(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240509BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240509BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240509BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240509BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240509BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240509BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/38 Z
(21)【出願番号】P 2020212334
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 秀明
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021674(JP,A)
【文献】特開2015-046234(JP,A)
【文献】国際公開第2020/174868(WO,A1)
【文献】特開2020-181640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052-0587
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、
前記正極層は、
スピネル型活物質および前記スピネル型活物質の表面を被覆するリチウム酸化物層を有する複合正極活物質と、
アニオンの主成分としてX元素(Xはハロゲンである)を含有するハライド固体電解質と、
を含有し、
前記負極層は、Si系負極活物質を含有
し、
前記スピネル型活物質が、LiMe
2
O
4
(Meは、Mnのみ、または、MnおよびNiである)で表される組成を有し、
前記リチウム酸化物層に含まれるリチウム酸化物が、LiNbO
3
およびLi
2
WO
4
のうち少なくとも一種であり、
前記ハライド固体電解質は、Li
3
YBr
b
Cl
c
(bは0≦b≦6を満たし、cは0≦c≦6を満たし、bおよびcはb+c=6を満たす)で表される組成を有し、
前記スピネル型活物質の平均粒径(D
50
)に対する前記リチウム酸化物層の平均厚さの割合が、3.0%以上、5.0%以下である、全固体電池。
【請求項2】
前記負極層および前記固体電解質層が、それぞれ、硫化物固体電解質を含有する、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記スピネル型活物質が、LiMn
2
O
4
であり、前記ハライド固体電解質が、Li
3
YBr
2
Cl
4
である、請求項1または請求項2に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極および負極の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極活物質としてスピネル型活物質をニオブ酸リチウムで被覆した活物質を用い、負極活物質としてSi系負極活物質を用いた、硫化物全固体電池が開示されている。特許文献2には、Li6-3zYzX6(0<z<2を満たし、xはBrまたはCl)で表される固体電解質が開示されている。特許文献3には、電池の固体電解質層において、Li3YI6とLi2S-P2S5とを併用することが開示されている。また、特許文献4には、正極層と固体電解質層がLi3YBr2Cl2I2を含有し、負極層がLi2S-P2S5を含有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-207793号公報
【文献】国際公開第2018/025582号
【文献】国際公開第2019/135323号
【文献】国際公開第2019/146216号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Si系負極活物質は、容量特性が良好である。一方、Si系負極活物質は、例えば正極活物質から発生した酸素ガスと反応した場合、発熱量が増加する恐れがある。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、発熱量を低減可能な全固体電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極層は、スピネル型活物質および上記スピネル型活物質の表面を被覆するリチウム酸化物層を有する複合正極活物質と、アニオンの主成分としてX元素(Xはハロゲンである)を含有するハライド固体電解質と、を含有し、上記負極層は、Si系負極活物質を含有する、全固体電池を提供する。
【0007】
本開示によれば、正極層が、スピネル型活物質の表面がリチウム酸化物層で被覆された複合正極活物質と、ハライド固体電解質とを含有することから、Si系負極活物質を用いた場合であっても発熱量の増加が低減可能な全固体電池となる。
【0008】
上記開示において、上記ハライド固体電解質は、Li元素と、M元素(MはLi以外の金属である)と、上記X元素とを含有していてもよい。
【0009】
上記開示において、上記ハライド固体電解質は、上記Mとして、Yを含有していてもよい。
【0010】
上記開示において、上記ハライド固体電解質は、上記Xとして、BrおよびClの少なくとも一方を含有していてもよい。
【0011】
上記開示においては、上記リチウム酸化物が、LiNbO3およびLi2WO4のうち少なくとも一種であってもよい。
【0012】
上記開示においては、上記スピネル型活物質の平均粒径(D50)に対する上記リチウム酸化物層の平均厚さの割合が、0.05%以上、5%以下であってもよい。
【0013】
上記開示においては、上記負極層および上記固体電解質層が、それぞれ、硫化物固体電解質を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示においては、全固体電池における発熱量の増加を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図2】本開示における複合正極活物質を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示における全固体電池について、詳細に説明する。
図1は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。また、
図2は、本開示における複合正極活物質を例示する概略断面図である。
図1に示す全固体電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5とを有している。正極層1は、複合正極活物質およびハライド固体電解質を含有する。
図2に示すように、複合正極活物質8は、スピネル型活物質6と、その表面を被覆するリチウム酸化物層7と、を有している。また、ハライド固体電解質は、アニオンの主成分としてX元素(Xはハロゲンである)を含有する固体電解質である。一方、負極層2は、Si系負極活物質を含有する。
【0017】
本開示によれば、正極層が、スピネル型活物質の表面がリチウム酸化物層で被覆された複合正極活物質と、ハライド固体電解質とを含有することから、Si系負極活物質を用いた場合であっても発熱量の増加が低減可能な全固体電池となる。
【0018】
上述したように、Si系負極活物質は、容量特性が良好である。一方、正極活物質から発生した酸素ガスと反応した場合、発熱量が増加する恐れがある。特に、リチウムを吸蔵したSi系負極活物質は酸素との反応性が高くなり、OとSiとの反応による反応熱が発生すると考えられる。一方、後述する実施例で示されるように、本発明者は、正極層が所定の複合活物質およびハライド固体電解質を含有すると、正極での発熱量が顕著に抑制されることを見出した。正極活物質からの酸素発生量が抑制されたためであると考えられる。また、リチウム酸化物層により正極活物質と固体電解質との反応が抑制されたためであると考えられる。酸素発生量が抑制される理由は明らかではないが、スピネル型活物質の結晶構造が安定であり、活物質からの酸素が発生しにくいためであると考えられる。また、ハライド固体電解質は酸素との反応性が低く、正極活物質から酸素が引き抜かれにくいためであると考えられる。
【0019】
1.正極層
本開示における正極層は、少なくとも複合正極活物質およびハライド固体電解質を含有する。
【0020】
本開示における複合正極活物質は、スピネル型活物質および上記スピネル型活物質の表面を被覆するリチウム酸化物層を有している。
【0021】
スピネル型活物質は、スピネル型の結晶構造を有する活物質である。スピネル型の結晶構造を有するか否かは、従来公知のX線回折測定(XRD)によって判別することができる。スピネル型活物質は、例えば、Li元素、Me元素(Meは1種または2種以上の遷移金属である)およびO元素を含有することが好ましい。Meとしては、例えば、Mn、Ni、Tiが挙げられる。スピネル型活物質は、Meとして、少なくともMnを含有することが好ましい。また、スピネル型活物質は、Meとして、Mnのみを含有していてもよく、Mnと、Mn以外の遷移金属とを含有していてもよい。後者の場合、特に、スピネル型活物質は、Meとして、MnおよびNiを含有することが好ましい。
【0022】
スピネル型活物質は、例えば、LiMe2O4(Meは1種または2種以上の遷移金属である)の組成を有することが好ましい。Meについては、上述した内容と同様である。このようなスピネル型活物質の具体例としては、LiMn2O4、Li(Ni0.5Mn1.5)O4が挙げられる。また、スピネル型活物質は、Li、TiおよびOを含有するチタン酸リチウムであってもよい。チタン酸リチウムの組成としては、例えば、Li4Ti5O12が挙げられる。また、複合正極活物質におけるスピネル型活物質として、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0023】
スピネル型活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。スピネル型活物質の平均粒径(D50)は、例えば0.1μm以上であり、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。一方、スピネル型活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。スピネル型活物質の平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0024】
リチウム酸化物層は、上記スピネル型活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、リチウム酸化物を含有する層である。リチウム酸化物層は反応抑制層として機能することができ、スピネル型活物質と固体電解質との反応に起因する反応熱の発生を抑制することができる。リチウム酸化物層は、通常、Liイオン伝導性を有する層である。
【0025】
リチウム酸化物は、例えば、Li元素、Me´元素(Me´は1種または2種以上の遷移金属である)およびO元素を含有することが好ましい。Me´としては、例えば、Nb、Wが挙げられる。このようなリチウム酸化物の具体例としては、LiNbO3、Li2WO4が挙げられる。また、リチウム酸化物は、Li元素およびPO4構造を有していてもよい。このようなリチウム酸化物の具体例としては、Li3PO4が挙げられる。また、リチウム酸化物は、Li3PO4の窒化であるLiPONであってもよい。また、リチウム酸化物層に含まれるリチウム酸化物は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0026】
リチウム酸化物層の平均厚さは、例えば10nm以上であり、30nm以上であってもよく、50nm以上であってもよい。一方、リチウム酸化物層の平均厚さは、例えば100nm以下であり、80nm以下であってもよく、60nm以下であってもよい。リチウム酸化物層の平均厚さが薄すぎると、スピネル型活物質と固体電解質との反応を十分に抑制できない場合がある。一方、リチウム酸化物層の平均厚さが厚すぎると、スピネル型活物質を十分に被覆できない場合がある。リチウム酸化物層の平均厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて測定することができる。具体的には、複合正極活物質の断面SEM画像を取得し、任意の箇所の厚みを測定して平均値を算出することで、求めることができる。
【0027】
リチウム酸化物層による被覆率は、例えば70%以上であり、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。一方、被覆率は、100%であってもよく、100%未満であってもよい。被覆率は、X線光電子分光法(XPS)測定により求めることができる。
【0028】
ここで、本開示における複合活物質においては、上記スピネル型活物質の平均粒子径(D50)に対する上記リチウム酸化物層の平均厚さの割合が所定の範囲であることが好ましい。上記割合は、例えば0.05%以上であり、0.07%以上であってもよく、0.1%以上であってもよい。一方、上記割合は、例えば5%以下であり、3%以下であってもよく、1%以下であってもよく、0.5%以下であってもよい。上記範囲内であれば、スピネル型活物質と固体電解質とが反応することを十分に抑制することができるため、全固体電池の抵抗増加を抑制することができる。
【0029】
複合正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。複合正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば0.1μm以上であり、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。一方、複合正極活物質の平均粒径は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。複合正極活物質の平均粒径は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0030】
本開示における正極層は、ハライド固体電解質を含有する。ハライド固体電解質は、アニオンの主成分としてX元素(Xはハロゲンである)を含有する。「アニオンの主成分としてX元素を含有する」とは、ハライド固体電解質を構成する全てのアニオンにおいて、X元素の割合(モル比)が最も多いことをいう。ハライド固体電解質を構成する全てのアニオンに対する、X元素の割合は、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよく、100mol%であってもよい。X元素は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。後者の場合、2種以上のX元素の合計を、上記「X元素の割合」とする。また、ハライド固体電解質は、硫黄元素(S元素)を含有しない固体電解質であってもよい。
【0031】
ハライド固体電解質は、Li元素と、M元素(MはLi以外の金属である)と、X元素(Xはハロゲンである)とを含有することが好ましい。Xとしては、例えば、F、Cl、BrおよびIを挙げることができる。特に、ハライド固体電解質は、上記Xとして、BrおよびClの少なくとも一方を含有することが好ましい。また、Mとしては、例えば、Sc、Y、B、Al、Ga、In等の金属元素を挙げることができる。特に、本開示におけるハライド固体電解質は、上記Mとして、少なくともYを含有することが好ましい。
【0032】
また、本開示におけるハライド固体電解質の組成は特に限定されないが、Li6-3aMaBrbClc(式中、Mは、Li以外の金属であり、aは、0<a<2を満たし、bおよびcは、0≦b≦6を満たし、0≦c≦6を満たし、b+c=6を満たす。)で表されることが好ましい。aは、0.75以上であってもよく、1以上であってもよい。一方、aは、1.5以下であってもよい。bは、1以上であってもよく、2以上であってもよい。また、cは、3以上であってもよく、4以上であってもよい。具体的なハライド固体電解質としては、Li3YBr6、Li3YCl6およびLi3YBr2Cl4が挙げられる。正極層は、1種類のハライド固体電解質のみを含有していてもよく、2種類以上のハライド固体電解質を含有していてもよい。
【0033】
ハライド固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。ハライド固体電解質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば0.05μm以上であり、0.1μm以上であってもよい。一方、ハライド固体電解質の平均粒径は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。ハライド固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0034】
正極層は、固体電解質としてハライド固体電解質のみを含有していてもよく、ハライド固体電解質以外の固体電解質を含有していてもよいが、前者が好ましい。後者の場合、正極層が含有する固体電解質の全量に対するハライド固体電解質の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。一方、上記割合は、例えば99体積%以下である。ハライド固体電解質以外の固体電解質としては、後述する「2.負極層」に記載した固体電解質を挙げることができる。
【0035】
また、正極層は、必要に応じて導電材およびバインダーの少なくとも一方を更に含有していてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ブチレンゴム(BR)等のゴム系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ化物系バインダーが挙げられる。
【0036】
正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0037】
2.負極層
本開示における負極層は、少なくともSi系負極活物質を含有する。また、負極層は、硫化物固体電解質を含有することが好ましい。さらに、負極層は、必要に応じて導電材およびバインダーの少なくとも一方を更に含有していてもよい。導電材およびバインダーについては、「1.正極層」に記載した内容と同様であるのでここでの記載は省略する。
【0038】
Si系負極活物質は、Si元素を含有する活物質である。Si系負極活物質は、例えば、Si単体およびSi合金を挙げることができる。Si合金は、Si元素を主成分として含有することが好ましい。Si系負極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。Si系負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、Si系負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0039】
負極層におけるSi系負極活物質の割合は、例えば20体積%以上であり、40体積%以上であってもよく、60体積%以上であってもよい。Si系負極活物質の割合が少なすぎると、体積エネルギー密度の向上が図れない可能性がある。一方、負極層におけるSi系負極活物質の割合は、例えば80体積%以下である。Si系負極活物質の割合が多すぎると、良好な電子伝導パスおよびイオン伝導パスが形成されない可能性がある。
【0040】
負極層は、硫化物固体電解質を含有することが好ましい。負極層は固体電解質として硫化物固体電解質のみを含有していてもよく、硫化物固体電解質以外の固体電解質を含有していてもよいが、前者が好ましい。後者の場合、負極層が含有する固体電解質の全量に対する硫化物固体電解質の割合は、例えば50体積%以上であり、70体積%以上であってもよく、90体積%以上であってもよい。一方、上記割合は、例えば99体積%以下である。なお、負極層は負極固体電解質として上述したハライド固体電解質を含有しないことが好ましい。一般的に、ハライド固体電解質の耐還元性は低いため、充電時にハライド固体電解質が還元分解して電池抵抗が増大する恐れがあるからである。
【0041】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-P2S5-GeS2が挙げられる。
【0042】
硫化物固体電解質以外の固体電解質としては、例えば、水素化物固体電解質、酸化物固体電解質および窒化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。
【0043】
また、固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。固体電解質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば0.05μm以上であり、0.1μm以上であってもよい。一方、固体電解質の平均粒径は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0044】
負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0045】
3.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、上記正極層および上記負極層の間に形成される層であり、固体電解質を含有する。また、固体電解質層は、固体電解質として硫化物固体電解質を含有することが好ましい。また、固体電解質層は、硫化物固体電解質以外の固体電解質を含有していてもよく、含有していなくてもよい。なお、固体電解質層は、ハライド固体電解質を含有しないことが好ましい。充電時に負極層との界面においてハライド固体電解質が還元分解して、電池抵抗が増大する恐れがあるからである。硫化物固体電解質および硫化物固体電解質以外の固体電解質の種類および割合等については、「2.負極層」に記載した内容と同様であるのでここでの記載は省略する。
【0046】
また、固体電解質層は、必要に応じてバインダーを含有していてもよい。バインダーについては、「1.正極層」に記載した内容と同様であるのでここでの記載は省略する。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0047】
4.全固体電池
本開示における全固体電池は、通常、正極層の集電を行う正極集電体、負極層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体としては、例えばAl箔が挙げられる。負極集電体としては、例えばNi箔が挙げられる。また、本開示における全固体電池は、正極層、負極層および固体電解質層の積層方向に対して拘束圧を付与する拘束治具を有していてもよい。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0048】
本開示における全固体電池の種類は特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン電池である。また、本開示における全固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。
【0049】
本開示における全固体電池は、単電池であってもよく、積層電池であってもよい。積層電池は、モノポーラ型積層電池(並列接続型の積層電池)であってもよく、バイポーラ型積層電池(直列接続型の積層電池)であってもよい。全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、角型が挙げられる。
【0050】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
(複合正極活物質の作製)
正極活物質(スピネル型マンガン酸リチウム:LiMnO2)の表面上に転動流動コーティング装置(パウレック製MP-01)を用いてLiNbO3前駆体ゾルゲル溶液を塗工して、乾燥させた。その後、200℃で5時間焼成した。これにより、リチウム酸化物層としてLiNbO3層を有する複合正極活物質を得た。正極活物質の平均粒径は湿式粒子径分布測定装置(島津製作所製SALD-7500)を用いて測定した。また、リチウム酸化物層の厚みは以下のようにして算出した。まず、得られた複合正極活物質を樹脂で埋め、イオンミリング装置(日立ハイテク製IM4000PLUS)にて断面加工し、SEM観察を行った。そして、任意の5点でリチウム酸化物層の厚みを測定し平均値を算出した。
【0052】
(正極の作製)
フィルミックス装置(プライミクス製30-L型)の混練容器に、分散媒(酪酸ブチル)と、バインダー(ポリフッ化ビニリデン系バインダーの5重量%酪酸ブチル溶液)と、導電材(気相成長炭素繊維(VGCF))と、ハライド固体電解質(Li3YBr2Cl4)とを添加し、20000rpmで30分間撹拌した。混練容器に、上記複合正極活物質を、複合正極活物質とハライド固体電解質との体積比率が7:3となるように投入し、フィルミックス装置で15000rpm、60分間撹拌した。その後、アプリケーターを用いて、ブレード法により、正極集電体(Al箔)上に塗工した。塗工した電極を自然乾燥し、そして、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、正極集電体および正極層を有する正極を得た。
【0053】
(負極の作製)
ポリプロピレン(PP)製容器に、分散媒(酪酸ブチル)と、バインダー(ポリフッ化ビリニデン系バインダーの5重量%酪酸ブチル溶液)と、負極活物質(シリコン粒子、平均粒径D50=2.5μm)と、導電材(気相成長炭素繊維(VGCF))と、硫化物固体電解質(LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス、平均粒径D50=0.8μm)とを添加した。次に、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)でPP製容器を30秒間撹拌した。次に、PP製容器を振とう器(柴田科学社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。その後、アプリケーターを用いて、ブレード法により、負極集電体(Ni箔)上に塗工した。塗工した電極を自然乾燥し、そして、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、負極集電体および負極層を有する負極を得た。
【0054】
(固体電解質層の作製)
PP製容器に、分散媒(ヘプタン)と、バインダー(ブチレンゴム系バインダーの5重量%ヘプタン溶液)と、硫化物固体電解質(LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス、平均粒径D50=2.5μm)とを添加した。次に、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)でPP製容器を30秒間撹拌した。次に、PP製容器を振とう器(柴田科学社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。その後、アプリケーターを用いて、ブレード法により、基板(Al箔)上に塗工した。塗工した固体電解質層を自然乾燥し、そして、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、固体電解質層を得た。
【0055】
(評価用電池の作製)
1cm2の金型に固体電解質層を入れて1ton/cm2でプレスした。次に、固体電解質層の片側に正極を配置し、1ton/cm2でプレスした。次に、固体電解質層のもう片側に負極を配置し、6ton/cm2でプレスした。プレス後に得られた積層体に正極および負極の端子を接続し、ラミネートフィルムで挟んで溶着することにより、評価用電池を作製した。次に、電池に5MPaの圧力がかかるように金属板で拘束した。
【0056】
[実施例2~4]
スピネル型活物質の平均粒径に対するリチウム酸化物層の厚さの比率を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして複合正極活物質を作製した。得られた複合正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0057】
[実施例5、6]
リチウム酸化物としてLi2WO4を用い、スピネル型活物質の平均粒径に対するリチウム酸化物層の厚さの比率を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0058】
[比較例1]
正極活物質としてニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNi0.82Co0.15Al0.03O2)を用い、正極層に用いる固体電解質を硫化物固体電解質(LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス、平均粒径D50=0.8μm)に変更し、正極活物質の平均粒径に対するリチウム酸化物層の厚さの比率を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして複合正極活物質を作製した。得られた複合正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0059】
[比較例2]
正極活物質としてニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNi0.82Co0.15Al0.03O2)を用い、正極活物質の平均粒径に対するリチウム酸化物層の厚さの比率を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして複合正極活物質を作製した。得られた複合正極活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0060】
[比較例3]
正極層に用いる固体電解質を、硫化物固体電解質(LiIを含むLi2S-P2S5系ガラスセラミックス、平均粒径D50=0.8μm)に変更し、正極活物質の平均粒径に対するリチウム酸化物層の厚さの比率を表1に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして複合正極活物質および評価用電池を作製した。
【0061】
[評価]
(酸素発生量)
作製した各評価用電池の酸素発生量を、以下のように積算発熱量を算出することで評価した。まず、不活性ガスを満たしたグローブボックス内で、充電状態の評価用電池を解体して正極層のみを取出して、所定のサイズに加工した。その後、He雰囲気、10℃/minで示差走査熱量測定(DSC)を行った。500℃以下の発熱量を積分した結果を、正極層の正極活物質重量で除して積算発熱量とした。結果を表1に示す。
【0062】
(抵抗増加率)
作製した各評価用電池を、1/3Cレートにて定電流―定電圧充電および放電を行い、容量の確認を行った。その後、1/3CレートにてSOC50%に調整した。そして、印加電圧10mV、測定周波数域0.1~106Hzで交流インピーダンス測定を行った。得られたCole-Coleプロットに対して円弧をフィッティングし、フィッティングした円弧と実軸との交点の2点間の距離を反応抵抗(保存試験前の反応抵抗)とした。反応抵抗測定後、SOC100%に調整して、60℃に保持した恒温槽の中で30日間保存した。その後、再度SOC50%に調整して同様に反応抵抗(保存試験後の反応抵抗)を測定し、保存試験前後の抵抗変化を抵抗増加率とした。結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
表1に示すように、実施例1~6においては、正極の発熱量(酸素発生量)がいずれも少なかった。一方、比較例1~3の結果から、正極層が複合正極活物質(スピネル型活物質の表面がリチウム酸化物層で被覆された複合正極活物質)およびハライド固体電解質のいずれか一方のみを含有した場合、正極の発熱量は少なくなるものの、実施例1~6に比べて多かった。そのため、本発明のように、所定の複合活物質とハライド固体電解質とを組み合わせることで発熱量を顕著に少なくできることが確認された。また、実施例3~6から、スピネル型活物質の平均粒子(D50)に対するリチウム酸化物層の平均厚さの割合が所定の範囲であれば、発熱量をより低減でき、かつ、抵抗増加率も抑制できることが確認された。
【0065】
ここで、実施例1~6において正極の発熱量が少ない理由としては、リチウム酸化物層により正極活物質と固体電解質との反応が抑制されたこと、スピネル型活物質の結晶構造が安定であったこと、および、ハライド固体電解質が酸素との反応性が低かったこと、が考えられる。なお、比較例1、2で用いたニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(岩塩層状型活物質)は、酸素を放出しやすい活物質であると考えられる。また、比較例3では、LiNbO3で被覆されていない箇所において、正極活物質中のMnと硫化物固体電解質中のSとが反応してしまい、発熱量が多くなったと考えられる。
【符号の説明】
【0066】
1 …正極層
2 …負極層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
6 …スピネル型活物質
7 …リチウム酸化物層
8 …複合正極活物質
10 …全固体電池