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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20240509BHJP
   B60T 13/18 20060101ALI20240509BHJP
   B60T 13/128 20060101ALI20240509BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20240509BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240509BHJP
   B60T 8/46 20060101ALI20240509BHJP
   B60T 8/48 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/18
B60T13/128
B60T13/68
B60T7/12 F
B60T7/12 C
B60T8/46 A
B60T8/48
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021035937
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136374
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓介
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-47807(JP,A)
【文献】特開2019-26014(JP,A)
【文献】特開2019-18695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 13/00-13/74
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の車輪に設けられたホイールシリンダの液圧である制動液圧を増加して前記車輪に制動トルクを付与する車両の制動制御装置であって、
第1電気モータを動力源にして移動されるピストンと、前記ピストンが挿入されるシリンダとにて構成され、前記ピストンの移動によって前記シリンダから制動液を排出することで前記制動液圧を増加する第1ユニットと、
前記第1ユニットと前記ホイールシリンダとを接続する連絡路に設けられる調圧弁と、前記第1電気モータとは別の第2電気モータによって駆動される流体ポンプとにて構成され、前記流体ポンプが吐出する制動液の流れを前記調圧弁によって絞ることで前記制動液圧を増加する第2ユニットと、
前記第1、第2ユニットを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記制動液圧を前記ホイールシリンダ毎で個別に制御して前記自車両の車体速度を低速で一定に維持するオフロード制御、及び、前記自車両の前方を走行する先行車両と前記自車両との距離を維持しつつ前記自車両の車体速度を一定に維持するクルーズ制御を実行するとともに、
前記オフロード制御を実行する場合には前記第1ユニットのみを加圧源として前記制動液圧を増加し、前記クルーズ制御を実行する場合には前記第2ユニットのみを加圧源として前記制動液圧を増加する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
自車両の車輪に設けられたホイールシリンダの液圧である制動液圧を増加して前記車輪に制動トルクを付与する車両の制動制御装置であって、
第1電気モータを動力源にして移動されるピストンと、前記ピストンが挿入されるシリンダとにて構成され、前記ピストンの移動によって前記シリンダから制動液を排出することで前記制動液圧を増加する第1ユニットと、
前記第1ユニットと前記ホイールシリンダとを接続する連絡路に設けられる調圧弁と、前記第1電気モータとは別の第2電気モータによって駆動される流体ポンプとにて構成され、前記流体ポンプが吐出する制動液の流れを前記調圧弁によって絞ることで前記制動液圧を増加する第2ユニットと、
前記第1、第2ユニットを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記自車両の前方に存在する物体との衝突を回避又は該衝突による被害を軽減する緊急制御、及び、前記自車両の前方を走行する先行車両と前記自車両との距離を維持しつつ前記自車両の車体速度を一定に維持するクルーズ制御を実行するとともに、
前記緊急制御を実行する場合には前記第1ユニットのみを加圧源として前記制動液圧を増加し、前記クルーズ制御を実行する場合には前記第2ユニットのみを加圧源として前記制動液圧を増加する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「AC制御による追従走行中にPCB制御の実行条件が成立した場合、状況に応じてAC制御を継続または再開させることにより、ドライバに違和感や不快感を与える可能性を低減する」ことを目的に、「車両制御装置は、自車両100を先行車両200に対して追従走行させる先行車追従制御を、AC制御として実行するAC制御手段と、物標までの衝突予測時間が第1の閾値未満であるとき自車両100に自動的に第1制動力を付与する第1ブレーキ制御を実行するPCB制御手段を備える。AC制御手段は、AC制御の実行中に第1ブレーキ制御の実行条件が成立したと判定されたとき、AC制御による減速制御が実行されていれば第1ブレーキ制御を実行せずにAC制御の実行を継続し、AC制御による減速制御が実行されていなければAC制御の実行を停止する」ことが記載されている。
【0003】
特許文献2には、「ダウンヒルアシスト制御またはクロール制御の精度が低下するのを抑制する」ことを目的に、「自動停止条件が成立するとエンジンを自動停止すると共にエンジンの自動停止中に自動始動条件が成立するとスタータによるエンジンのクランキングを伴ってエンジンを自動始動する制御装置とを備える。そして、制御装置は、ダウンヒルアシストコントロール制御またはクロール制御の作動許可時または作動時には、エンジンの自動停止を制限する」ことが記載されている。
【0004】
特許文献3には、「加圧構成に冗長性を持たせるとともに、状況に応じて応答性を向上させる」ことを目的に、「車両用制動装置100の作動状況を判定する判定部62と、判定部62の判定結果に基づいて、目標ホイール圧のうちピストン駆動部15により発生させるホイール圧の割合である第1割合と、目標ホイール圧のうち液圧調整部5により発生させるホイール圧の割合である第2割合とを設定する割合設定部63と、第1割合及び第2割合に基づいてピストン駆動部15及び液圧調整部5を制御する制御部64、65と、を備える」装置について記載されている。
【0005】
特許文献1の装置は、自車両の前方に先行車両が存在しない場合は予め設定された設定速度で自車両を定速走行させ、先行車両が存在する場合は予め設定された設定距離を維持しながら先行車両に追従するように自車両を加速又は減速する、所謂、アダプティブクルーズ制御を実行するものである。また、特許文献2の装置は、急峻な降坂路において、運転者が制動操作部材BPを操作しなくても、車両の車体速度が所定車速以下で維持されるように車輪の制動力が調整される、所謂、ダウンヒルアシスト制御(「ヒルディセント制御」ともいう)を実行するものである。
【0006】
ところで、出願人は、特許文献3に記載されるような、ホイールシリンダの液圧を発生するために、加圧方式が異なる2つの加圧源(加圧機構)を備える制動制御装置を開発している。具体的には、2つの加圧源のうちの一方では、ピストンとシリンダとの組み合わせが採用され、他方では、流体ポンプが吐出する制動液の流れがリニア弁によって絞られることによって加圧が行われる。夫々の加圧方式には、長所/短所が存在する。特許文献1、2に記載されるような各種の自動制動制御において、2つの加圧源が好適に使い分けられて、その性能が向上されることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-165085号
【文献】特開2020-084881号
【文献】特開2018-047807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、2つの加圧源を有する車両の制動制御装置において、各種の自動制動制御の性能が向上され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る制動制御装置は、自車両(JV)の車輪(WH)に設けられたホイールシリンダ(CW)の液圧である制動液圧(Pw)を増加して前記車輪(WH)に制動トルク(Tb)を付与するものであって、「第1電気モータ(MA)を動力源にして移動されるピストン(NP、NS)と、前記ピストン(NP、NS)が挿入されるシリンダ(CM)とにて構成され、前記ピストン(NP、NS)の移動によって前記シリンダ(CM)から制動液(BF)を排出することで前記制動液圧(Pw)を増加する第1ユニット(YA)」と、「前記第1ユニット(YA)と前記ホイールシリンダ(CW)とを接続する連絡路(HS)に設けられる調圧弁(UB)と、前記第1電気モータ(MA)とは別の第2電気モータ(MB)によって駆動される流体ポンプ(QB)とにて構成され、前記流体ポンプ(QB)が吐出する制動液(BF)の流れ(KN)を前記調圧弁(UB)によって絞ることで前記制動液圧(Pw)を増加する第2ユニット(YB)」と、「前記第1、第2ユニット(YA、YB)を制御するコントローラ(ECU)」と、を備える。
【0010】
本発明に係る制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記制動液圧(Pw)を前記ホイールシリンダ(CW)毎で個別に制御して前記自車両(JV)の車体速度(Vx)を低速(vc、vd)で一定に維持するオフロード制御、前記自車両(JV)の前方を走行する先行車両(SV)と前記自車両(JV)との距離を維持しつつ前記自車両(JV)の車体速度(Vx)を一定(va)に維持するクルーズ制御、前記自車両(JV)の前方に存在する物体(BT)との衝突を回避又は該衝突による被害を軽減する緊急制御を実行する。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記オフロード制御を実行する場合には前記第1ユニット(YA)のみを加圧源として前記制動液圧(Pw)を増加し、前記クルーズ制御を実行する場合には前記第2ユニット(YB)のみを加圧源として前記制動液圧(Pw)を増加する。また、前記コントローラ(ECU)は、前記緊急制御を実行する場合には前記第1ユニット(YA)のみを加圧源として前記制動液圧(Pw)を増加する。
【0011】
制動制御装置SCには、加圧方式の異なる第1、第2ユニットYA、YBが備えられる。第1ユニットYAは、第2ユニットYBよりも、長時間の連続作動、及び、加圧応答性に優れる。一方、第2ユニットYBは、第1ユニットYAよりも、制動液圧Pwの調圧性能に優れる。上記構成によれば、各種の自動制動制御に要求される事項に基づき、夫々の特徴が適切に使い分けられるので、各種の自動制動制御の性能が好適に確保され、更には、その性能が向上され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】制動制御装置SCを搭載した車両全体を説明するための構成図である。
図2】第1ユニットYAの構成例を説明するための概略図である。
図3】第2ユニットYBの構成例を説明するための概略図である。
図4】自動制動制御における第1、第2ユニットYA、YBの使い分けを説明するためのフロー図である。
図5】オフロード制御での制動液圧Pwの個別制御を説明するためのフロー図である。
【0013】
以下、本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<構成要素の記号等>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された部材、信号、値等の構成要素は同一機能のものである。車輪に係る各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前輪、後輪の何れに関する要素であるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は「前輪に係る要素」を、「r」は「後輪に係る要素」を、夫々示す。例えば、ホイールシリンダCWにおいて、「前輪ホイールシリンダCWf、後輪ホイールシリンダCWr」というように表記される。更に、添字「f」、「r」は省略されることがある。これらが省略される場合には、各記号は、その総称を表す。
【0015】
更に、連絡路HSにおいて、ホイールシリンダCWを基準として、そこから離れた側を「上部」と、近い側を「下部」と称呼する。例えば、流体ポンプQBによる制動液BFの移動において、「制動液BFは、調圧弁UBの上部から吸い込まれ、調圧弁UBの下部に吐出される」というように記載される。また、第1、第2ユニットYA、YBは「上部ユニットYA、下部ユニットYB」とも称呼される。更に、第1ユニットYAによって制動液圧Pwが調整(増加等)されることが「上部調圧」と、第2ユニットYBによって制動液圧Pwが調整(増加等)されることが「下部調圧」と称呼される。
【0016】
<制動制御装置SCを搭載した車両>
図1の構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCを搭載した車両全体について説明する。ここで、制動制御装置SCを搭載した車両を、他の車両(例えば、先行車両SV)と区別するため、「自車両JV」とも称呼する。
【0017】
車両JVには、加速操作部材AP、制動操作部材BP、操舵操作部材SH、及び、各種センサ(BA等)が備えられる。加速操作部材(例えば、アクセルペダル)APは、運転者が車両JVを加速するとともに、車両JVの速度(車体速度Vx)を制御するために操作する部材である。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両JVを減速するために操作する部材である。操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)SHは、運転者が車両JVを旋回させるために操作する部材である。
【0018】
車両JVには、以下に列挙される各種センサが備えられる。これらセンサの検出信号(Ba等)は、後述する制動用のコントローラECU(単に、「制動コントローラ」ともいう)に入力される。
・加速操作部材APの操作量(加速操作量)Aaを検出する加速操作量センサAA、制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Baを検出する制動操作量センサBA、及び、操舵操作部材SHの操作量(操舵操作量であって、例えば、操舵角)Saを検出する操舵操作量センサSA。
・車輪WHの回転速度(車輪速度)Vwを検出する車輪速度センサVW。
・車両JV(特に、車体)において、ヨーレイトYrを検出するヨーレイトセンサYR、前後加速度Gxを検出する前後加速度センサGX、及び、横加速度Gyを検出する横加速度センサGY。
【0019】
加えて、後述する各種の自動制動制御の指示を行うため、アダプティブクルーズ制御用のスイッチXA、ダウンヒルアシスト制御用のスイッチXD、クロール制御用のスイッチXC等の各種スイッチが備えられる。これらのスイッチXA、XD、XCは、運転者によって操作される。そして、ダウンヒルアシスト制御用スイッチXDからの操作信号Xd、及び、クロール制御用スイッチXCからの操作信号Xcは、制動用コントローラECUに入力される。また、アダプティブクルーズ制御用スイッチXAからの操作信号Xaは、アダプティブクルーズ制御を含む運転支援用のコントローラECAに入力される。
【0020】
車両JVには、制動装置SX、及び、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCでは、2系統の制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用されている。
【0021】
制動装置SXには、制動制御装置SCによって発生される制動液圧Pwが供給される。そして、制動装置SXによって、制動液圧Pwに応じて、車輪WHに制動力Fbが発生される。制動装置SXは、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KT、及び、ブレーキキャリパCPを含んで構成される。回転部材KTは、車両の車輪WHに固定され、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパCPが設けられる。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCWには、制動制御装置SCから、制動液圧Pwに調整された制動液BFが供給される。制動液圧Pwによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSが、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTb(結果、制動力Fb)が発生される。
【0022】
制動制御装置SCは、制動操作部材BPの操作量Baに応じて、実際の制動液圧Pwを調節し、前輪、後輪連絡路HSf、HSrを介して、制動装置SX(特に、ホイールシリンダCW)に制動液圧Pwを供給する。制動制御装置SCは、マスタシリンダCM、流体ユニットHU、及び、制動用のコントローラECUにて構成される。そして、流体ユニットHUは、2つのユニット(第1、第2ユニット)YA、YBにて構成される。制動制御装置SCの構成要素(第1、第2ユニットYA、YBに含まれる電磁弁、電気モータ等)は、制動コントローラECUによって制御される。コントローラECUは、信号処理を行うマイクロプロセッサMP、及び、電磁弁、電気モータを駆動する駆動回路DDにて構成される。制動用のコントローラECU、後述する原動機用のコントローラECP、動力伝達用のコントローラECT、運転支援装置用のコントローラECAの夫々は、通信バスBSに接続されている。従って、これらのコントローラの間では、通信バスBSを介して情報(検出値、演算値)が共有されている。例えば、制動コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。車体速度Vxは、通信バスBSを通して、他のコントローラに送信される。制動コントローラECUには、加速操作量Aa、制動操作量Ba、操舵操作量Sa、ヨーレイトYr、前後加速度Gx、横加速度Gy、車輪速度Vw、操作信号Xa(アダプティブクルーズ制御用)、操作信号Xc(クロール制御用)、操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御用)等が入力される。これら信号に基づいて、制動コントローラECUによって、流体ユニットHUが制御される。制動制御装置SCの詳細については後述する。
【0023】
車両JVには、原動機制御装置GC、及び、動力伝達装置TSが備えられる。車両JVは、4つの車輪WHの全てが駆動輪(駆動トルクTdが伝達されて、駆動力Fdを発生する車輪)である4輪駆動方式の車両である。
【0024】
原動機制御装置GCは、原動機PG、及び、それを制御する原動機用のコントローラECP(単に、「原動機コントローラ」ともいう)にて構成される。原動機PGは、自然界に存在する各種エネルギを機械的な仕事(力学的エネルギ)に変換する装置の総称である。原動機PGとして、内燃機関(ガソリンエンジン)が採用される場合を例に説明する。原動機PGによって、4つの車輪WHを駆動するための動力(駆動トルクTd)が発生される。原動機PGは、原動機コントローラ(エンジンコントローラ)ECPによって制御され、その出力が調整される。詳細には、原動機PGには、スロットル装置TH、燃料噴射装置FI、及び、エンジン回転数センサNEが含まれている。スロットル開度Thはスロットル装置THによって、燃料噴射量Fiは燃料噴射装置FIによって、夫々制御される。そして、回転数センサNEにて検出されるエンジン回転数Neに基づいて、スロットル開度Th、及び、燃料噴射量Fiのうちの少なくとも1つが、原動機コントローラECPによって制御される。その結果、原動機PGの出力が調節される。
【0025】
原動機制御装置GC(特に、原動機PG)の出力(回転動力)は、動力伝達装置TSに入力される。そして、原動機PGの出力は、動力伝達装置TSを介して、4つの車輪WHに伝達され、車輪WHの夫々で駆動力Fdが発生される。動力伝達装置TSは、動力伝達機構TD、及び、それを制御する動力伝達用のコントローラECT(単に、「動力伝達コントローラ」ともいう)を含んでいる。動力伝達機構TDは、主変速機MH、副変速機FH、前輪差動機構DF、中央差動機構DC、及び、後輪差動機構DRにて構成される。主変速機MHは、車両の走行状態に応じて変速を行う自動変速機である。主変速機MHを介して、原動機PGの出力が副変速機FHに入力される。副変速機FHは、4輪駆動用の高速ギヤと低速ギヤとの切り替えを可能にしている。
【0026】
副変速機FHからの出力は、夫々の差動機構DF(前輪差動ギヤ)、DC(中央差動ギヤ)、DR(後輪差動ギヤ)に入力される。前輪駆動トルクTdfは、前輪差動機構DF、及び、前輪ドライブシャフトを介して、左右の前輪WHfに伝達される。また、後輪駆動トルクTdrは、中央差動機構DC、後輪差動機構DR、及び、後輪ドライブシャフトを介して、左右の後輪WHrに伝達される。差動機構DF、DC、DRを介して、原動機PGが発生する動力が、前輪WHf、後輪WHrに伝達されるので、各車輪WHの間の回転速度差(即ち、差動)が許容される。動力伝達機構TDの各構成要素(MH等)は、動力伝達コントローラECTによって制御される。具体的には、動力伝達コントローラECTによって、主変速機MH、副変速機FH、及び、差動機構DF、DC、DRの夫々が制御される。
【0027】
更に、車両JVには、アダプティブクルーズ制御、衝突回避・被害軽減制御を実行できるよう、運転支援装置UCが設けられる。運転支援装置UCは、自車両JVの前方の物体BT(自車両JVの前方を走行する先行車両SVを含む)までの距離Ds(「相対距離」と称呼し、物体BTが先行車両SVである場合には「車間距離」ともいう)を検出する物体検出センサOB、及び、運転支援用のコントローラECA(単に、「運転支援コントローラ」ともいう)を含んでいる。例えば、物体検出センサOBとして、レーダセンサ、ミリ波センサ、画像センサ等が採用される。運転支援コントローラECAにて、物体検出センサOBの検出結果Ds(相対距離)に基づいて、自車両JVの目標加速度Gd(自車両JVの前後方向における車体加速度の目標値)が演算される。運転支援コントローラECAは、制動コントローラECUと通信バスBSを介して接続されているので、目標車体前後加速度Gdは、通信バスBSを介して、制動コントローラECUに伝達される。そして、制動制御装置SCによって、目標加速度Gdに応じた制動力Fbが発生される。
【0028】
車両JVでは、各種の自動制動制御(運転者の制動操作部材BPの操作とは独立して車両JVを自動的に減速する制御)が実行される。列挙される自動制動制御は公知であるため、簡単に説明する。
【0029】
<アダプティブクルーズ制御>
「アダプティブクルーズ制御(単に、「クルーズ制御」ともいう)」は、自車両JVの前方に先行車両SVが存在しない場合は予め設定された設定速度vaで自車両JVを定速で走行させ、先行車両SVが存在する場合は、予め設定された設定距離da(設定車間距離)を維持しながら先行車両SVに追従するように自車両JVを加速、又は、減速するものである。具体的には、先行車両SVが存在する場合のアダプティブクルーズ制御では、「先行車両SVまでの距離(相対距離、車間距離)Dsと設定車間距離daとの偏差hD」、及び、「相対速度Vs」に基づいて目標加速度Gd(前後車体加速度の目標値)が演算される。そして、自車両JVの前後加速度Gx(車体加速度)が、目標加速度Gdに一致するよう、自車両JVが、原動機制御装置GCによって加速、又は、制動制御装置SCによって減速される。
【0030】
アダプティブクルーズ制御は、運転者が操作するクルーズ制御用のスイッチXAからの操作信号Xa(クルーズ制御信号)によって指示される。クルーズ制御信号Xaがオン状態を示している場合、クルーズ制御は実行されるが、クルーズ制御信号Xaがオフ状態の場合には実行されない。また、クルーズ制御用スイッチXAによって、クルーズ制御の実行の要否が指示されることに加え、クルーズ制御による設定速度va、設定距離daが指示される。即ち、クルーズ制御信号Xaには、自車両JVの車体速度Vxの目標値(設定速度)va、及び、自車両JVと先行車両SVとの車間距離の目標値(設定距離)daの情報が含まれている。
【0031】
先ず、クルーズ制御では、物体検出センサOB(レーダセンサ、ミリ波センサ、画像センサ等)の検出結果に基づき、自車両JVが走行している車線において、先行車両SVの有無が判定される。先行車両SVが存在しない場合には、車両の車体速度Vxが、設定速度vaに一致するように、原動機制御装置GC(例えば、スロットル開度Thの調整)が制御される(所謂、クルーズ制御の定速走行モード)。また、先行車両SVが存在する場合には、先行車両SVまでの相対距離Ds、及び、自車両と先行車両との相対速度Vsに基づいて目標車体前後加速度Gdが演算される。そして、車両JVの実際の車体前後加速度Gxが、目標加速度Gdに一致するように、原動機制御装置GC、及び、制動制御装置SC(例えば、制動液圧Pwの調整)が制御される(所謂、クルーズ制御の追従走行モード)。
【0032】
目標加速度Gdは、車間距離Dsを設定距離daに維持しながら設定速度va以下の速度Vxで先行車両を追従走行するための自車両JVの車体前後加速度Gxに対応する目標値である。目標加速度Gdは、「先行車両までの距離(車間距離)Dsと設定距離daとの偏差hD」、及び、「先行車両SVと自車両JVとの相対速度Vs」に基づいて演算される。ここで、相対速度Vsは、車間距離Dsの時間変化量として演算される。そして、目標加速度Gdは、「K1、K2」を所定のゲイン(係数)としたときに、「Gd=K1・hD+K2・Vs」として演算される。
【0033】
目標加速度Gdは、通信バスBSを介して、原動機コントローラECP、及び、制動コントローラECUに送信される。「Gd>Gx(正の値)」の場合には、自車両JVの車体の前後加速度Gx(実際値)が、目標加速度Gdに一致するよう、原動機制御装置GCによって、クルーズ制御における加速制御が実行される。一方、「Gd<Gx(負の値)」の場合には、自車両JVの車体の前後加速度Gx(実際値)が、目標加速度Gdに一致するよう、制動制御装置SCによって、クルーズ制御における減速制御が実行される。ここで、アダプティブクルーズ制御による制動制御装置SCへの制御介入は、車間距離の維持を目的としているので、緩やかな減速となる。即ち、目標加速度Gdは、運転者による常用制動と同等の減速度として決定されている。なお、実際の前後加速度Gxとして、「前後加速度センサGXの検出値」、及び、「車体速度Vxの時間微分値」のうちの少なくとも1つが採用される。即ち、前後加速度の実際値Gxは、検出値Gx、及び、車体速度Vxのうちの少なくとも1つに基づいて演算される。
【0034】
<衝突回避・被害軽減制御>
「衝突回避・被害軽減制御(「プリクラッシュ制動制御」ともいう)」は、自車両JVと衝突する可能性が高い物体BTが存在する場合に自動的に制動力Fbを発生させるものである。衝突回避・被害軽減制御によって、物体BTと自車両JVとの衝突が回避され得る。万一、該衝突が回避できない場合であっても、その被害が軽減される。即ち、衝突回避・被害軽減制御は、緊急時における自動制動制御であるため、「緊急制御」とも称呼される。
【0035】
緊急制御(衝突回避・被害軽減制御)は、物体BT(車両、歩行者、自転車等)までの距離(相対距離)Ds、及び、自車両JVと物体BTとの相対速度Vsに基づいて実行される。具体的には、相対距離Ds、及び、相対速度Vsに基づいて、物体BTに衝突するまでの予測時間(衝突余裕時間)Ttc(=Ds/Vs)が演算される。ここで、衝突余裕時間Ttcは、現在の相対速度Vsが維持されたとすると、どの程度の時間を経過すると自車両JVが物体BTに衝突するかを表す値である。
【0036】
緊急制御では、衝突余裕時間Ttcが、しきい時間tx未満となる場合に、車両JVの前後方向の目標車体加速度Gdが演算される。目標加速度Gdは、通信バスBSを通して、制動制御装置SCに送信され、制動制御装置SCによって、車輪WHに制動力Fbが発生される。ここで、しきい時間txは、予め設定された所定値(定数)である。また、目標加速度Gdは、車両JVの減速方向において、或る程度大きい値であり、車輪WHが発生し得る制動力Fbの最大値に対応する予め設定された所定値(定数)である。従って、緊急制御による自動制動では、自車両JVは急激に減速される。これは、衝突回避・被害軽減制御は、衝突時のダメージ軽減を目的としているので、自車両JVと物体BTとの衝突において、自動制動制御によって、該衝突を回避することが時間的に限界であると判断した時点で実行されることに基づく。
【0037】
<オフロード制御>
上述したアダプティブクルーズ制御は、高速道路等で車両の車体速度Vxを一定に維持するものであるが、以下で説明する「オフロード制御」は、未舗装路(「オフロード」ともいう)等で車体速度Vxを低速で維持するものである。ここで、オフロード制御は、「ダウンヒルアシスト制御」、及び、「クロール制御」の総称である。ダウンヒルアシスト制御、及び、クロール制御は、公知であるため、以下、簡単に説明する。
【0038】
「ダウンヒルアシスト制御」は、「ヒルディセント制御」とも称呼され、降坂路において、運転者が制動操作部材BPを操作しなくても、車体速度Vxが所定車速vd以下で維持されるよう、制動力Fbを調整するものである。ダウンヒルアシスト制御は、運転者が操作するダウンヒルアシスト制御用スイッチXDからの操作信号Xd(ダウンヒルアシスト制御信号)によって指示される。操作信号Xdがオン状態を示している場合、ダウンヒルアシスト制御は実行されるが、操作信号Xdがオフ状態の場合には実行されない。また、スイッチXDによって、ダウンヒルアシスト制御の実行の要否が指示されることに加え、ダウンヒルアシスト制御による設定速度vdが指示される。即ち、操作信号Xdには、車両JVの車体速度Vxの目標値(設定速度)vdの情報が含まれている。ダウンヒルアシスト制御では、車輪WHのロック、横滑りが抑制されるとともに、車体速度Vxが予め設定された一定の低速度(設定速度)vdに一致し、維持されるよう、各車輪WHの制動液圧Pwが個別に調整される。
【0039】
「クロール制御」は、上記のダウンヒルアシスト制御を、更に進化させたものである。クロール制御では、加速操作部材(アクセルペダル)AP、及び、制動操作部材(ブレーキペダル)BPが操作されなくても、車体速度Vxが所定の設定車速vcで維持されるよう、制動制御装置SC、及び、原動機制御装置GCによって、制動力Fb、及び、駆動力Fdが制御される。つまり、クロール制御は、下り坂のみならず、上り坂でも作動される。
【0040】
具体的には、クロール制御は、運転者が操作するクロール制御用スイッチXCからの操作信号Xc(クロール制御用のスイッチ信号)によって指示される。操作信号(スイッチ信号)Xcがオン状態を示している場合、クロール制御は実行されるが、操作信号Xcがオフ状態の場合には実行されない。また、スイッチXCによって、クロール制御の実行の要否が指示されることに加え、クロール制御による設定速度vcが指示される。即ち、操作信号Xcには、車両JVの車体速度Vxの目標値(設定速度)vcの情報が含まれている。そして、クロール制御では、車輪WHのロック、横滑りが抑制されるとともに、車体速度Vxが予め設定された一定の低速度(設定速度)vcに一致し、維持されるよう、原動機PGの出力が調整されるとともに、各車輪WHの制動液圧Pwが個別に調整される。砂地、ダート、岩石路、泥濘路等では、加速操作部材AP、制動操作部材BPの微妙な操作が必要とされるが、クロール制御によって、該状況での走行が好適に補助される。
【0041】
以上で説明したように、オフロード制御(例えば、ダウンヒルアシスト制御、クロール制御)によって、車輪WHの横滑り等が回避されるので車両JVの安定性が確保された上で、車体速度Vxが一定(極低速vd、vc)に維持されての走行が可能となる。このとき、運転者による加速操作部材AP、制動操作部材BPの操作は必要とされないため、運転者は操舵操作部材SHの操作に集中することができる。即ち、オフロード制御によって、不整地等での走破性が向上される。なお、オフロード制御の制動液圧Pwの調整については後述する。
【0042】
<第1ユニットYA>
図2の概略図を参照して、流体ユニットHUに含まれる第1ユニットYA(上部ユニット)の構成例について説明する。第1ユニットYAは、4つのホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwを増加するための加圧源である。例では、第1ユニットYAは、マスタシリンダCMと一体化されている。そして、前後型の制動系統が採用されている。第1ユニットYAは、マスタシリンダCMを含むアプライユニットAU、及び、加圧ユニットKUにて構成される。アプライユニットAU、及び、加圧ユニットKUは、制動コントローラECUによって制御される。詳細には、コントローラECUには、制動操作量Ba(シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、操作力Fpのうちの少なくとも1つ)、車輪速度Vw、アキュムレータ液圧Pc、サーボ液圧Pu、供給液圧Pmが入力され、これら信号に基づいて、入力弁VNの駆動信号Vn、開放弁VRの駆動信号Vr、増圧弁UZの駆動信号Uz、減圧弁UGの駆動信号Ug、蓄圧用電気モータMAの駆動信号Maが演算される。そして、駆動信号「Vn、Vr、Uz、Ug、Ma」に応じて、第1ユニットYAを構成する電磁弁「VN、VR、UZ、UG」、及び、蓄圧用の電気モータMAが制御(駆動)される。
【0043】
後述するように、流体ユニットHU、ホイールシリンダCW等は、連絡路HS、入力路HN、減圧路HG、還流路HKにて接続される。これらは、制動液BFが移動される流体路である。流体路(HS等)としては、流体配管、流体ユニットHU内の流路、ホース等が該当する。
【0044】
≪アプライユニットAU≫
アプライユニットAUは、マスタリザーバRV、マスタシリンダCM,第1、第2マスタピストンNP、NS、第1、第2マスタばねDP、DS、入力シリンダCN、入力ピストンNN、入力ばねDN、入力弁VN、開放弁VR、ストロークシミュレータSS、及び、シミュレータ液圧センサPSにて構成される。
【0045】
マスタリザーバ(「大気圧リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタリザーバRVは、マスタシリンダCM(特に、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr)に接続されている。
【0046】
マスタシリンダCMは、底部を有するシリンダ部材である。マスタシリンダCMの内部には、第1、第2マスタピストンNP、NSが挿入され、その内部が、シール部材SLによって封止されて、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrに分けられている。マスタシリンダCMは、所謂、タンデム型である。前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr内には、第1、第2マスタばねDP、DSが設けられる。第1、第2マスタばねDP、DSによって、第1、第2マスタピストンNP、NSは、後退方向Hb(マスタ室Rmの体積が増加する方向であり、前進方向Haとは逆方向)に押圧されている。前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmr(=Rm)は、前輪、後輪連絡路HSf、HSr(=HS)、及び、第2ユニットYBを介して、最終的には前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWr(=CW)に、夫々接続されている。第1、第2マスタピストンNP、NSが前進方向Ha(マスタ室Rmの体積が減少する方向)に移動されると、第1ユニットYA(特に、マスタシリンダCM)から第2ユニットYBに対して、液圧Pm(「供給液圧」と称呼され、「前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmr」である)の制動液BFが供給される。ここで、前輪供給液圧Pmfと後輪供給液圧Pmrとは等しい。
【0047】
第1マスタピストンNPには、つば部(フランジ)が設けられている。このつば部によって、マスタシリンダCMの内部は、更に、サーボ室Ruと後方室Roとに仕切られている。サーボ室Ruは、第1マスタピストンNPを挟んで、前輪マスタ室Rmfに相対するように配置される。また、後方室Roは、前輪マスタ室Rmfとサーボ室Ruとに挟まれ、それらの間に配置されている。サーボ室Ru、及び、後方室Roも、上記同様に、シール部材SLによって封止されている。
【0048】
入力シリンダCNは、マスタシリンダCMに固定されている。入力シリンダCNの内部には、入力ピストンNNが挿入され、シール部材SLによって封止されて、入力室Rnが形成されている。入力ピストンNNは、クレビス(U字リンク)を介して、制動操作部材BPに機械的に接続されている。入力ピストンNNには、つば部(フランジ)が設けられる。このつば部とマスタシリンダCMに対する入力シリンダCNの取付面との間に、入力ばねDNが設けられる。入力ばねDNによって、入力ピストンNNは、後退方向Hbに押圧されている。
【0049】
アプライユニットAUには、入力室Rn、サーボ室Ru、後方室Ro、及び、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrの各液圧室が設けられる。ここで、「液圧室」は、制動液BFが満たされ、シール部材SLによって封止されたチャンバである。夫々の液圧室の体積は、入力ピストンNN、第1、第2マスタピストンNP、NSの移動によって変化される。液圧室の配置においては、マスタシリンダCMの中心軸線Jmに沿って、制動操作部材BPに近い方から、入力室Rn、サーボ室Ru、後方室Ro、前輪マスタ室Rmf、後輪マスタ室Rmrの順で並んでいる。
【0050】
入力室Rnと後方室Roとは、入力路HNを介して接続されている。そして、入力路HNには、入力弁VNが設けられる。入力路HNは、後方室Roと入力弁VNとの間で、開放弁VRを介して、マスタリザーバRVに接続される。入力弁VN、及び、開放弁VRは、開位置(連通状態)と閉位置(遮断状態)とを有する2位置の電磁弁(「オン・オフ弁」ともいう)である。入力弁VNとして常閉型の電磁弁が採用される。開放弁VRとして常開型の電磁弁が採用される。入力弁VN、開放弁VRは、制動コントローラECUからの駆動信号Vn、Vrによって駆動(制御)される。
【0051】
後方室Roには、ストロークシミュレータ(単に、「シミュレータ」ともいう)SSが接続されている。シミュレータSSによって、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。シミュレータSSの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFがシミュレータSSに流入する際に、制動液BFによってピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。つまり、制動操作部材BPの操作特性(操作変位Spと操作力Fpとの関係)は、シミュレータSSによって形成される。
【0052】
シミュレータSSの液圧(シミュレータ液圧であり、入力室Rn、後方室Roの液圧でもある)Psを検出するよう、シミュレータ液圧センサPSが設けられる。シミュレータ液圧センサPSは、上記の制動操作量センサBAの1つである。シミュレータ液圧Psは、制動操作量Baとして、制動用のコントローラECUに入力される。
【0053】
第1ユニットYAには、シミュレータ液圧センサPSの他に、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び/又は、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPが設けられる。つまり、制動操作量センサBAとしては、シミュレータ液圧センサPS、操作変位センサSP(ストロークセンサ)、及び、操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。従って、制動操作量Baは、シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、及び、操作力Fpのうちの少なくとも1つである。
【0054】
≪加圧ユニットKU≫
加圧ユニットKUによって、供給液圧Pmが発生され、調整される。加圧ユニットKUは、蓄圧用流体ポンプQA、蓄圧用電気モータMA(「第1電気モータ」に相当)、アキュムレータAC、アキュムレータ液圧センサPC、加圧シリンダCK、加圧ピストンNK、増圧弁UZ、減圧弁UG、及び、サーボ液圧センサPUにて構成される。
【0055】
加圧ユニットKUには、アキュムレータACを蓄圧するように、蓄圧用の流体ポンプQAが設けられる。蓄圧用流体ポンプQAは、蓄圧用の電気モータMA(第1電気モータ)によって駆動され、マスタリザーバRVから制動液BFを汲み上げる。そして、流体ポンプQAから吐出された制動液BFは、アキュムレータACに蓄えられる。アキュムレータACには、アキュムレータ液圧Pcにまで加圧された制動液BFが蓄えられる。アキュムレータ液圧Pcを検出するよう、アキュムレータ液圧センサPCが設けられる。
【0056】
制動コントローラECUによって、アキュムレータ液圧Pcが所定範囲内に維持されるよう、蓄圧用の電気モータMA(第1電気モータ)が制御される。具体的には、アキュムレータ液圧Pcが、下限値pl未満の場合には、電気モータMAが所定回転数で駆動される。また、アキュムレータ液圧Pcが、上限値pu以上の場合には、電気モータMAは停止される。ここで、下限値pl、及び、上限値puは、予め設定された所定値(定数)であり、「pl<pu」の関係にある。電気モータMAが制御されることによって、アキュムレータ液圧Pcは、下限値plから上限値puの範囲に維持される。
【0057】
加圧ユニットKUには、アキュムレータACからのアキュムレータ液圧Pcを調整して、サーボ室Ruに供給するよう、加圧シリンダCKが設けられる。加圧シリンダCKには、加圧ピストンNKが挿入されている。加圧ピストンNKによって、加圧シリンダCKの内部は、シール部材SLにて封止された、3つの液圧室Rp(パイロット室)、Rv(環状室)、Rk(加圧室)に区画されている。パイロット室Rpと加圧室Rkとは、加圧ピストンNKを挟むように配置される。つまり、パイロット室Rpは、加圧シリンダCKにおいて、加圧ピストンNKに対して加圧室Rkの反対側に位置する。パイロット室Rpには、後述する増圧弁UZ、及び、減圧弁UGによって調節されたパイロット液圧Ppが供給される。
【0058】
加圧ピストンNKの外周部には環状の凹部(くびれ部)が設けられている。この環状凹部と加圧シリンダCKの内周部とによって環状室Rvが形成される。更に、加圧ピストンNKの外周部には、弁体Vv(例えば、スプール弁)が形成されている。そして、この弁体Vvには、アキュムレータACからアキュムレータ液圧Pcに加圧された制動液BFが供給される。弁体Vvによって、アキュムレータ液圧Pcが調圧されて、環状室Rvに導入される。環状室Rvは、加圧ピストンNKに設けられた貫通孔を介して、加圧室Rkと連通されている。従って、環状室Rvの液圧と加圧室Rkの液圧は同一である。該液圧が、「サーボ液圧Pu」と称呼される。
【0059】
具体的には、パイロット室Rpの液圧(パイロット液圧)Ppによって、加圧ピストンNKが移動されると、弁体Vvの開口量が変化する。そして、パイロット液圧Pp(パイロット室Rpの液圧)とサーボ液圧Pu(環状室Rv、加圧室Rkの液圧)とが一致するよう、加圧ピストンNKの弁体Vvを通して、アキュムレータACから制動液BFが供給される。つまり、高圧のアキュムレータ液圧Pcが、弁体Vvによって絞られ、サーボ液圧Puに調節される。実際のサーボ液圧Puを検出するよう、サーボ液圧センサPUが設けられる。検出されたサーボ液圧Puは、制動コントローラECUに入力される。コントローラECUによって、サーボ液圧Puに基づいて、パイロット液圧Ppが調節され、最終的には、サーボ液圧Puが目標値に一致するように制御される。加圧室Rkとサーボ室Ruとは流体路によって接続されているので、サーボ液圧Puに調整された制動液BFが、加圧ユニットKUからサーボ室Ruに供給される。
【0060】
≪第1ユニットYAの作動≫
非制動時(即ち、制動操作部材BPの操作が行われていない場合)には、ピストン「NN、NP、NS」は、ばね「DN、DP、DS」によって押し付けられ、それらの初期位置(最も後退方向Hbに移動された位置)にまで戻されている。この状態では、前輪、後輪マスタ室Rmf、RmrとマスタリザーバRVとは連通状態であって、前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmrは「0(大気圧)」である。また、各ピストンの初期位置においては、入力ピストンNNと第1マスタピストンNPとは隙間を有している。同様に、非制動時には、増圧弁UZは閉弁され、減圧弁UGは開弁されているので、パイロット室RpとマスタリザーバRVとは連通状態にされ、パイロット液圧Ppは「0(大気圧)」である。そして、加圧ピストンNKは、圧縮ばねDKによって、加圧シリンダCKの底部に押圧されていて、弁体Vv(スプール弁)は閉弁されている。加圧室RkとマスタリザーバRVとは連通状態にされているので、サーボ液圧Puも「0」である。更に、非制動時には、入力弁VN、及び、開放弁VRが開弁され、後方室Ro、及び、入力室RnはマスタリザーバRVに連通状態にされているので、これらの内圧Po、Pnも「0」である。即ち、非制動時には、「Pmf=Pmr=Pp=Pu=Po=Pn=0」の状態である。
【0061】
制動時(即ち、制動操作部材BPが操作される場合)には、入力弁VNが開弁され、開放弁VRが閉弁されている。即ち、入力室Rnと後方室Roとが連通状態され、後方室RoとマスタリザーバRVとの連通状態が遮断され、非連通状態にされている。制動操作部材BPの操作量Baの増加に伴い、入力ピストンNNは前進方向Haに移動され、入力室Rnから制動液BFが排出される。この制動液BFは、ストロークシミュレータSSに吸収されるので、入力室Rnの液圧Pn(入力液圧)、及び、後方室Roの液圧Po(後方液圧)が増加され、制動操作部材BPに操作力Fpが発生される。このとき、制動操作量Ba(シミュレータ液圧Ps、操作変位Sp、操作力Fpのうちの少なくとも1つ)に応じて、増圧弁UZ、及び、減圧弁UGが制御され、パイロット室Rpの液圧Pp(パイロット液圧)が増加される。パイロット液圧Ppの増加に応じて弁体Vvが開弁され、環状室Rv、及び、加圧室Rkの液圧Pu(サーボ液圧)が増加される。このサーボ液圧Puは、サーボ室Ruに供給されるので、第1マスタピストンNPは前進方向Haに押圧され、前進方向Haに移動される。第1マスタピストンNPの前進方向Haの移動に伴って、前輪、後輪供給液圧Pmf、Pmr(=Pm)が増加される。そして、第1ユニットYAによって供給液圧Pmに調節された制動液BFが、第2ユニットYBに対して供給され、最終的にはホイールシリンダCWの制動液圧Pwが増加される。
【0062】
制動制御装置SCは、所謂、ブレーキバイワイヤ型であるため、車両が電動車(例えば、電気自動車、ハイブリッド車)である場合には、回生協調制御が実行される。入力ピストンNNと第1マスタピストンNPとは隙間を有しているので、サーボ液圧Puが制御されることによって、この隙間の範囲内で、入力ピストンNNと第1、第2マスタピストンNP、NSとの相対的な位置関係が任意に調節可能である。例えば、回生制動による制動力のみが必要な場合には、「Pu=0」にされ、前輪、後輪マスタ室Rmf、Rmrからの供給液圧Pmは「0」のままにされる。回転部材KTと摩擦部材との摩擦による制動力は発生されず、制動力Fbは、発電機として機能する駆動用電気モータの回生制動力によってのみ発生される。
【0063】
<第2ユニットYB>
図3の概略図を参照して、流体ユニットHUに含まれる第2ユニット(下部ユニット)YBの構成例について説明する。第2ユニットYBは、連絡路HS(制動液BFを移動するための流体路)において、第1ユニットYAとホイールシリンダCWとの間に設けられている。制動制御装置SCは、第2ユニットYBによって、供給液圧Pmを調整(増加、保持、減少)することができる。第2ユニットYBは、供給液圧センサPM、調圧弁UB、還流用の流体ポンプQB、還流用の電気モータMB(「第2電気モータ」に相当)、調圧リザーバRC、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
【0064】
第1ユニットYAと同様に、第2ユニットYBも制動コントローラECUによって制御される。詳細には、コントローラECUでは、上述した各種信号(Ba等)に基づき、調圧弁UBの駆動信号Ub、インレット弁UIの駆動信号Ui、アウトレット弁VOの駆動信号Vo、還流用電気モータMBの駆動信号Mbが演算される。そして、これらの駆動信号(Ub等)に応じて、第2ユニットYBを構成する電磁弁「UB、UI、VO」、及び、還流用電気モータMBが制御(駆動)される。
【0065】
前輪、後輪調圧弁UBf、UBr(=UB)が、前輪、後輪連絡路HSf、HSr(=HS)に設けられる。調圧弁UB(電磁弁)は、常開型のリニア弁(「差圧弁」、「比例弁」ともいう)である。調圧弁UBの上部(第1ユニットYAに近い側の連絡路HSの部位)と、調圧弁UBの下部(ホイールシリンダCWに近い側の連絡路HSの部位)とが、前輪、後輪還流路HKf、HKr(=HK)にて接続される。還流路HKには、前輪、後輪還流用流体ポンプQBf、QBr(=QB)、及び、前輪、後輪調圧リザーバRCf、RCr(=RC)が設けられる。還流用流体ポンプQBは、還流用の電気モータMB(第2電気モータ)によって駆動される。調圧弁UBの上部には、第1ユニットYAによって供給される実際の液圧(供給液圧)Pmを検出するよう、供給液圧センサPMが設けられる。
【0066】
電気モータMB(第2電気モータ)が回転駆動されると、流体ポンプQBは、調圧弁UBの上部から制動液BFを吸い込み、調圧弁UBの下部に制動液BFを吐出する。これにより、連絡路HS、及び、還流路HKには、調圧リザーバRCを含んだ、制動液BFの還流KN(即ち、前輪、後輪還流KNf、KNrであり、循環する制動液BFの流れ)が発生する。調圧弁UBによって制動液BFの還流KNが絞られると、オリフィス効果によって、調圧弁UBの下部の液圧Pq(「調整液圧」という)が、調圧弁UBの上部の液圧Pm(供給液圧)から増加される。つまり、第2ユニットYBによって、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwr(=Pw)を、供給液圧Pmから増加することが可能である。第2ユニットYBにおいて、還流用電気モータMB、還流用流体ポンプQB、及び、調圧弁UBが、「加圧源KB」と称呼される。
【0067】
第2ユニットYBの内部にて、前輪、後輪連絡路HSf、HSrは、夫々、2つに分岐されて、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに接続される。そして、ホイールシリンダCW毎に、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが設けられる。インレット弁UI(電磁弁)は、調圧弁UBと同様に、常開型のリニア弁である。ただし、調圧弁UBとインレット弁UIとは、開弁する方向が異なる。詳細には、調圧弁UBはホイールシリンダCWからマスタシリンダCMへの制動液BFの流れに対応して開弁するので、調圧弁UBによる調圧では、調整液圧Pqは供給液圧Pm以上である(即ち、「Pq≧Pm」)。一方、インレット弁UIはマスタシリンダCMからホイールシリンダCWへの流れに対応して開弁するので、インレット弁UIによる調圧では、制動液圧Pwは調整液圧Pq以下である(即ち、「Pq≧Pw」)。
【0068】
インレット弁UIは、分岐された連絡路HS(即ち、連絡路HSの分岐部に対してホイールシリンダCWに近い側)に設けられる。連絡路HSは、インレット弁UIの下部(ホイールシリンダCWに近い側の連絡路HSの部位)にて、減圧路HGを介して、調圧リザーバRCに接続される。そして、減圧路HGには、常閉型のオン・オフ弁であるアウトレット弁VOが配置される。
【0069】
制動液圧Pwが、ホイールシリンダCW毎に別々に調整されるよう、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが個別に制御される。制動液圧Pwを減少するためには、インレット弁UIが閉弁され、アウトレット弁VOが開弁される。ホイールシリンダCWへの制動液BFの流入が阻止されるとともに、ホイールシリンダCW内の制動液BFが調圧リザーバRCに流出するので、制動液圧Pwは減少される。制動液圧Pwを増加するためには、インレット弁UIが開弁され、アウトレット弁VOが閉弁される。制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止され、調圧弁UBからの調整液圧PqがホイールシリンダCWに供給されるので、制動液圧Pwが増加される。制動液圧Pwを保持するためには、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOが共に閉弁される。ホイールシリンダCWは流体的に封止されるので、制動液圧Pwが一定に維持される。
【0070】
≪第1、第2ユニットの特徴≫
以上で説明したように、制動制御装置SCには、加圧源として、2つのユニットYA、YBが備えられている。そして、第1、第2ユニットYA、YBでは、制動液圧Pwを増加するための加圧方式が異なる。具体的には、第1ユニットYAでは、第1電気モータMAを動力源とした、ピストンNP、NSの移動によって、シリンダCMから制動液BFが圧送されることによって制動液圧Pwの増加(即ち、加圧)が行われる。一方、第2ユニットYBでは、第2電気モータMBを動力源とした、流体ポンプQBからの制動液BFの流れ(循環流)KNが絞られること(所謂、オリフィス効果)によって制動液圧Pwの増加が行われる。加圧方式の相違に起因して、第1、第2ユニットYA、YBは、以下の特徴(長所/短所)を備える。
【0071】
第1ユニットYAは、車両JVに備えられた全ての(即ち、4つの)ホイールシリンダCWの液圧Pwを同時に調整するものである。つまり、第1ユニットYAによって、制動液圧Pwが個別には調整されない。このため、第1ユニットYAは、主として、サービスブレーキ(常用制動)に用いられる。サービスブレーキの機能を満足するに当たり、第1ユニットYAは、制動操作部材BPの急操作(即ち、急制動)にも対応することができる。従って、加圧源として、第1ユニットYA(特に、加圧ユニットKU)の出力は、第2ユニットYB(特に、加圧源KB)の出力よりも大きい。更に、第1ユニットYAの加圧ユニットKUにアキュムレータACが採用される構成では、アキュムレータACに蓄えられている高圧が利用できるため、昇圧応答に関しては有利である。
【0072】
第1ユニットYAの出力は、第2ユニットYBの出力よりも大きいので、負荷が同じであれば、第1ユニットYAの方が熱に対する容量(熱容量)が大きい。一方、第2ユニットYBでは、制動液BFの流れKNを絞るために調圧弁(リニア電磁弁)UBが利用されるが、該調圧弁UBには、長時間に亘って通電が行われる際の発熱の課題がある。従って、熱容量を考慮した長時間作動においては、第1ユニットYAの方が、第2ユニットYBよりも有利である。
【0073】
第1ユニットYAでは、シール部材SLによって、ピストンNP、NSとシリンダCMとが封止されているため、ピストンNP、NSが移動される際には、シール部材SLの摺動抵抗(摩擦力)が作用する。従って、制動液圧Pwの増加が開始される際の微細な調圧においては、第2ユニットYBの方が、第1ユニットYAよりも有利である。更に、加圧ユニットKU(第1ユニットYAの加圧源)にアキュムレータACが採用される構成では、アキュムレータACの高圧を基に極低圧を調整する状況では、その調圧において困難性を伴う。
【0074】
以上の説明をまとめると、第1ユニットYAは、応答性、及び、長時間作動に優れ、第2ユニットYBは調圧性能に優れる。制動制御装置SCでは、これらの特徴を踏まえ、各種の自動制動制御において、第1ユニットYAと第2ユニットYBとが、適宜使い分けられる。
【0075】
<第1、第2ユニットYA、YBの使い分け>
図4のフロー図を参照して、自動制動制御における、第1、第2ユニットYA、YBの使い分けについて説明する。オフロード制御(特に、クロール制御)、及び、アダプティブクルーズ制御では、制動制御装置SCによる制動トルクTb(結果、制動力Fb)の調整に加え、原動機PGによる駆動トルクTd(結果、駆動力Fd)の調整も行われるが、ここでは、制動トルクTb(即ち、制動液圧Pw)の調整について説明する。
【0076】
ステップS110にて、各種自動制動制御についてのスイッチ信号(操作信号)「Xa、Xc、Xd」、前後車体加速度Gx、目標車体加速度(前後方向)Gd、車輪速度Vw、車体速度Vxを含む各種信号が読み込まれる。ここで、車体速度Vxは、車輪速度Vw、及び、公知の方法に基づいて演算される。
【0077】
ステップS120にて、オフロード制御用の操作信号Xc、Xd等に基づいて、「オフロード制御が作動されるか、否か」が判定される。ここで、「オフロード制御」は、上述したクロール制御、ダウンヒルアシスト制御の総称である。スイッチ信号Xc、Xdにてオフロード制御の作動が要求されている場合には、ステップS120は肯定され、処理はステップS150に進められる。一方、ステップS120が否定される場合には、処理はステップS130に進められる。
【0078】
ステップS130にて、運転支援装置(特に、アダプティブクルーズ制御用)のスイッチ信号(操作信号)Xa等に基づいて、「アダプティブクルーズ制御が作動されるか、否か」が判定される。スイッチ信号Xaにてクルーズ制御の作動が要求されている場合には、ステップS130は肯定され、処理はステップS160に進められる。一方、ステップS130が否定される場合には、処理はステップS140に進められる。
【0079】
ステップS140にて、目標前後加速度Gd等に基づいて、「緊急制御(「衝突回避・被害軽減制御」の略称)が作動されるか、否か」が判定される。目標加速度Gdにて緊急制御の作動が要求されている場合には、ステップS140は肯定され、処理はステップS170に進められる。一方、ステップS140が否定される場合には、処理はステップS110に戻される。
【0080】
ステップS150にて、オフロード制御が実行される場合の自動制動制御(制動制御装置SCによる制動液圧Pwの自動加圧)が行われる。この場合、制動液圧Pwは、第1ユニットYAのみを加圧源にして、ホイールシリンダCW毎に個別に調整される。つまり、オフロード制御では、上部調圧によって、制動液圧Pwの個別制御が実行される。具体的には、設定速度vc、vd(オフロード制御用のスイッチXC、XDにて運転者によって設定される、車体速度Vxに対応する目標値)と、実際の車体速度Vxとの偏差hVに基づいて、各ホイールシリンダCWの目標液圧Ptが演算される。そして、第1ユニットYAによって発生される液圧を基にして、各制動液圧Pwが、目標液圧Ptに近付き、一致するよう、個別に制御される。オフロード制御での制動液圧Pwの個別制御については後述する。
【0081】
ステップS160にて、アダプティブクルーズ制御が実行される場合の自動制動制御が行われる。この場合、全てのホイールシリンダCWの液圧Pwは、第2ユニットYB(特に、加圧源KB)のみを加圧源にして、同一液圧に調整される。つまり、クルーズ制御では、下部調圧によって、各制動液圧Pwが同じ圧力に制御される。具体的には、「先行車両SVまでの距離(車間距離)Dsと設定車間距離da(クルーズ制御用のスイッチXAにて運転者によって設定される、車間距離Dsに対応する目標値)との偏差hD」、及び、「相対速度Vs(例えば、車間距離Dsの時間微分値)」に基づいて、目標とする前後車体加速度Gdが演算される。そして、目標加速度Gdに基づいて、目標加速度Gdの大きさ(絶対値)が大きいほど目標液圧Ptが大きくなるように、目標液圧Ptが演算される。ここで、目標液圧Ptは、全てのホイールシリンダCWで同じ値として決定される。目標液圧Ptは、第2ユニットYBのみによって達成される。第2ユニットYBによって発生される液圧を基にして、制動液圧Pwが、目標液圧Ptに近付き、一致するように制御される。このとき、「Ba=0」であるため、増圧弁UZ、減圧弁UGは駆動されておらず、実際のサーボ液圧Pu、供給液圧Pmは、「0」のままである。
【0082】
ステップS170にて、緊急制御(緊急時における、衝突回避、又は、衝突被害軽減のための制御)が実行される場合の自動制動制御が行われる。この場合、全てのホイールシリンダCWの制動液圧Pwは、第1ユニットYAのみを加圧源にして、同一液圧に調整される。つまり、緊急制御では、上部調圧によって、各制動液圧Pwが同じ圧力に制御される。具体的には、物体BT(先行車両SVを含む)までの距離(相対距離)Ds、及び、相対速度Vsに基づいて、衝突余裕時間Ttcが演算され、この衝突余裕時間Ttcが、しきい時間tx未満となった時点で、目標加速度Gdが指示される。しきい時間tx、及び、緊急制御用の目標加速度Gdは、予め設定された所定値(定数)として設定されている。例えば、緊急制御用の目標前後加速度Gdは、車輪WHが発生し得る制動力Fbの最大値に対応するよう、-0.7G程度に設定されるとよい。目標加速度Gdに基づいて、目標液圧Ptが演算される。ここで、目標液圧Ptは、全てのホイールシリンダCWで同じ値として決定される。目標液圧Ptは、第1ユニットYAのみによって達成される。第1ユニットYAが加圧源とされて、制動液圧Pwが、目標液圧Ptに近付き、一致するように制御される。このとき、電気モータMB、調圧弁UBは駆動されず、第2ユニットYBの加圧源KBは停止されている。
【0083】
上述したように、第1ユニットYAは、高応答性で、長時間作動に優れ、第2ユニットYBは調圧精度に優れる。オフロード制御は、相対的に高い液圧で、長時間に亘って継続される。即ち、長時間作動が要求されるので、オフロード制御における自動制動制御では、第1ユニットYAによる加圧(上部調圧)のみが採用される。また、クルーズ制御では、滑らかに車両JVが減速できるよう、相対的に低い液圧における調圧精度が要求される。このため、クルーズ制御における自動制動制御では、第2ユニットYBによる加圧(下部調圧)のみが採用される。更に、緊急制御では、短時間で車両JVが減速されるよう、加圧の応答性が要求される。このため、緊急制御における自動制動制御では、第1ユニットYAによる加圧(上部調圧)のみが採用される。
【0084】
制動制御装置SCには、加圧方式の異なる2つの加圧源として、第1、第2ユニットYA、YBが備えらえる。制動制御装置SCでは、各種の自動制動制御において、第1、第2ユニットYA、YBの特徴が活かされて使い分けられる。これにより、各種の自動制動制御の要求事項が満足され、その性能が向上され得る。
【0085】
1つのユニット(一般的には、第2ユニットYBが相当)によって、上記要求の全てを満足しようとすると、該ユニットが大型化され、高コストにもなりかねない。例えば、調圧弁UBの流量増加、電気モータMBの出力増加、及び、流体ポンプQBの吐出量増加、或いは、応答性を補完するためのデバイス(例えば、アキュムレータ)の追加が必要となる。制動制御装置SCでは、加圧源が適切に使い分けられるので、制動制御装置SCの全体として、小型化が達成され得る。
【0086】
<オフロード制御での制動液圧Pwの個別制御>
図5のフロー図を参照して、オフロード制御における制動液圧Pwの個別調整の処理について説明する。上述したように、オフロード制御は、ダウンヒルアシスト制御、及び、クロール制御の総称であるが、以下、クロール制御を例に、該処理について説明する。なお、ダウンヒルアシスト制御については、「Xc」を「Xd」に、「vc」を「vd」に、夫々読み替えたものが、該制御の説明に相当する。
【0087】
ステップS210にて、クロール制御用の操作信号Xc、車輪速度Vw、車体速度Vx、サーボ液圧Pu、供給液圧Pm等を含む各種信号が読み込まれる。ここで、車体速度Vxは、車輪速度Vw、及び、公知の方法に基づいて、制動コントローラECUにて演算される。また、操作信号Xcには、クロール制御の実行要否に係る信号、及び、クロール制御の設定速度vcの情報が含まれている。
【0088】
ステップS220にて、操作信号(スイッチ信号)Xc等に基づいて、「クロール制御(即ち、オフロード制御)が作動されるか、否か(作動要求の有無)」が判定される。スイッチ信号Xcにてクロール制御の作動が要求されている場合には、ステップS220は肯定され、処理はステップS230に進められる。一方、ステップS220が否定される場合には、処理はステップS210に戻される。
【0089】
ステップS230にて、実際の車体速度Vxと設定速度vc(クロール制御における車体速度Vxの目標値)との偏差hVに基づいて、各ホイールシリンダCWの目標液圧Ptが演算される。即ち、クロール制御では、制動液圧Pwは、ホイールシリンダCW毎に個別に調整される。詳細には、車体速度Vxと設定速度vcとの偏差hVが演算される(即ち、「hV=Vx-vc」)。ここで、設定速度vcは、クロール制御における車体速度Vxの目標値である。速度偏差hVに基づいて、車両全体に作用する制動力(4輪の制動力の合計)の目標値である目標総制動力Fvtが演算される。更に、各輪WHの配分比率Hwが決定され、目標総制動力Fvtに該比率Hwが乗じられて、各車輪WHの制動力Fbの目標値(目標制動力)Fbtが決定される(即ち、「Fbt=Fvt・Hw」)。最終的には、目標制動力Fbtが、制動装置SX、制動制御装置SC等の諸元に基づいて、各ホイールシリンダCWにおける液圧の次元に変換され、制動液圧Pwに対応する目標液圧Ptが演算される。例えば、配分比率Hwは、4つの車輪WHで均一となるよう、「0.25」にされ得る。また、前輪WHfの方の配分比率Hwfが、後輪WHrの配分比率Hwrよりも大きくなるように設定されてもよい。
【0090】
加えて、各車輪WHの目標制動力Fbtの算出には、以下の5つの補正のうちの少なくとも1つが考慮される。そして、補正後の目標制動力Fbtに応じて、最終的な目標液圧Ptが決定される。
(補正1):設定速度vcが小さいほど、前輪WHfへの制動力の配分比率が大きくなるように調整する。
(補正2):設定速度vcが小さい領域(低速領域)に設定された場合に、制動力Fbに下限値fbl(「下限制動力」という)が設定される。そして、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正3):車体速度Vxが設定速度vcを超えている場合には、下限制動力fblが設定され、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正4):駆動力Fdが所定値よりも大きい場合には、下限制動力fblが設定され、各車輪WHには、少なくとも下限制動力fblが発生される。
(補正5):制御中に車両が停止した場合には、停止後の所定時間の間は、制動力の減少に制限が加えられる。
【0091】
ステップS240にて、選択ホイールシリンダCWx、及び、非選択ホイールシリンダCWzが決定される。「選択ホイールシリンダCWx」は、複数の目標液圧Ptのうちの最大値Ptx(「最大目標液圧」ともいう)に対応するホイールシリンダCWである。また、「非選択ホイールシリンダCWz」は、ホイールシリンダCWのうちで、選択ホイールシリンダCWx以外のホイールシリンダCWである。つまり、車両JVの車輪WHに備えられる4つのホイールシリンダCWのうちの1つが選択ホイールシリンダCWxであり、残りの3つが非選択ホイールシリンダCWzである。
【0092】
以下の説明では、ホイールシリンダCWに係るもののうちで、添字「x」が選択ホイールシリンダCWxに対応するものであることを、添字「z」が非選択ホイールシリンダCWzに対応するものであることを、夫々表す。従って、4つの実際の制動液圧Pwのうちで、選択ホイールシリンダCWxの実液圧が「選択制動液圧Pwx」と、非選択ホイールシリンダCWzの実液圧が「非選択制動液圧Pwz」と、夫々称呼される。また、4つの目標液圧Ptのうちで、非選択ホイールシリンダCWzに該当するものが、「非選択目標液圧Ptz」と称呼される。なお、最大目標液圧Ptx(選択ホイールシリンダに該当する目標液圧)は、目標液圧Ptの最大値であるので、非選択目標液圧Ptz(結果、実際の非選択制動液圧Pwz)と最大目標液圧Ptx(結果、実際の選択制動液圧Pwx)との大小関係は、「Ptz≦Ptx、Pwz≦Pwx」である。
【0093】
4つのホイールシリンダCWの夫々に対応して設けられる構成要素でも、選択ホイールシリンダCWxに該当する要素に添字「x」が付与され、非選択ホイールシリンダCWzに該当する要素(つまり、選択ホイールシリンダCWxに非該当の要素)に添字「z」が付与される。例えば、4つのインレット弁UI、及び、アウトレット弁VOにおいて、選択ホイールシリンダCWxに対応する各構成要素は、「選択インレット弁UIx」、及び、「選択アウトレット弁VOx」と称呼される。一方、4つのインレット弁UI、及び、アウトレット弁VOのうちで、非選択ホイールシリンダCWzに該当する各構成要素は、「非選択インレット弁UIz」、及び、「非選択アウトレット弁VOz」と称呼される。
【0094】
更に、制動制御装置SCでは、2系統の制動流体路が採用されるが、選択ホイールシリンダCWxを含む系統の構成要素に添字「x」が付され、選択ホイールシリンダCWxを含まない系統の構成要素に添字「z」が付される。例えば、2つの連絡路HS、調圧弁UB、調圧リザーバRC、及び、流体ポンプQBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含む系統に属する各構成要素は、「選択連絡路HSx」、「選択調圧弁UBx」、「選択調圧リザーバRCx」、及び、「選択流体ポンプQBx」と称呼される。一方、2つの連絡路HS、調圧弁UB、調圧リザーバRC、及び、流体ポンプQBのうちで、選択ホイールシリンダCWxを含まない系統に属する各構成要素は、「非選択連絡路HSz」、「非選択調圧弁UBz」、「非選択調圧リザーバRCz」、及び、「非選択流体ポンプQBz」と称呼される。
【0095】
ステップS250にて、最大目標液圧Ptx(4つの目標液圧Ptのうちの最大値)に基づいて、選択制動液圧Pwx(選択ホイールシリンダCWxの実際の液圧)が調整される。選択制動液圧Pwxは、第1ユニットYAが制御されることによって達成される。つまり、実際の選択制動液圧Pwxが、最大目標液圧Ptxに一致するように、第1ユニットYAの加圧ユニットKUが制御(駆動)される。詳細には、最大目標液圧Ptxに対応するサーボ液圧Puの目標値Pv(「目標サーボ液圧」ともいう)が演算され、実際のサーボ液圧Pu(サーボ液圧センサPUの検出値)が、目標サーボ液圧Pv(目標値)に一致するように、増圧弁UZ、及び、減圧弁UGが制御(所謂、液圧フィードバック制御)される。選択ホイールシリンダCWxにおいては、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOは非通電状態であり、それらは完全に開弁された状態(即ち、開弁量が最大の状態)にある。このため、選択制動液圧Pwxは、供給液圧Pmに一致している。
【0096】
ステップS260にて、非選択ホイールシリンダCWzの目標液圧Ptzに基づいて、非選択制動液圧Pwz(非選択ホイールシリンダCWzの実際の液圧)が調整される。非選択制動液圧Pwzは、第2ユニットYBにおいて、インレット弁UIz(「非選択インレット弁」という)、及び、アウトレット弁VOz(「非選択アウトレット弁」という)が制御されることによって達成される。つまり、実際の非選択制動液圧Pwzが、非選択ホイールシリンダCWzの非選択目標液圧Ptzに一致するように、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzが制御(駆動)される。なお、非選択制動液圧Pwzの調整では、第1ユニットYAが加圧源とされている。従って、第2ユニットYBでは、第1ユニットYAからの供給液圧Pmを基にして、液圧調整が行われる。
【0097】
詳細には、非選択制動液圧Pwzの調整には、「減少モード」、「増加モード」、及び、「保持モード」の3つの制御モードのうちの1つが選択される。減少モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの減少が必要な場合には、非選択インレット弁UIzが閉弁され、非選択アウトレット弁VOzが開弁される。非選択インレット弁UIzの上部(第1ユニットYAに近い側)には、最大目標液圧Ptxに対応した供給液圧Pmが供給されるが、非選択インレット弁UIzは閉弁されるので、この供給が阻止される。そして、非選択アウトレット弁VOzが開弁されるので、非選択ホイールシリンダCWz内の制動液BFは、調圧リザーバRCに流出し、非選択制動液圧Pwzは減少される。
【0098】
増加モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの増加が必要な場合には、非選択アウトレット弁VOzが閉弁され、非選択インレット弁UIzが開弁される。非選択アウトレット弁VOzの閉弁によって、制動液BFの調圧リザーバRCへの流出が阻止される。そして、非選択インレット弁UIzを通して、供給液圧Pmが非選択ホイールシリンダCWzに供給されるので、制動液圧Pwzは増加される。なお、非選択制動液圧Pwzの調節では、第1ユニットYAが発生する供給液圧Pm(=Pwx)が基にされているため、非選択制動液圧Pwzの上限は、選択制動液圧Pwxである(即ち、「Pwz≦Pwx」)。
【0099】
保持モードにおいて、非選択制動液圧Pwzの保持が必要な場合には、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzが共に閉弁される。非選択ホイールシリンダCWzは、流体的に封止されるので、非選択制動液圧Pwzは一定に維持される。なお、非選択制動液圧Pwzの調整において、保持モードは省略されてもよい。この場合、減少モードと増加モードとが繰り返されることによって、非選択ホイールシリンダCWzの制動液圧Pwzが調整される。
【0100】
ステップS270にて、還流用の電気モータMBが駆動される。非選択制動液圧Pwzの調整(特に、減少モード)では、制動液BFが調圧リザーバRCに流出されることによって減圧が行われるが、調圧リザーバRC内に溜まった制動液BFを調圧弁UBとインレット弁UIとの間の連絡路HSに戻すよう、還流用電気モータMBによって還流用流体ポンプQBが回転される。
【0101】
ステップS270では、電気モータMBの発熱を抑制するよう、調圧リザーバRC内の制動液BFの量(「リザーバ液量Ec」という)に基づいて、電気モータMBの駆動/停止が行われてもよい。具体的には、リザーバ液量Ecが所定液量ex未満の場合には、電気モータMBは停止される。そして、リザーバ液量Ecが所定液量ex以上の場合に、電気モータMBに通電が行われ、流体ポンプQBが駆動される。ここで、所定液量exは、予め設定された所定値(定数)である。なお、リザーバ液量Ecは、アウトレット弁VOzの駆動状態(例えば、開弁時間)、電気モータMBの駆動状態等に基づいて推定される。
【0102】
<他の実施形態>
以下、制動制御装置SCの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、上記同様の効果(自動制動制御の性能向上)を奏する。
【0103】
≪電動シリンダ型加圧源の採用≫
上記の実施形態では、第1ユニットYA(加圧源)として、アキュムレータACに蓄えられたアキュムレータ液圧Pcが利用された。これに代えて、第1電気モータMAによって、シリンダに挿入されたピストンが直接駆動されることで制動液圧Pwが増加されてもよい。所謂、電動シリンダ型のものが、第1ユニットYAとして採用され得る。電動シリンダ型の構成は、例えば、「WO2012/046703」等で公知であるので、以下、該構成について、図示せずに、簡略に説明する。電動シリンダ型の第1ユニットYAは、調圧シリンダ、調圧ピストン、直動変換機構、及び、第1電気モータMAにて構成される。
【0104】
マスタシリンダCMとは別に、調圧シリンダ(「スレーブシリンダ」ともいう)が設けられる。調圧シリンダは、マスタシリンダCMと同様の構成であって、例えば、タンデム型シリンダである。調圧シリンダには、2つの調圧ピストンが、弾性体(圧縮ばね)を介して挿入されている。2つの調圧ピストンのうちの1つは、直動変換機構(例えば、ねじ機構)を介して第1電気モータMAに接続される。ここで、直動変換機構は、電気モータMAの回転動力を、調圧ピストンの直線動力(推力)に変換するものである。
【0105】
第1電気モータMAによって、調圧ピストンが駆動される。詳細には、電気モータMAが回転されると、その動力が、直動変換機構によって、調圧ピストンの直線動力に変換される。調圧シリンダ内は、2つの調圧ピストン、及び、シール部材によって、2つの調圧室に仕切られている。2つの調圧室は、連絡路HS、及び、第2ユニットYBを介して、ホイールシリンダCWに接続されている。従って、電気モータMAが駆動されると調圧室の体積が減少されるので、調圧室から、ホイールシリンダCWに制動液BFが、供給液圧Pmで圧送される。つまり、電動シリンダ型の第1ユニットYAでは、電磁弁UZ、UGが用いられることなく、電気モータMAの出力調整によって、供給液圧Pmが直接的に制御(調整)される。該構成では、オフロード制御の個別制御において、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxが、電気モータMAによって制御される。そして、非選択ホイールシリンダCWzの液圧Pwzが、インレット弁UIz、及び、アウトレット弁VOzによって調整される。
【0106】
≪選択インレット弁UIx、及び、選択アウトレット弁VOxによる選択制動液圧Pwxの調整≫
上記の実施形態では、オフロード制御において、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxが、第1ユニットYAによって調整された(即ち、増加、保持、減少された)。そして、非選択ホイールシリンダCWzの液圧Pwzが、選択制動液圧Pwxを基圧として、「0」から液圧Pwxの範囲内で、非選択インレット弁UIz、及び、非選択アウトレット弁VOzによって調整された。これに代えて、全てのホイールシリンダCWの液圧Pwが、インレット弁UI、及び、アウトレット弁VOによって調整されてもよい。具体的には、第1ユニットYAによって、最大目標液圧Ptxよりも大きい液圧が、基圧として供給される。そして、選択ホイールシリンダCWxの液圧Pwxが、非選択ホイールシリンダCWzと同様の液圧調整(電磁弁UI、VOによる調整)によって、「0」から該基圧(>Pwx)の範囲内で制御される。
【0107】
≪ダイアゴナル型流体路≫
上記の実施形態では、2系統の制動流体路として、前後型の構成が採用された。これに代えて、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)の制動系統が採用され得る。該構成では、マスタシリンダCM(又は、調圧シリンダ)内に形成された2つの液圧室のうちで、一方側が右前輪ホイールシリンダ、左後輪ホイールシリンダに接続され、他方側が左前輪ホイールシリンダ、右後輪ホイールシリンダに接続される。
【0108】
<制動制御装置SCの実施形態のまとめと作用・効果>
以下に、制動制御装置SCの実施形態についてまとめる。制動制御装置SCは、自車両JVの車輪WHに設けられたホイールシリンダCWの液圧である制動液圧Pwを増加して車輪WHに制動トルクTbを付与する。制動制御装置SCには、「第1電気モータMAを動力源にして移動されるピストンNP、NSとピストンNP、NSが挿入されるシリンダCMとにて構成され、ピストンNP、NSの移動によってシリンダCMから制動液BFを排出することで制動液圧Pwを増加する第1ユニットYA」と、「第1ユニットYAとホイールシリンダCWとを接続する連絡路HSに設けられる調圧弁UBと、第1電気モータMAとは別の第2電気モータMBによって駆動される流体ポンプQBとにて構成され、流体ポンプQBが吐出する制動液BFの流れ(還流)KNを調圧弁UBによって絞ることで制動液圧Pwを増加する第2ユニットYB」と、第1、第2ユニットYA、YBを制御するコントローラECUと、が備えられる。
【0109】
制動制御装置SCでは、コントローラECUは、制動液圧PwをホイールシリンダCW毎で個別に制御して自車両JVの車体速度Vxを低速で一定に維持するオフロード制御(ダウンヒルアシスト制御、クロール制御)を実行する。また、コントローラECUは、自車両JVの前方を走行する先行車両SVと自車両JVとの距離を維持しつつ自車両JVの車体速度Vxを一定に維持するクルーズ制御(アダプティブクルーズ制御)を実行する。更に、コントローラECUは、自車両JVの前方に存在する物体BTとの衝突を回避、又は、該衝突による被害を軽減する緊急制御(衝突回避・被害軽減制御)を実行する。
【0110】
制動制御装置SCでは、コントローラECUは、オフロード制御を実行する場合には第1ユニットYAのみを加圧源として制動液圧Pwを増加する。即ち、オフロード制御では、下部調圧は停止され、上部調圧のみが実行される。また、コントローラECUは、クルーズ制御を実行する場合には、第2ユニットYBのみを加圧源として制動液圧Pwを増加する。即ち、クルーズ制御では、上部調圧は停止され、下部調圧のみが実行される。更に、コントローラECUは、緊急制御を実行する場合には、第1ユニットYAのみを加圧源として制動液圧Pwを増加する。即ち、緊急制御では、下部調圧は停止され、上部調圧のみが実行される。
【0111】
制動制御装置SCには、加圧方式の異なる第1、第2ユニットYA、YBが備えられる。第1ユニットYAの出力は、第2ユニットYBの出力よりも大きいので、加圧応答性、及び、熱的な容量においては、第1ユニットYAの方が第2ユニットYBよりも優れる。一方、第1ユニットYAにおけるシール部材SLの摺動抵抗に起因して、制動液圧Pwの調圧精度においては、第2ユニットYBの方が第1ユニットYAよりも優れる。従って、熱的要求が高いオフロード制御では、第1ユニットYAのみによる加圧が採用される。また、円滑な調圧、且つ、その精度が要求されるクルーズ制御では、第2ユニットYBのみによる加圧が採用される。更に、加圧応答性の要求が高い緊急制御では、第1ユニットYAのみによる加圧が採用される。各種制御に要求される事項、及び、2つの加圧源YA、YBの特徴に基づいて、自動制動制御に採用される加圧源が適切に選択される。これにより、各種の自動制動制御の性能が好適に確保され、更には、その性能が向上され得る。
【符号の説明】
【0112】
JV…自車両、SV…先行車両、BT…物体(障害物)、SC…制動制御装置、CW…ホイールシリンダ、Pw…制動液圧、ECU…コントローラ、Vx…車体速度、YA…第1ユニット、MA…第1電気モータ、YB…第2ユニット、MB…第2電気モータ、QB…流体ポンプ、UB…調圧弁。


図1
図2
図3
図4
図5