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  • 特許-ポリオレフィン系接着剤組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20240509BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240509BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240509BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240509BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240509BHJP
   H01M 50/141 20210101ALI20240509BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J11/06
B32B15/08 N
B32B27/00 D
H01M50/121
H01M50/141
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020509864
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010256
(87)【国際公開番号】W WO2019188284
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018068500
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 秀行
(72)【発明者】
【氏名】岡野 祥平
(72)【発明者】
【氏名】中島 桃子
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/030026(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111488(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/125684(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
H01M50/00-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海島構造であり、海に酸変性ポリオレフィン(A)と硬化剤(C)の反応物を含有し、島に熱可塑性樹脂(B)と硬化剤(C)の反応物を含有し、
前記酸変性ポリオレフィン(A)が、融点50℃~155℃である酸変性ポリオレフィン(A1)と、融点が55℃~160℃である酸変性ポリオレフィン(A2)とを含み、
前記酸変性ポリオレフィン(A1)よりも前記酸変性ポリオレフィン(A2)の方が高融点であり、
前記酸変性ポリオレフィン(A1)と前記酸変性ポリオレフィン(A2)との融点の差が、3~55℃であり、
前記酸変性ポリオレフィン(A1)および前記酸変性ポリオレフィン(A2)は、プロピレン・α-オレフィン共重合体が、α,β-不飽和カルボン酸及びその無水物の少なくとも1種によって酸変性された酸変性ポリオレフィンであり、
前記酸変性ポリオレフィン(A1)のプロピレン含有量は、65モル%以上であり、
前記酸変性ポリオレフィン(A2)のプロピレン含有量は、60モル%以上であり、
前記熱可塑性樹脂(B)が、スチレン系エラストマーであり、前記熱可塑性樹脂(B)の含有量は、前記酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対し、5~30質量部である接着剤組成物。
【請求項2】
前記海島構造の島相の粒径が0.001~5μmである、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィン(A)の酸価が2~50mgKOH/gである、請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(B)が、2~50mgKOH/gの酸価を有する、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記硬化剤(C)が、エポキシ硬化剤またはイソシアネート硬化剤である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記硬化剤(C)の含有量が、前記酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対し、0.5~40質量部である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記酸変性ポリオレフィン(A1)と前記酸変性ポリオレフィン(A2)の質量比が、(A1)/(A2)=99/1~21/79である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
基材の少なくとも一方の面に請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物が積層した積層体。
【請求項9】
請求項に記載の基材がポリオレフィン基材または金属基材である積層体。
【請求項10】
請求項に記載の積層体を構成部材とするリチウムイオン電池用包装材料。
【請求項11】
前記酸変性ポリオレフィン(A1)および前記酸変性ポリオレフィン(A2)の酸価が2~50mgKOH/gである、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
前記酸変性ポリオレフィン(A1)は、オレフィン成分としてプロピレン及び1-ブテンを有し、プロピレンと1-ブテンのモル比がプロピレン/1-ブテン=98/2~7030である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項13】
前記酸変性ポリオレフィン(A2)は、オレフィン成分としてプロピレンおよび1-ブテンを有し、プロピレンと1-ブテンのモル比がプロピレン/1-ブテン=99/1~6535である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、積層体、およびリチウムイオン電池用包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話等の携帯端末装置、ビデオカメラ、衛星などに用いられる電池として、超薄型化、小型化の可能なリチウムイオン電池が盛んに開発されている。このリチウムイオン電池の包装材料は、従来用いられていた金属製缶とは異なり、軽量で電池の形状を自由に選択できるという利点から、基材層/バリア層/シーラント層のような構成の積層体が用いられるようになってきた。
【0003】
リチウムイオン電池は、電池内容物として正極材及び負極材と共に、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの非プロトン性溶媒にリチウム塩を溶解した電解液若しくはその電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層を含んでいる。このような強浸透性の溶媒がシーラント層を通過すると、バリア層とシーラント層間のラミネート強度を低下させてデラミネーションを生じさせ、最終的には電解液が漏れ出すといった問題が生じる。また、電池の電解質であるリチウム塩としてはLiPF6、LiBF4 等の物質が用いられているが、これらの塩は水分との加水分解反応によりフッ酸を発生させ、フッ酸がバリア層を腐食することによりラミネート強度を低下させる。電池用包装材料は、このように電解質に対する耐性を有していることが必要である。
【0004】
また、リチウムイオン電池はさまざまな環境下で使用されることを想定して、より過酷な耐性を備えている必要がある。例えば、モバイル機器に使用される場合には、車内等の60~70℃という高温環境での耐漏液性が要求される。また、携帯電話に使用され誤って水中に落としたことを想定し、水分が浸入しないよう耐水性も必要とされる。
【0005】
このような状況のもと、耐電解液性を向上させたリチウムイオン電池用包装材料が種々提案されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/123183号パンフレット
【文献】国際公開第2017/187904号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記提案されているリチウムイオン電池用包装材料は、成形性や加工性の点でいまだ不十分であった。具体的には、包装材料をパウチ状に加工する際、接着層が基材間の延びに追従できず、剥離することがあった。また、耐熱性の面でもいまだ不十分なものであった。
【0008】
本発明は、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性および基材への顕著な追従性を持ち、優れた耐熱性および耐電解液性を有する接着剤組成物を提供するものである。さらにその接着剤組成物を含む積層体や、その積層体を含む電池用包装材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明者らは鋭意検討し、変性ポリオレフィンを含有する接着剤組成物において、熱可塑性樹脂との海島構造を有することが接着剤として顕著に有効であることを見出し、以下の発明を提案するに至った。すなわち本発明は、
【0010】
海島構造であり、海に変性ポリオレフィン(A)と硬化剤(C)の反応物を含有し、島に熱可塑性樹脂(B)と硬化剤(C)の反応物を含有する接着剤組成物。
【0011】
前記海島構造の島相の粒径が0.001~5μmであることが好ましい。
【0012】
前記変性ポリオレフィン(A)の酸価が2~50mgKOH/gであることが好ましい。
【0013】
前記変性ポリオレフィン(A)が、オレフィン成分としてプロピレンおよび1-ブテンを有し、プロピレンと1-ブテンのモル比がプロピレン/1-ブテン=98~60/2~40であることが好ましい。
【0014】
前記熱可塑性樹脂(B)が、スチレン系エラストマーであることが好ましい。
【0015】
前記熱可塑性樹脂(B)が、2~50mgKOH/gの酸価を有することが好ましい。
【0016】
前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が、前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対し、5~30質量部であることが好ましい。
【0017】
前記硬化剤(C)が、エポキシ硬化剤またはイソシアネート硬化剤のいずれかであることが好ましい。
【0018】
前記硬化剤(C)の含有量が、前記変性ポリオレフィン(A)100質量部に対し、0.5~40質量部であることが好ましい。
【0019】
前記変性ポリオレフィン(A)が、融点が50℃~155℃である変性ポリオレフィン(A1)と、融点が55℃~160℃である変性ポリオレフィン(A2)を含むことが好ましい。
【0020】
前記変性ポリオレフィン(A1)と前記変性ポリオレフィン(A2)の質量比が、(A1)/(A2)=99~21/1~79であることが好ましい。
【0021】
基材の少なくとも一方の面に前記記載の接着剤組成物が積層した積層体。
【0022】
前記の基材がポリオレフィン基材または金属基材である積層体。
【0023】
前記の積層体を構成部材とするリチウムイオン電池用包装材料。
【発明の効果】
【0024】
本発明の接着剤組成物は、変性ポリオレフィンと硬化剤との反応物、および熱可塑性樹脂と硬化剤との反応物を含み、海島構造であることで、基材との顕著な追従性を有する。そのため、深絞り性などの加工特性に優れる。また、良好な接着性および耐電解液性を発現することができ、かつ優れた耐熱性および耐パウチ膨張性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例の接着剤組成物の海島構造を示す透過型電子顕微鏡写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
<海島構造>
本発明の接着剤組成物は、海島構造を含有することが必要である。海島構造とは、2以上の成分の混合物が、当該成分同士で互いに相分離せず、微細に分散された構造のことである。本発明の接着剤組成物は、変性ポリオレフィン(A)と硬化剤(C)との反応物を海、熱可塑性樹脂(B)と硬化剤(C)との反応物を島に含有する海島構造を形成することで、微細なエラストマードメインが導入され、加工時や使用時の基材の変形に対する追従性が向上し、耐パウチ膨張性が高まる。耐パウチ膨張性とは、例えば本接着剤組成物がリチウムイオン電池に用いられている場合、高温条件下においてリチウムイオン電池中の基材が伸長した際であっても、基材の接着面間において剥がれたり破断することなく接着性を維持し追従する性質を指す。
【0028】
本発明の接着剤組成物の島相の粒径は0.001~5μmが好ましい。この島相の粒径は4μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下である、それ以上に好ましくは0.5μm以下であり、最も好ましくは0.4μm以下である。また、0.003μm以上が好ましく、より好ましくは0.005μm以上であり、さらに好ましくは0.01μm以上であり、それ以上に好ましくは0.05μm以上であり、最も好ましくは0.09μm以上である。島の粒径が0.001μm未満の場合、海島構造を有する場合に起こるキャビテーションの効果が十分でなく、良好な柔軟性や基材追従性が得られないことがある。島の粒径が5μmを超える場合、島が接着界面に存在した際、海の接着を大きく阻害することがあるため、良好な接着性が得られないことがある。島の形状が楕円等の場合は長軸の長さを測定することとする。
【0029】
本発明の接着剤組成物は、接着剤組成物の10μm×10μmの単位面積あたり全島数の80%以上の島の粒径が0.001~5μmであることが好ましい。より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。それ以上に好ましいのは95%以上であり、最も好ましくは100%である。85%未満だと、接着性が低下することがある。
【0030】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、海島構造であり、海に変性ポリオレフィン(A)と硬化剤(C)の反応物を含有し、島に熱可塑性樹脂(B)と硬化剤(C)の反応物を含有する接着剤組成物である。本発明にかかる接着剤組成物は、前記変性ポリオレフィン(A)、熱可塑性樹脂(B)および硬化剤(C)を含有する組成物を基材に塗布、乾燥、硬化させることで得ることができる。本発明の接着剤組成物中の海部及び島部の含有割合を求める方法は、例えば、接着剤組成物の写真に画像処理装置を用いる方法、トレーシングペーパーで接着剤組成物の写真を写しとって、島部を切り取り、紙の重量を測定して求める方法がある。前記写真としては、例えば、本発明の接着剤組成物を接着剤層として用いる積層体とし、接着剤層断面からクライオミオクトロームを用いて切片を作成し、染色、カーボン蒸着を施した試料を、日本電子製JEM2100透過電子顕微鏡を加速電圧200kVで使用し、2000倍にて写真撮影した写真が挙げられる。
【0031】
本発明の接着剤組成物100質量部中における、島構造の含有量は、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。また、該含有量は、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。前記の値を超えると接着性が低下する場合があり、前記の値を下回ると耐パウチ膨張性が低下する場合がある。
【0032】
本発明の接着剤組成物の海構造100質量部中の変性ポリオレフィン(A)と硬化剤(C)の反応物の含有量は、60質量部以上が好ましく、70質量部以上がより好ましく、80質量部以上がさらに好ましい。前記の値を下回ると接着性が低下する場合がある。
【0033】
本発明の接着剤組成物の島構造100質量部中の熱可塑性樹脂(B)と硬化剤(C)の反応物の含有量は、70質量部以上が好ましく、80質量部以上がより好ましく、90質量部以上がさらに好ましい。前記の値を下回ると耐パウチ膨張性が低下する場合がある。
【0034】
<変性ポリオレフィン(A)>
本発明で用いる変性ポリオレフィン(A)は限定的ではないが、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびプロピレン・α-オレフィン共重合体の少なくとも1種に、変性がほどこされたものであることが好ましい。また、変性ポリオレフィン(A1)および(A2)はポリプロピレンまたはプロピレン・α-オレフィン共重合体に変性がほどこされたものがより好ましい。
【0035】
プロピレン・α-オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いることができる。これらのα-オレフィンの中では、エチレン、1-ブテンが好ましく、1-ブテンが最も好ましい。プロピレン・α-オレフィン共重合体におけるプロピレン成分とα-オレフィン成分のモル比は99~40/1~60であることが好ましく、98~45/2~55がより好ましく、94~60/6~40がさらに好ましい。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体におけるプロピレン成分と1-ブテン成分の合計量は72モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。また、プロピレン/1-ブテンのモル比は99~60/1~40であることが好ましく、98~65/2~35であることが好ましい。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体はエチレン含有量が少ないことが好ましい。
【0036】
変性ポリオレフィン(A)は、単独の樹脂であっても構わないし、2種以上の異なる変性ポリオレフィンの混合物であっても差し支えない。2種以上の変性ポリオレフィンを併用する場合、変性ポリオレフィン(A1)および変性ポリオレフィン(A2)であることが好ましい。
【0037】
変性ポリオレフィン中(A1)のプロピレン含有量は28モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、65モル%以上が特に好ましい。また、100モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましく、90モル%以下が特に好ましい。プロピレンを30モル%以上含有することで、プロピレン基材との密着性が良好となることに寄与する。また、プロピレン以外にα-オレフィン成分を含有してもよい。
【0038】
変性ポリオレフィン(A1)のプロピレンと1-ブテンのモル比はプロピレン/1-ブテン=98~40/2~60であることが好ましい。プロピレンのモル比が50%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。プロピレンのモル比が40%以上であることで、ポリオレフィン基材、特にポリプロピレン基材との優れた密着性を発現できる。また、プロピレンのモル比が95%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは93%以下であり、最も好ましくは90%以下である。さらに、1-ブテンのモル比が2%以上であれば変性ポリオレフィンが柔軟となり、基材との追従性などの加工特性が向上する。1-ブテンのモル比は5%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは7%以上であり、最も好ましくは10%以上である。1-ブテンのモル比が50%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは40%以下であり、最も好ましくは30%以下である。
【0039】
変性ポリオレフィン中(A2)のプロピレン含有量は30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、45モル%以上がさらに好ましく、60モル%以上が特に好ましく、70モル%以上が最も好ましい。また、100モル%以下が好ましく、99モル%以下がより好ましく、97モル%以下が特に好ましい。プロピレンを30モル%以上含有することで、プロピレン基材との良好な密着性を示す傾向がある。また、プロピレン以外にα-オレフィン成分を含有してもよい。
【0040】
変性ポリオレフィン(A2)のプロピレンと1-ブテンのモル比はプロピレン/1-ブテン=99~45/1~55であることが好ましい。プロピレンのモル比が55%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは65%以上であり、より好ましくは76%以上である。プロピレンのモル比が45%以上であることで、ポリオレフィン基材、特にポリプロピレン基材との優れた密着性を発現できる。また、プロピレンのモル比が97%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは94%以下であり、最も好ましくは92%以下である。さらに、1-ブテンのモル比が1%以上であれば変性ポリオレフィンが柔軟となり、基材との追従性などの加工特性が向上する。1-ブテンのモル比は3%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは6%以上であり、最も好ましくは8%以上である。1-ブテンのモル比が45%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは35%以下であり、最も好ましくは24%以下である。
【0041】
本発明で用いる変性ポリオレフィン(A)の変性として、具体的には、酸変性、塩素変性、アクリル変性、水酸基変性等が挙げられる。(A1)および(A2)は両者それぞれがこれらのうち1種以上の変性をほどこされている必要がある。また、変性ポリオレフィン(A1)および(A2)は酸変性されていることが特に好ましい。
【0042】
本発明で用いる変性ポリオレフィン(A)は限定的ではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン及びプロピレン・α-オレフィン共重合体の少なくとも1種に、α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものが好ましい。α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体等が挙げられ、これら変性ポリオレフィンを1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
変性ポリオレフィン(A)の酸価は、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着性および耐電解液性の観点から、2~50mgKOH/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは3~45mgKOH/g、さらに好ましくは5~40mgKOH/g、特に好ましくは7~35mgKOH/gの範囲である。前記の範囲内であると、硬化剤とよく相溶することで架橋密度が上がり、接着強度、耐薬品性(耐電解液性)が向上する。また、変性ポリオレフィン(A1)および変性ポリオレフィン(A2)を併用する場合は、それぞれ変性ポリオレフィン(A)と同様の酸価を有することが好ましい。
【0044】
変性ポリオレフィン(A)は、融点50~160℃であることが好ましい。また、変性ポリオレフィン(A)は融点が50~155℃である変性ポリオレフィン(A1)と、融点が55~160℃である変性ポリオレフィン(A2)を含んでいて、かつ変性ポリオレフィン(A1)よりも(A2)の方が高融点であることがより好ましい。高融点の変性ポリオレフィンと低融点の変性ポリオレフィンを併用することで、ポリオレフィン基材の熱収縮影響が小さい80℃以下のような低温で張り合わせ、40℃以下のような低温でのエージングを行ってもポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性および耐薬品性を発現することができ、かつ硬化後は優れた耐熱性を有する。さらに、(A1)と(A2)の融点の差は、3~55℃であることが好ましく、より好ましくは4~45℃、さらに好ましくは5~30℃である。前記の値を超えると低温加工性、耐電解液性、および高温条件における耐久性を並立することができないおそれがある。
【0045】
変性ポリオレフィン(A1)の融点(Tm)は、好ましくは50℃~155℃の範囲であり、より好ましくは55℃~120℃の範囲である。さらに好ましくは60℃~100℃の範囲であり、最も好ましくは70℃~90℃の範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0046】
変性ポリオレフィン(A2)の融点(Tm)は、好ましくは55℃~160℃の範囲であり、より好ましくは60℃~125℃の範囲である。さらに好ましくは65℃~105℃の範囲であり、最も好ましくは75℃~95℃の範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0047】
変性ポリオレフィン(A)の融点は、変性ポリオレフィンの結晶性によって調整することができ、例えば、酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体の場合、1-ブテン成分の比率を大きくすることで、共重合体中のプロピレン重合部による結晶性を下げることにより、融点を下げることができる。
【0048】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の質量比は、(A1)/(A2)=99~21/1~79であることが好ましく、より好ましくは75~25/25~75の範囲である。さらに好ましくは60~40/40~60の範囲である。前記の範囲内であれば低温加工性、耐電解液性、および高温条件における耐久性を並立することができる。
【0049】
変性ポリオレフィン(A)の酸価は、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸の酸無水物およびラジカル発生剤の使用量により調整することができる。
【0050】
変性ポリオレフィン(A)の融解熱(ΔH)は、1J/g~60J/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは3J/g~50J/gの範囲であり、最も好ましくは5J/g~40J/gの範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。また、変性ポリオレフィン(A1)および変性ポリオレフィン(A2)を併用する場合は、それぞれ変性ポリオレフィン(A)と同様の融解熱を有することが好ましい。
【0051】
変性ポリオレフィン(A)の製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(すなわち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点として不飽和カルボン酸および酸無水物をグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0052】
ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、例えば有機過酸化物、アゾニトリル類が挙げられ、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ-tert-ブチルパーオキシフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類等が挙げられる。
【0053】
変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)は、10,000~200,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは20,000~180,000の範囲であり、さらに好ましくは30,000~160,000の範囲であり、特に好ましくは40,000~140,000の範囲であり、最も好ましくは、50,000~110,000の範囲である。前記の値未満であると、凝集力が弱くなり接着性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。前記範囲内であれば、硬化剤との硬化反応が活かされるため好ましい。また、変性ポリオレフィン(A1)および変性ポリオレフィン(A2)を併用する場合は、それぞれ変性ポリオレフィン(A)と同様の重量平均分子量を有することが好ましい。
【0054】
<熱可塑性樹脂(B)>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(B)は特に限定されないが、スチレン骨格を有する熱可塑性樹脂を用いることができる。スチレン系熱可塑性樹脂として具体的には、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合樹脂、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合樹脂、スチレンーブタジエン共重合樹脂、スチレン-エチレン共重合樹脂、スチレン-ブチレン共重合樹脂、スチレン-エチレン-スチレン共重合樹脂、スチレンーブチレンースチレン共重合樹脂などのスチレン系エラストマー等が挙げられる。また、スチレン骨格を有さない熱可塑性樹脂としては、エチレン・プロピレン共重合樹脂、エチレン・ブテン共重合樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン・エチルアクリレート共重合樹脂等のオレフィン系エラストマー等が挙げられる。中でもスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合樹脂、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンなどのスチレン系エラストマーが、変性ポリオレフィン(A)との相溶性、および耐熱性の観点から好ましい。
【0055】
熱可塑性樹脂(B)は、酸価を有していてもよい。好ましくは2~50mgKOH/g、より好ましくは3~45mgKOH/g、さらに好ましくは5~40mgKOH/g、特に好ましくは7~35mgKOH/gの範囲で酸価を有することが好ましい。また、熱可塑性樹脂(B)は酸変性されている場合、無水マレイン酸変性されていることが好ましい。前記範囲の酸価を有することで変性ポリオレフィン(A)、ならびに硬化剤(C)との相溶性が良好となり、硬化剤(C)との架橋により凝集力、接着力および耐熱性が向上する。
【0056】
熱可塑性樹脂(B)の配合量は、変性ポリオレフィン共重合体(A)(変性ポリオレフィン(A1)と変性ポリオレフィン(A2)を併用する場合はその合計量)100質量部に対して3~60質量部、(B)/(A)=3~60(質量部)/100(質量部)であることが好ましい。より好ましくは8~40(質量部)/100(質量部)さらに好ましくは8~30質量部の範囲であり、特に好ましくは10~20(質量部)/100(質量部)の範囲である。前記範囲にあることで海島構造を有する接着剤組成物となり、適度な柔軟性を持ち、深絞り性等の加工特性とポリオレフィン基材との接着性を兼備できる。
【0057】
<硬化剤(C)>
本発明で用いられる硬化剤(C)は特に限定されないが、例えば、エポキシ硬化剤、イソシアネート硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤などが挙げられ、エポキシ硬化剤またはイソシアネート硬化剤を使用することが好ましい。
【0058】
本発明の接着剤組成物に含有されるエポキシ硬化剤は特に限定されず、エポキシ樹脂およびこれらから誘導された化合物を好ましく用いることができる。具体例として、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、あるいは3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイド等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用しても構わない。
【0059】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂の具体例としては、特に限定されないが、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等のグリシジルアミン系などが挙げられる。中でもN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミンが好ましい。これらグリシジルアミン型エポキシ樹脂を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0060】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、特に限定されないが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられ、これらが金属基材との接着性および耐薬品性という観点から好ましい。これらグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0061】
エポキシ硬化剤として、金属基材との接着性および耐薬品性という観点からグリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を併用することが好ましい。好ましい質量比は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂/グリシジルエーテル型エポキシ樹脂=1~30/99~70であり、より好ましくは、5~20/95~80であり、さらに好ましくは8~15/92~75である。
【0062】
本発明の接着剤組成物に含有されるイソシアネート硬化剤は特に限定されず、ジイソシアネート、トリイソシアネートおよびこれらから誘導された化合物を好ましく用いることができる。例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン、または水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートが挙げられる。さらに前記ジイソシアネートから誘導された化合物、即ち、前記ジイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビウレット型、ウレトジオン体、アロファネート体、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、トリグリシジルイソシアヌレート、またはこれらの複合体等が挙げられる。これらを単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0063】
イソシアネート硬化剤として、中でも耐電解液性が優れるという理由から、前記ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体を有するものが好ましい。
【0064】
硬化剤(C)は、エポキシ硬化剤やイソシアネート硬化剤のほかに、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、カップリング剤類等も挙げられる。カルボジイミド化合物としては、ジメチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド等のモノカルボジイミド化合物類、または脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、もしくは脂環族ジイソシアネートなど有機ジイソシアネートを縮合触媒の存在下、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応を行なうことにより製造することができるポリカルボジイミド化合物類等が挙げられる。また、オキサゾリン化合物としては、2-オキサゾリン、2-メチル-2-オキサゾリン、2-フェニル-2-オキサゾリン、2,5-ジメチル-2-オキサゾリン、または2,4-ジフェニル-2-オキサゾリンなどのモノオキサゾリン化合物、2,2’-(1,3-フェニレン)-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,2-エチレン)-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,4-ブチレン)-ビス(2-オキサゾリン)、または2,2’-(1,4-フェニレン)-ビス(2-オキサゾリン)などのジオキサゾリン化合物等が挙げられる。また、カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられる。
【0065】
本発明の接着剤組成物の硬化剤(C)の含有量は、変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.5~40質量部の範囲が好ましく、より好ましくは1~35質量部であり、さらに好ましくは2~30質量部であり、特に好ましくは3~25質量部の範囲である。前記の値未満であると、十分な硬化効果が得られず接着性および耐薬品性が低い場合がある。前記の範囲を超えると、ポットライフ性や接着性が低下することがあり、また追従性の低下により成形時にピンホールが発生することがある。さらにコスト面の観点から好ましくない。また、前記範囲内であることで、海島構造を有することができる。
【0066】
本発明にかかる接着剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で、前記変性ポリオレフィン(A)、熱可塑性樹脂(B)および硬化剤(C)の他に各種の粘着付与剤、可塑剤、硬化促進剤、難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0067】
本発明にかかる接着剤組成物は、特に限定されないが、前記変性ポリオレフィン(A)、熱可塑性樹脂(B)および硬化剤(C)ならびに有機溶剤を含有する組成物を塗布、乾燥させることで得ることができる。有機溶剤としては変性ポリオレフィン(A)、熱可塑性樹脂(B)および硬化剤(C)を溶解または分散させるものであれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素および脂環族炭化水素などの低極性溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤などの高極性溶剤などが例示される。保存安定性やポットライフの観点から、低極性溶剤と高極性溶剤を併用することが好ましい。高極性溶剤と低極性溶剤の含有量比は6O~3/40~97(質量比)が好ましく、50~5/50~95がより好ましく、40~8/60~90がさらに好ましく、30~20/70~80が最も好ましい。
【0068】
前記の有機溶剤のうち、低極性溶剤としては、脂環族炭化水素であるシクロヘキサン等が好ましく、高極性溶剤としてはケトン系溶剤であるメチルエチルケトン等が好ましい。これらの有機溶剤は、変性ポリオレフィン(A)(変性ポリオレフィン(A1)と変性ポリオレフィン(A2)を併用する場合はその合計量)、および熱可塑性樹脂(B)の合計量100質量部に対し、80~20OO質量部含有することが好ましい。より好ましくは90~1600質量部、さらに好ましくは100~1200質量部、特に好ましくは110~800質量部の範囲である。前記範囲内では、溶液状態およびポットライフ性が良好となりやすい。
【0069】
<積層体>
本発明の積層体は、基材の少なくとも一方の面に接着剤組成物が積層した積層体である。なお前記基材は、ポリオレフィン基材または金属基材であってもよい。また、ポリオレフィン基材と接着剤組成物と金属基材の順で積層される積層体でもよい。
【0070】
本発明の接着剤組成物は、110℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であることが好ましい。さらに好ましくは1.0×10Pa以上であり、より好ましくは1.0×10Pa以上である。1.0×10Pa未満では、耐熱性に劣るため、高温環境下での実用に不向きな場合がある。貯蔵弾性率は、JIS K7244-4(1999)(ISO6721-4:1994)の試験法に従って測定できる。
【0071】
本発明の接着剤組成物は、25℃での引張破断伸度が200%以上であることが好ましい。さらに好ましくは250%以上であり、より好ましくは300%以上である。200%未満では、基材との追従性に劣る場合がある。引張破断伸度は、JIS K7161(2014)(ISO527)の試験法に従って測定できる。
【0072】
積層する方法としては、従来公知のラミネート製造技術を利用することができる。例えば、特に限定されないが、金属基材の表面に変性ポリオレフィン(A)と熱可塑性樹脂(B)と硬化剤(C)の混合物(以下、組成物ともいう)をロールコータやバーコータ等の適当な塗布手段を用いて塗布し、乾燥させる。乾燥後、金属基材表面に形成された組成物の層(接着剤層)が溶融状態にある間に、その塗布面にポリオレフィン樹脂基材を積層接着(ラミ接着)して積層体を得ることができる。前記ラミネート温度が80℃以下のような低温であっても、優れた接着性、耐電解液性、および基材追従性を有する接着性組成物を得ることができる。
前記接着性組成物により形成される接着剤層の厚みは、特に限定されないが、0.5~10μmにすることが好ましく、0.8~9.5μmにすることがより好ましく、1~9μmにすることがさらに好ましい。
【0073】
<ポリオレフィン樹脂基材>
ポリオレフィン樹脂基材としては、従来から公知のポリオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体などを用いることができる。中でも、ポリプロピレンの無延伸フィルム(以下、CPPともいう。)の使用が好ましい。その厚さは、特に限定されないが、20~100μmであることが好ましく、25~95μmであることがより好ましく、30~90μmであることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよいし、表面処理を施してもよい。
【0074】
<金属基材>
金属基材としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、銅、鉄鋼、クロム、亜鉛、ジュラルミン、ダイカストなどの各種金属およびその合金を使用することができる。また、その形状としては、金属箔、圧延鋼板、パネル、パイプ、カン、キャップなど任意の形状を取り得ることができる。一般的には、加工性等の観点からアルミ二ウム箔が好ましい。また、使用目的によっても異なるが、一般的には0.01~10mm、好ましくは0.02~5mmの厚みのシートの形で使用される。
また、これら金属基材の表面を予め表面処理を施しておいてもよいし、未処理のままでもよい。いずれも場合であっても同等の効果を発揮することができる。
【実施例
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0076】
<酸価の測定>
本発明における酸価(mgKOH/g)は、1gの酸変性樹脂を中和するのに必要とするKOH量のことであり、JIS K0070(1992)の試験方法に準じて、測定した。具体的には、100℃に温度調整したキシレン100gに、変性ポリオレフィン(A)または熱可塑性樹脂(B)1gを溶解させた後、同温度でフェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、和光純薬(株)製]で滴定を行った。この際、滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0077】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
本発明における重量平均分子量は日本ウォーターズ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフAlliance e2695(以下GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-806 および KF-803、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長254nm = 紫外線))によって測定した値である。
【0078】
<融点、融解熱量の測定>
本発明における融点、融解熱量は示差走査熱量計(以下DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、10℃/分の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度および面積から測定した値である。
【0079】
<海島構造の解析>
作製した積層体の接着剤層(接着剤組成物)断面からクライオミクロトームを用いて、厚さ200nmの超薄切片を作製した。次いで四酸化ルテニウム蒸気中で染色した後、カーボン蒸着を施したものを透過電子顕微鏡観察用の試料とした。日本電子製JEM2100透過電子顕微鏡を加速電圧200kVで使用し、2000倍の写真を撮影した。このとき、変性ポリオレフィンを含有する海構造部分が明部、熱可塑性樹脂を含有する島構造部分が暗部となる。前記写真で接着剤組成物の10μm×10μm単位に存在する島を観察し、島の最大粒径と最小粒径を求めた。また、本発明の接着剤組成物の海部及び島部の割合は、トレーシングペーパーで前記写真を写しとって、島部を切り取り、紙の重量を測定して求めた。
【0080】
<初期接着性の評価>
作製した積層体を100mm×15mm大きさに切断し、T型剥離試験により接着性を以下の基準により評価した。
T型剥離試験はASTM-D1876-61の試験法に準拠し、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、引張速度50mm/分における剥離強度を測定した。金属基材/ポリオレフィン樹脂基材間の剥離強度(N/cm)は5回の試験値の平均値とした。
評価基準は以下のとおりとした。
☆(実用上特に優れる): 8.0N/cm以上
◎(実用上優れる): 7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用可能): 7.0N/cm以上7.5N/cm未満
×(実用不可能): 7.0N/cm未満
【0081】
<85℃耐電解液性の評価>
リチウムイオン電池の包装材としての利用性を検討するため耐電解液性の評価を行った。作製した積層体を、100mm×15mm大きさに切断し、電解液[エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)100gに6フッ化リン酸リチウムを13g添加したもの]に85℃で1日間浸漬させた。その後、積層体を取り出しイオン交換水で洗浄、ペーパーワイパーで水を拭き取り、十分に水分を乾燥させ、100mm×15mm大きさに切断し、T型剥離試験により耐電解液性を以下の基準により評価した。
☆(実用上特に優れる): 8.0N/cm以上
◎(実用上優れる): 7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用可能): 7.0N/cm以上7.5N/cm未満
×(実用不可能): 7.0N/cm未満
【0082】
<成形性の評価>
成形性は作製した積層体の引張破断伸度、および限界成形深さ(深絞り性)により評価した。
【0083】
限界成形深さ(深絞り性)の測定
積層体を80×120mm大きさに切断し、冷間成形を行った。具体的には、株式会社アマダ製の張り出し成形機(品番:TP-25C-X2)と、55mm×35mmの口径を有する形成金型(雌型)と、これに対応した成形金型(雄型)を用いて、押え圧0.4MPaで0.5mmの成形深さから0.5mm単位で成形深さを変えて、それぞれ10個のサンプル(積層体)について冷間成形を行った。冷間成形後のサンプルについて、皺やアルミニウム箔にピンホール、クラックが10個のサンプル全てにおいて発生しない最も深い成形深さを、そのサンプルの限界成形深さとした。この限界成形深さから、以下の基準により電池用包装材料の成形性を評価した。評価結果を表2に示す。
<判定基準>
☆(実用上特に優れる): 限界成形深さ6.0mm以上
◎(実用上優れる): 限界成形深さ4.0mm以上6.0mm未満
○(実用可能): 限界成形深さ2.0mm以上4.0mm未満
×(実用不可能): 限界成形深さ2.0mm未満
【0084】
引張破断伸度の測定
本発明における25℃の引張破断伸度(Eb)は、JIS K7161(2014)の試験法に準拠して測定した。具体的には、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、速度50mm/分における引張において破断した際の伸度(%)を測定した値である。得られた接着剤組成物をテフロンシートに500μmアプリケーターを用いて、乾燥後の接着剤層の膜厚が50μmになるように調整して塗布した。塗布面を温風乾燥機を用いて100℃雰囲気で1分間乾燥させた。テフロンシートから接着剤層を剥離し、膜厚50μmの試験片を得た。試験片を50mm×15mmに切断し、前記T型剥離試験と同様の方法で実施し、試験片が破断した時点の伸び率により評価した。
☆(実用上特に優れる): 300%以上
◎(実用上優れる): 250%以上300%未満
○(実用可能): 200%以上250%未満
×(実用不可能): 200%未満
【0085】
<変性ポリオレフィン(A)の製造例>
製造例1
1Lオートクレーブに、プロピレン・1-ブテン共重合体(融点95℃、プロピレン/1-ブテン=85/15(モル比))100質量部、トルエン233質量部及び無水マレイン酸20質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド5質量部を加えた。攪拌しながら加熱し、140℃で1時間反応した。得られた反応液を100℃に冷却後、メチルエチルケトン950質量部が入った容器に攪拌しながら注ぎ、25℃に冷却して樹脂を析出させた。当該樹脂を含有するスラリー液を遠心分離することで無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離した。
更に、遠心分離して取り出した酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体を、予め25℃に保温した新たな2000質量部のメチルエチルケトンが入った容器に攪拌しながら投入し、1時間攪拌を続けた。その後、スラリー液を遠心分離することで、更に酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離した。当該操作を2回繰り返して精製した。
精製後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1、酸価25mgKOH/g、重量平均分子量60,000、融点94℃、ΔH61J/g)を得た。
【0086】
製造例2
製造例1で用いたプロピレン・1-ブテン共重合体をプロピレン・1-ブテン共重合体(融点80℃、プロピレン/1-ブテン=80/20(モル比))に変更した以外は製造例1と同様に操作し変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-2、酸価25mgKOH/g、重量平均分子量60,000、融点80℃、ΔH56J/g)を得た。
【0087】
製造例3
製造例1で用いたプロピレン・1-ブテン共重合体をプロピレン・1-ブテン共重合体(融点70℃、プロピレン/1-ブテン=75/25(モル比))に変更し、無水マレイン酸の仕込み量を15質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイドの仕込み量を4質量部に変更した以外は製造例1と同様に操作し変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-3、酸価25mgKOH/g、重量平均分子量60,000、融点70℃、ΔH56J/g)を得た。
【0088】
製造例4
製造例1で用いたプロピレン・1-ブテン共重合体をプロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体(融点132℃、プロピレン/エチレン/1-ブテン=94/3/3(モル比))に変更した以外は製造例1と同様に操作し変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体(A-4、酸価25mgKOH/g、重量平均分子量60,000、融点126℃、ΔH73J/g)を得た。
【0089】
(主剤1の作製)
水冷還流凝縮器と撹拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに、樹脂として、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1)を100質量部および熱可塑性樹脂B-1を15質量部仕込んだ。また、溶剤として、シクロヘキサン424質量部およびメチルエチルケトン228質量部を仕込んだ。撹拌しながら80℃まで昇温し、撹拌を1時間続けた後、冷却することで主剤1を得た。
【0090】
(主剤2~20の作製)
仕込み量を表1-1および表1-2に示すとおりに変更し、主剤1と同様な方法で主剤2~20を作製した。
【0091】
【表1-1】
【0092】
【表1-2】
【0093】
表1-1および表1-2で用いた熱可塑性樹脂(B)は以下のものである。
B-1: クレイトン社製 クレイトン(登録商標)FG1924(無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価11mgKOH/g)
B-2: クレイトン社製 クレイトン(登録商標)FG1901(無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価19mgKOH/g)
B-3: 旭化成社製 タフテック(登録商標)M1911(無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価2mgKOH/g)
B-4: 旭化成社製 タフテック(登録商標)H1517(スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価0mgKOH/g)
B-5: クレイトン社製 クレイトン(登録商標)G1730(スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン樹脂、酸価0mgKOH/g)
B-6: 三井化学社製 タフマー(登録商標)DF640(エチレン・ブタジエン樹脂、酸価0mgKOH/g)
【0094】
実施例1
主剤1を500質量部、硬化剤C-1を3.8質量部、C-2を0.5質量部配合した組成物を得た。この組成物を用いて、下記の方法で積層体を作成した。
【0095】
金属基材とポリオレフィン樹脂基材との積層体の作製
金属基材にはアルミニウム箔(住軽アルミ箔社製、8079-0、厚さ40μm)を使用し、ポリオレフィン樹脂基材には無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製パイレン(登録商標)フィルムCT、厚さ40μm)(以下、CPPともいう。)を使用した。
主剤及び硬化剤を含有する組成物を金属基材にバーコータを用いて乾燥後の接着剤層の膜厚が3μmになるように調整して塗布した。塗布面を温風乾燥機を用いて100℃雰囲気で5分間乾燥させ、膜厚3μmの接着剤層が積層された金属基材を得た。前記接着剤層表面にポリオレフィン樹脂基材を重ね合わせ、テスター産業社製の小型卓上テストラミネーター(SA-1010-S)を用いて、ラミネート温度80℃で、0.3MPa、1m/分にて貼り合わせ、40℃、50%RHにて5日間養生することで積層体(ポリオレフィン基材/接着剤層(接着剤組成物)/金属基材)を得た。
得られた積層体に対して、接着性、耐電解液性および成形性を評価した。結果を表2-1および表2-2に示す。
【0096】
実施例2~5、および比較例4
主剤および硬化剤を表2-1及び表2-2に示すとおりに変更して組成物を作成し、実施例1と同様な方法で積層体を作製し、各評価を実施した。
比較例1は海島構造とならず均一な溶液となり、比較例2~4では、海島構造とならず二層に分離した分離構造となった。
【0097】
実施例6~17、および比較例1~3
ラミネート温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様に積層体を作製し、各評価を実施した。
【0098】
実施例18
硬化剤を硬化剤C-3(5質量)に変更した以外は実施例5と同様にして積層体を作製し、各評価を実施した。
【0099】
表2-1および表2-2で用いた硬化剤は以下のものである。
C-1: 三菱化学社製 jER(登録商標)152(グリシジルエーテル型エポキシ樹脂)
C-2: 三菱ガス化学社製 TETRAD(登録商標)-X(グリシジルアミン型エポキシ樹脂)
C-3: コベストロ社製 スミジュールN(登録商標)3300(多官能イソシアネート)
【0100】
【表2-1】
【0101】
【表2-2】
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明にかかる接着剤組成物は、海島構造であり、海に変性ポリオレフィン(A)と硬化剤(C)の反応物を含有し、島に熱可塑性樹脂(B)と硬化剤(C)の反応物を含有する。海島構造を有することで、基材との顕著な追従性を示し、深絞り性などの加工特性に優れる。また、低温での貼り合わせ条件下でもポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性を示し、かつ高温条件下でも耐電解液性を有する。そのため、本発明の接着剤組成物から形成されるポリオレフィン樹脂基材と金属基材との積層体は、家電外板、家具用素材、建築内装用部材などの分野のみならず、パソコン、携帯電話、ビデオカメラなどに用いられるリチウム電池の包装材(パウチ形態)や車載用としても幅広く利用し得るものである。
図1