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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/73 20150101AFI20240509BHJP
   E05F 15/77 20150101ALI20240509BHJP
   B60J 5/10 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
E05F15/73
E05F15/77
B60J5/10 K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020218198
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103510
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】堀田 敬祐
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0208460(US,A1)
【文献】特開2018-44329(JP,A)
【文献】特開2016-23507(JP,A)
【文献】特開2017-141640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00 - 15/79
E05B 1/00 - 85/28
B60J 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物の接近および同検出対象物の動作を検出する検出部と、
前記検出部により検出された前記検出対象物の動作が、ユーザーの身体の一部の動きである予め定められた所定のジェスチャーであるか否かを判定するジェスチャー判定部と、
前記ジェスチャー判定部によって前記所定のジェスチャーであると肯定判定されたときに車両操作を自動実行する第1車両操作部と、
ユーザーによる操作によって前記車両操作を実行する第2車両操作部と、
前記検出部により検出された前記検出対象物の動作が前記ジェスチャー判定部によって前記所定のジェスチャーではないと否定判定された場合であり、且つ、該否定判定されてから所定期間が経過するまでの間に前記第2車両操作部による車両操作が実行された場合には、前記ジェスチャー判定部による判定の条件を、前記肯定判定され易くなる態様で変更する判定条件変更部と、を有し、
前記ジェスチャー判定部は、複数の判定条件からなる論理積条件が成立したときに前記肯定判定をなすものであり、
前記判定条件変更部は、前記複数の判定条件のうちの一つである特定判定条件が非成立であることによって前記否定判定される場合であり、且つ、該否定判定されてから前記所定期間が経過するまでの間に前記第2車両操作部による車両操作が実行された場合である状況に複数回なったときに、前記特定判定条件を前記肯定判定され易くなる態様で変更するものである、車両。
【請求項2】
前記ジェスチャー判定部は、前記複数の判定条件のそれぞれについて、前記検出部によって検出された検出値と予め定められた判定閾値との比較を通じて、同判定条件が成立するか否かを判定するものであり、
前記判定条件変更部は、前記非成立であると判定されたときの前記検出値を新たな前記判定閾値とする態様で、前記特定判定条件の変更を行うものである、
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記検出部は、検出範囲の少なくとも一部が車両下面に沿って延びる態様で設けられており、
前記所定のジェスチャーは、ユーザーの足を車両下方に差し入れる動きを含むジェスチャーである、
請求項1または2に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザーのジェスチャーをもとに車両操作を行う機能を有する車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両において、ユーザーの身体の一部の動き、いわゆるジェスチャーをもとに車両ドアを開閉する機能が実用されている(例えば特許文献1)。こうした車両には、ユーザーのジェスチャーを検出する検出部が設けられている。そして、車両ドアを開閉する際には、ユーザーは車両ドアの近傍で、車両下部に足を差し入れるなどといったように予め定められた所定のジェスチャーを行う。上記車両では、上記検出部によって所定のジェスチャーが検出され、その検出をもとに車両ドアの開閉操作が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-7171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記装置において、車両ドアの開閉のためにユーザーが行うジェスチャーとしては、所定のジェスチャーが予め定められている。とはいえ、ユーザーによって実際に行われるジェスチャー(例えば、足を差し入れる速度や、差し入れる足の高さ)は、ユーザー毎に若干異なる。そのため、ユーザーによっては所定のジェスチャーを行ったことが検出され難いと感じるおそれがある。上記装置は、そうしたユーザーにとっては使い勝手の悪い装置になってしまう。
【0005】
所定のジェスチャーがなされたことを検出するための条件を成立し易い緩い条件にすることにより、所定のジェスチャーを行ったことが検出され難いと感じるユーザーは少なくなる。しかしながら、この場合には、ユーザーによって所定のジェスチャーがなされていないのにも関わらず、同ジェスチャーがなされたと誤検出されるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両は、検出対象物の接近および同検出対象物の動作を検出する検出部と、前記検出部により検出された前記検出対象物の動作が、ユーザーの身体の一部の動きである予め定められた所定のジェスチャーであるか否かを判定するジェスチャー判定部と、前記ジェスチャー判定部によって前記所定のジェスチャーであると肯定判定されたときに車両操作を自動実行する第1車両操作部と、ユーザーによる操作によって前記車両操作を実行する第2車両操作部と、前記検出部により検出された前記検出対象物の動作が前記ジェスチャー判定部によって前記所定のジェスチャーではないと否定判定された場合であり、且つ、該否定判定されてから所定期間が経過するまでの間に前記第2車両操作部による車両操作が実行された場合には、前記ジェスチャー判定部による判定の条件を、前記肯定判定され易くなる態様で変更する判定条件変更部と、を有する。
【0007】
ジェスチャー判定部によって否定判定された直後において、所定のジェスチャー以外の操作で車両操作が実行された場合には、次のように判断することができる。すなわち、ユーザーが車両操作を行うべく所定のジェスチャーを行ったのにもかかわらず、ジェスチャー判定部によって否定判定された可能性が高いと判断することができる。上記構成によれば、そうした場合に、ジェスチャー判定部による判定の条件を肯定判定され易くなるように変更することができる。これにより、ユーザーによる実際のジェスチャーに合わせて、ジェスチャー判定部による判定条件を変更することができる。そのため、ユーザーのジェスチャーによる車両操作を適正に実行することができるようになる。
【0008】
上記車両において、前記ジェスチャー判定部は、複数の判定条件からなる論理積条件が成立したときに前記肯定判定をなすものであり、前記判定条件変更部は、前記複数の判定条件のうちの一部のみが非成立であることによって前記否定判定された場合であり、且つ、前記所定期間が経過するまでの間に前記第2車両操作部による車両操作が実行された場合に、前記複数の判定条件のうちの前記非成立である判定条件を、成立し易くなる態様で変更するものであることが好ましい。
【0009】
複数の判定条件のうちの一部のみが非成立である場合、すなわち複数の判定条件のうちの残りが成立している場合には、全ての判定条件が非成立である場合と比較して、検出部によって検出された検出対象物の動作が所定のジェスチャーである可能性が高いといえる。上記構成によれば、そうした場合において、非成立であった判定条件を、誤って非成立になった可能性があるとして、成立し易くなる態様で変更することができる。したがって、判定条件が誤って変更されることを抑えて、同判定条件を適正に変更することができる。
【0010】
上記車両において、前記ジェスチャー判定部は、前記複数の判定条件のそれぞれについて、前記検出部によって検出された検出値と予め定められた判定閾値との比較を通じて、同判定条件が成立するか否かを判定するものであり、前記判定条件変更部は、前記非成立であると判定されたときの前記検出値を新たな前記判定閾値とする態様で、前記非成立である前記判定条件の変更を行うものであることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、判定条件における判定閾値を、適正な値に速やかに変更することができる。
上記車両において、前記判定条件変更部は、前記複数の判定条件のうちの一つである特定判定条件が非成立であることによって前記否定判定される場合であり、且つ、該否定判定されてから前記所定期間が経過するまでの間に前記第2車両操作部による車両操作が実行された場合である状況に複数回なったときに、前記特定判定条件を変更するものであることが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、複数回にわたり同様の状況になったことをもって、ユーザーが車両操作を行うべく所定のジェスチャーを行ったのにもかかわらずジェスチャー判定部によって誤って否定判定されたことを、高い精度で判断することができる。そして、この判断をもとに、ジェスチャー判定部による判定条件を適正に変更することができる。
【0013】
上記車両において、前記検出部は、検出範囲の少なくとも一部が車両下面に沿って延びる態様で設けられており、前記所定のジェスチャーは、ユーザーの足を車両下方に差し入れる動きを含むジェスチャーである。
【0014】
上記構成では、所定のジェスチャーを検出させるべくユーザーが検出部に足を近づける際に、車両とユーザーとの距離やユーザーの体格などの影響により、ユーザーの足上げ動作にばらつきが生じる。そして、この場合には、車両下部の検出部とユーザーの足との位置関係が異なったものになる。上記構成によれば、こうした実情に合わせて、ジェスチャー判定部による判定条件を変更することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ユーザーのジェスチャーによる車両操作を適正に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態の車両の概略構成を示すブロック図。
図2】キックセンサの概略構成を示す略図。
図3】キックセンサの配設態様を示す略図。
図4】(a)および(b)検出部の検出信号の信号波形を示すタイムチャート。
図5】(a)および(b)各検出部の検出信号の信号波形を示すタイムチャート。
図6】判定処理の実行手順を示すフローチャート。
図7】変更処理の実行手順を示すフローチャート。
図8】(a)~(f)変更処理の実行態様を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、車両の一実施形態について説明する。
図1に示すように、車両10には、マイクロコンピュータを中心に構成されるスマートECU11が設けられている。車両10の鍵としては電子キー12が採用されている。スマートECU11および電子キー12は無線通信装置を内蔵している。本実施形態では、スマートECU11や電子キー12によって、電子キーシステムが構成されている。
【0018】
電子キーシステムでは、スマートECU11からIDコード返信要求としてのリクエスト信号が送信されている。そして、ユーザーが電子キー12を所持した状態で車両10に近づくと、上記リクエスト信号に応答して電子キー12からスマートECU11にIDコードが返信される。スマートECU11は、こうして返信されたIDコードをもとにID照合を行う。そして、スマートECU11によるID照合が成立すると、電子キー12と一体の操作スイッチの操作によるドアロックの施錠および解錠が可能な状態になるとともに、車室内に設けられた運転スイッチの操作による車両始動が可能な状態になる。
【0019】
車両10には、バックドア13の施錠および解錠、開閉をパワードアECU53に指令する制御ECU20が設けられている。車両10には、バックドア13を施錠および解錠、且つ自動で開閉させたりするためのパワーバックドア装置50が設けられている。パワーバックドア装置50は、バックドア13に連結されて同バックドア13の施錠および解錠、且つ開状態および閉状態を切り替える開閉機構51を有している。またパワーバックドア装置50は、開閉機構51を作動させるためのアクチュエータ52や、マイクロコンピュータを中心に構成されてアクチュエータ52の作動制御を実行するパワードアECU53を有している。
【0020】
また車両10にはキックセンサ60が設けられている。このキックセンサ60により、ユーザーの身体の一部の動きである予め定められた所定のジェスチャー、具体的には、車両下方(詳しくは、後部バンパー18の下方)に足を差し入れた後に引き抜くといったように足を出し入れする動作がなされたことが検出される。キックセンサ60の出力信号はパワードアECU53に取り込まれている。なおキックセンサ60の構造および配設態様については後に詳述する。車両10には走行速度を検出するための車速センサ17が設けられている。車速センサ17の検出信号はパワードアECU53に取り込まれている。
【0021】
パワーバックドア装置50は、基本的には、次のように作動する。すなわち、走行速度が「0」の停止状態且つシフト位置がパーキングの状態で、車両10に電子キー12を所持したユーザーが近づいて所定のジェスチャーを行うと、ユーザーが所定のジェスチャーを行ったことがキックセンサ60によって検出および判定される。この判定をもとにキックセンサ60は作動指令信号をパワードアECU53に出力する。そして、パワードアECU53は、この作動指令信号をもとにアクチュエータ52の作動制御を実行する。これにより、開閉機構51が作動してバックドア13が開閉操作されるようになる。なお本実施形態では、バックドア13の開閉操作が車両操作に相当し、パワードアECU53およびキックセンサ60が第1車両操作部に相当する。
【0022】
また本実施形態では、電子キー12に、バックドアスイッチ54が設けられている。バックドアスイッチ54は、パワーバックドア装置50によってバックドア13を自動開閉させる際にユーザーによって操作される操作スイッチである。ユーザーによってバックドアスイッチ54が操作されると、パワードアECU53によるアクチュエータ52の作動制御が実行される。これにより、開閉機構51が作動してバックドア13が開閉操作されるようになる。本実施形態では、パワードアECU53およびバックドアスイッチ54が第2車両操作部に相当する。なお、バックドア13を自動開閉させる際に同バックドア13が施錠状態である場合には、パワーバックドア装置50を作動させることによって、バックドア13の解錠操作と開操作とが自動的に行われる。
【0023】
本実施形態の車両10においては、スマートECU11、制御ECU20、およびパワードアECU53が相互通信可能な態様で接続されている。
以下、キックセンサ60の構造および配設態様について説明する。
【0024】
図2に示すように、キックセンサ60は、検出対象物(例えばユーザーの足)の接近および同検出対象物の動作を検出するための2つの検出部61,62と、マイクロコンピュータを中心に構成される制御部63とを有している。第1検出部61および第2検出部62は、いずれも静電容量式のセンサによって構成されている。第1検出部61および第2検出部62の検出信号は、検出対象物が近づいて検出範囲に進入したときに静電容量の変化量が大きくなる。制御部63は、第1検出部61および第2検出部62の検出信号を取り込むとともに同検出信号をもとに各種の演算を行い、その演算結果をパワードアECU53に出力する。
【0025】
図1に示すように、キックセンサ60は、車両10の後部バンパー18の後方端における下部に取り付けられている。図3に示すように、キックセンサ60の第1検出部61および第2検出部62は、車両10の外面に沿うように車両内外方向(本実施形態では、車両前後方向)において並ぶ態様で配置されている。第1検出部61は、図3中に「D1」で示す検出範囲が、斜め車両下方および斜め車両外方に指向する態様で配置されている。第2検出部62は、図3中に「D2」で示す検出範囲が車両下方に指向する態様で、第1検出部61よりも車両下方側の位置、且つ車両内方側(本実施形態では、車両前方側)の位置に配置されている。このように本実施形態では、検出範囲D1,D2が車両下面に沿って延びる態様で、第1検出部61および第2検出部62が設けられている。
【0026】
本実施形態では、ユーザーによる所定のジェスチャーとして、車両10の後部バンパー18の下方に対して足を差し入れた後に引き抜くといったように足を出し入れする動作が定められている。本実施形態では、所定のジェスチャーがなされたことを判定するための判定条件として、発明者による各種の実験やシミュレーションの結果をもとに、高精度での判定が可能になる以下の[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]が定められている。
【0027】
[判定条件A]図4に一例を示すように、第1検出部61の検出信号S1が所定値BSEを上回ったときからピーク値になるまでの時間を「前半時間T11」とする。また、第1検出部61の検出信号S1がピーク値になってから所定値BSEを下回るまでの時間を「後半時間T12」とする。この場合に、以下の関係式(1)を満たす。
【0028】

(T11-T12)の絶対値<判定閾値JA…(1)

[判定条件B]第2検出部62の検出信号S2が所定値BSEを上回ったときからピーク値になるまでの時間を「前半時間T21」とする。また、第2検出部62の検出信号S2がピーク値になってから所定値BSEを下回るまでの時間を「後半時間T22」とする。この場合に、以下の関係式(2)を満たす。
【0029】

(T21-T22)の絶対値<判定閾値JB…(2)

[判定条件C]図5に一例を示すように、第1検出部61の検出信号S1がピーク値になってから、第2検出部62の検出信号S2がピーク値になるまでの時間を「ピーク値ずれ時間ΔTP」とした場合に、以下の関係式(3)を満たす。
【0030】

ピーク値ずれ時間ΔTP≦判定閾値JC…(3)

本実施形態では、上記[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]からなる論理積条件が成立したときに、所定のジェスチャーがなされたとの肯定判定がなされる。
【0031】
図6に、所定のジェスチャーであるか否かを判定する判定処理の実行態様を示す。同図6のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の処理として、キックセンサ60の制御部63によって実行される。本実施形態では、制御部63がジェスチャー判定部に相当する。
【0032】
図6に示すように、[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]の全てが成立したと判断された場合には(ステップS11~S13の全てが「YES」)、ユーザーによって所定のジェスチャーがなされたとの肯定判定がなされる。そして、この場合にはバックドア13の自動開閉操作が実行される(ステップS14)。具体的には、作動指令信号がキックセンサ60の制御部63からパワードアECU53に出力される。一方、[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]のいずれかが非成立になったと判断されると(ステップS11~S13のいずれかが「NO」)、ユーザーによって所定のジェスチャーはなされていないと否定判定される。そして、この場合には、バックドア13の開閉操作が実行されない(ステップS14の処理がジャンプされる)。
【0033】
以下、[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]を設定することによる作用について説明する。
本実施形態では、所定のジェスチャーとして、車両10の後部バンパー18の下方に足を出し入れする動作が定められている。この所定のジェスチャーでは、通常、後部バンパー18の下方に足を差し入れる速度と同後部バンパー18の下方から足を抜き出す速度との差が小さい。そのため、ユーザーによって所定のジェスチャーがなされたときには、図4(a)に示すように、第1検出部61の検出信号S1の波形や第2検出部62の検出信号S2の波形におけるピーク位置を境界とする前半期間と後半期間との対称性が高くなる。このことから、図4(a)から明らかなように、ユーザーによって所定のジェスチャーがなされたときには、第1検出部61の検出信号S1における前半時間T11と後半時間T12との差が小さくなる。したがって、このときには前記関係式(1)が満たされて[判定条件A]が成立するようになる。また、このとき第2検出部62の検出信号S2における前半時間T21と後半時間T22との差が小さくなるため、前記関係式(2)が満たされて[判定条件B]が成立するようになる。
【0034】
一方、図4(b)に示すように、雨滴が後部バンパー18を伝い落ちる場合など、何らかの要因で第1検出部61の検出信号S1の波形や第2検出部62の検出信号S2の波形についての前記対称性が低くなる場合には、関係式(1)や関係式(2)が満たされない。これにより、[判定条件A]や[判定条件B]が非成立になるため、所定のジェスチャーはなされていないと否定判定されるようになる。
【0035】
また、所定のジェスチャーは、後部バンパー18の下方に足を差し入れる動作と同後部バンパー18の下方から足を抜き出す動作とが略連続する動作として行われる。このことから、所定のジェスチャーがなされたときには、図5(a)に示すように、第1検出部61の検出信号S1がピーク位置になるタイミングと第2検出部62の検出信号S2がピーク位置になるタイミングとの間隔が長くなることはないと云える。そのため、ユーザーによって所定のジェスチャーがなされたときには、第1検出部61の検出信号S1がピーク値になってから第2検出部62の検出信号S2がピーク値になるまでの時間(前記ピーク値ずれ時間ΔTP)が短くなる。その結果、前記関係式(3)が満たされて[判定条件C]が成立するようになる。
【0036】
一方、図5(b)に示すように、雨滴が後部バンパー18をゆっくり伝い落ちる場合など、何らかの要因で前記ピーク値ずれ時間ΔTPが長くなる場合には、関係式(3)は満たされない。これにより、[判定条件C]が非成立になるため、所定のジェスチャーはなされていないと否定判定されるようになる。
【0037】
このように本実施形態によれば、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を定めることにより、ユーザーによって所定のジェスチャーがなされたことを精度良く判定することができる。
【0038】
本実施形態では、所定のジェスチャーによるバックドア13の開閉操作を適正に実行するために、ユーザーによる実際のジェスチャーに合わせて[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を変更するようにしている。
【0039】
以下、判定条件を変更するための構成について説明する。
バックドア13を開閉させるべくユーザーが所定のジェスチャーを行った場合であっても、判定処理(図6)において3つの判定条件のいずれかが非成立になることによって否定判定されて、バックドア13が動作しない状況になることがある。また、そうした否定判定の直後に、バックドア13を開閉するためにユーザーによってバックドアスイッチ54が操作されることがある。この場合には、ユーザーがバックドア13の開閉操作を行うべく所定のジェスチャーを行ったのにもかかわらず、判定処理において否定判定された可能性が高いと判断することができる。
【0040】
この点をふまえて、本実施形態では、そうした状況になった場合に、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を、所定のジェスチャーであると肯定判定され易くなる態様で変更するようにしている。具体的には、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]が成立し易くなるように、それらの判定閾値JA,JB,JCが大きい値、すなわち長い時間に相当する値に変更される。このようにして[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を変更することにより、ユーザーによる実際のジェスチャーに合わせて、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]の判定閾値JA,JB,JCを変更することができる。そのため、ユーザーのジェスチャーによるバックドア13の開閉操作を適正に実行することができるようになる。
【0041】
以下、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を変更する処理(変更処理)について詳しく説明する。なお本実施形態では、変更処理が[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]に対して各別に定められて実行される。それら変更処理の処理内容は同様であるため、以下では[判定条件A]の変更処理についてのみ説明し、[判定条件B]および[判定条件C]の変更処理についての説明は省略する。
【0042】
図7に、上記変更処理の具体的な実行手順を示す。同図7のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の処理として、キックセンサ60の制御部63により実行される。本実施形態では、制御部63が判定条件変更部に相当する。
【0043】
図7に示すように、変更処理では先ず、特定判定条件としての[判定条件A]が非成立になるとともに、それ以外の判定条件である[判定条件B]および[判定条件C]の少なくとも一方が成立した特定状況になったか否かが判断される(ステップS21)。
【0044】
そして、特定状況になったと判断されると(ステップS21:YES)、特定状況になったことによって否定判定がなされてから所定時間(例えば10秒)が経過するまでの間に、バックドアスイッチ54が操作されたか否かが判断される(ステップS22)。
【0045】
なお本実施形態では、キックセンサ60を利用したバックドア13の開閉操作を諦めてバックドアスイッチ54によるバックドア13の開閉操作を行うといったユーザーの行動にかかる時間を考慮したうえで、上記所定時間は予め定められている。また本実施形態では、所定時間が経過するまでの間にバックドアスイッチ54が操作されたか否かを判断する処理は、パワードアECU53により実行されている。そして、ステップS22の処理では、パワードアECU53による処理における上記判断の結果がキックセンサ60の制御部63に取り込まれて、その判断に用いられる。
【0046】
そして、上記所定時間内にバックドアスイッチ54が操作されたと判断されると(ステップS22:YES)、直近の否定判定に際して検出部61,62によって検出された検出値を制御部63のメモリ64に記憶する処理が実行される。上記検出値は、直近の否定判定において判定閾値JAとの比較に用いられた値、詳しくは(T11ーT12)の絶対値である。本処理では、この検出値が、予め定められた上限値を下回っていることを条件に(ステップS23:YES)、制御部63のメモリ64に記憶される(ステップS24)。上限値としては、発明者等による各種の実験やシミュレーションの結果をもとに、判定閾値JAが過度に大きい値に変更されることを回避可能な値、詳しくは判定閾値JAをもとに誤って肯定判定されることを回避可能な値が求められて、予め設定されている。
【0047】
本処理では、こうして検出値が記憶される度に、記憶回数をカウントするカウンターのカウント値Ctが「1」ずつインクリメントされる(ステップS25)。そして、カウント値Ctが所定値(例えば3)になると(ステップS26:YES)、ステップS24の処理において記憶された複数の検出値のうちの最大値が、新たな判定閾値JAとして設定される(ステップS27)。
【0048】
この場合には、制御部63に記憶されている検出値が消去されるとともに、カウント値Ctが「0」にリセットされた後(ステップS28)、本処理は終了される。
なお、本処理では、特定状況になっていないと判断される場合や(ステップS21:NO)、上記所定時間内においてバックドアスイッチ54が操作されていない場合には(ステップS22:NO)、ステップS24~S28の処理がジャンプされる。また、直近の否定判定に際して検出部61,62によって検出された検出値が上限値よりも大きい場合においても(ステップS23:NO)、ステップS24~S28の処理がジャンプされる。さらに、カウント値Ctが所定値未満である場合には(ステップS25:NO)、判定閾値JAを更新する処理が実行されない(ステップS27,S28の処理がジャンプされる)。
【0049】
以下、[判定条件A]の判定閾値JAが変更される場合における変更処理の実行態様について、図8を参照しつつ説明する。
図8に示す例では、時刻t11において、[判定条件B]および[判定条件C]が成立する一方で、[判定条件A]が非成立になる。このときには、判定処理において所定のジェスチャーではないと否定判定されて、バックドア13の開閉操作が実行されない。
【0050】
本例では、その後において所定時間(時刻t11~t13)が経過するまでの間に、ユーザーによってバックドアスイッチ54が操作される(時刻t12)。これにより、パワーバックドア装置50の作動が開始されて、バックドア13の自動開閉が実行されるようになる。
【0051】
また、時刻t12においてバックドアスイッチ54が操作されると、時刻t11における否定判定に際して検出部61,62によって検出された検出値(詳しくは、(T11-T12)の絶対値)が制御部63のメモリ64に記憶される。本例では、このとき検出値の記憶回数が所定回数(3回)になるため、記憶されている3つの検出値のうちの最大値が新たな判定閾値JAとして設定される。
【0052】
以下、変更処理を通じて[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を変更することによる作用効果について説明する。
本実施形態によれば、ユーザーがバックドア13の開閉操作を行うべく所定のジェスチャーを行ったのにもかかわらず、判定処理において否定判定がなされた可能性が高い場合に、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を変更することができる。この場合には、詳しくは、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]が成立し易くなるように、それらの判定閾値JA,JB,JCが大きい値、すなわち長い時間に相当する値に変更される。
【0053】
これにより、ユーザーによる実際のジェスチャーに合わせて、[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]を、所定のジェスチャーであると肯定判定され易くなる態様で変更することができる。そのため、ユーザーのジェスチャーによるバックドア13の開閉操作を適正に実行することができるようになる。
【0054】
本実施形態では、変更処理(図7)において、以下の(条件イ)および(条件ロ)が成立したことを条件に、判定条件が変更される。
(条件イ)特定判定条件が非成立になるとともに、それ以外の判定条件の少なくとも一方が成立した特定状況になったことで、判定処理において所定のジェスチャーではないと否定判定された。
【0055】
(条件ロ)否定判定されてから所定期間が経過するまでの間に、バックドアスイッチ54が操作された。
本実施形態では、[判定条件A]を特定判定条件とする変更処理においては[判定条件A]の判定閾値JAが変更される。また[判定条件B]を特定判定条件とする変更処理においては[判定条件B]の判定閾値JBが変更される。さらに[判定条件C]を特定判定条件とする変更処理では[判定条件C]の判定閾値JCが変更される。
【0056】
3つの判定条件の一部のみが非成立である場合、すなわち3つの判定条件の残りが成立している場合には、全ての判定条件が非成立である場合と比較して、検出部61,62の検出信号S1,S2が所定のジェスチャーによるものである可能性が高いと云える。
【0057】
本実施形態によれば、3つの判定条件の一部のみが非成立になった場合において、非成立であった判定条件(上記特定判定条件)を、誤って非成立になった可能性が高いとして、成立し易くなる態様で変更することができる。これにより、誤って非成立になった可能性の高い判定条件を高い精度で特定したうえで、同判定条件の判定閾値を変更することができる。そのため[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]が誤って変更されることを抑えて、それら[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]を適正に変更することができる。
【0058】
また本実施形態では、カウント値Ctが所定値になったこと、すなわち(条件イ)および(条件ロ)が共に成立する状況に複数回なったときに、特定判定条件の判定閾値が変更される。これにより、ユーザーがバックドア13の開閉操作を行うべく所定のジェスチャーを行ったのにもかかわらず判定処理において誤って否定判定されたことを、複数回にわたって同様の状況になったことをもって、高い精度で判断することができる。そして、この判断をもとに、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を適正に変更することができる。
【0059】
本実施形態では、判定条件が非成立であると判定されたときの検出値(詳しくは、制御部63に記憶されている複数の検出値のうちの最大値)を新たな判定閾値とするといったように、判定条件の判定閾値が変更される。これにより、判定条件における判定閾値を、ユーザーによる実際のジェスチャーに応じて、所定のジェスチャーであるとの肯定判定がなされ易くなる値に速やかに変更することができる。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)ユーザーがバックドア13の開閉操作を行うべく所定のジェスチャーを行ったのにもかかわらず、判定処理において否定判定がなされた可能性が高い場合に、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を変更することができる。そのため、ユーザーのジェスチャーによるバックドア13の開閉操作を適正に実行することができるようになる。
【0061】
(2)3つの判定条件の一部のみが非成立になった場合において、非成立であった判定条件を、誤って非成立になった可能性が高いとして、成立し易くなる態様で変更することができる。そのため、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]が誤って変更されることを抑えて、それら[判定条件A]、[判定条件B]および[判定条件C]を適正に変更することができる。
【0062】
(3)判定条件が非成立であると判定されたときの検出値を新たな判定閾値とするといったように、判定条件の判定閾値が変更される。これにより、判定条件における判定閾値を、ユーザーによる実際のジェスチャーに応じて、所定のジェスチャーであるとの肯定判定がなされ易くなる値に速やかに変更することができる。
【0063】
(4)ユーザーがバックドア13の開閉操作を行うべく所定のジェスチャーを行ったのにもかかわらず判定処理において誤って否定判定されたことを、複数回にわたって同様の状況になったことをもって、高い精度で判断することができる。そして、この判断をもとに、[判定条件A]や[判定条件B]、[判定条件C]を適正に変更することができる。
【0064】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0065】
・判定条件の判定閾値が過度に大きい値に変更されることが回避されるのであれば、検出部61,62の検出値を、上限値によって制限することなく、新たな判定閾値として設定するようにしてもよい。この場合には、変更処理(図7)のステップS23の処理を省略することができる。
【0066】
・判定処理において否定判定された直後にバックドアスイッチ54が操作されるといった状況になったときに、複数回にわたって同状況になることを待つことなく、判定条件の判定閾値を変更するようにしてもよい。この場合には、変更処理(図7)のステップS25の処理やステップS26の処理を省略することができる。
【0067】
・判定処理において否定判定されてから所定時間が経過するまでの間にバックドアスイッチ54が操作された場合に、複数の判定条件のうちの一部のみを変更することに限らず、複数の判定条件の全てを変更するようにしてもよい。
【0068】
・所定のジェスチャーがなされたことを判定するための判定条件は、任意に変更可能である。そうした判定条件としては、例えば[判定条件A]~[判定条件C]のうちの2つのみを採用したり、[判定条件A]~[判定条件C]以外の条件を採用したりすることができる。また、判定条件を一つのみ設定することなども可能である。
【0069】
・判定条件の変更態様としては、同判定条件が成立し易くなるのであれば、任意の変更態様を採用することができる。例えば、直近の否定判定時における判定閾値と検出値との差(=[検出値-判定閾値])の一部を同判定閾値に加算した値を、新たな判定閾値にすることができる。その他、予め定められた一定値を判定閾値に加算した値が新たな判定閾値として設定される構成や、制御部63に記憶されている複数の検出値の平均値が新たな判定閾値として設定される構成を採用することなども可能である。
【0070】
・判定処理において否定判定された後の所定時間内においてユーザーによってバックドア13が開閉操作されたことを判断するための条件は、任意に変更することができる。同条件としては、例えば、「バックドア13の外面に設けられたパワーバックドアスイッチが操作されたこと」といった条件を設定したり、「バックドア13が手動で開閉操作されたこと」といった条件を設定したりすることができる。要は、キックセンサ60以外の構成を利用してバックドア13が開閉操作されたことを判断可能な条件であれば、上記条件として採用することができる。
【0071】
・キックセンサ60としては、電磁誘導式のセンサを採用することに限らず、超音波式のセンサや、レーダー式のセンサ、あるいはカメラを有する画像処理装置などを採用することができる。
【0072】
・ユーザーによる所定のジェスチャーを検出および判定するための構成は、任意に変更することができる。例えば、検出対象物の接近および動作を検出する2つのセンサ(例えば距離センサや近接センサ)と、マイクロコンピュータを中心に構成されて2つのセンサの出力信号を取り込む1つのECUとの3つの部材からなる構成を採用することができる。同構成においては、センサが検出部に相当し、ECUが制御部に相当する。
【0073】
・所定のジェスチャーを検出するための検出部を取り付ける位置は、車両10のルーフや、バックドア13、バックドアピラーなど、任意に変更することができる。同構成においては、検出部の取り付け位置に合わせて、ユーザーの身体の一部(手や足)の動きである所定のジェスチャーを予め定めるようにすればよい。所定のジェスチャーとしては、例えば検出部がルーフに設けられた車両において車両上方に手をかざす動作を定めたり、検出部がバックドアに設けられた車両においてバックドアの後方で手を左右(あるいは上下)に振る動作を定めたりすることができる。
【0074】
・所定のジェスチャーであると肯定判定されたときに操作される操作対象は、バックドア13にすることに限らず、車両のサイドドア(スイングドア、またはスライドドア)にすることができる。その他、車両10の自動運転の実行/実行停止を切り替える操作や、ヘッドライトなどの灯火類の点灯/消灯を切り替える操作を、上記操作対象としての車両操作にすることもできる。
【符号の説明】
【0075】
10…車両
11…スマートECU
12…電子キー
13…バックドア
50…パワーバックドア装置
51…開閉機構
52…アクチュエータ
53…パワードアECU
54…バックドアスイッチ
60…キックセンサ
61…第1検出部
62…第2検出部
63…制御部
64…メモリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8