(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
B22C 9/06 20060101AFI20240509BHJP
B22D 17/22 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B22C9/06 A
B22D17/22 K
(21)【出願番号】P 2020158571
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大地
(72)【発明者】
【氏名】重里 政考
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祥平
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-240818(JP,A)
【文献】特開2013-240812(JP,A)
【文献】特開2018-086749(JP,A)
【文献】特開2009-241434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 5/00 - 9/30
B22D 15/00 - 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳抜き通路の少なくとも一部を鋳造製品に形成するための第1鋳抜きピンを有する第1金型、
前記第1鋳抜きピンに突合わされる第2鋳抜きピンを有する第2金型、及び、
前記第1金型に設けられかつ、前記第1金型と前記第2金型との型締め状態において、前記第1鋳抜きピンを前記第2鋳抜きピンに向かって付勢する付勢部、を備えた鋳造装置であって、
前記第1金型は、
前記第1金型の端面に開口すると共に、前記第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンとの突合せ軸の方向に延びる第1シリンダー部と、
前記第1シリンダー部に連続すると共に、前記付勢部を収容する第2シリンダー部と、を有し、
前記第1鋳抜きピンは、前記第2シリンダー部内に収容される基端部と、前記基端部に連続すると共に、前記第1シリンダー部を貫通して、前記第1金型の前記端面から前記第2鋳抜きピンに向かって突き出る本体部と、を有し、前記第1シリンダー部及び前記第2シリンダー部によって前記突合せ軸の方向に往復動可能に保持され、
前記付勢部は、前記第1鋳抜きピンの基端部に隣接して前記突合せ軸の方向に直列に配置されると共に、それぞれ前記突合せ軸の方向に圧縮変形した場合に、前記第1鋳抜きピンに弾性復元力を付与する第1弾性体と第2弾性体とを有し、
前記付勢部はまた、
前記第1弾性体の一端と接する第1保持部材、及び、
前記第1弾性体の他端と接して、前記第1保持部材との間に前記第1弾性体を狭持する狭持部と、該狭持部から延びて前記第1弾性体を保持すると共に、前記第1保持部材を前記突合せ軸の方向に往復動可能に支持する支持部とを持つ第2保持部材、を有し、
前記第2保持部材の前記支持部には、前記突合せ軸の方向に延びる長穴部が形成され、
前記第1保持部材には、前記突合せ軸に直交する方向に延びるとともに、前記長穴部に挿通し、前記長穴部に沿って前記突合せ軸の方向に往復動する様に構成されたストッパーピンが固定され、前記第1保持部材は、前記ストッパーピンが前記長穴部内に係合する範囲において
、第1位置と、
前記第1保持部材が前記第1位置にある状態よりも前記第1弾性体の長さが短くなる第2位置との間で前記突合せ軸の方向に往復動し、
前記第1保持部材が
前記第1位置にある状態での前記第1弾性体の長さが、それの自然長より短くなるように、前記長穴部の位置が設定されることを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記第1弾性体は、前記第1鋳抜きピンの基端部に近い位置に配置され、前記第2弾性体は、前記第1鋳抜きピンの基端部から離れた位置に配置され、
前記第2シリンダー部は、前記突合せ軸に交差する方向に広がって、前記第2弾性体の他端に当接する当接面を有し、
前記付勢部を前記第2シリンダー部の内部に収容した状態において、前記第2弾性体の長さが、それの自然長より短くなるように、前記第2シリンダー部の長さが設定されることを特徴とする請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記第1保持部材及び前記第2保持部材が、前記第1金型及び前記第2金型の型締め前の状態において前記第1弾性体に付与している圧縮荷重は、型締め開始時に、前記第1鋳抜きピンを通じて前記付勢部に付与される荷重よりも大きくかつ、型締め終了時に、前記第1鋳抜きピンを通じて前記付勢部に付与される荷重よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記第1弾性体及び前記第2弾性体はコイルスプリングであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の鋳造装置。
【請求項5】
前記第2鋳抜きピンは、前記第2金型に固定され、
前記第1鋳抜きピンの長さは、前記第2鋳抜きピンよりも短いことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の鋳造装置。
【請求項6】
前記第1鋳抜きピンの先端部は凸形状又は凹形状であり、
前記第2鋳抜きピンの先端部は、前記第1鋳抜きピンの先端部に凹凸係合する凹形状又は凸形状であり、
前記第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンとの突合せ時に、前記凸形状の頂部と前記凹形状の谷部との間に隙間が形成されることを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の鋳造装置。
【請求項7】
前記鋳造製品が多気筒エンジンのシリンダブロックであり、前記鋳抜き通路がシリンダボアの配列位置の近傍かつ、配列方向と平行に形成され、
前記第1鋳抜きピンには、冷却水が流れる第1冷却通路が設けられ、
前記第2鋳抜きピンには、冷却水が流れる第2冷却通路が設けられ、
前記第1鋳抜きピンの先端部と前記第2鋳抜きピンの先端部の突合せ位置は、隣接する前記シリンダボア間の肉厚部から離間した、シリンダボア周囲の薄肉部に設定されていることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に記載の鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造製品に鋳抜き通路を形成する鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製品に直線状の通路を形成するために、例えば、特許文献1に開示されるように、対向する一対の金型のそれぞれに設けられた鋳抜きピンを用いることが知られている。
【0003】
その場合には、一方の鋳抜きピンと、他方の鋳抜きピンを突合せた状態で注湯し、型開きとともに抜いた鋳抜きピンの位置に空洞を形成することにより製品に直線状の通路が形成される。
【0004】
直線状の通路を精度良く形成するためには、注湯前に鋳抜きピン同士を一定以上の力で付勢しておく必要がある。そのために、少なくとも一方の鋳抜きピンの基端側にバネが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋳抜きピン同士を付勢するバネのバネ定数が低いと、型締め時に十分な突合せ力を得るためにはバネを大きく変形させる必要があり、結果として鋳抜きピンの後退変位量が増すため、鋳抜きピンを収容する金型の大型化を招く。バネ定数は、適宜の大きさに設定しなければならない。
【0007】
一方で、型締め後には、鋳抜きピン同士の突合わせ力に、注湯時の鋳抜きピンの熱膨張により作用する力が加わる。バネのバネ定数を型締め時に十分な突合せ力を得るように設定すると、鋳抜きピンに作用する圧縮力が高くなり過ぎる恐れがある。特に通路長の長い通路を製品に形成する場合には、鋳抜きピンの全長が長くなり、熱膨張による鋳抜きピンの伸びが大きくなる。その結果、鋳抜きピンに作用する圧縮力が座屈荷重を上回り、注湯時に鋳抜きピンが座屈するおそれがある。
【0008】
さらに、鋳抜きピンが座屈すると、製品に形成される通路が湾曲し、型開き時に鋳抜きピンが抜けなくなるおそれがある。また、鋳造後の機械加工に支障をきたすおそれがある。
【0009】
従って、特許文献1に記載されている鋳抜きピンを付勢するバネのバネ定数の設定には改善の余地がある。
【0010】
すなわち、型締め時に要求される比較的大きな突合わせ力を確保しながら、注湯時には、突合わせ力が大きくなりすぎないように抑制する機構が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討した結果、型締め時のバネ定数と型締め後のバネ定数とが変化するようにした。より詳細に、本願発明者は、型締め時のバネ定数を型締め後のバネ定数よりも大きくすることで、型締め時に要求される比較的大きな付勢力と、注湯時に要求される付勢力の増大の抑制とを、実現出来る機構を想到した。
【0012】
すなわち、本発明は
鋳抜き通路の少なくとも一部を鋳造製品に形成するための第1鋳抜きピンを有する第1金型、
前記第1鋳抜きピンに突合わされる第2鋳抜きピンを有する第2金型、及び、
前記第1金型に設けられかつ、前記第1金型と前記第2金型との型締め状態において、前記第1鋳抜きピンを前記第2鋳抜きピンに向かって付勢する付勢部、を備えた鋳造装置であって、
前記第1金型は、
前記第1金型の端面に開口すると共に、前記第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンとの突合せ軸の方向に延びる第1シリンダー部と、
前記第1シリンダー部に連続すると共に、前記付勢部を収容する第2シリンダー部と、を有し、
前記第1鋳抜きピンは、前記第2シリンダー部内に収容される基端部と、前記基端部に連続すると共に、前記第1シリンダー部を貫通して、前記第1金型の前記端面から前記第2鋳抜きピンに向かって突き出る本体部と、を有し、前記第1鋳抜きピンは、前記第1シリンダー部及び前記第2シリンダー部によって前記突合せ軸の方向に往復動可能に保持され、
前記付勢部は、前記第1鋳抜きピンの基端部に隣接して前記突合せ軸の方向に直列に配置されると共に、それぞれ前記突合せ軸の方向に圧縮変形した場合に、前記第1鋳抜きピンに弾性復元力を付与する第1弾性体と第2弾性体とを有し、
前記付勢部はまた、
前記第1弾性体の一端と接する第1保持部材、及び、
前記第1弾性体の他端と接して、前記第1保持部材との間に前記第1弾性体を狭持す
る狭持部と、該狭持部から延びて前記第1弾性体を保持すると共に、前記第1保持部材を前記突合せ軸の方向に往復動可能に支持する支持部とを持つ第2保持部材、を有し、
前記第2保持部材の前記支持部には、前記突合せ軸の方向に延びる長穴部が形成され、
前記第1保持部材には、前記突合せ軸に直交する方向に延びるとともに、前記長穴部に挿通し、前記長穴部に沿って前記突合せ軸の方向に往復動する様に構成されたストッパーピンが固定され、前記第1保持部材は、前記ストッパーピンが前記長穴部内に係合する範囲において、第1位置と、前記第1保持部材が前記第1位置にある状態よりも前記第1弾性体の長さが短くなる第2位置との間で前記突合せ軸の方向に往復動し、
前記第1保持部材が前記第1位置にある状態での前記第1弾性体の長さが、それの自然長より短くなるように、前記長穴部の位置が設定される。
【0013】
この構成によれば、第1保持部材が第1位置にある状態での第1弾性体の長さが、その自然長より短くなるように長穴部が形成されるので、第1保持部材及び第2保持部材によって第1弾性体が所定荷重にて圧縮保持される。つまり、第1保持部材及び第2保持部材によって狭持されている第1弾性体に所定以上の荷重が加われば、第1弾性体は圧縮するが、所定荷重未満では第1弾性体は圧縮しない。第1鋳抜きピンから第1弾性体に付与される荷重が所定荷重未満であれば、第1弾性体は、圧縮せずに、第1保持部材及び第2保持部材と一体で、突合せ軸の方向に移動する。
【0014】
第1金型と第2金型との型締め際に、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとが突合わさることによって、後退変位した第1鋳抜きピンから付勢部に所定荷重未満の荷重が付与されると、前述のように、第1弾性体が、第1保持部材及び第2保持部材と一体で移動する。これにより、第1弾性体に直列に配置された第2弾性体のみが圧縮変形をし、第2弾性体のみが弾性復元力を第1鋳抜きピンに付与する。第2弾性体のバネ定数を適宜の大きさに設定して、第1鋳抜きピンの変位に対して大きな弾性復元力を発生するようにすれば、第1鋳抜きピンを十分な大きさで付勢することができ、型締めの際に、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの大きな突合せ力を確保することができる。
【0015】
第1金型と第2金型との型締めが進んで、第1鋳抜きピンがさらに後退変位することにより第1鋳抜きピンから付勢部に付与される荷重が所定荷重以上になると、第2弾性体が圧縮変形すると共に、第1弾性体も圧縮変形をする。直列に配設された第1弾性体及び第2弾性体の両方が圧縮変形するため、第1弾性体及び第2弾性体を含む付勢部のバネ定数が変化する。
【0016】
第1鋳抜きピンの後退変位量を第1弾性体と第2弾性体にて分散して受けることが可能となり、変位量が大きくなっても第1鋳抜きピンに付与される荷重の増加を小さくすることが出来る。
【0017】
第1金型と第2金型との型締めが完了して、注湯を開始した後は、第1鋳抜きピン及び/又は第2鋳抜きピンの熱膨張によって第1鋳抜きピンがさらに後退変位する。このときも、付勢部は、第1鋳抜きピンの後退変位量を第1弾性体と第2弾性体にて分散して受けるため、変位量が大きくなっても付勢力の増加を小さくすることが出来る。第1鋳抜きピン及び/又は第2鋳抜きピンに付与される荷重を座屈荷重未満に抑えることができる。
【0018】
よって、前記の構成の鋳造装置は、第1鋳抜きピン及び第2鋳抜きピンの突合せ時には、十分な突合せ力にて二つの鋳抜きピンを突合せ、注湯後の、鋳造製品を成形する際の熱膨張による第1鋳抜きピン及び第2鋳抜きピンの伸び量に対して、第1鋳抜きピンへの付勢力の増加を小さくすることで、座屈荷重未満の範囲内で、鋳抜きピンへかかる付勢力を抑える事ができ、鋳抜きピンの座屈を抑制できる。
【0019】
ここで、第2弾性体が変位する量に対する荷重の増加割合を第1荷重特性、第1弾性体及び第2弾性体が同時に変位する量に対する荷重の増加割合を第2荷重特性と定義して、詳細を説明する。
【0020】
第1荷重特性は、第2荷重特性よりも大とする。この第1荷重特性と第2荷重特性を発揮させるように、2つの弾性体を直列に配置することで、鋳抜きピンが長くなった場合においても、鋳抜きピンの突合せ時には、適正な突合せ力にて鋳抜きピンを支持し、注湯後の成形時では、鋳抜きピンの伸び方向での熱膨張量の増加による、突合せ力の急増による座屈を抑制することができる。
【0021】
合わせて、鋳抜きピンの熱膨張はもちろんのこと、金型間の隙間のばらつき、成形時の金型の膨張、成形時の金型の型開きによる変位量を吸収できる。また、前記第1荷重特性により、成形後の鋳物を金型から脱着する際に前記第1鋳抜きピンを初期位置へ戻す働きがあり、溶湯が前記第1金型の前記第1シリンダー部へ入り込んだ場合でも、成形品を押し出す効果が得られる。
【0022】
前記第1弾性体は、前記第1鋳抜きピンの基端部に近い位置に配置され、前記第2弾性体は、前記第1鋳抜きピンの基端部から離れた位置に配置され、
前記第2シリンダー部は、前記突合せ軸に交差する方向に広がって、前記第2弾性体の他端に当接する当接面を有し、
前記付勢部を前記第2シリンダー部の内部に収容した状態において、前記第2弾性体の長さが、それの自然長より短くなるように、前記第2シリンダー部の長さが設定される、としてもよい。
【0023】
この構成によると、付勢部が第1金型の第2シリンダー部に組み込まれた際に、第2弾性体は第2保持部材と第2シリンダー部の当接面との間で圧縮されている。第1金型の型締め前に、第1鋳抜きピンには、第2弾性体の弾性復元力が付与されており、第1金型は、第1鋳抜きピンを傾けずに保持できる。第1金型と第2金型との型締め時には、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンを突合せ軸線上において精度良く突合せることができ、鋳抜き通路を精度良く形成できる。
【0024】
また、第1金型の型締め前の時の第2弾性体の付勢力が、第1弾性体を圧縮保持している所定荷重未満となるように第2シリンダーの長さを設定することで、第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンの突合せ時の当初は、第2弾性体のみが第1鋳抜きピンの後退変位により圧縮され、少ない変位量にて第1鋳抜きピンへの付勢力を高め、突合せ力を確保する。
【0025】
前記第1保持部材及び前記第2保持部材が、前記第1金型及び前記第2金型の型締め前の状態において前記第1弾性体に付与している圧縮荷重は、型締め開始時に、前記第1鋳抜きピンを通じて前記付勢部に付与される荷重よりも大きくかつ、型締め終了時に、前記第1鋳抜きピンを通じて前記付勢部に付与される荷重よりも小さい、としてもよい。
【0026】
こうすることで、型締め開始時には、第2弾性体のみが圧縮変形をして、第2弾性体のみが第1鋳抜きピンに付勢力を付与できる。その後、型締めが進んで型締めが終了するまでには、第2弾性体と第1弾性体との両方が圧縮変形をして、第2弾性体及び第1弾性体の両方が第1鋳抜きピンに付勢力を付与できる。
【0027】
従って、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突き合わせ時には、第1鋳抜きピンの後退変位に対する付勢部の付勢力を高くし、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの突き合わせ後、型開きまでの間は、第1鋳抜きピンの後退変位に対する付勢部の付勢力を低くできる。
【0028】
さらに、本発明の鋳造装置において、前記第1弾性体及び前記第2弾性体はコイルスプリングである、構成とした。
【0029】
この構成によると、2つコイルスプリングを直列に並べ、2つの荷重特性を持ち合わせることで、第1金型に収容されるコイルスプリングの収容スペースを変更することなく、2つの荷重特性の組合せのみを変更することで、鋳抜きピンの長さに合わせた、突合せ荷重と熱膨張による変位量に合わせた設定が容易となる。
【0030】
コイルスプリングの組み合わせによる荷重特性の最適化により、鋳抜きピンの長さに応じたコイルスプリングを組み合わせことで、鋳抜き通路を成形する第1金型の鋳抜きピンの長さに応じたコイルスプリングの収容スペースを変更することは不要となる。また、コイルスプリングの軸中心が中空であることを利用して、後述するような鋳抜きピン軸心の冷却通路への冷却水の供給配管が容易となる。
【0031】
さらに、本発明の鋳造装置において、前記第2鋳抜きピンは、前記第2金型に固定され、前記第1鋳抜きピンの長さは、第2金型に固定された第2鋳抜きピンよりも短い、構成とした。
【0032】
この構成によると、第1鋳抜きピンは、第1金型に対して往復動可能に支持されるため、第1鋳抜きピンは第1金型に対して傾きやすい。つまり、第1金型に設けられた第1シリンダー部は、第1鋳抜きピンの径方向での熱膨張と前記第1シリンダー部の熱収縮を加味し、適正なクリアランスが必要であり、さらに、摺動抵抗を減らすために、前記第1シリンダー部の支持幅を短く設定することが好ましい。この時、前記第1鋳抜きピンは、前記第2金型に固定されている前記第2鋳抜きピンよりも、倒れによる先端部の位置ズレ量が大きいことから、前記第1鋳抜きピンの長さを前記第2鋳抜きピンよりも短くすることで、前記第1鋳抜きピンの倒れによる先端部の前記第1直線からの、位置ズレ量を小さく出来る。よって、前記第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンとの突合せ位置のズレを最小限に留めながら鋳抜きピンの突合せが可能となる。
【0033】
さらに、本発明の鋳造装置において、前記第1鋳抜きピンの先端部は凸形状又は凹形状であり、前記第2鋳抜きピンの先端部は、前記第1鋳抜きピンの先端部に凹凸係合する凹形状又は凸形状であり、前記第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンとの突合せ時に、前記凸形状の頂部と前記凹形状の谷部との間に隙間が形成される構成とした。
【0034】
この構成によると、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの突合せ時に、第1鋳抜きピンの先端部と第2鋳抜きピンの先端部が凹凸係合しながら、直線上に一致し、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンとの先端ズレを防止できる。また、第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンの突合せ後の凸部と凹部に隙間が形成される。この隙間を設けることにより、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンの突合せ面が開かないように、凹凸部の熱膨張を吸収し、第1鋳抜きピンと前記第2鋳抜きピンの突合せ部分に溶湯が侵入することを防止することが出来る。
【0035】
さらに、本発明の鋳造装置において、前記鋳造製品が多気筒エンジンのシリンダブロックであり、前記鋳抜き通路がシリンダボアの配列位置の近傍かつ、配列方向と平行に形成され、前記第1鋳抜きピンには、冷却水が流れる第1冷却通路が設けられ、前記第2鋳抜きピンには、冷却水が流れる第2冷却通路が設けられ、前記第1鋳抜きピンの先端部と前記第2鋳抜きピンの先端部の突合せ位置は、隣接する前記シリンダボア間の肉厚部から離間した、シリンダボア周囲の薄肉部に設定される構成とした。
【0036】
この構成によると、溶湯が固化する際での、鋳抜き通路周りでの巣の発生を防ぐため、2本の鋳抜きピンの突合せ面を、成形品の鋳抜き通路の前記第1金型と前記第2金型間の中心から外すことで、鋳抜きピン先端の突合せ面は気筒間のボア中心間の肉厚部である中心線上を避けることが出来る。また、鋳抜きピンに冷却水を循環させることで、溶湯の冷却を促進していることから、前記肉厚部と冷却水の流動部位を一致させることにより冷却が促進される。また、冷却効果により、特に前記第1鋳抜きピンの膨張を抑制し、摺動部の摩擦及び、摩耗を低減出来る。
【発明の効果】
【0037】
以上述べたように、本発明によると、ダイキャスト鋳造にて、対向する鋳抜きピンの先端部を適切な突合せ力にて、確実に突合せ、鋳抜きピンの熱膨張による座屈に伴う曲げ変形を抑制出来る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本実施形態に係る鋳造装置により鋳抜き通路が形成された多気筒エンジンのシリンダブロックを示す模式図。
【
図2】
図1中の破線Aで囲む領域を拡大して示す模式図。
【
図3】本実施形態に係るダイキャスト鋳造装置を示す正面図。
【
図4】
図3中の破線Bで囲む領域を拡大して示す模式図。
【
図5】付勢部の構成を例示する、側面図及びA-A矢視断面での断面を示す断面図。
【
図6】本実施形態に係る付勢部の変位量に対する荷重特性を示すグラフ。
【
図7】第一金型に付勢部を組付ける時から、第1鋳抜きピンと第2鋳抜きピンを突合せて注湯するまでの付勢部の状態を示す模式図。
【
図8】
図7中のB-B矢視断面での断面を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0040】
図1を用いて、本実施形態に係る鋳造装置によって成形される鋳造製品である多気筒エンジンのシリンダブロック100について説明する。
図1は鋳抜き通路1fが形成されたシリンダブロック100の断面図である。シリンダライナ1cが直列に鋳込まれ、多気筒を形成する。鋳抜き通路1fは、シリンダボア1a、2a、3a、4a・・の配列位置の近傍でかつ、シリンダボア1a、2a、3a、4a・・の配列方向の中心線1dと平行に形成されたオイル通路(メインギャラリー)である。
【0041】
詳細は後述するが、鋳抜き通路1fは、シリンダブロック100の一端面を形成する第1金型21から突き出した第1鋳抜きピン23と、シリンダブロック100の他端面を形成する第2金型22から突き出した第2鋳抜きピン24と、によって形成される。第1鋳抜きピン23の第1金型21からの突き出し長さを1g、第2鋳抜きピン24の第2金型22からの突き出し長さを1hとし、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24を突合せて、鋳抜き通路1fを成形する。
【0042】
多気筒エンジンは、第1~第6の気筒が直列に配置された直列6気筒エンジンである。シリンダブロック100は、気筒列方向の長さが比較的長く。それに伴い、鋳抜き通路1fの長さも比較的長い。長い鋳抜き通路1fを形成するため、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24の長さもそれぞれ長い。ここで説明する鋳造装置200は、後述する特徴的な構成を有していることによって、長いオイル通路の成形するための機械加工を省略できる。
【0043】
図2を用いて、第1鋳抜きピン23の先端と前記第2鋳抜きピン24の先端との突合せ位置1iについて説明する。前述したように、シリンダブロック100は、直列6気筒エンジンを構成するため、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24との突合わせ位置1iは、第3気筒と第4気筒とのシリンダボア3a、4a間の近傍になる。より詳細に、突合せ位置1iは、シリンダボア3a、4a間の中心線1e(つまり、気筒列方向に直交する中心線1e)に対し、気筒列方向の一方の側に、距離1nだけずれた位置に設定されている。これは、シリンダボア3a、4a間の中心線1e上における肉厚部1jの冷却を促進するためである。なお、
図2の構成例では、突合わせ位置1iは、第1金型21側、つまり、
図2における紙面左側にずれている。
【0044】
すなわち、気筒は横断面円形状を有しているため、シリンダボア3a、4a間の中心線1e上は鋳物の肉厚が分厚く、中心線1eから気筒列方向に位置がずれるに従い、鋳物の肉厚が次第に薄くなる。
【0045】
一方、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24にはそれぞれ、その内部に、冷却水が流れる第1冷却通路28及び第2冷却通路29がピンの中心軸に沿うように形成されている。但し、第1冷却通路28及び第2冷却通路29はそれぞれ、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24の先端にまでは到達していない。このため、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24の突合わせ位置1iには、第1冷却通路28及び第2冷却通路29が無く、鋳造時に、突合わせ位置1iは冷却されにくい。仮に突合わせ位置1iをシリンダボア間の中心線1e上に一致させてしまうと、鋳物の肉厚が分厚い肉厚部1jを、十分に冷却できない恐れがある。
【0046】
これに対し、突合わせ位置1iを、シリンダボア3a、4a間の中心線1eからずらすことによって、
図2の構成例のように、突合わせ位置1iを、鋳物の肉厚が薄い薄肉部1kに設定する。こうすることによって、第2鋳抜きピン24の第2冷却通路29の位置と、鋳物の肉厚が分厚い肉厚部1jとが対応し、当該肉厚部1jを十分に冷却できるようになる。
【0047】
つまり、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24を、シリンダボア3a、4a間の中心線1eから距離1n離れた、肉厚が薄い薄肉部1kにて突合せることで、第2鋳抜きピン24の第2冷却通路29と肉厚部1jとが重なることにより、肉厚部1jの冷却が促進される。
【0048】
第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24との突合わせ位置1iが、シリンダボア3a、4a間の中心線1eからずれているため、第1鋳抜きピン23の長さ1gは、第2鋳抜きピン24の長さ1hよりも短い。
【0049】
尚、図示は省略するが、突合わせ位置1iを、
図2とは逆に、シリンダボア3a、4a間の中心線1eに対して、第2金型22の方へずらしてもよい。但し、後述するように、第1鋳抜きピン23は第1金型21に対して変位可能に取り付けられるため、第1鋳抜きピン23の傾きを抑制するために、第1鋳抜きピン23の長さ1gを、第2鋳抜きピン24の長さ1hよりも短くすることが好ましい。
【0050】
図3を用いて、本実施形態に係る鋳造装置の鋳抜きピン支持構造の構成について説明する。鋳造装置200は鋳物成形で用いられる金型を有する。鋳造装置200は、金型の型締め位置での鋳抜きピンが突き合わさった状態において、左側の第1金型21、右側の第2金型22、及び、上下、前後方向の6つの金型によりキャビティ25を形成し、それぞれの方向において近接または離間するようにスライド可能に構成されている。鋳物成形とは、溶融した金属(本実施形態ではアルミ二ウム合金)をキャビティ25に注入して鋳造製品を得られる鋳造方法であり、本実施形態では、自動車用エンジンのシリンダブロックが鋳造製品である。
【0051】
第1金型21は左右方向の一方側に配置される金型である。第1金型21は、
図4にも示すように、第1鋳抜きピン23と、第1シリンダー部26と、付勢部27と、第1冷却通路28と、第2シリンダー部30と、を具備している。詳細は後述するが、第1鋳抜きピン23は、付勢部27によって、第1金型21に対して進退可能に構成されている。
【0052】
第1金型21に対し、第2金型22は、左右方向の他方側に配置される金型である。第2金型22は、第1金型21に対し相対している。第2金型22は、第2鋳抜きピン24及び第2冷却通路29を具備している。第2鋳抜きピン24は、第2金型22から第1金型21側に向かって突き出して組付けられている。第2鋳抜きピン24は、付勢部を介さず、第2金型22に、直接固定されている。第2鋳抜きピン24は、第2金型22に対して進退しない。
【0053】
第1金型21の第1シリンダー部26は、第1金型21の端面(
図4における右端の面)211に開口している。第1シリンダー部26は、端面211から第1金型21の内方へ、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24との突合せ軸に沿うように延びている。突合せ軸は、
図3及び
図4において紙面左右方向に延びる軸である。第1シリンダー部26は、相対的に径が小さい。
【0054】
図4に示すように、第1鋳抜きピン23は、基端部231と本体部232とを有している。基端部231は、後述する第2シリンダー部30内に収容されている。本体部232は、基端部231に対して連続する。本体部232は、基端部231よりも径が小さい。本体部232は、第1シリンダー部26にクリアランスを保った状態で挿入されている。本体部232は、第1シリンダー部26に対して、左右方向に摺動可能である。第1鋳抜きピン23は、付勢部27からの付勢力を受けて第1金型21に組付けられ、本体部232は、第1シリンダー部26を貫通して第1金型21の端面211から第2金型22側に向かって突き出している。第1鋳抜きピン23の本体部232は、成形時には後述する第2鋳抜きピン24と突合わされ、成形後には、シリンダブロックの左右方向に貫通する鋳抜き通路(メインギャラリ)が形成される。
【0055】
第1冷却通路28は、第1鋳抜きピン23の内部に形成されている。より詳細に、第1冷却通路28は、第1鋳抜きピン23の基端から先端に向かって延びると共に、第1鋳抜きピン23の先端部近傍で折り返し、基端に向かって戻る。第1冷却通路28は、詳細な図示は省略するが、第1金型21内に設けられた通路につながっている。冷却水は、第1鋳抜きピン23の内部を循環することで、鋳造時に、第1鋳抜きピン23周りの鋳物の冷却を促進させている。
【0056】
尚、第2鋳抜きピン24にも、第1鋳抜きピン23と同様に、冷却水の第2冷却通路29が形成されている。
【0057】
前述したように、第1鋳抜きピン23と第1シリンダー部26との間には、所定のクリアランスが設けられている。これにより、第1鋳抜きピン23が径方向に熱膨張した場合でも、摺動抵抗を抑制することができる。ところが、第1鋳抜きピン23は、前記のクリアランスによって、固定端の第2鋳抜きピン24よりも、倒れによる突合せ先端部の位置ズレ量が大きい。また、摺動抵抗をできるだけ小さくするために、第1シリンダー部26の長さを短くしている。このため、第1鋳抜きピン23の倒れる角度は大きくなりやすい。そこで、前記の通り、第1鋳抜きピン23の長さを短くしている。このことにより、型締め時に第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24との突合せ位置のズレが抑制される。
【0058】
図4を用いて、
図3における破線部Bを拡大した模式図について説明する。付勢部27は、第2シリンダー部30内に収容されている。より詳細に、付勢部27は、第1鋳抜きピン23の基端部に対し、基端側に隣接して配設される。
【0059】
第2シリンダー部30は、第1シリンダー部26の基端に連続している。第2シリンダー部30と第1シリンダー部26とは連通している。第2シリンダー部30は、第1シリンダー部26よりも径が大きい。第2シリンダー部30の基端、つまり、
図4における紙面左端には、後述する第4保持部材35が当接する当接面301が設けられている。当接面301は、付勢部27の軸方向、つまり、突合せ軸の方向に対して直交する方向に広がる。
【0060】
ここで、第1金型21は、第2シリンダー部30に対応する位置において、第1部分21aと第2部分21bとに分割するように構成されている(
図7も参照)。付勢部27は、分割された第1部分21a及び第2部分21bにおける第2シリンダー部30内に挿入され、第1部分21a及び第2部分21bを、第1金型21となるように組み付けることによって、第2シリンダー部30内に収容される。
【0061】
付勢部27は、直列に並べたコイルバネから成る第2バネ31及び第1バネ32を有している。第1バネ32及び第2バネ31は、同じバネ定数を有していてもよいし、第1バネ32のバネ定数と、第2バネ31のバネ定数とは異なっていてもよい。
【0062】
第1バネ32は、円筒端部がつば状の第2保持部材36と第1バネ32の一端と接する第1保持部材34にて挟持されている。第1バネ32は、詳細は後述するが、第2保持部材36と第1保持部材34によって予め所定荷重にて圧縮した状態にて挟持されている。つまり、第1バネ32は、第1金型21と第2金型22の型締め前の状態において、予め圧縮されている。第1バネ32は、所定荷重以上の荷重では、さらに圧縮可能である。
【0063】
図5を用いて、第1バネ32を第2保持部材36と第1保持部材34にて予め所定荷重にて圧縮した状態にて挟持する方法について説明する。
図5は、付勢部27の縦断面に相当するA-A断面を示している。第2保持部材36は、第1バネ32の軸方向中心部を貫通する円筒状の支持部361と、支持部361の基端に、第3保持部材33と当接するつば状の狭持部362とを有している。
【0064】
支持部361は、第1バネ32に内挿されており、第1バネ32を伸縮可能に保持する。狭持部362は、支持部361よりも大径であり、第1バネ32の基端と当接する。
【0065】
第1保持部材34は、第2保持部材36の支持部361が挿入可能な貫通孔を有している。第1保持部材34は、支持部361に外挿されている。支持部361は、第1保持部材34を、筒軸方向に往復移動が可能となるように支持する。第1バネ32は、第1保持部材34と第2保持部材36の狭持部362との間に配設されている。第1保持部材34は、第1バネ32の先端面と当接する。
【0066】
支持部361の先端側の部位には、第1長穴部39が形成されている。第1長穴部39は、支持部361を径方向に貫通していると共に、第2保持部材36の筒軸方向、つまり、突合せ軸の方向に延びている。
【0067】
第1長穴部39には、第1ストッパーピン40が内挿されている。第1ストッパーピン40は、第1保持部材34に圧入もしくはねじ止め等で固定されている。第1ストッパーピン40は、第1保持部材34の内周面から、径方向の内方に突出している。
【0068】
第1保持部材34は、第1ストッパーピン40が第1長穴部39に係合する範囲において、第1バネ32の長さが長くなる第1位置(
図5に示す位置)と、第1バネ32の長さが短くなる第2位置との間で突合せ軸の方向に往復動できる。
【0069】
第1保持部材34が第1位置にある状態において、第2保持部材36の狭持部362から第1保持部材34までの長さが、第1バネ32の自然長よりも短くなるように、第1長穴部39は、第2保持部材36に設けられている。これにより、第1保持部材34及び第2保持部材36は、第1バネ32の伸び方向を規制し、第1バネ32を所定荷重で圧縮した状態に保持している。第1保持部材34には、第1バネ32の弾性復元力が作用し、第1ストッパーピン40は、第1長穴部39内において、先端側へ押されている。
【0070】
後述するように、型締め時等において、第1保持部材34が第1鋳抜きピン23によって、基端側へ押されると、第1ストッパーピン40は、第1長穴部39内で基端側へ変位可能であるから、第1保持部材34に当接している第1バネ32は、第1保持部材34と第2保持部材36の狭持部362との間で、さらに圧縮される。そして、型開き時等において、第1保持部材34に対する荷重が抜けると、第1ストッパーピン40は、第1長穴部39内において元の位置まで戻り、第1バネ32は、所定荷重にて圧縮された状態になる。
【0071】
図5の構成例において、第4保持部材35と第3保持部材33とは、第2バネ31を挟持する。第4保持部材35は、支持部351と狭持部352とを有し、第2バネ31は、第4保持部材35の狭持部352と、第3保持部材33にて挟持されている。但し、この構成例において、第3保持部材33及び第4保持部材35に狭持されている第2バネ31は、第1バネ32とは異なり、予め圧縮した状態に保持されていない。
【0072】
第4保持部材35は、第2保持部材36と同じ形状を有しており、支持部351には、突合せ軸の方向に延びる第2長穴部37が形成されている。第2長穴部37には、第2ストッパーピン38が内挿されている。
【0073】
第3保持部材33は、第1保持部材34と同じ形状を有しており、第2ストッパーピン38は、第3保持部材33に固定されている。
【0074】
後述するように、型締め時等において、第1バネ32及び第2保持部材36を介して、第3保持部材33が第1鋳抜きピン23によって押されると、第3保持部材33が、基端側へ押され、第2バネ31は、第3保持部材33と第4保持部材35の狭持部352との間で圧縮される。また、型開き時等において、第3保持部材33に対する荷重が抜けると、第2ストッパーピン38は、第2長穴部37内において元の位置まで戻る。
【0075】
尚、第2バネ31も、第1バネ32と同様に、保持部材によって圧縮保持されるようにしてもよい。但し、その場合の第2バネ31の圧縮荷重は、第1バネ32の圧縮荷重よりも小さくするのがよい。
【0076】
ここで、
図5に示すように、円筒状の第2保持部材36及び第4保持部材35によって、付勢部27は、第1鋳抜きピン23の第1冷却通路28につながる冷却通路を形成している。
【0077】
付勢部27は、第1金型21と第2金型22の型締めでの第1鋳抜きピン23と前記第2鋳抜きピン24の突合せ時の第1鋳抜きピン23の後退変位による荷重を、第2バネ31及び第1バネ32にて支持している。基端部231にて、第1鋳抜きピン23は第1保持部材34を押圧し、第1バネ32を保持する第2保持部材36の狭持部362が第3保持部材33を押圧し、第2バネ31を保持する第4保持部材35の狭持部352が第2シリンダー部30の当接面301に当接することで、第1鋳抜きピンの変位による荷重を第2バネ31及び第1バネ32にて支持している。
【0078】
図6のグラフを用いて付勢部27の荷重特性について説明する。縦軸に付勢部27にかかる荷重、横軸に付勢部27の変位量を示している。横軸は、付勢部27を第1金型21に組付ける前の状態から組付けるまで、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の先端側とが突き合わされ、金型が型締めされるまで、金型の型締め後から成形が完了するまでの付勢部27の変位量の推移を示している。
【0079】
図6のグラフにおける第1荷重特性51は、第2バネ31のみによるバネ定数での特性であり、傾きの変化点部位53以降の第2荷重特性52は第1バネ32及び第2バネ31の組合せによるバネ定数での特性である。
【0080】
第2荷重特性52の傾きは、第1荷重特性51の傾きより小さい設定である。つまり、傾きの変化点部位53での荷重56は第1バネ32を圧縮保持している所定荷重に相当し、付勢部27に付与される荷重が荷重56未満であれば、第2バネ31のみが縮み、付勢部27に付与される荷重が荷重56以上であれば、第2バネ31及び第1バネ32の両方が縮む。
【0081】
図6及び
図7を参照しながら、第1バネ32及び第2バネ31の縮みの態様を、より詳細に説明する。
【0082】
図7の工程P1は、第1金型21へ付勢部27を組付ける工程を例示している。第1バネ32と第2バネ31を第1部分21aと第2部分21bとに挟み込むように、第1金型21に組み込まれる際、第1鋳抜きピン23の基端部231は、第2シリンダー部30の先端側の面に係合し、第4保持部材35の狭持部352は、第2シリンダー部30の当接面301に当接している。第1バネ32は、所定荷重によって圧縮されているため、
図7の工程P1に矢印で示すように、第2バネ31のみが圧縮する。つまり、第1部分21aと第2部分21bとを組み付けた状態において、第2シリンダー部30の長さは、第2バネ31が自然長よりも短くなるような長さに設定されている。
【0083】
付勢部27が第2シリンダー部30内へ収容されると、付勢部27は、
図6に示す変位量54の状態となる。第1金型21へ付勢部27を組付けた状態において、第2バネ31にも圧縮荷重が付与されている。但し、第2バネ31に付与されている圧縮荷重は、第1保持部材34及び第2保持部材36によって第1バネ32に付与されている荷重よりも小さい。つまり、第2シリンダー部30の長さは、第2バネ31を圧縮し過ぎない長さに調整されている。
【0084】
図7の工程P2は、第1金型21の組付けが完了した後、第1金型21と第2金型22との型締めを行う工程を例示している。この工程は、
図6に示す変位量54から変位量55に至る工程に相当する。
【0085】
第1金型21と第2金型22との型締めを開始すると、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24とが突合わされる。突き合わされた第1鋳抜きピン23によって付勢部27に付与される荷重は、当初は荷重56以下である。
図6に例示するように、型締めの開始当初は、第2バネ31のみが圧縮される。このとき第2バネ31は、少ない変位量にて大きな荷重を発生し、第1鋳抜きピン23を付勢する。第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24とは、大きな突き合わせ力で突き合わされる。
【0086】
ここで、
図8を参照しながら、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の突合せ時の先端部の構造を説明する。
図8は、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の先端部を拡大して示す断面図である。符号60は、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の先端側とが突き合わされる突合せ部60である。
【0087】
第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の先端部は、突合せ時の軸心を合わせるために、第1鋳抜きピン23がテーパ状の凸形状、第2鋳抜きピン24がテーパ状の凹形状を成している。突合せ時には、第1鋳抜きピン23の先端と第2鋳抜きピン24の先端とが凹凸係合することにより、第1鋳抜きピン23の軸心と第2鋳抜きピン24の軸心とが一致する。
【0088】
第1鋳抜きピン23の第1鋳抜きピン突合せ部61は、第1鋳抜きピン凸部63と、第1鋳抜きピン平面部65と、第1鋳抜きピン円錐面部67から構成されている。第2鋳抜きピン24の第2鋳抜きピン突合せ部62は、第2鋳抜きピン凹部64と、第2鋳抜きピン平面部66と、第2鋳抜きピン円錐面部68から構成されている。
【0089】
第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の突合せ時には、第1鋳抜きピン円錐面部67と第2鋳抜きピン円錐面部68は接触しながら第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の軸心が同一直線上に重なるように、軸心のズレ位置を修正しながら突合せすることで、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24との軸心が、ズレなく突合される。
【0090】
また、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の突合せ後は、円錐面部より軸中心の近傍は第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24との間に隙間69が形成されている。隙間69は、第1鋳抜きピン凸部63と第2鋳抜きピン凹部64とが熱膨張をした場合に軸中心の近傍での熱膨張分を吸収することでき、突合せ部60の第1鋳抜きピン平面部65と第2鋳抜きピン平面部66との突合せ面が開いて、溶湯が侵入することを防止することでバリの発生を抑制している。
【0091】
尚、第1鋳抜きピン23、第2鋳抜きピン24の先端形状については、どちらかが凹か凸かを限定する物では無く、説明のために第1鋳抜きピン23の先端形状を凸、第2鋳抜きピン24の先端形状を凹とした。
【0092】
第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24とが突き合わさった後、第1金型21と第2金型22との型締めが進むと、付勢部27に付与される荷重が大きくなって、
図6に示す荷重56を超える。そうすると、
図7の工程P2に矢印で示すように、第2バネ31及び第1バネ32の両方が圧縮される。付勢部27のばね定数が変更され、付勢部27の荷重特性は、
図6に示すように、第1荷重特性51から、第2荷重特性52へ移行する。変位量55は、型締め完了時の変位量である。第2荷重特性52は、変位量55にて狙いの荷重57となるように、調整されている。
【0093】
図7の工程P3は、第1金型21及び第2金型22の型締め後の注湯時の工程を例示している、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の突合せ時での付勢部27の状態について説明する。注湯及び成形時には、第1鋳抜きピン23及び/又は第2鋳抜きピン24が熱膨張する。付勢部27の第1バネ32及び第2バネ31は、
図6の変位量55からさらに、圧縮変形をする。ここで、
図6のグラフ縦軸の上限の破線位置は座屈限界荷重58を示している。第2荷重特性52は、注湯及び成形時の第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の熱膨張にて第1鋳抜きピン23が後退変位しても、変位量に対して、座屈限界荷重58を超えない荷重特性としている。つまり、鋳抜きピンの熱膨張量と座屈限界の荷重58から第2荷重特性52の傾きを決定している。熱膨張の吸収代を十分に大きく確保できる。
【0094】
次に、前記の構成の鋳造装置200の付勢部27の作用効果について説明する。
【0095】
付勢部27は、第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24とを確実に突合せると共に、鋳抜きピンの熱膨張による、座屈に伴う鋳抜きピンの曲げ変形を抑制できる。
【0096】
鋳造装置200に於いて、溶湯を注入して鋳抜き通路を有する鋳物を成形する為に鋳抜きピンを用いる方法が知られており、一方の金型に設けられた鋳抜きピンと、他方の金型に設けられた鋳抜きピンを突合せて、成形が行われる。しかし、鋳抜きピンの突合せ力が弱い時には、鋳込み時の溶湯の衝撃により振動して鋳抜きピンが曲げ変形し、鋳抜きピンの突合せ部に溶湯が侵入することでバリが形成され、通路が塞がる懸念がある。一方、鋳抜きピンの突合せ力が高い時には、成形時の鋳抜きピンの熱膨張により、鋳抜きピンが曲げ変形するおそれがあった。
【0097】
本実施形態での付勢部27は、第1金型21への組み付け時には、第4保持部材35と第3保持部材33により挟持された第2バネ31が、付勢力が働いていない状態から、圧縮されながら第1金型21に組込まれ、第1荷重特性51にて第1鋳抜きピン23を支持している。この時、第1バネ32は、第2保持部材36と第1保持部材34により挟持され、所定荷重にて圧縮保持された状態である。
【0098】
第1荷重特性51にて第1鋳抜きピン23を支持することにより、第1鋳抜きピン23には付勢力が働き、第1鋳抜きピン23の基端部231は、第1シリンダー部26と第2シリンダー部30との間の段差部分に押しつけられる。これにより、第1鋳抜きピン23と第1シリンダー部26との隙間による第1鋳抜きピン23の倒れを抑制できる。また、第1金型21と第2金型22との型締めの際には、第2バネ31によるバネ定数による第1荷重特性51にて、対向する鋳抜きピンの先端部同士を確実に突合せ、軸心ズレを抑制できる。
【0099】
第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24とを突合わせた後、付勢部27は、第2荷重特性52に変化する。第2荷重特性52にて型締めでの金型間の隙間のばらつき及び、成形型時での金型の膨張、あるいは金型の型開きによる変位量を吸収する。特に、第2荷重特性52は、成形時の第1鋳抜きピン23と第2鋳抜きピン24の熱膨張にて第1鋳抜きピン23が後退変位しても、低いバネ定数により、変位量に対して、座屈限界荷重58を超えない荷重特性としている。第2荷重特性52の傾きは、鋳抜きピンの熱膨張量と座屈限界荷重58から決定され、第2荷重特性52の傾きは第1荷重特性51の傾きより小さく設定されている。成形時に発生する鋳抜きピンの熱膨張による曲げ変形を抑制できる。
【0100】
シリンダブロック100は、前述したように、直列6気筒エンジン用のシリンダブロックであり、その気筒列方向の長さが長いため、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24によって形成するオイル通路の長さも長い。つまり、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24の長さが長い。このため、第1鋳抜きピン23及び第2鋳抜きピン24が、熱膨張によって伸長する長さは比較的長くなるが、前記の付勢部27によって、鋳抜きピンに作用する荷重が、座屈限界荷重を超えることが抑制される。
【0101】
前記の鋳造装置200は、長いオイル通路を精度良く成形できるため、オイル通路を成形するための機械加工を省略できる。
【0102】
尚、第2シリンダー部30内における第1バネ32と第2バネ31との並び順は入れ替えても良い。
【0103】
付勢部27は、コイルバネ以外に皿バネ等を用いた構成を採用しても良い。また、本実施例では弾性体における第1バネと第2バネとの組合せとして、2つのコイルバネを用いたが、コイルバネと皿バネの組合せ、コイルバネとゴム部材の組合せ等、弾性体としての機能を備える部材を組み合わせて用いても良い。
【0104】
以上より、本実施の形態にかかるダイキャスト鋳造装置によれば、ダイキャスト鋳造にて、対向する鋳抜きピンの先端部を確実に突合せ、鋳抜きピンの熱膨張による曲げ変形を抑制できる。
【符号の説明】
【0105】
200 鋳造装置
25 キャビティ
21 第1金型
23 第1鋳抜きピン
231 基端部
232 本体部
22 第2金型
24 第2鋳抜きピン
26 第1シリンダー部
27 付勢部
28 第1冷却通路
29 第2冷却通路
30 第2シリンダー部
301 当接面
31 第2バネ(第2弾性体)
32 第1バネ(第1弾性体)
33 第3保持部材
34 第1保持部材
35 第4保持部材
36 第2保持部材
361 支持部
362 狭持部
39 第1長穴部
40 第1ストッパーピン
51 第1荷重特性
52 第2荷重特性
1g 第1鋳抜きピン長さ
1h 第2鋳抜きピン長さ
100 シリンダブロック(鋳造製品)
1a、2a、3a、4a シリンダボア
61 第1鋳抜きピン突合せ部
62 第2鋳抜きピン突合せ部