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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】合成樹脂ステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20240509BHJP
   A61F 2/852 20130101ALI20240509BHJP
【FI】
A61F2/90
A61F2/852
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021509695
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014486
(87)【国際公開番号】W WO2020196911
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2019063126
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】山本 彩佳
(72)【発明者】
【氏名】福瀧 修司
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2018-0003877(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105997298(CN,A)
【文献】特開2017-047003(JP,A)
【文献】特開2017-169990(JP,A)
【文献】特表2010-521217(JP,A)
【文献】特開平10-272190(JP,A)
【文献】特表2015-513931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/90
A61F 2/852
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網目状に編み込まれて構成された複数の繊維からなる筒状の第1編み構成部と、前記第1編み構成部に編まれて配置され環状に構成された複数の繊維からなる第2編み構成部と、を備える合成樹脂ステントであって、
前記第1編み構成部は、軸方向における一端から他端に軸方向に対して所定角度傾斜して延びる複数の第1繊維と、前記第1繊維に対して交差して延びる複数の第2繊維と、前記複数の第1繊維と前記複数の第2繊維とが交差して構成された複数の第1交差点と、を有し、
前記第2編み構成部は、軸方向に離間して配置される波形状の複数の第3繊維と、軸方向に離間して配置される波形状の複数の第4繊維と、を有し、
前記複数の第1交差点のうち少なくとも1つの第1交差点は、前記第3繊維と前記第4繊維とに囲まれた交差領域に配置される合成樹脂ステント。
【請求項2】
前記交差領域は、前記第1編み構成部の周方向に並んで複数形成され、
前記第1交差点は、前記第1編み構成部の周方向に並んで複数形成され複数の前記交差領域それぞれに配置される請求項1に記載の合成樹脂ステント。
【請求項3】
前記第1交差点が前記交差領域に配置された構成において、
前記第3繊維は、前記交差領域が小さくなる方向への移動に対して、前記第1繊維、前記第2繊維及び前記第4繊維のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置され、
前記第4繊維は、前記交差領域が小さくなる方向への移動に対して、前記第1繊維、前記第2繊維及び前記第3繊維のうち一以上の繊維が引っ掛かることが可能な状態で配置される請求項1又は2に記載の合成樹脂ステント。
【請求項4】
前記第1交差点が前記交差領域に配置された構成を複数備え、
前記第3繊維と前記第4繊維とが、前記交差領域が小さくなる方向への移動に対して互いが引っ掛かることが可能な状態に配置され、かつ、該第3繊維及び該第4繊維の移動に対して前記第1繊維及び前記第2繊維に引っ掛らない状態で配置される構成を少なくとも一部に含んで構成される請求項3に記載の合成樹脂ステント。
【請求項5】
波形状の前記第3繊維及び/又は前記第4繊維における山部の頂部には、前記第1繊維、前記第2繊維、前記第3繊維及び第4繊維のいずれか1以上の繊維を囲むように配置されるループ状のループ部が形成される請求項1~4のいずれかに記載の合成樹脂ステント。
【請求項6】
前記第2編み構成部は、前記第1編み構成部よりも拡張力が高い合成樹脂製の繊維によって形成される請求項1~5のいずれかに記載の合成樹脂ステント。
【請求項7】
網目状に構成された1又は複数の繊維からなる筒状の第1編み構成部と、前記第1編み構成部に編まれて配置され環状に構成された1又は複数の繊維からなる第2編み構成部と、を備える合成樹脂ステントであって、
前記第1編み構成部は、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第1繊維と、前記第1繊維に対して交差する部分を有して配置され軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第2繊維と、前記複数の第1繊維と前記複数の第2繊維とが交差して構成された複数の第1交差領域と、を有し、
前記第2編み構成部は、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して周方向に延びる複数の第3繊維と、前記第3繊維に対して交差する部分を有して配置され軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して周方向に延びる複数の第4繊維と、前記複数の第3繊維と前記複数の第4繊維とが交差して構成された複数の第2交差領域と、を有し、
前記第1交差領域と前記第2交差領域とは、少なくとも一部が重なって配置される合成樹脂ステント。
【請求項8】
前記第1交差領域と前記第2交差領域とが重なって配置された構成において、
前記第1繊維は、前記第1交差領域が小さくなる方向への移動に対して、前記第3繊維及び前記第4繊維のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置され、
前記第2繊維は、前記第1交差領域が小さくなる方向への移動に対して、前記第3繊維及び前記第4繊維のうち一以上の繊維が引っ掛かることが可能な状態で配置される請求項7に記載の合成樹脂ステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ステント等の合成樹脂ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管や消化管等の生体管路の狭窄性疾患(腫瘍や炎症等)において、狭窄部にステントを留置して、狭窄部を拡張する治療が行われている。ステントとしては、例えば金属製や合成樹脂製のステントが知られている。これらの中でも、金属製のステントは体内から抜去する際に外科手術を必要とするため、患者に多大な負担がかかる。そのため、金属製のステントは、半永久的な留置や外科手術が計画されている悪性腫瘍等の症例に対して使用する場合に用途が限定される。こうした背景から、金属製ステントが使用できない症例に対して使用するステントとして、合成樹脂ステントとしての生分解性ステントが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
合成樹脂ステントは、自己拡張性、復元性、腸管等の消化管への密着性、消化管の蠕動運動に対する追従性において、金属ステントと比べて劣るため、合成樹脂ステントを金属ステントと同じ形状で作製した場合に、要求される性能を発揮できないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-160079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、ステントの端部の形状をフレア形状、即ちステントの端部径を中央部径よりも大きくすることにより、アンカー効果を持たせることが考えられる。しかしながら、生分解性ステントは、端部をフレア形状にしたとしても、金属製のステントと比べて強度が弱いため、フレア形状部分に径方向外側から圧力が加わった場合、その形状を保つことが難しく、アンカー効果を十分に発揮させることが困難である。
【0006】
また、生分解性ステントの径方向外側からの圧力に対する耐性を高めるため、生分解性ステントを構成する繊維を太くすることも考えられる。しかしながら、生分解性ステントを構成する繊維を太くすると、ステントを狭窄部に留置する際に用いられるデリバリーシステム等の細管状の部材への収納することが難しくなる。
【0007】
従って、本発明は、デリバリーシステム等の細管状の部材への収納性を確保しつつ、生体管路内の患部にステントを留置した後の位置ずれが起こりにくい合成樹脂ステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、網目状に編み込まれて構成された複数の繊維からなる筒状の第1編み構成部と、前記第1編み構成部に編まれて配置され環状に構成された複数の繊維からなる第2編み構成部と、を備える合成樹脂ステントであって、前記第1編み構成部は、軸方向に対して所定角度傾斜して延びる複数の第1繊維と、前記第1繊維に対して交差して延びる複数の第2繊維と、前記複数の第1繊維と前記複数の第2繊維とが交差して構成された複数の第1交差点と、を有し、前記第2編み構成部は、軸方向に離間して配置される波形状の複数の第3繊維と、軸方向に離間して配置される波形状の複数の第4繊維と、を有し、前記複数の第1交差点のうち少なくとも1つの第1交差点は、前記第3繊維と前記第4繊維とに囲まれた交差領域に配置される合成樹脂ステントに関する。
【0009】
また、前記交差領域は、前記第1編み構成部の周方向に並んで複数形成され、前記第1交差点は、前記第1編み構成部の周方向に並んで複数形成され複数の前記交差領域それぞれに配置されることが好ましい。
【0010】
また、前記第1交差点が前記交差領域に配置された構成において、前記第3繊維は、前記第3繊維と前記第4繊維との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、前記第1繊維、前記第2繊維及び前記第4繊維のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置され、前記第4繊維は、前記第3繊維と前記第4繊維との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、前記第1繊維、前記第2繊維及び前記第3繊維のうち一以上の繊維が引っ掛かることが可能な状態で配置されることが好ましい。
【0011】
また、前記第1交差点が前記交差領域に配置された構成を複数備え、前記第3繊維と前記第4繊維とが、前記第3繊維と前記第4繊維との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して互いが引っ掛かることが可能な状態に配置され、かつ、該第3繊維及び該第4繊維の移動に対して前記第1繊維及び前記第2繊維に引っ掛らない状態で配置される構成を少なくとも一部に含んで構成されることが好ましい。
【0012】
また、波形状の前記第3繊維及び/又は前記第4繊維における山部の頂部には、前記第1繊維、前記第2繊維、前記第3繊維及び第4繊維のいずれか1以上の繊維を囲むように配置されるループ状のループ部が形成されることが好ましい。
【0013】
また、前記第2編み構成部は、前記第1編み構成部よりも拡張力が高い合成樹脂製の繊維によって形成されることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、網目状に構成された1又は複数の繊維からなる筒状の第1編み構成部と、前記第1編み構成部に編まれて配置され環状に構成された1又は複数の繊維からなる第2編み構成部と、を備える合成樹脂ステントであって、前記第1編み構成部は、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第1繊維と、前記第1繊維に対して交差する部分を有して配置され軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第2繊維と、前記複数の第1繊維と前記複数の第2繊維とが交差して構成された複数の第1交差領域と、を有し、前記第2編み構成部は、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して周方向に延びる複数の第3繊維と、前記第3繊維に対して交差する部分を有して配置され軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第4繊維と、前記複数の第3繊維と前記複数の第4繊維とが交差して構成された複数の第2交差領域と、を有し、前記第1交差領域と前記第2交差領域とは、少なくとも一部が重なって配置される合成樹脂ステントに関する。
【0015】
また、前記第1交差領域と前記第2交差領域とが重なって配置された構成において、前記第1繊維は、前記第1繊維と前記第2繊維との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、前記第3繊維及び前記第4繊維のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置され、前記第2繊維は、前記第1繊維と前記第2繊維との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、前記第3繊維及び前記第4繊維のうち一以上の繊維が引っ掛かることが可能な状態で配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、デリバリーシステム等の細管状の部材への収納性を確保しつつ、生体管路内の患部にステントを留置した後の位置ずれが起こりにくい合成樹脂ステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る生分解性ステントを示す斜視図である。
図2図1に示す生分解性ステントの拡大図である。
図3】第2実施形態に係る生分解性ステントを示す図である。
図4】第3実施形態に係る生分解性ステントを示す図である。
図5】第4実施形態に係る生分解性ステントを示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る生分解性ステントを示す斜視図である。
図7図6に示す生分解性ステントの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の合成樹脂ステントの各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
<第1実施形態>
図1及び図2を参照して、第1実施形態に係る生分解性ステント1について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る生分解性ステント1を示す斜視図である。図2は、図1に示す生分解性ステント1の拡大図である。
【0020】
本実施形態の合成樹脂ステントは、生分解性繊維により構成される生分解性ステント1であり、図1及び図2に示すように、網目状筒状部2(第1編み構成部)と、網目状筒状部2に編まれて配置される波状編み部3(第2編み構成部)と、を備える。
【0021】
網目状筒状部2は、複数本の繊維20により網目状に編み込まれて円筒状に構成され、外周に繊維20によって形成されかつ規則正しく配列される菱形の空孔を多数有する。網目状筒状部2の網目は、生分解性ステント1が縮径した状態において、軸方向に粗となり、生分解性ステント1が拡径した状態において、軸方向に密となる。
【0022】
本実施形態においては、図2に示すように、網目状筒状部2を構成する複数本の繊維20は、複数の第1繊維21と複数の第2繊維22とにより構成されている。網目状筒状部2は、側方から視た場合に、第1繊維21と第2繊維22とにより菱形の空孔を多数有し、複数の第1繊維21と複数の第2繊維22とが交差して構成された複数の第1交差点23を有する。
【0023】
複数の第1繊維21は、軸方向に対して所定角度傾斜して延びる合成樹脂製の繊維によって形成される。本実施形態においては、図2に示すように、複数の第1繊維21は、右上側から左下側に向けて傾斜して延びて配置される。
【0024】
複数の第2繊維22は、複数の第1繊維21に対して交差して延びる合成樹脂製の繊維によって形成される。本実施形態においては、図2に示すように、複数の第2繊維22は、左上側から右下側に向けて傾斜して延びて配置される。
【0025】
第1繊維21及び第2繊維22の材質は、特に制限はないが、剛性に富む材料が好ましい。例えば生分解性樹脂であれば、L-乳酸、D-乳酸、DL乳酸、グリコール酸、ε-カプロラクトン、パラジオキサノンからなるホモポリマー、コポリマー、ブレンドポリマー等が挙げられる。なお、非生分解性樹脂であっても、剛性に富む材料であればよい。特に、第1繊維21及び第2繊維22を構成する繊維の材質として、例えば、ポリ乳酸(PLA)や、ポリL-乳酸(PLLA)が使用されることが好ましい。本実施形態においては、第1繊維21及び第2繊維22は、例えば、ポリ乳酸(PLA)により形成されている。
【0026】
繊維20として生分解性の繊維を用いる場合、その直径は、0.1~0.4mmであることが好ましい。生分解性の繊維20の直径が0.1mm未満であると、生分解性ステント1の強度が低下する傾向にある。生分解性の繊維20の直径が0.4mmを超えると、縮径した状態における径が大きくなることで、デリバリーシステム等の細管状の部材に生分解性ステント1を収納し難くなる傾向にある。生分解性の繊維20の直径の上限は、内径が細いデリバリーシステムに収納する観点から、0.3mmであることが更に好ましい。生分解性の繊維20の直径の下限は、高い強度を維持する観点から、0.2mmであることがより好ましい。本実施形態では、繊維20として、直径が0.2mm及び0.3mmの生分解性の繊維を用いた。
【0027】
波状編み部3は、図1に示すように、環状に構成された波形状の複数本の繊維30が網目状筒状部2に編まれて配置される。本実施形態においては、波状編み部3を構成する複数本の繊維30は、軸方向に離間して配置される複数の第3繊維31と、軸方向に離間して配置される複数の第4繊維32と、により構成されている。波状編み部3は、複数の第3繊維31と複数の第4繊維32とが交差して構成された複数の第2交差点33を有する。
【0028】
第3繊維31及び第4繊維32は、図2に示すように、山部及び谷部が交互に連続して網目状筒状部2の周方向に延びる波形状に形成される。第3繊維31と第4繊維32とは、互いの凸部分が向かい合うように、かつ、向かい合った凸部分の一部が重なるように配置される。
【0029】
より具体的には、第3繊維31及び第4繊維32は、いずれも、第1方向D1側に凸となる山部及び第2方向D2側に凸となる山部を有する波形状に形成されており、側方から視た場合に、互いの山部が一部重なり合って配置され、2つの第2交差点33において交差している。また、波状編み部3は、側方から視た場合に、交差領域34を有する。交差領域34は、第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分が重なり合う部分において、複数の第2交差点33のうち隣り合って配置される2つの第2交差点33の間における第3繊維31と第4繊維32とに囲まれた領域である。交差領域34は、筒状の網目状筒状部2の周方向に並んで複数形成される。
【0030】
第3繊維31及び第4繊維32を構成する合成樹脂製の繊維の材質は、特に制限はないが、復元性に富む材料が好ましい。例えば生分解性樹脂であれば、L-乳酸、D-乳酸、DL乳酸、グリコール酸、ε-カプロラクトン、パラジオキサノンからなるホモポリマー、コポリマー、ブレンドポリマー等が挙げられる。なお、非生分解性樹脂であっても、復元性に富む材料であればよい。第3繊維31及び第4繊維32の材質として、例えば、ポリジオキサノン(PDO)が使用されることが好ましい。
【0031】
繊維30として生分解性の繊維を用いる場合、その直径は、0.1~0.4mmであることが好ましい。本実施形態では、繊維30として、直径が0.15~0.22mmの生分解性の繊維を用いた。
【0032】
波状編み部3の複数の交差領域34には、網目状筒状部2を側方から視た場合に、それぞれ、網目状筒状部2の第1交差点23が配置される。第1交差点23は、複数の交差領域34に配置され、筒状の網目状筒状部2の周方向に並んで複数形成される。波状編み部3の交差領域34に網目状筒状部2の第1交差点23が配置された部分は、第1引っ掛かり部41を構成する。本実施形態の生分解性ステント1は、第1引っ掛かり部41を複数備えており、複数の第1引っ掛かり部41が周方向に並んで配置された列が、軸方向の全域に形成されている。
【0033】
第1引っ掛かり部41においては、第3繊維31は、第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分の重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第1繊維21、第2繊維22及び第4繊維32のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置される。また、第4繊維32は、第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分が重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第1繊維21、第2繊維22及び第3繊維31のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置される。
【0034】
本実施形態においては、波状編み部3を構成する第3繊維31及び第4繊維32は、網目状筒状部2を構成する第1繊維21及び第2繊維22よりも拡張力が高い合成樹脂製の繊維によって形成され、折れ曲がった部分が直線に戻ろうとする性質を有する。第3繊維31及び第4繊維32の少なくとも一部は、網目状筒状部2に編まれて配置されており、生分解性ステント1の径が広がる方向に力を働かせることができ、網目状筒状部2を縮径した状態から拡径した状態に変形させることが可能である。
【0035】
第1引っ掛かり部41の構成について説明する。なお、図2は、図1における筒状の生分解性ステント1の径方向を、図2の紙面に対して垂直な方向(紙面を貫く方向)に沿って配置した状態の図である。そのため、生分解性ステント1の径方向の内側は、図2における紙面の垂直方向における奥側であり、生分解性ステント1の径方向の外側は、図2の紙面の垂直方向における手前側である。
【0036】
図2に示すように、第1引っ掛かり部41においては、網目状筒状部2の第1繊維21及び第2繊維22は、第1交差点23においてX状に交差する。
【0037】
第3繊維31は、2つの第2交差点33のいずれにおいても、第4繊維32に対して、図2における手前側又は奥側(生分解性ステント1の径方向の外側又は内側)に配置されている。これにより、生分解性ステント1の第3繊維31及び第4繊維32は、互いの第1方向D1側又は第2方向D2側への移動に対して、互いが、引っ掛からない状態で配置されている。
【0038】
また、波状編み部3における第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分が重なり合う部分において、第3繊維31と第4繊維32とに囲まれた交差領域34には、第1繊維21及び第2繊維22の第1交差点23が配置されている。
【0039】
第1繊維21は、図2に示すように、交差領域34において、右上側から左下側に向けて傾斜して延びて配置される。第1繊維21は、右上側から左下側に向けて、第3繊維31及び第4繊維32のうちの一方の繊維の手前側を通り、第1交差点23において第2繊維22と交差し、第3繊維31及び第4繊維32のうちの他方の繊維の奥側を通っている。
第2繊維22は、図2に示すように、交差領域34において、左上側から右下側に向けて傾斜して延びて配置される。第2繊維22は、第3繊維31及び第4繊維32のうちの一方の繊維の手前側を通り、第1交差点23において第1繊維21と交差し、第3繊維31及び第4繊維32のうちの他方の繊維の奥側を通っている。
【0040】
以上のように第1繊維21、第2繊維22、第3繊維31及び第4繊維32が配置されることにより、第1引っ掛かり部41においては、第3繊維31及び第4繊維32のうちの第1方向D1側に山部が凸となる一方の繊維が、第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分が重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第1繊維21及び第2繊維22に引っ掛かることが可能な状態で配置されており、第3繊維31及び第4繊維32のうちの第1方向D1と反対側の第2方向D2側に山部が凸となる他方の繊維が、第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分が重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第1繊維21及び第2繊維22に引っ掛かることが可能な状態で配置されている。
【0041】
以上の生分解性ステント1を製造する場合には、波状編み部3を編んで、その後、網目状筒状部2を編むことで製造してもよいし、これとは逆に、網目状筒状部2を先に編んで、その後、波状編み部3を編むことで製造してもよい。生分解性ステント1を製造する場合、例えば、周面において所定の間隔で複数のピンが立設された筒状の治具を用いて、複数のピンに繊維を引っ掛けながら波状編み部3を編み、その後、波状編み部3の交差領域に、網目状筒状部2の繊維を通すことで、生分解性ステント1を製造することができる。
【0042】
以上のように構成される生分解性ステント1は、網目状筒状部2において、軸方向に対して傾斜した第1繊維21及び第2繊維22により筒状に編まれているため、ステントの形状が筒状に保たれている。
また、網目状筒状部2には、波形状の波状編み部3が編まれており、波状編み部3(第3繊維31及び第4繊維32)は、網目状筒状部2(第1繊維21及び第2繊維22)よりも拡張力が高い合成樹脂製の繊維によって形成され、折れ曲がった部分が直線に戻ろうとする性質を有する。そのため、波状編み部3が網目状筒状部2の周方向に一周するように波形状に編み込まれることで、波状編み部3により、生分解性ステント1の径が広がる方向に力を働かせることができ、拡張力を高めることができる。
よって、生分解性ステント1の径方向への拡張力が強化され、自己拡張性を発揮させることができる。また、消化管壁への密着性が高まり、消化管運動への追従性を発揮させることができる。
【0043】
以上説明した第1実施形態の生分解性ステント1によれば、以下のような効果を奏する。
【0044】
(1)生分解性ステント1を、網目状に編み込まれて構成された複数の繊維21,22からなる筒状の網目状筒状部2と、網目状筒状部2に編まれて配置され環状に構成された複数の繊維31,32からなる波状編み部3と、を備えて構成し、網目状筒状部2を、軸方向に対して所定角度傾斜して延びる複数の第1繊維21と、第1繊維21に交差して延びる複数の第2繊維22と、複数の第1繊維21と複数の第2繊維22とが交差して構成された複数の第1交差点23と、を有するように構成し、波状編み部3を、軸方向に離間して配置される波形状の複数の第3繊維31と、軸方向に離間して配置される波形状の複数の第4繊維32と、を有するように構成し、少なくとも1つの第1交差点23を、第3繊維31と第4繊維32とに囲まれた交差領域34に配置した。
【0045】
これにより、生分解性ステント1は、網目状筒状部2が、軸方向に対して傾斜した第1繊維21及び第2繊維22により筒状に編まれているため、ステントの形状が筒状に保たれる。また、網目状筒状部2には、波形状の波状編み部3が編まれており、網目状筒状部2の第1交差点23が、波状編み部3の交差領域34に配置されることで、波状編み部3により、径が広がる方向に力が働き、径方向への拡張力を高めることができる。よって、生分解性ステント1の径方向への拡張力が強化され、自己拡張性を発揮させることができる。また、消化管壁への密着性が高まり、消化管運動への追従性を発揮させることができる。従って、デリバリーシステム等の細管状の部材への収納性を確保しつつ、生体管路内の患部にステントを留置した後の位置ずれが起こりにくいステントとすることができる。
【0046】
(2)交差領域34を、筒状の網目状筒状部2の周方向に並んで複数形成し、第1交差点23を、筒状の網目状筒状部2の周方向に並んで複数形成し、複数の交差領域34それぞれに配置した。これにより、波状編み部3を周方向に沿って編み込むことができるため、生分解性ステント1の径方向への拡張力を一層強化することができる。
【0047】
(3)網目状筒状部2の第1交差点23が波状編み部3の交差領域34に配置された構成において、第3繊維31を、第3繊維31と第4繊維32との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第1繊維21、第2繊維22及び第4繊維32のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置し、第4繊維32を、第3繊維31と第4繊維32との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第1繊維21、第2繊維22及び第3繊維31のうち一以上の繊維が引っ掛かることが可能な状態で配置した。これにより、波状編み部3の第3繊維31及び第4繊維32には、いずれかの繊維に引っ掛かることで、第1交差点23がずれることを防止できる。
【0048】
(4)波状編み部3(第3繊維31及び第4繊維32)を、網目状筒状部2(第1繊維21及び第2繊維22)よりも拡張力が高い合成樹脂製の繊維によって形成した。これにより、第1繊維21及び第2繊維22により形成された筒状の網目状筒状部2が形成され、第3繊維31及び第4繊維32により第1繊維21及び第2繊維22を径方向に拡張させることができるため、径方向への拡張力を一層高めることができる。
【0049】
<第2実施形態>
第2実施形態の生分解性ステント1Aについて説明する。図3は、第2実施形態に係る生分解性ステント1Aを示す図である。
図3に示すように、第2実施形態の生分解性ステント1Aは、第1引っ掛かり部41(図3における左側)と、第2引っ掛かり部42(図3における右側)と、を有して構成される。生分解性ステント1Aは、複数の第1引っ掛かり部41及び複数の第2引っ掛かり部42が、周方向において交互に螺旋状に配置される。
【0050】
図3に示す第1引っ掛かり部41の構成は、第1実施形態で説明した第1引っ掛かり部41と同様の構成であるため、その説明を省略する。
【0051】
第2引っ掛かり部42の構成について説明する。
図3に示すように、第2引っ掛かり部42においても、第1実施形態の第1引っ掛かり部41と同様に、網目状筒状部2の第1繊維21及び第2繊維22は、第1交差点23においてX状に交差する。
【0052】
第2引っ掛かり部42において、第3繊維31は、2つの第2交差点33における一方の第2交差点33(図3における左側)において、第4繊維32の手前側に配置されており、他方の第2交差点33(図3における右側)において、第4繊維32の奥側に配置されている。これにより、第3繊維31及び第4繊維32は、第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分が重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、互いが引っ掛かることが可能な状態で配置されている。
【0053】
また、波状編み部3の第3繊維31と第4繊維32とに囲まれた交差領域34には、第1繊維21及び第2繊維22の第1交差点23が配置されている。
【0054】
第1繊維21は、図3に示すように、交差領域34において、右上側から左下側に向けて傾斜して延びて配置され、右上側から左下側に向けて、第4繊維32の奥側を通り、第1交差点23において第2繊維22と交差し、第3繊維31の奥側を通っている。
第2繊維22は、図3に示すように、交差領域34において、左上側から右下側に向けて傾斜して延びて配置され、左上側から右下側に向けて、第4繊維32の奥側を通り、第1交差点23において第1繊維21と交差し、第3繊維31の奥側を通っている。
つまり、第2引っ掛かり部42においては、第1繊維21及び第2繊維22の全体が、第3繊維31及び第4繊維32の奥側に配置されることで、第3繊維31及び第4繊維32の全体が、第1繊維21及び第2繊維22の手前側に配置されている。
【0055】
以上のように第1繊維21、第2繊維22、第3繊維31及び第4繊維32が配置されることにより、第2引っ掛かり部42においては、第3繊維31及び第4繊維32は、第3繊維31と第4繊維32との互いの凸部分が重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、互いが引っ掛かることが可能な状態で配置されており、更に、第3繊維31及び第4繊維32の全体が第1繊維21及び第2繊維22の手前側に配置されており、第3繊維31及び第4繊維32は、第3繊維31及び第4繊維32の第1方向D1側又は第2方向D2側への移動に対して、第1繊維21及び第2繊維22に引っ掛からない状態で配置されている。
【0056】
以上説明した第2実施形態の生分解性ステント1Aによれば、前述した(1)~(4)の効果に加え、以下の効果を奏する。
(5)網目状筒状部2の第1交差点23が波状編み部3の交差領域34に配置された構成を複数備え、第3繊維31及び第4繊維32を、第3繊維31と第4繊維32との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、互いが引っ掛かることが可能な状態に配置し、かつ、第3繊維31及び第4繊維32の移動に対して、第1繊維21及び第2繊維22に引っ掛らない状態で配置される構成を含んで構成した。これにより、第3繊維31及び/又は第4繊維32を、第1繊維21及び第2繊維22に引っ掛らない状態で配置することで、生分解性ステント1Aが伸展する際に、軸方向の長さが制限されにくくなるため、デリバリーシステムへの収納性を向上できる。
【0057】
<第3実施形態>
第3実施形態の生分解性ステント1Bについて説明する。図4は、第3実施形態に係る生分解性ステント1Bを示す図である。
第3実施形態の生分解性ステント1Bは、第1実施形態の生分解性ステント1と比べて、網目状筒状部2(第1編み構成部)に編み込む波形状の波状編み部3(第2編み構成部)において、複数の第1引っ掛かり部41が周方向に並んで配置された列を、生分解性ステント1Aの軸方向に詰めて配置するのではなく、一段間隔を空けて離間して配置したものである。
【0058】
図4に示すように、波状編み部3は、複数の第1交差点23を有する網目状筒状部2の軸方向において、複数の第1引っ掛かり部41が周方向に並んで配置された列と、第1引っ掛かり部41が形成されない列と、を有して構成される。複数の第1引っ掛かり部41が周方向に並んで配置された列において、第1引っ掛かり部41における波状編み部3の交差領域34には、第1交差点23が配置される。第1引っ掛かり部41が形成されない列には、複数の第1交差点23が周方向に並んで配置される。
【0059】
以上説明した第3実施形態の生分解性ステント1Bによれば、前述した(1)~(5)の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0060】
(6)複数の第1引っ掛かり部41が周方向に並んで配置された列を、軸方向において一段間隔を空けて離間して配置した。これにより、生分解性ステント1Bの軸方向に詰めて配置するのではなく、軸方向の一部に第1引っ掛かり部41が形成されない列を設けることで、生分解性ステント1Bが伸展する際に、第3繊維31及び第4繊維32によって、軸方向の長さが制限されにくくなるため、デリバリーシステムへの収納性を向上できる。
【0061】
<第4実施形態>
第4実施形態の生分解性ステント1Cについて説明する。図5は、第4実施形態に係る生分解性ステント1Cを示す図である。
【0062】
図5に示すように、第4実施形態の生分解性ステント1Cにおいて、波形状の第4繊維32における山部の頂部には、複数のループ部35が形成される。ループ部35は、網目状筒状部2の第1交差点23が波状編み部3の交差領域34に配置された構成において、第1繊維21、第2繊維22、第3繊維31及び第4繊維32を囲むループ状に形成される。
【0063】
なお、複数のループ部35は、波形状の第4繊維32における山部の頂部に連続して複数設けてもよいし、波形状の第4繊維32における複数の山部の頂部において間欠的に設けてもよい。また、ループ部35を、第1繊維21、第2繊維22、第3繊維31及び第4繊維32の全部を囲むように構成しなくてもよく、第1繊維21、第2繊維22、第3繊維31及び第4繊維32の一部のみを囲むように構成してもよい。
【0064】
以上説明した第4実施形態の生分解性ステント1Cによれば、前述した(1)~(6)の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0065】
(7)波形状の第3繊維31及び/又は第4繊維32における山部の頂部にループ部35を設けた。ここで、例えば、波状編み部3の山部の頂部にループ部35が無い場合には、波状編み部3における波形状の第3繊維31及び第4繊維32は、径方向への拡張力のみが働くため、生分解性ステント1Cの径の大きさを制御することが難しい。これに対して、本発明においては、ループ部35により径方向への収縮力が働かせることができるため、生分解性ステント1Cの径の大きさを制御することができる。
【0066】
<第5実施形態>
図6及び図7を参照して、第5実施形態に係る生分解性ステント110について説明する。図6は、本発明の第5実施形態に係る生分解性ステント110を示す斜視図である。図7は、図6に示す生分解性ステント110の拡大図である。なお、図7において、生分解性ステント110において、軸方向の一方側を第1方向D1といい、軸方向の他方側を第2方向D2という。生分解性ステント110において、周方向の一方側を第3方向D3(図7の左側)といい、周方向の他方側を第4方向D4(図7の右側)という。
【0067】
本実施形態の合成樹脂ステントは、生分解性繊維により構成される生分解性ステント110であり、図6及び図7に示すように、第1屈曲状編み部200(第1編み構成部)と、第1屈曲状編み部200に編まれて配置される第2屈曲状編み部300(第2編み構成部)と、を備える。
【0068】
第1屈曲状編み部200は、網目状に構成され、繊維220により繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の繊維が周方向に並んで筒状に形成される。本実施形態においては、図7に示すように、第1屈曲状編み部200を構成する繊維220は、複数の第1繊維221と複数の第2繊維222とにより構成されている。
【0069】
複数の第1繊維221は、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる合成樹脂製の繊維によって形成される。複数の第1繊維221は、第1屈曲状編み部200の周方向において所定幅の範囲を往復するように繰り返し屈曲して軸方向に延びる。
【0070】
複数の第2繊維222は、複数の第1繊維221に対して交差する部分を有して配置され繰り返して往復するように屈曲して軸方向に延びる合成樹脂製の繊維によって形成される。複数の第2繊維222は、第1屈曲状編み部200の周方向において所定幅の範囲を往復するように繰り返し屈曲して軸方向に延びる。
【0071】
本実施形態においては、複数の第1繊維221及び複数の第2繊維222は、1本の繊維で構成され、第1屈曲状編み部200の軸方向の上端部及び下端部で折り返されて形成されている。複数の第1繊維221及び複数の第2繊維222は、1本の繊維の一部である。言い換えると、第1屈曲状編み部200の周方向に、第1繊維221と第2繊維222とが交互に配置される。なお、第1屈曲状編み部200を複数本の繊維により構成してもよい。
【0072】
より具体的には、第1繊維221及び第2繊維222は、図7に示すように、いずれも、第3方向D3側に凸となる山部及び第4方向D4側に凸となる山部を有する複数の屈曲部を備えて形成されている。第1繊維221及び第2繊維222は、側方から視た場合に、互いの屈曲部が重なり合うように配置され、第1交差領域223において交差している。第1繊維221及び第2繊維222は、第1交差領域223において、第1繊維221及び第2繊維222により囲まれる領域が略菱形に開口して形成されている。
【0073】
第1交差領域223においては、第1繊維221及び第2繊維222が、側方から視た場合に重なり合うように配置されていればよく、互いが引っ掛かっていてもよいし、互いが引っ掛かっていなくてもよい。本実施形態においては、第1繊維221及び第2繊維222は、生分解性ステント110の軸方向の上端部及び下端部では、互いの屈曲部が引っ掛かっており、生分解性ステント110の軸方向の上端部及び下端部を除いた部分では、互いの屈曲部が引っ掛かっていない。第1交差領域223は、第1屈曲状編み部200の軸方向及び周方向に並んで配置される。
【0074】
なお、第1交差領域223は、第1繊維221及び第2繊維222により囲まれる領域が開口して形成されている。しかし、第1交差領域223の開口の大きさは、これに限定されない。また、第1交差領域223は、第1繊維221及び第2繊維222が重なり合う部分が小さくなる方向に引っ張り合って、第1繊維221及び第2繊維222が互いに引っ掛かることで、第1繊維221及び第2繊維222により囲まれる領域が開口していなくてもよい。
【0075】
第1繊維221及び第2繊維222の材質は、特に制限はないが、剛性に富む材料が好ましい。例えば生分解性樹脂であれば、L-乳酸、D-乳酸、DL乳酸、グリコール酸、ε-カプロラクトン、パラジオキサノンからなるホモポリマー、コポリマー、ブレンドポリマー等が挙げられる。なお、非生分解性樹脂であっても、剛性に富む材料であればよい。特に、第1繊維221及び第2繊維222を構成する繊維の材質として、例えば、ポリ乳酸(PLA)や、ポリL-乳酸(PLLA)が使用されることが好ましい。本実施形態においては、第1繊維221及び第2繊維222は、例えば、ポリ乳酸(PLA)により形成されている。
【0076】
繊維220として生分解性の繊維を用いる場合、その直径は、0.1~0.4mmであることが好ましい。生分解性の繊維220の直径が0.1mm未満であると、生分解性ステント110の強度が低下する傾向にある。生分解性の繊維20の直径が0.4mmを超えると、縮径した状態における径が大きくなることで、デリバリーシステム等の細管状の部材に生分解性ステント110を収納し難くなる傾向にある。生分解性の繊維20の直径の上限は、内径が細いデリバリーシステムに収納する観点から、0.3mmであることが更に好ましい。生分解性の繊維220の直径の下限は、高い強度を維持する観点から、0.2mmであることがより好ましい。本実施形態では、繊維220として、直径が0.2mm及び0.3mmの生分解性の繊維を用いた。
【0077】
第2屈曲状編み部300は、図6及び図7に示すように、繊維230により繰り返し屈曲して周方向に延びる環状に構成された複数の繊維が軸方向に並んで第1屈曲状編み部200に編まれて配置される。本実施形態においては、図7に示すように、第2屈曲状編み部300を構成する繊維230は、複数の第3繊維231と複数の第4繊維232とにより構成されている。
【0078】
複数の第3繊維231は、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して周方向に延びる合成樹脂製の繊維によって形成される。複数の第3繊維231は、第2屈曲状編み部300の軸方向において所定幅の範囲を往復するように繰り返し屈曲して周方向に延びる。
【0079】
複数の第4繊維232は、複数の第3繊維231に対して交差する部分を有して配置され繰り返し屈曲して周方向に延びる合成樹脂製の繊維によって形成される。複数の第4繊維232は、第2屈曲状編み部300の軸方向において所定幅の範囲を往復するように繰り返し屈曲して周方向に延びる。
【0080】
より具体的には、第3繊維231及び第4繊維232は、いずれも、第1方向D1側に凸となる山部及び第2方向D2側に凸となる山部を有する複数の屈曲部を備えて形成されている。第3繊維231及び第4繊維232は、側方から視た場合に、互いの屈曲部が重なり合うように配置され、第2交差領域233において交差している。第2交差領域233においては、第3繊維231及び第4繊維232が、側方から視た場合に重なり合うように配置されていればよく、互いが引っ掛かっていてもよいし、互いが引っ掛かっていなくてもよい。本実施形態においては、第3繊維231及び第4繊維232は、第2交差領域233において、互いの屈曲部が引っ掛かっており、第3繊維231及び第4繊維232により囲まれる領域は開口していない。第2交差領域233は、第2屈曲状編み部300の軸方向及び周方向に並んで配置される。
【0081】
なお、第3繊維231及び第4繊維232の互いの屈曲部が引っ掛かっており、第2交差領域233において、第3繊維231及び第4繊維232により囲まれる領域は開口していないが、これに限定されない。第2交差領域233は、第3繊維231及び第4繊維232により囲まれる領域が開口していてもよく、第2交差領域233の開口の大きさは限定されない。
【0082】
複数の第3繊維231及び複数の第4繊維232のうち、生分解性ステント110の上端部又は下端部に配置される第3繊維231又は第4繊維232は、第1屈曲状編み部200の第1繊維221又は第2繊維222に沿って巻き付けられるように絡められて配置されている。
【0083】
第3繊維231及び第4繊維232を構成する合成樹脂製の繊維の材質は、特に制限はないが、復元性に富む材料が好ましい。例えば生分解性樹脂であれば、L-乳酸、D-乳酸、DL乳酸、グリコール酸、ε-カプロラクトン、パラジオキサノンからなるホモポリマー、コポリマー、ブレンドポリマー等が挙げられる。なお、非生分解性樹脂であっても、復元性に富む材料であればよい。第3繊維231及び第4繊維232の材質として、例えば、ポリジオキサノン(PDO)が使用されることが好ましい。
【0084】
繊維230として生分解性の繊維を用いる場合、その直径は、0.1~0.4mmであることが好ましい。本実施形態では、繊維230として、直径が0.15~0.22mmの生分解性の繊維を用いた。
【0085】
第1屈曲状編み部200の第1交差領域223と第2屈曲状編み部300の第2交差領域233とは、生分解性ステント110を側方から視た場合に、少なくとも一部が重なって配置される。第2屈曲状編み部300の第2交差領域233と第1屈曲状編み部200の第2交差領域233とにおける少なくとも一部が重なって配置された部分は、引っ掛かり部241を構成する。本実施形態の生分解性ステント110は、引っ掛かり部241を複数備えており、複数の引っ掛かり部241が周方向に並んで配置された列が、軸方向の全域に形成されている。
【0086】
引っ掛かり部241の構成について説明する。なお、図7は、図6における筒状の生分解性ステント110の径方向を、図7の紙面に対して垂直な方向(紙面を貫く方向)に沿って配置した状態の図である。そのため、生分解性ステント110の径方向の内側は、図7における紙面の垂直方向における奥側であり、生分解性ステント110の径方向の外側は、図7の紙面の垂直方向における手前側である。また、生分解性ステント110の軸方向の上端部及び下端部には、繊維が解れないように編まれている部分もある。ここで、本実施形態における引っ掛かり部241の説明においては、生分解性ステント110の軸方向の上端部及び下端部を除いた部分について説明する。
【0087】
図7に示すように、引っ掛かり部241において、第1繊維221と第2繊維222とにより囲まれた第1交差領域223には、第3繊維231と第4繊維232との第2交差領域233が配置されている。
【0088】
引っ掛かり部241に配置される第1交差領域223おいて、第1屈曲状編み部200の第1繊維221及び第2繊維222は、第3方向D3側に凸となる屈曲部と第4方向D4側に凸となる屈曲部とが互いに重なり合って開口を有して配置される。
【0089】
引っ掛かり部241に配置される第2交差領域233において、第2屈曲状編み部300の第3繊維231及び第4繊維232は、第1方向D1側に凸となる屈曲部と第2方向D2側に凸となる屈曲部とが互いに引っ掛かった状態で配置されている。
【0090】
引っ掛かり部241において、図7に示すように、第1屈曲状編み部200の第1繊維221及び第2繊維222における第3方向D3側に凸となる屈曲部は、凸の頂点側(第3方向D3側)において、第3繊維231及び第4繊維232の奥側を通っており、凸の開放側(第4方向D4側)において、第3繊維231及び第4繊維232の手前側を通っている。また。第1繊維221及び第2繊維222における第4方向D4側に凸となる屈曲部は、凸の頂点側(第4方向D4側)において、第3繊維231及び第4繊維232の手前側を通っており、凸の開放側(第3方向D3側)において、第3繊維231及び第4繊維232の手前側を通っている。第1繊維221及び第2繊維222は、第3方向D3側に凸となる屈曲部が、第4方向D4側に凸となる屈曲部の手前側を通っている。
【0091】
以上のように第1繊維221、第2繊維222、第3繊維231及び第4繊維232が配置されることにより、引っ掛かり部241においては、第1繊維221は、第1繊維221と第2繊維222との互いの凸部分が重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第3繊維231及び第4繊維232に引っ掛かることが可能な状態で配置されており、第2繊維222は、第1繊維221と第2繊維222との互いの凸部分が重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第3繊維231及び第4繊維232に引っ掛かることが可能な状態で配置されている。
【0092】
以上の生分解性ステント110を製造する場合には、第2屈曲状編み部300を形成して、その後、第1屈曲状編み部200を形成することで製造してもよいし、これとは逆に、第1屈曲状編み部200を先に形成して、その後、第2屈曲状編み部300を形成することで製造してもよい。
【0093】
以上のように構成される生分解性ステント110は、第1屈曲状編み部200において、軸方向に対して傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる第1繊維221及び第2繊維222により筒状に形成されているため、ステントの形状が筒状に保たれている。
また、第1屈曲状編み部200には、第2屈曲状編み部300が編まれており、第2屈曲状編み部300(第3繊維231及び第4繊維232)は、第1屈曲状編み部200(第1繊維221及び第2繊維222)よりも拡張力が高い合成樹脂製の繊維によって形成され、折れ曲がった部分が直線に戻ろうとする性質を有する。そのため、第2屈曲状編み部300が第1屈曲状編み部200の周方向に一周するように繰り返し屈曲して編み込まれることで、第2屈曲状編み部300により、生分解性ステント110の径が広がる方向に力を働かせることができ、拡張力を高めることができる。
よって、生分解性ステント110の径方向への拡張力が強化され、自己拡張性を発揮させることができる。また、消化管壁への密着性が高まり、消化管運動への追従性を発揮させることができる。
【0094】
以上説明した第5実施形態の生分解性ステント110によれば、以下のような効果を奏する。
【0095】
(8)生分解性ステント110を、網目状に構成された1又は複数の繊維からなる筒状の第1屈曲状編み部200と、第1屈曲状編み部200に編まれて配置され環状に構成された1又は複数の繊維からなる第2屈曲状編み部300と、を備えて構成し、第1屈曲状編み部200を、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第1繊維221と、第1繊維221に対して交差する部分を有して配置され軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第2繊維222と、複数の第1繊維221と複数の第2繊維222とが交差して構成された複数の第1交差領域223と、を有するように構成し、第2屈曲状編み部300を、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して周方向に延びる複数の第3繊維231と、第3繊維231に対して交差する部分を有して配置され軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる複数の第4繊維232と、複数の第3繊維231と複数の第4繊維232とが交差して構成された複数の第2交差領域233と、を有するように構成し、第1交差領域223と第2交差領域233とを、少なくとも一部が重なって配置されるように構成した。
【0096】
これにより、生分解性ステント110は、第1屈曲状編み部200が、軸方向に対して所定角度傾斜して繰り返し屈曲して軸方向に延びる第1繊維221及び第2繊維222により筒状に形成されているため、ステントの形状が筒状に保たれる。また、第1屈曲状編み部200には、第2屈曲状編み部300が編まれており、第1屈曲状編み部200の第1交差領域223と第2屈曲状編み部300の第2交差領域233とを、少なくとも一部が重なって配置されるように構成することで、第2屈曲状編み部300により、径が広がる方向に力が働き、径方向への拡張力を高めることができる。よって、生分解性ステント110の径方向への拡張力が強化され、自己拡張性を発揮させることができる。また、消化管壁への密着性が高まり、消化管運動への追従性を発揮させることができる。従って、デリバリーシステム等の細管状の部材への収納性を確保しつつ、生体管路内の患部にステントを留置した後の位置ずれが起こりにくいステントとすることができる。
【0097】
(9)第1屈曲状編み部200の第1交差領域223と第2屈曲状編み部300の第2交差領域233とが重なって配置された構成において、第1繊維221を、第1繊維221と第2繊維222との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第3繊維231及び第4繊維232のうち一以上の繊維に引っ掛かることが可能な状態で配置し、第2繊維222を、第1繊維221と第2繊維222との重なり合う部分が小さくなる方向への移動に対して、第3繊維231及び第4繊維232のうち一以上の繊維が引っ掛かることが可能な状態で配置した。これにより、第1屈曲状編み部200の第1繊維221及び第2繊維222には、第3繊維231及び第4繊維232いずれかの繊維に引っ掛かることで、第1交差領域223と第2交差領域233がずれることを防止できる。
【0098】
以上の第1実施形態~第4実施形態の生分解性ステントの製作例及び実施例について簡単に説明する。
本製作例においては、第2実施形態の生分解性ステント1A(図3参照)及び第3実施形態の生分解性ステント1B(図4参照)について、PLAファイバーによる組み編みは、編み本数6本(ファイバー径0.2mmが3本、ファイバー径0.3mmが3本)とし、PDOファイバーによる波形状はファイバー径0.15~0.22mmで作製する。
また、第4実施形態の生分解性ステント1C(図5参照)について、PLAファイバーによる組み編みは、編み本数6本(ファイバー径0.2mm)とし、PDOファイバーによる波形状はファイバー径0.30~0.349mm、ループ形状はファイバー径0.15~0.22mmで作製する。
以上の生分解性ステント1A,1B,1Cは、波形状に編まれているPDOファイバーに、PLAファイバーを巻き付けるように編むことで、ステントの形状が崩れにくくなる。
【0099】
上記の条件で生分解性ステント1A,1B,1Cを作製することにより、小腸用のデリバリーシステム(φ2.8mm)に収納可能なステントを実現することができる。また、他の消化管に使用する場合には、デリバリーシステムの径が大きくなるため、ファイバー径を太くすることも可能であり、それにより更に強度の高いステントの作製が期待される。また、ファイバー径やステントの径及び長さは任意のものとする。
【0100】
このように製作した生分解性ステント1A,1Cを用いて以下の実験を行った。
自社で作製した蠕動運動を再現した治具を使用して、ステントの移動試験を行った。今回使用した治具は、腸管を模したチューブの中にステントを入れ、蠕動により腸管がφ10mmに収縮すると想定して10mm穴径治具でチューブを10回しごくことによって蠕動運動を模擬した。
【0101】
蠕動運動における腸管径が、拡張時φ17mm、収縮時φ10mmとした腸管モデルにおいて、第2実施形態の生分解性ステント1A(ステント長55mm)は35mm移動した。
蠕動運動における腸管径が、拡張時φ12mm、収縮時φ10mmとした腸管モデルにおいて、第4実施形態の生分解性ステント1C(ステント長36mm)は10mm移動した。同じ腸管モデルにおいて、金属ステント(ステント長110mm)は40mm移動したことから、第2実施形態及び第4実施形態の生分解性ステント1A,1Cが腸管への追従性を有することが示唆された。
【0102】
以上、本発明の合成樹脂ステントの好ましい一実施形態につき説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0103】
例えば、前記実施形態では、合成樹脂ステントとして、生分解性の繊維により構成した生分解性ステントを用いたがこれに限らない。即ち、生分解性を有さない合成樹脂繊維を用いてステントを構成してもよい。
【0104】
また、前記第1実施形態では、複数の第1引っ掛かり部41を、生分解性ステント1の全体に設けた。また、前記第2実施形態においては、第1引っ掛かり部41及び第2引っ掛かり部42を交互に設けた。また、前記第3実施形態においては、複数の第1引っ掛かり部41を周方向に並べて配置した。しかし、前記実施形態に限定されず、第1引っ掛かり部41及び/又は第2引っ掛かり部42を、生分解性ステントの全体に設けなくてもよく、生分解性ステントの一部に設けるように構成してもよい。
【0105】
また、前記実施形態では、ループ部35を、波形状の第4繊維32における山部の頂部に設けたが、これに限定されず、波形状の第3繊維31における山部の頂部に設けてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1,1A,1B,1C、110 生分解性ステント(合成樹脂ステント)
2 網目状筒状部(第1編み構成部)
3 波状編み部(第2編み構成部)
21 第1繊維
22 第2繊維
23 第1交差点
31 第3繊維
32 第4繊維
33 第2交差点
34 交差領域
35 ループ部
200 第1屈曲状編み部(第1編み構成部)
300 第2屈曲状編み部(第2編み構成部)
221 第1繊維
222 第2繊維
223 第1交差領域
231 第3繊維
232 第4繊維
233 第2交差領域
241 引っ掛かり部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7