(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】液体吐出装置および液体吐出装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240509BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240509BHJP
F16H 19/04 20060101ALI20240509BHJP
B41J 25/304 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/165 101
F16H19/04 M
B41J25/304 U
(21)【出願番号】P 2020163401
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】天野 祐作
(72)【発明者】
【氏名】青木 毅
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-144634(JP,A)
【文献】特開2002-358027(JP,A)
【文献】特開平11-314558(JP,A)
【文献】実開昭61-096081(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0070217(US,A1)
【文献】特開2011-158620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
F16H 19/04
B41J 25/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するヘッドまたは前記ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部を含む可動体と、
ラックおよび駆動歯車を含み、前記ラックが延びる第1方向に前記可動体を移動させる一対のラックピニオン機構と、
前記ラックピニオン機構ごとに設けられた切替機構であって、前記可動体が交換位置にある場合に、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いの有無を切り替える前記切替機構と
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記切替機構は、前記ラックと前記駆動歯車とのうち一方に設けられた歯部と、他方に設けられるとともに前記歯部と噛み合い可能な溝とを備え、
前記可動体を取り付ける際に、
前記切替機構の前記歯部と前記溝との噛み合いは、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いよりも先に行われ、
前記切替機構の前記歯部と前記溝とが噛み合うと、前記ラックと前記駆動歯車との相対距離を狭めて、前記ラックと前記駆動歯車とが噛み合うことが可能となり、
前記切替機構の歯部と前記溝とが噛み合っていないと、前記ラックと前記駆動歯車との相対距離を狭めることができず、前記ラックと前記駆動歯車とが噛み合わないことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記切替機構の前記歯部の位相と、前記ラックピニオン機構の歯部の位相は同じであることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
一対の前記ラックの歯部に対して同じ位相で噛み合う位置に前記切替機構の前記歯部と前記溝とのうち一方が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記切替機構は、前記駆動歯車側の第1部分と、前記ラック側の第2部分とを有し、
前記第1部分は、前記駆動歯車の歯部と同心かつ当該歯部の外径よりも外径の大きな円筒形のフランジと、前記フランジに形成された前記溝とを有することを特徴とする請求項2~請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記駆動歯車および前記ラックは、第1歯を有し、
前記切替機構は前記第1歯よりも噛み合いが長い第2歯を有し、前記第2歯による噛み合いは、前記第1歯による噛み合い深さよりも深さが長く、かつ、切替位置にて行われることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記切替機構の歯部は、前記駆動歯車の軸方向において前記ラックピニオン機構の前記歯部と異なる位置に設けられることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記ラックの長さは、前記駆動歯車の1周の長さよりも長いことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記可動体の移動方向と交差する幅方向の両側に前記一対のラックピニオン機構が設けられ、前記可動体の幅方向において、前記ラックピニオン機構の第1歯は、前記切替機構の第2歯に対して、前記可動体側にあることを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記可動体をガイドする第1ガイド部と第2ガイド部とを更に備え、
前記第1ガイド部は、前記可動体の交換位置から、前記ラックが延びる第1方向とは交差する第2方向に延びており、
前記第2ガイド部は、交換位置から第1方向に延びていることを特徴とする請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記駆動歯車を、前記可動体が重力方向へ移動する向きに回転させることで、切替機構が噛み合うことを特徴とする請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記ラックピニオン機構は、第1ラックピニオン機構と第2ラックピニオン機構とを含み、
前記第1ラックピニオン機構と前記第2ラックピニオン機構とは、前記第1方向と前記ラックの延びる方向とは交差する第2方向との両方と交差する第3方向において、前記ヘッドの一端側と他端側とに設けられることを特徴とする請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
液体を吐出するヘッドまたは前記ヘッドのノズル面を覆うキャップを含む可動体と、
ラックおよび駆動歯車を含み、前記ラックが延びる第1方向に前記可動体を移動させる一対のラックピニオン機構と、
前記ラックピニオン機構毎に設けられた切替機構であって、前記可動体が交換位置にある場合に、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いの有無を切り替える前記切替機構と
を備えた液体吐出装置の製造方法であって、
前記可動体を前記ラックが前記駆動歯車と対向する状態に載置する投入工程と、
前記駆動歯車を回転させて前記切替機構を噛み合わせることで、一対の前記ラックピニオン機構を同じ位相で噛み合わせる噛合工程と
を備えることを特徴とする液体吐出装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙等の媒体に液体を吐出するヘッドを備える液体吐出装置および液体吐出装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、媒体に液体を吐出するヘッドを備える液体吐出装置が開示されている。この液体吐出装置は、ヘッドを昇降可能に備える。ヘッドを昇降させる場合、ヘッドを2本のガイド軸により、記録ヘッドの第3の方向への移動をガイドする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の液体吐出装置において、ヘッドをメンテナンスしたり交換したりするために、ヘッドをガイド軸に沿って移動させようとしても、その摺動性の悪さからヘッドの移動が滑らかに行われず、ヘッドのメンテナンスや交換の作業が困難となる場合がある。なお、ヘッドに限らず、キャップ等のメンテナンス部などの可動体においても、同様の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する液体吐出装置は、液体を吐出するヘッドまたは前記ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部を含む可動体と、ラックおよび駆動歯車を含み、前記ラックが延びる第1方向に前記可動体を移動させる一対のラックピニオン機構と、前記ラックピニオン機構ごとに設けられた切替機構であって、前記可動体が交換位置にある場合に、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いの有無を切り替える前記切替機構とを備える。
【0006】
上記課題を解決する液体吐出装置の製造方法は、液体を吐出するヘッドまたは前記ヘッドのノズル面を覆うキャップを含む可動体と、ラックおよび駆動歯車を含み、前記ラックが延びる第1方向に前記可動体を移動させる一対のラックピニオン機構と、前記ラックピニオン機構毎に設けられた切替機構であって、前記可動体が交換位置にある場合に、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いの有無を切り替える前記切替機構とを備えた液体吐出装置の製造方法であって、前記可動体を前記ラックが前記駆動歯車と対向する状態に載置する投入工程と、前記駆動歯車を回転させて前記切替機構を噛み合わせることで、一対の前記ラックピニオン機構を同じ位相で噛み合わせる噛合工程とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係るプリンターの媒体の搬送経路を示す模式正断面図。
【
図6】ヘッドユニットおよび本体フレームの一部を拡大した斜視図。
【
図7】ヘッドユニットおよび調整ユニットを示す斜視図。
【
図8】ヘッドユニットおよび調整ユニットの一部を拡大した斜視図。
【
図9】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す正面図。
【
図10】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す正面図。
【
図11】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す側面図。
【
図12】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す正面図。
【
図13】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す側面図。
【
図14】ヘッドユニットの一部およびキャップユニットを示す側面図。
【
図15】ヘッドユニットおよびキャップユニットを示す側面図。
【
図17】キャップ交換時の第1交換位置にあるキャップユニットを示す正面図。
【
図18】キャップユニット交換時の第2交換位置にあるキャップユニットを示す正面図。
【
図19】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す正面図。
【
図20】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す正面図。
【
図21】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す側面図。
【
図22】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す正面図。
【
図23】ヘッド側のラックピニオン機構の要部および切替機構を示す側面図。
【
図24】実施例における可動体に設けられたラックピニオン機構および切替機構を示す模式平面図。
【
図25】比較例における可動体に設けられたラックピニオン機構および切替機構を示す模式平面図。
【
図26】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図27】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図28】ヘッドとキャップとが相対移動するときの様子を示す模式正断面図。
【
図29】交換位置にあるヘッドユニットを示す正面図。
【
図30】ヘッドユニットの取り外しを説明する模式正断面図。
【
図31】ヘッドユニットの取り付けを説明する模式正断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、液体吐出装置の一実施形態であるプリンター1について説明する。
図1に示されるように、液体吐出装置の一例としてのプリンター1は、記録用紙に代表される媒体Pに対し、液体の一例であるインクを吐出することで記録を行うインクジェット方式の装置として構成されている。なお、各図において示すX-Y-Z座標系は直交座標系である。
【0009】
Y方向は、媒体の搬送方向と交差する媒体の幅方向及び装置奥行き方向であり、一例として、水平方向となっている。また、Y方向は、後述するA方向及びB方向の両方と交差する装置奥行方向の一例である。このY方向は、搬送中の媒体Pの幅方向でもあるので、幅方向Yともいう。Y方向の手前に向かう方向を+Y方向、奥に向かう方向を-Y方向と称する。
【0010】
X方向は装置幅方向であり、一例として、水平方向となっている。プリンター1の操作者から見てX方向の左に向かう方向を+X方向、右に向かう方向を-X方向と称する。Z方向は、装置高さ方向であり、一例として、鉛直方向となっている。Z方向の上に向かう方向を+Z方向、下に向かう方向を-Z方向と称する。また、-Z方向は、重力が作用する方向なので、重力方向-Zともいう。
【0011】
プリンター1において、媒体Pは、
図1に破線で示す搬送経路Tを通って搬送される。X-Z面に示されるA-B座標系は、直交座標系である。A方向は、搬送経路Tのうちヘッドユニット20が有するヘッドの一例としてのラインヘッド20H(以下、単に「ヘッド20H」ともいう。)と対向する領域における媒体Pの搬送方向である。A方向の上流に向かう方向を-A方向、下流に向かう方向を+A方向と称する。本実施形態において、A方向は、+A方向が-A方向よりも+Z方向に位置するように傾いた方向とされている。具体的には水平方向に対して50°~70°の範囲で傾斜し、より具体的には概ね60°傾斜している。このように、ヘッドユニット20による記録が行われる搬送ユニット10を含む領域の媒体Pの搬送方向は、水平方向および鉛直方向の両方向と交差する傾斜した方向である。
【0012】
B方向は、ヘッド20Hを有するヘッドユニット20が移動する移動方向の一例である。つまり、B方向は、ヘッドユニット20が搬送ユニット10に対し進退する方向となる移動方向である。B方向におけるヘッド20Hが搬送経路Tに近づく方向を+B方向、搬送経路Tから離れる方向を-B方向と称する。-B方向は、ヘッド20Hが搬送ユニット10から離れる方向に沿って斜め上に向かっている。本実施形態において、B方向は、-B方向が+B方向よりも+Z方向に位置するように傾いた方向とされ、A方向とは直交している。ヘッドユニット20は、
図1に二点鎖線で示す退避位置と、
図1に実線で示す記録位置とを含む複数の位置を通る経路でB方向に移動する。なお、ヘッドユニット20の移動方向は、水平に対して所定の角度をなす方向であればよい。ヘッドユニット20の移動方向は、その移動によってヘッドユニット20の鉛直方向Zの変位を伴い、上昇と下降とを伴う移動方向なので、昇降方向ともいう。
【0013】
プリンター1は、直方体状の筐体2を有する。筐体2のZ方向中央よりも+Z方向には、情報が記録された媒体Pが排出される空間部を形成する排出部3が形成されている。また、筐体2には、複数のカセット4が着脱可能に設けられている。複数のカセット4には、媒体Pが収容されている。各カセット4に収容された媒体Pは、ピックローラー6及び搬送ローラー対7、8によって、搬送経路Tに沿って搬送される。搬送経路Tには、外部装置から媒体Pが搬送される搬送路T1と、筐体2に設けられた手差トレイ9から媒体Pが搬送される搬送路T2とが合流している。
【0014】
また、搬送経路Tには、後述する搬送ユニット10と、媒体Pを搬送する複数の搬送ローラー対11と、媒体Pが搬送される経路を切り替える複数のフラップ12と、媒体PのY方向の幅を検出する媒体幅センサー13とが配置されている。
【0015】
搬送経路Tは、媒体幅センサー13と対向する領域において湾曲されており、媒体幅センサー13から斜め上方、すなわちA方向に延びている。搬送経路Tにおける搬送ユニット10よりも下流には、排出部3に向かう搬送路T3および搬送路T4と、媒体Pの表裏を反転させる反転路T5とが設けられている。排出部3には、搬送路T4に合わせて、不図示の排出トレイが設けられている。
【0016】
プリンター1は、要部として、媒体Pを搬送する搬送ユニット10と、媒体Pに画像または文字などの情報を記録するヘッドユニット20と、メンテナンス装置60とを備える。また、ここで、B方向は、ヘッドユニット20を変位させる方向であり、高さ方向であるZ方向の成分を含む方向である。また、筐体2内には、インク等の液体を収容する液体収容部23と、インクの廃液を貯留する廃液貯留部16と、プリンター1の各部の動作を制御する制御部26とが設けられている。液体収容部23は、不図示のチューブを介してヘッド20Hへインクを供給する。ヘッド20Hは、供給されたインク等の液体を吐出する。
【0017】
図1に示されるように、メンテナンス装置60は、ヘッド20Hをメンテナンスする。メンテナンス装置60は、ヘッド20HのノズルNをメンテナンスする。メンテナンス装置60は、
図2に示されるキャップ64を有するキャップユニット62を備える。
【0018】
図1に示されるように、排出部3はその底部を構成する排出トレイ21を備える。排出トレイ21は、板状に形成された部材であり、排出された媒体Pが載置される載置面21Aを有する。また、排出トレイ21は、媒体Pの搬送経路Tにおける搬送ユニット10よりも下流で且つZ方向におけるヘッドユニット20に対する+Z方向に設けられている。なお、
図1では、プリンター1の各構成部を簡略化して示している。
【0019】
制御部26は、図示を省略するCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びストレージを含んで構成される。制御部26は、プリンター1における媒体Pの搬送や、ヘッドユニット20による媒体Pへの情報の記録動作を制御する。詳しくは、制御部26は、自身が実行する全ての処理についてソフトウェア処理を行うものに限られない。たとえば、制御部26は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(たとえば特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。すなわち、制御部26は、コンピュータープログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサー、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウェア回路、或いはそれらの組み合わせ、を含む回路(circuitry)として構成し得る。プロセッサーは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリーを含み、メモリーは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリーすなわちコンピューター可読媒体は、汎用または専用のコンピューターでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0020】
図2に示されるように、可動体の一例としてのヘッドユニット20は、搬送ユニット10と対向する方向であるB方向に移動する。本実施形態のヘッドユニット20は、水平面に対して所定角度だけ傾く移動方向に往復移動する。ヘッドユニット20は、B方向に延びるガイドレール37に案内されてB方向に移動する。ヘッドユニット20は、液体を吐出するヘッド20Hを含む可動体の一例である。ヘッドユニット20は、移動方向(昇降方向±B)に移動することで、記録位置PH1(
図2)、キャップ位置PH2(
図28)、退避位置PH3(
図17)および交換位置PH4(
図3)に配置される。
【0021】
記録位置PH1は、媒体Pに記録を行うときのヘッドユニット20の位置である。キャップ位置PH2は、ヘッド20Hのノズル面20Nをキャップ64で覆うキャッピングを行うときのヘッドユニット20の位置である。ヘッドユニット20は、記録を行わないときはヘッド20Hにキャッピングした状態で待機するので、キャップ位置PH2はヘッドユニット20の待機位置でもある。退避位置PH3は、キャップユニット62がA方向に移動するときに、キャップユニット62の移動の妨げにならない位置にヘッドユニット20を記録位置から一旦上昇側へ退避させる位置である。退避位置PH3は、キャップ位置PH2よりも-A方向側に位置する。交換位置PH4は、ヘッドユニット20を交換するときの位置である。交換位置PH4は、退避位置PH3よりも-A方向側の位置である。なお、交換位置PH4は、ヘッドユニット20を交換するときの位置である。交換位置PH4は、退避位置PH3よりもヘッドユニット20が上昇する側(-B方向側)に位置する。
図2に示されるように、プリンター1には、ヘッドユニット20を交換位置PH4で、筐体2(装置本体)に対して取り外しおよび取り付けするための交換用のガイドレール38,39が設けられている。
【0022】
本実施形態のヘッドユニット20は、水平面に対して所定角度θ1で傾く斜め上方に向かう-B方向に上昇し、水平面に対して所定角度θ1で傾く斜め下方に向かう+B方向に下降する。つまり、ヘッド20HにおけるノズルN(
図14参照)が開口する面であるノズル面20Nと直交する方向が、ヘッド20Hの昇降方向である。本明細書では、ヘッドユニット20が移動する方向を昇降方向ともいう。なお、本明細書では、-B方向と+B方向とを含む昇降方向を、昇降方向±Bとも記す。
【0023】
図2、
図3に示されるように、プリンター1は、ヘッドユニット20をB方向に移動させる移動機構としてラックピニオン機構30を備える。ラックピニオン機構30は、例えば、駆動歯車43とラック28とを含んで構成される。ラック28の長さは、駆動歯車43の1周の長さよりも長い。プリンター1は、駆動歯車43の駆動源としてモーター41を有する。モーター41が駆動されることによって、ヘッドユニット20は、ラックピニオン機構30を介してB方向に移動する。ヘッドユニット20は、B方向に延びるガイドレール37に案内されてB方向に移動する。ラックピニオン機構30は、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに沿って昇降させる。
【0024】
図2に示されるメンテナンス装置60は、ヘッド20Hを保管し且つヘッド20Hのメンテナンスを行う。メンテナンス装置60は、ヘッド20Hを覆うキャップ64を有するキャップユニット62と、ヘッド20Hにおけるノズル面20Nを払拭することで清掃するワイパーユニット(図示略)とを有する。
【0025】
可動体の一例としてのキャップユニット62は、ヘッドユニット20の移動方向であるB方向と交差(例えば直交)するA方向に移動可能に設けられている。キャップユニット62は、A方向に延びるガイドレール73に案内されてA方向に往復移動する。メンテナンスユニットの一例であるキャップユニット62は、ヘッド20Hのメンテナンスを行うメンテナンス部の一例としてのキャップ64を含む可動体の一例である。
【0026】
図2に示されるように、プリンター1は、キャップユニット62を、ヘッドユニット20の移動方向であるB方向と交差(例えば直交)するA方向に移動させる移動機構としてラックピニオン機構70を備える。ラックピニオン機構70は、キャップユニット62に対してその移動方向であるA方向と交差する幅方向Yに一対設けられている。ラックピニオン機構70は、ラック71および駆動歯車72を含み、ラック28が延びる第1方向(A方向)に可動体の一例であるヘッドユニット20を移動させる。ラック71の長さは、駆動歯車72の1周の長さよりも長い。駆動歯車72は、ラックピニオン機構70の駆動源であるモーター81の動力で駆動される。
【0027】
キャップユニット62は、ラックピニオン機構70によりA方向に往復移動可能である。キャップユニット62は、
図1、
図2に示される待機位置PC1と、キャップ64がヘッド20Hと対向するキャッピング位置PC2(
図27、
図28を参照)とを含む複数の位置を通る直線状の経路に沿ってA方向に往復移動する。
【0028】
詳しくは、キャップユニット62は、待機位置PC1(
図2)、キャッピング位置PC2(
図3)、第1交換位置PC3(
図17)および第2交換位置PC4(
図18)に移動する。待機位置PC1は、ヘッドユニット20が記録中にあるときにキャップユニット62が待機する位置である。キャッピング位置PC2は、ヘッド20Hのノズル面20Nを覆うキャッピングを行うときのキャップユニット62の位置である。第1交換位置PC3は、キャップ64を交換するときのキャップユニット62の位置である。キャップユニット62は、キャップ64のみを交換可能に構成されており、キャップ64を交換するときは、キャップユニット62が第1交換位置PC3に配置される。第2交換位置PC4は、キャップユニット62を交換するときのキャップユニット62の位置である。
【0029】
ヘッドユニット20は、キャップユニット62が待機位置からキャッピング位置へ移動するときに、キャップユニット62の移動経路を確保するために記録位置PH1よりも-B方向に退避した退避位置PH3に移動する。ヘッドユニット20が退避位置PH3にあるとき、キャップユニット62は、キャッピング位置PC2(
図27参照)まで+A方向に移動する。キャッピング位置PC2は、
図2に示すキャップ64が、退避位置PH3にあるときのヘッド20HとB方向に対向する位置である。その後、ヘッドユニット20が、退避位置PH3から+B方向に移動すると、ヘッド20Hが、キャッピング位置PC2にあるキャップ64に所定の圧力で当接するキャップ位置PH2(
図28参照)に配置される。ヘッド20Hがキャップ64に当接するキャップ位置PH2では、キャップ64がヘッド20HのノズルNを覆う。
【0030】
ヘッド20HのノズルNをキャップ64が覆う状態の下で、ヘッド20Hのメンテナンスを行う。ヘッド20HはノズルNからインク等の液体をキャップ64内に強制的に排出させる。プリンター1は、キャップユニット62が、ヘッド20Hから強制的に排出させた液体を廃液として
図1に示される廃液貯留部16に貯留する。廃液貯留部16は、ヘッド20Hからキャップ64(
図14、
図27参照)に向けてメンテナンスのために空吐出されたインク等の液体、およびクリーニングによってヘッド20HのノズルNから強制的に排出されたインク等の液体を、廃液として貯留する。
【0031】
図1~
図3に示されるように、搬送ユニット10は、搬送中の媒体P(
図1参照)を支持する支持部の一例である。搬送ユニット10は、2つのプーリー14と、2つのプーリー14に巻き掛けられた無端状の搬送ベルト15と、プーリー14を駆動する不図示のモーターとを有していてもよい。媒体Pは、搬送ベルト15のベルト面に吸着されつつ、ヘッドユニット20と対向する位置を搬送される。搬送ベルト15に媒体Pを吸着させる方式としては、エアー吸引方式や静電吸着方式などの公知の吸着方式を採用できる。このように、搬送ベルト15は、媒体Pを吸着しつつ、媒体Pを支持している。搬送ユニット10は、ヘッドユニット20とB方向に対向配置される。
【0032】
ヘッドユニット20は、液体の一例であるインクを吐出するラインヘッド20Hを有する。ラインヘッド20Hは、記録位置において搬送ユニット10とB方向に対向配置され、ヘッド20Hからインクを吐出することで媒体Pに情報を記録する。ヘッドユニット20は、インクを吐出するヘッド20Hが媒体Pの幅方向としてのY方向の全域をカバーするように構成されたインク吐出ヘッドである。また、ヘッド20Hのノズル面20NはA方向とY方向に沿って配置される。ノズル面20Nは、ヘッド20Hにおける液体を吐出するノズルN(
図14参照)が開口する面である。
【0033】
また、ヘッドユニット20は、媒体Pの幅方向への移動を伴わないで媒体Pの幅方向の全域に記録が可能なインク吐出ヘッドとして構成されている。但し、インク吐出ヘッドのタイプはこれに限られず、キャリッジに搭載されて媒体Pの幅方向に移動しながらインクを吐出するタイプのヘッド20Hであってもよい。
【0034】
図3に示されるように、ヘッドユニット20の側面には、コロよりなる複数のガイドローラー25が回転可能に設けられている。複数のガイドローラー25がガイドレール37に案内されることで、ヘッドユニット20はガイドレール37に沿って移動する。
【0035】
本実施形態のプリンター1では、ヘッドユニット20およびキャップユニット62を、ユーザー等の作業者が交換することが可能になっている。
図3では、ヘッドユニット20が交換位置PH4に配置されている。作業者が、ヘッドユニット20を交換するときは、不図示の操作パネルを用いて交換を指定する操作を行うと、制御部26が、モーター41を逆転駆動させてヘッドユニット20を交換位置PH4まで移動させる。
【0036】
図3に示されるように、可動体をガイドする第1ガイド部の一例としてのガイドレール38,39と、第2ガイド部の一例としてのガイドレール37とを備える。ガイドレール38,39は、ヘッドユニット20の交換位置PH4から、ラック28が延びる第1方向(B方向)とは交差する第2方向(A方向)に延びている。ガイドレール37は、交換位置PH4から第1方向(A方向)に延びている。
【0037】
図3に示されるように、ヘッドユニット20は、B方向における搬送ユニット10(
図1参照)から最も離れた交換位置PH4において、ラックピニオン機構30の噛み合いが離脱可能とされている。具体的には、ヘッドユニット20は、ガイドレール37(
図6も参照)に沿って-B方向に移動された交換位置PH4で、ガイドレール38,39(
図6も参照)に沿って+Z方向に引き上げられることで、ラックピニオン機構30の噛み合いが離脱されるようになっている。
【0038】
図3に示されるヘッドユニット20が交換位置PH4にあるとき、複数のガイドローラー25は、鉛直方向Zに延びる2つのガイドレール38,39と、B方向に延びるガイドレール37との交点に位置する。ヘッドユニット20は、交換位置PH4にあるときは、ガイドローラー25が2つのガイドレール38,39に沿って鉛直方向Zに移動可能となることで、筐体2からの取り外しおよび取り付けが可能となっている。
【0039】
ヘッドユニット20が
図3に示される交換位置PH4にあるとき、その上方に排出トレイ21が位置する。排出トレイ21を取り外すことで、筐体2の上部にヘッド交換時の投入用の開口である投入口2Aが露出する。この投入口2Aから作業者がヘッドユニット20をガイドレール38,39にガイドローラー25をガイドさせつつ鉛直方向Zに移動させることで、ヘッドユニット20の取り外しおよび取り付けが行われる。
【0040】
図3に示されるように、ラックピニオン機構30は、駆動歯車43の歯部43Aとラック28の歯部28Aとが噛み合う状態にある。ヘッドユニット20が交換位置PH4にあるとき、駆動歯車43は、ラック28に対してその長手方向における+B方向側の端部で噛み合っている。モーター41が正転駆動されると、駆動歯車43が
図3における時計回り方向に回転し、ヘッドユニット20が+B方向に下降する。一方、モーター41が逆転駆動されると、駆動歯車43が
図3における反時計回り方向に回転し、ヘッドユニット20が-B方向に上昇する。
【0041】
また、
図3に示されるように、キャップユニット62の側面には、コロよりなる複数のガイドローラー74が回転可能に設けられている。複数のガイドローラー74がガイドレール73に案内されることで、キャップユニット62はガイドレール73に沿って移動する。
【0042】
作業者が、キャップユニット62を交換するときは、不図示の操作パネルを用いて交換を指定する操作を行う。制御部26は、操作パネルから操作信号を受け付けると、モーター81を正転駆動させてキャップユニット62を交換位置まで移動させる。本例では、キャップ64のみの一部の交換と、キャップユニット62全体の交換とが可能になっている。
【0043】
キャップ64のみを交換するときは、キャップユニット62は、
図17に示される第1交換位置PC3まで移動する。また、キャップユニット62を交換するときは、キャップユニット62は、
図18に示される第2交換位置PC4まで移動する。キャップユニット62を交換するときの投入口(図示略)は、ガイドレール73の+A方向延長線上の近傍位置にあり、投入口を介してキャップ64またはキャップユニット62の筐体2に対する取り外しおよび取り付けが可能である。
【0044】
図3に示されるように、キャップユニット62は、第2交換位置PC4において、ラックピニオン機構70の噛み合いが離脱可能とされている。具体的には、キャップユニット62は、第2交換位置PC4で、ガイドレール73(
図6も参照)の端部からガイドレール73に沿って+A方向に引き上げられることで、ラックピニオン機構70の噛み合いが離脱されるようになっている。
【0045】
図3に示されるように、ラックピニオン機構70は、駆動歯車72の歯部72Aとラック71の歯部71Aとが噛み合う状態にある。モーター81が正転駆動されると、駆動歯車72が
図3における時計回り方向に回転し、キャップユニット62が+A方向に上昇する。一方、モーター81が逆転駆動されると、駆動歯車72が
図3における反時計回り方向に回転し、キャップユニット62が-A方向に下降する。
【0046】
ここで、本明細書における可動体の移動に使う「昇降」とは、ヘッド20Hのノズル面20Nに交差する方向に、ノズル面20Nを平行移動させることができるヘッド20Hの移動をいう。さらに、ヘッドユニット20の鉛直方向Zの変位を伴う移動をいう。本実施形態では、昇降は、ヘッドユニット20のB方向の移動を指す。また、「昇降」とは、キャップ64の開口面に交差する方向に、キャップ64の開口面を平行移動させることができるキャップユニット62の移動をいう。さらに、キャップユニット62の鉛直方向Zの変位を伴う移動をいう。本実施形態では、昇降は、キャップユニット62のA方向の移動を指す。
【0047】
プリンター1は、筐体2内に、
図4に示される本体部分を構成する本体フレーム32と、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに案内するガイド部材36と、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに駆動する駆動ユニット40(
図6参照)とを有する。そして、ラックピニオン機構30は、ヘッドユニット20を、記録位置に対して搬送ユニット10から離れた1つ以上の位置に移動させる。具体的には、ラックピニオン機構30は、ヘッドユニット20を、記録位置、退避位置、キャップ位置および交換位置に移動可能に設けられている。
【0048】
図5に示されるように、ヘッドユニット20が有するヘッド20Hは、Y方向に延びている。ヘッド20HのY方向の両端部には、+A方向に向けて一対の板部20Aが突出している。ヘッドユニット20は、ヘッド20Hと、ヘッド20HのY方向の両端部に取り付けられた一対の支持フレーム22とを有する。
【0049】
支持フレーム22は、A-B面に沿った側板として構成されており、ヘッドユニット20に対して-B方向へ延びている。支持フレーム22のY方向の外側面におけるB方向両端部には、それぞれ+Y方向及び-Y方向へ延びる円柱状の支持ピン24が設けられている。支持ピン24には、円環状のコロよりなるガイドローラー25が回転可能に設けられている。
【0050】
プリンター1は、
図5に示されるように、ヘッドユニット20を移動させるラックピニオン機構30を備える。ラックピニオン機構30は、ラック28および駆動歯車43を含み、ラック28が延びる第1方向(A方向)に可動体の一例であるヘッドユニット20を移動させる。駆動歯車43は、ラックピニオン機構30の駆動源であるモーター41の動力で駆動される。
【0051】
図5に示されるように、ヘッドユニット20には移動方向である昇降方向±Bと交差する幅方向Yの両側に、一対のラックピニオン機構30が設けられている。
図5の例では、ヘッドユニット20に対して+Y方向側の端部に第1ラックピニオン機構30Aが設けられ、ヘッドユニット20に対して-Y方向側の端部に第2ラックピニオン機構30Bが設けられている。
【0052】
このように、一対のラックピニオン機構30は、第1ラックピニオン機構30Aと第2ラックピニオン機構30Bとを含む。第1ラックピニオン機構30Aと第2ラックピニオン機構30Bとは、幅方向Yにおいて、ヘッドユニット20の一端側と他端側とに設けられている。ここで、幅方向Yは、第3方向に相当する。第3方向は、第1方向であるB方向と第2方向であるZ方向との両方と交差する方向であり、Y方向である。第1方向はヘッドユニット20の移動方向(B方向)であり、ラック28の延びている方向である。第2方向は、ヘッドユニット20を交換するときに投入口2Aから交換位置PH4までガイドレール38,39に沿ってガイドするガイド方向である。ヘッドユニット20の幅方向Yの両側に一対のラックピニオン機構30A,30Bがあるので、ヘッドユニット20を安定した姿勢で昇降させることが可能である。なお、一対のラックピニオン機構30A,30Bを特に区別する必要がない場合は、単に「ラックピニオン機構30」と記す。
【0053】
また、支持フレーム22のY方向の内面には、ピン28Pを有するラック28が設けられている。ピン28Pは、ラック28からY方向の外側に向かって突出している。ラック28は、Y方向を厚さ方向とする板状の部材であり、B方向に延びている。ラック28の-A方向側の端部には、B方向に並ぶ複数の歯を有する歯部28Aが形成されている。
【0054】
また、ヘッドユニット20には、Y方向に貫通し且つB方向に長い長孔27が形成されている。長孔27には、ピン28Pが挿通されている。これにより、ラック28は、支持フレーム22に対してB方向に相対移動が可能とされている。つまり、ラック28は、ピン28Pが長孔27内をB方向に移動可能な範囲でヘッドユニット20に対して相対移動可能である。本例では、ピン28Pと、ピン28Pが挿入される長孔27を含む部分とによりスライド機構が構成される。スライド機構によって、ラック28はヘッドユニット20に対してB方向に相対移動可能となっている。
【0055】
また、
図5、
図6に示されるように、ラック28とヘッドユニット20との間には、第2ばね29が介装されている。第2ばね29は、例えば、圧縮ばねである。第2ばね29は、ラック28とヘッドユニット20とをB方向において離間させる向きに付勢している。このため、ヘッドユニット20がその下降方向であるB方向への移動が規制された状態の下で、ラック28をB方向へ移動させた場合、第2ばね29の圧縮変形を伴ってラック28はヘッドユニット20に対してヘッド20Hに近づく方向へ相対移動する。
図5、
図6において、ヘッドユニット20は自重および第2ばね29の付勢力によって、ラック28に対してB方向にスライドした状態にある。また、ヘッドユニット20の自重および第2ばね29は、ラック28とヘッドユニット20とをB方向において離間させる向きに付勢しているが、ピン28Pが長孔27の上端面に当接することにより、ヘッドユニット20がラック28に対してそれ以上の+B方向へのスライドが規制された状態となる。ヘッドユニット20がラック28に対して+B方向へ最もスライドした状態では、第2ばね29は自然長よりも若干圧縮した状態にある。なお、第2ばね29は、引張ばねまたはねじりコイルばねでもよい。また、第2ばね29は、ヘッドユニット20の重量で引っ張られる構成に限らず、ヘッドユニット20の重量で圧縮される構成で、ヘッドユニット20とラック28との間に介装されてもよい。
【0056】
図5~
図8に示されるように、第2ばね29は、その一端部が支持フレーム22に取り付けられ、その他端部がラック28に取り付けられている。詳しくは、
図8に示されるように、ラック28からは水平に第1掛止部28Bが延出し、支持フレーム22の内面からは水平に第2掛止部22Aが延出している。第1掛止部28Bと第2掛止部22AはB方向に間隔を空けて対向しており、第2ばね29は一端部が第1掛止部28Bに掛止され、他端部が第2掛止部22Aに掛止されている。
【0057】
ここで、
図4、
図6を参照して、ラックピニオン機構30およびヘッドユニット20が組み付けられる本体フレーム32の構成について説明する。
図4に示されるように、本体フレーム32は、サイドフレーム33、34と、複数の横フレーム35とを有する。サイドフレーム33、34は、それぞれA-B面に沿った側板として構成されており、Y方向に間隔をあけて対向配置されている。サイドフレーム33は、+Y方向側に配置され、サイドフレーム34は、-Y方向側に配置されている。サイドフレーム34には、不図示のワイパーユニットが移動するための貫通孔34Aが形成されている。
【0058】
複数の横フレーム35は、サイドフレーム33、34をY方向に繋いでいる。また、複数の横フレーム35によって囲まれた空間には、ヘッドユニット20が配置されている。
ガイド部材36は、サイドフレーム33、34にそれぞれ1つ設けられている。なお、2つのガイド部材36は、本体フレーム32におけるY方向の中央に対してほぼ対称に配置されている。このため、-Y方向側のガイド部材36について説明し、+Y方向のガイド部材36の説明を省略する。
【0059】
図6に示されるように、ガイド部材36は、サイドフレーム34の+Y方向の側面に取り付けられている。ガイド部材36には、B方向に延びるガイドレール37と、ガイドレール37の途中の部位から分岐してZ方向に延びるガイドレール38とが形成されている。ガイドレール37、38は、いずれも+Y方向に開口する溝となっており、ヘッドユニット20のガイドローラー25(
図5参照)をB方向又はZ方向に案内する。
【0060】
なお、
図4に示されるように、ガイドレール37の-B方向の端部は、+Z方向に向けて屈曲されて短いガイドレール38が形成されてもよい(
図4参照)。また、-Y方向のガイド部材36のうち、貫通孔34AとY方向に重なる部分は取り除かれている。換言すると、ガイド部材36は、貫通孔34Aに対して+B方向にも設けられている。このため、-Y方向のガイドレール37は、貫通孔34Aと対応する部分の空間を挟んで2つに分断されている。
【0061】
図6に示されるように、1組のサイドフレーム33、34には、1組のガイドレール73が設けられている。1組のガイドレール73は、Y方向の内側へ向けて開口する溝状に形成されており、A方向に沿って延びている。また、1組のガイドレール73は、キャップユニット62の側面に設けられた複数のコロよりなるガイドローラー74(
図3参照)をA方向に移動可能に支持している。つまり、ガイドレール73が複数のガイドローラー74をA方向に案内することで、キャップユニット62(
図2参照)がA方向に移動可能とされている。
【0062】
図6に示されるように、駆動ユニット40は、モーター41と、不図示のギア部と、シャフト(回転軸)42と、駆動歯車43とを含んで構成される。駆動ユニット40は、制御部26(
図1参照)によって駆動制御される。モーター41の動力で回転するシャフト42は、Y方向に延びた状態で、その両端部が1組のサイドフレーム33,34に回転可能に支持されている。駆動歯車43は、シャフト42のY方向の両端部に取り付けられている。駆動歯車43の外周部には、ラック28の歯部28Aと噛み合う歯部43Aが形成されている。
【0063】
モーター41は、不図示のギア部を介してシャフト42および駆動歯車43を一方向又は逆方向に回転させる。このように、駆動ユニット40は、駆動歯車43を回転駆動することで、ヘッドユニット20をB方向に往復移動させる。
【0064】
図7に示されるように、本体フレーム32には、調整ユニット46が設けられている。調整ユニット46は、カム軸47、2つの偏心カム48、モーター49、ホルダー51、ブラケット52、調整ネジ53、被検知部材54および位置センサー55を有する。このように、調整ユニット46は、偏心カム48と、偏心カム48を回転させるための軸の一例としてのカム軸47とを備える。
【0065】
カム軸47は、Y方向に長い部材であり、サイドフレーム33からサイドフレーム34まで延びている。2つの偏心カム48は、カム軸47に取り付けられている。また、2つの偏心カム48の外周面は、カム面48A(
図8参照)となっている。
図7に示されるように、偏心カム48の外周面は、ヘッドユニット20の板部20Aの+B方向の部分に接触している。これにより、カム軸47の回動に伴って2つの偏心カム48が回動されることで、ヘッド20Hの位置がB方向に調整される。また、モーター49は、制御部26(
図1参照)により駆動制御されることで、カム軸47を一方向又は逆方向に回動させる。
【0066】
図8に示される偏心カム48は、ヘッド20Hのノズル面20Nが向く向きと反対の向きを向く面を規制面の一例とするカム面48Aを有する。すなわち、偏心カム48は、昇降方向±Bにおけるヘッドユニット20の移動によりヘッド20Hとの間の接触の有無を切り替えるカム面48Aを有する。サイドフレーム33に取り付けられたホルダー51の貫通孔に移動可能に挿入されたベアリング56には、カム軸47の一端部が挿入されている。
【0067】
図7に示されるように、調整ユニット46の+Y方向側の端部には、ブラケット52に支持された調整ネジ53の軸端部が、ホルダー51のネジ穴と係合している。調整ネジ53を回転操作してホルダー51を上下移動させることで、カム軸47のB方向の位置およびヘッドユニット20のB方向の位置が調整可能となっている。本例では、操作者による調整ネジ53の手動操作により、偏心カム48のB方向の位置調整が可能である。
【0068】
カム軸47の端部に取り付けられた被検知部材54は、カム軸47から径方向に張り出された扇状部を有する。ホルダー51に取り付けられた位置センサー55は、一例として、不図示の発光部及び受光部を備えた光学式センサーである。位置センサー55は、被検知部材54の扇状部による光の遮断の有無に基づいて、カム軸47の回動角度を検知する。制御部26は、位置センサー55が検知したカム軸47の回動角度に基づいてモーター49を駆動させることで、偏心カム48の回転角度を調整する。本実施形態では、ヘッド20Hの板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに接触した状態で、ヘッドユニット20の下降を停止する。これにより、ヘッド20Hは、記録位置に配置される。
【0069】
図7、
図8に示されるヘッドユニット20の記録位置は、ヘッドユニット20と搬送ユニット10(
図1参照)とのB方向の間隔である必要なギャップに応じて決められる。記録位置は、媒体Pの種類である媒体種に応じて決められる。偏心カム48の回動後に、駆動ユニット40がヘッドユニット20をB方向に移動させることで、板部20Aが偏心カム48に接触される。このとき、第2ばね29の圧縮変形によって、ラック28の停止位置の誤差が吸収される。駆動ユニット40がヘッドユニット20をB方向に移動させて、板部20Aが偏心カム48に接触された後に、偏心カム48を回動させてヘッドユニット20を記録位置に位置決めしてもよい。
【0070】
このように、ヘッド20Hの昇降方向±Bにおける記録位置は、偏心カム48の回転角度に応じて複数段階に切り替えられる。本実施形態では、ヘッド20Hの記録位置は、例えば、3~6段階の範囲内の複数段階に切り替え可能である。ヘッド20Hは、そのときの記録位置に応じて、ノズル面20Nと搬送ユニット10との対向する方向の間隔であるギャップが調整される。ヘッド20Hは適切なギャップが確保された状態の下で、搬送ユニット10により搬送される媒体Pに向かって液体を吐出する。
【0071】
次に、可動体の移動や交換に関する方向について説明する。可動体に関する方向には、(a)ラックピニオン機構が噛み合った状態で移動するときの移動方向、(b)ラックピニオン機構が噛み合う前に可動体の交換に伴う取り外しおよび取り付けの際に可動体がガイド(誘導)されるガイド方向、(c)可動体を交換位置で取り付けのために投入口から投げ込むときの投入方向の3つがある。なお、本実施形態のキャップユニット62については、ラックピニオン機構が噛み合う前にキャップユニット62を交換位置までガイドする誘導用のガイドレールを備えないので、ガイド方向はない。
【0072】
まず、ヘッドユニット20に関する3つの方向を説明する。1つめに、移動方向について説明する。ヘッドユニット20のガイドローラー25はガイドレール37によりガイドされる。駆動歯車43の回転でラック28はヘッドユニット20を移動方向に移動する。ガイドレール37とラックピニオン機構30とにより決まるヘッドユニット20の移動方向は、B方向になる。
【0073】
次に、交換時のガイド方向について説明する。ガイドレール38,39によりガイドローラー25をガイドする。ヘッドユニット20の移動はユーザーにより手動で行われる。ガイドレール38の末端(下端)とガイドレール37の始端(-B側の端)とが合流しており、ガイドレール37とガイドレール38,39との互いの角度が異なる。ガイドレール38,39の延びる方向がガイド方向となる。ヘッドユニット20のガイド方向は鉛直方向Zである。
【0074】
次に、ヘッドユニット20を取り付ける際の投入方向について説明する。投入方向は、ヘッドユニット20の移動方向と交差(例えば直交)する方向である。本例では、投入方向は、ガイド方向に等しい。投入方向は鉛直方向Zである。ヘッドユニット20が
図3に示される交換位置PH4にあるとき、その上方に排出トレイ21が位置し、排出トレイ21を取り外すことで、筐体2の上部にヘッド交換時の投入用の開口である投入口2Aが露出する。この投入口2Aから作業者が、ガイドローラー25をガイドレール38,39にガイドさせつつヘッドユニット20を重力方向-Zへ投入する。よって、ヘッドユニット20の投入方向は重力方向-Zとなる。
【0075】
次に、キャップユニット62に関する2つの方向を説明する。
まず、移動方向について説明する。キャップユニット62のガイドローラー74がガイドレール73にガイドされる。本体側の駆動歯車72の回転でラック71がA方向に移動することで、ラック71と固定されたキャップユニット62がガイドレール73に沿ってA方向に移動する。よって、キャップユニット62のラックピニオン機構70が噛み合った状態での移動方向はA方向である。
【0076】
次に、投入方向について説明する。キャップユニット62はガイドレール73に沿って投入されるので、投入方向は、移動方向と同じである。ガイドレール73の+A方向延長線上の近傍位置にある投入口(図示略)から、-A方向に向かってキャップユニット62が投入される。投入口は、ガイドレール73に対してガイドローラー74を挿入する端部の挿入口が投入口側を向いているので、投入口を介してガイドレール73の端部の挿入口から複数のガイドローラー74を嵌め込みながらキャップユニット62を投入する。キャップユニット62の投入方向は、-A方向である。
【0077】
なお、プリンター1は、キャップユニット62を装置本体に取り付けるときに第2交換位置PC4まで誘導する誘導用のガイドレールを備えてもよい。この場合、ガイドレール73をその延びる方向に延長して誘導用のガイドレールとしてもよいし、ガイドレール73の延びる方向と異なる方向に延びる誘導用のガイドレールを、ガイドレール73の端部から延出させてもよい。
【0078】
本実施形態では、ラックピニオン機構30ごとに切替機構31が設けられている。切替機構31は、可動体の一例であるヘッドユニット20が交換位置PH4にある場合に、ラックと駆動歯車との噛み合いの有無を切り替える。本実施形態では、ラックピニオン機構70ごとに切替機構76が設けられている。切替機構76は、可動体の一例であるキャップユニット62が第2交換位置PC4の近傍の投入位置(取り付け時の交換位置)にある場合に、ラック71と駆動歯車72との噛み合いの有無を切り替える。
【0079】
切替機構31は、ヘッドユニット20のラック28の歯部28Aを、駆動歯車43の歯部43Aの上に載置する状態に投入したときに、一対のラックピニオン機構の噛み合いの有無を切り替える機能を有する。切替機構31は、一対のラックピニオン機構30を同じ位相で噛み合うように噛み合うときの位相を調整する。同様に、切替機構76は、一対のラックピニオン機構70を同じ位相で噛み合うように噛み合うときの位相を調整する。切替機構31は、ラック28と駆動歯車43とのうち一方に設けられた歯部の一例としての差込キーと、他方に設けられるとともに歯部の一例である差込キーと噛み合い可能な溝とを備える。切替機構76は、ラック71と駆動歯車72とのうち一方に設けられた歯部の一例としての差込キーと、他方に設けられるとともに歯部の一例である差込キーと噛み合い可能な溝とを備える。
【0080】
次に、
図9~
図13を参照して、ヘッド20Hに関するラックピニオン機構30に設けられた切替機構31について説明する。なお、
図9~
図11はラックピニオン機構30が噛み合った状態、
図12、
図13はラックピニオン機構30が噛み合う前の非噛合状態を示す。
【0081】
図9~
図13に示されるように、本例の切替機構31は、ラック28に設けられた差込キー282と、駆動歯車43に設けられるとともに差込キー282と噛み合い可能な溝433とを備える。ヘッドユニット20を装置本体に取り付ける際に、切替機構31の差込キー282と溝433との噛み合いは、ラック28と駆動歯車43との噛み合いよりも先に行われる。切替機構31の差込キー282と溝433とが噛み合うと、ラック28と駆動歯車43との相対距離を狭めて、ラック28と駆動歯車43とが噛み合うことが可能になる。切替機構31の差込キー282と溝433とが噛み合っていないと、ラック28と駆動歯車43との相対距離を狭めることができず、ラック28と駆動歯車43とが噛み合わない。なお、差込キー282は、溝433と噛み合うことから、1つの歯とみなせる。本実施形態では、差込キー282は、切替機構31が有する歯と溝のうちの歯の一例を構成する。また、ラックピニオン機構30の歯を第1歯とし、切替機構31の歯を第2歯とすると、ラック28の歯281および駆動歯車43の歯431が第1歯の一例に相当する。また、切替機構31の差込キー282が、第2歯の一例に相当する。
【0082】
図9~
図13に示されるように、一対のラックピニオン機構30(30A,30B)には、ラック28と駆動歯車43との噛み合いの有無を切り替える切替機構31が設けられている。切替機構31は、ラック28と駆動歯車43とが噛み合う位相が、一対のラックピニオン機構30A,30Bの間で合うように予め決まった位相の位置で噛み合わない状態から噛み合う状態へ切り替える機能を有する。
【0083】
図9~
図13に示されるように、切替機構31は、ラック28に形成された差込キー282と、駆動歯車43に形成されたフランジ部432と、フランジ部432の外周面に対して差込キー282と噛み合い可能に凹設された溝433とにより構成される。
【0084】
切替機構31の差込キー282は、駆動歯車43の軸方向においてラックピニオン機構30の歯部28A,43Aと異なる位置に設けられている。つまり、ラック28と駆動歯車43とが噛み合い可能な歯部28A,43Aの形成箇所に対して、駆動歯車43の軸方向において隣にずれた位置に、切替機構31が設けられている。詳しくは、ラックの側面には、駆動歯車43の軸方向において歯部28Aと異なる位置に差込キー282が突設されている。また、駆動歯車43には、駆動歯車43の軸方向において歯部43Aと異なる位置にフランジ部432と、フランジ部432の外周面における差込キー282と噛み合い可能な位置に凹設された溝433とが形成されている。
【0085】
切替機構31は、駆動歯車43側の第1部分と、ラック28側の第2部分とを有する。
第1部分は、駆動歯車43の歯部と同心かつ当該歯部の外径よりも外径の大きな円筒形のフランジと、フランジに形成された溝とを有する。
【0086】
切替機構31の差込キー282の位相と、ラックピニオン機構30の歯部28A,43Aの位相は同じである。ラック28の歯部28Aは、B方向に一定のピッチで配列された複数の第1歯281により構成される。また、駆動歯車43の歯部43Aは、周方向に一定のピッチで配列された複数の第1歯431により構成される。歯部28Aの形状は、第1歯281の部分の山部と、第1歯281の間の部分で凹む谷部とが交互に配列された位相をもつ。切替機構31の第2歯の一例である差込キー282は、第1歯281の位置に形成されている。
【0087】
一対のラック28の歯部28Aに対して同じ位相で噛み合う位置に切替機構31の差込キー282と溝433とのうち一方が設けられている。すなわち、ラック28に形成された複数の第1歯のうち+A方向側の端部からN番目の歯に対応する位置に第2歯部が形成されている。すなわち、一対のラックにはその歯部28Aにおいて同じ位相となる位置に切替機構31の差込キー282が形成されている。
図9、
図12の例では、N番目は2番目である。
【0088】
駆動歯車43およびラック28は、第1歯431,281を有する。す切替機構31は第1歯431,281よりも噛み合いが長い第2歯の一例としての差込キー282を有する。差込キー282によると溝433との噛み合いは、第1歯431,281による噛み合い深さよりも深さが長く、かつ、切替位置にて行われる。
【0089】
駆動歯車43を、ヘッドユニット20が重力方向-Zへ移動する向きに回転させることで、切替機構31が噛み合う構成である。なお、ここで、重力方向-Zとは、重力の方向である鉛直方向Zに移動方向の成分をもち、ヘッドユニット20が重力によって自重で移動することが可能な方向である。移動方向が水平に対して傾いており、重力方向-Zは、この傾いた移動方向のうち下り方向を指す。なお、水平に対する移動方向の傾き角は、鋭角に限らず、90度でもよい。
【0090】
次に、
図14、
図15を参照して、キャップユニット62の詳細な構成を説明する。
図14、
図15に示されるように、ヘッドユニット20には、複数のヘッド20HをY方向に挟む両側の位置に、一対の位置決め用のピン20Gが突出している。一対のピン20Gは、ヘッド20Hのノズル面20Nよりも低い位置までB方向に突出している。
【0091】
ここで、
図14を参照して、キャップユニット62の構成について説明する。
プリンター1は、キャップユニット62を備える。キャップユニット62は、キャップ64と、キャップ64を保持するためのキャップホルダー66と、キャップ64とキャップホルダー66との間に設けられる第1ばね65とを備える。第1ばね65は、キャップ64を-B方向に付勢している。本実施形態では、ヘッド20Hは、
図8に示される複数の単位ヘッド20UがY方向に並んで構成される。
図14に示されるキャップユニット62は、複数の単位ヘッド20Uと対向する位置に幅方向Yに並んで配置される複数のキャップ64を備える。キャップ64は、ヘッド20Hと対向する-B方向側が開口し、開口の周囲に設けられたゴム弾性を有する材質よりなるシール部(図示略)を有する。ヘッド20Hがキャップ64に圧接されたとき、シール部は少なくともその一部が弾性圧縮される。第1ばね65の-B方向(上昇方向)への付勢力、第2ばね29の+B方向(下降方向)への付勢力、および弾性圧縮されたシール部の復元力により、ヘッド20Hはキャップ64を所定のキャップ圧で押圧する。
【0092】
キャップ64の大きさ及び形状は、ヘッド20Hを構成する単位ヘッド20Uのノズル面20Nを覆う大きさおよび形状とされている。また、キャップ64は、ノズル面20NとB方向に対向して配置される。キャップ64は、ヘッド20Hのノズル面20Nに対して所定のキャップ圧で接触することで、ノズル面20Nに開口する複数のノズルNを覆う。キャップ64がノズル面20Nを覆うことで、ヘッド20HのノズルN内のインク等の液体の乾燥による粘性の増加が抑制される。なお、ヘッドユニット20が退避位置(
図27参照)から下降方向であるB方向へ所定のキャップ位置PH2まで移動することで、ヘッド20Hがキャップ64に対してノズルNが覆われた状態に圧接され、キャッピング状態とされる。
【0093】
キャップ64は、キャップホルダー66に対してスライド部67を介して昇降方向±Bに相対移動可能な状態で取り付けられている。スライド部67は、キャップホルダー66の上面から-B方向に延出する第1スライド部と、キャップ64の底面から+B方向に延出する第2スライド部(いずれも図示略)とが相対変位可能な状態に接続されることで構成される。そして、キャップ64の底面とキャップホルダー66の上面との間に第1ばね65が介装されている。第1ばね65は、例えば、圧縮ばねである。キャップ64は、第1ばね65の弾性力によりキャップホルダー66に対して上昇方向である-B方向に向かって付勢されている。なお、第1ばね65は、キャップ64を-B方向に向かって付勢できれば、引張ばねまたはねじりコイルばね等の弾性部材であってもよい。
【0094】
キャップホルダー66は、キャップユニット62の筐体62A上に支持されている。筐体62Aは、Y方向に長く且つA方向に短い箱状に形成されている。筐体62Aは、-B方向側が開口する四角箱状のケーシングよりなる。筐体62Aの開口から複数のキャップ64が露出している。
【0095】
プリンター1は、
図14に示されるキャップユニット62をA方向に移動させる移動機構としてラックピニオン機構70を備える。筐体62AのY方向両側の側面には、ラックピニオン機構70を構成する一対のラック71が固定されている。一対のラック71の歯部71Aと対向する下方には、ラックピニオン機構70を構成する一対の駆動歯車72が回転可能な状態で配置されている。ラック71の歯部71Aと駆動歯車72の歯部72Aは噛合している。一対の駆動歯車72はシャフト(回転軸)75の両端部に取り付けられている。また、キャップユニット62の幅方向Yの両側の側壁には、幅方向Yを軸方向として回転可能とされた複数のコロよりなるガイドローラー74が設けられている。ガイドローラー74は、断面C字状のガイドレール73(
図6)に沿って案内される。
【0096】
キャップユニット62の駆動源であるモーター81(
図2)の動力によってシャフト75が回転すると、一対の駆動歯車72が回転する。モーター81が正転駆動されると、駆動歯車72とラック71との噛合を介してキャップユニット62は+A方向に移動する。一方、モーター81が逆転駆動されると、駆動歯車72とラック71との噛合を介してキャップユニット62は-A方向に移動する。
【0097】
また、
図14、
図15に示されるように、キャップユニット62には、複数のキャップ64を幅方向Yに挟む両側の位置に、位置決め用の一対の被係合部69が突出している。一対の被係合部69は、キャップ64の上面よりも-B方向に高い位置まで突出している。キャップユニット62が待機位置PC1からキャッピング位置PC2へ移動する過程で、被係合部69がヘッドユニット20側のピン20Gと係合することで、キャップユニット62がA方向においてキャッピング位置PC2(
図3)に位置決めされる。
【0098】
次に、
図16を参照して、ヘッドユニット20を案内するガイドレール37~39およびキャップユニット62を案内するガイドレール73を詳細に説明する。
図16に示されるように、誘導用のガイドレール38,39の開口端には、ガイドローラー25を挿入するための挿入口38A、39Aが形成されている。挿入口38A、39Aのうち少なくとも1つは、開口端側ほど拡がる形状に拡開している。2つのガイドレール38,39のX方向の間隔およびB方向の間隔は、
図16に二点鎖線で示される、B方向に傾く姿勢にあるときのヘッドユニット20のB方向に沿う2つのガイドローラー25の間隔に合わせられている。このため、ヘッドユニット20をガイドレール38,39に沿って投入すれば、交換位置PH4に到達したときのヘッドユニット20は、
図16に示されるようにB方向に傾く姿勢に配置される。この姿勢では、ラック28が駆動歯車43(
図3参照)に対してヘッドユニット20の重量により重力方向-Zに付勢された状態で載る。
【0099】
また、2つのガイドレール38,39は、ガイドレール37に対して2つのガイドローラー25が両者を移動できるように繋がっている。ヘッドユニット20が交換位置PH4まで投入されたとき、2つのガイドローラー25は少なくとも搬送ユニット10側への移動が可能に構成されている。不図示のワイパーユニットが幅方向に移動するため、その移動経路を確保するため、ガイドレール37は、キャップユニット62およびワイパーユニットの移動経路と対応する部分で2つに分断されている。その分断されたうち+B方向側のガイドレール37Aは、ガイドレール37と接続されている。ガイドローラー25の外径は、ガイドローラー74の外径よりも大きい。そのため、ガイドレール37,37Aの幅は、ガイドレール73の幅よりも大きい。よって、ガイドローラー25がガイドレール37Aへ移動しても、ガイドローラー25のガイドレール73への移動が規制される。なお、
図16に示されるガイドレール37と幅方向Yに反対側に配置される他方のガイドレール37は分断されていない。
【0100】
また、ガイドレール73の上端には挿入口73Aが開口する。ガイドレール73に対するキャップユニット62の着脱は、ガイドローラー74を挿入口73Aに対して着脱することで行われる。ガイドレール73は、ワイパーユニットの移動経路を妨げない位置に配置されている。
【0101】
図17に示されるように、キャップ64を交換するとき、キャップユニット62は同図に示される第1交換位置PC3に配置される。キャップ交換時は、キャップユニット62を取り外す必要がないので、ラックピニオン機構70は噛み合った状態にある。
【0102】
図18に示されるように、キャップユニット62を交換するとき、キャップユニット62は同図に示される第2交換位置PC4に配置される。第2交換位置PC4は、第1交換位置PC3(
図17)よりも+A方向側、つまり取り外し方向側に位置する。キャップユニット62の交換時は、キャップユニット62を取り外す必要があるので、ラックピニオン機構70の噛み合いが外れた状態にある。
【0103】
次に、
図19~
図23を参照して、キャップ64に関するラックピニオン機構70に設けられた切替機構76について説明する。なお、
図19~
図21はラックピニオン機構70が噛み合った状態、
図22,
図23はラックピニオン機構70が噛み合う前の非噛合状態を示す。
【0104】
図19~
図23に示されるように、本例の切替機構76は、ラック71に設けられた第2歯の一例である差込キー712と、駆動歯車72に設けられるとともに差込キー712と噛み合い可能な溝723とを備える。キャップユニット62を装置本体に取り付ける際に、切替機構76の差込キー712と溝723との噛み合いは、ラック71と駆動歯車72との噛み合いよりも先に行われる。切替機構76の差込キー712と溝723とが噛み合うと、ラック71と駆動歯車72との相対距離を狭めて、ラック71と駆動歯車72とが噛み合うことが可能になる。切替機構76の差込キー712と溝723とが噛み合っていないと、ラック71と駆動歯車72との相対距離を狭めることができず、ラック71と駆動歯車72とが噛み合わない。なお、差込キー712は、溝723と噛み合うことから、1つの歯とみなせる。本実施形態では、差込キー712は、切替機構76が有する歯と溝のうちの歯の一例を構成する。また、ラックピニオン機構70の歯を第1歯とし、切替機構76の歯を第2歯とすると、ラック71の歯711および駆動歯車72の歯721が第1歯の一例に相当する。また、切替機構76の差込キー712が、第2歯の一例に相当する。
【0105】
図19~
図23に示されるように、一対のラックピニオン機構70(70A,70B)には、ラック71と駆動歯車72との噛み合いの有無を切り替える切替機構76が設けられている。切替機構76は、ラック71と駆動歯車72とが噛み合う位相が、一対のラックピニオン機構70A,70Bの間で合うように予め決まった位相の位置で噛み合わない状態から噛み合う状態へ切り替える機能を有する。
【0106】
図19~
図23に示されるように、切替機構76は、ラック71に形成された差込キー712と、駆動歯車72に形成されたフランジ部722と、フランジ部722の外周面に対して差込キー712と噛み合い可能に凹設された溝723とにより構成される。
【0107】
切替機構76の差込キー712は、駆動歯車72の軸方向においてラックピニオン機構70の歯部71A,72Aと異なる位置に設けられている。つまり、ラック71と駆動歯車72とが噛み合い可能な歯部71A,72Aの形成箇所に対して、駆動歯車72の軸方向において隣にずれた位置に、切替機構76が設けられている。詳しくは、ラック71の側面には、駆動歯車72の軸方向において歯部71Aと異なる位置に差込キー712が突設されている。また、駆動歯車72には、駆動歯車72の軸方向において歯部72Aと異なる位置にフランジ部722と、フランジ部722の外周面における差込キー712と噛み合い可能な位置に凹設された溝723とが形成されている。
【0108】
切替機構76は、駆動歯車72側の第1部分と、ラック71側の第2部分とを有する。第1部分は、駆動歯車72の歯部72Aと同心かつこの歯部72Aの外径よりも外径の大きな円筒形のフランジ部722と、フランジ部722に形成された溝723とを有する。
【0109】
切替機構76の差込キー712と溝723の位置する位相と、ラックピニオン機構70の歯部71A,72Aの位相は同じである。ラック71の歯部71Aは、B方向に一定のピッチで配列された複数の第1歯711により構成される。また、駆動歯車72の歯部72Aは、周方向に一定のピッチで配列された複数の第1歯721により構成される。歯部71Aの形状は、第1歯711の部分の山部と、第1歯711の間の部分で凹む谷部とが交互に配列された位相をもつ。切替機構76の差込キー712は、第1歯711の位置に形成されている。
【0110】
一対のラック71の歯部71Aに対して同じ位相で噛み合う位置に切替機構76の差込キー712と溝723とのうち一方が設けられている。すなわち、ラック71に形成された複数の第1歯711のうち+A方向側の端部からN番目の歯に対応する位置に差込キー712が形成されている。すなわち、一対のラック71にはその歯部71Aにおいて同じ位相となる位置に切替機構76の差込キー712が形成されている。
図19、
図22の例では、N番目は2番目である。
【0111】
駆動歯車72およびラック71は、第1歯721,711を有する。切替機構76は第1歯721,711よりも噛み合いが長い第2歯の一例としての差込キー712を有する。差込キー712による溝723との噛み合いは、第1歯721,711による噛み合い深さよりも深さが長く、かつ、切替位置にて行われる。
【0112】
駆動歯車72を、キャップユニット62が重力方向-Zへ移動する向きに回転させることで、切替機構76が噛み合う構成である。なお、ここで、重力方向-Zとは、重力の方向である鉛直方向Zに移動方向の成分をもち、キャップユニット62が重力によって自重で移動することが可能な方向である。移動方向が水平に対して傾いており、重力方向-Zは、この傾いた移動方向のうち下り方向を指す。なお、水平に対する移動方向の傾き角は、鋭角に限らず、90度でもよい。
【0113】
次に、プリンター1の電気的構成について説明する。プリンター1は、例えば、ホスト装置(図示略)から記録データを受信する。記録データには、記録条件情報と記録内容を規定する例えばCMYK表色系の画像データとが含まれる。記録条件情報には、媒体サイズ、媒体種、両面記録の有無、記録色、および記録品質等の情報が含まれる。プリンター1内の制御部26は、ヘッド20H、搬送ローラー対11および搬送ベルト15等と電気的に接続されている。さらに、制御部26は、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに移動させる駆動源であるモーター41、偏心カム48を回転させる駆動源であるモーター49、キャップユニット62を±A方向に移動させる駆動源であるモーター81、キャップ64と接続されたポンプの駆動源であるポンプモーター(図示略)と電気的に接続されている。
【0114】
制御部26は、ヘッド20H、搬送ローラー対11および搬送ベルト15等を制御する。また、制御部26は、モーター41を制御することで、ヘッドユニット20を昇降方向±Bに移動させる。制御部26は、ヘッドユニット20を、退避位置(
図26)、記録位置(
図2)、交換位置に移動させる。交換位置は、ヘッドユニット20が故障等して交換する場合に、作業者がプリンター1からヘッドユニット20を取り外す位置である。なお、±A方向は、昇降方向±Bと交差(例えば直交)する方向であり、キャップ64を有するキャップユニット62が移動する方向であるので、キャップ移動方向±Aともいう。
【0115】
次に、
図24および
図25を参照して、実施例のラックピニオン機構30(70)および切替機構31(76)を備えたヘッドユニット20またはキャップユニット62(
図24)と、比較例のラックピニオン機構および切替機構を備えたヘッドユニット20またはキャップユニット62(
図25)の構成を比較する。なお、ヘッドユニット20とキャップユニット62において、実施例と比較例との違いは同様なので、以下では、ヘッドユニット20について説明し、キャップユニット62の説明は省略する。
【0116】
図24に示されるように、ラックピニオン機構30は、互いに噛み合う歯部として、ラック28に形成された歯部28Aと、駆動歯車43に形成された歯部43Aとを有する。ヘッドユニット20の幅方向Yにおいて、ラックピニオン機構30の歯部28A,43Aは、切替機構31の差込キー282に対して、ヘッドユニット20側に位置する。そのため、駆動歯車43の軸方向において、第1歯281,431とヘッドユニット20とを近接できる。そして、第2歯の一例である差込キー282が駆動歯車43の軸方向(つまり幅方向Y)の外側に位置する。よって、ヘッドユニット20が昇降により占有する空間を小さくできるので、製品を幅方向Yに小型化しやすい。
【0117】
一方、
図25に示される比較例では、ヘッドユニット20の幅方向Yにおいて、ラックピニオン機構30の歯部28A,43Aは、切替機構31の差込キー282に対して、ヘッドユニット20側とは反対側に位置する。そのため、駆動歯車43の軸方向において、第1歯281,431とヘッドユニット20との間に無駄な空間SPが発生する。この空間SPは、ヘッドユニット20が昇降により占有する空間を大きくし、製品の幅方向Yの大型化を招く。
【0118】
次に、液体吐出装置の一例であるプリンター1の作用について説明する。
ユーザーが不図示のホスト装置のキーボード又はマウス等のポインティングデバイス(いずれも図示略)の操作で、記録対象の画像等を指定するとともに、記録条件情報を入力設定する。記録条件情報には、媒体サイズ、媒体種、記録色、記録枚数などが含まれる。ホスト装置は、プリンター1へ記録条件情報および画像データを含む記録ジョブを送信する。
【0119】
プリンター1は、ホスト装置から記録ジョブを受信する。制御部26は、記録ジョブに含まれる記録条件情報に基づいて、ピックローラー6、ローラー対7,8,11および搬送ユニット10を駆動させる。この結果、プリンター1は、指定の媒体種および媒体サイズの媒体Pをカセット4から給送する。給送された媒体Pは、搬送経路Tを通って搬送ベルト15上に搬送される。また、制御部26は、記録ジョブに含まれる画像データに基づいてヘッド20Hを制御する。ヘッド20Hは、搬送ベルト15上を搬送される媒体Pに向かってインク等の液体を吐出する。記録された媒体Pは排出トレイ21へ排出される。
【0120】
制御部26は、ヘッドユニット20をキャップ位置から退避位置へ移動させる。次に、キャップユニット62をキャッピング位置から退避位置へ移動させる。制御部26は、記録を開始するのに先立ち、媒体種の情報に基づいてヘッド20Hと搬送ベルト15との間のギャップを調整する。制御部26は、モーター49を駆動させて媒体種から決まるギャップに応じた回転角度に偏心カム48を回転させる。
【0121】
図15に示されるように、記録時には、ヘッドユニット20が退避位置から下降し、その板部20Aが偏心カム48に当接することで、ヘッド20Hが記録位置に位置決めされる。制御部26は、モーター41を正転駆動させ、ヘッドユニット20を退避位置から、
図15に示されるように板部20Aが偏心カム48のカム面48Aに当接するまで下降させる。
【0122】
図16に示されるように、ヘッドユニット20は、板部20Aが偏心カム48に当接した記録位置に位置決めされる。この記録位置でヘッド20Hは搬送ベルト15を搬送される媒体Pに向かってノズルNから液体を吐出する。このとき、ヘッド20Hと搬送ベルト15との間のギャップが適正な値に調整されているので、媒体Pには良好な記録品質で記録される。
【0123】
記録終了後、ヘッド20HはノズルNがキャップ64により覆われるキャッピング状態(
図28)とされる。まず、ヘッドユニット20が記録位置(
図2)から退避位置(
図26)へ退避する。この移動は、制御部26がモーター41を逆転駆動することにより行われる。次に、制御部26は、キャップユニット62を待機位置(
図26)からキャッピング位置(
図27)へ移動させる。この移動は、制御部26がモーター81を正転駆動することにより行われる。次に、制御部26は、ヘッドユニット20を退避位置(
図27)からキャップ位置(
図28)に移動させる。このキャッピング過程の移動は、制御部26がモーター41を正転駆動することにより行われる。キャッピング状態では、ヘッド20Hがキャップ64に適切なキャップ圧で圧接される。このキャッピング状態の下ではノズルN内のインク等の液体の乾燥が効果的に抑制される。
【0124】
また、クリーニング時には、キャッピング状態においてノズル面20Nとキャップ64とで囲まれた閉空間が必要な負圧に減圧されるので、ノズルNから液体を強制的に排出するクリーニングが適切に行われる。なお、クリーニングは、キャップ64内を減圧する構成に限らず、ノズルNの上流側で、例えば液体収容部23(
図1参照)内の液体を加圧してノズルNから液体を強制的に排出して行う構成でもよい。
【0125】
また、制御部26は、記録中にフラッシング時期を管理する。制御部26は、記録中にフラッシング時期に達すると、ヘッド20Hにフラッシングを行わせる。フラッシング時期に達したときに記録中であった媒体Pへの記録が終わると、後続の媒体Pの搬送を一時停止する。まず、ヘッドユニット20を、
図2に示される記録位置から
図26に示される退避位置PH3に移動させる。次に、キャップユニット62を待機位置PC1からキャッピング位置PC2まで+A方向に移動させる。このキャッピング位置PC2はフラッシング位置でもある。さらに、ヘッドユニット20を退避位置PH3から少し下降した位置をフラッシング位置としてもよい。そして、ヘッド20HはノズルNからキャップ64に向けて液体を吐出する。この結果、ノズルN内の増粘インクや気泡等がインク等の液体と一緒に排出され、ノズルNの目詰まりが解消または予防される。このため、ヘッド20Hにより媒体Pに高い記録品質で記録される。
【0126】
次に、ヘッドユニット20を交換する場合について説明する。
筐体2の排出トレイ21を取り外すことで、筐体2の開口よりなる投入口2Aが露出する。ヘッドユニット20の交換時は、モーター41の駆動により駆動歯車43が回転し、駆動歯車43と噛み合うラック28が-B方向に移動することで、ラック28と固定されたヘッドユニット20が交換位置PH4まで移動する(
図3、
図29)。作業者は交換位置PH4にあるヘッドユニット20を、2つのガイドレール38,39に沿って鉛直方向Zに引き上げて投入口2Aから
図30の二点鎖線で示すように取り出す。
【0127】
次に、新しいヘッドユニット20を装置本体に取り付ける。作業者は、
図31に実線で示すヘッドユニット20を投入口2Aから投入する。このとき、ガイドローラー25をガイドレール38,39の挿入口38A,39Aに挿入して、ヘッドユニット20をガイドレール38,39に沿って重力方向-Zに投入する。ヘッドユニット20は
図31に二点鎖線で示される交換位置PH4に配置される。
【0128】
このヘッドユニット20が交換位置PH4に配置されたとき、
図32に示されるように、ラック28の歯部28Aは駆動歯車43のフランジ部432に載る。このため、ラックピニオン機構30は噛み合わない。モーター41が正転駆動されると、駆動歯車43が
図33に矢印で示す時計回り方向に回転する。すると、差込キー282が溝433と噛み合う。この結果、ラック28の歯部と駆動歯車43の歯部43Aとが噛み合う。つまり、ラックピニオン機構30が噛み合った状態になる。こうしてラックピニオン機構30が噛み合うと、ラック28と共にヘッドユニット20は所定位置まで下降して停止する。
【0129】
次に、キャップユニット62を交換する場合について説明する。
筐体2のカバー部材(図示略)を取り外すことで、筐体2の開口よりなる投入口が露出する。キャップユニット62の交換時は、モーター81の駆動により駆動歯車72が回転し、駆動歯車72と噛み合うラック71が+A方向に移動することで、ラック71と固定されたキャップユニット62が第2交換位置PC4まで移動する。ガイドレール73の+A方向の末端にある挿入口73Aからガイドローラー74を取り外すことで、キャップユニット62を装置本体から取り外す。
【0130】
次に、新しいキャップユニット62を装置本体に取り付ける。作業者は、キャップユニット62を投入口(図示略)から投入する。このとき、ガイドローラー74をガイドレール73の挿入口73Aに挿入して、ガイドレール73に沿って投入する。キャップユニット62は自重でガイドレール73に沿って下降し、ラック71の歯部71Aが駆動歯車72側のフランジ部に載る(
図22、
図23)。このため、ラックピニオン機構70は噛み合わない。モーター81が逆転駆動されると、駆動歯車72が
図22における反時計回り方向に回転する。すると、差込キー712が溝723と噛み合う。この結果、ラック71の歯部71Aと駆動歯車72の歯部72Aとが噛み合う。つまり、ラックピニオン機構70が噛み合った状態になる。こうしてラックピニオン機構70が噛み合うと、ラック71と共にキャップユニット62は所定位置まで下降して停止する。
【0131】
また、キャップ交換時は、キャップユニット62がモーター81の駆動により第1交換位置PC3まで移動する。第1交換位置PC3にあるキャップユニット62に対してキャップ64の着脱方向はA方向になる。作業者は、キャップ64をキャップユニット62から取り外し、新しいキャップ64をキャップユニット62に取り付ける。
【0132】
<製造方法>
プリンター1は、ヘッドユニット20と、ヘッドユニット20をラック28が延びる第1方向であるB方向に移動させる一対のラックピニオン機構30と、ラックピニオン機構30ごとに設けられ、ヘッドユニット20が交換位置PH4にある場合に、ラック28と駆動歯車43との噛み合いの有無を切り替える切替機構31とを備える。
【0133】
プリンター1の製造方法は、投入工程と噛合工程とを備える。投入工程は、ヘッドユニット20をラック28が駆動歯車43と対向する状態に載置する工程である。噛合工程は、駆動歯車43を回転させて切替機構31を噛み合わせることで、一対のラックピニオン機構30を同じ位相で噛み合わせる。
【0134】
以下、プリンター1の製造方法について、
図26~
図31等を参照して具体的に説明する。製造時は、ヘッドユニット20を筐体2内の所定位置に組み付ける。
作業者は、
図30に示されるように、二点鎖線で示されるヘッドユニット20を投入口2Aから投入する。このとき、作業者は、ガイドローラー25をガイドレール38,39の上端部から挿入しつつ、ガイドローラー25をガイドレール38,39に沿ってZ方向に投入する。投入されたヘッドユニット20は、ガイドローラー25がガイドレール38,39にガイドされて-Z方向に移動することによって、交換位置PH4まで移動する。
【0135】
その結果、ヘッドユニット20は、
図30に実線で示す交換位置PH4まで投入される。この投入状態は、ヘッドユニット20のラック28が駆動歯車43上に載置された状態にあって、ラック28の歯部28Aと駆動歯車43の歯部43Aはまだ噛み合っていない(
図32)。詳しくは、ラック28に設けられた差込キー282が、駆動歯車43のフランジ部432の外周面に載った状態にある。この状態では、ラック28と駆動歯車43との間の距離が噛み合い時の位置よりも離れているため、ラックピニオン機構30は噛み合わない。この状態で、制御部26は、モーター41を正転駆動して駆動歯車43をヘッドユニット20が下降する方向に回転させる。駆動歯車43を
図33に矢印で示す時計回り方向に回転させると、切替機構31の溝433が駆動歯車43の回転と共に周方向に移動する。そして、溝433が差込キー282と対向する位置まで移動すると、ヘッドユニット20の重量によって差込キー282が溝433に落ちる。この結果、ラック28と駆動歯車43との相対距離が狭まって、ラックと駆動歯車43とが噛み合う。
【0136】
その後、モーター41の駆動が継続され、ヘッドユニット20は所定位置まで+B方向に下降して停止する。
従来は、作業者が手作業でヘッドユニット20を投入してラックを駆動歯車に載せることで、ラックの歯部と駆動歯車の歯部とを噛み合わせていた。このため、ラック28を駆動歯車43に載せたときにヘッドユニット20の姿勢が傾いていると、一対のラックピニオン機構30が幅方向Yの両側で位相がずれて噛み合ってしまう。
【0137】
これに対して、本実施形態では、差込キー282が溝に噛み合ったときの位相は予め決められているので、ヘッドユニット20の投入後、駆動歯車43を回転させて差込キー282と溝433とを噛み合わせることで、一対のラックピニオン機構の移動を幅方向Yの両側で合わせることができる。よって、一対のラックピニオン機構30の位相のずれが防止される。
【0138】
切替機構31の差込キー282と溝433とが噛み合っていないと、ラック28と駆動歯車43との相対距離を狭めることができず、ラック28と駆動歯車43とが噛み合わない。
【0139】
また、製造時にキャップユニット62を装置本体に組み付けるときも、キャップユニット62の交換時の取り付けと同様に行われる。このため、キャップユニット62を、一対のラックピニオン機構70の位相が合わせられた状態に組み付けることができる。
【0140】
以上、詳述したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)液体吐出装置の一例であるプリンター1は、液体を吐出するヘッド20Hを含む可動体の一例としてヘッドユニット20、またはヘッド20Hのメンテナンスを行うキャップ64を含む可動体の一例としてのキャップユニット62を備える。また、プリンター1は、ラック28,71および駆動歯車43,72を含み、ラック28,71が延びる第1方向にヘッドユニット20またはキャップユニット62を移動させる一対のラックピニオン機構30,70を備える。さらに、プリンター1は、ラックピニオン機構30,70ごとに設けられ、ヘッドユニット20またはキャップユニット62が交換位置PH4,PC4にある場合に、ラック28,71と駆動歯車43,72との噛み合いの有無を切り替える切替機構31,76を備える。よって、ラックピニオン機構30,70ごとに切替機構31,76があるので、ヘッドユニット20またはキャップユニット62を交換位置PH4,PC4で交換等のため装置本体に取り付けるとき、一対のラックピニオン機構30,70間で駆動歯車43,72とラック28,71とを位相が合う状態で噛み合わせることができる。よって、ヘッドユニット20またはキャップユニット62の交換時などに、ヘッドユニット20またはキャップユニット62を装置本体に正常な姿勢で取り付けることができる。また、ラックピニオン機構30,70によりヘッドユニット20またはキャップユニット62を移動させるので、ヘッドユニット20またはキャップユニット62の交換時などにヘッドユニット20またはキャップユニット62を容易に移動させることができる。また、ラックピニオン機構30,70が一対あるので、ヘッドユニット20またはキャップユニット62の重量が大きくても、ヘッドユニット20またはキャップユニット62を安定して移動させることができる。
【0141】
(2)切替機構31,76は、ラック28,71と駆動歯車43,72とのうち一方に設けられた差込キー282,712と、他方に設けられるとともに差込キー282,712と噛み合い可能な溝433,723とを備える。ヘッドユニット20またはキャップユニット62を取り付ける際に、切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723との噛み合いは、ラック28,71と駆動歯車43,72との噛み合いよりも先に行われる。切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とが噛み合うと、ラック28,71と駆動歯車43,72との相対距離が狭まって、ラック28,71と駆動歯車43,72とが噛み合うことが可能となる。切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とが噛み合っていないと、ラック28,71と駆動歯車43,72との相対距離を狭めることができず、ラック28,71と駆動歯車43,72とが噛み合わない。よって、切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とがキー構造を構成し、一対のラックピニオン機構30,70に設けられた一対の切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723との噛み合いによって、一対のラックピニオン機構30,70の噛み合いの位相を合わせることができる。例えば、モーターで解除/施錠を切り替えるロック機構のようなものに比べ、モーター等の駆動源が不要なので、構成が簡単で済む。
【0142】
(3)切替機構31,76の差込キー282,712の位相と、ラックピニオン機構30,70の差込キー282,712の位相は同じである。よって、一対の切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とが噛み合うと、一対のラックピニオン機構30,70の差込キー282,712が同じ位相で噛み合うことができる。例えば、切替機構31,76の差込キー282,712の位相と、ラックピニオン機構30,70の歯部28A,43A(71A,72A)の位相とが異なると、差込キー282,712と溝433,723とが噛み合っても、ラックピニオン機構30,70の歯部28A,43A(71A,72A)が位相のずれに起因し噛み合わない可能性がある。しかし、切替機構31,76の差込キー282,712の位相と、ラックピニオン機構30,70の歯部28A,43A(71A,72A)の位相は同じなので、切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とが噛み合うと、ラックピニオン機構30,70の歯部28A,43A(71A,72A)が噛み合う。よって、一対のラックピニオン機構30,70を同じ位相で噛み合わせることができる。例えば、切替機構31,76のキー構造の形状を簡素化しやすい。
【0143】
(4)一対のラック28,71の歯部28A,71Aに対して同じ位相で噛み合う位置に切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とのうち一方が設けられている。よって、一対の切替機構31,76の差込キー282,712および溝433,723の位相が異なると、一方ずつ回転位置の異なるタイミングで噛み合うことになり、ヘッドユニット20またはキャップユニット62を取り付ける過程でヘッドユニット20またはキャップユニット62の姿勢が傾くことになる。これは、ヘッドユニット20またはキャップユニット62が位相がすれて噛み合う原因になる。これに対して、一対の切替機構31,76間で差込キー282,712と溝433,723とが噛み合う位相が同じなので、一対の切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723が噛み合えば、一対のラックピニオン機構30,70を同じ位相で噛み合わせることができる。
【0144】
(5)切替機構31,76は、駆動歯車43,72側の第1部分と、ラック28,71側の第2部分とを有する。第1部分は、駆動歯車43,72の歯部43A,72Aと同心かつ歯部43A,72Aの外径よりも外径の大きな円筒形のフランジ部432,722と、フランジ部432,722に形成された溝433,723とを有する。よって、駆動歯車43,72に設けられたフランジは歯部の外径よりも大径な円筒形なので、切替機構31,76が噛み合うまで駆動歯車43,72を空転できる。そして、駆動歯車43,72の空転中に切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とが噛み合うと、ラックピニオン機構30,70の歯部28A,43A(71A,72A)を噛み合わせることができる。
【0145】
(6)駆動歯車43,72は第1歯431,721を有し、ラック28,71は、第1歯281,711を有する。切替機構31,76は、第1歯281,431,711,721よりも噛み合いが長い第2歯の一例である差込キー282,712を有する。差込キー282,712による溝433,723との噛み合いは、第1歯281,431,711,721による噛み合い深さよりも深さが長く、かつ、切替位置にて行われる。よって、ラックピニオン機構30,70が切替位置にあるときに、切替機構31,76の差込キー282,712と溝433,723とが噛み合うことで、ラックピニオン機構30,70の第1歯281,431,711,721が噛み合う。したがって、一対のラックピニオン機構30,70を同じ位相で噛み合わせることができる。
【0146】
(7)切替機構31,76の歯部は、駆動歯車43,72の軸方向においてラックピニオン機構30,70の歯部28A,43A(71A,72A)と異なる位置に設けられる。よって、駆動歯車43,72を複数回転させることにより、駆動歯車43,72の径を小さくしつつ、差込キー282,712による噛み合いを長くできる(ラック28,71側の第1歯は1回転目にしか用いない。)例えば、特開2018-20463号公報に開示されたラックピニオン機構30,70に設けられた切替機構31,76は、駆動歯車43,72の第1歯と軸方向に同じ位置に第1歯よりも長い差込キー282,712が設けられている。この場合、駆動歯車43,72は1回転未満の回転しかできないので、ラック28,71を移動させる距離が長くなるほど駆動歯車43,72が径方向に大型化する。これに対して、切替機構31,76が、駆動歯車43,72の軸方向においてラックピニオン機構30,70と位置がずれているので、駆動歯車43,72を複数回転させることができ、切替機構31,76が駆動歯車43,72よりも径方向に大型化することを抑制できるか、あるいは大型化してもその大型化の程度を小さく抑えられる。
【0147】
(8)ラック28,71の長さは、駆動歯車43,72の1周の長さよりも長い。よって、ラックピニオン機構30,70によりヘッドユニット20またはキャップユニット62を長距離移動させることができる。また、駆動歯車43,72を複数回転させられるので、駆動歯車43,72の径方向の大型化を抑制できる。切替機構31,76が、駆動歯車43,72の歯部とラック28,71の歯部の噛み合い箇所に対して、駆動歯車43,72の軸方向に異なる位置に設けられる。このため、切替機構31,76がラックピニオン機構30,70の歯部の噛み合い箇所とが干渉しないので、駆動歯車43,72を複数回転させることができる。
【0148】
(9)ヘッドユニット20またはキャップユニット62の移動方向と交差する幅方向Yの両側に一対のラックピニオン機構30,70が設けられる。ヘッドユニット20またはキャップユニット62の幅方向Yにおいて、ラックピニオン機構30,70の第1歯281,711は、切替機構31,76の差込キー282,712に対して、ヘッドユニット20またはキャップユニット62側にある。よって、駆動歯車43,72の軸方向において、第1歯281,711とヘッド20Hとを近接させることができる。それにより、ヘッド20Hが昇降により専有する空間を小さくできるので、製品を軸方向に小型化しやすい。
【0149】
(10)プリンター1は、ヘッドユニット20をガイドする第1ガイド部の一例としてのガイドレール38と、第2ガイド部の一例としてのガイドレール37とを更に備える。ガイドレール38は、ヘッドユニット20の交換位置PH4から、ラック28が延びる第1方向とは交差する第2方向に延びている。ガイドレール37は、交換位置PH4から第1方向に延びている。よって、ガイドレール38によりラック28と駆動歯車43とが噛み合った後、ヘッド20Hを昇降させる際にガイドレール37により(ガイドレール38から)連続的にヘッド20Hをガイドできる。ガイドのレールに対して移動するコロや突起やベアリングを、ガイドレール37,38で共通化できる。
【0150】
(11)駆動歯車43,72を、ヘッドユニット20またはキャップユニット62が重力方向-Zへ移動する向きに回転させることで、切替機構31,76が噛み合う。よって、切替機構31,76が噛み合った後に、ヘッドユニット20またはキャップユニット62が移動するためのスペースを反対側に設ける必要がなく、装置を小型化し易い。また、ヘッドユニット20またはキャップユニット62の自重により、切替機構31,76が噛み合う方向への重力による付勢を利用できる。
【0151】
(12)ラックピニオン機構30,70は、第1ラックピニオン機構30A,70Aと第2ラックピニオン機構30B,70Bとを含む。第1ラックピニオン機構30A,70Aと第2ラックピニオン機構30B,70Bとは、第1方向とラック28,71の延びる方向とは交差する第2方向との両方と交差する第3方向において、ヘッド20Hの一端側と他端側とに設けられる。よって、両側にラックピニオン機構30,70があるので、安定してヘッド20Hを昇降させることができる。なお、実施例では、両端のキー構造も同期して回転する。
【0152】
(13)プリンター1の製造方法は、投入工程と噛合工程とを含む。このプリンター1は、可動体の一例としてのヘッドユニット20またはキャップユニット62と、ラック28,71が延びる第1方向にヘッドユニット20またはキャップユニット62を移動させる一対のラックピニオン機構30,70と、可動体が交換位置にある場合に、ラック28,71と駆動歯車43,72との噛み合いの有無を切り替える切替機構31,76とを備える。投入工程では、ヘッドユニット20またはキャップユニット62をラック28,71が駆動歯車43,72と対向する状態に載置する。噛合工程では、駆動歯車43,72を回転させて切替機構31,76を噛み合わせることで、一対のラックピニオン機構30,70を同じ位相で噛み合わせる。この製造方法によれば、ラックピニオン機構30,70ごとに切替機構31,76があるので、ヘッドユニット20またはキャップユニット62を装置本体に取り付けるとき、比較的簡単に、一対のラックピニオン機構30,70間で駆動歯車43,72とラック28,71とを位相が合う状態で噛み合わせることができる。よって、ヘッドユニット20またはキャップユニット62を装置本体に正常な姿勢で取り付けることができる。
【0153】
なお、上記実施形態は以下に示す変更例のような形態に変更することもできる。さらに、上記実施形態および以下に示す変更例を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできるし、以下に示す変更例同士を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできる。
【0154】
・実施形態では、可動体にラック、装置本体側に駆動歯車を設けたが、逆でもよい。すなわち、可動体に駆動歯車、装置本体側にラックを設けてもよい。例えば、ヘッド20Hに駆動歯車、装置本体側にラックを設けてもよい。また、例えば、キャップユニット62に駆動歯車、装置本体側にラックを設けてもよい。
【0155】
・ラックピニオン機構は、可動体に設けられる数が一対(2つ)を含めばよく、3つ以上設けられてもよい。例えば、3つ以上のラックピニオン機構は、ラックが第1方向Aと平行な方向に延びている状態に設けられればよい。
【0156】
・ヘッドとキャップユニット62とのうち一方の可動体のみのラックピニオン機構に切替機構を設けてもよい。この場合、切替機構を備えない他方の移動機構は、ラックピニオン機構でもよいし、ラックピニオン機構以外の他の移動機構、例えばベルト式移動機構などであってもよい。
【0157】
・可動体は、ヘッドとキャップユニット62とのうちヘッドのみの構成でもよいし、キャップユニット62のみの構成でもよい。前者の場合、キャップユニット62は可動式であってもよいし、固定式であってもよい。また、後者の場合、ヘッドは可動式であってもよいし、固定式であってもよい。
【0158】
・可動体は、ヘッドユニット20およびキャップユニット62に限定されず、これら以外であってもよい。例えば、可動体は、ワイパーユニットでもよいし、フラッシングユニットでもよい。これら以外の可動体に設けられた一対のラックピニオン機構に切替機構を適用してもよい。
【0159】
・メンテナンスユニットは、キャップユニットに限定されず、ワイパーユニットまたはフラッシングユニットでもよい。例えば、ワイパーユニットを移動方向に移動可能とするラックピニオン機構と、このラックピニオン機構の噛み合いを切り替える切替機構とを設けてもよい。また、例えば、フラッシングユニットを移動方向に移動可能とするラックピニオン機構と、このラックピニオン機構の切り替えを行う切替機構とを設けてもよい。
【0160】
・ラックの第1歯の高さと第2歯の高さを変えてもよい。
・制御部26は、CPU等のコンピューターがプログラムを実行するソフトウェアの構成でもよいし、ASIC等の電子回路によるハードウェアの構成でもよい。また、制御部26は、ソフトウェアとハードウェアとの協働による構成でもよい。
【0161】
・媒体Pは、用紙に限定されず、合成樹脂製のフィルムや媒体、布、不織布、ラミネート媒体などでもよい。
・液体吐出装置は、インクジェット方式のプリンター1に限定されず、液体吐出装置は、インクジェット方式の捺染装置でもよい。また、液体吐出装置は、記録機能に加え、スキャナー機構及びコピー機能を有する複合機でもよい。
【0162】
・液体吐出装置は、インクジェット式のプリンター1に限定されず、インク以外の他の液体を吐出する装置でもよい。例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの機能材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を吐出する液体吐出装置でもよい。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を吐出する液体吐出装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を吐出する液体吐出装置であってもよい。さらに光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために熱硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に吐出する液体吐出装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を吐出する液体吐出装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を吐出する液体吐出装置でもよい。さらに、液体吐出装置は、インクジェット方式で光硬化性の樹脂液を吐出して立体物を形成する三次元造形用の3Dプリンターでもよい。
【0163】
以下、前記実施形態及び変更例から把握される技術思想を効果と共に記載する。
(A)液体吐出装置は、液体を吐出するヘッドまたは前記ヘッドのメンテナンスを行うメンテナンス部を含む可動体と、ラックおよび駆動歯車を含み、前記ラックが延びる第1方向に前記可動体を移動させる一対のラックピニオン機構と、前記ラックピニオン機構ごとに設けられた切替機構であって、前記可動体が交換位置にある場合に、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いの有無を切り替える前記切替機構とを備える。
【0164】
この構成によれば、ラックピニオン機構ごとに切替機構があるので、可動体を交換したりメンテナンスしたりするために装置本体に取り付けるとき、可動体を比較的簡単に取り付けることができる。しかも、切替機構によって、可動体を装置本体に正常な姿勢で取り付けることができる。よって、可動体を装置本体に対して正常な姿勢で取り付ける取付作業を簡単に行うことができる。
【0165】
(B)上記液体吐出装置において、前記切替機構は、前記ラックと前記駆動歯車とのうち一方に設けられた歯部と、他方に設けられるとともに前記歯部と噛み合い可能な溝とを備え、前記可動体を取り付ける際に、前記切替機構の前記歯部と前記溝との噛み合いは、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いよりも先に行われ、前記切替機構の前記歯部と前記溝とが噛み合うと、前記ラックと前記駆動歯車との相対距離を狭めて、前記ラックと前記駆動歯車とが噛み合うことが可能となり、前記切替機構の歯部と前記溝とが噛み合っていないと、前記ラックと前記駆動歯車との相対距離を狭めることができず、前記ラックと前記駆動歯車とが噛み合わなくてもよい。
【0166】
この構成によれば、切替機構の歯部と溝とがキー構造を構成し、一対のラックピニオン機構に設けられた一対の切替機構の歯部と溝との噛み合いによって、一対のラックピニオン機構の噛み合いの位相を合わせることができる。
【0167】
(C)上記液体吐出装置において、前記切替機構の歯部の位相と、前記ラックピニオン機構の歯部の位相は同じであってもよい。
この構成によれば、一対の切替機構の歯部と溝とが噛み合うと、一対のラックピニオン機構の歯部が同じ位相で噛み合うことができる。例えば、切替機構の歯部の位相と、前記ラックピニオン機構の歯部の位相とが異なると、切替機構の歯部と溝とが噛み合っても、ラックピニオン機構の歯部が位相のずれに起因し噛み合わない可能性がある。しかし、切替機構の歯部の位相と、ラックピニオン機構の歯部の位相は同じなので、切替機構の歯部と溝とが噛み合うと、ラックピニオン機構の歯部が噛み合う。よって、一対のラックピニオン機構を同じ位相で噛み合わせることができる。
【0168】
(D)上記液体吐出装置において、一対の前記ラックの歯部に対して同じ位相で噛み合う位置に前記切替機構の前記歯部と前記溝とのうち一方が設けられてもよい。
この構成によれば、一対の切替機構の歯部および溝の位相が異なると、一方ずつ回転位置の異なるタイミングで噛み合うことになり、可動体を取り付ける過程で可動体の姿勢が傾くことになる。これは、可動体が位相がすれて噛み合う原因になる。これに対して、一対の切替機構間で歯部と溝とが噛み合う位相が同じなので、一対の切替機構の歯部と溝が噛み合えば、一対のラックピニオン機構を同じ位相で噛み合わせることができる。
【0169】
(E)上記液体吐出装置において、前記切替機構は、前記駆動歯車側の第1部分と、前記ラック側の第2部分とを有し、前記第1部分は、前記駆動歯車の歯部と同心かつ当該歯部の外径よりも外径の大きな円筒形のフランジと、前記フランジに形成された前記溝とを有してもよい。
【0170】
この構成によれば、駆動歯車に設けられたフランジは歯部の外径よりも大径な円筒形なので、切替機構が噛み合うまで駆動歯車を空転できる。そして、駆動歯車の空転中に切替機構の歯部と溝とが噛み合うと、ラックピニオン機構の歯部を噛み合わせることができる。
【0171】
(F)上記液体吐出装置において、前記駆動歯車および前記ラックは、第1歯を有し、前記切替機構は前記第1歯よりも噛み合いが長い第2歯を有し、前記第2歯による噛み合いは、前記第1歯による噛み合い深さよりも深さが長く、かつ、切替位置にて行われてもよい。
【0172】
この構成によれば、第2歯による噛み合いは、ラックピニオン機構の第1歯による噛み合い深さよりも深さが長く、かつラックピニオン機構の第1歯が非噛み合い状態から噛み合い状態へ切り替わる切替位置にて行われる。よって、ラックピニオン機構が切替位置にあるときに、切替機構の第2歯と溝とが噛み合うことで、ラックピニオン機構の第1歯が噛み合う。したがって、一対のラックピニオン機構を同じ位相で噛み合わせることができる。
【0173】
(G)上記液体吐出装置において、前記切替機構の歯部は、前記駆動歯車の軸方向において前記ラックピニオン機構の前記歯部と異なる位置に設けられてもよい。
この構成によれば、駆動歯車を複数回転させることにより、駆動歯車の径を小さくしつつ、第2歯による噛み合いを長くできる。例えば、液体吐出装置の大型化を抑制できる。
【0174】
(H)上記液体吐出装置において、前記ラックの長さは、前記駆動歯車の1周の長さよりも長くてもよい。
この構成によれば、ラックピニオン機構により可動体を長距離移動させることができる。また、駆動歯車を複数回転させられるので、駆動歯車の径方向の大型化を抑制できる。切替機構が、駆動歯車の歯部とラックの歯部の噛み合い箇所に対して、駆動歯車の軸方向に異なる位置に設けられるので、切替機構がラックピニオン機構の歯部の噛み合い箇所とが干渉しないので、駆動歯車を複数回転させることができる。
【0175】
(I)上記液体吐出装置において、前記可動体の移動方向と交差する幅方向の両側に前記一対のラックピニオン機構が設けられ、前記可動体の幅方向において、前記ラックピニオン機構の第1歯は、前記切替機構の第2歯に対して、前記可動体側にあってもよい。
【0176】
この構成によれば、駆動歯車の軸方向において、第1歯と可動体とを近接させることができる。それにより、可動体が昇降により専有する空間を小さくできるので、製品を軸方向に小型化しやすい。
【0177】
(J)上記液体吐出装置において、前記可動体をガイドする第1ガイド部と第2ガイド部とを更に備え、前記第1ガイド部は、前記可動体の交換位置から、前記ラックが延びる第1方向とは交差する第2方向に延びており、第2ガイド部は、交換位置から第1方向に延びていてもよい。
【0178】
この構成によれば、第1ガイド部によりラックと駆動歯車とが噛み合った後、可動体を昇降させる際に第2ガイド部により第1ガイド部から連続的に可動体をガイドできる。ガイドのレールに対して移動するコロや突起やベアリングを、第1ガイド部と第2ガイド部とで共通化できる。
【0179】
(K)上記液体吐出装置において、前記駆動歯車を、前記可動体が重力方向へ移動する向きに回転させることで、切替機構が噛み合ってもよい。
この構成によれば、切替機構が噛み合った後に、可動体が移動するためのスペースを反対側に設ける必要がなく、装置を小型化しやすい。また、可動体の自重によって、切替機構が噛み合う方向への重力による付勢を利用できる。
【0180】
(L)上記液体吐出装置において、前記ラックピニオン機構は、第1ラックピニオン機構と第2ラックピニオン機構とを含み、前記第1ラックピニオン機構と前記第2ラックピニオン機構とは、前記第1方向と前記ラックの延びる方向とは交差する第2方向との両方と交差する第3方向において、前記可動体の一端側と他端側とに設けられてもよい。
【0181】
この構成によれば、両側にラックピニオン機構があるので、安定して可動体を昇降させることができる。
(M)液体を吐出するヘッドまたは前記ヘッドのノズル面を覆うキャップを含む可動体と、ラックおよび駆動歯車を含み、前記ラックが延びる第1方向に前記可動体を移動させる一対のラックピニオン機構と、前記ラックピニオン機構毎に設けられた切替機構であって、前記可動体が交換位置にある場合に、前記ラックと前記駆動歯車との噛み合いの有無を切り替える前記切替機構とを備えた液体吐出装置の製造方法であって、前記可動体を前記ラックが前記駆動と対向する状態に載置する投入工程と、前記駆動歯車を回転させて前記切替機構を噛み合わせることで、一対の前記ラックピニオン機構を同じ位相で噛み合わせる噛合工程とを備える。
【0182】
この製造方法によれば、ラックピニオン機構ごとに切替機構があるので、可動体を装置本体に取り付けるとき、比較的簡単に、一対のラックピニオン機構間で駆動歯車とラックとを位相が合う状態で噛み合わせることができる。よって、可動体を装置本体に正常な姿勢で取り付けることができる。
【符号の説明】
【0183】
1…液体吐出装置の一例としてのプリンター、2…筐体、2A…投入口、3…排出部、4…カセット、6…ピックローラー、7…搬送ローラー対、8…搬送ローラー対、9…手差トレイ、10…搬送ユニット、11…搬送ローラー対、12…フラップ、13…媒体幅センサー、14…プーリー、15…搬送ベルト、16…廃液貯留部、20…可動体の一例としてのヘッドユニット、20H…ラインヘッド(ヘッド)、20A…板部、20U…単位ヘッド、20N…ノズル面、20U…単位ヘッド、21…排出トレイ、21A…載置面、22…支持フレーム、22A…第1掛止部、23…液体収容部、24…支持ピン、25…コロ、26…制御部、27…長孔、28…ラック、28A…歯部、28B…第1掛止部、28P…ピン、281…第1歯の一例としての歯、282…第2歯の一例としての差込キー、29…第2ばね、30…ラックピニオン機構、30A…第1ラックピニオン機構、30B…第2ラックピニオン機構、31…切替機構、32…本体フレーム、33…サイドフレーム、34…サイドフレーム、34A…貫通孔、35…横フレーム、36…ガイド部材、37…第2ガイド部の一例としてのガイドレール、38…第1ガイド部の一例としてのガイドレール、39…ガイドレール、40…駆動ユニット、41…モーター、42…シャフト、43…駆動歯車(ピニオン)、43A…歯部、431…第1歯の一例としての歯、432…フランジ部、433…溝、46…調整ユニット、47…カム軸、48…偏心カム、48A…カム面、49…モーター、51…ホルダー、51A…貫通孔、52…ブラケット、52A…支持板、53…調整ネジ、54…被検知部材、55…位置センサー、56…ベアリング、60…メンテナンス装置、62…可動体の一例としてのキャップユニット、62A…筐体、63…カバー本体、63A…側壁、64…キャップ、65…第1ばね、66…キャップホルダー、70…ラックピニオン機構、70A…第1ラックピニオン機構、70B…第2ラックピニオン機構、71…ラック、71A…歯部、711…第1歯の一例としての歯、712…第2歯の一例としての差込キー、72…駆動歯車(ピニオン)、72A…歯部、721…第1歯の一例としての歯、722…フランジ部、723…溝、73…ガイドレール、75…シャフト、76…切替機構、81…モーター、N…ノズル、T…搬送経路、T1…搬送路、T2…搬送路、T3…搬送路、T4…搬送路、T5…反転路、θ1…所定角度、±B…昇降方向(ヘッドユニットの移動方向)、±A…移動方向(キャップユニットの移動方向)Y…幅方向、Z…鉛直方向、PH1…記録位置、PH2…キャップ位置、PH3…退避位置、PH4…交換位置、PC1…待機位置、PC2…キャッピング位置、PC3…第1交換位置、PC4…交換位置の一例としての第2交換位置。