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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240509BHJP
   B60T 8/26 20060101ALI20240509BHJP
   B60L 7/12 20060101ALI20240509BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20240509BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T8/26 H
B60L7/12 T
B60W30/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021046767
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146000
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】丸山 将来
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221269(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/020371(WO,A1)
【文献】特開2016-5291(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112297860(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/18-8/30
B60L 7/12
B60W 30/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪、後輪に前輪、後輪回生制動力を発生させる前輪、後輪回生制動装置を備える車両に適用される車両の制動制御装置であって、
前記前輪、後輪に前輪、後輪摩擦制動力を発生させるアクチュエータと、
前記前輪、後輪回生制動装置、及び、前記アクチュエータを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記車両の全体として要求される制動力を目標車体制動力として演算し、
前輪、後輪要求制動力の和が前記目標車体制動力に一致し、且つ、前記前輪要求制動力に対する前記後輪要求制動力の比率が一定になるよう、前記前輪、後輪要求制動力を演算し、
前記前輪、後輪回生制動装置の作動状態で定まる発生可能な前記前輪、後輪回生制動力の最大値を前輪、後輪限界回生制動力として取得し、
前記前輪要求制動力が前記前輪限界回生制動力以下の場合には、前記前輪要求制動力を前記前輪回生制動力のみによって達成し、前記前輪要求制動力が前記前輪限界回生制動力よりも大きい場合には、前記前輪要求制動力を前記前輪回生制動力、及び、前記前輪摩擦制動力によって達成するとともに、
前記後輪要求制動力が前記後輪限界回生制動力以下の場合には、前記後輪要求制動力を前記後輪回生制動力のみによって達成し、前記後輪要求制動力が前記後輪限界回生制動力よりも大きい場合には、前記後輪要求制動力を前記後輪回生制動力、及び、前記後輪摩擦制動力によって達成する、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「前輪と後輪の制動力を独立制御するブレーキシステムの安全性を確保し、燃費を向上させ、優れた制動力を配分する回生制動協調制御時の制動力制御方法の提供」を目的に、「制動時に前輪及び後輪の一つ以上に対する回生制動力を基準減速度まで発生させて前輪と後輪の制動力を配分する第1段階では、基準制動配分比によって前輪回生制動力と後輪回生制動力を配分して発生させた後、後輪回生制動力制限値まで後輪回生制動力のみを発生させ、前記後輪回生制動力が後輪回生制動力制限値まで増加すれば、その後には前輪制動力の割合を増加させ、前記後輪回生制動力が後輪回生制動力制限値まで増加すれば、その後は前輪油圧制動力のみを発生させて前輪制動力の割合を増加させ、前記前輪制動力の割合が増加して前輪制動力と後輪制動力間の配分比が基準制動配分比と同じになれば、その後は後輪回生制動力最大値まで後輪回生制動力を発生させる」ことが記載されている。
【0003】
出願人は、車両安定性とエネルギ回生が高次元で両立される回生協調制御を達成するため、特許文献2に記載されるような制動制御装置を開発している。特許文献2には、前後輪に前輪、後輪回生ジェネレータGNf、GNrが備えられる場合の独立制御(前輪系統の制動液圧と後輪系統の制動液圧との独立した制御)について記載されている。
【0004】
ところで、車両が制動される際の方向安定性の観点では、前輪制動力と後輪制動力との関係が一定であることが望ましい。つまり、回生制動装置が回生制動力を発生する回生制動中であっても、前輪制動力に対する後輪制動力の比率が一定である基準特性(特許文献1における「基本制動配分線」、特許文献2における基準特性Cb)に沿って、前後制動力の配分調整が行われることが好適である。しかしながら、特許文献1、2では、前後制動力の実際の特性は、回生制動中において、この基準特性から外れている(特許文献1の図6、特許文献2の図7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-052502号
【文献】特開2019-059296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前後輪に回生制動装置を備えた車両に適用される制動制御装置において、回生制動中に制動力の前後配分が適正に調整され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両の制動制御装置は、前輪、後輪(WHf、WHr)に前輪、後輪回生制動力(Fgf、Fgr)を発生させる前輪、後輪回生制動装置(KCf、KCr)を備える車両に適用されるものであって、「前記前輪、後輪(WHf、WHr)に前輪、後輪摩擦制動力(Fmf、Fmr)を発生させるアクチュエータ(HU)」と、「前記前輪、後輪回生制動装置(KCf、KCr)、及び、前記アクチュエータ(HU)を制御するコントローラ(ECU)」と、を備える。
【0008】
本発明に係る車両の制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記車両の全体として要求される制動力を目標車体制動力(Fv)として演算し、前輪、後輪要求制動力(Fqf、Fqr)の和が前記目標車体制動力(Fv)に一致し、且つ、前記前輪要求制動力(Fqf)に対する前記後輪要求制動力(Fqr)の比率(Kq)が一定(値hb)になるよう、前記前輪、後輪要求制動力(Fqf、Fqr)を演算する(即ち、「Fv=Fqf+Fqr」、且つ、「Fqr/Fqf=hb」)。また、前記コントローラ(ECU)は、前記前輪、後輪回生制動装置(KCf、KCr)の作動状態で定まる発生可能な前記前輪、後輪回生制動力(Fgf、Fgr)の最大値を前輪、後輪限界回生制動力(Fxf、Fxr)として取得する。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記前輪要求制動力(Fqf)が前記前輪限界回生制動力(Fxf)以下の場合(Fqf≦Fxf)には、前記前輪要求制動力(Fqf)を前記前輪回生制動力(Fgf)のみによって達成し、前記前輪要求制動力(Fqf)が前記前輪限界回生制動力(Fxf)よりも大きい場合(Fqf>Fxf)には、前記前輪要求制動力(Fqf)を前記前輪回生制動力(Fgf)、及び、前記前輪摩擦制動力(Fmf)によって達成する。また、前記後輪要求制動力(Fqr)が前記後輪限界回生制動力(Fxr)以下の場合(Fqr≦Fxr)には、前記後輪要求制動力(Fqr)を前記後輪回生制動力(Fgr)のみによって達成し、前記後輪要求制動力(Fqr)が前記後輪限界回生制動力(Fxr)よりも大きい場合(Fqr>Fxr)には、前記後輪要求制動力(Fqr)を前記後輪回生制動力(Fgr)、及び、前記後輪摩擦制動力(Fmr)によって達成する。
【0009】
上記構成によれば、前輪要求制動力Fqfに対する後輪要求制動力Fqrの比率Kqが常時一定(値hb)になるように、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrと、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrと、が調整されるので、回生制動中の制動力の前後配分が常時適正化される。加えて、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrが、車両の運動エネルギを、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrまでの範囲内で、最大限に回生することができるため、車両の方向安定性とエネルギ回生とが適切に両立され得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】制動制御装置SCを搭載した車両JVの全体を説明するための構成図である。
図2】回生協調制御の処理を説明するためのフロー図である。
図3】制動開始時について回生協調制御での制動力の前後配分を説明するための特性図である。
図4】回生協調制御のすり替え作動時について制動力の前後配分を説明するための特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<構成要素の記号等>
以下の説明において、「CW」等の如く、同一記号を付された部材、信号、値等の構成要素は同一機能のものである。車輪に係る各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前輪、後輪の何れに関する要素であるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は「前輪に係る要素」を、「r」は「後輪に係る要素」を、夫々示す。例えば、ホイールシリンダCWにおいて、「前輪ホイールシリンダCWf、後輪ホイールシリンダCWr」というように表記される。更に、添字「f」、「r」は省略されることがある。これらが省略される場合には、各記号は、その総称を表す。
【0012】
<制動制御装置SCを搭載した車両JV>
図1の構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCを搭載した車両全体について説明する。ここで、制動制御装置SCを搭載した車両を、他の車両(例えば、先行車両SV)と区別するため、「自車両JV」とも称呼する。
【0013】
車両JVは、駆動用の電気モータGNを備えたハイブリッド車両、又は、電気自動車である。駆動用の電気モータGNは、エネルギ回生用のジェネレータ(発電機)としても機能する。ジェネレータGNは、前輪WHf、及び、後輪WHrに備えられる。前輪、後輪ジェネレータGNf、GNr(=GN)は、ジェネレータ用のコントローラEGf、EGrによって制御(駆動)される。ここで、前輪ジェネレータGNf、及び、そのコントローラEGfを含んで構成される装置が、「前輪回生制動装置KCf」と称呼される。また、後輪ジェネレータGNr、及び、そのコントローラEGrにて構成される装置が、「後輪回生制動装置KCr」と称呼される。車両JVには、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCr用に蓄電池BTが備えられる。つまり、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrには、蓄電池BTも含まれる。
【0014】
電気モータ/ジェネレータGN(=GNf、GNr)が駆動用の電気モータとして作動する場合(車両JVの加速時)には、回生制動装置用のコントローラEG(単に、「回生コントローラ」ともいう)を介して、蓄電池BTから電気モータ/ジェネレータGNに電力が供給される。一方、電気モータ/ジェネレータGNが発電機として作動する場合(車両JVの減速時)には、ジェネレータGNからの電力が、回生コントローラEGを介して、蓄電池BTに蓄えられる(所謂、回生制動が行われる)。回生制動では、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNrによって、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrが、独立且つ個別に発生される。
【0015】
車両JVには、制動装置SXが備えられる。制動装置SXによって、前輪WHf、後輪WHrには、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrが発生される。制動装置SXは、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KT、及び、ブレーキキャリパCPを含んで構成される。回転部材KTは、車輪WHに固定され、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパCPが設けられる。ブレーキキャリパCPには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCWには、制動制御装置SCから、制動液圧Pwに調整された制動液BFが供給される。制動液圧Pwによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSが、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに摩擦制動力Fmが発生される。
【0016】
車両JVには、制動操作部材BP、及び、各種センサ(BA等)が備えられる。制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。車両JVには、制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Baを検出する制動操作量センサBAが設けられる。制動操作量センサBAとして、マスタシリンダCM内の液圧(マスタシリンダ液圧)Pmを検出するマスタシリンダ液圧センサPM、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBAによって、制動操作量Baとして、マスタシリンダ液圧Pm、制動操作変位Sp、及び、制動操作力Fpのうちの少なくとも1つが検出される。制動操作量Baは、制動制御装置SC用のコントローラECU(単に、「制動コントローラ」ともいう)に入力される。車両JVには、車輪WHの回転速度(車輪速度)Vwを検出する車輪速度センサVWを含む各種センサが備えられる。これらセンサの検出信号(Ba等)は、制動コントローラECUに入力される。制動コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
【0017】
車両JVには、所謂、回生協調制御(回生制動力Fgと摩擦制動力Fmとを協同して作動させる制御)が実行されるよう、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCでは、2系統の制動系統として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用される。制動制御装置SCは、制動操作部材BPの操作量Baに応じて、実際の制動液圧Pwを調節し、前輪、後輪連絡路HSf、HSrを介して、制動装置SX(特に、ホイールシリンダCW)に制動液圧Pwを供給する。制動制御装置SCは、マスタシリンダCMを含む流体ユニットHU(「アクチュエータ」ともいう)、及び、制動制御装置SC用のコントローラECU(制動コントローラ)にて構成される。
【0018】
例えば、流体ユニットHU(アクチュエータ)として、特開2008-006893号に記載されるような、全てのホイールシリンダCWの液圧(制動液圧)Pwが、独立、且つ、個別に制御され得るものが採用される。また、特開2018-047807号に記載されるような、前後輪のホイールシリンダCWの液圧Pwが、独立、且つ、個別に制御され得るものが採用されてもよい。つまり、流体ユニットHUでは、少なくとも、前輪制動液圧Pwfと後輪制動液圧Pwrとが、独立、且つ、個別に制御される。
【0019】
流体ユニットHU(電磁弁、電気モータ等)は、制動コントローラECUによって制御される。制動制御装置SC用のコントローラECUは、信号処理を行うマイクロプロセッサMP、及び、電磁弁、電気モータを駆動する駆動回路DDにて構成される。制動コントローラECU、回生制動装置用のコントローラEG(=EGf、EGr)、運転支援装置用のコントローラECA(後述)の夫々は、通信バスBSに接続されている。従って、これらのコントローラの間では、通信バスBSを介して情報(検出値、演算値)が共有されている。例えば、車体速度Vxが、制動コントローラECUにて演算され、通信バスBSを通して、運転支援装置用のコントローラECA(単に、「運転支援コントローラ」ともいう)に送信される。目標減速度Gdが、運転支援コントローラECAにて演算され、通信バスBSを介して、制動コントローラECUに送信される。目標回生制動力Fh(=Fhf、Fhr)(後述)が、制動コントローラECUにて演算され、通信バスBSを介して、回生コントローラEG(=EGf、EGr)に送信される。限界回生制動力Fx(=Fxf、Fxr)(後述)は、回生コントローラEG(=EGf、EGr)にて演算され、通信バスBSを介して、制動コントローラECUに送信される。制動コントローラECUには、制動操作量Ba、車輪速度Vw、目標減速度Gd、限界回生制動力Fx等が入力される。これら信号に基づいて、制動コントローラECUによって、流体ユニットHUが制御される。
【0020】
車両JVには、運転者に代わって、或いは、運転者を補助するように、自動制動を行う運転支援装置UCが設けられる。運転支援装置UCは、自車両JVの前方の物体OJ(自車両JVの前方を走行する先行車両SVを含む)までの距離Ds(相対距離)を検出する物体検出センサOB、及び、運転支援装置用のコントローラECAにて構成される。例えば、物体検出センサOBとして、レーダセンサ、ミリ波センサ、画像センサ等が採用される。運転支援コントローラECAにて、物体検出センサOBの検出結果Ds(相対距離)に基づいて、自車両JVの目標減速度Gd(自車両JVの前後方向における車体加速度の目標値)が演算される。目標減速度(目標車体前後加速度)Gdは、通信バスBSを介して、運転支援コントローラECAから制動コントローラECUに伝達される。そして、制動制御装置SCによって、目標減速度Gdに応じた制動力Fg、Fmが発生される。
【0021】
<回生協調制御の処理>
図2のフロー図を参照して、回生協調制御の処理について説明する。「回生協調制御」は、制動時に車両JVの有する運動エネルギが効率的に、電気エネルギとして回収(回生)されるよう、ジェネレータGNによる回生制動力Fgと、制動制御装置SCによる摩擦制動力Fmとが協調して制御されるものである。回生協調制御のアルゴリズムは、制動コントローラECUのマイクロプロセッサMPにプログラムされている。回生協調制御においては、回生制動力Fg、及び、摩擦制動力Fmが、前後輪間で、独立且つ個別に調整可能である。
【0022】
ステップS110にて、制動操作量Ba、制動液圧Pw、車体速度Vx、目標減速度Gd等の信号が読み込まれる。操作量Baは、操作量センサBA(マスタシリンダ液圧センサ、操作変位センサ、操作力センサ等)の検出値に基づいて演算される。制動液圧Pwは、流体ユニットHUの設けられた液圧センサPW(図示せず)の検出値に基づいて演算される。車体速度Vxは、車輪速度Vw(車輪速度センサVWの検出値)に基づいて演算される。目標減速度Gdは、運転支援コントローラECAから送信される。
【0023】
ステップS120にて、制動操作量Baに基づいて、目標車体制動力Fvが演算される。「目標車体制動力Fv」は、車体に作用する制動力Fb(即ち、車両JVの全体としての制動力)に対応する目標値である。目標車体制動力Fvは、制動操作量Ba、及び、演算マップZfvに基づいて、制動操作量Baが所定量bo未満の場合には「0」に演算される。そして、制動操作量Baが所定量bo以上の場合には、制動操作量Baが「0」から増加するに従い、目標車体制動力Fvが「0」から増加するように演算される。ここで、所定量boは、制動操作部材BPの遊びを表す、予め設定された所定値(定数)である。
【0024】
制動が、運転支援装置UCによって自動的に行われる場合(即ち、制動操作部材BPの操作には依らない自動制動制御の場合)には、ステップS120にて、制動操作量Baの場合と同様に、目標減速度Gdに基づいて、目標車体制動力Fvが演算される。具体的には、目標車体制動力Fvは、「Gd<bo」の場合には、「0」に演算され、「Gd≧bo」の場合には、目標減速度Gdの増加に伴って、「0」から増加するように演算される。ここで、所定量boは、自動制動制御における不感帯を表す、予め設定された所定値(定数)である。
【0025】
ステップS130にて、目標車体制動力Fvに基づいて、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr(=Fq)が演算される。「前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr」は、前輪WHf、後輪WHrに作用する、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbrに対応する目標値である。従って、要求制動力Fqは、回生制動力Fgと摩擦制動力Fmとの和に対応する目標値である。制動制御装置SCでは、左右車輪の制動力は同じ値として演算されるため、前輪要求制動力Fqfは、車両前方の2輪分(即ち、前2輪WHf)に対応し、後輪要求制動力Fqrは、車両後方の2輪分(即ち、後2輪WHr)に対応している。ステップS130は、以下の2つの条件が満足されるように、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrが演算される。
条件1:前輪要求制動力Fqfと後輪要求制動力Fqrとを合算した値が、目標車体制動力Fvに一致する(即ち、「Fv=Fqf+Fqr」)。
条件2:前輪要求制動力Fqfに対する後輪要求制動力Fqrの比率Kqが一定(値hb)である(即ち、「Kq=Fqr/Fqf=hb、ここで、hbは予め設定された所定値(定数)」)。
詳細には、ステップS130では、上記比率Kqを「hb(一定値)」として、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrが、以下の式(1)のように演算される。
Fqf=Fv/(1+hb)、及び、Fqr=Fv・hb/(1+hb) …式(1)
【0026】
ステップS140にて、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxr(=Fx)が取得される。「限界回生制動力Fx」は、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCr(=KC)が発生し得る前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrの最大値(限界値)である。換言すれば、限界回生制動力Fxは、回生制動力Fgの限度を表す状態量である。
【0027】
限界回生制動力Fxは、回生制動装置KCの作動状態によって制約を受ける。従って、限界回生制動力Fxは、回生制動装置KCの作動状態に基づいて定まる。具体的には、回生制動装置KCの作動状態は、ジェネレータGNの回転速度Ng(即ち、前輪、後輪回転速度Ngf、Ngr)、回生コントローラEG(特に、IGBT等のパワートランジスタ)の状態(温度等)、及び、蓄電池BTの状態(充電受入量、温度等)のうちの少なくとも1つに該当する。限界回生制動力Fxは、回生コントローラEGにて決定(演算)され、通信バスBSを介して、制動コントローラECUにて取得される。例えば、回生コントローラEGでは、以下の方法で、限界回生制動力Fxが決定される。
【0028】
前輪限界回生制動力Fxf(前輪回生制動力の上限値)は、ブロックX140の上段の特性Zxf(演算マップ)に基づいて決定される。これは、回生制動装置KCによる回生量(結果、回生制動力)は、回生コントローラEGのパワートランジスタ(IGBT等)の定格、及び、蓄電池BTの充電受入量(満充電から現在の充電量を差し引いた残量)によって定まることに因る。具体的には、演算マップZxfでは、前輪ジェネレータGNfの回転速度Ngf(単に、「前輪回転速度」ともいう)が第1前輪所定速度vp以上である場合には、前輪回生制動装置KCfの回生電力(仕事率)が一定となるよう(つまり、限界回生制動力Fxと前輪回転速度Ngfとの積が一定となるよう)、限界回生制動力Fxが決定される。従って、「Ngf≧vp」では、前輪回転速度Ngfの減少に伴い、回転速度Ngfに対して反比例の関係で、限界回生制動力Fxが増加するように演算される。また、前輪回転速度Ngfが低下すると、回生量は減少するので、演算マップZxfでは、前輪回転速度Ngfが第2前輪所定速度vo未満の場合には、回転速度Ngfの減少に伴い、前輪限界回生制動力Fxfが減少するように演算される。更に、前輪回生制動力Fgfによって、前輪WHfに過度な減速スリップ(極端な場合が、車輪ロック)が生じないよう、演算マップZxfには、予め設定された前輪上限値fxfが設けられる。なお、第1前輪所定速度vp、第2前輪所定速度vo、及び、前輪上限値fxfは、予め設定された所定値(定数)である。
【0029】
前輪限界回生制動力Fxfと同様に、後輪限界回生制動力Fxr(後輪回生制動力の上限値)は、ブロックX140の下段の特性Zxr(演算マップ)に基づいて決定される。具体的には、演算マップZxrでは、後輪ジェネレータGNrの回転速度Ngr(単に、「後輪回転速度」ともいう)が第1後輪所定速度up以上である場合には、後輪回生制動装置KCrの回生電力(仕事率)が一定となるよう(つまり、限界回生制動力Fxと後輪回転速度Ngrとの積が一定となるよう)、限界回生制動力Fxが決定される。従って、「Ngr≧up」では、後輪回転速度Ngrの減少に伴い、回転速度Ngrに対して反比例の関係で、限界回生制動力Fxが増加するように演算される。また、後輪回転速度Ngrが低下すると、回生量は減少するので、演算マップZxrでは、後輪回転速度Ngrが第2後輪所定速度uo未満の場合には、回転速度Ngrの減少に伴い、後輪限界回生制動力Fxrが減少するように演算される。更に、後輪回生制動力Fgrによって、後輪WHrに過度な減速スリップ(極端な場合が、車輪ロック)が生じないよう、演算マップZxrには、予め設定された後輪上限値fxrが設けられる。なお、第1後輪所定速度up、第2後輪所定速度uo、及び、後輪上限値fxrは、予め設定された所定値(定数)である。
【0030】
以上、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxr(=Fx)について、各ジェネレータGNにおける前輪、後輪回転速度Ngf、Ngr(=Ng)に基づく決定方法について説明した。更に、限界回生制動力Fxは、温度等の回生コントローラEGの状態に基づいて決定される。回生コントローラEGの温度が高い場合には、回転速度Ngに応じて決定された限界回生制動力Fxから、更に、限界回生制動力Fxが減少するように決定される。また、蓄電池BTの温度が高い場合にも、同様に、限界回生制動力Fxが減少するように演算される。
【0031】
ステップS150にて、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr、及び、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrに基づいて、前輪、後輪目標回生制動力Fhf、Fhr、及び、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnrが演算される。「前輪、後輪目標回生制動力Fhf、Fhr(=Fh)」は、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrによって実現されるべき実際の前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr(=Fg)に対応する目標値である。また、「前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnr(=Fn)」は、制動制御装置SCによって実現されるべき実際の前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmr(=Fm)に対応する目標値である。
【0032】
ステップS150では、「前輪要求制動力Fqfが前輪限界回生制動力Fxfよりも大きいか、否か(「前輪限界判定」という)」が判定される。前輪要求制動力Fqfが前輪限界回生制動力Fxf以下の場合(即ち、「Fqf≦Fxf」であり、前輪限界判定が否定される場合)には、前輪目標回生制動力Fhfは、前輪要求制動力Fqfに演算されるとともに、前輪目標摩擦制動力Fnfは「0」に演算される(即ち、「Fhf=Fqf、Fnf=0」)。一方、前輪要求制動力Fqfが前輪限界回生制動力Fxfよりも大きい場合(即ち、「Fqf>Fxf」であり、前輪限界判定が肯定される場合)には、前輪目標回生制動力Fhfは、前輪限界回生制動力Fxfに演算されるとともに、前輪目標摩擦制動力Fnfは、前輪要求制動力Fqfから前輪限界回生制動力Fxfを減じた値に演算される(即ち、「Fhf=Fxf、Fnf=Fqf-Fxf」)。
【0033】
前輪WHfに係る演算等と同様に、ステップS150では、「後輪要求制動力Fqrが後輪限界回生制動力Fxrよりも大きいか、否か(「後輪限界判定」という)」が判定される。後輪要求制動力Fqrが後輪限界回生制動力Fxr以下の場合(即ち、「Fqr≦Fxr」であり、後輪限界判定が否定される場合)には、後輪目標回生制動力Fhrは、後輪要求制動力Fqrに演算されるとともに、後輪目標摩擦制動力Fnrは「0」に演算される(即ち、「Fhr=Fqr、Fnr=0」)。一方、後輪要求制動力Fqrが後輪限界回生制動力Fxrよりも大きい場合(即ち、「Fqr>Fxr」であり、後輪限界判定が肯定される場合)には、後輪目標回生制動力Fhrは、後輪限界回生制動力Fxrに演算されるとともに、後輪目標摩擦制動力Fnrは、後輪要求制動力Fqrから後輪限界回生制動力Fxrを減じた値に演算される(即ち、「Fhr=Fxr、Fnr=Fqr-Fxr」)。なお、前輪限界判定と後輪限界判定とは、夫々が個別に行われる。
【0034】
ステップS150にて演算された前輪、後輪目標回生制動力Fhf、Fhrは、制動コントローラECUから前輪、後輪回生コントローラEGf、EGrに送信される。そして、前輪、後輪回生コントローラEGf、EGrによって、実際の前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrが、前輪、後輪目標回生制動力Fhf、Fhrに近付き、一致するように、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNrが制御される。
【0035】
ステップS160にて、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnrに基づいて、前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrが演算される。「前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptr(=Pt)」は、実際の前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwr(=Pw)に対応する目標値である。具体的には、制動装置SX等の諸元(ホイールシリンダCWの受圧面積、回転部材KTの有効制動半径、摩擦部材MSの摩擦係数、車輪(タイヤ)の有効半径等)に基づいて、目標摩擦制動力Fnが目標液圧Ptに変換される。
【0036】
ステップS170にて、前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptr(目標値)に基づいて、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwr(実際値)が調整される。制動コントローラECUによって、流体ユニットHUを構成する電磁弁、電気モータが駆動され、実際の前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwrが、前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrに近付き、一致するように制御される。
【0037】
制動制御装置SCは、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCr(特に、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNr)を介して、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrを、前後輪間で別々に制御することができる。また、制動制御装置SCは、制動液圧Pwを、前後輪のホイールシリンダCWf、CWrで別々に制御することが可能である。つまり、制動制御装置SCは、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrを、前後輪間で別々に制御することができる。
【0038】
制動制御装置SCでの回生協調制御では、前輪要求制動力Fqfに対する後輪要求制動力Fqrの比率Kq(=Fqr/Fqf)が常時一定になるように、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrと、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrと、が調整される。その結果、前輪制動力Fbfに対する後輪制動力Fbrの比率Kb(=Fbr/Fbf)は常に一定(値hb)である。制動力の前後配分が常時適正化されるため、回生制動時においても車両の方向安定性が向上される。加えて、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrが、電力回生量の最大限度(即ち、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrの範囲)まで優先的に利用されるので、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrが、車両の運動エネルギを十分に回生することができる。このように、制動制御装置SCでは、車両安定性と、エネルギ回生が好適に両立される。
【0039】
<制動開始時の回生協調制御における制動力前後配分>
図3の特性図を参照して、制動開始の際において、回生協調制御での前輪、後輪制動力の配分について説明する。回生協調制御では、目標値が演算され、該目標値に一致するように実際値が制御される。特性図では、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr(目標値)の制御結果として、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbr(実際値)が示されている。
【0040】
先ず、制動力に係る各種状態量について整理する。車両全体に作用する制動力の目標値が、目標車体制動力Fvであり、その制御結果である実際値が、制動力Fbである。実際値Fbは、前後輪で発生されるため、前輪WHf(2輪分)に係る実際値が、前輪制動力Fbfであり、後輪WHr(2輪分)に係る実際値が、後輪制動力Fbrである。目標車体制動力Fvが前後輪の制動力に配分されたものが、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrである。従って、目標値Fqf、Fqrに対応する制御結果が、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbrである。更に、前輪制動力に対する後輪制動力の比率(「配分比率」ともいう)においては、目標値では比率Kq(=Fqr/Fqf)であり、実際値では比率Kb(=Fbr/Fbf)である。実際値は、目標値に一致するように制御されるため、実質的には、配分比率Kqと配分比率Kbとは等しく、一定値hbである(即ち、「Kq=Kb=hb」)。
【0041】
目標値Fqf、Fqrは、回生制動による目標値(目標回生制動力)Fhf、Fhrと、摩擦制動(例えば、制動液圧Pwで摩擦部材MSを回転部材KTに押圧する際の摩擦力による制動)による目標値(目標摩擦制動力)Fnf、Fnrと、に振り分けられる。目標値Fhf、Fhrに対応する制御結果が実際値Fgf、Fgrであり、目標値Fnf、Fnrに対応する制御結果が実際値Fmf、Fmrである。従って、目標値においては、「Fv=Fqf+Fqr、Fqf=Fhf+Fnf、Fqr=Fhr+Fnr」の関係があり、実際値においては、「Fb=Fbf+Fbr、Fbf=Fgf+Fmf、Fbr=Fgr+Fmr」の関係がある。
【0042】
特性図(前輪制動力Fbfに対する後輪制動力Fbrの関係が表現される図)では、非制動の状態から、制動力が増加される状況が想定されている。具体的には、時点t0にて目標車体制動力Fvが「0」から増加され始め、その後、目標車体制動力Fvが徐々に増加される。該状況での前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの遷移が特性図に示されている。前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrは、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNrの回転速度Ngf、Ngrに応じて変化するが、説明の煩雑さを考慮して、図2の演算マップZxf、Zxr(ブロックX140を参照)において、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrが、共に、前輪、後輪上限値fxf、fxrに制限されている状態が選択されている。ここで、図中の「: 」の表記は、該当する時点での値であることを示している。例えば、「点(A:t1)」は、時点t1における作動点を表し、「Fmf:t4」は、時点t4における前輪摩擦制動力Fmfの値を表している。
【0043】
制動制御装置SCにおける回生協調制御では、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbrが、基準特性Cbに沿うように、回生制動力Fg、及び、摩擦制動力Fmが調整される。具体的には、基準特性Cbでは、前輪制動力Fbfに対する前輪制動力Fbrの比率Kb(=Fbr/Fbf=Fqr/Fqf)が、一定値hbとなるように設定される。従って、前輪制動力Fbfと前輪制動力Fbrとの関係を表す特性図では、基準特性Cbは、原点(O)(即ち、「Fbf=Fbr=0」の点)を通り、傾きhb(定数)を有する直線として表される。ここで、基準特性Cbの傾きhbは、「前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの受圧面積」、「回転部材KTf、KTrの有効制動半径」、「前後輪の摩擦材MSの摩擦係数」、及び、「車輪WH(タイヤ)の有効半径」に基づいて、予め設定されている。例えば、後輪WHrが、前輪WHfに対して先行してロック状態に陥らないよう、通常制動の範囲内(制動力が、その最大値を発生する領域を除く領域内)で、基準特性Cbが、所謂、理想配分特性よりも小さくなるように設定されている。なお、最大制動力を発生する領域では、後輪WHrの減速スリップが、前輪WHfの減速スリップよりも大きくならないよう、車輪速度Vwに基づいて制動力配分制御(所謂、EBD制御)が実行される。以下、時間Tの遷移に伴う、制動制御装置SCの作動について説明する。
【0044】
演算周期毎に、制動操作量Ba、及び、演算マップZfvに応じて、目標車体制動力Fvが決定される。そして、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrが、「(条件1)前輪要求制動力Fqfと後輪要求制動力Fqrとの合計が目標車体制動力Fvに一致」、且つ、「(条件2)前輪要求制動力Fqfに対する後輪要求制動力Fqrの比率Kqが一定値hb」の条件が満足されるように演算される。ここで、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbrについての目標値(要求値)である。更に、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrから、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrが取得される。上記で仮定したように、「Fxf=fxf、Fxr=fxr」である。
【0045】
時点t0にて、制動操作部材BPの操作が開始され、制動操作量Baが「0」から増加される。時点t0にて、回生協調制御の作動は原点(O:t0)から開始される。時点t1では、作動点(A:t1)にて示すように、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、共に、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrよりも小さい。時点t2にて、後輪要求制動力Fqr(結果、実際の後輪制動力Fbr)が、後輪限界回生制動力Fxrに達する。更に、時点t3にて、作動点(B:t2)にて示すように、前輪要求制動力Fqf(結果、実際の前輪制動力Fbf)が、前輪限界回生制動力Fxfに達する。
【0046】
時点t0から時点t2までの間(即ち、作動点が点(O:t0)から点(B:t2)に遷移する間)は、目標車体制動力Fvは相対的に小さく、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、共に、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxr以下である。ここで、限界回生制動力Fxは、回生制動装置KCの作動状態に依存し、それが最大限発生することができる回生制動力である。「Fqf≦Fxf、Fqr≦Fxr」の状態では、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrは、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrを発生する余裕があるため、前輪、後輪目標回生制動力Fhf、Fhrは、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrと等しく演算される(即ち、「Fhf=Fqf、Fhr=Fqr」)。また、摩擦制動力Fmの発生は不要であるため、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnrは、共に、「0」に演算される(即ち、「Fnf=Fnr=0」)。その結果、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrのみによって、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbrとして達成(実現)される。このとき、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrは「0」のままである。回生制動のみであっても、条件2は満足されるので、回生協調制御の作動点は、基準特性Cb上を遷移する。
【0047】
時点t2から時点t3までの間(即ち、作動点が点(B:t2)から点(C:t3)に遷移する間)は、前輪要求制動力Fqfは前輪限界回生制動力Fxf以下であるが、後輪要求制動力Fqrが後輪限界回生制動力Fxrよりも大きい。従って、後輪摩擦制動力Fmrの発生が必要となる。つまり、時点t2より後は、後輪限界回生制動力Fxrが、後輪目標回生制動力Fhrとして決定され、後輪要求制動力Fqrに対する不足分(即ち、「Fqr-Fxr」)が補完されるように、後輪目標摩擦制動力Fnrが「0」から増加される(即ち、「Fhr=Fxr、Fnr=Fqr-Fxr」)。これにより、時点t2の後は、実際の後輪摩擦制動力Fmrが「0」から増加される。なお、前輪WHfについては、依然、要求制動力Fqfが限界回生制動力Fxf以下である状態が継続されるので、前輪目標回生制動力Fhfは前輪要求制動力Fqfに等しく演算され、前輪目標摩擦制動力Fnfは「0」のままである(即ち、「Fhf=Fqf、Fnf=0」)。後輪摩擦制動力Fmrが増加されても、条件2は満足されるので、回生協調制御の作動点は、基準特性Cb上を遷移する。
【0048】
時点t3以降(例えば、作動点(C:t3)から作動点(D:t4)への遷移)では、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、共に、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrよりも大きい。従って、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr、及び、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrによって達成(実現)される。詳細には、前輪、後輪目標回生制動力Fhf、Fhrが、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrに等しく決定される(Fhf=Fxf、Fhr=Fxr)。そして、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrに対する不足分(即ち、「Fqf-Fxf、Fqr-Fxr」)が補完されるように、前輪、後輪目標摩擦制動力Fnf、Fnrが、該不足分に等しく演算される(即ち、「Fnf=Fqf-Fxf、Fnr=Fqr-Fxr」)。例えば、時点t4では、前輪制動力Fbfは、前輪回生制動力Fgfと前輪摩擦制動力Fmfとの和(=Fgf:t4+Fmf:t4)として達成される。また、後輪制動力Fbrは、後輪回生制動力Fgrと後輪摩擦制動力Fmrとの和(=Fgr:t4+Fmr:t4)として達成される。この場合でも前輪制動力Fbfと後輪制動力Fbrとの関係は、基準特性Cb上にあり、そこから外れることはない。
【0049】
時間Tの遷移に対する制動力Fbの達成状況についてまとめる。制動が開始される際には、目標車体制動力Fvの増加に伴い、回生協調制御の作動点は、「(O:t0)→(A:t1)→(B:t2)→(C:t3)→(D:t4)」の順にて基準特性Cb(傾きhbの直線)上を遷移する。点(B:t2)で後輪回生制動力の発生が限界に達し、点(C:t3)で前輪回生制動力の発生が限界に達する。時点t0~t2の間は、回生制動力の発生に余裕があるため、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrのみによって実現される(即ち、「Fbf=Fgf、Fbr=Fgr」)。時点t2~t3の間は、前輪回生制動力の発生には余裕があるので、前輪要求制動力Fqfは、前輪回生制動力Fgfのみによって実現される。しかし、後輪回生制動力の発生は既に限界に達しているので、後輪要求制動力Fqrは、後輪回生制動力Fgr、及び、後輪摩擦制動力Fmrによって実現される(即ち、「Fbf=Fgf、Fbr=Fgr+Fmr」)。前後輪で共に回生制動力の発生に余裕がなくなる時点t3以降は、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr、及び、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrによって実現される(即ち、「Fbf=Fgf+Fmr、Fbr=Fgr+Fmr」)。
【0050】
以上で説明したように、制動制御装置SCにおける回生協調制御では、制動開始時において、目標車体制動力Fvが徐々に増加される際に、常に、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr(結果、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbr)の配分(即ち、前輪制動力Fbfに対する前輪制動力Fbrの比率Kb)が一定に維持される。つまり、制動制御装置SCによって、回生制動中において、前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの配分調整が、常時適正化される。このため、車両の方向安定性が、前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの関係によって損なわれることがない。加えて、制動制御装置SCでは、「Fq≦Fx」の場合には、目標回生制動力Fh(結果、実際の回生制動力Fg)が、目標摩擦制動力Fn(結果、実際の摩擦制動力Fm)よりも優先される。このため、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrは、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrに対応する回生電力量(即ち、回生可能な電力量)まで、車両JVの運動エネルギを回収することができる。結果、制動開始時に、車両の方向安定性とエネルギ回生とが高次元でバランスされ、それらが両立され得る。
【0051】
<回生協調制御のすり替え作動における制動力前後配分>
図4の特性図を参照して、回生協調制御のすり替え作動の際における前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの配分について説明する。「すり替え作動」は、車体速度Vxが減少し、回生制動力Fgが低下した際に、その低下分を摩擦制動力Fmによって補完(補償)するものである。従って、すり替え作動によって、前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの発生源が、回生制動力Fgから摩擦制動力Fmに徐々に切り替えられることにより、必要な前輪、後輪制動力Fbf、Fbrが確保される。なお、制動力に係る状態量について、図3の場合と同様である。
【0052】
特性図では、車体減速度Gx(即ち、目標車体制動力Fv)が一定に維持された状態で、時間Tが「時点u1→時点u2→時点u3→時点u4」の順で経過するに伴い、車両JVが順次減速され、すり替え作動が行われる状況が想定されている。従って、特性図では、目標車体制動力Fvが一定であるため、車両が減速されても、回生協調制御の作動は点(E)に留まる。車体速度Vxの減少に伴い、前輪ジェネレータ回転速度Ngfが減少する。このため、時間Tの経過に従って、前輪限界回生制動力Fxfは、「値fu1:u1→値fu2:u2→値fu3:u3→値fu4:u4」の順で減少する。同様に、後輪ジェネレータ回転速度Ngrも減少するので、後輪限界回生制動力Fxrは、「値ru1:u1→値ru2:u2→値ru3:u3→値ru4:u4」の順で減少する。
【0053】
時点u1では、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqr(作動点(E))は、前輪、後輪限界回生制動力Fxf(=fu1)、Fxr(=ru1)よりも小さい。前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrは、共に回生制動力の発生について余裕があるので、「Fhf=Fqf、Fhr=Fqr、Fnf=Fnr=0」が演算される。結果、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrのみによって達成(実現)される。
【0054】
時点u2にて、後輪限界回生制動力Fxr(=ru2)が、後輪要求制動力Fqrに一致する。時点u2よりも後は、後輪回生制動力の発生に余裕がなくなるので、後輪要求制動力Fqrは、後輪回生制動力Fgr、及び、後輪摩擦制動力Fmrによって達成(実現)される。一方で、前輪要求制動力Fqfは前輪限界回生制動力Fxf(=fu2)未満であり、前輪回生制動力の発生には余裕があるため、前輪要求制動力Fqfは、前輪回生制動力Fgfのみによって達成(実現)される。
【0055】
時点u2から時間Tが経過した時点u3にて、前輪限界回生制動力Fxf(=fu3)が、前輪要求制動力Fqfに一致する。時点u3よりも後は、前輪、後輪回生制動力の発生には余裕がなくなり、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrは、共に、前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr、及び、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrによって達成(実現)される。例えば、時点u4では、「Fhf=Fxf(=fu4)、Fhr=Fxr(=ru4)」が演算される。そして、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrにおける不足分が、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrによって補完されるように、「Fnf=Fqf-Fxf、Fnr=Fqr-Fxr」が演算される。これにより、「条件1:Fv=Fbf+Fbr=(Fgf+Fmf)+(Fgr+Fmr)」、及び、「条件2:Kb=Fbr/Fbf=hb」が、共に満足される。
【0056】
以上で説明したように、制動制御装置SCでは、回生制動力Fgと摩擦制動力Fmとのすり替え作動が実行される際に、前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの配分Kb(即ち、前輪制動力Fbfに対する前輪制動力Fbrの比率)が、常に一定(値hb)に維持されるので、前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの配分調整が適正化される。結果、車両の方向安定性が向上される。更に、制動制御装置SCでは、回生制動力Fgが摩擦制動力Fmよりも優先されるので、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrが、回生可能な電力量(回生制動力の上限Fxに対応する電力量)まで、十分に運動エネルギを回収することができる。つまり、すり替え作動時において、車両の方向安定性とエネルギ回生とが高次元でバランスされ、それらが両立され得る。
【0057】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果(制動力の前後配分の適正化と、それに伴う車両安定性とエネルギ回生量との両立)を奏する。
【0058】
上記実施形態では、回生制動力Fgの発生限界において、要求制動力Fqf、Fqrが、前輪限界回生制動力Fxfよりも、先に、後輪限界回生制動力Fxrに達した。何れの回生制動装置が先に限界に達するのかは、回生制動装置の回生容量の大きさ(諸元)に依存することに因る。前輪回生制動装置KCfの回生容量が、後輪回生制動装置KCrの回生容量よりも大きい場合には、実施形態にて例示したように、前輪回生制動力Fgfが前輪限界回生制動力Fxfに到達する前に、後輪回生制動力Fgrが後輪限界回生制動力Fxrに到達する。一方、後輪回生制動装置KCrの回生容量が、前輪回生制動装置KCfの回生容量よりも大きい場合には、逆に、後輪回生制動力Fgrが後輪限界回生制動力Fxrに達する前に、前輪回生制動力Fgfが前輪限界回生制動力Fxfに達する。何れにしても、制動制御装置SCでは、配分比率Kq(目標値)、Kb(実際値)が一定値hbに維持されるので、車両の方向安定性の向上とエネルギ回生量の確保との両立が図られる。
【0059】
上記実施形態では、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxr(=Fx)が、前輪、後輪回転速度Ngf、Ngr(=Ng)に基づいて決定された。回生制動時には、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNrは、前輪WHf、後輪WHrによって回転駆動される。このため、前輪、後輪回転速度Ngf、Ngrに代えて、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNrから前輪WHf、後輪WHrに至るまでの回転する構成部材の回転速度が採用され得る。例えば、前輪、後輪回転速度Ngf、Ngrに代えて、前輪WHf、後輪WHrの車輪速度Vwf、Vwr(=Vw)が採用される。或いは、車輪速度Vwに基づいて演算される車体速度Vxが採用されてもよい。即ち、限界回生制動力Fxは、ジェネレータ回転速度Ng、車輪速度Vw、及び、車体速度Vxのうちの少なくとも1つに基づいて決定(演算)される。
【0060】
上記実施形態では、制動コントローラECUと前輪、後輪回生コントローラEGf、EGrとの間の通信において、限界回生制動力Fx(=Fxf、Fxr)、及び、目標回生制動力Fh(=Fhf、Fhr)の物理量として、「力」の次元が採用された。制動装置SX、制動制御装置SC、及び、回生制動装置KCの諸元、及び、車両の状態量(車輪速度Vw、車体速度Vx等)は既知であるため、限界回生制動力Fx、目標回生制動力Fhの物理量として、変換可能な他の物理量(例えば、トルク量、電力量)が採用されてもよい。例えば、回生コントローラEGから、回生可能な電力量の限界値(上限値)として、前輪、後輪限界電力量Rxf、Rxr(=Rx)が、制動コントローラECUに送信される。そして、制動コントローラECUにて、限界電力量Rxが、変換演算されて、限界回生制動力Fxが決定され得る。また、制動コントローラECUにて、目標回生制動力Fhに基づいて、目標電力量Rh(=Rhf、Rhr)が演算され、回生コントローラEG(=EGf、EGr)に送信される。そして、回生コントローラEGによって、目標電力量Rhに基づいて、実際の回生電力量Rg(=Rgf、Rgr)が調整される。その結果、回生電力量Rgに応じた、回生制動力Fg(=Fgf、Fgr)が発生される。何れにしても、目標回生制動力Fhに応じた、回生制動力Fgが発生される。
【0061】
上記実施形態では、2系統の制動流体路として、前後型の構成が採用された。これに代えて、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)の制動系統が採用されてもよい。この場合、流体ユニットHUとして、特開2008-006893号に記載されるような、全てのホイールシリンダCWの制動液圧Pwが、独立、且つ、個別に制御され得るものが採用される。
【0062】
上記実施形態では、車輪WHの制動力Fbを調節するアクチュエータとして、制動液BFを介した液圧式のもの(流体ユニットHU)が例示された。これに代えて、電気モータによって駆動される、電動式のものが採用され得る。電動式のアクチュエータでは、電気モータ(回生制動装置KCの電気モータGNとは別)の回転動力が、直線動力に変換され、これによって、摩擦部材MSが回転部材KTに押し付けられる。従って、制動液圧Pwに依らず、電気モータによって、直接、制動力が発生される。さらに、前輪WHf用として、制動液BFを介した液圧式のアクチュエータが採用され、後輪WHr用として、電動式のアクチュエータが採用された、複合型であってもよい。
【0063】
上記実施形態では、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示された。この場合、摩擦部材MSはブレーキパッドであり、回転部材KTはブレーキディスクである。ディスク型制動装置に代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、ブレーキキャリパCPに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材MSはブレーキシューであり、回転部材KTはブレーキドラムである。
【0064】
<制動制御装置SCのまとめ>
車両JVには、制動制御装置SCが備えられる。制動制御装置SCは、アクチュエータHU(例えば、流体ユニット)、及び、コントローラECUにて構成される。コントローラECUにて駆動されるアクチュエータHUによって、摩擦部材MSが、前輪回転部材KTfに押圧されて前輪摩擦制動力Fmfが発生され、後輪回転部材KTrに押圧されて後輪摩擦制動力Fmrが発生される。ここで、前輪、後輪回転部材KTf、KTrは、車両JVの前輪WHf、及び、後輪WHrに固定される。コントローラECUによって、前輪摩擦制動力Fmfと後輪摩擦制動力Fmrとは別個に制御される。
【0065】
車両JVには、コントローラECUによって制御される前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrが備えられる。前輪回生制動装置KCfによって、前輪WHfに前輪回生制動力Fgfが発生され、後輪回生制動装置KCrによって、後輪WHrに後輪回生制動力Fgrが発生される。コントローラECUによって、前輪回生制動力Fgfと後輪回生制動力Fgrとは別個に制御される。従って、前輪回生制動力Fgf、後輪回生制動力Fgr、前輪摩擦制動力Fmf、及び、後輪摩擦制動力Fmrは、相互に独立で、且つ、個別に調整される。
【0066】
コントローラECUでは、車両JVの全体として要求される制動力が、目標車体制動力Fvとして演算される。そして、前輪要求制動力Fqfと後輪要求制動力Fqrの和が目標車体制動力Fvに一致し、且つ、前輪要求制動力Fqfに対する後輪要求制動力Fqrの比率Kqが一定値hbになるように、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrが演算される。具体的には、式(1)にて示したように、前輪要求制動力Fqfに対する後輪要求制動力Fqrの比率Kqを一定値hbであるとすると、前輪要求制動力Fqfは、「目標車体制動力Fv」が「一定値hbと「1」との和」によって除算された値として演算される(即ち、「Fqf=Fv/(1+hb)」)。また、後輪要求制動力Fqrは、「目標車体制動力Fvに一定値hbが乗算された値」が「一定値hbと「1」との和」によって除算された値として演算される(即ち、「Fqr=Fv・hb/(1+hb)」)。
【0067】
コントローラECUでは、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrによって発生可能な前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrの最大値が、前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrとして取得される。前輪、後輪限界回生制動力Fxf、Fxrは、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrの作動状態に応じて定まる状態量(変数)であり、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrの夫々が、最大限に発生し得る回生制動力である。ここで、回生制動装置KCの作動状態は、車輪WHからジェネレータGNに至るまでの回転する部材の回転速度(回転数)に係る状態量によって表現される。
【0068】
コントローラECUでは、前輪要求制動力Fqfが前輪限界回生制動力Fxfよりも大きいか、否かの前輪限界判定が行われる。前輪要求制動力Fqfが前輪限界回生制動力Fxf以下であり、前輪限界判定が否定される場合には、前輪回生制動力Fgfは限界に達していないので、前輪要求制動力Fqfは前輪回生制動力Fgfのみによって達成される。一方、前輪要求制動力Fqfが前輪限界回生制動力Fxfよりも大きく、前輪限界判定が肯定される場合には、前輪回生制動力Fgfは既に限界に達しているので、前輪要求制動力Fqfは、前輪回生制動力Fgf、及び、前輪摩擦制動力Fmfの双方によって達成される。
【0069】
同様に、コントローラECUでは、後輪要求制動力Fqrが後輪限界回生制動力Fxrよりも大きいか、否かの後輪限界判定が行われる。後輪要求制動力Fqrが後輪限界回生制動力Fxr以下であり、後輪限界判定が否定される場合には、後輪回生制動力Fgrは限界に達していないので、後輪要求制動力Fqrは後輪回生制動力Fgrのみによって達成される。一方、後輪要求制動力Fqrが後輪限界回生制動力Fxrよりも大きく、後輪限界判定が肯定される場合には、後輪回生制動力Fgrは限界に達しているので、後輪要求制動力Fqrは、後輪回生制動力Fgr、及び、後輪摩擦制動力Fmrの双方によって達成される。
【0070】
制動制御装置SCでは、前輪、後輪要求制動力Fqf、Fqrの関係(即ち、配分比率Kq)が常時一定になるように決定され、その結果、実際の前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの関係(即ち、配分比率Kb)が一定に維持される。前輪、後輪制動力Fbf、Fbrの配分が常に適正化されるので、車両安定性が向上される。更に、前輪限界判定、及び、後輪限界判定が別々に実行され、前輪、後輪回生制動装置KCf、KCrによる回生可能な電力量の限度まで、運動エネルギが回収される。このため、目標車体制動力Fvが徐々に増加される制動開始時、及び、回生制動から摩擦制動に遷移するすり替え作動時に、車両安定性とエネルギ回生とが高次元で両立され得る。
【符号の説明】
【0071】
JV…車両、SC…制動制御装置、SX…制動装置、CP…ブレーキキャリパ、CW…ホイールシリンダ、KT…回転部材(ブレーキディスク)、MS…摩擦部材(ブレーキパッド)、HU…流体ユニット(アクチュエータ)、ECU…制動制御装置用のコントローラ(制動コントローラ)、KCf、KCr…前輪、後輪回生制動装置、GNf、GNr…前輪、後輪ジェネレータ、EGf、EGr…前輪、後輪回生制動装置用のコントローラ(前輪、後輪回生コントローラ)、BS…通信バス、Fv…目標車体制動力(目標値)、Fqf、Fqr…前輪、後輪要求制動力(目標値)、Fbf、Fbr…前輪、後輪制動力(実際値)、Fhf、Fhr…前輪、後輪目標回生制動力(目標値)、Fgf、Fgr…前輪、後輪回生制動力(実際値)、Fxf、Fxr…前輪、後輪限界回生制動力、Fnf、Fnr…前輪、後輪目標摩擦制動力(目標値)、Fmf、Fmr…前輪、後輪摩擦制動力(実際値)、Ptf、Ptr…前輪、後輪目標液圧(目標値)、Pwf、Pwr…前輪、後輪制動液圧(実際値)、Kq…配分比率(目標値)、Kb…配分比率(実際値)、hb…一定値(=Kq=Kb)、Cb…基準特性。


図1
図2
図3
図4