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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-08
(45)【発行日】2024-05-16
(54)【発明の名称】ポリ乳酸固体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/04 20060101AFI20240509BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20240509BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240509BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240509BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240509BHJP
【FI】
C08L67/04 ZBP
C08K3/105
C08K3/26
C08J3/20 Z CFD
C08L101/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021512099
(86)(22)【出願日】2020-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2020014453
(87)【国際公開番号】W WO2020203946
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019067688
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】片山 傳喜
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成志
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸樹
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/068742(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/099017(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
C08J 3/00 - 3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量が40,000以下の範囲にあるポリ乳酸と、低分子量化促進剤の残留分であるアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物とを含み、該塩基性化合物を0.5~20質量%の範囲で含んでおり、
レーザ回折散乱法により測定した平均粒径(D50)が10μm以下の範囲にある粒状形態を有していることを特徴とするポリ乳酸固体組成物。
【請求項2】
GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量が40,000以下の範囲にあるポリ乳酸と、低分子量化促進剤の残留分であるアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物とを含み、該塩基性化合物を0.5~20質量%の範囲で含んでおり、
ポリマー成分として、前記ポリ乳酸のみを含んでいることを特徴とするポリ乳酸固体組成物。
【請求項3】
前記ポリ乳酸の重量平均分子量が12,000~40,000の範囲にある請求項1又は2に記載のポリ乳酸固体組成物。
【請求項4】
10μm以下のメッシュパス粒径を有している請求項1に記載のポリ乳酸固体組成物。
【請求項5】
前記塩基性化合物が炭酸ナトリウムである請求項1又は2に記載のポリ乳酸固体組成物。
【請求項6】
袋詰めされている請求項1又は2に記載のポリ乳酸固体組成物。
【請求項7】
GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量が150,000以上の高分子量ポリ乳酸を用意し、
前記高分子量ポリ乳酸とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物とを溶融混練することにより、該高分子量ポリ乳酸の重量平均分子量を40,000以下に低下させるポリ乳酸固体組成物の製造方法であって、
前記ポリ乳酸固体組成物が、レーザ回折散乱法により測定した平均粒径(D50)が10μm以下の範囲にある粒状形態を有しており、
前記溶融混練を、常圧下、220~250℃の温度で行うことを特徴とするポリ乳酸固体組成物の製造方法。
【請求項8】
GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量が150,000以上の高分子量ポリ乳酸を用意し、
前記高分子量ポリ乳酸とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物とを溶融混練することにより、該高分子量ポリ乳酸の重量平均分子量を40,000以下に低下させたポリ乳酸とするポリ乳酸固体組成物の製造方法であって、
ポリマー成分として、前記ポリ乳酸のみを含んでおり、
前記溶融混練を、常圧下、220~250℃の温度で行うことを特徴とするポリ乳酸固体組成物の製造方法。
【請求項9】
前記溶融混を、押出機を用いて行う請求項7又は8に記載のポリ乳酸固体組成物の製造方法。
【請求項10】
前記塩基性化合物を、前記高分子量ポリ乳酸100質量部当り1~30質量部の範囲で使用する請求項7又は8に記載のポリ乳酸固体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸固体組成物及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、粉砕性が高められ、低分子量のポリ乳酸をポリマー成分として含み、微細な粒状物として使用可能なポリ乳酸固体組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は、環境に優しい生分解性樹脂として知られており、種々の用途で使用されている。
最近では、微生物を活用した土壌浄化法(バイオレメディエーションと呼ばれる)にポリ乳酸を利用することも提案されている。ポリ乳酸が加水分解して生成する乳酸は、微生物の栄養源となるため、ポリ乳酸を散布して土壌に浸透させることにより、微生物の繁殖や活動を促進することができるというものである。
【0003】
例えば、特許文献1では、固体状態であり且つ重量平均分子量が12,000以下のポリ乳酸系樹脂が開示されており、このような低分子量のポリ乳酸系樹脂を栄養剤として使用することが提案されている。即ち、このポリ乳酸系樹脂は、液状とならない程度の分子量を有しているため、袋詰めにすることができ、運搬性に優れ、また作業性にも優れているばかりか、低分子量化されているため、乳酸の徐放性も高く、酵素の栄養源としての性能が高い。
【0004】
ところで、上記のような用途に使用される低分子量のポリ乳酸系樹脂は、高分子量のポリ乳酸を、オートクレーブを用いて高圧下で加熱することにより製造している。モノマーを重合して低分子量のポリ乳酸を製造する場合には、高コストとなるばかりか、必要以上に分子量の低いポリ乳酸も製造されてしまうからである。勿論、得られたポリ乳酸を分画等により、過度に低分子量のポリ乳酸を除くことにより、目的とする分子量範囲のポリ乳酸を得ることはできるが、この場合には、さらにコストが増大してしまうからである。
【0005】
しかしながら、特許文献1で使用されている低分子量化されたポリ乳酸は、粉砕性の点で問題があり、粒径がmmオーダーのペレットの形態を有しており、粉砕により、微粒の粒状物とすることができない。高圧下での加熱によりポリ乳酸の低分子量化を行っているため、ベタツキなどを生じる低分量成分を多く含んでいるためと思われる。
【0006】
また、特許文献2には、難加水分解性生分解性樹脂(A)と、易加水分解性ポリマーからなるエステル分解促進剤(B)及びエステル分解促進助剤(C)を含む生分解性樹脂組成物が開示されている。この特許文献2には、難加水分解性生分解性樹脂(A)としてポリ乳酸を使用することが記載されており、エステル分解促進剤(B)としてポリオキサレートなどの酸放出性ポリエステルを使用することが記載され、さらに、エステル分解促進助剤(C)として、炭酸カルシウムや炭酸ナトリウム等の塩基性無機化合物を使用することが記載されている。
この特許文献2の技術では、ポリ乳酸等の難加水分解性樹脂の加水分解性が向上しているのであるが、かかる技術は、高価なポリオキサレートなどの易加水分解性のポリマーをエステル分解促進剤(B)として使用すること必須であるため、ポリ乳酸の低分子量化などの改質に利用する場合には、コストの点で問題となってしまう。また、特許文献2の技術で使用されるエステル分解促進助剤(C)は、エステル分解促進剤(B)の加水分解を促進するために使用されるものであり、この助剤(C)が難加水分解性樹脂の低分子量化に寄与するか否かについては、特許文献2では、全く検討されていない。
【0007】
さらに、高分子量のポリ乳酸を低分子量化する方法として、特許出願人は、先に、有機酸を含有する溶液中にポリ乳酸(脂肪族ポリエステル)を投入して加熱する方法を提案している(特願2017-191573号、特開2019-65159号)。この方法によれば、安価に低分子量のポリ乳酸を得ることができるのであるが、低分子量化されたポリ乳酸は、液に溶解もしくは分散した状態で得られるため、その取扱い性の点で改善の必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-104551号
【文献】特許第5633291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、低分子量のポリ乳酸をポリマー成分として含み、有機溶媒などの液体や高価な易加水分解性ポリマーのようなエステル分解促進剤を使用することなく、安価に製造され、粉砕性や乳酸徐放性に優れたポリ乳酸固体組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量が40,000以下の範囲にあるポリ乳酸と、低分子量化促進剤の残留分であるアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物とを含み、該塩基性化合物を0.5~20質量%の範囲で含んでいることを特徴とするポリ乳酸固体組成物が提供される。
【0011】
本発明のポリ乳酸固体組成物においては、
(1)前記ポリ乳酸の重量平均分子量が12,000~40,000の範囲にあること、
(2)レーザ回折散乱法により測定した平均粒径(D50)が10μm以下の範囲にある粒状形態を有していること、
(3)10μm以下のメッシュパス粒径を有していること、
(4)前記塩基性化合物が炭酸ナトリウムであること、
(5)ポリマー成分として、前記ポリ乳酸のみを含んでいること、
(6)袋詰めされていること、
が好適である。
【0012】
本発明によれば、また、
GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量が150,000以上の高分子量ポリ乳酸を用意し、
前記高分子量ポリ乳酸とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物とを溶融混練することにより、該高分子量ポリ乳酸の重量平均分子量を40,000以下に低下させることを特徴とするポリ乳酸固体組成物の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の製造方法においては、
(1)前記溶融混練を、常圧下、220~250℃の温度で行うこと、
(2)前記溶融混錬を、押出機を用いて行うこと、
(3)前記塩基性化合物を、ポリ乳酸100質量部当り1~30質量部の範囲で使用すること、
が好適である。
【0014】
尚、本発明において、固体組成物とは、液状ではなく且つ液体に分散された形態のものでもなく、少なくとも室温(23℃)で流動性や粘性を示さず、固体として存在しているものを意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリ乳酸固体組成物は、水や有機溶媒を使用することなく、溶融混錬により、高分子量のポリ乳酸を低分子量化することにより得られたものであり、GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量が40,000以下、特に35,000以下の範囲にある低分子量ポリ乳酸をポリマー成分として含んでいる。また、低分子量化のために使用されたアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩基性化合物(低分子量化促進剤)を0.5~20質量%の量で含有している。即ち、液体を使用せず、溶融混錬により塩基性化合物の存在下で低分子量化を行っているため、一定量の塩基性化合物を必須成分として含んでいる。
このような溶融混錬法で得られる低分子量ポリ乳酸の溶融粘度は、メルトインデクサーで測定できない程低い。即ち、このような低分子量ポリ乳酸をポリマー成分として含むポリ乳酸固体組成物は、該ポリ乳酸の重量平均分子量が極めて低いため、機械的粉砕性に優れ、レーザ回折散乱法により測定した平均粒径(D50)が10μm以下の微細な粒状物にまで粉砕することができ、さらにはメッシュパス粒径が10μm以下の著しく微細な粒状物とすることもできる。例えば、固体組成物中に含まれるポリ乳酸の重量平均分子量が上記範囲よりも高いポリ乳酸は、微粉砕が困難であり、125μm程度の粒径にまでしか粉砕することができないし、当然のことながら、メッシュパス粒径が10μ以下の微細な粒状物は得られない。
【0016】
また、本発明の固体組成物中の低分子量ポリ乳酸は、メルトインデクサーで測定できないほど低い溶融粘度を有していながら、過度に低い分子量成分の含有量が極めて低く、例えば、後述する実施例に示されているように、その重量平均分子量は12,000よりも大きい範囲にある。さらに、過度に低分子量成分が除外されている結果として、その分子量分布は、極めてシャープな単分散ピークを示し(分子量分布曲線参照)、分子量が8,000以下の成分を実質上含有していない。
【0017】
また、上述した低分子量ポリ乳酸を含む本発明の固体組成物は、ポリオキサレートのような高価な易加水分解性ポリエステルを含んでおらず、極めて安価であり、且つ液体に分散して得られるものでもない。従って、そのまま、機械的粉砕等に供して使用することができ、その製造が容易であり、取扱い性等にも優れている。
【0018】
このように、本発明のポリ乳酸固体組成物は、ポリ乳酸の低分子量化により乳酸の徐放性に優れ、特に機械的粉砕により微粒に粒状化したものは、梱包性、輸送性、作業性等において極めて有利であり、土壌改質剤としての用途に極めて適している。特に、この固体組成物は、炭酸ナトリウム等の塩基性化合物を含有しているため、これを土壌中に散布したとき、土壌中の水分に塩基性化合物が溶解してアルカリ性となるため、固体組成物に含まれるポリ乳酸の加水分解が促進させ、これにより、酵素の栄養源となる乳酸量が増大し、土壌が活性化されるという大きな利点もある。さらに、粒状化した固相組成物は、水に投入しての地下資源採掘用水分散液としても好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で得られたポリ乳酸固体組成物中のポリ乳酸の重量平均分子量分布曲線を示す図。
図2】実施例1で得られたポリ乳酸固体組成物中に含まれる炭酸ナトリウム粒子のSEM写真。
図3】実施例1のポリ乳酸固体組成物を製造するために使用された試薬炭酸ナトリウムのSEM写真。
図4】比較例1で得られたポリ乳酸固体組成物中のポリ乳酸の重量平均分子量分布曲線を示す図。
図5】比較例2で得られたポリ乳酸固体組成物中のポリ乳酸の重量平均分子量分布曲線を示す図。
図6】実施例1および比較例1~2で得られたポリ乳酸固体組成物の70℃での水中分解速度を示す線図。
図7】実施例1および比較例1~2で得られたポリ乳酸固体組成物の90℃での水中分解速度を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<ポリ乳酸固体組成物の製造>
本発明のポリ乳酸共重合体は、高分子量のポリ乳酸と塩基性化合物とを溶融混練することにより製造される。即ち、塩基性化合物の存在下、固相で高分子量ポリ乳酸を低分子量化することにより、目的とする低分子量のポリ乳酸を得ることができる。即ち、この溶融混練に際しては、ポリオキサレートのような易加水分解性ポリエステルが使用されておらず、分解促進剤として塩基性化合物のみが使用されているため、高分子量ポリ乳酸の適度な低分子量化を実現することができ、過度に低分子量の成分を含有していない低分子量ポリ乳酸をポリマー成分として含むポリ乳酸固体組成物を得ることができるわけである。
【0021】
高分子量ポリ乳酸;
低分子量化に供する高分子量のポリ乳酸としては、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定したポリスチレン標準での重量平均分子量(Mw)が150,000以上、特に170,000以上のものが使用される。即ち、重量平均分子量がこの範囲より低いものは、低分子量成分を多く含んでおり、このような低分子量成分がさらに低分子量化されることとなり、結果として、過度に低分子量の成分を含んでいない低分子量ポリ乳酸を得るためには、不適当である。また、過度に高分子量のポリ乳酸を使用する場合には、低分子量化に長時間を要し、場合によっては低分子量化ができない場合もあるため、この重量平均分子量は、好ましくは200,000以下の範囲にあることが好適である。
【0022】
また、上記のポリ乳酸は、100%ポリ-L-乳酸或いは100%ポリ-D-乳酸の何れであってもよいし、ポリ-L-乳酸とポリ-D-乳酸の溶融ブレンド物でもよいし、L-乳酸とD-乳酸とのランダム共重合体やブロック共重合体であってもよい。
【0023】
さらに、かかる高分子量のポリ乳酸は、分子量範囲が上述した範囲にあり、その低分子量化が阻害されず、且つ機械的粉砕性や加水分解性、乳酸徐放性などが損なわれない限りにおいて、各種の脂肪族多価アルコール、脂肪族多塩基酸、ヒドロキシカルボン酸、ラクトンなどが少量(例えばポリ乳酸100質量部当り10質量部以下)共重合されたものであってもよい。
このような多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ポリエチレングリコールなどを例示することができる。
多塩基酸としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸を例示することができ、ヒドロキシカルボン酸としては、グルコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、マンデル酸を挙げることができる。
ラクトンとしては、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトン、グリコリド、マンデライドなどを挙げることができる。
【0024】
塩基性化合物;
本発明では、後述する溶融混練による低分子量化を促進するために塩基性化合物が使用される。即ち、この塩基性化合物の存在下での溶融混練により、高分子量ポリ乳酸のエステル単位が分解し、ポリ乳酸の低分子量化を実現できるわけである。
【0025】
このような塩基性化合物は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含むものであり、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を挙げることができ、1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
尚、これらの塩基性化合物は、結果として、低分子量化されたポリ乳酸を含む固体組成物に残留分として含まれるものとなる。従って、環境等に対する影響を考慮すると、上記の塩基性化合物の中でも、カルシウム或いはナトリウムの塩基性化合物が最も好適である。
【0026】
また、上記の塩基性化合物は、溶融混練に際して、高分子量のポリ乳酸に均一に接触させるという観点から、例えば、SEM観察により測定される粒径(円相当径)が、10μm以下、特に、0.01μm乃至7μmの範囲にあるものが好ましい。
【0027】
本発明において、このような塩基性化合物は、前述した高分子量のポリ乳酸100質量部当り、1乃至30質量部、特に1乃至10質量部の量で使用することが好ましい。この塩基性化合物の量が多すぎると、得られる固体組成物中に、多くの塩基性化合物が含まれることとなり、低分子量ポリ乳酸に要求される機械的粉砕性等が損なわれてしまうおそれがある。また、この塩基性化合物の量が少なすぎると、高分子量ポリ乳酸の低分子量化が不十分となり、目的とする低分子量のポリ乳酸を得ることが困難となる。
【0028】
溶融混練;
本発明においては、高分子量のポリ乳酸と上記の塩基性化合物とを溶融混練し、これにより、高分子量のポリ乳酸の低分子量化が生じ、目的とする低分子量ポリ乳酸をポリマー成分として含む固体組成物が得られる。
【0029】
ここで、重要なことは、高分子量ポリ乳酸の低分子量化のために、易加水分解性のポリエステル、例えばポリオキサレートが使用されていないということである。易加水分解性のポリエステルなどを分解促進剤として、塩基性化合物と併用すると、必要以上に低分子量化が進行してしまい、過度に低分子化された成分が生成してしまい、目的とする低分子量ポリ乳酸を得ることができない。また、このような分解促進剤の使用は、コストの増大をもたらすばかりか、ポリ乳酸とのエステル交換などによる共重合を生じ、得られるポリ乳酸の特性が変化するおそれもある。即ち、本発明では、塩基性化合物のみを分解促進剤として使用しているため、過度に低分子量化された成分を含んでいない低分量成ポリ乳酸を得ることができ、コストの増大やポリ乳酸の変質も有効に回避することができるわけである。
【0030】
上記の溶融混練は、例えば押出機等の混練部で容易に行うことができ、特に、ポリ乳酸の熱分解が生じない程度の温度、例えば220~250℃の温度で行われ、少なくとも1分以上、特に1分~5分程度溶融混練を行うことにより、目的とする低分子量ポリ乳酸を得ることができる。
【0031】
また、上記の溶融混練は、常圧下で行われるべきである。例えば、オートクレーブなどを用いて高圧下での加熱処理では、過度に低分子化された成分が生成してしまい、機械的粉砕特性が低下する。また、オートクレーブを用いた場合には、加熱水蒸気が使用されているため、塩基性化合物が溶解して取り除かれてしまい、得られる固体組成物中に塩基性化合物は含まれず、塩基性化合物の配合による利点(例えば土壌に散布した時のポリ乳酸の加水分解性)が損なわれてしまう。
【0032】
<低分子量ポリ乳酸>
かくして得られる本発明の固体組成物中には、低分子量化されたポリ乳酸をポリマー成分として含んでおり、この低分子量ポリ乳酸は、GPCにより測定したポリスチレン基準の重量平均分子量(Mw)が40,000以下、特に12,000~40,000、より好ましくは12,000より大きく、38,000以下の範囲にある。このような低分子量ポリ乳酸は、メルトインデクサーで測定できない程低い溶融粘度を示すものであるが、過度に低分子量化された低分子量成分を含有しておらず、その分子量分布は、図1に示されているように、極めてシャープな単分散ピークを有するものである。
【0033】
また、本発明の固体組成物中には、ポリ乳酸の低分子量化のために使用された塩基性化合物の残留分が不可避的成分として含まれる。このような残留分の量は、後述する実施例に示されているように、全有機体炭素計により測定され、0.5~20質量%、特に1~10質量%の量で固体組成物中に含まれ、残量のポリマー成分が低分子量化されたポリ乳酸である。
尚、上記の塩基性化合物は、一部がポリ乳酸と反応して塩を形成する。従って、残留分として含まれる塩基性化合物の量は、高分子量ポリ乳酸に添加配合された量よりも少なくなっており、また、その粒径も、添加時の粒径に比して3%以下に小径化されている。さらに、この固体組成物中のポリ乳酸の一部は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と塩を形成している。
【0034】
このような低分子量ポリ乳酸を含む固体組成物は、ジェットミル等を用いての機械的粉砕により極めて微細な粒状物とすることができ、例えば、レーザ回折散乱法により測定した平均粒径(D50)が10μm以下、特に7μm以下の微細な粒状物にまで粉砕することができ、しかも、この微細な粒状物はほとんどベタツキを示さず、そのメッシュパス粒径は、10μm以下と極めて小さく、粒子同士の凝集が有効に抑制されている。
【0035】
かかるポリ乳酸固体組成物は、液体を使用しない溶融混錬法で製造されるため、液体の分離或いは液体からの取り出し作業を行うことなく、直ちに使用に供することができる。
また、低分子量であるが、べたつきを示すような極度に分子量を示す低分子量成分を含んでいないため、粉砕により微粒子化でき、袋詰めしての搬送、使用に極めて好適である。
【実施例
【0036】
本発明を次の実験例で説明する。
【0037】
<使用材料>
高分子量ポリ乳酸;
原料として用いる高分子量ポリ乳酸(PLA)としては、海正生物材料製REVODE101(120,000<Mw<170,000)を用いた。
炭酸ナトリウム;
低分子量化促進剤としては、和光純薬工業製炭酸ナトリウム(純度99.8%)を用いた。その平均粒径は、約900μmであった。
【0038】
<低分子量化PLAの分子量測定>
固体組成物中に含まれる低分子量PLAの重量平均分子量(Mw)は、以下の条件で測定した。
装置:東ソー製 高速GPC装置 HLC-8320
検出器:示差屈折率検出器RI
カラム:SuperMultipore HZ-M(2本)
溶媒:クロロホルム
流速:0.5mL/min
カラム温度:40℃
試料調製:
試料約10mgに溶媒3mLを加え、室温で放置した。目視で溶解していることを確認した後、0.45μmフィルターにて濾過した。スタンダードはポリスチレンを用いた。
【0039】
<炭酸ナトリウムの含有量測定>
得られた固体組成物に含まれる炭酸ナトリウムは以下の測定方法にて求められた。
装置:株式会社島津製作所製前記有機体炭素系TOC-L
キャリアガス:高純度酸素
キャリアガス流量:500mL/min
測定項目:IC(無機炭素)
キャリブレーション物質:炭酸水素ナトリウム
燃焼温度:200℃
【0040】
<含有炭酸ナトリウムの粒径測定>
得られたポリ乳酸固体組成物のペレット1gを50mLクロロホルムに溶解し、目視にてPLAの溶解および炭酸ナトリウムの沈殿を確認した後、上澄みを除去した。これを3回繰り返し、SEM観察により、その平均粒径(円相当径)を測定した。
【0041】
<実施例1>
高分子量PLA及び炭酸ナトリウムを、PLA:炭酸ナトリウム(質量比)が9:1になるようにそれぞれ定量フィーダーによって連続式の二軸押出機に定量供給し、220℃、3分間、溶融混練し、押し出してポリ乳酸固体組成物のペレットを得た。
このペレットから、前述した方法により、ペレットに含まれるPLAの重量平均分子量(Mw)を測定した。その重量平均分子量(Mw)は、35,000であった。
また、その重量平均分子量分布曲線を図1に示した。
さらに、該ペレット中に含まれる炭酸ナトリウム粒子含量は、7.4質量%であった。また、炭酸ナトリウム粒子の平均粒径は、1.5μmであった。
この炭酸ナトリウムのSEM写真を図2に示し、原料として用いた試薬炭酸ナトリウムのSEM写真を図3に示した。
また、得られたペレットを、マテリス株式会社保有のジェットミルにて粉砕したところ、平均粒径D50が6.492μm、メッシュパス粒径が10μm以下の粒状物が得られた。
【0042】
<比較例1>
高分子量PLA及び炭酸ナトリウムを、PLA:炭酸ナトリウム(質量比)が9:1になるようにそれぞれ定量フィーダーによって連続式の二軸押出機に定量供給し、170℃3分間溶融混練し、押し出してポリ乳酸固体組成物のペレットを得た。この後、このペレットをオートクレーブにて110℃、70分の水熱処理を行い、固体組成物を得た。
この固体組成物に含まれるポリ乳酸の重量平均分子量は42,000であった。この重平均分子量分布曲線は、図4に示した。
上記の固体組成物を、実施例1と同様にジェットミルにて粉砕したが、得られた粒子の粒径は125μm以上であり、これよりも微細に粉砕することができなかった。
【0043】
<比較例2>
比較例1と全く同様に、高分子量PLA及び炭酸ナトリウム(質量比9:1)を、それぞれ定量フィーダーによって連続式の二軸押出機に定量供給し、170℃で3分間溶融混練し、押し出してポリ乳酸固体組成物のペレットを得た。
次いで、得られたペレット200gを50%乳酸400mLと混合し、90℃、4時間撹拌した。
この撹拌混合物に含まれるポリ乳酸の重量平均分子量は38,000であった。この重平均分子量分布曲線は、図5に示した。
上記の固体組成物を、実施例1と同様にジェットミルにて粉砕したところ、平均粒径D50が6.895μmの粒状物が得られたが、この組成物は加水分解性が低かった。
【0044】
上記実施例1、比較例1及び2の結果を表1に示した。
また、実施例1、比較例1及び2で得られた低分子量化PLAを、120mg秤量し、10mL水中に浸漬し、70℃および90℃で静置した。浸漬した低分子量化PLAを3日毎に秤量し、0日目の重量を100%とした時の重量残存率を求め、水中分解速度曲線を作成した。
70℃の水中分解速度曲線を図6に示し、90℃の水中分解速度曲線を図7に示した。
図6及び図7から理解されるように、実施例1は、比較例1及び2に比して加水分解性が優れていた。
【0045】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7