(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】車両用電池の状態検出方法及び検出制御装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240509BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240509BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240509BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20240509BHJP
H01M 10/647 20140101ALI20240509BHJP
G01K 11/3206 20210101ALI20240509BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20240509BHJP
G01D 5/353 20060101ALI20240509BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H01M10/48 301
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6556
H01M10/647
G01K11/3206
G01B11/16 G
G01D5/353 C
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2020159293
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花岡 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】種平 貴文
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-020900(JP,A)
【文献】特開2015-198085(JP,A)
【文献】特開2013-148551(JP,A)
【文献】特開2002-289265(JP,A)
【文献】特開2010-118239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/6556
H01M 10/647
G01K 11/3206
G01B 11/16
G01D 5/353
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された電池セルの温度及び歪みを検出する車両用電池の状態検出方法であって、
入射光に対して反射光を生じその反射光の波長が形状変化及び温度変化に応じて変化する光学センサを有し、該光学センサが上記電池セルの温度及び歪みを検出すべき検出部位に固着された光ファイバと、
上記波長を測定する波長測定器と、
上記車両の外気温を測定する外気温センサとを備え、
上記車両の上記電池セルを使用しない駐車時に上記波長及び上記外気温を測定するステップと、
上記駐車時に測定した上記波長と上記外気温とに基いて、上記検出部位の温度補償歪みを求めるステップと、
上記電池セルの使用時に、上記波長測定器によって上記反射光の波長を測定するステップと、
上記使用時に測定した上記波長と上記温度補償歪みに基づいて、上記検出部位の歪み補償温度を求めるステップとを備えていることを特徴とする車両用電池の状態検出方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記光学センサによる反射光の波長の温度依存性データを備え、
上記温度補償歪みを求めるステップでは、上記温度依存性データに基づいて、上記駐車時に測定された上記波長に対応する温度を求め、該温度と上記駐車時に測定された外気温との温度差に対応する波長シフト量から上記温度補償歪みを求めることを特徴とする車両用電池の状態検出方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記光学センサを上記電池セルの上記検出部位に固着した後、上記電池セルの最初の使用を開始する前に上記波長及び外気温を測定し、上記温度依存性データに基いて当該波長に対応する温度を求め、この温度が上記外気温に一致するように、上記温度依存性データを修正するデータ修正ステップを備え、この修正した温度依存性データを用いて上記温度補償歪みを求めることを特徴とする車両用電池の状態検出方法。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
上記歪み補償温度を求めるステップでは、上記電池セルの使用時に検出された上記波長から上記温度補償歪みの前回値に対応する波長シフト量を減算し、この減算後の波長から上記温度依存性データに基づいて歪み補償温度を求めることを特徴とする車両用電池の状態検出方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記電池セルは六面体状の角型セルであり、
上記電池セルの六面のうちの少なくとも1つの面に沿って延びる電池セル冷却用の冷媒通路を備え、
上記電池セルの六面のうちの最も広い面の中央領域と該中央領域に比べて上記冷媒通路から遠い領域の各々に上記検出部位が設けられ、これら検出部位に上記光学センサが設けられることを特徴とする車両用電池の状態検出方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記電池セルの互いに逆向きになった面の各々に沿って延びる2本の電池セル冷却用の冷媒通路を備え、
上記光ファイバは、上記電池セルの上記両冷媒通路の一方側から他方側にわたるように広がった面に、当該両冷媒通路の一方側から他方側に向かって延びるように配設された部分を有し、この部分に複数の上記光学センサが間隔をおいて設けられることを特徴とする車両用電池の状態検出方法。
【請求項7】
車両に搭載された電池セルの温度及び歪みを検出する車両用電池の状態検出制御装置であって、
入射光に対して反射光を生じその反射光の波長が形状変化及び温度変化に応じて変化する光学センサを有し、該光学センサが上記電池セルの温度及び歪みを検出すべき検出部位に固着された光ファイバと、
上記光ファイバに光を入射する光源と、
上記波長を測定する波長測定器と、
上記車両の外気温を測定する外気温センサと、
上記波長及び上記外気温に基いて上記検出部位の温度及び歪みを求める演算装置とを備え、
上記演算装置は、上記車両の上記電池セルを使用しない駐車時に、上記波長測定器によって測定される上記波長及び上記外気温センサによって測定される外気温を取得し、この波長と外気温とに基いて、上記検出部位の温度補償歪みを求め、上記電池セルの使用時に、上記波長測定器によって測定される上記波長を取得し、この波長と上記温度補償歪みに基づいて、上記検出部位の歪み補償温度を求めることを特徴とする車両用電池の状態検出制御装置。
【請求項8】
請求項7において、
上記演算装置は、上記光学センサによる反射光の波長の温度依存性データを備え、上記温度依存性データに基づいて、上記駐車時に測定された上記波長に対応する温度を求め、該温度と上記駐車時に測定された外気温との温度差に対応する波長シフト量から上記温度補償歪みを求めることを特徴とする車両用電池の状態検出方法。
【請求項9】
請求項8において、
上記演算装置は、上記電池セルの使用時に測定された上記波長から上記温度補償歪みの前回値に対応する波長シフト量を減算し、この減算後の波長から上記温度依存性データに基づいて歪み補償温度を求めることを特徴とする車両用電池の状態検出制御装置。
【請求項10】
請求項7乃至請求項9のいずれか一において、
上記電池セルは六面体状の角型セルであり、
上記電池セルの六面のうちの少なくとも1つの面に沿って延びる電池セル冷却用の冷媒通路を備え、
上記電池セルの六面のうちの最も広い面の中央領域と該中央領域に比べて上記冷媒通路から遠い領域の各々に上記検出部位が設けられ、これら検出部位に上記光学センサが設けられることを特徴とする車両用電池の状態検出制御装置。
【請求項11】
請求項7乃至請求項10のいずれか一において、
上記電池セルの互いに逆向きになった面の各々に沿って延びる2本の電池セル冷却用の冷媒通路を備え、
上記光ファイバは、上記電池セルの上記両冷媒通路の一方側から他方側にわたるように広がった面に、当該両冷媒通路の一方側から他方側に向かって延びるように配設された部分を有し、この部分に複数の上記光学センサが間隔をおいて設けられることを特徴とする車両用電池の状態検出制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用電池の状態検出方法及び検出制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される電池は、その発火防止のために、電池反応の異常に伴う温度上昇から熱暴走を生ずること、或いはガス発生に伴う内圧上昇から破損に至ることを未然に防ぐことが要求される。そのためには、電池の温度と歪みの両方を監視することが望ましい。温度上昇は熱電対により検出でき、歪み(内圧上昇)は感圧センサーを用いて検出することができる。しかし、その両者を実行するとなると、電気配線等が非常に複雑になってくる。
【0003】
これに対して、光ファイバを用いて温度及び歪みを測定することが知られている。これは、光ファイバに入射光に対してブラッド波長の反射光を生ずる検出部(センサ)を設け、そのブラッド波長が検出部の温度及び歪みに応じて変化することを利用する測定手法である。しかし、その波長は、温度変化及び歪み発生のいずれがあっても変化するため、その波長変化がいずれに由来するものか区別することができない。
【0004】
特許文献1には、光ファイバ内に歪みを検知する第1光学センサと、歪みの影響を受けずに温度を検知する第2光学センサを備え、第1光学センサの値を第2光学センサから得られる温度値で補正して電池の温度補償歪みを求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法の場合、温度補償歪みを求めるために、1本の光ファイバに温度補償用の光学センサを歪み検出用の光学センサとは別に設ける必要がある。また、電池における両光学センサ各々が配置される部位の温度が同じあるとは限らないから、高い精度で歪みを検出することができるとは必ずしも言えない。
【0007】
本発明は、光ファイバに補償用の光学センサを設けることなく、電池の温度及び歪みを高精度で検出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、電池の温度変化がない状況下で外気温と上記反射光の波長に基いて検出部位の温度補償歪みを求め、上記温度変化を生ずる状況下では、当該温度補償歪みと上記反射光の波長から当該検出部位の歪み補償温度を求める。以下、具体的に説明する。
【0009】
ここに開示する車両用電池の状態検出方法は、車両に搭載された電池セルの温度及び歪みを検出する方法であって、
入射光に対して反射光を生じその反射光の波長が形状変化及び温度変化に応じて変化する光学センサを有し、該光学センサが上記電池セルの温度及び歪みを検出すべき検出部位に固着された光ファイバと、
上記波長を測定する波長測定器と、
上記車両の外気温を測定する外気温センサとを備え、
上記車両の上記電池セルを使用しない駐車時に上記波長及び上記外気温を測定するステップと、
上記駐車時に測定した上記波長と上記外気温とに基いて、上記検出部位の温度補償歪みを求めるステップと、
上記電池セルの使用時に、上記波長測定器によって上記反射光の波長を測定するステップと、
上記電池セルの使用時に測定した上記波長と上記温度補償歪みに基づいて、上記検出部位の歪み補償温度を求めるステップとを備えていることを特徴とする。
【0010】
また、ここに開示する車両用電池の状態検出制御装置は、車両に搭載された電池セルの温度及び歪みを検出する装置であって、
入射光に対して反射光を生じその反射光の波長が形状変化及び温度変化に応じて変化する光学センサを有し、該光学センサが上記電池セルの温度及び歪みを検出すべき検出部位に固着された光ファイバと、
上記光ファイバに光を入射する光源と、
上記波長を測定する波長測定器と、
上記車両の外気温を測定する外気温センサと、
上記波長及び上記外気温に基いて上記検出部位の温度及び歪みを求める演算装置とを備え、
上記演算装置は、上記車両の上記電池セルを使用しない駐車時に、上記波長測定器によって測定される上記波長及び上記外気温センサによって測定される外気温を取得し、この波長と外気温とに基いて、上記検出部位の温度補償歪みを求め、上記電池セルの使用時に、上記波長測定器によって測定される上記波長を取得し、この波長と上記温度補償歪みに基づいて、上記検出部位の歪み補償温度を求めることを特徴とする。
【0011】
上記検出方法及び検出制御装置のいずれも、車両駐車時は電池セルは使用されない(充放電はない)から電池セルの検出部位に温度変化がなく、外気温センサによって測定される外気温を当該検出部位の温度とみなすことができることを前提としている。好ましいのは、電池セルの充放電を停止してから数時間(例えば2、3時間)を経過しているときに上記波長を測定することである。そのような時間を経過しているときは、電池セルの温度は外気温と同一になるのが通常である。
【0012】
上記車両駐車時に得られる上記反射光の波長には電池セルの検出部位の歪みと温度の影響が現れている。上記検出方法及び検出制御装置は、上記検出部位の温度補償歪みを求めるための温度情報を外気温センサから得るものである。端的に言えば、上記反射光の波長に現れている温度影響分を外気温で補正して温度補償歪みを求めるということである。
【0013】
一方、電池セル使用時に得られる上記反射光の波長にも上記検出部位の歪みと温度の影響が現れている。上記検出方法及び検出制御装置は、上記検出部位の歪み補償温度を求めるための歪み情報として先に求めた温度補償歪みを採用するものである。端的に言えば、上記反射光の波長に現れている歪み影響分を温度補償歪みで補正して歪み補償温度を求めるということである。
【0014】
このように、上記検出方法及び検出制御装置によれば、温度補償歪みを求めるための温度情報を車両駐車時の外気温から得るとともに、歪み補償温度を得るための歪み情報として上記温度補償歪みを採用するから、光ファイバに補償用の光学センサを別途設けることなく、電池セルの温度及び歪みを高精度で検出することができる。
【0015】
上記検出方法及び検出制御装置の一実施形態では、上記光学センサによる反射光の波長の温度依存性データを備え、この温度依存性データに基づいて、上記駐車時に測定された上記波長に対応する温度を求め、該温度と上記駐車時に測定された外気温との温度差に対応する波長シフト量から上記温度補償歪みを求める。
【0016】
すなわち、光学センサによる測温値と外気温センサによる測温値の差に相当する波長シフトを歪みに換算するものである。これにより、電池セルの検出部位の温度補償歪みを精度良く求めることができる。
【0017】
上記検出方法の一実施形態では、上記光学センサを上記電池セルの上記検出部位に固着した後、上記電池セルの最初の使用を開始する前に上記波長及び外気温を測定し、上記温度依存性データに基いて当該波長に対応する温度を求め、この温度が上記外気温に一致するように、上記温度依存性データを修正するデータ修正ステップを備え、この修正した温度依存性データを用いて上記温度補償歪みを求める。
【0018】
光ファイバの光学センサを電池セルの検出部位に固着したとき、その光学センサに歪みを生じなければ、上記反射光の波長から上記温度依存性データに基づいて得られる温度は外気温に一致すると見込まれる。その一致が見られないときは、光学センサの固着時に負荷がかかって歪みを生じているみなすことができる。
【0019】
そこで、光学センサを検出部位に固着した後、電池セルの最初の使用を開始する前に、温度依存性データに基いて上記波長に対応する温度を求め、この温度が上記外気温に一致するように当該温度依存性データを修正するものである。すなわち、温度依存性データの温度値を光学センサに生じている取付歪み分修正するものである。これにより、温度補償歪みを精度良く求めることができる。
【0020】
上記検出方法及び検出制御装置の一実施形態では、上記電池セルの使用時に検出された上記波長から上記温度補償歪みの前回値に対応する波長シフト量を減算し、この減算後の波長から上記温度依存性データに基づいて歪み補償温度を求める。
【0021】
すなわち、上記反射光の波長を前回求めた温度補償歪み分の波長シフトで補正して温度を求めるものである。これにより、電池セルの検出部位の歪み補償温度を精度良く求めることができる。
【0022】
上記検出方法及び検出制御装置の一実施形態では、
上記電池セルは六面体状の角型セルであり、
上記電池セルの六面のうちの少なくとも1つの面に沿って延びる電池セル冷却用の冷媒通路を備え、
上記電池セルの六面のうちの最も広い面の中央領域と該中央領域に比べて上記冷媒通路から遠い領域の各々に上記検出部位が設けられ、これら検出部位に上記光学センサが設けられる。
【0023】
六面体形状の電池セルにおける最も広い面の中央領域は、電池セルの内圧が上昇したときに歪みが出やすい部分である。また、電池セルの冷媒通路から遠い領域は、電池反応の異常等によってセル内温度が上昇するときに高温になりやすい部分である。上記実施形態によれば、当該両領域に検出部位を設けて光学センサを配置するから、電池セルの温度上昇及び歪み発生を早めに知ってその対策をとることができる。
【0024】
上記検出方法及び検出制御装置の一実施形態では、
上記電池セルの互いに逆向きになった面の各々に沿って延びる2本の電池セル冷却用の冷媒通路を備え、
上記光ファイバは、上記電池セルの上記両冷媒通路の一方側から他方側にわたるように広がった面に、当該両冷媒通路の一方側から他方側に向かって延びるように配設された部分を有し、この部分に複数の上記光学センサが間隔をおいて設けられる。
【0025】
これによれば、相対する冷媒通路間で電池セルにどのような温度分布を生じているかを把握することができるようになる。よって、両冷媒通路の冷媒流量の調節によって電池セルの温度を目標温度に制御すること、或いは局所的な温度ムラを生ずることを防止することが容易になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、温度補償歪みを求めるための温度情報を車両駐車時の外気温から得るとともに、歪み補償温度を得るための歪み情報として上記温度補償歪みを採用するから、光ファイバに補償用の光学センサを別途設けることなく、電池セルの温度及び歪みを高精度で検出することが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】反射光の波長の温度依存性データの一例を示すグラフ図。
【
図3】電池セルの歪みと波長シフトの関係を示すデータの一例を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0029】
図1に示す車両用電池の状態検出制御装置において、1は車両に搭載される充放電可能な電池セルであり、この実施形態では六面体状の角型セルである。車両には、複数の電池セル1が、互い面積が最も広い前面1aと後面1bが相対するように並設された電池モジュールとして搭載される。この電池モジュールにおいて、複数の電池セル1は直列に接続されている。当該車両はパラレル式ハイブリッド車である。電池セル1は、車両を駆動するモータへの電力供給と、車両の制動時の運動エネルギーを電気エネルギーとして蓄える蓄電に用いられる。
【0030】
上記電池モジュールには、電池セル1の互いに逆向きになった上面1cと下面1dの各々に沿って当該電池セル1の並設方向に延びる上側冷媒通路2と下側冷媒通路3が設けられている。両冷媒通路2,3には冷媒(冷却水)が流れ、この冷媒によって電池セル1をその上側からと下側から冷却する。電池セル1の冷却によって温度が上昇する冷媒は熱交換器による外気との熱交換によって冷やされる。
【0031】
複数の電池セル1には、各電池セル1の温度及び歪みを検出するための複数の光学センサ6を有する1本の光ファイバ4が取付けられている。光ファイバ4の一端には、光ファイバ4に光を入射する光源(波長掃引光源)5が接続されている。光学センサ6は、光ファイバ4に回折格子を刻んでなるFBG(ファイバブラッググレーティング)センサであり、光源5からの入射光に対して回折格子の間隔に比例する特定の波長成分であるブラッグ波長の光を反射する。
【0032】
<光ファイバの配設>
本実施形態では、光ファイバ4は、冷媒通路2,3の一方側から他方側にわたって広がった各電池セル1の面積が最も広い面である前面1a(後面1bであってもよい)に取付けられている。光ファイバ4は、1つの電池セル1の前面1aにおいては、冷媒通路2,3の一方側と他方側を往復するように、前面1aの一方の側縁から他方の側縁に向かってジグザグに(サインカーブ状に)延びている。
【0033】
また、光ファイバ4は、1つの電池セル1の上記他方の側縁から隣の電池セル1の前面1aの他方の側縁にわたり、その前面1aの他方の側縁から一方の側縁に向かってジグザグに延びている。さらに、光ファイバ4は、この隣の電池セル1の前面1aの一方の側縁からその次の隣の電池セル1の前面1aの一方の側縁にわたり、その前面1aの一方の側縁から他方の側縁に向かってジグザグに延びている。このようなジグザグ配設パターンの繰り返しによって、1本の光ファイバ4が電池モジュールの全ての電池セル1の前面1aにジグザグに設けられている。
【0034】
そうして、光ファイバ4は、上記ジグザグ配設により、各電池セル1の前面1aにおいて、冷媒通路2,3の一方側から他方側に向かって延びる部分を有することになる。この部分に複数の光学センサ6が間隔をおいて設けられている。換言すれば、各電池セル1の前面1aに、その温度及び歪みを検出すべき複数の検出部位7が冷媒通路2,3の一方側から他方側に向かって間隔をおいて設けられ、その各検出部位7に光学センサ6が固着されている。
【0035】
また、電池セル1の前面1aの中央領域Cと該中央領域Cに比べて冷媒通路2,3から遠い領域Fの各々に検出部位7が設けられ、これら検出部位7に光学センサ6が固着されている。
【0036】
<ブラッグ波長及び外気温の測定手段>
光学センサ6による反射光のブラッグ波長はその光学センサ6の温度と歪みに応じて変化する。すなわち、光学センサ6に外力が加わったり温度が変化すると、回折格子の間隔 が変わり、その結果、ブラッグ波長が変化する。従って、このブラッグ波長の変化をみることによって、電池セル1における光学センサ6が固着された検出部位7の温度と歪みを検出することができる。
【0037】
上記ブラッグ波長の測定のために、光源5とこの光源5に最も近い光学センサ6の中間に波長測定器(受光器)11が光ファイバ12及び光サーキュレータ13を介して接続されている。その波長測定器11と外気温センサ15が演算装置14に接続されている。外気温センサ15は、当該車両に設けられ、車両の外気温を測定する。演算装置14は、各光学センサ6から得られるブラッグ波長及び外気温センサ15から得られる外気温に基いて各電池セル1の各検出部位7の温度及び歪みを求める。
【0038】
本実施形態では、1つの波長測定器11で複数の光学センサ6の反射スペクトラムを観測するために、波長多重方式を採用している。すなわち、複数の光学センサ6については、各々のブラッグ波長が温度変化及び歪みでシフトしても重なることがないように形成されている。なお、波長多重方式に代えて、時間多重方式や周波数多重方式を採用することもできる。この場合は複数の光学センサ6のブラッグ波長は同一であってもよい。
【0039】
<演算装置>
演算装置14は、マイクロコンピュータ及びメモリ(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)を備える。メモリには、
図2に示すブラッグ波長の温度依存性データ(波長-温度マップ)及び
図3に示すブラッグ波長の歪みによるシフトに関するデータ(波長シフト-歪みマップ)が含まれる。波長-温度マップは、光学センサ6の温度変化に応じてブラッグ波長が変化することから、両者の対応関係を予め実験的に求めて電子的に格納したマップである。波長シフト-歪みマップは、光学センサ6の歪みに応じてブラッグ波長がシフトすることから、両者の対応関係を予め実験的に求めて電子的に格納したマップである。
【0040】
演算装置14は、上記波長-温度マップの修正処理、並びに波長測定器11によって測定されるブラッグ波長及び外気温センサ15によって測定される外気温に基づく、各検出部位7の温度補償歪みε及び歪み補償温度T1の演算処理を実行する。先に温度補償歪みε及び歪み補償温度T1の演算処理を説明する。
【0041】
(温度補償歪みεの演算)
演算装置14は、車両の電池セル1を使用しない駐車時に、波長測定器11によって測定される各光学センサ6によるブラッグ波長λ’及び外気温センサ15によって測定される車両の外気温Tを取得する。但し、ブラッグ波長λ’及び外気温Tは、駐車開始から電池セル1の温度が外気温と等しくなる所定時間(本実施形態は3時間)を経過した後に測定する。
【0042】
演算装置14は、測定されたブラッグ波長に基いて波長-温度マップ(
図2)から波長対応温度T’を導出する。演算装置14は、その温度差ΔTに対応する波長シフトΔλを当該波長-温度マップから導出し、この波長シフトΔλに基いて波長シフト-歪みマップ(
図3)から各検出部位7の温度補償歪みεを導出する。
【0043】
(歪み補償温度T1の演算)
演算装置14は、車両の電池セル1を使用する走行中に歪み補償温度T1を演算する。まず、各検出部位7の温度補償歪みεの前回値ε1に基いて波長シフト-歪みマップ(
図3)から歪みε1に対応する波長シフトΔλ1を導出する。各検出部位7の光学センサ6によって得られるブラッド波長λ2から波長シフトΔλ1を減算し、その減算補正後の波長λ3に基づいて波長-温度マップ(
図2)から各検出部位7の歪み補償温度T1を導出する。
【0044】
(波長-温度マップの修正)
光学センサ6を電池セル1の検出部位7に固着したとき、光学センサ6に負荷がかかってその歪みを生ずることがある。その場合、その歪みが波長測定器11による測定値に反映されるため、演算装置14によって得られる温度補償歪みε及び歪み補償温度T1に当該歪み分の誤差を生ずる。
【0045】
そこで、光学センサ6を電池セル1の検出部位7に固着した後、電池セル1の最初の使用を開始する前に(電池セル1の温度が外気温に等しいとみなすことができる駐車状態で)、各検出部位7について光学センサ6によるブラッド波長及び外気温を測定する。そして、そのブラッド波長に基づいて波長-温度マップ(
図2)から波長対応温度を導出する。この波長対応温度と外気温に温度差がある光学センサ6が存在するときは、その光学センサ6の波長-温度マップに、波長対応温度が外気温に一致するように温度を当該温度差分だけ変更する修正を加える。この修正した波長-温度マップが上記温度補償歪みε及び歪み補償温度T1の検出に使用される。
【0046】
(温度補償歪み及び歪み補償温度の演算処理の流れ)
図4に演算装置14による温度補償歪み演算処理の流れを示す。スタート後のステップS1において、車両の駐車時間が3時間を経過したか否かが判別される。駐車時間が3時間を越えるときはステップS2に進んで、外気温センサ15から外気温情報(外気温T)を取得する。続くステップS3において、各検出部位7の光学センサ6によって反射されるブラッド波長λ’を波長測定器11で測定して取得する。続くステップS4において、そのブラッド波長λ’に基いて波長-温度マップ(
図2)から波長対応温度T’を導出する。続くステップS5において、その波長対応温度T’と外気温Tの温度差ΔT(=T’-T)に基いて波長-温度マップ(
図2)から波長シフトΔλを導出する。続くステップS6において、その波長シフトΔλに基づいて波長シフト-歪みマップ(
図3)から各検出部位7の温度補償歪みεを導出する。
【0047】
図5に演算装置14による歪み補償温度演算処理の流れを示す。スタート後のステップS1において、車両走行中(電池セル1の使用中)か否かが判別される。車両走行中であるときはステップS2に進んで、直近で検出した各検出部位7の温度補償歪み(温度補償歪みの前回値)ε1を読み込む。続くステップS3において、その温度補償歪みε1に基づいて波長シフト-歪みマップ(
図3)から波長シフトΔλ1を導出する。続くステップS4において、各検出部位7の光学センサ6によって反射されるブラッド波長λ2を波長測定器11で測定して取得する。続くステップS5において、そのブラッド波長λ2から波長シフトΔλ1を減算して、補正後波長λ3を求める。続くステップS6において、その補正後波長λ3に基づいて波長-温度マップ(
図2)から各検出部位7の歪み補償温度T1を導出する。
【0048】
上記実施形態によれば、電池セル1の検出部位7の温度補償歪みを求めるための温度情報を外気温センサ15から得るから、光ファイバ4には温度補償用の光学センサを設ける必要がない。従って、温度補償用光学センサの性能によって温度補償歪みの検出精度が左右されるということがなく、温度補償歪みを安定して精度良く検出することができる。そうして、歪み補償温度の検出において、温度補償歪みの前回値を歪み情報とするから、歪み補償温度を安定して精度良く検出することができる。
【0049】
また、上記実施形態によれば、光学センサ6を電池セル1の検出部位7に固着した後、電池セル1の最初の使用を開始する前に、ブラッド波長及び外気温を測定し、波長対応温度が外気温に一致するように波長-温度マップを修正する。従って、光学センサ6に取付歪みを生じていても、温度補償歪み及び歪み補償温度を精度良く検出することができる。
【0050】
また、上記実施形態によれば、電池セル1の最も広い面1aの中央領域(歪みが出やすい領域)Cと冷媒通路2,3から遠い領域(高温になりやすい領域)Fの各々に検出部位7を設けて、温度補償歪み及び歪み補償温度を検出する。従って、電池セル1の温度上昇及び歪み発生を早めに知って、その対策(電池セル1の冷却増強、電池セル1の使用停止等)をとることができる。
【0051】
また、上記実施形態によれば、冷媒通路2,3の一方側から他方側にわたるように広がった面1aにおいて、その一方側から他方側に向かって間隔をおいて複数の検出部位7を設けて、温度補償歪み及び歪み補償温度を検出する。従って、相対する冷媒通路2,3間で電池セル1にどのような温度分布を生じているかを把握することができるようになる。よって、両冷媒通路2,3の冷媒流量の調節によって電池セル1の温度を目標温度に制御すること、或いは局所的な温度ムラを生ずることを防止することが容易になる。
【0052】
なお、
図1では、冷媒通路2,3の一方側から他方側に向かって間隔をおいて3つの検出部位7を設けているが、これは一例である。さらに、多数の検出部位7を短間隔で設けることができ、それにより、電池セル1の温度分布をより精細に把握することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 電池セル
2 冷媒通路
3 冷媒通路
4 光ファイバ
5 光源
6 光学センサ
7 検出部位
11 波長測定器
14 演算装置
15 外気温センサ