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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/66 20060101AFI20240509BHJP
   B60T 8/171 20060101ALI20240509BHJP
   B60T 8/92 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
B60T8/66 Z
B60T8/171 Z
B60T8/92
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021055685
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152781
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 勇作
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151331(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3339117(EP,A1)
【文献】特開平9-315282(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/32-8/96
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の回転角を取得できるセンサを有する車両に適用される車両の制動制御装置であって、
前記車両の運転者による制動操作部材の操作量に対応する制動力を基準制動力として、該基準制動力が小さいほど値が小さくなるように推定される前記車両の前後加速度を用いて、前記車両が停止するまでの当該車両の移動距離を推定した制動力基準距離を前記前後加速度に基づいて算出する第1距離算出部と、
前記センサの検出信号と前記車輪の径とに基づいて前記車両の移動距離を推定した車輪基準距離を算出する第2距離算出部と、
前記制動力基準距離と前記車輪基準距離との差分が小さくなるように前記車両に付与する制動力を制御するフィードバック制御を実行する制動制御部と、を備える
車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記制動制御部は、前記車両の速度が規定のしきい値よりも小さい場合に、前記フィードバック制御を実行する
請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記第1距離算出部は、前記制動力基準距離に対しての乖離を許容する上限値および下限値からなる許容範囲を設定するものであり、
前記フィードバック制御の実行中に前記車輪基準距離が前記許容範囲を超過した場合には、異常が発生したと判定する異常判定部を備える
請求項1または請求項2に記載の車両の制動制御装置。
【請求項4】
前記制動制御部は、前記異常判定部によって異常が発生していると判定されると、前記フィードバック制御を終了して、前記車両に付与する制動力を増加させる
請求項3に記載の車両の制動制御装置。
【請求項5】
前記制動制御部は、前記車両に付与する制動力を前記基準制動力に対して調整して前記車両における車体の前後加速度変動とピッチ角の変化速度とを抑制する停止前ブレーキ制御を実行するものであり、該停止前ブレーキ制御の実行中に前記フィードバック制御を実行することができ、
前記第1距離算出部は、前記停止前ブレーキ制御が実行される際には、当該停止前ブレーキ制御による制動力の調整を反映した前記車両の移動距離として前記制動力基準距離を算出し、
前記制動制御部は、前記停止前ブレーキ制御の実行中に前記異常判定部によって異常が発生していると判定されると、前記停止前ブレーキ制御および前記フィードバック制御を終了して、前記基準制動力に基づいて前記車両に付与する制動力を制御する
請求項3に記載の車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両が停止する際に制動力の制御を行う制御装置が開示されている。制御装置は、減速中の車両の車速に基づいて、制御を行う時期を規定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-28913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、車速の算出に車輪速センサからの検出信号に基づく車輪の回転角を用いることがある。車輪速センサからの検出信号は、車輪の回転速度に応じた間隔で発生するパルスを含んでいる。検出信号に含まれるパルスの間隔は、車輪の回転が止まる直前のような車速が小さい領域において大きくなる。ここで、車輪速度は、回転角を一階微分した値として算出される。このため、パルスの間隔が大きくなるほど、算出される車輪速度と実際の車輪速度との差がより大きくなりやすい。すなわち、算出される車輪速度の精度が低くなり、算出される車速の精度が低くなるという問題がある。
【0005】
このように、車速を検出する精度が低下して実際の車速とは異なる値として車速が算出されることがある。車速に基づいて制動力の制御を行う時期を規定する特許文献1のような制御装置では、算出される車速が実際の車速とは異なると、当該制御の精度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための車両の制動制御装置は、車輪の回転角を取得できるセンサを有する車両に適用される車両の制動制御装置であって、前記車両の運転者による制動操作部材の操作量に対応する制動力を基準制動力として、該基準制動力が小さいほど値が小さくなるように推定される前記車両の前後加速度を用いて、前記車両が停止するまでの当該車両の移動距離を推定した制動力基準距離を前記前後加速度に基づいて算出する第1距離算出部と、前記センサの検出信号と前記車輪の径とに基づいて前記車両の移動距離を推定した車輪基準距離を算出する第2距離算出部と、前記制動力基準距離と前記車輪基準距離との差分が小さくなるように前記車両に付与する制動力を制御するフィードバック制御を実行する制動制御部と、を備えることをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、上記センサからの検出信号に基づいて車両の移動距離を推定して車両に付与する制動力を制御することができる。すなわち、上記センサからの検出信号に基づいて算出される車両の速度を用いることなく、制動力を制御することができる。上記センサからの検出信号に基づいて速度として算出される車速と比較すると、上記のように算出される車輪基準距離は、実際の値に対しての精度の低さを軽減できる。このため、車速を検出する精度が低い状況になったとしても、制動力を制御する精度に与える影響を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両の制動制御装置の一実施形態と、同制動制御装置を備える車両と、を示すブロック図。
図2】車両を停止させる際の目標制動力の推移として同制動制御装置が設定する制動プロファイルを示す図。
図3】同制動制御装置が制動中に実行する処理の流れを示すフローチャート。
図4】同制動制御装置が実行する学習処理の流れを示すフローチャート。
図5】同制動制御装置によって制御される制動力の推移を示すタイミングチャート。
図6】同制動制御装置によって制御される制動力の推移を示し、異常が発生した場合のタイミングチャート。
図7】同制動制御装置によって制御される制動力の推移を示し、停止前ブレーキ制御が行われない場合のタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、車両の制動制御装置の一実施形態について、図1図7を参照して説明する。
図1は、車両の制動制御装置としての制御装置10と、車両90と、を示す。車両90は、車輪91に制動力を付与する制動装置20を備えている。制御装置10は、制動装置20を制御対象とする。車両90には、運転者による操作が可能な制動操作部材92が取り付けられている。制動操作部材92の一例は、ブレーキペダルである。また、車両90は、車輪91のうち駆動輪に駆動力を伝達する駆動装置を備えている。
【0010】
〈駆動装置〉
車両90が備える駆動装置は、動力源としての内燃機関を有している。駆動装置が有する動力源は、内燃機関に限らない。たとえば、電動モータが動力源として搭載されていてもよい。駆動装置としては、内燃機関と電動モータとを動力源として備えているものを採用してもよい。動力源としての電動モータを各車輪91のホイールに取り付けたインホイールモータを駆動装置とすることもできる。
【0011】
〈制動装置〉
制動装置20の一例は、摩擦制動力を発生させる摩擦制動装置である。制動装置20は、回生制動力を発生させる回生制動装置でもよい。制動装置20としては、摩擦制動装置および回生制動装置によって摩擦制動力と回生制動力との協調制御を行うことのできる制動装置を採用することもできる。
【0012】
〈車両が備えるセンサ〉
車両90は、各種センサを備えている。図1には、各種センサの一例として、車輪速センサ81およびブレーキセンサ82を示している。各種センサからの検出信号は、制御装置10に入力される。
【0013】
車輪速センサ81は、車輪91の回転角を取得することができるセンサの一例である。車輪速センサ81は、各車輪91のそれぞれに設けられている。車輪速センサ81からの検出信号は、車輪91の回転角に応じて発生するパルスを含んでいる。
【0014】
車輪91の回転角を取得できるセンサの他の例は、車輪91のうち駆動輪に動力を伝達する電動モータが備えるレゾルバである。車両90の駆動装置が電動モータを有している場合には、レゾルバから出力される信号に基づいて電動モータの回転角を取得することができる。電動モータの回転角を取得することができれば、車輪91の回転角を取得することができる。
【0015】
ブレーキセンサ82は、制動操作部材92の操作量を検出することができる。制動操作部材92の操作量の一例は、制動操作部材92の移動量としてのペダルストロークBPである。その他、制動操作部材92の操作量としては、制動操作部材92を操作するために制動操作部材92に加えられる圧力としてのペダル踏力を挙げることができる。
【0016】
〈制御装置〉
制御装置10は、各種センサからの検出信号に基づいて、車両90の状態量を算出することができる。たとえば、制御装置10は、車輪速センサ81からの検出信号に基づいて、車輪91の回転速度である車輪速度を算出することができる。制御装置10は、車輪速度に基づいて、車両90の車体速度VSを算出することができる。制御装置10は、ブレーキセンサ82からの検出信号に基づいて、制動操作部材92の操作量としてのペダルストロークBPを算出することができる。
【0017】
制御装置10は、機能部として、制動制御部11と、第1距離算出部12と、第2距離算出部13と、異常判定部14と、学習部15と、を備えている。
制御装置10は、以下[a]~[c]のいずれかの構成であればよい。[a]コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備える。プロセッサは、処理装置を備える。処理装置としては、CPU、DSPおよびGPU等を挙げることができる。プロセッサは、メモリを備える。メモリは、処理を処理装置に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリとしては、RAM、ROMおよびフラッシュメモリ等を挙げることができる。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。[b]各種処理を実行する一つ以上のハードウェア回路を備える。ハードウェア回路の例は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)およびFPGA(Field Programmable Gate Array)等がある。[c]各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうち残りの処理を実行するハードウェア回路と、を備える。
【0018】
制動制御部11は、制動装置20を制御することができる。制動制御部11は、ペダルストロークBPに基づいて基準制動力を算出することができる。この場合の基準制動力は、車両90の運転者が要求している大きさの制動力に相当する。制動制御部11は、基準制動力に基づいて目標制動力BFTを算出することができる。目標制動力BFTは、制動装置20を制御して車両90に付与する制動力の目標値として用いられる。制動制御部11は、車両90を停止させる際の目標制動力BFTの推移として、制動プロファイルを設定する。制動プロファイルの詳細は後述する。制動制御部11は、目標制動力BFTに基づいて制動装置20を制御して車両90に制動力を付与することができる。
【0019】
制動制御部11は、車両90の制動中に、車両90が停止するまでに移動する距離を算出することができる。車両90が停止するまでに移動する距離を停止距離Dsとする。停止距離Dsの算出について説明する。制動制御部11は、基準制動力を車両90に付与すると仮定した場合における車両90の前後加速度を推定した値として基準加速度を算出することができる。基準加速度は、基準制動力が小さいほど値が小さくなるように算出される値である。制動制御部11は、車両90の制動中に、車体速度VSと基準加速度とに基づいて、車両90が停止する位置を停止位置として推定することができる。推定を行う時点における車両90の現在位置を開始位置とする。制動制御部11は、開始位置から停止位置までの距離、すなわち車両90が停止するまでに移動する距離を停止距離Dsとして算出することができる。
【0020】
制動制御部11は、車両90の制動中にフィードバック制御を実行することができる。フィードバック制御によって、車体速度VSが小さい状況で制動力を調整することができる。以下では、フィードバック制御を「F/B制御」ということもある。F/B制御の実行条件について説明する。制動制御部11は、一例として、車体速度VSが規定のしきい値よりも小さくなったときに実行条件が成立していると判定する。規定のしきい値としては、車体速度VSが微低速であるか否かを判定するための判定速度VSthを採用することができる。判定速度VSthは、予め実験等によって算出されて設定されている値である。判定速度VSthは、車体速度VSが判定速度VSth以上であれば、実際の車両90の速度と車輪速センサ81からの検出信号に基づいて算出される車体速度VSとの乖離が発生しにくい値として設定されている。
【0021】
F/B制御では、制動制御部11は、制動中における車両90の移動距離に基づいて制動力を調整する。詳細は後述するが、制動制御部11は、制動力基準距離と車輪基準距離Dとの差分を小さくするように、目標制動力BFTを増減させる。制動力基準距離は、車両90に付与する制動力から推定できる車両90の移動距離である。車輪基準距離Dは、車輪91が回転する毎に車両90が移動する距離に基づいて推定できる車両90の移動距離である。F/B制御による調整後の目標制動力BFTは、調整前の目標制動力BFTと、差分に応じた増減と、後述する学習補正値による増減と、によって定めることができる。
【0022】
制動制御部11は、車両90の制動中に停止前ブレーキ制御を実行してもよい。停止前ブレーキ制御は、車両90を停止させる直前に行うことができる。停止前ブレーキ制御では、制動制御部11は、ペダルストロークBPに対応する基準制動力に対して目標制動力BFTを増減させる調整を行う。停止前ブレーキ制御によって、車両90が停止する際に車体の前後加速度変動とピッチ角の変化速度とを抑制できる。停止前ブレーキ制御の実行条件について説明する。制動制御部11は、一例として、車体速度VSが停止前速度よりも小さくなったときに実行条件が成立していると判定する。制動制御部11は、車体速度VSが停止前速度よりも小さくなった場合でも車両90の前後加速度の目標値が減速側に所定値以上大きい場合には実行条件が成立していないと判定することもできる。停止前速度の一例は、F/B制御における判定速度VSthと同じ値である。停止前速度は、判定速度VSthとは異なる値を採用することもできる。制動制御部11は、停止前ブレーキ制御の実行中にF/B制御を実行することができる。
【0023】
第1距離算出部12は、F/B制御に用いる理想距離推移Diを算出する。第1距離算出部12は、F/B制御の実行条件が成立したときに理想距離推移Diを算出する。理想距離推移Diは、車両90の移動距離が停止距離Dsに到達するまでの推移を示す。
【0024】
第1距離算出部12による理想距離推移Diの算出について説明する。第1距離算出部12は、目標制動力BFTに従って制動力を付与する場合における時間の経過に伴う車両90の移動距離の推移を推定して、理想距離推移Diとして算出する。開始位置での理想距離推移Diの値は、「0」である。停止位置での理想距離推移Diの値は、停止距離Dsである。理想距離推移Di上でのある時点における値は、当該時点における車両90の位置と開始位置との距離を示す。理想距離推移Diの値は、車両90が停止するまでの当該車両90の移動距離を推定した制動力基準距離に相当する。言い換えれば、制動力基準距離は、目標制動力BFTに従って制動力を付与する場合における推定の前後加速度に基づいて推定できる車両90の移動距離である。なお、停止前ブレーキ制御が実行される際には、目標制動力BFTの推移として制動プロファイルが設定される。すなわち、第1距離算出部12は、停止前ブレーキ制御が実行される際には、当該停止前ブレーキ制御による制動力の調整を反映した車両90の移動距離として制動力基準距離を算出する。
【0025】
第1距離算出部12は、理想距離推移Diの算出に伴って、理想距離推移Diから車輪基準距離Dが乖離することを許容する許容範囲を設定してもよい。たとえば、許容範囲は、下限値Dabから上限値Daaまでの範囲として設定される。第1距離算出部12は、理想距離推移Diの各値から下方幅βを引いた値を下限値Dabとする。第1距離算出部12は、理想距離推移Diの各値に上方幅αを足した値を上限値Daaとする。下方幅βと上方幅αとは同じ値でもよいし異なる値でもよい。すなわち、第1距離算出部12は、制動力基準距離に対しての乖離を許容する上限値Daaおよび下限値Dabからなる許容範囲を設定することができる。
【0026】
第2距離算出部13は、F/B制御に用いる車輪基準距離Dを算出する。第2距離算出部13は、F/B制御の実行条件が成立したときから車輪基準距離Dの算出を開始する。第2距離算出部13は、車両90が停止するまでの期間において所定の周期で車輪基準距離Dの算出を繰り返して値を更新する。第2距離算出部13は、車両90が停止すると車輪基準距離Dの算出を終了する。
【0027】
第2距離算出部13による車輪基準距離Dの算出について説明する。第2距離算出部13は、車輪91の回転角を示す情報として、車輪91の回転に伴って車輪速センサ81から出力されるパルスを取得することができる。第2距離算出部13は、車輪91の回転に伴って車輪速センサ81によって取得できるパルスと、車輪91の径と、を用いて車輪基準距離Dを算出することができる。具体的には、パルス一つ当たりの移動距離を算出して、パルスが発生する度に移動距離を積算することによって車輪基準距離Dとする。パルス一つ当たりの移動距離は、車輪91が回転することによって車両90が移動する距離と、車輪91が回転する間に発生するパルスの数と、の関係から算出できる。車輪91の径は、たとえば第2距離算出部13に記憶されている。なお、第2距離算出部13には、車輪91の径に限らず、車輪91の外周の長さが記憶されていてもよい。また、パルス一つ当たりの移動距離が記憶されていてもよい。第2距離算出部13は、車輪91の回転角を示す情報としてレゾルバから出力される信号を用いて、車輪基準距離Dを算出することもできる。
【0028】
異常判定部14は、F/B制御の実行中に車輪基準距離Dが許容範囲を超過しているか否かを判定することができる。異常判定部14は、車輪基準距離Dが許容範囲を超過した場合には、異常が発生したと判定する。異常判定部14は、車輪基準距離Dが許容範囲内にある場合には、異常が発生していないと判定する。
【0029】
学習部15は、学習処理を実行することができる。学習処理は、車輪基準距離Dが許容範囲を超過する事態が繰り返されることを抑制するための処理である。たとえば、学習処理では、学習部15は、目標制動力BFTを調整するための学習補正値を算出することができる。学習補正値は、類似性のある超過が繰り返されることを抑制するために目標制動力BFTを補正する値である。たとえば学習補正値は、目標制動力BFTを補正する量と、目標制動力BFTを補正するタイミングとを含んでいる。学習補正値は、たとえば、車輪基準距離Dが上限値Daaを超える超過を対象とする場合には、目標制動力BFTを増加させる値として学習部15によって算出される。一方で、車輪基準距離Dが下限値Dabを超える超過を対象とする場合には、目標制動力BFTを減少させる値として学習部15によって学習補正値を算出することができる。学習補正値の初期値は「0」である。
【0030】
学習部15は、類似性のある超過が繰り返し発生しているか否かを判定することができる。学習部15は、当該判定に用いるために、超過が発生した状況を記憶する機能を備えていてもよい。学習部15は、異常判定部14によって異常が発生していると判定された場合に、判定の結果を履歴として記憶することができる。たとえば、学習部15は、異常が発生していると判定された場合における車両90の各種状態量および各種制御量等を超過履歴として記憶することができる。学習部15は、超過履歴を初期化するまで履歴を蓄積しておくことができる。たとえば、学習部15は、車両90の運転スイッチをオフにするときに超過履歴を初期化して判定結果を削除することができる。学習部15は、車両90の運転スイッチをオフにしても超過履歴を初期化することなく保持しておくこともできる。学習部15は、超過履歴を初期化する際に学習補正値を初期値に戻してもよい。
【0031】
〈制動プロファイル〉
図2を用いて、停止前ブレーキ制御における制動プロファイルの概要について説明する。図2は、目標制動力BFTの推移として制動プロファイルを示している。図2に示す例では、車両90を停止させる時がタイミングt5である。なお、車両90における車輪91の回転が止まっている状態のことを車両90が停止しているという。
【0032】
制動プロファイルは、タイミングt5よりも前のタイミングt3からタイミングt4までの期間を、目標制動力BFTを徐々に減少させる期間としている。制動プロファイルは、タイミングt4からタイミングt5までの期間を、目標制動力BFTを一定に維持させる期間としている。なお、時間当たりの目標制動力BFTの減少量および目標制動力BFTを一定に維持する期間の長さは、車体速度VS、前後加速度ASおよび停止距離Ds等に応じて調整される。
【0033】
また、図2に示すように、制動制御部11が設定する制動プロファイルでは、タイミングt5以降において目標制動力BFTを増加させるようにしている。これは、停止後の車両90が動くことを抑制して車両90が停止した状態を保持するためである。制動プロファイルは、タイミングt5からタイミングt6までの期間を、目標制動力BFTを基準制動力まで増加させる期間としている。目標制動力BFTが基準制動力に達するタイミングt6以降では、目標制動力BFTが基準制動力に維持される。なお、タイミングt6以降のように増加後の目標制動力BFTが基準制動力と一致していることは必須ではない。
【0034】
ところで、制動中に目標制動力BFTを基準制動力よりも減少させる期間を設けると、車両90の制動距離が長くなることがある。そこで、停止前ブレーキ制御では、制動制御部11は、車両90が停止する直前に目標制動力BFTを減少させても目標制動力BFTを減少させない場合と比較した制動距離の差分が小さくなるようにする。具体的には、制動制御部11は、目標制動力BFTの減少を開始する前に目標制動力BFTを一時的に増加させる。制動制御部11が設定するプロファイルでは、タイミングt3よりも前のタイミングt1からタイミングt2までの期間を、目標制動力BFTを徐々に増加させる期間としている。制動プロファイルは、タイミングt2からタイミングt3までの期間を、目標制動力BFTを一定に維持させる期間としている。制動制御部11は、目標制動力BFTを基準制動力よりも増加させることに応じて制動距離が短くなることを考慮して、目標制動力BFTの増加量および増加を行う期間を算出する。そして制動制御部11は、目標制動力BFTの増加量および増加を行う期間を制動プロファイルの設定に反映させる。
【0035】
制動制御部11は、停止前ブレーキ制御の実行中では、制動プロファイルに従って目標制動力BFTを変更して、制動装置20の制御量を調整する。なお、停止前ブレーキ制御が実行されない場合の制動プロファイルは、基準制動力の値が目標制動力BFTとして設定される。
【0036】
〈制御装置が実行する処理〉
図3は、制御装置10が実行する処理の流れを示す。本処理ルーチンは、車両90の制動中に開始される。本処理ルーチンは、制動中に所定の周期毎に繰り返し実行することができる。
【0037】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS101では、制御装置10は、車体速度VSが微低速領域にあるか否かを制動制御部11に判定させる。制動制御部11は、車体速度VSが判定速度VSthよりも小さい場合に車体速度VSが微低速領域にあると判定する。車体速度VSが微低速領域にない場合には(S101:NO)、制御装置10は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、車体速度VSが微低速領域にある場合には(S101:YES)、制御装置10は、処理をステップS102に移行する。
【0038】
ステップS102では、制御装置10は、制動制御部11に停止距離Dsを算出させる。制動制御部11は、車両90の停止位置を推定して停止距離Dsを算出する。その後、制御装置10は、処理をステップS103に移行する。
【0039】
ステップS103では、制御装置10は、制動制御部11に制動プロファイルを設定させる。制動制御部11は、停止前ブレーキ制御の実行条件が成立している場合には、図2に例示したような基準制動力に対して目標制動力BFTを増減させた制動プロファイルを設定する。一方で、停止前ブレーキ制御の実行条件が成立していない場合には、制動制御部11は、基準制動力の値を目標制動力BFTとした制動プロファイルを設定する。制動プロファイルが設定されると、制御装置10は、処理をステップS104に移行する。
【0040】
ステップS104では、制御装置10は、第1距離算出部12に理想距離推移Diを算出させる。第1距離算出部12は、ステップS103の処理において設定された制動プロファイルに基づいて車両90の前後加速度を推定して、理想距離推移Diおよび許容範囲を算出する。換言すれば、第1距離算出部12は、制動力基準距離を算出する。理想距離推移Diが算出されると、制御装置10は、処理をステップS105に移行する。
【0041】
ステップS105では、制御装置10は、第2距離算出部13に車輪基準距離Dの算出を開始させる。第2距離算出部13は、算出を開始する時点での値を「0」として、パルスを検出する度にパルス一つ当たりの移動距離を積算して車輪基準距離Dを算出する。その後、制御装置10は、処理をステップS106に移行する。
【0042】
ステップS106では、制御装置10は、制動制御部11にF/B制御を開始させる。制動制御部11は、制動力基準距離と車輪基準距離Dとの差分を小さくするように、制動プロファイルに設定されている目標制動力BFTを増減させる。この結果、目標制動力BFTの増減に従って車両90に付与される制動力が増減される。F/B制御を開始させると、制御装置10は、処理をステップS107に移行する。
【0043】
ステップS107では、制御装置10は、車輪基準距離Dが許容範囲内であるか否かを異常判定部14に判定させる。異常判定部14は、車輪基準距離Dが下限値Dabよりも大きく上限値Daaよりも小さい場合には、車輪基準距離Dが許容範囲内であると判定する。一方で、車輪基準距離Dが下限値Dab以下である場合、または車輪基準距離Dが上限値Daa以上である場合には、車輪基準距離Dが許容範囲を超過していると判定する。
【0044】
ステップS107の処理において、車輪基準距離Dが許容範囲内である場合には(S107:YES)、制御装置10は、処理をステップS108に移行する。ステップS108では、制御装置10は、車両90が停止しているか否かを制動制御部11に判定させる。たとえば制動制御部11は、車輪基準距離Dが停止距離Dsまで増加した場合に車両90が停止したと判定することができる。
【0045】
車両90が停止している場合には(S108:YES)、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。一方、車両90が停止していない場合には(S108:NO)、制御装置10は、処理を再びステップS107に移行する。すなわち、車両90が停止するまでの間であり車輪基準距離Dが許容範囲内である場合には、ステップS107およびステップS108の処理が繰り返し行われる。
【0046】
ステップS107の処理において、車輪基準距離Dが許容範囲を超過している場合、すなわち異常が発生していると判定された場合には(S107:NO)、制御装置10は、処理をステップS109に移行する。ステップS109では、制御装置10は、制動制御部11に縮退制御を実施させる。縮退制御は、目標制動力BFTを基準制動力に一致させる制御である。すなわち、制動制御部11は、縮退制御を実施すると、停止前ブレーキ制御およびF/B制御を終了する。制動制御部11は、基準制動力と等しい値にした目標制動力BFTに基づいて制動装置20を制御して車両90を停止させる。縮退制御を実施させると、制御装置10は、処理をステップS110に移行する。
【0047】
ステップS110では、制御装置10は、学習部15に学習処理を実施させる。その後、制御装置10は、本処理ルーチンを終了する。学習処理の詳細は、図4を用いて説明する。
【0048】
〈学習処理〉
図4は、学習部15が実行する学習処理の処理ルーチンを示す。本処理ルーチンは、図3におけるステップS110の処理によって開始される。すなわち、学習処理は、車輪基準距離Dが許容範囲を超過した場合に行われる処理である。
【0049】
本処理ルーチンが開始されると、まずステップS201では、学習部15は、車輪基準距離Dが許容範囲を超過した履歴があるか否かを判定する。すなわち、今回の許容範囲からの超過よりも以前に車輪基準距離Dが許容範囲を超過したことがあるか否かを判定する。超過履歴がない場合には(S201:NO)、学習部15は、処理をステップS204に移行する。ステップS204では、学習部15は、車輪基準距離Dが許容範囲から超過した今回の状況を記憶して、超過履歴を更新する。その後、学習部15は、本処理ルーチンを終了する。
【0050】
一方、超過履歴がある場合には(S201:YES)、学習部15は、処理をステップS202に移行する。ステップS202では、学習部15は、今回の許容範囲からの超過と、記憶されている超過履歴との間に類似性があるか否かを評価する。
【0051】
類似性評価の一例を説明する。たとえば、F/B制御を開始してから時間Tiの経過後に車輪基準距離Dが上限値Daaを超えたとする。学習部15は、超過履歴を参照して、車輪基準距離Dが上限値Daaを超えるまでの経過時間が時間Tiに近い履歴が規定件数以上ある場合に類似性があると評価する。たとえば規定件数は、二件以上の値を設定することができる。規定件数は、一件以上の値でもよい。また、たとえば、車輪基準距離Dが許容範囲を超えた時点での目標制動力BFTの値が近い履歴が規定件数以上ある場合に類似性があると評価することもできる。また、複数の要素から類似性の高低を評価して、類似性の高さが規定の基準を超えている場合に類似性があると評価することもできる。
【0052】
許容範囲からの超過に類似性がない場合には(S202:NO)、学習部15は、処理をステップS204に移行する。学習部15は、ステップS204において超過履歴を更新すると、本処理ルーチンを終了する。
【0053】
一方で、許容範囲からの超過に類似性がある場合には(S202:YES)、学習部15は、処理をステップS203に移行する。
ステップS203では、学習部15は、学習補正値を算出する。この結果として、制動制御部11によって、F/B制御の実行中における目標制動力BFTが学習補正値を反映した値に調整される。学習部15は、学習補正値を算出すると、処理をステップS204に移行する。学習部15は、ステップS204において超過履歴を更新すると、本処理ルーチンを終了する。
【0054】
〈作用および効果〉
本実施形態の作用および効果について説明する。
図5は、制動によって車両90が停止する際の目標制動力BFTの推移を示す。図5に示す例では、図5の(a)に示すようにタイミングt11からペダルストロークBPが増大している。タイミングt12以降では、ペダルストロークBPが一定に維持されている。ペダルストロークBPが増大することに伴って制動力が付与されるため、図5の(b)に示すようにタイミングt11からタイミングt16までの期間では、前後加速度ASが負の値となっている。また、制動力の付与に伴って、図5の(c)に示すように車体速度VSが時間の経過に伴って減少している。車体速度VSは、タイミングt13以降では判定速度VSthよりも小さくなっている。すなわち、図5に示す例では、タイミングt13よりも前の期間は、車体速度VSと実際の車両90の速度との乖離が発生しにくい期間である。
【0055】
タイミングt13以降では、車体速度VSが判定速度VSthよりも小さくなっていることによって、F/B制御が実行されている(S106)。さらに、図5に示す例では、タイミングt13以降では、停止前ブレーキ制御の実行条件が成立している。すなわち、タイミングt13以降では、停止前ブレーキ制御も実行されている。図5に示す例では、タイミングt16において車両90が停止する例を示している。すなわち、タイミングt13における車両90の位置が開始位置に相当する。タイミングt16における車両90の位置が停止位置に相当する。
【0056】
図5の(e)には、目標制動力BFTを実線で示している。また、タイミングt13以降では、F/B制御による調整が行われない場合の目標制動力BFTを破線で示している。破線で示す目標制動力BFTは、停止前ブレーキ制御が実行されていることによって、図2に例示した制動プロファイルのように調整されている。タイミングt13からタイミングt14までの期間は、目標制動力BFTを基準制動力よりも増大させる期間と、増大させた目標制動力BFTを維持する期間である。タイミングt14からタイミングt15までの期間は、目標制動力BFTを徐々に減少させる期間である。タイミングt15からタイミングt16までの期間は、目標制動力BFTを一定に維持する期間である。タイミングt16以降は、目標制動力BFTを基準制動力まで増加させる期間である。
【0057】
制御装置10によれば、停止前ブレーキ制御によって目標制動力BFTを増減することで、図5の(b)におけるタイミングt14からタイミングt16までの期間のように、車両90が停止する直前における前後加速度ASを「0」に近づけることができる。このため、車両90が停止する際の前後加速度ASの変化量を小さく抑えられる。これによって、車両90における前後加速度変動とピッチ角の変化速度とを抑制できる。
【0058】
図5の(d)には、開始位置から停止位置まで車両90が移動する走行距離を示している。破線は、理想距離推移Diを示している。二点鎖線は、下限値Dabおよび上限値Daaを示している。すなわち、二本の二点鎖線の内側が許容範囲を示している。さらに、図5の(d)には、車輪基準距離Dを実線で表示している。
【0059】
図5の(d)に示すように、F/B制御が開始されるタイミングt13において、理想距離推移Diおよび許容範囲が算出されている(S104)。理想距離推移Diは、タイミングt13の時点では「0」である。理想距離推移Diは、タイミングt13以降で増大して、タイミングt16の時点で停止距離Dsに到達している。理想距離推移Diは、停止前ブレーキ制御によって調整されている制動プロファイルが反映されて曲線状に推移している。また同様にF/B制御が開始されるタイミングt13以降では、車輪基準距離Dが算出されている(S105)。タイミングt13の時点では、車輪基準距離Dは、「0」である。
【0060】
制御装置10によれば、F/B制御の実行によって、図5の(d)および(e)に示すように、車輪基準距離Dが理想距離推移Diから乖離すると、実線で示す目標制動力BFTが破線で示す制動プロファイルの値に対して増減されて調整される。この結果として、車両90に付与される制動力が増減される。
【0061】
たとえば、車両90が走行している路面が下り坂または上り坂である場合には、路面の傾斜角に応じて車両90の前後加速度が影響を受けることがある。このような、外乱の影響によって、車輪基準距離Dが理想距離推移Diから乖離することがある。車輪基準距離Dが理想距離推移Diから乖離した状態で走行を続けると、車両90が停止するまでの移動距離が停止距離Dsよりも短くなったり長くなったりすることがある。
【0062】
この点、制御装置10によれば、F/B制御によって、車輪基準距離Dと理想距離推移Diとの差分を小さくするように目標制動力BFTを調整することができる。これによって、車両90が停止するまでの移動距離を停止距離Dsに合わせることができる。すなわち、停止位置として算出された位置に車両90を停止させることができる。
【0063】
図5の(b)に表示している破線は、停止前ブレーキ制御による制動プロファイルに従って制動力が付与されたと仮定した場合の前後加速度ASの推移を示している。実線で示す実際の前後加速度ASの値は、破線で示す値とは異なる推移となっている。これは、停止前ブレーキ制御に加えてF/B制御によって車両90に付与される制動力が増減されているためである。
【0064】
図5の(c)に表示している破線は、図5の(b)における破線と同様に、停止前ブレーキ制御による制動プロファイルに従って制動力が付与されたと仮定した場合の車体速度VSの推移を示している。実線で示す実際の車体速度VSの値は、破線で示す値とは異なる推移となっている。これは、停止前ブレーキ制御に加えてF/B制御によって車両90に付与される制動力が増減されているためである。
【0065】
なお、図5に示す例では、車輪基準距離Dが理想距離推移Diから乖離するものの、車輪基準距離Dが許容範囲を超過することはない。F/B制御による目標制動力BFTの調整によって、車輪基準距離Dと理想距離推移Diとの差分を小さくすることができている。
【0066】
制御装置10によれば、車輪速センサ81からの検出信号に基づいて車両90の移動距離を推定して車両90に付与する制動力を制御することができる。すなわち、車輪速センサ81からの検出信号に基づいて算出される車両90の速度を用いることなく、制動力を制御することができる。制御装置10では、パルス一つ当たりの移動距離を用いて、パルスが発生する度に移動距離を積算することによって車輪基準距離Dを算出する。このように算出される車輪基準距離Dは、回転角を一階微分した値である速度、および二階微分した値である加速度と比較すると、実際の値に対する精度の低さを軽減できる。このため、車速を検出する精度が低い状況になったとしても、制動力を制御する精度に与える影響を軽減することができる。
【0067】
制御装置10では、車体速度VSが判定速度VSthよりも小さい場合にF/B制御を行うようにしている。車体速度VSを算出する精度が低くなる領域で、車輪基準距離Dと制動力基準距離とを用いたF/B制御を行うことによって、車体速度VSを算出する精度の低さを補うことができる。
【0068】
車両90が停止位置まで移動する距離は、カメラまたはレーダー等の装置によって検出することも考えられる。この点、制御装置10では、車輪91の回転に伴って車輪速センサ81によって取得できるパルスと、車輪91の径と、を用いて車輪基準距離Dを算出するようにしている。このため、制御装置10によれば、車両90がカメラまたはレーダー等の装置を備えていない場合でも、車両90が停止位置まで移動する距離を算出することができる。また、カメラを備えている車両であっても、たとえばカメラに雪等が付着している場合には車両が停止位置まで移動する距離を検出できないおそれがある。車輪速センサ81から取得できるパルスに基づいて車輪基準距離Dを算出する制御装置10によれば、カメラまたはレーダー等の装置を使用できない状況でも、車両90が停止位置まで移動する距離を算出することができる。
【0069】
続いて、図6を用いて、F/B制御中に車輪基準距離Dが許容範囲を超過する場合の例を説明する。図6の(a)に示すようにタイミングt21からペダルストロークBPが増大している。タイミングt22以降では、ペダルストロークBPが一定に維持されている。図6の(b)に示すようにタイミングt21からタイミングt26までの期間では、前後加速度ASが負の値となっている。また、制動力の付与に伴って、図6の(c)に示すように車体速度VSが時間の経過に伴って減少している。車体速度VSは、タイミングt23以降では判定速度VSthよりも小さくなっている。
【0070】
タイミングt23以降では、車体速度VSが判定速度VSthよりも小さくなっていることによって、フィードバック制御が実行されている(S106)。さらに、図6に示す例では、タイミングt23以降において停止前ブレーキ制御も実行されている。図6に示す例では、タイミングt26において車両90が停止する例を示している。
【0071】
図6の(d)に示すように、F/B制御が開始されるタイミングt23において、理想距離推移Diおよび許容範囲が算出されている(S104)。F/B制御が開始されるタイミングt23以降では、車輪基準距離Dが算出されている(S105)。理想距離推移Diは、タイミングt23以降で増大して、タイミングt25の時点で停止距離Dsに到達している。すなわち、タイミングt25の時点で車両90が停止位置に到達する制動プロファイルが設定されている。
【0072】
タイミングt24では、車輪基準距離Dが許容範囲における上限値Daaを超過している。このため、タイミングt24において異常が発生したと判定され(S107:NO)、縮退制御が実施されている(S109)。すなわち、タイミングt24以降では、停止前ブレーキ制御およびF/B制御が終了されている。図6の例では、タイミングt24の時点では、図6の(e)に破線で示すように目標制動力BFTを基準制動力よりも減少させる期間である。この期間に縮退制御が実施されることによって、実線で示すように目標制動力BFTの減少が中断されて目標制動力BFTが基準制動力に一致するようにされている。
【0073】
制御装置10によれば、車輪基準距離Dが許容範囲を超過したときに異常を検出することができる。図6に示した例のように車輪基準距離Dが上限値Daaを超える場合は、理想距離推移Diに従って車両90が走行している場合と比較して車両90が停止位置に近づきすぎていることを示す。すなわち、制動力が不足している可能性がある。制御装置10では、このように異常が発生した場合には、縮退制御の実施によって目標制動力BFTを基準制動力に一致させることができる。これによって、運転者が要求する制動力を確保することができ、制動力の不足を解消することができる。なお、図6の例では、理想距離推移Diにおける車両90が停止するタイミングt25を越えたタイミングt26において車両90が停止している。このとき、図6の(d)に実線で示すように、車両90が停止するまでの移動距離が停止距離Dsよりも長くなっている。
【0074】
図6の(b)に表示している破線は、停止前ブレーキ制御による制動プロファイルに従って制動力が付与されたと仮定した場合の前後加速度ASの推移を示している。実線で示す実際の前後加速度ASの値は、縮退制御が実施されるタイミングt24以降において破線で示す値とは大きく異なっている。停止前ブレーキ制御が終了されているため、車両90が停止する直前における前後加速度ASは、「0」に近づいていない。
【0075】
図6の(c)に表示している破線は、図6の(b)における破線と同様に、停止前ブレーキ制御による制動プロファイルに従って制動力が付与されたと仮定した場合の車体速度VSの推移を示している。実線で示す実際の車体速度VSの値は、破線で示す値とは異なる推移となっている。
【0076】
なお、制御装置10では、車輪基準距離Dが許容範囲における下限値Dabを超過する異常を検出することもできる。車輪基準距離Dが下限値Dabを超える場合は、理想距離推移Diに従って車両90が走行している場合と比較して停止位置までの距離が遠いことを示す。すなわち、制動力が過大となっている可能性がある。制動力が過大になる状況は、たとえば、図2におけるタイミングt1からタイミングt3までの期間のように基準制動力よりも目標制動力BFTを増加させている期間において発生することがある。制御装置10では、このように異常が発生した場合にも縮退制御を実施することができる。縮退制御の実施によって目標制動力BFTを基準制動力に一致させることで、過大に付与されている制動力を減少させることができる。
【0077】
制御装置10では、車輪基準距離Dが許容範囲を超過した場合に学習処理を行うことができる(S110)。これによって、車輪基準距離Dが許容範囲を超過した履歴を記憶することができる(S204)。また、類似性のある超過が繰り返し発生している場合には、学習補正値を算出することができる(S203)。
【0078】
類似性のある超過が繰り返し発生している場合には、車輪基準距離Dが理想距離推移Diから乖離する要因が外乱ではないおそれがある。たとえば、制動装置20に異常が発生しており目標制動力BFTと実際に発生している制動力とが異なっている等、他の影響によって乖離が生じているおそれがある。こうした場合に、F/B制御において学習補正値が用いられることによって、類似性のある超過の繰り返しを抑制することができる。すなわち、学習処理によれば、外乱以外の要因によって車輪基準距離Dが許容範囲を超過することを抑制できる。
【0079】
次に、図7を用いて、停止前ブレーキ制御の実行条件が成立していない場合にF/B制御が実行される例を説明する。
図7に示す例では、図7の(a)に示すようにタイミングt31からペダルストロークBPが増大している。タイミングt32以降では、ペダルストロークBPが一定に維持されている。ペダルストロークBPが増大することに伴って制動力が付与されるため、図7の(b)に示すようにタイミングt31からタイミングt34までの期間では、前後加速度ASが負の値となっている。また、制動力の付与に伴って、図7の(c)に示すように車体速度VSが時間の経過に伴って減少している。車体速度VSは、タイミングt33以降では判定速度VSthよりも小さくなっている。
【0080】
図7の(e)には、目標制動力BFTを実線で示している。また、タイミングt33以降では、F/B制御による調整が行われない場合の目標制動力BFTを破線で示している。図7に示す例では停止前ブレーキ制御が実行されていないため、破線で示す目標制動力BFTには、基準制動力の値が用いられている。
【0081】
タイミングt33以降では、車体速度VSが判定速度VSthよりも小さくなっていることによって、F/B制御が実行されている。図7に示す例では、タイミングt34において車両90が停止する例を示している。すなわち、タイミングt33における車両90の位置が開始位置に相当する。タイミングt34における車両90の位置が停止位置に相当する。
【0082】
図7の(d)には、理想距離推移Diを破線で表示している。下限値Dabおよび上限値Daaを二点鎖線で表示している。すなわち、二本の二点鎖線の内側が許容範囲を示している。さらに、図7の(d)には、車輪基準距離Dを実線で表示している。
【0083】
図7の(d)に示すように、理想距離推移Diは、F/B制御が開始されるタイミングt33の時点では「0」である。理想距離推移Diは、タイミングt33以降で増大して、タイミングt34の時点で停止距離Dsに到達している。理想距離推移Diは、ペダルストロークBPが一定であることから一定の傾きの直線として推移している。また、車輪基準距離Dは、F/B制御が開始されるタイミングt33の時点では、「0」である。
【0084】
制御装置10によれば、F/B制御の実行によって、図7の(d)および(e)に示すように、車輪基準距離Dが理想距離推移Diから乖離すると、実線で示す目標制動力BFTが破線で示す制動プロファイルの値に対して増減されて調整される。この結果として、車両90に付与される制動力が増減される。
【0085】
図7に示す例では、車輪基準距離Dが理想距離推移Diよりも大きい値になっている。これは、たとえば車両90が走行している路面が下り坂であること等によって車両90の前後加速度が正の値側に増加しているような状況である。ここで、仮にF/B制御が行われないとすると、車両90は停止位置を越えるおそれがある。
【0086】
この点、制御装置10によれば、F/B制御によって、車輪基準距離Dと理想距離推移Diとの差分を小さくするように目標制動力BFTを調整することができる。具体的には、図7に示す例では、図7の(e)に示すように、実線で示す目標制動力BFTが破線で示す基準制動力よりも大きくされる。これによって、車両90が停止するまでの移動距離を停止距離Dsに合わせることができる。すなわち、停止位置として算出された位置に車両90を停止させることができる。このように、制御装置10は、停止前ブレーキ制御が実行されない場合にもF/B制御を行うことができる。
【0087】
(変更例)
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0088】
・上記実施形態におけるステップS109の処理では、車輪基準距離Dが許容範囲を超過した場合、すなわち異常が発生していると判定した場合に縮退制御を実施する例を説明した。異常が発生した場合に実施する制御としては、これに限らない。たとえば、異常が発生した場合には、当該異常が発生する前の値よりも制動力を増加させるようにしてもよい。また、たとえば車輪91の回転がロックしていることに起因して車輪基準距離Dが許容範囲を超過しているような状況では、制動力を減少させることも考えられる。
【0089】
・上記実施形態では、車体速度VSが判定速度VSthよりも小さい場合、すなわち車体速度VSが微低速領域にある場合に、停止前ブレーキ制御およびF/B制御を実行する例を示した。F/B制御は、停止前ブレーキ制御に限らず、車体速度VSが微低速領域にある場合に実行される制御とともに実行することができる。
【0090】
・F/B制御は、車体速度VSが判定速度VSth以上である場合に実行してもよい。すなわち、車体速度VSが判定速度VSth以上である場合でも、車輪基準距離Dと制動力基準距離との差分が小さくなるように目標制動力BFTを調整してもよい。
【0091】
・上記実施形態では、ペダルストロークBP、すなわち制動操作部材92の操作量に基づいて基準制動力を算出する例について説明した。すなわち、運転者の操作によって車両90が制動されている場合を説明した。図3および図4に示した処理は、車両90が自動運転制御されている場合にも実施することができる。自動運転が行われている場合には、基準制動力は、自動運転制御装置によって算出することができる。また、この場合には、自動運転制御装置が目標制動力および制動プロファイルを算出するようにしてもよい。
【0092】
・上記実施形態では、車輪基準距離Dが許容範囲を超過した場合に学習処理を実施するように構成した。異常が発生した場合に学習処理を行うことは必須ではない。
・上記実施形態では、学習処理として学習補正値を算出する例を示した。学習処理としては、類似性のある超過が繰り返されるような状況ではF/B制御を禁止するような学習を行ってもよい。
【符号の説明】
【0093】
10…制御装置
11…制動制御部
12…第1距離算出部
13…第2距離算出部
14…異常判定部
15…学習部
20…制動装置
81…車輪速センサ
82…ブレーキセンサ
90…車両
91…車輪
92…制動操作部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7