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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】車載制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/00 20060101AFI20240509BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20240509BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20240509BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20240509BHJP
   F04B 49/08 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
F16H61/00
F16H59/68
F16H61/68
F04B49/06 311
F04B49/08 311
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020143841
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022039049
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 善雄
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-206021(JP,A)
【文献】特開2002-310272(JP,A)
【文献】特開2013-127298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00-61/12,
61/16-61/24,
61/66-61/70,
63/40-63/50
F04B 49/00-51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された原動機の駆動力により駆動される機械式オイルポンプと、
電動式オイルポンプと、
自動変速機に設けられて油圧にて動作する摩擦係合要素と、
前記機械式オイルポンプと前記電動式オイルポンプとを油圧源として前記摩擦係合要素を制御するためのライン圧を調整する油圧調整機構と、
前記油圧調整機構の油圧取り込み口に繋がる取り込み油路と、
前記取り込み油路から分岐して前記機械式オイルポンプの吐出口に繋がるとともに当該吐出口への流体の流入を抑制する第1逆止弁を備えた第1吐出油路と、
前記取り込み油路から分岐して前記電動式オイルポンプの吐出口に繋がるとともに当該吐出口への流体の流入を抑制する第2逆止弁を備えた第2吐出油路と、を有する車両に搭載される制御装置であって、
前記電動式オイルポンプが駆動している状態で当該電動式オイルポンプに加えて前記機械式オイルポンプの駆動を開始するときには、前記機械式オイルポンプが復帰するまでは、前記ライン圧を前記機械式オイルポンプの駆動を開始するときの前記ライン圧に保持することにより、前記ライン圧の増大を抑える抑制処理を実行する
車載制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、原動機の駆動力により駆動される機械式オイルポンプと、電動式オイルポンプと、それら各オイルポンプが並列に接続されており摩擦係合要素を制御するためのライン圧を調整する油圧調整機構と、機械式オイルポンプの吐出口への流体の流入を抑制する第1逆止弁と、電動式オイルポンプの吐出口への流体の流入を抑制する第2逆止弁と、を備えた車両の油圧系が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/91588号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したように、機械式オイルポンプ及び電動式オイルポンプが油圧調整機構に対して並列に接続されていると、以下のような不都合が起きるおそれがある。
すなわち、油圧源を電動式オイルポンプから機械式オイルポンプに切り替えるとき、つまり電動式オイルポンプが駆動している状態で機械式オイルポンプの駆動を開始するときにあって、電動式オイルポンプの吐出圧が高いと、上記第1逆止弁を閉弁方向に付勢する圧力である背圧が高くなるため、第1逆止弁は開弁しにくい状態になる。そのため、機械式オイルポンプの駆動を開始しても、第1逆止弁は速やかに開弁せず、機械式オイルポンプの立ち上がりが遅くなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する車載制御装置は、車両に搭載された原動機の駆動力により駆動される機械式オイルポンプと、電動式オイルポンプと、自動変速機に設けられて油圧にて動作する摩擦係合要素と、前記機械式オイルポンプと前記電動式オイルポンプとを油圧源として前記摩擦係合要素を制御するためのライン圧を調整する油圧調整機構と、前記油圧調整機構の油圧取り込み口に繋がる取り込み油路と、前記取り込み油路から分岐して前記機械式オイルポンプの吐出口に繋がるとともに当該吐出口への流体の流入を抑制する第1逆止弁を備えた第1吐出油路と、前記取り込み油路から分岐して前記電動式オイルポンプの吐出口に繋がるとともに当該吐出口への流体の流入を抑制する第2逆止弁を備えた第2吐出油路と、を有する車両に搭載される。この車載制御装置は、前記電動式オイルポンプが駆動している状態で前記機械式オイルポンプの駆動を開始するときのライン圧の増大を抑える抑制処理を実行する。
【0006】
同構成では、上記取り込み油路及び上記第1吐出油路及び上記第2吐出油路を有することにより、機械式オイルポンプ及び電動式オイルポンプは油圧調整機構に対して並列に接続されている。そして、同構成では、機械式オイルポンプの駆動を開始するときには、ライン圧の増大を抑える抑制処理が実行されるため、電動式オイルポンプの吐出圧の増大が抑制される。そのため、第1吐出油路に設けられた第1逆止弁の背圧増大が抑制されるようになり、当該第1逆止弁は開弁が容易になるため、機械式オイルポンプは速やかに立ち上がるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の車載制御装置を備える車両の模式図。
図2】同実施形態の車載制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャート。
図3】同実施形態の車載制御装置が実行する処理の手順を示すフローチャート。
図4】車両が停止してから再び走行を開始するまでの間において、(A)は始動要求の状態、(B)はアクセル操作量の状態、(C)はブレーキ操作量の状態、(D)は車速の状態、(E)は油圧の状態、(F)は機関回転速度及びモータ回転速度の状態、(G)は電動式オイルポンプの動作状態、(H)はライン圧の状態をそれぞれ示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、車載制御装置の一実施形態について、図1図4を参照して説明する。
図1に示すように、車両500には、内燃機関10及び電動機30といった2つの原動機が搭載されている。内燃機関10は、気筒に燃料を供給する燃料噴射弁12を備えている。内燃機関10の燃焼室では、吸入された空気と燃料噴射弁12から噴射された燃料との混合気が燃焼することにより機関出力が得られる。
【0009】
内燃機関10の出力軸であるクランクシャフト18は、油圧式のクラッチ機構20を介して電動機30の出力軸41に接続されている。出力軸41には、電動機30によって駆動される機械式オイルポンプ(以下、MOPと記載)50が設けられている。また、車両500には、電動式オイルポンプ(以下、EOPと記載)80も設けられている。
【0010】
クラッチ機構20が係合状態のときにはクランクシャフト18と電動機30の出力軸41とが連結される一方、解放状態のときにはクランクシャフト18と電動機30の出力軸41との連結が解除される。
【0011】
電動機30は、PCU(Power Control Unit)200を介して走行用の高電圧バッテリ300と電力の授受を行う。PCU200は、高電圧バッテリ300から入力された直流電圧を昇圧して出力する昇圧コンバータ210、昇圧コンバータ210で昇圧された直流電圧を交流電圧に変換して電動機30に出力するインバータ220、高電圧バッテリ300の直流電圧を補機駆動用の電圧に降圧するDC-DCコンバータ230等を備えている。車両500は、DC-DCコンバータ230で降圧された電力を蓄える低電圧バッテリ310も備えている。また、PCU200は、高電圧バッテリ300の充電率SOC(SOC=バッテリの残容量[Ah]/バッテリの満充電容量[Ah]×100%)や低電圧バッテリ310の充電率SOCを検出する。
【0012】
電動機30の出力軸41は、ロックアップクラッチ45を有するトルクコンバータ42の入力軸に接続されている。トルクコンバータ42の出力軸は、自動変速機48の入力軸に接続されている。自動変速機48は、油圧にて動作する複数の摩擦係合要素であるクラッチやブレーキを有しており、係合状態にする摩擦係合要素の組み合わせを変更することにより変速比が変更される。自動変速機48の出力軸はディファレンシャルギヤ60に接続されている。ディファレンシャルギヤ60の出力軸には車両500の駆動輪65が接続されている。
【0013】
車両500は、MOP50及びEOP80を油圧源として摩擦係合要素を制御するためのライン圧PLを調整する油圧調整機構90を備えている。この油圧調整機構90は、MOP50及びEOP80が接続されるレギュレータバルブ等を有しており、当該レギュレータバルブにより、油圧源であるMOP50及びEOP80からの吐出圧を用いたライン圧の制御が実施される。
【0014】
油圧調整機構90のレギュレータバルブに繋がる油圧取り込み口には取り込み油路91が接続されている。
MOP50の吐出口には、取り込み油路91から分岐した第1吐出油路92が繋がっており、この第1吐出油路92には、MOP50の吐出口への流体の流入を抑制する第1逆止弁94が設けられている。
【0015】
EOP80の吐出口には、取り込み油路91から分岐した第2吐出油路93が繋がっており、この第2吐出油路93には、EOP80の吐出口への流体の流入を抑制する第2逆止弁95が設けられている。これら取り込み油路91、第1吐出油路92、及び第2吐出油路93による接続を通じてMOP50及びEOP80は、油圧回路上、油圧調整機構90に対して並列に接続されている。なお、EOP80が油圧源となっているときのMOP50側への作動油漏れは、第1逆止弁94によって抑制される。同様に、MOP50が油圧源となっているときのEOP80側への作動油漏れは、第2逆止弁95によって抑制される。
【0016】
そして、油圧調整機構90には油圧供給先として、自動変速機48が備える複数の摩擦係合要素や、ロックアップクラッチ45、並びにクラッチ機構20が接続されており、油圧調整機構90から供給される油圧を制御することにより、自動変速機48による変速動作や、ロックアップクラッチ45の作動、並びにクラッチ機構20の作動が制御される。
【0017】
内燃機関10の制御、電動機30の制御、油圧調整機構90の制御などの各種制御は、車両500に搭載された車載制御装置100(以下、制御装置と記載)によって実行される。
【0018】
制御装置100は、中央処理装置(以下、CPUという)110や、制御用のプログラムやデータが記憶されたメモリ120を備えている。そして、メモリ120に記憶されたプログラムをCPU110が実行することにより各種制御を実行する。なお、図示はしないが、制御装置100は、内燃機関用の制御ユニットやPCU用の制御ユニットなど、複数の制御ユニットで構成されている。
【0019】
制御装置100には、クランクシャフト18の回転角を検出するクランク角センサ70や、電動機30の回転速度であるモータ回転速度Nmを検出する回転速度センサ71や、内燃機関10の吸入空気量GAを検出するエアフロメータ72が接続されており、それら各種センサからの出力信号が入力される。また、制御装置100には、アクセルペダルの操作量であるアクセル操作量ACCPを検出するアクセルポジジョンセンサ73や、ブレーキペダルの操作量であるブレーキ操作量BKPを検出するブレーキセンサ74が接続されており、それら各種センサからの出力信号が入力される。また、制御装置100には、車両500の車速SPを検出する車速センサ75や、車両500の加速度Gを検出する加速度センサ76が接続されており、それら各種センサからの出力信号が入力される。なお、制御装置100は、クランク角センサ70の出力信号Scrに基づいて機関回転速度NEを演算する。また、制御装置100は、機関回転速度NE及び吸入空気量GAに基づいて機関負荷率KLを演算する。
【0020】
制御装置100は、モータ走行モード、ハイブリッド走行モード、エンジン走行モードのうちのいずれかの走行モードで車両500を走行させる。モータ走行モードでは、制御装置100は、クラッチ機構20を解放して電動機30の動力で駆動輪65を回転させる。ハイブリッド走行モードでは、制御装置100は、クラッチ機構20を係合して、内燃機関10及び電動機30の動力で駆動輪65を回転させる。エンジン走行モードでは、制御装置100は、クラッチ機構20を係合して、内燃機関10の動力で駆動輪65を回転させる。
【0021】
制御装置100は、内燃機関10の始動要求があるときにはクラッチ機構20を係合状態にして電動機30を駆動することによりクランキングを行う機関始動処理を実行する。なお、上記始動要求が起きる例としては、内燃機関10の運転が停止しているときに、電動機30のトルクだけでは補うことのできない車両駆動トルクが要求された場合や、高電圧バッテリ300の充電要求が生じた場合や、低電圧バッテリ310の充電要求が生じた場合等が挙げられる。
【0022】
また、制御装置100は、車両運転者がアクセル操作を行なっていない状態(アクセル操作量が「0」の状態)であっても微速で車両500を走行させるためにモータクリープ走行を実施する。このモータクリープ走行を実施するために、制御装置100は、クラッチ機構20を解放状態にするとともにクリープ走行用のトルクを電動機30から発生させる処理を行う。また、モータクリープ走行中に車両500が停止した後、電動機30の停止要求に基づいた当該電動機30の停止が実施されるまでは、電動機30のモータ回転速度Nmは、MOP50を定格動作させるために必要なモータ回転速度Nmの要求値であるポンプ動作保証値Nmpに維持される。
【0023】
制御装置100は、上記モータクリープ走行を開始すると、図2及び図3に示す一連の処理を開始する。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、ステップ番号を表現する。
【0024】
図2に示す一連の処理を開始すると、制御装置100は、電動機30の停止要求があるか否かを判定する(S100)。このS100において、制御装置100は、モータクリープ走行中に車両500のブレーキペダルが踏み込まれて車両500が停止した場合に、電動機30の停止要求があると判定する。
【0025】
そして、制御装置100は、モータクリープ走行中において電動機30の停止要求が生じるまでS100の処理を繰り返し実行する。
S100にて、制御装置100は、電動機30の停止要求があると判定する場合(S100:YES)、EOP80の駆動を開始する(S110)。このS110にてEOP80の駆動が開始されると、ライン圧PLは、車両システム状態を維持するうえで最低限必要な圧力Lとなるように調整される。
【0026】
次に、制御装置100は、クラッチ機構20の準備処理を開始する(S120)。この準備処理は以下の処理である。すなわち、クラッチ機構20が係合直前の状態に維持されている状態を係合準備状態としたときに、クラッチ機構20の状態がその係合準備状態となるようにクラッチ機構20に油圧を供給する処理である。なお、本実施形態における係合準備状態とは、クラッチ機構20の摩擦係合部材同士が当接した状態で伝達トルク容量がほぼ「0」になっている状態のことをいう。ただし、係合準備状態とは、クラッチ機構20が係合直前の状態になっていればよく、例えばクラッチ機構20の摩擦係合部材同士がクラッチ機構20への非油圧供給時と比べて近接した状態となっており伝達トルク容量が「0」になっている状態でもよい。
【0027】
上記準備処理を開始すると、制御装置100は、クラッチ機構20に供給する油圧の目標値である指示圧Cpを、クイックアプライ制御を実施するためのアプライ圧APにまで一旦増大させる。なお、このクイックアプライ制御は、解放状態のクラッチ機構を係合状態に移行させる際、クラッチ機構に対して作動油を速やかに供給するために、クラッチ機構に供給する油圧を一次的に増大させる周知の制御である。そして、制御装置100は、指示圧Cpを規定時間だけアプライ圧APに維持した後、クラッチ機構20の状態を上記係合準備状態にて維持するために必要な油圧である準備圧PPにまで指示圧Cpを低下させる。
【0028】
次に、制御装置100は、クラッチ機構20が解放状態から係合準備状態になったか否かを判定する(S130)。このS130において制御装置100は、上述した準備処理を開始してからの経過時間が予め定めた規定時間PD以上になると、クラッチ機構20が係合準備状態になったと判定する。そして制御装置100は、クラッチ機構20が係合準備状態になったと判定するまでS130の処理を繰り返し実行する。
【0029】
S130にて、制御装置100は、クラッチ機構20が係合準備状態になったと判定する場合(S130:YES)、上記停止要求に基づく電動機30の駆動停止を実施する(S140)。こうした電動機30の駆動停止により、当該電動機30の消費電力の低減が図られる。
【0030】
次に、制御装置100は、MOP50の復帰要求があるか否かを判定する(S150)。このS150において、制御装置100は、車両運転者による車両500の走行要求がある場合や、内燃機関10の始動要求がある場合に、MOP50の復帰要求があると判定する。なお、上記走行要求がある場合とは、例えば、ブレーキペダルの踏み込みが解除された場合や、自動変速機48を操作するシフトレバーが走行レンジ(DレンジやRレンジなど)へと操作された場合などが挙げられる。また、上記始動要求がある場合とは、例えば、高電圧バッテリ300の充電要求が生じた場合や、低電圧バッテリ310の充電要求が生じた場合や、EOP80の連続運転時間が限界値に達した場合や、内燃機関10の暖機要求が生じた場合などが挙げられる。
【0031】
そして、制御装置100は、MOP50の復帰要求が生じるまでS150の処理を繰り返し実行する。
S150にて、制御装置100は、MOP50の復帰要求があると判定する場合(S150:YES)、MOP50の早期復帰要求があるか否かを判定する(S160)。
【0032】
このS160において、制御装置100は、今後の車両システム状態やライン圧の要求値がEOP80の単独運転だけでは維持できない場合や、今回のMOP50の復帰要求が早期の応答性を要求する車両システム状態の切り替わりである場合に、MOP50の早期復帰要求があると判定する。なお、MOP50の早期復帰要求が生じる具体例としては、例えば、車両運転者によるガレージ操作やアクセル操作による加速要求時などが挙げられる。つまり、EOP80による油圧供給の限界を超え、かつ車両運転者の意志を伴うMOP50の復帰要求を、MOP50の早期復帰要求として設定する。
【0033】
S160にて、制御装置100は、MOP50の早期復帰要求がないと判定する場合(S160:NO)、電動機30の駆動を開始することによりMOP50の駆動を開始する(S190)。
【0034】
次に、制御装置100は、ライン圧PLを設定する(S200)。このS200にて、制御装置100は、自動変速機48が有する摩擦係合要素の係合や係合操作の再現性を確保するために必要な要求油圧を電動機30の出力トルクであるMGトルクに応じて個々の摩擦係合要素毎に算出する。そして、算出した個々の摩擦係合要素における要求油圧のうちで最大の圧力Dを通常時のライン圧PLとして設定する。ちなみに、こうして算出されるライン圧PLが、EOP80の性能限界を超える場合には、MGトルクを抑制することにより摩擦係合要素の滑りを抑えるようにしてもよい。
【0035】
上記S160にて、制御装置100は、MOP50の早期復帰要求があると判定する場合(S160:YES)、電動機30の駆動を開始することによりMOP50の駆動を開始する(S170)。
【0036】
次に、制御装置100は、ライン圧の抑制及びMGトルクの制限を実行する(S180)。このS180にて、制御装置100は、MOP50の駆動を開始するときのライン圧PLの増大を抑制する抑制処理を実行する。より具体的には、上記S110にてEOP80の駆動を開始してから維持されているライン圧PL(圧力L)をそのまま保持することにより、ライン圧PLの増大を抑制する。なお、本実施形態では、ライン圧PLを上記圧力Lにて維持することにより、MOP50の駆動を開始するときのライン圧PLの増大を抑制しているが、例えば、MOP50の駆動を開始するときのライン圧PLを、上記圧力L以上であって且つEOP80の限界能力以下の範囲内でできるだけ低い圧力とすることにより、ライン圧PLの増大を抑制してもよい。
【0037】
また、こうしたライン圧の抑制を実施すると、ライン圧が供給される摩擦係合要素では滑りが起きるおそれがあるため、摩擦係合要素への入力トルクを低下させるためにMGトルクの制限が併せて実施される。このMGトルクの制限は、運転状態から要求されているMGトルクが、摩擦係合要素の滑りを抑えることができる程度にまで低下するように電動機30の回転速度を抑制することにより実施される。例えば、トルクコンバータ42のロックアップクラッチ45が解放されており、トルクコンバータ状態になっている場合には、トルクコンバータ42の容量係数を元にトルク算出を行い、その算出されるトルクが摩擦係合要素の滑りを抑えるうえで適したトルクとなるように、電動機30の回転速度を抑制することで実現してもよい。
【0038】
S180の処理、またはS200の処理を実行すると、次に、制御装置100は、MOP50が復帰したか否かを判定する(S210)。このS210において、制御装置100は、駆動を開始した電動機30のモータ回転速度Nmが規定の閾値A以上になっており、且つ上記S170または上記S190にて駆動を開始してからの電動機30の回転回数Nが規定の閾値B以上となっている場合に、MOP50は復帰したと判定する。
【0039】
上記閾値Aとしては、例えば上述したポンプ動作保証値Nmpが設定されている。また、上記閾値Bとしては、以下の値が設定されている。
すなわち、MOP50が停止すると、MOP50や油路などからは作動油が抜けてしまう。そのため、MOP50の駆動が再開されても同MOP50や油路などが作動油で満たされるまでは、たとえモータ回転速度Nmが閾値A以上になっていてもMOP50から供給される油圧は低い状態のままになっている可能性がある。そこで、電動機30の駆動を開始してからMOP50や油路などに作動油が十分に再充填されるまでに必要な電動機30の回転回数を予め計測しておき、その計測した値を上記閾値Bに設定する。そして、モータ回転速度Nmが閾値A以上であり、且つ上記回転回数Nが閾値B以上である場合には、MOP50や油路などは作動油で満たされており、必要な油圧を安定して確保することができる状態になっているため、MOP50は復帰したと判定する。ちなみに、MOP50が停止してもMOP50や油路などに十分な量の作動油が残る構造となっている場合には、S210においてモータ回転速度Nmと上記閾値Aとの比較判定のみを行うようにしてもよい。
【0040】
上記S210にて肯定判定するまで、制御装置100は、S210の処理を繰り返し実行する。
S210にて、制御装置100は、MOP50が復帰したと判定する場合(S210:YES)、制御装置100は、S180にて開始したライン圧の抑制及びMGトルクの制限を解除して(S220)、S230以降の処理を進める。なお、ライン圧の抑制及びMGトルクの制限が実行されていない場合には、制御装置100は、S210の処理を省略して、S230以降の処理を進める。
【0041】
図3に示すS230において、制御装置100は、現在、内燃機関10の始動要求があるか否かを判定する(S230)。
そして、内燃機関10の始動要求があると判定する場合(S230:YES)、制御装置100は、クラッチ機構20の状態を係合準備状態から係合状態に移行させる係合処理を実行する(S240)。この係合処理を開始すると、制御装置100は、クラッチ機構20の指示圧Cpを、準備圧PPよりも増加させてクラッチ機構20を半クラッチ状態にする。そして、機関回転速度NEとモータ回転速度Nmとが同期すると、クラッチ機構20を完全係合状態に維持するために必要な係合圧KPにまで指示圧Cpを増加させる。
【0042】
なお、機関回転速度NEとモータ回転速度Nmとが同期すると、制御装置100は、内燃機関10の燃料噴射や混合気の点火を開始する。
次に、制御装置100は、機関始動が完了したか否かを判定する(S250)。本実施形態では、機関回転速度NEとモータ回転速度Nmとが同期しており、且つ燃料噴射及び混合気の点火が実施されている場合に、制御装置100は機関始動が完了したと判定する。
【0043】
S250にて機関始動が完了したと判定するまで、制御装置100は、S250の処理を繰り返し実行する。
S250にて、制御装置100は、機関始動が完了したと判定する場合(S250:YES)、EOP80の駆動を停止して(S270)、本処理を終了する。
【0044】
上記S230にて、内燃機関10の始動要求がないと判定する場合(S230:NO)、制御装置100は、クラッチ機構20に供給する油圧を低下させる油圧低下処理を実行する(S260)。この油圧低下処理を開始すると、制御装置100は、クラッチ機構20の指示圧Cpをモータ走行モード時の通常圧にまで低下させる。なお、モータ走行モード時の通常圧は、上記準備圧PPよりも低い圧力であり、例えば「0kpa」としたり、クラッチ機構20の応答性確保のために、例えば数十kpa程度の圧力としてもよい。この油圧低下処理が実行されると、クラッチ機構20の状態は係合準備状態から解放状態に変化する。
【0045】
このように内燃機関10の始動要求がなく、クラッチ機構20を係合状態にする必要がないときには、クラッチ機構20に供給する油圧が低下される。従って、クラッチ機構20に供給する油圧を低下させることなく、クラッチ機構20の状態を係合準備状態のまま維持する場合と比較して、MOP50の駆動に伴う損失が低減する。
【0046】
そして、油圧低下処理を実行すると、制御装置100は、EOP80の駆動を停止して(S270)、本処理を終了する。
図4に、上述した一連の処理の作用についてその一例を示す。なお、図4(A)は始動要求の状態、図4(B)はアクセル操作量の状態、図4(C)はブレーキ操作量の状態、図4(D)は車速の状態、図4(E)は油圧の状態、図4(F)は機関回転速度及びモータ回転速度の状態、図4(G)は電動式オイルポンプの動作状態、図4(H)はライン圧の状態をそれぞれ示す。
【0047】
また、図4に示す時刻t1以前では、モータクリープ走行が実施されており内燃機関10は運転を停止している。また、図4に示す時刻t2~時刻t3の間、及び時刻t6以降は、実線で示す機関回転速度NEと一点鎖線で示すモータ回転速度Nmとが一致しているものとする。
【0048】
ブレーキペダルが踏み込まれていると、車速SP及びモータ回転速度Nmは徐々に低下していく。そして、モータ回転速度Nmが上記ポンプ動作保証値Nmpにまで低下すると、モータ回転速度Nmはポンプ動作保証値Nmpにて維持されることにより上記準備処理を実行するための油圧が確保される。そして、時刻t1において車速SPが「0」になると、準備処理が開始される。
【0049】
時刻t2において、クラッチ機構20が係合準備状態になったと判定されると、電動機30の駆動が停止する。この電動機30の駆動停止中は、EOP80の駆動を通じて油圧は確保されているため、電動機30によって駆動されるMOP50が電動機30の駆動停止によって停止している状態でも、クラッチ機構20は係合準備状態に維持されるとともに、自動変速機48の摩擦係合要素の係合状態も維持される。
【0050】
このように電動機30の駆動停止中には、クラッチ機構20の状態が係合準備状態となっているようにクラッチ機構20は制御される。そのため、解放状態にあったクラッチ機構20を内燃機関10の始動要求に基づいて係合状態にする際には、クラッチ機構20は速やかに係合するようになる。従って、消費電力低減のために電動機30の駆動停止を実行する場合でも、機関始動は速やかに行うことができる。
【0051】
時刻t3において、ブレーキペダルの踏み込みが解除される等により、MOP50の復帰要求が生じると、電動機30の駆動が再開されて、モータ回転速度Nmは「0」から増加し始める。このとき、MOP50の復帰要求が早期復帰要求でない場合には、二点鎖線L2にて示すように、ライン圧PLは上記圧力Lから上記圧力Dに変更される。
【0052】
一方、MOP50の復帰要求が早期復帰要求である場合には、上述したライン圧の抑制が実行されることにより、ライン圧PLは、実線に示すように圧力Lのまま維持される。こうしたライン圧の増大を抑える抑制処理が実行されることにより、EOP80の吐出圧の増大が抑制される。また、そうしたライン圧の抑制に併せてMGトルクの制限も実行される。
【0053】
時刻t4において、アクセルペダルが大きく踏み込まれることにより、電動機30のトルクだけでは補うことのできない車両駆動トルクが要求されると、内燃機関10の始動要求が生じる。そして時刻t5において、モータ回転速度Nmが閾値A以上であり且つ上記回転回数Nが閾値B以上であるという条件が成立して、MOP50の駆動が復帰したと判定される。上記時刻t3にて生じたMOP50の復帰要求が早期復帰要求であった場合には、時刻t5におけるMOP50の復帰判定により、上述したライン圧の抑制が解除される。これにより、ライン圧PLは上記圧力Lから上記圧力Dに変更される。また、この時刻t5においてMGトルクの制限も解除される。
【0054】
そして、時刻t5において始動要求が生じていると、上記の係合処理が開始されることにより、クラッチ機構20の状態は係合準備状態から半クラッチ状態になる。これにより機関回転速度NEは「0」から増加し始める。そして、時刻t6において、機関回転速度NEとモータ回転速度Nmとが同期すると、クラッチ機構20は完全係合状態になる。また、時刻t6では、内燃機関10の燃料噴射や混合気の点火が開始されて、機関始動は完了したと判定されることにより、EOP80の駆動は停止される。
【0055】
ここで、機関始動が完了する前にEOP80を停止させると、クラッチ機構20に供給される油圧が低下するため、クラッチ機構20の係合状態が不安定になり、例えば機関始動を安定して行うことができなくなるおそれがある。この点、本実施形態では、機関始動が完了したときにEOP80を停止させるため、クラッチ機構20の係合状態が安定するようになる。
【0056】
本実施形態によれば以下の効果が得られる。
(1)上述したように、EOP80が駆動している状態において、MOP50の早期復帰要求に従いMOP50の駆動を開始するときには、ライン圧の増大を抑える抑制処理が実行されることにより、EOP80の吐出圧の増大が抑制される。そのため、MOP50に繋がる第1吐出油路92にあって、EOP80の吐出圧が作用する第1逆止弁94の背圧側の圧力増大が抑制されるようになり、第1逆止弁94の開弁が容易になるため、MOP50は速やかに立ち上げるようになる。
【0057】
(2)上記ライン圧の抑制を行うときには、MGトルクの制限も併せて行うようにしている。そのため、ライン圧の抑制に起因する摩擦係合要素の滑りを抑えることができる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0058】
図2に示したS160、S190、及びS200の処理を省略することにより、MOP50の復帰要求がある場合には、その要求が早期復帰要求であるか否かにかかわらず、ライン圧の抑制及びMGトルクの制限を実行してもよい。
【0059】
・ライン圧の抑制に併せたMGトルクの制限を行わなくてもよい。この場合でも、上記(1)に記載の効果を得ることができる。
図3のS260の処理にて、油圧低下処理を実行する際には、クラッチ機構20の指示圧Cpをモータ走行モード時の通常圧にまで低下させるようにした。この他、油圧低下処理として、EOP80の駆動を停止する処理を実行することにより、クラッチ機構20に供給する油圧を低下させるようにしてもよい。こうした変更例によれば、上記実施形態と比べてEOP80の消費電力を抑えることができる。
【0060】
・電動機30の駆動停止中に上記係合準備状態を維持できるのであれば、EOP80の駆動開始時期は適宜変更することができる。
図2図4を参照して説明したMOP50及びEOP80の駆動態様は適宜変更してもよい。
【0061】
・制御装置100はCPU110とメモリ120とを備えており、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。例えば、上記実施形態において実行されるソフトウェア処理の少なくとも一部を処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置100は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てをプログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するメモリ等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置及びプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置及びプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路及び1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【0062】
・車両500は、原動機として内燃機関及び電動機を備える車両に限らない。たとえば内燃機関を備えるものの電動機を備えない車両であってもよく、また、電動機を備えるものの内燃機関を備えない車両であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…内燃機関
20…クラッチ機構
30…電動機
42…トルクコンバータ
45…ロックアップクラッチ
48…自動変速機
50…機械式オイルポンプ
60…ディファレンシャルギヤ
65…駆動輪
80…電動式オイルポンプ
90…油圧調整機構
100…車載制御装置
500…車両
図1
図2
図3
図4