(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】多孔質カーボン、触媒担体、及び多孔質カーボンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20240509BHJP
B01J 23/76 20060101ALI20240509BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20240509BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240509BHJP
B01J 21/18 20060101ALI20240509BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240509BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240509BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240509BHJP
B01J 35/61 20240101ALI20240509BHJP
B01J 35/63 20240101ALI20240509BHJP
B01J 35/64 20240101ALI20240509BHJP
B01J 35/66 20240101ALI20240509BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240509BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J23/76
B01J32/00
B01J37/08
B01J21/18 M
H01M4/96 M
H01M4/88 C
B01J35/60 Z
B01J35/61
B01J35/63
B01J35/64
B01J35/66
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020173872
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】王 宇楠
(72)【発明者】
【氏名】井元 瑠伊
(72)【発明者】
【氏名】大西 智弘
(72)【発明者】
【氏名】横井 俊之
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0096001(US,A1)
【文献】特開2019-214505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
B01J 23/76
B01J 32/00
B01J 37/08
B01J 21/18
B01J 35/60
H01M 4/96
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が、1100~2000m
2/gであり、
全細孔容積V
PTが、1.0~10.0m
3/gであり、
孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積V
P3~6nmが、全細孔容積V
PTの20~50%であり、
孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積V
P6~20nmが、全細孔容積V
PTの15~45%であ
り、
平均細孔径が、6~8nmである、
多孔質カーボン。
【請求項2】
平均一次粒子径が、30~200nmである、請求項
1に記載の多孔質カーボン。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の多孔質カーボンからなる触媒担体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の多孔質カーボンの製造方法であって、
(a)シリカ粒子が鎖状に連結した鎖状シリカと、炭素源と、造孔剤とを含む、原料分散液を作製すること、
(b)前記炭素源を前記造孔剤の存在下で重合して、前記鎖状シリカの表面に、炭素源重合体と前記造孔剤とを配置して、複合体を得ること、
(c)前記複合体を焼成して、炭素源重合体を炭化させ、かつ造孔剤を除去して、複合体炭化物を得ること、
(d)前記複合体炭化物から、前記鎖状シリカを除去して多孔質カーボンを得ること、
を含む、多孔質カーボンの製造方法。
【請求項5】
前記シリカ粒子の平均粒径は、3~50nmである、請求項
4に記載の多孔質カーボンの製造方法。
【請求項6】
前記鎖状シリカの平均長は、15~120nmである、請求項
4又は
5に記載の多孔質カーボンの製造方法。
【請求項7】
前記炭素源は、フルフリルアルコールである、請求項
4~
6のいずれか1項に記載の多孔質カーボンの製造方法。
【請求項8】
前記造孔剤は、1,3,5-トリメチルベンゼンである、請求項
4~
7のいずれか1項に記載の多孔質カーボンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質カーボン、触媒担体、及び多孔質カーボンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等のアノードガスと、酸素等のカソードガスとを、化学反応させることによって発電を行う、燃料電池が知られている。
【0003】
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に、それぞれ、水素等のアノードガス(燃料ガス)と酸素等のカソードガス(酸化剤ガス)を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する。
【0004】
このような燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜電極接合体を基本構造とする単セルを、複数積層したスタックとして構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、等の利点を有することから、特にモバイル機器等の携帯用、あるいは電気自動車等の移動体用の電源として期待されている。
【0005】
ここで、固体高分子電解質型燃料電池の単セルの構成としては、例えば、アノード側セパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質膜、カソード側触媒層、カソード側ガス拡散層、及びカソード側セパレーターが、この順に積層された積層体が知られている。
【0006】
そして、固体高分子形燃料電池において、触媒層は、一般に、触媒担体の表面に白金等の触媒金属微粒子を担持させた電極触媒と、アイオノマとの混合物からなる。触媒担体としては、多孔質の炭素材料が用いられ、その細孔径、比表面積等が、燃料電池の特性に影響を与えることが知られている。
【0007】
このような触媒担体となる多孔質の炭素としては、細孔径、比表面積等を制御した、メソポーラスカーボンが検討されている。
【0008】
特許文献1には、球状メソポーラスシリカの鋳型に炭素源を導入し、続いて炭素源を炭化させ、その後に球状メソポーラスシリカを除去することで、球状メソポーラスシリカの構造が転写された球状カーボン多孔体を得る方法が提案されている。
【0009】
特許文献1で得られる多孔質カーボンは、メソポーラスシリカの構造が転写されるため、鋳型となるシリカの構造に応じて様々な形状実現することができる。しかしながら、転写しながらカーボンの構造制御を実施することは困難であるため、鋳型そのままの形状の多孔質カーボンしか得られない状況であった。
【0010】
また、特許文献2には、鋳型となる球状メソポーラスシリカを作製する際に、その細孔サイズを制御することを目的として、TMB(1,3,5-トリメチルベンゼン)等の有機分子を、造孔剤として用いる技術が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献2においても、鋳型となるメソポーラスシリカの構造は制御できるものの、鋳型を転写しながらカーボンの構造を制御することは実現できていない。また、鋳型となる球状メソポーラスシリカの構造についても、TMB添加量によってはメソ孔が残りにくい等、細孔制御が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2010-265125号公報
【文献】特表2004-525846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、鋳型となる球状シリカの構造を転写しながら、カーボンの構造を制御して得られた、所望の構造及び物性を有する多孔質カーボン、触媒担体、及び多孔質カーボンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った。そして、多孔質カーボンを製造する際に、鋳型となる球状シリカに炭素源とともに造孔剤を導入し、その後に炭素源の重合及び炭化を実施し、最後に鋳型となる球状シリカを除去すれば、所望の構造及び物性に制御された多孔質カーボンが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0015】
《態様1》
BET比表面積が、1100~2000m2/gであり、
全細孔容積VPTが、1.0~10.0m3/gであり、
孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmが、全細孔容積VPTの20~50%であり、
孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmが、全細孔容積VPTの15~45%である、
多孔質カーボン。
《態様2》
平均細孔径が、3~50nmである、態様1に記載の多孔質カーボン。
《態様3》
平均一次粒子径が、30~200nmである、態様1又は2に記載の多孔質カーボン。
《態様4》
態様1~3のいずれか一態様に記載の多孔質カーボンからなる触媒担体。
《態様5》
(a)シリカ粒子が鎖状に連結した鎖状シリカと、炭素源と、造孔剤とを含む、原料分散液を作製すること、
(b)前記炭素源を前記造孔剤の存在下で重合して、前記鎖状シリカの表面に、炭素源重合体と前記造孔剤とを配置して、複合体を得ること、
(c)前記複合体を焼成して、炭素源重合体を炭化させ、かつ造孔剤を除去して、複合体炭化物を得ること、
(d)前記複合体炭化物から、前記鎖状シリカを除去して多孔質カーボンを得ること、
を含む、多孔質カーボンの製造方法。
《態様6》
前記シリカ粒子の平均粒径は、3~50nmである、態様5に記載の多孔質カーボンの製造方法。
《態様7》
前記鎖状シリカの平均長は、15~120nmである、態様5又は6に記載の多孔質カーボンの製造方法。
《態様8》
前記炭素源は、フルフリルアルコールである、態様5~7のいずれか一態様に記載の多孔質カーボンの製造方法。
《態様9》
前記造孔剤は、1,3,5-トリメチルベンゼンである、態様5~8のいずれか一態様に記載の多孔質カーボンの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多孔質カーボンは、その製造の際に、鋳型となる球状シリカに炭素源とともに造孔剤を導入することで、球状シリカの形状が転写されたメソ細孔を有しつつ、造孔剤に起因するサイズの大きいメソ細孔を有するものとなり、その結果、サンゴ状の高次構造を備える多孔質カーボンとなる。
【0017】
したがって、多孔質カーボンの用途に応じて、鋳型となる球状シリカの粒径、及び造孔剤の量等を制御することにより、得られる多孔質カーボンの比表面積、細孔容積、及び細孔サイズの分布等を制御することが可能となり、用途に適した多孔質カーボンを実現することができる。
【0018】
特に、本発明の多孔質カーボンは、分布を有するメソ細孔が存在する高次構造を有していることから、比表面積が大きく、かつ細孔容積も大きい多孔質カーボンとなる。
【0019】
そして、比表面積が大きく、かつ全細孔容積も大きく、特定量のメソ細孔を有する多孔質カーボンは、燃料電池用の触媒担体として非常に有用であり、高い触媒反応性と高い物質輸送性とを有する触媒層を実現することができる。したがって、本発明の多孔質カーボンは、燃料電池の触媒担体として用いられることにより、燃料電池の特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1~3及び比較例1で得られた多孔質カーボンについて、孔径が2nm以上30nm以下の範囲の細孔分布図である。
【
図2】実施例1~3及び比較例1で得られた多孔質カーボンについて、孔径が3nm以上9nm以下の範囲の細孔分布図である。
【
図3】実施例1~3及び比較例1で得られた多孔質カーボンについて、孔径が7nm以上21nm以下の範囲の細孔分布図である。
【
図4】実施例1で得られた多孔質カーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像である。
【
図5】実施例1で得られた多孔質カーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像である。
【
図6】実施例2で得られた多孔質カーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像である。
【
図7】実施例3で得られた多孔質カーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像である。
【
図8】比較例1で得られた多孔質カーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像である。
【
図9】比較例2の多孔質カーボンの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
【0022】
《多孔質カーボン》
本発明の多孔質カーボンは、比表面積が大きく、かつ細孔容積も大きく、特定量のメソ細孔を有する多孔質カーボンである。
【0023】
本発明の多孔質カーボンは、その製造の際に、鋳型となる球状シリカに炭素源とともに造孔剤を導入することで、球状シリカの形状が転写されたメソ細孔を有しつつ、造孔剤に起因するサイズの大きいメソ細孔を有するものである。
【0024】
そして、分布を有するメソ細孔が存在する、サンゴ状の高次構造となる形状を有する多孔質カーボンである。
【0025】
ここで、メソ細孔とは、一般に、孔径2~50nmの細孔を意味する。そして、多孔質カーボンにおけるメソ細孔のうち孔径2~6nmのメソ細孔は、多孔質カーボンの比表面積を向上させることから、例えば、多孔質カーボンを燃料電池の触媒担体として用いた場合には、担体の表面に担持する白金等の触媒金属微粒子の担持率の向上と、担持状態の均一性の向上に寄与する。したがって、多孔質カーボンにおけるこのようなメソ細孔は、燃料電池の触媒層に、高い導電性を付与するとともに、触媒反応の促進に寄与する役割を担う。
【0026】
また別の例として、多孔質カーボンを、燃料電池のガス拡散層として用いた場合には、孔径2~6nmのメソ細孔は、ガス拡散性の向上に寄与し、燃料電池の性能向上に寄与する役割を担う。
【0027】
一方で、多孔質カーボンにおける孔径6~20nmのメソ細孔は、例えば、多孔質カーボンを、燃料電池の触媒担体として用いた場合には、担体外部の物質移動性を改善する。したがって、多孔質カーボンにおけるこのようなメソ細孔は、燃料電池の出力の向上に寄与する役割を担う。
【0028】
したがって、上記の2種類のメソ細孔を兼ね備え、比表面積が大きく、かつ全細孔容積も大きい多孔質カーボンは、燃料電池用の触媒担体として非常に有用である。
【0029】
<BET比表面積>
本発明の多孔質カーボンは、BET比表面積が1100~2000m2/gである。
【0030】
BET比表面積が1100~2000m2/gであれば、多孔質カーボンを用いうる各種の用途に適用することができ、とりわけ、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、触媒性能が良好となる。
【0031】
BET比表面積が1100m2/g未満の場合には、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に触媒活性が低くなる。一方で、BET比表面積が2000m2/gを超える場合には、多孔質カーボンが有するマイクロ細孔の割合を大きくすることが困難となる。
【0032】
BET比表面積は、例えば、後記する多孔質カーボンの製造方法において、鋳型となる球状シリカの粒径、及び造孔剤の量等を制御することにより、調整することができる。
【0033】
BET比表面積は、1150m2/g以上、1200m2/g以上、1300m2/g以上、1400m2/g以上、1500m2/g以上、1600m2/g以上、1700m2/g以上、1800m2/g以上、又は1900m2/g以上であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0034】
また、BET比表面積は、1900m2/g以下、1800m2/g以下、1700m2/g以下、1600m2/g以下、1500m2/g以下、1400m2/g以下、1300m2/g以下、1200m2/g以下、又は1150m2/g以下であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0035】
<全細孔容積VPT>
本発明の多孔質カーボンは、BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法で求めた全細孔容積VPTが、1.0~10.0m3/gである。なお、本明細書において、全細孔容積VPTの対象となる「孔」とは、孔径が2nm以上200nm以下の範囲の孔をいう。
【0036】
全細孔容積VPTが1.0~10.0m3/gであれば、多孔質カーボンを用いうる各種の用途に適用することができ、とりわけ、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、触媒性能が良好となる。
【0037】
全細孔容積VPTが1.0m3/g未満の場合には、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に触媒活性が低くなる。一方で、全細孔容積VPTが10.0m3/gを超える場合には、多孔質カーボンが有するメソ細孔の割合を大きくすることが困難となる。
【0038】
全細孔容積VPTは、例えば、後記する多孔質カーボンの製造方法において、鋳型となる球状シリカの粒径、及び造孔剤の量等を制御することにより、調整することができる。
【0039】
全細孔容積VPTは、1.3m3/g以上、2.0m3/g以上、3.0m3/g以上、4.0m3/g以上、5.0m3/g以上、6.0m3/g以上、7.0m3/g以上、8.0m3/g以上、又は9.0m3/g以上であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0040】
また、全細孔容積VPTは、9.0m3/g以下、8.0m3/g以下、7.0m3/g以下、6.0m3/g以下、5.0m3/g以下、4.0m3/g以下、3.0m3/g以下、2.0m3/g以下、又は1.3m3/g以下であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0041】
<孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nm>
本発明の多孔質カーボンは、BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法で求めた、孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmが、全細孔容積VPTの20~50%である。
【0042】
孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmが、全細孔容積VPTの20~50%であれば、多孔質カーボンを用いうる各種の用途に適用することができ、とりわけ、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、触媒性能が良好となる。
【0043】
孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmが、全細孔容積VPTの20%未満の場合には、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に触媒活性が低くなる。一方で、孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmが、全細孔容積VPTの50%を超える場合には、多孔質カーボンが有するサイズの大きいメソ細孔の割合を大きくすることが困難となり、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、担体外部の物質移動性の向上に寄与し難くなる。
【0044】
孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmは、例えば、後記する多孔質カーボンの製造方法において、鋳型となる球状シリカの粒径を制御することにより、調整することができる。
【0045】
孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmは、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、又は45%以上であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0046】
また、孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmは、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、又20%以下であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0047】
<孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nm>
本発明の多孔質カーボンは、BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法で求めた、孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmが、全細孔容積VPTの15~45%である。
【0048】
孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmが、全細孔容積VPTの15~45%であれば、多孔質カーボンを用いうる各種の用途に適用することができ、とりわけ、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、担体外部の物質移動性を向上させることができる。
【0049】
孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmが、全細孔容積VPTの15%未満の場合には、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、担体外部の物質移動性を向上させ難くなる。一方で、孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmが、全細孔容積VPTの45%を超える場合には、多孔質カーボンが有するサイズの小さいメソ細孔の割合を大きくすることが困難となる。
【0050】
孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmは、例えば、後記する多孔質カーボンの製造方法において、造孔剤の適用量を制御することにより、調整することができる。
【0051】
孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmmは、18%以上、20%以上、25%以上、30%以上、又は35%以上であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0052】
また、孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmは、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、又は15%以下であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0053】
<平均細孔径>
本発明の多孔質カーボンは、BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法で求めた平均細孔径が、3~50nmである。
【0054】
平均細孔径が3~50nmであれば、多孔質カーボンを用いうる各種の用途に適用することができ、とりわけ、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、触媒性能が良好となる。
【0055】
平均細孔径が3nm未満の場合には、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に触媒活性が低くなる。一方で、平均細孔径が50nmを超える場合には、多孔質カーボンが有するメソ細孔の割合を大きくすることが困難となる。
【0056】
平均細孔径は、例えば、後記する多孔質カーボンの製造方法において、鋳型となる球状シリカの粒径、及び造孔剤の量等を制御することにより、調整することができる。
【0057】
平均細孔径は、4nm以上、5nm以上、6nm以上、8nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上、又は40nm以上であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0058】
また、平均細孔径は、40nm以下、30nm以下、20nm以下、10nm以下、8nm以下、6nm以下、5nm以下、又は4nm以下であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0059】
<平均一次粒子径>
本発明の多孔質カーボンは、平均一次粒子径が、30~200nmである。ここで、平均一次粒子径とは、少なくとも200個以上の多孔質カーボンの一次粒子について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、面積に等しい真円を等面積円としたときの円相当径を求め、それらの円相当径により算出した数平均値である。
【0060】
平均一次粒子径が30~200nmであれば、多孔質カーボンを用いうる各種の用途に適用することができ、とりわけ、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、触媒性能が良好となる。
【0061】
平均一次粒子径が30nm未満の場合には、多孔質カーボンの取り扱い性が困難となる。一方で、平均一次粒子径が200nmを超える場合には、比表面積が低下し、例えば、燃料電池用の触媒担体として用いた場合に、触媒の活性点が減少する。
【0062】
平均一次粒子径は、例えば、後記する多孔質カーボンの製造方法において、造孔剤の適用量を制御することにより、調整することができる。造孔剤の適用量が大きくすると、得られる多孔質カーボンの平均一次粒子径は、小さくなる傾向がある。
【0063】
平均一次粒子径は、35nm以上、40nm以上、50nm以上、60nm以上、70nm以上、80nm以上、90nm以上、又は100nm以上であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0064】
また、平均一次粒子径は、190nm以下、180nm以下、170nm以下、160nm以下、150nm以下、140nm以下、130nm以下、又は120nm以下であってもよい。用いる用途に応じて、適宜選択することができる。
【0065】
<多孔質カーボンの用途>
本発明の多孔質カーボンの用途は、特に限定されるものではない。比表面積、細孔容積、及び細孔サイズの分布等を制御することが可能となり、用途に適した多孔質カーボンを実現することができる。
【0066】
特に、比表面積が大きく、かつ全細孔容積も大きく、特定量のメソ細孔を有する本発明の多孔質カーボンは、燃料電池用の触媒担体として非常に有用である。本発明の多孔質カーボンを触媒担体として用いた触媒層は、高い触媒反応性と高い物質輸送性とを発現するため、燃料電池の特性を向上させることができる。
【0067】
《多孔質カーボンの製造方法》
本発明の多孔質カーボンの製造方法は、上記した本発明の多孔質カーボンを得るための一態様である。本発明の多孔質カーボンの製造方法は、後記する(a)~(d)を含むものであり、鋳型となる球状シリカに、炭素源とともに造孔剤を導入し、その後に炭素源の重合及び炭化を実施し、最後に鋳型となる球状シリカを除去するものである。
【0068】
本発明の多孔質カーボンの製造方法では、鎖状シリカを鋳型として用いて、その形状が転写された多孔質カーボンを得ることができる。
【0069】
本発明の多孔質カーボンの製造方法では、得に、鋳型となる球状シリカに炭素源とともに造孔剤を導入する。これにより、球状シリカの形状が転写されたメソ細孔を有しつつ、造孔剤に起因するサイズの大きいメソ細孔を有する、サンゴ状の高次構造を備える多孔質カーボンを得ることができる。
【0070】
本発明によれば、更に、鋳型となる球状シリカの粒径、及び造孔剤の量等を制御することにより、得られる多孔質カーボンの比表面積、細孔容積、及び細孔サイズの分布等を制御することが可能となる。その結果、用途に適した物性を有する多孔質カーボンを実現することができる。
【0071】
特に、本発明の多孔質カーボンの製造方法により得られる多孔質カーボンは、分布を有するメソ細孔が存在する、サンゴ状の高次構造を有していることから、比表面積が大きく、かつ細孔容積も大きい多孔質カーボンとなる。
【0072】
<(a)>
(a)は、シリカ粒子が鎖状に連結した鎖状シリカと、炭素源と、造孔剤とを含む、原料分散液を作製することである。原料分散液には、必要に応じて、溶媒や添加剤等のその他の成分が含まれていてもよい。
【0073】
(鎖状シリカ)
鋳型となる鎖状シリカは、シリカ粒子が連結した構造を有する。鎖状シリカの製造方法は特に限定されないが、例えば、J.Am.Chem.Soc.,2009,131:16344に記載の方法にて得られた自己組織化した鎖状体を、か焼することによって作製することができる
【0074】
具体的には、シリカ粒子が分散された分散液に、ブロックコポリマーを添加して、シリカ粒子の周囲に当該ブロックコポリマーを配置し、分散液のpHを調整することで、ブロックコポリマーに起因する自己組織化を促して、シリカ粒子を鎖状に連結させる。
【0075】
ブロックコポリマーの自己組織化により鎖状に連結した状態のシリカ粒子とブロックコポリマーの複合体を、か焼することにより、本願発明で用いる鋳型となる鎖状シリカを得ることができる。
【0076】
鎖状シリカの原料となるシリカ粒子の平均粒径は、3~50nmであってもよい。また、鎖状シリカの平均長は、15~120nmであってもよい。
【0077】
鋳型となる鎖状シリカには、その表面に炭素源重合体が配置され、鎖状シリカの形状そのものが、最終的に得られる多孔質カーボンの形状に転写される。このため、鎖状シリカの粒径や鎖長が、得られる多孔質カーボンにおいて、2~50nmのメソポ細孔として転写形成されることとなる。
【0078】
したがって、本発明の多孔質カーボンの製造方法において、用いられる鎖状シリカの原料となるシリカ粒子の平均粒径や、鎖状シリカの平均長等は、多孔質カーボンの要求物性に応じて、適宜設定することができる。
【0079】
鎖状シリカを形成するシリカ粒子の平均粒径は、5nm以上、7nm以上、10nm以上、15nm以上、20nm以上、25nm以上、又は30nm以上であってもよく、45nm以下、40nm以下、35nm以下、30nm以下、25nm以下、又は20nm以下であってもよい。
【0080】
鎖状シリカの平均長は、20nm以上、25nm以上、30nm以上、35nm以上、40nm以上、又は50nm以上であってもよく、115nm以下、110nm以下、105nm以下、100nm以下、95nm以下、90nm以下、85nm以下、80nm以下、75nm以下、又は70nm以下であってもよい。
【0081】
ここで、本明細書における「平均粒径」とは、少なくとも200個以上のシリカ粒子について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、面積に等しい真円を等面積円としたときの円相当径を求め、それらの円相当径により算出した数平均値である。
【0082】
また、本明細書における「平均長」とは、少なくとも200個以上の鎖状シリカについて走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、それらの長軸から算出した数平均値である。
【0083】
(炭素源)
本発明の多孔質カーボンの製造方法で用いる炭素源は、重合により、上記の鎖状シリカの表面を被覆する重合体を形成し、その後の焼成により炭化されて、カーボンとなるものであれば、特に限定されるものではない。
【0084】
例えば、各種のアルコール等であれば、鎖状シリカを分散させつつ、自身は重合して鎖状シリカの表面に付着し、鎖状シリカを被覆するため好ましい。
【0085】
中でも、炭素源としてフルフリルアルコールを用いれば、重合により、炭素材料樹脂として適したフラン樹脂が得られるため好ましい。
【0086】
(造孔剤)
本発明の多孔質カーボンの製造方法で用いる造孔剤は、上記の炭素源の重合体とともに鎖状シリカの表面を被覆し、その後の焼成により、除去されるものである。造孔剤により、得られる多孔質カーボンに、サイズの大きい範囲を含む細孔分布を有するメソ細孔を形成することができ、その結果、サンゴ状の高次構造を備える多孔質カーボンを実現することができる。
【0087】
理論に拘束されるものではないが、造孔剤により細孔形成時に大小分布の広い細孔径が形成される理由は、造孔剤と炭素源との相溶性が、鎖状シリカとの相溶性よりも高いためと考えられる。
【0088】
本発明の多孔質カーボンの製造方法で用いる造孔剤は、同時に配合する炭素源との相溶性が高いものであれば、特に限定されるものではない。中では、1,3,5-トリメチルベンゼンは、取り扱い易く、入手容易であることから、造孔剤として好ましい。
【0089】
作製される原料分散液における造孔剤の濃度は、多孔質カーボンの要求物性に応じて、適宜調整することができる。造孔剤の濃度を高くすれることで、得られる多孔質カーボンにおいて、径が大きいメソ細孔の割合を高くすることができる。
【0090】
<(b)>
(b)は、炭素源を造孔剤の存在下で重合して、鎖状シリカの表面に、炭素源重合体と造孔剤とを配置して、複合体を得ることである。
【0091】
重合の条件は、特に限定されるものではなく、用いる炭素源の種類、及び導入量によって、適宜選択することができる。
【0092】
<(c)>
(c)は、(b)で作製した複合体を焼成して、炭素源重合体を炭化させ、かつ造孔剤を除去して、複合体炭化物を得ることである。
【0093】
焼成の方法、及び条件は、特に限定されるものではなく、複合体における炭素源重合体を炭化でき、かつ造孔剤を除去できるものであればよい。
【0094】
<(d)>
(d)は、(c)で作製した複合体炭化物から、前記鎖状シリカを除去して多孔質カーボンを得ることである。すなわち、複合体炭化物から、鋳型となる鎖状シリカを除去して、鎖状シリカの形状が転写された多孔質カーボンを得る。
【0095】
鎖状シリカを除去する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、シリカを溶解できる溶媒等によって、複合体炭化物から鎖状シリカを溶出させる方法が挙げられる。
【0096】
また、シリカ除去した後の多孔質カーボンは、必要に応じて、更なる洗浄や、乾燥等、追加の後工程を実施してもよい。
【実施例】
【0097】
以下、実験結果等を示して、本発明を更に詳細に説明する。
【0098】
《実施例1~3、比較例1》
<(a)>
鋳型となる鎖状シリカとして、表1に示す粒子サイズのシリカ粒子を用いた、表1に示す平均長の鎖状シリカを準備した。
【0099】
鎖状シリカに、炭素源としてフルフリルアルコール(FA)と、造孔剤として1,3,5-トリメチルベンゼン(TMB)を、表1に示す体積比となるように配合し、原料分散液を作製した。
【0100】
【0101】
<(b)>
調整した原料分散液を、60℃で16時間重合し、さらに、80℃に昇温して16時間重合することで、鎖状シリカの表面にフラン樹脂及び1,3,5-トリメチルベンゼン(TMB)が配置された、複合体を得た。
【0102】
<(c)>
得られた、鎖状シリカの表面にフラン樹脂及びTMBが配置された複合体を、800℃で1時間焼成して、フラン樹脂を炭化させ、かつTMBを除去し、複合体炭化物を得た。
【0103】
<(d)>
得られた複合体炭化物をフッ化水素で処理することにより、複合体炭化物から鎖状シリカを除去し、多孔質カーボンを得た。
【0104】
<多孔質カーボンの評価>
実施例1~3及び比較例1で得られた多孔質カーボンについて、以下の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0105】
(BET比表面積)
BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法により、BET比表面積を測定した。具体的には、ガス吸着量測定装置(BELSORP MAXII、マイクロトラック・ベル社)を用いて、多孔質カーボン50mgを装置内に入れ、350℃で1時間加熱脱気を行った後、-196℃における窒素吸着を実施した。
【0106】
(全細孔容積VPT)
BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法により、上記BET費表面積の測定と同時に、孔径が2nm以上200nm以下の範囲についての全細孔容積VPTを測定した。
【0107】
(孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nm)
BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法により、上記BET費表面積の測定と同時に、孔径が3nm以上6nm以下である範囲の細孔の細孔容積VP3~6nmを解析した。
【0108】
(孔径が3nm以上6nm以下である細孔の全細孔容積VPTに対する割合)
全細孔容積VPTに対する、孔径が3nm以上6nm以下である細孔の細孔容積VP3~6nmの割合(%)を算出した。
【0109】
(孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nm)
BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法により、上記BET費表面積の測定と同時に、孔径が6nmより大きく20nm以下である範囲の細孔の細孔容積VP6~20nmを解析した。
【0110】
(孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmの全細孔容積VPTに対する割合)
全細孔容積VPTに対する、孔径が6nmより大きく20nm以下である細孔の細孔容積VP6~20nmの割合(%)を算出した。
【0111】
(平均細孔径)
BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法により、上記BET費表面積の測定と同時に得られた細孔分布により、孔径が2nm以上200nm以下の範囲における平均細孔径を求めた。
【0112】
(細孔分布)
BJH(Barrett,Joyner,Hallender)法により、上記BET費表面積の測定と同時に得られたデータに基づき、細孔分布図を作成した。孔径が2~30nmの範囲についての細孔分布を
図1に、孔径が3~9nmの範囲についての細孔分布を
図2に、孔径が7~21nmの範囲についての細孔分布図を
図3に示す。
【0113】
(平均一次粒子径)
走査型電子顕微鏡(SEM)(SU9000、日立ハイテクノロジー社)を用いて、2万倍の倍率で多孔質カーボンの画像を観察し、200個の多孔質カーボンの一次粒子について、面積に等しい真円を等面積円としたときの円相当径を求め、それらの平均値を算出した。
【0114】
(電子顕微鏡による観察)
走査型電子顕微鏡(SEM)(SU9000、日立ハイテクノロジー社)を用いて、作成した多孔質カーボンの観察を行った。実施例1で得られた多孔質カーボンの画像を
図4及び
図5に、実施例2で得られた多孔質カーボンの画像を
図6に、実施例3で得られた多孔質カーボン画像を
図7に、比較例1で得られた多孔質カーボンの画像を
図8に示す。
【0115】
<比較例2>
市販されているESCABON(商品名:エスカーボン(登録商標)/ESCARBON(登録商標)-MCND、新日鉄住金化学株式会社)を準備し、上記と同様の評価を行った。結果を表1に示す。また、電子顕微鏡観察による画像を、
図9に示す。