(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】時計部品、及び時計
(51)【国際特許分類】
G04B 19/04 20060101AFI20240509BHJP
G04B 13/02 20060101ALI20240509BHJP
C23C 8/14 20060101ALI20240509BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
G04B19/04 C
G04B13/02 Z
C23C8/14
C23C26/00 C
(21)【出願番号】P 2020175883
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】坂本 武志
(72)【発明者】
【氏名】星野 一憲
(72)【発明者】
【氏名】関 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】脇田 賢
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104329(WO,A1)
【文献】特開2010-077457(JP,A)
【文献】特開昭62-263977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
C23C 8/00- 8/80
C23C 26/00
C25D 11/34
A44C 5/00- 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を主成分とする基材を酸化させてなる酸化膜を有する時計部品であって、
前記酸化膜の膜厚の平均は、70nm以上145nm以下であり、
前記酸化膜の膜厚のばらつきは、
20%以上、かつ35%以内であることを特徴とする
時計部品。
【請求項2】
請求項1に記載の時計部品であって、
前記基材は、鉄、または鉄と炭素を含むことを特徴とする時計部品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の時計部品であって、
前記酸化膜の膜厚のばらつきは、であることを特徴とする時計部品。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の時計部品であって、
前記時計部品は、時計針、時計針の軸、及びネジであることを特徴とする時計部品。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の時計部品を備えることを特徴とする時計
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計針などを含む時計部品、及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計部品は、その装飾性から様々な色調が求められている。例えば、特許文献1には、ステンレスなどからなる時計針を加熱して酸化被膜を形成することにより青色を発色させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸化被膜は、長期色調保持には優れるが、多色展開が難しい。一方、塗装処理によって形成された塗装膜は、色調のバリエーションを作ることはできるが、液溜まりによる凹凸の発生や、時計部品の角部のだれ、また、経年劣化によって変色するという問題がある。そこで、耐久性と装飾性とを併せ持つ時計部品が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
時計部品は、鉄を主成分とする基材を酸化させてなる酸化膜を有し、前記酸化膜の膜厚の平均は、70nm以上145nm以下であり、前記酸化膜の膜厚のばらつきは、35%以内である。
【0006】
時計は、上記に記載の時計部品を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図4】酸化膜における膜厚とばらつきの評価結果を示す図表。
【
図5A】水準1における時計針の断面状態を示す図。
【
図5B】水準1における時計針の断面状態を示す図。
【
図6A】水準3における時計針の断面状態を示す図。
【
図6B】水準3における時計針の断面状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、
図1及び
図2を参照しながら、時計100の構成を説明する。
【0009】
図1に示すように、時計100は、扁平な円筒状のケース本体11を備えている。ケース本体11の内部には、文字板12が設置され、この文字板12を覆うようにカバーガラス13が設置されている。文字板12には、秒針、分針、時針などからなる時計針14が設置され、カバーガラス13を透して時計100の表面側から時刻表示を視認できるようになっている。
【0010】
図2に示すように、時計針14は、例えば、鉄を主成分とする材質で形成された基材14aを備えている。時計針14など、ユーザーから視認できる時計部品は、基材14aの表面に酸化膜20が形成されている。更に、酸化膜20の膜厚が、所定の数値範囲内でばらつくことにより、灰色を主体の色としながら、様々な色味が合わさるため、独特の装飾性を生み出すことができる。なお、鉄を主成分とする材質は、鉄、または鉄と炭素を含む。
【0011】
ケース本体11の側面には、時計針14などの調整や設定を行うためのりゅうず15が配置されている。なお、りゅうず15に隣接してボタン類が設置されてもよい。また、時計100は、例えば、外周に凹凸が形成されると共に文字などが表示される回転ベゼル16を備えている。
【0012】
次に、
図3を参照しながら、時計針14などを含む時計部品の製造方法を説明する。
【0013】
図3に示すように、ステップS11では、型抜きを行う。具体的には、基材から所望の時計部品の形状をプレス加工により抜き取る。なお、時計部品として型抜きによって部品を形成することに限定されず、例えば、切削加工によって時計部品を形成するようにしてもよい。
【0014】
ステップS12では、前処理を行う。具体的には、時計部品を洗浄したり、時計部品を研磨したりする。
【0015】
ステップS13では、焼成処理を行う。具体的には、所定の温度で時計部品を加熱して、例えば、時計針14の表面に酸化膜20を形成する。なお、焼成処理の方法としては、例えば、バーナー、オーブン、レーザー、ホットプレート、陽極酸化などが挙げられる。
【0016】
ステップS14では、後処理を行う。具体的には、時計部品を洗浄したり、時計部品を研磨したりする。また、時計部品の表面に保護膜14b(
図5A~
図6B参照)を形成するようにしてもよい。以上により、時計部品が完成する。
【0017】
次に、
図4を参照しながら、上記焼成処理において時計部品としての時計針14に形成された酸化膜20の膜厚とばらつきの評価結果を説明する。
【0018】
図4に示す図表は、酸化膜20を形成するにあたって、加熱温度と加熱時間とを変化させ、その組み合わせた条件で形成された酸化膜20の外観評価と生産性評価を行っている。加熱温度は、例えば、加熱する装置の設定温度である。なお、加熱された時計針14の測定温度としてもよい。酸化膜20の評価は、加熱温度と加熱時間とを変えた組み合わせである水準1から水準12まで行った。そのときの、酸化膜20の平均膜厚と膜厚のばらつきとを、
図4の図表にまとめた。
【0019】
加熱温度は、300℃、200℃、400℃の3段階に変化させた。加熱時間は、2分から5分までの範囲で、加熱温度に応じて選択的に設定時間を変化させた。
【0020】
外観評価の〇は、装飾性の観点から合格のレベルであり、×は、装飾性の観点から不合格のレベルである。本実施形態の合格レベルの装飾性としては、灰色を主体の色としながら、様々な色味が合わさった独特の装飾性を備えていることである。このような装飾性を備えるためには、酸化膜20の膜厚が所定の範囲内でばらつくことにより生み出される。また、生産性評価の〇は、加熱時間などから量産性に優れているレベルであり、×は、量産性に適していないレベルである。
【0021】
まず、外観評価の結果から説明する。水準2~水準12は、装飾性の観点から合格のレベル(〇)である。水準1は、装飾性の観点(具体的には、青みの残留)から不合格のレベル(×)である。
【0022】
次に、生産性評価の結果を説明する。水準1~水準5、及び水準7~水準11は、量産性に優れているレベル(〇)である。水準6は、TAT(ターンアラウンドタイム)の低下から量産性に適していないレベル(×)である。また、水準12は、膜厚の変化が急激であり制御が難しかったり、TATが低下したりするなどの観点から量産性に適していないレベル(×)である。
【0023】
以上の結果から、酸化膜20の最適な膜厚の平均と、最適な膜厚のばらつきの範囲を規定する。即ち、外観評価と生産性評価との両方で〇と判断された範囲を規定する。なお、酸化膜20の膜厚の平均とは、時計針14の一断面の膜厚について複数個所測定し、その平均値を求めた数値である。また、酸化膜20の膜厚のばらつきとは、σ(標準偏差)/平均値で計算した数値である。
【0024】
最適な酸化膜20の膜厚の平均は、70nm以上145nm以下の範囲とする。また、最適な酸化膜20の膜厚のばらつきは、35%以内とする。このような数値範囲の酸化膜20を規定することにより、酸化膜20の膜厚が上記の数値範囲内で適度にばらつき、灰色を主体の色としながら、様々な色味が合わさるため、独特の装飾性を備えることができる。更に、酸化膜20が形成されているので、耐久性を備えた時計針14を含む時計部品を提供することができる。
【0025】
なお、酸化膜20の膜厚ばらつきは、20%以上であることが好ましい。言い換えれば、酸化膜20の膜厚のばらつきは、20%以上35%以内であることが好ましい。20%以上とすることで、膜厚のばらつきが20%以下の場合のように、ばらつきが小さくなり過ぎて、素朴な色味になることを抑えることができる。
【0026】
【0027】
図5A~
図6Bは、時計針14をイオンビームで削り出した断面を、STEM(電子顕微鏡)で拡大して示した図である。
図5A及び
図5Bは、水準1の時計針14の断面の状態を示す図である。
図6A及び
図6Bは、水準3の時計針14の断面の状態を示す図である。なお、
図5A及び
図6Aは、時計針14の断面の透過電子像である。また、
図5B及び
図6Bは、時計針14の断面の散乱電子像である。
【0028】
図5A~
図6Bに示す時計針14は、基材14aと、基材14aの上に形成された酸化膜20と、酸化膜20の上に形成された保護膜14bと、を備えている。
【0029】
図5A及び
図5Bに示すように、不合格と判断された水準1の時計針14は、酸化膜20の膜厚のばらつきが大きい。一方、
図6A及び
図6Bに示すように、合格と判断された水準3の時計針14は、酸化膜20の膜厚のばらつきが小さい。このように、図の状態に基づいて、水準1の時計針14と水準3の時計針14の膜厚のばらつきの大小が判断できる。
【0030】
以上述べたように、本実施形態の時計部品としての時計針14は、鉄を主成分とする基材14aを酸化させてなる酸化膜20を有し、酸化膜20の膜厚の平均は、70nm以上145nm以下であり、酸化膜20の膜厚のばらつきは、35%以内である。
【0031】
この構成によれば、酸化膜20の膜厚が上記の数値範囲内でばらつくことにより、灰色を主体の色としながら、様々な色味が合わさるため、独特の装飾性を備え、更に酸化膜20が形成されているので、耐久性を備えた時計部品を提供することができる。
【0032】
また、基材14aは、鉄、または鉄と炭素を含むことが好ましい。この構成によれば、基材14aの酸化による発色が可能となると共に、塗装膜と比較して、経年劣化や時計部品の形状のだれ感が発生することを防ぐことができる。
【0033】
また、酸化膜20の膜厚のばらつきは、20%以上であることが好ましい。この構成によれば、膜厚のばらつきが20%以上であるので、ばらつきが20%以下の場合のように、ばらつきが小さくなり過ぎて、素朴な色味になることを抑えることができる。
【0034】
また、本実施形態の時計100は、上記に記載の時計部品を備える。この構成によれば、装飾性及び耐久性を併せ持つ時計100を提供することができる。
【0035】
以下、上記した実施形態の変形例を示す。
【0036】
なお、時計部品は、上記した実施形態のように時計針14に限定されず、ユーザーから見える時計部品であることが好ましく、例えば、ネジ、時計針14の軸、目盛り(時字)、カレンダーの窓枠、ロゴ、文字板に取り付ける部品全般などに適用することができる。
【0037】
このように、時計部品は、時計針14、時計針14の軸、ネジ、及びその他の部品であることが好ましい。この構成によれば、時計100の外観として視認できる部分の装飾性及び耐久性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0038】
11…ケース本体、12…文字板、13…カバーガラス、14…時計部品としての時計針、14a…基材、14b…保護膜、15…りゅうず、16…回転ベゼル、20…酸化膜、100…時計。