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特許7484661ガラス物品の製造方法、及びガラス物品の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法、及びガラス物品の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/023 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
C03B23/023
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020179775
(22)【出願日】2020-10-27
(65)【公開番号】P2022070615
(43)【公開日】2022-05-13
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】寺田 景
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-202828(JP,A)
【文献】特開昭55-042259(JP,A)
【文献】特開2000-109331(JP,A)
【文献】特開2007-131475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/023-23/035,
B29C 51/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造方法であって、
支持台に支持した板ガラスにマスク部材を重ねて配置する準備工程と、
加熱源を用いて前記板ガラスの一部を熱変形させることで前記突出部を成形する成形工程と、を備え、
前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、
前記マスク部材は、貫通孔を有し、
前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の全体が配置されるように構成され、
前記成形工程では、前記加熱源により前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱
前記支持台の前記空間部は、前記突出部の全体を非接触の状態で成形可能に構成される、ガラス物品の製造方法。
【請求項2】
板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造方法であって、
支持台に支持した板ガラスにマスク部材を重ねて配置する準備工程と、
加熱源を用いて前記板ガラスの一部を熱変形させることで前記突出部を成形する成形工程と、を備え、
前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、
前記マスク部材は、貫通孔を有するとともに、600℃において1[W/(m・K)]以下の熱伝導率を有する材料から構成され
前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の少なくとも一部が配置されるように構成され、
前記成形工程では、前記加熱源により前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱する、ガラス物品の製造方法。
【請求項3】
板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造方法であって、
支持台に支持した板ガラスにマスク部材を重ねて配置する準備工程と、
加熱源を用いて前記板ガラスの一部を熱変形させることで前記突出部を成形する成形工程と、を備え、
前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、
前記マスク部材は、貫通孔を有し、
前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の少なくとも一部が配置されるように構成され、
前記成形工程では、前記加熱源により前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱し、
前記マスク部材は、複数の前記貫通孔を有し、前記成形工程では、複数の前記突出部を成形する、ガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記マスク部材の厚さは、1mm以上である、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱源は、前記マスク部材の前記貫通孔に向けて火炎を照射するバーナーである、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記板ガラスを見た平面視で、前記板ガラスの外形と同形状の外形、又は前記板ガラスの外周縁の全体を覆う外形を有する、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記準備工程では、前記支持台と前記マスク部材とを互いに接近させる方向に押圧する押圧部材を用い、前記押圧部材で押圧した状態で前記成形工程を行う、請求項1から請求項のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造装置であって、
板ガラスを支持する支持台と、
前記支持台に支持した板ガラスに重ねて配置されるマスク部材と、
前記突出部を成形するために前記板ガラスの一部を熱変形させる加熱源と、を備え、
前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、
前記マスク部材は、貫通孔を有し、
前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の全体が配置されるように構成され、
前記加熱源は、前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱するように配置され、
前記支持台の前記空間部は、前記突出部の全体を非接触の状態で成形可能に構成される、ガラス物品の製造装置。
【請求項9】
板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造装置であって、
板ガラスを支持する支持台と、
前記支持台に支持した板ガラスに重ねて配置されるマスク部材と、
前記突出部を成形するために前記板ガラスの一部を熱変形させる加熱源と、を備え、
前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、
前記マスク部材は、貫通孔を有するとともに、600℃において1[W/(m・K)]以下の熱伝導率を有する材料から構成され、
前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の少なくとも一部が配置されるように構成され、
前記加熱源は、前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱するように配置される、ガラス物品の製造装置。
【請求項10】
板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造装置であって、
板ガラスを支持する支持台と、
前記支持台に支持した板ガラスに重ねて配置されるマスク部材と、
前記突出部を成形するために前記板ガラスの一部を熱変形させる加熱源と、を備え、
前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、
前記マスク部材は、貫通孔を有し、
前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の少なくとも一部が配置されるように構成され、
前記加熱源は、前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱するように配置され、
前記マスク部材は、複数の前記貫通孔を有し、複数の前記突出部を成形可能に構成される、ガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法、及びガラス物品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、板状の枠部と、枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品を、成形型の凹部に沿って板ガラスを熱変形させることで形成する方法が知られている。成形型の上方には、成形型の上面に配置されたガラス板の周縁部を押さえる押さえ板が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-131475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されるガラス物品の製造方法では、成形型の凹部の形状に応じて、所定の外形の突出部を有するガラス物品を製造することができる。このとき、ガラス物品の突出部の外周縁は、成形型の凹部の外周縁と接触している。このような成形型とガラス物品との接触により、ガラス物品の突出部の外周縁に傷がつくことで、ガラス物品の品位を低下させるおそれがあった。
【0005】
本発明の目的は、ガラス物品の突出部の外周縁における傷の発生を抑えることで、ガラス物品の品位を高めることのできるガラス物品の製造方法、及びガラス物品の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造方法であって、支持台に支持した板ガラスにマスク部材を重ねて配置する準備工程と、加熱源を用いて前記板ガラスの一部を熱変形させることで前記突出部を成形する成形工程と、を備え、前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、前記マスク部材は、貫通孔を有し、前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の少なくとも一部が配置されるように構成され、前記成形工程では、前記加熱源により前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱する。
【0007】
この方法によれば、マスク部材側から支持台を見た平面視で、支持台の開口縁の少なくとも一部をマスク部材で覆うことができる。これにより、ガラス物品の突出部の外周縁の少なくとも一部を、マスク部材の貫通孔の内周縁に沿った板ガラスの熱変形により形成することができる。すなわち、ガラス物品における突出部の外周縁の少なくとも一部を、支持台と非接触の状態で成形することができる。
【0008】
上記ガラス物品の製造方法において、前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の前記開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の全体が配置されるように構成されることが好ましい。
【0009】
この方法によれば、マスク部材側から支持台を見た平面視で、支持台の開口縁の全体をマスク部材で覆うことができる。これにより、ガラス物品における突出部の外周縁の全体を、支持台と非接触の状態で成形することができる。
【0010】
上記ガラス物品の製造方法において、前記支持台の前記空間部は、前記突出部の全体を非接触の状態で成形可能に構成されることが好ましい。この方法によれば、ガラス物品の突出部の外面全体における傷の発生を抑えることができる。
【0011】
上記ガラス物品の製造方法において、前記マスク部材は、600℃において1[W/(m・K)]以下の熱伝導率を有する材料から構成されることが好ましい。この方法によれば、板ガラスにおいて、マスク部材で覆われる部分の温度上昇を好適に抑えることができるため、ガラス物品の形状安定性を高めることができる。
【0012】
上記ガラス物品の製造方法において、前記マスク部材の厚さは、1mm以上であることが好ましい。この方法によれば、板ガラスにおいて、マスク部材で覆われる部分の温度上昇を好適に抑えることができるため、ガラス物品の形状安定性を高めることができる。
【0013】
上記ガラス物品の製造方法において、前記加熱源は、前記マスク部材の前記貫通孔に向けて火炎を照射するバーナーであってもよい。この方法によれば、板ガラスを比較的速やかに軟化させることができる。
【0014】
上記ガラス物品の製造方法において、前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記板ガラスを見た平面視で、前記板ガラスの外形と同形状の外形、又は前記板ガラスの外周縁の全体を覆う外形を有することが好ましい。この方法によれば、ガラス物品の枠部の熱変形を抑えることで、ガラス物品の品位をより高めることができる。
【0015】
上記ガラス物品の製造方法において、前記マスク部材は、複数の前記貫通孔を有し、前記成形工程では、複数の前記突出部を成形してもよい。このように、複数の突出部を有するガラス物品を製造することもできる。
【0016】
上記ガラス物品の製造方法において、前記準備工程では、前記支持台と前記マスク部材とを互いに接近させる方向に押圧する押圧部材を用い、前記押圧部材で押圧した状態で前記成形工程を行うことが好ましい。
【0017】
この方法によれば、支持台とマスク部材との間で挟まれた板ガラスの位置ずれを抑えることができる。また、板ガラスとマスク部材との密着性を高めることができる。そのため、マスク部材15で覆われているにも関わらずに、密着性が低く、隙間が存在するために、板ガラスの不要な部分まで加熱されてしまうことを抑制できる。
【0018】
ガラス物品の製造装置は、板状の枠部と、前記枠部の内側に設けられた突出部とを有するガラス物品の製造装置であって、板ガラスを支持する支持台と、前記支持台に支持した板ガラスに重ねて配置されるマスク部材と、前記突出部を成形するために前記板ガラスの一部を熱変形させる加熱源と、を備え、前記支持台は、前記板ガラスを支持する支持部と、前記支持部に囲まれる開口を有するとともに前記板ガラスの一部の熱変形を許容する空間部と、を有し、前記マスク部材は、貫通孔を有し、前記支持台及び前記マスク部材は、前記マスク部材側から前記支持台を見た平面視で、前記支持台の開口縁よりも内側に、前記マスク部材の前記貫通孔の内周縁の少なくとも一部が配置されるように構成され、前記加熱源は、前記マスク部材側から前記板ガラスを加熱するように配置される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガラス物品の突出部の外周縁における傷の発生を抑えることで、ガラス物品の品位を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態におけるガラス物品を示す斜視図である。
図2】実施形態におけるガラス物品の製造装置の一部を示す分解斜視図である。
図3】ガラス物品の製造装置の一部を示す斜視図である。
図4】ガラス物品の製造装置を示す概略断面図である。
図5】ガラス物品の製造方法を説明する概略断面図である。
図6図5の一部を拡大して示す断面図である。
図7】ガラス物品の製造方法の変更例を説明する概略断面図である。
図8】ガラス物品の製造方法の変更例を説明する概略断面図である。
図9】ガラス物品の製造方法の変更例を説明する概略断面図である。
図10】ガラス物品の製造方法の変更例を説明する概略断面図である。
図11】ガラス物品の製造方法の変更例を説明する概略断面図である。
図12】従来のガラス物品の製造方法を説明する概略断面図である。
図13図12の一部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、ガラス物品の製造方法、及びガラス物品の製造装置の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。
【0022】
<ガラス物品>
図1に示すように、ガラス物品11は、板状の枠部12と、枠部12の内側に設けられた突出部13とを有している。本実施形態の突出部13の形状は、枠部12から膨出するように形成されたドーム形状であり、平面視で円形状である。ガラス物品11のガラスは、無アルカリガラスであってもよいし、アルカリ含有ガラスであってもよい。ガラス物品11の厚さは、特に限定されないが、熱により容易に変形可能な厚さであることが好ましく、例えば、0.15mm以上、1.5mm以下の範囲内である。ガラス物品11の厚さは、0.3mm以上、1.2mm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0023】
<ガラス物品の製造装置の概要>
次に、ガラス物品11の製造装置について説明する。
図2図4に示すように、ガラス物品11の製造装置は、板ガラスGSを支持する支持台14と、支持台14に支持した板ガラスGSに重ねて配置されるマスク部材15とを備えている。図4に示すように、ガラス物品11の製造装置は、ガラス物品11の突出部13を成形するために板ガラスGSの一部を熱変形させる加熱源16をさらに備えている。
【0024】
本実施形態におけるガラス物品11の製造装置は、支持台14とマスク部材15とを互いに接近させる方向に押圧する押圧部材17と、板ガラスGSの一部に外力を加えるための外力発生装置18とをさらに備えている。
【0025】
<支持台及びマスク部材>
支持台14は、板ガラスGSを支持する支持部14aと、支持部14aに囲まれる開口を有するとともに板ガラスGSの一部の熱変形を許容する空間部14bとを有している。支持台14の支持部14aは、板ガラスGSの主面を支持する支持面を有している。本実施形態の開口は、円形状の開口縁E1を有しているが、例えば、三角形状、四角形状等の多角形状、楕円形状等の形状の開口縁を有していてもよい。なお、支持台14の空間部14bは、本実施形態のように貫通孔により形成されてもよいし、内底部を有する凹部により形成されてもよい。本実施形態の支持台14の空間部14bは、ガラス物品11の突出部13の全体を非接触の状態で成形可能に構成されている。支持台14を構成する材料としては、例えば、金属、セラミックス等が挙げられる。
【0026】
マスク部材15は、貫通孔15aを有している。本実施形態のマスク部材15の貫通孔15aは、円形状の内周縁E2を有しているが、例えば、三角形状、四角形状等の多角形状、楕円形状等の形状の内周縁を有していてもよい。
【0027】
図2図4に示すように、支持台14及びマスク部材15は、マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、支持台14の開口縁E1よりも内側に、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2の少なくとも一部が配置されるように構成されている。本実施形態の支持台14及びマスク部材15は、マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、支持台14の開口縁E1よりも内側に、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2の全体が配置されるように構成されている。
【0028】
支持台14の開口部の開口面積を100%とした場合、マスク部材15の貫通孔15aの断面積は、95%以下であることが好ましく、より好ましくは80%である。マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2の少なくとも一部は、支持台14の開口縁E1よりも1mm以上内側となるように配置されることが好ましく、3mm以上内側となるように配置されることがより好ましい。
【0029】
マスク部材15は、600℃において1[W/(m・K)]以下の熱伝導率を有する材料から構成されることが好ましい。マスク部材15を構成する材料としては、例えば、セラミックスが好適である。マスク部材15の厚さは、1mm以上であることが好ましい。本実施形態のマスク部材15は、マスク部材15側から板ガラスGSを見た平面視で、板ガラスGSの外周縁の全体を覆う外形を有している。
【0030】
<加熱源>
図4に示すように、ガラス物品11の製造装置における加熱源16は、マスク部材15側から板ガラスGSを加熱するように配置されている。本実施形態の加熱源16は、板ガラスGSに向けて火炎FLを噴射するバーナーである。バーナーを用いることで、板ガラスGSを比較的速やかに軟化させることができる。なお、加熱源16の加熱方式は、例えば、抵抗加熱であってもよいし、レーザー加熱であってもよい。また、加熱源16は、異なる加熱方式の加熱源を組み合わせて構成してもよい。
【0031】
<押圧部材>
ガラス物品11の製造装置における押圧部材17は、例えば、マスク部材15を支持台14に向けて押圧する。押圧部材17を押圧する押圧機構としては、例えば、流体シリンダ、直動アクチュエータ等が挙げられる。なお、押圧部材17は、固定されたマスク部材15に対して支持台14を押圧するように構成することもできる。
【0032】
<外力発生装置>
ガラス物品11の製造装置における外力発生装置18としては、例えば、排気装置を用いることができる。排気装置は、支持台14の空間部14b内に存在する気体を排出することで、支持台14の空間部14b内を負圧にする。これにより、板ガラスGSの一部が支持台14の空間部14b内に吸引されることで、板ガラスGSの一部の熱変形を促進することができる。排気装置としては、例えば、ベンチュリー機構を用いたポンプが好適である。なお、本実施形態における外力発生装置18以外にも、外力発生装置として、マスク部材15側から板ガラスGSの一部に向けて高圧ガスを噴射する高圧ガス発生装置が挙げられる。これにより、板ガラスGSの一部が支持台14の空間部14bに向けて加圧されることで、板ガラスGSの一部の熱変形を促進することができる。また、ポンプと高圧ガス発生装置とを併用して、板ガラスGSの一部の熱変形を促進してもよい。
【0033】
<ガラス物品の製造方法>
次に、ガラス物品11の製造方法を主な作用とともに説明する。
ガラス物品11の製造方法は、準備工程と成形工程とを備えている。図2~4に示すように、準備工程では、支持台14に支持した板ガラスGSにマスク部材15を重ねて配置する。
【0034】
図4図6に示すように、成形工程では、加熱源16を用いて板ガラスGSの一部を熱変形させることで突出部13を成形する。なお、図6は、図5の領域A1を拡大して示している。この成形工程では、マスク部材15の貫通孔15aを通じた板ガラスGSの加熱により、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2に沿った外形を有する突出部13を成形することができる。
【0035】
このとき、支持台14及びマスク部材15は、マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、支持台14の開口縁E1よりも内側に、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2の少なくとも一部が配置されるように構成されている。そして、成形工程では、加熱源16によりマスク部材15側から板ガラスGSを加熱している。
【0036】
この方法によれば、マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、支持台14の開口縁E1の少なくとも一部を、マスク部材15で覆うことができる。これにより、図5及び図6に示すように、ガラス物品11の突出部13の外周縁13aの少なくとも一部を、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2に沿った板ガラスGSの熱変形により形成することができる。すなわち、ガラス物品11における突出部13の外周縁13aの少なくとも一部を、支持台14と非接触の状態で成形することができる。
【0037】
本実施形態の準備工程では、支持台14とマスク部材15とを互いに接近させる方向に押圧する押圧部材17を用いている。これにより、支持台14とマスク部材15との間で挟まれた板ガラスGSの位置ずれを抑えることができる。また、板ガラスGSとマスク部材15との密着性を高めることができる。そのため、マスク部材15で覆われているにも関わらずに、密着性が低く、隙間が存在するために、板ガラスGSの不要な部分まで加熱されてしまうことを抑制できる。
【0038】
<製造例>
次に、製造例について説明する。
(製造例1)
製造例1では、図2図6に示される準備工程及び成形工程を行うことで、ガラス物品11を製造した。製造例1で用いた板ガラスGSは、アルミノシリケートガラス(軟化点:860℃)である。製造例1で用いた支持台14の材質及びマスク部材15の材質は、いずれもマシナブルセラミックスである。
【0039】
板ガラスGS、支持台14、及びマスク部材15の各寸法を表1に示す。
準備工程では、直動アクチュエータによりマスク部材15を押圧する押圧部材17を用いた。また、準備工程では、板ガラスGS、支持台14、及びマスク部材15を加熱炉内で予備加熱した。予備加熱の温度は、板ガラスGSの軟化点をT(℃)とした場合、T-100(℃)以上、T-50(℃)以下の範囲内とした。
【0040】
成形工程では、加熱源16としてバーナーを用いた。また、外力発生装置18として、排気装置を用いた。バーナーの加熱温度は、板ガラスGSの軟化点をT(℃)とした場合、T-10(℃)以上、T+10(℃)以下の範囲内とした。この成形工程により、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2と同形状の外周縁13aを有するドーム状の突出部13を成形した。
【0041】
(製造例2)
製造例2では、図12及び図13に示すように、支持台14の開口の直径とマスク部材15の貫通孔15aの直径とが同一となる支持台14及びマスク部材15を用いた以外は、製造例1と同様にガラス物品111を製造した。なお、図13は、図12の領域A2を拡大して示している。
【0042】
板ガラスGS、支持台14、及びマスク部材15の各寸法を表1に示す。製造例2のガラス物品111は、板状の枠部112と、枠部112の内側に設けられた突出部113とを有している。図13に示すように、製造例2のガラス物品111における突出部113の外周縁113aと、この外周縁113a近傍の外面とは、支持台14の内周面に接触した状態で成形されている。
【0043】
(外観検査)
製造例1のガラス物品11について、突出部13の外周縁13aと突出部13の外面全体を目視にて観察し、傷の有無を判定した。製造例2のガラス物品111についても、突出部113の外周縁113aと突出部113の外面全体を目視にて観察し、傷の発生の有無を判定した。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
製造例1のガラス物品11の外観検査では、突出部13の外周縁13a及び突出部13の外面全体のいずれにおいても傷の発生が確認されなかった。一方、製造例2のガラス物品111の外観検査では、突出部113の外周縁113a及び突出部113の外周縁113a近傍の外面において傷の発生が確認された。
【0045】
また、製造例1の板ガラスGSにおいて、マスク部材15で覆われていた部分の軟化は抑えられ、平坦性の高い枠部12を有するガラス物品11が得られた。また、製造例1のガラス物品11では、枠部12においても傷の発生が確認されなかった。
【0046】
<作用及び効果>
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)ガラス物品11の製造方法は、支持台14に支持した板ガラスGSにマスク部材15を重ねて配置する準備工程と、加熱源16を用いて板ガラスGSの一部を熱変形させることで突出部13を成形する成形工程とを備えている。支持台14は、板ガラスGSを支持する支持部14aと、支持部14aに囲まれる開口を有するとともに板ガラスGSの一部の熱変形を許容する空間部14bとを有している。マスク部材15は、貫通孔15aを有し、支持台14及びマスク部材15は、マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、支持台14の開口縁E1よりも内側に、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2の少なくとも一部が配置されるように構成されている。成形工程では、加熱源16によりマスク部材15側から板ガラスGSを加熱している。
【0047】
この方法によれば、上述したように突出部13の外周縁13aの少なくとも一部を、支持台14と非接触の状態で成形することができる。これにより、ガラス物品11の突出部13の外周縁13aにおける傷の発生を抑えることで、ガラス物品11の品位を高めることができる。
【0048】
(2)ガラス物品11の製造方法において、マスク部材15は、マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、支持台14の開口縁E1よりも内側に、マスク部材15の貫通孔15aの内周縁E2の全体が配置されるように構成されている。この場合、マスク部材15側から支持台14を見た平面視で、支持台14の開口縁E1の全体をマスク部材15で覆うことができる。これにより、ガラス物品11における突出部13の外周縁13aの全体を支持台14と非接触の状態で成形することができる。これにより、ガラス物品11の突出部13の外周縁13a全体における傷の発生を抑えることで、ガラス物品11の品位をより高めることができる。
【0049】
(3)ガラス物品11の製造方法において、支持台14の空間部14bは、ガラス物品11の突出部13の全体を非接触の状態で成形可能に構成されている。この場合、ガラス物品11の突出部13の外面全体における傷の発生を抑えることで、ガラス物品11の品位をより高めることができる。
【0050】
(4)ガラス物品11の製造方法において、マスク部材15は、600℃において1[W/(m・K)]以下の熱伝導率を有する材料から構成されることが好ましい。この場合、板ガラスGSにおいて、マスク部材15で覆われる部分の温度上昇を好適に抑えることができるため、ガラス物品11の形状安定性を高めることができる。従って、例えば、ガラス物品11の寸法精度をより高めることが可能となる。
【0051】
(5)ガラス物品11の製造方法において、マスク部材15の厚さは、1mm以上であることが好ましい。この場合、板ガラスGSにおいて、マスク部材15で覆われる部分の温度上昇を好適に抑えることができるため、ガラス物品11の形状安定性を高めることができる。従って、例えば、ガラス物品11の寸法精度をより高めることが可能となる。
【0052】
(6)ガラス物品11の製造方法において、マスク部材15は、マスク部材15側から板ガラスGSを見た平面視で、板ガラスGSの外形と同形状の外形、又は板ガラスGSの外周縁の全体を覆う外形を有することが好ましい。この場合、ガラス物品11の枠部12の熱変形を抑えることで、ガラス物品11の品位をより高めることができる。
【0053】
(7)ガラス物品11の製造方法における準備工程では、支持台14とマスク部材15とを互いに接近させる方向に押圧する押圧部材17を用い、押圧部材17で押圧した状態で成形工程を行うことが好ましい。この場合、支持台14とマスク部材15との間で挟まれた板ガラスGSの位置ずれを抑えることができる。これにより、例えば、ガラス物品11の寸法精度を高めることが可能となる。また、板ガラスGSとマスク部材15との密着性を高めることができる。そのため、マスク部材15で覆われているにも関わらずに、密着性が低く、隙間が存在するために、板ガラスGSの不要な部分まで加熱されてしまうことを抑制できる。これによっても、例えば、ガラス物品11の寸法精度を高めることが可能となる。
【0054】
(8)ガラス物品11の製造方法における成形工程では、板ガラスGSの一部に外力を加えるための外力発生装置18を用いている。これにより、板ガラスGSの一部の熱変形を促進することができる。
【0055】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0056】
・ガラス物品11の製造方法において、押圧部材17を用いずに準備工程及び成形工程を行うこともできる。
・ガラス物品11の製造方法における成形工程は、外力発生装置18を用いずに、板ガラスGSの一部を自重で変形させることで突出部13を成形する成形工程に変更してもよい。
【0057】
・ガラス物品11の製造方法において、マスク部材15は、板ガラスGSの外周縁よりも内側に、マスク部材15の外周縁の一部又は外周縁の全体が配置される外形を有していてもよい。
【0058】
図7に示すように、支持台14の空間部14bをガラス物品11の突出部13の全体ではなく、突出部13の一部と非接触の状態で成形可能に構成してもよい。すなわち、支持台14は、ガラス部分の突出部13の一部と接触する接触面14cを有していてもよい。
【0059】
図8に示すように、マスク部材15は、複数の貫通孔15aを有していてもよい。この場合、ガラス物品11の製造方法における成形工程では、複数の突出部13を有するガラス物品11を得ることができる。
【0060】
図9に示すように、マスク部材15が複数の貫通孔15aを有する場合、支持台14は、マスク部材15の複数の貫通孔15aに対応して複数の空間部14bを有していてもよい。
【0061】
図10及び図11に示すように、準備工程及び成形工程を複数回繰り返すことで、複数の突出部13を有するガラス物品11を得ることもできる。詳述すると、例えば、図10に示すように、まず、板ガラスGSに第1の突出部13Aを成形する。次に、図10に二点鎖線で示すようにマスク部材15を板ガラスGSから離間させるとともに、板ガラスGSを支持台14から離間させる。ここで、図10及び図11に示される支持台14は、空間部14bと隣り合う位置に配置されるとともに第1の突出部13Aを収容可能な収容部14dを有している。このため、図11に示すように、第1の突出部13Aを支持台14の収容部14dに挿入して、板ガラスGSを支持台14に支持させることができる。次に、上記実施形態と同様に準備工程と成形工程とを順に行うことで、図11に示すように、第1の突出部13Aに隣り合う第2の突出部13Bを成形することができる。このように収容部14dを有する支持台14を用いることで、第1の突出部13Aのような立体形状を有する板ガラスGSに対して、さらに第2の突出部13Bを成形することもできる。
【符号の説明】
【0062】
11…ガラス物品
12…枠部
13…突出部
13a…外周縁
14…支持台
14a…支持部
14b…空間部
15…マスク部材
15a…貫通孔
16…加熱源
17…押圧部材
E1…開口縁
E2…内周縁
FL…火炎
GS…板ガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13