第1浸漬工程S15と、第2浸漬工程S19と、を備える。第1浸漬工程S15では、雄スプライン部23を薄肉部31側から流動化した粉体塗料に漬ける。第2浸漬工程S19では、第1浸漬工程S15の後に、雄スプライン部23のうち第1浸漬工程S15で粉体塗料に漬けた部分よりも狭い部分を、薄肉部31側から流動化した粉体塗料に漬ける。第2浸漬工程S19において雄スプライン部23のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さH2は、薄肉部31の軸方向の長さよりも大きい。
【0063】
これにより、雄スプライン部23のうち第2浸漬工程S19で粉体塗料に漬けた部分において、コーティング部25の膜厚が大きくなる。すなわち、厚膜部41及び薄膜部45を備えるコーティング部25が形成される。したがって、本実施形態のシャフト(インナシャフト20)の製造方法は、厚膜部41及び薄膜部45を備えるコーティング部25を容易に形成することができる。
【0064】
また、製造されたインナシャフト20とアウタチューブ10を組み立てることによって、インターミディエートシャフト85(シャフト)が製造される。したがって、本実施形態のシャフトの製造方法は、インナシャフト20の製造方法であり、インナシャフト20及びアウタチューブを備えるインターミディエートシャフト85の製造方法であるともいえる。したがって、本実施形態のシャフト(インターミディエートシャフト85)の製造方法は、インナシャフト20とアウタチューブ10との間のがたつきを低減でき且つ摺動抵抗の位置による差を低減できる。
【0065】
本実施形態のシャフトの製造方法は、雄スプライン部23に付着した粉体塗料のうち雄スプライン部23の歯同士の間にある部分を、軸方向の全長に亘って同じ高さになるように削る切削工程S23を備える。
【0066】
これにより、本実施形態のシャフトの製造方法は、等しい最小膜厚を有する厚膜部41及び薄膜部45を容易に形成することができる。
【0067】
(変形例)
図14は、変形例のシャフトの製造方法のフローチャートである。
図15は、変形例のシャフトの製造方法の模式図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図14に示すように、変形例のシャフトの製造方法は、前処理工程S31から切削工程S43を備える。
【0068】
前処理工程S31では、中間材料200に対して、前処理が施される。前処理工程S31では、中間材料200の雄スプライン部23に対して、前処理として脱脂、プライマー塗布等が施される。
【0069】
加熱工程S33では、中間材料200の雄スプライン部23が加熱される。加熱工程S33では、雄スプライン部23の全体が、コーティング部25の材料である粉体塗料(第1浸漬工程S35、及び第2浸漬工程S39で用いられる粉体塗料)の融点以上になるまで加熱される。
【0070】
第1浸漬工程S35では、
図15に示すように、槽50に入れられた流動化した粉体塗料(粉体樹脂)に雄スプライン部23の一部が漬けられる。これにより、雄スプライン部23の一部の表面に粉体塗料の塗膜が形成される。例えば、粉体塗料は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ナイロン等の樹脂である。粉体塗料は、ピリフェニレンサルファイト(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の高い耐熱性を有するスーパーエンジニアプラスチックであってもよい。
【0071】
第1取出工程S37では、
図15に示すように、中間材料200が槽50から取り出される。槽50から取り出された中間材料200は、例えば所定時間だけ槽50の外部に載置される。
【0072】
第2浸漬工程S39では、
図15に示すように、槽50に入れられた流動化した粉体塗料に雄スプライン部23が再び漬けられる。第2浸漬工程S39では、雄スプライン部23のうち第1浸漬工程S35で粉体塗料に漬けた部分よりも広い部分が、流動化した粉体塗料に漬けられる。すなわち、
図15に示すように、長さH4が長さH3よりも大きい。長さH4は、第2浸漬工程S39において雄スプライン部23のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さである。長さH3は、第1浸漬工程S35において雄スプライン部23のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さである。第2浸漬工程S39によって、第1浸漬工程S35では粉体塗料の塗膜が形成されなかった部分に、粉体塗料の塗膜が形成される。また、第1浸漬工程S35で形成された粉体塗料の塗膜の上に、さらに粉体塗料の塗膜が形成される。その結果、雄スプライン部23の表面に、粉体塗料の塗膜が薄い部分と、粉体塗料の塗膜が厚い部分とが形成される。
【0073】
第2取出工程S41では、
図15に示すように、中間材料200が槽50から取り出される。槽50から取り出された中間材料200は、例えば、表面を平滑化させるために加熱される。
【0074】
切削工程S43では、雄スプライン部に形成された粉体塗料の塗膜の一部が削られる。切削工程S43では、雄スプライン部に形成された粉体塗料の塗膜のうち雄スプライン部23の歯同士の間にある部分が、軸方向の全長に亘って同じ高さになるように削られる(
図11から
図13参照)。
【0075】
上述したように、変形例のシャフトの製造方法は、端部に配置される薄肉部31と、薄肉部31の最大肉厚よりも大きい最大肉厚を有する厚肉部33と、を備える雄スプライン部23を有するシャフト(インナシャフト20)の製造方法である。本実施形態のシャフトの製造方法は、第1浸漬工程S35と、第2浸漬工程S39と、を備える。第1浸漬工程S3では、雄スプライン部23を薄肉部31側から流動化した粉体塗料に漬ける。第2浸漬工程S39では、第1浸漬工程S35の後に、雄スプライン部23のうち第1浸漬工程S35で粉体塗料に漬けた部分よりも広い部分を、薄肉部31側から流動化した粉体塗料に漬ける。第1浸漬工程S35において雄スプライン部23のうち粉体塗料に漬けられる部分の軸方向の長さH3は、薄肉部31の軸方向の長さよりも大きい。
【0076】
これにより、雄スプライン部23のうち第1浸漬工程S35及び第2浸漬工程S39で粉体塗料に漬けた部分において、コーティング部25の膜厚が大きくなる。すなわち、厚膜部41及び薄膜部45を備えるコーティング部25が形成される。したがって、変形例のシャフト(インナシャフト20)の製造方法は、厚膜部41及び薄膜部45を備えるコーティング部25を容易に形成することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 アウタチューブ
11 本体部
13 雌スプライン部
20 インナシャフト(シャフト)
21 本体部
23 雄スプライン部
25 コーティング部
31 薄肉部
33 厚肉部
41 厚膜部
42 中間部
45 薄膜部
50 槽
80 ステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 ステアリングシャフト
82a 入力軸
82b 出力軸
83 操舵力アシスト機構
85 インターミディエートシャフト(シャフト)
87 ピニオンシャフト
88 ステアリングギヤ
88a ピニオン
88b ラック
89 タイロッド
90 ECU
92 減速装置
93 電動モータ
94 トルクセンサ
95 車速センサ
98 イグニッションスイッチ
99 電源装置
100 ダッシュパネル
131 歯
200 中間材料
311 歯
331 歯
S11 前処理工程
S13 加熱工程
S15 第1浸漬工程
S17 第1取出工程
S19 第2浸漬工程
S21 第2取出工程
S23 切削工程
S31 前処理工程
S33 加熱工程
S35 第1浸漬工程
S37 第1取出工程
S39 第2浸漬工程
S41 第2取出工程
S43 切削工程
T31 最大肉厚
T33 最大肉厚
T41a 最大膜厚
T41b 最小膜厚
T45a 最大膜厚
T45b 最小膜厚