(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】複合部材および成形用型、複合部材の製造方法およびガラス材料の成形方法ならびに光学素子の製造方法、光学系の製造方法、および撮像装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 11/00 20060101AFI20240509BHJP
C03B 11/08 20060101ALI20240509BHJP
B32B 17/06 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C03B11/00 M
C03B11/08
B32B17/06
(21)【出願番号】P 2020527549
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2019025206
(87)【国際公開番号】W WO2020004405
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018125019
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 浩司
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 11/00
C03B 11/08
B32B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形部であるガラス部材と、前記ガラス部材を支持する基材とを含む複合部材であって、
前記ガラス部材の表面は凹面または凸面であり、
前記基材の縦断面において、前記ガラス部材と前記基材との接合面と、前記基材における前記接合面に対向する反対側の面とは平行であり(但し、前記接合面および前記反対側の面は、前記基材が貫通孔及び/又はねじ穴を有する場合は、前記貫通孔及び/又は前記ねじ穴により形成される面を除く)、
前記基材は、前記接合面と前記反対側の面との距離が、基材における厚さ方向の距離の中で最大であり、
前記ガラス部材の厚さをHm、前記ガラス部材のヤング率をEm、前記ガラス部材の線膨張係数をαm、前記ガラス部材の幅をW、前記基材の厚さをHs、前記基材のヤング率をEs、前記基材の線膨張係数をαsで表して、前記ガラス部材の反りΔHを下記の式によって定義したときに、
前記ガラス部材の反りが0である温度と室温との温度差ΔTが1000℃の場合の前記ガラス部材の反りΔHが0.004mm未満である、複合部材。
ΔH=(1/|K|)-√{(1/K)
2-(W/2)
2}
(式において、
K=(A×F-B×D)/(A×C-B
2)
A=Es×Hs+Em×Hm
B=(1/2)×[Es×Hs
2+Em×{(Hs+Hm)
2-Hs
2}]
C=(1/3)×[Es×Hs
3+Em×{(Hs+Hm)
3-Hs
3}]
D=ΔT×{Es×αs×Hs+Em×αm×Hm}
F=(ΔT/2)×[Es×αs×Hs
2+Em×αm×{(Hs+Hm)
2-Hs
2}])
ここで、前記ガラス部材の厚さHmは、前記ガラス部材の表面が凹面の場合は凹部の底における前記ガラス部材の厚さであり、前記ガラス部材の表面が凸面の場合は凸部の端における成形部の厚さであり、
前記ガラス部材の幅Wは、前記接合面の面内の寸法の最小幅であり、
前記基材の厚さHsは、前記基材における、前記接合面と前記反対側の面との距離である(但し、前記接合面および前記反対側の面は、前記基材が貫通孔及び/又はねじ穴を有する場合は、前記貫通孔及び/又は前記ねじ穴により形成される面を除く)。
【請求項2】
前記ガラス部材の厚さHmが6mm以下である、
請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記ガラス部材の厚さHmが1mm以下である、
請求項2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記ガラス部材の厚さHmが0.5mm以下である、
請求項3に記載の複合部材。
【請求項5】
前記基材のヤング率Esが150GPa以上である、
請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項6】
前記ガラス部材の線膨張係数αmと前記基材の線膨張係数αsとの差が3×10
-6(1/℃)以下である、
請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項7】
互いに対向して設けられた2つの型部材を含む成形用型であって、
前記2つの型部材のうちの少なくとも一方は、請求項1~6のうちのいずれか一項に記載の複合部材である、
成形用型。
【請求項8】
前記2つの型部材を収容するガイド材を備える、
請求項7に記載の成形用型。
【請求項9】
前記複合部材が、1つの前記基材に接合された複数の前記ガラス部材を含む、
請求項7または8に記載の成形用型。
【請求項10】
成形部であるガラス部材と、前記ガラス部材を支持する基材とを接合して複合部材を作製する複合部材の製造方法であって、
前記ガラス部材の表面は凹面または凸面であり、
前記基材の縦断面において、前記ガラス部材と前記基材との接合面と、前記基材における前記接合面に対向する反対側の面とは平行であり(但し、前記接合面および前記反対側の面は、前記基材が貫通孔及び/又はねじ穴を有する場合は、前記貫通孔及び/又は前記ねじ穴により形成される面を除く)、
前記基材は、前記接合面と前記反対側の面との距離が、基材における厚さ方向の距離の中で最大であり、
前記ガラス部材の厚さをHm、前記ガラス部材のヤング率をEm、前記ガラス部材の線膨張係数をαm、前記ガラス部材の幅をW、前記基材の厚さをHs、前記基材のヤング率をEs、前記基材の線膨張係数をαsで表して、前記ガラス部材の反りΔHを下記の式によって定義したときに、前記ガラス部材の反りが0である温度と室温との温度差ΔTが1000℃の場合の前記ガラス部材の反りΔHが0.004mm未満であるように、前記ガラス部材と前記基材とを選定し、
前記ガラス部材と前記基材とを接合する、
複合部材の製造方法。
ΔH=(1/|K|)-√{(1/K)
2-(W/2)
2}
(式において、
K=(A×F-B×D)/(A×C-B
2)
A=Es×Hs+Em×Hm
B=(1/2)×[Es×Hs
2+Em×{(Hs+Hm)
2-Hs
2}]
C=(1/3)×[Es×Hs
3+Em×{(Hs+Hm)
3-Hs
3}]
D=ΔT×{Es×αs×Hs+Em×αm×Hm}
F=(ΔT/2)×[Es×αs×Hs
2+Em×αm×{(Hs+Hm)
2-Hs
2}])
ここで、前記ガラス部材の厚さHmは、前記ガラス部材の表面が凹面の場合は凹部の底における前記ガラス部材の厚さであり、前記ガラス部材の表面が凸面の場合は凸部の端における成形部の厚さであり、
前記ガラス部材の幅Wは、前記接合面の面内の寸法の最小幅であり、
前記基材の厚さHsは、前記基材における、前記接合面と前記反対側の面との距離である(但し、前記接合面および前記反対側の面は、前記基材が貫通孔及び/又はねじ穴を有する場合は、前記貫通孔及び/又は前記ねじ穴により形成される面を除く)。
【請求項11】
前記ガラス部材のひずみ点が600℃以上である、
請求項10に記載の複合部材の製造方法。
【請求項12】
請求項7~9のうちのいずれか一項に記載の成形用型を用いてガラス材料を成形する、
ガラス材料の成形方法。
【請求項13】
請求項7~9のうちのいずれか一項に記載の成形用型を用いてガラス材料を成形して光学素子を製造する、光学素子の製造方法。
【請求項14】
請求項7~9のうちのいずれか一項に記載の成形用型を用いてガラス材料を成形して光学素子を得、前記光学素子を用いて光学系を製造する、光学系の製造方法。
【請求項15】
請求項7~9のうちのいずれか一項に記載の成形用型を用いてガラス材料を成形して光学素子を得、前記光学素子を用いて撮像装置を製造する、撮像装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材と基材とを含む複合部材、複合部材を用いた成形用型、複合部材の製造方法およびガラス材料の成形方法ならびに光学素子、光学系、および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス材料に対してガラスモールドプレス成形(以下、プレス成形という。)を行うための成形用型の形材として、成形中のガラス材料の変形を抑えるために、金属、超硬合金、セラミックなどのヤング率の高い材料が用いられる。しかし、一般に、硬い材質ほど成形用型の加工に時間がかかる。
【0003】
成形用型の形材として、ガラスのような加工性がよい材質を用いると、成形用型の加工の時間を短縮できる。ガラスは、エッチング、切削、研磨、プレス成形など様々な加工方法によって多様な形状のガラス加工品に加工可能である。そのようなガラス加工品でUV硬化樹脂のインプリントの型を形成することができる。また、特許文献1には、ガラスを材料とした成形用型を用いてガラス材料に対してプレス成形を行う例が記載されている。
【0004】
しかし、ガラスのヤング率は、金属、超硬合金、セラミックなどの部材のヤング率に比べて小さい。したがって、金属、超硬合金、セラミックなどの部材による成形用型を用いる場合に比べて、成形中のガラス材料の変形(所望の形状からの変形)が大きくなる。
【0005】
特許文献2には、高速度鋼の基材の上にガラス部材としての結晶化ガラスを配置した成形用型が記載されている。
【0006】
特許文献3には、ガラス部材と基材からなる複合部材(ガラス材料プレス成形用型)が記載されている。
【0007】
なお、非特許文献1には、積層体の反りの評価方法が記載されている。非特許文献2には、BK-7ガラスの互換材であるS-BSL7をガラス材料とし、超硬合金を金型として球面レンズのモールドプレス成形を行った際の、成形された球面レンズの形状の評価に関することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特公平2-1780号公報
【文献】日本国特開2003-26429号公報
【文献】日本国特開2002-348130号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】山科 直利、「特5 銅張り積層板のそりのメカニズム」、討論会講演要旨、合成樹脂工業協会、1985年、第35巻、p.125-128
【文献】伊藤 寛明他3名、「ガラスレンズのモールドプレスにおける最適成形条件の評価」、日本機械学会論文集(A編)、2013年11月、第79巻、第807号、p.131-135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガラス部材と基材を含む成形用型を形成する場合、ガラス部材と基材とを接合するときに、接合の際に発生する熱応力によって成形用型が歪む場合がある。一般に、ガラス材料のプレス成形は、600℃などの高温で行われる。例えば、成形温度より高温の800~1000℃でガラス部材と基材との接合がなされた場合、室温になったときに、大きな熱応力が生じる。熱応力は、ガラス部材の破損の可能性を高める。また、熱応力は、ガラス部材に変形を生じさせる可能性を高める。
【0011】
本発明は、ガラス部材と基材とを含む複合部材に生じる熱変形を緩和することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による複合部材は、成形部であるガラス部材と、ガラス部材を支持する基材とを含む複合部材であって、ガラス部材の厚さをHm、ガラス部材のヤング率をEm、ガラス部材の線膨張係数をαm、ガラス部材の幅をW、基材の厚さをHs、基材のヤング率をEs、基材の線膨張係数をαsで表して、ガラス部材の反りΔHを下記の式によって定義したときに、ガラス部材の反りが0である温度と室温との温度差ΔTが1000℃の場合のガラス部材の反りΔHが0.004mm未満であることを特徴とする。
ΔH=(1/|K|)-√{(1/K)2-(W/2)2}
(式において、
K=(A×F-B×D)/(A×C-B2)
A=Es×Hs+Em×Hm
B=(1/2)×[Es×Hs2+Em×{(Hs+Hm)2-Hs2}]
C=(1/3)×[Es×Hs3+Em×{(Hs+Hm)3-Hs3}]
D=ΔT×{Es×αs×Hs+Em×αm×Hm}
F=(ΔT/2)×[Es×αs×Hs2+Em×αm×{(Hs+Hm)2-Hs2}])
【0013】
本発明による成形用型は、互いに対向して設けられた2つの型部材を含む成形用型であって、2つの型部材のうちの少なくとも一方が上記の複合部材であることを特徴とする。
【0014】
本発明による複合部材の製造方法は、成形部であるガラス部材と、ガラス部材を支持する基材とを接合して複合部材を作製する複合部材の製造方法であって、ガラス部材の厚さをHm、ガラス部材のヤング率をEm、ガラス部材の線膨張係数をαm、ガラス部材の幅をW、基材の厚さをHs、基材のヤング率をEs、基材の線膨張係数をαsで表して、ガラス部材の反りΔHを下記の式によって定義したときに、ガラス部材の反りが0である温度と室温との温度差ΔTが1000℃の場合のガラス部材の反りΔHが0.004mm未満であるように、ガラス部材と基材とを選定し、ガラス部材と基材とを接合することを特徴とする。
ΔH=(1/|K|)-√{(1/K)2-(W/2)2}
(式において、
K=(A×F-B×D)/(A×C-B2)
A=Es×Hs+Em×Hm
B=(1/2)×[Es×Hs2+Em×{(Hs+Hm)2-Hs2}]
C=(1/3)×[Es×Hs3+Em×{(Hs+Hm)3-Hs3}]
D=ΔT×{Es×αs×Hs+Em×αm×Hm}
F=(ΔT/2)×[Es×αs×Hs2+Em×αm×{(Hs+Hm)2-Hs2}])
【0015】
本発明によるガラス材料の成形方法は、上記の成形用型を用いてガラス材料を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガラス部材と基材とを含む複合部材に生じる熱変形を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、複合部材の一例である型部材を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、型部材の他の例を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、ガラスのヤング率を70GPaとし、ガラスの表面に対して1MPaの圧力をかけた場合の、厚さHmに対する変位量を示す説明図である。
【
図4】
図4は、2つの型部材を含む成形用型を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、他の成形用型を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図1に示された型部材を用いてガラス材料が成形される様子を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、成形部の厚さを変えた場合のシミュレーションの結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明による複合部材の一例である型部材10を模式的に示す断面図である。型部材10は、成形部11と基材12とを含む。成形部11は、ガラスを材料とするガラス部材である。成形部11は、基材12と接合されている。接合は、例えば、はんだ付けやろう付けなどの他の部材を介した接合である。成形部11と基材12とを高温中でプレスするなどして、分子間力や共有結合などの化学的な結合を利用して直接接合させてもよい。
【0019】
成形部11と接合される基材12の材料として、金属、超硬合金、セラミックなどのヤング率の高い材料を用いることができる。基材12のヤング率が150GPa以上であることが好ましく、300GPa以上であることがより好ましく、450GPa以上であることがさらに好ましい。
ヤング率の上限は特にないが、一般的に利用できる材料のヤング率の範囲はダイアモンドの1100GPa以下である。
ヤング率の測定は引張試験、圧縮試験、ねじり試験、共振法、超音波パルス法、振子法などを用いることができる。測定方法は例えば下記の規格に記載されている。
JIS R1602:1995 「ファインセラミックスの弾性率試験方法」
JIS R1605:1995 「ファインセラミックスの高温弾性率試験方法」
JIS Z2201:1998 「金属材料引張試験片」
JIS Z2241:2011 「金属材料引張試験方法」
JIS G0567J:2012 「鉄鋼材料及び耐熱合金の高温引張試験方法」
JIS Z2280:1993 「金属材料の高温ヤング率試験方法」
【0020】
図1において、Wは、成形部11の幅を表す。Hsは、基材の厚さを表す。Hmは、成形部11の厚さを表す。Hmとしては、成形部11の表面が凹面の場合は凹部の底における成形部11の厚さを用いることができ、成形部11の表面が凸面の場合は凸部の端における成形部11の厚さを用いることができる。幅Wとして、面内の寸法の最小幅を用いることができる。成形部11の端部がなだらかに基材12に接続するような場合には、幅Wとして、成形部11における高さがHm以下の部分の平均的な幅を用いることができる。成形部11における高さがHm以下の部分の平均的な幅Wは、高さの値をhとして、W=Σ(Δh×W(h))/Hmで求めることができる。ここで、W(h)は高さがhの部分における成形部11の幅を表す。また、成形部11は成形のための曲面を有しているが、その深さをSとする。
【0021】
なお、成形部11の表面に中間膜や保護膜が被覆されてもよい。また、成形部11と基材12との間に、接着層があってもよい。中間膜や保護膜の材料として、チタン、ジルコニウム、ニオブ、ハフニウム、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、ルテニウム、ロジウム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、レニウム、オスミウム、イリジウム、銅、銀、金、白金などの金属、貴金属やこれらの合金、酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物を用いることができる。また、シリコン、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、炭化ケイ素などのシリコン化合物、アモルファスカーボンやダイアモンド状カーボンなどのカーボン、ホウ素化合物を用いることができる。膜は、複数の材料によって複層化されていてもよい。
【0022】
なお、成形部11の表面形状は、断面視で、軸対称な非球面形状に限られず、自由曲面などの形状であってもよい。また、成形部11の表面は、凹面に限られず、凸面であってもよい。
【0023】
また、
図1に示された例では、基材12の縦断面の形状は四角である。しかし、基材12の縦断面の形状は四角に限られない。なお、基材12の横断面の形状は一例として円形である。
【0024】
図2は、型部材の他の例を模式的に示す断面図である。基材12は、
図2の(a)に示すように、フランジを有する構造であってもよい。また、基材12は、一部に貫通穴やねじ穴を有するような構造であってもよい。また、
図2の(b)に示すように、成形部11の幅と基材12の幅とが異なっていてもよい。
図2の(c)に示すように、凹部が設けられた基材12における凹部の中に成形部11が配置されたような構成であってもよい。
【0025】
成形部11に使用されるガラスのひずみ点は400℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましく、600℃以上であることがさらに好ましい。その理由は、多くの光学ガラスの成形温度が400~600℃の範囲内であり、この温度帯において、成形中に十分形状を保持できることが必要であるからである。ひずみ点は、JIS-R3103-2:2001に規定されている方法などで測定可能である。ガラスのひずみ点の上限は特にないが、一般的に利用できる材料として石英ガラスがあり、ひずみ点は1200℃以下となる。
【0026】
また、上記のガラスの成形温度で耐久する接合を作るために、600℃以上の温度で接合を形成するのが好ましい。800℃以上の温度で接合を形成するとより好ましい。また、仮に室温に近い温度で反りがない状態で接合できたとしても、ガラスの成形温度まで昇温した際に生じる反りを考慮する必要がある。接合を形成する温度の上限はガラスのひずみ点以下であることが好ましいため上限は1200℃以下とすることができる。
【0027】
次に、成形部11の変形を検討する。
【0028】
以下、非特許文献1に記載されたk層の積層板の反りの一般式を使用して検討を行う。下記の(1)式において、Ekは、各層の弾性率を表す。αkは、各層の線膨張係数を表す。Zkは、任意の位置に設定可能な基準座標からの各層の界面の厚さ方向の位置を表す。tは、基準温度からの温度差を表す。Kは、温度差tによって生じる積層体の変形の曲率Kを表す。
【0029】
K=(A×F-B×D)/(A×C-B2)
A=Σ{Ek×(Zk-Zk-1)}
B=(1/2)×Σ{Ek×{Zk
2-Zk-1
2}}
C=(1/3)×Σ{Ek×(Zk
3-Zk-1
3)}
D=t×Σ{Ek×αk×(Zk-Zk-1}
F=(t/2)×Σ{Ek×αk×(Zk
2-Zk-1
2)}
・・・(1)
【0030】
上記の(1)式を積層体の層数を2とし、曲率Kの円弧によって生じる厚さ方向の変位量(反り)をΔHとすると、ΔHは、下記の(2)式で表される。本実施形態では、2層は、成形部11と基材12とに相当する。
【0031】
ΔH=(1/|K|)-√{(1/K)2-(W/2)2} ・・・(2)
【0032】
ここで、
K=(A×F-B×D)/(A×C-B2)
A=Es×Hs+Em×Hm
B=(1/2)×[Es×Hs2+Em×{(Hs+Hm)2-Hs2}]
C=(1/3)×[Es×Hs3+Em×{(Hs+Hm)3-Hs3}]
D=ΔT×{Es×αs×Hs+Em×αm×Hm}
F=(ΔT/2)×[Es×αs×Hs2+Em×αm×{(Hs+Hm)2-Hs2}]
・・・(3)
である。
【0033】
上記の(3)式において、Emは、成形部11であるガラス部材のヤング率を示す。αmは、成形部11であるガラス部材の線膨張係数を示す。Esは、基材12のヤング率を示す。αsは、基材12の線膨張係数を示す。ΔTは、型部材10を成形するときの温度(成形部11と基材12とを接合するときの接合温度:換言すれば、ガラス部材の反りが0であるときの温度)と室温との差を表す。ここで、室温は20~25℃の範囲の温度とし、以下で断りがない場合、20℃とする。
【0034】
なお、Es、Emの単位は[MPa]である。Hm、Hsの単位は[mm]である。線膨張係数の単位は[1/℃]である。ΔTの単位は[℃]である。ΔHの単位は[mm]である。
線膨張係数は熱機械分析装置(TMA:thermomechanical analyzer)を用いて計測できる。また、下記のJIS規格による方法を用いてもよい。
JIS Z2285:2003 金属材料の線膨張係数の測定方法
JIS R1618:2002 ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法
JIS R3251:1995 低膨張ガラスのレーザー干渉法による線膨張率の測定方法
JIS R3102:1995 ガラスの平均線膨張係数の試験方法
【0035】
上記の(2)式を用いる場合、ΔT=1000([℃])としたときに、ΔH<0.004を満たすようにW、Hs、Hmが選定されることが好ましい。また、ΔT=1000としたときに、ΔH<0.002を満たすようにW、Hs、Hmが選定されることがより好ましい。ΔT=1000としたときに、ΔH<0.001を満たすようにW、Hs、Hmが選定されることがさらに好ましい。ΔT=1000としたときに、ΔH<0.0005を満たすようにW、Hs、Hmが選定されることが一層好ましい。なお(2)式からわかるようにΔHの下限は0である。
【0036】
なお、上記のような条件でW、Hs、Hmが選定されることが好ましい理由は、後述される。
【0037】
本実施形態では、積層体(成形部11と基材12)の層数は2である。したがって、反りは、上記の(2)式および(3)式で評価される。また、はんだ付けやろう付けなどで成形部11と基材12とが接合された場合、成形部11と基材12との間に接着層が介在するが、接着層が成形部11および基材12に比べて十分薄い場合には、接着層の影響は少ないとして上記の(3)式を用いることができる。接着層による影響が無視できないと判断される場合には、すなわち、層数を3とした方がよいと判断される場合には、上記の(3)式ではなく、上記の(1)式を用いてKを計算してもよい。接着層による影響が無視できるか否かは、例えば、上記の(1)式によってKを計算した結果を用いて(2)式により判断される。なお、成形部11の表面に中間膜や保護膜が被覆される場合、中間膜や保護膜による影響が無視できないと判断されるときには、上記の(1)式を用いてKを計算してもよい。
【0038】
表1には、いくつかの積層体を対象にして、上記の(2)式を用いて反りを計算した結果が示されている。表1に示すように、ヤング率Esが高い基材12を用い、成形部11の厚さHmを薄くし、成形部11の幅Wの値を小さくする等によって反りΔHの値を小さくすることができる。なお、ΔT=1000とした。
【0039】
【0040】
表1を参照すると、成形部11の幅Wは、20mm以下であることが好ましく10mm以下であるとより好ましく5mm以下であるとさらに好ましい。成形部11の幅は0より大きい値であればよい。
【0041】
成形部11の線膨張係数αmと基材12の線膨張係数αsとの差を小さくすることも温度変化による膨張差を低減することに寄与する。成形部11の線膨張係数αmと基材12の線膨張係数αsとの差は、3×10-6[1/℃]以下であることが好ましく、2×10-6[1/℃]以下であることがより好ましい。基材12の材料として、アルミナ、窒化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックスや超硬合金を用いると、基材のヤング率を大きくすることができるので好ましいが、それらの材料の線膨張係数は2.5~8.0×10
-6[1/℃]の範囲にある。したがって、成形部11の材料のガラスの線膨張係数も、そのような範囲にあることが好ましい。なお、線膨張係数の差の下限は0である。
【0042】
成形部11の厚さHmは、成形中の変位量が小さいという点からも、薄い方が好ましい。
【0043】
図3には、ガラスのヤング率を70GPaとし、ガラスの表面に対して1MPaの圧力をかけた場合の、厚さHmに対する厚さ方向の変位量が示されている。
【0044】
例えば、非球面レンズなどでは100nm以下の形状不良が問題になる場合がある。加圧時の成形部11の厚さ方向の変位量は、100nm以下であるなど、極力抑制されることが好ましい。したがって、表1も参照すると、成形部11の厚さHmは、6mm以下であることが好ましい。3mm以下であるとより好ましい。1mm以下であるとさらに好ましい。0.5mm以下であると一層好ましい。なお、Hmは0より大きい値であればよい。
【0045】
以上に説明したパラメータ(W,Hm、および、αm,αs)の好ましい値に基づいて、表1(特に、[4]カラム)および後述する比較例も参照すると、成形部11の反りΔHが0.004mm未満であるという条件が導かれる。基材の厚さHsは0より大きい値であればよい。また、基材が厚すぎると加熱の際に熱容量が大きくなるなどの問題があるため、Hsは100mm以下が好ましく、50mm以下であるとより好ましく、20mm以下であるとより好ましい。
【0046】
また、成形部11の深さSは、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.75mm以下がさらに好ましい。このようにすることで、ガラスの厚さの差による不均一な形状変形を抑制することができる。成形部11の深さSは0より大きければよい。
【0047】
図4は、互いに対向して設けられる2つの型部材(第1の型部材10a、第2の型部材10b)を含む成形用型を模式的に示す断面図である。
図4に示す成形用型は、ガラスを材料とした成形部11aと基材12aとを有する第1の型部材10a、ガラスを材料とした成形部11bと基材12bとを有する第2の型部材10b、第1の型部材10aと第2の型部材10bとを収容するために第1の型部材10aと第2の型部材10bとを囲むように設けられたガイド材21、および内部材22を含む。第1の型部材10aまたは第2の型部材10bが加圧されることによって、ガラス材料23が成形される。
【0048】
なお、第1の型部材10aも第2の型部材10bも、上述した好ましい値のパラメータに基づいて作製された部材である。しかし、2つの型部材のうちの一方が上述した好ましい値のパラメータに基づいて作製された部材であってもよい。また、2つの型部材のうちの一方が上述した複合部材(すなわち、成形部であるガラス部材と、前記ガラス部材を支持する基材とを含む複合部材)以外の型部材であってもよい。例えば、2つの型部材のうちの一方の型部材は、単一部材によって構成されたものでもよいし、基材に対してガラス材料以外の材料による成形部を含む複合部材でもよい。そのような単一材料による型部材やガラス材料以外の成形部として、金属、超硬合金、セラミックなどを使用することができる。また、対向する型部材における成形部の表面形状は、それぞれ自由に設計できる。すなわち、それぞれの成形部の表面形状は、断面視で、軸対称な非球面形状に限られず、凹状や凸状や波状の自由曲面などの形状や平坦であってもよい。また、対向する型部材同士で同じ表面形状でなくてよく、例えば、一方の成形部の表面形状が凹状の曲面形状で、他方の成形部の表面形状が凸状や平坦状であってもよい。なお、対向する型部材同士の成形部の表面形状の組み合わせは、この限りではない。また、2つの対向する型部材のうちの一方が上述した複合部材でない場合において、該型部材に含まれる成形部の表面に、上述した中間膜や保護膜が被覆されてもよい。または、該型部材に含まれる成形部の表面に、離型剤を塗布するなどの離型処理が施されていてもよい。
【0049】
内部材22は、例えばリング状の構造である。内部材22は、成形時のガラス材料23の外形を決めるために用いられる。外形を決める必要がない場合には、内部材22はなくてもよい。
【0050】
ガイド材21や内部材22として、ガラス、金属、セラミックス、超硬合金などの部材を使用することができる。また、第1の型部材10a、第2の型部材10b、内部材22、ガイド材21の各線膨張係数を、それぞれ、α10a、α10b、α22、α21とした場合、α10a≧α10b≧α21、または、α22≧α21であってもよい。そのような場合には、熱膨張時に部材間の隙間を狭くすることができ、例えば、第1の型部材10aと第2の型部材10bとの間の偏心を抑制することができる。
【0051】
また、
図4には、ガイド材21の内部に1組の第1の型部材10aと第2の型部材10bとが配置された構成の成形用型が例示されているが、成形用型は、そのような構造に限られない。例えば、ガイド材21に複数の貫通穴が設けられ、複数組の第1の型部材10aと第2の型部材10bとが配置されるように構成されてもよい。
【0052】
図5は、他の成形用型を模式的に示す断面図である。
図5に示す成形用型は、ガラスを材料とする成形部11cと基材12cとを有する第1の型部材10c(複合部材)、ガラスを材料とする成形部11dと基材12dとを有する第2の型部材10d(複合部材)、ガイド材31、内部材32、およびピン部材33を含む。第1の型部材10cまたは第2の型部材10dが加圧されることによって、ガラス材料23が成形される。
【0053】
図5に示す例では、第1の型部材10cおよび第2の型部材10dは、それぞれ、ガラスを材料とする複数の成形部11c,11dを有している。また、第1の型部材10cおよび第2の型部材10dには、ピン部材33を通すための貫通穴が設けられている。ピン部材33によって、第1の型部材10cおよび第2の型部材10dの回転が抑制される。ピン部材33を通すための貫通穴は、複数設けられていてもよい。複数の貫通穴が設けられる場合には、複数のピン部材33を設置できる、2つ以上のピン部材33によって、第1の型部材10cおよび第2の型部材10dの回転が抑制される。よって、ガイド材31はなくてもよい。
【0054】
第1の型部材10cも第2の型部材10dも、上述した好ましい値のパラメータに基づいて作製された部材である。しかし、2つの型部材のうちの一方が上述した好ましい値のパラメータに基づいて作製された部材であってもよい。例えば、
図5に示された構成について、各成形部の幅、厚さを用いて上記の(2)式の計算を行ったときに、ΔT=1000としたときに、ΔH<0.004であることが好ましく、ΔT=1000としたときに、ΔH<0.002であるとより好ましく、ΔT=1000としたときに、ΔH<0.001であるとさらに好ましく、ΔT=1000としたときに、ΔH<0.0005であると一層好ましい。なお、
図4の例とは1つの型部材に含まれる成形部の数が異なるだけで、本例においても、2つの型部材のうちの一方が上述した複合部材以外の型部材(例えば、上述したような単一材料による型部材や基材に対してガラス材料以外の材料による成形部を含む複合部材)であってもよい点は
図4の例と同様である。なお(2)式からわかるようにΔHの下限は0である。
【0055】
内部材32は、例えば、複数の貫通穴が設けられた板状に形成されている。内部材32は、成形時のガラス材料23の外形を決めるために用いることができる。ガラス材料23の外形を決める必要がない場合、内部材32はなくてもよい。
【0056】
ガイド材31、内部材32やピン部材33として、ガラス、金属、セラミックス、超硬合金などの部材を使用することができる。また、第1の型部材10c、第2の型部材10d、内部材32、ガイド材31、ピン部材33の各線膨張係数をα10c、α10d、α32、α31、α33とした場合、α10c≧α10d≧α31、または、α33≧α10c≧α10d、または、α32≧α31、または、α33≧α32であってもよい。
【0057】
次に、
図1に示された型部材10または
図5に示された成形用型を例にして、型部材10または第1の型部材10c(もしくは、第2の型部材10d)の製造方法を説明する。
【0058】
例えば、成形部11または成形部11c(もしくは、成形部11d)の外形に相当する形状の金型を用意する。そのような金型を使用して成形部11または成形部11c(もしくは、成形部11d)を作製する。
【0059】
また、基材12または基材12c(もしくは、基材12d)を用意する。成形部11または成形部11c(もしくは、成形部11d)の厚さHmおよび幅Wと、成形部11または成形部11c(もしくは、成形部11d)の材料のパラメータ(ヤング率および線膨張係数)と、基材12または基材12c(もしくは、基材12d)の材料のパラメータとは、上記の(2)式を用いて算出されるΔHが0.004mm以下になるように選定されている。なお、ΔTは1000℃とする。また、基材12または基材12c(もしくは、基材12d)として、例えば、ひずみ点が600℃以上のガラス部材を使用する。
【0060】
次いで、高温環境下(例えば、800℃)で、成形部11または成形部11c(もしくは、成形部11d)と、基材12または基材12c(もしくは、基材12d)とを接合する。接合方法は、既に述べたとおりである。なお、高温環境は、ガラス材料23の成形を行うときの温度以上の温度環境である。
【0061】
なお、本実施形態では、ガラス材料23の成形を行う型部材を例にしたが、型部材の用途はガラス成形に限られない。型部材を、熱硬化樹脂、UV硬化樹脂などの樹脂材料の成形用型として用いることもできる。また、高温環境下で成形部11の作製および成形部11と基材12との接合を同時に行ってもよい。
【0062】
次に、本実施形態の成形用型を用いたガラス材料の成形方法の一例を説明する。ここでは、
図4に示された成形用型を用いる場合を例にする。
【0063】
ガラス材料23を、第2の型部材10bに載置する。その後、第1の型部材10aを所定位置まで下降させる。次いで、複合部材(第1の型部材10a、および第2の型部材10b)をプレス成形時の温度(例えば、600℃)にまで加熱し、第1の型部材10aを加圧する。その後、複合部材および成形されたガラス材料23を徐冷して、第1の型部材10aを上昇させ、成形されたガラス材料23を取り出す。
【0064】
なお、第1の型部材10aを下降させるのではなく、第2の型部材10bを上昇させるようにしてもよい。また、
図4に示された成形用型を用いる場合について説明したが、
図5に示された成形用型を用いる場合にも、同様の方法でガラス材料23が成形される。
【実施例】
【0065】
(実施例)
以下、
図1に示された型部材10を用いる実施例を説明する。本実施例では、成形部11は、ヤング率が80GPa、線膨張係数が3.2×10
-6[1/℃]のガラス部材である。成形部11の厚さHmは0.13mmである。成形部11の幅Wは2.3mmである。成形部11の表面形状は、曲率半径が1.13mmの球面である。球面の深さSは0.37mmである。
【0066】
基材12は、ヤング率が600GPa、線膨張係数が5.5×10-6[1/℃]の超硬合金である。基材12の厚さHsは、5mmである。
【0067】
上記の(2)式を用いて、ΔT=1000の場合のΔHを計算すると、ΔH=8nmであった。
【0068】
図6は、
図1に示された型部材を用いてガラス材料23が成形される様子を模式的に示す断面図である。
図6の(a)には、型部材として、ガラスを材料とした成形部11fと基材12fとを有する第2の型部材10fが示されている。対向する型部材として、ガラスを材料とした成形部11eと基材12eとを有する第1の型部材10eが示されている。なお、成形部11eの表面形状は、曲率半径が1.76mmの球面が近似形状となる非球面であり、外側に向かって凸形状である。
図6の(b)に示すように、ガラス成形品24が得られる。
【0069】
ガラス材料23としてS-BSL7を用い、
図6に示す型部材を用いてガラス材料23を成形することを模擬する有限要素法による計算を実施した。なお、非特許文献2を参照して、有限要素法の計算に用いる剛性率のProny係数および緩和時間を、表2に示すように設定した。また、ガラスのポアソン比を0.205とした。
【0070】
【0071】
有限要素法による模擬成形の後、成形後の成形部11fの厚さ方向の変位量を計算した。有限要素法による計算でも、変位量の平均値は8nmと十分小さいことが確認された。
【0072】
さらに、成形部11fの長さ(厚さ)を変えた場合のシミュレーションを行った。
図7に、シミュレーション結果が示されている。
図7に示すように、成形部11fが薄くなるにつれて変位量が小さくなることが確認された。
【0073】
(比較例)
図1に示された型部材10を用いる比較例を説明する。成形部11は、ヤング率が70GPa、線膨張係数が4.0×10
-6[1/℃]のガラス部材である。基材12は、ヤング率が500GPa、線膨張係数が5.5×10
-6[1/℃]の超硬合金である。基材12の厚さHsは10mmである。成形部11の厚さHmは10mmである。成形部11の幅Wは20mmである。なお、それらのパラメータの値は、表1における[4]カラムに記載された値に相当する。
【0074】
上記の(2)式を用いてΔT=1000の場合のΔHを計算すると、ΔH=0.0042mmであった。そのような値では、接合による型部材の形状変形が大きくなるので、型部材としての使用に適するとはいえないと考えられる。
【0075】
本実施形態のガラス材料23の成形方法で成形された光学素子はガラスレンズであるが、これに限定されず透光性の材料、例えば透光性の樹脂からなるレンズであってもよい。また、ガラスレンズの形状は限定されず、非球面でも球面でも平坦でもよい。
【0076】
光学素子は、種々の光学系に適用(例えば、組込)可能である。
【0077】
光学系として、例えば、上記の光学素子と共働するレンズ、反射防止フィルムやバンドパスフィルタなどの光学フィルタ、カバーガラス、絞り等がある。ただし、それらは一例であって、上記の光学素子の適用対象はそれらに限られない。
【0078】
また、上記の光学素子は、カメラなどの撮像装置に適用されることが想定される。
【0079】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年6月29日出願の日本特許出願2018-125019に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0080】
10 型部材
11 成形部
12 基材
10a,10c,10e 第1の型部材
10b,10d,10f 第2の型部材
11a,11c,11e 第1の成形部
11b,11d,11f 第2の基材
12a,12c,12e 第1の成形部
12b,12d,12f 第2の基材
21 ガイド材
22 内部材
23 ガラス材料
31 ガイド材
32 内部材
33 ピン部材