(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/20 20060101AFI20240509BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20240509BHJP
B60T 8/171 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B60T13/20
B60T8/00 Z
B60T8/171 Z
(21)【出願番号】P 2021031060
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】増田 芳夫
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-127331(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0033009(US,A1)
【文献】米国特許第06322164(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00-13/74
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを有し、当該電動モータの駆動を開始することによって車両に摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置に適用される制御装置であって、
前記電動モータを制御するモータ制御部と、
前記摩擦制動力の目標値の大きさに対応する指標値を取得する取得部と、を備え、
前記指標値の大きさを判定するための値を制限判定値として、
前記モータ制御部は、前記指標値が前記制限判定値以下である場合には前記電動モータの回転数の増加速度を制限し、前記指標値が前記制限判定値を超えると、当該制限を解除する
制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記電動モータの駆動に由来する音に対する暗騒音の大きさを推定した暗騒音レベルを取得し、
前記モータ制御部は、前記暗騒音レベルが大きいほど前記制限判定値を小さく設定する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記電動モータの駆動に由来する音に対する暗騒音の大きさを推定した暗騒音レベルを取得し、
前記モータ制御部は、前記指標値が前記制限判定値以下である場合には、前記暗騒音レベルが小さいほど前記増加速度を小さくする
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記車両の車速が大きいほど前記暗騒音レベルを大きくする
請求項2または3に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の摩擦制動装置を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ホイールシリンダ内の液圧を調整することで摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置が記載されている。この摩擦制動装置は、ホイールシリンダにブレーキ液を供給する加圧機構を備えている。加圧機構は、電動モータを動力源とするポンプを駆動させてホイールシリンダ内の液圧を高くする機能を有する。
【0003】
こうした加圧機構に関して、アキュムレータを省略したものが知られている。この場合の加圧機構は、高圧のブレーキ液を蓄える機能を備えていない。このため、摩擦制動力の発生を要求されたときには、その時点から電動モータを駆動させ始めることによって摩擦制動力を車両に発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アキュムレータを備えていない摩擦制動装置において摩擦制動力の発生を要求されたときの応答性を確保するためには、電動モータの回転数が大きくされる。電動モータの回転数が大きくなると、電動モータの駆動に伴って発生する音が大きくなる。このため、摩擦制動力を発生させる際に、摩擦制動装置が有する電動モータの駆動に伴って発生する音が車両の運転者に伝わることがある。電動モータの駆動に伴って発生する音によって、運転者が違和感を覚えることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための制御装置は、電動モータを有し、当該電動モータの駆動を開始することによって車両に摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置に適用される制御装置であって、前記電動モータを制御するモータ制御部と、前記摩擦制動力の目標値の大きさに対応する指標値を取得する取得部と、を備え、前記指標値の大きさを判定するための値を制限判定値として、前記モータ制御部は、前記指標値が前記制限判定値以下である場合には前記電動モータの回転数の増加速度を制限し、前記指標値が前記制限判定値を超えると、当該制限を解除することをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、車両の制動が開始されてから指標値が制限判定値を超えるまでの期間に、電動モータの回転数が高くなることを抑制できる。これによって、電動モータの駆動に伴って発生する音が大きくなることを抑制でき、運転者が違和感を覚えにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】制御装置の一実施形態と、同制御装置の制御対象である摩擦制動装置と、を示す模式図。
【
図2】同制御装置が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図3】同制御装置によって制限されるモータ回転数を示すタイミングチャート。
【
図4】同制御装置によって制限されるモータ回転数を示すタイミングチャート。
【
図5】変更例の制御装置によって制限されるモータ回転数を示すタイミングチャート。
【
図6】他の変更例の制御装置と、同制御装置の制御対象である摩擦制動装置と、を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、制御装置の一実施形態について、
図1~
図4を参照して説明する。
図1は、制御装置10と摩擦制動装置20とを備える車両を示す。制御装置10は、摩擦制動装置20を制御対象とする。摩擦制動装置20は、車両に摩擦制動力を発生させることができる。摩擦制動装置20を搭載する車両は、制動操作部材92を備えている。制動操作部材92は、車両の運転者による操作が可能である。制動操作部材92の一例は、ブレーキペダルである。車両は、車両を自動走行させるための指令値を算出する自動運転制御部80を備えていてもよい。自動運転制御部80は、制御装置10との間で情報を送受信することができる。
【0010】
〈摩擦制動装置〉
摩擦制動装置20について説明する。摩擦制動装置20は、車両の各車輪91に対応した制動機構30を備えている。
図1には、車両が備える車輪91のうち一つの車輪91と、当該車輪91に対応した制動機構30を例示している。他の車輪91および制動機構30については図示を省略している。
【0011】
摩擦制動装置20の一例は、液圧制動装置である。液圧制動装置では、制動機構30が備えるホイールシリンダ31内の液圧であるWC圧に応じて摩擦制動力を発生させることができる。制動機構30は、WC圧が高いほど、車輪91と一体回転する回転体33に対して摩擦材32を押し付ける力が大きくなるように構成されている。各制動機構30は、WC圧が高いほど大きな制動力を車輪91に付与することができる。
【0012】
摩擦制動装置20は、各ホイールシリンダ31にブレーキ液を供給することができる。図示は省略するが、摩擦制動装置20は、制動操作部材92の操作に応じてホイールシリンダ31にブレーキ液を供給するマスタシリンダを備えている。摩擦制動装置20は、ブレーキ液を加圧するための加圧機構40を備えている、加圧機構40は、電動モータ41とポンプ42とを備えている。ポンプ42は、電動モータ41を動力源とする電動式のポンプである。各ホイールシリンダ31には、ポンプ42から吐出されたブレーキ液が供給される。ポンプ42は、WC圧を増大させる加圧源である。ポンプ42の動力源である電動モータ41の駆動量が多いほど、WC圧を高くすることができる。
【0013】
液圧制動装置である摩擦制動装置20は、ブレーキ液を介して電動モータ41の駆動量を制動機構30に伝達することによって摩擦制動力を発生させることができる。一例として摩擦制動装置20は、高圧のブレーキ液を蓄えるアキュムレータを備えていない。摩擦制動力の発生を要求されたときには、電動モータ41の駆動を開始することによって摩擦制動力を車両に発生させる。WC圧が高くされるのは、電動モータ41の駆動を開始してブレーキ液が加圧されてからである。
【0014】
〈車両が備えるセンサ等〉
車両は、各種センサを備えている。
図1には、各種センサの一例として、ブレーキセンサ93および車輪速センサ94を示している。各種センサからの検出信号は、制御装置10に入力される。
【0015】
ブレーキセンサ93は、制動操作部材92の操作量を検出することができる。制動操作部材92の操作量の一例は、制動操作部材92の移動量としてのペダルストロークである。その他、制動操作部材92の操作量としては、制動操作部材92を操作するために制動操作部材92に加えられる圧力としてのペダル踏力を挙げることができる。
【0016】
車輪速センサ94は、車輪91の車輪速度を検出することができる。車輪速センサ94は、各車輪91のそれぞれに設けられている。車輪速度に基づいて車速を算出することができる。
【0017】
車両は、騒音を測定するための測定器を備えていてもよい。測定器は、車両の室内に取り付けられていてもよいし、室外に取り付けられていてもよい。また、車両は、室内に取り付けられているマイクロフォンを備えていてもよい。測定器またはマイクロフォンによって取得される音に関する情報は、制御装置10に入力することができる。
【0018】
〈制御装置〉
制御装置10について説明する。制御装置10は、各種の制御を実行する複数の機能部によって構成されている。
図1には、機能部の一例として、モータ制御部11および取得部12を示している。
【0019】
制御装置10は、以下(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、CPU並びに、RAMおよびROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。(b)各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備える。専用のハードウェア回路は、たとえば、特定用途向け集積回路すなわちASIC(Application Specific Integrated Circuit)、または、FPGA(Field Programmable Gate Array)等である。(c)各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行する専用のハードウェア回路と、を備える。
【0020】
取得部12は、各種センサからの検出信号に基づいて、車両の状態量を算出することができる。たとえば、取得部12は、ブレーキセンサ93からの検出信号に基づいて、制動操作部材92の操作量を算出することができる。すなわち、取得部12は、ペダルストローク、ペダル踏力等を算出することができる。また、取得部12は、車輪速センサ94からの検出信号に基づいて、車両の走行速度である車速を算出することができる。
【0021】
取得部12は、暗騒音の大きさを推定した暗騒音レベルBNを取得することができる。ここでの暗騒音とは、車両の運転者に伝わる騒音のうち、電動モータ41の駆動に由来する音以外の騒音のことをいう。当該暗騒音のことを、電動モータ41の駆動に由来する音に対する暗騒音ということもある。
【0022】
暗騒音レベルBNについて説明する。暗騒音レベルBNは、暗騒音が大きいと推定されるほど高くされる値である。暗騒音レベルBNが高い場合には、電動モータ41の駆動に由来する音に対する暗騒音が大きく、電動モータ41の駆動に由来する音が運転者に伝わりにくいといえる。一方で、暗騒音レベルBNが低い場合には、電動モータ41の駆動に由来する音に対する暗騒音が小さく、電動モータ41の駆動に由来する音が運転者に伝わりやすいといえる。
【0023】
たとえば、車両が停止中である場合よりも車両が走行中である場合の方が暗騒音は大きくなる。また、車両の走行速度である車速が大きい場合には、暗騒音が大きくなる。そこで取得部12は、一例として、車両の車速が大きいほど暗騒音レベルBNを大きく算出することができる。また、車両の動力源がエンジンである場合には、エンジンの回転数が大きいほど暗騒音レベルBNを大きく算出してもよい。また、取得部12は、ロードノイズが大きいほど暗騒音レベルBNを大きく算出してもよい。たとえば、車両が走行する路面の摩擦係数が大きい場合には、ロードノイズが大きくなると推定できる。そこで取得部12は、一例として、路面の摩擦係数が大きいほど暗騒音レベルBNを大きく算出することができる。
【0024】
たとえば、車両の空調装置が作動している場合には、暗騒音が大きくなる。取得部12は、空調装置が作動している場合には空調装置が作動していない場合よりも暗騒音レベルBNを大きく算出してもよい。
【0025】
たとえば、車載音響機器から音が出力されている場合にも、暗騒音が大きくなる。取得部12は、音響機器から音が出力されている場合には音響機器から音が出力されていない場合よりも暗騒音レベルBNを大きく算出してもよい。
【0026】
また、取得部12は、騒音の音圧に基づいて暗騒音レベルBNを算出してもよい。たとえば、取得部12は、測定器またはマイクロフォンから取得する音圧を用いて暗騒音レベルBNを算出してもよい。また、暗騒音の音圧が同じ場合であっても、作動音の周波数と暗騒音の周波数との差が大きい場合に比べて、作動音の周波数と暗騒音の周波数との差が小さい場合の方が、運転者が作動音を判別しにくい。このことから、特に、検出した騒音のうち、電動モータ41の駆動に由来する音の周波数と同じ周波数の音圧に基づいて暗騒音レベルBNを算出することもできる。電動モータ41の駆動に由来する音の周波数に近い所定の周波数の音圧に基づいて暗騒音レベルBNを算出しても良い。
【0027】
取得部12は、制動機構30において摩擦材32を回転体33に押し付ける圧力の目標値として、目標圧PTを取得することができる。たとえば、取得部12は、ペダルストロークに基づいて目標圧PTを算出することができる。目標圧PTは、摩擦制動力の目標値の大きさに対応する指標値の一例である。
【0028】
指標値の他の例は、摩擦制動力の目標値としての目標制動力である。その他、指標値としては、車両の目標減速度、車両に実際に発生する実制動力、車両に実際に発生する実減速度、およびブレーキ液の圧力に関してのWC圧またはポンプ42によって発生した圧力を示すサーボ圧等を挙げることができる。車両が自動走行されていない場合、すなわち運転者の操作によって車両が走行されている場合には、ペダルストロークおよびペダル踏力等の操作量を指標値としてもよい。
【0029】
モータ制御部11は、電動モータ41を制御することができる。モータ制御部11は、電動モータ41の回転数であるモータ回転数Nmを調整することによって、電動モータ41を制御する。モータ制御部11は、モータ回転数Nmの目標値である目標回転数NTにモータ回転数Nmが追従するように電動モータ41を駆動させる。目標回転数NTは、摩擦制動力を発生させるための圧力までブレーキ液を加圧するのに要する電動モータ41の回転数である。
【0030】
モータ制御部11は、モータ回転数Nmを目標回転数NTよりも小さい値に制限する制限処理を実行することもできる。制限処理は、摩擦制動力の発生が開始されるときに電動モータ41の駆動に伴って発生する音が大きくなることを抑制する処理である。制限処理の詳細は後述する。
【0031】
〈制御装置が実行する処理〉
図2は、制御装置10が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、摩擦制動力の発生が要求されると開始される。たとえば、本処理ルーチンは、制動操作部材92が操作され始めたときに開始される。車両が自動走行されている場合には、本処理ルーチンは、自動運転制御部80によって制動が要求されたときに開始することができる。
【0032】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、制御装置10は、取得部12に取得処理を実施させる。取得処理では、取得部12は、目標圧PTおよび暗騒音レベルBNを取得する。その後、制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0033】
ステップS102では、制御装置10は、モータ制御部11に制限判定値PTthを設定させる。制限判定値PTthは、指標値である目標圧PTの大きさを判定するための値である。
【0034】
制限判定値PTthの設定について説明する。モータ制御部11は、たとえば、暗騒音レベルBNに基づいて制限判定値PTthを算出することができる。この場合には、モータ制御部11は、暗騒音レベルBNが大きいほど制限判定値PTthを小さく算出する。モータ制御部11は、ブレーキ液の温度に基づいて制限判定値PTthを算出してもよい。この場合には、モータ制御部11は、ブレーキ液の温度が低いほど制限判定値PTthを小さく算出する。また、モータ制御部11は、摩擦材32の温度に基づいて制限判定値PTthを算出してもよい。この場合には、モータ制御部11は、摩擦材32の温度が低いほど制限判定値PTthを小さく算出する。なお、ブレーキ液の温度および摩擦材32の温度は、たとえば温度センサによって検出した値を用いることができる。ブレーキ液の温度および摩擦材32の温度は、摩擦制動装置20を作動させている時間等に基づいて算出することもできる。
【0035】
ステップS102の処理において制限判定値PTthが設定されると、制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
ステップS103では、制御装置10は、モータ制御部11にモータ回転数Nmの制限値を設定させる。ここでは、モータ制御部11は、モータ回転数Nmの増加速度を制限する勾配制限値を設定する。勾配制限値は、モータ回転数Nmが増加する傾きに対応する値である。勾配制限値を小さくしてモータ回転数Nmの増加速度が制限されると、モータ回転数Nmが大きくなるまでの期間が長くされる。
【0036】
勾配制限値の設定について説明する。モータ制御部11は、たとえば、暗騒音レベルBNに基づいて勾配制限値を算出することができる。この場合には、暗騒音レベルBNが大きいほど勾配制限値を大きく算出する。すなわち、暗騒音レベルBNが大きいほど増加速度の制限を緩くする。モータ制御部11は、ブレーキ液の温度に基づいて勾配制限値を算出してもよい。この場合には、モータ制御部11は、ブレーキ液の温度が低いほど勾配制限値を大きく算出する。モータ制御部11は、摩擦材32の温度に基づいて勾配制限値を算出してもよい。この場合には、モータ制御部11は、摩擦材32の温度が低いほど勾配制限値を大きく算出する。勾配制限値は、電動モータ41の駆動を開始した際に、モータ回転数Nmの増加に伴ってブレーキ液の圧力が瞬間的に高くなることを抑制できる値として算出することもできる。
【0037】
ステップS103の処理においてモータ回転数Nmの制限値が設定されると、制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
ステップS104では、制御装置10は、モータ制御部11に制限処理を開始させる。この結果として、ステップS103において設定された制限値に基づいてモータ回転数Nmが制限された状態で電動モータ41が駆動される。制御装置10は、モータ制御部11に制限処理を開始させると、処理をステップS105に移行する。
【0038】
ステップS105では、制御装置10は、目標圧PTが制限判定値PTth以下であるか否かをモータ制御部11に判定させる。目標圧PTが制限判定値PTthよりも大きい場合には(S105:NO)、制御装置10は、処理をステップS107に移行する。ステップS107では、制御装置10は、モータ制御部11に制限処理を終了させる。この結果として、モータ回転数Nmの制限が解除される。すなわち、電動モータ41は、モータ回転数Nmが目標回転数NTに追従するように駆動される。制御装置10は、モータ制御部11に制限処理を終了させると、本処理ルーチンを終了する。
【0039】
一方、ステップS105の処理において、目標圧PTが制限判定値PTth以下である場合には(S105:YES)、制御装置10は、処理をステップS106に移行する。ステップS106では、制御装置10は、取得部12に目標圧PTを更新させる。取得部12は、ステップS106の処理を実行する時点における目標圧PTを算出して目標圧PTを更新する。その後、制御装置10は、処理を再びステップS105に移行する。すなわち、ステップS105およびS106の処理によって、目標圧PTが制限判定値PTthを超えるまでモータ回転数Nmの制限が継続される。換言すれば、目標圧PTが制限判定値PTthを超えるとモータ回転数Nmの制限が解除される。
【0040】
〈作用および効果〉
本実施形態の作用および効果について説明する。
図3は、車両の制動を開始する際のモータ回転数Nmの推移を示す。
図3に示す例では、タイミングt11から摩擦制動力の発生が要求されている。
【0041】
図3の(a)に示すように、目標圧PTは、摩擦制動力の発生が要求されるタイミングt11から増加が開始されている。制御装置10によれば、摩擦制動力の発生が要求されることによって制限判定値PTthが設定される(S102)。そして、暗騒音レベルBNが大きいほど大きくされる勾配制限値が設定され(S103)、モータ回転数Nmの制限が開始される(S104)。モータ回転数Nmの増加速度が制限されることで、
図3の(b)に示すように、モータ回転数Nmは、目標回転数NTよりも小さく抑えられている。
【0042】
図3に示す例では、目標圧PTは、タイミングt11以降において一定の速度で増加されている。目標圧PTは、タイミングt12よりも前では、制限判定値PTthを超えていない。このため、タイミングt11からタイミングt12までの期間では、モータ回転数Nmの制限が継続されている(S105、S106)。
【0043】
タイミングt12において目標圧PTが制限判定値PTthを超えると、モータ回転数Nmの制限が解除される(S107)。このため、タイミングt12よりも後では、モータ回転数Nmは、目標回転数NTに基づいて制御されている。
図3に示す例では、タイミングt11からタイミングt12までの期間が、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間である。
【0044】
制御装置10によれば、車両の制動が開始されてから目標圧PTが制限判定値PTthを超えるまでの期間に、モータ回転数Nmが高くなることを抑制できる。これによって、当該期間において電動モータ41の駆動に伴って発生する音が大きくなることを抑制でき、運転者が違和感を覚えにくくなる。
【0045】
ところで、電動モータ41の駆動音が大きくなっても暗騒音が大きい場合には、運転者は、騒音が電動モータ41に由来するものであると判別しにくいと考えられる。すなわち、暗騒音が大きい場合には電動モータ41の駆動音が大きくなっても運転者が違和感を覚えにくくなる。
【0046】
制御装置10では、暗騒音レベルBNが大きいほど制限判定値PTthを小さく算出する。このため、暗騒音レベルBNが大きいほど、目標圧PTが制限判定値PTthを超えるまでの期間が短くなりやすい。すなわち、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間が短くなりやすい。このため、暗騒音レベルBNが大きく電動モータ41の駆動音が許容される場合には、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間を短くして応答性を確保することができる。これによって、制動初期にはモータ回転数Nmが高くなることを抑制しつつ、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間を短くして応答性を確保することができる。
【0047】
制御装置10によれば、目標圧PTが制限判定値PTth以下である間のモータ回転数Nmの増加速度は、暗騒音レベルBNが大きいほど大きくされる勾配制限値によって制限される。これによって、暗騒音が大きいと推定される場合にはモータ回転数Nmの増加速度の制限を緩めることができる。このため、暗騒音が大きいと推定される場合には、暗騒音が小さいと推定される場合と比較してモータ回転数Nmを早期に増加させることができる。これによって、電動モータ41を動力源とするポンプ42の吐出圧を確保でき、ブレーキ液を加圧する応答性を確保することができる。すなわち、摩擦制動力を発生させる応答性を確保することができる。
【0048】
摩擦制動装置20では、ブレーキ液の温度または摩擦材32の温度が低い場合には、摩擦制動力を発生させる応答性が低くなりやすい。このため、モータ回転数Nmの増加速度を制限することが好ましくない場合がある。制御装置10では、ブレーキ液の温度および摩擦材32の温度が低いほど制限判定値PTthを小さく算出することができる。これによって、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間を短くして応答性を確保することができる。また、制御装置10では、ブレーキ液の温度または摩擦材32の温度が低いほど勾配制限値を大きくしてモータ回転数Nmの増加速度の制限を緩めることができる。これによって、モータ回転数Nmの制限による応答性の低下を軽減して応答性を確保することができる。
【0049】
図4は、
図3に示す例と比較して目標圧PTの増加速度が大きい例を示す。
図4に示す例では、タイミングt21から摩擦制動力の発生が要求されている。
図4の(a)に示すように、目標圧PTの増加速度が大きいことによって、目標圧PTが制限判定値PTthを超えるまでの期間が短くなる。すなわち、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間が短くなる。タイミングt22において目標圧PTが制限判定値PTthを超えると、モータ回転数Nmの制限が解除される。その後、
図4の(b)に示すように、目標回転数NTの増加に従ってモータ回転数Nmが増加されている。このように制御装置10によれば、目標圧PTの増加速度が大きい場合には、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間を短くして、早期にモータ回転数Nmを大きくすることができる。これによって、電動モータ41の駆動に伴って発生する音が大きくなることを抑制する期間を確保しつつも、高いモータ回転数Nmによってポンプ42を駆動でき、応答性を確保することができる。このため、急制動が要求される場合にも、要求に応じた摩擦制動力を発生させることができる。
【0050】
また、
図3に示す例と比較して目標圧PTの増加速度が小さい場合には、目標圧PTが制限判定値PTthを超えるまでの期間が長くなる。すなわち、モータ回転数Nmの増加速度を制限する期間が長くなる。このため、目標圧PTの増加速度が小さい場合には、電動モータ41の駆動に伴って発生する音が大きくなることをより抑制することができる。
【0051】
図3および
図4では、制動が開始されてから目標圧PTの増加速度が一定である例を示した。ここで、たとえば制動中に制動操作部材92の操作量が大きくされて目標圧PTの増加速度が大きくなる場合を考える。この場合には、目標圧PTが一定である場合と比較して早い時点で目標圧PTが制限判定値PTthを超えるようになる。このため、目標圧PTの増加速度が大きくなった場合には、モータ回転数Nmの増加速度の制限が早く解除されるようになる。このように制御装置10によれば、目標圧PTに応じた応答性を確保することができる。一方で、制動中に目標圧PTの増加速度が小さくされた場合には、目標圧PTが一定である場合と比較して目標圧PTが制限判定値PTthを超えるまでの期間が長くなる。このため、目標圧PTの増加速度が小さくされた場合には、電動モータ41に由来する音によって運転者に違和感を与えることをより抑制できる。
【0052】
また、運転者の操作に基づく目標圧PTが設定されるような場合には、操作中の目標圧PTの変化速度が一定ではなくばらつくことがある。たとえば、ノイズのように変化速度の値が変化する場合がある。このため、仮に、目標圧PTの変化速度に基づいて急制動と緩制動とを識別してモータ回転数Nmを制御したとすると、目標圧PTの変化速度のばらつきによる影響でモータ回転数Nmの増加速度が想定とは異なる可能性がある。これに対して、制御装置10では、目標圧PTが制限判定値PTth以下であることに基づいてモータ回転数Nmの増加速度を制限するようにしている。このため、目標圧PTの変化速度のばらつきの影響を受けることなく、急制動または緩制動にも対応してモータ回転数Nmの増加速度を制御することができる。
【0053】
摩擦制動装置20の一例として、制動操作部材92がマスタシリンダに接合されており加圧機構40がマスタシリンダ等と一体的に構成されているものがある。このような場合には、制動操作部材92を操作する運転者の前方近傍に加圧機構40が必然的に位置する。そして加圧機構40は、車両の車体と強固に接続されることとなる。このため、電動モータ41の駆動に伴って発生する音および振動が運転者により伝わりやすい。摩擦制動装置20がこのように構成されている場合には、電動モータ41に由来する音による違和感を抑制できる本実施形態における制御装置10が、より有効になる。
【0054】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
・上記実施形態では、制限処理によってモータ回転数Nmの増加速度を制限した。これに加えて、モータ回転数Nmに上限値を設定することもできる。
図5を用いて説明する。
図5に示す例では、
図5の(a)に示すように、タイミングt31から摩擦制動力の発生が要求されている。タイミングt33において目標圧PTが制限判定値PTthを超えている。
【0056】
図5の(b)に示すように、モータ回転数Nmの上限値として上限モータ回転数NLが設定されている。モータ制御部11は、目標圧PTが制限判定値PTthを超えるまでの期間では、上限モータ回転数NLおよび目標回転数NTのうち小さい方の値以下になるようにモータ回転数Nmを制限することができる。このため、タイミングt33よりも前のタイミングt32において、モータ回転数Nmが上限モータ回転数NLに達すると、モータ回転数Nmが一定に維持されるようになる。その後、タイミングt33において目標圧PTが制限判定値PTthを超えると、モータ回転数Nmの制限が解除されてモータ回転数Nmが目標回転数NTに追従するように電動モータ41が駆動される。
【0057】
この場合には、モータ制御部11は、
図2におけるステップS103の処理において、勾配制限値に加えて上限モータ回転数NLを設定するとよい。たとえば上限モータ回転数NLは、予め実験等によって算出した値を用いてもよい。上限モータ回転数NLは、暗騒音レベルBNが大きいほど大きい値として算出してもよい。なお、上限モータ回転数NLは、制動中に可変する値でもよい。たとえば、上限モータ回転数NLは、目標回転数NTに対して「0」より大きく「1」よりも小さい値を乗算して算出してもよい。
【0058】
・上記実施形態では、制限判定値PTthとして、
図2におけるステップS102の処理において算出した値を用いた。これに替えて、制限判定値PTthとしては、予め実験等によって算出してモータ制御部11に記憶させた一定の値を用いてもよい。この場合には、
図2におけるステップS102の処理を省略してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、液圧制動装置である摩擦制動装置20を制御対象とする制御装置10を例示した。摩擦制動装置としては、液圧制動装置に限らない。制御装置は、電動モータの駆動量を機械的に伝達することによって摩擦制動力を発生させる機械式の摩擦制動装置を制御対象とするものでもよい。
【0060】
図6は、制御装置110と、制御装置110が制御対象とする摩擦制動装置120を示す。摩擦制動装置120は、制動機構130を備えている。制動機構130は、電動モータ141を備えている。制動機構130は、たとえば減速ギアを備えている。制動機構130は、たとえば直動変換機構を備えている。制動機構130は、減速ギアおよび直動変換機構等によって伝達される電動モータ141の駆動量に応じて摩擦材132を回転体133に押し付けることができる。制御装置110は、摩擦制動装置120を制御するものであり、電動モータ141の回転数の増加速度を制限する制限処理を実行する機能を備えている。
【0061】
制御装置110によれば、上記実施形態における制御装置10と同様に、制動初期に電動モータ141の回転数の増加速度を制限することができる。より詳しくは、制御装置110は、車両の制動が開始されてから指標値が制限判定値を超えるまでの期間に、電動モータ141の回転数が高くなることを抑制できる。これによって、当該期間において電動モータ141の駆動に伴って発生する音が大きくなることを抑制でき、運転者が違和感を覚えにくくなる。
【0062】
なお、この場合に設定する勾配制限値としては、電動モータ141の駆動を開始した際に回転数の増加に伴うギア同士の衝突を軽減できる値として算出することができる。
【符号の説明】
【0063】
10…制御装置
11…モータ制御部
12…取得部
20…摩擦制動装置
30…制動機構
31…ホイールシリンダ
32…摩擦材
33…回転体
40…加圧機構
41…電動モータ
42…ポンプ
91…車輪
92…制動操作部材
93…ブレーキセンサ
94…車輪速センサ
110…制御装置
120…摩擦制動装置
130…制動機構
141…電動モータ