(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】水処理施設の運転支援装置及び運転支援方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240509BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240509BHJP
【FI】
C02F1/00 D
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2020143983
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄喜
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 正一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼倉 正佳
(72)【発明者】
【氏名】庭川 誠
(72)【発明者】
【氏名】高▲瀬▼ 信彰
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雄貴
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-251505(JP,A)
【文献】特開2017-056428(JP,A)
【文献】特開2019-013858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00
C02F 3/12
C02F 3/28-3/34
G05B 23/00-23/02
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする水処理施設において計測されるデータであって、流入水量、汚泥濃度、汚泥流量、送風量、及び気温を含むトレンドデータ
と、水質データ
とを
含むデータを蓄積するデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部に蓄積された
前記データから学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得する学習対象データ及び推定対象データ取得部と、
前記学習対象データ及び推定対象データ取得部からの前記学習対象データ及び前記推定対象データを学習可能に加工するデータ加工部と、
前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶する学習部と、
前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力する運転支援部と、を備え、
前記学習部は、
前記対象とする水処理施設の同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、前記データ加工部で加工済みの学習対象データを用いて学習パラメータを更新し、
前記データ加工部は、対象とする水処理施設のデータを前記他系列又は他機場学習パラメータと共通する形式に加工する水処理施設の運転支援装置。
【請求項2】
前記学習部が、前記学習パラメータの全部を更新することを特徴とする請求項1に記載の水処理施設の運転支援装置。
【請求項3】
前記学習部が、前記学習パラメータを部分的に更新することを特徴とする請求項1に記載の水処理施設の運転支援装置。
【請求項4】
対象とする水処理施設
において計測される第1データであって、流入水量、汚泥濃度、汚泥流量、送風量、及び気温を含む第1トレンドデータと、第1水質データとを含む第1データ、
並びに、
前記対象とする水処理施設の同機場の他系列又は他機場
において計測される第2データであって、流入水量、汚泥濃度、汚泥流量、送風量、及び気温を含む第2トレンドデータ
と、第2水質データ
とを
含む第2データ
の双方を蓄積するデータ蓄積部と、
前記データ蓄積部に蓄積された
前記第1データ及び
前記第2データ
の双方から学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得する学習対象データ及び推定対象データ取得部と、
前記学習対象データ及び推定対象データ取得部から
の前記
学習対象データ
及び前記推定対象データ
を学習可能に加工
すべく、前記対象とする水処理施設のデータと前記他系列又は他機場のデータとを結合するデータ加工及び結合部と、
前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶する学習部と、
前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力する運転支援部と、を備え、
前記学習部は、前記データ加工及び結合部で加工済みの学習対象データを用いてモデルを構築するとともに学習パラメータを更新し、
前記データ加工及び結合部は、
前記対象とする水処理施設のデータと前記他系列又は他機場のデータとを共通する形式に加工する水処理施設の運転支援装置。
【請求項5】
対象とする水処理施設において計測されるデータであって、流入水量、汚泥濃度、汚泥流量、送風量、及び気温を含むトレンドデータ
と、水質データ
とを含むデータを蓄積すること、
前記
データから学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得すること、
前記学習対象データ及び前記推定対象データを学習可能に加工すること、
前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶すること、
前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力すること、を含み、
前記学習は、
前記対象とする水処理施設の同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、前記加工済みの学習対象データを用いて学習パラメータを更新し、
前記加工は、対象とする水処理施設のデータを前記他系列又は他機場学習パラメータと共通する形式に加工する水処理施設の運転支援方法。
【請求項6】
対象とする水処理施設
において計測される第1データであって、流入水量、汚泥濃度、汚泥流量、送風量、及び気温を含む第1トレンドデータと、第1水質データとを含む第1データ、
並びに、
前記対象とする水処理施設の同機場の他系列又は他機場
において計測される第2データであって、流入水量、汚泥濃度、汚泥流量、送風量、及び気温を含む第2トレンドデータ
と、第2水質データ
とを
含む第2データ
の双方を蓄積すること、
前記
第1データ及び前記
第2データ
の双方から学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得すること、
前記
学習対象データ
及び前記推定対象データ
を学習可能に加工
すべく、前記対象とする水処理施設のデータと前記他系列又は他機場のデータとを結合すること、
前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶すること、
前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力すること、を含み、
前記学習は、前記加工済みの学習対象データを用いてモデルを構築するとともに学習パラメータを更新し、
前記加工は、
前記対象とする水処理施設のデータと前記他系列又は他機場のデータとを共通する形式に加工する水処理施設の運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理施設の運転支援装置及び運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理施設における水質の制御は、水処理施設の様々な状況を考慮して熟練の技術を有する運転員の操作により行われている。
しかしながら、運転員の高齢化及び当該技術の習熟に長期間を要するため、人工知能を用いて操作量を決定し、自動化したいという要請がある。
ここで、操作量は、主に、放流水に含まれるアンモニア濃度等の水質データに基づいて決定される。
【0003】
従来技術の一例である特許文献1には、モデルパラメータを自動調整することにより、専門知識を持たない運転員が下水処理場を運転した場合にも運転効率、運転コストなどを大幅に低減させ、流入水の水質を規定範囲内に納めることを可能にすることを課題とし、下水処理プロセスから出力される計測データ、水質分析員などの分析動作で得られる分析データなどをデータベース装置に蓄積しながら、モデルパラメータ設定部に設定されているモデルパラメータ、プラント条件設定部に設定されているプラント条件、運転条件設定部に設定されている運転条件、データベース装置から出力されるシミュレーション用データ、パラメータ同定用データなどに基づき、プロセスシミュレータにモデルパラメータを自動調整して、下水処理プロセスのシミュレーションを実行する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、下水処理プロセスに設置されたセンサから得られるセンサ情報及び下水処理場において取得された水質分析結果情報等をはじめとして、シミュレーションのために、時系列に蓄えられた大量のデータを要する、という問題があった。
他方で、水処理施設における水質データを取得するための水質分析は、コスト及び時間を要するため、大量の水質データを揃えるためには多大なコストを要し、データ取得期間が長期に及んでしまう、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、蓄積されたデータ量が少ない場合であっても、高い精度で操作量の導出が可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決して目的を達成する本発明は、トレンドデータ及び水質データを蓄積するデータ蓄積部と、前記データ蓄積部に蓄積されたトレンドデータ及び水質データから学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得する学習対象データ及び推定対象データ取得部と、前記学習対象データ及び推定対象データ取得部からの前記学習対象データ及び前記推定対象データを学習可能に加工するデータ加工部と、前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶する学習部と、前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力する運転支援部と、を備え、前記学習部は、対象とする水処理施設の同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、前記データ加工部で加工済みの学習対象データを用いて学習パラメータを更新し、前記データ加工部は、対象とする水処理施設のデータを前記他系列又は他機場学習パラメータと共通する形式に加工する水処理施設の運転支援装置である。
【0008】
上記構成の本発明に係る水処理施設の運転支援装置において、前記学習部が、前記学習パラメータの全部を更新することが好ましい。
【0009】
上記構成の本発明に係る水処理施設の運転支援装置において、前記学習部が、前記学習パラメータを部分的に更新することが好ましい。
【0010】
又は、本発明は、対象とする水処理施設、及び該水処理施設の同機場の他系列又は他機場で取得した他系列又は他機場の双方からのトレンドデータ及び水質データを蓄積するデータ蓄積部と、前記データ蓄積部に蓄積されたトレンドデータ及び水質データから学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得する学習対象データ及び推定対象データ取得部と、前記学習対象データ及び推定対象データ取得部からの、前記対象とする水処理施設からのデータと、該水処理施設の同機場の他系列又は他機場で取得した他系列又は他機場からのデータと、を学習可能に加工及び結合するデータ加工及び結合部と、前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶する学習部と、前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力する運転支援部と、を備え、前記学習部は、前記データ加工及び結合部で加工済みの学習対象データを用いてモデルを構築するとともに学習パラメータを更新し、前記データ加工及び結合部は、対象とする水処理施設のデータと前記他系列又は他機場のデータとを共通する形式に加工する水処理施設の運転支援装置である。
【0011】
又は、本発明は、トレンドデータ及び水質データを蓄積すること、前記トレンドデータ及び前記水質データから学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得すること、前記学習対象データ及び前記推定対象データを学習可能に加工すること、前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶すること、前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力すること、を含み、前記学習は、対象とする水処理施設の同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、前記加工済みの学習対象データを用いて学習パラメータを更新し、前記加工は、対象とする水処理施設のデータを前記他系列又は他機場学習パラメータと共通する形式に加工する水処理施設の運転支援方法である。
【0012】
又は、本発明は、対象とする水処理施設、及び該水処理施設の同機場の他系列又は他機場で取得した他系列又は他機場の双方からのトレンドデータ及び水質データを蓄積すること、前記トレンドデータ及び前記水質データから学習対象データ及び推定対象データの双方を選択して取得すること、前記対象とする水処理施設からのデータと、該水処理施設の同機場の他系列又は他機場で取得した他系列又は他機場からのデータと、を学習可能に加工及び結合すること、前記学習対象データにより学習を行うことで学習パラメータを記憶すること、前記推定対象データ及び前記学習パラメータの学習により導出した制御対象の操作量を出力すること、を含み、前記学習は、前記加工済みの学習対象データを用いてモデルを構築するとともに学習パラメータを更新し、前記加工は、対象とする水処理施設のデータと前記他系列又は他機場のデータとを共通する形式に加工する水処理施設の運転支援方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、蓄積されたデータ量が少ない場合であっても、高い精度で操作量の導出が可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る運転支援装置を適用可能な水処理施設の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る運転支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すデータ加工部の加工例として、取得した連続値を平均値からのずれに基づいて離散化したイメージを示す図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す学習部の処理を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、学習パラメータ更新部における学習のイメージである。
【
図6】
図6は、
図2に示す運転支援部の処理を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態2に係る運転支援装置が備える学習パラメータ更新部における学習のイメージである。
【
図8】
図8は、実施形態3に係る運転支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、対象系列のデータと、同機場の他系列又は他機場のデータと、が結合されたブロックの構成を示す図である。
【
図10】
図10は、データ加工及び結合部における、対象系列のデータと、同機場の他系列又は他機場のデータと、を結合したイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
ただし、本発明は、以下の実施形態の記載によって限定解釈されるものではない。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る運転支援装置100を適用可能な水処理施設200の構成を示す図である。
図1に示す水処理施設200は、最初沈殿池1と、反応槽2と、最終沈殿池3と、送風機4と、風量調整バルブ5と、散気装置6と、第1のポンプ7と、第2のポンプ8と、計測器9と、重力濃縮槽10と、機械濃縮槽11と、消化槽12と、脱水槽13と、配管21,22,23,24とを備える。
【0017】
最初沈殿池1は、原水が導入される沈殿池である。
この原水は、有機物を含む排水である。
最初沈殿池1では、原水の固液分離が行われ、最初沈殿池1からの流出水は、配管21を通して反応槽2に送られる。
最初沈殿池1に沈殿した汚泥である生汚泥は、配管24を通して重力濃縮槽10に送られる。
【0018】
反応槽2は、微生物を含み、該微生物によって最初沈殿池1からの流出水を浄化する槽である。
反応槽2では、該微生物が最初沈殿池1からの流出水に含まれる有機物を資化することで増殖し、該微生物を用いた生物処理により活性汚泥が形成される。
反応槽2からの流出水は、配管22を通して最終沈殿池3に送られる。
【0019】
最終沈殿池3は、反応槽2からの流出水に含まれる活性汚泥を沈殿させる沈殿池である。
最終沈殿池3の上澄みは、処理水として水処理施設200の外へ放出される。
最終沈殿池3で沈殿した汚泥の一部は、第1のポンプ7によって配管23を通して反応槽2に戻されて再利用される。
最終沈殿池3で沈殿した残りの汚泥は、余剰汚泥として第2のポンプ8によって機械濃縮槽11に送られる。
【0020】
送風機4は、複数の散気装置6に空気を供給する。
風量調整バルブ5は、複数の散気装置6の各々に通した配管に設けられており、開閉により送風量を調整する。
複数の散気装置6は、反応槽2の下部に設けられており、風量調整バルブ5に通された配管に接続されて、風量調整バルブ5によって送風量が調整された空気を反応槽2内に供給する。
このように反応槽2への送風量が調整されると、反応槽2内の溶存酸素量であるDO(Dissolved Oxygen)値が調整され、生物処理の進行が調整される。
【0021】
第1のポンプ7は、最終沈殿池3で沈殿した汚泥の一部を、配管23を通して反応槽2に送る返送汚泥ポンプである。
第2のポンプ8は、最終沈殿池3で沈殿した残りの汚泥を余剰汚泥として機械濃縮槽11に送る余剰汚泥引抜ポンプである。
【0022】
計測器9は、反応槽2の水質を示す各パラメータを計測する計測器であり、計測したパラメータである計測値データは運転支援装置100に送られる。
ここで、水質を示す各パラメータとしては、溶存酸素量であるDO値及び浮遊物質濃度であるMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids)値を例示することができる。
水処理施設200の運転員は、計測器9によって計測された水質を示す各パラメータを参照することで制御対象の操作量を決定している。
ここで、制御対象の操作量としては、水処理施設200の最終沈殿池3からの返送汚泥量を調整する第1のポンプ7の回転数、水処理施設200の最終沈殿池3の余剰汚泥引抜量を調整する第2のポンプ8の単位時間あたりの引抜量又は余剰汚泥の引抜時間、水処理施設200の脱水槽13への高分子凝集剤の注入率を例示することができる。
【0023】
重力濃縮槽10は、最初沈殿池1に沈殿した生汚泥を濃縮処理する槽である。
機械濃縮槽11は、第2のポンプ8によって最終沈殿池3から引き抜かれた余剰汚泥を濃縮処理する槽である。
重力濃縮槽10及び機械濃縮槽11において濃縮された汚泥は、消化槽12に送られる。
【0024】
消化槽12は、濃縮された汚泥の消化処理を行う槽である。
ここで、消化処理は、例えば嫌気性消化処理方式によって行われるとよい。
嫌気性消化処理方式では、嫌気性微生物によって有機性の汚泥が分解される。
消化処理によって分解された汚泥は、脱水槽13に送られる。
【0025】
脱水槽13は、消化処理によって分解された汚泥を脱水することで、汚泥の含水率を低下させて減容化を行う槽である。
【0026】
配管21は、最初沈殿池1と反応槽2との間に配置され、最初沈殿池1からの流出水を反応槽2に送る配管である。
配管22は、反応槽2と最終沈殿池3との間に配置され、反応槽2からの流出水を最終沈殿池3に送る配管である。
配管23は、第1のポンプ7と反応槽2との間に配置され、最終沈殿池3の汚泥の一部を反応槽2に送る配管である。
配管24は、最初沈殿池1と重力濃縮槽10との間に配置され、最初沈殿池1の生汚泥を重力濃縮槽10に送る配管である。
【0027】
図1に示す水処理施設200において、主な操作項目は、最初沈殿池1から反応槽2への水量である流入量、反応槽2内に供給される空気量である送風量、第1のポンプ7によって反応槽2に返送される汚泥の量である返送汚泥量、及び第2のポンプ8によって最終沈殿池3から引き抜かれる汚泥の量である余剰汚泥引抜量である。
これらの操作項目の各々は、処理場によって設定が異なる。
【0028】
反応槽2の制御は、例えば、送風量一定制御、比率一定制御及びDO一定制御によって行うことが可能である。
ここで、送風量一定制御は、目標送風量値として設定された一定の送風量となるように行う制御である。
また、比率一定制御は、最初沈殿池1から反応槽2への流入量に応じた送風量となるように、すなわち流入量と送風量との比率が一定となるように行う制御である。
また、DO一定制御は、反応槽2のDO値が設定された一定の目標DO値となるように行う制御である。
【0029】
また、主な操作項目は、返送汚泥量の調整では第1のポンプ7の回転数であり、余剰汚泥引抜量の調整では単位時間あたりの引抜量又は余剰汚泥の引抜時間であり、脱水処理では高分子凝集剤の注入率である。
本実施形態に係る運転支援装置100は、これらの操作項目を導出対象とする。
そして、運転員は、運転支援装置100によって導出された操作項目に基づいて制御対象の操作量を決定する。
このように運転支援装置100によって制御対象の操作量が決定されることで、勘、経験及びノウハウを有していない者を運転員とすることが可能となる。
【0030】
図2は、本実施形態に係る運転支援装置100の構成を示すブロック図である。
図2に示す運転支援装置100は、データ蓄積部101と、学習対象データ及び推定対象データ取得部102と、データ加工部103と、学習部110と、運転支援部120と、を備える。
【0031】
データ蓄積部101は、計測器9により計測された対象系列計測値データを取得し、トレンドデータ及び水質データとして蓄積する。
トレンドデータとしては、流入水量、汚泥濃度、汚泥流量、送風量及び気温を例示することができる。
水質データとしては、NH4濃度及びNO3濃度を例示することができる。
なお、データ蓄積部101は、半導体メモリ又は磁気ディスク等の記録媒体により実現することができる。
【0032】
学習対象データ及び推定対象データ取得部102は、データ蓄積部101に蓄積されたトレンドデータ及び水質データから、操作量導出に用いる学習対象データ及び推定対象データを選択して取得する。
なお、学習対象データ及び推定対象データ取得部102は、MPU(Micro-Processing Unit)又はCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサと、半導体メモリ又は磁気ディスク等の記録媒体とを組み合わせて実現することができる。
【0033】
データ加工部103は、学習対象データ及び推定対象データ取得部102からの学習対象データ及び推定対象データを学習可能に、後述する、同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータと同様の形式に加工する。
なお、データ加工部103は、MPU又はCPU等のプロセッサと、半導体メモリ又は磁気ディスク等の記録媒体とを組み合わせて実現することができる。
【0034】
図3は、
図2に示すデータ加工部103の加工例として、取得した連続値を平均値からのずれに基づいて離散化したイメージを示す図である。
図3では、データ値xは、取得した連続値について算出された平均値及び標準偏差σを用いて、平均値からのずれと標準偏差σとの大小関係に基づいて、x<-σであればξ=1とし、-σ≦x≦0であればξ=2とし、0<x≦σであればξ=3とし、σ<xであればξ=4として、4段階に離散化されている。
なお、
図3では、データ値を正規分布としているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、所定のしきい値を設定して、データ値と所定のしきい値との大小関係で2段階に離散化、すなわち2値化することも可能である。
又は、単純に正規化処理を適用して、平均値0、標準偏差1の連続値に加工してもよい。
データの加工方法は、データの分布により決定すればよい。
【0035】
学習部110は、学習対象データ取得部111と、学習パラメータ更新部112と、学習パラメータ記憶部113と、他系列又は他機場学習パラメータ記憶部114と、を備え、学習対象データにより学習して学習パラメータを記憶する。
学習対象データ取得部111は、データ加工部103により加工された、加工済み学習対象データを取得する。
学習パラメータ更新部112は、同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、学習対象データ取得部111からの加工済み学習対象データを用いて学習パラメータを全更新する。
学習パラメータ記憶部113は、学習パラメータ更新部112からの更新済み学習パラメータを記憶する。
他系列又は他機場学習パラメータ記憶部114は、同機場の他系列又は他機場からの他系列又は他機場学習パラメータを記憶する。
なお、学習対象データ取得部111及び学習パラメータ更新部112は、MPU又はCPU等のプロセッサと、半導体メモリ又は磁気ディスク等の記録媒体とを組み合わせて実現することができる。
また、学習パラメータ記憶部113及び他系列又は他機場学習パラメータ記憶部114は、半導体メモリ又は磁気ディスク等の記録媒体により実現することができる。
【0036】
運転支援部120は、推定対象データ取得部121と、操作量導出部122と、操作量出力部123と、を備え、推定対象データ及び学習パラメータを用いて導出した制御対象の操作量を出力する。
推定対象データ取得部121は、データ加工部103により加工された、加工済み推定対象データを取得する。
操作量導出部122は、推定対象データ取得部121からの加工済み推定対象データと、学習パラメータ記憶部113に記憶された学習パラメータにより構築したモデルと、を用いて制御対象の操作量を導出する。
なお、推定対象データ取得部121及び操作量導出部122は、MPU又はCPU等のプロセッサと、半導体メモリ又は磁気ディスク等の記録媒体とを組み合わせて実現することができる。
操作量出力部123は、操作量導出部122が導出した制御対象の操作量を出力することで、運転員に制御対象の操作量を提示する。
なお、操作量出力部123が運転装置に対して制御対象の操作量を出力し、該運転装置がこの操作量に基づいて自動運転する構成としてもよい。
【0037】
図4は、
図2に示す学習部110の処理を示すフローチャートである。
学習部110の学習対象データ取得部111は、データ加工部103により加工された、加工済み学習対象データを取得する(S1)。
【0038】
学習部110の学習パラメータ更新部112は、同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、学習対象データ取得部111からの加工済み学習対象データを用いて学習パラメータを全更新する(S2)。
【0039】
図5は、学習パラメータ更新部112における学習のイメージである。
図5においては、同機場の他系列又は他機場において取得した、他系列又は他機場学習パラメータにより生成された、他系列又は他機場で学習済みの推論モデルに対象系列データが入力されて、ニューラルネットワークによる学習が行われる。
入力される対象系列データは、上述したように、データ加工部103において他系列又は他機場学習パラメータと同様の形式に加工されて共通化されているため、通常の機械学習処理により学習パラメータの全部が更新される。
なお、
図5には、推論モデルとしてニューラルネットを例示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、推論モデルは、学習パラメータを保存及び更新可能な機械学習手法を用いるものであればよい。
【0040】
学習部110の学習パラメータ記憶部113は、学習パラメータ更新部112からの更新済み学習パラメータを記憶する(S3)。
【0041】
図6は、
図2に示す運転支援部120の処理を示すフローチャートである。
運転支援部120の推定対象データ取得部121は、データ加工部103により加工された、加工済み推定対象データを取得する(S11)。
ここで取得する加工済み推定対象データは、推定対象時刻に対応するトレンドデータ及び水質データ等の観測可能な説明変数のデータである。
【0042】
運転支援部120の操作量導出部122は、推定対象データ取得部121からの加工済み推定対象データに含まれる推定対象の説明変数と、学習パラメータ記憶部113に記憶された学習パラメータと、を用いて制御対象の操作量を導出する(S12)。
【0043】
運転支援部120の操作量出力部123は、導出した制御対象の操作量を出力する(S13)ことで、運転員又は運転装置に制御対象の操作量を提示する。
【0044】
このように、本実施形態によれば、蓄積されたデータ量が少ない場合であっても、他系列又は他機場のデータを転用することで、高い精度で操作量の導出が可能な技術を提供することができる。
【0045】
(実施形態2)
実施形態1においては、学習パラメータ更新部が、同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、学習パラメータを全更新する形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施形態では、学習パラメータ更新部が、同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、一部の学習パラメータについてのみ更新を行い、他の一部の学習パラメータについては更新せずそのまま使用する形態について説明する。
【0046】
なお、本実施形態に係る運転支援装置は、学習パラメータ更新部の学習パラメータの更新方法のみが異なり、その他については実施形態1と同じであるため、実施形態1の説明を援用する。
【0047】
図7は、本実施形態に係る運転支援装置が備える学習パラメータ更新部における学習のイメージである。
図7に示すように、本実施形態においても、実施形態1と同様に、同機場の他系列又は他機場において取得した、他系列又は他機場学習パラメータにより生成された、他系列又は他機場で学習済みの推論モデルに対象系列データが入力されて、ニューラルネットワークによる学習が行われる。
ここで、更新せずにそのまま使用する一部の学習パラメータについては中間出力の計算のみに用い、中間出力を受け取った推論モデルの後半部分のみ学習パラメータが更新される。
すなわち、普遍的な特徴を抽出する入力層に近い部分については既存の学習済みモデルが使用され、対象の性質を強く反映する出力層に近い部分については推定対象データを用いて更新処理が行われる。
【0048】
このように、本実施形態によれば、他系列又は他機場のデータを転用して学習済みモデルを構築し、対象の性質を強く反映する出力層に近い部分についてのみ推定対象データで更新処理を行うことで更新処理の負荷を低減し、蓄積されたデータ量が少ない場合であっても、高い精度で操作量の導出が可能な技術を提供することができる。
【0049】
(実施形態3)
実施形態1,2においては、学習パラメータ更新部が、同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場学習パラメータにより生成された既存モデルをベースにし、学習パラメータを更新する形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施形態では、データ加工部において対象系列計測値データと他系列又は他機場計測値データとを結合し、結合したデータを用いて推論モデルを構築する形態について説明する。
【0050】
なお、本実施形態に係る運転支援装置において、実施形態1と同じ構成には同じ符号を付して実施形態1の説明を援用する。
【0051】
図8は、本実施形態に係る運転支援装置100aの構成を示すブロック図である。
図8に示す運転支援装置100aは、データ蓄積部101aと、学習対象データ及び推定対象データ取得部102aと、データ加工及び結合部103aと、学習部110aと、運転支援部120と、を備える。
データ蓄積部101aは、計測器9により計測された対象系列計測値データと、図示しない同機場の他系列又は他機場において取得した他系列又は他機場計測値データと、の双方を取得し、トレンドデータ及び水質データとして蓄積する。
なお、データ蓄積部101aは、データ蓄積部101と同様に、記録媒体により実現することができる。
【0052】
学習対象データ及び推定対象データ取得部102aは、データ蓄積部101aに蓄積されたトレンドデータ及び水質データから、操作量導出に用いる学習対象データ及び推定対象データを選択して取得する。
なお、学習対象データ及び推定対象データ取得部102aは、学習対象データ及び推定対象データ取得部102と同様に、プロセッサと、記録媒体とを組み合わせて実現することができる。
【0053】
データ加工及び結合部103aは、学習対象データ及び推定対象データ取得部102aからの学習対象データ及び推定対象データを学習可能に加工し、対象系列のデータと、同機場の他系列又は他機場のデータと、を結合する。
なお、データ加工及び結合部103aは、データ加工部103と同様に、プロセッサと、記録媒体とを組み合わせて実現することができる。
ここで、データの加工方法は、実施形態1と同様であり、
図3を参照した説明を援用する。
【0054】
図9は、対象系列のデータと、同機場の他系列又は他機場のデータと、が結合されたブロックの構成を示す図である。
データ加工及び結合部103aは、
図9に示すように、推定対象系列部分に含まれる対象系列のデータx
Aと、他系列又は他機場部分に含まれる同機場の他系列又は他機場のデータx
Bと、を結合することで、共通部分と、推定対象系列部分と、他系列又は他機場部分と、の3つのブロックから構成されるデータを形成する。
このように結合する際に、該当するデータが存在しない領域は、推定時に寄与又は使用しないようにするため、用いる機械学習手法に応じて0又はNULL値で埋める。
【0055】
図10は、データ加工及び結合部103aにおける、対象系列のデータと、同機場の他系列又は他機場のデータと、を結合したイメージを示す図である。
このように、3ブロックに分けて結合することで、共通部分、推定対象系列部分、及び他系列又は他機場部分のいずれが推定に寄与する場合にも対応することが可能となり、推定に寄与しない部分については学習処理が適用されて回帰係数が小さくなる等により、自然に使用しない形が形成される。
【0056】
学習パラメータ更新部112aは、このように結合されたデータを用いてモデルを構築するとともに学習パラメータを更新する。
【0057】
このように、本実施形態によれば、蓄積されたデータ量が少ない場合であっても、他系列又は他機場のデータを対象系列と同様に蓄積して共通の形式に加工することで、高い精度で操作量の導出が可能な技術を提供することができる。
【0058】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、上述の構成に対して、構成要素の付加、削除又は転換を行った様々な変形例も含むものとする。
【符号の説明】
【0059】
1 最初沈殿池
2 反応槽
3 最終沈殿池
4 送風機
5 風量調整バルブ
6 散気装置
7 第1のポンプ
8 第2のポンプ
9 計測器
10 重力濃縮槽
11 機械濃縮槽
12 消化槽
13 脱水槽
21,22,23,24 配管
100,100a 運転支援装置
101,101a データ蓄積部
102,102a 学習対象データ及び推定対象データ取得部
103 データ加工部
103a データ加工及び結合部
110,110a 学習部
111,111a 学習対象データ取得部
112,112a 学習パラメータ更新部
113,113a 学習パラメータ記憶部
114 他系列又は他機場学習パラメータ記憶部
120 運転支援部
121 推定対象データ取得部
122 操作量導出部
123 操作量出力部
200 水処理施設