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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】空燃比センサ制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
G01N27/416 321
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021038332
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2022138447
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】藤本 悠
(72)【発明者】
【氏名】岩間 祐治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 一正
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-329730(JP,A)
【文献】特開2016-065862(JP,A)
【文献】特開2017-053711(JP,A)
【文献】特開2006-208232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0179976(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26,27/409,27/416,27/419,
G01N 27/12,
G01N 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電がオンオフ制御されるヒータ(3)により昇温される空燃比センサ(2)を制御する空燃比センサ制御装置(5)であって、
前記空燃比センサに対して第1電圧値および前記第1電圧値とは異なる第2電圧値の印加電圧を所定の掃引期間毎に交互に切り替えて印加する電圧印加部(10)と、
前記空燃比センサに流れる電流を検出する電流検出部(11)と、
前記電流検出部により検出された電流値を前記掃引期間よりも短い所定のサンプリング周期毎に取得し、その取得した前記電流値に基づいて前記掃引期間毎に前記空燃比センサにより検出される空燃比および前記空燃比センサのインピーダンスを算出する演算部(17)と、
を備え、
前記演算部は、
前記掃引期間毎に、その掃引期間の開始タイミング以前の所定のタイミングで取得した前記電流値を演算用電流値として設定し、
前記掃引期間毎に、今回の掃引期間に設定した前記演算用電流値である今回電流値と今回の前記掃引期間の1つ前の前記掃引期間に設定した前記演算用電流値である前回電流値とに基づいて前記空燃比を算出し、
所定の前記サンプリング周期に取得した前記電流値と、その所定の前記サンプリング周期より前の前記サンプリング周期に取得した前記電流値と、の差分が所定の閾値以上であるか否かを判断する判断処理を実行し、
所定の前記掃引期間において前記判断処理によって前記差分が前記閾値以上であると判断された場合、所定の前記掃引期間の1つ後の前記掃引期間および2つ後の前記掃引期間では、所定の前記掃引期間以前に算出された前記空燃比の値を当該掃引期間における前記空燃比の算出結果として置き換える空燃比センサ制御装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記掃引期間毎に、前記今回電流値と前記前回電流値とに基づいて前記インピーダンスを算出し、
所定の前記掃引期間において前記判断処理によって前記差分が前記閾値以上であると判断された場合、所定の前記掃引期間の1つ後の前記掃引期間および2つ後の前記掃引期間では、所定の前記掃引期間に算出された前記インピーダンスの値を当該掃引期間における前記インピーダンスの算出結果として置き換える請求項1に記載の空燃比センサ制御装置。
【請求項3】
通電がオンオフ制御されるヒータ(3)により昇温される空燃比センサ(2)を制御する空燃比センサ制御装置(5)であって、
前記空燃比センサに対して第1電圧値および前記第1電圧値とは異なる第2電圧値の印加電圧を所定の掃引期間毎に交互に切り替えて印加する電圧印加部(10)と、
前記空燃比センサに流れる電流を検出する電流検出部(11)と、
前記電流検出部により検出された電流値を前記掃引期間よりも短い所定のサンプリング周期毎に取得し、その取得した前記電流値に基づいて前記掃引期間毎に前記空燃比センサにより検出される空燃比を算出する演算部(17)と、
を備え、
前記演算部は、
前記掃引期間毎に、その掃引期間の開始タイミング以前の所定のタイミングで取得した前記電流値を演算用電流値として設定し、
前記掃引期間毎に、今回の掃引期間に設定した前記演算用電流値である今回電流値と今回の前記掃引期間の1つ前の前記掃引期間に設定した前記演算用電流値である前回電流値とに基づいて前記空燃比を算出し、
所定の前記サンプリング周期に取得した前記電流値と、その所定の前記サンプリング周期より前の前記サンプリング周期に取得した前記電流値と、の差分が所定の閾値以上であるか否かを判断する判断処理を実行し、
所定の前記掃引期間において前記判断処理によって前記差分が所定の閾値以上であると判断された場合、所定の前記掃引期間の1つ後の前記掃引期間では、所定の前記掃引期間の1つ前の前記掃引期間において設定した前記演算用電流値を当該掃引期間における前記演算用電流値として設定する空燃比センサ制御装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記掃引期間毎に、その掃引期間の開始タイミングの直前の所定のタイミングで取得した前記電流値を前記演算用電流値として設定するようになっている請求項1から3のいずれか一項に記載の空燃比センサ制御装置。
【請求項5】
前記演算部は、所定の前記サンプリング周期に取得した前記電流値と、その所定の前記サンプリング周期より1つ前の前記サンプリング周期に取得した前記電流値と、の差分に基づいて前記判断処理を行うようになっている請求項1から4のいずれか一項に記載の空燃比センサ制御装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記掃引期間の開始タイミングから所定のマスク期間は、前記判断処理の実行を停止する請求項1から5のいずれか一項に記載の空燃比センサ制御装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記マスク期間を可変設定することができる構成となっている請求項6に記載の空燃比センサ制御装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記閾値を可変設定することができる構成となっている請求項1から7のいずれか一項に記載の空燃比センサ制御装置。
【請求項9】
半導体集積回路として構成されている請求項1から8のいずれか一項に記載の空燃比センサ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電がオンオフ制御されるヒータにより昇温される空燃比センサを制御する空燃比センサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空燃比センサを制御する空燃比センサ制御装置は、空燃比センサに対して所定の掃引期間毎にハイレベルおよびロウレベルが切り替わる印加電圧、つまり方形波の電圧を印加し、その際に空燃比センサから出力される電流を検出する。そして、空燃比センサ制御装置は、このように検出される電流の直流成分であるDC電流に基づいて空燃比を検出するとともに、上記電流の交流成分であるAC電流に基づいて空燃比センサのインピーダンスを検出するようになっている。なお、本明細書では、空燃比のことをA/Fと称することがある。
【0003】
A/Fセンサは、その近傍に設けられたヒータの通電がオンオフ制御されることにより、例えば800℃程度に昇温されるようになっている。このとき、ヒータには、パルス状の電流が印加され、それによりヒータに生じた磁界がA/Fセンサおよびヒータの相互インダクタンスによりA/Fセンサに誘導起電力が発生する。このような誘導起電力によりA/Fセンサに生じる電流、つまりヒータの通電に起因したノイズ電流が、本来のA/Fセンサの出力電流に重畳すると、A/Fなどの検出精度が低下するおそれがある。
【0004】
このような課題を解消するための従来技術として、特許文献1、2に開示される技術を挙げることができる。以下の説明では、特許文献1に開示される技術のことを第1の従来技術と称するとともに、特許文献2に開示される技術のことを第2の従来技術と称することとする。第1の従来技術は、A/Fの検出期間とヒータの駆動期間とが重複しないようにタイミングを制御するものである。第2の従来技術は、ヒータの通電に起因したノイズ成分に対して有効なデジタルのローパスフィルタを設ける技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平7-119743号公報
【文献】特開2000-329730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1の従来技術では、連続的にA/Fを検出すること、つまり連続A/F検出を前提としない制御方法であることから、A/F検出のリアルタイム性が低くなるという課題が生じる。また、第1の従来技術では、ヒータの通電に起因したノイズが十分に小さい場合であっても必ず上述したタイミング制御が実施されることから、タイミング制御のための処理負荷が増大するという課題も生じる。
【0007】
第2の従来技術では、インパルス的なノイズを除去するためには、非常に強力なローパスフィルタが必要となることから、検出帯域が低下するという課題が生じる。また、第2の従来技術では、A/Fの急変に対する応答性が低下することから、A/Fセンサのインピーダンスを検出することが困難になるという課題も生じる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出のリアルタイム性を良好に維持しつつ、ヒータの通電に起因したノイズによる検出精度の低下を抑えることができる空燃比センサ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1、3に記載の空燃比センサ制御装置(5)は、通電がオンオフ制御されるヒータ(3)により昇温される空燃比センサ(2)を制御するものであり、電圧印加部(10)、電流検出部(11)および演算部(17)を備えている。電圧印加部は、空燃比センサに対して第1電圧値および第1電圧値とは異なる第2電圧値の印加電圧を所定の掃引期間毎に交互に切り替えて印加する。電流検出部は、空燃比センサに流れる電流を検出する。
【0010】
請求項1に記載の演算部は、電流検出部により検出された電流値を掃引期間よりも短い所定のサンプリング周期毎に取得し、その取得した電流値に基づいて掃引期間毎に空燃比センサにより検出される空燃比および空燃比センサのインピーダンスを算出する。また、請求項3に記載の演算部は、電流検出部により検出された電流値を掃引期間よりも短い所定のサンプリング周期毎に取得し、その取得した電流値に基づいて掃引期間毎に空燃比センサにより検出される空燃比を算出する。
【0011】
上記した各演算部は、掃引期間毎に、その掃引期間の開始タイミング以前の所定のタイミングで取得した電流値を演算用電流値として設定し、掃引期間毎に、今回の掃引期間に設定した演算用電流値である今回電流値と今回の掃引期間の1つ前の掃引期間に設定した演算用電流値である前回電流値とに基づいて空燃比を算出するようになっている。上記構成において、所定の掃引期間にヒータの通電に起因したノイズ電流が空燃比センサに流れる電流に重畳した場合、所定の掃引期間の1つ後の掃引期間に設定される演算用電流値がノイズの影響により本来の値から大きく離れた値へと変動するおそれがある。そうすると、所定の掃引期間の1つ後の掃引期間および2つ後の掃引期間には、本来の値から大きく離れた値へと変動した演算用電流値を用いて空燃比が算出されることになり、その算出結果が、真値とは大きく異なる値となるおそれがある。
【0012】
そこで、上記した各演算部は、所定のサンプリング周期に取得した電流値と、その所定のサンプリング周期より前のサンプリング周期に取得した電流値と、の差分が所定の閾値以上であるか否かを判断する判断処理を実行する。このような判断処理によれば、空燃比センサに流れる電流が比較的大きく変化したか否かを判断すること、ひいては、ヒータの通電に起因したノイズ電流が空燃比センサに流れる電流に重畳したか否かを判断することができる。
【0013】
そして、請求項1に記載の演算部は、所定の掃引期間において判断処理によって差分が閾値以上であると判断された場合、所定の掃引期間の1つ後の掃引期間および2つ後の掃引期間では、所定の掃引期間以前に算出された空燃比の値を、当該掃引期間における空燃比の算出結果として置き換える。また、請求項3に記載の演算部は、所定の掃引期間において判断処理によって差分が所定の閾値以上であると判断された場合、所定の掃引期間の1つ後の掃引期間では、所定の掃引期間の1つ前の掃引期間において設定した演算用電流値を当該掃引期間における演算用電流値として設定する。
【0014】
このようにすれば、所定の掃引期間にヒータの通電に起因したノイズ電流が空燃比センサに流れる電流に重畳したとしても、その掃引期間の1つ後および2つ後の掃引期間における空燃比の算出結果が、真値とは大きく異なる値となることが抑制される。この場合、第1の従来技術のようなタイミング制御が不要であり、また、第2の従来技術のような強力なローパスフィルタも不要である。したがって、上記構成によれば、検出のリアルタイム性を良好に維持しつつ、ヒータの通電に起因したノイズによる検出精度の低下を抑えることができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るA/Fセンサシステムの構成を模式的に示す図
図2】第1実施形態に係るA/Fセンサシステムの正常時の動作の一例を説明するためのタイミングチャート
図3】第1実施形態に係るA/Fセンサシステムのノイズ重畳時の動作の一例を説明するためのタイミングチャート
図4】第1実施形態に係るA/Fセンサシステムにより実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容の一例を説明するための図
図5】第2実施形態に係るA/Fセンサシステムのノイズ重畳時の動作の一例を説明するためのタイミングチャート
図6】第2実施形態に係るA/Fセンサシステムにより実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容の一例を説明するための図
図7】第3実施形態に係るA/Fセンサシステムのノイズ重畳時の動作の一例を説明するためのタイミングチャート
図8】第3実施形態に係るA/Fセンサシステムにより実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容の一例を説明するための図
図9】第4実施形態に係るA/Fセンサシステムのノイズ重畳時の動作の一例を説明するためのタイミングチャート
図10】第4実施形態に係るA/Fセンサシステムにより実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容の一例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1図4を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のA/Fセンサシステム1は、例えば自動車などの車両に搭載される電子制御装置であるECUに設けられる。A/Fセンサシステム1は、車両用の内燃機関が排出する排気ガスを被検出ガスとし、その排気中のA/FをA/Fセンサ2により検出するための各種制御処理を実行する。この場合、A/Fセンサ2の近傍には、ヒータ3が設けられている。A/Fセンサ2は、ヒータ3により、例えば800℃程度まで昇温されるようになっている。
【0018】
A/Fセンサシステム1は、MCU4および例えばASICなどの半導体集積回路として構成されたA/Fセンサ制御装置5を備えている。なお、MCUはMicro Controller Unitの略称であり、ASICはApplication Specific Integrated Circuitの略称である。MCU4は、CPU、ROM、RAMなどを備え、CPUがROMに格納されているコンピュータプログラムを実行してコンピュータプログラムに対応する処理を実行することにより後述する各種の制御および処理を実行する。A/Fセンサ制御装置5は、内部電源6、通信部7、制御部8、ヒータ制御部9、端子駆動部10、センサ電流検出部11などの機能ブロックを備えている。
【0019】
内部電源6は、A/Fセンサ制御装置5の外部から供給される外部電源を用いて安定した直流電源を生成する。内部電源6は、生成した直流電源を、A/Fセンサ制御装置5の内部の各機能ブロックに供給する。通信部7は、MCU4との間で通信を行う。通信部7は、MCU4から各種指令を受信すると、それら各種指令を制御部8に伝達する。また、通信部7は、制御部8から各種情報が与えられると、それら各種情報をMCU4に送信する。
【0020】
ヒータ制御部9には、MCU4により生成されるヒータ3の駆動に関する指令信号Saが与えられている。ヒータ制御部9は、指令信号Saに基づいて、ヒータ3の駆動をデューティ制御するためのヒータ駆動信号Sbを生成する。ヒータ駆動信号Sbは、図3などに示すように、2値の信号であり、ハイレベルであるときにヒータ3の通電オンを指令するとともに、ロウレベルであるときにヒータ3の通電オフを指令する信号となっている。
【0021】
ヒータ駆動信号Sbは、A/Fセンサ制御装置5の外部に設けられたヒータ駆動部12に与えられる。ヒータ駆動部12は、例えばMOSトランジスタにより構成されている。ヒータ駆動部12のMOSトランジスタは、ヒータ駆動信号Sbに基づいてオンオフ制御される。これにより、ヒータ3の通電がオンオフ制御される。ヒータ制御部9によりヒータ3の通電がオンオフ制御されることにより、A/Fセンサ2の温度が昇温される。A/Fセンサ2には、排気ガスのA/Fと、その端子間電圧に応じた電流が流れる。
【0022】
端子駆動部10は、出力端子P1、P2を介してA/Fセンサ2の各端子間に電圧を印加するバッファアンプ13、14を備えている。A/Fセンサ2の各端子間には、バッファアンプ13、14の各出力電圧の差に対応した電圧が印加されることになる。この場合、端子駆動部10は、A/Fセンサ2に対して第1電圧値および第1電圧値とは異なる第2電圧値の印加電圧を所定の掃引期間毎に交互に切り替えて印加するものであり、電圧印加部として機能する。
【0023】
A/Fセンサ2に印加される電圧であるセンサ印加電圧は、図2などに示すように、矩形波の電圧となる。端子駆動部10の動作は、制御部8により制御される。制御部8は、後述するようにして検出するA/Fセンサ2のインピーダンスの検出値に基づいて、センサ印加電圧が適切な値となるように端子駆動部10の動作を制御する。バッファアンプ14の出力端子と出力端子P2との間には、シャント抵抗15が接続されている。シャント抵抗15は、A/Fセンサ2に流れる電流を電圧に変換する、つまりI/V変換する。なお、以下の説明では、A/Fセンサ2に流れる電流のことをセンサ出力電流と称することがある。
【0024】
シャント抵抗15の各端子間電圧である検出電圧X1は、センサ電流検出部11に与えられている。図示は省略するが、センサ電流検出部11は、検出電圧X1を増幅するアンプおよびアンプの出力電圧をデジタル信号に変換して出力するA/D変換器を備えている。センサ電流検出部11は、シャント抵抗15の各端子間電圧に基づいてセンサ出力電流を検出するものであり、電流検出部として機能する。センサ電流検出部11は、上記A/D変換器から出力されるデジタル信号を、センサ出力電流の検出結果を表す検出信号X2として出力する。
【0025】
センサ電流検出部11から出力される検出信号X2は、制御部8に与えられる。制御部8は、デジタルフィルタ16、演算部17およびレジスタ18を備えている。なお、デジタルフィルタ16は、ローパスフィルタであり、検出信号X2を入力するとともに、その高周波成分を除去した信号X3を出力する。演算部17は、デジタルフィルタ16から出力される信号X3に基づいて、A/Fセンサ2により検出されるA/FおよびA/Fセンサ2のインピーダンスを算出する。レジスタ18には、演算部17により用いられる各種の値などが格納される。
【0026】
以下、演算部17によるA/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacの具体的な算出手法について、図2のタイミングチャートも参照して説明する。図2に示すように、センサ印加電圧は、掃引期間Ta毎に電圧値が切り替わる方形波の電圧となっている。この場合、掃引期間Taが1つの動作サイクルとなり、各サイクルを、n-2、n-1、n、n+1、n+2、n+3、…と表している。
【0027】
この場合、デジタル信号である検出信号X2および信号X3は、所定のサンプリング周期毎にサンプリングされたものとなっている。図2などでは、各サンプリングタイミングを白抜きまたは黒塗りの丸印で示している。サンプリング周期は、掃引期間Taよりも短い所定の時間である。そのため、演算部17は、センサ電流検出部11により検出された電流値を、所定のサンプリング周期毎に取得するようになっている。
【0028】
演算部17は、その取得した電流値に基づいて、掃引期間Ta毎にA/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacを算出する。まず、演算部17は、掃引期間Ta毎に、その掃引期間Taの開始タイミング以前の所定のタイミングで取得された電流値を演算用電流値として設定する。本実施形態では、演算部17は、掃引期間Ta毎に、その掃引期間Taの1つ前の掃引期間Taにおける掃引収束点の電流値を演算用電流値として設定する。上記した掃引収束点は、その掃引期間Taの開始タイミングの直前の所定のタイミング、つまり図2などで黒塗りの丸印で示すサンプリングタイミングのことである。
【0029】
この場合、演算部17は、掃引収束点の電流値を表す信号X3をサンプルホールドすることにより演算用電流値SHを設定する。以下の説明および図2などでは、演算用電流値SH、A/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacについて、それらに対応するサイクルを括弧書きにて追記して表している。例えば、サイクルnにおいて設定される演算用電流値はSH(n)として表し、サイクルnにおいて算出される値AFはAF(n)として表し、サイクルnにおいて算出される値ZacはZac(n)として表している。
【0030】
演算部17は、掃引期間Ta毎に、今回の掃引期間Taに設定した演算用電流値SHである今回電流値と今回の掃引期間Taの1つ前の掃引期間Taに設定した演算用電流値SHである前回電流値とに基づいてA/Fの値AFを算出する。例えば、今回の掃引期間Taがサイクルnである場合、演算用電流値SH(n)が今回電流値となり、演算用電流値SH(n-1)が前回電流値となる。また、演算部17は、掃引期間Ta毎に、今回電流値と前回電流値とに基づいてインピーダンスの値Zacを算出する。
【0031】
従来技術の説明にて既述したように、センサ出力電流のDC成分からA/Fの値AFを求めることができるとともに、センサ出力電流のAC成分からインピーダンスの値Zacを求めることができる。そこで、演算部17は、下記(1)式に基づいてA/Fの値AFを算出するとともに、下記(2)式に基づいてインピーダンスの値Zacを算出する。ただし、演算用電流値SHsは、演算用電流値SHをシャント抵抗15の各端子間電圧に換算した値であり、ΔVは、センサ印加電圧の振幅、つまり第1電圧値と第2電圧との差電圧であり、Rshは、シャント抵抗15の抵抗値である。
【0032】
【数1】
【0033】
演算部17は、上記したような演算の結果、つまり算出したA/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacを、通信部7を介してMCU4へ送信する。また、演算部17は、所定のサンプリング周期に取得した電流値と、その所定のサンプリング周期より前のサンプリング周期に取得した電流値と、の差分が所定の閾値Th以上であるか否かを判断する判断処理を実行する。この場合、演算部17は、所定のサンプリング周期に取得した電流値と、その所定のサンプリング周期より1つ前のサンプリング周期に取得した電流値と、の差分、つまり検出信号X2の前回値差分X4に基づいて判断処理を行うようになっている。
【0034】
このような判断処理によれば、センサ出力電流が比較的大きく変化したか否かを判断すること、ひいては、ヒータ3の通電に起因したノイズ電流がセンサ出力電流に重畳したか否かを判断することができる。閾値Thは、レジスタ18に格納されるようになっており、その値はレジスタ18の設定により可変となっている。つまり、この場合、演算部17は、閾値Thを可変設定することができる構成となっている。閾値Thは、センサ印加電圧が変化するタイミングにおける前回値差分X4よりも大きい値であり、且つ、ヒータ3の通電に起因したノイズ電流がセンサ出力電流に重畳した際における前回値差分X4より小さい値に設定される。
【0035】
演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間Taでは、所定の掃引期間Taに算出されたA/Fの値AFを当該掃引期間TaにおけるA/Fの値AFの算出結果として置き換える。例えば、図3に示すように、サイクルn-2において判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、サイクルn-2の1つ後のサイクルn-1および2つ後のサイクルnでは、サイクルn-2で算出された値AF(n-2)が、サイクルn-1およびnにおける値AF(n-1)および値AF(n)の算出結果として置き換えられる。
【0036】
また、サイクルn+2において判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、サイクルn+2の1つ後のサイクルn+3および2つ後のサイクルn+4では、サイクルn+2で算出された値AF(n+2)が、サイクルn+3およびn+4における値AF(n+3)および値AF(n+4)の算出結果として置き換えられる。なお、図3では、サイクルn+4について、値AF(n+4)以外の図示が省略されている。
【0037】
次に、上記構成により実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容について、図4を参照して説明する。ステップS101では、A/Fセンサ2に対してセンサ印加電圧の印加が開始される。ステップS102では、シャント抵抗15によりセンサ出力電流がI/V変換される。ステップS103では、センサ電流検出部11において、検出電圧X1を増幅するといったアナログ信号処理が行われるとともに、検出電圧X1を増幅した電圧をデジタル信号に変換するA/D変換が行われる。
【0038】
ステップS103の実行後、ステップS104~S105と、ステップS106~S107と、が並行して実行される。ステップS104では、センサ電流検出部11から出力される検出信号X2がデジタルフィルタ16に入力され、高周波成分が除去された信号X3が演算部17へ与えられる。ステップS105では、演算部17において、掃引収束点の電流値を表す信号X3をサンプルホールドすることにより演算用電流値SHが設定される。ステップS106では、演算部17において、検出信号X2の前回値が求められる。ステップS107では、演算部17において、検出信号X2の今回値と前回値との差分である前回値差分X4が求められる。
【0039】
ステップS104~S105およびS106~S107の実行後、ステップS108に進む。ステップS108では、前回値差分X4の絶対値が、閾値Th以上であるか否かが判断される、つまり判断処理が実行される。前回値差分X4の絶対値が閾値Th未満である場合、センサ出力電流にノイズ電流が重畳していないと考えられる。この場合、ステップS108で「NO」となり、ステップS109に進む。ステップS109では、演算部17において、演算用電流値SHなどに基づいてA/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacの演算が行われる。
【0040】
一方、前回値差分X4の絶対値が閾値Th以上である場合、センサ出力電流にノイズ電流が重畳していると考えられる。この場合、ステップS108で「YES」となり、ステップS110に進む。ステップS110に進むと、判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された掃引期間Ta、つまりノイズが検出された掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間Taでは、値AFの演算結果として、前回値、つまりノイズが検出された掃引期間Taにて算出された値AFが引き継がれる。ステップS109、S110の実行後、ステップS111に進む。ステップS111では、値AFおよび値Zacの各演算結果がMCU4へと送信される。
【0041】
次に、上記構成によるA/F検出に関連する動作について、図2および図3のタイミングチャートを参照して説明する。
[1]正常時の動作
ヒータ3の通電に起因したノイズ電流、つまりヒータ駆動ノイズがセンサ出力電流に重畳しない正常時における動作は、図2に示すようなものとなる。なお、以下の説明では、ヒータ3の通電に起因したノイズ電流のことをヒータ駆動ノイズまたは単にノイズと称することがある。正常時、センサ出力電流にヒータ駆動ノイズが重畳しないことから、各掃引期間Taにおける掃引収束点の電流値、つまり掃引期間Ta毎に設定される演算用電流値SHは、ノイズの影響を受けることなく、排気ガスのA/F、センサ印加電圧などに応じた本来の値となる。
【0042】
また、正常時、前回値差分X4が常に閾値Th未満になっていることから、判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断されることはない。このようなことから、正常時、掃引期間Ta毎に今回電流値および前回電流値とに基づいて、A/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacが正しく演算される。したがって、正常時、MCU4に送信されるA/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacは、ノイズの影響を受けていない本来の値であり、掃引期間Ta毎に随時更新されることになる。
【0043】
[2]ノイズ重畳時の動作
ヒータ駆動ノイズが重畳したノイズ重畳時における動作は、図3に示すようなものとなる。この場合、ヒータ駆動信号Sbは、サイクルn-2の前半においてロウレベルからハイレベルに転じるとともに、サイクルn+2の後半においてハイレベルからロウレベルに転じるようになっている。そのため、サイクルn-2の前半およびサイクルn+2の後半においてセンサ出力電流にヒータ駆動ノイズが重畳している。
【0044】
センサ出力電流にノイズが重畳しているサイクルn-2およびサイクルn+2の掃引収束点の電流値、つまり演算用電流値SH(n-2)およびSH(n+2)は、検出電圧X1、検出信号X2および信号X3のセトリングタイムにもよるが、ノイズの影響を受けて本来の値から外れた値となる可能性がある。特に、サイクルの後半においてセンサ出力電流にノイズが重畳した場合には、その掃引収束点の電流値はノイズの影響により本来の値から大きく外れた値となる可能性が高い。この場合、サイクルn+2では、その後半にノイズが重畳していることから、その掃引収束点の電流値、つまり設定される演算用電流値SH(n+2)は、本来の値から大きく外れた値になっている。
【0045】
このように本来の値から大きく外れた値が演算用電流値SHとして設定されると、その演算用電流値SHを用いて演算されるA/Fの値AFが真値から大きく外れた値になる可能性がある。ただし、この場合、サイクルn-2およびサイクルn+2では、センサ出力電流にノイズが重畳したことに伴い、前回値差分X4が閾値Th以上となり、判断処理によって、ノイズの重畳が検出される。サイクルn-2において判断処理によってノイズが重畳したことが検出されるため、サイクルn-2の1つ後のサイクルn-1および2つ後のサイクルnでは、サイクルn-2で算出された値AF(n-2)が、サイクルn-1およびサイクルnにおける値AF(n-1)および値AF(n)の算出結果として置き換えられる。
【0046】
また、サイクルn+2において判断処理によってノイズが重畳したことが検出されるため、サイクルn+2の1つ後のサイクルn+3および2つ後のサイクルn+4では、サイクルn+2で算出された値AF(n+2)が、サイクルn+3およびサイクルn+4における値AF(n+3)および値AF(n+4)の算出結果として置き換えられる。したがって、ノイズ重畳時、MCU4に送信されるA/Fの値AFは、ノイズが重畳したと判断された掃引期間Taであるサイクルn-2およびn+2のそれぞれの後の2つの掃引期間Taにおいて更新が滞るものの、ノイズの影響を受けた値となることはない。
【0047】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
本実施形態のA/Fセンサ制御装置5が備える演算部17は、センサ電流検出部11により検出された電流値を掃引期間Taよりも短い所定のサンプリング周期毎に取得し、その取得した電流値に基づいて掃引期間Ta毎にA/Fセンサ2により検出されるA/FおよびA/Fセンサ2のインピーダンスを次のように算出する。すなわち、演算部17は、掃引期間Ta毎に、その掃引期間Taの開始タイミング以前の所定のタイミング、具体的にはその掃引期間Taの開始タイミングの直前の所定のタイミングで取得した電流値を演算用電流値SHとして設定し、掃引期間Ta毎に、今回の掃引期間Taに設定した演算用電流値SHである今回電流値と今回の掃引期間Taの1つ前の掃引期間Taに設定した演算用電流値SHである前回電流値とに基づいてA/Fを算出するようになっている。
【0048】
上記構成において、所定の掃引期間Taにヒータ3の通電に起因したノイズ電流がA/Fセンサ2に流れる電流に重畳した場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taに設定される演算用電流値SHがノイズの影響により本来の値から大きく離れた値へと変動するおそれがある。そうすると、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間Taには、本来の値から大きく離れた値へと変動した演算用電流値SHを用いてA/Fの値AFが算出されることになり、その算出結果が、真値とは大きく異なる値となるおそれがある。
【0049】
そこで、本実施形態の演算部17は、所定のサンプリング周期に取得した電流値と、その所定のサンプリング周期より前のサンプリング周期、具体的にはその所定のサンプリング周期より1つ前のサンプリング周期に取得した電流値と、の差分である前回値差分X4が所定の閾値Th以上であるか否かを判断する判断処理を実行する。このような判断処理によれば、A/Fセンサ2に流れる電流が比較的大きく変化したか否かを判断すること、ひいては、ヒータ3の通電に起因したノイズ電流がA/Fセンサ2に流れる電流に重畳したか否かを判断することができる。
【0050】
そして、本実施形態の演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間Taでは、所定の掃引期間Taに算出されたA/Fの値AFを、当該掃引期間TaにおけるA/Fの算出結果として置き換えるようになっている。そのため、この場合、ノイズが重畳したと判断された掃引期間Taの掃引収束点の電流値である演算用電流値SHを用いたA/Fの算出結果は採用されることがない、言い換えると、この場合、ノイズが重畳したと判断された掃引期間Taの掃引収束点の電流値である演算用電流値SHは正式なA/Fの値AFの演算に用いられることがない。
【0051】
これによれば、所定の掃引期間Taにヒータ3の通電に起因したノイズ電流がA/Fセンサ2に流れる電流に重畳した場合、ノイズが重畳した掃引期間Taの後の2つの掃引期間TaにおいてA/Fの値AFの更新が滞るものの、それら2つの掃引期間TaにおけるA/Fの算出結果が、真値とは大きく異なる値となることが抑制される。本実施形態の構成では、第1の従来技術のようなタイミング制御が不要であり、また、第2の従来技術のような強力なローパスフィルタも不要である。したがって、本実施形態によれば、検出のリアルタイム性を良好に維持しつつ、ヒータ3の通電に起因したノイズによる検出精度の低下を抑えることができるという優れた効果が得られる。
【0052】
本実施形態の演算部17は、閾値Thを可変設定することができる構成となっている。このようにすれば、閾値Thを適切な値、つまりセンサ印加電圧が変化するタイミングにおける前回値差分X4より大きい値且つノイズ重畳時における前回値差分X4より小さい値に設定することが可能となり、その結果、センサ電圧が変化するタイミングの前回値差分X4により誤ってノイズが重畳したと判断される誤判断の発生を抑制しつつ、ヒータ3の通電に起因したノイズ電流がセンサ出力電流に重畳したことを確実に検出することができる。
【0053】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図5および図6を参照して説明する。
第2実施形態では、演算部17により実施される処理内容の一部が第1実施形態と異なっている。なお、A/Fセンサシステム1の構成は、第1実施形態と共通するため、図1も参照しながら説明する。
【0054】
本実施形態の演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taでは、所定の掃引期間Taの1つ前の掃引期間Taにおいて設定した演算用電流値SHを当該掃引期間Taにおける演算用電流値SHとして設定する。つまり、本実施形態の演算部17は、ノイズが重畳したと判断された掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taでは、演算用電流値SHを新たに設定することなく、前々回に設定された演算用電流値SH、つまり前々回値を引き継いで用いるようになっている。
【0055】
例えば、図5に示すように、サイクルn-2において判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、サイクルn-2の1つ後のサイクルn-1では、サイクルn-3で設定された演算用電流値SH(n-3)がサイクルn-1における演算用電流値SH(n-1)として設定される。また、サイクルn+2において判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、サイクルn+2の1つ後のサイクルn+3では、サイクルn+1で設定された演算用電流値SH(n+1)が、サイクルn+3における演算用電流値SH(n+3)として設定される。
【0056】
次に、上記構成により実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容について、図6を参照して説明する。図6に示すように、本実施形態の制御および処理内容は、図4に示した第1実施形態における一連の制御および処理内容に対し、ステップS105の実行順が変更されている点およびステップS110に代えてステップS210が設けられている点などが異なっている。この場合、ステップS103の実行後、ステップS104と、ステップS106~S107と、が並行して実行される。
【0057】
そして、この場合、ステップS108で「NO」になると、ステップS105に進み、演算用電流値SHが設定される。また、この場合、ステップS108で「YES」になると、ステップS210に進む。ステップS210に進むと、判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された掃引期間Ta、つまりノイズが検出された掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taでは、演算用電流値SHは、新たに設定されることなく、前々回値が引き継がれる。ステップS105、S210の実行後、ステップS109に進み、A/Fの値AFなどの演算が行われる。
【0058】
次に、上記構成によるA/F検出に関連する動作について、図5のタイミングチャートを参照して説明する。なお、本実施形態の正常時における動作は、第1実施形態と同様であるため、ここでは、本実施形態のノイズ重畳時における動作だけを説明する。本実施形態のノイズ重畳時における動作は、図5に示すようなものとなる。この場合も、図3に示した第1実施形態のノイズ重畳時における動作と同様、サイクルn-2の前半およびサイクルn+2の後半においてセンサ出力電流にヒータ駆動ノイズが重畳しているものとする。
【0059】
この場合も、サイクルn-2およびサイクルn+2では、センサ出力電流にノイズが重畳したことに伴い、前回値差分X4が閾値Th以上となり、判断処理によって、ノイズの重畳が検出される。サイクルn-2において判断処理によってノイズが重畳したことが検出されるため、サイクルn-2の1つ後のサイクルn-1では、サイクルn-3で設定された演算用電流値SH(n-3)が、サイクルn-1における演算用電流値SH(n-1)として引き継いで設定される。これにより、演算用電流値SH(n-1)を今回電流値として用いるサイクルn-1におけるA/Fの演算結果である値AF(n-1)および演算用電流値(n-1)を前回電流値として用いるサイクルnにおけるA/Fの演算結果である値AF(n)が真値から大きく外れた値になることが抑制される。
【0060】
また、サイクルn+2において判断処理によってノイズが重畳したことが検出されるため、サイクルn+2の1つ後のサイクルn+3では、サイクルn+1で設定された演算用電流値SH(n+1)が、サイクルn+3における演算用電流値SH(n+3)として引き継いで設定される。これにより、演算用電流値SH(n+3)を今回電流値として用いるサイクルn+3におけるA/Fの演算結果である値AF(n+3)および演算用電流値(n+3)を前回電流値として用いるサイクルn+4におけるA/Fの演算結果である値AF(n+4)が真値から大きく外れた値になることが抑制される。したがって、この場合も、ノイズ重畳時、MCU4に送信されるA/Fの値AFは、ノイズが重畳した掃引期間Taの後の2つの掃引期間Taにおいて正式な更新が行われないものの、ノイズの影響を受けた値となることはない。
【0061】
以上説明した本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。すなわち、本実施形態の演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taでは、所定の掃引期間Taの1つ前の掃引期間Taにおいて設定した演算用電流値SHを当該掃引期間Taにおける演算用電流値SHとして設定する。言い換えると、本実施形態の演算部17は、ノイズが重畳したと判断された掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taでは、演算用電流値SHを新たに設定することなく、前々回値を引き継いで用いるようになっている。
【0062】
そのため、この場合、ノイズが重畳したと判断された掃引期間Taの掃引収束点の電流値である演算用電流値SHを今回電流値として用いる1つ後の掃引期間Taおよび前回電流値として用いる2つ後の掃引期間TaにおけるA/Fの演算結果である値AFが真値から大きく外れた値になることが抑制される。これによれば、所定の掃引期間Taにヒータ3の通電に起因したノイズ電流がA/Fセンサ2に流れる電流に重畳した場合、ノイズが重畳した掃引期間Taの後の2つの掃引期間TaにおいてA/Fの値AFの正式な更新が滞るものの、それら2つの掃引期間TaにおけるA/Fの算出結果が、真値とは大きく異なる値となることが抑制される。したがって、本実施形態によっても、第1実施形態と同様、検出のリアルタイム性を良好に維持しつつ、ヒータ3の通電に起因したノイズによる検出精度の低下を抑えることができるという優れた効果が得られる。
【0063】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について図7および図8を参照して説明する。
第3実施形態では、演算部17により実施される処理内容の一部が第1実施形態と異なっている。なお、A/Fセンサシステム1の構成は、第1実施形態と共通するため、図1も参照しながら説明する。
【0064】
本実施形態の演算部17は、掃引期間Taの開始タイミングから所定のマスク期間Tmは、判断処理の実行を停止するようになっている。マスク期間Tmの値は、レジスタ18に格納されるようになっており、その値はレジスタ18の設定により可変となっている。つまり、この場合、演算部17は、マスク期間Tmを可変設定することができる構成となっている。マスク期間Tmは、検出信号X2のセトリングタイムなどを考慮し、掃引収束点の電流値がノイズなどの影響を受けることがないようにできる程度の期間に設定されている。例えば、図7に示すように、マスク期間Tmは、掃引期間Taの開始タイミングから掃引期間Taの中間のタイミングまで、つまり掃引期間Taの前半に設定されている。
【0065】
このようなマスク期間Tmの下限は、回路定数、A/Fセンサ2のインピーダンスによって決まる電圧掃引波形の収束性、つまり検出信号X2のセトリングタイムと、ノイズによる検出精度の低下をどの程度まで抑えるか、つまり目標とするノイズ除去効果の度合いと、から決定することができる。上記した回路定数とは、主にセンサ電流検出部11のアンチ・エイリアシング・フィルタの帯域などのことである。また、マスク期間Tmの上限は、ヒータ駆動ノイズが掃引収束点の電流値に与える影響の度合いから決定することができる。なお、このような影響の度合いは、ヒータノイズ波形、デジタルフィルタ16のフィルタ特性などによって決まる。
【0066】
次に、上記構成により実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容について、図8を参照して説明する。図8に示すように、本実施形態の制御および処理内容は、図4に示した第1実施形態における一連の制御および処理内容に対し、ステップS108に代えてステップS308が設けられている点などが異なっている。ステップS308では、マスク期間Tm以外の期間であることを条件として、前回値差分X4の絶対値が、閾値Th以上であるか否かが判断される、つまり判断処理が実行される。
【0067】
次に、上記構成によるA/F検出に関連する動作について、図7のタイミングチャートを参照して説明する。なお、本実施形態の正常時における動作は、第1実施形態と同様であるため、ここでは、本実施形態のノイズ重畳時における動作だけを説明する。本実施形態のノイズ重畳時における動作は、図7に示すようなものとなる。この場合も、図3に示した第1実施形態のノイズ重畳時における動作と同様、サイクルn-2の前半およびサイクルn+2の後半においてセンサ出力電流にヒータ駆動ノイズが重畳しているものとする。
【0068】
サイクルn-2のように、サイクルの前半においてセンサ出力電流にノイズが重畳した場合には、検出電圧X1、検出信号X2および信号X3のセトリングタイムにもよるが、その掃引収束点の電流値はノイズの影響により本来の値から大きく外れた値となる可能性が低い。そのため、このようなケースでは、検出のリアルタイム性をより高めるために、その掃引収束点の電流値を用いてA/Fの値AFの演算を実施することが望ましい。この場合、サイクルn-2の前半の期間であるマスク期間Tmには判断処理が停止されるため、サイクルn-2の1つ後のサイクルn-1および2つ後のサイクルnでは、サイクルn-2の掃引収束点の電流値である演算用電流値を今回電流値または前回電流値として通常通りA/Fの値AFが演算される。
【0069】
一方、サイクルn+2のように、サイクルの後半においてセンサ出力電流にノイズが重畳した場合には、検出電圧X1、検出信号X2および信号X3のセトリングタイムにもよるが、その掃引収束点の電流値はノイズの影響により本来の値から大きく外れた値となる可能性が高い。この場合、サイクルn+2の後半の期間はマスク期間Tm以外の期間であることから判断処理が実行されるため、サイクルn+2の1つ後のサイクルn+3および2つ後のサイクルn+4では、サイクルn+2で算出された値AF(n+2)が、サイクルn+3およびサイクルn+4における値AF(n+3)および値AF(n+4)の算出結果として置き換えられる。
【0070】
したがって、この場合、ノイズ重畳時、MCU4に送信されるA/Fの値AFは、判断処理によってノイズが重畳したと判断された掃引期間Taであるサイクルn+2の後の2つの掃引期間Taにおいて更新が滞るものの、ノイズの影響を受けた値となることはない。しかも、この場合、ノイズが重畳したもののそのノイズが掃引収束点の電流値に影響を及ぼさないと考えられる掃引期間Taであるサイクルn-2の後の2つの掃引期間Taにおいては通常通りA/Fの値AFが更新される。
【0071】
以上説明した本実施形態によっても、第1実施形態と同様、検出のリアルタイム性を良好に維持しつつ、ヒータ3の通電に起因したノイズによる検出精度の低下を抑えることができるという優れた効果が得られる。さらに、本実施形態によれば、次のような効果も得られる。すなわち、本実施形態の演算部17は、掃引期間Taの開始タイミングから所定のマスク期間Tmは、判断処理の実行を停止するようになっている。
【0072】
このようにすれば、掃引期間Taの開始タイミングの直後に重畳したノイズなど、演算用電流値として設定される掃引収束点の電流値に影響を及ぼさないノイズについては判断処理によって検出されることがなくなる。そのため、このようなノイズの重畳に起因してA/Fの値AFの更新が滞ることが抑制され、その結果、検出のリアルタイム性が一層向上する。また、このようにすれば、閾値Thは、センサ印加電圧が変化するタイミングにおける前回値差分X4の大きさを考慮することなく、ヒータ3の通電に起因したノイズ電流がセンサ出力電流に重畳した際における前回値差分X4より小さい値となるように設定すればよい。そのため、本実施形態によれば、より小さなヒータ駆動ノイズがセンサ出力電流に重畳したことを検出すること、ひいては、そのようなヒータ駆動ノイズの影響を受けてA/Fの値AFが真値から大きく外れた値になることを防止することができる。
【0073】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について図9および図10を参照して説明する。
第4実施形態では、演算部17により実施される処理内容の一部が第1実施形態と異なっている。なお、A/Fセンサシステム1の構成は、第1実施形態と共通するため、図1も参照しながら説明する。
【0074】
本実施形態の演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間Taでは、所定の掃引期間Taに算出されたインピーダンスの値Zacを当該掃引期間Taにおけるインピーダンスの算出結果として置き換える。例えば、図9に示すように、サイクルn-2において判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、サイクルn-2の1つ後のサイクルn-1および2つ後のサイクルnでは、サイクルn-2で算出された値Zac(n-2)が、サイクルn-1およびnにおける値Zac(n-1)およびZac(n)の算出結果として置き換えられる。
【0075】
また、サイクルn+2において判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、サイクルn+2の1つ後のサイクルn+3および2つ後のサイクルn+4では、サイクルn+2で算出された値Zac(n+2)が、サイクルn+3およびn+4における値Zac(n+3)および値Zac(n+4)の算出結果として置き換えられる。なお、図9では、サイクルn+4について、値AF(n+4)および値Zac(ん+4)以外の図示が省略されている。
【0076】
次に、上記構成により実行されるA/F検出に関連する一連の制御および処理内容について、図10を参照して説明する。図10に示すように、本実施形態の制御および処理内容は、図4に示した第1実施形態における一連の制御および処理内容に対し、ステップS110に代えてステップS410が設けられている点などが異なっている。ステップS410に進むと、判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された掃引期間Ta、つまりノイズが検出された掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間Taでは、値AFおよび値Zacの演算結果として、前回値、つまりノイズが検出された掃引期間Taにて算出された値AFおよび値Zacが引き継がれる。
【0077】
次に、上記構成によるA/F検出に関連する動作について、図9のタイミングチャートを参照して説明する。なお、本実施形態の正常時における動作は、第1実施形態と同様であるため、ここでは、本実施形態のノイズ重畳時における動作だけを説明する。本実施形態のノイズ重畳時における動作は、図9に示すようなものとなる。この場合も、図3に示した第1実施形態のノイズ重畳時における動作と同様、サイクルn-2の前半およびサイクルn+2の後半においてセンサ出力電流にヒータ駆動ノイズが重畳しているものとする。
【0078】
この場合も、サイクルn-2およびサイクルn+2では、センサ出力電流にノイズが重畳したことに伴い、前回値差分X4が閾値Th以上となり、判断処理によって、ノイズの重畳が検出される。サイクルn-2において判断処理によってノイズが重畳したことが検出されるため、サイクルn-2の1つ後のサイクルn-1および2つ後のサイクルnでは、サイクルn-2で算出された値AF(n-2)が、サイクルn-1およびサイクルnにおける値AF(n-1)および値AF(n)の算出結果として置き換えられる。また、この場合、サイクルn-1およびサイクルnでは、サイクルn-2で算出された値Zac(n-2)が、サイクルn-1およびサイクルnにおける値Zac(n-1)および値Zac(n)の算出結果として置き換えられる。
【0079】
また、サイクルn+2において判断処理によってノイズが重畳したことが検出されるため、サイクルn+2の1つ後のサイクルn+3および2つ後のサイクルn+4では、サイクルn+2で算出された値AF(n+2)が、サイクルn+3およびサイクルn+4における値AF(n+3)および値AF(n+4)の算出結果として置き換えられる。また、この場合、サイクルn+3およびサイクルn+4では、サイクルn+2で算出された値Zac(n+2)が、サイクルn+3およびサイクルn+4における値Zac(n+3)および値Zac(n+4)の算出結果として置き換えられる。したがって、ノイズ重畳時、MCU4に送信されるA/Fの値AFおよびインピーダンスの値Zacは、ノイズが重畳したと判断された掃引期間Taであるサイクルn-2およびn+2のそれぞれの後の2つの掃引期間Taにおいて更新が滞るものの、ノイズの影響を受けた値となることはない。
【0080】
以上説明した本実施形態によっても、第1実施形態と同様、検出のリアルタイム性を良好に維持しつつ、ヒータ3の通電に起因したノイズによる検出精度の低下を抑えることができるという優れた効果が得られる。また、本実施形態の演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によって前回値差分X4が閾値Th以上であると判断された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間Taでは、所定の掃引期間Taに算出されたインピーダンスの値Zacを当該掃引期間Taにおけるインピーダンスの算出結果として置き換えるようになっている。このようにすれば、ヒータ3の通電に起因したノイズによるA/Fの検出精度の低下だけではなく、インピーダンスの検出精度の低下についても抑えることができる。
【0081】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
【0082】
演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によってノイズが検出された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taおよび2つ後の掃引期間TaにおけるA/Fの値AFの算出結果を、所定の掃引期間Taに算出されたA/Fの値AFに置き換えるようになっていたが、所定の掃引期間Taより前の任意の掃引期間Taに算出されたA/Fの値AFに置き換えるようにしてもよい。
【0083】
また、演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によってノイズが検出された場合、所定の掃引期間Taの3つ後の掃引期間Ta以降の掃引期間TaにおけるA/Fの値AFの算出結果についても同様に置き換えるようにしてもよい。さらに、演算部17は、所定の掃引期間Taにおいて判断処理によってノイズが検出された場合、所定の掃引期間Taの1つ後の掃引期間Taでは演算用電流値SHを新たに設定することなく、前々回値を引き継いで用いるようになっていたが、所定の掃引期間Taの2つ後の掃引期間Ta以降の掃引期間Taにおける演算用電流値SHについても同様に前々回値を引き継いで用いるようにしてもよい。なお、このような変形は、インピーダンスの値Zacについても同様に適用することができる。
【0084】
上述したように、A/Fの値AFの算出結果を置き換える期間や演算用電流値SHを引き継いで用いる期間を延長すればするほど、検出のリアルタイム性、つまり応答性が低下することになる。しかし、一般的に、センサ印加電圧の周波数である掃引周波数が数kHz程度であるのに対し、システムの応答性は数百Hz以下である。そのため、センサ印加電圧の周期である掃引期間である100μs程度の期間延長については、問題が生じることはなく、許容することができる。要するに、上記した期間延長の最大値は、システムの目標とする応答性に応じて定めることができる。
【0085】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0086】
1…A/Fセンサシステム、2…A/Fセンサ、3…ヒータ、5…A/Fセンサ制御装置、10…端子駆動部、11…センサ電流検出部、17…演算部。
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